(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】乗用溝切機
(51)【国際特許分類】
E02F 5/02 20060101AFI20230915BHJP
A01B 13/00 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
E02F5/02 A
A01B13/00
(21)【出願番号】P 2020067650
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000141174
【氏名又は名称】株式会社丸山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】三澤 充
(72)【発明者】
【氏名】池田 望
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-045126(JP,A)
【文献】特開2010-264922(JP,A)
【文献】特開2008-104425(JP,A)
【文献】特開2010-035514(JP,A)
【文献】実開昭62-129519(JP,U)
【文献】実公昭50-034127(JP,Y1)
【文献】特開2017-086259(JP,A)
【文献】特開2018-027035(JP,A)
【文献】特開2017-184700(JP,A)
【文献】特開2005-073540(JP,A)
【文献】特開2002-362465(JP,A)
【文献】特開2010-035527(JP,A)
【文献】特開2006-118178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 5/02
A01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体フレーム(9)に設けられた座席(12)に作業者が座り車輪(6)の回転により進行しながら溝切部(7)により溝を切る乗用溝切機(100)において、
前記溝切部(7)を、前記本体フレーム(9)の後部に回転自在に連結し、
前記本体フレーム(9)に対し回転自在な回転部(50)を前記溝切部(7)より前側の位置に連結し、
前記回転部(50)と前記溝切部(7)とを、前記溝切部(7)が回転軸心周り中立位置に戻るように弾発する弾性体(25a,25b)を介して連結し
、
前記本体フレーム(9)の前部に、前記車輪(6)を操舵するハンドル(1)のハンドル軸(2)を回転自在に連結し、
前記回転部(50)は、前記ハンドル(1)及び前記ハンドル軸(2)を含む、ことを特徴とする乗用溝切機(100)。
【請求項2】
前記溝切部(7)の回転範囲を規制する溝切部回転範囲規制手段(30)を備え、
前記溝切部回転範囲規制手段(30)は、
前記溝切部(7)を回転自在に支持する回転支持パイプ(11)に突設された突設部材(32)と、
前記溝切部(7)に固定されて前記回転支持パイプ(11)の周囲を回転し前記突設部材(32)を収容する凹部(33)を有する規制ブラケット(31b)と、を備えたことを特徴とする請求項1記載の乗用溝切機(100)。
【請求項3】
前記弾性体(25a,25b)は、前記ハンドル軸(2)と前記溝切部(7)とが互いに回転軸心周り中立位置に向かうように引き寄せることを特徴とする請求項1又は2記載の乗用溝切機
(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用溝切機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場(水田)の排水を速やかに行うべく圃場に溝を切る乗用溝切機が知られている。この乗用溝切機は、本体フレームに設けられた座席に作業者が跨がって座り、エンジンの駆動による車輪の回転により進行しながら、本体フレーム後部の溝切部により圃場に溝を切るものである。以下の特許文献1には、作業者によるハンドル操作により、溝切部を回転させて進行方向を変えるものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の乗用溝切機にあっては、溝切部を回転させて乗用溝切機の進行方向を変えてから、溝切部を中立位置(溝切部回転軸心周りの中立位置;直進位置)へ戻すのが圃場によっては大変な場合があり、安定した直進性を維持するのが難しく改善が求められている。