(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】流動層触媒熱分解反応器へのバイオマス投入方法
(51)【国際特許分類】
C10J 3/54 20060101AFI20230915BHJP
C10G 1/00 20060101ALI20230915BHJP
C10J 3/00 20060101ALI20230915BHJP
B01J 8/24 20060101ALI20230915BHJP
B01J 29/40 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
C10J3/54 A
C10G1/00 B
C10J3/00 K
B01J8/24 311
B01J29/40 M
(21)【出願番号】P 2020573179
(86)(22)【出願日】2019-07-16
(86)【国際出願番号】 US2019041974
(87)【国際公開番号】W WO2020018517
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-05-31
(32)【優先日】2018-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515198810
【氏名又は名称】アネロテック・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ANELLOTECH,INC.
【住所又は居所原語表記】401 N.Middletown Road,Bldg.170A,Pearl River,New York 10965 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンブラール,バンジャマン トマ
(72)【発明者】
【氏名】ダサラシ,ラガヴァ
(72)【発明者】
【氏名】フューネ,フレデリック ジャン-ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ゴティエ,ティエリー アルベール ピエール
(72)【発明者】
【氏名】シュメルツァー,ユージン
(72)【発明者】
【氏名】ソレンセン,ジュニア.,チャールズ ミッチェル
(72)【発明者】
【氏名】タビアニアン,シナ
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03741828(EP,A1)
【文献】米国特許第04108730(US,A)
【文献】特開2000-319671(JP,A)
【文献】特表2016-514170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10J 3/00
C10G 1/00
B01J 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを流動層反応器内で触媒熱分解する方法であって、
(a)前記流動層反応器から延びて、流体連通する
少なくとも1つのリフト管内の少なくとも1つの混合領域において
、流動
触媒粒子中に空気圧投入管から
5~40m/秒の速度のキャリアガスを用いてバイオマス供給材を空気圧で投入し、
前記少なくとも1つの混合領域は、前記流動層反応器の外に設けられ、前記バイオマス供給材は、粒径が20μm~20mmの固体粒子であり、前記空気圧投入管内の前記バイオマス供給材の温度は150℃以下であることと、
(b)バイオマス投入箇所よりも下方にある前記少なくとも1つの混合領域内に触媒投入管を通して触媒を投入し、
前記バイオマス投
入箇所よりも下流における触媒/バイオマス混合物の流量比(C/B)を4~40に維持する
ことと、を含み、前記流動層反応器の直径は、前記混合領域の直径の少なくとも2倍である、バイオマスを
流動層反応器内で触媒熱分解する方法。
【請求項2】
前記バイオマス供給材は、前記少なくとも1つの混合領域内において0~60°の偏角をもって水平、上向き又は下向きに傾斜した前記空気圧投入管から投入される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記偏角が45°である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
