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特許7349872判定装置、判定方法、学習済みモデル及び分類器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】判定装置、判定方法、学習済みモデル及び分類器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20230915BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
G01N30/86 G
G01N30/02 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019183593
(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公開番号】P2020064058
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2018192814
(32)【優先日】2018-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158610
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 新吾
(72)【発明者】
【氏名】丸山 潤
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-163475(JP,A)
【文献】特開2005-077144(JP,A)
【文献】特開2003-254956(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0160790(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/02,30/86,
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定現象で発生する第1ガス成分の保持時間が第1保持時間となるように設定されているガスクロマトグラフの分離カラムと、
前記第1ガス成分を検出し、前記第1ガス成分の成分量に応じた信号強度の検出信号を出力するように構成されているガスクロマトグラフの検出器と、
前記検出器が出力する信号強度を使った演算によって、前記特定現象に関係する所定判定の判定結果を出力するコンピュータと、
を備え、
前記コンピュータは、前記第1保持時間よりも短く且つ前記第1ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までに前記検出器が出力する信号強度を使って前記第1保持時間よりも短い時間で前記判定結果を出力するように構成されている、判定装置。
【請求項2】
特定現象で発生する第1ガス成分の保持時間が第1保持時間に設定され且つ、前記特定現象で前記第1ガス成分とともに発生する第2ガス成分の保持時間が前記第1保持時間よりも短い第2保持時間に設定されているガスクロマトグラフの分離カラムと、
前記第1ガス成分及び前記第2ガス成分を検出し、前記第1ガス成分及び前記第2ガス成分の成分量に応じた信号強度の検出信号を出力するように構成されているガスクロマトグラフの検出器と、
前記検出器が出力する信号強度を使った演算によって、前記特定現象に関係する所定判定の判定結果を出力するコンピュータと、
を備え、
前記特定現象で発生する前記第1ガス成分のピークの面積と前記第2ガス成分のピークの面積の相関係数が0.6以上であり、
前記コンピュータは、前記第1保持時間よりも短く且つ前記第2ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までに前記検出器が出力する信号強度を使って前記第1保持時間よりも短い時間で前記判定結果を出力するように構成されている、判定装置。
【請求項3】
前記コンピュータは、前記判定結果を出力する分類器を有し、
前記分類器は、前記特定時間までの信号強度を含み且つ前記特定時間から後の信号強度を含まない訓練用入力データと、前記訓練用入力データに対応する前記判定結果を示す訓練用出力データとを含む訓練用データセットを使って機械学習した学習済みモデルを持ち、前記特定時間までに前記検出器が出力する信号強度を入力データに変換して前記学習済みモデルに入力することにより、前記判定結果を前記第1保持時間よりも短い時間で前記学習済みモデルから出力させるように構成されている、
請求項1または請求項2に記載の判定装置。
【請求項4】
前記学習済みモデルは、ニューラルネットワークまたは多項ロジスティック回帰を用いて生成されたものである、
請求項3に記載の判定装置。
【請求項5】
(a)特定現象で発生する第1ガス成分の保持時間が第1保持時間に設定されているガスクロマトグラフの分離カラムに、前記特定現象で発生するサンプルガスを導入するステップと、
(b)前記分離カラムを通過したサンプルガスを、前記第1ガス成分の成分量に応じた信号強度の検出信号を出力するガスクロマトグラフの検出器に通して前記第1ガス成分の一部を検出するステップと、
(c)前記第1保持時間よりも短く且つ前記第1ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までに前記検出器が出力する信号強度を使ってコンピュータにより演算を行い、前記特定現象に関係する所定判定の判定結果を前記第1保持時間よりも短い時間で出力するステップと、
を備える、判定方法。
【請求項6】
(a)特定現象で発生する第1ガス成分の保持時間が第1保持時間に設定され且つ前記特定現象で前記第1ガス成分とともに発生する第2ガス成分の保持時間が前記第1保持時間よりも短い第2保持時間に設定されているガスクロマトグラフの分離カラムに、前記特定現象で発生するサンプルガスを導入するステップと、
(b)前記分離カラムを通過したサンプルガスを、前記第1ガス成分及び前記第2ガス成分の成分量に応じた信号強度の検出信号を出力するガスクロマトグラフの検出器に通して少なくとも前記第2ガス成分の一部を検出するステップと、
(c)前記第1保持時間よりも短く且つ前記第2ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までに前記検出器が出力する信号強度を使ってコンピュータにより演算を行い、前記特定現象に関係する所定判定の判定結果を前記第1保持時間よりも短い時間で出力するステップと、
を備え
前記特定現象で発生する前記第1ガス成分のピークの面積と前記第2ガス成分のピークの面積の相関係数が0.6以上である、判定方法。
【請求項7】
前記コンピュータは、前記検出器が出力する信号強度についての入力データと、前記入力データに対応する前記判定結果についての出力データの関係を機械学習可能な分類器を有し、
前記(a)ステップの前に、前記特定時間までの信号強度を含み且つ前記特定時間から後の信号強度を含まない訓練用入力データと、前記訓練用入力データに対応する前記判定結果を示す訓練用出力データとを含む訓練用データセットを使って機械学習を行って前記分類器において学習済みモデルを生成するステップを備える、
請求項5または請求項6に記載の判定方法。
【請求項8】
特定現象で発生する第1ガス成分についてガスクロマトグラフによって測定される少なくとも前記第1ガス成分の検出信号がコンピュータに入力された際に、前記特定現象に関係する所定判定を行うように前記コンピュータを機能させるための学習済みモデルであって、
前記第1ガス成分の保持時間が第1保持時間に設定されているガスクロマトグラフの分離カラムに、前記特定現象で発生するサンプルガスを導入し、前記分離カラムを通過したサンプルガスを、前記第1ガス成分の成分量に応じた信号強度の前記検出信号を出力するガスクロマトグラフの検出器に通して得られる入力データを加工した加工後入力データと、
前記加工後入力データに対応する、前記検出器が出力する信号強度を使った演算によって得られた前記所定判定についての判定結果の出力データと
からつくられた訓練用データセットを使って機械学習を行うことにより構成され、
前記加工後入力データが、前記第1保持時間よりも短く且つ前記第1ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までの信号強度を含み且つ前記特定時間から後の信号強度を含まないものであることを特徴とする、学習済みモデル。
【請求項9】
特定現象で発生する第1ガス成分及び第2ガス成分についてガスクロマトグラフによって測定される少なくとも前記第1ガス成分及び前記第2ガス成分の検出信号がコンピュータに入力された際に、前記特定現象に関係する所定判定を行うように前記コンピュータを機能させるための学習済みモデルであって、
前記第1ガス成分の保持時間が第1保持時間に設定され且つ前記第2ガス成分の保持時間が前記第1保持時間よりも短い第2保持時間に設定されているガスクロマトグラフの分離カラムに、前記特定現象で発生するサンプルガスを導入し、前記分離カラムを通過したサンプルガスを、前記第1ガス成分及び前記第2ガス成分の成分量に応じた信号強度の前記検出信号を出力するガスクロマトグラフの検出器に通して得られる入力データを加工した加工後入力データと、
