(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】複合材料
(51)【国際特許分類】
C22C 26/00 20060101AFI20230915BHJP
C22C 1/10 20230101ALI20230915BHJP
【FI】
C22C26/00 Z
C22C1/10 G
(21)【出願番号】P 2021511363
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2020011138
(87)【国際公開番号】W WO2020203185
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2019065969
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】岩山 功
(72)【発明者】
【氏名】松儀 亮太
(72)【発明者】
【氏名】西水 貴洋
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101649440(CN,A)
【文献】特開2006-077327(JP,A)
【文献】特開2018-111883(JP,A)
【文献】特開2017-095766(JP,A)
【文献】国際公開第2014/038459(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0319900(US,A1)
【文献】特開2004-200346(JP,A)
【文献】特公昭47-017964(JP,B1)
【文献】特表2015-507087(JP,A)
【文献】特開2016-136549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 26/00
C22C 1/04-1/059
C22C 1/08-1/10
C22C 29/06
C22C 47/00-49/14
C04B 32/00
C01B 32/25
H01L 23/373
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属相と非金属相とを含み、
特定元素をさらに含み、
前記金属相の90質量%以上は、Ag及びCuからなる群より選択される少なくとも一種からなり、
前記非金属相は、被覆コア材を含み、
前記被覆コア材は、コア材と、前記コア材の表面の少なくとも一部を覆う炭化物層とを有し、
前記コア材は、ダイヤモンド
からなり、
前記炭化物層は、Ti,Cr,Ta,及びVからなる群より選択される一種以上の金属元素の炭化物を含み、
前記特定元素は、Y及びMgからなる群より選択される一種以上からなり、
前記特定元素の含有量は、合計で0.0004質量%以上
0.08質量%以下である、
複合材料。
【請求項2】
前記特定元素の少なくとも一部を酸化物として含む、
請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記金属元素の含有量が合計で0.1質量%以上7.5質量%以下である、
請求項1又は請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記非金属相の含有量が50体積%以上である、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項5】
前記非金属相の含有量が50体積%以上90体積%以下である、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記特定元素の少なくとも一部を酸化物として含み、
前記金属元素の含有量が合計で0.1質量%以上7.5質量%以下であり、
前記非金属相の含有量が50体積%以上90体積%以下である、
請求項1に記載の複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合材料に関する。
本出願は、2019年3月29日出願の日本出願第2019-065969号に基づく優先権を主張する。当該日本出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本出願の明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、半導体素子の放熱部材の構成材料として、銀とダイヤモンドとを含む複合材料を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の複合材料は、
金属相と非金属相とを含み、
特定元素をさらに含み、
前記金属相の90質量%以上は、Ag及びCuからなる群より選択される少なくとも一種からなり、
前記非金属相は、被覆コア材を含み、
前記被覆コア材は、コア材と、前記コア材の表面の少なくとも一部を覆う炭化物層とを有し、
前記コア材は、ダイヤモンド、グラファイト、炭素繊維、及び炭化珪素からなる群より選択される一種以上の炭素含有材を含み、
前記炭化物層は、Ti,Cr,Ta,及びVからなる群より選択される一種以上の金属元素の炭化物を含み、
前記特定元素は、Y,Mg,Si,B,及びZrからなる群より選択される一種以上からなり、
前記特定元素の含有量は、合計で0.0004質量%以上1.3質量%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、実施形態の複合材料を模式的に示す部分断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態の複合材料の製造過程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1に記載される銀とダイヤモンドとの複合材料からなる放熱部材は、冷熱サイクルが繰り返し行われても高い熱伝導率を有する。更に、冷熱サイクルが繰り返し行われても高い熱伝導率を有しつつ、熱伝導率がばらつかない放熱部材、即ち高い熱伝導率を安定して有する放熱部材が望ましい。
【0007】
そこで、本開示は、繰り返しの冷熱サイクルを受けても、高い熱伝導率を安定して有する放熱部材を構築できる複合材料を提供することを目的の一つとする。
【0008】
[実施形態の概要]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係る複合材料は、
金属相と非金属相とを含み、
特定元素をさらに含み、
前記金属相の90質量%以上は、Ag及びCuからなる群より選択される少なくとも一種からなり、
前記非金属相は、被覆コア材を含み、
前記被覆コア材は、コア材と、前記コア材の表面の少なくとも一部を覆う炭化物層とを有し、
前記コア材は、ダイヤモンド、グラファイト、炭素繊維、及び炭化珪素からなる群より選択される一種以上の炭素含有材を含み、
前記炭化物層は、Ti,Cr,Ta,及びVからなる群より選択される一種以上の金属元素の炭化物を含み、
前記特定元素は、Y,Mg,Si,B,及びZrからなる群より選択される一種以上からなり、
前記特定元素の含有量は、合計で0.0004質量%以上1.3質量%以下である。
【0009】
本開示の複合材料は、以下の理由により、高い熱伝導率を有する放熱部材を構築できる。
(a)金属相の主体がAg及びCuの少なくとも一方という高熱伝導率を有する金属元素である。
(b)本開示の複合材料は、非金属相としてダイヤモンド等といった高熱伝導率を有する炭素含有材を含む。
(c)上記ダイヤモンド等の炭素含有材の表面にTi等の炭化物からなる炭化物層が存在する。この炭化物層によって、金属相と非金属相とが密着する。そのため、本開示の複合材料は、金属相と非金属相との両者間の熱伝導性に優れる。
(d)Y等といった特定元素を含むものの、上記特定元素の含有量は上述の特定の範囲を満たす。そのため、本開示の複合材料は、上記特定元素の含有に起因する熱伝導率の低下を招き難い。
【0010】
かつ、本開示の複合材料は、繰り返しの冷熱サイクルを受けても、熱伝導率の低下が少なく、高い熱伝導率を安定して有する。本開示の複合材料は、繰り返しの冷熱サイクルを受けても、上述の炭化物層による金属相と非金属相との密着状態を良好に維持できるからである。上記の密着状態を維持できる理由の一つとして、以下のことが考えられる。
【0011】
