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特許7350031推奨走行ペース算出システム及び推奨走行ペース算出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】推奨走行ペース算出システム及び推奨走行ペース算出方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 71/06 20060101AFI20230915BHJP
【FI】
A63B71/06 T
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021138817
(22)【出願日】2021-08-27
(62)【分割の表示】P 2020541812の分割
【原出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2021191432
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】品山 亮太
(72)【発明者】
【氏名】野村 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】田川 武弘
(72)【発明者】
【氏名】森 洋人
(72)【発明者】
【氏名】平川 菜央
【審査官】井上 香緒梨
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-075491(JP,A)
【文献】特開2013-208266(JP,A)
【文献】特開2017-156267(JP,A)
【文献】特開2003-315085(JP,A)
【文献】特開2018-007979(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0260191(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B71/00-71/16
A63B69/00-69/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不特定多数の走者が走行した所定距離の距離走における平均走行ペース及び走行ペースのばらつきによって規定される走行ペース特徴量と、前記所定距離の距離走における推奨走行ペースとの対応関係である第2対応関係が記憶された対応関係記憶手段と、
被判定走者が走行した前記所定距離の距離走における平均走行ペース及び走行ペースのばらつきによって規定される走行ペース特徴量を算出する走行ペース特徴量算出手段と、
前記走行ペース特徴量算出手段で算出された前記被判定走者の前記走行ペース特徴量と、前記対応関係記憶手段に記憶された前記第2対応関係とに基づき、前記被判定走者に対して推奨する前記所定距離の距離走における推奨走行ペースを算出する推奨走行ペース算出手段と、
を備えることを特徴とする推奨走行ペース算出システム。
【請求項2】
前記第2対応関係は、不特定多数の走者の前記走行ペース特徴量と前記推奨走行ペースとを用いた統計処理又は機械学習によって作成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の推奨走行ペース算出システム。
【請求項3】
前記第2対応関係における前記所定距離の距離走における推奨走行ペースは、前記不特定多数の走者の最大酸素摂取量を測定することで算出される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の推奨走行ペース算出システム。
【請求項4】
推奨走行ペース算出システムが実行する推奨走行ペース算出方法であって、
不特定多数の走者が走行した所定距離の距離走における平均走行ペース及び走行ペースのばらつきによって規定される走行ペース特徴量と、前記所定距離の距離走における推奨走行ペースとの対応関係である第2対応関係を記憶する対応関係記憶工程と、
被判定走者が走行した前記所定距離の距離走における平均走行ペース及び走行ペースのばらつきによって規定される走行ペース特徴量を算出する走行ペース特徴量算出工程と、
前記走行ペース特徴量算出工程で算出された前記被判定走者の前記走行ペース特徴量と、前記対応関係記憶工程で記憶された前記第2対応関係とに基づき、前記被判定走者に対して推奨する前記所定距離の距離走における推奨走行ペースを算出する推奨走行ペース算出工程と、
を含むことを特徴とする推奨走行ペース算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルマラソン等の所定距離の距離走における推奨走行ペースを算出する推奨走行ペース算出システム及び推奨走行ペース算出方法に関する。特に、本発明は、被判定走者が実際に走行して取得した距離走における走行ペースに基づき、被判定走者に対して推奨する前記距離走における推奨走行ペースを算出可能な推奨走行ペース算出システム及び推奨走行ペース算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルマラソンやハーフマラソン等の長距離走においては、前半に実力よりも速い走行ペースで走行してしまうことにより、中盤から後半にかけて失速するケースが多く見られる。長距離走は最初から最後まで一定の走行ペースで走行することが理想とされており、失速するランナーは、もし実力通りの一定の走行ペースで走行していれば、記録はもっと良くなると考えられる。したがい、各走者の実力に見合った一定の走行ペースを推奨走行ペースとして算出することが望まれている。
【0003】
ここで、特許文献1には、フルマラソン等の長距離走よりも短い距離の走行時間から、長距離走の走行時間を予測する装置が提案されている。
具体的には、特許文献1に記載の装置は、日々の短い距離の走行練習では、その走行時間が短縮されたとき、自分の走力の実力がアップしたことの把握はできるものの、それが、実際のフルマラソン等の長距離走で、どの程度の時間短縮になるかといったことは実際に長距離走を行わなければ全く分からないという問題を解決することを課題としてなされたものである(特許文献1の段落0003)。
