(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】冷却板及び半導体製造装置用部材
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20230915BHJP
【FI】
H01L21/68 N
(21)【出願番号】P 2023512671
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2022021267
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三崎 雅斗
(72)【発明者】
【氏名】吉野 浩一
(72)【発明者】
【氏名】服部 亮誉
(72)【発明者】
【氏名】▲のぼり▼ 和宏
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-116218(JP,A)
【文献】特開2005-056944(JP,A)
【文献】特開2005-154832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiSi
2を42~65質量%、TiCを4~16質量%含有すると共に、SiCをTiSi
2の質量%よりも少量含有
し、SiO
2
を0.1~0.5質量%含有する、冷却板。
【請求項2】
30000mm
2以上の表面を有し、前記表面に対して蛍光液を用いた浸透探傷試験を実施したあと前記表面を観察したときに前記蛍光液が浸透し且つ長径が0.5mm以上の穴が1個以下である、
請求項1に記載の冷却板。
【請求項3】
質量比SiC/TiSi
2が0.47~0.98、質量比SiC/TiCが2.7~8.8である、
請求項1又は2に記載の冷却板。
【請求項4】
アルミナ基板の冷却に用いられるものであり、アルミナとの40℃~570℃の平均線熱膨張係数の差が0.5ppm/K以下、又は、40℃~570℃の平均線熱膨張係数が7.2~9.0ppm/Kである、
請求項1又は2に記載の冷却板。
【請求項5】
電極を内蔵したアルミナ基板と、
請求項
4に記載の冷却板と、
前記アルミナ基板と前記冷却板とを接合する金属接合層と、
を備えた半導体製造装置用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却板及び半導体製造装置用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセス中で高温化する静電チャックには、放熱のために冷却板が接合されている。この場合、静電チャックの材料としてはアルミナ、冷却板の材料としては複合材料が用いられることがある。こうした複合材料としては、例えば特許文献1に開示されているように、炭化ケイ素、珪化チタン、チタンシリコンカーバイド及び炭化チタンを含有する複合材料が知られている。こうした複合材料は、優れた材料特性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の複合材料を用いた冷却板では、表面にピット(小さな穴)が生じることがあった。こうしたピットが存在すると、そこを起点として破壊しやすくなったり、面内に温度ムラが発生して面内の均熱性が低下したりするおそれがあるため、好ましくない。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、優れた材料特性を有すると共に表面に現れるピットが少ない冷却板を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明の冷却板は、
TiSi2を42~65質量%、TiCを4~16質量%含有すると共に、SiCをTiSi2の質量%よりも少量含有する、
ものである。
【0007】
この冷却板は、優れた材料特性を有するため、冷却対象物を冷却する能力が高い。またこの冷却板は、表面に現れるピットが少ないため、ピットを起点とした破壊の発生を抑制できるし、ピットが存在する場所での熱伝導低下に伴う温度ムラの発生を抑制できる。
【0008】
なお、数値範囲を表す「a~b」はa以上b以下を意味する。
【0009】
[2]本発明の冷却板(前記[1]に記載の冷却板)は、30000mm2以上の表面を有し、前記表面に対して蛍光液を用いた浸透探傷試験を実施したあと前記表面を観察したときに前記蛍光液が浸透し且つ長径が0.5mm以上の穴が1個以下であることが好ましい。ここでは、こうした穴をピットと定義する。こうした冷却板は、ピットの数が極めて少ないため、ピットを起点とした破壊の発生やピットによる温度ムラの発生をより抑制できる。
