(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】移動機器の位置検知システム及び移動機器の情報収集端末器
(51)【国際特許分類】
G01S 5/02 20100101AFI20230915BHJP
【FI】
G01S5/02 Z
(21)【出願番号】P 2019122070
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000242633
【氏名又は名称】北陸電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004059
【氏名又は名称】弁理士法人西浦特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】古谷 将吾
(72)【発明者】
【氏名】澤田 拓哉
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-531277(JP,A)
【文献】特開2017-138116(JP,A)
【文献】特開2019-040271(JP,A)
【文献】特開2017-138262(JP,A)
【文献】特開平11-355843(JP,A)
【文献】特開2014-163894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/00- 1/68
G01S 5/00- 5/14
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を利用して1以上の移動機器が移動する移動領域内における前記1以上の移動機器の位置を決定する位置決定システムと、
前記1以上の移動機器の稼働状態をそれぞれ決定する1以上の稼働状態決定部とを備え、
前記位置決定システムは、前記移動機器が稼働状態にないことを前記稼働状態決定部が決定しているときには、前記位置決定システムによる前記移動機器の位置の変更の決定を無効とする無効機能を備えており、
前記位置決定システムは、
前記1以上の移動機器が移動する移動領域内の予め定めた複数の設置位置にそれぞれ設置されて、ビーコンIDを含むビーコン信号を発生する複数のビーコン信号発生器と、
1以上の前記ビーコン信号を受信し、受信した1以上の前記ビーコン信号の電波強度から位置決定用のビーコン信号を定めて該ビーコン信号発生器の前記ビーコンIDを位置決定用のビーコンIDとして決定して保存するビーコンID決定保存部と、前記位置決定用のビーコンIDと自身を特定する端末IDを含む位置決定用情報を発信する発信部を有して前記1以上の移動機器にそれぞれ装着される1以上の情報収集端末器と、
前記1以上の情報収集端末器が、それぞれ決定した前記位置決定用のビーコンID及び前記端末IDと、前記移動領域内の前記予め定めた複数の設置位置の情報に基づいて、前記1以上の移動機器の前記移動領域内における位置を決定する位置決定部を備えて構成され、
前記稼働状態決定部は、前記情報収集端末器に内蔵され、前記移動機器に設置された加速度センサの出力に基づいて、前記移動機器の稼働状態を決定するように構成されており、
前記稼働状態決定部は、前記加速度センサと、前記加速度センサの出力に基づいて前記移動機器の単位稼働率を演算する単位稼働率演算部と、前記単位稼働率を記憶する記憶部を更に備え、
前記単位稼働率演算部は、前記加速度センサの出力に基づいて前記移動機器が稼働しているとみなすことができる単位稼働区間を周期的に決定する単位稼働区間決定部と、前記単位稼働区間決定部が決定した単位稼働区間の集計結果に基づいて前記単位稼働率を演算する集計演算部とを備えており、
前記発信部が、前記記憶部に記憶された前記単位稼働率を管理サーバに送信することを特徴とする移動機器の位置検知システム。
【請求項2】
前記情報収集端末
器は、前記加速度センサと、前記単位稼働率演算部と、前記記憶部と、前記集計演算部と、前記稼働状態決定部と、電源用の蓄電器と、電波を利用して前記1以上の移動機器が移動する移動領域内における前記1以上の移動機器の位置を決定する前記位置決定システムの検出部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の移動機器の位置検知システム。
【請求項3】
前記単位稼働区間決定部は、予め定めた単位測定期間内または単位測定回数内における前記加速度センサの出力の変化量が所定レベルを越えた回数が予め定めた回数を超えている区間を単位稼働区間と決定するように構成され、
前記集計演算部は、予め定めた集計期間または集計回数における前記単位稼働区間を集計する集計部と、前記集計部の集計結果から前記単位稼働率を演算する演算部とを備えている請求項2に記載の移動機器の位置検知システム。
【請求項4】
前記発信部は、1回分の前記単位稼働率が演算されるたびに該1回分の前記単位稼働率と前回の前記単位稼働率を前記管理サーバに送信する請求項2に記載の移動機器の位置検知システム。
【請求項5】
前記発信部が発信を行うたびに、前記記憶部が記憶した前回の前記単位稼働率がリセットされる請求項2乃至4のいずれか1項に記載の移動機器の位置検知システム。
【請求項6】
前記予め定めた回数、前記単位測定期間、前記単位測定回数、前記集計期間及び前記集計回数の少なくとも一つは、前記移動機器の原動機の種類に応じて変更可能である請求項3に記載の移動機器の位置検知システム。
【請求項7】
前記加速度センサの出力パターンから前記原動機の種類を判定する原動機判定部と、
前記原動機判定部の判定結果に基づいて前記所定レベル、前記単位測定期間、前記単位測定回数、前記集計期間及び前記集計回数の少なくとも一つを自動で変更する設定変更部をさらに備えている請求項6に記載の移動機器の位置検知システム。
【請求項8】
前記加速度センサは、一軸加速度センサから構成され、
前記一軸加速度センサは、前記単位稼働区間を決定するのに適した方向に発生する前記移動機器の振動を検出するように前記移動機器に対して設置されている請求項2に記載の移動機器の位置検知システム。
【請求項9】
前記加速度センサは、三軸加速度センサから構成され、
前記三軸加速
度センサの三軸方向の加速度の合成値が測定加速度である請求項2に記載の移動機器の位置検知システム。
【請求項10】
前記加速度センサは、三軸加速度センサから構成され、
前記三軸加速度センサの出力の組み合わせから、前記移動機器の姿勢を判定する姿勢判定部を更に備えている請求項2に記載の移動機器の位置検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動機器の稼働状態を考慮して移動機器の位置を決定する移動機器の位置検知システムに関するものであり、また該システムに用いることができる移動機器の情報収集端末器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開2018-1282号公報(特許文献1)には、機器の稼働情報に機器の現在位置の情報を含める発明が開示されている。