2本の空気圧投入管が、前記少なくとも1つの混合領域の互いに反対側の位置に、熱媒体の注入口に対して90°の角度をもって配置される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記混合領域への空気圧投入の前の段階の
前記バイオマスの前記空気圧投入管への供給が、ホッパ、ロックホッパ、スライドバルブ、ロータリーバルブ、スクリューフィーダ、又は、それらの組み合わせによって制御される、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記
流動層反応器において前記バイオマスの熱分解により生成されたガスが、前記触媒/バイオマス混合物を前記流動層反応器に輸送する追加のキャリアガスとなる、請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記流動
触媒粒子の温度は600~800℃であ
る、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記追加の
キャリアガスは、前記バイオマス空気圧投入管より上流において前記少なくとも1つの混合領域に投入される、請求項
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記追加の
キャリアガスは、前記混合領域における表面ガス速度を調整するため、前記混合領域に沿った複数箇所で前記少なくとも1つの混合領域に投入される、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記バイオマス投入
箇所より下方にある前記少なくとも1つの混合領域の底における表面ガス速度が0.1~2m/秒である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの混合領域の上部における表面ガス速度が5~25m/秒である、請求項1~
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記バイオマスが、固体炭素質材料、木材、農業廃棄物又は農業残渣、林業副産物、都市廃棄物、又は、それらの組み合わせを含む、請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記触媒は、Geldart分類におけるA粒子、B粒子、又は、それらの混合物を含む、請求項1~
12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記触媒は、SARが12より大きく、CIが1~12であることを特徴とする結晶性分子篩を含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記結晶性分子篩は、ZSM-5、ZSM-11、ZSM-12、ZSM-22、ZSM-23、ZSM-35、ZSM-48、ZSM-50、又は、それらの組み合わせの構造を持つ、請求項
14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記空気圧投入管内におけるバイオマス流量は連続的である、請求項1~
15のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスの触媒熱分解方法に関し、特に、バイオマスを触媒熱分解反応器に供給するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスにおいては、その取り扱いや、熱分解、ガス化及び燃焼などの処理を行う熱化学反応器への供給が、信頼性の高い運転を確実に行うための重要な設計基準となっている。バイオマスの触媒熱分解(CP)方法では、例えば、運転条件によっては供給装置が詰まり、均一かつ連続的な供給材の流れを提供できない場合がある。このため、バイオマス原料を反応器に連続的に供給し、その分布が確実に均一となる方法が望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
研究者やエンジニアが努力を重ねてはいるものの、様々な形状、サイズ及び密度のバイオマス材料を柔軟に処理することができる革新的で効果的な供給システムの開発は、依然として研究開発が必要な分野のままとなっている。
【0004】
