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特許7349935リチウムイオン伝導体並びにそれを含む電極合剤及び電池
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  • 特許-リチウムイオン伝導体並びにそれを含む電極合剤及び電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導体並びにそれを含む電極合剤及び電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20230915BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230915BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230915BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230915BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
H01B1/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020034137
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021136223
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿武 裕一
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-213178(JP,A)
【文献】特開2016-169145(JP,A)
【文献】特開2016-213181(JP,A)
【文献】国際公開第2011/128976(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111129580(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-10/0562
H01M 4/13-4/62
H01B 1/06
H01B 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表され、欠陥型ペロブスカイト構造を有し、25℃において交流インピーダンス法で測定されたバルクインピーダンスIBULKに対する粒界インピーダンスIGBの比であるIGB/IBULKの値が0.5以下である、リチウムイオン伝導体。
Li1 2 (1)
式中、M1は、La、Ba、Pr、Gd、及びCeからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素であり、M2は、Sr、Ca、及びMgからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素であり、Mは、Ta、Nb、Zr、Ti、Mn、Fe及びCoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。
x、y及びzは、いずれも正数であり、0<x+y+z≦11/18且つx+3y+2z≦1を満たす数である。
【請求項2】
式(1)においてx、y及びzは、0.2≦x/(y+z)≦1.2を満たす数である、請求項1に記載のリチウムイオン伝導体。
【請求項3】
式(1)においてx、y及びzは、0.17≦z/y≦0.6を満たす数である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導体。
【請求項4】
バルクインピーダンスIBULKの値が50kΩ・cm以下であり、且つ粒界インピーダンスIGBの値が20kΩ・cm以下である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導体。
【請求項5】
式(1)においてM1は少なくともLaを含み、M2は少なくともSrを含み、Mは少なくともTaを含む、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導体。
【請求項6】
全導電率が0.05mS/cm以上である請求項1ないし5のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導体と、活物質とを含む電極合剤。
【請求項8】
