IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機エンジニアリング株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-異常判定システム 図1
  • 特許-異常判定システム 図2
  • 特許-異常判定システム 図3
  • 特許-異常判定システム 図4
  • 特許-異常判定システム 図5
  • 特許-異常判定システム 図6
  • 特許-異常判定システム 図7
  • 特許-異常判定システム 図8
  • 特許-異常判定システム 図9
  • 特許-異常判定システム 図10
  • 特許-異常判定システム 図11
  • 特許-異常判定システム 図12
  • 特許-異常判定システム 図13
  • 特許-異常判定システム 図14
  • 特許-異常判定システム 図15
  • 特許-異常判定システム 図16
  • 特許-異常判定システム 図17
  • 特許-異常判定システム 図18
  • 特許-異常判定システム 図19
  • 特許-異常判定システム 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】異常判定システム
(51)【国際特許分類】
   G01H 11/08 20060101AFI20230915BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20230915BHJP
   G01N 29/14 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
G01H11/08 D
G01M99/00 Z
G01N29/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022114444
(22)【出願日】2022-07-19
(62)【分割の表示】P 2021531679の分割
【原出願日】2020-09-10
(65)【公開番号】P2022163038
(43)【公開日】2022-10-25
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/036117
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591036457
【氏名又は名称】三菱電機エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 慎二
(72)【発明者】
【氏名】波多野 照
(72)【発明者】
【氏名】藤原 央登
(72)【発明者】
【氏名】石神 伸也
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/193617(WO,A1)
【文献】特開2012-185314(JP,A)
【文献】国際公開第2017/003435(WO,A1)
【文献】特開平11-160290(JP,A)
【文献】特開平10-054836(JP,A)
【文献】特開平06-109479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00~17/00
G01M 99/00
G01N 29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象機械に発生した振動に応じたアコースティックエミッション波を検出するAEセンサの共振周波数に対応した正弦波信号を入力し、入力した前記正弦波信号をデジタルデータに変換するA/D変換部と、
前記A/D変換部が変換した前記デジタルデータから、前記正弦波信号の極大値または極小値を抽出する抽出部と、
前記抽出部が抽出した前記正弦波信号の周期ごとの極大値または極小値を用いて、前記正弦波信号の変化傾向を判定する変化傾向判定部と、
前記変化傾向判定部が判定した変化傾向に基づき、前記対象機械に異常が生じたか否かを判定する異常判定部と、
を備え
前記変化傾向判定部は、前記正弦波信号が安定傾向、増加傾向、減少傾向または減少から増加に転じる変化傾向のいずれの変化傾向であるかを判定する
ことを特徴とする異常判定システム。
【請求項2】
前記変化傾向判定部が判定した変化傾向で変化した前記正弦波信号の値の変化量を演算
する変化量演算部と、
前記変化量演算部が演算した前記正弦波信号の変化傾向に対応した変化量を出力する出力制御部と、
をさらに備え、
前記異常判定部は、前記出力制御部が出力した前記正弦波信号の変化傾向に対応した変化量が予め設定された許容出力範囲外であった場合に、前記対象機械に異常が発生したと判定する
ことを特徴とする請求項に記載の異常判定システム。
【請求項3】
前記異常判定部は、正常状態である前記対象機械において前記AEセンサの出力値の前記安定傾向が維持された安定継続時間と前記正弦波信号が前記安定傾向であった時間とを比較し、前記正弦波信号が前記安定傾向であった時間が、前記安定継続時間未満であった場合に、前記対象機械な異常が発生したと判定する
ことを特徴とする請求項に記載の異常判定システム。
【請求項4】
前記変化量演算部は、
前記正弦波信号が前記安定傾向であると判定された場合、出力安定を示す値を、前記正弦波信号の値の変化量として設定し、
前記正弦波信号が前記増加傾向から安定したと判定された場合、前記正弦波信号の値の変化量として、増加する前の前記正弦波信号の値と、増加してから安定したときの前記正弦波信号の値との差分を演算し、
前記正弦波信号が前記減少傾向から安定したと判定された場合、前記正弦波信号の値の変化量として、減少する前の前記正弦波信号の値と、減少してから安定したときの前記正弦波信号の値との差分を演算し、
前記正弦波信号が減少してから増加に転じて安定したと判定された場合、前記正弦波信号の値の変化量として、減少する前の前記正弦波信号の値と、減少から増加に転じて安定したときの前記正弦波信号の値との加算値を演算する
ことを特徴とする請求項に記載の異常判定システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象機械に発生した振動を検出する振動検出装置、振動検出方法および対象機械に発生した振動に基づいて対象機械の異常を判定する異常判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、対象機械に発生した音または振動に基づいて対象機械の異常を判定することが行われている。例えば、特許文献1には、機械設備の摺動部材または関連部材に発生した音または振動の実測デジタルデータのピーク値に基づいて、機械設備の異常診断を行う装置が記載されている。この装置は、機械設備の摺動部材または関連部材から検出された音または振動のアナログ信号をデジタル変換して実測デジタルデータを生成し、実測デジタルデータのデータポイントごとにその直前のデータポイントとのレベル差および傾きを算出してピーク値を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-322947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された従来の技術は、対象機械から検出した振動を表す実測デジタルデータのピーク値に基づいて、対象機械に生じた振動の時間的な変化傾向を解析し、解析結果に基づいて、対象機械を異常診断するものである。しかしながら、実測デジタルデータを得るためには、対象機械から検出された振動を表す信号をデジタルデータに変換するためのA/D変換処理、A/D変換処理で得られたデジタルデータから主周波数帯域の信号を得るためのフィルタ処理、主周波数帯域の信号のエンベロープデータを得るためのエンベロープ処理、および、エンベロープデータを周波数分析するための高速フーリエ変換(FFT)といった、多くの信号処理を行う必要があり、高機能な信号処理装置が必要であるという課題があった。
【0005】
本開示は上記課題を解決するものであり、対象機械に発生した振動の時間的な変化傾向の解析に必要な信号処理を削減することができる異常判定システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る異常判定システムは、対象機械に発生した振動に応じたアコースティックエミッション(以下、AEと記載する)波を検出するAEセンサの共振周波数に対応した正弦波信号を入力し、入力した正弦波信号をデジタルデータに変換するA/D変換部と、A/D変換部が変換したデジタルデータから、正弦波信号の極大値または極小値を抽出する抽出部と、抽出部が抽出した正弦波信号の周期ごとの極大値または極小値を用いて、正弦波信号の変化傾向を判定する変化傾向判定部と、変化傾向判定部が判定した変化傾向に基づき、対象機械に異常が生じたか否かを判定する異常判定部とを備え、変化傾向判定部は、正弦波信号が安定傾向、増加傾向、減少傾向または減少から増加に転じる変化傾向のいずれの変化傾向であるかを判定する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、対象機械に発生した振動に応じたAE波の正弦波信号をデジタルデータに変換し、デジタルデータから正弦波信号のサイクルごとに極大値のデータポイントが抽出され、抽出された極大値のデータポイントと、正弦波として識別可能なポイント数のデータポイントからなり、極大値のデータポイントを含むサイクルデータが出力部で視認可能に出力される。AE波の正弦波信号のサイクルごとに抽出された極大値のデータポイントを含んだ正弦波として識別可能なサイクルデータは、対象機械に発生した振動の時間的な変化を示すデータであり、振動の時間的な変化傾向の解析用データとして扱うことができる。さらに、このサイクルデータは、デジタルデータからデータポイントを抽出するという簡易な処理で生成可能である。さらに、出力部で視認可能に出力されたサイクルデータは、オシロスコープを使用しなくても、サイクルごとの極大値の大きさによって容易にノイズの有無を判別することができる。これにより、本開示に係る異常判定システムは、対象機械に発生した振動の時間的な変化傾向の解析に必要な信号処理を削減することができる。また、本開示に係る異常判定システムは、対象機械の振動の検出データであるかノイズであるかを視認可能なデータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る異常判定システムの構成を示すブロック図である。
図2図2Aは、AEセンサの出力波形を示す波形図であり、図2Bは、AEセンサの出力信号をA/D変換したデジタルデータを示す図である。
図3図1の出力処理部の構成を示すブロック図である。
図4】実施の形態1に係る振動検出方法を示すフローチャートである。
図5図4のステップST2の詳細な処理を示すフローチャートである。
図6】実施の形態1におけるサイクルデータの表示例を示す説明図である。
図7図7Aは、実施の形態1に係る振動検出装置の機能を実現するハードウェア構成を示すブロック図であり、図7Bは、実施の形態1に係る振動検出装置の機能を実現するソフトウェアを実行するハードウェア構成を示すブロック図である。
図8】実施の形態2に係る異常判定システムの構成を示すブロック図である。
図9】実施の形態2に係る振動検出方法を示すフローチャートである。
図10】実施の形態3に係る異常判定システムの構成を示すブロック図である。