【0010】
[3]本発明の冷却板(前記[1]又は[2]に記載の冷却板)は、SiO2を0.1~0.5質量%含有することが好ましい。こうすれば、材料特性の一つである4点曲げ強度を比較的高くすることができる。
【0011】
[4]本発明の冷却板(前記[1]~[3]のいずれかに記載の冷却板)は、質量比SiC/TiSi2が0.47~0.98、質量比SiC/TiCが2.7~8.8であることが好ましい。
【0012】
[5]本発明の冷却板(前記[1]~[4]のいずれかに記載の冷却板)は、アルミナ基板の冷却に用いられるものとしてもよく、アルミナとの40℃~570℃の平均線熱膨張係数の差が0.5ppm/K以下、又は、40℃~570℃の平均線熱膨張係数が7.2~9.0ppm/Kとしてもよい。こうすれば、冷却板と冷却対象物としてのアルミナ基板とを接合した接合体を製造したとき、冷却板とアルミナ基板との熱膨張差が小さいため、その接合体を低温と高温との間で繰り返し使用したとしても冷却板とアルミナ基板とが剥がれるのを抑制できる。
【0013】
なお、本発明の冷却板(前記[1]~[5]のいずれかに記載の冷却板)において、開口率は1%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましい。嵩密度は、3.70g/cm3以上が好ましく、3.74g/cm3以上が好ましい。熱伝導率は、75W/mK以上が好ましく、80W/mK以上がより好ましい。4点曲げ強度は、250MPa以上が好ましく、290MPa以上がより好ましい。SiCの含有率は、30~44質量%であることが好ましい。
【0014】
[6]本発明の半導体製造装置用部材は、電極を内蔵したアルミナ基板と、本発明の冷却板(前記[5]に記載の冷却板)と、前記アルミナ基板と前記冷却板とを接合する金属接合層と、を備えたものである。この半導体製造装置用部材は、冷却板とアルミナ基板との熱膨張差が小さいため、低温と高温との間で繰り返し使用したとしても冷却板とアルミナ基板とが剥がれるのを抑制できる。そのため、耐用期間が長くなる。
【0015】
なお、本発明の半導体製造装置用部材(前記[6]に記載の半導体製造装置用部材)において、前記金属接合層は、Mgを含有するかSi及びMgを含有するアルミニウム合金で形成されたものであることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図10】半導体製造装置用部材210の裏面図(P視図)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[半導体製造装置用部材-第1実施形態]
以下に、第1実施形態の半導体製造装置用部材10について説明する。
図1は半導体製造装置用部材10の平面図、
図2は
図1のA-A断面図である。
【0018】
半導体製造装置用部材10は、プラズマ処理を施すシリコン製のウエハWを吸着可能なアルミナ製の静電チャック20と、静電チャック20を冷却する冷却板積層体30と、静電チャック20と冷却板積層体30とを接合する積層体-チャック接合層40と、を備えている。
【0019】
静電チャック20は、外径がウエハWの外径よりも小さい円盤状のアルミナプレートであり、静電電極22とヒータ電極24とを内蔵している。静電電極22は、棒状の給電端子23を介して図示しない外部電源により直流電圧を印加可能な平面状の電極である。この静電電極22に直流電圧が印加されるとウエハWはクーロン力によりウエハ載置面20aに吸着固定され、直流電圧の印加を解除するとウエハWのウエハ載置面20aへの吸着固定が解除される。ヒータ電極24は、静電チャック20の全面にわたって配線されるように例えば一筆書きの要領でパターン形成され、電圧を印加すると発熱してウエハWを加熱する。ヒータ電極24には、冷却板積層体30の裏面からヒータ電極24の一端及び他端にそれぞれ到達する棒状の給電端子25によって電圧を印加可能である。
【0020】
