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特許7349818時計のための自動始動するかつ安定化させた戻止脱進機
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】時計のための自動始動するかつ安定化させた戻止脱進機
(51)【国際特許分類】
   G04B 15/08 20060101AFI20230915BHJP
【FI】
G04B15/08
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019097674
(22)【出願日】2019-05-24
(65)【公開番号】P2019203894
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】00664/18
(32)【優先日】2018-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】510283546
【氏名又は名称】マニュファクチュア・ドーロジュリー・オードゥマール・ピゲ・エスアー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イラン・ヴァルディ
(72)【発明者】
【氏名】シモン・エナン
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・マテ
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-164599(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第1122617(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 15/00 - 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計ムーブメントに一体化されるように構成されかつ上記時計ムーブメントのエネルギー源に由来するトルクを前記時計ムーブメントの振動調整機構に伝達するように構成された時計戻止脱進機であって、
前記ムーブメントの前記調整機構が、第1可動体(1)を備え、
当該脱進機が、第2可動体(2)と、雁木車(3)と、を備え、
前記第1可動体(1)が、第1及び第2ドテ(4.1、4.2)によって各別に画成された第1または第2位置で前記第2可動体(2)を停止させることができることによって、前記第2可動体(2)と協働し、
前記第2可動体(2)が、前記第1及び第2ドテに達して支えられ、
前記雁木車(3)が、前記調整機構の振動それぞれの半段階中に、直接衝撃によって前記調整機構にトルクを伝達させるように配設されており、
前記第2可動体(2)が、間接衝撃手段(2.6)を備え、
前記間接衝撃手段が、当該脱進機の通常機能中の前記調整機構の全振動中に、前記雁木車(3)と接触しない一方で、前記調整機構の振動それぞれの他の半段階中に前記雁木車と接触するように、配設されており、
前記他の半段階中において、前記雁木車(3)が、当該雁木車(3)を用いた直接衝撃によって前記調整機構にトルクを伝達しておらず、そのため、前記時計ムーブメントの故意でない運動または故意ない停止に続いて、前記第2可動体(2)を介した間接衝撃によって前記時計ムーブメントの前記調整機構にトルクを伝達していることを特徴とする時計戻止脱進機。
【請求項2】
前記エネルギー源が、香箱ゼンマイによって形成されており、
前記調整機構が、テンプによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の時計戻止脱進機。
【請求項3】
前記時計ムーブメントの前記調整機構の前記第1可動体(1)が、前記テンプの軸(1.1)によって支持されたローラ(1.2)によって形成されていることを特徴とする請求項2に記載の時計戻止脱進機。
【請求項4】
当該脱進機の前記第2可動体(2)には、角度付き運動または矩形状運動が付与されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の時計戻止脱進機。
【請求項5】
当該脱進機の前記第2可動体(2)が、アンクル(2)によって形成されており、
前記ローラ(1.2)が、前記アンクル(2)と協働するように構成されていることを特徴とする請求項3に従属する請求項4に記載の時計戻止脱進機。
【請求項6】
前記間接衝撃手段が、前記第2可動体(2)、すなわち前記アンクル(2)の回動軸に十分に近接して位置する間接衝撃爪石(2.6)によって、特に出止アンクル位置(2.5)を支持する前記アンクル(2)の腕体の第1半体であって前記回動軸に近接する第1半体に位置する間接衝撃爪石(2.6)によって、形成されていることを特徴とする請求項5に記載の時計戻止脱進機。
【請求項7】
前記間接衝撃爪石(2.6)が、低摩擦かつ低摩耗材料から形成されていることを特徴とする請求項6に記載の時計戻止脱進機。
【請求項8】
前記間接衝撃爪石(2.6)が、ルビーまたはサファイアから形成されていることを特徴とする請求項7に記載の時計戻止脱進機。
【請求項9】
前記雁木車(3)が、13から19の範囲にある数の歯を備えることを特徴とする請求項5から8のいずれか1項に記載の時計戻止脱進機。
【請求項10】
前記ローラ(1.2)によって形成された前記第1可動体(1)が、内壁(1.2.1.1)及び外壁(1.2.1.2)を有するスカート(1.2.1)によって囲まれた円形プレートを備え、
前記スカート(1.2.1)が、前記第2可動体(2)に固定された指体(2.2.3)が横断するように配設された切欠(1.2.1.3)を有し、
前記第2可動体(2)が、当該第2可動体が前記第1ドテ(4.1)に支えられておりかつ当該第2可動体の前記指体(2.2.3)が前記スカート(1.2.1)の前記内壁(1.2.1.1)に隣接すると、前記第1位置に停止され、当該第2可動体が前記第2ドテ(4.2)に支えられておりかつ当該第2可動体の前記指体(2.2.3)が前記スカート(1.2.1)の前記外壁(1.2.1.2)に隣接すると、前記第2位置に停止されることを特徴とする請求項5から9のいずれか1項に記載の時計戻止脱進機。
【請求項11】
前記第2可動体(2)が、前記指体(2.2.3)のほぼ反対側の方向に方向付けられた少なくとも1つの安定化案内面を備え、そのため、当該時計戻止脱進機の機能段階であって当該第2可動体(2)に取り付けられた前記指体(2.2.3)が前記第1可動体(1)の前記スカート(1.2.1)の前記切欠(1.2.1.3)を横断する機能段階中に当該第2可動体(2)を安定化させることを特徴とする請求項10に記載の時計戻止脱進機。
【請求項12】
前記安定化案内面が、前記雁木車(3)による前記テンプ(1)の衝撃段階中に、当該時計戻止脱進機の前記雁木車(3)の軌道の外側周辺にあるように配設されかつ位置付けられており、そのため、前記第2可動体(2)、すなわち前記アンクル(2)を安定化させるために前記雁木車(3)と接触することができ、故意でない運動に続いて前記第2可動体が前記雁木車(3)の軌道上を戻ることを防止することを特徴とする請求項11に記載の時計戻止脱進機。
