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  • 特許-ガス分離膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】ガス分離膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/32 20060101AFI20230915BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20230915BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20230915BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20230915BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
B01D71/32
B01D71/36
B01D69/08
B01D69/10
B01D69/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019198695
(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公開番号】P2021069986
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】大橋 ひとみ
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 慶太郎
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105664656(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0014154(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0003714(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0170430(US,A1)
【文献】特開2015-160159(JP,A)
【文献】特開2013-184139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸状多孔性支持体と、前記中空糸状多孔性支持体の内表面上に配置されたガス分離活性層とを有するガス分離膜であって、
前記ガス分離活性層が、
テトラフルオロエチレンとパーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソールとのコポリマーであるポリマーA、及び
下記式(1):
【化1】
で表される繰り返し単位を有し、かつ、水素原子を含む末端基を有するポリマーB
とを含み、
前記ポリマーBの水素原子を含む末端基がカルボキシル基を含み、
前記ポリマーAと前記ポリマーBとの合計に対する前記ポリマーAの割合が、40質量%以上68質量%以下である、
ガス分離膜。
【請求項2】
前記ポリマーAと前記ポリマーBとの合計に対する前記ポリマーAの割合が、60質量%以上68%以下である、請求項1に記載のガス分離膜。
【請求項3】
測定温度30℃、及び酸素分圧0.6気圧の条件下で、等圧式にて測定したときに、
酸素の透過係数が20Barrer以上100Baarer以下であり、かつ、
酸素/窒素の分離係数が3.0以上10以下である、
請求項1又は2に記載のガス分離膜。
【請求項4】
測定温度30℃、及び酸素分圧0.6気圧の条件下で、等圧式にて測定したときに、
酸素の透過係数が30Barrer以上100Barrer以下であり、かつ、
酸素/窒素の分離係数が3.0以上10以下である、
請求項1~のいずれか一項に記載のガス分離膜。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のガス分離膜の製造方法であって、
前記ポリマーA及び前記ポリマーBを含む塗工液を調製する、塗工液調製工程、
前記中空糸状多孔性支持体の内側に、前記塗工液を流通させて塗工面を形成する、塗工工程、
前記中空糸状多孔性支持体の内側から塗工液を引き抜く抜液工程、及び
前記中空糸状多孔性支持体の内側の前記塗工面を乾燥してガス分離活性層を形成する、乾燥工程
を含む、