特許文献1に記載の装置は、前記課題を解決するために、基準走行距離である5km又は10kmの走行時間(ベストタイム)とフルマラソンの予測走行時間とを対応付けた走行時間データ(数式データ)を統計的に取得して記憶し、この数式データに基づいて、被判定走者の基準走行距離のベストタイムから、被判定走者のフルマラソンの予測走行時間や各区間の目標ラップ時間等を算出する構成になっている(特許文献1の特許請求の範囲、段落0020、要約書等)。
【0004】
特許文献1に記載の装置によれば、被判定走者の5km又は10kmのベストタイムに基づき、フルマラソン等の長距離走の予測走行時間を算出可能である。そして、この算出した予測走行時間を長距離走で走行する距離で除算して平均走行ペースを算出すれば、この一定の平均走行ペースを被判定走者に対して推奨する推奨走行ペースとして算出可能であると考えられる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、フルマラソン等の長距離走における推奨走行ペースを算出するために、被判定走者自身が前記長距離走よりも短い5kmや10kmを実際に全力で走行してその走行時間を測定する手間が掛かるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-178869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するべくなされたものであり、被判定走者が実際に走行して取得したフルマラソン等の所定距離の距離走における走行ペースに基づき、被判定走者に対して推奨する同じ距離走における推奨走行ペースを算出可能な推奨走行ペース算出システム及び推奨走行ペース算出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、被判定走者が実際に走行して取得した距離走における所定区間毎の走行ペースのうち、最速の走行ペースを被判定走者の本来の実力に見合った走行ペースとみなすことに着眼した。この着眼に基づき、不特定多数の走者が走行した走行距離と最速の走行ペースとの対応関係を例えば統計的に取得し、被判定走者が実際に走行して取得した距離走における所定区間毎の走行ペースを、これら走行ペースのうちの最速の走行ペースと前記対応関係とに基づき補正することを考えた。そして、所定区間毎の補正後の走行ペースを用いれば、同じ距離走における被判定走者に対して適切な推奨走行ペースが得られることを見出した。
【0009】
本発明は、上記の本発明者らの知見に基づき完成したものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、第1の手段として、不特定多数の走者が走行した走行距離と最速の走行ペースとの対応関係である第1対応関係が記憶された対応関係記憶手段と、被判定走者が走行した所定距離の距離走における所定区間毎の走行ペースを取得する走行ペース取得手段と、前記走行ペース取得手段で取得された前記被判定走者の前記所定区間毎の走行ペースのうちの最速の走行ペースを抽出し、該抽出した最速の走行ペースと、前記対応関係記憶手段に記憶された前記第1対応関係とに基づき、前記走行ペース取得手段で取得された前記被判定走者の所定区間毎の走行ペースを補正する補正手段と、前記補正手段で補正された前記被判定走者の所定区間毎の補正後の走行ペースに基づき、前記被判定走者に対して推奨する前記距離走における推奨走行ペースを算出する推奨走行ペース算出手段と、を備えることを特徴とする推奨走行ペース算出システムを提供する。
【0010】
本発明の第1の手段によれば、走行ペース取得手段によって、被判定走者が実際に走行した所定距離の距離走における所定区間毎の走行ペースが取得される。そして、補正手段によって、被判定走者の所定区間毎の走行ペースのうちの最速の走行ペースが抽出され、該抽出した最速の走行ペースと、対応関係記憶手段に記憶された第1対応関係(不特定多数の走者が走行した走行距離と最速の走行ペースとの対応関係)とに基づき、被判定走者の所定区間毎の走行ペースが補正される。所定区間毎の補正後の走行ペースは、被判定走者の最速の走行ペース、換言すれば、被判定走者の本来の実力に見合った所定区間毎の走行ペースである。そして、推奨走行ペース算出手段によって、被判定走者の所定区間毎の補正後の走行ペースに基づき、被判定走者に対して推奨する同じ距離走における推奨走行ペースが算出される。推奨走行ペースは、例えば、所定区間毎の補正後の走行ペースの平均値として算出可能である。この算出された推奨走行ペースは、本発明者らの知見によれば、被判定走者に対して適切な推奨走行ペースである。
以上のように、本発明の第1の手段によれば、被判定走者が実際に走行して取得した距離走における走行ペース(所定区間毎の走行ペース)に基づき、被判定走者に対して推奨する同じ距離走における推奨走行ペースを算出可能である。
【0011】
なお、第1対応関係は、例えば、特許文献1に記載の装置等と同様に、不特定多数の走者が各種の走行距離を最速で走行するのに要した時間をその走行距離で除算して得られる走行ペースを測定して、走行距離と走行ペースとの対応関係を紐付けて整理することで、統計的に作成することが可能である。
第1対応関係は、例えば、5kmを最速260sec/kmの走行ペースで走行できる人は、10kmを最速270sec/kmの走行ペースで走行でき、ハーフマラソンを最速280sec/kmの走行ペースで走行でき、フルマラソンを最速310sec/kmの走行ペースで走行できるといったように、走行距離と最速の走行ペースとの対応関係をテーブル形式や関数形式で表したものである。
【0012】
具体的には、本発明の第1の手段において、前記対応関係記憶手段には、前記第1対応関係に基づき作成された、最速の走行ペースに応じた補正関数が記憶され、前記補正手段は、前記抽出した前記被判定走者の最速の走行ペースと前記補正関数とに基づき、前記被判定走者の所定区間毎の走行ペースを補正することが好ましい。
