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  • 特許-皮膚外用剤組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】皮膚外用剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9794 20170101AFI20230915BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20230915BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20230915BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
A61K8/9794
A61K8/81
A61K8/73
A61Q19/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021525559
(86)(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 CN2019105171
(87)【国際公開番号】W WO2020098355
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】201811339073.8
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】韓揚
(72)【発明者】
【氏名】曲睿
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 啓
【審査官】山田 陸翠
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-246667(JP,A)
【文献】特開2009-062332(JP,A)
【文献】特開2017-118880(JP,A)
【文献】特表2004-522765(JP,A)
【文献】特開2010-202581(JP,A)
【文献】特開2004-137196(JP,A)
【文献】特開2019-108298(JP,A)
【文献】特開2004-097999(JP,A)
【文献】国際公開第2019/066057(WO,A1)
【文献】特開2009-013100(JP,A)
【文献】特開2015-089867(JP,A)
【文献】特開2002-212052(JP,A)
【文献】特開2005-068023(JP,A)
【文献】特開2010-229068(JP,A)
【文献】特開2015-120682(JP,A)
【文献】特開2012-241006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61K 9/00- 9/72
A61K 31/00-31/327
A61K 31/33-33/44
A61K 36/00-36/05
A61K 36/06
A61K 36/07-36/9068
A61K 47/00-47/69
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物を乳酸菌の存在下で発酵して得られた穀物発酵物の、
増粘剤、及び、70~99質量%の水を含む皮膚外用剤組成物において、当該組成物を相乗的に増粘するための使用であって、
前記増粘剤は、ポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤又は多糖系の増粘剤から選ばれたものであり、
前記ポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤は、分子の側鎖構造中に、式(1):
【化1】
(式中、Rは炭素数2~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、Rは炭素数1~50の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、nは0~100の整数を表し、Lは単結合又は二価の連結基である)で示される構造を有し、
前記多糖系の増粘剤は、セルロース系増粘剤から選ばれる、
ことを特徴とする使用。
【請求項2】
前記穀物は、米、もち米、キビ、黒米、トウモロコシ、ソルガムから選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記組成物が前記穀物発酵物を含まないときの粘度をα、前記組成物に前記穀物発酵物を含有させたときの粘度をβとしたとき、β/αが1.2倍以上であることを特徴とする、請求項1又は2のいずれか一項に記載の使用。
【請求項4】