ガス分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた分離性能を持つガス分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス分離膜によるガスの分離・濃縮は、蒸留法、高圧吸着法等と比べた場合、エネルギー効率に優れ、安全性の高い方法である。この分野における先駆的な実用例としては、例えば、ガス分離膜によるガスの分離濃縮、アンモニア製造プロセスにおける水素分離等が挙げられる。最近では、窒素富化空気及び酸素富化空気の需要の高まりから、空気を対象にしたガス分離膜に関する検討が盛んに行なわれている。
ガス分離膜は、一般的には、多孔性支持体の表面上にガス分離活性層が形成された形態を有する(特許文献1及び2)。この形態は、膜に強度を付与しつつ、ガスの透過量を多くすることに有効である。この場合のガス分離活性層は、例えば、ガス分離性ポリマーから成る層等である。
【0003】
一般に、ガス分離膜の性能は、透過速度及び分離係数を指標として評価される。透過速度は、下記数式:
透過速度=(ガス分離活性層の透過係数)/(ガス分離活性層の厚み)
によって表される。透過係数は、ガス分離活性層の素材に依存する値である。また、分離係数は、分離しようとする2種のガスの透過速度の比で表され、ガス分離活性層の素材に依存する値である。
ガス分離膜として実用的な性能を得るためには、高い分離係数と高いガス透過速度とを有する必要がある。透過速度を向上させる方法としては、ガス分離活性層の透過係数を高くするか、ガス分離活性層の厚みを薄くする方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/141686号
【文献】米国特許出願公開第2015/0025293号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フッ素系ポリマーは、耐薬品性が高く、長期安定性に優れることから、ガス分離膜におけるガス分離性ポリマー素材として注目されている。しかし、フッ素系ポリマーから成るガス分離活性を有するガス分離膜では、実用的なガス分離係数及び透過係数は得られておらず、その向上が求められている。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、耐薬品性が高く、長期安定性に優れるフッ素系ポリマーをガス分離性ポリマー素材として用いながら、分離係数及び透過係数の高い、ガス分離膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の実施形態から成るものである。
《態様1》中空糸状多孔性支持体と、前記中空糸状多孔性支持体の内表面上に配置されたガス分離活性層とを有するガス分離膜であって、
前記ガス分離活性層が、
テトラフルオロエチレンとパーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソールとのコポリマーであるポリマーA、及び
下記式(1):
【化1】
で表される繰り返し単位を有し、かつ、水素原子を含む末端基を有するポリマーB
とを含み、
前記ポリマーAと前記ポリマーBとの合計に対する前記ポリマーAの割合が、40質量%以上68質量%以下である、
ガス分離膜。
《態様2》前記ポリマーAと前記ポリマーBとの合計に対する前記ポリマーAの割合が、60質量%以上68%以下である、態様1に記載のガス分離膜。
《態様3》前記ポリマーBの水素原子を含む末端基が、アミド結合を含む基、アルキル基、アルコキシル基、アリール基、アリールオキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、N-ヒドロキシアミノ基、及びイミノ基から成る群から選択される1種以上である、態様1又は2に記載のガス分離膜。
《態様4》測定温度30℃、及び酸素分圧0.6気圧の条件下で、等圧式にて測定したときに、
酸素の透過係数が20Barrer以上100Baarer以下であり、かつ、
酸素/窒素の分離係数が3.0以上10以下である、
態様1~3のいずれか一項に記載のガス分離膜。
《態様5》測定温度30℃、及び酸素分圧0.6気圧の条件下で、等圧式にて測定したときに、
酸素の透過係数が30Barrer以上100Barrer以下であり、かつ、
酸素/窒素の分離係数が3.0以上10以下である、
態様1~4のいずれか一項に記載のガス分離膜。
《態様6》
態様1~5のいずれか一項に記載のガス分離膜の製造方法であって、