複合材料の製造過程では、上述の炭化物層の原料に用いるTi等の金属元素の表面に酸化膜が存在し得る。金属相の主体であるAgやCu、炭素含有材を構成する炭素はいずれも、上記酸化膜を還元できない。そのため、原料に用いる上記金属元素からなる粉末の粒子等の表面が完全に酸化膜によって覆われていた場合、上記粒子は、上記炭素と反応できず、炭化物層を形成できない。上記金属元素からなる粉末は、このような完全に酸化膜に覆われた粒子(以下、酸化粒子と呼ぶ)を一定の割合で含むと考えられる。また、上記粉末における上記酸化粒子の含有割合には、ばらつきがある。このような原料のばらつきは、複合材料における特性のばらつきの一因となると考えらえる。これに対し、後述するように、Y等の特定元素は上記酸化膜に対して還元剤として機能する。この還元作用によって、上記金属元素と、上記炭素とが反応でき、炭化物層を適切に形成することができる。炭素含有材の表面に炭化物層が形成されることで、炭素含有材と溶融状態の金属(金属相の原料となる金属)とが良好に濡れる。そのため、金属相と非金属相とが密着する。このような密着箇所が多く存在する複合材料は、繰り返しの冷熱サイクルを受けても、密着状態を維持し易いと考えられる。
【0012】
本開示の複合材料は、繰り返しの冷熱サイクルを受けても、高い熱伝導率を安定して有する放熱部材を構築できる。また、上述の炭素含有材の線膨張係数はAg及びCuよりも十分に小さい。そのため、本開示の複合材料は、半導体素子等の線膨張係数との整合性に優れる。このような本開示の複合材料は、半導体素子の放熱部材の構成材料として好適に利用できる。
【0013】
(2)本開示の複合材料の一例として、
前記特定元素の少なくとも一部を酸化物として含む形態が挙げられる。
【0014】
上記形態では、上述のY等の特定元素が酸化物として存在する。このことから、特定元素は、複合材料の製造過程でTi等の金属元素を還元できて、上記金属元素は炭化物層を適切に形成できたと考えられる。その結果、炭化物層によって金属相と非金属相とがより確実に密着しているといえる。更に、上記酸化物の含有量は、特定元素の含有量に依存する。そのため、上記形態は、上記酸化物を過剰に含有しておらず、上記酸化物の過剰含有に起因する熱伝導率の低下を招き難い。従って、上記形態は、繰り返しの冷熱サイクルを受けても、高い熱伝導率を安定して有する放熱部材をより確実に構築できる。
【0015】
(3)本開示の複合材料の一例として、
前記金属元素の含有量が合計で0.1質量%以上7.5質量%以下である形態が挙げられる。
【0016】
上記形態は、Ti等の金属元素の含有量が上記の範囲を満たすため、上記金属元素を炭化物層として適切に含むといえる。また、上記形態は、上記金属元素の過剰な含有に起因する熱伝導率の低下を招き難い。従って、上記形態は、より高い熱伝導率を有する放熱部材を構築し易い。
【0017】
(4)本開示の複合材料の一例として、
前記非金属相の含有量が50体積%以上である形態が挙げられる。
【0018】
上記形態は、高熱伝導率を有する炭素含有材を多く含むといえる。従って、上記形態は、より高い熱伝導率を有する放熱部材を構築し易い。
【0019】
(5)本開示の複合材料の一例として、
前記非金属相の含有量が50体積%以上90体積%以下である形態が挙げられる。
【0020】
非金属相の含有量が90体積%以下であれば、複合材料は金属相をある程度含む(10体積%以上)。金属相は、非金属相を構成する粒子を結合したり、非金属相を構成する多孔体の空隙を埋めたりできる。また、金属相によって、複合材料の線膨張係数が小さくなり過ぎることを防止できる。更に、非金属相が多過ぎないことで、製造過程では、非金属相の原料のコア材と溶融状態の原料金属とが溶浸し易い。そのため、未溶浸部分の発生が抑制されて、複合材料はより確実に緻密になり易い。
【0021】
(6)本開示の複合材料の一例として、
前記特定元素の少なくとも一部を酸化物として含み、
前記金属元素の含有量が合計で0.1質量%以上7.5質量%以下であり、
前記非金属相の含有量が50体積%以上90体積%以下である、形態も挙げられる。
【0022】
[本開示の効果]
本開示の複合材料は、繰り返しの冷熱サイクルを受けても、高い熱伝導率を安定して有する放熱部材を構築できる。
【0023】
[実施形態の詳細]
以下、図面を適宜参照して、本開示の実施形態を具体的に説明する。図中、同一符号は同一名称物を意味する。
【0024】
[複合材料]
図1を主に参照して、実施形態の複合材料1を説明する。
(概要)
実施形態の複合材料1は、
図1に示すように金属相3と非金属相2とを含む。金属相3は、Ag(銀)、Cu(銅)、又はAgとCuとの双方を主体とする。非金属相2は被覆コア材20を含む。被覆コア材20は、コア材22と、コア材22の表面の少なくとも一部を覆う炭化物層23とを有する。コア材22の構成材料は、ダイヤモンド等といった炭素含有材(詳細は後述)を含む。炭化物層23の構成材料は、Ti等といった金属元素の炭化物(詳細は後述)を含む。複合材料1は、代表的には平板状に成形されて、半導体素子等の放熱部材に利用される。
【0025】
実施形態の複合材料1は、特定元素をさらに含む。すなわち、複合材料1は、複合材料1を100質量%として、Y(イットリウム),Mg(マグネシウム),Si(珪素),B(硼素),及びZr(ジルコニウム)からなる群より選択される一種以上の元素(特定元素)を合計で4質量ppm以上1.3質量%以下含む。上記特定元素は、複合材料1の製造過程で炭化物層23が適切に形成されることに寄与する。複合材料1は、炭化物層23を介して非金属相2と金属相3とが密着しており、繰り返しの冷熱サイクルを受けても、上記の密着状態を維持し易い。
以下、構成要素ごとに詳細に説明する。
【0026】
(非金属相)
〈主要な構成材料〉
実施形態の複合材料1は、非金属相2として、ダイヤモンド、グラファイト、炭素繊維、及び炭化珪素からなる群より選択される一種以上の炭素含有材を含む。すなわち、コア材22は、ダイヤモンド、グラファイト、炭素繊維、及び炭化珪素からなる群より選択される一種以上の炭素含有材を含む。上記炭素含有材はいずれも、高い熱伝導率を有しつつ、線膨張係数がAg及びCuよりも十分に小さい。そのため、複合材料1は、半導体素子、絶縁基板、パッケージ等といった半導体装置の構成部品との線膨張係数の整合性に優れる。このような複合材料1は、半導体素子の放熱部材の構成材料に好適に利用できる。また、上記炭素含有材はいずれも、耐熱性に優れる。そのため、複合材料1は耐熱性に優れる放熱部材を構築できる。
【0027】
ダイヤモンドは代表的には1000W/m・K以上といった高い熱伝導率を有する。また、ダイヤモンドは熱伝導に関する異方性が実質的に無い。そのため、非金属相2としてダイヤモンドを含むと、複合材料1は熱伝導性に非常に優れる。グラファイトは機械的加工性に優れる。また、グラファイトは、熱伝導に関する異方性を有するものの、ダイヤモンドに比較して安価であり、製造コストを低減できることから、利用し易い。炭素繊維は、グラファイトに類似するが劈開しない。そのため、非金属相2として炭素繊維を含む複合材料1は、グラファイトを含む場合に比較して強度に優れる。繊維の長手方向に2000W/mK程度という非常に高い熱伝導率を有する炭素繊維を含む複合材料1は、熱伝導性により優れる。炭化珪素は、ダイヤモンドよりも熱伝導率が低いものの、熱伝導に関する異方性が無い上に、ダイヤモンドに比較して非常に安価である。これらの点から、炭化珪素は利用し易い。
【0028】
実施形態の複合材料1は、非金属相2として、一種の炭素含有材を含んでもよいし、二種以上の炭素含有材を含んでもよい。特に、非金属相2として、ダイヤモンドを含む複合材料1は、高い熱伝導率を有する放熱部材を構築できて好ましい。非金属相2として、ダイヤモンドに加えて、グラファイト、炭素繊維、及び炭化珪素からなる群より選択される一種以上の炭素含有材を含む場合には、高い熱伝導率を有する放熱部材を低コストで構築することができる。
【0029】
〈存在形態〉
非金属相2は、
図1に示すように粒子を含むことが挙げられる。非金属相2を構成する各粒子は金属相3に分散して存在する。非金属相2の実質的に全てが粒子でもよい。又は、非金属相2は、三次元の網目構造を有する多孔体(図示せず)を含むことが挙げられる。この場合、金属相3は、上記多孔体の気孔中に充填された状態で存在する。例えば多孔体として、炭化珪素等からなる焼結体が挙げられる。
【0030】
非金属相2は、被覆コア材20を含む。被覆コア材20は、コア材22と、炭化物層23とを有する。炭化物層23は、コア材22の表面の少なくとも一部、好ましくは実質的に全部を覆う薄膜である。