【0013】
本発明の第1の手段において、好ましくは、前記補正関数は、前記第1対応関係を用いて、ある区間を最速の走行ペースで走行して残りの区間を歩行したと仮定したときの前記距離走における理想の平均走行ペースを算出する第1ステップと、前記仮定した前記距離走における所定区間毎の走行ペースを前記最速の走行ペースに応じた前記補正関数に基づき補正した場合に、前記第1ステップで算出した前記理想の平均走行ペースが得られるように、前記補正関数を決定する第2ステップと、によって作成される。
【0014】
上記の好ましい構成によれば、第1ステップにおいて、第1対応関係を用いて、ある区間(例えば、距離走における最初の区間)を最速の走行ペースで走行して残りの区間を歩行したと仮定したときの距離走における理想の平均走行ペースが算出される。具体的には、ある区間(ある距離)を最速の走行ペースで走行した場合に、第1対応関係を用いることで、ある区間を最速の走行ペースで走行できる人が全力を出せば距離走をどのような走行ペースで走行できるかを算出可能である。例えば、ある10kmを270sec/kmの走行ペースで走行できる人は、第1対応関係を用いることで、全力を出せばフルマラソンを310sec/kmの走行ペースで走行できると算出可能である。そして、第1ステップでは、この第1対応関係を用いて算出した走行ペースが、ある区間を最速の走行ペースで走行して残りの区間を歩行したと仮定したときの距離走における理想の平均走行ペースとされる。
【0015】
次に、上記の好ましい構成によれば、第2ステップにおいて、前記仮定した距離走(ある区間を最速の走行ペースで走行して残りの区間を歩行したと仮定したときの距離走)における所定区間毎の走行ペースを最速の走行ペースに応じた前記補正関数に基づき補正した場合に、第1ステップで算出した理想の平均走行ペースが得られるように、前記補正関数が決定される。具体的には、補正後の所定区間毎の補正後の走行ペースを用いて前記仮定した距離走の平均走行ペースを算出した場合に、この算出した平均走行ペースが第1ステップで算出した理想の平均走行ペースに合致するように、前記補正関数が決定される。
【0016】
以上に説明した第1ステップ及び第2ステップを、前記仮定した距離走における、ある区間の最速の走行ペースを種々の値に変更して実行することにより、最速の走行ペースに応じた補正関数が得られることになる。
なお、上記の好ましい構成によって求められる補正関数は、前記仮定した距離走に基づき求められるものであるが、本発明者らの知見によれば、被判定走者が実際に走行した距離走に対しても有効に用いることが可能である。すなわち、上記の好ましい構成によって求められた補正関数を、被判定走者が実際に走行した距離走における所定区間毎の走行ペースを補正する際に用いても、被判定走者に対して適切な推奨走行ペースを算出することができる。
【0017】
本発明の第1の手段において、好ましくは、前記補正関数は、前記最速の走行ペースと、前記距離走における所定区間毎の走行ペースとを変数とする関数で表される。
この補正関数は、例えば、前述の好ましい構成における第1ステップ及び第2ステップを、前記仮定した距離走における、ある区間の最速の走行ペース及び歩行した区間の走行ペースを種々の値に変更して実行することにより、得ることができる。
【0018】
また、本発明の第1の手段において、好ましくは、前記被判定走者が走行した前記距離走における各所定区間i(i=1~n)の距離をLiとし、前記所定区間i毎の走行ペースをPiとし、前記所定区間i毎の走行ペースPiのうちの最速の走行ペースをPmaxとしたとき、前記補正手段は、以下の式(1)に基づき、前記被判定走者の前記所定区間i毎の走行ペースを補正し、前記推奨走行ペース算出手段は、以下の式(2)に基づき、前記被判定走者の前記推奨走行ペースを算出する。
【数1】

【数2】
【0019】
上記の好ましい構成によれば、所定区間i毎の走行ペースをPiとし、最速の走行ペースをPmaxとしたときに、補正手段は、式(1)に示す補正関数F(Pmax,Pi)を用いて、所定区間i毎の走行ペースPiを補正し、式(2)に示すように、所定区間i毎の補正後の走行ペースF(Pmax,Pi)の平均値を被判定走者の推奨走行ペースとして算出する。本発明者らの知見によれば、上記の好ましい構成によって所定区間i毎の走行ペースを補正し、被判定走者の推奨走行ペースを算出すれば、被判定走者に対して適切な推奨走行ペースとなる。
【0020】
本発明の第1の手段において、好ましくは、前記走行ペース取得手段は、前記被判定走者が携帯する携帯端末に設けられ、前記対応関係記憶手段、前記補正手段及び前記推奨走行ペース算出手段は、前記携帯端末と電気的に接続されたサーバに設けられ、前記走行ペース取得手段で取得された前記被判定走者の前記所定区間毎の走行ペースは、前記携帯端末から前記サーバに送信され、前記推奨走行ペース算出手段で算出された前記被判定走者に対する前記推奨走行ペースは、前記サーバから前記携帯端末に送信される。
【0021】
上記の好ましい構成によれば、被判定走者が携帯する携帯端末(例えば、スマートフォンやスマートウォッチなど)に、走行ペース取得手段が設けられ、携帯端末と電気的に接続されたサーバに、対応関係記憶手段、補正手段及び推奨走行ペース算出手段が設けられ、取得された被判定走者の所定区間毎の走行ペースが携帯端末からサーバに送信され、被判定走者に対する推奨走行ペースがサーバから携帯端末に送信される。
したがい、被判定走者は、例えば、GPS機能等を用いた走行ペース取得手段が設けられたスマートウォッチ等の公知の携帯端末を携帯するだけで、容易に自分に対する推奨走行ペースを知ることができる。また、サーバを運営する運営者にとっては、多数の被判定走者の所定区間毎の走行ペースを情報として取得することができるため、例えば、システムのより一層の機能向上等に取得した情報を利用することも可能である。