【請求項13】
前記テンプ(1)へ直撃を直接伝達する雁木車(3)を備える直接衝撃型脱進機であることを特徴とする請求項2に従属する請求項3から12のいずれか1項に記載の時計戻止脱進機。
【請求項14】
ロビン式脱進機であることを特徴とする請求項13に記載の時計戻止脱進機。
【請求項15】
エネルギー源、調整機構(1)、脱進機及びトレインを備える時計ムーブメントであって、
前記脱進機が、請求項1から14のいずれか1項に記載の時計戻止脱進機であることを特徴とする時計ムーブメント。
【請求項16】
計であって、
請求項1から14のいずれか1項に記載の時計戻止脱進機、または、請求項15に記載の時計ムーブメントを備えることを特徴とする時計。
【請求項17】
クロノグラフを有するウォッチまたはスプリットタイムカウンタを有するウォッチであることを特徴とする請求項14に記載の時計。
【請求項18】
腕時計であることを特徴とする請求項16または17に記載の時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、戻止タイプの時計の脱進機に、並びに、このような脱進機を備える時計ムーブメント及び時計、特に機械式腕時計に、関する。より詳しくは、本発明は、時計戻止脱進機に関し、この時計戻止脱進機は、時計ムーブメントに一体化されるように構成されかつ上記時計ムーブメントのエネルギー源に由来するトルクを上記時計ムーブメントの振動調整機構に伝達させるように構成されており、時計ムーブメントの調整機構は、第1可動体を備え、脱進機は、第2可動体及び雁木車を備え、上記第1可動体は、第1及び第2ドテ(banking)によって各別に画成された第1または第2位置に第2可動体を停止させることができることによって、第2可動体と協働し、上記第2可動体は、これら第1及び第2ドテに達し、当接して支えられ、上記雁木車は、調整機構の各振動の半段階に直接衝撃によって上記調整機構にトルクを伝達させるように構成されている。
【背景技術】
【0002】
脱進機が時計ムーブメントの重要な要素のうちの1つである状態で、様々なタイプの多数の時計脱進機は、存在する。一般的に、機械式腕時計の範囲内には、ムーブメントの振動する調整機構すなわちテンプが脱進機の一部と絶えず接触する一群の永久接触脱進機と、ロック解除及び衝撃中を除いてテンプが脱進機と接触していない一群の自由脱進機(free escapement)と、が存在する。
【0003】
前掲の一群の自由脱進機自体には、複数のタイプの脱進機がある。とりわけ、この一群には、スイスレバー式脱進機があり、この脱進機は、機械式ムーブメントを有する腕時計で現在使用されている時計脱進機の大半を占めている。当業者は、このタイプの脱進機の構成部材の及び機構の完全な知識を有しており、このタイプの脱進機を図1aに示しており、そのために、構造、機構及び対応する用語をここでは示していない。同様に、当業者は、時計学においてアンクルcの用語「ドテ越え(overbanking)」として知られていることを防止するために、スイスレバー式脱進機には通常「保護ピン」gと称される部品が備え付けられており、このドテ越えは、テンプの、すなわち対応する時計の即時の停止をもたらす。保護ピンがないと、このような脱進機のアンクルのドテ越えは、脱進機が機能している間の特定の段階中に、すなわち、例えばアンクルcをこれらアンクルの目標位置から分離させてアンクルを他方の制限ドテeに時期尚早に当接させる震動に続いて、テンプが補助円弧にわたって移動してアンクルcが制限ドテの一方または他方に当接して位置している間に、発生し得、そのため、テンプの衝撃ローラiのピンtは、切欠にはもはや合わないが、アンクルcのクワガタfのツノの一方の背後に偶発的に合い、その結果、テンプの迅速な停止を招く。レバー式脱進機のクワガタfの端部にあるブロックに固定された小さな金属ピンである保護ピンgを用いることにより、保護ピンgがテンプjの軸によって支持された小ツバhと協働しかつテンプの補助振動円弧中にクワガタfの偶発的な変位を防止することに起因して、この問題を回避することが可能となる。これら幾何形状の制約に起因して、スイスレバー式脱進機は、震動に対して相当良好に安定化されており、腕時計で使用されるのに特に良好に役立つ。
【0004】
一群の自由脱進機は、同様に、戻止脱進機と称する脱進機を有し、この戻止脱進機は、図1bに概略的に示されており、時間測定法の観点から最良の脱進機として考えられている。戻止脱進機の原理が長期にわたって公知であるので、本明細書は原理を繰り返さないが、本発明及びその内容の理解を促進するために再述することは、アンクルを用いて衝撃を雁木車からテンプへ伝達させる一群の間接衝撃型脱進機に属する上述したスイスレバー式脱進機とは異なり、直接衝撃型脱進機に関すること、である。戻止脱進機において、端的に、雁木車fの歯は、止石と称されかつ戻止bと称されるゼンマイによって支持されている宝石に支えられており、雁木車の延長部は、排出アンクルcの作動範囲内に位置しており、排出アンクルは、テンプが振動する度に雁木車のロック解除を動作させ、それにより、雁木車fの歯は、止石aから離れ、衝撃ローラdによって支持されている衝撃アンクルeに作用する雁木車の別の歯は、テンプに衝撃を与える。したがって、衝撃は、雁木車によってテンプに直接伝達され、その結果、いくつかの利点を有する。これら利点には、とりわけ、(a)振動期間あたりにテンプを2回阻害するスイスレバー式脱進機と比較して、振動期間あたりに単一のみの衝撃があることを考えると、脱進機がテンプをあまり阻害しないことが含まれる。すなわち、戻止脱進機は、当業者が用語「単一拍」、すなわち、半振幅には衝撃がないとして知っていることを有する。直接衝撃型脱進機は、同様に、(b)効率の損失を伴うアンクルのような補助構成部材を介して送ることなく雁木車からテンプへ衝撃を直接伝達させることに起因して、良好な効率を有する。また、(c)衝撃を雁木車の中心とテンプの中心とを繋ぐ線に直交する方向に沿って衝撃を行うという、かつ、アンクルレベルで伝達される衝撃がないことにより、衝撃中の摩擦及びぶつかる危険性を低減し、それにより、潤滑油の必要性を排除する。さらに、(d)単一拍が存在することにより、振動子の死点に関して振動によって単一衝撃の位置を正確に設定することが可能となり、半振動中の死点前または死点後に衝撃の位置を設定することが他の半振動中の衝撃の位置を設定することを誤ることを招くことから、この単一衝撃は、振動期間あたり2つの衝撃を有するスイスレバー式脱進機で可能ではない。また、(e)図1bに示す戻止脱進機は、アンクルを有しておらず、したがって、スイスレバー式脱進機と比較して一定の機械的簡素性を有する。これら利点すべては、間接衝撃型脱進機と比べれば直接衝撃型脱進機のより良好な精度及びより大きな自律性という結果をもたらし、そのために、戻止脱進機の、すなわち直接衝撃を用いた産業上利用可能性は、時計産業にとって興味深い。しかしながら、戻止脱進機は、主要な欠点、すなわち、震動の影響を最小化するために幾何形状的に制限されない欠点、を有する。戻止脱進機が特に海洋クロノメーターで約2世紀にわたって使用されているが、戻止脱進機によって振動調整機構に付与される自由度は、そのまま腕時計で使用され得ないという結果を有する。