バイオマスなどの固体材料の処理において、固体熱媒体(例えば、触媒、不活性固体)により反応用の熱が供給される熱化学方法で用いられるものとして、様々な供給材投入設計が知られている。Kulprathinpanja et al(米国特許公開第2015/0240167号)には、炭化水素原料に加え、バイオマス粒子を単体のオーガーを用いてライザーに導入し、それらを高温の触媒と混合するという環境に優しい流動接触分解方法が記載されている。混合領域は、直接ライザー内、又は、ライザーの下部に接続された更に大径のチャンバ内に設けることができる。Boon et al(米国特許公開第2012/0271074号)には、既知のバイオマス供給システムのいずれか、好ましくは、スクリューフィーダを用いてバイオ燃料又は生化学物質を生成する同様の方法が記載されている。Mills(米国特許公開第2010/0162625号)には、反応器としてのライザーと、熱回収用のチャー燃焼器を用いたバイオマス高速熱分解システムが記載されている。ここでは、スクリューフィーダがバイオマス供給システムとして提案されている。
【0005】
バイオマスを圧力下で送達させる例では、スクリューフィーダにロックホッパ又はテーパースクリューを連結することが提案されている。そのようなバイオマス供給システムがBartek(米国特許公開第2011/0174597号)に記載されており、ロックホッパ、振動フィーダ及びスクリューフィーダの組み合わせを用いてバイオマスを高圧で反応器に投入する。Smith(米国特許公開第2014/0044602号)には、ガスアシストの利用を含むバイオマス供給システムが記載されており、ロックホッパ/機械式コンベヤから流入するバイオマス粒子を加圧ガスと混合することで、反応器への輸送を容易にしている。下流の混合領域については、必要とされるガス流量や導入パラメータに関する詳細な説明は記載されていない。これらのシステムでは、バイオマスを反応器に直接投入すること、並びに、反応器に投入する前に供給管内で触媒と事前混合することが可能となる。Bartek et al(米国特許公開第US2012/0090977号)には、固体粒子状バイオマス材料を流動分解するための反応器が記載されている。反応器は、2つの混合領域を備えたライザーで構成されている。第1の混合領域は、バイオマス粒子とリフトガスとを混合するためのものであり、第2の混合領域は、熱媒体をライザーに導入するためのものである。この提案では、既に流動化しているバイオマスに熱媒体(例えば、触媒粒子)を投入することで、投入管内でバイオマスが事前に加熱されることが回避されるとしている。また、第1の混合領域におけるリフトガス速度が1.5~11m/sの間であり、バイオマス投入が主に機械又は重力式装置、或いは、流動層(流体床)式フィーダと制御バルブの組み合わせにより行われるとしている。第2の混合領域への熱媒体の投入については、FCC技術の当業者に知られる手段のいずれを用いてもよいが、引力手段が好ましいとしている。Palmas et al(米国特許公開第2013/0327629号)には、熱分解システムにおけるチャー処理方法が記載されている。記載される構成のうちの1つはライザーであり、まず分離されたチャー粒子と排出された熱媒体(燃焼器の固体)の一部とが混ざり合って燃焼が始まり、リフトガスである酸素含有ガス流により固体混合物が流動層燃焼器に輸送される際に完全に燃焼する。両固体(チャーと伝熱媒体)が、バルブを備えたスタンドパイプを介してライザーに送られる。
【0006】
Mazanec et al(米国特許公開第2014/0206913号)には、触媒高速熱分解用の流動層反応器などの熱分解反応器にバイオマスを導入するための供給システムが記載され、ガス又は蒸気のジェット流を用いてバイオマス粒子を流動層に直接投入している。バイオマスは低温に保たれており、ガス噴流の上流で計量することができ、流動層の遠いところまで投入することができる。
【0007】