前記ポリマーA及び前記ポリマーBを含む塗工液を調製する、塗工液調製工程、
前記中空糸状多孔性支持体の内側に、前記塗工液を流通させて塗工面を形成する、塗工工程、
前記中空糸状多孔性支持体の内側から塗工液を引き抜く抜液工程、及び
前記中空糸状多孔性支持体の内側の前記塗工面を乾燥してガス分離活性層を形成する、乾燥工程
を含む、
ガス分離膜の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、優れた分離性能を持つガス分離膜が提供される。本発明のガス分離膜は、特に、酸素の透過速度が高く、酸素と窒素との分離に優れるから、例えば、酸素富化空気、窒素富化空気等の製造に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のガス分離膜の構造の一例を模式的に示す、概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《ガス分離膜》
本発明のガス分離膜は、
中空糸状多孔性支持体と、前記中空糸状多孔性支持体の内表面上に配置されたガス分離活性層とを有するガス分離膜であって、
前記ガス分離活性層が、
テトラフルオロエチレンとパーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソールとのコポリマーであるポリマーA、及び
下記式(1):
【化2】
で表される繰り返し単位を有し、かつ、水素原子を含む末端基を有するポリマーB
とを含み、
前記ポリマーAと前記ポリマーBとの合計に対する前記ポリマーAの割合が、40質量%以上68質量%以下である。
【0010】
図1に、本発明のガス分離膜の一実施形態における構造を模式的に示す概略断面図である。
図1のガス分離膜(100)は、中空糸状多孔性支持体(10)の内側表面上に、ガス分離活性層(20)が形成されている。このガス分離活性層(20)は、ポリマーA及びポリマーBを含み、ポリマーAとポリマーBとの合計に対するポリマーAの割合が、40質量%以上68質量%以下である。
中空糸状多孔性支持体(10)は、細孔(11)を多数有する膜である。細孔(11)のそれぞれは、中空糸状多孔性支持体(10)の表面に開口し、厚さ方向に伸び、膜の表裏を繋いで貫通する。
図1のガス分離膜(100)では、内側表面から厚さ方向にガス分離活性層が含浸して成るガス分離活性層含浸部(21)と、ガス分離活性層が含浸していないガス分離活性層非含浸部(22)とから成る。ガス分離活性層含浸部(21)は、あってもなくてもかまわない。
図1のガス分離膜(100)では、ガス分離活性層(20)は、中空糸状多孔性支持体(10)の内側表面の全部を覆っている。
【0011】
以下、本発明のガス分離膜を構成する各要素について、順に詳細を説明する。
[中空糸状多孔性支持体]
本実施形態のガス分離膜における中空糸状多孔性支持体は、細孔を多数有する膜である。細孔は、中空糸状多孔性支持体の表面に開口し、厚さ方向に延び、膜の表裏を繋いで貫通する微細な孔である。
中空糸状多孔性支持体が有する細孔の表面平均孔径は、0.002μm以上1μm以下が好ましい。細孔の表面平均孔径が1μm以下であると、ガス分離活性層の塗工が容易になる。細孔の表面平均孔径が0.002μm以上であと、中空糸状多孔性支持体のガス透過速度を、十分に高くすることができる。細孔の表面平均孔径は、0.01μm以上0.95μm以下がより好ましく、0.05μm以上0.9μm以下が更に好ましく、0.1μm以上0.85μm以下が特に好ましく、0.3μm以上0.8μm以下がとりわけ好ましい。
中空糸状多孔性支持体の表面平均孔径は、SEM画像解析によって算出される値である。SEM画像解析は、例えば以下のように行うことができる。得られたSEM像の2値化によって細孔の開口部を識別した後に、各孔の面積を求める。そして面積の小さい孔からその面積値を累計していき、累計値が全部の合計面積の50%の値になったときの孔の面積値から算出された円換算径を、中空糸状多孔性支持体の表面平均孔径とする。
【0012】
この中空糸状多孔性支持体は、実質的にはガス分離性能を有さないが、本実施形態のガス分離膜に機械的強度を与えることができる。
中空糸状多孔性支持体を構成する素材の種類は問わない。例えば、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール等のホモポリマー又はコポリマー等から選択される。
【0013】