図11】実施の形態3に係る振動検出方法を示すフローチャートである。
図12】AE波の正弦波信号のデジタルデータから極大値のデータポイントを抽出する処理の概要を示す図である。
図13】実施の形態3に係る振動検出方法の別の態様を示すフローチャートである。
図14】実施の形態4に係る異常判定システムの構成を示すブロック図である。
図15図15Aは、対象機械に連続的に発生した振動に由来するAE波を検出したAEセンサの出力波形を示す波形図であり、図15Bは、対象機械に突発的に発生した振動に由来するAE波を検出したAEセンサの出力波形を示す波形図であり、図15Cは、対象機械に連続的に発生した振動と突発的に発生した振動とに由来するAE波を検出したAEセンサの出力波形の例(1)を示す波形図であり、図15Dは、対象機械に連続的に発生した振動と突発的に発生した振動とに由来するAE波を検出したAEセンサの出力波形の例(2)を示す波形図である。
図16】実施の形態5に係る異常判定システムの構成を示すブロック図である。
図17図16の出力処理部の構成を示すブロック図である。
図18】実施の形態5に係る振動検出方法を示すフローチャートである。
図19図18のステップST3eおよびステップST4eの詳細な処理を示すフローチャートである。
図20】AE波の正弦波信号の変化傾向の判定基準を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る異常判定システム1の構成を示すブロック図である。図1において、異常判定システム1は、対象機械2に発生した振動に基づいて、対象機械2の異常の有無を判定するシステムであり、AEセンサ3、振動検出装置4、異常判定部5および表示部6を備える。対象機械2は、例えば、モータ、減速機、切削器、ポンプおよびタービンといった回転機械である。また、振動検出装置4は、A/D変換部41、抽出部42および出力処理部43を備える。例えば、振動検出装置4に接続された外部装置が、異常判定部5および表示部6を備える。外部装置は、例えば、対象機械2の点検作業者が使用するパーソナルコンピュータである。ただし、異常判定部5および表示部6は、振動検出装置4が備える構成要素であってもよい。表示部6は、振動検出装置4から出力されたデータを表示する出力部である。
【0010】
AEセンサ3は、対象機械2に装着されて、対象機械2に発生した振動に応じたAE波を検出する。AEとは、固体が変形または破壊するときに、この固体の内部に蓄えられた弾性エネルギーが、弾性波(AE波)として放出される現象である。また、AEセンサ3は、対象機械2から検出されたAE波の正弦波信号を出力するカンチレバー構造を有している。このカンチレバー構造は、Q値が高い圧電材料で構成された発振構造であり、AE波の周波数帯域に共振周波数が設定されている。
【0011】
回転機械の回転で発生した振動に応じた広帯域(数kHzから数MHzの周波数成分)のAE波のうち、共振周波数に対応したAE波の正弦波信号がカンチレバー構造から出力される。図2Aは、AEセンサ3の出力波形を示す図であり、図2Bは、AEセンサ3の出力信号をA/D変換したデジタルデータを示す図である。
【0012】
図2Aおよび図2Bにおいて、対象機械2は、切削器である。切削器は、主軸まわりに回転させた被加工物を切削刃によって切削する工作機械である。図2Aにおいて、期間Aは、正常な切削刃によって被加工物が切削された期間であり、期間Bは、異常が発生した切削刃によって被加工物が切削された期間である。切削刃の異常としては、例えば、切削刃の刃こぼれのように突発的に発生し、切削刃と被加工物との間の振動が急激に変動する異常が考えられる。
【0013】
期間Aにおける切削刃と被加工物との間に発生する振動は大きく変動していない。このとき、AEセンサ3によって切削器から検出されたAE波の正弦波信号の信号レベルは、切削刃と被加工物との間に発生した振動の変動に応じた範囲内のレベルになる。
【0014】
一方、切削刃に異常が発生した場合、切削刃と被加工物との間に発生する振動は一時的に大きくなってから徐々に元のレベルに戻っていく。この振動の変動に応じて、AE波の正弦波信号の信号レベルは、期間Aにおける信号レベルよりも十分に高くなってから徐々に元に戻っていく。図2Aに示すΔv1は、期間BにおけるAE波の正弦波信号の信号レベルの最大値から、期間AにおけるAE波の正弦波信号の信号レベルの最大値を引き算した値である。すなわち、切削刃に異常が発生することによってAE波の正弦波信号の信号レベルが最大でΔv1だけ変動する。
【0015】
A/D変換部41が期間BにおけるAEセンサ3の出力信号をA/D変換して得られたデジタルデータは、図2Bに示すように、正弦波を形成する複数のデータポイントの時系列である。ただし、A/D変換部41によるA/D変換においては、アナログの信号からサンプリングされたデータポイントの値のばらつきに応じて正弦波のサイクルごとの波高値に測定誤差が生じる。例えば、正弦波信号のサイクルごとのデジタルデータのうち、極大値のデータポイントM1~M4には、最大でΔv2(=M4の信号レベル-M3の信号レベル)の測定誤差がある。
【0016】
このようなAEセンサ3を用いた振動検出について発明者が実験解析を行ったところ、AEセンサ3によって検出されたAE波の信号は正弦波で出力され、対象機械2に突発的に大きな振動の変動が発生すると、この振動の変動に応じた信号レベルの変化量Δv1が波高値の測定誤差Δv2よりも十分に大きくなることが確認された。Δv1がΔv2よりも十分に大きいということは、正弦波から極大値または極小値を精度よく抽出可能であることを意味する。
【0017】
振動検出装置4は、AE波の正弦波信号の信号レベルの変化量Δv1が波高値の測定誤差Δv2よりも十分に大きいことに着目して、対象機械2に発生した振動の時間的な変化を示すデータを生成する。すなわち、抽出部42が、AEセンサ3によって対象機械2から検出されたAE波の正弦波信号のデジタルデータから正弦波信号のサイクルごとの極大値のデータポイントを抽出する。抽出部42によって抽出された極大値のデータポイントの時系列データは、対象機械2に発生した振動の時間的な変化を示しており、対象機械2に発生した振動の時間的な変化傾向の解析に用いられる。
【0018】
特許文献1に記載された従来の装置では、前述したように、対象機械2に発生した振動の時間的な変化傾向の解析用データを得るために、A/D変換、フィルタ処理、エンベロープ処理およびFFTといった多くの信号処理が必要であり、これらの信号処理で得られたデータを記憶するために多くの記憶容量が必要であった。
【0019】
これに対して、振動検出装置4は、デジタルデータからのデータポイントの抽出という簡易な処理によって、振動の時間的な変化傾向の解析用データを生成することができる。これにより、対象機械2に発生した振動の時間的な変化傾向を解析するために必要な信号処理を大幅に削減することが可能である。さらに、この解析用データは、極大値のデータポイントのみから構成されているので、解析用データを生成する際にデジタルデータから抽出された極大値のデータポイントを順次記憶するだけでよい。このため、対象機械2に発生した振動の時間的な変化傾向を解析するために必要な記憶容量の削減も可能である。さらに、振動検出装置4が備える出力処理部43は、極大値のデータポイントと、正弦波として識別可能なポイント数のデータポイントからなり、極大値のデータポイントを含むサイクルデータとを、表示部6で視認可能に出力する。例えば、対象機械2の点検作業者は、高価なオシロスコープを使用しなくても、表示部6に表示されたサイクルデータにおける極大値の大きさによってノイズであるか否かを容易に判別できる。これにより、振動検出装置4は、対象機械2に発生した振動の時間的な変化傾向の解析に必要な信号処理を削減できかつ対象機械2の振動の検出データであるかノイズであるかを視認可能なデータを提供することが可能である。
【0020】
異常判定部5は、AE波の正弦波信号のサイクルごとの極大値のデータポイントから構成されるデータに基づいて、対象機械2の異常を判定する。例えば、異常判定部5には、事前の実験によって求めたAE波の正弦波信号の変化率(例えば、異常が発生した状態の対象機械2を模擬して得られた変化率)が判定閾値として設定されている。異常判定部5は、振動検出装置4によって生成されたデータのうち、表示部6に表示されたサイクルデータを視認することによりノイズではないと判定されたデータを用いて、AE波の正弦波信号の変化率を算出し、算出した変化率を判定閾値と比較する。異常判定部5は、AE波の正弦波信号の変化率が判定閾値よりも小さければ、対象機械2に異常が発生していないと判定し、AE波の正弦波信号の変化率が判定閾値以上になった場合には、対象機械2に異常が発生したと判定する。
【0021】
図3は出力処理部43の構成を示すブロック図である。出力処理部43は、抽出部42によって抽出された極大値のデータポイントおよびサイクルデータを表示部6で視認可能に出力する。正弦波として識別可能なポイント数は、例えば、20ポイント程度である。出力処理部43は、図3に示すように、判定部431、記憶部432および出力制御部433を備える。判定部431は、抽出部42によって抽出されたデータポイントの極大値と、記憶部432に記憶されたデータポイントの最大値とを比較して、いずれが大きいかを判定する。
【0022】
記憶部432は、AE波の正弦波信号の判定期間で最大値のデータポイントおよびこのデータポイントを含むサイクルデータを記憶する。出力制御部433は、記憶部432に記憶された最大値のデータポイントおよびこのデータポイントを含むサイクルデータを、表示部6に視認可能に出力する。出力制御部433は、ノイズではないと判定されたサイクルデータに含まれる最大値のデータポイントを異常判定部5に出力する。異常判定部5は、出力制御部433から出力されたデータに基づいて、対象機械2の異常を判定する。
【0023】
図4は、実施の形態1に係る振動検出方法を示すフローチャートであり、図1に示した振動検出装置4による一連の処理を示している。AEセンサ3は、対象機械2に発生した振動に応じたAE波を検出する。A/D変換部41は、AEセンサ3によって検出されたAE波の正弦波信号を入力し、入力した正弦波信号をデジタルデータに変換する(ステップST1)。
【0024】
次に、抽出部42は、A/D変換部41によって変換されたデジタルデータを入力し、入力したデジタルデータから正弦波信号のサイクルごとに極大値のデータポイントを抽出する(ステップST2)。例えば、抽出部42は、AE波の正弦波信号のデジタルデータから正弦波信号のサイクルごとの極大値のデータポイントおよび極大値のデータポイントを含むサイクルデータを抽出する。抽出部42によって抽出された極大値のデータポイントおよびサイクルデータは、出力処理部43に出力される。
【0025】
抽出部42が、AE波の正弦波信号のデジタルデータから、極大値のデータポイントを抽出する代わりに、極小値のデータポイントを抽出する場合、抽出したデータポイントの符号を反転させる。これにより、抽出部42は、極大値のデータポイントを抽出する場合と同様の解析用のデータを生成することができる。なお、AE波の正弦波信号には、正弦波のプラス側に変化するノイズが重畳されるので、正弦波のマイナス側のピーク値である極小値を抽出することで、ノイズの誤抽出を低減させることが可能である。
【0026】
