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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】シート状食品およびフレーク状食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20230915BHJP
   A23L 17/60 20160101ALI20230915BHJP
【FI】
A23L5/00 B
A23L17/60 W
A23L17/60 Z
A23L17/60 102
A23L5/00 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023015968
(22)【出願日】2023-02-06
【審査請求日】2023-03-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594142517
【氏名又は名称】田中食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100135356
【弁理士】
【氏名又は名称】若林 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】藤中 義治
(72)【発明者】
【氏名】西本 文雄
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-118298(JP,A)
【文献】特開2021-013335(JP,A)
【文献】特開2007-116929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料食材と結着剤とを含み、保湿剤を含まないシート状食品であって、
前記原料食材は、海藻であってかつ複数の薄片に切断されて形成されたものであり、
前記シート状食品は、前記原料食材と前記結着剤とを含む2枚のシートを重ね合わせて一体形成された積層体構造を有し、
前記2枚のシートは、いずれも重ね合わせ面に凹凸を有し、
前記シート状食品は、前記2枚のシートの重ね合わせ面同士の間に、それぞれの前記凹凸の形状に応じた空隙が形成され、
前記シート状食品の全乾燥質量(WT)に対する原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WT)が85%以上であり、
結着剤の乾燥質量(WB)に対する原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WB)が6.1以上13.9以下であり、
前記シート状食品の水分量が6.0質量%以下であることを特徴とするシート状食品。
【請求項2】
前記結着剤の乾燥質量(WB)に対する前記原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WB)が9.0以上11.0以下であることを特徴とする請求項1に記載のシート状食品。
【請求項3】
前記原料食材は、前記薄片の最大長さ寸法が1.0mm以上であることを特徴とする請求項1に記載のシート状食品。
【請求項4】
前記原料食材は、前記薄片の厚さ寸法が200μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のシート状食品。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載のシート状食品を、複数のフレークに切断して形成してなるフレーク状食品。
【請求項6】
請求項5に記載のフレーク状食品の製造方法であって、
切断した前記複数のフレークを、加水後に乾燥収縮させて形成することによって、前記フレーク状食品を、前記シート状食品に比べて、見掛け上の厚さ寸法が増加した形状にする工程を含む、前記フレーク状食品の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状食品およびフレーク状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、おつまみやふりかけ等として焼き若布などの海藻類のシート状食品およびフレーク状食品が販売されている。焼き若布は、特許文献1などに記載されているように、若布を乾燥することにより製造される。そして、自然の若布をそのまま乾燥して製造されたものであるため、若布の風味だけでなく、素材若布の組織が有する舌触り、歯応えを楽しむことができる。
【0003】