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、溝切部の中立位置への戻しが容易で、安定した直進性を維持できる乗用溝切機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による乗用溝切機(100)は、本体フレーム(9)に設けられた座席(12)に作業者が座り車輪(6)の回転により進行しながら溝切部(7)により溝を切る乗用溝切機(100)において、溝切部(7)を、本体フレーム(9)の後部に回転自在に連結し、本体フレーム(9)に対し回転自在な回転部(50)を溝切部(7)より前側の位置に連結し、回転部(50)と溝切部(7)とを、溝切部(7)が回転軸心周り中立位置に戻るように弾発する弾性体(25a,25b)を介して連結したことを特徴としている。
【0007】
このような乗用溝切機(100)によれば、座席(12)を有する本体フレーム(9)の後部に回転自在に連結された溝切部(7)が、回転軸心周り中立位置から回転した場合、本体フレーム(9)において溝切部(7)より前側の位置に回転自在に連結された回転部(50)と溝切部(7)とを連結する弾性体(25a,25b)によって、溝切部(7)が中立位置に戻るように弾発されるため、溝切部(7)の中立位置への戻しが容易とされ、安定した直進性を維持できる。
【0008】
ここで、溝切部(7)の回転範囲を規制する溝切部回転範囲規制手段(30)を備え、溝切部回転範囲規制手段(30)は、溝切部(7)を回転自在に支持する回転支持パイプ(11)に突設された突設部材(32)と、溝切部(7)に固定されて回転支持パイプ(11)の周囲を回転し突設部材(32)を収容する凹部(33)を有する規制ブラケット(31b)と、を備えていると、溝切部(7)の回転範囲が規制されるため、溝切部(7)の回転し過ぎによる部品の破損や必要以上の負荷を抑止できる。
【0009】
また、上記作用を好適に奏する構成としては、具体的には、本体フレーム(9)の前部に、車輪(6)を操舵するハンドル(1)のハンドル軸(2)を回転自在に連結し、回転部(50)は、ハンドル(1)及びハンドル軸(2)を含み、弾性体(25a,25b)は、ハンドル軸(2)と溝切部(7)とが互いに回転軸心周り中立位置に向かうように引き寄せる構成が挙げられる。これによれば、ハンドル(1)も中立位置へ容易に戻され、安定した直進性を維持できると共に、ハンドル軸(2)が回転した位相と、溝切部(7)が回転した位相とを逆位相にでき、車輪(6)と溝切部(7)とが逆方向を向くため、回転半径や内輪差を小さくでき、小回りを利かせることができる。
【発明の効果】
【0010】
このように本発明によれば、溝切部の中立位置への戻しが容易とされ、安定した直進性を維持できる乗用溝切機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る乗用溝切機を示す側面図である。
【
図2】
図1に示す乗用溝切機を後方上方から見た概略斜視図である。
【
図3】
図1及び
図2中のハンドル、ハンドル軸及びハンドル軸回転範囲規制手段を示す縦断面図であり、ハンドル固定の場合を示す図である。
【
図4】
図3中のハンドル軸回転範囲規制手段を構成する上段プレート及びノブボルトを示す平面図である。
【
図5】
図3中のハンドル軸回転範囲規制手段を構成する中段プレートを示す平面図である。
【
図6】
図3中のハンドル軸回転範囲規制手段を構成する下段プレートを示す平面図である。
【
図7】
図1中の溝切部、溝切部回転範囲規制手段及び中立戻し機構を示す一部断面側面図である。
【
図10】
図7中の溝切部回転範囲規制手段を示す背面図である。
【
図11】車輪と溝切部の位相関係を示す平面図であり、車輪及び溝切部が中立位置に位置している状態を示す図である。
【
図12】車輪と溝切部の位相関係を示す平面図であり、車輪を中立位置から時計回りに旋回した状態を示す図である。
【
図13】車輪と溝切部の位相関係を示す平面図であり、車輪を中立位置から反時計回りに旋回した状態を示す図である。
【
図14】本発明の第2実施形態に係る乗用溝切機の車輪と溝切部の位相関係を示す平面図であり、車輪及び溝切部が中立位置に位置している状態を示す図である。
【
