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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】石英ガラスるつぼ
(51)【国際特許分類】
   C03B 20/00 20060101AFI20230915BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20230915BHJP
   C30B 15/10 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
C03B20/00 H
C30B29/06 502B
C30B15/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018150790
(22)【出願日】2018-08-09
(65)【公開番号】P2020026362
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-06-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】馬場 裕二
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-104248(JP,A)
【文献】特開平10-203893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 20/00
C30B 29/06
C30B 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部、湾曲部及び直胴部からなる石英ガラスるつぼであって、
気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層と、透明石英ガラスからなる内層とを有し、
前記外層は、少なくとも前記直胴部の一部において、複数層から構成されており、
前記複数層から構成される外層のうち、全ての層において、前記石英ガラスるつぼを1600℃で24時間加熱した際の失透斑点数が70個/cm 以下であり、
前記複数層のうち、少なくとも1層が、前記石英ガラスるつぼを1600℃で24時間加熱した際の失透斑点数が50個/cm以上70個/cm以下である失透容易層であり、
前記複数層のうち、前記石英ガラスるつぼの肉厚方向において、前記失透容易層の内側に位置する層が、前記石英ガラスるつぼを1600℃で24時間加熱した際の失透斑点数が2個/cm以下である低失透層であり、
前記失透容易層の厚さが、前記石英ガラスるつぼの肉厚の5%以上35%以下であり、
前記低失透層の厚さが、前記石英ガラスるつぼの肉厚の20%以上70%以下であり、
前記失透容易層は、前記低失透層よりも内側に位置しないものであることを特徴とする石英ガラスるつぼ。
【請求項2】
前記複数層からなる外層は、前記失透容易層及び前記低失透層以外の層として、前記石英ガラスるつぼを1600℃で24時間加熱した際の失透斑点数が2個/cmを超え10個/cm以下である中失透層を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の石英ガラスるつぼ。
【請求項3】
前記外層の前記複数層のうち、最外層が前記失透容易層であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の石英ガラスるつぼ。
【請求項4】
前記外層は天然石英ガラスからなり、前記内層は合成石英ガラスからなることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の石英ガラスるつぼ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスるつぼに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単結晶半導体材料のような単結晶物質の製造には、いわゆるチョクラルスキー法と呼ばれる方法が広く採用されている。この方法は多結晶シリコンを容器内で溶融させ、この溶融浴(融液)内に種結晶の端部を浸けて回転させながら引き上げるものである。この方法では、種結晶の下に同一の結晶方位を持つ単結晶が成長する。単結晶シリコンを引き上げる場合、この単結晶引き上げ容器には石英ガラスるつぼが一般的に使用されている。この石英ガラスるつぼは気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層と、実質的に気泡を含有しない透明石英ガラスからなる内層とを有している。
【0003】
近年、シリコン単結晶引上げの操業時間の長時間化に伴い、石英ガラスるつぼの多機能化が求められている。具体的には、長時間の加熱による石英ガラスるつぼが変形するという変形問題が発生しているが、その対策として結晶化促進層を設けることで変形問題を解消することができる。例えば、特許文献1には、石英ガラスるつぼの外層に結晶化促進剤添加シリカガラスからなる層を設けることが記載されている。また、特許文献2には、ルツボの外層がAl添加石英層、中間層が天然石英層または高純度合成石英層、内層が透明高純度合成石英層からなる3層構造である石英ガラスルツボが記載されている。特許文献3には、るつぼ用途に使用する原料を加熱して失透評価するという内容が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-081374号公報
【文献】特開2000-247778号公報