正極層と、負極層と、該正極層及び該負極層の間に位置する電解質層とを備え、該正極層、該負極層及び該電解質層の少なくとも一つの層に、請求項1ないし6のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導体を含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン伝導体に関する。また本発明はリチウムイオン伝導体を含む電極合剤及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン伝導体としては、例えば硫化物系のものや酸化物系のものが知られている。これらのうち、硫化物系のリチウムイオン伝導体は一般に、リチウムイオン伝導性が酸化物系のリチウムイオン伝導体よりも高いという利点を有する。しかし硫化物系のリチウムイオン伝導体は水や電極活物質と反応しやすく、安定性に劣る。これに対して酸化物系のリチウムイオン伝導体は安定性が高いという利点を有する。
【0003】
酸化物系のリチウムイオン伝導体に関する従来の技術としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。同文献には、リチウム、ランタン、ストロンチウム及びタンタルを含む酸化物からなるリチウムイオン伝導体が記載されている。同文献においては、リチウムイオン伝導体中に、リチウムイオンが通過可能な5員環-7員環のトンネル構造を形成することで、リチウムイオン伝導性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-213181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した酸化物系のリチウムイオン伝導体はセラミックス材料であるところ、該リチウムイオン伝導体のリチウムイオン伝導性は、セラミックスにおける結晶粒のリチウムイオン伝導性と、結晶粒界でのリチウムイオン伝導性の双方に依存する。したがって、結晶粒のリチウムイオン伝導性を高めたとしても、結晶粒界でのリチウムイオン伝導性が低い場合には、セラミックス材料全体としてのリチウムイオン伝導性を高めることは容易でない。特許文献1では、結晶粒のリチウムイオン伝導性と、結晶粒界でのリチウムイオン伝導性とを切り分けた検討について、十分になされていない。
【0006】
したがって本発明の課題は、酸化物系リチウムイオン伝導体のリチウムイオン伝導性の向上にあり、更に詳しくは結晶粒界でのリチウムイオン伝導性が向上したリチウムイオン伝導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記式(1)で表され、欠陥型ペロブスカイト構造を有し、25℃において交流インピーダンス法で測定されたバルクインピーダンスIBULKに対する粒界インピーダンスIGBの比であるIGB/IBULKの値が0.5以下である、リチウムイオン伝導体を提供するものである。
Li1 2 (1)
式中、M1は、La、Ba、Pr、Gd、及びCeからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素であり、M2は、Sr、Ca、及びMgからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素であり、Mは、Ta、Nb、Zr、Ti、Mn、Fe及びCoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。
x、y及びzは、いずれも正数であり、0<x+y+z≦11/18且つx+3y+2z≦1を満たす数である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、結晶粒界でのリチウムイオン伝導性が向上し、全体としてのリチウムイオン伝導性も向上した酸化物系のリチウムイオン伝導体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、リチウムイオン伝導体についての交流インピーダンス測定の結果の一例を示すナイキストプロットである。
図2図2は、交流インピーダンス測定の結果を解析するときに用いられる等価回路である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は複合酸化物からなるリチウムイオン伝導体に関するものである。この複合酸化物は欠陥型ペロブスカイト構造を有することが好ましい。つまり、この複合酸化物は、ペロブスカイト構造におけるAサイトに欠陥を有することが好ましい。