前記加工後入力データに対応する、前記検出器が出力する信号強度を使った演算によって得られた前記所定判定についての判定結果の出力データと
からつくられた訓練用データセットを使って機械学習を行うことにより構成され、
前記特定現象で発生する前記第1ガス成分のピークの面積と前記第2ガス成分のピークの面積の相関係数が0.6以上であり、
前記加工後入力データが、前記第1保持時間よりも短く且つ前記第2ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までの信号強度を含み且つ前記特定時間から後の信号強度を含まないものであることを特徴とする、学習済みモデル。
【請求項10】
特定現象で発生する第1ガス成分についてガスクロマトグラフによって測定される少なくとも前記第1ガス成分の検出信号がコンピュータに入力された際に、前記特定現象に関係する所定判定を行うように前記コンピュータを機能させるための学習済みモデルで構成される分類器の製造方法であって、
前記第1ガス成分の保持時間が第1保持時間に設定されているガスクロマトグラフの分離カラムに、前記特定現象で発生するサンプルガスを導入し、前記分離カラムを通過したサンプルガスを、前記第1ガス成分の成分量に応じた信号強度の検出信号を出力するガスクロマトグラフの検出器に通して得られる加工前入力データを生成するステップと、
前記加工前入力データに対応する、前記検出器が出力する信号強度を使った演算によって、前記所定判定についての判定結果の出力データを生成するステップと、
前記加工前入力データから前記第1保持時間よりも短く且つ前記第1ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までの信号強度を含み且つ前記特定時間から後の信号強度を含まないように加工された加工後入力データを生成するステップと、
前記加工後入力データと前記出力データとからつくられた訓練用データセットを使って機械学習を行うことにより前記学習済みモデルを生成するステップと
を備える、分類器の製造方法。
【請求項11】
特定現象で発生する第1ガス成分及び第2ガス成分についてガスクロマトグラフによって測定される少なくとも前記第1ガス成分及び前記第2ガス成分の検出信号がコンピュータに入力された際に、前記特定現象に関係する所定判定を行うように前記コンピュータを機能させるための学習済みモデルで構成されている分類器の製造方法であって、
前記第1ガス成分の保持時間が第1保持時間に設定され且つ前記第2ガス成分の保持時間が前記第1保持時間よりも短い第2保持時間に設定されているガスクロマトグラフの分離カラムに、前記特定現象で発生するサンプルガスを導入し、前記分離カラムを通過したサンプルガスを、前記第1ガス成分及び前記第2ガス成分の成分量に応じた信号強度の検出信号を出力するガスクロマトグラフの検出器に通して得られる加工前入力データを生成するステップと、
前記加工前入力データに対応する、前記検出器が出力する信号強度を使った演算によって、前記所定判定についての判定結果の出力データを生成するステップと、
前記加工前入力データから前記第1保持時間よりも短く且つ前記第2ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までの信号強度を含み且つ前記特定時間から後の信号強度を含まないように加工された加工後入力データを生成するステップと、
前記加工後入力データと前記出力データとからつくられた訓練用データセットを使って機械学習を行うことにより前記学習済みモデルを生成するステップと
を備え
前記特定現象で発生する前記第1ガス成分のピークの面積と前記第2ガス成分のピークの面積の相関係数が0.6以上である、分類器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ガスクロマトグラフの分離カラムを用いる判定装置及び判定方法、ガスクロマトグラフを用いて得られたデータを使った機械学習によって生成される学習済みモデル、並びにその学習済みモデルによって構成される分類器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のガスクロマトグラフを用いた特定現象に関する判定では、特許文献1(特開2003-254956号公報)に記載されているように、例えば、特定現象である呼吸により発生する呼気をガスクロマトグラフの分離カラムで複数のガス成分に分離して、ガス成分の分析が行われる。そして、呼気に含まれているガス成分の濃度を測定した後に、分析対象のガス成分の濃度に基づいて口臭の有無などの判定が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-254956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているようなガスクロマトグラフを用いた判定装置では、分離カラムにおける保持時間が長いガス成分が分析対象のガス成分として含まれている場合に、ガスクロマトグラフの測定時間が掛かり、その結果、判定結果を得るまでに長い時間が掛かる。
学術的な判定及び医学的な判定などでは、正確性が重視されるため、測定時間が長くなることが許容される傾向がある。しかしながら、例えば、口臭のチェックは、日常生活でも行われており、日常的に行われる口臭のチェックでは、正確さを多少犠牲にしても、判定までの時間を短縮することが重視される場合がある。例えば、外出する前に、判定者自身の口臭の程度を簡単にチェックする場合などである。また、集団健康診断での簡易聴力検査等のように、正確性を多少犠牲にしても迅速に健常者をスクリーニングする検査が行われることもある。
【0005】
このように、ガスクロマトグラフの分離カラムを使用する判定装置及び判定方法においては、判定結果を出力するまでに掛かる時間を短縮するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
一見地に係る判定装置は、特定現象で発生する第1ガス成分の保持時間が第1保持時間となるように設定されているガスクロマトグラフの分離カラムと、第1ガス成分を検出し、第1ガス成分の成分量に応じた信号強度の検出信号を出力するように構成されているガスクロマトグラフの検出器と、検出器が出力する信号強度を使った演算によって、特定現象に関係するものであって且つ少なくとも第1ガス成分の濃度を入力変数として判定する所定判定の判定結果を出力するコンピュータと、を備え、コンピュータは、第1保持時間よりも短く且つ第1ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までに検出器が出力する信号強度を使って第1保持時間よりも短い時間で判定結果を出力するように構成されている。
このように構成された判定装置では、第1保持時間より短く且つ第1ガス成分のピークが発生している期間内の特定時間までに検出器が出力する信号強度を使って第1保持時間よりも短い時間で判定結果を出力するので、第1保持時間よりも長い時間で判定結果を出力する従来の判定装置に比べて、判定時間を出力するまでに掛かる時間を短縮することができる。
【0007】
他の見地に係る判定装置は、特定現象で発生する第1ガス成分の保持時間が第1保持時間に設定され且つ、特定現象で第1ガス成分とともに発生する第2ガス成分の保持時間が第1保持時間よりも短い第2保持時間に設定されているガスクロマトグラフの分離カラムと、第1ガス成分及び第2ガス成分を検出し、第1ガス成分及び第2ガス成分の成分量に応じた信号強度の検出信号を出力するように構成されているガスクロマトグラフの検出器と、検出器が出力する信号強度を使った演算によって、特定現象に関係するものであって且つ少なくとも第1ガス成分及び第2ガス成分の濃度を入力変数として判定する所定判定の判定結果を出力するコンピュータと、を備え、コンピュータは、第1保持時間よりも短く且つ第2ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までに検出器が出力する信号強度を使って第1保持時間よりも短い時間で判定結果を出力するように構成されている。
このように構成された判定装置では、第1保持時間より短く且つ第2ガス成分のピークが発生している期間内の特定時間までに検出器が出力する信号強度を使って第1保持時間よりも短い時間で判定結果を出力するので、第1保持時間よりも長い時間で判定結果を出力する従来の判定装置に比べて、判定時間を出力するまでに掛かる時間を短縮することができる。
【0008】
上述の判定装置において、コンピュータは、判定結果を出力する分類器を有し、分類器は、特定時間までの信号強度を含み且つ特定時間から後の信号強度を含まない訓練用入力データと、訓練用入力データに対応する判定結果を示す訓練用出力データとを含む訓練用データセットを使って機械学習した学習済みモデルを持ち、特定時間までに検出器が出力する信号強度を入力データに変換して学習済みモデルに入力することにより、判定結果を第1保持時間よりも短い時間で学習済みモデルから出力させるように構成することができる。このように構成された判定装置では、特定時間までの信号強度を含み且つ特定時間から後の信号強度を含まない訓練用データセットで機械学習した学習済みモデルから判定結果を出力させるので、判定結果の信頼性を向上させることができる。