【文献】特開2015-155375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、長時間の加熱による石英ガラスるつぼの変形問題に対しては、るつぼ外層に結晶化促進層を設けることで解消することができる。しかしながら、結晶化が過剰に進むと、失透現象が進みすぎたり、失透現象がるつぼの肉厚方向に進行していくという失透問題が派生するため、結晶化抑制の対応が必要である。失透現象が進みすぎると、るつぼに亀裂が生じる等の破損等の問題が発生する。これらの問題に関し、変形問題に対しては結晶化促進を、失透問題に対しては結晶化抑制を、1つの石英ガラスるつぼ内で相反する対策を施すことが必要である。
【0006】
また、従来、石英ガラスるつぼを加熱した際の失透のし易さをシリカ以外のAl、Ba等の不純物元素の不純物濃度で規定していた。しかしながら、同じ不純物濃度を有するシリカガラスを同じ加熱条件で加熱した場合であっても、失透の状況が異なる場合があることが本発明者の検討により明らかとなった。例えば、特許文献1には、上記のように石英ガラスるつぼの外層に結晶化促進剤を添加することが記載されているが、失透のし易さについて結晶化促進剤(Al、Ba、Ca、K)の濃度で規定されている。また、特許文献2も、るつぼ各層におけるAl濃度により、るつぼ各層の結晶化の程度を制御することが記載されている。しかしながら、これらの不純物濃度と失透の度合いとは、必ずしも高い相関関係は得られない。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたもので、加熱による変形を抑制することができるとともに失透の進みすぎを抑制することができる石英ガラスるつぼを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、底部、湾曲部及び直胴部からなる石英ガラスるつぼであって、気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層と、透明石英ガラスからなる内層とを有し、前記外層は、少なくとも前記直胴部の一部において、複数層から構成されており、前記複数層のうち、少なくとも1層が、前記石英ガラスるつぼを1600℃で24時間加熱した際の失透斑点数が50個/cm以上70個/cm以下である失透容易層であり、前記複数層のうち、前記石英ガラスるつぼの肉厚方向において、前記失透容易層の内側に位置する層が、前記石英ガラスるつぼを1600℃で24時間加熱した際の失透斑点数が2個/cm以下である低失透層であることを特徴とする石英ガラスるつぼを提供する。
【0009】
このような石英ガラスるつぼは、外層を構成する複数層において失透容易層を有することにより、加熱時に容易に失透する層とすることができる。これにより、加熱時のるつぼの強度を確保することができる。それとともに、同時に、外層を構成する複数層において、失透容易層より内側に低失透層を有することにより、失透容易層の存在による失透の進みすぎを防止することができる。これらの層の存在により、るつぼの変形の抑制と、失透の進みすぎの抑制を両立することができる。また、これらの各層は、失透斑点数により定義することにより、確実に、失透の状態を制御することができる。
【0010】
この場合、前記複数層からなる外層は、前記失透容易層及び前記低失透層以外の層として、前記石英ガラスるつぼを1600℃で24時間加熱した際の失透斑点数が2個/cmを超え10個/cm以下である中失透層を有するものであることが好ましい。
【0011】
このような外層を構成する複数層において中失透層を有する石英ガラスるつぼであれば、中失透層による適度な失透により、るつぼの強度をより高くしやすくすることができる。
【0012】
また、前記外層の前記複数層のうち、最外層が前記失透容易層であることが好ましい。
【0013】
このように、外層を構成する複数層のうち最外層を失透容易層とすることにより、るつぼ最外層が失透しやすくなり、るつぼ強度を高く保ちやすくなるとともに、内層方向への失透の伝搬を抑制しやすくできる。
【0014】
また、前記外層は天然石英ガラスからなり、前記内層は合成石英ガラスからなることが好ましい。
【0015】
このように、るつぼ内層を合成石英ガラスからなるものとすることにより、るつぼに保持する内容物に対する不純物汚染を低減することができる。それとともに、るつぼ外層を天然石英ガラスからなるものとすることにより、外層における失透密度を適度に調整して強度を維持できるとともに、低コストとすることができる。
【0016】
また、前記失透容易層の厚さが、前記石英ガラスるつぼの肉厚の5%以上であり、前記低失透層の厚さが、前記石英ガラスるつぼの肉厚の20%以上70%以下であり、前記内層の厚さが、前記石英ガラスるつぼの肉厚の5%以上であることが好ましい。
【0017】
このように、失透容易層の厚さを石英ガラスるつぼの肉厚の5%以上とすれば、失透させる部分の確保をより十分に行うことができる。また、低失透層の厚さを石英ガラスるつぼの肉厚の20%以上とすることにより、失透容易層により生じた失透の伝搬をより効果的に抑制することができる。また、低失透層の厚さを石英ガラスるつぼの肉厚の70%以下とすることにより、るつぼ強度をより確実に確保することができる。また、内層の厚さを石英ガラスるつぼの肉厚の5%以上とすることにより、るつぼの内容物を適切に保持できるとともに、内容物への不純物汚染をより効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の石英ガラスるつぼは、外層を構成する複数層において、失透斑点数により定義された失透容易層とその内側に低失透層を有することにより、るつぼの変形の抑制と、失透の進みすぎの抑制を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る石英ガラスるつぼの第1の実施態様の概略断面図である。
図2】本発明に係る石英ガラスるつぼの第2の実施態様の概略拡大断面図である。
