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  • 特許-圧力検出装置および良否判断方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】圧力検出装置および良否判断方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20230915BHJP
   B29C 45/17 20060101ALI20230915BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C45/17
B29C45/26
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019182145
(22)【出願日】2019-10-02
(65)【公開番号】P2021054026
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】高山 善将
(72)【発明者】
【氏名】小林 幸多
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-286052(JP,A)
【文献】特開2021-054025(JP,A)
【文献】特開2018-183994(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105227(WO,A1)
【文献】特開2015-231676(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109501185(CN,A)
【文献】特開2020-108947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形機の金型における複数のキャビティの内圧をそれぞれ検出する複数の圧力センサと、
検出した内圧を受信し、ピーク圧力到達時間のばらつきに関する値に基づいて、各キャビティにより成形された製品の良否を判断する情報処理装置と、
を備え
前記ばらつきに関する値とは、n回目のショット時のピーク圧力到達時間同士の差の絶対値である、
圧力検出装置。
【請求項2】
1回目のショット時のピーク圧力到達時間をオフセットとして考慮して、製品の良否を判断する、
請求項1に記載の圧力検出装置。
【請求項3】
前記情報処理装置は、
n回目のショット時において、製品を不良と判断した場合、(n+1)回目および(n+2)回目のショット時においても、各キャビティにより成形された製品の良否を判断し、
(n+1)回目および(n+2)回目のショット時においても、不良が続くならば、製品を不良と判断し、
一方、(n+1)回目、(n+2)回目のショット時には、製品を良品として判断できるならば、引き続き射出成形を継続するように構成される、
請求項1または2に記載の圧力検出装置。
【請求項4】
射出成形機の金型により成形された製品の良否を判断する方法であって、
複数の圧力センサによって検出した、射出成形機の金型における複数のキャビティの内圧を受信し、
ピーク圧力到達時間のばらつきに関する値を算出し、
前記ばらつきに関する値を所定の閾値と比較し、
製品の良否を判断し、
前記ばらつきに関する値とは、n回目のショット時のピーク圧力到達時間同士の差の絶対値である、
方法。
【請求項5】
n回目のショット時において、製品を不良と判断した場合、(n+1)回目および(n+2)回目のショット時においても、各キャビティにより成形された製品の良否を判断し、
(n+1)回目および(n+2)回目のショット時においても、不良が続くならば、製品を不良と判断し、
一方、(n+1)回目、(n+2)回目のショット時には、製品を良品として判断できるならば、引き続き射出成形を継続する、
請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機の金型におけるキャビティの内圧を検出し、金型により成形された製品の良否を判断するための圧力検出装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、射出成形機に対しては、射出成形時の金型のキャビティの内圧を検出するための圧力検出装置が装着されることがあり、検出された内圧の値は、成形された製品の良否を判断するために用いられている。
また、金型において複数の製品を同時に成形するいわゆる「多数個取り」を行う場合には、各キャビティにおいてバランスのとれた圧縮成形を行った方が、より望ましい結果が得られることがある。特許文献1には、各キャビティの内圧を一定に保つことにより、1個のキャビティにより成形する場合と同様の品質を達成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-286052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図6を用いて、検出された内圧に基づき、成形された製品の良否を判断するための従来の方法を説明する。