上記の刊行物は、スクリューフィーダやロックホッパなどの従来の機械又は重力式装置を用いた反応器へのバイオマス供給を記載しているが、バイオマスが圧力下で投入される場合でさえ、このような投入が、例えば、重力供給方式よりもはるかに速い速度で行われるという記載はない。このような技術では、混合を最適に行うことも、投入管における詰まりやブリッジングを容易に低減又は防止することもできない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、バイオマスの触媒熱分解方法を提供する。方法は、触媒熱分解が起こる流動層反応器などの熱分解反応器と連通する、例えば、1~4本のリフト管などの少なくとも1つの混合領域において、キャリアガスを用い、5~40m/秒の速度で、例えば、高温の媒体などの流動熱媒体中に空気圧投入管からバイオマス供給材を空気圧で投入すること、及び、少なくとも1つの混合領域において、触媒投入管から触媒投入する箇所よりも下流における触媒/バイオマス流量比(C/B)を4~40に維持することを含む。流動層反応器の直径は、混合領域の直径の少なくとも2倍である。少なくとも1つの混合領域のバイオマス投入管は、混合領域に対して0~60°、例えば45°の偏角をもって水平、上向き又は下向きに傾斜している。
【0009】
本発明の一実施形態は、少なくとも1つの混合領域の互いに反対側の位置に、熱媒体、例えば、高温触媒の注入口に対して90°の角度をもって配置された2本のバイオマス投入管からバイオマス供給材を空気圧で投入することを含む。本発明の別の実施形態では、混合領域は、流動層反応器の底に接続されたリフト管であり、リフト管上部には、チャンネリングを低減し、より均一な分布とするための終端装置が取り付けられている。本発明の別の実施形態では、少なくとも1つの混合領域に追加の流動化ガスを注入する箇所が、例えば、バイオマス空気圧投入管よりも上流に1箇所又は2~8の複数箇所設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る方法の概略を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す方法で1本のバイオマス投入管を用いた場合に得られる結果をシミュレーションしたものを示す。
【
図3】
図3は、
図2のバイオマス投入管における平均固体温度(K)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明では、バイオマスは、1つの混合領域、例えば、リフト管に、従来よりもはるかに高速で投入される。具体的には、バイオマスは単にキャリアガスと組み合わされるだけでなく、既に流動化している高温の触媒に高速で空気圧投入される。本発明の投入システムは、詳細な操作パラメータを設定し、これに応じた触媒流へのバイオマス空気圧投入を採用することにより、詰まりや混合不良の問題に対処している。本発明は、反応器に流動層を用いた触媒熱分解方法に関し、主たる反応器の底の中央位置に供給材を投入するよう構成された混合領域で、高温触媒とバイオマスとを混合する際の方法パラメータの重要性に焦点を当てたものである。この構成では、触媒再生器から流入する触媒の温度が反応器内の触媒よりも高いことにより、加熱速度がより速くなる。流動層反応器の底の中央に投入することにより反応物の分布が確実に均一となるため、流動層反応器に横方向から投入して直接導入した場合にバイオマスが高濃度であることに起因する温度不均一性が回避される。流動層反応器内で直接ではなく、混合領域、例えば、リフト管で行うバイオマス粒子と熱媒体の混合は、混合領域の直径が反応器よりも著しく小さいため、より効率的で達成しやすい。一般に、流動層反応器の直径は、混合領域の直径の少なくとも2倍である。
【0012】
このように、本発明は、固体からなる伝熱媒体を用いた触媒熱分解方法のための商業的に単純で信頼性の高いバイオマス供給システムを提供する。供給システムは、混合領域、例えば、種々の投入管がその壁に接続された、固体とガスを流動層反応器に送達するための混合領域として機能するリフト管(
図1参照)を含む。高温の触媒は、ガス分配器が固体を流動化させ続けているリフト管底部又はその近くに接続された1本以上のスタンドパイプから流入する。バイオマスは、触媒返送管の下流に位置する1本以上の配管から、バイオマスが規定の導入速度となるように空気圧により投入される。この導入速度は、最適な混合条件となるように、触媒/バイオマス混合物の流量比の範囲に合わせて変更される。キャリアガスは、バイオマスの連続送達の他に、触媒流に進入して従来技術で過去に達成された深さよりも深いところまで達するように適切な速度でバイオマスを投入する役割を果たす。バイオマスが十分に進入することで、熱分解に必要な熱を提供する高温媒体、例えば、触媒と混合される。本発明では、Dをリフト管の直径とすると、リフト管に進入できる値は、D/3~Dである。
【0013】