図15】本発明の第2実施形態に係る乗用溝切機の車輪と溝切部の位相関係を示す平面図であり、溝切部を中立位置から反時計回りに旋回した状態を示す図である。
【
図16】車輪と溝切部の位相関係を示す平面図であり、溝切部を中立位置から時計回りに旋回した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る乗用溝切機の好適な実施形態について
図1~
図16を参照しながら説明する。
図1~
図13は、本発明の第1実施形態を、
図14~
図16は、本発明の第2実施形態を各々示すものであり、各図において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
先ず、
図1~
図13に示す第1実施形態を説明する。
図1及び
図2は、本発明の実施形態に係る乗用溝切機を示す各図、
図3は、ハンドル、ハンドル軸及びハンドル軸回転範囲規制手段を示す縦断面図であり、ハンドル固定の場合を示す図、
図4~
図6は、ハンドル軸回転範囲規制手段を示す各図、
図7は、溝切部、溝切部回転範囲規制手段及び中立戻し機構を示す一部断面側面図、
図8は、中立戻し機構を示す平面図、
図9は、
図7中のIX-IX矢視図、
図10は、溝切部回転範囲規制手段を示す背面図、
図11~
図13は、車輪と溝切部の位相関係を示す各平面図である。なお、以下の説明において、「前」、「後」、「上」、「下」、「左」、「右」等の方向を示す語は、乗用溝切機が水平面上に置かれた場合の前進方向を前方と定めた状態を基準としている。
【0014】
図1及び
図2に示すように、乗用溝切機100は、その前部に、作業者が握るハンドル1と、ハンドル1の下部から斜め下方且つ前方へ延びるハンドル軸2と、ハンドル軸2の下端部に連結され紙面手前側にオフセットされてハンドル軸2と同傾斜で下方へ延びる連結ブラケット3と、連結ブラケット3に連結されたギヤケース4と、ギヤケース4の内側のハブに連結されると共に外周の周方向に沿って等間隔で平板状の滑り止め5が設けられた車輪6と、を備え、その後部に、圃場に溝を切るための溝切部7と、溝切部7に連結され斜め上方且つ後方へ延びる溝切部軸8と、を備えている。
【0015】
また、乗用溝切機100は、前後方向に後ろ下がりで延びる本体フレーム9を備えている。本体フレーム9の前部には、ハンドル軸回転支持パイプ10が設けられ、ハンドル軸回転支持パイプ10にハンドル軸2が内挿され回転自在に連結されている。
【0016】
本体フレーム9には、その軸線方向略中央の上部に、作業者が跨がって座るための座席12が設けられている。座席12は、上下方向位置が調整可能とされている。また、本体フレーム9の軸線方向中央より後部側は、後述の伝動軸収容パイプ13が進入しハンドル軸2を回転軸心として左右方向(紙面垂直方向)に揺動できるように、略U字状に側方(紙面奥側)に膨らむように湾曲する湾曲部14を備えている。本体フレーム9の湾曲部14から後方へ延びる後端部には、溝切部軸回転支持パイプ(回転支持パイプ)11が設けられ、溝切部軸回転支持パイプ11に溝切部軸8が内挿され回転自在に連結されている。
【0017】
溝切部7は、平面視において先細のハの字状をなすと共に、前後方向視においてV字溝を形成するように平板を連設して構成されており、V字溝を形成する平板の上端に、ハの字状に沿って水平方向外側へ延びる平板が連設されている。そして、溝切部7による溝切りに際しては、V字溝の先端を圃場に食い込ませ、V字溝外側上方へ押し上げられた土を左右に拡散するようになっている。
【0018】
ギヤケース4は、曲り歯かさ歯車等を収容し、このギヤケース4に対しては、内部に伝動軸を収容し前後方向へ後ろ上がりで延びる伝動軸収容パイプ13が連結され、伝動軸収容パイプ13の後端には原動機15が連結される。伝動軸収容パイプ13は、ギヤケース4の曲り歯かさ歯車により右側(紙面奥側)にやや傾斜しながら後方へ延びている。原動機15は、座席12の後方に配置され、伝動軸収容パイプ13は、座席12の下を通り本体フレーム9の湾曲部14の内側を通過して原動機15に至るように配置されている。そして、原動機15の駆動力が伝動軸を介してギヤケース4のハブに伝達され、車輪6が回転する。なお、連結ブラケット3と伝動軸収容パイプ13とは補強フレーム29により連結されている。
【0019】