図1は、分かり易いように炭化物層23を厚く示すが、実際には炭化物層23は非常に薄い。非金属相2の実質的に全てが被覆コア材20でもよい。後述するように、非金属相2と金属相3との密着により、複合材料1が熱伝導性に優れるからである。
【0031】
被覆コア材20の一例として、コア材22が炭素含有材から構成される粒子である被覆粒子が挙げられる。
図1は、被覆コア材20として被覆粒子を例示する。また、
図1は、非金属相2が被覆粒子で構成される場合を例示する。被覆粒子の具体例として、コア材22がダイヤモンドから構成され、炭化物層23がTiCから構成されるものが挙げられる。その他の被覆コア材20として、コア材22が上述の多孔体である被覆多孔体が挙げられる。複合材料1は、被覆コア材20として、上述の被覆粒子と、被覆多孔体との双方を含んでもよい。
【0032】
コア材22の構成材料は、上述の炭素含有材という非金属無機材料が挙げられる。炭化物層23の構成材料は、Ti(チタン),Cr(クロム),Ta(タンタル),及びV(バナジウム)からなる群より選択される一種以上の金属元素を含む炭化物が挙げられる。すなわち、炭化物層23は、Ti,Cr,Ta,及びVからなる群より選択される一種以上の金属元素の炭化物を含む。
【0033】
〈炭化物〉
炭化物層23は、複合材料1の製造過程で、金属相3の原料に用いられる金属(以下、原料金属30(
図2)と呼ぶことがある)であって溶融状態の金属に対して、コア材21の濡れ性を高めることに寄与する。濡れ性が高められることで、被覆コア材20間に溶融状態の金属が溶浸されていない部分(未溶浸部分)の発生を抑制でき、複合材料1は緻密になり易い。また、炭化物層23によって、非金属相2を構成するコア材22と金属相3とが密着する。更に、上記炭化物をなすC(炭素)は、代表的にはダイヤモンド等の炭素含有材に由来する。そのため、炭素含有材からなるコア材22と炭化物層23とが密着する。このように非金属相2と金属相3との密着、コア材22と炭化物層23との密着により、緻密な複合材料1は、非金属相2と金属相3との間の熱伝導性に優れて、高い熱伝導率を有する。
【0034】
特に、Ti及びCrの少なくとも一方の金属元素を含む炭化物は、以下の点で好ましい。
(1)上記炭化物は、AgやCuを主体とする金属相3との濡れ性に優れる。
(2)Ti及びCrは、金属相3を構成するCu等に固溶していても、適切な熱処理(時効)を施すことによってCu等から析出させられる。そのため、複合材料1は、TiやCrをある程度多く含有しても、熱伝導率を低下させ難い。
(3)複合材料1がTiやCrをある程度多く含有すると、複合材料1の機械的強度が高まる傾向がある。
上記炭化物は、Ti,Cr,V,及びTaからなる群より選択される2種類以上の金属元素を含んでもよい。
【0035】
Ti等の金属元素の含有量は、例えば、複合材料1を100質量%として、合計で0.1質量%以上7.5質量%以下であることが挙げられる。
【0036】
Ti等の金属元素の含有量が0.1質量%以上であれば、上記金属元素を構成材料とする炭化物層23が適切に存在するといえる。また、コア材22の表面における炭化物層23に被覆される領域が大きいといえる。好ましくはコア材22の表面の全体が炭化物層23に覆われる。このような複合材料1は、上述のように製造過程で溶融状態の原料金属30と原料のコア材21(
図2)との濡れ性を高められて、良好に緻密化や複合化がなされたと考えられる。そのため、この複合材料1は、繰り返しの冷熱サイクルを受けても、炭化物層23を介した非金属相2と金属相3との密着状態を維持し易い。炭化物層23の被覆領域の増大等を望む場合には、上記含有量は0.3質量%以上、更に0.5質量%以上でもよい。
【0037】
Ti等の金属元素の含有量が7.5質量%以下であれば、上記金属元素を構成材料とする炭化物層23が多過ぎたり、厚過ぎたりし難い。好ましくは炭化物層23が非常に薄く、均一的な厚さになり易い(例、厚さが0.5μm以下、更に0.3μm以下)。そのため、炭化物層23の過剰含有に起因する熱伝導率の低下を防止でき、複合材料1が高い熱伝導率を有し易い。炭化物層23の過剰含有の抑制等を望む場合には、上記含有量は5質量%以下、更に3.5質量%以下、2.5質量%以下が好ましい。熱伝導性の向上等を望む場合には、上記含有量は2.0質量%以下、更に1.5質量%以下、1.0質量%以下、更には0.9質量%以下、0.8質量%以下でもよい。
【0038】
なお、炭化物層23の含有量や厚さは、製造過程において、上述のTi等の金属元素の含有量だけでなく、反応時間や反応温度等によっても制御可能である。そのため、上記金属元素の含有量の上限値は絶対的なものではない。例えば、反応時間を短く、又は反応温度を低くすれば、原料として添加した上記金属元素の化学量論から求められる炭化物層23の厚さよりも薄い炭化物層23を形成することができる。炭化物層23の形成に利用されなかった残りの金属元素は、金属相3を構成するCuやAgに固溶して合金を形成する。この合金中のTiやCr等は、上述のように適切な熱処理(時効)を施すことで析出可能である。TiやCr等が析出状態である場合は、固溶状態である場合に比較して、複合材料1の機械的強度や熱伝導性に優れる傾向にある。
【0039】
複合材料1に含まれるTi等の金属元素の実質的に全てが炭化物層23として存在することが好ましい。その他、上記金属元素は、後述する酸化物4として存在したり、金属相3中に析出して存在したりすることを許容する。
【0040】
〈大きさ〉
非金属相2が上述の炭素含有材からなる粒子を含む場合、粒子(被覆粒子を含む)の平均粒径は、例えば1μm以上300μm以下が挙げられる。
【0041】
上記平均粒径が1μm以上であれば、複合材料1における非金属相2を構成する粒子による界面を低減できる。上記界面は熱抵抗として作用する。そのため、複合材料1は、上記界面が少ないほど熱伝導性に優れ、高い熱伝導率を有し易い。上記平均粒径が大きいほど、上記界面を低減でき、熱伝導性に優れる。熱伝導性の向上等を望む場合には、上記平均粒径は5μm以上、更に10μm以上、15μm以上、20μm以上でもよい。
【0042】
上記平均粒径が300μm以下であれば、以下の効果を奏する。
(1)複合材料1からなる成形体(例、板材)の表面の凸凹が小さくなり易く、表面性状に優れる。
(2)製造過程で、複合材料1からなる成形体に研磨や切削等の加工を行うことが容易である。
(3)製造過程で、上記研磨等を行った際に、非金属相2を構成する粒子が脱落しても、脱落に起因する凹部を小さくし易い。そのため、上記研磨後の成形体は、表面性状に優れる。
(4)複合材料1からなる成形体として、薄い成形体を製造することが容易である。表面性状の向上、加工性の向上、薄型化等を望む場合には、上記平均粒径は250μm以下、更に150μm以下、100μm以下でもよい。
【0043】
上記平均粒径が1μm以上300μm以下を満たす範囲で、相対的に微細な粒子と相対的に粗大な粒子とを含んでもよい。この場合、製造過程で、炭素含有材の粉末を成形型に緻密に充填することが容易である。その結果、複合材料1は、熱伝導率を高め易く、かつ線膨張係数を低減し易い。
【0044】
上記平均粒径の測定は、例えば、複合材料1から非金属相2を構成する粒子を抽出し、この粒子について市販の分析装置でメジアン径を測定することが挙げられる。非金属相2の抽出は、例えば、金属相3、後述の酸化物4を酸等で選択的に溶解して除去することが挙げられる。
【0045】
〈含有量〉
非金属相2(被覆コア材20を含む)の含有量は、例えば複合材料1を100体積%として50体積%以上が挙げられる。上記含有量は、非金属相2が複数種の炭素含有材や複数種の被覆コア材20を含む場合には合計量とする。非金属相2の含有量は、以下の手順で求めることが挙げられる。まず、複合材料1の断面をSEMで観察し、二次電子像を撮影する。上記観察における倍率は、例えば非金属相2が粒子を含む場合、一つの視野中に、非金属相2をなす粒子が300個以上400個以下含まれるように調整する。このような断面像を10個撮影する(n=10)。撮影した像に対してそれぞれ、市販の画像解析ソフトウエアによって画像処理を施す。画像処理像を用いて、断面像中における非金属相2の面積割合を求める。上記面積割合とは、一視野の面積に対する非金属相2の面積の割合である。全視野(n=10)の面積割合を求め、更にこれらの面積割合の平均値を算出する。この面積割合の平均値を、複合材料1に含有される非金属相2の含有量(体積割合)と見なすことができる。