前記ポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤において、Rの炭素数が2~4であり、Rの炭素数が3~50であり、nが1~100であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記ポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤において、nが0であり、かつ、前記組成物が、リン脂質系物質を含まないことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記皮膚外用剤組成物が化粧料であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスキンケア用品の分野に属し、相乗増粘効果を有する組成物類に関し、より具体的には、皮膚外用剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚外用剤組成物は、化粧料に広く使用されており、このような組成物は通常、水性系および油性系を含む。
【0003】
水性系、特に水中油型組成物は、化粧料に広く使用されており、特定の機能を発揮するとともに、人々にさわやかな感触を与えることができる。水中油型組成物においては、水又は水性物質が連続相として存在し、油性成分が分散相として存在することで、液体又は半固体などの系が形成される。
【0004】
一般的な水中油型組成物は、保湿、栄養補給、保護または修復の効果を達成するための様々な活性成分を含む。また、上記様々な活性成分を該組成物中に長期間安定して共存させるため、例えば、種々の乳化剤、安定剤、増粘剤、防腐剤などの様々な添加剤が加えられる。
【0005】
一方、様々な所望の機能を達成できる化粧料とするためには、様々な活性成分を組み合わせて使用することを試みる必要がある。この場合、様々な活性成分を含む水中油型組成物における系の安定性が重要である。例えば、様々な活性成分が共存している場合、製造、輸送、貯蔵又は使用の際に系内で相分離などが起こりやすく、化粧料の外観が劣化するおそれがある。あるいは、例えば、様々な活性成分が存在するため、油相液滴が安定して所望の形態で水性の連続相に懸濁・分散したものを形成させるのは、操作上の困難がある。他方、より多くの活性成分の導入は、より多くの種類又はより多くの量の添加剤の使用につながる場合が多い。そのため、製品の安全性も注目される。例えば、通常、使用上の安全性、製造時の環境保護、および生体との親和性向上のために、人々は天然物質に由来する化粧料成分をより多く使用する傾向がある。例えば、従来、化粧料の乳化については、ポリオキシエチレンアルキルエーテルやソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤が主に使用されてきた。しかし、これらの界面活性剤は必然的にある程度、皮膚への刺激となる。そのため、界面活性剤の量をできるだけ減らしたり、乳化にこれらの界面活性剤を使用しないようにしたりすることもあるが、エマルジョンの均一性や安定性などに問題が起こりやすく、所望のエマルジョンが得られない場合がある。
【0006】
そこで、天然物質に由来する乳化剤の使用が検討されている。現在、穀物発酵物が乳化剤又は安定性成分として用いられることも知られている。例えば、以下の報告がある。
【0007】
非特許文献1には、米を原材料として用いて発酵させることにより得られた物質LAFR-αが開示されており、LAFR-αの表面張力及び界面張力、並びにLAFR-αが示した乳化挙動及びLAFR-αを含む懸濁系の耐酸化性について検討されている。
特許文献2には、0.01~10重量%の米ぬか発酵物を含み、1000mPa・s以下の低い粘度を有する化粧水が開示されている。
【0008】
特許文献3には、米を乳酸菌で発酵させて得られる乳酸菌発酵米からなる乳化助剤が開示されており、米を乳酸菌で発酵させて得られる発酵米が、良好な乳化力と乳化安定化作用乃至保護コロイド様作用を具えると共に、米由来であるが故に、低毒性で皮膚への刺激が少ないなど人体に対する安全性に優れ、化粧料用の乳化剤或いは乳化安定化剤などのベース原料として有用であること、さらにそれに加えて、意外なことに、該発酵米が、顕著な美白・美肌作用及び髪質改善作用を示し、美粧効果を発現せしめるための配合剤としても有用であることが見出されたと報告されている。
【0009】
穀物発酵物の利用について、特許文献4にも、穀物及びオタネニンジンの茎・葉の発酵物並びにスキンクリーニング用品への使用が記載されている。この方法は、穀物やオタネニンジンの茎・葉を含む培地を加熱して滅菌した後、微生物を接種し、発酵させて滅菌することで、細菌、発酵濾液及び固体粒子を含む発酵物を得る。この発酵物は、クリーニング用品に使用され、肌表面の油分を取り除き、肌をなめらかにすることができ、抗炎症作用や抗ニキビ効果があり、さらに肌に栄養を与え、角質を優しく除去し、刺激が少なく、安全で優しいという特徴を持っている。