出力処理部43は、抽出部42によって抽出された極大値のデータポイントおよびこのデータポイントを含むサイクルデータを表示部6で視認可能に出力する(ステップST3)。例えば、出力処理部43が備える判定部431は、判定期間に、抽出部42によってサイクルごとに順次抽出された極大値のデータポイントと記憶部432に記憶されている最大値のデータポイントとを比較して、いずれが大きいかを判定する。判定期間は、例えば、対象機械2の動作に応じてその状態が逐次変化する場合、対象機械2が個々の状態であった期間である。
【0027】
例えば、対象機械2が切削装置である場合、切削装置が被加工物を切削する処理には、切削刃を被加工物に接触させる前の第1の空転状態、切削刃を被加工物に接触させて切削が行われている加工状態および被加工物から切削刃を引き離した第2の空転状態がある。記憶部432には、極大値のデータポイントおよびこのデータポイントを含んだサイクルデータが対象機械2の状態ごとに記憶される。
【0028】
また、対象機械2の状態は動作条件によって異なる。例えば、切削装置の加工状態は、被加工物の材料によって変化し、切削刃の状態によって変化し、切削刃または被加工物を回転させる回転数の違いによって変化する。抽出部42は、対象機械2が状態ごとおよび動作条件ごとに、AE波の正弦波信号のサイクルごとの極大値のデータポイントを順次抽出する。判定部431は、抽出部42によって抽出された極大値のデータポイントと、記憶部432に記憶された最大値のデータポイントとを比較することにより、対象機械2の状態ごとに、最大値のデータポイントおよびこのデータポイントを含むサイクルデータを判定する。
【0029】
記憶部432に記憶されていたデータポイントの値が、抽出部42によって新たに抽出されたデータポイントの値よりも小さいと判定された場合、記憶部432は、抽出部42によって新たに抽出されたデータポイントおよびこのデータポイントを含むサイクルデータを、それまで記憶されていたデータポイントおよびサイクルデータに上書きする。これにより、記憶部432には、対象機械2から検出されたAE波の正弦波信号のデジタルデータのうち、最大値のデータポイントおよびこのデータポイントを含むサイクルデータが記憶される。このように、記憶部432に対して最大値のデータポイントおよびこのデータポイントを含むサイクルデータのみを記憶することで、サイクルデータの記憶に要する記憶容量の増大を抑制することができる。
【0030】
出力制御部433は、記憶部432に記憶された極大値のデータポイントとこのデータポイントを含むサイクルデータとを、表示部6に視認可能に出力する。対象機械2の点検作業者は、表示部6に表示されたサイクルデータにおける極大値の大きさによってノイズであるか否かを判別する。例えば、出力制御部433は、点検作業者からサイクルデータがノイズではないという判別結果が入力された場合、記憶部432に記憶された極大値のデータポイントを異常判定部5に出力する。異常判定部5は、出力制御部433から出力されたデータに基づいて、対象機械2の異常を判定する。
【0031】
次に、AE波の正弦波信号のデジタルデータからサイクルごとの極大値のデータポイントを抽出する処理について詳細に説明する。図5は、図4のステップST2の詳細な処理を示すフローチャートである。図5において、nは、データポイントの抽出順を示す抽出番号であり、0以上の自然数である。MAXは、データポイントの最大値である。抽出部42は、抽出番号nのデータポイントを順に抽出して、抽出したデータポイントの中から極大値のデータポイントを探索する。
【0032】
まず、抽出部42は、nおよびMAXに0を設定して(ステップST1a)、AE波の正弦波信号のデジタルデータから、抽出番号n(=0)のデータポイントを抽出する。続いて、抽出部42は、抽出番号nのデータポイントの値が最大値MAXよりも小さいか否かを確認する(ステップST2a)。
【0033】
抽出番号nのデータポイントの値が最大値MAXよりも小さい場合(ステップST2a;YES)、抽出部42は、最大値MAXを維持する(ステップST3a)。例えば、データポイントの抽出が開始された時点で、最大値MAXは0である。このとき、抽出されたデータポイントが正弦波のマイナス側のデータポイントである場合、データポイントの値が最大値MAXよりも小さいので、抽出部42は、ステップST3aの処理を行う。
【0034】
一方、抽出番号nのデータポイントの値が最大値MAX以上である場合(ステップST2a;NO)、抽出部42は、最大値MAXとして、抽出番号nのデータポイントの値を設定する(ステップST4a)。これにより、最大値MAXが、抽出番号nのデータポイントの値で置き換えられる。
【0035】
ステップST3aまたはステップST4aの処理が完了した場合、抽出部42は、正弦波の1サイクル分のデジタルデータを処理したか否かを確認する(ステップST5a)。例えば、抽出部42は、1サイクル分の正弦波を識別可能なポイント数のデータポイントを抽出した場合、正弦波の1サイクル分のデジタルデータが処理され、極大値のデータポイントの探索が完了したと判断する。なお、1サイクル分の正弦波として識別可能なポイント数は、A/D変換におけるサンプリング分解能に依存するが、例えば、20ポイント程度である。
【0036】
正弦波の1サイクル分のデジタルデータが処理されていない場合(ステップST5a;NO)、抽出部42は、抽出番号nに1を加算して(ステップST6a)、ステップST2aの処理に戻る。これにより、次の抽出番号nのデータポイントが、AE波の正弦波信号のデジタルデータから抽出されて、極大値のデータポイントの探索が継続される。
【0037】
正弦波の1サイクル分のデジタルデータが処理された場合(ステップST5a;YES)、抽出部42は、最大値MAXを極大値のデータポイントと決定してメモリに記憶する(ステップST7a)。続いて、抽出部42は、AE波の正弦波信号の全てのサイクルを処理したか否かについて確認する(ステップST8a)。ここで、抽出部42は、AEセンサ3によって一定の検出期間(例えば、工作機械による被加工物の加工期間)に検出されたAE波の正弦波信号の全てのサイクルについて前述した一連の処理を行ったか否かを確認する。このとき、未処理のサイクルがあれば(ステップST8a;NO)、抽出部42は、ステップST1aに戻り、データポイントの抽出番号nに0を設定し、最大値MAXに0を設定してから、次のサイクルのデータポイントに対してステップST2aからの一連の処理を行う。
【0038】
一方、AE波の正弦波信号における全てのサイクルについて処理された場合(ステップST8a;YES)、抽出部42は、図5の処理を終了する。この後、抽出部42は、メモリからサイクルごとの極大値のデータポイントを読み出し、読み出したデータポイントのデータを異常判定部5に出力する。
【0039】
なお、図5において極小値のデータポイントを抽出する場合、例えば、最大値MAXの代わりに最小値MINを設定する。抽出部42は、抽出番号nのデータポイントの値が最小値MINよりも大きいか否かを確認する(ステップST2a)。抽出番号nのデータポイントの値が最小値MINよりも大きいと(ステップST2a;YES)、ステップST3aに移行し、抽出番号nのデータポイントの値が最小値MIN以下であれば(ステップST2a;NO)、ステップST4aに移行する。ステップST3aおよびステップST4aにおける処理は、最小値MINに対して行われる。抽出部42は、最小値MINを極小値のデータポイントと決定し、最小値MINの符号を反転させてからメモリに記憶する(ステップST7a)。これらの処理が完了した後、抽出部42は、メモリから読み出したサイクルごとの極小値のデータポイントのデータを、異常判定部5に出力する。
【0040】
図6は、実施の形態1におけるサイクルデータの表示例を示す説明図である。出力制御部433は、記憶部432に記憶された極大値のデータポイントを含むサイクルデータを表示部6に表示させる。図6において、1サイクル目では、極大値のデータポイントP1を含むサイクルデータが表示部6に表示されている。表示部6には、1サイクル目のサイクルデータの正弦波が表示されているので、点検作業者は、このサイクルデータがノイズではなく、対象機械2の振動の検出データであると判定できる。
【0041】
例えば、判定部431が、2サイクル目で抽出されたデータポイントP2の値がデータポイントP1の値以上であると判定すると、記憶部432には、極大値のデータポイントP2およびサイクルデータが記憶される。出力制御部433は、記憶部432に記憶された、2サイクル目の極大値のデータポイントを含むサイクルデータを表示部6に表示させる。1サイクル目と同様に、表示部6には、2サイクル目のサイクルデータの正弦波が表示されているので、点検作業者は、このサイクルデータがノイズではなく、対象機械2の振動の検出データであると判定できる。同様な手順で、3サイクル目のサイクルデータについても、点検作業者は、ノイズではなく、対象機械2の振動の検出データであると判定する。
【0042】
判定部431が、抽出部42によって4サイクル目に抽出されたデータポイントP4の値がデータポイントP3の値以上であると判定すると、記憶部432には、最大値のデータポイントP4およびこのデータポイントを含むサイクルデータが記憶される。出力制御部433は、記憶部432に記憶されたデータポイントP4を含むサイクルデータを表示部6に表示させる。表示部6に表示された4サイクル目のサイクルデータは、図6に示すように、データポイントP4の値が著しく大きいので、点検作業者は、4サイクル目のデータにはノイズが含まれていると判定できる。
【0043】
次に、振動検出装置4の機能を実現するハードウェア構成について説明する。
振動検出装置4におけるA/D変換部41、抽出部42および出力処理部43の各機能は、処理回路によって実現される。すなわち、振動検出装置4は、図4に示したステップST1からステップST3までの処理を実行する処理回路を備える。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいし、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)であってもよい。
【0044】
図7Aは、振動検出装置4の機能を実現するハードウェア構成を示すブロック図であり、図7Bは、振動検出装置4の機能を実現するソフトウェアを実行するハードウェア構成を示すブロック図である。図7Aおよび図7Bにおいて、入力インタフェース100は、AEセンサ3から振動検出装置4へ出力される正弦波信号を中継する。出力インタフェース101は、振動検出装置4から異常判定部5または表示部6へ出力されるデータを中継する。
【0045】
処理回路が、図7Aに示す専用のハードウェアの処理回路102である場合、処理回路102は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、または、これらを組み合わせたものが該当する。振動検出装置4におけるA/D変換部41、抽出部42および出力処理部43の機能を、別々の処理回路で実現してもよいし、これらの機能をまとめて1つの処理回路で実現してもよい。
【0046】
処理回路が図7Bに示すプロセッサ103である場合、振動検出装置4におけるA/D変換部41、抽出部42および出力処理部43の機能は、ソフトウェア、ファームウェアまたはソフトウェアとファームウェアの組み合わせによって実現される。なお、ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述されてメモリ104に記憶される。