図3】本発明に係る石英ガラスるつぼの第3の実施態様の概略拡大断面図である。
図4】本発明に係る石英ガラスるつぼの第4の実施態様の概略拡大断面図である。
図5】従来の石英ガラスるつぼの概略拡大断面図である。
図6】別の従来の石英ガラスるつぼの概略拡大断面図である。
図7】石英ガラスに生じる失透斑点の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
従来、石英ガラスるつぼにおいて、失透を促進させるための結晶化促進層には、Al、Baなどの金属不純物を添加するのが一般的であった。また、特許文献1、特許文献2に記載されているように、結晶化促進層は、その不純物濃度を規定することが一般的であった。しかしながら、本発明者の検討によると、ベースとなる原料粉として異なる原料粉(例えば、生産地や生産者等が異なる原料粉)を用いた場合、不純物濃度が一定であっても、失透の発生状態が異なる場合があることが判明した。不純物が添加された石英原料粉をガラス化し、その石英ガラスを加熱すると「失透」と呼ばれる現象が斑点状に発生する。図7には、失透斑点の写真を示した。
【0021】
例えば、原料粉として、異なる原料粉として石英粉1~3を用いた場合に、結晶化促進不純物としてAlを各石英粉に添加して、添加後のAl濃度を50質量ppmとして一定にする。しかしながら、これらの結晶化促進剤を添加した原料粉を、同じ加熱条件で加熱しても、発生する失透斑点数(失透斑点の個数密度)が異なることが判明した。これを表1にまとめた。
【表1】
【0022】
このように、原料粉によっては、結晶化促進剤の濃度が高くとも結晶化レベルが低い原料粉等があることが判明した。失透によりるつぼの強度を高めようとするときに、結晶化促進るつぼで重要なのは促進剤の濃度ではなく、結果としての結晶(失透斑点)の発生数である。そのため、本発明では、失透容易層及び低失透層を失透斑点数で定義することを見出した。これにより、従来よりも確実に石英ガラスるつぼの加熱時におけるるつぼ各層の失透状態を制御することができる。
【0023】
上記のように、結晶化促進不純物濃度が同じでもベースとなる原料粉によって失透斑点数が異なるのは、Al、Ba等の結晶化促進不純物元素ではないその他の要因が影響していると考えられるが、詳細な理由は不明である。しかしながら、いずれにしても、石英ガラスとした後の加熱時の失透斑点数によって規定すれば、石英ガラスるつぼにおける強度の確保や失透の進みすぎの抑制の効果を得るために必要な構成を直接的に規定することができる。そして、失透斑点数は、例えば1600℃、24時間の熱処理をサンプルに施せば、簡単に実験的に確認することができる。
【0024】
また、本発明者は、石英ガラスるつぼの外層において、るつぼの変形・座屈を防止するための失透容易層(結晶化促進層)と、失透容易層(結晶化促進層)の失透を必要以上に進行させないための低失透層を内側に適切に配置することにより、るつぼの変形の抑制と、失透の進みすぎの抑制を両立することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0025】
以下、図面を参照し、本発明をより具体的に説明する。各図において、類似の構成要素は同一の符号を付して説明する。
【0026】
(第1の実施態様)
図1に、本発明に係る石英ガラスるつぼの一例(第1の実施態様)の概略断面図を示す。図1に示したように、本発明の石英ガラスるつぼ110は、底部12、湾曲部13、及び直胴部14からなる。直胴部14はるつぼ形状のうち略円筒形の部分を指す。直胴部14と底部12の間の領域を湾曲部13と称する。るつぼの底部12は、例えば、るつぼの外径の約3分の2以下の直径を有する部分と定義することができる。直胴部14の高さは、例えば、るつぼの高さのうち上部4分の3の部分と定義することもできるが、るつぼの形状により様々である。
【0027】
また、石英ガラスるつぼ110は、気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層20と、透明石英ガラスからなる内層30とを有する。内層30は実質的に気泡を含有しないため、透明に見える部分である。また、本発明の石英ガラスるつぼ110は、外層20が、少なくとも直胴部14の一部において、複数層から構成されている。図1には、外層20全体(底部12、湾曲部13及び直胴部14の全て)が2層からなり、外層20が後述の失透容易層21及び低失透層22を有する例を示している。本発明の石英ガラスるつぼ110は、さらに、外層20を構成する複数層のうち、少なくとも1層が、石英ガラスるつぼ110を1600℃で24時間加熱した際の失透斑点数が50個/cm以上70個/cm以下である失透容易層21であり、その複数層のうち、石英ガラスるつぼ110の肉厚方向において、失透容易層21の内側に位置する層が、石英ガラスるつぼ110を1600℃で24時間加熱した際の失透斑点数が2個/cm以下である低失透層22である。
【0028】
失透容易層21は、上記の通り、石英ガラスるつぼ110を1600℃で24時間加熱した際の失透斑点数が50個/cm以上70個/cm以下である層である。失透斑点数は、熱処理後の石英ガラスるつぼからサンプルを作製し、光学顕微鏡で拡大して観察することにより測定することができる。
【0029】
石英ガラスるつぼの変形・座屈は、直胴部14において発生しやすいため、失透容易層21は、少なくとも石英ガラスるつぼ110の直胴部14の一部、好ましくは直胴部の高さを100%とした場合、少なくともその50%以上存在するのがよい。ただし、失透容易層21は、直胴部14の高さ全てに存在していてもよく、図1に示したように、直胴部14、湾曲部13、底部12の全てに存在していてもよい。失透容易層21は、その上端が、直胴部14のうち石英ガラスるつぼ110にシリコン融液を保持した際の融液面よりも高い位置まで存在することが好ましい。また、失透容易層21の下端は、直胴部14を超えて湾曲部13に設定することが好ましい。このような位置に設定することにより、石英ガラスるつぼ110の加熱時における強度をより効果的に保てるためである。