【0010】
このように、これまで、従来の合成乳化剤や機能性成分の代わりに、天然成分由来の米発酵物等を乳化剤やその他の活性成分として用いる検討が若干行われた。
【0011】
一方、通常は例えば、油性液滴をより長時間安定して系に懸濁させるなど、水中油組成物を安定な形態とするためには、水中油組成物系に一定の粘度又は稠度を与える必要がある。そのため、安定化効果を図るために一定量の増粘剤を加えるのが一般的である。このような増粘剤は通常、合成高分子又は化学的に変性された天然高分子である。
【0012】
特許文献5には、安定剤としての水酸化リン脂質と、乳化剤としての穀物乳酸菌発酵物と、増粘剤としてのアルキル変性カルボキシビニルポリマー及び/又はその塩とを必須成分として含有する水中油型乳化剤形の皮膚外用剤が開示されている。また、特許文献5では、上記3成分の併用は、安定な乳化系(水相の分離も、油相の分離も発生しないもの)を得るための必須条件であり、そのうちのいずれかを別種の物質に置換すると、所望の効果が得られないことが検証された。
【0013】
以上より、この分野における乳化剤としての穀物発酵物の使用はある程度進んでいるが、天然物質であるため、その使用範囲のさらなる拡大が期待されている。また、穀物発酵物と他の化粧料用添加剤との相乗的使用に関する研究にも検討の余地がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【文献】IFSCC Paris 2014 poster communications,1910-1917
【特許文献】
【0015】
【文献】CN103565724A
【文献】CN1256938C
【文献】CN106176357A
【文献】特許第5010372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は主として、穀物発酵物と従来の皮膚外用剤組成物中の添加剤との相乗的使用に関する。特に本発明は、相乗的増粘効果を有する皮膚外用剤組成物を提供する。前記組成物において、通常では乳化剤としてのみ使用される穀物発酵物を、ポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤又は多糖系の増粘剤と併用した結果、意外なことに、両者の併用が、増粘剤のみを使用した場合と比較して、系の粘度を顕著に高めることができ、相乗増粘効果が生じるとともに、安定な系が得られることを見出した。
【0017】
ここで、前記ポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤は、分子の側鎖構造中に、式(1):
【0018】
【化1】
(式中、Rは炭素数2~6のアルキレン基であり、Rは炭素数1~50のアルキル基であり、nは0~100の整数を表し、Lは単結合又は二価の連結基である)で示される構造を有する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、以下の手段により上記課題を解決する。
[1]本発明は、
(A)穀物を発酵して得られた穀物発酵物である有効成分と、
(B)増粘剤と、を含む皮膚外用剤組成物であって、
前記(B)増粘剤は、ポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤又は多糖系の増粘剤から選ばれたものであり、
前記ポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤は、分子の側鎖構造中に、式(1):
【0020】
【化2】
(式中、Rは炭素数2~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、Rは炭素数1~50の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、nは0~100の整数を表し、Lは単結合又は二価の連結基を表す)で示される構造を有する、皮膚外用剤組成物を提供する。
【0021】
[2]前記穀物が、米、もち米、キビ、黒米、トウモロコシ、ソルガムから選ばれる1種以上である、[1]に記載の組成物。
【0022】
[3]前記発酵が、乳酸菌の存在下で行われる、[1]又は[2]に記載の組成物。
【0023】
[4]1200mPa・s以上の粘度を有する、[1]~[3]のいずれか一項に記載の組成物。
【0024】
[5]前記ポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤において、Rの炭素数が2~4であり、Rの炭素数が3~50であり、nが1~100である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の組成物。