【0003】
また特開2013-54682号公報(特許文献2)には、建設現場で使用される高所作業車や移動式クレーン等の移動機器を管理するための機器管理システムが開示されている。この機器管理システムでは、機器で発生する加速度を計測して計測情報を出力する加速度センサと、加速度センサから出力された計測情報及び機器の識別情報を送信する無線モジュールとを備える子局装置が機器に設置され、無線モジュールから送信された計測情報及び識別情報を受信する親局装置と、パソコンとが事務所等に設置され、該パソコンが、親局装置が受信した計測情報及び識別情報に基づいて、識別情報によって識別される機器の稼働状況を判定して判定情報を出力する稼働状態決定部を備えている。
【0004】
さらに特開2005-309545号公報(特許文献3)には、稼働監視装置内に通信部を設けると共に、端末機器の外部にパーソナルコンピュータを配設し、両者を有線や無線で接続して監視対象としての移動機器の稼働状況を監視することが記載されている。この構成によれば、稼働監視装置の記憶部に記憶されている振動データおよび検出時刻を、通信部を介してパーソナルコンピュータに転送する。そして振動データおよび検出時刻についての一層複雑または大量の稼働状況についての解析をパーソナルコンピュータに実施させる。また、複数の通信端末が記録した複数の移動機器についての振動データおよび検出時刻を、パーソナルコンピュータで一括して処理させることができることが記載されている。このようにすると、工場内の複数の移動機器について、各移動機器個々の個別的な稼働状況と併せて複数の移動機器についての総合的な稼働状況についても監視することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-1282号公報
【文献】特開2013-54682号公報
【文献】特開2005-309545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1には、稼働情報と現在位置の情報との利用関係については何も開示されていない。そのため稼働情報に現在位置の情報を含めたとしても、格別の効果を得ることができない。既存の位置検知システムでは、ビーコン信号やGPS信号等の電波を利用して移動機器の位置を検知しているが、移動機器が移動していないにもかかわらず、反射して来たビーコン信号や、階段を通して到来した不要なビーコン信号や、反射したGPS信号等のように不要な電波の受信により移動機器が移動していると誤った判断がなされることがある。
【0007】
また特許文献2及び3に記載の発明には、現在位置の情報を稼働情報に含めることは記載されていない。特許文献2及び3に記載の発明のように、管理用のコンピュータで複数の子局装置または稼働監視装置か送信されたデータに基づいて複数の移動機器の稼働情報を収集するようにすると、子局装置または稼働監視装置から管理用のコンピュータ(管理サーバ)へのデータ送信の送信量が多くなり、送信に要する電力も多くなる。その結果、電源用の蓄電器を長期間にわたって交換せずに使用することができない問題が生じる。また子局装置または稼働監視装置側で、全てのデータ処理を行ってその結果を保存すると、子局装置または稼働監視装置で使用する演算装置として処理能力の高い高価なものを採用しなければならず、またデータを記憶する記憶装置の記憶容量を大きなものとせざるを得ない。
【0008】
本発明の目的は、稼働情報を利用して移動機器の位置の検知精度を高めることができる移動機器の位置検知システムを提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、上記目的を達成するのに適した、移動機器に装着されて稼働情報と位置の情報を取得して管理サーバに発信できる移動機器の情報収集端末器を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、加速度センサの出力を用いて移動機器の稼働情報を収集する場合に、管理サーバへのデータ通信量を低減して、電源用の蓄電器の使用期間を延ばすことができる移動機器の情報収集用端末器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の移動機器の位置検知システムは、電波を利用して1以上の移動機器が移動する移動領域内における1以上の移動機器の位置を決定する位置決定システムと、1以上の移動機器の稼働状態を決定する稼働状態決定部とを備えている。そして位置決定システムは、移動機器が稼働状態にないことを稼働状態決定部が決定しているときには、位置決定システムによる移動機器の位置の変更の決定を無効とする機能を有している。移動機器が動作状態にあれば、稼働状態決定部から移動機器が稼働状態であることを示す情報が得られ、移動機器が動作状態になく静止していれば、その期間は稼働状態であることを示す情報は得られない。そのため移動機器が稼働状態にないことを稼働状態決定部が決定しているときに、位置決定システムが移動機器の位置の変更を検出したときは、位置決定システムの判断に誤りがあることになる。本発明では、位置決定システムが、このような場合に、位置決定システムが出力する位置の変更の決定を無効にして、位置の変更がないものとするので、誤検出を防止できる。
【0012】
位置決定システムの構成は任意である。例えば、ビーコン信号を位置決定に用いる場合、位置決定システムは、1以上の移動機器が移動する移動領域内の予め定めた複数の設置位置にそれぞれ設置されて、ビーコンIDを含むビーコン信号を発生する複数のビーコン信号発生器と、1以上のビーコン信号を受信し、受信した1以上のビーコン信号の電波強度から位置決定用のビーコン信号を定めて該ビーコン信号発生器のビーコンIDを位置決定用のビーコンIDとして決定して保存するビーコンID決定保存部と、位置決定用のビーコンIDと自身を特定する端末IDを含む位置決定用情報を発信する発信部を有して1以上の移動機器に装着される情報収集端末器と、1以上の情報収集端末器が、それぞれ決定した位置決定用のビーコンID及び端末IDと、移動領域内の予め定めた複数の設置位置の情報に基づいて、1以上の移動機器の移動領域内における位置を決定する位置決定部とを備えて構成することができる。このような構成を採用すると、複数のビーコン信号発生器を設置する位置を適宜に定めることにより、ビーコン信号が届かないエリアをなくすことができる。
【0013】
また稼働状態決定部の構成も任意である。例えば、稼働状態決定部は、移動機器に設置された加速度センサの出力に基づいて、移動機器の稼働状態を決定するように構成されていてもよい。
【0014】