冷却板積層体30は、外径が静電チャック20と同等かやや大きい円盤状の積層体であり、第1基板31と、第2基板32と、第3基板33と、第1基板31と第2基板32との間に形成された第1金属接合層34と、第2基板32と第3基板33との間に形成された第2金属接合層35と、冷媒が流通可能な冷媒通路36と、を備えている。第2基板32には、打ち抜き部32aが形成されている。この打ち抜き部32aは、第2基板32の一方の面から他方の面までを冷媒通路36と同じ形状となるように打ち抜いたものである。第1及び第2金属接合層34,35は、第1基板31と第2基板32の一方の面との間と、第2基板32の他方の面と第3基板33との間に、金属接合材(例えばAl-Si-Mg系又はAl-Mg系の金属接合材)を挟んで各基板31~33を熱圧接合することにより形成されたものである。冷却板積層体30には、静電チャック20が接合された面とは反対側の面からウエハ載置面20aと直交する方向に延びて冷媒通路36の入口36a及び出口36bにそれぞれ繋がる冷媒供給孔46a及び冷媒排出孔46bが形成されている。また、冷却板積層体30には、静電チャック20が接合された面とその反対側の面とを貫通する端子挿通孔43,45が形成されている。端子挿通孔43は、静電電極22の給電端子23を挿通するための孔であり、端子挿通孔45は、ヒータ電極24の給電端子25を挿通するための孔である。
【0021】
第1~第3基板31~33に使用される複合材料製の冷却板は、TiSi2を42~65質量%(好ましくは42~53質量%)、TiCを4~16質量%(好ましくは8~15質量%)含有すると共に、SiCをTiSi2の質量%よりも少量含有する。含有率は、複合材料である冷却板のX線回折パターンを取得し、データ解析用ソフトウェアを用いた簡易定量により求めた値である。この冷却板は、優れた材料特性を有すると共に、表面に現れるピットが極めて少ない。本明細書では、「ピット」とは、30000mm2以上(例えばφ200mm以上)の面に対して蛍光液を用いた浸透探傷試験を実施したときに蛍光液が浸透した長径0.5mm以上の穴と定義する。
【0022】
積層体-チャック接合層40は、冷却板積層体30の第1基板31と静電チャック20との間に金属接合材(例えばAl-Si-Mg系又はAl-Mg系の金属接合材)を挟んで両者を熱圧接合することにより形成されたものである。なお、各給電端子23,25は、冷却板積層体30や第1及び第2金属接合層34,35、積層体-チャック接合層40と直接接触しないように構成されている。
【0023】
なお、半導体製造装置用部材10には、ウエハWの裏面にHeガスを供給するためのガス供給孔やウエハWをウエハ載置面20aから持ち上げるリフトピンを挿通するためのリフトピン挿通孔を、ウエハ載置面20aと直交する方向に半導体製造装置用部材10を貫通するように設けてもよい。
【0024】
次に、半導体製造装置用部材10の使用例について説明する。まず、図示しない真空チャンバ内に半導体製造装置用部材10を設置した状態で、ウエハWをウエハ載置面20aに載置する。そして、真空チャンバ内を真空ポンプにより減圧して所定の真空度になるように調整し、静電電極22に直流電圧をかけてクーロン力を発生させ、ウエハWをウエハ載置面20aに吸着固定する。次に、真空チャンバ内を所定圧力(例えば数10~数100Pa)の反応ガス雰囲気とし、この状態で、プラズマを発生させる。そして、発生したプラズマによってウエハWの表面のエッチングを行う。図示しないコントローラは、ウエハWの温度が予め設定された目標温度となるように、ヒータ電極24へ供給する電力を制御する。
【0025】
次に、半導体製造装置用部材10の製造例について説明する。
図3及び
図4は半導体製造装置用部材10の製造工程図である。
図5は第2基板32の説明図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のB-B断面図である。
【0026】
まず、円盤状の薄型プレート(冷却板)である第1~第3基板31~33を作製する(
図3(a)参照)。次に、第2基板32の一方の面から他方の面まで冷媒通路36と同じ形状となるように打ち抜いて、第2基板32に打ち抜き部32aを形成する(
図3(b)及び
図5参照)。打ち抜き部32aは、マシニングセンタ、ウォータジェット、放電加工などにより形成することができる。次に、第1基板31と第2基板32の一方の面との間に金属接合材51を挟むと共に、第2基板32の他方の面と第3基板33との間に金属接合材52を挟み(
図3(c)参照)、第1~第3基板31~
33を熱圧接合する(
図3(d)参照)。これにより、打ち抜き部32aが冷媒通路36になり、第1基板31と第2基板32との間に第1金属接合層34が形成され、第2基板32と第3基板33との間に第2金属接合層35が形成され、冷却板積層体30が完成する。このとき、金属接合材51,52としては、Al-Si-Mg系又はAl-Mg系接合材を使用するのが好ましい。これらの接合材を用いた熱圧接合(TCB)は、真空雰囲気下、固相線温度以下に加熱した状態で各基板を0.5~2.0kg/mm