【0025】
[6]前記ポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤において、nが0であり、かつ、前記組成物は、リン脂質系物質を含まない、[1]~[4]のいずれか一項に記載の組成物。
【0026】
[7]前記多糖系の増粘剤はセルロース系増粘剤から選ばれる、[1]~[6]のいずれか一項に記載の組成物。
【0027】
[8]さらに、本発明は、上記のいずれか1項に記載の皮膚外用剤組成物を含む化粧料を提供する。
【発明の効果】
【0028】
以上の手段を用いることにより、本発明は以下の効果を得ることができる。
(1)穀物発酵物、特に米発酵物と増粘剤との相乗的使用は、増粘剤のみを使用する場合と比較して、系の粘度が顕著に上昇し、穀物発酵物の使用範囲が広くなった。
(2)相乗的増粘作用が発揮されるため、必要な系粘度を達成するには、合成又は化学的変性による増粘剤の使用をより少なくすることができ、天然物質由来の発酵成分をより多く使用することができる。
(3)相乗的増粘効果により、他の安定化添加剤の使用をより少なくして系の安定化効果を達成することができる。
(4)穀物発酵物を使用するため、本発明の皮膚外用剤組成物を含む化粧料は、使用時にさわやかでべたつかず、なめらかな使用感を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】各含有量のPEMULENと穀物発酵物との相乗的使用時の粘度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、特に断りがない限り、本発明で使用される単位はすべて国際標準単位である。また、本発明における数値、数値範囲はいずれも、工業生産における不可避の体系的誤差を含むものとして理解されるべきである。
【0031】
<(A)穀物を発酵して得られた穀物発酵物である有効成分>
従来、穀物を発酵して得られた発酵物の有効成分は、乳化剤又は栄養成分として用いられると認められている。ところが、本発明において、このような穀物発酵物を本発明で規定する増粘剤と併用すると、本発明で規定する増粘剤との相乗的増粘作用が生じることを意外にも見出した。
【0032】
本発明における穀物は、米、もち米、キビ、黒米、トウモロコシ、ソルガムから選ばれた1種以上であり得る。本発明のいくつかの好ましい実施形態において、米又はもち米であることが好ましく、米であることがより好ましい。
【0033】
また、本発明における穀物は、例えば、玄米、精米、加工米などのいずれか1種以上の加工又は未加工の穀物であってもよく、特に限定されない。本発明のいくつかの好ましい実施形態において、発酵の容易さや得られる発酵物の純度の観点から、例えば、精米や加工米など、加工処理された穀物を一般に使用する。
【0034】
本発明において、発酵の方法は特に限定されず、微生物を用いて穀物を発酵することができ、乳酸菌を用いて発酵することが好ましい。穀物の発酵時に使用できる乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・カゼイ(L.casei)、ラクトバチルス・セロビオース(L.cellobiosus)、ラクトバチルス・ワクシノスターカス(L.vaccinostercus)、ストレプトコッカス・フェカーリス(Streptococcus faecalis)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)などが挙げられる。本発明のいくつかの好ましい実施形態において、得られる乳酸菌発酵米の乳化力等の観点から、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)を用いることが好ましい。
【0035】
本発明の別の好ましい実施形態において、穀物は発酵前に、スクリーニングや洗浄などの前処理も行う。
【0036】
発酵方法について、例えば、以下の手順で行うことができる。
まず、穀物を加工処理し、洗浄などの適切な前処理を実施することにより、あり得る不純物成分や、乳酸菌の発酵を妨げ得る雑菌を除去し、例えば、清潔な精製米などの高純度の穀物を得る。
次に、前記精製米を、嫌気性(嫌気的)条件下での発酵を可能とする密閉可能な発酵容器に投入する。そして、発酵容器に水、乳酸菌及び発酵補助成分を導入する。前記水は、蒸留水又は純浄水であることが好ましく、その使用量は特に限定されないが、一般に前記加工処理及び前処理後の穀物(精製米)の質量の10倍以下とする。前記発酵補助成分としては、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、ショ糖などの様々な糖類を使用でき、中でも果糖を用いることが最も好ましい。各物質の添加方法は特に限定されず、この分野における一般の添加方法を採用すればよい。
