(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】ロボット及びその制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B25J 9/02 20060101AFI20230915BHJP
【FI】
B25J9/02 A
(21)【出願番号】P 2019048087
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】100122426
【氏名又は名称】加藤 清志
(72)【発明者】
【氏名】比留間 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】土田 久雄
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-34168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース本体に配設され、ワークを回転させる回転軸を第1軸方向へ移動する第1移動機構と、
前記ベース本体に支持部を介して支持され、
前記第1軸方向に対して直交する第2軸方向へツールを移動させる第2移動機構と、
前記第1軸方向と前記第2軸方向との座標系において、前記回転軸の軸中心位置と前記ワークの作業位置との距離の変化に反比例させて前記回転軸の回転速度を制御する制御部と、
を備え、
前記回転軸の軸方向は、第1軸方向及び第2軸方向に対して直交する第3軸方向であるロボット。
【請求項2】
前記第2移動機構に配設され、第3軸方向へ移動する第3移動機構と、
前記第3移動機構に配設され、前記ツールを保持するツール保持部と、
前記ツールに連結され、ワーク作業に必要な供給体を前記ツールに供給する連結部と、
を更に備えた請求項1に記載のロボット。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1移動機構の第1軸方向への移動速度、前記第2移動機構の第2軸方向への移動速度、前記回転軸の回転速度のそれぞれを制御し、前記ワークにおける前記ツールの移動速度を一定に制御する
請求項
1又は請求項2に記載のロボット。
【請求項4】
前記第1移動機構は、
前記ベース本体上に配設され、第1軸方向を長手方向として延設されたスライドレールと、
前記スライドレールに摺動自在に配設され、第1軸方向へ移動するスライダと、
前記スライダ上において回転自在に配設された前記回転軸と、
前記回転軸に連結され、前記回転軸を回転させる電動モータと、を含んで構成されている
請求項1~請求項
3のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項5】
第1移動機構と、第2移動機構と、制御部とを備えたロボットの制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記第1移動機構が、ベース本体上においてワークを回転させる回転軸を第1軸方向へ移動する工程と、
前記第2移動機構が、第1軸方向に対して直交する第2軸方向へツールを移動させる工程と、
前記回転軸が、第1軸方向及び第2軸方向に対して直交する第3軸方向を軸方向として前記ワークを回転させる工程と、
前記制御部が、第1軸方向と第2軸方向との座標系において、前記回転軸の軸中心位置と前記ワークの作業位置との距離の変化に反比例させて前記回転軸の回転速度を制御する工程と、
を備えたプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット及びその制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、X軸、Y軸及びZ軸を含む3軸座標系においてワーク作業を実施可能とする卓上型ロボットが開示されている。卓上型ロボットは、例えば、接着剤の塗布、ねじ締め、半田付け等のワーク作業を自動的に行う産業用ロボットとして使用されている。
卓上型ロボットは、作業テーブル上にX軸方向へ移動するスライドテーブルと、このスライドテーブルに対して独立に作業テーブル上に立設された支柱を介してY軸方向へ延設された水平状アームを移動するY方向移動体とを備えている。Y方向移動体にはZ軸ユニットが装着され、Z軸ユニットはZ軸方向へ移動する構成とされている。スライドテーブル上にはワークが保持され、Z軸ユニットには塗布等の各種作業を行うツールが装着される。
Z軸方向を回転軸方向としてツールを回転させるワーク作業を実施する場合には、Z軸ユニットに回転ユニット(回転機構)が装着され、この回転ユニットにツールが装着される。回転ユニットが装着された卓上型ロボットでは、回転軸(R軸)が含まれるので、4軸座標系においてワーク作業が実施される。
さらに、卓上型ロボットでは、ツールに傾きを与える傾斜ユニットが装着可能とされ、傾斜軸(P軸)を備えると、5軸座標系においてワーク作業を実施することができる。
【0003】
上記卓上型ロボットにおいては、スライドテーブル、Y方向移動体のそれぞれが独立に作業テーブル上に配設されているので、スライドテーブル上にY方向移動体を積み上げる直交型ロボットに比較し、スライドテーブル上の構造を軽量化することができる。このため、ワークに対するツールの制御性能を高めることができるので、卓上型ロボットは精密な軌跡制御に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
3軸座標系においてワーク作業が実施される卓上型ロボットでは、Z軸ユニットにツールが装着され、このZ軸ユニットがY方向移動体を介して水平状アームに支持される。4軸座標系以上のワーク作業が実施される卓上型ロボットでは、更に回転ユニットや傾斜ユニットがY方向移動体を介して水平状アームに支持される。Y方向移動体は、水平状アームに沿ってベルト機構により往復移動する構成とされている。
このように構成される卓上型ロボットにおいては、ツール及びZ軸ユニット、更には回転ユニットや傾斜ユニットを含めたY方向移動体の実質的な質量が増加し、Y方向移動体の慣性モーメントが増大する。このため、速い速度条件において水平状アームに沿ってY方向移動体を移動させると、振動の発生原因となるので、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮し、ツールを移動させる移動機構の振動の発生を効果的に抑制又は防止することができ、ツールの制御性能を向上させることができるロボット及びこのロボットの制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1実施態様に係るロボットは、ベース本体に配設され、ワークを回転させる回転軸を第1軸方向へ移動する第1移動機構と、ベース本体に支持部を介して支持され、第1軸方向に対して直交する第2軸方向へツールを移動させる第2移動機構と、を備えている。回転軸の軸方向は、第1軸方向及び第2軸方向に対して直交する第3軸方向である。
【0008】
本発明の第2実施態様に係るロボットは、第1実施態様に係るロボットにおいて、第2移動機構に配設され、第3軸方向へ移動する第3移動機構と、第3移動機構に配設され、ツールを保持するツール保持部と、ツールに連結され、ワーク作業に必要な供給体をツールに供給する連結部と、を更に備えている。
【0009】
本発明の第3実施態様に係るロボットは、第1実施態様又は第2実施態様に係るロボットにおいて、第1軸方向と第2軸方向との座標系において、回転軸の軸中心位置とワークの作業位置との距離の変化に反比例させて回転軸の回転速度を制御する制御部を更に備えている。
【0010】
本発明の第4実施態様に係るロボットでは、第3実施態様に係るロボットにおいて、制御部は、第1移動機構の第1軸方向への移動速度、第2移動機構の第2軸方向への移動速度、回転軸の回転速度のそれぞれを制御し、ワークにおけるツールの移動速度を一定に制御する。
【0011】
本発明の第5実施態様に係るロボットでは、第1実施態様~第4実施態様のいずれか1つに係るロボットにおいて、第1移動機構は、ベース本体上に配設され、第1軸方向を長手方向として延設されたスライドレールと、スライドレールに摺動自在に配設され、第1軸方向へ移動するスライダと、スライダ上において回転自在に配設された回転軸と、回転軸に連結され、回転軸を回転させる電動モータと、を含んで構成されている。
【0012】
本発明の第6実施態様に係るプログラムは、第1移動機構と、第2移動機構と、制御部とを備えたロボットの制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、第1移動機構が、ベース本体上においてワークを回転させる回転軸を第1軸方向へ移動する工程と、第2移動機構が、第1軸方向に対して直交する第2軸方向へツールを移動させる工程と、回転軸が、第1軸方向及び第2軸方向に対して直交する第3軸方向を軸方向としてワークを回転させる工程と、制御部が、第1軸方向と第2軸方向との座標系において、回転軸の軸中心位置とワークの作業位置との距離の変化に反比例させて回転軸の回転速度を制御する工程と、を備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ツールを移動させる移動機構の振動の発生を効果的に抑制又は防止することができ、ツールの制御性能を向上させることができるロボット及びこのロボットの制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施の形態に係るロボットの全体構成を右斜め上方から見た斜視図である。
【
図2】
図1に示されるロボットの要部構成を斜め上方から見た拡大斜視図である。
【
図3】
図1及び
図2に示されるロボットの制御システム構成を説明するブロック構成図である。
【
図4】(A)は
図1~
図3に示されるロボットの制御方法における回転機構の軸中心位置とワーク作業位置との関係を説明する概略平面図、(B)は
図1~
図3に示されるロボットの軌跡制御方法を説明する
図4(A)に対応する概略平面図である。
【
図5】第1実施の形態に係る軌跡制御方法の第1実施例において軸中心位置とワーク作業位置との関係を説明する概略平面図である。
【
図6】第1実施例において、ツールの移動に伴う、軸中心位置からワーク作業位置までの距離の変化を示すグラフである。
【
図7】第1実施例において、回転機構の回転軸の回転速度とワーク作業時間との関係を示すグラフである。
【
図8】第1実施例において、回転軸の回転による移動速度とワーク作業時間との関係を示すグラフである。
【
図9】第1実施の形態に係る軌跡制御方法の第2実施例において軸中心位置とワーク作業位置との関係を説明する
図5に対応する概略平面図である。
【
図10】第2実施例において、ツールの移動に伴う、軸中心位置からワーク作業位置までの距離の変化を示す
図6に対応するグラフである。
【
図11】第2実施例において、回転機構の回転軸の回転速度とワーク作業時間との関係を示す