[ガス分離活性層]
本実施形態のガス分離活性層は、ポリマーA及びポリマーBを含み、ポリマーAとポリマーBとの合計に対するポリマーAの割合が、40質量%以上68質量%以下である。
【0014】
(ポリマーA)
ポリマーAは、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソールのコポリマーである。したがってポリマーAは、水素原子を持たないパーフルオロポリマーである。
ポリマーA中のパーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソールの共重合割合は、50モル%以上であることが好ましく、より好ましくは55モル%以上95モル%以下であり、更に好ましくは60モル%以上90モル%以下である。
ポリマーAは、後述のポリマーBに比べて、目的ガスの透過係数が高いポリマーであることが好ましい。
ポリマーAとしては、市販品を使用してもよい。ポリマーAとして使用できる市販品としては、例えば、Teflon AF1600X、Teflon AF2400X(以上、Du Pont社製)等が挙げられる。
【0015】
(ポリマーB)
ポリマーBは、下記式(1):
【化3】
で表される繰り返し単位を有し、かつ、水素原子を含む末端基を有するポリマーである。
ポリマーBは、ポリマーAに比べ分離係数が高いことが好ましい。
【0016】
ポリマーBが水素原子を含むことにより、パーフルオロポリマーであるポリマーAと、ポリマーBとを混合すると、両者は完全相溶せず、部分的に相分離した構造をとると考えられる。両者が部分的に相分離することにより、ポリマーA及びポリマーBのうち、分離係数が高い方のポリマー(例えばポリマーB)の分離係数を低下させることなく、透過係数が増加されたガス分離活性層を持つ、ガス分離膜が得られると考えられる。
水素原子を有する末端基としては、例えば、アミド結合を含む基、アルキル基、アルコキシル基、アリール基、アリールオキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、N-ヒドロキシアミノ基、イミノ基等を挙げることができ、これらから選択される1種以上であってよい。
【0017】
ポリマーBとしては、市販品を使用してもよい。ポリマーBとして使用できる市販品としては、例えば、CytopのAタイプ(AGC社製、ポリマー鎖末端にカルボキシル基を持つ)、同Mタイプ(AGC社製、ポリマー鎖末端にアミド結合を含む基を持つ)等が挙げられる。
【0018】
(ポリマーA及びポリマーBの割合)
本実施形態のガス分離活性層は、上記のようなポリマーA及びポリマーBを含み、ポリマーAとポリマーBとの合計に対するポリマーAの割合は、40質量%以上68質量%以下である。この割合は、好ましくは、60質量%以上68質量%以下である。
明日分離活性層におけるポリマーAの比率を高くすると、ポリマーBの高い分離係数を維持したまま、透過速度を増加させることができる。
【0019】
(ポリマーA及びポリマーBの分析)
ポリマーA及びポリマーBの同定は、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)、固体核磁気共鳴分析(固体NMR)、X線光電子分光分析(XPS)、アルゴンガスクラスターイオン銃搭載X線光電子分光分析(GCIB―XPS)等によって行うことができる。
【0020】
ポリマーAとポリマーBとの割合は、例えば、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、NMR等で測定できる。
一例として、FT-IRを用いてポリマーAとポリマーBとの割合を測定する手法について以下に示す。
ポリマーA及びポリマーBを含むガス分離活性層の試料を、FT-IRのATR(Attenuated Total Reflectance)法で測定する。このときの、1,368cm-1付近、及び986cm-1付近にそれぞれピークトップを有する、2つの吸収ピークが観測される。これら2つピークのピーク強度比で、ポリマーA及びポリマーBの割合を知ることができる。
【0021】