【0030】
低失透層22は、上記のように、石英ガラスるつぼ110の肉厚方向において、失透容易層21の内側に位置する層である。また、低失透層22は、石英ガラスるつぼ110を1600℃で24時間加熱した際の失透斑点数が2個/cm以下の層である。外層20において低失透層22を有することにより、失透容易層21の存在による失透の進みすぎを防止することができる。このとき、低失透層22は、図1に示しているように石英ガラスるつぼ110の肉厚方向において、失透容易層21の内側に隣接して位置していることが好ましいが、低失透層22と失透容易層21の間にその他の層、例えば後述の中失透層が存在していてもよい。いずれの態様であっても、失透の内側への進行を抑制するという効果が得られる。
【0031】
また、本発明の石英ガラスるつぼの外層20は、失透容易層21及び低失透層22以外の層を有していてもよい。特に、本発明の石英ガラスるつぼでは、複数層からなる外層が、失透容易層及び低失透層以外の層として、中失透層を有するものであることが好ましい。ここでの中失透層とは、石英ガラスるつぼを1600℃で24時間加熱した際の失透斑点数が2個/cmを超え10個/cm以下の層である。
【0032】
(第2の実施態様)
図2に示した第2の実施態様において、石英ガラスるつぼ120は、外層20のうち直胴部14の一部において、失透容易層21及び低失透層22を有している。低失透層22は、失透容易層21に隣接し、失透容易層21から内層30までの位置に存在している。さらに、外層20のうち、失透容易層21及び低失透層22が存在しない部分は、中失透層23が存在している。
【0033】
このような構成を有する石英ガラスるつぼ120は、シリコン単結晶引上げの際等において石英ガラスるつぼ120が加熱される際に失透容易層21に失透が生じ、るつぼ強度を高くすることができる。それとともに、低失透層22の存在により、失透容易層21に生じた失透が伝搬することを抑制することができ、石英ガラスるつぼ120に亀裂が生じることや破損することを防止することができる。
【0034】
(第3の実施態様)
図3に示した第3の実施態様において、石英ガラスるつぼ130は、外層20のうち直胴部14の一部において、失透容易層21及び低失透層22を有している。さらに、直胴部14のうち失透容易層21及び低失透層22の存在する部分にも、低失透層22に隣接して中失透層23が存在している。また、石英ガラスるつぼ130では、中失透層23は失透容易層21及び低失透層22の存在しない部分にも存在している。
【0035】
このような構成を有する石英ガラスるつぼ130は、失透容易層21によりるつぼ壁の失透を促進することによりるつぼ強度を高める一方で、低失透層22により失透の進行、伝搬を抑制する。ここで、低失透層22自体は失透が発生しにくいため、低失透層22自体は加熱時の強度が弱い。そこで、中失透層23の存在により、るつぼ強度を補うことができ、石英ガラスるつぼ全体の耐変形性を高めることができる。
【0036】
また、本発明の石英ガラスるつぼの外層20は、失透容易層21、低失透層22、中失透層23の他にさらにその他の層を有していてもよい。また、失透容易層21、低失透層22は、石英ガラスるつぼの肉厚方向にそれぞれ1層ずつでよいが、複数層あってもよい。外層20に中失透層23又はその他の層が存在する場合も、1層ずつでよいが、複数層あってもよい。
【0037】
(第4の実施態様)
図4に示した第4の実施態様においても、第3の実施態様と同様に、石英ガラスるつぼ140は、外層20のうち直胴部14の一部において、失透容易層21及び低失透層22を有している。ただし、この第4の実施態様においては、失透容易層21と低失透層22の間に中失透層23を有している。この場合も、加熱により失透容易層21で失透が発生することにより石英ガラスるつぼ140の強度を高めることができる。また、失透容易層21において多量に発生する失透が中失透層23を通じて進行しても、少なくとも低失透層22によって失透の伝搬が抑制される。これにより、石英ガラスるつぼ140全体における失透の進みすぎを抑制することができる。
【0038】
図1、2、3、4に示したように、本発明の石英ガラスるつぼ110、120、130、140においては、外層20の複数層のうち、最外層が失透容易層21であることが好ましい。外層20を構成する複数層のうち最外層を失透容易層21とすることにより、最外層が失透しやすくなり、るつぼ強度を高く保ちやすくなるとともに、内層30の方向への失透の伝搬を抑制しやすくできる。
【0039】
また、本発明の石英ガラスるつぼ110、120、130、140において、外層20は天然石英ガラスからなり、内層30は合成石英ガラスからなることが好ましい。内層30を合成石英ガラスからなるものとすることにより、石英ガラスるつぼ110、120、130、140に保持する内容物(シリコン融液)に対する不純物汚染を低減することができる。それとともに、外層20を天然石英ガラスからなるものとすることにより、外層20における失透密度を適度に調整しやすくなり強度を維持することができ、かつ低コストとすることができる。
【0040】