【0005】
このために、腕時計に関する一定のその利点を維持するために、戻止脱進機の原理を使用した様々な変形例を過去において実現されていた。過去に想定された解決手法の一部を挙げると、ロビン式脱進機を挙げ得、これは、本出願の出願人によって実現されたように安定している。ロビン式脱進機の原理が1791年から公知であるので、原理を本明細書では説明しないが、再述することは、図1cに概略的に示すように、このロビン式脱進機が、同様に、戻止バネをアンクルに置換した直接衝撃型脱進機に関していること、である。図1cに示すロビン式脱進機が戻止脱進機の上述した利点(a)から(d)を有するが、述べなければならないことは、ロビン式脱進機のアンクルが十分には制約されておらず、そのため、ロビン式脱進機が震動時において安定化されておらず、したがってアンクル自体がそのまま腕時計で役には立たないこと、である。また、ロビン式脱進機のような単一拍型脱進機の自動再始動、すなわちもっぱら外部励起なく雁木車のトルクの作用を受けた自動再始動が不可能であるので、対応するムーブメントの故意でない停止は、結果として、このような脱進機が備え付けられた時計の長期にわたる全停止を招き得る。実際には、単一拍が原因で、不動のテンプが雁木車を解放できないために、自動始動が不可能である静止位置で停止する可能性があることから、香箱ゼンマイが完全にバネ力を放出させた停止後における自動始動は、このタイプの脱進機では保証されていない。
【0006】
ロビン式脱進機を震動に対する安定化の問題を緩和させるため、本願の出願人は、ロビン式脱進機を2000年に開発しており、以降、AP脱進機と称され、この脱進機は、特許文献1の明細書で詳述されているように、震動に対して安定化されており、この特許文献1の内容は、参考として本明細書に組み込まれる。上記特許文献1の技術的指導全体を文字通り繰り返さずに本発明の内容の理解を促進するために、留意することは、特許文献1にかかる時計脱進機における重要な関心が、スイスレバー式脱進機の保護ピンに替えてロックデバイスをロビン式脱進機に付与することによって、産業上利用可能な腕時計のためのロビン式脱進機を提供すること、である。実際には、上述した従来の保護ピンを使用することは、アンクルの十分に大きな角度軌跡を有するレバー式脱進機においてのみ可能である。しかしながら、特許文献1で詳述したように、アンクルの角度軌跡がより小さいロビン式脱進機には該当しない。特許文献1にかかる発明によれば、ロビン式脱進機を産業上利用可能に提供すること、及び、特定のロックデバイスを提案することによって腕時計に組み込むこと、が可能となり、このロックデバイスは、従来の保護ピンと同じ機能を満たすが、従来の保護ピンとは異なり、スイスレバー式脱進機におけるよりも角度軌跡が小さいアンクルの場合においても使用されるように構成されている。図1dに概略的に示すように、この特定のロックデバイスは、テンプの小ツバの陥凹と協働する従来の保護ピンを、保護ピンの端部のうちテンプに向けて方向付けられた端部を改良した保護ピン2.2で置換しており、この端部において、保護ピンは、テンプの円形プレート1.2に備え付けられかつ内壁1.2.1.1及び外壁1.2.1.2を有するスカート1.2.1と協働するように構成された指体2.2.3を有し、上記スカートは、上記指体2.2.3が横断するように構成された切欠1.2.1.3を有する。すなわち、従来の保護ピンとテンプの小ツバの対応する陥凹とによって形成され、テンプの軸に垂直な平面で単独で動作する簡素なピンは、改良した保護ピン並びに上記スカートの内壁及び外壁の長手方向の範囲の方向に対して直交する態様で取り付けられた指体で置換されており、この指体は、切欠を有し、これら部品は、テンプの軸に平行な平面のような垂直な平面において複雑な幾何形状及び動作を有する。このステップは、このようなロックデバイスを同様に直接衝撃型脱進機、特にロビン式脱進機と組み合わせて使用することを許容し、2000年以降、本願の発明者が機械式腕時計でロビン式脱進機を大量生産して市場に出すことを可能としている。さらに、特許文献2で詳述したように、本願の出願人は、2016年にロビン式脱進機の震動に対する安定化をさらに改善しており、この特許文献2の内容は、参考として本明細書に組み込まれる。端的に、改良は、上記特定のロックデバイスに、すなわち改良した保護ピンであってこの改良した保護ピン自体をロビン式脱進機で使用することに役立つ改良した保護ピンに、故意でない運動の後にアンクルが雁木車の軌道に戻ることを防止するように構成されかつ位置付けられた安定化案内面を一体化すること、にある。図1dに示すAP脱進機が、AP脱進機の改良した変形例及びロビン式脱進機と同様に、戻止脱進機の上述した利点(a)から(d)を有している、特に、潤滑油を必要としていないが、留意すべきことは、震動に対する安定化とは無関係であるというロビン式脱進機の欠点をこのAP脱進機が示していること、特に、香箱ゼンマイが完全にバネ力を放出した停止後の自動始動が常には保証されないこと、である。また、特許文献2で言及したように、かつ、特許文献1にかかるAP脱進機の全体に良好な機能にもかかわらず、2000年版のAP脱進機には、使用する部品の非常にぎりぎりの機械的許容誤差に起因して、保護ピンの指体と上記特定のロックデバイスとの間の衝突が発生し得るいくつかの稀な配置(constellation)が存在し、この問題は、上記安定化案内面を一体化することによって低減される。
【0007】
戻止脱進機の原理を使用してそのため腕時計に関するこの戻止脱進機の利点の一部を維持する別の解決法は、図1eに概略的に示さるように、径方向二重衝撃型脱進機と称する脱進機を考案した時計師George Danielsによって実現されている。この脱進機は、ロビン式脱進機に対応しているが、単一拍型脱進機において振動ごとに欠損している拍は、アンクルに中心に位置付けられた第3爪石Lを用いて実現された間接衝撃によって置換されており、この第3爪石は、ピンRを用いてテンプにトルクを伝達させる。衝撃は、径方向であり、したがって、原則的に、潤滑を必要とせず、単一拍の抑制は、原則的に、単一拍型脱進機の自動始動に関する問題を緩和させなければならず、そのため、この脱進機は、戻止脱進機の一定の利点を維持しつつロビン式脱進機の一定の欠点を回避する。他方、この径方向二重衝撃型脱進機の幾何形状は、アンクルの中心に位置付けられた第3爪石がアンクルの腕体の空間開口部及びテンプの傾斜角度に相当する30°という非常に大きな回転角度を必要とするという事実に起因して、非常に特有である。そのため、入爪及び出爪は、雁木車の円に対して直交しておらず、これにより、ロック解除に対する抵抗を増加させている。また、この脱進機は、雁木車がアンクルに当接して支えられているときに自動始動しない。径方向二重衝撃型脱進機の問題を緩和させるため、George Danielsは、とりわけ、以下で「同軸脱進機」と称されかつ図1fに概略的に示される脱進機をさらに開発した。径方向二重衝撃型脱進機に対する同軸脱進機の主な差異は、雁木車において第2レベルの歯の導入が雁木車の通常の歯に対して同心であり、したがって「同軸」と称される。雁木車の内側列の歯は、間接衝撃の幾何形状を容易にするためにのみ存在しており、それ以外は、同軸脱進機の機能は径方向二重衝撃型脱進機の機能と同じであり、そのため、同軸脱進機は、同様に、ロビン式脱進機とみなされ得る。この新規の幾何形状により、アンクルの腕体は、同様に、入爪及び出爪が雁木車の円に対して直交することを許容する幾何形状を有し、そのため、同軸脱進機の腕体の幾何形状は、もはやロック解除に不利益を及ぼさない。しかしながら、第2レベルの同軸歯によって形成された補助車を追加することは、複雑性を増加させ、雁木車に重量を追加し、この重量増は、ロック解除に続く雁木車の加速に不利益を及ぼす。また、この脱進機を工業化することは、明らかに潤滑油を必要とし、この潤滑油は、戻止脱進機、すなわちロビン式脱進機を使用する元の動機に反しており、そのため、原則的に、このレベルにおける潤滑油を抑制することを許容する。
