(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】予知保全判定装置、予知保全判定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 29/14 20060101AFI20230915BHJP
G01N 29/48 20060101ALI20230915BHJP
G01M 13/028 20190101ALI20230915BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
G01N29/14
G01N29/48
G01M13/028
G01H17/00 Z
(21)【出願番号】P 2020190331
(22)【出願日】2020-11-16
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 隼平
(72)【発明者】
【氏名】藤田 将巨
(72)【発明者】
【氏名】野木 貴之
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-159841(JP,A)
【文献】特開2007-315863(JP,A)
【文献】国際公開第2015/030130(WO,A1)
【文献】特開2017-096655(JP,A)
【文献】特開平04-268450(JP,A)
【文献】特開2018-155661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01M 13/028
G01M 99/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の筐体の表面に設置した少なくとも1つのAEセンサが時系列で出力する信号を取得して、所定時間分の前記信号の大きさ
の最頻値または中央値を算出する第1の算出部と、
前記信号の大きさの
標準偏差を算出する第2の算出部と、
前記第1の算出部が算出
した前記
最頻値または前記中央値と
、前記第2の算出部が算出した前記標準偏差とを、
前記最頻値または前記中央値と前記標準偏差とを各軸にとった2次元マップにプロットして表示する状態表示部と、
を備える予知保全判定装置。
【請求項2】
前記状態表示部は、前記2次元マップにおける
、前記第1の
算出部と前記第2の
算出部との
算出結果のプロット位置に基づいて、前記機器が正常であるか、故障の前兆が出始めているか、故障に進展する可能性が非常に高い状態にあるか、のいずれの状態であるかを表示する、
請求項
1に記載の予知保全判定装置。
【請求項3】
前記機器は、押出機を駆動する歯車箱である、
請求項1
または請求項
2に記載の予知保全判定装置。
【請求項4】
1以上の機器の表面に設置したAEセンサとインターネットを介して接続されて、当該AEセンサの出力を取得する、
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の予知保全判定装置。
【請求項5】
機器の筐体の表面に設置した少なくとも1つのAEセンサが時系列で出力する信号を取得して、所定時間分の前記信号の大きさ
の最頻値または中央値を算出する第1の算出プロセスと、
前記信号の大きさの
標準偏差を算出する第2の算出プロセスと、
前記第1の算出プロセスが算出
した前記
最頻値または前記中央値と
、前記第2の算出プロセスが算出した前記標準偏差とを、
前記最頻値または前記中央値と前記標準偏差とを各軸にとった2次元マップにプロットして表示する状態表示プロセスと、
を備える予知保全判定方法。
【請求項6】
機器の筐体の表面に設置した少なくとも1つのAEセンサが時系列で出力する信号を取得する予知保全判定装置を制御するコンピュータを、
前記信号を取得して、所定時間分の前記信号の大きさ
の最頻値または中央値を算出する第1の算出部と、
前記信号の大きさの
標準偏差を算出する第2の算出部と、
前記第1の算出部が算出
した前記
最頻値または前記中央値と
、前記第2の算出部が算出した前記標準偏差とを、
前記最頻値または前記中央値と前記標準偏差とを各軸にとった2次元マップにプロットして表示する状態表示部と、
して機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器の異常の発生を予測する予知保全判定装置、予知保全判定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体材料が変形する際に、それまでに蓄積していたひずみエネルギーを音波(AE波)として放出する現象が知られている。そして、従来、AEセンサによってAE波を検出して、その波形を分析することにより、歯車の損傷を検出する損傷検出装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された歯車の損傷検出装置は、AEセンサの出力を分析して、特定の周波数領域の信号強度を検出することによって、歯車の損傷の発生を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の損傷検出装置にあっては、機器に実際に損傷等の異常が発生しないと、当該異常を検出することができないという問題があった。したがって、異常が検出された際には、機器を即座に停止して異常箇所の点検や整備、消耗部品(ベアリングやシール部品等)の交換、清掃等を行う必要があった。そのため、予期しないタイミングで機器を停止しなければならず、当該機器のみならず、生産ラインを停止する等の措置を行わなければならない可能性があった。これによって、生産工程に大きな影響を及ぼす可能性があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、機器の動作に影響を与える異常の発生を、実際に異常が発生する前に知ることができる予知保全判定装置、予知保全判定方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る予知保全判定装置は、機器の筐体の表面に設置した少なくとも1つのAEセンサが時系列で出力する信号を取得して、所定時間分の前記信号の大きさの最頻値または中央値を算出する第1の算出部と、前記信号の大きさの標準偏差を算出する第2の算出部と、前記第1の算出部が算出した前記最頻値または前記中央値と、前記第2の算出部が算出した前記標準偏差とを、前記最頻値または前記中央値と前記標準偏差とを各軸にとった2次元マップにプロットして表示する状態表示部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る予知保全判定装置によると、機器の動作に影響を与える異常の発生を、実際に異常が発生する前、即ち異常の兆候が検出された時点で知ることができる。したがって、機器の点検や整備、消耗部品の交換、清掃等を行うタイミングを予め設定することができる。そのため、機器が停止している間は別の機器を稼働させる等によって、生産ラインの稼働状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、アコースティックエミッションについて説明する図である。