また、特許文献2には、水洗して塩分を5%以下になるまでわかめを塩抜きした後、乾燥させて50~800メッシュの網目を通過させながら均質化させて、直径20~140ミクロンになるまで粉砕化し、粉砕した粉末わかめを錠剤・棒状・板状・球状等に固形化したことを特徴とするわかめ加工食品が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の焼き若布のように、自然の海藻をそのまま乾燥して形成しただけだと、海藻の生育環境のばらつきにより、非常に硬いものや厚さ寸法が大きいものなどが混入していることがある。この場合、例えば、乳幼児や高齢者などのように、噛む力が弱かったり、あるいは、入れ歯や歯が完全に揃っていない人が、このような焼き若布を食すると、おいしく食することができないおそれがある。一方、特許文献2の若布加工食品のように、粉砕した若布を固形化した場合、非常に硬いものが混入する危険性はないが、素材若布がもつ特有の性状および風味を感じることができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-112466号公報
【文献】特開平6-153872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、原料食材である海藻本来の性状および風味を保持し、また、空隙が形成された状態で一体化された積層体構造にすることで、見掛け上の嵩(厚さ寸法)を大きくし、しかも、歯で噛んで食する際に、弱い力で簡単にバラバラになってパリパリとした食感を有するシート状食品およびフレーク状食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]原料食材と結着剤とを含むシート状食品であって、
前記原料食材は、海藻であってかつ複数の薄片に切断されて形成されたものであり、
前記シート状食品は、前記原料食材と前記結着剤とを含む2枚のシートを重ね合わせて一体形成された積層体構造を有し、
前記2枚のシートは、いずれも重ね合わせ面に凹凸を有し、
前記シート状食品は、前記2枚のシートの重ね合わせ面同士の間に、それぞれの前記凹凸の形状に応じた空隙が形成され、
前記シート状食品の全乾燥質量(WT)に対する原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WT)が85%以上であり、
結着剤の乾燥質量(WB)に対する原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WB)が6.1以上13.9以下であり、
前記シート状食品の水分量が6.0質量%以下であることを特徴とするシート状食品。
[2]前記結着剤の乾燥質量(WB)に対する前記原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WB)が9.0以上11.0以下であることを特徴とする上記[1]に記載のシート状食品。
[3]前記原料食材は、前記薄片の最大長さ寸法が1.0mm以上であることを特徴とする上記[1]に記載のシート状食品。
[4]前記原料食材は、前記薄片の厚さ寸法が200μm以下であることを特徴とする上記[1]に記載のシート状食品。
[5]上記[1]から[4]までのいずれか1項に記載のシート状食品を、複数のフレークに切断して形成してなるフレーク状食品。
[6]前記フレーク状食品は、切断した前記複数のフレークを、加水後に乾燥収縮させて形成することによって、前記シート状食品に比べて、見掛け上の厚さ寸法が大きい形状を有する、上記[5]に記載のフレーク状食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、原料食材である海藻本来の性状および風味を保持し、また、空隙が形成された状態で一体化された積層体構造にすることで、見掛け上の嵩(厚さ寸法)を大きくし、しかも、歯で噛んで食する際に、弱い力で簡単にバラバラになってパリパリとした食感を有するシート状食品およびフレーク状食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のシート状食品の積層体構造を模式的に示した断面図である。
図2】本発明の若布のシート状食品の部分断面写真の例である。
図3】本発明の若布のフレーク状食品の部分断面写真の例である。
図4】本発明のシート状食品およびフレーク状食品の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0011】
[シート状食品]
本発明のシート状食品は、原料食材と結着剤とを含むシート状食品であって、前記原料食材は、海藻であってかつ複数の薄片に切断されて形成されたものであり、前記シート状食品は、前記原料食材と前記結着剤とを含む2枚のシートを重ね合わせて一体形成された積層体構造を有し、前記2枚のシートは、いずれも重ね合わせ面に凹凸を有し、前記シート状食品は、前記2枚のシートの重ね合わせ面同士の間に、それぞれの前記凹凸の形状に応じた空隙が形成され、前記シート状食品の全乾燥質量(WT)に対する原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WT)が85%以上であり、結着剤の乾燥質量(WB)に対する原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WB)が6.1以上13.9以下であり、前記シート状食品の水分量が6.0質量%以下であることを特徴とするシート状食品ことを特徴とする。