図7に対応するグラフである。
【
図12】第2実施例において、回転軸の回転による移動速度とワーク作業時間との関係を示す
図8に対応するグラフである。
【
図13】第1実施の形態に係る軌跡制御方法の第3実施例において軸中心位置とワーク作業位置との関係を説明する
図5に対応する概略平面図である。
【
図14】第3実施例において、ツールの移動に伴う、軸中心位置からワーク作業位置までの距離の変化を示す
図6に対応するグラフである。
【
図15】第3実施例において、回転機構の回転軸の回転速度とワーク作業時間との関係を示す
図7に対応するグラフである。
【
図16】第3実施例において、回転軸の回転による移動速度とワーク作業時間との関係を示す
図8に対応するグラフである。
【
図17】第1実施の形態に係る制御方法の第1制御フローを説明するフローチャートである。
【
図18】第1実施の形態に係る制御方法の第2制御フローを説明するフローチャートである。
【
図19】第1実施の形態に係る制御方法の第3制御フローを説明するフローチャートである。
【
図20】第1実施の形態に係る制御方法においてワーク作業位置の補正フローを説明するフローチャートである。
【
図21】第1実施の形態に係る制御方法において定数Kの表示例を示す図である。
【
図22】本発明の第2実施の形態に係るロボットの全体構成を右斜め上方から見た
図1に対応する斜視図である。
【
図23】本発明の第3実施の形態に係るロボットの全体構成を右斜め上方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施の形態]
以下、
図1~
図21を用いて、本発明の第1実施の形態に係るロボット及びその制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムについて説明する。
ここで、図中、適宜示されている矢印Xは三次元座標のX軸方向を示し、矢印YはY軸方向を示し、矢印ZはZ軸方向を示している。Y軸方向は水平面においてX軸方向に対して直交し、Z軸方向はX軸方向及びY軸方向に対して直交している。なお、これらの各方向は、実施の形態を説明するために便宜的に使用される方向であって、本発明における方向を限定するものではない。
【0016】
(ロボット1の全体構成)
図1に示されるように、本実施の形態に係るロボット1は、4軸仕様の卓上ロボットとして構成されている。つまり、ロボット1は、第1軸方向としてのX軸方向へ移動する第1移動機構3と、第2軸方向としてのY軸方向へ移動する第2移動機構4と、第3軸方向としてのZ軸方向へ移動する第3移動機構5と、R軸方向を回転軸方向とする回転機構6とを備えている。第1移動機構3、第2移動機構4、第3移動機構5及び回転機構6はベース本体2に配設されている。
以下、各構成要素について詳述する。
【0017】
(1)ベース本体2の構成
図1に示されるように、ロボット1のベース本体2は、平面視において、X軸方向の長さに対してY軸方向の長さを同一か、或いは略同一に設定し、Z軸方向を厚さ(ここでは高さ)方向とする矩形直方体状の筐体21により構成されている。筐体21の上面は平坦な水平面を有するベース面21Aとして形成されている。
ここで、ベース本体2の
図1に示される左側は、操作者がワーク作業を実施するために操作等を行う、ロボット1の正面側とされる。一方、ベース本体2の右側は、ロボット1の背面側とされる。
【0018】
筐体21の正面側端部は、ベース面21Aから下方向へ斜めに傾斜した操作面21Bと、この操作面21Bの正面側端から下方向へ延設された信号ポート面21Cとを備えている。
操作面21Bには、右側に操作部22Aが配設され、操作部22Aに隣接した左側に表示部23Aが配設されている。後述するが、ロボット1のベース本体2内には
図3に示される制御部10が配設され、操作部22Aは制御部10を含む制御システム11を構築する操作装置22に接続されている。表示部23Aは、同様に、制御システム11を構築する表示装置23に接続されている。操作部22Aは、ロボット1の制御を開始する、具体的にはワーク作業を開始するスタートスイッチである。表示部23Aは、ロボット1の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムの種類等を表示する液晶ディスプレイである。
【0019】
信号ポート面21Cには、制御部10を構築する信号入出力装置24(
図3参照)に接続される各種の接続ポートが配設されている。接続ポートとして、ここでは、メモリポート24A、LAN(Local Area Network)ポート24B、ティーチングペンダント接続ポート24C、COM(Communication)ポート24D等が含まれている。接続ポートは、制御部10を構築する信号入出力装置24に接続され、信号入出力装置24とロボット1の外部装置とを接続する。
なお、筐体21の図示省略の背面側にも信号ポート面が配設され、この信号ポート面にはCOMポート、I/Oポート等の各種の接続ポートが配設されている。
【0020】
(2)第1移動機構3の構成
第1移動機構3はベース本体2のベース面21A上に配設されている。第1移動機構3は、スライドレール31と、スライダ(X軸移動体)32とを含んで構成されている。
スライドレール31は、ベース面21AのY軸方向中間部において、ベース面21A上にベース面21Aから突出して配設され、X軸方向を長手方向として延設されている。スライドレール31のY軸方向における幅寸法はX軸方向に沿って同一寸法に設定されている。つまり、スライドレール31は平面視において長方形状に形成されている。このスライドレール31はベース面21Aに固定された構造体として形成されている。
【0021】
スライダ32は、スライドレール31の上面及びスライドレール31の両側面に沿って形成され、スライドレール31に摺動自在に配設されている。つまり、スライダ32は、スライドレール31の長手方向に沿って、矢印Aに示されるようにX軸方向を正方向及び逆方向へ往復移動する構成とされている。スライダ32は、スライドレール31下又は筐体21内に設けられた図示省略の電動モータと、電動モータの回転によりスライダ32を移動させるベルト機構とを組み合わせた移動機構により高速移動を可能とする構成とされている。
【0022】
(3)第2移動機構4の構成
第2移動機構4は、ベース本体2のベース面21Aの上方であって、第1移動機構3の上方に配設されている。詳しく説明すると、第2移動機構4は、一対の支持部41及び支持部42と、スライドレール(水平アーム)43と、スライダ(Y軸移動体)44とを含んで構成されている。
【0023】
一対のうちの一方の支持部41は、正面側から背面側へ向かって見て、ベース本体2の筐体21の左側面において背面側端部に配設され、ベース本体2からZ軸方向上方側へ向かって立設された矩形柱形状に形成されている。他方の支持部42は、筐体21の右側面において背面側端部に配設され、支持部41と同様に、ベース本体2からZ軸方向上方側へ向かって立設された矩形柱形状に形成されている。
スライドレール43は、Y軸方向を長手方向として延設された矩形柱形状に形成され、一対の一方の支持部41から他方の支持部42へ架設されている。つまり、スライドレール43の一端部は支持部41の上端部に接続され、スライドレール43の他端部は支持部42の上端部に接続されている。
【0024】
左右一対の支持部41及び支持部42と、支持部41の上端部から支持部42の上端部へ架設されたスライドレール43とにより組み立てられた構造は、正面側から見て、ベース本体2側となる下側が解放され、上側が連結されたゲート形状に形成されている。スライドレール43の下端面が第3移動機構5の下方向への移動開始位置とすれば、第3移動機構5のZ軸方向の移動量(ストローク)に相当する分、少なくともスライドレール43の下端面は回転機構6からZ軸方向へ離間された位置に配置されている。正確に表現すれば、少なくとも第3移動機構5の移動量に相当する分、回転機構6に装着されるワーク保持部8(
図1及び
図2参照)の表面から離間された位置にスライドレール43の下端面が配置されている。
【0025】
スライダ44は、スライドレール43の正面側の側面に沿って形成され、スライドレール43に沿って摺動自在に配設されている。つまり、スライダ44は、スライドレール43の長手方向に沿って、矢印Bに示されるようにY軸方向を正方向及び逆方向へ往復移動する構成とされている。スライダ44は、スライドレール43内に設けられた図示省略の電動モータと、電動モータの回転によりスライダ44を移動させるベルト機構とを組み合わせた移動機構により高速移動を可能とする構成とされている。スライダ44は、第3移動機構5を内部に備えるので、Z軸方向を長手方向とする矩形柱形状に形成されている。
このように構成される第2移動機構4では、スライドレール43が、ベース本体2に一対の支持部41及び支持部42を介して両端支持梁構造により支持されている。さらに、第2移動機構4は、第1移動機構3とは独立に、かつ、分離してベース本体2に配設されている。
【0026】
(4)第3移動機構5の構成
第3移動機構5は、第2移動機構4のスライダ44の内部に配設されている。第3移動機構5は、図示省略のスライダ44の内部に配設されたスライドレールと、スライダ(Z軸移動体)51とを含んで構成されている。スライダ51は、スライドレールに沿って摺動自在に配設され、矢印Cに示されるようにZ軸方向を正方向及び逆方向へ往復移動する構成とされている。つまり、スライダ51は、上下方向へ昇降する構成とされている。
【0027】
(5)ツール7の構成
第3移動機構5にはワーク作業を実施するツール7が装着されている。ツール7はスライダ51の下部に配設されたツール保持部71を介して装着されている。ツール7にはワーク作業に必要な供給体をツール7に供給する連結部72が連結されている。
ここで、一例として、ツール7には、接着剤を塗布するシリンジが使用されている。ツール7としてシリンジが使用される場合、連結部72には、供給体としての接着剤をツール7に連続的に供給する供給チューブが使用されている。また、ツール7がねじ締めを行う電動ドライバとされる場合には、連結部72は電源配線、信号配線等である。さらに、ツール7が半田付け工具とされる場合には、連結部72は半田を供給する供給管、電力を供給する電源配線等である。
【0028】
また、本実施の形態では、ツール7は第3移動機構5に装着されているのでZ軸方向へ移動するが、第3移動機構5が第2移動機構4のスライダ44に配設されているので、結果的に、第2移動機構4はツール7をY軸方向へ移動させる。
【0029】
(6)回転機構6の構成
図1及び
図2に示されるように、回転機構6は、第3移動機構5への配設に代えて、第1移動機構3に配設されている。詳しく説明すると、