【0047】
プロセッサ103は、メモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、振動検出装置4におけるA/D変換部41、抽出部42および出力処理部43の機能を実現する。例えば、振動検出装置4は、プロセッサ103によって実行されるときに、図4に示したフローチャートにおけるステップST1からステップST3までの処理が結果的に実行されるプログラムを記憶するためのメモリ104を備えている。これらのプログラムは、A/D変換部41、抽出部42および出力処理部43の手順または方法をコンピュータに実行させる。メモリ104は、コンピュータを、A/D変換部41、抽出部42および出力処理部43として機能させるためのプログラムが記憶されたコンピュータ可読記憶媒体であってもよい。
【0048】
メモリ104は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically-EPROM)などの不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVDなどが該当する。
【0049】
振動検出装置4におけるA/D変換部41、抽出部42および出力処理部43の機能の一部を専用ハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。例えば、A/D変換部41は、専用のハードウェアである処理回路102によって機能を実現し、抽出部42および出力処理部43は、プロセッサ103がメモリ104に記憶されたプログラムを読み出し実行することで、機能を実現する。このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアまたはこれらの組み合わせにより、上記機能を実現することができる。
【0050】
以上のように、実施の形態1に係る振動検出装置4は、A/D変換部41、抽出部42および出力処理部43を備える。対象機械2に発生した振動に応じたAE波の正弦波信号をデジタルデータに変換し、デジタルデータから正弦波信号のサイクルごとに極大値のデータポイントが抽出されて、抽出された極大値のデータポイントと、正弦波として識別可能なポイント数のデータポイントからなり、極大値のデータポイントを含むサイクルデータが、表示部6に表示される。このサイクルデータは、対象機械2に発生した振動の時間的な変化を示すデータであり、振動の時間的な変化傾向の解析用データとして扱うことができる。さらに、サイクルデータは、デジタルデータからデータポイントを抽出するという簡易な処理で生成可能である。さらに、表示部6に表示されたサイクルデータは、高価なオシロスコープを使用しなくても、サイクルごとの極大値の大きさによって容易にノイズであるか否かを判別することができる。これにより、振動検出装置4は、対象機械2に発生した振動の時間的な変化傾向の解析に必要な信号処理を削減できかつ対象機械2の振動の検出データであるかノイズであるかを視認可能なデータを提供することができる。
【0051】
実施の形態2.
実施の形態2に係る振動検出装置は、AE波の正弦波信号のデジタルデータからノイズを除去する構成を有している。図8は、実施の形態2に係る異常判定システム1Aの構成を示すブロック図である。図8において、図1と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。異常判定システム1Aは、対象機械2に発生した振動に基づいて、対象機械2の異常の有無を判定するシステムであり、AEセンサ3、振動検出装置4Aおよび異常判定部5を備える。振動検出装置4Aは、A/D変換部41、抽出部42A、ノイズ判定部44およびノイズ除去部45を備える。
【0052】
抽出部42Aは、AE波の正弦波信号のデジタルデータのうち、ノイズを含むサイクルのデータポイントが除去されたデジタルデータから極大値または極小値のデータポイントを抽出する。例えば、抽出部42Aは、ノイズを含むサイクルのデータポイントが除去されたデジタルデータから極大値のデータポイントを抽出する。抽出されたデータポイントのデータは、異常判定部5に出力される。また、抽出部42Aは、極大値のデータポイントを抽出する代わりに極小値のデータポイントを抽出する場合、抽出したデータポイントの符号を反転させる。
【0053】
ノイズ判定部44は、AE波の正弦波信号のデジタルデータのノイズを判定する。例えば、ノイズ判定部44は、正弦波信号のサイクルごとのデータポイントの総和AD_SUMを判定値と比較した結果に基づいて、サイクルごとにノイズを判定する。なお、判定値は、例えば、0またはDCオフセットの値である。
【0054】
ノイズ除去部45は、ノイズ判定部44によって判定されたノイズを、AE波の正弦波信号のデジタルデータから除去する。例えば、ノイズ除去部45は、AE波の正弦波信号のデジタルデータからノイズを含むサイクルの全てのデータポイントを除去する。
【0055】
次に、ノイズを含むサイクルのデータポイントが除去されたデジタルデータから極大値のデータポイントを抽出する処理の一例について説明する。図9は、実施の形態2に係る振動検出方法を示すフローチャートであり、ノイズ判定部44、ノイズ除去部45および抽出部42Aによる一連の処理の例を示している。図9のステップST4bからステップST11bまでは、図5のステップST1aからステップST8aまでの処理と同様であるので、説明を省略する。なお、nは、データポイントの抽出順を示す抽出番号であり、0以上の自然数である。MAXは、データポイントの最大値である。
【0056】
ノイズ判定部44が、AE波の正弦波信号のサイクルごとにデジタルデータを入力し、入力したデジタルデータを用いて、1サイクル分のデータポイントの総和AD_SUMを算出する(ステップST1b)。例えば、ノイズ判定部44は、AE波の正弦波信号のデジタルデータから、正弦波の1サイクル分を形成可能な個数(20個程度)のデータポイントを順次入力し、入力したデータポイントの値を順次加算することにより、総和AD_SUMを算出する。
【0057】
続いて、ノイズ判定部44は、総和AD_SUMが判定値以下であるか否かを確認する(ステップST2b)。DCオフセットがない正弦波信号において、1サイクルの正弦波のプラス側とマイナス側では、信号レベルの絶対値は同じ値である。また、AE波の正弦波信号には、正弦波のプラス側に変化するノイズが重畳される。A/D変換処理におけるサンプリングのばらつきによる測定誤差を無視すると、1サイクル分のデジタルデータにノイズが含まれていなければ、総和AD_SUMは0となり、ノイズが含まれる場合は、総和AD_SUMは、0よりも大きな値となる。
【0058】
また、AE波の正弦波信号のデータポイントにDCオフセットが含まれる場合、1サイクルの各データポイントにDCオフセットが含まれる。A/D変換処理におけるサンプリングのばらつきによる測定誤差を無視すると、1サイクルの各データポイントにノイズが含まれていなければ、総和AD_SUMは、1サイクルで抽出された各データポイントに含まれるDCオフセットが加算された値となる。一方、ノイズが含まれる場合、総和AD_SUMは、1サイクルで抽出された各データポイントに含まれるDCオフセットが加算された値よりも大きな値となる。
【0059】
そこで、ノイズ判定部44には、例えば、AE波の正弦波信号のデジタルデータにDCオフセットがなければ、判定値として0が設定される。また、AE波の正弦波信号のデジタルデータにDCオフセットがある場合、ノイズ判定部44には、1サイクルで抽出される各データポイントに含まれるDCオフセットが加算された値が、判定値として設定される。
【0060】
総和AD_SUMが判定値よりも大きい場合(ステップST2b;NO)、ノイズ判定部44は、総和AD_SUMを求めたサイクルにノイズが含まれると判定して、この判定結果をノイズ除去部45に通知する。ノイズ除去部45は、ノイズ判定部44から通知された判定結果に基づいて、AE波の正弦波信号のデジタルデータから、総和AD_SUMを求めたサイクルにおける全てのデータポイントを除去する(ステップST3b)。この後、ノイズ判定部44は、次のサイクルに対してステップST1bからの処理を行う。
【0061】
総和AD_SUMが判定値以下である場合(ステップST2b;YES)、ノイズ判定部44は、総和AD_SUMを求めたサイクルにノイズが含まれないと判定し、この判定結果を抽出部42Aに通知する。抽出部42Aは、ノイズ判定部44から通知された判定結果に基づいて、総和AD_SUMを求めたサイクルのデータポイントについてステップST4bからの一連の処理を行う。このように、抽出部42Aは、ノイズを含むサイクルのデータポイントが除去されたデジタルデータから極大値のデータポイントを抽出する。これにより、ノイズの誤抽出を低減することが可能である。
【0062】
異常判定部5は、AE波の正弦波信号のデジタルデータから正弦波信号のサイクルごとに抽出された極大値または極小値のデータポイントのデータに基づいて、対象機械2の異常を判定する。極大値または極小値のデータポイントのデータは、ノイズを含むサイクルのデータポイントが除去されたデジタルデータから抽出される。このようにノイズの誤抽出が低減されたデータを用いることで、異常判定部5による対象機械2の異常判定の精度が向上する。
【0063】
なお、図9において極小値のデータポイントを抽出する場合、例えば、最大値MAXの代わりに、最小値MINを設定する。抽出部42Aは、抽出番号nのデータポイントの値が最小値MINよりも大きいか否かを確認する(ステップST5b)。抽出番号nのデータポイントの値が最小値MINよりも大きい場合(ステップST5b;YES)、ステップST6bに移行し、抽出番号nのデータポイントの値が最小値MIN以下であれば(ステップST5b;NO)、ステップST7bに移行する。ステップST6bおよびステップST7bにおける処理は、最小値MINに対して行われる。抽出部42Aは、最小値MINを極小値のデータポイントと決定し、最小値MINの符号を反転させてからメモリに記憶する(ステップST10b)。
【0064】
振動検出装置4AにおけるA/D変換部41、抽出部42A、ノイズ判定部44およびノイズ除去部45の機能は処理回路により実現される。すなわち、振動検出装置4Aは、図9に示したステップST1bからステップST11bの処理を実行するための処理回路を備える。処理回路は、図7Aに示した専用のハードウェアの処理回路102であってもよいし、図7Bに示したメモリ104に記憶されたプログラムを実行するプロセッサ103であってもよい。
【0065】
以上のように、実施の形態2に係る振動検出装置4Aは、抽出部42A、ノイズ判定部44およびノイズ除去部45を備える。ノイズ判定部44は、正弦波信号のサイクルごとのデータポイントの総和AD_SUMを判定値と比較した結果に基づいてサイクルごとにノイズを判定する。ノイズ除去部45は、ノイズを含むサイクルの全てのデータポイントを除去する。抽出部42Aは、ノイズ除去部45によってノイズを含むサイクルのデータポイントが除去されたデジタルデータから、極大値または極小値のデータポイントを抽出する。ノイズを含んだサイクルのデータポイントが除去されるので、ノイズの誤抽出を低減することができる。
【0066】
実施の形態3.