【0008】
ところで、戻止脱進機、すなわちロビン式脱進機を機械式腕時計に組み込むために過去に想定されたこれら様々な解決法の不完全な検討に続き、明らかなことは、これら脱進機を改善する可能性が依然としてあること、であり、これら脱進機の製造は、比較的複雑でまたコストがかかり、これら脱進機は、クロノグラフ機構が備え付けられた腕時計のような非常に高級な時計に組み込むことに関して通常控えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許第1122617号明細書
【文献】スイス国特許第712288号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
その結果、本発明の目的は、上述した欠点を少なくとも部分的に緩和すること、及び、単一拍型脱進機の自動始動の問題を緩和することによって、これら脱進機の機能の安定性をさらに改善することによって、同様に、工業的な大量生産に関して実現可能性を保証することによって、戻止脱進機の上述した利点を維持しつつ、戻止脱進機、好ましくはロビン式脱進機、特に好ましくは特許文献1で、または特許文献2で説明したタイプの脱進機を提供すること、である。また、本発明の目的は、頑丈であり使用中に可能な限り簡素でありかつ信頼性を有する構造によってこのような脱進機を実現すること、である。解決法は、ロビン式脱進機に組み込むことに適合されるべきであるが、他の同様の時計機構にも脱進機の使用を許容すべきである。本発明の別の目的は、このような脱進機を備える時計ムーブメント及び時計を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このために、本発明は、請求項1で説明した特徴によって識別された上述したタイプの脱進機を提案する。特に、提案した脱進機の第2可動体は間接衝撃手段を備え、この第2可動体は、脱進機の通常機能中の調整機構の全振動において雁木車と接触せず、一方で、調整機構の振動それぞれの他の半段階であってこの半段階において雁木車が直接衝撃によって調整機構へトルクを伝達させない半段階中に雁木車と接触でき、そのため、時計ムーブメントの故意でない移動または故意でない停止に続いて、第2可動体を介した間接衝撃によって時計ムーブメントの上記調整機構へトルクを伝達させるように、構成されかつ位置付けられている。好ましくは、エネルギー源は、香箱ゼンマイによって形成されており、調整機構は、テンプによって形成されており、上記第1可動体は、テンプの軸によって支持されたローラによって形成されており、上記第2可動体は、アンクルによって形成されており、上記間接衝撃手段は、アンクルの回動軸に十分に近接して位置する間接衝撃爪石によって形成されている。好ましい形成において、雁木車は、13から19の範囲にある数の歯を備える。
【0012】
時計ムーブメントの故意でない移動または故意でない停止に続いて、かつ、テンプの振動の半段階であってこの半段階において雁木車が直接衝撃によってテンプにトルクを伝達させない半段階中に、上記間接衝撃爪石が雁木車と接触してアンクルを介した間接衝撃によってテンプにトルクを伝達させることから、これらステップによって、脱進機は、戻止脱進機の上述した利点を有するが、単一拍型脱進機の自動始動に関する問題を示さない。このため、ムーブメントの故意でない停止時における自動始動を保証する。また、これにより、間接衝撃爪石を一体化することによってスカートの外側に保護ピンの指体が出る間に関与する部品の許容誤差を緩和することを許容するので、特にAP脱進機の場合において、脱進機の機能の安全性をさらに改善することを許容し、このような許容誤差の緩和により、上記指体とロックデバイスの上記スカートとの間の衝突が発生し得る配置を回避することが可能となる。さらに、このような間接衝撃爪石は、同様に、他のタイプのレバー式脱進機に一体化され得、そのため、本発明は、複数のタイプの時計に適用され得る。
【0013】
他の特徴及び対応する利点は、従属請求項から、及び、以下で本発明をさらに詳細に説明する説明から、明らかになる。
【0014】
添付の図面は、従来技術及び本発明の実施形態を概略的にかつ例として示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1a】従来技術にかかる様々な脱進機を示す概略的に示す図であって、スイスレバー式脱進機を示す斜視図である。
図1b】従来技術にかかる様々な脱進機を示す概略的に示す図であって、戻止脱進機を示す上面図である。
図1c】従来技術にかかる様々な脱進機を示す概略的に示す図であって、ロビン式脱進機を示す上面図である。
図1d】従来技術にかかる様々な脱進機を示す概略的に示す図であって、特許文献1にかかる脱進機を示す上面図である。
図1e】従来技術にかかる様々な脱進機を示す概略的に示す図であって、径方向二重衝撃型脱進機と称する脱進機を示す上面図である。
図1f】従来技術にかかる様々な脱進機を示す概略的に示す図であって、同軸脱進機を示す上面図である。
図2a】脱進機の機構が正常に行われているときの特許文献1にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図2b】脱進機の機構が正常に行われているときの特許文献1にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図2c】脱進機の機構が正常に行われているときの特許文献1にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図2d】脱進機の機構が正常に行われているときの特許文献1にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図2e】脱進機の機構が正常に行われているときの特許文献1にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図2f】脱進機の機構が正常に行われているときの特許文献1にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図2g】脱進機の機構が正常に行われているときの特許文献1にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図2h】脱進機の機構が正常に行われているときの特許文献1にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図2i】脱進機の機構が正常に行われているときの特許文献1にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図2j】脱進機の機構が正常に行われているときの特許文献1にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図3】本発明にかかる脱進機を示す概略上面図である。