図6は、1回の射出成形工程において、圧力センサによって検出される1つのキャビティの内圧波形を示すグラフである。
図6に示すグラフでは、横軸は時間を、縦軸はキャビティの内圧の検出値を表しており、金型が閉じて射出成形工程が開始され、加熱された樹脂材料がキャビティ内に射出されて注入されていくに伴って内圧は上昇していき、キャビティ内に樹脂材料が行き渡ったときまたはその近傍においてキャビティの内圧は最大となりピーク値となる。それ以降、樹脂材料の冷却に伴ってキャビティの内圧は低下していき、金型が開放されて大気圧となる。内圧のピーク値が所定の範囲A内にある場合、製品は良品として判断される。
所定の範囲Aは、比較的大きく設定する必要がある。なぜなら、内圧のピーク値は、ショットを重ねるごとに金型内各部に汚れが堆積することにより徐々に変化するからである。また、内圧のピーク値は、天気(気温、気圧、湿度)、材料ペレットのロット、材料の吸湿状態等のさまざまな要因によっても変化する。それゆえ、これらの要因によって内圧のピーク値が変化しても、内圧のピーク値が所定の範囲A内にある場合、その製品は、一定の品質を有しており、良品として判断される。
【0005】
複数のキャビティを有する金型では、内圧のピーク値の変化は、通常はすべてのキャビティにおいて同様の傾向となる。
しかしながら、本発明者は、複数のキャビティの内圧のピーク値がすべて所定の範囲A内にある場合であっても、あるキャビティの内圧のピーク値が他のキャビティの内圧のピーク値と異なる傾向を示すことを発見した。この場合、従来の基準では、良品として判断されているが、ピーク値が異なるキャビティで成形された製品は、潜在的な不良を含む可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、上述した問題点を解消し、従来は、良品として判断されていた基準に加えて、より精度の高い良否の判断基準を導入することにより、成形された製品の品質を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の圧力検出装置は、
射出成形機の金型における複数のキャビティの内圧をそれぞれ検出する複数の圧力センサと、
検出した内圧を受信し、ピーク圧力到達時間のばらつきに関する値に基づいて、各キャビティにより成形された製品の良否を判断する情報処理装置と、
を備える。
【0008】
前記ばらつきに関する値とは、n回目のショット時のピーク圧力到達時間同士の差の絶対値であることが好ましい。
【0009】
1回目のショット時のピーク圧力到達時間をオフセットとして考慮して、製品の良否を判断することが好ましい。
【0010】
n回目のショット時の内圧のピーク値同士の差の絶対値に基づいて、製品の良否を判断することが好ましい。
【0011】
本発明は、射出成形機の金型により成形された製品の良否を判断する方法であって、
複数の圧力センサによって検出した、射出成形機の金型における複数のキャビティの内圧を受信し、
ピーク圧力到達時間のばらつきに関する値を算出し、
前記ばらつきに関する値を所定の閾値と比較し、
製品の良否を判断する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る圧力検出装置が接続される射出成形機の全体構成を示す側面図である。
図2】射出成形機の金型の構成を示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る圧力検出装置のアンプの構成を示すブロック図である。
図4】1回の射出成形工程において、複数のキャビティの内圧波形を示すグラフである。
図5】1回の射出成形工程において、複数のキャビティの内圧波形を示す他のグラフである。
図6】1回の射出成形工程において、1つのキャビティの内圧波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る圧力検出装置が接続される射出成形機の全体構成を示す側面図である。
射出成形機1は、ベッド10の上に載置した状態で支持される射出ユニット30、金型50および型締ユニット80を備えている。射出成形機1には、圧力センサS1~Snおよびアンプ90を備える圧力検出装置100が接続されている。
射出ユニット30は、油圧モータを用いた駆動部31、ホッパ32およびシリンダ33等を備えている。射出ユニット30は、ホッパ32から供給される材料をシリンダ33により加熱し、駆動部31によりシリンダ33を駆動することによりシリンダ33の先端のノズル(図示せず)から金型50のキャビティCT(図2)に対して加熱された材料(以下、「加熱材料」ともいう。)を射出して充填する。なお、射出ユニット30に油圧モータを用いるのは一例であり、油圧モータに替えて電動モータを用いてもよい。この場合も、以降の説明は同様に適用される。
金型50は、射出ユニット30のシリンダ33から射出された加熱材料をキャビティCTにおいて成形した後に排出する。