【
図2】
図2は、AEセンサについて説明する図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係る予知保全判定装置を用いた予知保全判定システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係る押出機の構造の一例を示す構造図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態に係る予知保全判定装置のハードウエア構成の一例を示すハードウエアブロック図である。
【
図6】
図6は、第1の実施形態に係る予知保全判定装置の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図7】
図7は、状態表示部が表示する歯車箱の動作状態の評価結果の一例を示す第1の図である。
【
図8】
図8は、状態表示部が表示する歯車箱の動作状態の評価結果の一例を示す第2の図である。
【
図9】
図9は、第1の実施形態に係る予知保全判定装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、第1の実施形態の第1の変形例に係る予知保全判定装置の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図11】
図11は、第1の実施形態の第1の変形例に係る歯車箱の動作状態の評価結果の一例を示す第1の図である。
【
図12】
図12は、第1の実施形態の第1の変形例に係る歯車箱の動作状態の評価結果の一例を示す第2の図である。
【
図13】
図13は、第1の実施形態の第2の変形例に係る予知保全判定装置の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図14】
図14は、第1の実施形態の第2の変形例に係る歯車箱の動作状態の評価結果の一例を示す第1の図である。
【
図15】
図15は、第1の実施形態の第2の変形例に係る歯車箱の動作状態の評価結果の一例を示す第2の図である。
【
図16】
図16は、第2の実施形態の予知保全判定システムのシステム構成の一例を示すシステムブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[アコースティックエミッション(AE:Acoustic Emission)の説明]
実施形態の説明の前に、機器の予知保全の判定を行うために使用するアコースティックエミッション(以下、AEと呼ぶ)について説明する。AEとは、固体材料が変形する際に、それまでに蓄積していたひずみエネルギーを音波(弾性波、AE波)として放出する現象である。当該AE波を検出することによって、固体材料の異常を予測することができる。AE波の周波数帯域は、数10kHz~数MHz程度と言われており、一般的な振動センサや加速度センサでは検出できない周波数帯域を有する。したがって、AE波を検出するためには、専用のAEセンサを用いる。AEセンサについて、詳しくは後述する。
【0011】
図1は、アコースティックエミッションについて説明する図である。
図1に示すように、固体材料Qの内部のAE発生源Pにおいて変形や接触、摩擦等が発生すると、AE波Wが発生する。AE波Wは、AE発生源Pから放射状に広がって、固体材料Qの内部を、当該固体材料Qに応じた速度で伝搬する。
【0012】
固体材料Qの内部を伝搬したAE波Wは、固体材料Qの表面に設置したAEセンサ20によって検出される。そして、AEセンサ20は検出信号Dを出力する。検出信号Dは、振動を表す信号であるため、正負の値を有する交流信号である。しかし、このままでは検出信号D(AE波W)に対して各種演算を行う際に扱いにくいため、検出信号Dの負の部分を半波整流した整流波形として取り扱うのが一般的である。また、AE波Wを分析する際には、一般に、整流波形の二乗値を所定の時間間隔で平均化して平方根をとった値、即ち実効値(RMS(Root Mean Square)値)として取り扱う。
【0013】
AE波Wの伝搬速度は、縦波と横波とで異なる(縦波は横波よりも速い)が、固体材料Qの大きさ(伝搬距離)を考慮すると、その差は無視できるため、本実施形態では、縦波と横波の区別は行わない。即ち、縦波と横波の区別なく、所定の時間内に検出されたAE波Wを測定信号として分析の対象とする。
【0014】
図2は、AEセンサについて説明する図である。AEセンサ20は、
図2に示すように、シールドケース23aに内包されている。そして、AEセンサ20の底面には、AE波Wを受ける受波面23bが形成される。受波面23bは、絶縁物で形成されている。また、シールドケース23aの底面付近にはマグネット23cが設置されて、AEセンサ20は、マグネット23cによって、予知保全の対象となる機器30の金属筐体30aに固定される。その際、受波面23bは、機器30の金属筐体30aの表面に密着した状態で設置される。
【0015】
受波面23bの上部には銅等の蒸着膜23dが形成される。そして、蒸着膜23dの上部には、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)等の圧電素子23eが設置される。圧電素子23eは、受波面23bを介してAE波Wを受けて、当該AE波Wの振幅に応じた電気信号を出力する。圧電素子23eが出力した電気信号は、蒸着膜23f及びコネクタ23gを介して、検出信号Dとして出力される。なお、検出信号Dは微弱であるため、ノイズの混入を抑制するために、AEセンサ20の内部にプリアンプ(
図2には非図示)を設置して、検出信号Dを予め増幅して出力してもよい。
【0016】
AE波Wは、微細な傷や摩擦によっても発生するため、機器の異常の兆候を早期に発見することができる。また、AE波WはAE発生源Pから放射状に広がるため、金属製の筐体であれば、AEセンサ20を設置することによって、筐体のどの位置でもAE波Wを観測して検出信号Dを取得することが可能である。なお、検出信号Dの具体的な分析方法は後述する。また、AEセンサ20は、種類によって検出可能な信号の周波数帯域が異なるため、使用するAEセンサ20を選定する際には、計測対象となる機器の材質等を考慮するのが望ましい。