図4a】脱進機の機構が正常に行われているときの本発明にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図4b】脱進機の機構が正常に行われているときの本発明にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図4c】脱進機の機構が正常に行われているときの本発明にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図4d】脱進機の機構が正常に行われているときの本発明にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図4e】脱進機の機構が正常に行われているときの本発明にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図4f】脱進機の機構が正常に行われているときの本発明にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図4g】脱進機の機構が正常に行われているときの本発明にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図4h】脱進機の機構が正常に行われているときの本発明にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図4i】脱進機の機構が正常に行われているときの本発明にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図4j】脱進機の機構が正常に行われているときの本発明にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図である。
図5】時計ムーブメントの故意でない運動または故意でない停止に続いて脱進機の機構が正常に行われていないときの本発明にかかる脱進機の機構の主要段階を示す概略上面図であって、この場合において、間接衝撃手段が、雁木車と接触して第2可動体を介した間接衝撃によって調整機構へトルクを伝達させる、概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
例として本発明の実施形態を示す添付の図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明は、時計に、好ましくは腕時計に一体化されることを意図した脱進機に関する。使用する用語を簡略化するために、以下では、「時計(timepiece)」及び「腕時計(watch)」を無差別に参照するが、任意のタイプの時計に及ぶ対応する説明の範囲を制限しない。特に、本発明にかかる脱進機は、直接衝撃型脱進機、特にロビン式脱進機であり、本発明は、特に好ましい態様において、特許文献1にまたは特許文献2に記載されたような脱進機によって実現される。以下の説明が特許文献1で説明した脱進機に本発明を一体化した具体的な場合のみを詳述しているが、他のタイプの脱進機を本発明と組み合わせて使用することは、可能であり、以下の説明は、類推によって、任意のタイプの戻止脱進機に、すなわち任意のタイプの直接衝撃型脱進機に及び様々なタイプのレバー式脱進機に、拡張する。
【0018】
本発明の内容をより理解することを可能とするために、以下の説明は、特許文献1にかかる脱進機の構造及び機構を簡潔に再述する。特許文献1に記載された一般的なレバー式脱進機及び直接衝撃型脱進機が当業者に公知であることから、説明のこの部分を本発明の内容に関連する事項まで可能な限り制限する。同様に、本明細書では、特許文献1で使用された用語も可能な限り使用する。
【0019】
図1dは、特許文献1にかかる脱進機を示す上面図であり、この図は、その構造をより容易に理解することを可能とする。この脱進機は、総称で、第1可動体1及び第2可動体2を有する。第1可動体1は、軸1.1回りに回転し、第1及び第2ドテ4.1、4.2それぞれによって画成された第1または第2位置で第2可動体2を停止させることができ、上記第2可動体2は、これら第1及び第2ドテに達し、当接して支えられる。第1可動体1は、内壁1.2.1.1及び外壁1.2.1.2を有するスカート1.2.1によって囲まれた円形プレート1.2によって、ローラによって実現されており、上記スカート1.2.1は、第2可動体2に固定された指体2.2.3が横断するように構成された切欠1.2.1.3を有する。特許文献1においてさらに詳細に説明されて、この点に関して特許文献1を参照するように、第2可動体2には、矩形状運動が付与され得、そのため、第2可動体の指体2.2.3は、回転する第1可動体1に対して常に径方向に移動し、この構成は、図面に示されていない、または、第2可動体2には、回動中心2.1の周囲に連節されることによって角度付き運動が付与され得、回動中心2.1は、指体が上記スカート1.2.1の切欠1.2.1.3を横断するときに第2可動体の指体2.2.3が同様に第1可動体1に対してほぼ径方向に移動するように選択されている。これら2つの変形は、本発明に関する機能レベルにおいて同等であり、この後者の構成のみを以下で詳述しかつ図面に示す。すべての場合において、第2可動体2は、第2可動体が第1ドテ4.1に支えられて第2可動体の指体2.2.3がスカート1.2.1の内壁1.2.1.1に隣接すると、第1位置で停止され、第2可動体は、第2可動体が第2ドテ4.2に支えられて第2可動体の指体2.2.3が上記スカート1.2.1の外壁1.2.1.2に隣接すると、第2位置で停止される。このデバイスの構造的な性質のさらなる詳細については、特許文献1を参照されたい。
【0020】