図3に示すように、ハンドル軸2は、ハンドル軸回転支持パイプ10内に収容されたフランジ型軸受(無給油軸受)16を介して回転自在に支持されており、ハンドル軸回転支持パイプ10の前面、及び、
図1~
図3に示すように、連結ブラケット3においてハンドル軸回転支持パイプ10の下に位置し左右方向に延びるブラケット部37の前面には、ハンドル軸2の回転範囲を規制するハンドル軸回転範囲規制手段17が設けられている。
【0020】
図3に示すように、ハンドル軸回転範囲規制手段17は、ハンドル軸回転支持パイプ10の前面に固定された上段プレート18と、ブラケット部37の前面に固定され、上段プレート18の下方に離間して重ねて配置された中段プレート19及び下段プレート20と、を備えている。
【0021】
図3及び
図4に示すように、上段プレート18には、ノブボルト21が螺子込まれている。
図5に示すように、中段プレート19には、ハンドル軸2を回転軸心として平面視円弧状に延びる長孔22が貫通形成され、当該長孔22にノブボルト21の先端部が進入し遊嵌配置可能とされている。
図6に示すように、下段プレート20には、ノブボルト21の下方位置に、ノブボルト21の先端部が進入可能な貫通孔23が形成されている。そして、
図3に示すように、上段プレート18にノブボルト21を螺子込み、当該ノブボルト21の先端部を中段プレート19の長孔22(
図5参照)に進入させることで、ハンドル軸2及びハンドル1が回転可能とされる。ハンドル軸2及びハンドル1の回転範囲は、中段プレート19の長孔22の左右の終端部が移動し、ノブボルト21の先端部に突き当たるまでの範囲である。
【0022】
また、上段プレート18にノブボルト21をさらに螺子込み、当該ノブボルト21の先端部を下段プレート20の貫通孔23(
図6参照)に進入させることで、ハンドル軸2及びハンドル1を回転不能に固定できる。なお、
図3は、ハンドル軸2及びハンドル1を固定した場合を示している。
【0023】
ここで、本実施形態では、ノブボルト21の先端部は下段プレート20の貫通孔23に進入せず、中段プレート19の長孔22遊嵌配置されており、
図2を参照すれば、ハンドル1を回転操作(操舵)すると、ハンドル軸2を回転軸心として、車輪6が左右方向(反時計回り、時計回り)に旋回すると共に、伝動軸収容パイプ13及び原動機15が左右方向(反時計回り、時計回り)に旋回する。なお、ノブボルト21に代えて、レバーボルトやインデックスプランジャを用いても良い。
【0024】
そして、ハンドル1、ハンドル軸2、連結ブラケット3、ギヤケース4及び伝動軸収容パイプ13により、本体フレーム9に対し回転自在な回転部50が構成されている。
【0025】
また、
図1及び
図2に示すように、伝動軸収容パイプ13と溝切部軸8との間には、中立戻し機構24が介在している。中立戻し機構24は、
図1、
図7及び
図8に示すように、伝動軸収容パイプ13と溝切部軸8とを、互いに回転軸心周り中立位置に向かうように引き寄せる弾性体としてのコイルスプリング25a,25bを介して連結したものである。伝動軸収容パイプ13には、左右方向に延びる前側の調整板26が連結され、溝切部軸8には、左右方向に延びる後側の調整板27が回転ブラケット31を介して固定されており、前側の調整板26及び後側の調整板27には、コイルスプリング25a,25bの端部を係止するための係止部(係止孔)28が左右方向に沿って複数離間して設けられている(
図8参照)。
【0026】
図1及び
図2に示すように、回転ブラケット31は、平板によりL字状に構成されている。回転ブラケット31は、L字状を構成する底板31aの前端が後側の調整板27の後端に固定され、底板31aに、溝切部軸8が貫通し固定されている。
【0027】
図2及び
図8に示すように、コイルスプリング25a,25bは、平面視においてハンドル軸2と伝動軸収容パイプ13の各回転軸心を結ぶ直線の左右両側にそれぞれ設けられており、ここでは、右側のコイルスプリング25aは、前側及び後側の調整板26,27の下側に、左側のコイルスプリング25bは、前側及び後側の調整板26,27の上側にそれぞれ配置されている。
【0028】
また、平面視斜めの伝動軸収容パイプ13に対して、中立戻し機構24を介して連結された溝切部7が、乗用溝切機100の進行方向前方を向く中立位置に位置するように(車輪6の中立位置に合わせるように)、左側のコイルスプリング25bの前側の調整板26に対する係止位置は左側にオフセットされており、右側のコイルスプリング25aよりも強い引っ張り力を働かせている。