【0011】
欠陥型ペロブスカイト構造を有する複合酸化物として、本発明においては以下の式(1)で表されるものを用いることが好ましい。
Li1 2 (1)
【0012】
式(1)において、Li、M及びMはペロブスカイト構造におけるAサイトに位置する金属元素である。M及びMのうち、Mは好ましくは3価の金属元素であり、Mは好ましくは2価の金属元素である。一方、Mはペロブスカイト構造におけるBサイトに位置する金属元素であり、その価数は好ましくは3価、4価、又は5価である。
【0013】
式(1)で表される複合酸化物はAサイトに欠陥を有するものであるから、Li、M及びMの合計量、すなわちx、y及びzの合計は、1未満であることが好ましい。具体的には0<x+y+z≦11/18であることが好ましく、1/9≦x+y+z≦5/9であることが更に好ましく、1/3≦x+y+z≦19/36であることが一層好ましい。なお、x、y及びzはいずれも正数である。x+y+zが上述の範囲内を満たすようにx、y及びzの値を設定することで、本発明のリチウムイオン伝導体は、ペロブスカイト構造におけるAサイトに欠陥が生じ、リチウムイオンの伝導性が発現する。
【0014】
一方、式(1)で表される複合酸化物がペロブスカイト構造を維持するためには、x、y及びzは、x+3y+2z≦1を満たすように設定されることが好ましい。更に好ましくはx+3y+2z≦0.95であり、一層好ましくはx+3y+2z≦0.9である。x+3y+2zにおいて、yの項に3の係数を乗じる理由は、Mが3価の元素だからであり、zの項に2の係数を乗じる理由は、Mが2価の元素だからである。
【0015】
上述したx+y+zの値は、式(1)で表される複合酸化物におけるAサイトの欠陥の程度を表すので、該複合酸化物がペロブスカイト構造を維持し得る限度においてx+y+zの値が小さいほど結晶中をリチウムイオンが移動しやすくなり、リチウムイオン導電率が高くなる傾向となる。その一方で、x+y+zの値を小さくしたとしても、結晶の単位体積に占めるリチウムイオンの濃度が低い場合には、換言すれば、Aサイトに位置する元素であるLi、M及びMの合計に対するLiの割合が低い場合には、リチウムイオン導電率を高めづらい。そこで、Aサイトに位置する元素であるLi、M及びMの合計に対するLiの割合を表すパラメータとしてx/(y+z)を考えた場合、x/(y+z)の値が、0.2≦x/(y+z)≦1.2を満たすと、式(1)で表される複合酸化物におけるAサイトの欠陥の数と、結晶の単位体積に占めるリチウムイオンの濃度とがバランスして、リチウムイオン導電率を一層高めやすくなる。この利点を一層顕著なものとする観点から、x/(y+z)の値は、0.3≦x/(y+z)≦1.1を満たすことが更に好ましく、0.4≦x/(y+z)≦1.0を満たすことが一層好ましい。
【0016】
式(1)で表される複合酸化物におけるAサイトには、上述のとおりLi、M1及びM2が位置するところ、M1及びM2の数を調整することによって、該複合酸化物の結晶の対称性を高くしたり、該複合酸化物がペロブスカイト構造を維持しやすくなったりする。この観点から、M1及びM2の数を調整すること、つまりyとzとの比率を調整することが有利である。具体的にはyとzとの比率であるz/yの値が0.17≦z/y≦0.6を満たすようにy及びzの値を設定することが好ましい。一層好ましくは0.18≦z/y≦0.5を満たすように、更に好ましくは0.2≦z/y≦0.45を満たすようにy及びzの値を設定することが有利である。
【0017】
式(1)においてMで表される金属元素は3価のものであることが好ましいところ、その具体例としては、La、Ba、Pr、Gd、及びCeからなる群から選ばれた一種又は二種以上が挙げられる。これらの元素はAサイトに位置して単相のペロブスカイト構造を形成しやすいためである。また、これらの元素のうち、Mは少なくともLaを含むことがリチウムイオン伝導性の向上の点から好ましい。
【0018】
式(1)においてOで表される酸素の添え字「3」は結晶構造を維持する限度において多少変動し得る。
【0019】
式(1)においてMで表される金属元素は2価のものであることが好ましいところ、その具体例としては、Sr、Ca、及びMgからなる群から選ばれた一種又は二種以上が挙げられる。これらの元素はAサイトに位置して単相のペロブスカイト構造を形成しやすいためである。これらの元素のうち、Mは少なくともSrを含むことがリチウムイオン伝導性の向上の点から好ましい。
【0020】