型締ユニット80は、金型50を開閉したり、キャビティCTに充填したときの加熱材料の圧力に抗して金型50を閉じた状態に保持するための圧力を加える例えばトグル式または直圧式の機構部である。
【0014】
図2は、射出成形機の金型の構成を示す断面図である。
金型50においては、固定側取付板52に対して固定側金型53が取り付けられており、可動側取付板54に対してスペーサブロック55を介して可動側金型58が取り付けられている。
固定側金型53には、可動側金型58との間にキャビティCTを形成するための湾曲状の凹部53aが形成されているとともに、ガイド孔53bが形成されている。可動側金型58には、固定側金型53との間にキャビティCTを形成するための凸部58aが形成されているとともに、固定側金型53のガイド孔53bと対向する位置にガイドピン58bが設けられている。
可動側金型58の中心部分であり、かつ、キャビティCTの中心となる位置には、エジェクタピン59が凸部58aの中心を貫通した状態で長手方向へ移動自在に支持されている。
エジェクタピン59の先端部は、キャビティCTの形状に対応して成形された製品65と当接して製品65をエジェクトする。エジェクタピン59の後端部は、エジェクタプレート57に一体に取り付けられている。
【0015】
金型50には、固定側金型53と可動側金型58との間にキャビティCTが複数形成されており、個々のキャビティCTに対応するエジェクタピン59の後端部の端面にそれぞれ圧力センサS1~Snが一体に取り付けられている。すなわち、n個のキャビティCTにそれぞれ対応して圧力センサS1~Snが設けられている。
圧力センサS1~Snは、例えば、ひずみゲージが用いられ、キャビティCTの内圧がエジェクタピン59を介して圧力センサS1~Snに作用する。これにより圧力センサS1~Snは、キャビティCTの内圧(この場合、射出ユニット30によりキャビティCTに充填される加熱材料の充填圧力)を検出することができる。
【0016】
エジェクタプレート57には、可動側取付板54側にエジェクタロッド56が取り付けられているとともに、可動側金型58側にリターンピン60が取り付けられている。エジェクタロッド56は、可動側取付板54を貫通した状態でエジェクタプレート57に取り付けられている。リターンピン60には、エジェクタプレート57を元の位置に戻すための図示しないバネが取り付けられている。
【0017】
型締ユニット80(図1)は、その筐体の内部に油圧シリンダを有し、筐体の四隅と固定側取付板52および可動側取付板54の四隅とを連結した4本のタイバー81を備えている。型締ユニット80の油圧シリンダには金型50のエジェクタロッド56が連結されている。
【0018】
アンプ90は、圧力センサS1~Snによって検出したキャビティCTの内圧を受信するように、接続コード90aを介して圧力センサS1~Snに接続されている。また、アンプ90は、パーソナルコンピュータ99にも接続されている。アンプ90は、接続コード90aを用いた圧力センサS1~Snとの接続性を考慮してベッド10の内部または外部に配置されている。
なお、アンプ90と圧力センサS1~Snとの間およびアンプ90とパーソナルコンピュータ99との間は、有線接続に限られるものではなく、近距離無線通信等の方法により無線接続されていてもよい。
【0019】
図3は、本発明の一実施形態に係る圧力検出装置のアンプの構成を示すブロック図である。
アンプ90は、情報処理装置として構成されており、ヘッドアンプ91、ゼロ調整部92、ゲイン調整部93、アナログデジタル変換部(ADC)94、制御部95および記憶部96を備えている。
ヘッドアンプ91は、圧力センサS1~Snの出力値を増幅する。ゼロ調整部92は、圧力センサS1~Snの出力値をそれぞれの校正情報を用いて、ゼロ点を基準とした正確な出力値に調整する。ゲイン調整部93は、圧力センサS1~Snの出力値を増幅する。アナログデジタル変換部94は、圧力センサS1~Snの出力値(アナログ信号)をデジタルの圧力検出データに変換し、これらをパーソナルコンピュータ(PC)99へ出力する。制御部95は、CPUおよびメモリ等を有するマイクロコンピュータ構成からなり、アンプ90の各部を統括的に制御する。記憶部96には、圧力センサS1~Snの出力値が記憶され、記憶された情報は、制御部95によって読み出される。
【0020】
図4は、4つの同形のキャビティを有する射出成形機において、n回目のショット時のそれぞれのキャビティの内圧波形を示すグラフであり、横軸は時間を、縦軸は圧力を表している。なお、nは自然数である。
射出成形機において対称に配置された4つの同形のキャビティであっても、内圧波形は互いに多少異なる。ただし、いずれのピーク圧力到達時間(内圧のピーク値に到達する時間)t1~t4も所定の範囲A内にあるため、従来の基準では、4つの成形された製品をすべて良品として判断していた。