上述の判定装置において、学習済みモデルは、ニューラルネットワークまたは多項ロジスティック回帰を用いて生成することができる。このように構成された判定装置では、ニューラルネットワークまたは多項ロジスティック回帰を用いて学習済みモデルが生成された場合に判定結果に高い信頼性を得られることが確認できており、性能の良い判定装置を実現することができる。
【0009】
一見地に係る判定方法は、(a)特定現象で発生する第1ガス成分の保持時間が第1保持時間に設定されているガスクロマトグラフの分離カラムに、特定現象で発生するサンプルガスを導入するステップと、(b)分離カラムを通過したサンプルガスを、第1ガス成分の成分量に応じた信号強度の検出信号を出力するガスクロマトグラフの検出器に通して第1ガス成分を検出するステップと、(c)第1保持時間よりも短く且つ第1ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までに検出器が出力する信号強度を使ってコンピュータにより演算を行い、特定現象に関係するものであって且つ少なくとも第1ガス成分の濃度を入力変数として判定する所定判定の判定結果を第1保持時間よりも短い時間で出力するステップと、を備える。
このように構成された判定方法では、第1保持時間より短く且つ第1ガス成分のピークが発生している期間内の特定時間までに検出器が出力する信号強度を使って第1保持時間よりも短い時間で判定結果を出力するので、第1保持時間よりも長い時間で判定結果を出力する従来の判定方法に比べて、判定時間を出力するまでに掛かる時間を短縮することができる。
【0010】
他の見地に係る判定方法は、(a)特定現象で発生する第1ガス成分の保持時間が第1保持時間に設定され且つ特定現象で第1ガス成分とともに発生する第2ガス成分の保持時間が第1保持時間よりも短い第2保持時間に設定されているガスクロマトグラフの分離カラムに、特定現象で発生するサンプルガスを導入するステップと、(b)分離カラムを通過したサンプルガスを、第1ガス成分及び第2ガス成分の成分量に応じた信号強度の検出信号を出力するガスクロマトグラフの検出器に通して少なくとも第2ガス成分の一部を検出するステップと、(c)第1保持時間よりも短く且つ第2ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までに検出器が出力する信号強度を使ってコンピュータにより演算を行い、特定現象に関係するものであって且つ少なくとも第1ガス成分及び第2ガス成分の濃度を入力変数として判定する所定判定の判定結果を第1保持時間よりも短い時間で出力するステップとを備える。
このように構成された判定方法では、第1保持時間より短く且つ第2ガス成分のピークが発生している期間内の特定時間までに検出器が出力する信号強度を使って第1保持時間よりも短い時間で判定結果を出力するので、第1保持時間よりも長い時間で判定結果を出力する従来の判定方法に比べて、判定時間を出力するまでに掛かる時間を短縮することができる。
【0011】
上述の判定方法において、コンピュータは、検出器が出力する信号強度についての入力データと、入力データに対応する判定結果についての出力データの関係を機械学習可能な分類器を有し、(a)ステップの前に、特定時間までの信号強度を含み且つ特定時間から後の信号強度を含まない訓練用入力データと、訓練用入力データに対応する判定結果を示す訓練用出力データとを含む訓練用データセットを使って機械学習を行って分類器において学習済みモデルを生成するステップを備えるように構成できる。このように構成された判定方法では、特定時間までの信号強度を含み且つ特定時間から後の信号強度を含まない訓練用入力データを含む訓練用データセットで学習した学習済みモデルから判定結果を出力させるので、判定結果の信頼性を向上させることができる。
【0012】
一見地に係る学習済みモデルは、特定現象で発生する第1ガス成分についてガスクロマトグラフによって測定される少なくとも第1ガス成分の濃度を入力変数として判定するものであって且つ特定現象に関係する所定判定を行うようにコンピュータを機能させるための学習済みモデルであって、第1ガス成分の保持時間が第1保持時間に設定されているガスクロマトグラフの分離カラムに、特定現象で発生するサンプルガスを導入し、分離カラムを通過したサンプルガスを、第1ガス成分の成分量に応じた信号強度の検出信号を出力するガスクロマトグラフの検出器に通して得られる入力データと、入力データに対応する、検出器が出力する信号強度を使った演算によって得られた所定判定についての判定結果の出力データとからつくられた訓練用データセットを使って機械学習を行うことにより構成され、入力データが、第1保持時間よりも短く且つ第1ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までの信号強度を含み且つ特定時間から後の信号強度を含まないものであることを特徴とする。
このように構成された学習済みモデルでは、第1保持時間よりも短く且つ第1ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までの信号強度を含み且つ特定時間から後の信号強度を含まない訓練用データセットで機械学習しているので、第1保持時間よりも短い時間で出力される判定結果の信頼性を向上させることができる。
【0013】
他の見地に係る学習済みモデルは、特定現象で発生する第1ガス成分及び第2ガス成分についてガスクロマトグラフによって測定される少なくとも第1ガス成分及び第2ガス成分の濃度を入力変数として判定するものであって且つ特定現象に関係する所定判定を行うようにコンピュータを機能させるための学習済みモデルであって、第1ガス成分の保持時間が第1保持時間に設定され且つ第2ガス成分の保持時間が第1保持時間よりも短い第2保持時間に設定されているガスクロマトグラフの分離カラムに、特定現象で発生するサンプルガスを導入し、分離カラムを通過したサンプルガスを、第1ガス成分及び第2ガス成分の成分量に応じた信号強度の検出信号を出力するガスクロマトグラフの検出器に通して得られる入力データと、入力データに対応する、検出器が出力する信号強度を使った演算によって得られた所定判定についての判定結果の出力データとからつくられた訓練用データセットを使って機械学習を行うことにより構成され、入力データが、第1保持時間よりも短く且つ第2ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までの信号強度を含み且つ特定時間から後の信号強度を含まないものであることを特徴とする。
このように構成された学習済みモデルでは、第1保持時間よりも短く且つ第2ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までの信号強度を含み且つ特定時間から後の信号強度を含まない訓練用入力データで機械学習しているので、第1保持時間よりも短い時間で出力される判定結果の信頼性を向上させることができる。
【0014】
一見地に係る分類器の製造方法は、特定現象で発生する第1ガス成分についてガスクロマトグラフによって測定される少なくとも第1ガス成分の濃度を入力変数として判定するものであって且つ特定現象に関係する所定判定を行うようにコンピュータを機能させるための学習済みモデルで構成される分類器の製造方法であって、第1ガス成分の保持時間が第1保持時間に設定されているガスクロマトグラフの分離カラムに、特定現象で発生するサンプルガスを導入し、分離カラムを通過したサンプルガスを、第1ガス成分の成分量に応じた信号強度の検出信号を出力するガスクロマトグラフの検出器に通して得られる加工前入力データを生成するステップと、加工前入力データに対応する、検出器が出力する信号強度を使った演算によって、所定判定についての判定結果の出力データを生成するステップと、加工前入力データから第1保持時間よりも短く且つ第1ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までの信号強度を含み且つ特定時間から後の信号強度を含まないように加工された加工後入力データを生成するステップと、加工後入力データと出力データとからつくられた訓練用データセットを使って機械学習を行うことにより学習済みモデルを生成するステップとを備える。
このように構成された分類器の製造方法では、学習済みモデルが、第1保持時間よりも短く且つ第1ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までの信号強度を含み且つ特定時間から後の信号強度を含まないように加工された加工後入力データと出力データとからつくられた訓練用データセットを使って機械学習を行うことにより生成されているので、第1保持時間よりも短い時間で出力される判定結果の信頼性を向上させることができる。
【0015】