図2に示されるように、回転機構6は、X軸方向及びY軸方向に対して直交するZ軸方向をR軸方向とする回転軸63と、回転伝達機構64と、電動モータ65とを含んで構成されている。さらに、回転機構6は、第1移動機構3のスライダ32上に配設された無底矩形箱状の筐体61と、この筐体61内の上下方向中間部に水平に支持された板状の架台62とを備えている。
【0030】
図2において、回転軸63は、スライダ32上であって、架台62上に回転自在に配設されている。架台62はスライダ32上からスライダ32を外れた位置までY軸方向へ延設され、この外れた位置において架台62下には電動モータ65が装着されている。電動モータ65の図示省略の回転軸は架台62を通して架台62上へ突出され、一方、電動モータ65はベース面21A上に浮いた状態において架台62に装着されている。
【0031】
回転軸63は回転伝達機構64を介して電動モータ65の回転軸に連結されている。回転伝達機構64は、回転軸63の下端部に取り付けられた第1プーリ641と、架台62上において電動モータ65の回転軸に取り付けられた第2プーリ642と、第1プーリ641と第2プーリ642とに巻き掛けられた無端ベルト643とを備えている。ここでは、第1プーリ641は従動プーリとされ、第2プーリ642は駆動プーリとされている。そして、第1プーリ641の径(直径)は第2プーリ642の径(直径)に比べて大きい設定とされている。
また、第1プーリ641の上側において、筐体61に回転軸63を回転自在に支持するベアリング66が装着されている。さらに、第1プーリ641の下側において、架台62に回転軸63を回転自在に支持する、図示省略のベアリングが装着されている。
【0032】
一方、電動モータ65にはケーブルベア(登録商標)68が接続されている。ここでは、ケーブルベア68は、Y軸方向から見て板材をL字形状に形成したブラケット67を介して架台62に取り付けられている。ケーブルベア68内には電動モータ65へ駆動電源を供給する図示省略のケーブルが配策されている。
【0033】
図1及び
図2に示されるように、回転機構6の回転軸63の上端部にはワーク保持部8が装着されている。ワーク保持部8はここでは平面視において円盤形状を有する板材により形成され、ワーク保持部8の中心位置に回転軸63が連結されている。
図1に示されるように、ワーク保持部8の上面にはワーク作業が実施されるワーク9が保持される。基本的に、ワーク9の構造、形状、材料等は、ワーク作業毎に異なるので、限定されるものではない。
図1には、一例として、スマートフォンの筐体の一部となる金属製又は樹脂製の箱形形状のワーク9が示されている。ここでは、ワーク9は、その周囲に沿って接着剤を塗布するワーク作業の開始間近の状態とされている。
【0034】
上記の通り、回転機構6は第1移動機構3に配設されているので、第1移動機構3はワーク9を回転させる回転機構6の回転軸63をX軸方向へ移動させる構成とされている。
【0035】
(ロボット1の制御部10及び制御システム11の構成)
図3に示されるように、ロボット1は、ベース本体2内に制御部10及びこの制御部10を含んで構築される制御システム11を備えている。制御部10は、中央演算処理ユニット(CPU)101と、ロボット制御プログラム記憶装置102と、一時記憶装置103と、ポイント列記憶装置104と、信号入出力装置24と、モータ駆動制御装置105~108とを備えている。制御部10の中央演算処理ユニット101等の各構成要素は共通バス109を通して相互に接続されている。
そして、制御システム11は、制御部10に加えて、操作装置22と、表示装置23と、電動モータ35、45、55及び65とを備えて構築されている。
なお、本実施の形態では、ロボット1は、4軸仕様の卓上ロボットとされているので、4つのモータ駆動制御装置105~108と、4つの電動モータ35、45、55及び65とを備えている。5軸仕様の卓上ロボットとされる場合には、駆動軸数の増加に伴い、モータ駆動制御装置並びに電動モータが増加される。
【0036】
制御部10の中央演算処理ユニット101はコンピュータを構築している。制御部10では、中央演算処理ユニット101を主体としてロボット1の全体の制御が実行される。
ロボット制御プログラム記憶装置102には、ロボット1の動作を制御するロボット制御プログラムが格納される。このロボット制御プログラムに従って情報の入力、表示、記憶、信号の入出力が実行され、そしてロボット制御プログラムはモータ駆動制御装置105~108を通して電動モータ35、45、55、65の駆動を制御する。
【0037】
モータ駆動制御装置105により電動モータ35が駆動されると、第1移動機構3において
図1及び
図2に示されるスライダ32はX軸方向へ移動する。モータ駆動制御装置106により電動モータ45が駆動されると、第2移動機構4においてスライダ44はY軸方向へ移動する。モータ駆動制御装置107により電動モータ55が駆動されると、第3移動機構5においてスライダ51はZ軸方向へ移動する。そして、モータ駆動制御装置108により電動モータ65が駆動されると、回転機構6において回転軸63はR軸方向を軸方向としてワーク保持部8を回転させる。ワーク保持部8が回転すると、ワーク保持部8に保持されたワーク9が回転する(
図1参照)。
【0038】
ロボット1の制御にユーザ設定が必要とされる場合、操作装置22及び表示装置23を用いて、ユーザはロボット1の制御を直接設定する。また、ロボット1の制御に際して、制御プログラム、各種の設定情報等は一時記憶装置103に格納される。
ポイント列記憶装置104には、位置座標値及びポイント(ワーク作業位置)種別からなるポイント情報の並びが実行するプログラムが格納される。ポイント列記憶装置104に格納されたプログラムはロボット制御プログラムにより順次読み出され、ロボット制御プログラムは第1移動機構3等の各ユニットの移動を制御する。
【0039】
(ロボット1の制御方法)
(1)軌跡制御方法の導入
上記の通り、本実施の形態に係るロボット1では、第1移動機構3に回転機構6が配設されている。このため、ロボット1では、制御部10及び制御システム11により、X軸方向とY軸方向とのXY座標系において、回転機構6の回転軸63の軸中心位置とワーク作業位置との距離の変化に反比例させて回転軸63の回転速度を制御する、軌跡制御が実施される。以下に、詳しく説明する。
【0040】
図4(A)に示されるように、ロボット1では、回転軸63の軸中心位置CPから距離L[mm]だけ離れたワーク作業位置WP1は、回転軸63を角度θ[rad]回転させると、Lθ[mm]分変化し、ワーク作業位置WP2へ移動する。つまり、距離Lの増加に比例してワーク作業位置WPの移動量が大きくなり、ワーク作業位置でのワーク作業の分解能又はワーク作業の精度が低下する。
【0041】
そこで、ロボット1では、軌跡制御が実施され、ワーク作業の分解能又はワーク作業の精度が改善されている。ここで、「軌跡制御」とは、本実施の形態では、R軸方向を軸方向とする回転を含めた4軸方向に移動しながら、ツール9の作業部位(一例として、シリンジの接着剤供給口となる先端部)に直線や曲線を描かせる制御という意味において使用されている。
【0042】
(2)基本の軌跡制御方法
図4(B)を用いて、4軸仕様のロボット1における軌跡制御方法について説明する。説明を解り易くするために、軸中心位置CPに向かって線分を描く例を用いて、軌跡制御方法を説明する。
【0043】
図4(B)に示されるように、図示省略のワーク9に対して、図示省略のツール7の作業部位がワーク作業の開始位置WP1からワーク作業の終了位置WP2まで移動する。開始位置WP1は、軸中心位置CPを基点とする3次元座標において、X軸=0[mm]、Y軸=L1[mm]、Z軸=0[mm]、R軸=R1[rad]として表わされる(X=0,Y=L1,Z=0,R=R1)。終了位置WP2は、同様に、X軸=0[mm]、Y軸=L2[mm]、Z軸=0[mm]、R軸=R2[rad]として表わされる(X=0,Y=L2,Z=0,R=R2)。
Y軸上において、距離L2よりも距離L1が大きい(L2<L1)とき、ツール7はワーク保持部8の周辺側から軸中心位置CPへ向かって移動する軌跡を描く。開始位置WP1における回転軸63の回転角度がR1とされ、終点位置WP2における回転軸63の回転角度がR2とされている。ツール7は、Y軸上の移動と共に、回転角度R2から回転角度R1を差し引いた回転角度分、ワーク9に対して回転する。ここで、軸中心位置CPの座標は、X軸=0[mm]、Y軸=0[mm]である(X=0,Y=0)である。
【0044】
図4(B)に示される例では、開始位置WP1、終了位置WP2のそれぞれにおいて、X軸上の位置が「0」(X=0)とされ、回転角度が「0」(R1=R2=0)とされている。このため、ワーク9に対して、ツール7はY軸上に沿って一方向に直線を描く軌跡により移動する。
【0045】
ここで、軸中心位置CPを中心としてワーク9を回転させながら、ワーク9に対してツール7で直線を描く軌跡とするには、ワーク9の回転と共に、第1移動機構3及び第2移動機構4を用いて、ワーク9をX軸方向及びY軸方向へ移動させる制御が必要とされる。つまり、ワーク9を回転させると、ワーク9が回転に伴い移動するので、回転により移動する分、移動方向とは逆方向となるX軸方向及びY軸方向へワーク9及びツール7を移動させる制御が必要とされる。
【0046】
開始位置WP1から終了位置WP2までの距離は距離L1から距離L2を差し引いて算出される(L1-L2)ので、ツール7に対するワーク9の移動速度がV[mm/sec]とすれば、ワーク9の移動時間Tは次式<1>により表される。
【0047】
【数1】
ここで、回転機構6の回転軸63が一定の回転速度により回転するとき、T時間において回転軸63は回転角度R2から回転角度R1を差し引いた回転角度量(R2-R1)だけ回転するので、次式<2>により回転速度ωを算出することができる。
【数2】
【0048】
ところで、回転軸63を一定の回転速度ωにより回転させると、ツール7に対するワーク9のX軸方向、Y軸方向のそれぞれの移動量が時間と共に変化する。具体的には、回転軸63を微小角度Δθ[rad]だけ回転させると、軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離L[mm]が移動量「L*Δθ」だけ移動する。移動量「L*Δθ」の値は、軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離Lが増加すると、距離Lの増加に比例して大きくなる。軌跡制御においては、回転軸63の回転に伴うワーク9の移動量を打ち消すように、X軸方向、Y軸方向のそれぞれへワーク9及びツール7を移動させる必要があるが、ワーク9の回転に伴う移動量が変化すると、ワーク9のX軸方向、Y軸方向への移動量が変化する。
つまり、軸中心位置CPからの距離Lが大きくなる、すなわち軸中心位置CPからワーク作業位置が離れると、打ち消しに必要とされるX軸方向、Y軸方向へのワーク9及びツール7の移動量が大きくなる。これでは、ワーク作業における分解能が低下し、ワーク作業における軌跡精度が低下する。
