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  • 特許-多機能ベルト 図1
  • 特許-多機能ベルト 図2
  • 特許-多機能ベルト 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】多機能ベルト
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/00 20060101AFI20230915BHJP
   H01B 7/00 20060101ALN20230915BHJP
【FI】
F16G1/00 A
H01B7/00 310
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019042792
(22)【出願日】2019-03-08
(65)【公開番号】P2020143772
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-01-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗谷 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】藤本 竜二
(72)【発明者】
【氏名】飯田 亮介
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/002899(WO,A1)
【文献】実開昭63-190194(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 1/00
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルエラストマーからなる平ベルト状のベルト本体と、
前記ベルト本体内に埋設され、前記ベルト本体の長手方向に延びる、複数の高強度心線、及び、複数の導体心線と
を備える多機能ベルトであって
前記多機能ベルトは、前記複数の高強度心線、前記複数の導体心線、及び前記ベルト本体が接着剤を用いずに一体化された押し出し成形品であり、
前記複数の導体心線の両端部は前記ベルト本体の長手方向の両端から突出しており、
クリーンルーム内で使用される
多機能ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばクリーンルーム内の自動倉庫等の天井に設けられる天井搬送車及びスライドフォーク等に適用可能な多機能ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動倉庫等の天井に設けられる天井搬送車及びスライドフォーク等に適用可能な多機能ベルトとして、エラストマーからなる歯付きベルト状のベルト本体と、ベルト本体に埋設された高強度心線及び導体心線とを備えるタイミングベルトが開示されている(例えば、特許文献1)。上記タイミングベルトは、保持体を機械的に移動させると共に、導体心線を通じて保持体に給電し、かつ保持体と通信をすることができる。
【0003】
クリーンルーム内にて使用されるベルトとして、熱可塑性エラストマー同士を、導電性接着剤を介して積層した平ベルトが開示されている(例えば、特許文献2)。上記平ベルトは、熱可塑性エラストマー同士を、導電性接着剤を介して積層したことによって静電気の発生を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/002899号
【文献】特開昭63-23045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記特許文献1に記載のタイミングベルトは、歯の弾性変形によって厚みにバラつきが生じ、巻き上げ精度が低下するという問題がある。またタイミングベルトは、角速度が一定でないことや、ベルトとプーリをかみ合わせたときに生じるバックラッシによって振動が発生する、という問題がある。
また上記特許文献2に記載の平ベルトは、歯付ベルトではないため上述したタイミングベルトのような問題がないものの、接着剤を用いているため、アウトガスを発生させる可能性が高いという問題があった。アウトガスは、製品を汚染する可能性がある。またアウトガスが発生すると、例えば、フォトマスクを汚染することによって、微細なパターンを形成することが困難となる。
【0006】
本発明は、巻き上げ精度を向上すると共に、振動を低減、及びアウトガスの発生量を低減することができる多機能ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る多機能ベルトは、ポリエステルエラストマーからなる平ベルト状のベルト本体と、前記ベルト本体内に埋設され、前記ベルト本体の長手方向に延びる、複数の高強度心線、及び、複数の導体心線とを備え、前記複数の導体心線の両端部は前記ベルト本体の長手方向の両端から突出している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、平ベルトであることによって巻き上げ精度を向上すると共に、振動を低減でき、接着剤を用いていないのでアウトガスの発生量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の多機能ベルトの縦断面図である。
図2】本実施形態の多機能ベルトの斜視図である。