また、本発明の石英ガラスるつぼ110、120、130、140において、失透容易層21の厚さは、石英ガラスるつぼ110、120、130、140の肉厚の5%以上であることが好ましい。これにより、石英ガラスるつぼ110、120、130、140において、失透させる部分の確保をより十分に行うことができる。また、この失透容易層21の厚さは、石英ガラスるつぼ110、120、130、140の肉厚の30%以下であることがさらに好ましい。石英ガラスるつぼの肉厚の30%以下の厚さの失透容易層であれば、失透が進みすぎてしまうことを抑制できる。また、低失透層22の厚さは、石英ガラスるつぼ110、120、130、140の肉厚の20%以上70%以下であることが好ましい。これにより、失透容易層21により生じた失透の伝搬をより効果的に抑制することができるとともに、るつぼの強度を十分に確保することができる。この低失透層22の厚さは、石英ガラスるつぼ110、120、130、140の肉厚の20%以上60%以下であることがさらに好ましい。また、内層30の厚さは、石英ガラスるつぼ110、120、130、140の肉厚の5%以上であることが好ましい。これにより、石英ガラスるつぼ110、120、130、140の内容物(シリコン融液)を適切に保持できるとともに、内容物への不純物汚染をより効果的に抑制することができる。内層30の厚さは、石英ガラスるつぼ110、120、130、140の肉厚の10%以上であることがさらに好ましい。
【0041】
また、図3の石英ガラスるつぼ130のように中失透層23を有する場合、中失透層23の厚さは、石英ガラスるつぼ130の肉厚の10%以上であることが好ましい。これにより、石英ガラスるつぼ130の強度をより効果的に確保することができる。
【0042】
石英ガラスるつぼを構成する各層の厚さは、例えば、断面観察で測定することができる。すなわち、石英ガラスるつぼを破壊して、断面方向から各層の厚さを測定すればよい。その際、偏光板を使用して各層の境界を確認することもできる。また、石英ガラスるつぼ製造時のモールドの回転速度差によって各層に気泡密度分布を付けておけば、各層の厚さを測定しやすい。その他、ICP測定により不純物層別プロファイル分析を行って各層の厚さを確認することができる。
【0043】
本発明の石英ガラスるつぼの製造方法を説明する。ここでは図1の石英ガラスるつぼ110及び図3の石英ガラスるつぼ130を例として説明する。
【0044】
図1、3に示した本発明の石英ガラスるつぼ110、130は、外層20を構成する複数層のための各原料粉、及び内層30のための原料粉を用いて製造することができる。例えば各原料粉(原料石英粉)を用いて、製造する石英ガラスるつぼ110、130の各層に対応するように回転モールド内に原料粉成型体を成型し、これを内部からアーク放電等により加熱すること等により、石英ガラスるつぼ110、130を製造することができる。また、外層20に相当する部分を原料粉成型体として回転モールド内に成型しておき、内層30については、アーク放電により外層用原料粉成型体の内部から加熱熔融すると同時に、その高温雰囲気中に合成石英ガラス粉等の原料粉を供給することにより、外層20の内表面上に内層30を形成してもよい。
【0045】
失透容易層21の原料粉は、ベースとなる原料粉(ドープ処理を行う前の原料粉)を準備し、これに、例えば、結晶化促進剤(Al、Ba等)をドープすることにより準備することができる。ここで、本発明では、上記のように、石英ガラスるつぼ110、130を構成した際に、所定条件(1600℃で24時間加熱)における失透斑点数により失透容易層21を規定する。これは、従来のように失透のし易さをAl、Ba等の不純物元素の不純物濃度で規定していたのとは異なる。そのため、失透容易層21の原料粉における結晶化促進剤の濃度は、失透容易層21を構成した際の失透斑点数に応じて設定することが好ましい。すなわち、原料粉から石英ガラスるつぼ110、130の失透容易層21を形成した後、1600℃で24時間加熱した際の失透斑点数が50個/cm以上70個/cm以下となるように、予め失透容易層21の原料粉に結晶化促進剤をドープすること等により不純物濃度を調整し、この原料を用いて作製されたサンプルに上記加熱処理を行って、所望の失透斑点数となるか調査し、その結果に基づいて用いる原料粉を選別すればよい。不純物濃度を調整しなくても上記失透斑点数が得られるような原料粉を用いることもできる。
【0046】
低失透層22の原料粉は、原料粉から石英ガラスるつぼ110、130の低失透層22を形成した後、1600℃で24時間加熱した際の失透斑点数が2個/cm以下となるような原料粉を選択して用いる。
【0047】
図3の石英ガラスるつぼ130のように中失透層23を有する場合、中失透層23の原料粉は、原料粉から石英ガラスるつぼ130の中失透層23を形成した後、1600℃で24時間加熱した際の失透斑点数が2個/cmを超え10個/cm以下となるような原料粉を選択して用いる。
【0048】
石英ガラスるつぼ110、130の内層30のための原料粉としては、合成石英粉を用いることが好ましい。これにより、内層30を合成石英ガラス層とすることができる。
【0049】
上記の各原料粉をそれぞれ、製造しようとする石英ガラスるつぼ110、130の外層20を構成する各層に対応するように回転モールド内に配置して加熱を行う。各原料粉から形成された石英ガラスにおいて、1600℃で24時間加熱後の失透斑点数の値を確認する際には、各原料粉からサンプルとなる石英ガラス片を作製して加熱実験(1600℃で24時間)を行って測定してもよいが、実際に石英ガラスるつぼを作製して、1600℃で24時間加熱した後に各層からサンプルを取り出して測定することが好ましい。実際に石英ガラスるつぼを作製したときの条件に即して失透斑点数を規定することができるからである。このようにして石英ガラスるつぼを作製して測定した各層の失透斑点数は、同じロットの原料粉から形成した各層でも同等であるとみなすことができる。
【実施例
【0050】
以下に、本発明の実施例及び比較例をあげてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術思想から逸脱しない限り様々の変形が可能であることは勿論である。