しかしながら、キャビティ1のピーク圧力到達時間t1は、キャビティ2~4のピーク圧力到達時間t2~t4から離れており、キャビティ1に何らかの不具合が生じている可能性がある。
そこで、本発明では、複数のキャビティのピーク圧力到達時間のばらつきに関する値に基づいて、各キャビティにより成形された製品の良否を判断する。
例えば、ばらつきに関する値とは、n回目のショット時のピーク圧力到達時間同士の差の絶対値であり、情報処理装置としてのアンプ90を用いて、|t1-t2|、|t1-t3|、|t1-t4|、|t2-t3|、|t2-t4|および|t3-t4|を算出し、それぞれ所定の閾値と比較し、所定の閾値より大きい場合、不良であると判断する。
図4の場合、ピーク圧力到達時間同士の差の絶対値は、|t2-t3|≒|t3-t4|<|t2-t4|<|t1-t2|<|t1-t3|<|t1-t4|となる。ここで、所定の閾値tTを設定し、tT<|t1-t2|<|t1-t3|<|t1-t4|となる場合、キャビティ1に何らかの不具合が生じていると判断することができる。
【0021】
複数のキャビティのうちの1つのキャビティのピーク圧力到達時間のみが異なる要因としては、当該キャビティに充填される加熱材料の流動性が高い/低いことが考えられる。例えば、あるキャビティへの樹脂注入経路の温度が他のキャビティへの樹脂注入経路の温度より低い場合や、金型内に汚れ等の堆積物がある場合、加熱材料の流動性は低くなり、キャビティのピーク圧力到達時間も小さくなる。
上述したように、天気や材料ペレットのロットが変化した場合にも、ピーク圧力到達時間は変化するが、この場合、複数のキャビティのピーク圧力到達時間は同じように変化するため、問題はない(すなわち、良品として判断する。)。一方、複数のキャビティのうちの1つのキャビティのピーク圧力到達時間のみが異なる場合には、本発明により、不良品として判断することができる。
このように、本発明では、従来は、良品として判断されていた基準(図4の所定の範囲A)に加えて、より精度の高い良否の判断基準を導入することにより、成形された製品の品質を向上することができる。
なお、図4に示すように、n回目のショット時に、キャビティ1に何らかの不具合が生じていると判断した場合、キャビティ1により成形された製品のみを不良品として判断してもよいし、n回目のショット時に、キャビティ1~4により成形された製品すべてを不良品として判断してもよい。
【0022】
他の例として、ばらつきに関する値は、全ショット(1~n)のピーク圧力到達時間の平均値同士の差の絶対値でもよい。
例えば、情報処理装置としてのアンプ90を用いて、キャビティ1~4の全ショットのピーク圧力到達時間の平均値t1_ave~t4_aveを求め、ピーク圧力到達時間の平均値同士の差の絶対値|t1_ave-t2_ave|、|t1_ave-t3_ave|、|t1_ave-t4_ave|、|t2_ave-t3_ave|、|t2_ave-t4_ave|および|t3_ave-t4_ave|を算出し、それぞれ所定の閾値と比較し、所定の閾値より大きい場合、不良であると判断する。
これにより、ショットごとのピーク到達時間が毎回増減する傾向にある射出成形においても、製品の良否の判断を適切に行うことができる。
【0023】
1回目のショット時には、理想的には、射出成形機において対称に配置された4つの同形のキャビティの内圧波形は一致する。しかしながら、実際には、金型の製造誤差や、金型を加熱する4つのヒータの性能のばらつき等により、4つの内圧波形は一致しないことがある。このような最初の不一致を考慮することにより、良否の判断の精度を高めることができる。
【0024】
例えば、1回目のショット時に、キャビティ4のピーク圧力到達時間t4_1のみが小さく、キャビティ1~3のピーク圧力到達時間t1_1~t3_1が一致しており、差分がΔt(=t1_1-t4_1)であると仮定する。
n回目のショット時を示す図4では、キャビティ4のピーク圧力到達時間t4は、キャビティ2、3のピーク圧力到達時間t2、t3より小さく、t4<t3<t2となっている。差分Δtをオフセットとして考慮すると、キャビティ4のピーク圧力到達時間は、(t4+Δt)となる。ここで、t3<t4+Δt<t2となる場合、キャビティ2~4は、ほぼ同一のピーク圧力到達時間を有すると判断することができる。
このように、1回目のショット時のキャビティ1~4のピーク圧力到達時間t1_1~t4_1のばらつきは、キャビティ1~4が元来有する特性であり、n回目のショット時のキャビティ1~4のピーク圧力到達時間t1_n~t4_nのばらつきを求める際に、オフセットとして考慮して、製品の良否を判断することにより、良品として判断すべき製品を不良品として判断するといった誤判断を回避することができる。
【0025】
別の例として、各キャビティの1回目のショット時のピーク圧力到達時間と、n回目のショット時のピーク圧力到達時間と、の差分を用いることもできる。
例えば、1回目のショット時に、キャビティ1~4のピーク圧力到達時間がそれぞれt1_1~t4_1であり、n回目のショット時に、キャビティ1~4のピーク圧力到達時間がそれぞれt1_n~t4_nであると仮定する。