そして、嫌気性条件下で発酵することができるように、容器を密閉する。発酵の温度及び時間は特に限定されず、通常の発酵方法を採用すればよい。例えば、発酵は、室温又は加熱下で実施することができ、発酵時間は、数日又は数週間であり得る。
【0037】
上記発酵工程で得られた乳酸菌含有発酵液をそのまま有効成分として使用することができる。本発明のいくつかの好ましい実施形態において、得られた発酵液は、精製又は濃縮処理を行ってもよい。精製の方法は特に限定されず、常圧又は減圧下での濾過により実施することができる。また、濃縮の方法については、蒸留などの方法を採用することができる。本発明の好ましい実施形態において、精製後に濃縮工程を行うことができる。
【0038】
<(B)増粘剤>
本発明で使用される(B)増粘剤は、皮膚外用剤組成物に一定の粘度を与えることができ、いくつかの好ましい実施形態において、水性組成物に一定の粘度を与える。
【0039】
本発明の前記(B)増粘剤は、ポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤又は多糖系の増粘剤から選ばれたものである。
【0040】
本発明のポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤としては、アクリル酸とアクリレートの共重合により得られた重合体又はその誘導体が挙げられる。
【0041】
ここで、前記ポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤は、分子の側鎖構造中に、式(1):
【0042】
【化3】
(式中、Rは炭素数2~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、好ましくは炭素数2~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、Rは炭素数1~50の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、好ましくは炭素数6~30の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、より好ましくは10~25の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、nは0~100の整数であり、好ましくは1~100の整数であり、より好ましくは6~50の整数であり、さらに好ましくは10~30の整数であり、Lは単結合又は二価の連結基を表し、好ましくはアルキレン基である)で示される構造を有する。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態において、前記ポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤は、側鎖中のn=0であり、つまり側鎖中にポリオキシアルキレン基の構造が存在しない。この場合、本発明の増粘剤は、アクリル酸とアクリル酸アルキルを共重合したものと解される。例えば、いくつかの実施形態において、ポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤は、
【0044】
【化4】
(式中、R及びR’は炭素数10~30のアルキル基である)で示される分子構造を有してもよい。このような構造を有する増粘剤は、例えば、PEMULEN(登録商標)TR-1、PEMULEN(登録商標)TR-2などの市販品から入手できる。
【0045】
本発明の別の実施形態において、前記ポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤は、側鎖中のnが1~30であり、つまり側鎖中にポリオキシアルキレン基の構造が存在する。ポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレンやポリオキシプロピレン構造が挙げられる。場合によっては、このようなポリオキシアルキル構造を有する側鎖に加えて、他の側鎖は、例えば、アクリル酸と炭素数1~6のアルコールとから形成されるエステルなどのエステル構造を有してもよく、典型的には、
【0046】
【化5】
(式中、RはH又は炭素数1~4のアルキル基である)で示される構造を有してもよい。このような構造を有する増粘剤は、例えば、ダウ・ケミカル製ACULYNTMシリーズの増粘剤などの市販品から入手できる。
【0047】
また、上述のように説明した側鎖の構造に加えて、本発明のいくつかの実施形態において使用されるポリアクリル酸及びその誘導体系の増粘剤は、側鎖にアミド及びスルホネート基を有してもよい。例えば、