【0051】
(実施例1)
以下のようにして、図3に示したような石英ガラスるつぼ130を作製した。失透容易層21の形成のための原料粉(原料粉A)として、Alをドープした粒径50~500μmの天然石英粉からなる原料粉を準備した。Alをドープする前の原料粉(ベース原料粉)は、石英ガラスとした後に1600℃で24時間加熱した場合、失透斑点数が13個/cmとなる原料粉であった。このベース原料粉にAlをドープすることにより、Alドープ原料粉を石英ガラスとした後に1600℃で24時間加熱した場合の失透斑点数が50個/cm以上70個/cm 以下となるように、ドープ量を調整した。
【0052】
また、低失透層22の形成のための原料粉として、失透斑点数が1個/cmとなる粒径50~500μmの天然石英粉からなる原料粉(原料粉B)を準備した。また、中失透層23の形成のための原料粉として失透斑点数が8個/cmとなる粒径50~500μmの、天然石英粉からなる原料粉(原料粉C)を準備した。
【0053】
次に、原料粉Aを、回転する内径830mmのモールド内直胴部に供給し、厚さ10mmの粉体層A(失透容易層21となる粉体層)を成型した。このとき、製造しようとする石英ガラスるつぼ130の失透容易層21が、図3のように直胴部14の一部に位置するように粉体層Aを成型した。次に、原料粉Bをモールド内直胴部に供給し、粉体層Aの内側に厚さ10mmの粉体層B(低失透層22となる粉体層)を成型した。次に、原料粉Cをモールド内直胴部、湾曲部、底部に供給し、必要な成型の残りの粉体層C(中失透層23となる粉体層)を成型した。このとき、製造しようとする石英ガラスるつぼ130の中失透層23が、図3のように低失透層22の内側、並びに、失透容易層21及び低失透層22の上下に位置するように粉体層Cを成型した。
【0054】
この成型体を、アーク放電により該成型体の内部から加熱熔融すると同時に、その高温雰囲気中に合成石英ガラス粉を100~200g/分の割合で供給し、泡の無い透明ガラス層を全内面領域にわたり、1~3mmの厚さで形成した。熔融が終了し、冷却した直径805~815mmの石英ガラスるつぼについて、高さが500mmとなるよう上端部をカットし、石英ガラスるつぼ130を作製した。
【0055】
このような石英ガラスるつぼ130を破壊し、断面方向から失透容易層21及び低失透層22の厚さを測定したところ、失透容易層21の厚さの石英ガラスるつぼ130の直胴部14の肉厚に対する割合は約15%であった。低失透層22の厚さの石英ガラスるつぼ130の直胴部14の肉厚に対する割合は約40%であった。
【0056】
上記と同様に作製した石英ガラスるつぼ130を1600℃で24時間加熱した後に、失透容易層21、低失透層22、中失透層23の失透斑点数を測定した。その結果、失透斑点数は、失透容易層21が60個/cm、低失透層22が1個/cm、中失透層23が8個/cmであった。
【0057】
また、上記と同様に作製した石英ガラスるつぼ130を使用してシリコン単結晶の引き上げを行い、操業結果を評価した。操業結果の評価としては、耐変形性、失透状態を評価した。評価基準としては、耐変形性については、操業に影響がある変形が発生した場合を「不良」、操業に影響がない軽微な変形が見られる場合を「良好」、操業中に変形がほとんど見られない場合を「特に良好」とした。また、失透状態については、操業後の失透層(失透が進んで結晶化した層)の厚さが石英ガラスるつぼ130の肉厚の60%以上であった場合、「不良」とした。この厚さが石英ガラスるつぼ130の肉厚の60%未満であった場合、「良好」とした。この厚さが石英ガラスるつぼ130の肉厚の50%未満であった場合、「特に良好」とした。
【0058】
実施例1では、操業結果に問題は見られず良好な結果であった。
【0059】
実施例1における外層を構成する層(サブ層)の数、外層を構成する複数の層の失透斑点数に基づいて規定した層の種類及び失透斑点数、内層の種類を表2中に示した。また、表2には、操業前の石英ガラスるつぼにおける、失透容易層21及び低失透層22の厚さのるつぼの肉厚に対する割合(以下、単に「層厚割合」とも称する。)も示した。また、表2には、操業結果の評価として、耐変形性、失透状態の評価を示した。
【0060】
(実施例2)
実施例1と同様に石英ガラスるつぼを製造したが、外層において、中失透層を最外層に配置し、失透容易層と低失透層をその内側に配置した。また、各層における失透斑点数及び失透容易層・低失透層の層厚割合は表2に記載の通りであった。実施例1と同様に操業結果を評価し、表2に示した通りとなった。
【0061】
(実施例3)
実施例1と同様に石英ガラスるつぼを製造したが、外層において、低失透層22の層厚割合を22%とした。また、各層における失透斑点数及び失透容易層の層厚割合は表2に記載の通りであった。実施例1と同様に操業結果を評価し、表2に示した通りとなった。
【0062】
(実施例4)
実施例1と同様に石英ガラスるつぼを製造したが、外層において、低失透層22の層厚割合を18%とした。また、各層における失透斑点数及び失透容易層の層厚割合は表2に記載の通りであった。実施例1と同様に操業結果を評価し、表2に示した通りとなった。失透状態は「良好」であり、実施例1より失透が進行したが、操業において問題とはならなかった。
【0063】
(実施例5)
実施例1と同様に石英ガラスるつぼを製造したが、外層において、失透容易層21の層厚割合を5%とした。また、各層における失透斑点数及び低失透層の層厚割合は表2に記載の通りであった。実施例1と同様に操業結果を評価し、表2に示した通りとなった。実施例1より失透の進行が少なかったが、操業において問題となる変形は発生しなかった。
【0064】
(実施例6)