他の一見地に係る分類器の製造方法は、特定現象で発生する第1ガス成分及び第2ガス成分についてガスクロマトグラフによって測定される少なくとも第1ガス成分及び第2ガス成分の濃度を入力変数として判定するものであって且つ特定現象に関係する所定判定を行うようにコンピュータを機能させるための学習済みモデルで構成されている分類器の製造方法であって、第1ガス成分の保持時間が第1保持時間に設定され且つ第2ガス成分の保持時間が第1保持時間よりも短い第2保持時間に設定されているガスクロマトグラフの分離カラムに、特定現象で発生するサンプルガスを導入し、分離カラムを通過したサンプルガスを、第1ガス成分及び第2ガス成分の成分量に応じた信号強度の検出信号を出力するガスクロマトグラフの検出器に通して得られる加工前入力データを生成するステップと、加工前入力データに対応する、検出器が出力する信号強度を使った演算によって、所定判定についての判定結果の出力データを生成するステップと、加工前入力データから第1保持時間よりも短く且つ第2ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までの信号強度を含み且つ特定時間から後の信号強度を含まないように加工された加工後入力データを生成するステップと、加工後入力データと出力データとからつくられた訓練用データセットを使って機械学習を行うことにより学習済みモデルを生成するステップとを備える。
このように構成された分類器の製造方法では、学習済みモデルが、第1保持時間よりも短く且つ第2ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間までの信号強度を含み且つ特定時間から後の信号強度を含まないように加工された加工後入力データと出力データとからつくられた訓練用データセットを使って機械学習を行うことにより生成されているので、第1保持時間よりも短い時間で出力される判定結果の信頼性を向上させることができる。
上述の判定装置、上述の判定方法、上述の学習済みモデル、または上述の分類器の製造方法において、訓練用データセットには、第1ガス成分のピークに隣接し且つ所定判定とは無関係なガス成分のピークに関する情報を含むものを用いることができる。このように構成された判定装置、上述の判定方法、上述の学習済みモデル、または上述の分類器の製造方法では、無関係なガス成分のピークが判定結果に及ぼす影響を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
上述の判定装置、上述の判定方法、上述の学習済みモデル、または上述の分類器の製造方法により製造された分類器を用いれば、ガスクロマトグラフの分離カラムを使用する判定装置及び判定方法においては、判定結果を出力するまでに掛かる時間を短縮する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1及び第2実施形態に係る判定装置の構成例の概要を示す模式図。
図2】検出器から出力される第1ガス成分の出力電圧を説明するためのグラフ。
図3】特定時間を説明するためのグラフ。
図4】第1実施形態に係る判定方法の概要を示すフローチャート。
図5】第1及び第2実施形態に係る機械学習を説明するためのブロック図。
図6図1のガスクロマトグラフで用いられる検出器の一例を示す概念図。
図7】コンピュータの構成例の概要を示すブロック図。
図8】隠れ層が1層の多層パーセプトロンを説明するための概念図。
図9】検出器から出力される第1ガス成分及び第2ガス成分の出力電圧を説明するためのグラフ。
図10】第2実施形態に係る判定方法の概要を示すフローチャート。
図11】学習ステップ数と正解率の関係の一例を示すグラフ。
図12】学習ステップ数と正解率の関係の一例を示すグラフ。
図13】シグモイド関数を説明するためのグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
(1)判定装置1の概要
図1には、判定装置1の一構成例の概要が示されている。判定装置1は、ガスクロマトグラフ10の分離カラム15と、ガスクロマトグラフ10の検出器16と、所定判定についての判定結果を出力するコンピュータ30とを備えている。また、図2には、1回の測定で、検出器16から出力される出力信号の一例が示されている。特定現象で第1ガス成分が発生している場合には、検出器16から出力される検出信号には、第1ガス成分のピークP1が現れる。また、図2には、第1ガス成分についての第1保持時間t1と特定時間st1とが記載されている。特定時間st1は、第1ガス成分のピークP1が検出されている期間内の時間である。言い換えると、特定時間st1は、経過時間0秒からピークP1の傾斜部分が現れている期間内のいずれかの時点に達するまでの時間である。経過時間0秒とは、サンプルガスを分離カラム15に導入した時点である。図3に示されているように、ピークPが検出された期間tpは、ピークPの頂点PPの出力電圧Vpの2分の1の出力電圧Vp/2の点を通り、ピークPの出力電圧Vp/2の点の傾きを持つ直線L1,L2と出力電圧0Vの軸とが交わる点の間の期間で定義する。第1実施形態では、例えば、出力電圧Vpの8割よりも低い出力電圧が現れるまでの時間を特定時間st1とすることが好ましい。特定時間st1が短い方が判定結果を出力するまでの時間を短くできるからである。
分離カラム15は、特定現象で発生する第1ガス成分の保持時間が第1保持時間t1となるように設定されている。見方を変えると、第1ガス成分からなるガスを分離カラム15に導入した時間からピークPの頂点PPが測定される時間を、ガスクロマトグラフ10で測定すれば、第1保持時間t1を特定することができる。
【0019】
検出器16は、第1ガス成分を検出できるように構成されている。また、検出器16は、第1ガス成分の成分量に応じた信号強度の検出信号を出力するように構成されている。図2に示されている例では、検出信号の信号強度が出力電圧に対応する。
コンピュータ30は、検出器16が出力する出力電圧(信号強度)を使った演算によって特定現象に関係する所定判定についての判定結果を出力するように構成されている。所定判定は、少なくとも第1ガス成分の濃度を入力変数として判定するものである。
また、コンピュータ30は、第1保持時間t1よりも短く且つ第1ガス成分のピークP1が検出されている期間内の特定時間st1までに検出器16が出力する信号強度を使って第1保持時間t1よりも短い時間で判定結果を出力するように構成されている。
なお、図2に示されているピークP0は、雑ガスのピークである。雑ガスも特定現象で発生する。しかし、雑ガスのピークP0は、所定判定とは相関の無いものであり、雑ガスの信号強度は所定判定の入力変数には含まれていない。
なお、従来の判定方法及び判定装置においては、雑ガスなどの判定に無関係なピークP0と判定に係わるピークP1が特に隣接している場合、ピークP0がピークP1に影響を及ぼすことがあるため、ピークP0に係る値を元にピークP1に係る値を補正することが一般に行われている。このような従来の補正処理の課題として、ピークP0がピークP1より大きい場合などにおいて、補正後のピークP1のガス成分の濃度が負の値となるなどの異常が発生し、所望の判定ができないことがある。
一方、判定に無関係なピークP0の部分も訓練用入力データに含める分類器では、上述のようなピークに関する補正処理をすることなく、ピークP0の影響を加味した学習を行うことができるため、判定に無関係なピークP0と判定に係わるピークP1が隣接しており且つ、判定に無関係なピークP0が判定に係わるピークP1より大きい場合でも正解率の高い判定が可能になる。なお、ここで、判定に係わるピークP1とは、所定判定の入力変数の濃度を与えるピークと言い換えることができる。
【0020】
(2)判定方法の概要
第1実施形態の判定装置1を用いて行われる判定方法は、図4に示されているフローで行われる。
まず、ステップS1では、上述のガスクロマトグラフ10の分離カラム15に、特定現象で発生するサンプルガスを導入する。
ステップS2では、分離カラム15を通過したサンプルガスを、上述のガスクロマトグラフ10の検出器16に通して前記第1ガス成分を検出する。
ステップS3では、第1保持時間t1よりも短く且つ第1ガス成分のピークP1が検出されている期間内の特定時間st1までに検出器16が出力する信号強度を使ってコンピュータ30により演算を行い、上述の所定判定についての判定結果を第1保持時間t1よりも短い時間で出力する。
【0021】
(3)コンピュータ30の構成の概要
図1に示されているように、コンピュータ30は、分類器31を有している。ここで、分類器31は、所定のモデルを有し、学習によって所定のモデルのモデルパラメータを最適化する機能を持つ機器である。分類器31は、特定現象に属する個々の現象を、その種類、性質、系統などに分類する機器と見ることもできる。学習後の所定のモデルを学習済みモデルという。学習済みモデルは、例えば、多項ロジスティック回帰またはニューラルネットワークを利用して生成される。判定装置1の分類器31は、学習済みモデル32を含んでいる。ニューラルネットワークを利用する場合には、例えば、図8に示されているように、隠れ層を持つ多層パーセプトロンを用いることができる。図8に示されている多層パーセプトロンは、1層の隠れ層を持つタイプである。この第1実施形態及び後述の第2実施形態において、学習済みモデル32は、1または複数の入力変数に対して判定結果としての出力値または出力ベクトルを与える関数と言い換えることができる。図8においては、ニューロン36と入力信号と出力信号が一部省略して示されている。
(3-1)学習済みモデル32によって構成された分類器31の製造方法