熱媒体と接触した際にバイオマスから生成されるガスは、触媒/バイオマス混合物を上昇させ、供給材投入後の触媒反応が連続的に起こる反応器内へと混合物を輸送する主な流体である。追加のガスリフトを、混合領域、例えば、リフト管に沿って設けられた2~8箇所の投入点などの複数の投入点から加えることができ、また、リフト管の直径を変更して内部の表面ガス速度を調整することもできる。反応生成物の一部は、バイオマス投入用のキャリアガスや、リフト管に沿った追加のガスリフトとしても使用することができる。また、生成物の一部は、ガス分配器を使うなどして、混合領域の底及び主たる反応器において触媒を流動化するために使用することもできる。本方法によって達成されるバイオマスの進入と混合は、従来の連続運転に比べて大幅に改善されている。本発明は、空気圧投入管における固体の凝集や詰まりの原因となるコークス生成を引き起こす可能性のあるバイオマスの意図しない事前加熱が、熱媒体と接触する前に起こることを回避する。本発明のシステムは、空気圧投入管、即ち、バイオマスインジェクターチューブの損傷しやすい継ぎ目部分や高温の混合領域内での固体の滞留時間を確実に非常に短いものとすることで、バイオマスの事前加熱を極わずかなものとしている。
【0014】
(圧力均衡プロファイルに応じた)一定の長さの混合領域、例えば、リフト管が、流動層反応器の底に接続される。リフト管から流入する固体とガスの速度が高速であることから、反応器内にバイパスがあり、システム内で供給材が均一に分配されることを妨げている可能性がある。ガス速度が高速であると、反応器の放出領域で固体の飛散や噴出が生じて運転上の問題(サイクロンの過負荷、触媒の摩耗、材料の侵食など)が発生する可能性がある。終端装置は、起こりうるチャンネリングを防止するために、反応器内部でリフト管頂部に取り付けることが好ましい。そのために効果的な終端装置としては、例えば、フランス特許公開第3006607号記載のバードケージ上のキノコ型装置が含まれる。
【0015】
本明細書で使用される用語「熱分解」とは、当技術分野においての通常の意味であり、好ましくは酸素分子、即ち、O2を添加することなく、あるいは、無酸素での加熱により、化合物、例えば、固体炭化水素材料を1種類以上の別の物質、例えば、揮発性有機化合物、ガス及びコークスに変換することを指す。熱分解反応器チャンバ内の酸素の体積分率は、0.5%以下であることが好ましい。触媒を使用してもしなくても、熱分解を行うことができる。「触媒熱分解」とは、触媒の存在下で行われる熱分解のことを指し、以下により詳細に記載するような工程を含むことができる。流動層触媒反応器中でバイオマスを変換し、芳香族、オレフィン及び他の様々な物質の混合物を生成する触媒急速熱分解は、特に有益な熱分解法である。触媒熱分解法の例が、例えば、参照により本明細書に組み入れ込まれるHuber G.W.らの「Synthesis of Transportation Fuels from Biomass:Chemistry、Catalysts、and Engineering(バイオマスからの輸送燃料の合成:化学、触媒、及び工学)」Chem.Rev.106(2006年)、pp.4044-4098に記載されている。
【0016】
本明細書で使用される用語「バイオマス」は、当技術分野における通常の意味であり、再生可能なエネルギーや化学物質のあらゆる有機資源を指す。その主な材料には、(1)木(木材)及びその他のすべての植物、(2)農産物及び農業廃棄物(トウモロコシ、果実、食品廃棄物、エンシレージなど)、(3)藻類及びその他の海洋植物、(4)代謝廃物(糞肥料、下水)、及び、(5)セルロース系都市廃棄物がある。バイオマス材料の例が、Huber G.W.らの「Synthesis of Transportation Fuels from Biomass:Chemistry、Catalysts、and Engineering(バイオマスからの輸送燃料の合成:化学、触媒、及び工学)」Chem.Rev.106(2006年)、pp.4044-4098に記載されている。バイオマス粒子の平均粒径は、20μm~20mmの範囲であってもよい。
【0017】