【0029】
また、
図7に示すように、溝切部軸8は、溝切部軸回転支持パイプ11内に収容されたフランジ型軸受(無給油軸受)36を介して回転自在に支持されており、
図1、
図2及び
図7に示すように、溝切部軸8に固定された回転ブラケット31、及び、溝切部軸回転支持パイプ11に、溝切部7の回転範囲を規制する溝切部回転範囲規制手段30が設けられている。
【0030】
溝切部回転範囲規制手段30は、溝切部軸回転支持パイプ11に後方へ向かって突出するように突設された突設部材としてのボルト32と、回転ブラケット31のL字状を構成し上方へ突出する規制ブラケット31bと、を備えている。
【0031】
規制ブラケット31bは、
図2、
図7、
図9及び
図10に示すように、その上部に、上方へ開放され左右方向へ延びる凹部33を備え、凹部33に、ボルト32が進入している。従って、溝切部7及び溝切部軸8が回転すると、規制ブラケット31bが、溝切部軸回転支持パイプ11の周囲を回転する。溝切部7及び溝切部軸8の回転範囲は、規制ブラケット31bが回転し、規制ブラケット31bの凹部33を形成する左右端部に、ボルト32が突き当たるまでの範囲である。
【0032】
このような構成を有する乗用溝切機100を使用する場合には、作業者は、座席12に跨がって座り、原動機15を駆動し、原動機15の駆動力を、伝動軸収容パイプ13に収容された伝動軸を介してギヤケース4内の歯車、内側のハブに伝達し、車輪6が駆動輪として回転する。
【0033】
このとき、ハンドル軸2及び溝切部軸8は、互いに回転軸心周り中立位置に位置し、
図11に示すように、車輪6の方向と溝切部7の方向が一致しているため、乗用溝切機100は前進する。この際、乗用溝切機100及び作業者の重量が、車輪6及び溝切部7に加わるため、車輪6に追従する溝切部7によって圃場に溝が形成される。
【0034】
乗用溝切機100が前進する中で、ハンドル1を回転操作すると、ハンドル軸2、連結ブラケット3、車輪6、ギヤケース4、伝動軸収容パイプ13、原動機15が、ハンドル軸2の回転軸心を中心に回転し、例えば、ハンドル1を右に切った場合には、
図12に示すように、車輪6が右に旋回し、乗用溝切機100の進行方向が右へ変更される。また、例えば、ハンドル1を左に切った場合には、
図13に示すように、車輪6が左に旋回し、乗用溝切機100の進行方向が左へ変更される。
【0035】
このとき、溝切部軸8は、コイルスプリング25a,25bを有する中立戻し機構24を介して伝動軸収容パイプ13に接続されているため、溝切部7は溝切部軸8の回転軸心を中心として、ハンドル1を右に切った場合には、
図12に示すように、反時計回りに回転し、左に切った場合には、
図13に示すように、時計回りに回転する。すなわち、ハンドル軸2が回転した位相と、溝切部7が回転した位相とは逆位相となり、車輪6と溝切部7が逆方向を向いた状態で乗用溝切機100は進行する。
【0036】
この状態で、ハンドル1の操作方向がそのまま留まらないように、中立戻し機構24が作用し、コイルスプリング25a,25bによって、ハンドル1及び溝切部7が上記とは逆方向に回転し、中立位置に復帰する。
【0037】
このように、本実施形態によれば、座席12を有する本体フレーム9の後部に回転自在に連結された溝切部7が、回転軸心周り中立位置から回転した場合、本体フレーム9において溝切部7より前側の位置に回転自在に連結された回転部50と溝切部7とを連結するコイルスプリング25a,25bによって、溝切部7が中立位置に戻るように弾発されるため、溝切部7の中立位置への戻しが容易とされ、安定した直進性を維持できる。
【0038】
また、溝切部7と共にハンドル軸2も、コイルスプリング25a,25bによって、互いに中立位置に向かうように引き寄せられるため、ハンドル1も中立位置へ容易に戻され、安定した直進性を維持できると共に、ハンドル軸2が回転した位相と、溝切部7が回転した位相とを逆位相にでき、車輪6と溝切部7とが逆方向を向き、回転半径や内輪差を小さくでき、小回りを利かせることができる。
【0039】
また、コイルスプリング25a,25bは、平面視においてハンドル軸2と溝切部7の各回転軸心を結ぶ直線の左右両側にそれぞれ設けられているため、ハンドル1を左右の何れに切った場合でも、ハンドル1及び溝切部7が中立位置へ容易に戻される。