【0048】
【化6】
で示される構造が挙げられる。このような構造を有する増粘剤は、例えば、Aristoflex(登録商標)HMBシリーズの増粘剤などの市販品から入手できる。
【0049】
上記増粘剤は、増粘効果を向上させる観点から、水素結合によって形成された物理的架橋やイオン結合によって形成された架橋などの架橋構造を分子中に有してもよい。
【0050】
本発明の多糖系の増粘剤としては、デンプン、セルロース系増粘剤を使用することができ、本発明において、セルロース系増粘剤を使用することが好ましい。本発明の多糖系の増粘剤は、いくつかの好ましい実施形態において、分子中にアルキル及び/又はポリアルコキシセグメントによりエーテル化変性されたものである。例えば、本発明において、セルロースの一つの単位環上のヒドロキシル基をアルキル化(エーテル化)することによりセルロースを変性して得られた変性セルロースを用いてもよい。すなわち、前記変性セルロースは、
【0051】
【化7】
(式中、RはH、炭素数1~4のアルキル基、-(RO)-R又は-ROR(式中、Rは炭素数1~4のアルキレン基を表し、RはH又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Rはヒドロキシル基で置換されてもよい炭素数1~4のアルキレン基を表し、Rは炭素数10~30のアルキル基であり、mは1~100の整数である)から選ばれる)で示される構造を有する。
【0052】
上記構造を有する増粘剤としては、大同化成工業製サンジェロース(登録商標)等が挙げられる。
【0053】
また、これらの増粘剤は、使用時の形態は特に限定されず、例えば、水溶液やその他の溶液として使用することができる。本発明のいくつかの実施形態において、上記増粘剤をエマルジョン、特に水中油型エマルジョンとして使用することが好ましい。なお、このような溶液は、他の補助的な安定化成分を含んでもよく、例えば、安定化成分である酸、塩基又は塩などの物質を含んでもよい。
【0054】
増粘剤の使用量について、本発明では、他の増粘性成分の非存在下においても、増粘剤と穀物発酵物を相乗的使用する場合は、増粘剤のみ使用又は存在する系と比較して、粘度が大幅に上昇することを見出した。本発明において、前記増粘剤の使用量は、増粘剤のみ使用又は存在する系の粘度の1.2倍以上、好ましくは2倍、4倍、4.1倍、4.5倍、6倍又は10倍以上、より好ましくは20倍以上、30倍以上、50倍以上又は70倍以上の粘度を上記相乗効果により達成できる量である。
【0055】
なお、本発明における上記倍数は以下の方法により求める。
下記の系Xの粘度を測定してαとする。当該系Xは、
(B)増粘剤と、
必要な安定化成分とを含み、
残部が水である。
【0056】
下記の系Yの粘度を測定してβとする。当該系Yは、
(A)穀物を発酵して得られた穀物発酵物である有効成分と、
(B)系X中の含有量と同じ含有量の増粘剤と、
必要な安定化成分とを含み、
残部が水である。
上記必要な安定化成分は、防腐剤及び/又はpH調整剤である。
上記倍数はβ/αで表される。
【0057】
なお、上記粘度測定の条件下において、本発明で定義する増粘剤の含有量の値(組成物の全重量に対する質量%)を一定とし、粘度及び穀物発酵物の含有量(組成物の全重量に対する質量%)を2つの変数として考察すると、上記増粘剤の含有量が一定である場合、上記相乗的増粘作用による粘度が、増粘剤のみ使用する場合の粘度の1.2倍以上となり得れば、増粘剤の該含有量の値は本発明の範囲内である。
【0058】
<皮膚外用剤組成物>
本発明の皮膚外用剤組成物は、人体の皮膚表面への使用に適する機能的組成物である。通常、このような組成物は複数種の機能的成分を含有する。一般的な皮膚外用剤組成物は、液状、ゲル状、半固体状として使用される。本発明において、皮膚外用剤組成物は、水性組成物又は水中油組成物などの形態で使用されることが好ましい。
【0059】
本発明の皮膚外用剤組成物は、上記成分(A)及び(B)を必須成分として形成されたものである。
【0060】
本発明のいくつかの好ましい実施形態において、前記皮膚外用剤組成物は、ベースとしての水中に様々な成分を溶解又は懸濁させた水性組成物である。このような系において、組成物は均一溶液系であってもよく、不溶物を含む水性系であってもよい。
【0061】
別の好ましい実施形態において、前記皮膚外用剤組成物は水中油型組成物である。前記「水中油型組成物」は、補助的な分散手段により、分散相である油相を、連続相である水相中に分散させることで形成された乳化組成物である。ここで、分散相である油相は、粒子として存在する。なお、本発明で使用される「粒子」は、いくつかの実施形態において、ビーズ状又は略ビーズ状の形態で存在する。
【0062】