【0017】
以下に、本開示に係る予知保全判定装置、予知保全判定方法及びプログラムの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、これらの実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0018】
[第1の実施形態]
本開示の第1の実施形態は、機器の異常が発生する兆候を検出して報知する予知保全判定装置12aの例である。
【0019】
[予知保全判定装置の概略構成の説明]
まず、
図3を用いて、本実施形態における予知保全判定装置12aを用いた予知保全判定システム10aの全体構成について説明する。
図3は、実施形態に係る予知保全判定装置を用いた予知保全判定システムの構成の一例を示すブロック図である。なお、予知保全判定システム10aは、本開示の予知保全判定装置12aを、入力軸31から入力されたモータ22の回転駆動力を減速して、出力軸32を介して押出機40を駆動する歯車箱30の予知保全の判定に適用したものである。なお、歯車箱30は、本開示における機器30の一例である。歯車箱30は、複数の歯車が噛み合って構成されて、入力軸31に接続されたモータ22の回転駆動力を減速して、出力軸32に伝達する。予知保全判定システム10aは、歯車に発生する亀裂や摩耗、及び歯車を支える軸の摩耗等の異常の兆候を検出して報知する。なお、以下に説明する装置構成は一例であって、予知保全の対象となる機器は、歯車箱30に限定されるものではない。また、歯車箱30の駆動対象は、押出機40に限定されるものではない。なお、押出機40の概要は後述する(
図4参照)。
【0020】
予知保全判定装置12aは、押出機40に接続された歯車箱30の金属筐体30aの表面に設置された少なくとも1つのAEセンサ20が時系列で出力するAE出力M(t)を取得する。そして、予知保全判定装置12aは、AE出力M(t)を分析することによって、歯車箱30の予知保全を行う。なお、AE出力M(t)は、本開示における信号の一例である。
【0021】
AEセンサ20としては、金属筐体30aの内部を伝搬するAE波Wを検出可能な周波数帯域を有するセンサを用いる。特に、検出するAE波Wの周波数帯域がわかっている場合は、当該周波数帯域に高い感度を有するAEセンサ20を用いるのが望ましい。例えば、本実施形態では、150kHzを含む周波数帯域に高い感度を有するAEセンサ20を使用する。
【0022】
歯車箱30の金属筐体30aに対するAEセンサ20の取付位置は問わないが、歯車箱30の異常が発生しやすい場所の近傍に取り付けるのが望ましい。例えば、AEセンサ20は、歯車箱30の出力軸32の近傍に取り付けるのが望ましい。また、AEセンサ20の取付方向は問わないが、AE波Wを精度よく検出するために、できるだけ複数の方向からAE出力M(t)を検出するのが望ましい。そのため、AEセンサ20は、歯車箱30の金属筐体30aの表面の異なる方向に複数設置するのが望ましい。
【0023】
例えば、
図3に示すように、複数のAEセンサ20(20a,20b,20c,20d)を、それぞれ歯車箱30のXYZ各軸方向に対応する表面に設置して、各AEセンサ20の出力を取得するのが望ましい。
図3において、例えばAEセンサ20aは、歯車箱30のXY平面に設置されて、Z軸に沿うAE波Wを精度よく検出する。また、AEセンサ20bは、歯車箱30のYZ平面に設置されて、X軸に沿うAE波Wを精度よく検出する。そして、AEセンサ20cは、歯車箱30の入力軸31側のXZ平面に設置されて、Y軸に沿うAE波Wを精度よく検出する。AEセンサ20dは、歯車箱30の出力軸32側のXZ平面に設置されて、Y軸に沿うAE波Wを精度よく検出する。このように、複数チャンネルの同時計測を行うことによって、歯車箱30の各軸方向の動作状態をより正確に評価することができる。なお、歯車箱30の動作状態とは、歯車箱30の内部部品(歯車、ベアリング等)の動作状態を意味するものとする。
【0024】
予知保全に係る判定を行った結果、歯車箱30の動作状態に異常が発生する兆候がある、または異常が発生していると判定されると、予知保全判定装置12aは、
図3の非図示のモニタやインジケータやスピーカ等によって、異常が発生する兆候があること、または異常が発生していることを報知する。
【0025】
[押出機の構造の説明]
図4は、実施形態に係る押出機の構造の一例を示す構造図である。押出機40は、歯車箱30の出力に応じて回転駆動される出力軸32の回転に伴って、当該出力軸32を延長した位置に設置されたスクリュ42を回転させることにより、例えば、樹脂原料と粉体状の充填剤とを混練する。特に、
図4に示す押出機40は、軸間距離Cで設置された2本の出力軸32を備える二軸押出機である。
【0026】
2本の出力軸32は、バレル部44の内部に、一定の軸間距離Cを保って平行に配置される。そして、各出力軸32には、互いに噛み合いながら同方向に回転する2本のスクリュ42の基部が接続されている。出力軸32は、歯車箱30によって減速されたモータ22の回転を、2本のスクリュ42に伝達する。2本のスクリュ42は、例えば、毎分300回転等の速度で回転する。
【0027】
バレル部44の内部には、各スクリュ42が挿入される、円筒状の2つの挿通孔46が設けられている。挿通孔46は、バレル部44の長手方向に沿って設けられた孔であり、互いに噛み合う2本のスクリュ42が挿入可能なように、円筒の一部が重なり合った状態で形成されている。バレル部44の長手方向の一端側には、混練されるペレット状の樹脂原料と粉体状の充填剤の材料とを挿通孔46に供給するための材料供給口47が設けられている。バレル部44の長手方向の他端側には、挿通孔46を通過する間に混練された材料を吐出する吐出口48が設けられている。バレル部44の外周には、バレル部44を加熱することにより挿通孔46に供給された材料を加熱するヒータ49が設けられている。
【0028】
スクリュ42は、材料供給口47が設けられたバレル部44の一端側から、吐出口48が設けられたバレル部44の他端側に向けて、第1スクリュ部42a、第2スクリュ部42b、第3スクリュ部42cを有する。詳細な説明は省略するが、材料を均一に混練するために、第1スクリュ部42a、第2スクリュ部42b、第3スクリュ部42cは、それぞれ異なる形状を有する。
【0029】