バイオマスは、通常、燃料用又は工業生産用に変換可能な、生体又は死んだばかりの生物材料として定義される。バイオマスとしての基準によれば、材料が炭素循環に関与したばかりであり、燃焼過程で炭素を放出しても、合理的な短期間に平均化され、純増をもたらさない材料でなければならない(このため、泥炭、褐炭、石炭のような化石燃料は、長期間にわたって炭素循環に関与していない炭素を含んでおり、その燃焼が大気中の二酸化炭素に純増をもたらすことから、この定義ではバイオマスとはみなされない)。バイオマスは、最も一般的には、バイオ燃料用に栽培された植物質を指すが、繊維や化学物質の生産あるいは発熱に使用される植物質・動物質も含まれる。また、バイオマスには、燃料として燃焼できる又は化学物質に変換できる生分解性廃棄物や副産物、一般廃棄物、草木のごみ(芝、切り花、生垣の剪定ごみなどの庭や公園から出るごみからなる生分解性廃棄物)、動物糞肥料を含む農業副産物、食品加工廃棄物、下水汚泥、木材パルプや藻類からの黒液なども含まれる。地質学的方法によって所定の物質に変換された有機物質、例えば、石炭、オイルシェール、又は石油などは、バイオマスから除外される。バイオマスは、一般に、ススキ、トウダイグサ、ヒマワリ、スイッチグラス、麻、コーン(トウモロコシ)、ポプラ、柳、サトウキビ、油やし(パーム油)を含む植物として広く栽培され、その根、茎、葉、種子殻及び果実にいたるまで全てが潜在的に有用である。加工装置に導入するために行う原料の処理は、装置の必要性とバイオマスの形態により異なる。バイオマスは、化石燃料に見られる量よりもかなり多い量の14Cの存在によって、化石由来炭素と区別することができる。
【0018】
少なくとも1つの混合領域から供給が行われる流動層反応器において特に有利な触媒組成物は、SARが12より大きく、CIが1~12であることを特徴とする結晶性分子篩(モレキュラーシーブ)からなる。結晶性分子篩としては、特に限定されないが、例えば、ZSM-5、ZSM-11、ZSM-12、ZSM-22、ZSM-23、ZSM-35、ZSM-48、ZSM-50、又は、それらの組み合わせの構造を有するものが挙げられる。一例として、触媒組成物は、例えば、ZSM-5、ZSM-11、ZSM-22、ZSM-23、又は、それらの組み合わせの構造を有する分子篩など、SARが12より大で240以下であり、CIが5~10であることを特徴とする結晶性分子篩からなる。CIを決定する方法については、方法の詳細が参照により本明細書に組み入れ込まれる米国特許第4,029,716号により詳しく記載されている。
【0019】
触媒組成物は、適切な分子篩と、担持体又はバインダー材料、例えば、多孔質無機酸化物担持体又は粘土バインダーを組み合わせて使用することができる。かかるバインダー材料としては、特に限定されないが、例えば、アルミナ、ジルコニア、シリカ、マグネシア、トリア、チタニア、ボリア、及び、これらの組み合わせが挙げられ、一般に、無機酸化物の乾燥ゲル及びゼラチン状沈殿物の形態である。適切な粘土材料としては、一例として、ベントナイト、珪藻土、及び、その組み合わせが含まれる。全触媒組成物における適切な結晶性分子篩の相対的割合は、分子篩含有量が組成物の30~90重量%の範囲内、より一般的には40~70重量%の範囲内で大きく変動してもよい。触媒組成物は、流動化可能なミクロスフェア(微粒子)の形態であってもよい。
【0020】
本明細書で使用する分子篩又はこれを含む触媒組成物は、高温で熱処理してもよい。この熱処理は、通常、少なくとも370℃の温度で少なくとも1分から通常20時間まで(典型的には、酸素含有雰囲気中で、好ましくは空気中で)加熱することによって行われる。熱処理には大気圧より低い圧力を使用することもできるが、利便性から大気圧が望ましい。熱処理は最大約925℃の温度で行うことができる。熱処理された生成物は、本方法において特に有用である。
【0021】
少なくとも1つの混合領域から供給が行われる流動層反応器において特に適した触媒組成物からなる流動化可能なミクロスフェアなどの触媒粒子は、Geldartによって開発された基準(参照することにより本明細書に組み込まれるPowder Technol.7、285~292、1973)を用いて表してもよい。Geldart分類においては、粒子群は、その平均粒径と粒子密度で表される。Geldart分類における「A粒子」及び「B粒子」は、バイオマス熱分解の流動層で最も有用である。米粒、乾燥砂、食卓塩(平均径が0.150mmより大きい)などの大きくて高密度の粒子は、Geldart分類における「B粒子」である。小さくて軽い粒子(平均径0.020~0.150mm)は、Geldart分類における「A粒子」である。
【0022】