情報収集端末器は、稼働状態決定部と、電源用の蓄電器と、電波を利用して1以上の移動機器が移動する移動領域内における1以上の移動機器の位置を決定する位置決定システムの検出部を備えている。稼働状態決定部は、移動する移動機器に設置された加速度センサと、加速度センサの出力に基づいて移動機器の単位稼働率を演算する単位稼働率演算部と、単位稼働率を記憶する記憶部と発信部を更に備えている。単位稼働率演算部は、加速度センサの出力に基づいて移動機器が稼働しているとみなすことができる単位稼働区間を周期的に決定する単位稼働区間決定部と、単位稼働区間決定部が決定した単位稼働区間の集計結果に基づいて単位稼働率を演算する集計演算部とを備えている。そして発信部が記憶部に記憶された単位稼働率を管理サーバに送信するように構成されているのが好ましい。このようにすると各移動機器の情報収集端末器で稼働状態の判定に必要な単位稼働率が演算されるため、管理サーバに送信されるデータは大幅に減る。また管理サーバへの送信回数が圧倒的に減るため、蓄電器の容量の低下を大幅に遅らせることができる。その結果、長期間にわたって移動機器に情報収集端末器を装着した状態にして、移動機器の稼働状況を管理サーバで監視することができる。
【0015】
なお本願明細書において、「単位測定期間」とは、移動機器の稼働状況を稼働率で判断するために予め定めた加速度センサによる測定のための期間であり、例えば50秒と設定することができる。また「単位測定回数」とは、予め定めた測定回数であり、例えば50回と設定することができる。また「単位稼働区間」とは、単位測定期間内または単位測定回数内における加速度センサの出力の変化量が所定レベル(A)を越えている回数が予め定めた回数(B)以上ある区間と定義される。さらに「単位稼働率」とは、予め定めた集計期間(例えば30分)または集計回数(例えば36回)における単位稼働区間が出現する割合である。
【0016】
単位稼働区間決定部は、予め定めた単位測定期間(例えば50秒)内または単位測定回数(例えば50回)内における加速度センサの出力の変化量が所定レベル(A)を越えた回数が予め定めた回数(B)を超えている区間を単位稼働区間と決定するように構成されているのが好ましい。また集計演算部は、予め定めた集計期間(例えば30分)または集計回数(例えば36回)における単位稼働区間を集計する集計部と、集計部の集計結果から単位稼働率を演算する演算部とを備えているのが好ましい。このように単位稼働率を演算すると、複雑な演算が不要であり、しかも演算結果としての単位稼働率だけを送信するので、送信用のデータを少なくすることができる。
【0017】
発信部は、データ送信の受信の失敗を考慮して、1回分の単位稼働率が出されるたびに該1回分の単位稼働率及び前回の単位稼働率を管理サーバに送信するのが好ましい。
【0018】
発信部が発信を行うたびに、前回の単位稼働率が記憶部からリセットされるのが好ましい。このようにすると記憶部の容量を大きくする必要がないので、装置の価格を低減できる。
【0019】
移動機器の原動機がエンジンの場合と電動モータの場合では、加速度センサの出力は大きく異なる。そのため予め定めた回数(B)、単位測定期間、単位測定回数、集計期間及び集計回数の少なくとも一つは、原動機の種類に応じて変更可能であるのが好ましい。このようにすると稼働率の演算に必要なデータを適切に検出することができる。
【0020】
上記パラメータの自動設定のためには、加速度センサの出力パターンから原動機の種類を判定する原動機判定部と、原動機判定部の判定結果に基づいて所定レベル、単位測定期間、単位測定回数、集計期間及び集計回数の少なくとも一つを自動で変更する設定変更部をさらに設ければよい。このような構成を採用すると、パラメータを自動設定することができて、利用者の利便性を大幅に高めることができる。
【0021】
加速度センサが、一軸加速度センサから構成される場合には、一軸加速度センサは、単位稼働区間を決定するのに適した方向に発生する移動機器の振動を検出するように移動機器に対して設置する。また加速度センサが、三軸加速度センサから構成される場合には、三軸加速度センサの三軸方向の加速度の合成値が測定加速度になるようにしてもよい。
【0022】
また加速度センサが、三軸加速度センサから構成される場合には、三軸加速度センサの出力の組み合わせから、移動機器の姿勢を判定する姿勢判定部を更に備えていてもよい。姿勢判定部を設けると、稼働率だけでなく、稼働時の作業機器の姿勢状況を把握するデータを取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】移動機器の位置検知システムの一実施の形態の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1の移動機器の位置検知システムの動作を説明するために用いる図である。
【
図3】位置決定システム主要部を除いて、稼働状態決定部を内蔵する情報収集端末器の構成を示すブロック図である。
【
図4】(A)はビーコン信号発生器と情報収集端末器の距離と電波強度との関係を示す図であり、(B)は
図4(A)の関係において移動距離と電波強度の強度差の関係を示す図である。
【
図6】決定条件を説明するために用いる距離と電波強度との関係を示す図である。
【
図7】情報収集端末器で使用されるソフトウエアのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【
図8】単位稼働率演算部の一例の構成の一例を示すブロック図である。
【
図9】単位稼働率演算部の一例の構成の他の例を示すブロック図である。
【
図10】単位稼働率演算部を、マイクロコンピュータを用いて実現する場合に用いるプログラムのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【
図11】三軸加速度センサの加速度変化量に対して閾値Aを設定した場合の状態を示す図である
【
図12】(A)及び(B)は、
図10のステップST3乃至ST5の動作例を示す図である。
【
図13】(C)乃至(G)は、
図10のステップST9乃至ST11の動作例を示す図である。
【
図17】(A)乃至(C)は、姿勢判定の方法を説明するために用いる図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下図面を参照して本発明の移動機器の位置検知システムの実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
[移動機器の位置検知システムの全体構成]
図1は、移動機器の位置検知システムの一実施の形態の構成を示すブロック図である。
図2は、
図1の移動機器の位置検知システム1の動作を説明するために用いる図である。
図3は、位置決定システム100の主要部を除いて、稼働状態決定部60(60A乃至60N)を内蔵する情報収集端末器20の構成を示すブロック図である。