【0012】
<シート状食品の組成>
本発明のシート状食品は原料食材と結着剤を含む。
【0013】
(原料食材)
本発明のシート状食品は、原料食材として、海藻であってかつ複数の薄片に切断されて形成されたもの(以下「海藻薄片」ともいう。)を含む。原料食材としては、一般には、海藻に、必要に応じて調味料を加え、加工したものが用いられる。調味料、加工方法は、所望するシート状食品の海藻の素材感(海藻本来の性状および風味)の程度、調味の程度に応じて選択される。
【0014】
シート状食品の原料食材に含まれる海藻の種類としては、特に制限されないが、若布、ひじき、昆布、めかぶ、赤とさか、青とさか、ふのり、アサクサノリ、アオサ等が挙げられる。これらの中でも、本発明の効果の観点から、若布、昆布が好ましく、若布がより好ましい。
【0015】
本発明においては、原料食材の形状として微細な粉末状の食材ではなく、海藻薄片を用いることにより、喫食した際に十分な海藻の素材感(海藻本来の性状および風味)が得られる。
【0016】
また、含まれる原料食材の形状は、シート状食品の構造にも影響を与え、原料食材として微細な粉末状の食材を用いた場合は、シート状食品のシートの重ね合わせ面の凹凸が小さくなるため、結果としてシートの重ね合わせ面同士の間に、それぞれの凹凸の形状に応じて形成される空隙も小さくなり、大きな空隙が形成され難い。本発明においては、海藻薄片を用いることにより、シート状食品の重ね合わせ面の凹凸が大きくなるため、シートの重ね合わせ面同士の間に、それぞれの前記凹凸の形状に応じて形成される空隙を大きくすることができる。本発明のシート状食品は、シートの重ね合わせ面同士の間に形成される空隙が大きいため、見掛け上の嵩(厚さ寸法)を大きくすることができ、さらに歯で噛んで食する際に、弱い力で簡単にバラバラになってパリパリとした食感(パリパリ感)を有する。本発明においては、海藻薄片は、通常、海藻を厚み方向に所定の厚さに圧延またはスライスしたものが用いられる。
【0017】
海藻薄片のサイズは、特に制限されないが、海藻薄片における最大長さが1.0mm以上であることが好ましい。これにより、シートの重ね合わせ面の凹凸をより大きくすることができ、シートの重ね合わせ面同士の間の空隙をより大きくすることができる。凹凸をさらに大きくして空隙をさらに大きくする観点から、最大長さの下限値は1.5mm以上であることがより好ましい。空隙をより大きくすることにより、見かけ上の嵩をより大きくし、パリパリ感をより向上することができる。最大長さの上限値は、シート状への成形しやすさの観点から、5.0mm以下であることが好ましい。シート状食品に含まれる薄片状の海藻の最大長さは、具体的には、シート成型前(前処理工程後)の原料食材から無作為に抽出した20個の海藻薄片の最大長さをマイクロゲージ等で測定し、これらの平均値を求めることにより算出することができる。
【0018】
本発明においては、海藻薄片は、上記したように、通常、海藻を厚み方向に所定の厚さに圧延またはスライスしたものが用いられる。海藻薄片の厚さは、200μm以下であることが好ましい。これにより、シート状食品に含まれる各々の海藻薄片がより壊れやすくなるためシート状食品のパリパリ感を向上することができる。海藻薄片の厚さの上限値は、パリパリ感の向上の観点から、より好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下である。一方、下限値は、形状維持性の観点から、好ましくは5μm以上である。海藻薄片の厚さは、スライスの条件および圧延の条件により調整することができる。シート状食品に含まれる海藻薄片の厚さは、具体的には、シート成型前(前処理工程後)の原料食材から無作為に抽出した20個の海藻薄片の厚さをマイクロゲージ等で測定し、これらの平均値を求めることにより算出することができる。
【0019】
原料食材に含まれる調味料としては、塩、砂糖、ぶどう糖、醤油、みりん、醸造酢、みそ、出汁(昆布、鰹、椎茸)、魚介エキス、クエン酸、リンゴ酸、グルタミン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0020】
原料食材中の調味料が多過ぎると海藻の素材感(海藻本来の性状および風味)を感じにくくなることから、原料食材における、海藻薄片の乾燥質量(WA)に対する調味料の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WA)が1.0以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましい。