【0049】
また、X軸方向、Y軸方向へのワーク9及びツール7の移動量は、大きくなり過ぎると、
図3に示される第1移動機構3の電動モータ35、第2移動機構4の電動モータ45の追従速度を超えてしまう。
【0050】
(3)第1軌跡制御方法
そこで、本実施の形態に係る第1軌跡制御方法では、回転機構6の回転軸63は一定の回転速度にはせずに、軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離Lに基づいて、X軸方向、Y軸方向へのツール7に対するワーク9の移動量が制御される。つまり、第1軌跡制御方法は、回転軸63の回転に伴うワーク9の移動量を打ち消す移動量「L*Δθ」を一定に保つ軌跡制御方法である。
【0051】
軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離Lは逐次変化するので、距離Lは時間tの関数L(t)とすることができる。
図4(B)に示される例では、関数L(t)を直線的に減少する一次関数として表すことができる。回転軸63の回転速度ωも一定ではなく、時間の関数ω(t)として表すことができる。そして、移動量「L*Δθ」を一定に保つことは、次式<3>に示されるように、関数L(t)と関数ω(t)との積「L(t)*ω(t)」を一定に保つことに他ならない。
【数3】
【0052】
上記式<3>を変形して、次式<4>に示すように、関数ω(t)を算出することができる。
【数4】
【0053】
上記式<3>、式<4>のそれぞれにおいてKは定数であり、定数Kは回転軸63の回転量(回転角度R2-回転角度R1)から算出することができる。回転軸63の回転速度ωは時間と共に変化する時間tの関数ω(t)であるので、回転軸63の回転量の総和は関数ω(t)の時間積分になる。関数L(t)が明示的に求めることができれば、関数L(t)を積分し、次式<5>を立てることができる。
【数5】
第1軌跡制御方法では、XY座標系において、定数Kを用いて、回転機構6の回転軸63の軸中心位置CPとワーク作業位置WPとの距離Lの変化に反比例させて、回転軸63の回転速度ωが制御されている。
表現を代えれば、第1軌跡制御方法では、第1移動機構3のX軸方向への移動速度、第2移動機構4のY軸方向への移動速度、回転機構6の回転軸63の回転速度のそれぞれを制御し、ワーク9におけるツール7の移動速度が一定に制御されている。
【0054】
ここで、第1軌跡制御方法では、X軸方向、Y軸方向のそれぞれの移動速度は一定であるが、回転軸63の回転速度ωは一定ではない。例えば、線を描く方向に一致させて回転軸63を回転させる場合には、回転速度ωを自由に決めることができない。ところが、本実施の形態に係るロボット1は、接着剤の塗布作業、半田付け作業等を主とするワーク作業に使用されるので、線を描く方向と回転軸63を回転させる方向とを厳密に一致させる必要はない。
【0055】
また、第1軌跡制御方法では、
図4(B)に示されるように、ツール7の移動の通過点となる、開始位置WP1と終了位置WP2との中間位置WP12を設定し、この中間位置WP12において回転軸63の回転角度R12を指定して、それを満足するように回転速度ωが制御されてもよい。この場合、ある程度、回転軸63の回転角度を絞ることができる。
【0056】
詳しく説明する。ここでも、
図4(B)が参照される。
ワーク作業の開始位置WP1と終了位置WP2との間の距離(この例ではY軸方向の距離)の2分の1の位置(Y=(L1-L2)/2)が中間位置WP12に設定される。回転軸63を回転速度ωにより回転させると、中間位置WP12における回転角度R12は、開始位置WP1の回転角度R1と終了位置WP2の回転角度R2との半分ではなく、回転角度R1に近い回転角度となる。開始位置WP1が軸中心位置CPから離れているので、回転速度ωの時間tの関数ω(t)は、最初遅く、徐々に速くなる。中間位置WP12では、回転軸63の回転角度R12が半分にならない。
【0057】
そこで、第1軌跡制御方法では、中間位置WP12の座標が、X軸=0[mm]、Y軸=(L1+L2)/2[mm]、Z軸=0[mm]、R軸=(R2+R1)/2[rad]に、明示的に設定される。このように設定されると、中間位置WP12において、回転軸63の回転角度R12を回転角度R1と回転角度R2との半分に調整することができる。
すなわち、開始位置WP1から終了位置WP2までのワーク作業において設定される全体の定数Kを用いて、軌跡が制御されていない。第1軌跡制御方法では、定数Kに代えて、開始位置WP1から中間位置WP12までのワーク作業において設定される定数K1と、中間位置WP12から終了位置WP2までのワーク作業において設定される定数K2との2つの定数を用いて、軌跡が制御される。
【0058】
(4)第2軌跡制御方法
前述の第1軌跡制御方法では、移動量「L*Δθ」を一定に保つべく、回転軸63の回転速度ωが厳密に算出されている。第2軌跡制御方法では、移動量「L*Δθ」がある程度の値(判定値又は閾値)を超えない制限が設定されている。
具体的に例示すると、第2軌跡制御方法では、まず、ワーク9に対するツール7のX軸方向、Y軸方向への移動速度に応じて、一定の速度と仮定して、回転軸63の回転速度ωが算出される。そして、最大の距離Lでの移動量「LMAX*Δθ」が判定値を超えないとき、軌跡制御がそのまま継続される。一方、判定値を超えたときには、判定値を超えた状況を示す、例えば「運転エラー(ERROR)」表示がなされ、又併せてティーチング(ロボット1の制御プログラム)の見直しが促される。
また、第2軌跡制御方法は、単に「運転エラー」表示だけではなく、判定値を超えるワーク作業位置を表示してもよく、加えて該当するワーク作業位置において移動量「L*Δθ」の減少を促してもよい。
【0059】
(5)第3軌跡制御方法
第3軌跡制御方法は、第1軌跡制御方法と第2軌跡制御方法とを組み合わせた方法である。具体的に説明する。第3軌跡制御方法は、第2軌跡制御方法において移動量「L
MAX*Δθ」が判定値を超えて「運転エラー」となるワーク作業位置の近傍に、第1軌跡制御方法における中間位置WP12(
図4(B)参照)を自動的に設定する方法である。
このような第3軌跡制御方法が採用されると、自動的に設定された中間位置WP12において、移動量「L*Δθ」を判定値以下に調整し、軌跡制御を実行することができる。
【0060】
(6)第4軌跡制御方法
回転軸63の回転を含む、ツール7が同一の軌跡を描く軌跡制御であっても、軸中心位置CPに対して、何処のワーク作業位置において軌跡を描くかにより、移動量「L*Δθ」が変化する。つまり、軸中心位置CPに対して、ワーク9を何処に配置し保持するかによって、軌跡制御の難易度並びに移動量「LMAX*Δθ」が変化する。ワーク作業において、ツール7の軌跡が決定されていても、ワーク9の配置位置に関して任意性があるので、第4軌跡制御方法では、軸中心位置CPに対して適切なワーク作業位置にワーク9を配置することが促される。
【0061】
具体的な例示に基づいて説明する。平面視において円形状のワーク9の周縁に沿って、ツール7としてのシリンジから接着剤を塗布するワーク作業では、回転軸63が360度回転する。このとき、第4軌跡制御方法では、回転軸63の軸中心位置CPにワーク9の円形状の中心位置を一致させてワーク保持部8にワーク9が保持される(
図1及び
図4(B)参照)。軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離Lは、円の半径と一致し、一定となる。このとき、距離Lは最大の距離Lであり、移動量は「L
MAX*Δθ」である。
ここで、軸中心位置CPに対してワーク9の円形状の中心位置がずれると、距離Lよりも軸中心位置CPから離れたワーク作業位置が発生する。このような場合、第4軌跡制御方法では、ワーク9を配置する位置に従って変化する移動量「L
MAX*Δθ」が算出され、この移動量「L
MAX*Δθ」が最小となるワーク保持部8上での最適な位置を求め、求められた最適な位置にワーク9が保持される。
【0062】
(実施例)
本実施の形態に係るロボット1の制御方法において、軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離Lの変化に応じて、回転機構6の回転軸63の回転角度Rを変化させてツール7の軌跡制御を行う具体的な例について説明する。
【0063】
(1)軌跡制御方法の第1実施例
軌跡制御方法の第1実施例は、上記式<3>に示す、距離Lの時間tの関数L(t)と回転速度ωの時間tの関数ω(t)との積「L(t)*ω(t)」を一定に保つ軌跡制御方法の具体例である。
【0064】
図5に示されるように、第1実施例では、軸中心位置CPからY軸方向へ20[mm]離れた位置に配置され保持されたワーク9の周縁に、接着剤としてのシーリング剤を塗布するワーク作業について説明する。ワーク9は、平面視において、X軸方向の長さを50[mm]とし、Y軸方向の長さを100[mm]とする、便宜的に厚さを持たない、矩形状(長方形状)に形成されている。ワーク9は例えばスマートフォンの筐体である。XY座標において、X軸=0[mm]、Y軸=0[mm]の位置が軸中心位置CPとされる。
【0065】
ワーク9の右辺中央のワーク作業位置はワーク作業の開始位置WP1とされ、開始位置WP1の座標位置はX軸=25[mm]、Y軸=70[mm]とされる。また、開始位置WP1はワーク作業の終了位置WP9でもある。ワーク作業では、反時計回りに、開始位置WP1から、作業位置WP2、作業位置WP3、…、終了位置WP9まで一周にわたってシーリング剤が塗布される。
【0066】
開始位置WP1の次段のワーク作業位置となる作業位置WP2の座標位置はX軸=25[mm]、Y軸=120[mm]である。作業位置WP3の座標位置はX軸=0[mm]、Y軸=120[mm]、作業位置WP4の座標位置はX軸=-25[mm]、Y軸=120[mm]である。作業位置WP5の座標位置はX軸=-25[mm]、Y軸=70[mm]、作業位置WP6の座標位置はX軸=-25[mm]、Y軸=20[mm]である。作業位置WP7の座標位置はX軸=0[mm]、Y軸=20[mm]、作業位置WP8の座標位置はX軸=25[mm]、Y軸=20[mm]である。
ツール7の移動速度は、X軸方向、Y軸方向のそれぞれにおいて一定の線速度に設定される。
【0067】
開始位置WP1から作業位置WP2、作業位置WP4から作業位置WP5等、Y軸方向への移動距離は50[mm]、作業位置WP2から作業位置WP3、作業位置WP3から作業位置WP4等のX軸方向への移動距離は25[mm]に設定されている。ツール7の移動速度が例えば75[mm/sec]に設定されると、開始位置WP1から作業位置WP3まで、作業位置WP3から作業位置WP5まで、作業位置WP5から作業位置WP7まで、作業位置WP7から終了位置WP9まで、各々の移動時間は1[sec]となる。つまり、開始位置WP1から終了位置WP9まで、ツール7がワーク9の周縁を一周する移動時間は4[sec]である。