バレル部44も同様に、材料供給口47が設けられた一端側から、吐出口48が設けられた他端側に向けて、スクリュ42の第1スクリュ部42a、第2スクリュ部42b、第3スクリュ部42cにそれぞれ対応する、第1バレル部44a、第2バレル部44b、第3バレル部44cを有する。スクリュ42とバレル部44との隙間は、歯車箱30側から吐出口48側に向かって漸減するように形成されている。これによって、材料供給口47から供給された材料は、より一層均一に混練される。
【0030】
バレル部44の長手方向の全長L、第1バレル部44aと第1スクリュ部42aの長さL1、第2バレル部44bと第2スクリュ部42bの長さL2、第3バレル部44cと第3スクリュ部42cの長さL3は、混練する材料に応じて適宜決定される。
【0031】
スクリュ42の先端付近では、溶融した樹脂が、均一に混練された状態になっている。そして、スクリュ42を通過した溶融樹脂は、均一に混練された状態で吐出口48から吐出される。
【0032】
[予知保全判定装置のハードウエア構成の説明]
次に、
図5を用いて、予知保全判定装置12aのハードウエア構成について説明する。
図5は、実施形態に係る予知保全判定装置のハードウエア構成の一例を示すハードウエアブロック図である。
【0033】
予知保全判定装置12aは、制御部13と、記憶部14と、周辺機器コントローラ16とを備える。
【0034】
制御部13は、CPU(Central Processing Unit)13aと、ROM(Read Only Memory)13bと、RAM(Random Access Memory)13cと、を備える。CPU13aは、内部バス15を介して、ROM13bと、RAM13cと接続する。CPU13aは、記憶部14に記憶された制御プログラムP1を読み出して、RAM13cに展開する。CPU13aは、RAM13cに展開された制御プログラムP1に従って動作することで、制御部13の動作を制御する。即ち、制御部13は、制御プログラムP1に基づいて動作する、一般的なコンピュータの構成を有する。
【0035】
制御部13は、更に、内部バス15を介して、記憶部14と、周辺機器コントローラ16と接続する。
【0036】
記憶部14は、電源を切っても記憶情報が保持される、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリ、又はHDD(Hard Disk Drive)等である。記憶部14は、制御プログラムP1と、AEセンサ20が出力したAE出力M(t)とを記憶する。制御プログラムP1は、制御部13が備える機能を発揮させるためのプログラムである。なお、AE出力M(t)は、AEセンサ20が出力した検出信号Dの実効値を、A/D変換器17でデジタル信号に変換した時系列信号である。
【0037】
前記した制御プログラムP1は、ROM13bに予め組み込まれて提供されてもよい。また、制御プログラムP1は、制御部13にインストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルで、CD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disc)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成してもよい。さらに、制御プログラムP1を、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、制御プログラムP1を、インターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成してもよい。
【0038】
周辺機器コントローラ16は、A/D変換器17と、表示デバイス18と、操作デバイス19と接続する。周辺機器コントローラ16は、制御部13からの指令に基づいて、接続された各種ハードウエアの動作を制御する。
【0039】
A/D変換器17は、AEセンサ20が出力した検出信号Dをデジタル信号に変換して、AE出力M(t)を出力する。
【0040】
表示デバイス18は、例えば液晶ディスプレイである。表示デバイス18は、制御部13からの指示に基づいて、歯車箱30の動作状態に係る情報を表示する。なお、表示デバイス18は、制御部13からの指示に基づいて、例えば、歯車箱30(機器)の動作状態に異常の兆候が検出された際に報知を行ってもよい。その場合、表示デバイス18として、LED等で構成されたインジケータを用いてもよい。また、報知を行う際には、表示デバイス18として、音や音声を出力するブザーやスピーカ等を用いてもよい。
【0041】
操作デバイス19は、例えば表示デバイス18に重畳されたタッチパネルである。操作デバイス19は、予知保全判定装置12aの設定や、操作者の操作に係る操作情報を取得して、制御部13に伝達する。
【0042】
[予知保全判定装置の機能構成の説明]
次に、
図6を用いて、予知保全判定装置12aの機能構成について説明する。
図6は、実施形態に係る予知保全判定装置の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。予知保全判定装置12aの制御部13は、制御プログラムP1をRAM13cに展開して動作させることによって、
図6に示す信号取得部51と、信号分析部52と、判定部53と、状態表示部54とを機能部として実現する。
【0043】
信号取得部51は、AEセンサ20が出力した検出信号Dを、少なくとも所定時間分、例えば、少なくとも20秒間分取得する。信号取得部51は、増幅器を備えて、検出信号Dを増幅するとともに、A/D変換器17によって、アナログ信号である検出信号Dの実効値をデジタル信号であるAE出力M(t)に変換する。なお、信号取得部51は、より長時間分の検出信号Dを取得して、A/D変換器17によってアナログ信号に変換した後で、所定時間分のAE出力M(t)を切り出してもよい。なお、歯車箱30に複数のAEセンサ20が設置されている場合、信号取得部51は、各AEセンサ20が出力した検出信号Dから、それぞれの検出信号Dに対応するAE出力M(t)を取得する。
【0044】
信号分析部52は、AE出力M(t)を分析して、歯車箱30の動作状態を判定するための評価値を算出する。
【0045】
信号分析部52は、さらに、平均値算出部52aと、標準偏差算出部52bとを備える。
【0046】
平均値算出部52aは、所定時間分のAE出力M(t)の平均値Saveを算出する。AE出力M(t)の平均値Saveは、本開示における、AE出力M(t)の大きさに係る第1の量の一例である。また、平均値算出部52aは、本開示における第1の算出部の一例である。
【0047】