式(1)においてMで表される金属元素は3価、4価、又は5価のものであることが好ましいところ、その具体例としては、Ta、Nb、Zr、Ti、Mn、Fe及びCoからなる群から選ばれた一種又は二種以上が挙げられる。これらの元素はBサイトに位置して単相のペロブスカイト構造を形成しやすいためである。また、これらの中でも、電子伝導性を発現し難くする観点から、Ta、Nb及びZrからなる群から選ばれた一種又は二種以上が好ましい。これらの元素のうち、Mは少なくともTaを含むことがリチウムイオン伝導性の向上の点から好ましい。
【0021】
式(1)で表される複合酸化物の具体例としては、LiLaSrTaO、LiLaSrTiO、LiLaSrMnO、LiLaSrNbO、LiLaSrFeO、LiLaSrCoOなどが挙げられる。これらの複合酸化物のうち、リチウムイオン伝導性が特に高い点から、LiLaSrTaOを用いることが好ましい。
【0022】
本発明のリチウムイオン伝導体は、式(1)で表される複合酸化物からなるセラミックス材料であることが好ましい。セラミックス材料は一般に結晶粒の集合体から構成されている。隣り合う結晶粒どうしの境界は粒界と呼ばれている。本発明のリチウムイオン伝導体がセラミックス材料からなる場合、リチウムイオンは、該セラミックス材料における結晶粒(以下「バルク」ともいう。)及び粒界を移動する。複合酸化物からなるリチウムイオン伝導体に関するこれまでの研究は、主としてバルク内でのリチウムイオン伝導性に着目しており、粒界でのリチウムイオン伝導性についての知見は十分ではなかった。しかし、リチウムイオン導電率を高めるためには、バルクでのリチウムイオン導電率及び粒界でのリチウムイオン導電率の双方を高めることが重要である。この観点から本発明者が検討を推し進めた結果、上述したM、M及びMの種類、並びにx、y及びzの値を適宜制御することにより、バルクインピーダンスIBULKに対する粒界インピーダンスIGBの比であるIGB/IBULKの値を低い値に調整することができ、複合酸化物全体としてのリチウムイオン伝導性を高めることが可能であることが判明した。具体的には、IGB/IBULKの値を0.5以下に設定することが好ましく、0.2以下に設定することが更に好ましく、0.1以下に設定することが一層好ましい。IGB/IBULKの下限値に特に制限はないが典型的には、IGB/IBULKが0.005程度に小さければ、本発明の効果が十分に奏される。
【0023】
バルクインピーダンスIBULKに対する粒界インピーダンスIGBの比は上述のとおりであるところ、バルクインピーダンスIBULKから算出されるバルク抵抗率の値は、50kΩ・cm以下であることが好ましく、20kΩ・cm以下であることが更に好ましく、10kΩ・cm以下であることが一層好ましい。
【0024】
一方、粒界インピーダンスIGBから算出される粒界抵抗率の値は、20kΩ・cm以下であることが好ましく、10kΩ・cm以下であることが更に好ましく、5kΩ・cm以下であることが一層好ましい。
【0025】
GB/IBULKの値を上述のとおりに設定するには、複合酸化物として式(1)で表されるものを用いればよい。尤も、式(1)で表される複合酸化物であっても、該複合酸化物の製造条件、例えば焼成温度や焼成時間によっては目的とするリチウムイオン伝導性を有するリチウムイオン伝導体が得られない場合もあるので、焼成温度や焼成時間を適切に調整することが必要である。
【0026】
バルクインピーダンスIBULK及び粒界インピーダンスIGBは交流インピーダンス法で測定される。測定は25℃で行う。具体的な測定方法は例えば以下に述べるとおりである。
測定用ソフトウェアとして東陽テクニカ製のZPLotを用いる。このソフトウェアを用いて交流インピーダンス測定を行う。測定結果の一例を図1に示す。同図に示すナイキストプロットにおける実部の「1」の領域がバルクインピーダンスIBULKを表し、「2」の領域が粒界インピーダンスIGBを表す。なお「3」の領域はリチウムイオン伝導体と電極との界面インピーダンスに相当する。
交流インピーダンス測定結果(ナイキストプロット)を、解析ソフトウェアであるZviewを用いてフィッティングして、バルクインピーダンスIBULK及び粒界インピーダンスIGBを算出する。このとき、固体電解質のインピーダンス成分の解析に一般的に用いられる図2に示す等価回路を仮定してフィッティングを行う。
【0027】