図3】プーリ材質と多機能ベルトの材質との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示すように、多機能ベルト44は、ポリエステルエラストマーからなる長尺の、平ベルト状のベルト本体56を有する平ベルトである。超高分子量ポリエチレンで形成されたプーリの表面に対する、前記ベルト本体56の表面58の動摩擦係数は、0.1~0.2である。ベルト本体56内には、高強度心線60と導体心線62とが埋設されている。本明細書において「埋設」とは、高強度心線60と導体心線62がベルト本体56内に完全に埋め込まれる場合に限定されず、部分的にベルト本体56から露出する場合を含む。
【0011】
高強度心線60は、例えば、スチール心線、アラミド心線、カーボン心線、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)心線、高強度ガラス心線等、高強度・高弾性心線を利用できる。導体心線62は、例えば、軟銅線又は銅合金線である。高強度心線60と導体心線62は共に、複数本設けられ、相互に平行に配列される。ベルト本体56の断面において、高強度心線60が中央部分に、導体心線62が両端部分に、それぞれ配置される。本図の場合、8本の高強度心線60がベルト本体56の幅方向へ等間隔をあけてベルト本体56の中央部分に配置されており、5本の導体心線62がベルト本体56の幅方向へ等間隔をあけてベルト本体56の両端部分にそれぞれ配置されている。
【0012】
ベルト本体56の断面において、高強度心線60と導体心線62は、ベルト本体56の表面58に平行に配列される。高強度心線60と導体心線62は、ベルト本体56の長手方向に延びてベルト本体56の両端に達している。導体心線62は、図2に示すように、ベルト本体56の長手方向の両端から露出している。高強度心線60はベルト本体56の両端面から突出していない。
【0013】
導体心線62の素材、外径および本数は、導体心線62を通じて長手方向の基端から先端へ供給される電力等を考慮し、所定の電気的特性(導体抵抗値等)を有するように選定される。また、導体心線62は、例えば先端側に設けられたセンサなどのデバイスと、基端側に設けられた制御部の間で通信をする通信線として用いることができる。
【0014】
上記多機能ベルト44は、例えば、熱可塑性樹脂組成物を、押し出し成形機にて、先端ダイ(Tダイ)よりシート状に連続的に溶融押し出して、金型ロールとスチールバンドとの間に形成されたキャビティに、溶融した熱可塑性樹脂組成物を流し込むとともに、導体心線及び高強度心線を引き込んで、心線が埋め込まれた熱可塑性樹脂層を成形して製造することができる。多機能ベルト44は、高強度心線60、導体心線62、及びベルト本体56が接着剤を用いずに一体化されている。
【0015】
上記の様に構成された多機能ベルト44の作用及び効果について説明する。多機能ベルト44は、接着剤を用いずに高強度心線60、導体心線62、及びベルト本体56を一体化しているため、アウトガスの発生量を低減することができる。本実施形態に係る多機能ベルト44のアウトガスは、従来に比べ、1/7程度に低減することが確認できた。したがって多機能ベルトは、アウトガスの発生が敬遠されるクリーンルームに適用することができる。
【0016】
多機能ベルト44は、ベルト本体56がポリエステルエラストマーで形成されており、超高分子量ポリエチレンで形成されたプーリの表面に対する前記ベルト本体56の表面58の動摩擦係数が、0.10~0.20であることによって、プーリとの接触によって生じる摩耗を低減することができる。したがって多機能ベルト44は、プーリの巻き上げ、繰り出し動作に伴う、粉塵の発生を抑制することができる。このように多機能ベルト44は、発塵の発生が敬遠されるクリーンルームに適用することができる。
【0017】
プーリの材質と、プーリの表面に対する前記ベルト本体56の表面58の動摩擦係数との関係を調べた。まず多機能ベルト44から幅20mmを切り出した試料を、各試験片の上に、試料表面が試験片に接するように配置した。次いで試料に500gの荷重を負荷した状態で、試験片を1mm/秒の速度でベルトの長手方向に5mm移動させて、動摩擦係数を測定した。動摩擦係数は、摩擦係数測定機[HEIDONType:14FW(新東科学社製)]によって、25℃雰囲気下(常態)で測定した。ベルト本体56は、ポリエステルエラストマー、ウレタンA、ウレタンBの3種とした。試験片は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、MCナイロン(登録商標、クオドラントポリペンコジャパン(株)製)、アルミニウムの3種とした。試料と試験片との各組み合わせにおいて、動摩擦係数を測定した結果を図3に示す。本図より、ポリエステルエラストマーで形成した試料と、UHMWPEで形成した試験片との組み合わせにおいて、動摩擦係数が0.10~0.20であることが確認できた。一方、上記以外の組み合わせにおいては、いずれも動摩擦係数が0.20を超えた。
【0018】
以上より、ポリエステルエラストマーからなるベルト本体56の表面58は、超高分子量ポリエチレンで形成されたプーリ表面との組み合わせにおいて、動摩擦係数が0.10~0.20であるので、上記プーリとの接触によって生じる摩耗を低減することができる。
【0019】
(変形例)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。多機能ベルトは、天井搬送車、スライドフォークなどの荷の受渡装置、スタッカークレーンの昇降台などにおいて、モータなどの駆動力を伝達する媒体に適用することができる。
【符号の説明】
【0020】
56 ベルト本体
58 表面
60 高強度心線
62 導体心線
図1
図2
図3