標準偏差算出部52bは、所定時間分のAE出力M(t)の標準偏差SDを算出する。AE出力M(t)の標準偏差SDは、本開示における、AE出力M(t)のばらつきに係る第2の量の一例である。
【0048】
判定部53は、平均値算出部52aが算出した平均値Saveと、標準偏差算出部52bが算出した標準偏差SDとを、平均値Saveと標準偏差SDとを各軸にとった2次元マップ60a(
図7参照)にプロットする。そして、判定部53は、2次元マップ60aにおけるプロット位置(Save,SD)に基づいて、歯車箱30の動作状態が、「良」、「可」、「注意」、「危険」のいずれであるかを判定する。各動作状態の内容、および具体的な判定方法は後述する。
【0049】
状態表示部54は、AE出力M(t)の平均値Save(第1の量)とAE出力M(t)の標準偏差SD(第2の量)とを、平均値Saveと標準偏差SDとを各軸にとった2次元マップにプロットすることによって、歯車箱30(機器)の動作状態を表示する。詳しくは後述する(
図7,
図8参照)。
【0050】
[予知保全判定方法の説明]
次に、
図7と
図8を用いて、判定部53が行う、歯車箱30の動作状態の判定方法について説明する。
図7は、状態表示部が表示する歯車箱の動作状態の評価結果の一例を示す第1の図である。
図8は、状態表示部が表示する歯車箱の動作状態の評価結果の一例を示す第2の図である。
【0051】
発明者らは、様々な動作状態にある、同じ種類の複数の歯車箱30のそれぞれ複数の箇所にAEセンサ20を設置して、それぞれ20秒間に亘って取得した複数のAE出力M(t)(データ点数約2000(サンプリング周波数約100Hz))を分析した。
【0052】
まず、
図7を用いて、歯車箱の動作状態の評価結果の一例について説明する。
図7は、横軸に平均値算出部52aが算出した平均値Saveをとって、縦軸に標準偏差算出部52bが算出した標準偏差SDをとった2次元マップ60aを示す。なお、
図7は、歯車箱30が、振動加速度が小さい状態で稼働している場合における評価結果の一例である。なお、歯車箱30に生じる振動加速度の大きさは、例えば、押出機40の稼働状態等に応じて変動する。
【0053】
図7にプロットされた菱形マークは、押出機40を稼働させた状態で、歯車箱30の筐体の表面で取得された、AE出力M(t)の平均値Saveおよび標準偏差SDを示す。そして、
図7にプロットされた正方形マークは、同じ歯車箱30を整備した後で、再び同じ状態で稼働させた際に取得された、AE出力M(t)の平均値Saveおよび標準偏差SDを示す。なお、押出機40の整備とは、押出機40を停止させた状態で、歯車箱30の点検や、消耗部品の交換、清掃等を行うことである。なお、発明者らの経験によると、一般に、平均値Saveは、損傷レベルと相関が高い。具体的には、平均値Saveが大きいほど損傷レベルが大きい。また、標準偏差SDは、損傷の進行度と相関が高い。具体的には、標準偏差SDが大きいほど、損傷の進行度が大きい。
【0054】
整備前の状態で取得された菱形マークのプロット位置(Save,SD)にそれぞれ対応する歯車箱30の部位について、歯車箱30を分解して内部の状態を確認し、「故障に進展する可能性が非常に高い状態であるか」、「故障の前兆が出始める状態であるか」、「経過観察が必要な状態であるか」、または「現状は問題がない状態であるか」の判定を行った。そして、各プロット位置(Save,SD)に対して、それぞれ、判定結果を示す情報を付与した。同様の評価を複数の歯車箱30に対して実施した結果、2次元マップ60aには、
図7に示す危険範囲62aと、注意範囲62bと、使用可能範囲62cと、良好範囲62dとが形成されることがわかった。
【0055】
危険範囲62aは、歯車箱30が、故障に進展する可能性が非常に高い状態にあることを示す範囲である。評価結果が危険範囲62aに属していた場合には、補修部品の交換が必要になる可能性があるため、補修計画を至急策定することが推奨される。なお、判定結果が危険範囲62aに属しているからといって、故障が発生している訳ではないため、押出機40を至急停止させる必要はない。
【0056】
注意範囲62bは、歯車箱30に故障の前兆が出始めたことを示す範囲である。評価結果が注意範囲62bに属していた場合には、定期的(例えば半年後)な再診断が推奨される。
【0057】
使用可能範囲62cは、歯車箱30の動作状態の経過観察が必要なことを示す範囲である。評価結果が使用可能範囲62cに属していた場合には、定期的(例えば1年後)な再診断が推奨される。
【0058】
良好範囲62dは、歯車箱30の動作状態に問題がないことを示す範囲である。評価結果が良好範囲62dに属していた場合には、引き続き、定期的な診断を行うことが推奨される。
【0059】
危険範囲62aと、注意範囲62bと、使用可能範囲62cと、良好範囲62dとは、AE出力M(t)の平均値Saveおよび標準偏差SDの大きさに基づいて設定される。具体的には、危険範囲62aは、平均値Saveが閾値Ta3以上、または標準偏差SDが閾値Ts3以上の範囲である。注意範囲62bは、平均値Saveが閾値Ta2以上閾値Ta3未満、または標準偏差SDが閾値Ts2以上閾値Ts3未満の範囲である。使用可能範囲62cは、平均値Saveが閾値Ta1以上閾値Ta2未満、または標準偏差SDが閾値Ts1以上閾値Ts2未満の範囲である。そして、良好範囲62dは、平均値Saveが閾値Ta1未満、かつ標準偏差SDが閾値Ts1未満の範囲である。なお、
図7において、平均値Saveが閾値Ta4以上である場合は、平均値Saveを閾値Ta4に固定するクリッピング処理を行った。また、標準偏差SDが閾値Ts4以上である場合は、標準偏差SDを閾値Ts4に固定するクリッピング処理を行った。
【0060】
なお、具体的な閾値の値は、歯車箱30の種類等によって異なる。したがって、予め評価実験等を行って、適切な閾値を設定しておく必要がある。
【0061】
筆者らは、
図7にプロットされた菱形マークが取得された歯車箱30を停止させて分解し、必要な整備を行った。そして、整備完了後に歯車箱30を組み立て直して、同じ位置に再度AEセンサ20を取り付けて、AE出力M(t)の平均値Saveおよび標準偏差SDを取得して、2次元マップ60aにプロットした。その結果が、
図7に示す正方形マークである。歯車箱30を整備することによって、平均値Saveおよび標準偏差SDをともに小さくすることができることがわかった。そして、2次元マップ60aにおいて、整備後の状態で算出された平均値Saveと標準偏差SDのプロット位置(Save,SD)(