1,368cm-1付近のピークは、ポリマーBに含まれる五員環に由来するピークであり、986cm-1付近のピークは、ポリマーAに含まれるパーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソールユニットのエーテル結合に由来するピークである。したがって、986cm-1付近のピークのピーク強度I986と、1,368cm-1付近のピークのピーク強度I1368との比(I986/I1368)を計算することにより、ポリマーA及びポリマーBの割合を推定することができる。比(I986/I1368)の値が3.2以上9.5以下のとき、ポリマーAとポリマーBとの合計に対するポリマーAの割合は、40質量%以上68質量%以下であり、比(I986/I1368)の値が7.3以上9.5以下のとき、ポリマーAとポリマーBとの合計に対するポリマーAの割合は、60質量%以上68質量%以下でると推定できる。
【0022】
(その他のポリマー)
本実施態様のガス分離膜におけるガス分離活性層は、上記のとおり、ポリマーA及びポリマーBを所定の割合で含むが、任意的にポリマーA及びポリマーB以外にその他のポリマーを含んでもよい。その他のポリマーとしては、フッ素樹脂が好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレンコポリマー、テトラフルオロエチレン-パーフルオロプロピレンコポリマー、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)等が挙げられる。
ガス分離活性層は、ガスの透過係数及び分離係数を高くする観点から、ポリマーA及びポリマーBを多く含むことが好ましい。ガス分離活性層におけるポリマーA及びポリマーBの合計の含有割合は、50質量%以上であってよく、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましく、90%以上が特に好ましく、95%以上がとりわけ好ましく、100%であってもよい。
【0023】
(ガス分離活性層の態様)
本実施態様のガス分離膜におけるガス分離活性層の厚みは0.1~10μmが好ましく、0.1~1μmであることがより好ましい。ガス分離活性層の厚みが10μm以下であると、十分に高いガスの透過速度を得ることができる。一方、ガス分離活性層の厚みが0.1μm以上であると、十分に高いガスの分離係数を得ることができる。
ガス分離活性層は、中空糸状多孔性支持体の外側表面ではなく、内側の表面上に配置されたときに、分離係数が高いポリマー(例えばポリマ-B)の分離係数を低下させることなく、透過係数が増加されたガス分離活性層が得られる効果が生じ易い。これは、ガス分離膜製造工程の際の、ポリマーA及びポリマーBを含む塗工液を塗工した後の乾燥工程において、内側表面側の塗膜の方が素早く乾燥されることにより、好ましい相分離状態になり易いためと推測される。
【0024】
ガス分離活性層の一部は、中空糸状多孔性支持体の内側表面から厚み方向に含浸して存在するガス分離活性層含浸部となっていてもかまわない。ガス分離膜の機械的強度の観点では、ガス分離活性層含浸部が形成されていることが好ましい。しかしながら、ガス分離活性層含浸部の厚さは、ガスの透過速度を高く維持することができる程度に薄く設定されることが好ましい。
ガス分離活性層含浸部は、中空糸状多孔性支持体のうちのガス分離活性層が含浸していない部分と、含浸してない部分(非含浸部)との間に、明確な境界を持っていてもよいし、明確な境界を持っていなくてもかまわない。ガス分離活性層含浸部におけるポリマーA及びポリマーBの合計の含有割合は、厚み方向で同じであってもよいし、傾斜組成となっていてもよい。好ましくは、ガス分離活性層含浸部のうちの非含浸部と接する領域においては、ポリマーA及びポリマーBの合計の含有割合が大きく、該含有割合が深さ方向に漸減して行き、遂にはゼロとなる地点でガス分離性ポリマー含浸層が終わる場合である。
ガス分離活性層含浸部の厚さは、例えば、SEM-EDX(SEMを用いたエネルギー分散型X線分光法)によって得られるフッ素原子の分布、GCIB―XPS(アルゴンガスクラスターイオン銃搭載X線光電子分光装置)によって測定された相対元素濃度の分布曲線等から知ることができる。
【0025】
[ガス分離膜の使用態様]
本実施形態のガス分離膜は、そのまま(中空糸の形態のままで)使用に供してもよいし、複数本を束ねて筒状容器内に収納してパッケージ化したガス分離膜モジュールとしたうえで使用に供してもよい。
本実施形態のガス分離膜をガス分離膜モジュールとして用いる場合、1つの筒状容器内に収納するガス分離膜の数は、例えば、10本以上1,000本以下とすることができ、50本以上500本以下とすることが好ましい。
本実施形態におけるガス分離膜は、例えば、O及びNを含むガス(例えば空気)からOを分離するために好適に用いることができる。