ただし、本発明の第1の手段は、上記の好ましい構成に限られるものではなく、走行ペース取得手段、対応関係記憶手段、補正手段及び推奨走行ペース算出手段の全てが携帯端末に設けられている構成や、全てがサーバに設けられている構成を採用することも可能である。
【0022】
また、前記課題を解決するため、本発明は、不特定多数の走者が走行した走行距離と最速の走行ペースとの対応関係である第1対応関係を記憶する対応関係記憶工程と、被判定走者が走行した所定距離の距離走における所定区間毎の走行ペースを取得する走行ペース取得工程と、前記走行ペース取得工程で取得された前記被判定走者の前記所定区間毎の走行ペースのうちの最速の走行ペースを抽出し、該抽出した最速の走行ペースと、前記対応関係記憶工程で記憶された前記第1対応関係とに基づき、前記走行ペース取得工程で取得された前記被判定走者の所定区間毎の走行ペースを補正する補正工程と、前記補正工程で補正された前記被判定走者の所定区間毎の補正後の走行ペースに基づき、前記被判定走者に対して推奨する前記距離走における推奨走行ペースを算出する推奨走行ペース算出工程と、を含むことを特徴とする推奨走行ペース算出方法としても提供される。
【0023】
また、前記課題を解決するため、本発明は、第2の手段として、不特定多数の走者が走行した所定距離の距離走における平均走行ペース及び走行ペースのばらつきによって規定される走行ペース特徴量と、前記所定距離の距離走における推奨走行ペースとの対応関係である第2対応関係が記憶された対応関係記憶手段と、被判定走者が走行した前記所定距離の距離走における平均走行ペース及び走行ペースのばらつきによって規定される走行ペース特徴量を算出する走行ペース特徴量算出手段と、前記走行ペース特徴量算出手段で算出された前記被判定走者の前記走行ペース特徴量と、前記対応関係記憶手段に記憶された前記第2対応関係とに基づき、前記被判定走者に対して推奨する前記所定距離の距離走における推奨走行ペースを算出する推奨走行ペース算出手段と、を備えることを特徴とする推奨走行ペース算出システムとしても提供される。
【0024】
本発明の第2の手段によれば、走行ペース特徴量算出手段によって、被判定走者が実際に走行した所定距離の距離走における平均走行ペース及び走行ペースのばらつきによって規定される走行ペース特徴量が算出される。走行ペース特徴量としては、例えば、平均走行ペースと、走行ペースのばらつき(標準偏差、平均二乗誤差など)との線形和で表される特徴量を用いることができる。そして、推奨走行ペース算出手段によって、算出された被判定走者の走行ペース特徴量と、対応関係記憶手段に記憶された第2対応関係(距離走における走行ペース特徴量と推奨走行ペースとの対応関係)とに基づき、被判定走者に対して推奨する同じ距離走における推奨走行ペースが算出される。本発明者らの知見によれば、平均走行ペース及び走行ペースのばらつきによって規定される走行ペース特徴量と、推奨走行ペースとの間には比較的良好な相関関係を有する。したがい、推奨走行ペース算出手段によって算出された推奨走行ペースは、被判定走者に対して適切な推奨走行ペースである。
以上のように、本発明の第2の手段によれば、被判定走者が実際に走行して取得した距離走における走行ペース(平均走行ペース及び走行ペースのばらつき)に基づき、被判定走者に対して推奨する同じ距離走における推奨走行ペースを算出可能である。
【0025】
なお、第2対応関係は、例えば、不特定多数の走者が所定距離の距離走における所定区間毎の走行ペースを測定して、平均走行ペースと走行ペースのばらつきとを算出すると共に、同じ不特定多数の走者のVO2max(最大酸素摂取量)を測定して、各自の実力に見合った推奨走行ペースを算出し、これらの対応関係を紐付けて整理することで、作成することが可能である。
したがい、本発明の第2の手段において、前記第2対応関係における前記所定距離の距離走における推奨走行ペースは、前記不特定多数の走者の最大酸素摂取量を測定することで算出されることが好ましい。
【0026】
具体的には、本発明の第2の手段において、前記第2対応関係は、不特定多数の走者の前記走行ペース特徴量と前記推奨走行ペースとを用いた統計処理又は機械学習によって作成されることが好ましい。
【0027】
また、前記課題を解決するため、本発明は、推奨走行ペース算出システムが実行する推奨走行ペース算出方法であって、不特定多数の走者が走行した所定距離の距離走における平均走行ペース及び走行ペースのばらつきによって規定される走行ペース特徴量と、前記所定距離の距離走における推奨走行ペースとの対応関係である第2対応関係を記憶する対応関係記憶工程と、被判定走者が走行した前記所定距離の距離走における平均走行ペース及び走行ペースのばらつきによって規定される走行ペース特徴量を算出する走行ペース特徴量算出工程と、前記走行ペース特徴量算出工程で算出された前記被判定走者の前記走行ペース特徴量と、前記対応関係記憶工程で記憶された前記第2対応関係とに基づき、前記被判定走者に対して推奨する前記所定距離の距離走における推奨走行ペースを算出する推奨走行ペース算出工程と、を含むことを特徴とする推奨走行ペース算出方法としても提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、被判定走者が実際に走行して取得した所定距離の距離走における走行ペースに基づき、被判定走者に対して推奨する同じ距離走における推奨走行ペースを算出可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第1実施形態に係る推奨走行ペース算出システムの概略構成を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る推奨走行ペース算出方法の概略手順を示すフロー図である。
図3】第1対応関係の一例を概略的に示す図である。
図4】補正関数の作成方法の一例を説明する説明図である。
図5図2に示す補正工程S4及び推奨走行ペース算出工程S5を説明する説明図である。