図7の正方形マーク)は、前記した使用可能範囲62cと良好範囲62dとに属する。即ち、整備を行うことによって歯車箱30を正常な状態に復帰させられることが確認された。
【0062】
図8は、歯車箱30が、
図7の評価を行った状態と比較して、振動加速度が大きい状態で稼働している場合における2次元マップ60bの一例である。そして、
図8にプロットされた菱形マークおよび正方形マークは、
図7で説明した内容と同じである。即ち、菱形マークは歯車箱30の整備前における評価結果であり、正方形マークは歯車箱30の整備後における評価結果である。
【0063】
図7と
図8とを比較すると、整備前の評価結果は、
図8における平均値Saveは、
図7における平均値Saveよりも大きい値になっている。一方、
図8における標準偏差SDは、
図7における標準偏差SDよりも小さい値になっている。
図8における平均値Saveが、
図7における平均値Saveよりも大きい値になるのは、振動加速度の影響を受けることによって、AE出力M(t)の振幅が大きくなったためであると推測される。また、
図8における標準偏差SDが、
図7における標準偏差SDよりも小さい値になるのは、振動加速度の影響を受けて、AE出力M(t)の振幅が大きくなったことにより、AE波Wが埋もれてしまうため、振幅のばらつきが小さくなったためであると推測される。
【0064】
そして、
図8に示すように、歯車箱30の振動加速度が大きい状態であっても、AE出力M(t)の平均値Saveと標準偏差SDとを各軸にとった2次元マップ60a,60bにおいて、
図7に示したのと同じ閾値によって、歯車箱30の動作状態を可視化できることがわかった。
【0065】
なお、状態表示部54が、2次元マップ60a,60bにAE出力M(t)の平均値Saveおよび標準偏差SDをプロットするタイミングは適宜決定すればよい。例えば、過去の所定時間(例えば20秒)に亘るAE出力M(t)の判定結果に基づく表示を、所定の時間間隔、例えば、1秒に1回等のタイミングで行えばよい。
【0066】
また、状態表示部54が表示する2次元マップ60a,60bの表示形態も適宜決定すればよい。例えば、最新の評価結果のみプロットしてもよいし、
図7,
図8に示すように、過去の評価結果が表示された状態で、最新の評価結果を重畳表示してもよい。更に、時間推移がわかるように、前回の評価結果と最新の評価結果との間を線分で連結して表示してもよい。また、最新の評価結果が属している領域が即座にわかるように、2次元マップ60a,60bの欄外に、最新の評価結果(良、可、注意、危険)を表示してもよい。
【0067】
なお、
図7,
図8に示した2次元マップ60a,60bは、縦軸と横軸とを入れ替えたものであってもよい。即ち、横軸を標準偏差SDとして、縦軸を平均値Saveとしても、前記したのと同様に、歯車箱30の動作状態を可視化することができる。
【0068】
[予知保全判定装置が行う処理の流れの説明]
次に、
図9を用いて、実施形態に係る予知保全判定装置12aが行う処理の流れを説明する。
図9は、実施形態に係る予知保全判定装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0069】
信号取得部51は、記憶部14に一時記憶されたAE出力M(t)の中から、所定時間分のAE出力M(t)を取得する(ステップS11)。なお、信号取得部51は、記憶部14を介すことなく、A/D変換器17がA/D変換した結果を直接取得して、ステップS11の処理を行ってもよい。
【0070】
平均値算出部52aは、所定時間分のAE出力M(t)の平均値Saveを算出する(ステップS12)。
【0071】
標準偏差算出部52bは、所定時間分のAE出力M(t)の標準偏差SDを算出する(ステップS13)。
【0072】
判定部53は、AE出力M(t)から算出した平均値Saveと標準偏差SDとに基づいて、歯車箱30の動作状態を判定する(ステップS14)。
【0073】
状態表示部54は、AE出力M(t)から算出した平均値Saveと標準偏差SDを2次元マップ60a(60b)にプロットして、表示デバイス18に表示する(ステップS15)。
【0074】
状態表示部54は、操作デバイス19から判定終了の指示が入力されたかを判定する(ステップS16)。判定終了の指示が入力されたと判定される(ステップS16:Yes)と、予知保全判定装置12aは、
図9の処理を終了する。一方、判定終了の指示が入力されたと判定されない(ステップS16:No)と、ステップS11に戻って、前記した処理が繰り返される。
【0075】
以上説明したように、実施形態の予知保全判定装置12aの平均値算出部52a(第1の算出部)は、歯車箱30(機器)の金属筐体30aの表面に設置した少なくとも1つのAEセンサ20が時系列で出力するAE出力M(t)(信号)を取得して、所定時間分のAE出力M(t)の大きさに係る第1の量(例えば平均値Save)を算出する。また、標準偏差算出部52b(第2の算出部)は、AE出力M(t)の大きさのばらつきに係る第2の量(例えば標準偏差SD)を算出する。そして、状態表示部54は、AE出力M(t)の大きさに係る第1の量とAE出力M(t)の大きさのばらつきに係る第2の量とを、第1の量と第2の量とを各軸にとった2次元マップ60a(60b)にプロットして表示する。したがって、歯車箱30(機器)の動作状態を可視化することができるため、歯車箱30の動作に影響を与える異常の発生を、実際に異常が発生する前に知ることができる。
【0076】
また、実施形態の予知保全判定装置12aにおいて、AE出力M(t)の大きさに係る第1の量は、AEセンサ20のAE出力M(t)の所定時間分の平均値Saveである。したがって、簡単な演算でAE出力M(t)の大きさに係る第1の量を算出することができる。
【0077】
また、実施形態の予知保全判定装置12aにおいて、AE出力M(t)の大きさのばらつきに係る第2の量は、AEセンサ20のAE出力M(t)の所定時間分の標準偏差SDである。したがって、AE出力M(t)から第2の量を容易に算出することができる。
【0078】
また、実施形態の予知保全判定装置12aにおいて、状態表示部54は、2次元マップ60aまたは2次元マップ60bにおけるAE出力M(t)の平均値Save(第1の量)と標準偏差SD(第2の量)とのプロット位置(Save,SD)に基づいて、歯車箱30(機器)が正常であるか、故障の前兆が出始めているか、故障に進展する可能性が非常に高い状態にあるか、のいずれの状態であるかを表示する。したがって、2次元マップ60aまたは2次元マップ60bのプロット位置(Save,SD)に基づいて、歯車箱30の動作状態を可視化することができる。特に、歯車箱30が稼働している際に発生する振動の大きさによらずに、同じ2次元マップを用いて、歯車箱30の動作状態を可視化することができる。