【0040】
また、ハンドル軸2の回転範囲を規制するハンドル軸回転範囲規制手段17を備えているため、ハンドル1の回転範囲が規制され、ハンドル1の切り過ぎによる部品の破損や必要以上の負荷を抑止できる。
【0041】
また、溝切部7の回転範囲を規制する溝切部回転範囲規制手段30を備えているため、溝切部7の回転範囲が規制され、溝切部7の回転し過ぎによる部品の破損や必要以上の負荷を抑止できる。
【0042】
また、本実施形態によれば、以下の作用・効果も奏する。すなわち、ノブボルト21を螺子込み、先端部を下段プレート20の貫通孔23に進入させ、ハンドル軸2を固定しロックすることにより、ハンドル1が回らない状態で溝切部7を浮かし車輪6を転がしながら走行作業ができるため、圃場での乗用溝切機100の運搬移動が容易であり、しかも、ハンドル1、車輪6、伝動軸収容パイプ13、原動機15が動かないため、安全である。
【0043】
また、中立戻し機構24の前側の調整板26、後側の調整板27の係止部28に対するコイルスプリング25a,25bの取り付け位置を変えることにより、コイルスプリング25a,25bの角度を調整し負荷の変更ができるため、ハンドル1の取られやすい圃場でも、操作性能の差を少なくできる。
【0044】
次に、本発明の第2実施形態に係る乗用溝切機について説明する。この第2実施形態では、ハンドル1及びハンドル軸2が本体フレーム9に固定されている。第1実施形態を用いて説明すれば、
図3に示すように、ノブボルト21の先端部が下段プレート20の貫通孔23(
図6参照)に進入することで、ハンドル1及びハンドル軸2が本体フレーム9に固定されている。なお、ハンドル1及びハンドル軸2が溶接等により本体フレーム9に固定されていても良い。
【0045】
この第2実施形態では、本体フレーム9に対し回転自在な回転部が、溝切部7より前側の位置に連結されている。具体的には、回転部は、例えば、本体フレーム9の下面で例えば座席12の下方に位置し下方へ延びる軸体に対して回転可能に支持されている。そして、この回転部に対して、中立戻し機構24を構成する前側の調整板26が固定されている。
【0046】
このような第2実施形態の乗用溝切機によれば、ハンドル1及びハンドル軸2は本体フレーム9に固定され、作業者が座席12に跨がって普通に座っている状態では、回転部及び溝切部軸8は、互いに回転軸心周り中立位置に位置しているため、
図14に示すように、車輪6の方向と溝切部7の方向が一致し、乗用溝切機100は前進する。
【0047】
ここで、座席12に跨がって座っている作業者が、その重心を左側へ移すと乗用溝切機が左側へ傾くため、
図15に示すように、溝切部軸8及び溝切部7が反時計回りに回転し、乗用溝切機の進行方向が左へ変更される。また、作業者が、その重心を右側へ移すと乗用溝切機が右側へ傾くため、
図16に示すように、溝切部軸8及び溝切部7が時計回りに回転し、乗用溝切機の進行方向が右へ変更される。
【0048】
この作業者の重心移動による進路変更時にあっては、回転部と溝切部7(溝切部軸8)とを連結するコイルスプリング25a,25bによって、溝切部7が中立位置に戻るように弾発されるため、溝切部7の中立位置への戻しが容易とされ、安定した直進性を維持できる。
【0049】
また、第1実施形態と同様に、溝切部7の回転範囲を規制する溝切部回転範囲規制手段30を備えているため、溝切部7の回転範囲が規制され、溝切部7の回転し過ぎによる部品の破損や必要以上の負荷を抑止できる。
【0050】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、上記実施形態においては、溝切部7を、平面視ハの字状、前後方向視V字溝を形成するように平板を連設して構成しているが、そろばん玉形状としても良い。
【符号の説明】
【0051】
1…ハンドル、2…ハンドル軸、4…ギヤケース、6…車輪、7…溝切部、8…溝切部軸、9…本体フレーム、11…溝切部軸回転支持パイプ(回転支持パイプ)、12…座席、13…伝動軸収容パイプ、25a,25b…コイルスプリング(弾性体)、30…溝切部回転範囲規制手段、31…回転ブラケット、31b…規制ブラケット、32…ボルト(突設部材)、33…凹部、50…回転部、100…乗用溝切機。