図10は、実施の形態2に係る異常判定システム1Bの構成を示すブロック図である。図10において、図1と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。異常判定システム1Bは、対象機械2に発生した振動に基づいて、対象機械2の異常の有無を判定するシステムであり、AEセンサ3、振動検出装置4Bおよび異常判定部5を備える。振動検出装置4Bは、A/D変換部41および抽出部42Bを備える。また、抽出部42Bは、ノイズ判定部44Aおよびノイズ除去部45Aを備える。
【0067】
抽出部42Bは、AE波の正弦波信号のデジタルデータのうち、ノイズが除去されたサイクルのデータポイントから極大値または極小値のデータポイントを抽出する。例えば、抽出部42Bは、ノイズが除去されたサイクルのデータポイントから、極大値のデータポイントを抽出する。抽出部42Bによって抽出されたデータポイントは、異常判定部5に出力される。抽出部42Bは、極大値のデータポイントを抽出する代わりに極小値のデータポイントを抽出する場合、抽出したデータポイントの符号を反転させる。
【0068】
ノイズ判定部44Aは、抽出部42Bによって抽出されたデータポイントのうち、正弦波信号のサイクルのピークの位置に対応しないデータポイントをノイズと判定する。AEセンサ3からAE波の正弦波信号が出力され、AE波の正弦波信号のデジタルデータから正弦波の1サイクル分として抽出されるデータポイントの個数は既知であり、サイクルで最初に抽出されたデータポイントの位置は既知である。従って、1サイクルで抽出されるデータポイントの個数とサイクルで最初に抽出されたデータポイントの位置に基づいて、正弦波のサイクルのピークに対応する位置を特定することは可能である。ノイズ判定部44Aには、ピークに対応する位置を示す情報が予め設定されている。
【0069】
また、ノイズ判定部44Aは、直前と直後に抽出されたデータポイントとの間で増減傾向が反転するデータポイントのうち、サイクルのピークの位置に対応しないデータポイントをノイズと判定する。例えば、直前と直後に抽出されたデータポイントよりも値が大きいデータポイントは、直前に抽出されたデータポイントからは増加傾向にあるが、直後に抽出されたデータポイントからは減少傾向にある。また、直前と直後に抽出されたデータポイントよりも値が小さいデータポイントは、直前に抽出されたデータポイントからは減少傾向にあるが、直後に抽出されたデータポイントからは増加傾向にある。ノイズ判定部44Aは、これらのデータポイントがピークの位置に対応していなければ、ノイズと判定する。
【0070】
ノイズ除去部45Aは、AE波の正弦波信号のサイクルごとにノイズと判定されたデータポイントを除去する。例えば、ノイズ除去部45Aは、抽出部42Bによって抽出された極大値または極小値のデータポイントのうち、サイクルのピークの位置に対応しないデータポイントを除去する。また、ノイズ除去部45Aは、直前と直後に抽出されたデータポイントとの間で増減傾向が反転するデータポイントのうち、サイクルのピークの位置に対応しないデータポイントを除去する。さらに、ノイズ除去部45Aは、ノイズを含むサイクルの全てのデータポイントを除去してもよい。
【0071】
次に、サイクルごとにノイズを除去しながら極大値のデータポイントを抽出する処理の一例について説明する。図11は、実施の形態3に係る振動検出方法を示すフローチャートであり、抽出部42Bによる処理の例を示している。図11のステップST1cおよびステップST2cは、図5のステップST1aおよびステップST2aの処理と同様であり、図11のステップST5cからステップST10cまでは、図5のステップST3aからステップST8aまでの処理と同様であるので、説明を省略する。また、nは、データポイントの抽出順を示す抽出番号であり、0以上の自然数である。MAXは、データポイントの最大値である。
【0072】
抽出番号nのデータポイントの値が最大値MAXよりも小さい場合(ステップST2c;YES)、ノイズ判定部44Aは、最大値MAXのデータポイントが、サイクルのピークの位置に対応するか否かを確認する(ステップST3c)。図12は、AE波の正弦波信号のデジタルデータから極大値のデータポイントを抽出する処理の概要を示す図であり、正弦波の1サイクル分のデータポイントとして、データポイントSに続いて、21個のデータポイントを順に抽出しながら、極大値のデータポイントを探索する処理を示している。
【0073】
データポイントSは、サイクルで最初に抽出されるデータポイントであり、抽出番号nは0である。また、データポイントSは、直前のサイクルのピーク位置から時間的に進んだ近傍の位置にある。このとき、正弦波のプラス側のピークの位置は、データポイントSに続いて抽出されるデータポイント数±1に対応する位置にある。例えば、図12では、抽出番号nが0であるデータポイントSに続いて、抽出番号nが21であるデータポイントまでの21個のデータポイントが抽出されるので、ピークの位置は、抽出されたデータポイント数が21±1、すなわち、データポイント数が20から22である範囲に対応している。
【0074】
ノイズ判定部44Aは、最大値MAXのデータポイントがピークの位置に対応しない場合(ステップST3c;NO)、最大値MAXのデータポイントをノイズと判定し、この判定結果をノイズ除去部45Aに通知する。ノイズ除去部45Aは、ノイズ判定部44Aから通知された判定結果に基づいて、最大値MAXのデータポイントを除去する(ステップST4c)。この後、ステップST8cの処理に移行し、次の抽出番号のデータポイントについてステップST1cからの一連の処理が行われるので、極大値のデータポイントの探索が継続される。
【0075】
一方、最大値MAXのデータポイントがピークの位置に対応する場合(ステップST3c;YES)、ノイズ判定部44Aは、最大値MAXのデータポイントがノイズではないと判定し、ステップST5cの処理に移行する。このように、抽出部42Bは、サイクルごとにノイズが除去されたデジタルデータから極大値のデータポイントを抽出するので、ノイズの誤抽出が低減される。
【0076】
なお、ノイズ除去部45Aは、ノイズ判定部44Aによりノイズと判定されたデータポイントを含む1サイクルの全てのデータポイントを除去してもよい。この場合、抽出部42Bは、ノイズを含むサイクルのデータポイントが除去されたデジタルデータから極大値のデータポイントを抽出するので、ノイズの誤抽出が低減される。
【0077】
なお、図11において極小値のデータポイントを抽出する場合、例えば、最大値MAXの代わりに、最小値MINを設定する。抽出部42Bは、抽出番号nのデータポイントの値が最小値MINよりも大きいか否かを確認する(ステップST2c)。抽出番号nのデータポイントの値が最小値MINよりも大きい場合(ステップST2c;YES)、ステップST3cに移行し、抽出番号nのデータポイントの値が最小値MIN以下であれば(ステップST2c;NO)、ステップST6cに移行する。ノイズ判定部44Aは、最小値MINのデータポイントが、ピークの位置に対応するか否かを確認する(ステップST3c)。最小値MINのデータポイントがピークの位置に対応しなければ(ステップST3c;NO)、ステップST4cに移行し、最小値MINのデータポイントがピークの位置に対応する場合(ステップST3c;YES)、ステップST5cに移行する。ステップST4c、ステップST5cおよびステップST6cにおける処理は、最小値MINに対して行われる。抽出部42Bは、最小値MINを極小値のデータポイントと決定し、最小値MINの符号を反転させてからメモリに記憶する(ステップST9c)。
【0078】
図13は、実施の形態3に係る振動検出方法の別の態様を示すフローチャートであり、直前と直後に抽出されたデータポイントよりも値が大きいデータポイントから、極大値のデータポイントを探索する処理を示している。ノイズ判定部44Aは、正弦波の1サイクルのデジタルデータから、連続した3つのデータポイント(抽出番号n=M-1,M,M+1)を抽出し、中間のデータポイント(抽出番号n=M)が、直前と直後に抽出されたデータポイント(抽出番号n=M-1,M+1)よりも大きい値であるか否かを確認する(ステップST1d)。
【0079】
直前と直後に抽出されたデータポイントよりも大きい値のデータポイントである場合(ステップST1d;YES)、ノイズ判定部44Aは、サイクルのピークの位置に対応するデータポイントであるか否かを確認する(ステップST2d)。ノイズ判定部44Aは、図11のステップST3cと同様な処理でピークの位置に対応するか否かを判断する。