2 の圧力で1~5時間かけて加圧することにより行う。その後、冷却板積層体30の裏面側から冷媒通路36の入口36aに至る冷媒供給孔46aと、冷却板積層体30の裏面側から冷媒通路36の出口36bに至る冷媒排出孔46bとを形成すると共に、冷却板積層体30の表裏を貫通する端子挿通孔43,45を形成する(
図3(e)参照、
図3(e)には、冷媒通路36の入口36aや出口36b、冷媒供給孔46a、冷媒排出孔46bは現れていないが、これらについては
図1を参照)。
【0027】
一方、静電電極22及びヒータ電極24が埋設され、給電端子23,25が取り付けられた静電チャック20を作製する(
図4(a)参照)。こうした静電チャック20は、例えば特開2006-196864号公報の記載にしたがって用意することができる。そして、静電チャック20のウエハ載置面20aとは反対側の面と冷却板積層体30の第1基板31の表面との間に金属接合材28を挟み、給電端子23,25をそれぞれ端子挿通孔43,45に挿通し、静電チャック20と冷却板積層体30とを熱圧接合する(
図4(a)参照)。これにより、静電チャック20と冷却板積層体30との間には積層体-チャック接合層40が形成され、半導体製造装置用部材10が完成する(
図4(b)参照)。金属接合材28としては、上述したようにAl-Si-Mg系又はAl-Mg系接合材を使用してTCBを行うのが好ましい。
【0028】
以上詳述した第1実施形態の第1~第3基板31~33に使用される冷却板は、優れた材料特性を有するため、冷却対象物を冷却する能力が高い。また、この冷却板は、表面に現れるピットが少ないため、ピットを起点とした破壊の発生を抑制できるし、ピットが存在する場所での熱伝導低下に伴う温度ムラの発生を抑制できる。
【0029】
この冷却板は、SiO2を0.1~0.5質量%含有することが好ましい。こうすれば、材料特性の一つである4点曲げ強度を比較的高くすることができる。また、質量比SiC/TiSi2は0.47~0.98であることが好ましい。質量比SiC/TiCは2.7~8.8であることが好ましい。SiCの含有率は30~44質量%であることが好ましい。
【0030】
この冷却板は、アルミナとの40℃~570℃の平均線熱膨張係数の差が0.5ppm/K以下、又は、40℃~570℃の平均線熱膨張係数が7.2~9.0ppm/Kであることが好ましい。こうすれば、静電チャック20としてのアルミナ基板と第1基板31としての冷却板とを接合した接合体は、アルミナ基板と冷却板との熱膨張差が小さいため、その接合体を低温と高温との間で繰り返し使用したとしても冷却板とアルミナ基板とが剥がれるのを抑制できる。そのため、半導体製造装置用部材10の耐用期間が長くなる。
【0031】
この冷却板において、開口率は1%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、嵩密度は、3.70g/cm3以上が好ましく、3.74g/cm3以上が好ましい。こうすれば、緻密性が十分高いため、液密性や気密性に優れる。熱伝導率は、75W/mK以上が好ましく、80W/mK以上がより好ましい。こうすれば、冷却対象物である静電チャック20から効率よく熱を奪うことができる。4点曲げ強度は、250MPa以上が好ましく、290MPa以上がより好ましい。こうすれば、半導体製造装置用部材10を製造する際の加工や接合に耐えることができるし、使用時の温度変化によって生じる応力にも十分耐えることができる。なお、この冷却板は、C元素を9~16質量%、Si3N4を0.1~0.5質量%、TiNを0.1~0.5質量%含有していてもよい。
【0032】
[半導体製造装置用部材-第2実施形態]
以下に、第2実施形態の半導体製造装置用部材110について説明する。
図6は半導体製造装置用部材110の断面図である。
【0033】
半導体製造装置用部材110は、プラズマ処理を施すシリコン製のウエハWを吸着可能なアルミナ製の静電チャック20と、静電チャック20を冷却する冷却板積層体130と、冷却板積層体130と静電チャック20とを接合する積層体-チャック接合層40と、を備えている。
【0034】