【0046】
上記含有量が50体積%以上であれば、複合材料1はダイヤモンド等の炭素含有材を多く含むといえる。そのため、複合材料1は、高い熱伝導率を有し易い。また、複合材料1は、金属相3のみの線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有し易い。このような複合材料1は、上述した半導体装置の構成部品等の線膨張係数との整合性に優れる。従って、この複合材料1は、半導体素子の放熱部材の構成材料に好適に利用できる。熱伝導性の向上等を望む場合には、上記含有量は55体積%以上、60体積%以上、70体積%以上でもよい。
【0047】
なお、非金属相2が実質的に被覆コア材20から構成される場合、非金属相2の含有量(体積%)は、炭素含有材の含有量(体積%)と炭化物層23の含有量(体積%)とを含む。Ti等の金属元素の合計含有量が7.5質量%以下を満たす範囲であれば、炭化物層23の含有量(体積%)は被覆コア材20の含有量に対して十分に少ない。即ち、この場合でも、複合材料1は、炭素含有材を相対的に多く含む。
【0048】
非金属相2の含有量は、例えば90体積%以下が挙げられる。例えば、非金属相2の含有量は、50体積%以上90体積%以下であってもよい。上記含有量が90体積%以下であれば、複合材料1は金属相3をある程度含む(10体積%以上)。金属相3は、非金属相2を構成する粒子を結合したり、非金属相2を構成する多孔体の空隙を埋めたりできる。また、金属相3によって、複合材料1の線膨張係数が小さくなり過ぎることを防止できる。更に、非金属相2が多過ぎないことで、製造過程では、非金属相2の原料のコア材21と溶融状態の原料金属30とが溶浸し易い。そのため、未溶浸部分の発生が抑制されて、複合材料1はより確実に緻密になり易い。金属相3の確保、緻密化、良好な複合化等を望む場合には、上記含有量は85体積%以下、更に80体積%以下でもよい。
【0049】
非金属相2を構成する炭素含有材の粒子や多孔体の形状、大きさ、含有量等の仕様は適宜選択できる。上記粒子の仕様は、代表的には原料粉末の仕様を実質的に維持する。上記多孔体の仕様は、代表的には原料に用いた焼結体の仕様を実質的に維持する。複合材料1中の非金属相2が所定の仕様となるように、原料の仕様を選択するとよい。
【0050】
(金属相)
金属相3の構成材料の一例として、金属相3を100質量%として、Ag(銀)又はCu(銅)を90質量%以上含有することが挙げられる。金属相3の構成材料の別例として、金属相3を100質量%として、AgとCuとを合計で90質量%以上含有することが挙げられる。すなわち、金属相3の90質量%以上は、Ag及びCuからなる群より選択される少なくとも一種からなる。例えば、金属相3の実質的に100質量%が、Ag及びCuからなる群より選択される少なくとも一種からなっていてもよい。例えば、金属相3の90質量%以上100質量%以下が、Ag及びCuからなる群より選択される少なくとも一種からなっていてもよい。具体的には、金属相3の構成材料は、純銀、銀基合金、純銅、銅基合金、及び銀と銅との二元合金をベースとする合金からなる群より選択される一種の金属が挙げられる。複合材料1は、金属元素のなかでは高い熱伝導率を有するAg及びCuの少なくとも一方を金属相3の主体とする。そのため、複合材料1は、高い熱伝導率を有する。
【0051】
純銀は、代表的にはAgを99.9質量%以上含むものが挙げられる。純銀の熱伝導率は、銀基合金、純銅、銅基合金よりも高い。そのため、金属相3の構成材料が純銀であれば、純銅である場合に比較して、複合材料1は高い熱伝導率を有する。この場合、非金属相2としてダイヤモンドを含むと、複合材料1は更に高い熱伝導率を有する。
【0052】
銀基合金は、添加元素を含むと共に、Agを90質量%以上含むものが挙げられる。銀基合金は、純銀よりも強度等の機械的特性に優れる。そのため、金属相3の構成材料が銀基合金であれば、複合材料1は強度等の機械的特性に優れる。銀基合金の添加元素は適宜選択できる。銀基合金は、スターリングシルバー925等、公知の組成の銀基合金でもよい。
【0053】
純銅は、代表的にはCuを99.9質量%以上含むものが挙げられる。純銅の熱伝導率は、銅基合金よりも高い。そのため、金属相3の構成材料が純銅であれば、銅基合金である場合に比較して、複合材料1は高い熱伝導率を有する。また、純銅は純銀よりも軽量であるため、軽量な複合材料1にできる。更に、純銅は純銀よりも機械的強度、製造コストの面で優れる。
【0054】
銅基合金は、添加元素を含むと共に、Cuを90質量%以上含むものが挙げられる。銅基合金は、純銅よりも強度等の機械的特性に優れる。そのため、金属相3の構成材料が銅基合金であれば、複合材料1は強度等の機械的特性に優れる。銅基合金の添加元素は適宜選択できる。銅基合金は、公知の組成の銅基合金としてもよい。
【0055】
銀と銅との二元合金をベースとする合金は、銀と銅との二元合金(例、共晶合金)でもよいし、添加元素を含むと共に、上記二元合金を90質量%以上含むものでもよい。銀と銅との二元合金の融点は低い。そのため、製造過程で、溶浸温度を同じとする場合、銀と銅との二元合金は、二元合金以外の合金に比較して流動性に優れる。従って、金属相3の構成材料が上記二元合金であれば、複合材料1は緻密になり易い。また、融点が低い二元系合金の構成元素としては、銀と銅との組み合わせが最も高い熱伝導率を有する。熱伝導性の面からも、上記二元合金は、金属相3の構成材料に適する。
【0056】
(還元元素)
実施形態の複合材料1は、上述のようにY,Mg,Si,B,Zrといった特定元素を4質量ppm以上1.3質量%以下の範囲で含む。すなわち、複合材料1は、特定元素をさらに含む。特定元素は、Y,Mg,Si,B,及びZrからなる群より選択される一種以上からなる。特定元素の含有量は、合計で0.0004質量%以上1.3質量%以下である。上記特定元素は、複合材料1を製造する温度域で、水素よりも高い還元力を有する。そのため、上記特定元素は、炭化物層23の原料に用いるTi等の金属元素の表面に存在する酸化膜を還元できる。この還元作用によって、上記金属元素と炭素含有材を構成する炭素とが反応して、炭化物層23を適切に形成できる。その結果、複合材料1では、炭化物層23を介して非金属相2と金属相3とが密着できる。上記特定元素の作用の詳細は、製造方法の溶浸工程の項で説明する。
【0057】
特にY,Mgは、Tiよりも酸素と結合し易いため、Tiに対する還元剤として極めて良好に機能し易い。とりわけMgは、複合材料1を製造する温度域では蒸気となって拡散し易く、極めて良好な還元性を示す。
【0058】
Y,Si,Zr,Bは、炭素と結合し易い。そのため、これらの元素は、TiやCr等ほどではないが、炭素含有材と溶融状態の原料金属30との溶浸を促進する効果を有する。従って、これらの元素は、製造過程で還元剤としてある程度多く添加した場合でも、溶浸性に悪影響を及ぼし難い。
【0059】
Bは、Tiを還元して、B自身が酸化された際にガラス状の物質を形成する。このガラス状物質は他の酸化物を溶解させる性質を有する。そのため、Bは、TiやCr等といった金属元素の酸化膜の破壊を促進する。
【0060】
Siは、微粉末を入手し易い上に取り扱い易く、安全性が高い。そのため、Siは微粉末で添加し易く、TiやCr等の金属元素に対して万遍なく行き渡り易い。この点で、Siは、高い還元効果を得易い。
【0061】
上述の特定元素の含有量が4質量ppm(0.0004質量%)以上であれば、上記特定元素は製造過程で還元剤として良好に機能したと考えられる。その結果、炭化物層23が適切に形成されて、良好に緻密化や複合化がなされたと考えられる。上記含有量が多いほど、還元作用がより確実になされて、炭化物層23がより確実に形成される。その結果、炭化物層23を介して非金属相2と金属相3とが密着された複合材料1にできる。還元作用の確保、ひいては良好な炭化物層23の形成等を望む場合には、上記含有量は10質量ppm(0.0010質量%)以上、更に12質量ppm(0.0012質量%)以上、20質量ppm(0.0020質量%)以上でもよい。
【0062】