一連の図2aから図2jを参照しながら、特許文献1にかかる脱進機の機構を簡潔に以下で説明し、これら図2aから図2jは、特許文献1にかかるロックデバイスが備え付けられたロビン式脱進機の機構における10の主要段階を各位置において上面図で概略的に示しており、段階それぞれは、対応する運動の開始時において示されている。この場合において、脱進機のテンプは、回転する可動体1として機能し、アンクルは、第2可動体2として機能する。図2aから図2jにおいて、図1dにおけるように、テンプ1は、その全体が示されていないが、スカート1.2.1によって囲まれた小さい円形ローラ1.2によって示されており、この円形ローラは、テンプ1の軸1.1と同軸に一体化されており、テンプは、同様に、図面に示されていない衝撃ローラを支持しており、このテンプは、同様に、軸1.1と同軸に一体化されており、直接衝撃型爪石1.3及びピン1.4を備える。さらに、回動中心2.1回りに回動する態様で備え付けられたアンクル2は、特許文献1に記載されているように、アンクル2の上記指体2.2.3を支持する保護ピン2.2と、上記ピン1.4と協働するクワガタ2.3と、当業者に周知の態様で雁木車3と協働する入止爪石2.4及び出止爪石2.5と、を有する。雁木車は、同様に、衝撃をテンプ1へ直接伝達させるために、上記直接衝撃型爪石1.3と協働する。レバー式脱進機について上記で使用した用語及びこれら部品の有用な機能は、当業者に公知である。
【0021】
図2aは、「入止解除」と一般に称される段階中における特許文献1にかかるロックデバイスを備え付けたロビン式脱進機を上方から見た図を示しており、この段階において、雁木車3の歯は、アンクル2の入止爪石2.4に支えられており、それにより、雁木車3は、回転できない。テンプ1は、図2aにおいて上方から見ると、反時計回り方向でテンプの半振動の開始にあり、テンプの衝撃ローラにあるピン1.4は、アンクルを押すためにアンクル2のクワガタ2.3に係合し、これらアンクルは、第1ドテ4.1に支えられていること及びアンクルの指体2.2.3がテンプ1の小ツバにおけるスカート1.2.1の内壁1.2.1.1に隣接していることに起因して第1位置にロックされており、それにより、アンクル2の入止爪石2.4を入止爪石に支えられている雁木車3の歯からロック解除する。この運動は、上記スカート1.2.1に配設された切欠1.2.1.3を所定位置に至らせるテンプ1を回転させることによって可能とされ、この位置により、指体2.2.3は、切欠を横断することが可能となり、そのため、指体2.2.3は、後続の段階中に、スカート1.2.1の内壁1.2.1.1から外壁1.2.1.2へ通過する。様々な部品の運動は、対応する矢印によって図2aから図2jにおいて象徴化されている。
【0022】
図2bは、「衝撃ドロップ」と称される段階中の脱進機を再び上方から見て示しており、この段階において、テンプ1の衝撃ローラにあるピン1.4は、アンクル2を十分に遠くに押しており、そのため、雁木車3の歯であって以前はアンクル2の入止爪石2.4に支えられていた歯は、解放され、そのため、雁木車3は、対応する時計の歯車列によって伝達された香箱のゼンマイの駆動力の影響を受けて、依然として上方から見て時計回り方向で回転する。
【0023】
図2cは、「衝撃」と称される段階中の脱進機を上方から見て示しており、この段階において、雁木車3は、香箱のゼンマイの駆動力の影響を受けて、脱進機の歯がテンプ1の衝撃ローラに固定された直接衝撃型爪石1.3に接触する点まで、回転し、そのため、テンプの振動を維持するために、衝撃をテンプ1へ直接伝達させる。この運動中に、テンプ1の衝撃ローラにあるピン1.4は、アンクル2を時計回り方向で押し続ける。
【0024】
図2dは、「入口ドロップ」と称される段階中の脱進機を上方から見て示しており、この段階において、アンクル2は、時計回り方向で十分に回転しており、そのため、アンクル2の出止爪石2.5は、雁木車3の歯の軌道に進入する。このため、雁木車は、雁木車の歯のうちの1つがアンクル2の上記出止爪石2.5に係合するまで、雁木車の回転を続け、このため、雁木車3は、再び停止され、一方で、上からから見て、テンプ1及びアンクル2は、反時計回り方向でこれらテンプ及びアンクルの半振動を続け、テンプ及びアンクルそれぞれは、反時計回り方向で回動する。
【0025】
図2eは、「入口ズレ(entry backlash)」と称する段階中の脱進機を上方から見て示しており、この段階において、雁木車3は、有効に停止されており、雁木車の歯の1つは、アンクル2の出止爪石2.5に支えられており、一方で、上方から見て、テンプ1及びアンクル2は、依然として、反時計回り方向でこれらテンプ及びアンクルの半振動を続ける、すなわち、時計回り方向で回動する。
【0026】
図2fは、「出止」と称する段階中の脱進機を上方から見て示しており、この段階において、雁木車3は、アンクル2の出止爪石2.5によって依然として停止されており、アンクルは、テンプ1の小ツバにおけるスカート1.2.1の外壁1.2.1.2に隣接している第2ドテ4.2及びアンクルの指体2.2.3に支えられているので、今、第2位置で停止している。順に、テンプ1は、反時計回り方向でのテンプの半振動の死点に位置する。
【0027】
図2gは、「出止解除」と称する段階中の脱進機を上方から示しており、この段階において、機能ステップの開始において、雁木車3の歯は、アンクル2の出止爪石2.5に支えられており、そのため、雁木車3は、まだ回転できない。テンプ1は、図2gに従って上方から見て、時計回りでのテンプの半振動の開始にあり、テンプの衝撃ローラにあるピン1.4は、他方向でアンクル2のクワガタ2.3に係合し始め、アンクルを押し、アンクルは、上述のように、テンプ1の小ツバにおけるスカート1.2.1の外壁1.2.1.2に隣接する第2ドテ4.2及びこのアンクルの指体2.2.3に支えられているので、上方から見て反時計回り方向で、第2位置で停止して位置しており、そのため、アンクル2の出止爪石2.5をこの出止爪石に支えられている雁木車3の歯からロック解除する。この運動は、テンプ1の回転によって可能とされており、このテンプは、上記スカート1.2.1に配設された切欠1.2.1.3を指体2.2.3が切欠を横断することを可能とする位置へ至らせ、そのため、指体2.2.3は、後続のステップ中に、スカート1.2.1の外壁1.2.1.2から内壁1.2.1.1に戻るように通過する。
【0028】
図2hは、「出ドロップ」と称する段階中の脱進機を上方から示しており、この段階において、テンプ1の衝撃ローラにあるピン1.4は、アンクル2を十分に遠くへ押しており、そのため、アンクル2の出止爪石2.5に以前支えられていた雁木車3の歯は、解放され、そのため、雁木車3は、対応する時計の歯車列によって伝達された香箱のゼンマイの駆動力の影響を受けて、上方から見て、時計回り方向で回転する。この運動中において、テンプ1は、時計回り方向でテンプの半振動を続け、テンプ1の衝撃ローラにあるピン1.4は、反時計回り方向でアンクル2を押し続け、そのため、アンクル2の入止爪石2.4は、雁木車3の歯の軌道に再び進入する。このため、テンプは、テンプの歯のうちの1つがアンクル2の上記入止爪石2.4に係合するまで、テンプの回転を続け、その後、雁木車3は、再び停止される。この段階中において、テンプ1が時計回り方向でのテンプの半振動を実行するときに雁木車3の歯がテンプに接触しないように直接衝撃型爪石1.3が衝撃ローラに配設されかつ位置しているので、雁木車3は、テンプ1に衝撃を伝達しない。
【0029】
図2iは、「出ズレ(exit backlash)」と称する段階中の脱進機を上方から示しており、この段階において、雁木車3は、有効に停止されており、雁木車の歯のうちの1つは、アンクル2の入止爪石2.4に当接して支えられており、一方で、テンプ1及びアンクル2は、上方から見て、依然として反時計回り方向でこれらテンプ及びアンクルの半振動、すなわち反時計回り方向での回動を続ける。