本発明の組成物において、組成は主として水又は水性物質であり、好ましくは脱イオン水又は蒸留水である。組成物中の水の配合量は特に限定されず、全体を100%とするのに十分な量で配合されるが、通常は組成物の全質量に対して、50~99質量%とし、好ましくは60~98質量%とし、より好ましくは70~95質量%とする。
【0063】
本発明の組成物中に分散相が存在してもよく、種々の油分を使用できる。油分は、安定性を損なわない範囲で化粧料に一般的に使用される物質から選択できる。好ましい油分としては、炭化水素油、シリコーン油、エステル油、その他の液状グリースなどが挙げられる。
【0064】
炭化水素油としては、流動パラフィン、スクアラン、スクアレン、パラフィン、イソパラフィン、セレシン、ワセリン、水添ポリデセンなどを使用することができる。
【0065】
シリコーン油としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチル水素ポリシロキサンなどの鎖状シリコーン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンなどの環状シリコーン、三次元ネットワーク構造を持つシリコーン樹脂、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0066】
液状グリースとしては、パーム油、パーム核油、亜麻仁油、ツバキ油、マカダミア油、コーン油、ミンク油、オリーブ油、アボカド油、サザンカ油、ヒマシ油、ベニバナ油、ホホバ油、ヒマワリ油、アーモンド油、菜種油、ゴマ油、大豆油、落花生油、トリグリセリン、トリカプリル酸グリセリル、トリイソパルミチン酸グリセリル等が挙げられる。
【0067】
エステル油としては、オクタン酸セチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソプロピル、イソパルミチン酸オクチル、オレイン酸イソデシル、エチルヘキサン酸セチル、トリ-2-エチルヘキサン酸グリセリル、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール、コハク酸2-エチルヘキシル、セバシン酸ジエチル等が挙げられる。
【0068】
本発明の組成物において、油相成分の配合量は特に限定されないが、約20質量%以下とすることが好ましい。なお、油相成分とは、水中油型組成物の製造時に油相として混合され、水相中に分散して乳化した成分を指す。具体的には、前記油分の他、油溶性防腐剤、油溶性紫外線吸収剤、油溶性薬剤、油性酸化防止剤、油性香料等が挙げられる。油相成分が20質量%よりも多いと、使用感が油っぽくなり、べたつきもあるため、好ましくない。
【0069】
また、本発明の皮膚外用組成物は、上記必須成分に加えて、本発明の効果を実質的に損なわない範囲内で、化粧料などの皮膚外用組成物に通常使用される成分を配合することができる。この通常の成分としては、例えば、上記以外の界面活性剤、保湿剤、粉体、アルコール、水溶性高分子、油溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤、香料、塩類、酸化防止剤、pH調整剤、キレート剤、清涼剤、抗炎症剤、美肌用成分(美白剤、細胞賦活剤、肌荒れ改善剤、血行促進剤、皮膚収斂剤、抗脂漏剤(antiseborrheic)等)、ビタミン類、アミノ酸類、核酸、ホルモン、包接化合物等が挙げられる。
【0070】
製造及び使用上の観点から、本発明で得られる皮膚外用剤組成物は、200000mPa・s又は150000mPa・s又は100000mPa・s又は50000mPa・s又は10000mPa・s(30℃)以下、1200mPa・s又は1500mPa・s又は2000mPa・s又は3000mPa・s(30℃)以上の粘度を有することにより、良好な使用感を維持し、べたつき感がなく、利用者にさわやかな感触を与える。さらに好ましくは4000~9000mPa・s(30℃)の粘度を有する。粘度が低すぎると、製品使用時の効果を損なう可能性がある。一方、粘度が高すぎると、広がりにくくなり、使用感を損なうおそれがある。
【0071】
<皮膚外用剤組成物の製造方法>
本発明の皮膚外用剤組成物の製造方法は、通常の組成物の混合方法を使用することができる。本発明のいくつかの好ましい実施形態において、本発明の皮膚外用剤組成物は、水性組成物又は水中油型組成物として製造される。
【0072】
水性組成物又は水中油型組成物は、通常使用されている組成物の製造方法で製造することができる。例えば、水中油型組成物の製造方法では、水相成分と油相成分をそれぞれ同じ温度で混合し、撹拌しながら水相中に油相を添加して分散・乳化させ、適宜冷却することにより製造することができる。
【0073】