【0079】
また、実施形態の予知保全判定装置12aは、押出機40を駆動する歯車箱30(機器)の予知保全の判定を行う。したがって、押出機40を稼働させた状態で、歯車箱30の動作状態を可視化することができる。さらに、2次元マップ60aまたは2次元マップ60bにおけるプロット位置(Save,SD)に基づいて、押出機40を停止して歯車箱30の点検や整備、消耗部品の交換、清掃等を行うタイミング(すぐに押出機40を停止して整備すべきか、経過観察でよいか等)を予め計画することができる。これによって、予期しないタイミングで生産ラインを停止することがないようにすることができる。
【0080】
[第1の実施形態の第1の変形例]
次に、第1の実施形態の第1の変形例について説明する。第1の実施形態において、信号分析部52は、AE出力M(t)の平均値Saveと標準偏差SDとを算出して、判定部53は、平均値Saveと標準偏差SDとを各軸にとった2次元マップ60aまたは2次元マップ60bを作成して、歯車箱30の動作状態を可視化した。
【0081】
その際、信号分析部52が算出する、信号の大きさに係る第1の量は、平均値Saveに限定されるものではない。第1の実施形態の第1の変形例に係る予知保全判定装置12bは、AE出力M(t)の平均値Saveの代わりに、最頻値Smоd(モード:mode)を用いて、歯車箱30の動作状態を評価する。なお、最頻値Smоdは、AE出力M(t)の所定時間分の出力の中で、最も高頻度で出現した値である。
【0082】
図10は、第1の実施形態の第1の変形例に係る予知保全判定装置の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0083】
予知保全判定装置12bは、予知保全判定装置12aと同じハードウエア構成(
図5参照)を備える。そして、制御部13は、
図10に示す信号取得部51と、信号分析部52と、判定部53と、状態表示部54とを機能部として実現する。信号取得部51と、判定部53と、状態表示部54の機能は、予知保全判定装置12aと同じであるため、説明は省略する。
【0084】
信号分析部52は、AE出力M(t)を分析して、歯車箱30の動作状態を判定するための評価値を算出する。信号分析部52は、さらに、最頻値算出部52cと標準偏差算出部52bとを備える。
【0085】
最頻値算出部52cは、所定時間分のAE出力M(t)の最頻値Smоdを算出する。AE出力M(t)の最頻値Smоdは、本開示における、AE出力M(t)の大きさに係る第1の量の一例である。また、最頻値算出部52cは、本開示における第1の算出部の一例である。
【0086】
[予知保全判定方法の説明]
次に、
図11と
図12を用いて、判定部53が行う、歯車箱30の動作状態の判定方法について説明する。
図11は、第1の実施形態の第1の変形例に係る歯車箱の動作状態の評価結果の一例を示す第1の図である。
図12は、第1の実施形態の第1の変形例に係る歯車箱の動作状態の評価結果の一例を示す第2の図である。
【0087】
発明者らは、前記した
図7,
図8にプロットされたAE出力M(t)に対して、最頻値Smоdと標準偏差SDとを算出した。そして、最頻値Smоdを横軸にとって、標準偏差SDを縦軸にとった2次元マップ60c,60dを作成した。
図11の2次元マップ60cは、歯車箱30が、振動加速度が小さい状態で稼働している場合における評価結果のプロット位置(Smоd,SD)の一例を示す。2次元マップ60cは、前記した2次元マップ60aと同じAE出力M(t)に基づく評価結果である。また、
図12の2次元マップ60dは、歯車箱30が、振動加速度が大きい状態で稼働している場合における評価結果のプロット位置(Smоd,SD)の一例を示す。2次元マップ60dは、前記した2次元マップ60bと同じAE出力M(t)に基づく評価結果である。
【0088】
図11,
図12を
図7,
図8と比較すると、歯車箱30の振動加速度の大きさによらずに、最頻値Smоdと標準偏差SDとによって決まる、2次元マップ60c,60dのプロット位置に基づいて、歯車箱30の動作状態を可視化できることがわかる。
【0089】
以上説明したように、実施形態の予知保全判定装置12bにおいて、AE出力M(t)の大きさに係る第1の量は、AEセンサ20のAE出力M(t)の所定時間分の最頻値Smоdである。したがって、簡単な演算でAE出力M(t)の大きさに係る第1の量を容易に算出することができる。
【0090】
なお、
図11,
図12の縦軸には標準偏差SDをプロットしたが、標準偏差SDの代わりに、最頻値Smоdの周りのばらつきを表す数値、例えば尖度をプロットしてもよい。尖度は、頻度分布の鋭さを表す値であって、測定値のばらつきの程度を表す統計量として広く用いられている量である。
【0091】
[第1の実施形態の第2の変形例]
次に、第1の実施形態の第2の変形例について説明する。第1の実施形態の第2の変形例に係る予知保全判定装置12cは、AE出力M(t)の平均値Saveの代わりに、中央値Smed(メディアン:median)を用いて、歯車箱30の動作状態を評価する。なお、中央値Smedは、AE出力M(t)の所定時間分の出力を昇順または降順に整列させたときに、中央に位置する値である。
【0092】
図13は、第1の実施形態の第2の変形例に係る予知保全判定装置の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0093】
予知保全判定装置12cは、予知保全判定装置12aと同じハードウエア構成(
図5参照)を備える。そして、制御部13は、
図13に示す信号取得部51と、信号分析部52と、判定部53と、状態表示部54とを機能部として実現する。信号取得部51と、判定部53と、状態表示部54の機能は、予知保全判定装置12aと同じであるため、説明は省略する。
【0094】
信号分析部52は、AE出力M(t)を分析して、歯車箱30の動作状態を判定するための評価値を算出する。信号分析部52は、さらに、中央値算出部52dと標準偏差算出部52bとを備える。
【0095】
中央値算出部52dは、所定時間分のAE出力M(t)の中央値Smedを算出する。AE出力M(t)の中央値Smedは、本開示における、AE出力M(t)の大きさに係る第1の量の一例である。また、中央値算出部52dは、本開示における第1の算出部の一例である。
【0096】
[予知保全判定方法の説明]
次に、
図14と