【0068】
開始位置WP1から終了位置WP9までの移動に伴い、ツール7の先端の角度が各作業位置において90度→150度→180度→210度→270度→330度→360度→390度→450度へ変化し、先端が一回転する。ツール7の先端は、ここではシリンジのニードルである。各角度はX軸方向(正方向)とツール7の先端とがなす角度である。つまり、開始位置WP1においてツール7の先端が90度に設定されている状態とは、ツール7の先端が移動方向に向いている状態を意味している。従って、ツール7の先端は、移動方向へ向きを変えながら360度回転する設定とされている。
【0069】
図6に示されるように、軸中心位置CP(X軸=0[mm]、Y軸=0[mm])からの距離Lは、ツール7の先端の移動に伴い変化する。
図6において、縦軸は軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離L[mm]を示し、横軸はワーク作業時間[sec]を示している。距離Lは、ツール7が4秒間において一周する時系列グラフとして表現されている。
【0070】
詳しく説明すると、開始位置WP1から作業位置WP2へのツール7の移動はY軸方向(正方向)への移動になるので、ツール7の移動に伴い、距離Lは増加する。具体的には、距離Lは約75[mm]から120[mm]強へ増加する。作業位置WP2から作業位置WP3へツール7が移動すると、距離Lは若干小さくなり、作業位置WP3において距離Lは120[mm]になる。作業位置WP3から作業位置WP4へツール7が移動すると、距離Lは若干増加する。その後、作業位置WP4から作業位置WP5へツール7が移動すると、ワーク作業位置が軸中心位置CPに近づき、距離Lは減少する。ツール7が作業位置WP7へ移動すると、距離Lは最小の20[mm]になる。そして、作業位置WP7から作業位置WP8を経て終了位置WP9へツール7が移動すると、距離Lは徐々に増加する。このように、軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離Lはツール7の移動と共に、表現を代えれば時間の経過と共に変化する。
【0071】
図7にはツール7の移動に伴う回転軸63の回転速度ωが示されている。縦軸は回転軸63の回転速度ω[度/sec]を示し、横軸は
図6の横軸と同様にワーク作業時間[sec]を示している。
図7において、回転軸63を一定の回転速度ωc、ここで90[度/sec]に設定された比較例が破線を用いて示されている。
一定の回転速度ωcに対して、本実施例に係る軌跡制御方法では、距離Lの時間tの関数L(t)と回転速度ωの時間tの関数ω(t)との積「L(t)*ω(t)」が一定となる回転速度ωに制御される。回転速度ωは実線を用いて示されている。
【0072】
ツール7の先端の角度が大きく変化するワーク作業位置、具体的には開始位置WP1から作業位置WP2では、作業位置WP2での角度を150度に設定すると、回転軸63の回転速度ωの調整が難しくなる。そこで、軌跡制御方法では、作業位置WP2でのツール7の角度は設定せずに、作業位置WP3において角度が180度となるように、開始位置WP1から作業位置WP3までの回転速度が設定される。この設定によれば、作業位置WP2では、角度が154.8度となる。距離Lが大きい部分での回転軸63の回転速度ωを抑えるため、開始位置WP1から作業位置WP2まで、ツール7は速く回転させる。
【0073】
図7に示されるように、軌跡制御方法の前半では、開始位置WP1から作業位置WP2において、距離Lが増加していくので、回転速度ωの時間tの関数ω(t)は時間の経過と共に減少する。作業位置WP2から作業位置WP3では関数ω(t)は若干増加し、作業位置WP3から作業位置WP4では関数ω(t)は若干減少し
、作業位置WP4において回転速度ωが約80[度/sec]に減少した後に、作業位置WP5まで回転速度ωは増加していく。
軌跡制御方法の後半では、作業位置WP5から作業位置WP6
、WP7、WP8を経て、WP9に戻る。回転軸63の軸中心位置CPから最も近い(距離Lが最小の)作業位置WP7(X軸=0[mm]、Y軸=20[mm])において、回転速度ωは最大の約160[度/sec]に制御される。作業位置WP7から終了位置WP9までは、距離Lの増加に伴い、回転速度ωは減少していく。
【0074】
なお、
図7に示される実線の算出には、上記式<4>が使用されている。具体的には、開始位置WP1→作業位置WP3、作業位置WP3→作業位置WP5、作業位置WP5→作業位置WP7、作業位置WP7→終了位置WP9のそれぞれにおいて、ツール7の先端が90度回転する定数Kが求められる。この定数Kを用いて、関数ω(t)が算出されている。定数Kの算出は、本来、積分になるが、
図7に示される実線は、求められた定数Kを離散化し近似して算出されている。このため、若干の誤差が含まれている。
【0075】
図8には回転軸63の回転による必要な移動量「L*Δθ」が示されている。縦軸は回転軸63の回転による、ワーク9に対するツール7の移動速度[mm/sec]を示し、横軸は
図6及び
図7の横軸と同様にワーク作業時間[sec]を示している。
図7と同様に、
図8において、回転軸63を一定の回転速度ωcに設定された比較例が破線を用いて示されている。比較例の場合、移動量は「L(t)*ωc」になり、この移動量「L(t)*ωc」のグラフは、
図6に示される距離Lの時間tの関数L(t)のグラフに対して相似形状になる。
【0076】
比較例に対して、
図8に実線を用いて示されるように、本実施例に係る軌跡制御方法では、距離Lと回転速度ωとの積「L*ω」である移動速度Vが一定に制御されている。詳しく説明すると、開始位置WP1、作業位置WP2、作業位置WP3、作業位置WP4、作業位置WP5のそれぞれにおいて、移動速度Vは約160[mm/sec]の一定値に制御されている。また、作業位置WP5、作業位置WP6、作業位置WP7、作業位置WP8、終了位置WP9のそれぞれにおいて、移動速度Vは約55[mm/sec]の一定値に制御されている。
【0077】
前述の
図5に示されるワーク作業では、回転軸63の回転により、ワーク9に対してツール7の移動速度Vは作業位置WP3付近において最大となる。
図8に破線を用いて示されるように、作業位置WP3付近において移動速度Vは180[mm/sec]に達する。
これに対して、本実施例に係る軌跡制御方法によれば、移動量「L*Δθ」が一定に調整された回転速度ωであれば、移動速度を160[mm/sec]に抑制することができる。
【0078】
(2)軌跡制御方法の第2実施例
軌跡制御方法の第2実施例は、回転機構6の回転軸63の軸中心位置CPとワーク作業位置との関係を変えた例を説明するものである。
図9に示されるように、本実施例に係る軌跡制御方法では、ワーク9は第1実施例に係るワーク9と同一であり、回転軸63の軸中心位置CPとワーク9の中心位置とが一致されている。
詳しく説明する。ワーク作業の開始位置WP1並びに終了位置WP9の座標位置はX軸=25[mm]、Y軸=0[mm]である。このとき、ツール7の角度は90[度]である。作業位置WP2の座標位置はX軸=25[mm]、Y軸=50[mm]である。作業位置WP3の座標位置はX軸=0[mm]、Y軸=50[mm]である。このとき、ツール7の角度は180[度]である。作業位置WP4の座標位置はX軸=-25[mm]、Y軸=50[mm]である。作業位置WP5の座標位置はX軸=-25[mm]、Y軸=0[mm]である。このとき、ツール7の角度は270[度]である。作業位置WP6の座標位置はX軸=-25[mm]、Y軸=-50[mm]である。作業位置WP7の座標位置はX軸=0[mm]、Y軸=-50[mm]である。このとき、ツール7の角度は360[度]である。作業位置WP8の座標位置はX軸=25[mm]、Y軸=-50[mm]である。作業位置WP2、作業位置WP4、作業位置WP6、作業位置WP8のそれぞれにおいて、ツール7の角度は指定されていない。
【0079】
図10には軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離とワーク作業時間との関係が示されている。縦軸は軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離L[mm]を示し、横軸はワーク作業時間[sec]を示している。
図10に示されるように、軸中心位置CPから開始位置WP1、作業位置WP5、終了位置WP9までの距離Lは小さくなる。作業位置WP2、作業位置WP4、作業位置WP6、作業位置WP8のそれぞれでは、軸中心位置CPからの距離Lは最大となる。このときの距離Lは約55[mm]である。
【0080】
図11には回転軸63の回転速度ωとワーク作業時間との関係が示されている。縦軸は回転軸63の回転速度ω[度/sec]を示し、横軸は
図10の横軸と同様にワーク作業時間[sec]を示している。
図11に示されるように、ツール7の移動に伴う回転軸63の回転速度ωは減少する。開始位置WP1、作業位置WP5、終了位置WP9のそれぞれにおいて、最大の回転速度ωとなる。このときの回転速度ωは約140[度/sec]である。
【0081】
図12にはツール7の移動速度とワーク作業時間との関係が示されている。縦軸は回転軸63の回転による、ワーク9に対するツール7の移動速度V[mm/sec]を示し、横軸は図
10及び
図11の横軸と同様にワーク作業時間[sec]を示している。
図12に示されるように、本実施例に係る軌跡制御方法では、回転軸63の回転による必要な移動量「L*Δθ」を小さくすることができる。本実施例に係る軌跡制御方法では、移動量が一定に調整された回転速度ωであれば、開始位置WP1~終了位置WP9のそれぞれのワーク作業位置において、移動速度Vを約60[mm/sec]に抑制することができる。比較例に係る移動速度Vに対して、本実施例に係る軌跡制御方法では、約3分の2の移動速度Vまで下げることができる。
なお、平面視において、長方形形状のワーク9内に軸中心位置CPが配置されれば、移動速度Vが小さくなるが、ワーク9の中心位置に軸中心位置CPが一致されたとき、移動速度Vは最小値となる。
【0082】
(3)軌跡制御方法の第3実施例
軌跡制御方法の第3実施例は、第1実施例において、回転機構6の回転軸63の軸中心位置CPとワーク作業位置の開始位置WP1並びに終了位置WP9との関係を変えた例を説明するものである。
【0083】
図13に示されるように、本実施例に係る軌跡制御方法では、ワーク9は第1実施例に係るワーク9と同一であり、回転軸63の軸中心位置CPに対するワーク9の配置位置は第1実施例に係るワーク9の配置位置と同一である。しかしながら、本実施例に係る軌跡制御方法では、ワーク作業の開始位置WP1、作業位置WP5並びに終了位置WP9が、第1実施例に対して相違している。