静電チャック20は、第1実施形態と同じであるため、第1実施形態と同じ符号を付し、説明を省略する。冷却板積層体130は、外径が静電チャック20と同等かやや大きい円盤状の積層体であり、第1基板131と、第2基板132と、第1基板131と第2基板132との間に形成された金属接合層134と、冷媒が流通可能な冷媒通路136と、を備えている。第1及び第2基板131,132に使用される複合材料製の冷却板は、基本的には第1実施形態で用いた冷却板と同じものである。第2基板132は、第1基板131と向かい合う面に冷媒通路136となる溝132aを有している。金属接合層134は、第1基板131と第2基板132のうち溝132aが設けられた面との間に、金属接合材(例えばAl-Si-Mg系又はAl-Mg系の金属接合材)を挟んで両基板131,132を熱圧接合することにより形成されたものである。冷却板積層体130には、第1実施形態と同様、冷媒通路136の入口及び出口にそれぞれ繋がる冷媒供給孔及び冷媒排出孔が形成されているが、これらの図示は省略する。また、冷却板積層体130には、第1実施形態と同様、端子挿通孔43,45が形成されている。積層体-チャック接合層40は、第1実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0035】
半導体製造装置用部材110の使用例は、第1実施形態と概ね同じであるため、説明を省略する。
【0036】
次に、半導体製造装置用部材110の製造例について説明する。
図7は半導体製造装置用部材110の製造工程図、
図8は第2基板132の説明図であり、(a)は平面図、(b)はC-C断面図である。まず、円盤状の薄型プレート(冷却板)である第1及び第2基板131,132を作製する(
図7(a)参照)。次に、第2基板132のうち第1基板131と向かい合う面に冷媒通路
136となる溝132aを形成する(
図7(b)及び
図8参照)。溝132aは、マシニングセンタ、ウォータジェット、放電加工などにより形成することができる。次に、第1基板131と第2基板132の溝132aが形成された面との間に金属接合材61を挟み(
図7(c)参照)、第1及び第2基板131,132を熱圧接合する(
図7(d)参照)。これにより、溝132aが冷媒通路136になり、第1基板131と第2基板132との間に金属接合層134が形成され、冷却板積層体130が完成する。このとき、金属接合材61としては、上述したようにAl-Si-Mg系又はAl-Mg系接合材を使用してTCBを行うのが好ましい。この後の工程すなわち静電チャック20と冷却板積層体130との接合工程は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0037】
以上詳述した第2実施形態の第1~第2基板131~132に使用される冷却板は、第1実施形態で使用した冷却板と同様のものであるため、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0038】
[半導体製造装置用部材-第3実施形態]
以下に、第3実施形態の半導体製造装置用部材210について説明する。
図9は半導体製造装置用部材210の断面図、
図10は半導体製造装置用部材210の裏面図(P視図)である。
【0039】
半導体製造装置用部材210は、プラズマ処理を施すシリコン製のウエハWを吸着可能なアルミナ製の静電チャック20と、静電チャック20を冷却する冷却板230と、冷却板230と静電チャック20とを接合する冷却板-チャック接合層240と、を備えている。
【0040】
静電チャック20は、第1実施形態と同じであるため、第1実施形態と同じ符号を付し、説明を省略する。冷却板230は、外径が静電チャック20と同等かやや大きい円盤状の単層プレートであり、基本的には第1実施形態で用いた冷却板と同じものである。冷却板230は、真空チャンバ側の設置板90と向かい合う面に冷媒通路溝230aを有している。冷媒通路溝230aの形状は
図8の溝132aと同様である。また、冷却板230には、第1実施形態と同様、端子挿通孔43,45が形成されている。冷却板-チャック接合層240は、第1実施形態の積層体-チャック接合層40と同じであるため、説明を省略する。
【0041】
外周シール部材232は、弾性変形可能な樹脂製又は金属製のリングであり、冷却板230の下面の外周縁に沿って配置されている(
図10参照)。冷媒通路シール部材234は、弾性変形可能な樹脂製又は金属製の部材であり、冷媒通路溝230aを取り囲むように配置されている(
図10参照)。外周シール部材232及び冷媒通路シール部材234は、設置板90の上面と半導体製造装置用部材210の下面(冷却板230の下面)との間に配置されている。
【0042】
半導体製造装置用部材210は、設置板90にクランプ部材70を用いて取り付けられる。クランプ部材70は、断面が略逆L字状の環状部材であり、内周段差面が冷却板230の外周上面に引っ掛けられた状態で、クランプ部材70の上面からボルト72が差し込まれて設置板90のネジ穴92に螺合されている。ボルト72は、クランプ部材70の円周方向に沿って等間隔に設けられた複数箇所(例えば8箇所とか12箇所)に取り付けられる。このようにボルト72をネジ穴92に螺合することにより、外周シール部材232及び冷媒通路シール部材234は上下方向に押し潰されてシール性を発揮する。これにより、冷媒通路溝230aは下部開口が設置板90に塞がれて冷媒通路236を形成する。なお、設置板90には、冷媒通路236の入口及び出口にそれぞれ繋がる冷媒供給孔及び冷媒排出孔が形成されているが、これらの図示は省略する。