図6】本発明の第1実施形態に係る推奨走行ペース算出方法によって算出した推奨走行ペースの妥当性を検証した試験の結果を示す。
図7】本発明の第2実施形態に係る推奨走行ペース算出システムの概略構成を示す図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る推奨走行ペース算出方法の概略手順を示すフロー図である。
図9】統計処理によって作成した第2対応関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の実施形態に係る推奨走行ペース算出システム及び推奨走行ペース算出方法について説明する。
【0031】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る推奨走行ペース算出システムの概略構成を示す図である。図1(a)はシステム構成を示す模式図であり、図1(b)はシステム構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態に係る推奨走行ペース算出システム100は、対応関係記憶手段21と、走行ペース取得手段11と、補正手段22と、推奨走行ペース算出手段23と、を備えている。
【0032】
本実施形態において、走行ペース取得手段11は、被判定走者(図示せず)が携帯する携帯端末1(図1に示す例では、被判定走者が装着するスマートウォッチ)に設けられている。具体的には、携帯端末1(スマートウォッチ)が具備するGPS機能等が走行ペース取得手段11として機能する。
また、本実施形態において、対応関係記憶手段21、補正手段22及び推奨走行ペース算出手段23は、携帯端末1とインターネット等の電気通信回線Nを介して電気的に接続されたサーバ2に設けられている。具体的には、対応関係記憶手段21は、サーバ2が具備するROM、RAM等のメモリやハードディスク等によって構成されている。また、補正手段22及び推奨走行ペース算出手段23は、サーバ2にインストールされた、これら各手段の機能を奏するプログラムから構成されている。
【0033】
なお、本実施形態では、上記のように、走行ペース取得手段11が携帯端末1に設けられ、対応関係記憶手段21、補正手段22及び推奨走行ペース算出手段23がサーバ2に設けられた構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、走行ペース取得手段11、対応関係記憶手段21、補正手段22及び推奨走行ペース算出手段23の全てが携帯端末1に設けられている構成や、全てがサーバ2に設けられている構成を採用することも可能である。
【0034】
以下、上記の構成を有する推奨走行ペース算出システム100を用いた推奨走行ペース算出方法について説明する。
図2は、本発明の第1実施形態に係る推奨走行ペース算出方法の概略手順を示すフロー図である。
図2に示すように、本実施形態に係る推奨走行ペース算出方法は、対応関係記憶工程S1と、走行ペース取得工程S2と、補正工程S4と、推奨走行ペース算出工程S5と、を含んでいる。また、本実施形態では、前述のように、走行ペース取得手段11が携帯端末1に設けられ、対応関係記憶手段21、補正手段22及び推奨走行ペース算出手段23がサーバ2に設けられた構成である(すなわち、走行ペース取得手段11と、対応関係記憶手段21、補正手段22及び推奨走行ペース算出手段23とが別の装置に設けられている)ことから、走行ペース送信工程S3と、推奨走行ペース送信工程S6と、を更に含んでいる。
以下、各工程S1~S6について、順に説明する。
【0035】
[対応関係記憶工程S1]
対応関係記憶工程S1では、不特定多数の走者が走行した走行距離と最速の走行ペースとの対応関係である第1対応関係を対応関係記憶手段21に記憶する。対応関係記憶手段21への第1対応関係の記憶は、恒久的に記憶させても良いし(対応関係記憶手段21がROMやハードディスクから構成される場合等)、本実施形態に係る推奨走行ペース算出方法を実行する際に外部からサーバ2に入力して一時的に記憶させても良い(対応関係記憶手段21がRAMから構成される場合等)。
【0036】
図3は、第1対応関係の一例を概略的に示す図である。
第1対応関係は、不特定多数の走者が各種の走行距離を最速で走行するのに要した時間をその走行距離で除算して得られる走行ペースを測定して、走行距離と走行ペースとの対応関係を紐付けて整理することで、統計的に作成することが可能である。
図3に示す第1対応関係は、5kmを最速260sec/kmの走行ペースで走行できる人は、10kmを最速270sec/kmの走行ペースで走行でき、ハーフマラソンを最速280sec/kmの走行ペースで走行でき、フルマラソンを最速310sec/kmの走行ペースで走行できるといったように、走行距離と最速の走行ペースとの対応関係をテーブル形式で表したものである。ただし、本発明はこれに限るものではなく、第1対応関係を関数形式で表すことも可能である。
【0037】
[走行ペース取得工程S2]
走行ペース取得工程S2では、走行ペース取得手段11が、被判定走者が走行した所定距離の距離走における所定区間毎の走行ペースを取得する。例えば、所定距離の距離走がフルマラソンである場合には、最初の4区間が10km又は最初の8区間が5kmであって、残りの区間が2.195kmであり、これら各区間毎の走行ペースを取得することが考えられる。また、例えば、所定距離の距離走がハーフマラソンである場合には、最初の2区間が10km又は最初の4区間が5kmであって残りの区間が1.0975kmであり、これら各区間毎の走行ペースを取得することが考えられる。
【0038】
[走行ペース送信工程S3]
走行ペース送信工程S3では、走行ペース取得手段11で取得された被判定走者の所定区間毎の走行ペースが、携帯端末1から電気通信回線Nを介してサーバ2に送信される。
なお、走行ペース取得手段11、対応関係記憶手段21、補正手段22及び推奨走行ペース算出手段23の全てが携帯端末1に設けられている場合には、携帯端末1から電気通信回線Nを介してサーバ2に走行ペースを送信する走行ペース送信工程S3は不要である。