図1に示す移動機器の位置検知システム1は、電波を利用して1以上の移動機器80(80A乃至80N)が移動する移動領域R内における1以上の移動機器の位置を決定する位置決定システム100と、1以上の移動機器の稼働状態を決定する稼働状態決定部60(60A乃至60N)[Nは正の整数]とを備えている。位置決定システム100は、移動機器80(80A乃至80N)が稼働状態にないことを稼働状態決定部60(60A乃至60N)が決定しているときには、位置決定システム100による移動機器の位置の変更の決定を無効とする機能を有する点を特徴とする。
【0026】
移動機器80(80A乃至80N)が動作状態にあれば、稼働状態決定部60(60A乃至60N)から移動機器80(80A乃至80N)が稼働状態であることを示す情報が得られ、移動機器(80A乃至80N)が動作状態になく静止していれば、その期間は稼働状態であることを示す情報は得られない。そのため移動機器80(80A乃至80N)が稼働状態にないことを稼働状態決定部60(60A乃至60N)が決定しているときに、位置決定システム100が移動機器の位置の変更を検出したときは、位置決定システム100の判断に誤りがあることになる。本発明では、このような場合に、位置決定システム100が、出力する位置の変更の決定を無効にして、位置の変更がないものとするので、誤検出を防止できる。
【0027】
移動機器の位置検知システム1の位置決定システム100は、複数のビーコン信号発生器101~10N(Nは任意の正の整数)と、複数の移動機器80A,80B・・80Nにそれぞれ装着された複数の情報収集端末器20A~20Nと、移動機器80A,80B・・80Nの位置を決定する位置決定部70Aを含む管理サーバ70とを備えている。また本実施の形態の移動機器の位置検知システム1は、複数の情報収集端末器20A~20N内に複数の稼働状態決定部60(60A乃至60N)を備えている。複数の情報収集端末器20A~20Nは、ビーコンID決定保存部40A~40Nと発信部50A~50NからなるビーコンID決定部30A~30Nを内蔵している。
【0028】
複数のビーコン信号発生器101~10NはN個備えられており、1、2…N番の各ビーコン信号発生器101~10Nは、複数の移動機器80A,80B・・80Nが移動する1以上の移動エリア内の予め定めた複数の設置位置にそれぞれ設置される。
図2では1つの移動エリア内に8個のビーコン信号発生器101、102…108が表されている。複数のビーコン信号発生器101~10Nは、移動機器80A,80B・・80Nの移動を妨げず、且つ移動エリアに存在する物体の影響を避けるために、例えば移動エリア内の天井に取り付けられるのが好ましい。
図2に示すように、各ビーコン信号発生器101、102…108は、相互に所定の距離を空けてマトリクス状に配置される。各ビーコン信号発生器101、102…108は予め定められた電波強度で、固有のビーコンID(識別子)を含むビーコン信号を下方に向けて発する。
【0029】
情報収集端末器20A~20Nは複数個備えられており、各情報収集端末器20A~20Nは複数の移動機器80A~80Nのそれぞれに1個ずつ装着されて、複数のビーコン信号発生器101~10Nの発する各ビーコン信号を無指向性アンテナにより受信し、受信した結果を内蔵の各ビーコンID決定部30A~30Nで処理する。
図2では、移動機器80A、80Bがそれぞれ情報収集端末器20A、20Bを装着している。工事現場や、工場内であれば、高所作業車、フォークリフトの車体に情報収集端末器が装着されているのが好ましい。なお情報収集端末器が一時データ記憶部を備えていれば、情報収集端末器は測定データを全て一時データ記憶部に記憶しておき、後からビーコンID決定部30A~30Nで決定した位置決定用のビーコンIDと自身の情報収集端末器を特定する端末IDを含む位置決定用情報を管理サーバ70の位置決定部70Aに送信するようにしてもよいのは勿論である。
【0030】
ビーコンID決定部30A~30Nは、ビーコンID決定保存部40A~40Nと発信部50A~50Nとを備えており、各情報収集端末器20A~20Nに内蔵されている。ビーコンID決定保存部40A~40Nは、所定の判定周期(具体的には例えば1秒)で、受信した1以上のビーコン信号の電波強度から位置決定用のビーコン信号を決定して該位置決定用のビーコン信号を発生するビーコン信号発生器のビーコンIDを位置決定用のビーコンIDとして決定して保存する。発信部50A~50Nは、位置決定用のビーコンIDと自身を特定する端末IDを含む位置決定用情報を位置決定部70Aに送信する。
【0031】
位置決定部70Aは、各情報収集端末器20A~20Nから周期的に送信される位置決定用のビーコンIDと端末IDと、各ビーコン信号発生器101~10Nの移動エリア内における予め定めた複数の設置位置の情報(移動エリア内におけるビーコン信号発生器の設置位置を地図データとして記憶した情報に相当)とに基づいて、所定の決定周期(具体的には例えば5秒)で、各移動機器80A・・の移動エリア内における位置を決定する。また本実施の形態の位置決定システム100は、移動機器80(80A乃至80N)が稼働状態にないことを稼働状態決定部60(60A乃至60N)が決定しているときには、位置決定システム100による移動機器の位置の変更の決定を無効とする無効機能を有している。この無効機能は発信部50A~50N内に実現されている。なおこの無効機能を実現する手段を発信部とは別に設けてもよいのは勿論である。また本実施の形態において、電波強度は、直接的に位置の決定に利用されるものではなく、位置決定用のビーコンIDの更新の条件判断に利用されるものであり、電波強度によって詳細な現在位置を決定するものではない。
【0032】
なお本実施の形態では、どのビーコン信号発生器の電波が届く範囲内に移動機器(情報収集端末器)が存在するか否かを現在位置の決定とする。したがってビーコン信号発生器からどの程度の距離の位置に移動機器(情報収集端末器)がいるかまでは、決定しない。したがって位置決定に要する演算が複雑になることはない。
【0033】
そして本実施の形態では、ビーコンID決定部30A~30NのビーコンID決定保存部40A~40Nが、位置決定用のビーコンIDの決定に採用した1つのビーコン信号の前回の電波強度と今回の電波強度との強度差が、予め定めた限界閾値以下になるまでは、位置決定用のビーコンIDの更新をしない。
図4(A)はビーコン信号発生器と情報収集端末器の距離と電波強度との関係を示す図であり、
図4(B)は
図4(A)の関係において移動距離と電波強度の強度差の関係を示す図である。
図4(A)及び(B)に示すように、ビーコン信号の電波強度は、ビーコン信号発生器に近い領域では、電波強度(RSSI)の変化率(強度差)が大きく、ビーコン信号発生器から離れるほど電波強度(RSSI)の強度差(変化率)が小さくなる。そこでビーコンID決定保存部40A~40Nは、位置決定用のビーコンIDの決定に採用した1つのビーコン信号の前回の電波強度と今回の電波強度との強度差が、予め定めた限界閾値(