分類器31の製造方法の中核となるステップは、学習済みモデル32の生成に関するステップである。図5に、学習済みモデル32を生成するフローが模式的に示されている。この図5には、学習フェーズPh1と判定フェーズPh2とが示されている。
【0022】
(3-1-1)学習フェーズPh1
学習フェーズPh1では、まず、ステップS11で、ガスクロマトグラフ10に特定現象で発生するサンプルガスを導入して、特定現象で発生するガス成分の測定を行う。そして、検出器16が時間の経過にともなって出力する信号強度についての入力データを複数のケースについて取得する。また、各入力データに対応する判定結果も出力データとして各ケースについて取得する。前述の複数組みの入力データと出力データが生データの集合41になる。
ステップS12で、生データの集合、言い換えると複数組みの入力データと出力データが、分類器31に入力できるようにデータ変換される。このステップS12では、入力データが、特定時間st1までに検出器16が出力する信号強度だけを残すように加工される。言い換えると、入力データから特定時間st1の後のデータが削除される。このような加工がされた入力データを加工後入力データという。特定時間st1までの入力データが変換されて、訓練用入力データが作成される。入力データは、例えば予め決められた要素数(例えば1000個)の1次元配列のデータに変換される。出力データは、データ変換されることによって訓練用出力データになる。なお、出力データは、データ変換しなくても分類器31の学習に使用できる場合があり、そのような場合には、出力データがそのまま訓練用出力データになる。これら複数組みの訓練用入力データと訓練用出力データが訓練用データセット42になる。
分類器31は、訓練用入力データと訓練用出力データの関係を学習できる分類器である。ステップS13では、分類器31は、訓練用データセット42を使って機械学習を行い、学習済みモデル32を生成する。言い換えると、学習済みモデル32で構成された分類器31が、ステップS11からステップS13を経て製造される。ステップS13で行われるのは、教師あり学習である。
【0023】
(3-1-2)判定フェーズPh2
判定装置1は、学習フェーズPh1で生成された学習済みモデル32で構成された分類器31を用いて製造される。従って、判定装置1のコンピュータ30は、学習済みモデル32で構成された分類器31を備えている。
1回の判定では、特定現象で発生したサンプルガス51がガスクロマトグラフ10に導入される。ガスクロマトグラフ10は、サンプルガスの測定を行って、検出信号52をコンピュータ30に出力する。検出信号52は、例えば、時間の経過にともなって信号強度である出力電圧が変化するアナログ信号である。コンピュータ30は、検出信号52を、コンピュータ30のデータ変換部33で、予め決められた要素数の1次元配列の変換後データ34に変換する。変換後データ34の要素数は、訓練用入力データの要素数と同じであることが好ましい。
分類器31に変換後データ53が入力されると、学習済みモデル32が変換後データ53を入力として、判定結果54を出力する。
【0024】
(3-2)コンピュータ30のハードウェア
図7は、コンピュータ30の一例の概要を示すブロック図である。例えば、コンピュータ30は、プログラム命令を実行するための中央演算処理装置(CPU)61を備えている。CPU61は、コンピュータ30のモジュール間で、データや制御情報などをやり取りするためのバス69に接続されている。ROM62及びRAM63は、プログラムを記憶させる場所及びデータを記憶させる場所を有する。これらROM62及びRAM63は、バス69を介してCPU61に接続されている。コンピュータ30は、通信ネットワーク(図示せず)を介してプログラミング及びデータを受信し得るが、例えば、ROM62及びRAM63により処理及び/または通信される。また、CPU61は、入出力ポート64を介して、例えば入力装置であるタッチスクリーン65及び補助記憶装置であるUSBフラッシュドライブ66などの周辺機器に接続されている。なお、コンピュータ30を構成するCPU61などのハードウェア要素、及びコンピュータ30を動作させるためのプログラムなどのソフトウェア要素には、従来から知られているものを用いることができる。
なお、コンピュータ30が、メモリに格納された実行可能なプログラム及びデータをCPUによって解釈実行することで制御を行う場合について説明した。このプログラム及びデータは、記録媒体を介してメモリ内に導入されてもよいし、記録媒体上から直接実行されてもよい。また、記録媒体からメモリへのプログラム及びデータの導入は、電話回線や搬送路等を介して行ってもよい。しかし、コンピュータ30は、CPUとメモリを用いて行うのと同様の制御を行うことができる集積回路(IC)を用いて構成されてもよい。ここでいうICには、LSI(large-scale integrated circuit)、ASIC(application-specific integrated circuit)、ゲートアレイ、FPGA(field programmable gate array)等が含まれる。
【0025】
(4)ガスクロマトグラフ10
図1に示されているように、ガスクロマトグラフ10は、エアポンプ11とガス浄化装置12と流量調整器13と流量センサ14と分離カラム15と検出器16とカラムヒータ20とを備えている。
分離カラム15は、例えば、円筒状の樹脂成形品と、樹脂成形品の外面を覆う金属被覆を有している。なお、ここでは、分離カラム15が充填カラムである場合について説明するが、分離カラム15にキャピラリーカラムを使用してもよい。樹脂成形品は、例えばポリフッ化エチレン樹脂で形成される。金属被覆は、例えば銅管又は銅箔を用いて形成される。円筒状の樹脂成形品の内部には、固定相を形成する充填材が充填されている。充填材は、例えば珪藻土、モレキュラシーブ、ポーラスポリマー、又はアルミナである。また、固定相を形成するために、充填材には液相がコーティングされていてもよい。分離カラム15の上流側には、サンプルガスを導入するためのサンプルガス導入部17が設けられている。
分離カラム15は、例えば所定のカラム温度でサンプルガスの分離を行う。分離カラム15を所定のカラム温度にするために、分離カラム15にはカラムヒータ20が取り付けられている。カラムヒータ20は、例えば、面状発熱体であるラバーヒータであり、分離カラム15の上に巻きつけられている。さらに、カラムヒータ20の上に保温材(図示せず)が巻きつけられている。分離カラム15には、サーミスタなどの温度センサ(図示せず)が取り付けられている。コンピュータ30は、温度センサで分離カラム15の温度を測定しながら、カラムヒータ20で分離カラム15の温度が適切なカラム温度に保持されるように制御する。
【0026】
ガスクロマトグラフ10のキャリアガスは、例えば、空気である。エアポンプ11は、空気などのキャリアガスをガスクロマトグラフ10に流す装置である。ガス浄化装置12は、キャリアガスを浄化する装置であり、キャリアガスを浄化するために例えばガス吸着剤やガス分解触媒を備えている。ガス吸着剤は、例えば活性炭やシリカゲルである。また、ガス分解触媒は、例えば酸化触媒である。
流量調整器13は、分離カラム15に送られるキャリアガスの流量が一定量になるように調整する。流量調整器13には、例えば所定の範囲で流量が弁開度に比例する特性を有するリニアバルブが用いられる。流量センサ14は、分離カラム15に送られるキャリアガスの流量を測定する。
検出器16は、分離カラム15の下流側に配置され、分離カラム15を通過してきたサンプルガスの成分を検出する。検出器16は、例えば、後述するような半導体ガスセンサである。
【0027】
図6は、図1のガスクロマトグラフ10で用いられる検出器16の一例を示す概念図である。検出器16は、半導体ガスセンサであって、金属酸化物半導体を主成分とする感ガス体16aと、感ガス体16a中に埋設したコイル状のヒータ兼用電極16bと、ヒータ兼用電極16bのコイルの中心又はその近傍を貫通するように感ガス体16a中に埋設した半導体抵抗検出用電極16cと、電極パッド16d,16eとを備えている。ヒータ兼用電極16bの両端が、2つの電極パッド16dに接続されている。また、半導体抵抗検出用電極16cが、電極パッド16eに接続されている。電極パッド16d,16eが、ヒータ兼用電極16bと半導体抵抗検出用電極16cとの間の抵抗値の変化を取り出すために用いられる。コンピュータ30は、この抵抗値の変化を出力電圧の変化として検出器16から入力する。
【0028】
(5)口臭判定装置への適用
(5-1)口臭判定装置の概要
判定装置1は、例えば、口臭を判定する口臭判定装置に適用することができる。判定装置1を口臭判定装置に適用する場合、特定現象は、人の呼気の発生になる。サンプルガスは、人の呼気になる。口臭は、例えば、人の呼気に含まれる硫化水素ガスの濃度と、メチルメルカプタンガスの濃度とが両方ともそれぞれに設定された第1閾値と第2閾値を超えた場合に、「明確な不快感が生じる口臭」があるという判定結果になるものとしている。