【0080】
データポイント(抽出番号n=M)がピークの位置に対応しない場合(ステップST2d;NO)、ノイズ判定部44Aは、当該データポイントがノイズであると判定し、この判定結果をノイズ除去部45Aに通知する。ノイズ除去部45Aは、ノイズ判定部44Aから通知された判定結果に基づいて、当該データポイントを除去する(ステップST3d)。この後、AE波の正弦波信号のデジタルデータのうち、次に連続した3つのデータポイント(抽出番号n=M+1,M+2,M+3)についてステップST1dからの処理が行われ、極大値のデータポイントの探索が継続される。
【0081】
データポイント(抽出番号n=M)がピークの位置に対応する場合(ステップST2d;YES)、ノイズ判定部44Aは、当該データポイントがノイズではないと判定し、この判定結果を抽出部42Bに通知する。抽出部42Bは、ノイズ判定部44Aの判定結果に基づいて、当該データポイントを、今回のサイクルの極大値のデータポイントと決定してメモリに記憶する(ステップST4d)。
【0082】
なお、ノイズ除去部45Aは、ノイズ判定部44Aによりノイズと判定されたデータポイントを含む1サイクルの全てのデータポイントを除去してもよい。この場合、抽出部42Bは、ノイズを含むサイクルのデータポイントが除去されたデジタルデータから極大値のデータポイントを抽出するので、ノイズの誤抽出が低減される。
【0083】
続いて、抽出部42Bは、AE波の正弦波信号の全てのサイクルを処理したか否かについて確認する(ステップST5d)。抽出部42Bは、AEセンサ3によって一定の検出期間(例えば、工作機械による被加工物の加工期間)に検出されたAE波の正弦波信号の全てのサイクルについて前述の処理を行ったか否かを確認する。
【0084】
未処理のサイクルがある場合(ステップST5d;NO)、抽出部42Bは、次のサイクルに移行する(ステップST6d)。すなわち、抽出部42Bは、次のサイクルを極大値の探索対象のサイクルに設定することで、当該サイクルに対してステップST1dからの処理を行う。
【0085】
一方、AE波の正弦波信号のデジタルデータにおける全てのサイクルを処理した場合(ステップST5d;YES)、抽出部42Bは、図13の処理を終了する。この後、抽出部42Bは、メモリからサイクルごとの極大値のデータポイントを読み出し、読み出したデータポイントのデータを異常判定部5に出力する。
【0086】
なお、図13において極小値のデータポイントを抽出する場合に、ノイズ判定部44Aは、中間のデータポイント(抽出番号n=M)が直前と直後に抽出されたデータポイント(抽出番号n=M-1,M+1)よりも小さい値であるか否かを確認する(ステップST1d)。また、ノイズ判定部44Aは、データポイントが、正弦波のマイナス側のピークの位置に対応するか否かを確認する(ステップST2d)。抽出部42Bは、極小値のデータポイントと決定し、当該データポイントの符号を反転させてからメモリに記憶する(ステップST4d)。
【0087】
振動検出装置4BにおけるA/D変換部41および抽出部42Bの機能は、処理回路により実現される。すなわち、振動検出装置4Bは、図11または図13に示した処理を実行するための処理回路を備えている。処理回路は、図7Aに示した専用のハードウェアの処理回路102であってもよいし、図7Bに示したメモリ104に記憶されたプログラムを実行するプロセッサ103であってもよい。
【0088】
以上のように、実施の形態3に係る振動検出装置4Bは、A/D変換部41および抽出部42Bを備える。抽出部42Bは、ノイズ判定部44Aおよびノイズ除去部45Aを備える。ノイズ判定部44Aは、抽出部42Bによって抽出されたデータポイントのうち、正弦波信号のサイクルのピークの位置に対応しないデータポイントをノイズと判定する。また、ノイズ判定部44Aは、直前と直後に抽出されたデータポイントとの間で増減傾向が反転するデータポイントのうち、正弦波信号のサイクルのピークの位置に対応しないデータポイントをノイズと判定する。ノイズ除去部45Aは、正弦波信号のサイクルに含まれるノイズを除去する。抽出部42Bは、ノイズが除去されたサイクルのデータポイントから、極大値または極小値のデータポイントを抽出する。ノイズがサイクルごとに除去されるので、ノイズの誤抽出を低減することができる。
【0089】
実施の形態4.
図14は、実施の形態4に係る異常判定システム1Cの構成を示すブロック図である。図14において、図1と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。異常判定システム1Cは、対象機械2に発生した振動に基づいて、対象機械2の異常の有無を判定するシステムであり、AEセンサ3、振動検出装置4Cおよび異常判定部5Aを備える。振動検出装置4Cは、A/D変換部41、抽出部42および出力処理部43に加え、DCオフセット除去部46、実効値演算部47および平均化処理部48を備える。
【0090】
DCオフセット除去部46は、AE波の正弦波信号のデジタルデータからDCオフセットを除去する。例えば、DCオフセット除去部46は、一定時間のデジタルデータの平均値を算出し、算出した平均値を用いてDCオフセットを特定し、特定したDCオフセットを除去する。
【0091】
実効値演算部47は、DCオフセットが除去された正弦波信号のデジタルデータの実効値を算出する。実効値は、時間的に変化する正弦波信号の大きさを評価するための評価値であり、例えば、正弦波信号のデジタルデータのデータポイントの値の2乗を、正弦波信号の1サイクルについて平均し、その値の平方根をとった値である。
【0092】
平均化処理部48は、実効値演算部47によって算出された実効値について平均化処理を施して平均値を算出する。この平均値は、対象機械2の振動レベルを数値化した値である。例えば、平均化処理部48は、前回の測定までに蓄積された実効値の平均値を算出する。この平均値は、対象機械2に発生した振動に応じたAE波の正弦波信号に基づくものであり、対象機械2の振動レベルを示す値である。
【0093】
なお、振動レベルを数値化するために正弦波信号の実効値を平均化する方法は、一例であり、これ以外の方法であっても、AE波の正弦波信号に基づいて振動レベルを数値化できる方法であればよい。例えば、正弦波信号の実効値そのものを振動レベルとして数値化してもよいし、正弦波信号の実効値の期間積算値を振動レベルとして数値化してもよい。
【0094】
異常判定部5Aは、実施の形態1と同様にして、出力処理部43から出力されたデータに基づいて、対象機械2の異常を判定する。すなわち、異常判定部5Aは、AE波の正弦波信号のデジタルデータから抽出された極大値のデータポイントに基づいて、対象機械2に発生した突発的な異常を判定する。例えば、対象機械2が切削器である場合、切削刃の破損(刃こぼれ)が判定される。
【0095】
さらに、異常判定部5Aは、平均化処理部によって算出された平均値に基づいて、対象機械2の劣化状態を判定する。例えば、異常判定部5Aは、一定の期間内に得られた対象機械2の振動レベルの実効値の平均値を初期値に設定し、その後に対象機械2から得られた振動レベルの実効値の平均値が初期値から有意な変化があった場合、対象機械2が劣化傾向にあると判定する。
【0096】
なお、異常判定部5Aは、対象機械2の劣化傾向を解析し、この解析結果に基づいて、対象機械2の寿命を予測してもよい。このように、異常判定部5Aは、平均化処理部48によって算出された対象機械2における振動レベルの実効値の平均値に基づいて、対象機械2において緩やかに進行する劣化(例えば、切削刃の摩耗)を監視することができる。
【0097】
なお、振動検出装置4Cは、抽出部42の代わりに抽出部42Aを備え、さらにノイズ判定部44およびノイズ除去部45を備えてもよい。また、振動検出装置4Cは、抽出部42の代わりに抽出部42Bを備えてもよい。さらに、異常判定システム1Cにおいて、A/D変換部41、抽出部42および出力処理部43を備える振動検出装置と、A/D変換部41、DCオフセット除去部46、実効値演算部47および平均化処理部48を備える振動検出装置を備えてもよい。
【0098】
以上のように、実施の形態4に係る異常判定システム1Cでは、対象機械2に突発的に発生する異常の判定と、対象機械2において緩やかに進行する劣化状態の監視とを、同時に行うことが可能である。
【0099】
実施の形態5.