図4(A)の例では約4dB)以下になるまで(見方を変えると、前回の位置決定用のビーコンIDの決定に用いたビーコン信号発生器から情報収集端末器がある程度離れるまで)、位置決定用のビーコンIDの更新をしない。
図4(A)の例では、4mから6mの地点に離れた場合に、限界閾値が約4dBになる。
【0034】
このようにすると、移動機器80A~80Nが複数のビーコン信号の出力範囲の境界領域に入った場合でも、前回決定した位置決定用のビーコンIDが保持される。そして前回の位置決定用のビーコンIDの決定に用いたビーコン信号発生器から移動機器(情報収集端末器)がある程度離れたことを電波強度の強度差により検知すると、位置決定用のビーコンIDの更新をすることになる。位置決定部70Aは、位置決定用のビーコンIDの更新を受けて、移動機器の現在位置の更新を行う。
【0035】
これを
図2に即して説明すると、情報収集端末器20Aを装着した移動機器(作業員)80Aは、作業領域R内で移動を繰り返しつつ作業を行っている。このような場合、単純に電波強度のみで位置決定用のビーコンID(現在位置)を決定すると、移動機器80Aの位置は短い時間にビーコン信号発生器101、102、103及び104の間で頻繁に切り替わり、変動してしまう。本実施の形態では、例えば移動機器80Aがビーコン信号発生器103の設置されている方向からビーコン信号発生器102が設置されている作業領域内に移動してきたとすると、4つのビーコン信号発生器101~104の中で最初に位置決定用のビーコンID(現在位置)の決定に用いたビーコン信号発生器103の電波強度だけが問題となり、ビーコン信号発生器103の前回の電波強度と今回の電波強度との強度差が、予め定めた限界閾値以下にならない限り、位置決定用のビーコンID(現在位置)を更新しない。
【0036】
図2の例で移動機器80Aはビーコン信号発生器103から遠く離れることなくある作業領域内でのみ移動していれば、他のビーコン信号発生器101、102または104の方が電波強度が高くなったとしても、それだけでは位置決定用のビーコンID(現在位置)が更新されない。そしてその作業領域内での作業が終了し、移動機器80Aが移動すると、ビーコン信号発生器103の前回と今回の電波強度の強度差が小さくなり、これは移動機器80Aがビーコン信号発生器103から遠く離れたためなので、その時点で最も電波強度の高いビーコン信号発生器のビーコンIDを位置決定用のビーコンIDとして採用して現在位置を更新する。例えば、作業者がビーコン信号発生器102が発生するビーコン信号の電波領域内に入れば、ビーコン信号発生器102のビーコンIDによって特定される位置が作業者が現在存在する現在位置として更新される。
【0037】
このように制御すると、例えば1秒以内に情報収集端末器20Aを装着した移動機器80Aがビーコン信号発生器103付近に居るにも拘わらず、ビーコン信号発生器103からのビーコン信号を正しく受信することができなかった場合に電波強度が実際の値より低く測定され、より遠いビーコン信号発生器102等のビーコン信号が採用されて現在位置が更新されるという誤作動を防ぐ、という効果も得られる。
【0038】
この限界閾値(
図4(A)の例では約4dB)は、2以上のビーコン信号発生器101・・の出力の受信による誤検出を防止できるように定める。理論的には限界閾値は、2以上のビーコン信号発生器101・・の出力範囲が重なる境界領域内においては、強度差(位置決定用のビーコンIDの決定に採用した1つのビーコン信号の前回の電波強度と今回の電波強度との差)が限界閾値以下にならないように定めれば位置決定用のビーコンIDが頻繁に切り替わってしまうことを防止して、正確な位置検出を実現できる。具体的な数値は、ビーコン信号発生器101・・の発する電波強度や設置間隔等に基づいて定められる。
【0039】
ビーコンID決定保存部40A~40Nは、決定周期の1周期の期間内に決定周期よりも短い測定周期(本実施の形態では1/10秒)で受信した複数のビーコン信号の電波強度の平均的な値を算出し、この平均的な値を電波強度と決定し、内部メモリに保存する。ビーコンID決定保存部40A~40Nは、この平均的な値に基づいて、位置決定用のビーコンIDの決定を行う。すなわちビーコンID決定保存部40A~40Nは、前回の電波強度の平均的な値を内部メモリに記録して保持しておき、位置決定用のビーコンIDの決定時には、内部メモリから読み出した前回の電波強度と、新たに算出した今回の電波強度の平均的な値とを比較するようにしている。このように平均的な値を用いると、測定データのバラツキを補正することができ、測定の誤りの影響を最小限に抑えることができる。
【0040】
この実施形態において「平均的な値」は、1周期の期間内に決定周期よりも短い所定の測定周期で受信した、複数のビーコン信号の複数の電波強度の単純平均として求めているが、他の実施形態では複数のビーコン信号の電波強度の中央値として求めたり、複数のビーコン信号の電波強度の最大値と最小値を除く残りの電波強度の単純平均値として求めるようにしている。
【0041】
ビーコンID決定保存部40A~40Nは、上記の決定条件に加えて、次のビーコンID更新条件の下で位置決定用のビーコンIDを変更する。この決定条件を
図5及び
図6を用いて説明する。
図6に示すように4つのビーコン信号発生器1´~4´が設置されている領域を図示の歩行ルートで通過する場合においては、移動機器に搭載した情報収集端末器が4つのビーコン信号発生器から受信するビーコン信号の電波強度は、
図6に示すようになる。なお
図6においては、ビーコン信号発生器1´~4´を「ビーコン1´~4´」と簡略化して示してある。
【0042】
最初に位置決定用のビーコンIDの決定に採用した1つのビーコン信号(
図6のビーコン1´)の電波強度と、他のビーコン信号の電波強度(ビーコン信号発生器2´)との強度差Dが、予め定めた強度差閾値(例えば10dB)よりも大きくなると、強度差が強度差閾値よりも大きくなった他のビーコン信号発生器2(
図5及び
図6のビーコン信号発生器2´)のビーコンIDを新たな位置決定用のビーコンIDとする。位置決定部70Aは、この位置決定用のビーコンIDの更新に基づいて情報収集端末器の現在位置を更新する。これは、他のビーコン信号発生器2´からのビーコン信号の電波強度が明らかに大きいときには、そのビーコン信号発生器2´の近くに移動機器が居ることに相違がなく、誤検出のおそれがないため、現在位置の更新を行った方が精度の高い位置決定ができるからである。
【0043】
この現在位置の更新処理は、例えば前回決定したビーコン信号の今回の電波強度と、今回の中で一番強い受信強度のビーコン信号の電波強度の差が10dBmの強度差閾値を超える強度差がある場合に適用される。この強度差閾値は、ビーコン信号発生器101・・の発するビーコン信号の電波強度や設置間隔や移動機器80A・・の想定される移動速度等に応じて定められる。