実施例1と同様に石英ガラスるつぼを製造したが、外層において、失透容易層21の層厚割合を35%とした。また、各層における失透斑点数及び低失透層の層厚割合は表2に記載の通りであった。実施例1と同様に操業結果を評価し、表2に示した通りとなった。実施例1より失透が進行したが、操業において問題とはならなかった。
【0065】
(実施例7)
実施例1と同様に石英ガラスるつぼを製造したが、実施例1における中失透層23に相当する層を形成するための原料粉として、石英ガラスとした後に加熱により失透がより進みやすい原料粉を用いた。各層における失透斑点数及び失透容易層・低失透層の層厚割合は表2に記載の通りであり、実施例1における中失透層23に相当する層において、失透斑点数が12個であった。これは本発明における「中失透層」の範囲よりも高く、シリコン単結晶引き上げにおける加熱により、実施例1よりも失透が進行しやすい。製造した石英ガラスるつぼについて実施例1と同様に操業結果を評価し、表2に示した通りとなった。失透状態は「良好」であり、実施例1より失透が進行した。ただし、操業において問題とはならなかった。
【0066】
(実施例8)
実施例1と同様に石英ガラスるつぼを製造したが、外層において、低失透層22の層厚割合を10%とした。また、各層における失透斑点数及び失透容易層の層厚割合は表2に記載の通りであった。実施例1と同様に操業結果を評価し、表2に示した通りとなった。失透状態は「良好」であり、実施例1より失透が進行した。低失透層22が薄いことによると考えられる。ただし、操業において問題とはならなかった。
【0067】
(実施例9)
実施例1と同様に石英ガラスるつぼを製造したが、実施例1における中失透層23に相当する層を形成するための原料粉として、石英ガラスとした後に加熱により失透がより進みやすい原料粉を用いた。各層における失透斑点数及び失透容易層・低失透層の層厚割合は表2に記載の通りであり、実施例1における中失透層23に相当する層において、失透斑点数が15個であった。これは本発明における「中失透層」の範囲よりも高く、シリコン単結晶引き上げにおける加熱により、実施例1よりも失透が進行しやすい。製造した石英ガラスるつぼについて実施例1と同様に操業結果を評価し、表2に示した通りとなった。失透状態は「良好」であり、実施例1より失透が進行したが、操業において問題とはならなかった。
【0068】
(実施例10)
図2に示した石英ガラスるつぼ120を作製した。原料粉としては、実施例1において用いた失透容易層21の形成のための原料粉(原料粉A)及び低失透層22の形成のための原料粉(原料粉B)、中失透層23の形成のための原料粉(原料粉C)並びに内層30形成用の原料粉を用いた。
【0069】
原料粉成型体の作製方法は以下の通りである。まず、原料粉Aを、回転する内径830mmのモールド内直胴部に供給し、厚さ10mmの粉体層A(失透容易層21となる粉体層)を成型した。このとき、製造しようとする石英ガラスるつぼ120の失透容易層21が、図2のように直胴部14の一部に位置するように粉体層Aを成型した。次に、原料粉Bをモールド内直胴部に供給し、粉体層Aの内側に厚さ18mmの粉体層B(低失透層22となる粉体層)を成型した。次に、原料粉Cを、モールド内直胴部、湾曲部、底部のうち粉体層A、Bを成型しなかった領域に供給し、必要な成型の残りの粉体層C(中失透層23となる粉体層)を成型した。このとき、製造しようとする石英ガラスるつぼ120の中失透層23が、図2のように、失透容易層21及び低失透層22の上下に位置するように粉体層Cを成型した。
【0070】
この成型体を、アーク放電により該成型体の内部から加熱熔融すると同時に、その高温雰囲気中に合成石英ガラス粉を100~200g/分の割合で供給し、泡の無い透明ガラス層を全内面領域にわたり、1~3mmの厚さで形成した。熔融が終了し、冷却した直径805~815mmの石英ガラスるつぼについて、高さが500mmとなるよう上端部をカットし、石英ガラスるつぼ120を作製した。
【0071】
このような石英ガラスるつぼ120を破壊し、断面方向から失透容易層21及び低失透層22の厚さを測定したところ、石英ガラスるつぼ120の直胴部14の肉厚に対する割合は失透容易層が約15%、低失透層が約70%であった。
【0072】
上記と同様に作製した石英ガラスるつぼ120を1600℃で24時間加熱した後に、失透容易層21、低失透層22、中失透層23の失透斑点数を測定した。その結果、失透斑点数は、失透容易層21が60個/cm、低失透層22が1個/cmであった。また、図2に示したように失透容易層21及び低失透層22の上下に位置する中失透層23では、失透斑点数が7個/cmであった。
【0073】
製造した石英ガラスるつぼ120について実施例1と同様に操業結果を評価し、表2に示した通りとなった。耐変形性が「良好」であり、実施例1よりもるつぼの変形があったが、操業において問題とはならなかった。
【0074】
(実施例11)
外層において、低失透層で失透容易層を挟む構成を有する石英ガラスるつぼを作製した。原料粉としては、実施例1において用いた失透容易層21の形成のための原料粉(原料粉A)及び低失透層22の形成のための原料粉(原料粉B)並びに内層30形成用の原料粉を用いた。
【0075】
原料粉成型体の作製方法は以下の通りである。まず、原料粉Bをモールド内直胴部に供給し、粉体層B(低失透層となる粉体層)を成型した。次に、原料粉Aをモールド内直胴部に粉体層A(失透容易層となる粉体層)を成型した。さらに、原料粉Bをモールド内直胴部に供給し、2つ目の粉体層B(低失透層となる粉体層)を成型した。次に、原料粉Cを、モールド内直胴部、湾曲部、底部のうち粉体層A、Bを成型しなかった領域に供給し、必要な成型の残りの粉体層C(中失透層となる粉体層)を成型した。
【0076】