【0084】
詳しく説明すると、ワーク9において、ワーク作業の開始位置WP1の座標位置はX軸=25[mm]、Y軸=40[mm]である。このとき、ツール7の角度は90[度]である。同様に、終了位置WP9の座標位置はX軸=25[mm]、Y軸=40[mm]である。このとき、ツール7の角度は450[度]である。そして、作業位置WP5の座標位置はX軸=-25[mm]、Y軸=40[mm]である。このとき、ツール7の角度は270[度]である。つまり、第1実施例に対して、ワーク作業位置の開始位置WP1、作業位置WP5、終了位置WP9のそれぞれは軸中心位置CPの近くに設定され、Y軸方向の距離が小さい設定とされている。
【0085】
図14には軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離とワーク作業時間との関係が示されている。縦軸は軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離L[mm]を示し、横軸はワーク作業時間[sec]を示している。
本実施例に係る軌跡制御方法では、開始位置WP1から作業位置WP2までの距離並びに作業位置WP4から作業位置WP5までの距離が長くなる。逆に、作業位置WP5から作業位置WP6までの距離並びに作業位置WP8から終了位置WP9までの距離は短くなる。
【0086】
図15には回転軸63の回転速度ωとワーク作業時間との関係が示されている。縦軸は回転軸63の回転速度ω[度/sec]を示し、横軸は
図14の横軸と同様にワーク作業時間[sec]を示している。
図15に示されるように、ワーク作業の開始位置WP1から作業位置WP2までの距離並びに作業位置WP4から作業位置WP5までの距離が長くなっているので、ワーク9に対するツール7の移動時間が長くなる。このため、開始位置WP1から作業位置WP5までのワーク作業位置において、回転軸63の回転速度ωは減少する。
【0087】
図16にはツール7の移動速度とワーク作業時間との関係が示されている。縦軸は回転軸63の回転による、ワーク9に対するツール7の移動速度[mm/sec]を示し、横軸は
図14及び
図15の横軸と同様にワーク作業時間[sec]を示している。
図16に示されるように、本実施例に係る軌跡制御方法では、回転軸63の回転による必要な移動量「L*Δθ」を小さくすることができる。ワーク9に対してツール7が一定の線速度、例えば前例の通り、75[mm/sec]により移動されていると仮定すれば、実線を用いて示されるように、開始位置WP1~作業位置WP5までの移動速度Vを約100[mm/sec]以内に抑えることができる。前述の
図8に示される比較例における移動速度Vは約180[mm/sec]、第1実施例における移動速度Vは約160[mm/sec]であるので、第3実施例では、移動速度Vをかなり減少させることができる。
また、
図16に破線を用いて示される比較例では、一定の回転速度ωcでの移動速度Vは作業位置WP3付近において130[mm/sec]に達する。
【0088】
(ロボット1の制御フロー)
次に、ロボット1の制御方法を説明する制御フロー、並びに併せて制御方法をコンピュータに実行させるプログラムについて説明する。
【0089】
(1)第1制御フロー
まず、
図17に示される第1制御フローについて説明する。第1制御フローは、回転機構6の回転軸63の回転によるツール7の移動量「L(t)*ω(t)」を一定に保つプランニングを行い、ロボット1の制御動作を実行させる。この制御動作の実行において、定数Kが上限値(判定値又は閾値)となる限界定数値「K
MAX」を超えたとき、「運転エラー」として、制御動作を停止させる。以下、詳しく説明する。
【0090】
図17に示される第1制御フローが開始される。
最初に、
図3に示されるロボット1の制御部10において、ポイント列記憶装置104にワーク作業の作業位置情報が取得され、かつ、記憶される(ステップS1)。この作業位置情報はロボット制御プログラム記憶装置102に格納されたロボット制御プログラムにより順次読み出され、ロボット制御プログラムは第1移動機構3等の各ユニットの移動の制御を開始する。
ここでは、理解し易くするために、ワーク作業の開始位置WP1から作業位置WP2まで、設定された線速度において、連続結路制御(CPC:Continuous Path Control)により、ワーク9の回転並びにツール7の移動を制御する例を説明する(
図5参照)。後述する第2制御フロー並びに第3制御フローについても、同様の例を用いて説明する。開始位置WP1は、三次元座標において、X軸=X1、Y軸=Y1、Z軸=Z1の座標位置に設定される。このときのツール7の先端の角度RはR1(例えば90度)に設定される。一方、作業位置WP2はX軸=X2、Y軸=Y2、Z軸=Z2の座標位置に設定される。このときのツール7の先端の角度RはR2(例えば150度)に設定される。
【0091】
制御開始から経過した時間をtとすると、時間tにおけるX軸方向の座標位置はX(t)、Y軸方向の座標位置はY(t)になる。ここで、X軸方向の座標位置、Y軸方向の座標位置のそれぞれは、回転軸63の軸中心位置CPのX軸方向の座標位置を「0」とし、Y軸方向の座標位置を「0」とした二次元座標により特定される。なお、Z軸方向の説明は省略する。
【0092】
軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離Lの時間tの関数L(t)は次式<6>により求められる。
【数6】
【0093】
開始位置WP1から作業位置WP2への移動に伴い、回転機構6の回転軸63(
図2参照)は角度R1から角度R2まで回転する。回転速度はω(t)である。回転速度ω(t)は、一定の回転速度ではなく、軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離Lの時間tの関数L(t)に従い、移動量「L(t)*ω(t)」が一定の定数Kとなる回転速度に制御される。このため、定数Kが次式<7>を用いて算出される(ステップS2)。
【数7】
なお、定数Kの算出を含む演算処理、後述する比較判定処理等の各種処理は、
図3に示される制御部10の中央演算処理ユニット101を主体として構築されるコンピュータを用いて実行される。
【0094】
上記式<7>を用いて算出された定数Kが、予め設定されている限界定数値「KMAX」に対して比較される(ステップS3)。
定数Kが限界定数値「KMAX」を超えていないと判定された場合には、開始位置WP1から作業位置WP2まで、回転軸63の回転速度ωの時間tの関数ω(t)を算出しながら、算出毎にワーク9に対してツール7を移動させる制御が実行される(ステップS4)。関数ω(t)は上記式<4>を用いて求められる。ツール7の移動の制御が終了すると、この第1制御フローが終了する。
【0095】
一方、ステップS3において、定数Kが限界定数値「KMAX」を超えていると判定された場合には、回転軸63の回転速度ωが制限値を超えてしまうので、「運転エラー(回転制限オーバーエラー)」のメッセージが表示される(ステップS5)。そして、「運転エラー」のメッセージを表示した直後に、ツール7の移動が停止され(ステップS6)、「運転エラー」によって第1制御フローが強制的に停止される(ステップS7)。
【0096】
(2)第2制御フロー
図18に示される第2制御フローについて説明する。第2制御フローでは、ツール7を実際に移動させる合成移動量が算出され、この移動量が限界定数値「K
MAX」に対して判定され、判定結果に基づいてツール7の移動が制御される。詳しく説明する。
【0097】
図18に示される第2制御フローが開始される。
まず、第1制御フローのステップS1と同様に、ワーク作業の作業位置情報が取得され(ステップS11)、ロボット制御プログラムは第1移動機構3等の各ユニットの移動の制御を開始する。引き続き、第1制御フローのステップS2と同様に、定数Kが算出される(ステップS12)。
【0098】
次に、開始位置WP1から作業位置WP2まで、回転軸63の回転速度ωの時間tの関数ω(t)を算出しながら、算出毎にワーク9に対してツール7を移動させる制御が開始される(ステップS13)。すなわち、以降のステップS14~ステップS17までの処理が、開始位置WP1から作業位置WP2に至るまで、繰り返し実行される。
【0099】
ステップS14では、回転軸63の回転速度ω、開始位置WP1~作業位置WP2までの間において軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離L、移動量「L*ω」のそれぞれが算出される。さらに、ステップS14では、ワーク9に対するX軸方向及びY軸方向のツール7の移動量、このX軸方向及びY軸方向の移動量と移動量「L*ω」との合成移動量のそれぞれが算出される。合成移動量は、回転軸63の回転が無い場合の移動量であって、ワーク9に対してツール7を実際に移動させる量である。
【0100】
ステップS15では、ステップS14において算出された合成移動量が限界定数値「KMAX」に対して比較される。
合成移動量が限界定数値「KMAX」を超えていないと判定された場合には、回転軸63を回転速度ωにおいて回転させ、開始位置WP1から作業位置WP2へ向かって、合成移動量だけツール7が移動する(ステップS16)。ツール7が移動すると、作業位置WP2に到達したか否かが判定される(ステップS17)。
ツール7が作業位置WP2に到達していないと判定されたときには、ステップS14に処理が戻る。ツール7が作業位置WP2に到達していると判定されたときには、ツール7の移動の制御が終了し、この第2制御フローが終了する。
【0101】
一方、ステップS15において、合成移動量が限界定数値「KMAX」を超えていると判定された場合には、回転速度ωが制限値を超えてしまうので、「運転エラー」のメッセージが表示される(ステップS18)。そして、「運転エラー」のメッセージを表示した直後に、ツール7の移動が停止され(ステップS19)、「運転エラー」によって第2制御フローが強制的に停止される(ステップS20)。
【0102】
第2制御フローでは、開始位置WP1から作業位置WP2までワーク作業区間が一定の微小時間ΔT毎に区切られ、微小時間ΔT毎にツール7の移動量が逐次算出され、この算出結果に基づいてツール7を移動させることができる。
【0103】
(3)第3制御フロー
図19に示される第3制御フローについて説明する。
前述の
図17及び
図18に示される第1制御フロー及び第2制御フローでは、ロボット1において、ロボット制御プログラムが実行されると、この実行に伴ってツール7の移動が実際に制御される。
第3制御フローでは、ロボット制御プログラムを実行させてツール7を仮想的に移動させるシミュレーションを実現することができる。つまり、第3制御フローでは、ポイントティーチングがなされた時点において、実際のツール7の移動を伴わずに「運転エラー」が発生するか否