【0044】
さらにまた、本実施の形態のビーコンID決定保存部40A~40Nは、現在位置の決定に用いる位置決定用のビーコンIDの決定に採用したビーコン信号の電波強度の強度差が限界閾値以下になり、且つ位置決定用のビーコンIDの決定に採用した1つのビーコン信号の電波強度と、他のビーコン信号の電波強度との強度差が、予め定めた強度差閾値よりも大きいときに、位置決定用のビーコンIDの決定に採用した位置決定用のビーコン信号の電波強度のピークホールド値が、予め定めた複数のピークホールド値範囲のいずれに属しているかを判定して、ピークホールド値が属しているピークホールド値範囲内に、次に測定したピークホールド値があるときには、位置決定用のビーコンIDの更新を行わず、ピークホールド値範囲を超えたときには、そのときに受信している1以上のビーコン信号のうち最大の電波強度のビーコン信号のビーコンIDを位置決定用のビーコンIDとする更新条件を採用している。位置決定部70Aは、この位置決定用のビーコンIDと複数のビーコン信号発生器の設置位置の情報に基づいて、移動機器の現在位置を更新する。
【0045】
なおピークホールド値は、受信した複数の周期ごとのビーコン信号のうちで、最も強い電波強度の値であり、従って移動機器が位置決定用のビーコンIDの決定に採用されているビーコン信号発生器に近づくに従って電波強度が強くなると、その度にビーコンID決定保存部40A~40Nにその値が記録されて更新される。移動機器がそのビーコン信号発生器から遠ざかるように移動する過程では、電波強度は次第に弱くなるので、ピークホールド値は更新されることはない。
【0046】
ピークホールド値範囲は、ビーコン信号発生器101~10Nの発する電波強度や、設置間隔等に対応して、任意に設定することができる。表1に本実施形態におけるピークホールド値と、ピークホールド値に対応するピークホールド値範囲との関係の一例を示す。例えば、ピークホールド値が-60dBmだったとすると、対応するピークホールド値範囲は「ピークホールド値-20」となるので、以降に測定したピークホールド値が-80dBmを下回ったときには、ピークホールド値範囲を超えることになる。
【0047】
【表1】
例えば
図1において、移動機器80Aについてのビーコン信号発生器103からのビーコン信号のピークホールド値が-60dBmだったとすると、移動機器80Aが現在いる作業領域内を移動している間は、次に測定したピークホールド値が-80dBmを超えず、位置決定用のビーコンIDの更新が行われない。移動機器80Aが現在の作業領域を離れて他の作業領域に移動して行くと、ビーコン信号発生器103からの次に測定したピークホールド値がだんだん弱くなり、やがて-80dBmを超え、そのときに初めて位置決定用のビーコンIDが更新される。
【0048】
このようにすると他のビーコン信号発生器101・・からのビーコン信号の電波強度が、明確に大きく変化する前でも、位置決定用のビーコンIDの更新をしても誤りが生じない場合には、更新を可能にして、より精度の高い位置決定が可能となる。
【0049】
この実施形態において、ピークホールド値は、複数のビーコン信号の複数の電波強度のピーク値の単純平均として求めているが、他の実施の形態では複数のビーコン信号の電波強度のピーク値の中央値として求め、または複数のビーコン信号の電波強度のピーク値の最大値と最小値を除く残りの電波強度のピークホールド値の単純平均値として求めるようにしている。これにより、測定する電波強度のデータにバラツキがあっても、誤った位置決定をする可能性を大幅に減らすことができる。
【0050】
この実施形態の位置検知システムは、ビーコンIDを含むビーコン信号を発するBLEビーコンと、作業員(移動機器)が装着する情報収集端末器と、情報収集端末器からの送信データを受信する基地局と、基地局からデータを受信して各処理を行うサーバ及びアプリケーションにより構成することができる。位置決定部70Aは、管理サーバ70内に構築される。
【0051】
[位置決定システムのアルゴリズム]
次に、
図7を参照しつつ本実施形態の情報収集端末器20A乃至20Nで使用されるソフトウエアのアルゴリズムについて説明する。
図7は、一つの情報収集端末器20A,20B・・が、その情報収集端末器20A,20B・・の位置、すなわち移動機器80A,80B・・の位置を所定の決定周期ごとに決定するために用いる位置決定用のビーコンIDの更新をするための演算処理の過程を示す。この演算処理は、複数の情報収集端末器20A,20B・・それぞれについて行われる。
【0052】
図7において、ビーコンID決定保存部40A・・は1周期内にビーコン受信があったかどうか判断し(ステップS1)、ビーコン受信があれば、決定周期よりも短い所定の測定周期で1周期内の情報収集端末器20A・・が受信した受信データに対し、各ビーコン信号発生器101・・の発するビーコンIDごとに、電波強度の平均的な値を算出し、算出した平均的な値を電波強度としてビーコンID決定保存部40A・・の内部メモリに記録し保持する(ステップS2)。平均的な値は、前述のように、1周期の期間内に決定周期よりも短い所定の測定周期で受信した各IDごとの電波強度の単純平均である。
【0053】
次にステップS3に進むと、稼働状態決定部60で単位稼働区間で「稼働」と判定しているか否かが判定される。「稼働」と判定されている場合にはステップS4へ進み、「稼働」と判定されていない場合にはステップS12へと進み、ビーコンIDを更新しない。
【0054】
ステップS4に進むと、ビーコンID決定保存部40A・・は位置決定用のビーコンIDの決定に採用した前回のビーコン信号の電波強度と今回のビーコン信号の電波強度との強度差が、予め定めた限界閾値以下であるかどうかの演算処理を実効する。次に位置決定用のビーコンIDの決定に採用した1つのビーコン信号の電波強度と他のビーコン信号の電波強度との強度差が、予め定めた強度差閾値よりも大きいかどうかの演算処理(ステップS5)、及びピークホールド値に応じてピークホールド値範囲を設定して、次に測定したピークホールド値がピークホールド値範囲内かどうかの演算処理(ステップS6、7)を行う。これら3つの処理は後述するステップS8以下の判定の前提として行われるので、各演算処理の順序は問わず、並行して演算処理されてもよい。
【0055】
まずステップS4の判定がOKかどうか判断され(ステップS8)、Noであれば(強度差が限界閾値を超えている)、位置決定用のビーコンIDを更新せず(ステップS12)、1周期前の位置決定用のビーコンIDが採用される。ステップS8がYesの場合、次にステップS5の判定がOKかどうか判断され(ステップS9)、Noであれば(強度差が強度差閾値よりも小さい)位置決定用のビーコンIDを更新せず(ステップS12)、ステップS5がYesであれば、ステップS7の判定がOKかどうか判断され(ステップS10)、Yesであれば位置決定用のビーコンIDが更新され(ステップS11)、Noであれば位置決定用のビーコンIDは更新されない(ステップS12)。