上述の特定元素の含有量が1.3質量%以下であれば、上記特定元素の過剰含有に起因する熱伝導率の低下を抑制し易い。その結果、複合材料1は高い熱伝導率を有することができる。上記含有量が少ないほど、上述の熱伝導率の低下を抑制し易い。熱伝導率の低下の抑制等を望む場合には、上記含有量は1.0質量%以下、更に0.8質量%以下でもよい。更には、上記含有量は、0.68質量%以下、とりわけ0.65質量%以下、0.50質量%以下、0.20質量%以下でもよい。
【0063】
複合材料1は上述の特定元素の少なくとも一部を、代表的には酸化物4として含むことが挙げられる。上記特定元素が酸化物4として存在すれば、製造過程でTi等の金属元素の表面に存在した酸化膜が還元されて、上記金属元素は炭化物層23を良好に形成できたと考えられる。また、上記酸化膜から分離された酸素が上記特定元素と結合して酸化物4を形成したと考えられる。ひいては、炭化物層23が適切に形成されて、炭化物層23によって非金属相2と金属相3とが密着された複合材料1にできる。更に、上記特定元素を含む酸化物4の含有量は、上記特定元素の含有量に依存する。上記特定元素の含有量が上述の範囲であれば、酸化物4の過剰含有に起因する熱伝導率の低下を招き難い。このような複合材料1は高い熱伝導率を有し易い。
【0064】
以上のことから、上述の特定元素を酸化物4として含む複合材料1は、繰り返しの冷熱サイクルを受けても高い熱伝導率を安定して有し易い。また、この点から、上記特定元素を酸化物4として含むことが好ましい。
【0065】
上述の特定元素を含む酸化物4は、更にTi等の金属元素を含むことを許容する。この場合の酸化物4は、上記特定元素と、上記金属元素との双方を含む複合酸化物でもよい。又は、酸化物4は、上記特定元素を含む酸化物と、上記金属元素を含む酸化物とを含む、といった複数種の酸化物を含む混合物でもよい。
【0066】
(組成等の測定)
複合材料1中におけるTi等の金属元素の含有量、複合材料1中におけるY等の特定元素の含有量、金属相3中のAgやCuの含有量は、例えば、以下のように測定することが挙げられる。複合材料1を酸で溶解する。得られた溶液中の金属成分の濃度を誘導結合プラズマ(ICP)によって分析する。Ti等の金属元素、Y等の特定元素の成分濃度は、複合材料1を100質量%とした質量割合で求める。AgやCuの成分濃度は、金属相3を100質量%とした質量割合で求める。
【0067】
Ti等の金属元素が炭化物として存在することは、例えば、以下のようにして確認することが挙げられる。複合材料1の断面をとり、SEM-EDX装置等によって上記断面を成分分析する。分析の結果、上記金属元素が存在する領域と、炭素が存在する領域とが実質的に一致する場合、上記金属元素は炭化物として存在すると見なすことが挙げられる。
【0068】
Y等の特定元素が酸化物として存在することは、例えば以下のようにして確認することが挙げられる。複合材料1の断面をとる。上記断面をSEMで観察し、観察像からAg等の金属相3と、被覆コア材20等の非金属相2とを除く物質(
図1では酸化物4)を抽出する。抽出した物質をEDX等によって成分分析する。分析の結果、抽出物が上記特定元素と酸素とを含む場合、上記特定元素は酸化物として存在すると見なすことが挙げられる。分析の結果、抽出物が更にTi等の金属元素を含む場合、上記特定元素は、上述の複合酸化物として存在する、又は上述の酸化物の混合物として存在すると見なすことが挙げられる。
【0069】
(熱特性)
実施形態の複合材料1は、上述のように高い熱伝導率を有する。例えば、非金属相2がダイヤモンドを主体とし、金属相3が純銀である場合、熱伝導率は600W/m・K以上が挙げられる。又は、例えば、非金属相2がダイヤモンドを主体とし、金属相3が純銅である場合、熱伝導率は500W/m・K以上が挙げられる。
【0070】
(形状、大きさ)
複合材料1の形状、大きさは、複合材料1の用途に応じて適宜選択するとよい。例えば、複合材料1を半導体素子の放熱部材に用いる場合、複合材料1は、平面形状が長方形状である平板材が挙げられる。この用途では、上記平板材の平面積は、半導体素子等の搭載部品よりも大きい面積を有することが挙げられる。複合材料1を放熱部材に用いる場合、複合材料1からなる放熱部材の厚さが薄いほど、放熱部材の主面(代表的には半導体素子といった発熱体(冷却対象)が載置される面)に直交する方向の熱抵抗が小さくなる。上記放熱部材の厚さが厚いほど、上記放熱部材の剛性が増加する。また、上記放熱部材の厚さが厚いほど、上述の発熱体の熱を上記放熱部材の主面に平行な方向(例、主面に沿った方向)に拡散させ易くなる。複合材料1からなる放熱部材の厚さは、上述の主面に直交する方向の熱抵抗、主面に平行な方向の熱の拡散、剛性等を考慮して適宜選択するとよい。上記厚さは、例えば0.2mm以上10mm以下、更に0.2mm以上5mm以下、0.2mm以上2mm以下が挙げられる。
【0071】
(用途)
実施形態の複合材料1は、半導体素子の放熱部材の構成材料に好適に利用できる。放熱部材を備える半導体装置として、各種の電子機器が挙げられる。具体的には、高周波パワーデバイス(例、LDMOS)、半導体レーザ装置、発光ダイオード装置等が挙げられる。その他、各種のコンピュータの中央処理装置(CPU)、グラフィックスプロセッシングユニット(GPU)、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、チップセット、メモリーチップ等が挙げられる。特に、複合材料1は、SiCデバイスやGaNデバイス等といった発熱が大きい半導体素子の放熱部材の構成材料に適する。
【0072】
[複合材料の製造方法]
以下、
図2を適宜参照して、複合材料の製造方法を説明する。
実施形態の複合材料1は、例えば、以下の工程を備える製造方法によって製造できる。
(準備工程)ダイヤモンド、グラファイト、炭素繊維、及び炭化珪素からなる群より選択される一種以上の炭素含有材からなるコア材21と、Ag若しくはCuを90質量%以上含有する原料金属30、又はAgとCuとを合計で90質量%以上含有する原料金属30と、Ti,Cr,Ta,及びVからなる群より選択される一種以上の金属元素を含む溶浸助剤9と、Y,Mg,Si,B,及びZrからなる群より選択される一種以上の元素を含む還元剤8とを準備する。
(配置工程)コア材21と溶浸助剤9と還元剤8とを成形型に収納する。
(溶浸工程)成形型内の収納物に溶融状態の原料金属30を溶浸する。
【0073】
上記の複合材料の製造方法において、溶浸工程では、溶浸助剤9、還元剤8は以下のような作用を有すると考えられる。
【0074】
溶浸助剤9を構成するTi等の金属元素は、炭化物層23の原料に用いられて、コア材21と溶融状態の原料金属30との濡れ性を高める。但し、この溶浸助剤9の表面には、通常、酸化膜90が存在する。酸化膜90に覆われることで、上記金属元素は、コア材21を構成する炭素と反応できなかったり、安定して反応し難くなったりする。そのため、炭化物層23の厚さがばらつき易い。その結果、炭化物層23が適切に形成されず、コア材21と溶融状態の原料金属30とが濡れ難くなることが考えられる。又は、炭化物層23が過剰に形成され、過剰な炭化物層23が熱抵抗となり、複合材料1の熱伝導率が低下することが考えられる。これに対し、上述の複合材料の製造方法は、Y等の特定元素を含む還元剤8を利用する。還元剤8は、酸化膜90を還元する。この還元によって、酸化膜90に損傷が与えられる。ここで、溶浸助剤9を構成するTi等の金属元素は、酸化膜90の損傷部分から溶融状態の原料金属30を介して拡散して、コア材21を構成する炭素と反応可能である。そのため、還元剤8は、酸化膜90の一部を損傷させる程度の還元作用を有すれば、コア材21と上記金属元素とが確実に反応でき、炭化物層23の形成に対して十分に効果がある。コア材21の表面のより多くの領域、好ましくは実質的に表面全体が炭化物層23で覆われる。その結果、炭化物層23を介して、コア材21が溶融状態の原料金属30と濡れて、良好に複合化、緻密化できると考えられる。
【0075】
このような複合材料の製造方法によって製造された複合材料1では、炭化物層23を介して、非金属相2(コア材22)と金属相3とが密着する。また、この複合材料1は、非金属相2と金属相3とが良好に複合されて、緻密になり易い。更に、この複合材料1では、非金属相2と金属相3との密着状態がコア材22の表面全体にわたって均一的になり易い。そのため、複合材料1は、繰り返しの冷熱サイクルを受けても、密着状態を維持し易く、高い熱伝導率を安定して有する。特に、上記複合材料の製造方法は、製品(複合材料1)間のばらつきを低減できる(後述の試験例1参照)。即ち、上記複合材料の製造方法は、繰り返しの冷熱サイクルを受けた場合に製品間における熱伝導率の低下量のばらつきが小さく、高い熱伝導率を有し、熱伝導率のばらつきが小さい複合材料1を量産できる。