触媒再生器から流入する熱媒体、すなわちバイオマスが供給される流動熱媒体は、550~800℃の範囲、例えば、600~800℃の温度であってもよく、触媒/バイオマス混合物の流量比(C/B)は、運転条件によって決まる。C/Bとは、ガス速度とは独立した、バイオマスが熱分解する前のものを指す。C/Bの典型的な値は、4~40の範囲、例えば、6~30であり、一例として10~20である。バイオマスは、周囲温度であっても予熱されていてもよいが、触媒との接触がない状態での時期尚早な熱分解を回避し、空気圧投入管の目詰まりを回避するために、約150℃よりも高い温度ではないことが好ましい。
【0023】
バイオマスの空気圧投入管への連続供給、すなわち、リフト管に空気圧投入する前は、ホッパやロックホッパ、ロータリーバルブ、スライドバルブ、スクリューフィーダ、又は、それらの組み合わせなどの従来の供給装置によって制御できる。そして、キャリアガス流は、供給装置から放出された後、上記装置から流入するバイオマス固体を空気圧で輸送し、好ましくは5~40m/秒の範囲の、例えば、8~30m/秒の範囲、一例として、15~25m/秒のガス速度で固体を送達する。この値は、粒子の跳ね返りや管の詰まり(チョーキング)を回避するために、運転条件やバイオマスの特性に応じて調整してもよく、ユニット容量、投入管の数、リフト管の寸法などに依存する。キャリアガスの速度を調整することで、様々なC/Bで触媒流中に適切に進入させることができる。40m/秒などの高C/Bの場合、触媒とバイオマス粒子の同じ混合状態を得るためには、5m/秒などの低C/Bよりも速いキャリアガス速度を必要となる。C/Bの範囲が4~40m/秒、6~30m/秒及び10~20m/秒の場合、好ましくは、それぞれ5~40m/秒、8~30m/秒及び15~25m/秒のキャリアガス速度が必要となる。システムは様々な圧力で稼働してもよい。固体速度は、その一部がガス速度と関係しており、ガス/固体すべり係数によって決まる。通常、構成及び実現可能性に応じて、1本以上の触媒及びバイオマス投入管を用いてもよい。供給材投入管が多いほど、リフト管内のバイオマスの分布が良好となる。ただし、投入管が多くなれば、連続供給を確実に行うための制御システムも多くなる。触媒及びバイオマス投入管は、最大限の偏角をもって配置されることが望ましい。例えば、1本の触媒投入管と2本のバイオマス投入管が用いられる場合、2本のバイオマス投入管が、互いに反対側の位置に、触媒注入口に対して90°の角度をもって配置されることが好ましい。バイオマス投入管は、水平方向から0~60°の範囲(45°など)の偏角をもって水平、上向き又は下向きに傾斜してもよい。下向きの傾斜では、更に深く進入させ、容易に送達ができ、固体の逆流や渦流が回避されるため好ましい。
【0024】
リフト管底部のガス分配器は、固体を流動状態(Ug>Umf)に保つためのものであるが、流れをより希薄化し、バイオマスの進入を促進するために、バイオマス空気圧投入管の上流で更にガスを(例えば、横方向に投入することにより)追加することもできる。このガスは、蒸気、又は、例えば、CO、CO2、軽質炭化水素及びそれらの組み合わせを含む触媒熱分解リサイクルガスであってもよい。バイオマス投入管より下方にあるリフト管底部における典型的な表面ガス速度は、0.1~2m/秒の範囲であり、例えば、0.3~1m/秒である。
【0025】
混合領域、例えば、リフト管における触媒とバイオマスの投入点間の垂直距離は、触媒流が形成されるのに十分でなければならない。この距離は、設備の構成と規模によって決まるものであり、規定に沿って定めることができる。以下に例を示す。
【0026】
リフト管上部における典型的な表面ガス速度は、5~25m/秒の範囲、例えば、8~20m/秒であってもよい。リフト管上部における表面速度にかかわらず、詰まりや混合不良の回避は、バイオマスの空気圧投入速度によって制御される。触媒/バイオマス混合物の表面速度が既存の方法と同一又は類似の場合であっても、バイオマスの空気圧導入で得られる有益な効果は維持される。
【0027】
終端用及びガス・固体流再分配用の装置は、ガスのチャンネリングを回避し、流動層内の供給材分配を向上させるため、リフト管の出口に取り付けられることが好ましい。この装置は、例えば、バードケージ上のキノコ型装置(例えば、フランス特許公開第3006607号)、又は、この目的のために一般的に使用される任意の他の終端装置で構成されてもよい。固体の流動状態を保ち、リフト管から流入する供給材との混合を向上させるため、流動層にガス分配器を設けてもよい。