【0030】
図2jは、「入止」と称する段階中の脱進機を上方から示しており、この段階において、雁木車3は、アンクル2の入止爪石2.4によって依然として停止されており、アンクルは、第1ドテ4.1とテンプ1の小ツバにおけるスカート1.2.1の内壁1.2.1.1に隣接するその指体2.2.3とに支えられているので、第1位置で再び停止される。テンプ1は、順に、時計回り方向でこのテンプの半振動の死点に位置しており、振動サイクルを再始動する準備が整い、そのため、上述したステップを脱進機自体を繰り返す。
【0031】
これに関連して、留意することは、特許文献1にかかる脱進機の機能の上記図による説明が同様に特許文献2にかかる脱進機にも有効であり、原則として、単一拍を有する、すなわち調整機構の振動それぞれ中の半段階であって衝撃がない半段階を有するロビン式脱進機、すなわちレバー式脱進機に類推によって適用される。
【0032】
図3は、本発明にかかる脱進機を示す概略上面図である。この図からわかることは、一般的な用語で、このような脱進機は、時計ムーブメントと一体化されるように構成され、かつ、上記時計ムーブメントのエネルギー源に由来するトルクを上記時計ムーブメントの振動する調整機構に伝達させるように構成されており、時計ムーブメントの調整機構は、第1可動体1を備え、脱進機は、第2可動体2と、同様に雁木車3と、を備える。第1可動体1は、第1及び第2ドテ4.1、4.2で各別に画成された第1または第2位置で第2可動体2を停止させるように構成することによって、第2可動体2と協働し、上記第2可動体2は、これら第1及び第2ドテに達して支えられる。雁木車3は、調整機構の振動それぞれの半段階において、直接衝撃によって上記調整機構にトルクを伝達させるように構成されている。また、上記第2可動体2は、脱進機の通常機能中に調整機構の全振動において雁木車3と接触せず、一方で、時計ムーブメントの故意でない運動または故意でない停止に続いて、調整機構の振動それぞれの他の半段階であってこの半段階中に雁木車3が直接衝撃によって調整機構へトルクを伝達させない半段階において雁木車3と接触でき、そのため、第2可動体2を介した間接衝撃によって時計ムーブメントの上記調整機構へトルクを伝達させるように、特にそのため時計ムーブメントの自動始動を確実にするように、構成されかつ位置付けられている。
【0033】
時計脱進機、すなわち時計ムーブメントの実用化の大部分において、上記エネルギー源は、香箱ゼンマイによって形成されており、上記調整機構は、テンプによって形成されており、時計ムーブメントの調整機構の上記第1可動体1は、テンプの軸1.1によって支持されたローラ1.2によって通常形成されている。
【0034】
さらに、特許文献1で詳述したように、脱進機の第2可動体2には、原則的に、角度付き運動または矩形状運動が付与され得る。第1の場合において、脱進機の上記第2可動体2は、好ましくは、アンクル2によって形成されており、テンプの軸1.1によって支持されている上記ローラ1.2は、上記アンクル2と協働するように構成されている。
【0035】
本発明にかかる脱進機の上記間接衝撃手段2.6の実現により詳しく関して、この間接衝撃手段は、好ましくは、上記第2可動体2、すなわち上記アンクル2の回動軸に十分に近接して位置する間接衝撃爪石2.6によって形成されている。好ましくは、上記間接衝撃爪石2.6は、図3に示すように、出止爪石2.5を支持するアンクル2の腕体のうち上記回動軸に近接する第1半体に位置する。この間接衝撃爪石2.6は、アンクル2と一部品でまたはアンクル2に備え付けられる別部品で製造され得る。好ましくは、間接衝撃爪石は、別の部品によって実現されており、ルビーまたはサファイアのような低摩擦かつ低摩耗材料から形成されている。
【0036】
本発明にかかる脱進機の雁木車3の実現に関して、この雁木車は、図3に示す好ましい実施形態において、13から19の範囲にある数の歯を備える。
【0037】
また、本発明にかかる脱進機は、好ましい実施形態において、特許文献1にかかるロックデバイスを備え、このようなデバイスの構造及び機能は、上述されており、このようなロックデバイスを備える本発明にかかる脱進機に対して同じ態様で適用される。特に好ましい実施形態において、本発明にかかる脱進機は、同様に、上述したようなかつ特許文献2で詳述されたような安定化案内面を有し、このような安定化案内面の構造及び機能は、同様に、このような安定化案内面を備える本発明にかかる脱進機に対して同じ態様で適用される。
【0038】
本発明にかかる脱進機の機能に関して、図4aから図4jは、機能が正常に行われているときの本発明にかかる脱進機が機能している主要な段階を概略上面図で示しており、本発明は、これら図において、特許文献1にかかる脱進機に適用される。これに関して、留意することは、特許文献1にかかる脱進機の機能について図2aから図2jを参照した上記説明が、本発明にかかるこの実施形態における脱進機について完全に有効であること、である。この点は、同様に、特許文献2にかかる少なくとも1つの安定化案内面を備える本発明にかかる一実施形態における脱進機に適用され、類推によって、すなわち調整機構の振動それぞれにおいて半段階であってこの半段階中に衝撃の伝達がない半段階を有しかつ本発明にかかる間接衝撃手段2.6が備え付けられた本発明にかかる実施形態すべてにおける脱進機に、すなわち、ロビン式脱進機に、または単一拍を有するレバー式脱進機に適用される。実際に、上記間接衝撃手段2.6が第2可動体2にあること及び雁木車3の歯の数が異なることを別として、本発明にかかる脱進機の構造及び通常機能は、異常状態が生じたときにのみ間接衝撃手段2.6が能動的役割を取ることから、特許文献1にかかる脱進機の構造及び通常機能と、すなわち対応するロビン式脱進機の構造及び通常機能と、同じである。その結果、一連の図2aから図2jに関連して上述した説明すべては、一連の図4aから図4jに示すように、本発明にかかる脱進機の通常機能について有効であり、これら図4aから図4jは、一連の図2aから図2jのように、本発明にかかる脱進機が通常機能している同じ主な段階を示す。簡素化のために、これら説明を本明細書では説明せず、類推によって一連の図4aから図4jに適用する。
【0039】
特に時計ムーブメントの故意でない運動または故意でない停止に続いて異常が発生したときの本発明にかかる脱進機の機能に関して、図5は、本発明にかかる脱進機が機能している段階を概略上面図で示しており、この段階において、間接衝撃手段2.6は、能動的役割を取る。実際に、時計ムーブメントの故意でない運動または故意でない停止に続いて、脱進機の機能が異常に行われると、間接衝撃手段2.6は、雁木車3の歯のうちの1つと接触し、第2可動体2を介した間接衝撃によって調整機構にトルクを伝達する。間接衝撃爪石2.6は、同様に、テンプの振幅が香箱の降下に続いて減少すると、テンプに衝撃を与え得、これは、「順番での衝撃」と称され得、この場合を図には示していない。このため、本発明は、所定の脱進機を提案することによって、導入部で言及した従来技術の脱進機の欠点を回避することを可能とし、この脱進機は、ロビン式の特許文献1にかかるすなわち脱進機の、すなわち戻止脱進機の構成部材に加えて、アンクル2の回動軸に近接して備え付けられた間接衝撃爪石の形態にある上記間接衝撃手段2.6をさらに備えており、この間接衝撃手段2.6は、脱進機の柱状機能中に調整機構の全振動中に雁木車3と接触しないままであり、異常機能中にのみ介入して間接衝撃の伝達を行う。