図15Aは、対象機械2に連続的に発生した振動に由来するAE波を検出したAEセンサ3の出力波形を示す波形図である。図15Bは、対象機械2に突発的に発生した振動に由来するAE波を検出したAEセンサ3の出力波形を示す波形図である。図15Cは、対象機械2に連続的に発生した振動と突発的に発生した振動とに由来するAE波を検出したAEセンサの出力波形の例(1)を示す波形図である。図15Dは、対象機械2に連続的に発生した振動と突発的に発生した振動とに由来するAE波を検出したAEセンサ3の出力波形の例(2)を示す波形図である。
【0100】
例えば、対象機械2が回転機械である場合、回転機械には、回転軸が回転している際に連続的な振動が発生する。振動は回転機械に加わる衝撃であるため、回転機械には、連続的な衝撃に由来した連続的なAE波が発生する。回転機械に発生した連続的なAE波は、図15Aに示すように、AEセンサ3によって正弦波信号として検出される。図15Aにおいて、Vaは、AE波の正弦波信号のNサイクルの波高値の平均値である。
【0101】
また、回転軸の軸受けに異常が発生すると、回転機械には、軸受けの異常に由来した振動が発生し、この振動に由来したAE波が発生する。回転機械の軸受けの異常に由来したAE波は、図15Bに示すように、AEセンサ3によって正弦波信号として検出される。Vbは、正弦波信号のNサイクル分の波高値の平均値である。
【0102】
回転機械の回転軸が回転している際に回転軸の軸受けに突発的な異常が発生した場合、回転機械には、回転軸の回転による連続的な振動が発生している際に、軸受けに発生した突発的な異常に由来した振動も発生し、これらの振動に由来するAE波が発生する。このため、回転機械には、突発的な振動が発生した期間において、連続的に発生している振動に由来するAE波と突発的に発生した振動に由来するAE波とが強め合ったAE波の正弦波信号が発生する場合がある。
【0103】
例えば、図15Cに示すように、連続的に発生している振動に由来するAE波と、突発的に発生した振動に由来するAE波とが強め合っているAE波の正弦波信号のNサイクルの波高値の平均値をVxとした場合に、突発的に発生した振動に由来するAE波の正弦波信号値の変化量Vcは、VxからVaを減算した値(Vc=Vx-va)である。従来の振動検出装置は、このようなAE波の信号値の増加を検出して、対象機械に突発的な振動が発生したことを検知している。
【0104】
しかしながら、実際には、対象機械に突発的な振動が発生した期間において、AE波の信号値が減少する場合もある。例えば、連続的に発生している振動に由来するAE波と、突発的に発生した振動に由来するAE波とが弱め合うと、図15Dにおいて矢印Aで示すように、回転機械に発生している連続的な振動に由来したAE波の信号値は、減少する。この後、突発的に発生した振動が弱まるにつれて、矢印Bで示すように、AE波の信号値は、連続的な振動に由来したAE波の信号値まで増加する。連続的に発生している振動に由来するAE波と、突発的に発生した振動に由来するAE波とが弱め合っているAE波の正弦波信号のNサイクルの波高値の平均値をVyとした場合に、突発的に発生した振動に由来するAE波の正弦波信号値の変化量Vdは、VyとVaとを加算した値(Vd=Vy+Va)である。
【0105】
例えば、半導体素子の製造に使用されるエッチング装置は、通常、真空室の壁面内に設けられた冷却管に冷媒が供給されて壁面が冷却されている。エッチング装置には、冷却管への冷媒の供給によって連続的な振動が発生している。また、真空室に配置された加工物のエッチングが開始されると、エッチング装置には、エッチング処理によって振動が発生する。すなわち、エッチング装置には、真空室の壁面の冷却によって連続的に振動が発生している状態で、加工物のエッチングによって突発的な振動が発生する。
【0106】
加工物のエッチングによって発生した振動に由来するAE波は、通常、真空室の壁面の冷却によって連続的に発生している振動に由来するAE波よりも信号値が小さい。このため、連続的に発生している振動に由来するAE波と突発的に発生した振動に由来するAE波とが弱め合う場合がある。この場合、従来の振動検出装置は、対象機械に突発的に発生した振動を検出することができない。
【0107】
そこで、実施の形態5に係る振動検出装置では、対象機械2に発生したAE波の正弦波信号値が安定傾向、増加傾向、減少傾向または減少から増加に転じる変化傾向のいずれの変化傾向であるかを判定する。これにより、実施の形態5に係る振動検出装置は、対象機械に連続的に発生している振動に由来するAE波と突発的に発生した振動に由来するAE波とが弱め合う場合であっても、突発的に発生した振動を検出することが可能である。
【0108】
図16は、実施の形態5に係る異常判定システム1Dの構成を示すブロック図である。図16において、図1と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。異常判定システム1Dは、対象機械2に発生した振動に基づいて、対象機械2の異常の有無を判定するシステムであり、AEセンサ3、振動検出装置4D、異常判定部5および表示部6を備える。異常判定部5および表示部6は、振動検出装置4Dとは別に設けられた外部装置が備えてもよいし、振動検出装置4Dが備えてもよい。
【0109】
振動検出装置4Dは、AEセンサ3によって対象機械2から検出されたAE波の正弦波信号の複数のサイクルごとのデータポイントを用いて、AE波の正弦波信号が安定傾向、増加傾向、減少傾向または減少から増加に転じる変化傾向のいずれの変化傾向であるのかを判定し、判定した変化傾向で変化したAE波の正弦波信号の変化量を演算して、AE波の正弦波信号の変化傾向に対応した変化量を出力する。図16に示すように、振動検出装置4Dは、例えば、A/D変換部41、抽出部42および出力処理部43Aを備える。
【0110】
図17は、図16の出力処理部43Aの構成を示すブロック図である。図17に示すように、出力処理部43Aは、変化傾向判定部434、変化量演算部435および出力制御部436を備える。変化傾向判定部434は、抽出部42によって抽出されたAE波の正弦波信号の複数のサイクルごとの極大値のデータポイントを用いて、AE波の正弦波信号が安定傾向、増加傾向、減少傾向または減少から増加に転じる変化傾向のいずれの変化傾向であるかを判定する。変化量演算部435は、判定された変化傾向で変化したAE波の正弦波信号値の変化量を演算する。出力制御部436は、AE波の正弦波信号の変化傾向に対応した変化量を異常判定部5または表示部6に出力する。
【0111】
図18は、実施の形態5に係る振動検出方法を示すフローチャートであって、振動検出装置4Dによる一連の動作を示している。AEセンサ3は、対象機械2に発生した振動に応じたAE波を検出する。A/D変換部41は、AEセンサ3によって検出されたAE波の正弦波信号を入力し、入力したAE波の正弦波信号をデジタルデータに変換する(ステップST1e)。
【0112】
抽出部42は、A/D変換部41によって変換されたデジタルデータを入力し、入力したデジタルデータから正弦波信号のサイクルごとに極大値のデータポイントを抽出する(ステップST2e)。例えば、抽出部42は、AE波の正弦波信号のデジタルデータから正弦波信号のサイクルごとの極大値のデータポイントを抽出し、抽出した極大値のデータポイントを出力処理部43Aに出力する。
【0113】
続いて、変化傾向判定部434は、抽出部42によって抽出されたAE波の正弦波信号のNサイクルごとの極大値のデータポイントを用いて、AE波の正弦波信号が安定傾向、増加傾向、減少傾向または減少から増加に転じる変化傾向のいずれの変化傾向であるかを判定する(ステップST3e)。Nは2以上の整数である。変化量演算部435は、変化傾向判定部434によって判定された変化傾向で変化したAE波の正弦波信号値の変化量を演算する(ステップST4e)。
【0114】
出力制御部436は、変化量演算部435によって演算された、AE波の正弦波信号の変化傾向に対応した変化量を異常判定部5または表示部6に出力する(ステップST5e)。例えば、異常判定部5は、対象機械2が正常状態であるときのAEセンサ3の許容出力範囲とAE波の正弦波信号の変化傾向に対応した変化量を比較する。そして、異常判定部5は、AE波の正弦波信号の変化傾向に対応した変化量が許容出力範囲外であった場合に、対象機械2に突発的な異常が発生したと判定する。許容出力範囲は、異常判定部5に予め設定される。また、AEセンサ3の許容出力範囲は、対象機械2が劣化した度合いに応じて更新されてもよい。
【0115】
また、異常判定部5は、正常状態である対象機械2においてAEセンサ3の出力値の安定傾向が維持された安定継続時間とAE波の正弦波信号が安定傾向であった時間とを比較し、AE波の正弦波信号が安定傾向であった時間が、安定継続時間未満であった場合に、対象機械2に突発的な異常が発生したと判定してもよい。
【0116】
出力制御部436は、連続したNサイクルのAE波の正弦波信号のサイクルデータ、変化傾向判定部434によって判定されたAE波の正弦波信号の変化傾向、およびこの変化傾向で変化したAE波の正弦波信号の値の変化量を、表示部6に表示させる。対象機械2のメンテナンス作業者は、表示部6の表示内容を参照することにより、対象機械2の振動の検出データであるか、ノイズであるかを容易に視認することができる。すなわち、振動検出装置4Dは、対象機械2に発生した振動の時間的な変化傾向の解析に必要な信号処理を削減できかつ対象機械2の振動の検出データであるかノイズであるかを視認可能なデータを提供することができる。
【0117】
図19は、図18のステップST3eおよびステップST4eの詳細な処理を示すフローチャートである。変化傾向判定部434は、抽出部42によって抽出されたAE波の正弦波信号のサイクルごとの最大波高値(極大値)のデータポイントを入力して、入力したデータポイントをメモリに記憶する。変化傾向判定部434は、連続したNサイクルごとの複数の極大値のデータポイントをメモリから取得する(ステップST1f)。
【0118】
変化傾向判定部434は、取得した複数の極大値のデータポイントを用いて、AE波の正弦波信号の変化傾向を判定する(ステップST2f)。例えば、変化傾向判定部434は、Nサイクルごとの複数の極大値のデータポイントから最大値のデータポイントと最小値のデータポイントとを抽出し、最大値のデータポイントと最小値のデータポイントとの差分である変化幅を算出する。そして、変化傾向判定部434は、算出した変化幅と閾値とをNサイクルごとに比較し、この比較の結果に基づいてAE波の正弦波信号の変化傾向を判定する。
【0119】
図20は、AE波の正弦波信号の変化傾向の判定基準を示す表である。変化傾向判定部434は、図20に示すような判定基準表に基づいて、AE波の正弦波信号の変化傾向を判定してもよい。例えば、変化傾向判定部434は、前回のNサイクル分の複数の極大値のデータポイントから抽出された最大値のデータポイントと最小値のデータポイントとの変化幅が設定範囲内である場合、前回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が安定傾向であると仮判定する。判定基準表における「安定(仮)」は、変化傾向判定部434によってAE波の正弦波信号が安定傾向であると仮判定されたことを示している。
【0120】
また、変化傾向判定部434は、前回のNサイクル分の複数の極大値のデータポイントから抽出された最大値のデータポイントと最小値のデータポイントとの変化幅が設定範囲よりも大きい側に外れる値であった場合、前回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が増加傾向であると仮判定する。判定基準表における「増加(仮)」は、変化傾向判定部434によってAE波の正弦波信号が増加傾向であると仮判定されたことを示している。
【0121】