【0043】
半導体製造装置用部材210の使用例は、第1実施形態と概ね同じであるため、説明を省略する。また、半導体製造装置用部材210の製造例は、冷却板230として第2実施形態の第2基板132を利用して製造することができるため、説明を省略する。
【0044】
以上詳述した第3実施形態の冷却板230は、第1実施形態で使用した冷却板と同様のものであるため、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0045】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0046】
例えば、本発明の冷却板は、第1実施形態の第1~第3基板31~33、第2実施形態の第1基板131及び第2基板132、第3実施形態の冷却板230の構造に限定されるものではなく、どのような構造でもよい。第1及び第3基板31,33や第1基板131は冷媒通路溝を有さない構造の例であり、第2基板32,132や冷却板230は冷媒通路溝を有する構造の例である。本発明の冷却板は、冷媒通路溝(又は冷媒通路)を有していてもよいし有していなくてもよい。冷媒通路36,136,236の形状も、上述した実施形態の形状に限定されない。また、第1実施形態の冷却板積層体30は3層構造、第2実施形態の冷却板積層体130は2層構造、第3実施形態の冷却板230は1層構造としたが、層数は特にこれらに限定されない。また、冷却通路を有さない冷却板積層体30,130や冷却板230を採用してもよく、その場合、それらの下側に別材料(例えばAl)の基板を配置し、その基板に冷媒通路又は冷媒通路溝を設けてもよい。
【実施例】
【0047】
以下に、冷却板の好適な実施例について説明する。
【0048】
1.製造手順
・調合
原料成分を、表1に示す質量%となるように秤量し、イソプロピルアルコールを溶媒とし、ナイロン製のポット、直径10mmの鉄芯入りナイロンボールを用いて4時間湿式混合した。混合後スラリーを取り出し、窒素気流中110℃で乾燥した。その後、30メッシュの篩に通し、調合粉末とした。尚、秤量した原料約500gを高速流動混合機(粉体投入部の容量1.8L)に投入し、攪拌羽根の回転数1500rpmで混合した場合にも湿式混合と同様の材料特性が得られることを確認した。
・成形
調合粉末を、200kgf/cm2の圧力で一軸加圧成形し、円盤状成形体を作製し、焼成用黒鉛モールドに収納した。
・焼成
円盤状成形体をホットプレス焼成することにより緻密質の冷却板を得た。ホットプレス焼成では、プレス圧力を200kgf/cm2とし、表1に示す焼成温度(最高温度)で焼成し、焼成終了まで真空雰囲気とした。焼成温度での保持時間は4時間とした。得られた冷却板の直径は400mm、厚さは25mmであった。
【0049】
2.各実験例
表1には、a:各実験例の出発原料組成(質量%)、b:ホットプレス焼成温度、c:XRD測定結果から求めた冷却板の構成相とその含有率(質量%)、d:冷却板における2つの質量比(SiC/TiSi2とSiC/TiC)、e:冷却板の材料特性(開気孔率、嵩密度、4点曲げ強度、線熱膨張係数、熱伝導率)、f:冷却板の製品特性(ピットの数)を示した。なお、実験例1~24のうち、実験例1~16が本発明の実施例に相当し、残りは比較例に相当する。
【0050】
【0051】
3.構成相の簡易定量
冷却板を乳鉢で粉砕し、X線回折装置により結晶相を同定した。測定条件はCuKα,40kV,40mA,2θ=5~70°とし、封入管式X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス製 D8 ADVANCE)を使用した。また、構成相の簡易定量を行った。この簡易定量は、冷却板に含まれる結晶相の含有量をX線回折のピークに基づいて求めた。ここでは、SiC、TiSi2、TSC(Ti3SiC2)、TiCおよびSiO2に分けて簡易定量を行い含有量を求めた。簡易定量には、ブルカー・エイエックスエス社の粉末回折データ解析用ソフトウェア「EVA」の簡易プロファイルフィッティング機能(FPM Eval.)を利用した。本機能は定性した結晶相のICDD PDFカードのI/Icor(コランダムの回折強度に 対する強度比)を用いて構成相の量比を算出するものである。各結晶相のPDFカード番号は、SiC:00-049-1428、TiSi2:01-071-0187、TSC: 01-070-6397、TiC:01-070-9258(TiC0.62)、SiO2:00-039-1425を用いた。