図2においてRはインピーダンス成分であり、CPE(Constant Phase Element)はキャパシタンスの成分の代わりにフィッティングする際に用いられる関数である。R1及びCPE1はナイキストプロットのリチウムイオン伝導体のバルクインピーダンスに相当する(すなわちR1=IBULKである)。R2及びCPE2はリチウムイオン伝導体の粒界インピーダンスに相当する(すなわちR2=IGBである)。R3及びCPE3はリチウムイオン伝導体と電極との界面インピーダンスに相当する。
【0028】
Zviewを用いたフィッティングによって、R1及びR2、すなわちバルクインピーダンス及び粒界インピーダンスが求まる。試料の厚さt(cm)と面積S(cm)を用いて、バルク及び粒界の抵抗率は以下の式(2)及び(3)で表される。
ρBULK=R1×S/t (2)
ρGB=R2×S/t (3)
【0029】
リチウムイオン伝導体の全導電率σtotalは、バルクの導電率及び粒界の導電率の和である。導電率σは、σ=1/ρで定義されるから(ρは抵抗率を表す。)、リチウムイオン伝導体の全導電率σtotalは以下の式(4)で表される。
σtotal=1/ρtotal=1/(ρBULK+ρGB) (4)
【0030】
上述の方法で測定される本発明のリチウムイオン伝導体の全導電率は0.05mS/cm以上であることが好ましく、0.07mS/cm以上であることが更に好ましく、0.1mS/cm以上であることが一層好ましい。全導電率がこの程度に高ければ、リチウムイオン伝導体をリチウムイオン電池の固体電解質として用いることが可能となる。
【0031】
次に本発明のリチウムイオン伝導体の好適な製造方法について説明する。本発明のリチウムイオン伝導体は、複合酸化物粉体の製造工程と、複合酸化物粉体の焼成工程とに大別される。以下、それぞれの工程について説明する。
【0032】
<複合酸化物粉体の製造工程>
まず、式(1)で表される複合酸化物の粉体を製造する。この粉体を製造するには、複合酸化物の原料粉体を準備する。原料粉体は、リチウムを含有する第1粉体、M1を含有する第2粉体、Mを含有する第3粉体、及びMを含有する第4粉体からなる。第1粉体としては例えば炭酸リチウムの粉体が挙げられるが、これに限られない。第2粉体、第3粉体及び第4粉体としては、M1、M及びMの酸化物や炭酸塩の粉体が挙げられるが、これに限られない。
【0033】
第1~第4のすべての粉体を、水又は有機溶媒と混合してスラリーとし、このスラリーをボールミル等の各種メディアミルを用いて分散・混合する。各粉体の分散・混合が十分に進んだら、スラリー中の液体を乾燥等の手段によって除去し、粉体混合物を得る。
【0034】
得られた粉体混合物を仮焼成して、目的とする複合酸化物、又は該複合酸化物の前駆体からなる仮焼成体を得る。仮焼成の条件は次のとおりである。焼成温度は600℃以上1500℃以下であることが好ましく、800℃以上1300℃以下であることが更に好ましく、1000℃以上1200℃以下であることが一層好ましい。焼成時間は、1時間以上20時間以下であることが好ましく、2時間以上10時間以下であることが更に好ましく、4時間以上6時間以下であることが一層好ましい。焼成雰囲気は、大気雰囲気、酸素雰囲気又は合成空気(純酸素と純窒素とを空気の組成比で混合したガス)雰囲気であることが好ましい。
【0035】
このようにして仮焼成体が得られたら、これを粉砕して粉体とする。粉砕にはボールミル等の各種メディアミルを用いることができる。
【0036】
<複合酸化物粉体の焼成工程>
前記の仮焼成体の粉体を圧縮成形して所定の形状、例えばペレット状の仮成形体にする。圧縮成形には例えば一軸成形を用いることができる。得られた仮成形体を圧縮して本成形体を得る。圧縮には冷間等方加圧法(CIP)を用いることができるが、これに限られない。CIPを用いる場合、圧力は10MPa以上1500MPa以下であることが好ましく、100MPa以上1000MPa以下であることが更に好ましく、500MPa以上800MPa以下であることが一層好ましい。加圧時間は0.1分以上10分以下であることが好ましく、0.5分以上5分以下であることが更に好ましく、1分以上3分以下であることが一層好ましい。
【0037】
このようにして得られた本成形体を本焼成して目的とするリチウムイオン伝導体を得る。本焼成の条件を適切に設定することで、IGB/IBULKの値をコントロールすることができ、リチウムイオン伝導性を高めることができる。