【0039】
[補正工程S4]
補正工程S4では、補正手段22が、走行ペース取得工程S2で取得され、走行ペース送信工程S3で送信された被判定走者の所定区間毎の走行ペースのうちの最速の走行ペースを抽出する。そして、補正手段22が、抽出した最速の走行ペースと、対応関係記憶工程S1で記憶された第1対応関係とに基づき、走行ペース取得工程S2で取得された被判定走者の所定区間毎の走行ペースを補正する。なお、本実施形態の補正工程S4では、第1対応関係をそのまま用いるのではなく、第1対応関係に基づき作成された補正関数を用いて補正している。
以下、本実施形態の補正工程S4について、より具体的に説明する。
【0040】
本実施形態の対応関係記憶手段21には、第1対応関係に基づき作成された、最速の走行ペースに応じた補正関数が記憶されている。具体的には、補正関数は、最速の走行ペースと距離走における所定区間毎の走行ペースとを変数とする関数である。補正関数は、第1対応関係に基づき手動で作成し、これを対応関係記憶手段21に記憶させても良いし、補正手段22が、第1対応関係に基づき自動で補正関数を作成し、これを対応関係記憶手段21に記憶させても良い。対応関係記憶手段21への補正関数の記憶は、第1対応関係と同様に、恒久的に記憶させても良いし、本実施形態に係る推奨走行ペース算出方法を実行する際に外部からサーバ2に入力して一時的に記憶させても良い。
【0041】
以下、補正関数の作成方法について具体的に説明する。
図4は、補正関数の作成方法の一例を説明する説明図である。図4の横軸は走行距離を、縦軸は走行ペースを示す。縦軸は下方に行くほど値が大きくなっている。図4において、Liは、距離走(図4に示す例では、フルマラソン)における各所定区間i(i=1~5)の距離を意味する。また、Piは、所定区間i毎の走行ペースを意味する。また、Pmaxは、所定区間i毎の走行ペースPiのうちの最速の走行ペースを意味する。また、Pwは、歩行時の走行ペースを意味する。さらに、F(Pmax,Pi)は補正関数を意味する。なお、図4に示す例では、L1=L2=L3=L4=10km、L5=2.195kmである。
補正関数を作成する際には、まず第1ステップとして、図4(a)に示すように、第1対応関係を用いて、ある区間を最速の走行ペースPmaxで走行して残りの区間を走行ペースPwで歩行したと仮定したときの距離走における理想の平均走行ペースを算出する。図4(a)に示す例では、図4(a)において「〇」で示すように、最初の区間1(距離L1の区間)を最速の走行ペースPmaxで走行して(すなわち、P1=Pmax)、残りの区間2~5(距離L2~L5の区間)を歩行する(すなわち、P2=P3=P4=P5=Pw)場合を仮定している。このときの平均走行ペースは、歩行時の走行ペースPwに応じて大きな値となる。そして、例えば、走行距離が10kmである区間1の走行ペースP1=Pmax=270sec/kmであれば、図3に示す第1対応関係から、フルマラソンの最速の走行ペース310sec/kmが対応するため、理想の平均走行ペースは、平均走行ペースよりも値の小さな310sec/kmとなる。
【0042】
次に、第2ステップとして、前記仮定した距離走における所定区間i毎の走行ペースPiを最速の走行ペースPmaxに応じた補正関数(より具体的には、最速の走行ペースPmaxと所定区間i毎の走行ペースPiとを変数とする関数)F(Pmax,Pi)に基づき、以下の式(1)で示すように補正した場合に、第1ステップで算出した理想の平均走行ペースが得られるように、補正関数F(Pmax,Pi)を決定する。
【数3】

具体的には、図4に示す例では、区間1の走行ペースP1=Pmaxであり、区間2~5の走行ペースP2=P3=P4=P5=Pwであるため、図4(b)に示すように、所定区間毎の補正後の走行ペースは、区間1については、F(Pmax、Pmax)=Pmaxとなり、区間2~5については、F(Pmax、Pw)となる。
【0043】
したがい、所定区間i毎の補正後の走行ペースを平均化すると、以下の式(2)’が成立する。
【数4】

第2ステップでは、この補正後の平均走行ペースが第1ステップで算出した理想の平均走行ペース(図4に示す例では、310sec/km)に等しくなるように、補正関数F(Pmax、Pw)を決定する。
そして、例えば、以上に説明した第1ステップ及び第2ステップを、歩行時の走行ペースPwを固定し、最速の走行ペースPmaxの値を変えて繰り返し実行することで、補正関数F(Pmax、Pi)を作成することができる。なお、補正関数F(Pmax、Pi)は、上記の式(2)’で表される補正後の平均走行ペースが理想の平均走行ペースに等しくなる限りにおいて、線形関数でも、非線形関数でもよい。
【0044】
図5は、補正工程S4及び推奨走行ペース算出工程S5を説明する説明図である。図5の横軸は走行距離を、縦軸は走行ペースを示す。縦軸は下方に行くほど値が大きくなっている。
本実施形態の補正工程S4では、補正手段22が、抽出した被判定走者の最速の走行ペースPmax(図5(a)に示す例では、P1=Pmax)と、上記のようにして作成した補正関数F(Pmax、Pi)とに基づき、前述の式(1)と同様にして、被判定走者の所定区間毎の走行ペースPi(図5(a)に示す例では、i=1~5)を補正する。
すなわち、補正手段22は、被判定走者が走行した距離走における各所定区間i(i=1~n、図5(a)に示す例ではn=5)の距離をLiとし、所定区間i毎の走行ペースをPiとし、所定区間i毎の走行ペースPiのうちの最速の走行ペースをPmaxとしたとき、作成した補正関数F(Pmax、Pi)を用いて、以下の式(1)に基づき、被判定走者の所定区間i毎の走行ペースPiを補正する。図5(a)に示す例では、図5(b)に示すように、走行ペースP1は最速の走行ペースPmaxであるためP1(Pmax)のままであるが、走行ペースP2はF(Pmax、P2)に補正され、走行ペースP3はF(Pmax、P3)に補正され、走行ペースP4はF(Pmax、P4)に補正され、走行ペースP5はF(Pmax、P5)に補正される。