【0076】
以下、工程ごとに説明する。
(準備工程)
非金属相2の原料に用いるコア材21は、炭素含有材からなる粒子(粉末)、多孔体が挙げられる。コア材21の大きさ、含有量等は、上述の非金属相の〈大きさ〉、〈含有量〉の項を参照するとよい。
【0077】
金属相3の原料に用いる原料金属30の具体的な組成は、上述の金属相の項を参照するとよい。原料金属30は、金属粒子(金属粉末)、小片、線材、板材等が挙げられる。
【0078】
溶浸助剤9は、溶浸工程で、コア材21を構成する炭素と反応して、炭化物層23の形成に利用される。溶浸助剤9は、上述のTi等の金属元素単体、上記金属元素を含む化合物が挙げられる。上記化合物は、溶浸過程で、上記金属元素が上記化合物の形成元素(例、水素)を分離し易く、炭素と結合し易いものが利用できる。上記化合物の一例として、水素化物、硼化物、窒化物、硫化物等が挙げられる。溶浸助剤9が上記化合物であれば、溶浸工程前において、溶浸助剤9の表面に酸化膜90が厚く形成されることを防止したり、上記金属元素が酸化されることを防止したりし易い。
【0079】
溶浸助剤9は、粒子(粉末)、小片等が挙げられる。特に、溶浸助剤9が粉末であれば、粉末又は多孔体であるコア材21の周囲に万遍なく配置され易い。コア材21及び溶浸助剤9の二者が粉末であれば混合し易く、溶浸助剤9をコア材21に対して更に万遍なく配置し易い。溶浸助剤9が万遍なく配置されることで、溶浸工程では、コア材21を構成する炭素と、溶浸助剤9を構成するTi等の金属元素とが反応し易い。その結果、炭化物層23が良好に形成され易い。また、上記二者が粉末であれば、これらの粉末を成形型に充填したり、粉末成形体を作製したりし易い。但し、溶浸助剤9が粉末であると、粉末粒子の表面に酸化膜90が形成され易い。そこで、上述の複合材料の製造方法は、還元剤8を用いて、酸化膜90を還元する。
【0080】
還元剤8は、溶浸工程で、溶浸助剤9の表面に存在し得る酸化膜90を還元する機能を有する。還元剤8によって酸化膜90を損傷できることで、溶浸助剤9を構成するTi等の金属元素と、コア材21を構成する炭素とが確実に反応できる。そのため、炭化物層23を形成することができる。いわば、還元剤8は、炭化物層23の形成助剤として機能する。
【0081】
還元剤8は、Y等の特定元素単体、上記特定元素を含む化合物が挙げられる。上記化合物は、上記特定元素の酸化物における生成エネルギー(以下、酸化物生成エネルギーと呼ぶ)が大きいものが好ましい。特に、還元剤8の酸化物生成エネルギーが溶浸助剤9の酸化物生成エネルギーよりも大きければ、還元剤8は、酸化膜90をより確実に還元できて好ましい。還元剤8の酸化物生成エネルギーが溶浸助剤9の酸化物生成エネルギーよりも小さい場合でも、還元剤8が酸化膜90に若干の損傷を与えて、溶浸助剤9と、コア材21を構成する炭素との反応を促進することは十分に可能である。
【0082】
還元剤8は、粒子(粉末)、小片等が挙げられる。特に、還元剤8が粉末であれば、溶浸助剤9の周囲に万遍なく配置され易い。コア材21、溶浸助剤9、及び還元剤8の三者が粉末であれば混合し易く、還元剤8を溶浸助剤9に対して万遍無く配置できる上に、溶浸助剤9をコア材21に対して万遍無く配置できる。還元剤8が万遍無く配置されることで、溶浸工程では、還元剤8は、溶浸助剤9の酸化膜90を還元してより確実に損傷できる。その結果、炭化物層23を良好に形成することができる。また、上記三者が粉末であれば、これらの粉末を成形型に充填したり、粉末成形体を作製したりし易い。
【0083】
〈大きさ〉
原料金属30は、溶浸と同時に溶解して原形を失う。そのため、原料金属30の形状、大きさ等は利用し易い範囲で適宜選択できる。例えば、原料金属30として、平均粒径が1μm以上150μm以下程度の粉末を用いてもよい。
【0084】
溶浸助剤9、還元剤8の大きさは、コア材21の大きさ等に応じて選択するとよい。例えば、溶浸助剤9として、平均粒径がコア材21の平均粒径の1/2以下の粉末を用いてもよい。又は、例えば、溶浸助剤9として、平均粒径が0.5μm以上20μm以下の粉末を用いてもよい。還元剤8として、例えば、平均粒径が0.1μm以上20μm以下程度の粉末を用いてもよい。還元剤8の平均粒径が溶浸助剤9の平均粒径よりも小さいと、還元剤8を溶浸助剤9の周囲に行き渡らせ易い。なお、原料金属30、溶浸助剤9、還元剤8といった各粉末の平均粒径は上述のメジアン径が挙げられる。
【0085】
(配置工程)
コア材21、溶浸助剤9、還元剤8を所定の形状の成形型に収納する。これらが上述のように粉末であれば、それぞれ別個に成形型に充填してもよいし、予め混合粉末を作製し、混合粉末を成形型に充填してもよい。又は、混合粉末で粉末成形体を作製して、粉末成形体を成形型に収納してもよい。粉末成形体は、例えば、プレス成形等により製造することが挙げられる。その他、コア材21が多孔体であれば、上記多孔体を成形型に収納した後、溶浸助剤9及び還元剤8の粉末等を充填してもよい。
【0086】
溶浸助剤9の添加量、還元剤8の添加量は、複合材料1におけるTi等の金属元素の含有量、複合材料1におけるY等の特定元素の含有量がそれぞれ、上述の特定の範囲となるように調整することが挙げられる。この場合、上記金属元素や上記特定元素の過剰含有に起因する熱伝導率の低下を抑制し易く好ましい。特に、還元剤8を用いることで、以下に説明するように複合材料1が高い熱伝導率を有し易い。
【0087】
ここで、酸化膜90による反応阻害を考慮して、溶浸助剤9を十分に多く添加すれば、炭化物層23が形成され易い。しかし、溶浸助剤9の過剰な添加は、複合材料1中の上記金属元素(酸化膜90を有することがある)の残存や、炭化物層23の厚膜化等を招く。ひいては熱伝導率の低下が生じ得る。これに対し、還元剤8を利用すれば、添加した溶浸助剤9において、実際に反応する溶浸助剤9の割合を安定化することができる。そのため、還元剤8を用いると、溶浸助剤9の添加量を過多にする必要が無い。このように還元剤8の使用は、炭化物層23を過不足なく有しつつ、上述のTi等の金属元素の残存や炭化物層23の厚膜化等による熱伝導率の低下を招き難い。
【0088】
(溶浸工程)
この工程では、主としてコア材21と原料金属30とを複合する。具体的には、上述の成形型を所定の温度に加熱して、原料金属30を溶融状態とする。上述の成形型内の収納物(コア材21、溶浸助剤9、還元剤8)と溶融状態の原料金属30とを接触させて、溶融状態の原料金属30を上記収納物中に浸透させる。そして、コア材21に溶融状態の原料金属30を溶浸する。溶浸工程での上記温度は、原料金属30の組成等に応じて選択するとよい。
【0089】
溶浸工程の雰囲気は、真空雰囲気や不活性雰囲気といった低酸化性雰囲気とすることが好ましい。低酸化性雰囲気は、原料、特に溶浸助剤9を構成するTi等の金属元素の酸化を低減することに寄与する。真空雰囲気は、大気圧未満の低圧雰囲気が挙げられる。雰囲気圧力は、例えば1Pa以下が挙げられる。不活性雰囲気は、アルゴン雰囲気、窒素雰囲気等が挙げられる。
【0090】
[主な作用・効果]
実施形態の複合材料1は、繰り返しの冷熱サイクルを受けても、熱伝導率の低下が少なく、高い熱伝導率を安定して有する。この効果を、以下の試験例で具体的に説明する。
【0091】
[試験例1]
ダイヤモンドと純銀又は純銅とを含む複合材料からなる平板材を作製し、冷熱サイクル前後の熱伝導率を調べる。
【0092】
(試料の作製)
ここでは平面形状が長方形状であり、厚さが1.0mmである平板材を作製する。複合材料の原料として、以下を用意する。
非金属相の原料:ダイヤモンド粉末、平均粒径:20μm以上30μm以下から選択する。
金属相の原料(原料金属):純銀粉末(表1ではAgと表記)、又は純銅粉末(表1ではCuと表記)、純銀粉末の平均粒径及び純銅粉末の平均粒径:1μm以上10μm以下から選択する。
溶浸助剤:表1の種類の欄に示す元素又は化合物の粉末、平均粒径:5μm以上10μm以下から選択する。
還元剤:表1の種類の欄に示す元素の粉末、平均粒径:3μm以上5μm以下から選択する。
【0093】