本焼成の条件は次のとおりである。焼成温度は、仮焼成温度よりも高いことを前提として、1320℃以上1700℃以下であることが好ましく、1600℃以下であることが更に好ましく、1500℃以下であることが一層好ましい。焼成時間は、0.1時間以上50時間以下であることが好ましく、0.5時間以上20時間以下であることが更に好ましく、1時間以上5時間以下であることが一層好ましい。焼成雰囲気は、大気雰囲気、酸素雰囲気又は合成空気雰囲気であることが好ましい。焼成の際には、本成形体の周囲を仮焼成体の粉体で覆い、リチウム等の揮発を抑制することが好ましい。
【0038】
このようにして得られた本発明のリチウムイオン伝導体は、例えばリチウムイオン電池の固体電解質を構成する材料や、活物質を含む電極合剤に含まれる材料として使用できる。具体的には、リチウムイオン電池における正極活物質を含む正極層を構成する正極合剤、又は負極活物質を含む負極層を構成する負極合剤として使用できる。したがって、本発明のリチウムイオン伝導体は、固体電解質層を有するリチウムイオン電池、いわゆる固体電池に好適に用いることができる。固体電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、中でもリチウム二次電池に用いることが好ましい。「固体電池」とは、液状物質又はゲル状物質を電解質として一切含まない固体電池のほか、例えば50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下の液状物質又はゲル状物質を電解質として含む態様も包含する。
【0039】
固体電池における固体電解質層は、例えば本発明のリチウムイオン伝導体の粉体、バインダー及び溶剤を含むスラリーを基体上に滴下し、ドクターブレードなどで擦り切る方法、基体とスラリーを接触させた後にエアーナイフで切る方法、スクリーン印刷法等で塗膜を形成し、その後加熱乾燥を経て溶剤を除去する方法等で製造できる。あるいは、本発明のリチウムイオン伝導体の粉体をプレス成形した後、適宜加工して製造することもできる。固体電解質層には、本発明のリチウムイオン伝導体以外に、その他の電解質が含まれていてもよい。本発明における固体電解質層の厚さは、典型的には5μm以上300μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であることが更に好ましい。
【0040】
固体電池は、正極層と、負極層と、該正極層及び該負極層の間に位置する固体電解質層とを有し、該正極層、該負極層及び該固体電解質層の少なくとも一つの層に、本発明のリチウムイオン伝導体の粒子を含有させることが好ましい。固体電池の形状としては、例えば、ラミネート型、円筒型及び角型等を挙げることができる。
【0041】
本発明のリチウムイオン伝導体を含む固体電池における正極合剤は、正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、リチウム二次電池の正極活物質として使用されているものを適宜使用可能である。正極活物質としては、例えばスピネル型リチウム遷移金属化合物や、層状構造を備えたリチウム金属酸化物等が挙げられる。正極合剤は、正極活物質のほかに、導電助剤を始めとするほかの材料を含んでいてもよい。
【0042】
本発明のリチウムイオン伝導体を含む固体電池における負極合剤は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば、リチウム二次電池の負極活物質として使用されている負極合剤を適宜使用可能である。負極活物質としては例えば、リチウム金属、人造黒鉛、天然黒鉛及び難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)などの炭素材料、チタン酸リチウム、チタンニオブ複合酸化物、ケイ素、ケイ素化合物、スズ、並びにスズ化合物などが挙げられる。負極合剤は、負極活物質のほかに、導電助剤を始めとするほかの材料を含んでいてもよい。
【実施例
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0044】
〔実施例1〕
(1)原料粉体の準備及び混合
以下に示す粉体原料を準備した。
・LiCO 0.411g
・La 1.810g
・SrCO 0.410g
・Ta 11.043g
すべての原料粉体を、容量250mLのプラスチック製瓶に入れ、更にエタノールを加えた。これらに加えて、直径3mmのイットリア安定化ジルコニア(YSZ)ボールを瓶に入れ、瓶に蓋をした。YSZボールの量は100mLとした。そしてボールミルによる湿式混合を12時間行った。このようにして得られた混合スラリーを150℃で乾燥させて粉体混合物を得た。この粉体混合物を乳鉢で解砕した。
【0045】
(2)粉体混合物の仮焼成