【0021】
また、本発明のシート状食品の全乾燥質量(WT)に対する原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WT)は85%以上である。上記したように原料食材として海藻薄片を用いて、さらに原料食材の乾燥質量の比率は85%以上とすることにより、本発明のシート状食品は、優れた海藻の素材感(海藻本来の性状および風味)を有することができる。原料食材の乾燥質量の比率は、海藻の素材感(海藻本来の性状および風味)をより向上する観点から、88%以上であることがより好ましい。一方、結着剤を十分に配合し、シート状食品に形状維持性を持たせる観点から、原料食材の乾燥質量の比率は94%以下であることが好ましい。ここで形状維持性でとは、本発明のシート状食品としての構造を維持するための性能を意味する。
【0022】
(結着剤)
結着剤は、シート状食品の形状維持性を高めるために用いられる。結着剤は、特に制限されないが、例えば、増粘多糖類を含む結着剤が用いられる。増粘多糖類を含む結着剤としては、こんにゃく(例えば、こんにゃく精粉、清水化学株式会社製)、ペクチン(例えば、ペクチンHR-450、オルガノフードテック株式会社製)、タマリンドガム(例えば、グリロイド3S、大日本住友製薬株式会社製)、寒天、カラギーナン、アルギン酸、グアーガム、キサンタンガム等が挙げられ、これらを一種または二種以上混合したものが用いられる。
【0023】
シート状食品において、結着剤の乾燥質量(WB)に対する原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WB)は、6.1以上13.9以下である。質量比(WA/WB)が13.9を超えると、結着剤が不足し、シート状食品としての形状維持性を確保することが難しくなる。その結果、シートの重ね合わせ面に空隙を有する構造を維持することが困難となり、十分なパリパリ感を得られない。一方、質量比(WA/WB)が小さい場合、即ち結着剤の含有量が多い場合、結着剤の混合時に膨潤した結着剤がゲル状の網目構造を形成し、所定の体積当たりに含まれる原料食品の質量が少ない状態となり、続く成形工程においてゲル状の結着剤が乾燥され、収縮するため、結果として、表面層の隙間が多く、柔らかいシート状食品となる。このため質量比(WA/WB)が6.1未満になると、シート状食品が柔らかくなりパリパリ感が大きく低下する。
【0024】
質量比(WA/WB)の上限値は、シート食品としての形状維持性の観点から、13.5以下であることが好ましく、11.0以下であることがより好ましい。一方、質量比(WA/WB)の下限値は、パリパリ感を向上する観点から、7.4以上であることが好ましく、9.0以上であることがより好ましい。
【0025】
乾燥質量は、シート状食品に含まれる原料食材または結着剤の質量(測定対象物の全質量)から日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアルに記載の常圧加熱乾燥法に準じた方法により測定された測定対象物の水分量を除いた質量である。具体的には加熱乾燥式水分計MX-50(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定した測定対象物の水分量を測定対象物の全質量から差し引くことにより求めることができる。
【0026】
(水分量)
本発明のシート状食品における水分量は6.0質量%以下である。水分量が6.0質量%を超えるとシート状食品が柔らかくなりパリパリ感が低下する。パリパリ感をより向上する観点から、シート状食品の水分量は4.5質量%以下であることが好ましい。一方、シート状食品の形状維持性の観点から、シート状食品の水分量は1.0質量%以上であることが好ましい。
【0027】
シート状食品の水分量は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアルに記載の常圧加熱乾燥法に準じた測定法で測定することができ、具体的には、加熱乾燥式水分計MX-50(エー・アンド・デイ社製)を用いて、シート状食品サンプル5gを用いて測定することができる。
【0028】
(その他の成分)
本発明のシート状食品は、上記した原料食材と結着剤以外の成分を含んでもよい。その他の成分としては、特に制限されないが、油脂、食物繊維などが挙げられる。本発明においては、パリパリ感を低下させ、海藻の素材感を低下させるため保湿剤の使用は好ましくない。
【0029】
<シート状食品の構造>