上述の各粉末の平均粒径は、メジアン径である。メジアン径は、例えば、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することが挙げられる。市販のレーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置は、例えば、MT3300EX II(マイクロトラック製)が挙げられる。
【0094】
ダイヤモンド粉末の含有量(体積%)を表1の非金属、「体積率」の欄に示す。表1に示す含有量(体積%)は、複合材料の平板材を100体積%とした体積割合である。この体積率は、複合材料の平板材における非金属相の体積割合に実質的に等しくなる。
【0095】
溶浸助剤の添加量(質量%)、還元剤の添加量(質量%)をそれぞれ表1に示す。表1に示す添加量(質量%)は、ダイヤモンド粉末の質量を100質量%として、ダイヤモンド粉末の質量に対する質量割合である。還元剤の添加量が0質量%とは、添加していないことを意味する。
【0096】
ダイヤモンド粉末と、溶浸助剤の粉末と、還元剤の粉末と、原料金属である純銀粉末又は純銅粉末とを成形型に充填する。この成形型を所定の温度に加熱して、原料金属を溶融状態とする。そして、1気圧のアルゴン雰囲気で、上記収納物に溶融状態の原料金属を溶浸する。この工程により、複合材料の平板材が得られる。
【0097】
【0098】
(熱特性)
〈冷熱サイクルを施していない状態での熱伝導率〉
作製した各試料の複合材料の平板材について、試料ごとに100個の平板材を用意し、それぞれ熱伝導率(W/(m・K))を測定する。各試料の100個の平板材について、熱伝導率の平均値、及び標準偏差を表2の熱伝導率の欄に示す。なお、この測定では、各試料の100個の平板材に後述の冷熱サイクル試験を施していない。
【0099】
熱伝導率(W/m・K)は、市販の測定装置(ここでは、NETZSCH LFA447)を用いてフラッシュ法によって測定する。測定条件は、ASTM E1461-13「Standard Test Method for Thermal Diffusivity by the Flash Method」に準拠した条件である。
【0100】
〈冷熱サイクル前後の熱伝導率〉
作製した各試料の複合材料の平板材について、以下の冷熱サイクルを施し、冷熱サイクル前後の熱伝導率の変化を調べる。この測定、及び後述の成分分析は、上述の各試料の100個の平板材について行う。
【0101】
《冷熱サイクルの条件》
各試料の平板材を、-60℃に保持した試験液に10分浸した後、150℃に保持した試験液に10分浸す、という操作を1サイクルとする。この冷熱サイクルを1000サイクル行う。上記試験液には、フッ素系不活性液体(「ガルデン(登録商標)」や「フロリナート(商品名)」等を使用できる。
【0102】
上述の冷熱サイクルを1000サイクル行った後、熱伝導率を測定する。試料ごとに100個の平板材における熱伝導率(W/m・K)を求める。
【0103】
冷熱サイクルを施す前、即ち冷熱サイクルを全く施していない各試料の平板材の熱伝導率に対して、冷熱サイクル後の熱伝導率の維持率(%)を求める。熱伝導率の維持率(%)は、(1000サイクル後の熱伝導率/冷熱サイクル前の熱伝導率)×100とする。各試料の平板材における熱伝導率の維持率(%)について平均値及び標準偏差を求める。即ち、試料ごとに、100個の平板材について熱伝導率の維持率(%)を求め、100個の平板材の値の平均値及び標準偏差を求める。結果を表2の冷熱サイクル耐性の欄に示す。
【0104】
(成分分析)
各試料の複合材料の平板材について、溶浸助剤を構成する金属元素の含有量(質量%)と、還元剤を構成する元素の含有量(質量%)とをそれぞれ測定し、測定結果を表2に示す。ここでは溶浸助剤を構成する金属元素として、Ti,Cr,Ta,Vの含有量をそれぞれ測定する。また、ここでは還元剤を構成する元素として、Y,Mg,Zr,Si,Bの含有量をそれぞれ測定する。測定方法を以下に説明する。
【0105】
各試料の複合材料の平板材について、ダイヤモンド砥石を用いて、上記平板材の表面を削り、上記平板材の表面の付着物を除去する。ここでは、上記平板材の裏表面のそれぞれについて、50μmずつ削る。次に、硝酸とオートクレーブとを用いて、上記平板材を完全に酸溶解する。得られた溶液を、ICP発光分析装置を用いて分析する。各試料の複合材料を100質量%として、Ti等の金属元素の質量割合(質量%)、Y等の特定元素の質量割合(質量%)を調べ、結果を表2に示す。
【0106】
【0107】
試料No.1~No.33は、金属相が純銀である複合材料の試料である。
試料No.34~No.47は、金属相が純銅である複合材料の試料である。
試料No.2~No.22,No.24,No.26,No.28,No.30~No.33,No.35~No.47は、Y,Mg,Zr,Si,及びBからなる群より選択される一つの元素を含む試料である。
試料No.1,No.23,No.25,No.27,No.29,No.34はY等の特定元素を含まない試料である。
【0108】
まず、表2の試料No.1~No.11に着目する。Yを含む試料No.2~No.11ではいずれも、Yを含まない試料No.1に比較して、熱伝導率の標準偏差が小さい。いわば熱伝導率のばらつきが小さい。特に、試料No.2~No.9では、試料No.1及びNo.10,No.11に比較して、熱伝導率の平均値が高い(熱伝導率の低下が少ない)。更に、試料No.2~No.9では、試料No.1に比較して冷熱サイクル耐性の平均値が高く、標準偏差が小さい。このような試料No.2~No.9は、繰り返し冷熱サイクルを受けても、一定の大きさの熱伝導率を安定して有するといえる。この理由として、例えば、以下のことが考えられる。
【0109】
Yが製造過程で溶浸助剤(ここではTi)の表面に存在し得る酸化膜を還元して、酸化膜が損傷される。その結果、ダイヤモンドを構成する炭素とTiとが確実に反応し、炭化物層(ここではTiC層)が安定して形成できるようになる。この炭化物層によって、ダイヤモンドと銀とが良好に濡れて、未溶浸部分の発生を低減できる。上記酸化膜が損傷されないと、局所的な溶浸助剤の欠乏が生じ、炭化物層が十分に形成されない。その結果、熱伝導率を阻害する未溶浸部分(ボイド)が生じ易い。試料No.2~No.11では、試料No.1に比較して、未溶浸部分の量が低い値で安定していたと考えられる。その結果、試料No.2~No.11ではいずれも、熱伝導率の標準偏差が試料No.1よりも低くなったと考えられる。
【0110】
特に、試料No.2~No.9では、Yの添加量が至適であったため、冷熱サイクル耐性のみならず、熱伝導率の平均値も向上したと考えられる。Yの添加量が至適であることで、熱伝導の阻害要素となり得るYの残渣が少なくなり、Yの添加による未溶浸部分の低減効果がYの残渣による熱伝導の阻害よりも優勢となったと考えられる。
【0111】
これに対し、試料No.10では、Yの添加量が比較的多かったため、熱伝導率の平均値が改善せず、冷熱サイクル耐性のみが改善したと考えられる。Yの添加量が比較的多いことで、Yの残渣による熱伝導の阻害と、Yの添加による未溶浸部分の低減効果とが拮抗したと考えられる。試料No.11では、Yの添加量が多過ぎたため、冷熱サイクル耐性が改善したものの、熱伝導率の平均値が低下したと考えられる。Yの添加量が多過ぎることで、Yの残渣による熱伝導の阻害がYの添加による未溶浸部分の低減効果よりも優勢となったと考えられる。
【0112】
製造過程において、Yが溶浸助剤(ここではTi)の表面に存在し得る酸化膜を還元し損傷させることで、ダイヤモンドを構成する炭素とTiとが確実に反応する。その結果、炭化物層(ここではTiC層)が安定して形成されるようになる。炭化物層が良好に形成されることによって、各ダイヤモンド粒子と銀とが安定して強固に密着する。この密着によって、冷熱サイクルを繰り返し受けても、炭化物層に覆われたダイヤモンド粒子(非金属相)と銀(金属相)とが密着状態を維持し易い。一方、Yを添加していない試料No.1では、上述のように酸化膜に起因する局所的な溶浸助剤の欠乏が生じて、炭化物層が十分に形成されていない場所が生じる。炭化物層が十分に形成されていない場所では、上記非金属相と上記金属相との界面強度が弱くなる。そのため、冷熱サイクルを繰り返し受けると、上記場所では、上記非金属相と上記金属相とが剥がれ易くなる。この剥離によって、冷熱サイクル後の熱伝導率の平均値が低下したと考えられる。また、熱伝導率のばらつきも大きくなったと考えられる。