粉体混合物をアルミナるつぼに入れて、大気中で焼成を行い仮焼成体を得た。昇温速度は200℃/h、焼成温度は1100℃、焼成時間は5時間とした。
得られた仮焼成体を容量250mLのプラスチック製瓶に入れ、更にエタノールを加えた。これらに加えて、直径3mmのYSZボールを瓶に入れ、瓶に蓋をした。YSZボールの量は100mLとした。そしてボールミルによる湿式混合を12時間行った。このようにして得られたスラリーを150℃で乾燥させて仮焼成体の粉体を得た。
【0046】
(3)本焼成
仮焼成体の粉体0.6gを、直径12mmの錠剤成型機に入れて、5MPaで10秒程度加圧し、ディスク状の仮成形体を得た。仮成形体を樹脂製の袋に封入し、CIP処理を行い、本成形体を得た。処理条件は圧力700MPa、時間1分とした。
アルミナるつぼ内に仮焼成体の粉体を敷き、その上に本成形体を静置した。更に、本成形体を仮焼成体の粉体で完全に覆った。この状態下に本焼成を行った。本焼成の条件は、焼成温度1500℃、焼成時間2時間、昇温速度200℃/hとした。このようにして目的とするリチウムイオン伝導体を得た。リチウムイオン伝導体の組成を表1に示す。X線回折測定の結果、このリチウムイオン伝導体がペロブスカイト構造を有することが確認された。
【0047】
(4)リチウムイオン伝導体の研削及び採寸
得られたリチウムイオン伝導体の表面を、自動研磨装置を用いて#800まで研削し、上下面が平行になるように加工した。研削後のリチウムイオン伝導体の質量、直径及び厚みを、電子天秤、ノギス及び厚み計を用いて測定した。
【0048】
(5)電極作製
研削後のリチウムイオン伝導体の側面にカプトンテープを巻いた。次いで、スパッタによって上下面に白金電極を形成した。各白金電極の厚みは100nmとした。
【0049】
(6)リチウムイオン導電率の測定
交流インピーダンス測定によって、リチウムイオン伝導体のバルクインピーダンスIBULK及び粒界インピーダンスIGBを測定した。更にリチウムイオン伝導体の全導電率を測定した。測定にはSolartron社製の周波数応答アナライザ1260を用いた。測定は、AC50mV、0.1~32MHzの範囲で行った。測定の詳細は先に述べたとおりである。結果を表1に示す。
【0050】
〔実施例2ないし7〕
実施例1において、(1)の粉体原料の使用量を変更して、表1に示す組成のリチウムイオン伝導体を得た。得られたリチウムイオン伝導体について、実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。X線回折測定の結果、各リチウムイオン伝導体がペロブスカイト構造を有することが確認された。
【0051】
〔比較例1及び2〕
実施例1において、(1)の粉体原料の使用量を変更し、且つ本焼成の温度を1300℃とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、表1に示す組成のリチウムイオン伝導体を得た。得られたリチウムイオン伝導体について、実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。X線回折測定の結果、各リチウムイオン伝導体がペロブスカイト構造を有することが確認された。
【0052】
〔比較例3〕
本比較例ではガーネット系のリチウムイオン伝導体を製造した。以下の(1)~(3)の操作を行い、その後の操作は実施例1と同様とした。
(1)原料粉体の準備及び混合
以下に示す粉体原料を準備した。
・LiCO 5.202g
・La(OH) 11.369g
・γ-Al 0.204g
・ZrO 4.929g
これらの原料粉体を用い、実施例1の(1)と同様の操作を行った。
(2)粉体混合物の仮焼成
粉体混合物をマグネシアるつぼに入れて、大気中で焼成を行い仮焼成体を得た。昇温速度は200℃/h、焼成温度は950℃、焼成時間は5時間とし、ボールミルによる湿式混合は行わなかったが、それ以外は実施例1の(2)と同様の操作を行った。
(3)本焼成
マグネシアるつぼを用い、焼成温度を1500℃、焼成時間を2時間とした以外は、実施例1の(3)と同様の操作を行った。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られたリチウムイオン伝導体は、IGB/IBULKの値が比較例よりも小さく、IGBの値がIBULKの値に対して相対的に小さいものであることが判る。そのことに起因して、各実施例で得られたリチウムイオン伝導体は、比較例に比べてリチウムイオンの全導電率が高いものであることが判る。
図1
図2