本発明のシート状食品は、原料食材と前記結着剤とを含む混合材からシート状に成形された2枚のシートを重ね合わせた一体積層体構造を有し、前記2枚のシートは、いずれも重ね合わせ面に凹凸を有し、シート状食品は、2枚のシートの重ね合わせ面同士の間に、それぞれの凹凸の形状に応じた空隙が形成されていることを特徴とする。図1の本発明のシート状食品の模式断面図に示すように、本発明のシート状食品10は、2枚のシート(第一層1、第二層2)を重ね合わせた一体積層体構造を有しており、いずれも重ね合わせ面に凹凸(凸部3、凹部4)を有している。図1に示すように、第一層1の凹凸を有する面と、第二層2の凹凸を有する面とが、重ね合わせられることにより重ね合わせ面同士の間に、それぞれの凹凸の形状に応じた空隙5が形成されている。なお、二枚のシートの重ね合わせ面同士の間に形成される「空隙5」とは、図1に示すように第一層と第二層が凸部の頂点同士で接続されることにより、大きな空隙5が形成されたものだけでなく、第一層と第二層が凸部3に対して凹部4、または凸部3に対して凸部3と凹部4の中間部で接続されることにより、その構造重ね合わせ構造に応じた空隙5が形成されたものも含む。
【0030】
このように、シート状食品の重ね合わせ面同士の間に、それぞれの凹凸の形状に応じた空隙が形成されることにより、シート状食品の嵩が大きくなり、十分なパリパリ感を得ることができる。
【0031】
シート状食品の厚さは、喫食時に十分な満足感を得られる嵩とする観点から、好ましくは200μm以上1500μm以下であり、より好ましくは400μm以上1200μm以下である。
【0032】
シート状食品の断面における、全厚さに対する空隙の割合は、パリパリ感の向上の観点から、30%以上であることが好ましく、40%以上であることが好ましい。一方、形状維持性の観点から、70%以下であることが好ましい。また、フレーク状食品とする場合でも、シート状食品の状態における空隙の割合が30%以上であることにより、後述の乾燥収縮を行った際の見掛け上の厚さ寸法の増加率が大きくなるため好ましい。なお、全厚さに対する空隙の割合は、マイクロゲージでシート状食品の複数の断面における合計5か所の空隙の厚さ方向の幅を測定して全厚さに対する割合を測定し、これらの平均値を全厚さに対する空隙の割合とする。
【0033】
[フレーク状食品]
また、シート状食品を、複数のフレークに切断して形成してなるフレーク状食品とすることが好ましい。フレーク状とすることにより、喫食時の取り扱い性が向上する。フレーク状食品の大きさは、特に制限されないが、10mm~30mm×10mm~30mm程度のフレーク状とすることが好ましい。フレーク状とすることは、おつまみ等の用途の場合は特に有効である。
【0034】
また、フレーク状食品は、切断した複数のフレークを、加水後に乾燥収縮させて形成することによって、シート状食品に比べて、見掛け上の厚さ寸法が増加した形状を有することが好ましい。切断したフレークを、一旦18~22質量%の水分量とした後、80~100℃で急速に熱風乾燥することにより、水分移動による収縮と変形が起こり、図3に示すフレーク状食品の写真のように、特に表層であるシート内部に空隙が増加しかつ見掛け上の厚さが増加した形状となる。熱風乾燥温度は、空隙の増加量を高める観点から、85~95℃が好ましい。その結果、さらに十分な嵩と、特に優れたパリパリ感を得ることができる。フレーク状食品の見掛け状の厚さ寸法は、嵩とパリパリ感をさらに向上させる観点から、材料となったシート状食品と比較して1.2倍以上に増加していることが好ましく、1.5倍以上に増加していることがより好ましい。
【0035】
[シート状食品の製造方法]
続いて、シート状食品の製造方法について、図4を用いて説明する。図4は、シート状食品の製造工程の一例を示すフローチャートである。図4に示すように、シート状食品の製造工程は、例えば、下処理工程ST1と、前処理工程ST2と、調整工程ST3と、成形工程ST4とを含む。なお、原料食材の種類と鮮度等にもよるが、下処理工程ST1と、前処理工程ST2とを省略して原料食材をそのまま加工(調整、成形)できる場合がある。以下に、代表的な海藻である若布の例を挙げ、本発明のシート状食品の製造方法について説明する。
【0036】
<下処理工程>
下処理工程ST1は、食材ごとに特有な工程であり、海藻の種類によって異なる。海藻が若布である場合、下処理工程ST1には、例えば、(1)塩蔵若布を裁断し、(2)若布を洗浄し、(3)若布を脱水し、(4)若布を乾燥し、(5)若布を選別する工程等が含まれる。
【0037】
<前処理工程>
海藻が乾燥若布である場合、前処理工程ST2には、例えば、(1)乾燥若布を小さく(例えば1~2mm四方の大きさに)粉砕し、(2)乾燥若布を目開き3mmの篩を用いて整粒し、(3)乾燥若布に水を加え膨潤させ、(4)膨潤させた若布を圧延(またはスライス)する工程等が含まれる。下処理工程ST1および前処理工程ST2により、乾燥若布は、例えば目開き1.5~3mmの篩を通過しうる薄片状に加工される。