ここで、t2_1-t2_n≒t3_1-t3_n≒t4_1-t4_n=Δtであり、ほぼ等しいのに対して、t1_1-t1_n=Δt’>Δtである場合、n回目のショット時に、キャビティ1に何らかの不具合が生じたと考えられる。
【0026】
図5は、4つの同形のキャビティを有する射出成形機において、n回目のショット時のそれぞれのキャビティの内圧波形を示す他のグラフであり、横軸は時間を、縦軸は圧力を表している。図4では、ピーク圧力到達時間に着目していたが、図5では、内圧のピーク値に着目する。
4つのキャビティの内圧のピーク値P1~P4は、いずれも所定の範囲A内にあるが、キャビティ1の内圧のピーク値P1は、キャビティ2~4の内圧のピーク値P2~P4から離れており、キャビティ1に何らかの不具合が生じている可能性がある。
そこで、ピーク圧力到達時間の場合と同様に、情報処理装置としてのアンプ90を用いて、n回目のショット時の内圧のピーク値同士の差の絶対値を算出し、それぞれ所定の閾値と比較し、所定の閾値より大きい場合、不良であると判断する。
内圧のピーク値同士の差の絶対値は、|P2-P3|≒|P3-P4|<|P2-P4|<|P1-P2|<|P1-P3|<|P1-P4|となる。ここで、所定の閾値PTを設定し、PT<|P1-P2|<|P1-P3|<|P1-P4|となる場合、キャビティ1に何らかの不具合が生じていると判断することができる。
図5では、ピーク圧力到達時間のばらつきは小さいものの、内圧のピーク値のばらつきは比較的大きい。このように、ピーク圧力到達時間のばらつきのみに着目していては検出できない不良を、内圧のピーク値に着目することにより検出できるため、良否の判断の精度を高めることができる。
【0027】
n回目のショット時において、ピーク圧力到達時間のばらつきに関する値および内圧のピーク値のばらつきに関する値の少なくとも一方に基づいて、製品を不良と判断した場合、(n+1)回目、(n+2)回目のショット時においても、不良が続くならば、例えば、本来のタイミングより早期に金型クリーニングを実行すべきであると決定する等、潜在的な不良発生原因が存在する可能性を判断ことができる。
一方、n回目のショット時において、ピーク圧力到達時間のばらつきに関する値および内圧のピーク値のばらつきに関する値の少なくとも一方に基づいて、製品を不良と判断したが、(n+1)回目、(n+2)回目のショット時には、製品を良品として判断できるならば、引き続き射出成形を継続してもよい。
【0028】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
例えば、上述した実施形態では、射出成形機は、対称に配置された4つの同形のキャビティを有するものであったが、キャビティは、2つ以上であればよく、同形である必要もない。複数のキャビティが異形の場合には、上述したオフセットを考慮することにより、本発明を同様に適用することができる。
また、上述した実施形態では、エジェクタピンに固定された圧力センサを用いてキャビティの内圧を間接的に検出したが、キャビティ内またはキャビティ付近のランナーに固定された圧力センサを用いてキャビティの内圧を直接的に検出することもできる。
また、上述した実施形態では、ばらつきに関する値は、ピーク圧力到達時間同士または内圧のピーク値同士の差の絶対値として説明したが、ピーク圧力到達時間同士または内圧のピーク値の分散または標準偏差とすることもできる。なお、分散または標準偏差を用いる際には、複数のキャビティのうちのどのキャビティにおいて不具合が生じたかは不明なため、所定値以上の分散または標準偏差となったn回目のショットにおいて成形された複数の製品すべてを不良品として判断する必要がある。
また、上述した実施形態では、情報処理装置としてアンプを用いており、アンプが、ピーク圧力到達時間のばらつきに関する値を算出し、ばらつきに関する値を所定の閾値と比較し、製品の良否を判断していたが、これらの処理をパーソナルコンピュータ等によって行うこともできる。
【符号の説明】
【0029】
1…射出成形機、10…ベッド、30…射出ユニット、31…駆動部、32…ホッパ、33…シリンダ、50…金型、52…固定側取付板、53…固定側金型、53a…凹部、53b…ガイド孔、54…可動側取付板、55…スペーサブロック、56…エジェクタロッド、57…エジェクタプレート、58…可動側金型、58a…凸部、58b…ガイドピン、59…エジェクタピン、60…リターンピン、65…製品、80…型締ユニット、81…タイバー、90…アンプ(情報処理装置)、90a…接続コード、91…ヘッドアンプ、92…ゼロ調整部、93…ゲイン調整部、94…アナログデジタル変換部、95…制御部、96…記憶部、99…パーソナルコンピュータ、100…圧力検出装置、CT…キャビティ、S1~Sn…圧力センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6