【0052】
4.材料特性の測定
(1)開気孔率及び嵩密度
純水を媒体としたアルキメデス法により測定した。
(2)4点曲げ強度
JIS-R1601に従って求めた。
(3)線熱膨張係数(40~570℃の平均線熱膨張係数)
ブルカー・エイエックスエス(株)製、TD5020S(横型示差膨張測定方式)を使用し、アルゴン雰囲気中、昇温速度20℃/分の条件で650℃まで2回昇温し、2回目の測定データから40~570℃の平均線熱膨張係数を算出した。標準試料には装置付属のアルミナ標準試料(純度99.7%、嵩密度3.9g/cm3、長さ20mm)を使用した。このアルミナ標準試料をもう1本用意し、同一条件で線熱膨張係数を測定した値は7.7ppm/Kであった。
(4)熱伝導率
レーザーフラッシュ法により測定した。
【0053】
5.製品特性(ピットの数)の測定
得られた直径400mmの冷却板の表面(30000mm2以上)に対して蛍光液を用いた浸透探傷試験を実施し、紫外線を当てて蛍光液が浸透した長径0.5mm以上の穴(ピット)の数を目視でカウントした。
【0054】
6.結果
(1)実験例1~16
実験例1~16では、原料としてSiC、TiSi2及びTiCを用い(実験例12,14では更にSiO2を用い)、焼成温度1330~1420℃でホットプレス焼成を行って冷却板を得た。得られた冷却板は、各構成相の含有率が適正だったため、優れた材料特性及び製品特性が得られた。そして、実験例1~16の冷却板は、材料特性が優れていたため、冷却対象物を冷却する能力が高いものといえる。特に、線熱膨張係数がアルミナと同等であるため、冷却板とアルミナとを金属接合した接合体を低温と高温との間で繰り返し使用したとしても両者が剥がれるのを抑制できる。また、製品特性であるピットの数がゼロ又は1だったため、ピットを起点とした破壊の発生を抑制でき、ピットの存在する場所での熱伝導の低下に伴う温度ムラの発生も抑制できる。なお、実験例14では、ピットの数はゼロであったが、構成相のSiO2の含有率が0.7質量%とやや高かったため、実験例1~13,15,16に比べて4点曲げ強度がやや低かった。
【0055】
こうした実験例1~16では、原料として水との反応性の高い金属Siや金属Tiを用いなかったため、冷却板の製造工程を管理しやすかった。
【0056】
(2)実験例17~24
実験例17~24で得られた冷却板は、各構成相の含有率が適正でなかったため、実験例1~16に比べて材料特性が劣る傾向が見られた。また、これらの冷却板は、製品特性であるピットの数が5以上だったため、ピットを起点とした破壊が発生しやすく、ピットの存在する場所での熱伝導の低下に伴う温度ムラも発生しやすいものであった。ちなみに、実験例23,24では、開気孔率がゼロであったが、ピットの数が多く見られた。この結果から、開気孔率がゼロであるからといって必ずしもピットの数がゼロとはいえないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の冷却板は、例えば、アルミナ製の静電チャックやサセプターなどに金属接合される冷却板に用いられる。
【符号の説明】
【0058】
10 半導体製造装置用部材、20 静電チャック、20a ウエハ載置面、22 静電電極、23 給電端子、24 ヒータ電極、25 給電端子、28 金属接合材、30 冷却板積層体、31 第1基板、32 第2基板、32a 打ち抜き部、33 第3基板、34 第1金属接合層、35 第2金属接合層、36 冷媒通路、36a 入口、36b 出口、40 積層体-チャック接合層、43 端子挿通孔、45 端子挿通孔、46a 冷媒供給孔、46b 冷媒排出孔、51 金属接合材、52 金属接合材、61 金属接合材、70 クランプ部材、72 ボルト、90 設置板、92 ネジ穴、110 半導体製造装置用部材、130 冷却板積層体、131 第1基板、132 第2基板、132a 溝、134 金属接合層、136 冷媒通路、210 半導体製造装置用部材、230 冷却板、230a 冷媒通路溝、232 外周シール部材、234 冷媒通路シール部材、236 冷媒通路、240 冷却板-チャック接合層。
【要約】
本発明の冷却板は、TiSi2を42~65質量%、TiCを4~16質量%含有すると共に、SiCをTiSi2の質量%よりも少量含有する。