【0026】
[ガス分離膜の性能]
本実施形態のガス分離膜は、
測定温度30℃、及び酸素分圧0.6気圧の条件下で、等圧式にて測定したときに、
酸素の透過係数が、好ましくは20Barrer以上100Baarer以下、より好ましくは30Barrer以上100Barrer以下であり、かつ、
酸素/窒素の分離係数が、好ましくは3.0以上10以下とすることができる。
なお、1Barrerは、3.35×10-16mol/(m・s・Pa)に相当するから、酸素の透過係数の値をmol/(m・s・Pa)単位に換算すると、好ましくは67×10-16mol/(m・s・Pa)以上335×10-16mol/(m・s・Pa)以下であり、より好ましくは101×10-16mol/(m・s・Pa)以上335×10-16mol/(m・s・Pa)以下である。
酸素/窒素の分離係数は、酸素の透過係数と窒素の透過係数との比で表される。
【0027】
《ガス分離膜の製造方法》
本実施形態のガス分離膜の製造方法の一例について、以下に詳細に説明する。
本実施形態のガス分離膜を製造するに際しては、中空糸状多孔性支持体をそのままの形態でガス分離膜の製造に供してもよいし、複数本を束ねて容器内に収納してパッケージ化したうえでガス分離膜の製造に供してもよい。
本実施形態のガス分離膜をパッケージ化したうえでガス分離膜の製造に供して得られるパッケージ化されたガス分離膜は、そのままガス分離膜モジュールとして、使用に供することができる。
【0028】
本発明のガス分離膜は、例えば、
ポリマーA及びポリマーBを含む塗工液を調製する、塗工液調製工程、
中空糸状多孔性支持体の内側に、塗工液を流通させて塗工面を形成する、塗工工程、
中空糸状多孔性支持体の内側から塗工液を引き抜く抜液工程、及び
中空糸状多孔性支持体の内側の前記塗工面を乾燥してガス分離活性層を形成する、乾燥工程
を含む方法によって、製造することができる。
【0029】
[塗工液調製工程]
塗工液調製工程では、ポリマーA及びポリマーBを含む塗工液を調製する。
ポリマーA及びポリマーBは、それぞれ別の容器で溶媒に溶解させた後に混合してもかまわないし、ポリマーA及びポリマーBを1つの容器に入れ、同一の溶媒で溶かしてもかまわない。
溶媒は、ポリマーAの溶媒、ポリマーBの溶媒共に、フッ素系溶剤が好ましい。フッ素系溶剤とは、分子構造中に少なくとも1つのフッ素原子を有する溶剤である。フッ素系溶剤としては、例えば、フロリナート、Novec高機能性液体(以上、3M社製)、アサヒクリン(AGC社製)等が用いることができる。これらの溶媒は単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
塗工液中のポリマーA及びポリマーBの濃度は、これらの合計の濃度として、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がより好ましい。塗工液をこの範囲のポリマー濃度とすることにより、ガスの分離係数及び透過速度が高く、中空糸状多孔性支持体との密着のよいガス分離活性層を均一に形成することが容易となる。
【0030】
[塗工工程]
本実施形態では、中空糸状多孔性支持体の内側表面上にガス分離活性層を配置する。この場合には、塗工工程において、例えば下記のように、中空糸状多孔性支持体の内側に上記の塗工液を流通させて、塗工面を形成する方法が好ましい。
先ず、中空糸状多孔性支持体の内側へ、塗工液を注入し、次いで排出する。このときの塗工液の線速は、ガス分離活性層含浸部を適度の厚みで形成するために、30m/min以下とすることが好ましい。
中空糸状多孔性支持体の内側へ流通させる際の塗工液の温度は、使用する溶媒の沸点未満とすることが好ましい。溶媒の沸点未満の温度の塗工液を用いることにより、塗工中に溶媒の過度な揮発が抑制され、均一なガス分離活性層を得られる。
中空糸状多孔性支持体の内側へ注入した後、一旦排出された塗工液を、再び中空糸状多孔性支持体の内側へ注入して、循環流通させることも、本実施形態における好ましい態様である。
【0031】
上記塗工工程を行いながら、若しくは塗工工程の後に、又はこれらの双方において、中空糸状多孔性支持体の内側と外側とに圧力差を設ける工程を含んでもよい。中空糸状多孔性支持体の内側を高圧にし、外側を低圧にすることにより、塗工液が、中空糸状多孔性支持体の内側表面から多孔性膜内部に適度に浸み込み、ガス分離活性層含浸部を容易に形成することができる。この場合の圧力差のかけ方としては、例えば、中空糸状多孔性支持体内側を加圧してもよいし、中空糸状多孔性支持体外側を減圧させてもよいし、それらを同時に行ってもよい。