検出器16は、例えば図6に示された半導体ガスセンサである場合、感ガス体16aの抵抗値の変化に基づいて検知対象のガス成分を検出し、検出結果を出力電圧としてコンピュータ30に出力する。検知対象のガス成分としては、例えば口臭の要因となる揮発性硫化物(VSC:Volatile Sulphur Compounds)があり、VSCとしては例えば、硫化水素、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン及びジメチルサルファイドがある。感ガス体16aを形成する金属酸化物としては、例えば、SnO2、In2O3、ZnO、WO3が挙げられる。
【0029】
ガスクロマトグラフ10の分離カラム15において、硫化水素ガスの保持時間が60秒程度に設定され、メチルメルカプタンガスの保持時間が145秒に設定されているものとする。
第1実施形態では、硫化水素ガスが第1ガス成分であり、硫化水素ガスの保持時間が第1保持時間t1である。
このような場合、口臭判定装置としては、145秒までの検出器16の検出信号52を使い、コンピュータによって、硫化水素ガスの濃度とメチルメルカプタンガスの濃度を算出し、硫化水素ガスの濃度が第2閾値を超え且つメチルメルカプタンガスの濃度が第1閾値を超えた場合に、「明確な不快感が生じる口臭」があるという判定結果を出力するように構成することができる。
【0030】
これら、第1閾値及び第2閾値を定めるには、例えば、まず、多数の人々の息を測定者が実際に嗅いで、測定者が「明確な不快感が生じる口臭」であるか否かの分類を行う。例えば、分類された測定結果を硫化水素ガスの濃度の順に並べて境界線を適切に引いて第2閾値を決め、また、分類された測定結果をメチルメルカプタンガスの濃度の順に並べて境界線を適切に引いて第1閾値を決める。なお、ここでは、説明を簡単にするために、第1閾値及び第2閾値の値をそれぞれに決めたが、硫化水素ガスの濃度とメチルメルカプタンガスの濃度の2つの変数を持つ式で、境界線を決めてもよい。さらには、後述する学習では、閾値を決めずに、ガスクロマトグラフ10による測定結果と測定者による明確な不快感が生じる口臭」であるか否かの分類の結果とを直接用いて学習を行ってもよい。
上述のような145秒以上の時間を掛ける精度の良い判定方法に対し、判定装置1は、第1ガス成分の第1保持時間t1である60秒よりも短い時間で、「明確な不快感が生じる口臭」があるか否かの判定結果を出力するように構成される。このように時間を短縮するために、コンピュータ30は、60秒(第1保持時間t1)よりも短い45秒(特定時間st1)までに検出器16が出力する出力電圧を使って判定結果を出力する。具体的には、コンピュータ30が、45秒(特定時間st1)までの検出器16の出力電圧を示す検出信号52をデータ変換部33(図5参照)で変換して、変換後データ53を分類器31の学習済みモデル32に与える。学習済みモデル32は、45秒までの検出器16の出力電圧から、「明確な不快感が生じる口臭」があるか否かの判定結果を出力する。コンピュータ30が学習済みモデル32を用いて非常に短い時間で計算するので、コンピュータ30は、第1保持時間t1である60秒よりも短い時間で判定結果を出力することができる。
【0031】
(5-2)口臭判定装置のための分類器31の製造方法
口臭判定装置のための分類器31の製造方法において重要なステップは、図5に示されている学習済みモデル32の生成ステップである。
学習フェーズPh1では、まず、ステップS11で、人体の活動及び人体に寄生する種々の生物の活動で発生するサンプルガスをガスクロマトグラフ10に導入して、硫化水素ガス(第1ガス成分)などの測定を行う。この場合、特定現象は、人体の活動及び人体に寄生する種々の生物の活動であるが、さらに詳細には、口腔内の嫌気性菌の代謝である。嫌気性菌が、代謝の過程で硫化水素及びメチルメルカプタンなどの口臭の原因となるガス成分を生産する。
コンピュータ30は、検出器16が時間の経過にともなって出力する出力電圧についての入力データを複数のケースについて取得する。例えば、複数の人物についての息及び、同一人物であっても異なる状況で吐き出す息を、判定装置1で測定する。また、各入力データに対応する判定結果も出力データとして各ケースについて取得する。例えば、複数の人物についての息及び、同一人物であっても異なる状況で吐き出す息を、測定者が嗅いで、「明確な不快感が生じる口臭」があるか否かの判定を行う。息の測定結果である入力データと測定者が行った判断結果である出力データとの複数組みの生データの集合41が準備される。
【0032】
ステップS12で、生データの集合、言い換えると複数組みの入力データと出力データが、分類器31に入力できるようにデータ変換される。このステップS12では、入力データが、45秒までに検出器16が出力する出力電圧(信号強度)だけを残すように加工される。言い換えると、入力データから45秒よりも後のデータが削除される。そして、45秒までの入力データが変換されて、訓練用入力データが作成される。入力データは、例えば予め決められた要素数(例えば1000個)の1次元配列のデータに変換される。出力データは、データ変換されることによって訓練用出力データになる。これら複数組みの訓練用入力データと訓練用出力データが訓練用データセット42になる。分類器31は、訓練用入力データと訓練用出力データの関係を、例えば多層ロジスティック回帰またはニューラルネットワークを用いて学習できる分類器である。例えば、約160人の口臭についての訓練用データセット42を用いて、隠れ層が1層の多層パーセプトロンを利用して教師あり学習を行なった。
ステップS13では、分類器31は、訓練用データセット42を使って機械学習を行い、学習済みモデル32を生成する。言い換えると、学習済みモデル32で構成された分類器31が、ステップS11からステップS13を経て製造される。
【0033】
上述のようにして製造された学習済みモデル32で構成された分類器31を備える判定装置1を用いれば、「明確な不快感が生じる口臭」があるか否かの判定を行うことができる。例えば、前述の約160人以外の約130人の人物の口臭について、判定装置1で判定を行うと、約85%の正解率で判定を行うことができた。なお、この約130人の人物の口臭のうち、約70%の人物に「明確な不快感が生じる口臭」があった。なお、この結果をもたらした学習済みモデル32は、上述の訓練用データセット42で、200回繰り返し学習させたものである。このような学習を5回試行して、5回の正解率の平均値が上述の正解率である。
なお、学習済みモデル32で構成された分類器31がコンピュータ30の中で生成されれば、データの遣り取りだけで、同一内容の学習済みモデル32で構成された分類器31を備える他のコンピュータ30を製造することができる。例えば、学習済みモデル32に関するデータを、USBフラッシュドライブ66などの補助記憶装置に記憶させて、他のコンピュータ30にその学習済みモデル32に関するデータを読み込ませることで、他のコンピュータ30の分類器31の中にも同一の学習済みモデル32を構築することができる。また、分類器31は、例えば、半導体集積回路チップの形態でコンピュータ30に組み込むことができる。
【0034】
(6)判定装置1及び判定方法の特徴
(6-1)
ガスクロマトグラフ10における測定において、第1ガス成分の濃度は、ピークP1の面積になる。そこで、第1ガス成分の濃度を精度良く測定するために、一般的に、ピークP1の全体の出力電圧が得られる時間tf1まで測定する。従って、第1ガス成分の濃度を入力変数とする所定判定の判定結果を得るには、時間tf1よりも長い時間を要するのが通常である。あるいは、もう少し簡便には、ピークP1の最大値が得られる第1保持時間t1まで測定して、第1保持時間t1までに得られる第1ガス成分の信号強度からピークP1の面積を推定する場合もある。
それに対して、第1実施形態のような判定装置1及び判定方法では、第1保持時間t1よりも短く且つ第1ガス成分のピークP1が検出されている期間内の特定時間st1までに検出器16が出力する出力電圧を使って第1保持時間t1よりも短い時間でコンピュータ30が判定結果を出力する。その結果、判定装置1及び判定方法は、時間tf1までの検出器16の信号強度を使っていた場合あるいは時間t1までの検出器16の出力電圧を使っていた場合に比べて、判定結果を出力するまでの時間を短縮することができる。
【0035】
(6-2)
第1実施形態の判定装置1及び判定方法において、コンピュータ30は、判定結果を出力する分類器31を有している。この分類器31は、学習済みモデル32を持っている。この学習済みモデル32は、特定時間st1までの信号強度である出力電圧を含み且つ特定時間st1から後の信号強度である出力電圧を含まない訓練用入力データと、訓練用入力データに対応する判定結果を示す訓練用出力データとして機械学習したものである。
そして、第1実施形態の判定装置1または判定方法では、特定時間st1までに検出器16が出力する出力電圧を入力データに変換して学習済みモデル32に入力することにより、判定結果を第1保持時間t1よりも短い時間で学習済みモデル32から出力させることができる。従って、第1実施形態の判定装置1または判定方法では、適切な機械学習によって高い信頼性が確認された学習済みモデル32を用いることができるので、判定結果の信頼性を向上させることができる。
【0036】
(6-3)