【0028】
本発明の更なる実施形態では、少なくとも1つの混合領域は、ガス及びバイオマス固体を流動層反応器に送達する1本以上、例えば、1~4本のリフト管を含んでもよい。しかし、制御が容易であるため、上記提案された終端装置を備えた1本のリフト管のみからなるシステムが好ましい。
【実施例】
【0029】
バイオマスの進入と加熱速度に関する実現可能性を調べるため、リフト管底部の計算流体力学(CFD)モデルシミュレーションを用いて本発明の供給材投入システムを実際に実施する実験を行った。スタンドパイプから流入する触媒と、空気圧でシステムに投入されるバイオマスとが、システム内で接触して熱交換する。表1は、実験で使用した運転条件を示す。
【表1】
【0030】
触媒熱分解では、400~600℃の範囲の温度までバイオマスを急速に(約400~500℃/秒で)加熱する必要がある。CFDシミュレーションの結果は、定常状態で作動するシステム内でのバイオマス粒子の挙動を考慮に入れて分析した。また、シミュレーションは、空気導入路内のバイオマス粒子が低温に保たれ、導入管の目詰まりの原因となり得る、触媒不在下の早過ぎる熱分解を回避することを実証するために行われた。この目的のために、表1と同じフロー条件下で、バイオマス導入路の壁がリフト管底部温度の690℃であるという最悪のシナリオで検討した。
【0031】
図1をより具体的に参照すると、
図1は本発明の実施形態の概略図を示す。
図1において、リフト管は流動層反応器の底部に材料供給し、終端装置はリフト管の頂部で反応器の底部にある。ガス分配器はリフト管の基底に配置されている。触媒再生設備などから、例えば、ZSM-5構造を有するゼオライトを含むGeldart分類A粒子からなる高温の触媒粒子が、流動熱媒体としてガス分配器の上方でリフト管に流入する。蒸気、触媒熱分解リサイクルガス、又は、その組み合わせを含むキャリアガスと共に、バイオマス供給材が、触媒投入点の上方から5~40m/秒の速度でリフト管内の高温触媒粒子中に空気圧で投入される。蒸気、触媒熱分解リサイクルガス、又は、その組み合わせを含む追加ガスが、複数箇所からリフト管に注入されることで、バイオマスの空気圧投入点より下流の触媒/バイオマス流量比が4~40に維持される。
【0032】
図2をより具体的に参照すると、
図2は、
図1に示す方法で1本のバイオマス空気圧投入管を用いた場合に得られる結果を視覚化したものを示す。バイオマスは断面に良好に進入し、触媒と十分に混合されている。バイオマス粒子の大部分が、リフト管内のバイオマス投入管の入口部の直近で熱分解ガスと蒸気に変換される。この混合領域では、直ちにガスと蒸気に変換されなかったバイオマス粒子の割合は1%未満であり、未反応のバイオマスは、その上の区間で急速に熱分解した。固体バイオマスから熱分解蒸気への急速変換は、提案された供給システムが触媒熱分解に適し、それにより、ガスと蒸気が触媒と相互作用して価値ある化学生成物及び炭化水素燃料生成物に変換されることを示している。
【0033】
図3をより具体的に参照すると、
図3は、壁が高温状態であるバイオマス投入管における平均固体温度(K)を示す。バイオマス粒子の動きが非常に速いため、粒子の加熱は極わずか(10℃/分未満)であった。この結果により、固体の凝集を回避するための本発明の空気圧搬送の重要性が確認された。
図3に示すように、投入管で達成される平均固体温度は、約300°Kにとどまる。
【0034】
更なる詳述を追加しなくとも、当業者であれば、前述の説明から本発明を最大限に利用できると考えられる。従って、前述の好適な特定の実施形態は、単なる例示として解釈されるべきであり、いかなる形であれ開示の残りの部分を限定するものではない。
【0035】
上記及び実施例における記載は、特に明記しない限り、温度は全て未修正の摂氏温度であり、また、量は全ての重量部及び重量パーセントである。
【0036】
上記の実施例は、先行例で使用した反応物及び/又は運転条件の代わりに、本発明で一般的又は具体的に記載した反応物及び/又は運転条件を用いても、繰り返し同様の成功を得ることができる。
【0037】
上記の説明から、当業者であれば、本発明の本質的な特徴を容易に理解することができ、その精神及び範囲から逸脱することなく、本発明に様々な変更及び修正を行って、様々な用途及び条件に適合させることができる。