【0038】
以上の下処理工程ST1および前処理工程ST2によって、適切な大きさや形状に食材を加工することで、よりパリパリ感が向上したシート状食品1を製造することができる。
【0039】
<調整工程>
調整工程ST3は、基本的には海藻の種類に依らず共通する処理の工程である。調整工程ST3には、薄片状の原料食材に、結着剤を加える工程である。結着剤の乾燥質量(WB)に対する原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WB)が6.1以上13.9以下となるように、原料食材に結着剤が加えられ、混合される。
【0040】
<成形工程>
成形工程ST4は、基本的には海藻の種類に依らず共通する処理の工程である。なお、食材ごとに例えば後述するドラムの加熱温度、回転速度等は異なっていてもよい。成形工程において、ドラム上での乾燥時間を所定の時間に調整することにより水分量6.0質量%以下のシート状食品を得ることができる。
【0041】
成形工程ST4において、先ず、結着剤が加えられた原料食材を、例えば110℃以上に加熱されたドラムに流し込む。また、ドラムを回転することにより、一面が乾燥した第一層を形成する。この段階では、第一層の乾燥した一面と反対側の面は、完全には乾燥しておらず、含まれる海藻薄片により凹凸を有する状態である。同様に、一面が乾燥した第二層を形成する。この段階では、第二層の乾燥した一面と反対側の面は、完全には乾燥しておらず含まれる海藻薄片により凹凸を有する状態である。
【0042】
続いて、第一層1の凹凸を有する面と、第二層2の凹凸を有する面とを重ね合わせる。これにより、図1に示すように、重ね合わせ面同士の間に、それぞれの凹凸(凸部3、凹部4)の形状に応じた空隙5が形成される。そしてさらに加熱することで、または表面層の余熱により乾燥し、空隙5の大きさはより大きくなる。なお、本明細書における「空隙」とは、少数の凹凸同士で接続されることにより、重ね合わせ面同士の間に大きな層状の空隙が形成されたものだけでなく、多数の凹凸同士で接続されることにより、重ね合わせ面同士の間に凹凸の間に空隙が形成されたものの両方を含む。
【0043】
これらの工程により、原料食材と結着剤とを含む混合材からシート状に成形された2枚のシートを重ね合わせた一体積層体構造を有し、前記2枚のシートは、いずれも重ね合わせ面に凹凸を有し、シート状食品は、前記2枚のシートの重ね合わせ面同士の間に、それぞれの前記凹凸の形状に応じた空隙が形成されたシートが製造される。なお、製造方法は、上記した製造方法以外に、例えばドラムを複数用いることにより、本発明の2枚のシートを重ね合わせた空隙を有する一体積層体構造を有するシート状食品を一体的に形成してもよい。
【0044】
[フレーク状食品の製造方法]
上記したシート状食品の製造方法により製造したシート状食品にさらに切断工程ST5を行うことによりフレーク状食品を製造することができる。フレーク状食品とすることにより、喫食時の取り扱いがより容易になる。また、さらに乾燥収縮工程ST6を行うことにより、シート状食品に比べて、見掛け上の厚さ寸法が増加した形状のフレーク状食品とすることができる。
【0045】
<切断工程>
上記で製造されたシート状食品を、所定の大きさで複数のフレークに切断する切断工程ST5を行うことによりフレーク状食品とすることができる。切断は、特に制限されないが、喫食の容易さの観点から10mm~30mm×10mm~30mm程度のフレーク状とすることが好ましい。
【0046】
<乾燥収縮工程>
フレーク状に切断したフレーク状食品は、さらに乾燥収縮工程ST6を行うことにより、フレーク状食品の見掛け上の厚さ寸法を増加させ、パリパリ感をより高めることができる。
【0047】
乾燥収縮工程ST6においては、切断工程ST5で切断したフレーク状食品に、水を噴霧することにより、一旦、水分量を18~22質量%に調整し、その後、80~100℃で熱風乾燥することにより水分量を6.0質量%以下になるまで乾燥する。熱風乾燥温度は、空隙の増加量を高める観点から、85~95℃が好ましい。この工程により、シート状食品を構成する海藻薄片に、急速な水分移動による乾燥収縮と変形が起こり、図3に示す写真のように特に表層であるシート内部に空隙が増加しかつ見掛け上の厚さが増加した形状となる。本工程により、フレーク状食品を空隙が増加しかつ見掛け上の厚さが増加した形状とすることにより、パリパリ感がさらに向上する。
【0048】
なお、当初から乾燥収縮工程を行うことを意図している場合は、成形工程において18~22質量%程度の高い水分量のシート状食品を製造して、フレーク状に切断した後、水分の調整を行わずに熱風乾燥を行ってもよい。
【0049】
<調味工程>