第1実施形態の判定装置1または判定方法において、学習済みモデル32は、ニューラルネットワークまたは多項ロジスティック回帰を用いて生成することができる。このような学習済みモデル32によって構成された判定装置1では、ニューラルネットワークまたは多項ロジスティック回帰を用いて学習済みモデル32が生成された場合に判定結果に高い信頼性を得られることが確認できており、性能の良い判定装置1を実現することができる。
【0037】
<第2実施形態>
(7)判定装置1の概要
上記第1実施形態では、特定現象で発生する第1ガス成分だけに着目して、所定判定が第1ガス成分の濃度を入力変数として判定するものである場合について説明した。しかし、特定現象で発生するガス成分が複数あり、所定判定が、複数のガス成分の濃度を入力変数として判定するものである場合についても、判定装置1で行う判定の判定時間の短縮を行うことができる。
第2実施形態で用いる判定装置1の構成は、第1実施形態の判定装置1と同様に構成でき、例えば図1に示されている構成を第2実施形態で用いる判定装置1でも用いることができる。
図9には、1回の測定で、検出器16から出力される出力信号の一例が示されている。特定現象で第1ガス成分及び第2ガス成分が発生している場合には、検出器16から出力される検出信号には、第1ガス成分のピークP11及び第2ガス成分のピークP12が現れる。また、図9には、第1ガス成分についての第1保持時間t11と第2ガス成分についての第2保持時間t12と特定時間st2とが記載されている。特定時間st2は、第2ガス成分のピークP12が検出されている期間内の時間である。言い換えると、特定時間st2は、ピークP12の傾斜部分または頂点が現れる時間である。
分離カラム15は、特定現象で発生する第1ガス成分の保持時間が第1保持時間t11となるように設定され且つ、特定現象で第1ガス成分とともに発生する第2ガス成分の保持時間が第1保持時間t11よりも短い第2保持時間t12に設定されている。
【0038】
検出器16は、第1ガス成分及び前記第2ガス成分を検出できるように構成されている。また、検出器16は、第1ガス成分及び前記第2ガス成分の成分量に応じた信号強度の検出信号を出力するように構成されている。図9に示されている例では、検出信号の信号強度が出力電圧に対応する。
コンピュータ30は、検出器16が出力する出力電圧を使った演算によって特定現象に関係する所定判定についての判定結果を出力するように構成されている。所定判定は、少なくとも第1ガス成分の濃度及び第2ガス成分の濃度を入力変数として判定するものである。
また、コンピュータ30は、第1保持時間t11よりも短く且つ第2ガス成分のピークが検出されている期間内の特定時間st2までに検出器16が出力する出力電圧を使って第1保持時間t11よりも短い時間で判定結果を出力するように構成されている。
図9に示されている例では、特定時間st2が第2保持時間t12と同じになるように構成されている。しかし、特定時間st2は、第2保持時間t12よりも大きく設定されてもよく、また小さく設定することもできる。
なお、図9に示されているピークP0は雑ガスのピークであり、ピークP10,P20は、他のガス成分のピークである。雑ガスも他のガス成分も特定現象で発生する。しかし、雑ガスのピークP0及びピークP10,P20は、所定判定とは相関の無いものであり、雑ガス及び他のガス成分の出力電圧は所定判定の入力変数には含まれていない。また、特定現象で発生する第1ガス成分の濃度と第2ガス成分の濃度とは互いに正の相関がある。例えば、特定現象で発生する第1ガス成分の濃度と第2ガス成分の濃度の相関係数が0.6以上である。
【0039】
(8)判定方法の概要
第2実施形態の判定装置1を用いて行われる判定方法は、図10に示されているフローで行われる。
まず、ステップS21では、ガスクロマトグラフ10の分離カラム15に、特定現象で発生するサンプルガスを導入する。
ステップS22では、分離カラム15を通過したサンプルガスを、ガスクロマトグラフ10の検出器16に通して第1ガス成分及び第2ガス成分を検出する。図10に示されているように、第1ガス成分のピークがピークP11であり、第2ガス成分のピークがピークP12である。第2ガス成分のピークP12が、第1ガス成分のピークP11よりも先に現れる。
ステップS23では、第1保持時間t11よりも短く且つ第2ガス成分のピークP12が検出されている期間内の特定時間st2までに検出器16が出力する出力電圧を使ってコンピュータ30により演算を行い、第1保持時間t11よりも短い時間で判定結果を出力する。
【0040】
(9)口臭判定装置への適用
(9-1)口臭判定装置の概要
判定装置1は、例えば、口臭を判定する口臭判定装置に適用することができる。口臭は、例えば、人の呼気に含まれる硫化水素ガスの濃度と、メチルメルカプタンガスの濃度とが両方ともそれぞれに設定された第1閾値と第2閾値を超えた場合に、「明確な不快感が生じる口臭」があるという判定結果になるものとする。第1実施形態の判定装置1と同様に、第2実施形態の判定装置1でも、検出器16は、例えば図6に示された半導体ガスセンサであって、感ガス体16aの抵抗値の変化に基づいて検知対象のガス成分を検出し、検出結果を出力電圧としてコンピュータ30に出力する。そして、ガスクロマトグラフ10の分離カラム15において、硫化水素ガスの保持時間が60秒程度に設定され、メチルメルカプタンガスの保持時間が145秒に設定されている。
第2実施形態では、メチルメルカプタンガスが第1ガス成分であり、メチルメルカプタンガスの保持時間が第1保持時間t11であり、硫化水素ガスが第2ガス成分であり、硫化水素ガスの保持時間が第2保持時間t12である。
第2実施形態でも、第1実施形態と同様に、口臭判定装置としては、145秒までの検出器16の検出信号を使い、コンピュータによって、硫化水素ガスの濃度とメチルメルカプタンガスの濃度を算出し、硫化水素ガスの濃度が第1閾値を超え且つメチルメルカプタンガスの濃度が第2閾値を超えた場合に、「明確な不快感が生じる口臭」があるという判定結果を出力する構成を考える。
【0041】
上述のような145秒以上の時間を掛ける精度の良い判定方法に対し、判定装置1は、第1ガス成分の第1保持時間t11である145秒よりも短い時間で、「明確な不快感が生じる口臭」があるか否かの判定結果を出力するように構成される。このように時間を短縮するために、コンピュータ30は、145秒(第1保持時間t11)よりも短い60秒(特定時間st2)までに検出器16が出力する出力電圧を使って判定結果を出力する。具体的には、コンピュータ30が、60秒(特定時間st2)までの検出器16の出力電圧をデータ変換部33(図5参照)で変換して、変換後データ53を分類器31の学習済みモデル32に与える。学習済みモデル32は、60秒までの検出器16の出力電圧から、「明確な不快感が生じる口臭」があるか否かの判定結果を出力する。コンピュータ30が学習済みモデル32を用いて非常に短い時間で計算するので、コンピュータ30は、第1保持時間t11である145秒よりも短い時間で判定結果を出力することができる。このように非常に短い時間で口臭のチェックができると、例えば、通勤前の僅かの時間で口臭のチェックができて便利である。
【0042】
(9-2)口臭判定装置のための分類器31の製造方法
口臭判定装置のための分類器31の製造方法において重要なステップは、図5に示されている学習済みモデル32の生成ステップである。
学習フェーズPh1では、まず、ステップS11では、人体の活動及び人体に寄生する種々の生物の活動で発生するサンプルガスをガスクロマトグラフ10に導入して、メチルメルカプタンガス(第1ガス成分)及び硫化水素ガス(第2ガス成分)などの測定を行う。
第2実施形態のコンピュータ30において、複数組みの生データの集合41を得る方法は、第1実施形態の場合と同様に行える。
ステップS12で、複数組みの入力データと出力データが、分類器31に入力できるようにデータ変換される。このステップS12では、入力データが、60秒までに検出器16が出力する出力電圧(信号強度)だけを残すように加工される。言い換えると、入力データから60秒よりも後のデータが削除される。そして、60秒までの入力データが変換されて、訓練用入力データが作成される。入力データは、例えば予め決められた要素数(例えば1000個)の1次元配列のデータに変換される。出力データは、データ変換されることによって訓練用出力データになる。これら複数組みの訓練用入力データと訓練用出力データが訓練用データセット42になる。例えば、約160人の口臭についての訓練用データセット42を用いて、隠れ層が1層の多層パーセプトロンを利用して教師あり学習を行なった。
ステップS13では、分類器31は、訓練用データセット42を使って機械学習を行い、学習済みモデル32を生成する。言い換えると、第2実施形態においても、学習済みモデル32で構成された分類器31が、ステップS11からステップS13を経て製造される。
【0043】