【0056】
なお位置決定部70における現在位置の更新は、今回測定した電波強度の最も高いビーコン信号発生器101~10Nのいずれかの設置位置を移動機器80A・・の現在位置とすることにより更新する。
【0057】
最後に、次回周期の判定用に送信データをビーコンID決定保存部40A・・に記録し保持して、ビーコンIDと端末IDを送信し(ステップS13)、1回の決定周期の処理を終了する。具体的には、位置決定用のビーコンIDと、決定に用いたビーコン信号の電波強度、ピークホールド値が更新される。なお、位置決定部70A内には決定した現在位置を記憶する位置記憶部が内蔵されている。
【0058】
[稼働状態決定部の説明]
図3に示した位置決定システム100の主要部を除いて、稼働状態決定部60を含む情報収集用端末器20内の構成を以下に説明する。なお稼働状態決定部60が内蔵される情報収集端末器20A乃至20Nは、移動機器80に装着される一つのユニットとして構成されている。
【0059】
図3において、80は電動モータや内燃機関からなる原動機5によって駆動されて移動する高所作業車等からなる移動機器である。稼働状態決定部60は、移動機器80の作業台に設置された一軸または三軸の加速度センサ11と、加速度センサ11の出力に基づいて原動機5の種類が、電動モータか内燃機関かを判定する原動機判定部12と、加速度センサ11の出力に基づいて移動機器80の稼働情報を収集する稼働状態決定部60を備えている。
【0060】
加速度センサ11が、一軸加速度センサから構成されている場合には、一軸加速度センサは、稼働情報を収集するのに適した方向に発生する移動機器の振動を検出するように移動機器に対して設置する。また加速度センサ11が、三軸加速度センサから構成される場合には、三軸加速センサの三軸方向の加速度の合成値を測定加速度として用いてもよい。合成値を使用した場合は設置向きによらず、移動機器の振動を検出できる。
【0061】
原動機がエンジンの場合と電動モータの場合では、加速度センサの出力は大きく異なる。そこで原動機判定部12は、加速度センサ11の出力の変動パターンから、原動機の種類を判定する。本実施の形態では、原動機判定部12の判定結果に基づいて、後述する稼働率の演算に必要な所定レベル(閾値A、閾値B)、単位測定期間、単位測定回数、集計期間及び集計回数(パラメータ)の少なくとも一つを、原動機の種類に応じて変更可能にしている。このようにすると稼働率の演算に必要なデータを適切に検出することができる。これらパラメータの自動設定のために、加速度センサ11の出力パターンから原動機の種類を判定する原動機判定部12の判定結果に基づいて所定レベル、単位測定期間、単位測定回数、集計期間及び集計回数の少なくとも一つを自動で変更する設定変更部14を稼働状態決定部60に設けてある。このような構成を採用すると、パラメータを自動設定することができて、利用者の利便性を大幅に高めることができる。
【0062】
稼働状態決定部60は、さらに加速度センサ11の出力に基づいて移動機器80の単位稼働率を周期的に演算する単位稼働率演算部15と、単位稼働率演算部15の演算に必要なデータと単位稼働率を記憶する記憶部16を備えている。また本実施の形態の移動機器の情報収集端末器20は、記憶部16に記憶した単位稼働率を管理サーバ70に送信する発信部50と、電源用の蓄電器18を備えている。
【0063】
発信部50は、記憶部16に予め定めた回数分の単位稼働率が記憶されると、記憶部16に記憶されている単位稼働率を管理サーバ70に送信する。本実施の形態の発信部50は、1回分の単位稼働率が出されるたびに1回分の単位稼働率と前回の単位稼働率を管理サーバ70に送信する。なお3回分以上の単位稼働率を1回で送信してもよいが、送信データの容量が少ない場合には、1回分の単位稼働率が出されるたびに該1回分の単位稼働率を管理サーバに送信しても消費電力の減少には大きな影響はない。管理サーバ70は、移動機器の情報収集端末器20と離れた場所に設置されている。蓄電器18は、一次電池または充電可能な二次電池、キャパシタ等のいずれでもよい。蓄電器18は、移動機器の情報収集端末器20のすべての構成手段の電源として利用されている。したがって放電により電圧が低下した場合には、交換されるかまたは充電される。
【0064】
本実施の形態の移動機器の情報収集端末器20では、単位稼働率演算部15で稼働状況の判定に必要な単位稼働率を周期的に演算し、単位稼働率を出力するため、管理サーバ70に送信されるデータは大幅に減る。また管理サーバ70への送信回数が圧倒的に減るため、蓄電器18の容量の低下を大幅に遅らせることができる。その結果、長期間にわたって移動機器80に情報収集端末器20を装着した状態にして、移動機器80の稼働状況を監視することができる。
【0065】
単位稼働率演算部15での稼働率の演算集計方法は任意である。
図8に示すように、具体的な一例では、予め定めた単位測定期間(50秒)内または単位測定回数(50回)内における加速度センサの出力の変化量が所定レベル(A)を越えた回数に基づいて単位稼働区間を決定する単位稼働区間決定部15Aと、単位稼働区間決定部15Aが決定した単位稼働区間を集計する集計部15Bと、集計部15Bが集計した集計結果に基づいて単位稼働率を演算する演算部15Cとを備えた集計演算部15Dを備えている。集計演算部15Dは、予め定めた集計期間(30分)または集計回数(36回)において単位稼働区間を集計部15Bで集計して、演算部15Cで単位稼働率を演算する。例えば36回中、18回の単位稼働区間が決定された場合には、18/36=0.5即ち50%の単位稼働率が演算される。なお後述するプログラムでは、各集計回数ごとに単位稼働率を演算して更新している。
【0066】
このように単位稼働率を演算すると、複雑な演算が不要であり、しかも予め定めた集計期間または集計回数における集計結果から単位稼働率を演算するので、管理サーバ70側で監視する単位稼働率の精度を低下させることなく、送信用のデータを少なくすることができる。
【0067】
図9は、加速度センサ11として三軸加速度センサを用いる場合において、単位稼働率演算部15に姿勢判定部15Eを付加した場合のブロック図を示している。この場合には、姿勢判定部15Eは、三軸加速度センサの出力の組み合わせから、移動機器80の姿勢を判定する。姿勢判定部15Eの判定結果は、所定レベルAを決定するために使用されるとともに、管理サーバ70に送信される。
【0068】
図10は、単位稼働率演算部15を
図9の構成で実現した場合において、単位稼働率演算部15を、マイクロコンピュータを用いて実現する場合に用いるプログラムのアルゴリズムを示すフローチャートである。まずステップST1及びST2では、1秒中に加速度センサ11の現在の出力を2回分読み出して平均化する。そしてステップST3において、前回(1秒前)と今回の平均値の加速度変化量を求め、この加速度変化量が閾値A以上あるか否かの判断をする。