かのシミュレーションを実現することができる。ポイントティーチングがなされた時点とは、ワーク作業の作業位置情報が取得され、更にツール7の移動速度が取得された時点である。詳しく説明する。
【0104】
図19に示される第3制御フローが開始される。
まず、第1制御フローのステップS1と同様に、ワーク作業の作業位置情報が取得され(ステップS21)、ロボット制御プログラムは第1移動機構3等の各ユニットの仮想的な移動の制御を開始する。
次に、ワーク9に対するツール7の移動速度Vが設定される(ステップS22)。第3制御フローでは、移動速度Vが微小移動速度ΔVだけ繰り返し調整され、「運転エラー」が回避されるまで、シミュレーションが実行される。
【0105】
開始位置WP1から作業位置WP2まで、移動速度Vにおいて、ワーク9に対してツール7が仮想的に移動する。このときの回転軸63の回転角度量(R2-R1)、軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離Lに基づいて、上記式<7>を用いて定数Kが算出される(ステップS23)。
【0106】
次に、開始位置WP1から作業位置WP2まで、回転軸63の回転速度ωの時間tの関数ω(t)を算出しながら、算出毎にワーク9に対してツール7を仮想的に移動させる制御が開始される(ステップS24)。すなわち、以降のステップS25~ステップS28までの処理が、開始位置WP1から作業位置WP2に至るまで、繰り返し実行される。
【0107】
ステップS25では、回転軸63の回転速度ω、開始位置WP1~作業位置WP2までの間において軸中心位置CPからワーク作業位置までの距離L、移動量「L*ω」のそれぞれが算出される。さらに、ステップS25では、ワーク9に対するX軸方向及びY軸方向のツール7の移動量、このX軸方向及びY軸方向の移動量と移動量「L*ω」との合成移動量のそれぞれが算出される。
【0108】
ステップS26では、ステップS25において算出された合成移動量が限界定数値「KMAX」に対して比較される。
合成移動量が限界定数値「KMAX」を超えていないと判定された場合には、この判定されたワーク作業位置のXY座標において、ツール7の仮想的な移動が進められる(ステップS27)。
引き続き、作業位置WP2に到達したか否かが判定される(ステップS28)。ツール7が作業位置WP2に到達していないと判定されたときには、ステップS25に処理が戻る。
【0109】
ステップS28において、ツール7が作業位置WP2に到達していると判定されたときには、この移動速度Vは、「運転エラー」にならない速度になるので、制御部10の表示装置23(
図3参照)に表示される
(ステップS29)。表示後、ツール7の仮想的な移動の制御(シミュレーション)が終了し、この第3制御フローが終了する。
【0110】
一方、ステップS26において、合成移動量が限界定数値「KMAX」を超えていると判定された場合には、ツール7の移動速度Vが微小移動速度ΔVだけ調整される(ステップS30)。ここでは、移動速度Vが微小移動速度ΔVだけ下げられる。この後、ステップS23の処理に戻り、定数Kの算出から繰り返し各処理が実行され、最適な移動速度Vがシミュレーションにより求められる。
【0111】
(4)第4制御フロー
第4制御フローは、第3制御フローに準じて、第1制御フローを用いてシミュレーションを実現する制御フローである。
前述の
図17に示される第1制御フローでは、ステップS2において算出された定数KがステップS3において限界定数値「K
MAX」に対して比較可能とされている。ステップS4において、関数ω(t)を算出しながら、ツール7を実際に移動させずに、ツール7を仮想的に移動させることにより、第4制御フローでは第1制御フローに基づいてシミュレーションを実現することができる。
【0112】
(5)第5制御フロー
第5制御フローは、第4制御フローと同様に、第3制御フローに準じて、第2制御フローを用いてシミュレーションを実現する制御フローである。
前述の
図18に示される第2制御フローでは、ステップS14において算出された合成移動量がステップS15において限界定数値「K
MAX」に対して比較可能とされている。ステップS16において、ツール7を実際に移動させずに、合成移動量だけツール7を仮想的に移動させる(計算上の座標だけを更新させる)ことにより、第5制御フローでは第2制御フローに基づいてシミュレーションを実現することができる。
【0113】
(制御フローにおいて「運転エラー」を発生させない方法)
ここで、第1制御フロー~第5制御フローにおいて、「運転エラー」を発生させない方法について説明する。「運転エラー」を発生させない方法として、下記第1方法~第4方法が有効である。
第1方法:移動速度Vを下げる方法
第2方法:ワーク作業位置を変更し、軸中心位置CPからの距離Lを小さくする方法
第3方法:回転軸63の角度指定を緩和する方法
第4方法:軌跡を指定するワーク作業位置を変更する方法
以下、第1方法~第4方法について説明する。
【0114】
(1)第1方法
図17に示される第1制御フローでは、ステップS3において、定数Kが限界定数値「K
MAX」に対して比較されている。定数Kが限界定数値「K
MAX」を超えると、ステップS5へ移行し、「運転エラー」が発生する。
そこで、第1方法は、定数K/限界定数値「K
MAX」の比率において、移動速度Vを下げる。定数Kは移動速度Vに比例する関係にある(例えば上記式<3>参照)。第1方法によれば、「運転エラー」の発生を効果的に抑制又は防止することが、ロボット1の制御方法において実現可能となる。
【0115】
図18に示される第2制御フローでは、駆動速度Vを何処まで下げれば「運転エラー」の発生を抑制可能であるかを、単純に算出することができない。
そこで、第2制御フローにおいて、第1方法は、移動速度Vを微小移動速度ΔVだけ下げながら、「運転エラー」が発生しなくなる移動速度Vに到達するまで、処理を繰り返し行う。
【0116】
(2)第2方法
第2方法では、1つのワーク作業位置が、複数のワーク作業のいずれかに属するかが判定され、属するワーク作業に従って、補正される。ワーク作業位置が変更され、ワーク作業位置が並行移動及び回転移動したときに、同一のワーク作業では、並行移動及び回転移動したワーク作業位置が同一となるので、ワーク作業位置のすべてにおいて「運転エラー」の発生を回避させることができる。詳しく説明する。
【0117】
図20にはワーク作業位置の補正フローが示されている。
第2方法では、最初に、ワーク作業にあるワーク9のワーク作業位置が検出される(ステップS31)。ワーク作業位置の検出には例えばカメラ等の撮像デバイスが使用され、ワーク作業位置は画像情報として検出される。
【0118】
画像情報は前述の
図3に示される制御部10のポイント列記憶装置104に格納されたワーク作業位置の情報に対して比較され、ワーク作業位置に位置ずれがあるか否かが判定される(ステップS32)。この判定には、
図3に示される制御部10の中央演算処理ユニット101が使用される。位置ずれがないと判定されると、この補正フローは終了する。
【0119】
一方、位置ずれがあると判定されると、特定のワーク作業に属する場合には、ワーク作業位置の「ポイント属性ワーク補正番号」が取得され、この「ワーク補正番号」と同一のポイントの探索が開始される(ステップ33)。「ワーク補正番号」は、ワーク作業位置の情報と共に、電子情報としてポイント列記憶装置104に格納されている。
探索の次の対象点があるかどうかが判定される(ステップS34)。次に探索される対象点が無くなれば、探索は終了したとして、補正フローは終了する。
【0120】
次の探索の対象点がある場合には、その対象点まで進む(ステップS35)。
対象点に付いているワーク補正番号が同じかどうかが判定される(ステップS36)。ワーク補正番号が同じでないとき、その対象点は見送られ、ステップS34へ処理が戻る。
【0121】
ステップS36において、対象点のワーク補正番号が同じであると判定されると、この対象点は同一のワーク作業に属している対象点であると判断され、この対象点が並行移動及び回転されて当初のワーク作業位置へ移動される(ステップS37)。
【0122】
そして、ステップ34の処理へ戻り、次対象点が無ければ、この補正フローが終了する。
【0123】
第2方法の補正フローでは、同一のワーク作業における同一のワーク作業位置では同一の位置ずれ量の補正が行われる。表現を代えれば、補正フローでは、どのワーク作業位置が1つのワーク作業に属するかを指定し、属するワーク作業に基づいた補正がなされている。つまり、同一の「ポイント属性ワーク補正番号」が付されているワーク作業位置が同一のワーク作業に属する判定がなされている。
補正フローのステップS33及びステップS36では、ワーク作業位置に明示的に「ワーク補正番号」が設定されているが、内部的なリンク等により複数のワーク作業位置を纏めてグループ化した情報を生成し、この情報が制御部10の記憶装置に予め格納されてもよい。
ワーク作業位置を補正し、このワーク作業位置が属するワーク作業において、ワーク作業位置が並行移動及び回転移動される。この移動に応じて属するワーク作業内において、複数のワーク作業位置のそれぞれの定数Kが算出される。算出された定数Kは、限界定数値「K
MAX」を超えたか否かの判定を含めて表示装置23(
図3参照)に表示される。
【0124】
例えば、1つのワーク作業に属するワーク作業位置が指定され後、このワーク作業におけるツール7の移動軌跡を結ぶ複数のワーク作業位置のそれぞれに対して、定数Kが算出され、算出された定数Kが表示される。この表示された定数Kが参照され、「運転エラー」の発生を効果的に抑制又は防止する方向へワーク9を移動させることができる。さらに、移動後に、再度、定数Kを算出し、かつ、算出された定数Kを表示し、「運転エラー」の発生を一層効果的に抑制又は防止するようにしてもよい。
【0125】
図21には定数Kの表示例が示されている。この表示例では、1つのワーク作業において5つのワーク作業位置が設定され、それぞれのワーク作業位置において算出された定数K1~定数K5が表示されている。定数K1~定数K5では、数値が表示されると共に、棒グラフが表示されている。定数K1の値は「145」、定数K2の値は「60」、定数K3の値は「25」、定数K4の値は「160」、定数K5の値は「30」である。
表示例では、更に限界定数値「K
MAX」が棒グラフに重複させて示されている。限界定数値「K
MAX」が「130」であれば、定数K1及び定数K4が限界定数値「K
MAX」を超えていることが、一目瞭然において、ワーク作業者は判定可能である。
【0126】
(3)第3方法
第3方法では、回転軸63の角度指定をワーク作業者が実施し、角度を指定した後にワーク作業位置における定数Kが算出され、かつ、算出された定数Kが表示され、定数Kが限界定数値「K
MAX」を超えない調整をワーク作業者が行う。定数Kの表示例は例えば
図21に示される通りである。