さらに、本発明における水中油型組成物の形成方法は特に限定されず、機械的な撹拌により必要な混合せん断力を与えるか、又は超音波を用いる処理により、油相成分と水相成分を混合して安定なエマルジョンとする。
【0074】
同様に、本発明の皮膚外用剤組成物を調製するための装置も特に限定されず、上述した要求を満足できればよい。
【0075】
本発明の皮膚外用剤組成物は、溶液形態、エマルジョン形態などとし、半透明又は不透明な形態とすることができる。
【実施例
【0076】
以下、本発明の実施例について詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の好ましい実施形態の具体例にすぎず、本発明の実施可能な形態を限定するものではない。
【0077】
<主要原料>
(穀物発酵物)
RICE FERMENT-LP(テクノロング製)
(増粘剤)
PEMULENTM(ルブリゾール製)
ACULYNTM(ダウ・ケミカル製)
AristoflexTM(クラリアント製)
サンジェロース(大同化成工業株式会社製)
レシノール(日光ケミカルズ株式会社製)
【0078】
<測定装置及び方法>
(粘度測定)
BROOKFIELD LVDV-II+P又はHADV-II+P粘度計で測定した。
測定温度:30℃。
【0079】
(実施例1-1~1-6及び比較例1-1~1-3)
後述の組成で組成物を形成し、粘度を測定した。データを表1に示す。
【0080】
(実施例2-1~2-6及び比較例2-1~2-3)
後述の組成で組成物を形成し、粘度を測定した。データを表2に示す。
【0081】
(実施例3-1~3-6及び比較例3-1~3-3)
(後述の組成で組成物を形成し、粘度を測定した。データを表3に示す。
【0082】
(実施例4-1~4-6及び比較例4-1~4-3)
後述の組成で組成物を形成し、粘度を測定した。データを表4に示す。
【0083】
(実施例5-1~5-6及び比較例5-1~5-3)
後述の組成で組成物を形成し、粘度を測定した。データを表5に示す。
【0084】
上述した実施例と比較例を比較した結果、穀物発酵物及び増粘剤を併用した本発明の組成物は、増粘剤のみ使用したものと比較して、粘度が顕著に上昇した。通常、穀物発酵物の使用は組成物の粘度に大きな影響を与えることはないと認識されているため、穀物発酵物である乳化剤の使用が、増粘剤と相乗的な効果を生じたと考えられる。
【0085】
(参考例の対比1)
後述の組成で組成物を形成し、粘度を測定した。データを表6に示す。
【0086】
参考例1及び2は、増粘剤PEMULENを使用するとともに、安定化作用を有するリン脂質系界面活性剤(精製された水添大豆レシチン)を使用した。参考例3及び4は、穀物発酵物をさらに添加した。以下の比較を行った。
【0087】
実施例1-1と比較例1-1を比較した結果、実施例1-1の粘度は比較例1-1の粘度の約4.06倍であり、実施例1-2と比較例1-2を比較した結果、実施例1-2の粘度は比較例1-2の粘度の約6.57倍であった。
【0088】
参考例1と参考例3を比較した結果、参考例3の粘度は参考例1の粘度の約4.03倍であり、参考例2と参考例4を比較した結果、参考例4の粘度は参考例2の3.03倍であった。
【0089】
このように、リン脂質系物質の存在下では、本発明で見出した穀物発酵物と増粘剤との相乗的増粘効果は抑制された。
【0090】
これは、リン脂質系界面活性剤の存在が穀物発酵物に影響を与えたため、本発明の粘度増加の相乗効果が抑えられたと推測される。そのため、本発明の好ましい実施形態において、特に上記式(1)で示される構造中、n=0の場合、組成物中にリン脂質系界面活性剤又はリン脂質系物質は使用又は存在しない。
【0091】
(参考例の対比2)
後述の組成で組成物を形成し、粘度を測定した。データを表7及び図1に示す。なお、図1は表7のデータに基づくものである。
【0092】
図1のデータから明らかなように、PEMULENの使用量が0.05であったとき、曲線は緩やかなものであった。これは、PEMULENの使用量が少なすぎて、穀物発酵物との相乗増粘効果が不十分であったためと考えられる。PEMULENの使用量が0.2になると、曲線は急勾配となった。これは、PEMULENの使用量が多くなって穀物発酵物との相乗増粘効果が急激に高まったためと考えられる。よって、相乗効果の顕著さ及び粘度増加のコントロール性の観点から、本発明におけるPEMULENの使用量は好ましくは0.06~0.2質量%である。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
【表5】
【0098】
【表6】
【0099】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の組成物は、増粘系として化粧料用水性組成物に用いることができる。
図1