図11は、三軸加速度センサの加速度変化量に対して閾値Aを設定した場合の状態を示す図である。加速度変化量が閾値A以上の場合には、ウェイクアップフラグを“1”(稼働状態)とし、加速度変化量が閾値A未満の場合には、ウェイクアップフラグを“0”(稼働停止状態)とする。
【0069】
図12(A)及び(B)は、ステップST3乃至ST5の動作例を示す図である。具体的には、単位測定期間=50、閾値A=2の条件でのX軸での計測信号とウェイクアップフラグ判定例である。同様の処理を、Y軸とZ軸でも実施する。
ステップST6において、現在の加速度平均値から移動機器の姿勢番号を算出する。なお加速度平均値を姿勢番号に変換するためには、X,Y、Z軸の加速度値をそれぞれ2bitに変換する。そのためには
図15の変換ルールに従って、変換を行う。本実施の形態では、三軸加速度センサ11を中心にして、
図17(B)及び(C)に示すような球体を想定して球体の表面を56分割し、重力加速度Gが56の仮想領域のどれを指し示すかを判定することで移動機器の姿勢を判定している。
【0070】
この変換ルールでは、500mGを境界値として変換を行う。ちなみにX=10mG、Y=1000mG、Z=10mGの場合には、XU=0、XL=0、YU=0、YL=1、ZU=0、ZL=0となる。次に、この2bitの変換値のパターンを
図16に示す変換表に当てはめて、姿勢を判定する。
図16のテーブルに基づけば、XU=0、XL=0、YU=0、YL=1、ZU=0、ZL=0の場合の姿勢番号は46である(なお、
図16の変換表において、XUは、X軸のU値であり、XLはX軸のL値であり、他も同様である)。姿勢番号46が判ることにより、移動機器の使用姿勢が判るので、作業状況を把握することができる。例えば、XU=0,XL=0,YU=1,YL=0,ZU=1,ZL=1の場合には、姿勢番号7(
図17(B)の状態)と判定され、移動機器は地面に対して直立している状態にある。XU=0,XL=0,YU=1,YL=0,ZU=0,ZL=1の場合には、姿勢番号5(
図17(C)の状態)と判定される。この場合には、移動機器は地面に対して傾斜した状態にある。
【0071】
ステップST7では、記憶部(バッファ)16に姿勢番号情報とウェイクアップフラグを記録する。ちなみに原動機5が電動機の場合には、単位測定期間としての50秒分のデータを記録し、内燃機関(エンジン)の場合には、単位測定期間としての10秒分のデータを記録する。内燃機関の場合には、移動機器に伝わる振動が多いので、細かい周期でデータを記録する。この周期の設定は、設定変更部14で行う。次にステップST8で、バッファが満杯になったことを検出すると、ステップST9でバッファ内のウェイクアップフラグが所定レベル即ち閾値B以上あるか否かの判定が行われる。原動機が電動機の場合、閾値Bは例えば5と設定する。この閾値Bの設定も、設定変更部14で行う。ウェイクアップフラグが閾値B以上ある場合には、50秒間は移動機器が稼働している単位稼働区間と判定して単位稼働区間“1”とし(ステップST10)、ウェイクアップフラグが閾値B未満の場合には、50秒間は移動機器が稼働していないと判断して単位稼働区間“0”とする(ステップST11)。
【0072】
また
図13(C)乃至(G)は、ステップST9乃至ST11の動作例を示す図である。具体的には、単位測定機間=50、閾値B=5の条件での単位稼動区間判定例である。そして
図14は、
図10のステップST12の動作例を示す図である。
【0073】
次にステップST12で、現在の単位稼働率を演算して更新する。前述の通り、予め定めた集計期間(30分)または集計回数(36回)において単位稼働区間を集計して、単位稼働率を演算する。例えば36回中、18回の単位稼働区間が決定された場合には、18/36=0.5即ち50%の単位稼働率が演算される。ステップST12では、各集計回数ごとに単位稼働率を演算して更新している。1回目の集計回数が単位稼働区間“1”であれば、1回目の単位稼働率は1/1=1(単位稼働率100%)となる。36回が終了したときの単位稼働区間“1”の回数が36回あれば、36/36=1(単位稼働率100%)となり、36回が終了したときの単位稼働区間“0”の回数が36回あれば、0/36=0(単位稼働率0%)となる。
【0074】
36回の集計回数が終了すると、発信部50は更新された単位稼働率を送信する(ステップST16,ST17)。管理サーバ70では、受け取った単位稼働率から稼働状況を判定する。
【0075】
なおステップST13では、バッファ内で一番多い姿勢番号に応じて閾値Aの調整を行う。バッファ内で一番多い姿勢番号からは、移動機器の情報収集端末器20の取付姿勢が判断できる。取付姿勢の判断から、三軸の取付姿勢が規定の姿勢から例えば10度ずれている場合には、そのずれに対応して各軸の閾値Aを調整することになる。
【0076】
またステップST14は、原動機5の種類に応じてバッファのサイズを調整するためのステップである。すなわち原動機5が電動機の場合と、内燃機関のバッファのサイズを調整する。この調整も設定変更部14により実施される。
【0077】
また上記実施の形態では、稼働率演算のためのパラメータとして、単位測定期間及び集計回数を用いたが、単位測定回数、集計期間をパラメータとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の移動機器の位置検知システムによれば、移動機器が稼働状態にないことを稼働状態決定部が決定しているときに、位置決定システムが移動機器の位置の変更を検出しているときは、位置決定システムが出力する位置の変更の決定を無効にして、位置の変更がないものとするので、誤検出を防止できる。
【0079】
また本発明の情報収集端末器では、稼働状況の判定に必要な単位稼働率を演算するため、管理サーバに送信されるデータは大幅に減る。また管理サーバへの送信回数が圧倒的に減るため、蓄電器の容量の低下を大幅に遅らせることができる。その結果、長期間にわたって移動機器に情報収集端末器を装着した状態にして、移動機器の稼働状況を管理サーバで監視することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 位置検知システム
20 情報収集端末器
80 移動機器
5 原動機
70 管理サーバ
11 加速度センサ
12 原動機判定部
60 稼働状態決定部
14 設定変更部
15 単位稼働率演算部
15A 単位稼働区間決定部
15B 集計部
15C 演算部
15D 集計演算部
15E 姿勢判定部
16 記憶部
18 蓄電器
30 ビーコンID決定部
40 ビーコンID決定保存部
50 発信部
100 位置決定システム
101~10N ビーコン信号発生器
R 移動領域