【数5】
【0045】
[推奨走行ペース算出工程S5]
推奨走行ペース算出工程S5では、推奨走行ペース算出手段23が、補正工程S4で補正された被判定走者の所定区間毎の補正後の走行ペースF(Pmax、Pi)に基づき、被判定走者に対して推奨する距離走における推奨走行ペースを算出する。具体的には、推奨走行ペース算出手段23は、以下の式(2)に基づき、被判定走者の前記推奨走行ペースを算出する。
【数6】

図5(b)に示すように、算出された推奨走行ペースは、図3に示す第1対応関係から求まる理想の平均走行ペースよりも値が小さくなる。
【0046】
[推奨走行ペース送信工程S6]
推奨走行ペース送信工程S6では、推奨走行ペース算出手段23で算出された被判定走者に対する推奨走行ペースが、サーバ2から電気通信回線Nを介して携帯端末1に送信される。
なお、走行ペース取得手段11、対応関係記憶手段21、補正手段22及び推奨走行ペース算出手段23の全てがサーバ2に設けられている場合には、サーバ2から電気通信回線Nを介して携帯端末1に推奨走行ペースを送信する推奨走行ペース送信工程S6は不要である。
【0047】
以上に説明した本実施形態に係る推奨走行ペース算出システム100及びこれを用いた推奨走行ペース算出方法によれば、走行ペース取得行程S2において、走行ペース取得手段11によって、被判定走者が実際に走行した所定距離の距離走における所定区間i毎の走行ペースが取得される。そして、補正行程S4において、補正手段22によって、被判定走者の所定区間毎の走行ペースのうちの最速の走行ペースPmaxが抽出され、該抽出した最速の走行ペースPmaxと、対応関係記憶行程S1において、対応関係記憶手段21に記憶された第1対応関係とに基づき、被判定走者の所定区間i毎の走行ペースが補正される。所定区間i毎の補正後の走行ペースF(Pmax、Pi)は、被判定走者の最速の走行ペースPmax、換言すれば、被判定走者の本来の実力に見合った所定区間i毎の走行ペースである。そして、推奨走行ペース算出行程S5において、推奨走行ペース算出手段23によって、被判定走者の所定区間i毎の補正後の走行ペースに基づき、被判定走者に対して推奨する同じ距離走における推奨走行ペース(本実施形態では、所定区間i毎の補正後の走行ペースの平均値)が算出される。この算出された推奨走行ペースは、本発明者らの知見によれば、被判定走者に対して適切な推奨走行ペースである。
【0048】
以下、本実施形態に係る推奨走行ペース算出方法によって算出した推奨走行ペースの妥当性を検証した試験の一例について説明する。
上記試験では、被判定走者が12レースのフルマラソンを実際に走行し、所定区間毎の走行ペースを取得して、これに基づき推奨走行ペースを算出した。一方、同じ被判定走者がレースの数日前にAT(Ananerobic Threshold)ペースを測定して、この測定結果からフルマラソンでの予測走行ペースを算出した。
【0049】
図6は、上記試験の結果を示す。図6の横軸はATペースから算出(予測)した走行ペースを、縦軸は本実施形態に係る推奨走行ペース算出方法によって算出した推奨走行ペースを示す。なお、図6には、実際にフルマラソンを走行したときの平均走行ペース(図6に「●」で示すデータであり、その回帰直線を破線で示す)も図示している。また、横軸と縦軸の値が一致する場合を一点鎖線で図示している。
図6から分かるように、本実施形態に係る推奨走行ペース算出方法で算出した推奨走行ペース(図6に「〇」で示すデータであり、その回帰直線を実線で示す)は、ATペースから算出した走行ペースと比較的良く一致しており、本実施形態に係る推奨走行ペース算出方法によって算出した推奨走行ペースが妥当であるといえる。
【0050】
<第2実施形態>
図7は、本発明の第2実施形態に係る推奨走行ペース算出システムの概略構成を示す図である。図7(a)はシステム構成を示す模式図であり、図7(b)はシステム構成を示すブロック図である。
図7に示すように、本実施形態に係る推奨走行ペース算出システム100Aは、対応関係記憶手段21Aと、走行ペース取得手段11と、走行ペース特徴量算出手段24と、推奨走行ペース算出手段23Aと、を備えている。
以下、主として、第1実施形態に係る推奨走行ペース算出システム100Aと相違する点について説明し、同じ機能を有する構成要素については同じ符号を付して説明を適宜省略する。
【0051】
本実施形態においても、走行ペース取得手段11は、被判定走者(図示せず)が携帯する携帯端末1(図7に示す例では、被判定走者が装着するスマートウォッチ)に設けられている。具体的には、携帯端末1(スマートウォッチ)が具備するGPS機能等が走行ペース取得手段11として機能する。
また、本実施形態において、対応関係記憶手段21A、走行ペース特徴量算出手段24及び推奨走行ペース算出手段23Aは、携帯端末1とインターネット等の電気通信回線Nを介して電気的に接続されたサーバ2Aに設けられている。具体的には、対応関係記憶手段21Aは、サーバ2Aが具備するROM、RAM等のメモリやハードディスク等によって構成されている。また、走行ペース特徴量算出手段24及び推奨走行ペース算出手段23Aは、サーバ2Aにインストールされた、これら各手段の機能を奏するプログラムから構成されている。
【0052】
なお、本実施形態では、上記のように、走行ペース取得手段11が携帯端末1に設けられ、対応関係記憶手段21A、走行ペース特徴量算出手段24及び推奨走行ペース算出手段23Aがサーバ2Aに設けられた構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、走行ペース取得手段11、対応関係記憶手段21A、走行ペース特徴量算出手段24及び推奨走行ペース算出手段23Aの全てが携帯端末1に設けられている構成や、全てがサーバ2Aに設けられている構成を採用することも可能である。
【0053】