【0113】
Mg等を含む試料No.12~No.22ではいずれも、試料No.1に比較して、熱伝導率の平均値が高く、熱伝導率の標準偏差も小さい上に、冷熱サイクル耐性の平均値が高く、冷熱サイクル耐性の標準偏差も小さい。このことから、Yに代えて、Mg,Zr,Si,BでもYと同様の効果があると考えられる。
【0114】
次に、表2の試料No.34~No.47に着目する。金属相が純銅であり、かつY等の特定元素を含む試料No.35~No.47では、特定元素を含まない試料No.34に比較して、熱伝導率の標準偏差が小さく、冷熱サイクル耐性の平均値が高く、冷熱サイクル耐性の標準偏差も小さい。特に、上記特定元素の含有量が至適である試料No.35~No.38,No.41~No.47は、試料No.39,No.40に比較して、熱伝導率の平均値が高い。このことから、Y等の還元剤を添加することによる特性の向上効果は、金属相が純銅であっても、上述の金属相が純銀である場合と同様に得られるといえる。試料No.39,No.40において熱伝導率の平均値が低くなった理由は、上述の試料No.10,No.11と同様に考えられる。
【0115】
これらのことから、繰り返しの冷熱サイクルを受けても高い熱伝導率を安定して有する複合材料は、Y等の特定元素を含み、その含有量は4質量ppm(0.0004質量%)以上1.34質量%未満、特に1.3質量%以下が好ましいといえる。特定元素の含有量は10質量ppm以上、更に12質量ppm以上であると、熱伝導率及び冷熱サイクル耐性がより高くて好ましいといえる。また、この場合、熱伝導率の標準偏差及び冷熱サイクル耐性の標準偏差も小さく、ばらつきが少ないことからも好ましいといえる。特定元素の含有量が15質量ppm以上0.5質量%以下であると、熱伝導率が更に高く好ましいといえる。更に、特定元素の含有量は、30質量ppm以上0.2質量%以下、更には0.1質量%以下、0.08質量%以下がより好ましいといえる。金属相が純銀の場合、特定元素の含有量が0.010質量%以上0.020質量%以下であると、熱伝導率がより一層高く好ましいといえる。また、金属相が純銀の場合、金属相が純銅の場合よりも熱伝導率が高く、600W/m・K以上という高い熱伝導率を有する複合材料であることが分かる。
【0116】
次に、試料No.23,No.24に着目する。試料No.23,No.24は、溶浸助剤として、表1に示すようにTiH2を用いた試料である。
【0117】
まず、試料No.1と試料No.23とを比較する。この比較から、溶浸助剤としてTiH2を用いた場合は、溶浸助剤としてTiを用いた場合に比較して、熱伝導率、熱伝導率の標準偏差、冷熱サイクル耐性、冷熱サイクル耐性の標準偏差の全ての項目について優れるといえる。このような結果となった理由の一つとして、TiH2に含まれるH2による還元効果が考えられる。
【0118】
次に、試料No.4と試料No.23とを比較する。この比較から、溶浸助剤としてTiを用いると共に、還元剤としてYといった特定元素を添加する場合は、溶浸助剤としてTiH2を用いると共に上記特定元素を添加しない場合に比較して、熱伝導率、熱伝導率の標準偏差、冷熱サイクル耐性、冷熱サイクル耐性の標準偏差の全ての項目について優れるといえる。このような結果が得られたことは、Yによる還元効果がTiH2に含まれるH2の還元効果よりも優れることを示唆する。
【0119】
更に、試料No.23と試料No.24とを比較する。この比較から、溶浸助剤としてTiH2を用いると共に、還元剤としてYといった特定元素を添加する場合は、上記特定元素を添加しない場合に比較して、熱伝導率、熱伝導率の標準偏差、冷熱サイクル耐性、冷熱サイクル耐性の標準偏差の全ての項目について改善されている。このような結果となった理由の一つとして、TiH2に含まれるH2と、還元剤のYとの双方が、特性を改善する方向に作用したことが考えられる。
【0120】
次に、試料No.25~No.30に着目する。試料No.25~No.30は、溶浸助剤として、Cr,Ta,及びVからなる群より選択される一種を用いた試料である。Yを含む試料No.26,No.28,No.30は、Yを含まない試料No.25,No.27,No.29に比較して、熱伝導率の平均値が高く、熱伝導率の標準偏差も小さい上に、冷熱サイクル耐性の平均値が高く、冷熱サイクル耐性の標準偏差も小さい。このことから、溶浸助剤としてTiに代えて、Cr,Ta,Vを用いる場合でも、Y等の特定元素を用いると、Tiの場合と同様に、特定元素による還元及び還元に伴うCr等を含む炭化物層の良好な形成という効果が得られると考えられる。また、Cr等の場合と上述のTiの場合とを合せると、複合材料中におけるTi,Cr,Ta,Vといった金属元素の含有量は、0.1質量%以上7.5質量%以下が好ましいといえる。更に、上記金属元素の含有量は、0.1質量%以上2.5質量%以下、更に0.3質量%以上1.0質量%以下が好ましいといえる。
【0121】
次に、試料No.31~No.33に着目する。これらの試料は、試料No.4に対して、ダイヤモンドの含有量を異ならせた試料である。試料No.31,No.4,No.32,No.33の順に熱伝導率が高いことが分かる。このことから、Y等の特定元素による還元効果は、ダイヤモンドの含有量にかかわらず発現し、特性が改善される方向に作用するといえる。また、ダイヤモンド等の炭素含有材の含有量を多くすることで、熱伝導率がより高い複合材料にできるといえる。
【0122】
なお、各試料の複合材料の平板材について、断面をSEM-EDX装置によって面分析を行い、Ti,Cr,Ta,Vといった金属元素の存在領域と、C(炭素)の存在領域とを比較する。両存在領域が重複する箇所がある場合、この重複箇所における上記金属元素は、炭化物層を形成すると見なせる。また、上述の断面SEM像において、非金属相(ここではダイヤモンド及び炭化物層)及び金属相(ここでは純銀又は純銅)以外の物質を抽出して、SEM-EDX装置等によって成分分析を行う。成分分析の結果、Y,Mg,Zr,Si,Bといった元素と、酸素とが検出された場合、Y等の元素は酸化物として存在すると見なせる。上記物質から、Ti等の金属元素が検出された場合、上記金属元素の一部は製造過程で炭化物層の形成に用いられず、酸化物として存在し得ると考えられる。
【0123】
以上のことから、以下の条件を満たす複合材料は、繰り返しの冷熱サイクルを受けても、特性のばらつきが少ないこと、及び高い熱伝導率を安定して有することが示された。
(条件)金属相がAgやCuを主体とする。非金属相がダイヤモンド等の炭素含有材を含む。複合材料は、炭素含有材の表面にTi等の金属元素を含む炭化物層を備える。複合材料は、Y等の特定元素を特定の範囲で含む。
【0124】
[付記]
(付記1)
金属相と非金属相とを含む複合材料であって、
前記金属相は、前記金属相を100質量%として、AgもしくはCuを90質量%以上含有し、又はAgとCuとを合計で90質量%以上含有し、
前記非金属相は、コア材と、前記コア材の表面の少なくとも一部を覆う炭化物層とを有する被覆コア材を含み、
前記コア材の構成材料は、ダイヤモンド、グラファイト、炭素繊維、及び炭化珪素からなる群より選択される一種以上の炭素含有材を含み、
前記炭化物層の構成材料は、Ti,Cr,Ta,及びVからなる群より選択される一種以上の金属元素の炭化物を含み、
前記複合材料を100質量%として、Y,Mg,Si,B,及びZrからなる群より選択される一種以上の元素を合計で4質量ppm以上1.3質量%以下含む、
複合材料。
(付記2)
前記元素の少なくとも一部を酸化物として含む付記1に記載の複合材料。
(付記3)
前記複合材料を100質量%として、前記金属元素を合計で0.1質量%以上7.5質量%以下含む付記1又は付記2に記載の複合材料。
(付記4)
前記複合材料を100体積%として、前記非金属相の含有量が50体積%以上である付記1から付記3のいずれか1項に記載の複合材料。
【0125】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。例えば、試験例1において、複合材料中の金属相の組成、非金属相の組成・大きさ(粒径)・含有量、溶浸助剤の組成・添加量、還元剤の組成・添加量、溶浸条件等を適宜変更できる。
【符号の説明】
【0126】
1 複合材料、2 非金属相、3 金属相、20 被覆コア材、21,22 コア材、23 炭化物層、30 原料金属、4 酸化物、8 還元剤、9 溶浸助剤、90 酸化膜。