成形工程ST4で製造したシート状食品、または切断工程ST5若しくは乾燥収縮工程ST6後のフレーク状食品は、さらに調味工程を行ってもよい。調味工程においては、調味液、粉体調味料を用いることができる。調味工程は、例えばロータリーミキサーにシート状食品、フレーク状食品を入れ、回転させながら調味液を噴霧して、表面を調味液でコーティングする方法、または粉体調味料でシート状食品に付着させる方法を用いることができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例
【0051】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0052】
1.実験1 シート状食品の製造と評価
以下に示す手順で実施例1~5、比較例1~6のシート状食品を製造し、評価した。なお、水分量については、製造したシート状食品を加熱乾燥式水分計MX-50(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定した値を示す。
【0053】
(実施例1~4)
実施例1~4は上記製造方法と同様に若布の下処理を行った乾燥若布を原料として使用し、次に上記前処理工程と同様に粉砕、目開き3mmの篩に通して整粒する。次に整粒した乾燥若布を塩抜き、膨潤させた。整粒の乾燥若布100gに対して20倍量の水2000gを加えて5分漬け置き膨潤させた。次に、5分後水切りしたもの若布を圧延し表1の海藻薄片を製造し、調整工程で用いた。
【0054】
次に調整工程で、この圧延した若布を原料食材として使用し、結着剤を乾燥重量の質量比(WA/WB)が表1に示す質量比となるように加え、混合した後、上記製造方法の記載と同様に成形工程を行いシート状に成形し、実施例1~4のシート状食品を製造した。
【0055】
(比較例1~3)
表1に示す素材を用いて実施例1~4の製造方法と同様の製造方法で、結着剤を乾燥重量の質量比(WA/WB)を表1に示すように加えて、成形工程で成形し、表1に示す比較例1~4のシート状食品を製造した。
【0056】
(実施例5、比較例4)
表1に示す素材を用い、実施例5においてはシート状食品の全乾燥質量中に5%の粉末油脂を、比較例4においては8%の粉末油脂を使用した以外は実施例1~4の製造方法と同様の製造方法で、表1に示す実施例5と比較例4のシート状食品を製造した。
【0057】
(比較例5)
表1に示す素材を用いて、成形工程以外は実施例1~4と同じ手順で行い、成形工程において、2枚のシートの積層を行わずに一枚のシートの両面を乾燥し、一層構造の比較例5のシート状食品を製造した。
【0058】
(比較例6)
市販の焼き若布製品(縦8mm、横12mm、厚さ1000μm)を準備し、比較例6として他の実施例、比較例と同様に評価した。
【0059】
<評価方法>
製造した実施例1~5、比較例1~6のシート状食品について以下の方法で評価した。評価の結果を表1に示す。
【0060】
[1]パリパリ感の評価
実施例と比較例のシート状食品を、パリパリ感の試験用のサンプルとした。10人のモニターがサンプルを食して感じた、歯で噛んで食する際に、弱い力で簡単にバラバラになってパリパリとした食感が感じられるもの(パリパリ感)をそれぞれ下記の評価基準で評価し、その平均値を四捨五入して表1に示した。なお、パリパリ感の評価基準値が3以上であれば、シート状食品としてのパリパリ感は良好であるとした。
【0061】
(評価基準)
5:特に良好なパリパリ感が感じられる。
4:良好なパリパリ感が感じられる。
3:十分なパリパリ感が感じられる。
2:パリパリ感が不十分である。
1:パリパリ感が感じられない。
【0062】
[2]海藻の素材感(海藻本来の性状および風味)の評価
実施例と比較例のシート状食品を、試験用のサンプルとした。10人のモニターがサンプルを食して感じた海藻の素材感(海藻本来の性状および風味)をそれぞれ下記の評価基準で評価し、その平均値を四捨五入して表1に示した。なお、海藻の素材感の評価基準値が3以上であれば、十分に海藻の素材感が感じられるとした。
【0063】
(評価基準)
5:特に良好な海藻本来の性状および風味が感じられる。
4:良好な海藻本来の性状および風味が感じられる。
3:十分な海藻本来の性状および風味が感じられる。
2:海藻本来の性状および風味が不十分である。
1:海藻本来の性状および風味が感じられない。
【0064】
[3]積層体構造の有無の評価
実施例と比較例のシート状食品を、試験用のサンプルとし、光学顕微鏡でサンプルの断面を観察し、本発明に特徴的な2枚のシートを重ね合わせた一体積層体構造(積層体構造)の有無を評価した。積層体構造を有するものを「有り」、有しないものを「無し」と評価した。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、WA/WBが6.1以上13.9以下、原料食材の比率が85%以上、水分量が6.0質量%以下であり、積層体構造を有している実施例1~5のシート状食品においては、海藻の素材感、パリパリ感の両方において良好であった。