【0040】
これに関連して、付け加え得ることは、約50年前に、高速度カメラを用いた観測を行うことによって、レバー式脱進機の機能中において、テンプによる脱進機の解放後に、この脱進機の歯のうちの1つがアンクルの爪石のうちの1つに達する前に雁木車が実質的な経路を進むことを観測したことに、時計師らが驚いたこと、である。実際には、雁木車の対応する歯がまだ接触に成功していないので、従来のアンクルの入爪及び出爪の長さのほぼ1/3を使用していない。雁木車の歯がテンプの衝撃ローラに位置する衝撃爪石に達しなければならずそのため直接衝撃の伝達を行う直接衝撃型脱進機も該当する。2つの場合において、これは、一般的に失敗として考慮され、様々な手段を使用してこれを最小化する。したがって、アンクルにある間接衝撃爪石を有する本発明にかかる脱進機であって当該脱進機の通常機能中において雁木車の歯が全くこの爪石に達しない脱進機、すなわち、脱進機の通常機能に関与しないが異常機能中にのみ介入する脱進機は、特定の範囲まで、時計の分野において従来の技術的教示とは対照的である。他方、脱進機における振幅損失、震動または停止する傾向がある場合において、雁木車の歯のうちの1つは、間接衝撃爪石と接触し、間接衝撃を行うことを可能とし、間接衝撃爪石2.6の存在によって脱進機が機能する特定の段階中に利用されるさらなる幾何形状制限がもたらされ、また、例えば間接衝撃爪石の配置の及び/または形状の変動によってこの脱進機が用途の実際的事例による必要性の関数として適合され得ることから、この間接衝撃は、可能であるならば、自動再始動をもたらす。この点について同様に留意し得ることは、図1eからわかるようにこの脱進機のアンクルに中心に位置する第3衝撃爪石Lが調整機構の振動の半段階であってこの半段階において雁木車が直接衝撃によって調整機構へトルクを伝達しない半段階それぞれにおいてトルクをテンプに対称的に伝達させる、すなわち、この第3衝撃爪石が常に径方向二重衝撃型脱進機の通常機能中に常に関与することから、上述したことが導入部で言及した径方向二重衝撃の構成によって強調されること、である。その結果、本発明は、同様に、径方向二重衝撃型脱進機で、または、これら脱進機に存在しかつこれら脱進機の通常機能中に常に関与する第3衝撃爪石を本発明にかかる間接衝撃爪石2.6で置換することによって導入部で言及した同軸脱進機であって脱進機の異常機能中にのみ介入する脱進機で、実現され得る。
【0041】
本発明かかる時計脱進機の配置及び機能の観点から、上述のように、当業者は、任意のタイプの直接衝撃型脱進機において、特にロビン式脱進機において、特に好ましくは特許文献1にかかる及び特許文献2にかかる脱進機において、実現され得ることを理解する。一般的に、本発明は、図面にかかる場合すべて及び本明細書における対応する詳細すべてに言及する必要なくかつ言及する可能性なく、単一拍を有する任意のタイプのレバー式脱進機において実現され得る。上記で現れている技術的教示の観点において、当業者は、同様に、本発明が脱進機とエネルギー源、調整機構、ギアトレイン及びこのような時計脱進機を備える時計ムーブメントとに関することを理解する。また、本発明は、同様に、時計、好ましくは機械式腕時計に関し、この時計は、このような時計ムーブメント、すなわちこのような時計ムーブメントを備える。好ましくは、本発明は、クロノグラフ機構またはスプリットタイムカウンタ機構を有する腕時計に関し、この腕時計では、直接衝撃の利点を特に有利に利用され得る。
【0042】
したがって、本発明にかかる時計脱進機によれば、この脱進機の間接衝撃爪石が、例えば時計ムーブメントの故意でない運動または故意でない停止に続いてかつテンプの振動の半段階中であって直接衝撃によってテンプにトルクを直接伝達させない半段階中に、雁木車と接触し、間接衝撃によってアンクルを介してテンプに伝達させ、このトルクが、時計ムーブメントを再始動させるのに十分であることから、単一拍型脱進機の自動始動に関する問題を防止することが可能となる。同時に、本発明によれば、特許文献1にかかる脱進機へのかつ特許文献2にかかる脱進機への用途の場合において、デバイスの機能段階中に第2可動体2を完全な態様で固定することが可能となり、この機能段階において、第2可動体2に取り付けられた指体2.2.3が第1可動体1の上記スカート1.2.1の切欠1.2.1.3を横断し、そのため、スカート1.2.1にある切欠1.2.1.3を拡大し得る。このため、スカートの外側へ保護ピンの指体が出る間に関与する部品の許容誤差を緩和し得、このため、上記指体と上記デバイスの上記スカートとの間の衝突が発生し得る配置を防止することが可能となる。したがって、間接衝撃手段2.6は、自動始動手段の役割と、付随的な態様で、安定化手段としての役割と、を果たす。
【0043】
要約すると、本発明によれば、所定の時計脱進機の実現が可能となり、この時計脱進機は、戻止脱進機の上記利点を有しかつムーブメントの故意でない停止の場合における自動始動を保証し、そのため、この時計脱進機は、単一拍型脱進機の自動始動に関する問題を示さない。また、本発明によれば、スカートの保護ピンから指体が出る間に関与する部品の許容誤差を緩和することを可能とすることによって、このため、上記指体とロックデバイスの上記スカートとの間の衝突が発生し得る配置を防止することによって、特にAP脱進機の場合において、脱進機の機構の安全性をさらに改善することが可能となる。さらに、原則的に間接衝撃爪石からなる提案した構成は、脱進機の機能中において、簡素かつ頑丈であり、また、信頼性がある。このような間接衝撃爪石は、複数のタイプの戻止脱進機及び/またはレバー式脱進機に一体化され得、そのため、本発明は、柔軟な態様で複数のタイプの時計に適用され得る。特に、本発明は、好ましくは、機械式腕時計、特にクロノグラフ機構またはスプリットタイムカウンタ機構が備え付けられた腕時計に適用され得る。
【符号の説明】
【0044】
1 第1可動体,テンプ、1.1 軸、1.2 円形ローラ,円形プレート、1.2.1 スカート、1.2.1.1 内壁、1.2.1.2 外壁、1.2.1.3 切欠、2 第2可動体,アンクル、2.2.3 指体、2.5 出止爪石,出止アンクル位置、2.6 間接衝撃手段,間接衝撃爪石、3 雁木車、4.1 第1ドテ、4.2 第2ドテ
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図1f
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f
図2g
図2h
図2i
図2j
図3
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f
図4g
図4h
図4i
図4j
図5