中空糸状多孔性支持体の内側と外側との圧力差は、1kPa以上150kPa以下であることが好ましく、20kPa以上120kPa以下であることがより好ましい。この圧力差を1kPa以上とすると、ガス分離活性層含浸部の形成が容易となり、密着のよい分離活性層を形成することができる。この圧力差が150kPa以下であれば、ガス分離活性層含浸部の厚みが適度となり、高い透過速度が得られる。
【0032】
[抜液工程]
次いで、抜液工程では、中空糸状多孔性支持体の内側から、余剰の塗工液を除去する。
抜液工程は、例えば、中空糸状多孔性支持体の内側に気体(例えば、空気、窒素、アルゴン等)を流通させる方法;中空糸状多孔性支持体の内側を減圧にする方法等によって行うことができる。
抜液の後、必要に応じて、中空糸状多孔性支持体の内側を適用な溶媒で洗浄してもよい。
【0033】
[乾燥工程]
そして、乾燥工程において、塗工面を乾燥することにより、中空糸状多孔性支持体の内側表面に、ガス分離活性層が形成されて、本実施形態のガス分離膜を製造することができる。
塗工面を乾燥する方法としては、例えば、塗工後の中空糸状多孔性支持体を、所定温度の環境下に所定時間静置する方法;塗工後の中空糸状多孔性支持体の内側に気体を流す方法;塗工後の中空糸状多孔性支持体を減圧下におき、減圧乾燥させる方法等が挙げられる。塗工面を均一に素早く乾燥させることができ、ポリマーAとポリマーBとを好ましい状態で相分離させる観点から、塗工後の中空糸状多孔性支持体の内側に送風する方法が好ましい。以下、塗工後の中空糸状多孔性支持体の内側に送風することで乾燥させる方法について説明する。
塗工後の中空糸状多孔性支持体の内側に、好ましくは20℃以上160℃以下、より好ましくは30℃以上100℃以下のガスを、好ましくは5分以上24時間以下送風する。送風するガスは、例えば、空気、窒素等である。
上記の抜液工程とこの乾燥工程とは、別個の工程として順次に行ってもよいし、一連の工程としてまとめて行ってもよい。
【実施例
【0034】
以下に、本発明について、実施例等を用いて更に具体的に説明する。しかしながら本発明は、これらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0035】
以下の実施例及び比較例では、以下の素材を用いてガス分離膜を製造し、評価を行った。
〈中空糸状多孔性支持体モジュール〉
中空糸状多孔性支持体として、ポリスルフォン製の多孔性中空糸(外径1.350mm、内径0.750mm、長さ20cm、内側表面の平均孔径0.8μm)を用い、その200本を筒状容器内に収納して、パッケージ化した。
〈ポリマーA〉
ポリマーAとしては、Teflon AF1600X(Du Pont社製、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソールとの共重合体、パーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソールの共重合割合約65モル%)を用いた。後述の表中では、「AF1600X」と表記した。
〈ポリマーB〉
ポリマーBとしては、Cytop Aタイプ(AGC(株)製、式(1)で表される繰り返し単位から成り、末端にカルボキシル基を有するポリマー)を用いた。後述の表中では、「Cytop A」と表記した。
〈その他のポリマー〉
比較例7で使用のその他のポリマーとしては、Cytop Sタイプ(AGC(株)製、式(1)で表される繰り返し単位から成り、末端にトリフルオロメチル基を有するポリマー)を用いた。後述の表中では、「Cytop S」と表記した。
〈塗工液の溶媒〉
塗工液の溶媒としては、フロリナートFC-72(3M社製、パーフルオロカーボン、C14)を用いた。
【0036】
〈塗工液用ポリマー溶液の調製〉
ポリマーAとしてのTeflon AF1600X、ポリマーBとしてのCytop Aタイプ、及びその他のポリマーとしてのCytop Sタイプを、それぞれ、フロリナートFC-72中に溶解して、ポリマー濃度0.5質量%のポリマー溶液を調製した。
【0037】
《実施例1~4及び比較例1~5》
(1)ガス分離膜モジュールの製造
上記で得られたポリマー溶液を用い、表1に記載のポリマー組成になるように、1種類で、又は2種類を混合して、塗工液をそれぞれ調製した。