図15を用いて、判定部53が行う、歯車箱30の動作状態の判定方法について説明する。
図14は、第1の実施形態の第2の変形例に係る歯車箱の動作状態の評価結果の一例を示す第1の図である。
図15は、第1の実施形態の第1の変形例に係る歯車箱の動作状態の評価結果の一例を示す第2の図である。
【0097】
発明者らは、前記した
図7,
図8にプロットされたAE出力M(t)に対して、中央値Smedと標準偏差SDとを算出した。そして、中央値Smedを横軸にとって、標準偏差SDを縦軸にとった2次元マップ60e,60fを作成した。
図14の2次元マップ60eは、歯車箱30が、振動加速度が小さい状態で稼働している場合における評価結果のプロット位置(Smed,SD)の一例を示す。2次元マップ60eは、前記した2次元マップ60aと同じAE出力M(t)に基づく評価結果である。また、
図15の2次元マップ60fは、歯車箱30が、振動加速度が大きい状態で稼働している場合における評価結果のプロット位置(Smed,SD)の一例を示す。2次元マップ60fは、前記した2次元マップ60bと同じAE出力M(t)に基づく評価結果である。
【0098】
図14,
図15を
図7,
図8と比較すると、歯車箱30の振動加速度の大きさによらずに、中央値Smedと標準偏差SDとによって決まる、2次元マップ60e,60fのプロット位置に基づいて、歯車箱30の動作状態を可視化できることがわかる。
【0099】
以上説明したように、実施形態の予知保全判定装置12cにおいて、AE出力M(t)の大きさに係る第1の量は、AEセンサ20のAE出力M(t)の所定時間分の中央値Smedである。したがって、簡単な演算でAE出力M(t)の大きさに係る第1の量を容易に算出することができる。
【0100】
なお、
図14,
図15の縦軸には標準偏差SDをプロットしたが、標準偏差SDの代わりに、中央値Smedの周りのばらつきを表す数値、例えば、データを昇順に並べたときに、下から3/4の範囲に含まれるデータ数から、下から1/4の範囲に含まれるデータ数を差し引いた四分位範囲をプロットしてもよい。
【0101】
[第2の実施形態]
次に、
図6を用いて、本開示の第2の実施形態について説明する。
図16は、第2の実施形態の予知保全判定システムのシステム構成の一例を示すシステムブロック図である。予知保全判定システム10bは、予知保全判定装置12dが、インターネットを介して接続された複数の歯車箱70a,70b,…の動作状態を判定して表示するシステムである。
【0102】
予知保全判定システム10bは、複数の歯車箱70a,70b,…にそれぞれ設置されたAEセンサ21a,21b,…の出力(プリアンプで増幅された出力)を、それぞれインターネット100を介して、予知保全判定装置12dに送信し、予知保全判定装置12dにおいて、各歯車箱70a,70b,…の動作状態を判定する。なお、歯車箱70a,70b,…は、それぞれ、モータ22a,22b,…によって回転駆動されて、押出機40a,41b,…を駆動している。また、AEセンサ21a,21b,…の出力には、各AEセンサが設置された歯車箱を特定する識別情報が付与されているものとする。
【0103】
歯車箱70a,70b,…と予知保全判定装置12dとはインターネット100を介して接続されるため、予知保全判定装置12dの設置場所は、歯車箱70a,70b,…の近傍である必要はなく、歯車箱70a,70b,…から遠く離れた場所であってもよい。また、予知保全判定装置12dに接続される歯車箱70a,70b,…は、同じ工場に設置された歯車箱に限るものではなく、複数の工場に設置された歯車箱であっても構わない。
【0104】
予知保全判定装置12dは、第1の実施形態で説明した予知保全判定装置12a,12b,12cのいずれかと同じ構成を備える。予知保全判定装置12dは、各AEセンサ21a,21b,…の出力を、前記した判定部53が行う判定方法を用いて、歯車箱70a,70b,…の動作状態を判定する。
【0105】
そして、予知保全判定装置12dは、判定された動作状態を、前記した2次元マップの形式で表示する。
【0106】
なお、AEセンサ21a,21b,…の出力には、各AEセンサが設置された歯車箱を特定する識別情報が付与されるため、歯車箱70a,70b,…は同じ型式である必要はない。即ち、予知保全判定装置12dは、異なる型式の歯車箱から得た異なるAE出力M(t)を判定するための複数の判定ロジックを備えて、予知保全判定装置12dが受信したAE出力M(t)に対して、当該AE出力M(t)を検出した歯車箱に対応する判定ロジックを用いて、歯車箱の動作状態を判定してもよい。
【0107】
また、予知保全判定装置12dが、インターネット100を介して、判定結果を各歯車箱(70a,70b,…)に返信してもよい。そして、各歯車箱(70a,70b,…)に設置した、
図16には非図示の表示デバイスに、各歯車箱(70a,70b,…)の動作状態を2次元マップで表示してもよい。
【0108】
以上説明したように、第2の実施形態の予知保全判定装置12dは、1以上の歯車箱70a,70b,…(機器)の表面に設置したAEセンサ21a,21b,…とインターネット100を介して接続されて、当該AEセンサ21a,21b,…の出力を取得して、歯車箱70a,70b,…のそれぞれの動作状態を判定する。これにより、歯車箱(機器)から離れた場所において、当該歯車箱(機器)の動作状態に係る判定を行うことができる。
【0109】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0110】
10a,10b…予知保全判定システム、12a,12b,12c,12d…予知保全判定装置、20,20a,20b,20c,20d,21a,21b…AEセンサ、22…モータ、30,70a,70b…歯車箱(機器)、30a…金属筐体、31…入力軸、32…出力軸、40…押出機、51…信号取得部、52…信号分析部、52a…平均値算出部(第1の算出部)、52b…標準偏差算出部(第2の算出部)、52c…最頻値算出部(第1の算出部)、52d…中央値算出部(第1の算出部)、53…判定部、54…状態表示部、60a,60b,60c,60d,60e,60f…2次元マップ、62a…危険範囲、62b…注意範囲、62c…使用可能範囲、62d…良好範囲、D…検出信号、Save…平均値(第1の量)、SD…標準偏差(第2の量)、Smed…中央値(第1の量)、Smоd…最頻値(第1の量)、Ta1,Ta2,Ta3,Ta4,Ts1,Ts2,Ts3,Ts4…閾値、M(t)…AE出力(信号)、W…AE波、(Save,SD),(Smоd,SD),(Smed,SD)…プロット位置