【0127】
(4)第4方法
第4方法では、軌跡を指定するワーク作業位置をワーク作業者が変更し、変更した後にワーク作業位置における定数Kが算出され、かつ、算出された定数Kが表示され、定数Kが限界定数値「K
MAX」を超えない調整をワーク作業者が行う。定数Kの表示例は例えば
図21に示される通りである。
【0128】
(作用効果)
本実施の形態に係るロボット1は、
図1に示されるように、第1移動機構3と、第2移動機構4とを備える。第1移動機構3は、ベース本体2に配設され、ワーク9を回転させる
図2に示される回転軸63を第1軸方向(X軸方向)へ移動する。第2移動機構4は、
図1に示されるように、ベース本体2に支持部41及び支持部42を介して支持され、第1軸方向に対して直交する第2軸方向(Y軸方向)へツール7を移動させる。回転軸63の軸方向(R軸方向)は、第1軸方向及び第2軸方向に対して直交する第3軸方向(Z軸方向)である。
このように構成されるロボット1では、回転軸63が、第1移動機構3に配設され、第2移動機構4に配設されないので、第2移動機構4の質量を減少させることができる。質量の減少は第2移動機構4の慣性モーメントの減少となるので、第2移動機構4の移動に伴い、第2移動機構4に発生する振動を効果的に抑制又は防止することができ、ツール7の軌跡制御性能を向上させることができる。
【0129】
また、ロボット1は、
図1に示されるように、第3移動機構5と、ツール保持部71と、連結部72とを備える。第3移動機構5は、第2移動機構4に配設され、第3軸方向へ移動する。ツール保持部71は、第3移動機構5に配設され、ツール7を保持する。連結部72は、ツール7に連結され、ワーク作業に必要な供給体をツール7に供給する。
本実施の形態では、ツール7は接着剤を塗布するシリンジとされ、連結部72は供給体として接着剤を供給する供給チューブとされる。
このように構成されるロボット1では、回転軸63が、第1移動機構3に配設され、第3移動機構5に配設されていないので、ツール7は第3移動機構5、更には第2移動機構4を中心として回転しない。このため、連結部72の第3移動機構5や第2移動機構4への巻き付き、絡まり等の不具合を根本的に無くすことができる。
ここで得られる作用効果は、連結部7が供給チューブとされる場合に限定されず、連結部7が配線等であってもよい。
【0130】
さらに、ロボット1は、
図3に示されるように、制御部10を備える。制御部10は、
図4(A)及び
図4(B)に示されるように、第1軸方向(X軸方向)と第2軸方向(Y軸方向)との座標系において、回転軸63の軸中心位置CPとワーク作業位置WPとの距離Lの変化に反比例させて回転軸63の回転速度ωを制御する(上記式<4>参照)。
このように構成されるロボット1では、回転軸63の軸中心位置CPからワーク作業位置WPまでの距離Lが変化しても、ワーク作業位置WPにおいてワーク9に対するツール7の移動速度Vが一定に制御される。このため、ワーク作業におけるワーク作業条件が距離Lに関係無く一定となるので、ワーク作業の精度を一定に保持することができる。
【0131】
また、ロボット1において、
図3に示される制御部10は、
図1に示される第1移動機構3の第1軸方向への移動速度、第2移動機構4の第2軸方向への移動速度、
図2に示される回転軸63の回転速度のそれぞれを制御する。そして、制御部10は、ワーク9におけるツール7の移動速度を一定に制御する(上記式<3>参照)。
このように構成されるロボット1では、ワーク作業におけるワーク作業条件が常に一定なるので、ワーク作業の精度を一定に保持することができる。
【0132】
さらに、ロボット1では、
図2に示されるように、第1移動機構3は、スライドレール31と、スライダ32と、回転軸63と、電動モータ65とを含んで構成される。スライドレール31は、ベース本体2上に配設され、第1軸方向を長手方向として延設される。スライダ32は、スライドレール31に摺動自在に配設され、第1軸方向へ移動する。回転軸63は、スライダ32上において回転自在に配設される。電動モータ65は、回転軸63に連結され、回転軸63を回転させる。
このように構成されるロボット1では、スライドレール31を第1軸方向へ移動するスライダ32上に回転軸63が配設されているので、スライダ32の第1軸方向への移動と共に回転軸63を第1軸方向へ移動させることができる。そして、回転軸63には電動モータ65が連結されているので、第1軸方向へ移動された回転軸63によりワーク9を回転させることができる。
加えて、回転軸63及び電動モータ65の重量はスライダ32及びスライドレール31を介してベース本体2により受け止める構造としているので、回転軸63を含む回転機構6の重量は第2移動機構4から取り除くことができる。
【0133】
また、ロボット1では、
図2に示されるように、回転機構6の電動モータ65は、回転軸63に対して第2軸方向に配設され、回転伝達機構64を介して連結される。
このように構成されるロボット1では、第3軸方向において回転軸63と電動モータ65とを直結した場合に比較し、回転機構6の第3軸方向の寸法(ロボット1における高さ寸法)を小さくすることができる。電動モータ65はベース本体2上の空きスペースに配設される。このため、ロボット1の小型化を図ることができる。
【0134】
さらに、
図1に示される第1移動機構3及び第2移動機構4と、
図3に示される制御部10とを備えたロボット1の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムは、以下の工程を備える。第1移動機構3がベース本体2上においてワーク9を回転させる回転軸63を第1軸方向へ移動させる。第2移動機構4が第1軸方向に対して直交する第2軸方向へツール7を移動させる。回転軸63が第1軸方向及び第2軸方向に対して直交する第3軸方向を軸方向としてワーク9を回転させる。制御部10が、第1軸方向と第2軸方向との座標系において、回転軸63の軸中心位置CPとワーク作業位置WPとの距離Lの変化に反比例させて回転軸63の回転速度ωを制御する(
図4(A)及び
図4(B)参照)。
このように構成されるプログラムでは、第2移動機構4に発生する振動を効果的に抑制又は防止しつつ、ワーク作業におけるワーク作業条件が距離Lに関係無く一定となるので、ワーク作業の精度を一定に保持することができる。
【0135】
[第2実施の形態]
図22を用いて、本発明の第2実施の形態に係るロボット及びその制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムについて説明する。本実施の形態に係るロボット1は、5軸仕様の卓上ロボットとして構成されている。
なお、本実施の形態並びに後述する第3実施の形態において、第1実施の形態に係るロボット1の構成要素と同一又は実施的に同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0136】
図22に示されるように、本実施の形態に係るロボット1では、第3移動機構5の下端部に傾斜機構12が配設されている。傾斜機構12にはツール保持部71を介してツール7が保持されている。
傾斜機構12は、ここでは、第1軸方向であるX軸方向を回転軸方向(P軸方向)としてツール7を回転させ、傾斜させる構成とされている。なお、回転軸方向は第2軸方向であるY軸方向であってもよい。
【0137】
本実施の形態に係るロボット1では、傾斜機構12を備えた点が第1実施の形態に係るロボット1に対して相違するが、傾斜機構12以外の構成要素は第1実施の形態に係るロボット1の構成要素と同一である。また、本実施の形態に係るロボット1の制御方法並びに制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムは、第1実施の形態に係るロボット1の制御方法並びにプログラムと同一である。
【0138】
このように構成される本実施の形態に係るロボット1、制御方法並びにプログラムでは、第1実施の形態に係るロボット1、制御方法並びにプログラムにより得られる作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0139】
[第3実施の形態]
図23を用いて、本発明の第3実施の形態に係るロボット及びその制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムについて説明する。本実施の形態に係るロボット1は、第1実施の形態に係るロボット1と同様に、4軸仕様の卓上ロボットとして構成されている。
【0140】
図23に示されるように、本実施の形態に係るロボット1では、第2移動機構4が、正面側から見て、ベース本体2上の背面側左端部から上方へ向かって立設された支持部41を介して支持されている。つまり、第2移動機構4は片持ち支持梁構造により支持されている。
【0141】
本実施の形態に係るロボット1では、第2移動機構4が片持ち支持梁構造により支持されている点が第1実施の形態に係るロボット1に対して相違するが、この構造以外の構成要素は第1実施の形態に係るロボット1の構成要素と同一である。
また、本実施の形態に係るロボット1の制御方法並びに制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムは、第1実施の形態に係るロボット1の制御方法並びにプログラムと同一である。
【0142】
このように構成される本実施の形態に係るロボット1、制御方法並びにプログラムでは、第1実施の形態に係るロボット1、制御方法並びにプログラムにより得られる作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0143】
なお、本実施の形態に係るロボット1は、第2実施の形態に係るロボット1と組み合わせてもよい。すなわち、ロボット1は、片持ち支持梁構造を有する5軸仕様の卓上ロボットとして構成してもよい。
【0144】
[その他の実施の形態]
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。例えば、上記実施の形態では、主に卓上ロボットに本発明を適用した例を説明しているが、卓上ロボットに限らず、本発明は、広く産業用ロボットに適用可能である。
【符号の説明】
【0145】
1 ロボット
2 ベース本体
21 筐体
21A ベース面
22 操作装置
23 表示装置
24 信号入出力装置
3 第1移動機構
31、43 スライドレール
32 スライダ
35、45、55、65 電動モータ
4 第2移動機構
41、42 支持部
5 第3移動機構
6 回転機構
63 回転軸
64 回転伝達機構
7 ツール
71 ツール保持部
72 連結部
8 ワーク保持部
9 ワーク
10 制御部
101 中央演算処理ユニット
102 ロボット制御プログラム記憶装置
103 一時記憶装置
104 ポイント列記憶装置
105~108 モータ駆動制御装置
11 制御システム
12 傾斜機構