この成型体を、アーク放電により該成型体の内部から加熱熔融すると同時に、その高温雰囲気中に合成石英ガラス粉を100~200g/分の割合で供給し、泡の無い透明ガラス層を全内面領域にわたり、1~3mmの厚さで形成した。熔融が終了し、冷却した直径805~815mmの石英ガラスるつぼについて、高さが500mmとなるよう上端部をカットし、石英ガラスるつぼを作製した。
【0077】
このような石英ガラスるつぼを破壊し、断面方向から低失透層の厚さを測定したところ、低失透層の厚さの石英ガラスるつぼの直胴部の肉厚に対する割合はそれぞれ約35%であった。また、各層における失透斑点数及び失透容易層の層厚割合は表2に記載の通りであった。実施例1と同様に操業結果を評価し、表2に示した通りとなった。耐変形性が「良好」であり、実施例1よりもるつぼの変形があったが、操業において問題とはならなかった。
【0078】
(比較例1)
実施例1の石英ガラスるつぼ130とは、外層20における各層の順番を入れ替えて、石英ガラスるつぼを製造した。すなわち、外層から、中失透層、低失透層、失透容易層の構成として石英ガラスるつぼを作製した。この場合、失透容易層が内層と接するため、内層においても失透が進みすぎてしまい、操業結果の評価はいずれも「不良」となった。
【0079】
(比較例2)
基本的に実施例1と同様に石英ガラスるつぼを製造したが、外層において、図3の失透容易層21に相当する層の原料粉においてAlドープ濃度を少なくし、失透斑点数を50個/cm未満となるように調整した。また、各層における失透斑点数及び失透容易層・低失透層の層厚割合は表2に記載の通りであった。実施例1と同様に操業結果を評価し、表2に示した通りとなった。耐変形性が「不良」であり、操業結果に影響があった。外層における失透が不十分であるためと考えられる。
【0080】
(比較例3)
基本的に実施例1と同様に石英ガラスるつぼを製造したが、外層において、図3の失透容易層21に相当する層の原料粉においてAlドープ濃度を多くし、失透斑点数を70個/cmを超えるように調整した。また、各層における失透斑点数及び失透容易層・低失透層の層厚割合は表2に記載の通りであった。実施例1と同様に操業結果を評価し、表2に示した通りとなった。失透容易層に相当する層による失透が発生しすぎたため、失透状態が「不良」となった。
【0081】
(比較例4)
比較例2と同様に石英ガラスるつぼを製造したが、さらに、外層において、図3の低失透層22に相当する層(最外層から2つ目の層)の原料粉として中失透層となるような原料粉(ただし、最外層から3つ目の層よりも失透斑点数が少なくなるような原料粉)を用いた。また、各層における失透斑点数及び失透容易層・低失透層の層厚割合は表2に記載の通りであった。実施例1と同様に操業結果を評価し、表2に示した通りとなった。耐変形性が「不良」であり、操業結果に影響があった。外層における失透が不十分であるためと考えられる。失透状態は「良好」であり、実施例1より失透が進行した。
【0082】
(比較例5)
比較例3と同様に石英ガラスるつぼを製造したが、さらに、外層において、図3の低失透層22に相当する層(最外層から2つ目の層)の原料粉として中失透層となるような原料粉(ただし、最外層から3つ目の層よりも失透斑点数が少なくなるような原料粉)を用いた。また、各層における失透斑点数及び失透容易層の層厚割合は表2に記載の通りであった。実施例1と同様に操業結果を評価し、表2に示した通りとなった。失透容易層に相当する層による失透が発生しすぎたため、失透状態が「不良」となった。
【0083】
(比較例6)
図5に示したような構成を有する石英ガラスるつぼ200を製造した。この石英ガラスるつぼ200は、外層220が全て中失透層223で構成されており、その外層220上に内層230が形成されている。原料粉としては、実施例1の石英ガラスるつぼ130において用いた中失透層23の形成のための原料粉及び内層30形成用の原料粉を用いた。
【0084】
外層220における失透斑点数は表2に記載の通りであった。実施例1と同様に操業結果を評価し、表2に示した通りとなった。耐変形性が「不良」であり、操業結果に影響があった。外層における失透が不十分であるためと考えられる。
【0085】
(比較例7)
図6に示したような構成を有する石英ガラスるつぼ300を製造した。この石英ガラスるつぼ300は、外層220において、失透容易層221及び中失透層223で構成されており、その外層220上に内層230が形成されている。低失透層は有していない。原料粉としては、実施例1の石英ガラスるつぼ130において用いた失透容易層21の形成のための原料粉及び中失透層23の形成のための原料粉並びに内層30形成用の原料粉を用いた。
【0086】
外層を構成する各層における失透斑点数は表2に記載の通りであった。実施例1と同様に操業結果を評価し、表2に示した通りとなった。失透状態が「不良」であり、操業結果に影響があった。外層において失透が進みすぎたためである。
【0087】
【表2】
【0088】
実施例1~11及び比較例1~7の結果から、失透斑点数で規定した失透容易層及びその内側に位置する低失透層の存在により、るつぼの変形の抑制と、失透の進みすぎの抑制を両立することができることがわかった。
【0089】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0090】
110、120、130、140…石英ガラスるつぼ、
12…底部、 13…湾曲部、 14…直胴部、
20…外層、 21…失透容易層、 22…低失透層、 23…中失透層、
30…内層、
200、300…石英ガラスるつぼ、
220…外層、 221…失透容易層、 223…中失透層、
230…内層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7