中空糸状多孔性支持体のパッケージに、上記の塗工液を、中空糸状多孔性支持体の内側を通るように注入し、中空糸状多孔性支持体の内側も外側も常圧のまま、10秒間保持した。次いで、中空糸状多孔性支持体の内側から塗工液を抜いた後、中空糸状多孔性支持体の内側に35℃の窒素を24時間送り込んで乾燥させることにより、中空糸状多孔性支持体の内表面側にガス分離活性層を有するガス分離膜50本がパッケージ化された、ガス分離膜モジュールをそれぞれ製造した。
【0038】
(2)Oの透過速度、並びにO及びNの分離係数の評価
上記で得られたガス分離膜モジュールを用いて、O及びNそれぞれの透過速度を測定した。その後、ガス分離活性層の厚みをSEMで観察し、各透過係数を算出した。
測定は、測定温度30℃において行った。
供給ガスとして空気を中空糸状ガス分離膜の内側に、流量190cc/minにて流し、透過ガスのキャリアガスとしてヘリウムを中空糸状ガス分離膜の外側に、流量50cc/minにて流し、Oの透過速度TRO2及びNの透過速度TRN2を求めた。このとき、中空糸状ガス分離膜内側の圧力は3気圧(O分圧0.6気圧)に維持し、外側の圧力は1気圧を維持した。次いで、SEMによりガス分離活性層の膜厚を測定し、Oの透過係数PO2、及びNの透過係数PN2を求めた。
の透過係数PO2、及び酸素/窒素分離係数を、表1に示す。なお、酸素/窒素分離係数は、Oの透過速度TRO2とNの透過速度TRN2との比(TRO2/TRN2)として定義されるが、この値は、Oの透過係数PO2とNの透過係数PN2との比(PO2/PN2)と等しい。したがって、後述の表1では、酸素/窒素分離係数を「PO2/PN2」と表記した。
【0039】
(3)ガス分離層のFT-IR分析
得られたガス分離膜モジュールを分解して、ガス分離膜を取り出した。得られたガス分離膜を切り開いて、平面状とし、内表面側のガス分子活性層形成面を測定対象として、FT-IRによる分析を行った。
FT-IR測定には、PerkinElmer製のフーリエ変換赤外分光分析装置、型式名「Spectrum One」を用い、ATR法で測定を行い、IRスペクトルを得た。測定条件は、以下のとおりである:
ATR結晶:セレン化亜鉛
入射角:30°
測定波長域:400~4,000cm―1
分解能:4cm-1
986cm-1付近のピークのピーク強度I986と、1,368cm-1付近のピークのピーク強度I1368との比(I986/I1368)を表1に合わせて示す。
【0040】
《比較例6》
ポリマー組成がポリマーA60質量%:ポリマーB40質量%となるように、上記で得られたポリマーAの溶液及びポリマーBの溶液を混合して、塗工液を調製した。
得られた塗工液を、中空糸状多孔性支持体に、ディップ塗工法により塗工した。
具体的には、1cm/secの速度で上記中空糸状多孔性支持体を塗工液に浸漬させ、中空糸状多孔性支持体の全部が塗工液中に没した後、10秒間静置した。その後、1cm/secの速度で引上げ、35℃において24時間乾燥して、中空糸状多孔性支持体の外側表面にガス分離活性層を有するガス分離膜を得た。
このガス分離膜50本を筒状容器内に収納してパッケージ化することにより、ガス分離膜モジュールを製造した。
得られたガス分離膜モジュールを用いて、O及びNの透過係数の評価を、実施例1と同様の方法で行った。
結果を表1に合わせて示す。
【0041】
《比較例7》
ポリマー組成がポリマーA60質量%:その他のポリマー40質量%となるように、上記で得られたポリマーAの溶液及びその他のポリマーの溶液を混合して、塗工液を調製した。
この塗工液を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、ガス分離膜モジュールを製造し、O及びNの透過係数の評価を行った。
結果を表1に合わせて示す。
【0042】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のガス分離膜は、酸素に対して高い透過係数を示し、酸素と窒素との分離係数が大きいガス分離活性層を持つものである。したがって、本発明のガス分離膜は、例えば、空気から、窒素富化空気及び酸素富化空気を生成するガス分離膜として、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 中空糸状多孔性支持体
11 細孔
20 ガス分離活性層
21 ガス分離活性層含浸部
22 ガス分離活性層非含浸部
100 ガス分離膜
図1