【0067】
一方、WA/WBが6.1未満の比較例1においてはパリパリ感が劣っており、WA/WBが13.9超の比較例2においてはパリパリ感が劣っていた。また、評価における取り扱いの際にシート状食品が壊れやすく、形状維持性が劣っていた、また水分量が8.0質量%である比較例3においてはパリパリ感が劣っていた。また、原料食材の比率が84%である比較例4においては海藻の素材感が劣っていた。
【0068】
また、一層構造である比較例5と比較例6の焼き若布においては、パリパリ感が大きく劣っており、特に比較例6については喫食時に硬さを感じた。
【0069】
2.実験2 海藻薄片の形状の影響についての評価
表2に示す海藻薄片の形状と組成の原料を用いて、実験1の実施例1~4の製造方法と同様の製造方法で実施例6~11のシート状食品を製造し、評価した。評価の結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表1、表2に示すように、海藻薄片の最大長さを1.0mm以上とすることにより、パリパリ感がより向上することが示された。また、海藻薄片の厚さを200μm以下とすることによりパリパリ感がより向上することが示された。
【0072】
3.実験3 フレーク状食品の評価
実験1で製造した実施例2のシート状食品を用いて実施例10~14のフレーク状食品を製造し、実験1におけるシート状食品の評価と同様の評価方法と評価基準で評価した。フレーク状食品の見掛け上厚さ寸法は、マイクロゲージで5か所の厚さを測定した結果の平均値を示した。評価の結果を表3に示す。
【0073】
(実施例12)
実施例2のシート状食品をそれぞれ15mm×20mmの大きさのフレーク状に切断し、実施例12のフレーク状食品を製造した。
【0074】
(実施例13~16)
実施例2のシート状食品をそれぞれ15mm×20mmの大きさのフレーク状に切断した後、水を噴霧し、一旦水分量を20質量%にした後、表3に示す条件で熱風乾燥を行い乾燥収縮させ、最終的な水分量を4.0質量%とすることにより、実施例13~16のフレーク状食品を製造した。
【0075】
【表3】
【0076】
表3に示すように、一旦水分量を20質量%にした後、熱風乾燥を行った実施例13~16のフレーク状食品は、シート状食品と同じ厚さである実施例12と比べて、見掛け上の厚さ寸法が、増加しており、パリパリ感も向上していることが確認された。特に85~95℃で熱風乾燥を行った実施例13、14については、見掛け上の厚さ寸法が1.5倍以上に増加していた。
【0077】
4.実験4 他の食材(昆布)からなるシートの評価
食材として薄片状の昆布を用いて、表1に示す組成と海藻薄片の形状で、実験1の実施例1~4の製造方法と同様の製造方法で実施例17~20のシート状食品を製造し、実験1と同様に評価した。評価の結果を表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
表4の結果に示すように、食材として昆布を使用し、WA/WBが6.1以上13.9以下、原料食材の比率が85%以上、水分量が6.0質量%以下であり、積層体構造を有している実施例17~20のシート状食品においても、十分な海藻の素材感、パリパリ感が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0080】
1 第一層
2 第二層
3 凸部
4 凹部
5 空隙
10 シート状食品
A 重ね合わせ面
【要約】      (修正有)
【課題】海藻本来の性状および風味を保持し、また、空隙が形成された状態で一体化された積層体構造にすることで、見掛け上の嵩(厚さ寸法)を大きくし、しかも、歯で噛んで食する際に、弱い力で簡単にバラバラになってパリパリとした食感を有するシート状食品を提供すること。
【解決手段】本発明のシート状食品は、海藻である原料食材と結着剤とを含む2枚のシートを重ね合わせて一体形成された積層体構造を有し、前記2枚のシートは、いずれも重ね合わせ面に凹凸を有し、前記シート状食品は、前記2枚のシートの重ね合わせ面同士の間に、それぞれの前記凹凸の形状に応じた空隙が形成され、全乾燥質量(WT)に対する原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WT)が85%以上であり、結着剤の乾燥質量(WB)に対する原料食材の乾燥質量(WA)の質量比(WA/WB)が6.1以上13.9以下であり、水分量が6.0質量%以下である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4