第2実施形態のようにして製造された学習済みモデル32で構成された分類器31を備える判定装置1を用いれば、「明確な不快感が生じる口臭」があるか否かの判定を行うことができる。例えば、前述の約160人以外の約130人の人物の口臭について、判定装置1で判定を行うと、約93%の正解率で判定を行うことができた。なお、この約130人の人物の口臭のうち、約70%の人物に「明確な不快感が生じる口臭」があった。なお、この結果をもたらした学習済みモデル32は、第2実施形態の訓練用データセット42で、200回繰り返し学習させたものである。このような学習を5回試行して、5回の正解率の平均値が上述の正解率である。なお、訓練用データセット42のデータ数を半分にして同様の機械学習を行った場合には、約89%の正解率であった。このことから、訓練用データセット42のデータ数を増やすことで、正解率を向上させることができる可能性があり、このような可能性は第1実施形態についても同様のことが言える。なお、図11には、多層パーセプトロンを利用して学習済みモデル32を生成した場合の学習ステップ数と正解率の関係が示されている。図11に示されているのは、隠れ層が1層の層パーセプトロンである。図12には、多項ロジスティック回路を利用して学習済みモデル32を生成した場合の学習ステップ数と正解率の関係が示されている。
なお、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、学習済みモデル32で構成された分類器31がコンピュータ30の中で生成されれば、データの遣り取りだけで、同一内容の学習済みモデル32で構成された分類器31を備える他のコンピュータ30を製造することができる。分類器31は、例えば、半導体集積回路チップの形態でコンピュータ30に組み込むことができる。
【0044】
(10)判定装置1及び判定方法の特徴
(10-1)
ガスクロマトグラフ10における測定において、第1ガス成分の濃度がピークP11の面積になる。そこで、第1ガス成分の濃度を精度良く測定するために、一般的に、ピークP11の全体の出力電圧が得られる時間tf2まで測定する。従って、第1ガス成分の濃度を出力変数とする所定判定の判定結果を得るには、時間tf2よりも長い時間を要するのが通常である。あるいは、もう少し簡便には、ピークP11の最大値が得られる第1保持時間t11まで測定して、第1保持時間t11までに得られる第1ガス成分の信号強度からピークP11の面積を推定する場合もある。
それに対して、第2実施形態のような判定装置1及び判定方法では、第1保持時間t11よりも短く且つ第2ガス成分のピークP12が検出されている期間内の特定時間st2までに検出器16が出力する出力電圧を使って第1保持時間t11よりも短い時間でコンピュータ30が判定結果を出力する。その結果、判定装置1及び判定方法は、時間tf2までの検出器16の出力電圧を使っていた場合あるいは時間t11までの検出器16の信号強度を使っていた場合に比べて、判定結果を出力するまでの時間を短縮することができる。
【0045】
(10-2)
第2実施形態の判定装置1及び判定方法において、コンピュータ30は、判定結果を出力する分類器31を有している。この分類器31は、学習済みモデル32を持っている。この学習済みモデル32は、特定時間st2までの信号強度である出力電圧を含み且つ特定時間st2から後の信号強度である出力電圧を含まない訓練用入力データと、訓練用入力データに対応する判定結果を訓練用出力データとして機械学習したものである。
そして、第2実施形態の判定装置1または判定方法では、特定時間st2までに検出器16が出力する出力電圧を入力データに変換して学習済みモデル32に入力することにより、判定結果を第1保持時間t11よりも短い時間で学習済みモデル32から出力させることができる。従って、第2実施形態の判定装置1または判定方法では、適切な機械学習によって高い信頼性が確認された学習済みモデル32を用いることができるので、判定結果の信頼性を向上させることができる。
【0046】
(10-3)
第2実施形態の判定装置1または判定方法において、学習済みモデル32は、ニューラルネットワークまたは多項ロジスティック回帰を用いて生成することができる。このような学習済みモデル32によって構成された判定装置1では、ニューラルネットワークまたは多項ロジスティック回帰を用いて学習済みモデル32が生成された場合に判定結果に高い信頼性を得られることが確認できており、性能の良い判定装置1を実現することができる。
【0047】
(11)変形例
(11-1)変形例1A,2A
上記第1実施形態及び第2実施形態では、「明確な不快感が生じる口臭」があるか否かの判定を行う場合について説明したが、判定結果をYes,Noではなく、「明確な不快感が生じる口臭」とされる可能性、例えば0%から100%までの確率で判定結果を示すように構成することもできる。そのように学習済みモデル32を生成する場合には、ニューロンの伝達関数にステップ関数の代わりにシグモイド関数やReLU関数などを用いたニューラルネットワークを利用して学習済みモデル32を生成することができる。シグモイド関数は、例えば図13に示されている-∞から+∞の入力値に対して0から1の間の出力値を与えるような1つの変曲点を持つ単調増加連続関数である。
【0048】
(11-2)変形例1B,2B
また、第1実施形態では、特定現象から第1ガス成分が発生する場合について説明したが、第2ガス成分などさらに多くのガス成分が特定現象から発生する場合についても第1実施形態の技術を適用することができる。
また、第2実施形態では、特定現象から第1ガス成分と第2ガス成分が発生する場合について説明したが、第3ガス成分などさらに多くのガス成分が特定現象から発生する場合についても第2実施形態の技術を適用することができる。
第2実施形態のようにそれぞれのガス成分の濃度に相関関係がある場合には測定時間を大きく短縮できることが期待できるが、それぞれのガス成分の濃度に相関関係が無い場合も、測定時間をある程度は短縮することが期待できる。例えばN個のガス成分を用いて特定現象に関係する所定判定を行う場合で、N番目(一番最後)に現われるガスの保持時間よりも短くN番目のガスのピーク波形の裾野辺りまでの期間に加工された訓練用入力データを含む訓練用データセットを使って機械学習をすれば、測定時間を短縮することができる。
【0049】
(11-3)変形例1C,2C
第1実施形態及び第2実施形態では、検出器16に半導体ガスセンサを用いる場合を例に挙げて説明したが、検出器16は、半導体ガスセンサには限られない。また、検出器16の信号強度も出力電圧に限られるものではない。
(11-4)変形例1D,2D
上記第1実施形態及び第2実施形態では、機械学習に、教師あり学習を用いる場合について説明したが、機械学習には、例えば半教師あり学習を用いることもできる。
【0050】
(11-5)変形例1E,2E
上記第1実施形態及び第2実施形態では、機械学習に、多項ロジスティック回帰またはニューラルネットワークを用いる場合について説明したが、機械学習はこれらに限られるものではない。機械学習には、例えば、単純パーセプトロン、畳み込みニューラルネットワーク、既存のニューラルネットモデルを用いた転移学習を用いることができる。畳み込みニューラルネットワークの中でも、特に、2次元畳み込みニューラルネットワークを用いた場合、正解率の向上が期待できる。なお、機械学習に、単純パーセプトロン、畳み込みニューラルネットワーク、既存のニューラルネットモデルを用いた転移学習を用いた場合には、正解率が90%程度に達することが確認されている。
また、機械学習には、例えば、教師なし学習である再帰型ニューラルネットワーク(RNN)または強化学習のDQN(Deep Q-Network)を用いることもできる。
(11-6)変形例1F,2F
上記第1実施形態及び第2実施形態では、所定判定が、第1ガス成分及び第2ガス成分の濃度が、それぞれの閾値を超えるか否かで判定している。しかし、所定判定の方法は、例えば、第1ガス成分及び第2ガス成分の濃度が特定の関係を満たすか否かで判定してもよく、このように閾値を超えるか否かで判定する方法には限られない。
(11-7)変形例1G,2G
上記第1実施形態及び第2実施形態では、特定現象として口臭の発生、言い換えると嫌気性菌の代謝でガス成分を発生する場合を例に挙げて説明したが、特定現象は口臭の発生には限られない。特定現象は、例えば、工業製品の製造時などにガス成分(またはガス成分の元になる成分)を発生する化学反応、癌などの疾病に関連してガス成分(またはガス成分の元になる成分)を生じる現象、または遺伝子型の相違によって異なるガス成分(またはガス成分の元になる異なる成分)を生じる現象、ガス成分(またはガス成分の元になる成分)を発生するガス漏れ事故もしくは火災などの不作為的な事態であってもよい。
(11-8)変形例1H,2H
上記第1実施形態及び第2実施形態では、コンピュータ30の分類器31を製造するまでに機械学習をする場合を例に挙げて説明した。しかし、分類器31を製造した後にも機械学習を続けられるように構成してもよく、そのような判定装置でも第1実施形態または第2実施形態と同様の効果を奏する。
【0051】
以上、実施形態及びその変形例について説明したが、本開示の技術の適用は上記実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 判定装置
10 ガスクロマトグラフ
15 分離カラム
16 検出器
30 コンピュータ
32 学習済みモデル
42 訓練用データセット
st,st1,st2 特定時間
t1,t11 第1保持時間
t12 第2保持時間
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