変化傾向判定部434は、前回のNサイクル分の複数の極大値のデータポイントから抽出された最大値のデータポイントと最小値のデータポイントとの変化幅が設定範囲よりも小さい側に外れる値であった場合、前回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が減少傾向であると仮判定する。判定基準表における「減少(仮)」は、変化傾向判定部434によってAE波の正弦波信号が減少傾向であると仮判定されたことを示している。「減少→増加(仮)」は、変化傾向判定部434によってAE波の正弦波信号が減少から増加に転じる変化傾向であると仮判定されたことを示している。
【0122】
変化傾向判定部434は、今回のNサイクル分の複数の極大値のデータポイントから抽出された最大値のデータポイントと最小値のデータポイントとの変化幅を設定範囲と比較することにより、今回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が、安定傾向であるか、増加傾向であるか、減少傾向であるかを仮判定する。続いて、変化傾向判定部434は、図20に示す判定基準表に基づいて、前回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号の変化傾向と今回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号の変化傾向とに対応する変化傾向を判定する。
【0123】
例えば、変化傾向判定部434は、前回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が安定傾向であると仮判定し、今回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が安定傾向であると仮判定した場合、AE波の正弦波信号が安定傾向であると決定する。判定基準表における「安定(決定)」は、変化傾向判定部434によってAE波の正弦波信号が安定傾向であると決定されたことを示している。
【0124】
変化傾向判定部434は、前回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が増加傾向であると仮判定し、今回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が安定傾向であると仮判定した場合、AE波の正弦波信号が増加傾向であると決定する。判定基準表における「増加(決定)」は、変化傾向判定部434によってAE波の正弦波信号が増加傾向であると決定されたことを示している。
【0125】
変化傾向判定部434は、前回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が減少傾向であると仮判定し、今回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が安定傾向であると仮判定すると、AE波の正弦波信号が減少傾向であると決定する。判定基準表における「減少(決定)」は、変化傾向判定部434によってAE波の正弦波信号が減少傾向であると決定されたことを示している。
【0126】
変化傾向判定部434は、前回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が減少から増加に転じる変化傾向であると仮判定し、今回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が安定傾向であると仮判定した場合、AE波の正弦波信号が減少から増加に転じる変化傾向であると決定する。判定基準表における「減少→増加(決定)」は、変化傾向判定部434によってAE波の正弦波信号が減少から増加に転じる変化傾向であると決定されたことを示している。
【0127】
また、前回のNサイクルから今回のNサイクルまでの期間におけるAE波の正弦波信号の変化は、ノイズの影響を受けやすい微視的な変化であると考えられる。このため、前回のNサイクルにおいて仮判定されたAE波の正弦波信号の変化傾向と、今回のNサイクルにおいて仮判定されたAE波の正弦波信号の変化傾向とが異なる場合、変化傾向判定部434は、AE波の正弦波信号の変化傾向を決定せずに、仮判定とする。例えば、変化傾向判定部434は、前回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が安定傾向であると仮判定し、今回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が増加傾向であると仮判定すると、図20に示すように、AE波の正弦波信号が増加傾向であると仮判定する。
【0128】
ただし、前回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が増加傾向と仮判定され、今回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が増加傾向であると仮判定された場合、AE波の正弦波信号にノイズが重畳されることによって、AEセンサ3の出力値が一時的に増加した可能性がある。このため、変化傾向判定部434は、図20に示すように、AE波の正弦波信号が増加傾向であると仮判定する。また、AE波の正弦波信号にノイズが重畳されることによって、AEセンサ3の出力値が減少し続けることはない。このため、前回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が増加傾向と仮判定され、今回のNサイクルにおけるAE波の正弦波信号が減少傾向であると仮判定された場合には、変化傾向判定部434は、AE波の正弦波信号が増加傾向であると決定する。
【0129】
変化量演算部435は、変化傾向判定部434によってAE波の正弦波信号が安定傾向であると判定された場合(ステップST2f;安定)、AE波の正弦波信号値の変化量として、出力安定を示す値を設定する(ステップST3f-1)。出力安定を示す値は、AE波の正弦波信号値がほぼ一定範囲で変化している状態を示す値であればよく、例えば、0である。図19においては、変化量演算部435は、変化量=0を設定する。
【0130】
変化量演算部435は、変化傾向判定部434によって、AE波の正弦波信号値が増加傾向から安定したと判定されるか(ステップST2f;増加→安定)、または、AE波の正弦波信号値が減少傾向から安定したと判定された場合(ステップST2f;減少→安定)、変化する前のAE波の正弦波信号値と変化した後のAE波の正弦波信号値との差分の絶対値を、変化量として演算する(ステップST3f-2)。
【0131】
例えば、AE波の正弦波信号値が増加傾向から安定したと判定された場合、増加する前のAE波の正弦波信号値は、図15Cに示したAE波の正弦波信号のNサイクルの波高値の平均値Vaである。増加してから安定したときのAE波の正弦波信号値は、図15Cに示した波高値の平均値Vxである。変化量演算部435は、AE波の正弦波信号値が増加傾向から安定した場合、突発的に発生した振動に由来するAE波の正弦波信号値の変化量Vcとして、VxからVaを減算した値の絶対値を演算する。また、AE波の正弦波信号値が減少傾向から安定したと判定され、減少する前のAE波の正弦波信号値が、AE波の正弦波信号のNサイクルの波高値の平均値Vaである場合、変化量演算部435は、変化量VcとしてVxからVaを減算した値の絶対値を演算する。
【0132】
変化量演算部435は、AE波の正弦波信号値が減少してから増加に転じて安定したと判定された場合(ステップST2f;減少→増加→安定)、減少から増加に転じる変化傾向におけるAE波の正弦波信号値の変化量として、減少する前のAE波の正弦波信号値と増加に転じてから安定したときのAE波の正弦波信号値との加算値を演算する(ステップST3f-3)。例えば、減少する前のAE波の正弦波信号値が、図15Dに示したAE波の正弦波信号のNサイクルの波高値の平均値Vaであり、増加に転じてから安定したときのAE波の正弦波信号値が、AE波の正弦波信号のNサイクルの波高値の平均値Vyである場合、変化量演算部435は、突発的に発生した振動に由来するAE波の正弦波信号値の変化量Vdとして、VyとVaとを加算した値の絶対値を演算する。変化量演算部435によって演算されたAE波の正弦波信号値の変化量は、出力制御部436に出力される。この後、図18のステップST5eの処理が実行される。
【0133】
例えば、連続的な振動が発生している対象機械2に突発的に振動が発生した場合、AEセンサ3によって対象機械2から検出されたAE波の正弦波信号値は、突発的に発生した振動によって変化してから安定傾向となり、さらに、突発的に発生した振動が減衰するに連れて、連続的に発生している振動に由来するAE波の正弦波信号値へ戻る。この場合、対象機械2に突発的に発生した振動は、突発的に発生した振動によってAE波の正弦波信号値が変化してから安定傾向になる変化傾向に基づいて検出することができ、さらにAE波の正弦波信号値が安定傾向になってから連続的な振動に由来するAE波の正弦波信号値へ戻る変化傾向に基づいて検出することもできる。そこで、変化傾向判定部434は、いずれか一方の変化傾向を判定するように設定される。これにより、同一の振動に由来するAE波の信号値の変化傾向が重複して判定されることを防止できる。
【0134】
振動検出装置4DにおけるA/D変換部41、抽出部42Aおよび出力処理部43Aの機能は、処理回路によって実現される。すなわち、振動検出装置4Dは、図18に示したステップST1eからステップST5eまでの処理を実行するための処理回路を備える。処理回路は、図7Aに示した専用のハードウェアの処理回路102であってもよいし、図7Bに示したメモリ104に記憶されたプログラムを実行するプロセッサ103であってもよい。
【0135】
以上のように、実施の形態5に係る振動検出装置4Dは、A/D変換部41、抽出部42A、変化傾向判定部434、変化量演算部435および出力制御部436を備える。変化傾向判定部434は、抽出部42によって抽出されたAE波の正弦波信号の複数のサイクルごとのデータポイントを用いて、AE波の正弦波信号が安定傾向、増加傾向、減少傾向または減少から増加に転じる変化傾向のいずれの変化傾向であるかを判定する。変化量演算部435は、変化傾向判定部434によって判定された変化傾向で変化したAE波の正弦波信号値の変化量を演算する。出力制御部436は、変化量演算部435によって演算されたAE波の正弦波信号の変化傾向に対応した変化量を出力する。対象機械2に発生したAE波の正弦波信号値が安定傾向、増加傾向、減少傾向または減少から増加に転じる変化傾向のいずれの変化傾向であるかを判定するので、振動検出装置4Dは、対象機械2に連続的に発生している振動に由来するAE波と突発的に発生した振動に由来するAE波とが弱め合う場合であっても、突発的に発生した振動を検出することが可能である。
【0136】
なお、各実施の形態の組み合わせまたは実施の形態のそれぞれの任意の構成要素の変形もしくは実施の形態のそれぞれにおいて任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0137】
1,1A,1B,1C,1D 異常判定システム、2 対象機械、3 AEセンサ、4,4A,4B,4C,4D 振動検出装置、5,5A 異常判定部、41 A/D変換部、42,42A,42B 抽出部、43,43A 出力処理部、44,44A ノイズ判定部、45,45A ノイズ除去部、46 DCオフセット除去部、47 実効値演算部、48 平均化処理部、100 入力インタフェース、101 出力インタフェース、102 処理回路、103 プロセッサ、104 メモリ、431 判定部、432 記憶部、433,436 出力制御部、434 変化傾向判定部、435 変化量演算部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20