以下、上記の構成を有する推奨走行ペース算出システム100Aを用いた推奨走行ペース算出方法について説明する。
図8は、本発明の第2実施形態に係る推奨走行ペース算出方法の概略手順を示すフロー図である。
図8に示すように、本実施形態に係る推奨走行ペース算出方法は、対応関係記憶工程S1Aと、走行ペース取得工程S2と、走行ペース特徴量算出工程S7と、推奨走行ペース算出工程S5Aと、を含んでいる。また、本実施形態では、前述のように、走行ペース取得手段11が携帯端末1に設けられ、対応関係記憶手段21A、走行ペース特徴量算出手段24及び推奨走行ペース算出手段23Aがサーバ2Aに設けられた構成である(すなわち、走行ペース取得手段11と、対応関係記憶手段21A、走行ペース特徴量算出手段24及び推奨走行ペース算出手段23Aとが別の装置に設けられている)ことから、走行ペース送信工程S3と、推奨走行ペース送信工程S6と、を更に含んでいる。
走行ペース取得工程S2、走行ペース送信工程S3及び推奨走行ペース送信工程S6については、第1実施形態と同様であるため、説明を省略し、以下、対応関係記憶工程S1A、走行ペース特徴量算出工程S7及び推奨走行ペース算出工程S5Aについて、順に説明する。
【0054】
[対応関係記憶工程S1A]
対応関係記憶工程S1Aでは、不特定多数の走者が走行した所定距離の距離走における平均走行ペース及び走行ペースのばらつきによって規定される走行ペース特徴量と、前記距離走における推奨走行ペースとの対応関係である第2対応関係を対応関係記憶手段21Aに記憶する。対応関係記憶手段21Aへの第2対応関係の記憶は、恒久的に記憶させても良いし(対応関係記憶手段21AがROMやハードディスクから構成される場合等)、本実施形態に係る推奨走行ペース算出方法を実行する際に外部からサーバ2Aに入力して一時的に記憶させても良い(対応関係記憶手段21AがRAMから構成される場合等)。
第2対応関係を構成する走行ペース特徴量としては、例えば、平均走行ペースと走行ペースのばらつきとの線形和や、平均走行ペースのN乗(N≧2)と走行ペースのばらつきのN乗(N≧2)との線形和や、走行ペースのばらつきの平均走行ペース及び走行ペースのばらつき自体を用いることができる。走行ペースのばらつきとしては、例えば、走行ペースの標準偏差や平均二乗誤差等を用いることができる。一方、第2対応関係を構成する推奨走行ペースとしては、例えば、測定したVO2max(最大酸素摂取量)から算出(予測)される推奨走行ペースや、測定したATペースから算出(予測)される推奨走行ペースを用いたり、第1実施形態で用いた第1対応関係(図3参照)から算出される最速の走行ペースを推奨走行ペースとして用いることができる。
第2対応関係は、不特定多数の走者の走行ペース特徴量と推奨走行ペースとを用いた統計処理や、ニューラルネットワーク等の機械学習によって作成可能である。
【0055】
図9は、統計処理によって作成した第2対応関係の一例を示す図である。図9の横軸は走行ペース特徴量(図9に示す例では、平均走行ペースと走行ペースの標準偏差との線形和)であり、縦軸は推奨走行ペースである。図9に示すように、両者は比較的良好な相関関係を有する。なお、図9に示す第2対応関係は、多数のデータ点(図9に「〇」で示す点)を用いて回帰計算することで求められた関数形式(破線で示す回帰直線)で表されているが、本発明はこれに限るものではなく、第2対応関係をテーブル形式で表すことも可能である。
【0056】
[走行ペース特徴量算出工程S7]
走行ペース特徴量算出工程S7では、走行ペース特徴量算出手段24が、走行ペース取得工程S2で取得され、走行ペース送信工程S3で送信された被判定走者の距離走における所定区間毎の走行ペースに基づき、平均走行ペース及び走行ペースのばらつきを算出し、平均走行ペース及び走行ペースのばらつきによって規定される走行ペース特徴量を算出する。
【0057】
[推奨走行ペース算出工程S5A]
推奨走行ペース算出工程S5Aでは、推奨走行ペース算出手段23Aが、走行ペース特徴量算出工程S7で算出された被判定走者の走行ペース特徴量と、対応関係記憶工程21Aで記憶された第2対応関係とに基づき、被判定走者に対して推奨する距離走における推奨走行ペースを算出する。具体的には、例えば、走行ペース特徴量算出工程S7で算出された被判定走者の走行ペース特徴量の値を図9の横軸に入力し、これに対応する縦軸の値を被判定走者に対して推奨する推奨走行ペースとして算出する。
【0058】
以上に説明した本実施形態に係る推奨走行ペース算出システム100A及びこれを用いた推奨走行ペース算出方法によれば、走行ペース特徴量算出工程S7において、走行ペース特徴量算出手段24によって、被判定走者が実際に走行した所定距離の距離走における平均走行ペース及び走行ペースのばらつきによって規定される走行ペース特徴量が算出される。そして、推奨走行ペース算出工程S5Aにおいて、推奨走行ペース算出手段23Aによって、算出された被判定走者の走行ペース特徴量と、対応関係記憶工程S1Aにおいて、対応関係記憶手段21Aに記憶された第2対応関係(距離走における走行ペース特徴量と推奨走行ペースとの対応関係)とに基づき、被判定走者に対して推奨する同じ距離走における推奨走行ペースが算出される。本発明者らの知見によれば、平均走行ペース及び走行ペースのばらつきによって規定される走行ペース特徴量と、推奨走行ペースとの間には比較的良好な相関関係を有する。したがい、推奨走行ペース算出工程S5Aによって算出された推奨走行ペースは、被判定走者に対して適切な推奨走行ペースである。
【符号の説明】
【0059】
100、100A・・・推奨走行ペース算出システム
1・・・携帯端末
2、2A・・・サーバ
11・・・走行ペース取得手段
21、21A・・・対応関係記憶手段
22・・・補正手段
23、23A・・・推奨走行ペース算出手段
24・・・走行ペース特徴量算出手段
N・・・電気通信回線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9