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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】建築用板及びその施工構造
(51)【国際特許分類】
   E04D 1/12 20060101AFI20230919BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
E04D1/12 H
E04F13/08 V
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019181611
(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公開番号】P2021055476
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】503367376
【氏名又は名称】ケイミュー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 周一
(72)【発明者】
【氏名】小野 真依子
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 亮
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】実開昭48-094616(JP,U)
【文献】特開2015-071927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 1/12
E04F 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦方向及び横方向に延びる建築用板であって、
表面に、前記縦方向一方側に位置して施工状態で隠蔽される隠蔽領域と、前記隠蔽領域の前記縦方向他方側に位置して施工状態で暴露される暴露領域と、を有し、
前記隠蔽領域は、水を前記縦方向に案内して前記暴露領域に導く導水形状を有し、
前記暴露領域は、前記水を前記横方向に分散させる水分散形状を有し、
前記導水形状は、前記隠蔽領域の前記縦方向一方側の縁から、前記隠蔽領域と前記暴露領域との境界線上に至るまで、前記縦方向に延びる線状凹部を含む
建築用板。
【請求項2】
前記導水形状は、前記縦方向に延びる線状凸部を更に含み、前記線状凹部と前記線状凸部と、が前記横方向に交互に並んでいる、
請求項1に記載の建築用板。
【請求項3】
前記線状凸部は、前記線状凹部よりも前記横方向の幅が広い、
請求項2に記載の建築用板。
【請求項4】
前記水分散形状は、多数の島状の不定形凸部を有する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の建築用板。
【請求項5】
下地と、前記下地に縦方向及び横方向に複数配置された請求項1~4のいずれか1項に記載の建築用板と、を備えた建築用板の施工構造であって、
前記縦方向一方側に位置して前記横方向に並ぶ複数の前記建築用板が、前記縦方向他方側に位置して前記横方向に並ぶ複数の前記建築用板の隠蔽領域を隠蔽するとともに、該縦方向他方側に位置する前記建築用板の暴露領域が暴露され、
前記縦方向一方側に位置する前記建築用板の突付け部分と、前記縦方向他方側に位置する前記建築用板の突付け部分と、が前記横方向においてずれている、
建築用板の施工構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に建築用板及びその施工構造に関し、より詳細には屋根及び外壁などに利用可能な建築用板及びその施工構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築用板の施工構造に関する技術の一例として、特許文献1には、屋根材の設置構造が記載されている。特許文献1に記載の屋根材は、全体的には平面視矩形状の平板状で、かつ軒側の端縁には凹凸状の意匠加工が施されている。この屋根材には、軒棟方向と直交する方向に並ぶ4個の固着孔が設けられている。この屋根材は、屋根下地上に配置された状態で、固着孔を通して屋根下地に釘やビス等の固着具を打入することにより、屋根下地上に設置される。この屋根材は、屋根下地上に、軒側の屋根材の棟側部分の上に棟側の屋根材の軒側部分を重ねながら軒側から棟側へ向けて順次葺き上げるようにして、設置される。このとき、軒棟方向に直交する方向に並ぶ複数の屋根材が、軒棟方向に沿って複数列設置され、かつ一列おきに列内の屋根材の配置位置を横方向に屋根材の半個分の寸法だけずらして、千鳥状に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-174192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の屋根材の設置構造では、防水性について更なる改良の余地がある。すなわち、軒棟方向に直交する方向に並ぶ複数の屋根材の突付け部分は、外部から水が浸入しやすい部分である。したがって、降雨時において、複数の屋根材の突付け部分から雨水が浸入し得る。この雨水は、棟側から軒側へ流下するにつれて、毛細管現象などにより、末広がり状に拡散しやすい。その結果、雨水は、固着孔にまで到達し、そのまま固着孔を通って屋根下地に至るおそれがある。このようにして、特許文献1に記載の屋根材の設置構造では、防水性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、防水性を向上させることができる建築用板及びその施工構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る建築用板は、縦方向及び横方向に延びる建築用板である。前記建築用板は、表面に、前記縦方向一方側に位置して施工状態で隠蔽される隠蔽領域と、前記隠蔽領域の前記縦方向他方側に位置して施工状態で暴露される暴露領域と、を有する。前記隠蔽領域は、水を前記縦方向に案内して前記暴露領域に導く導水形状を有する。前記暴露領域は、前記水を前記横方向に分散させる水分散形状を有する。前記導水形状は、前記隠蔽領域の前記縦方向一方側の縁から、前記隠蔽領域と前記暴露領域との境界線上に至るまで、前記縦方向に延びる線状凹部を含む。
【0007】
本発明の一態様に係る建築用板の施工構造は、下地と、前記下地に縦方向及び横方向に複数配置された前記建築用板と、を備えた建築用板の施工構造である。前記縦方向一方側に位置して前記横方向に並ぶ複数の前記建築用板が、前記縦方向他方側に位置して前記横方向に並ぶ複数の前記建築用板の隠蔽領域を隠蔽するとともに、該縦方向他方側に位置する前記建築用板の暴露領域が暴露される。前記縦方向一方側に位置する前記建築用板の突付け部分と、前記縦方向他方側に位置する前記建築用板の突付け部分と、が前記横方向においてずれている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、防水性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態に係る建築用板の斜視図である。
図2図2は、同上の建築用板の要部の拡大図である。
図3図3Aは、本実施形態に係る建築用板の施工構造の概略平面図である。図3Bは、全面が導水形状である建築用板の施工構造の概略平面図である。図3Cは、全面が平坦面である建築用板の施工構造の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.概要
図1に本実施形態に係る建築用板1を示す。建築用板1は、縦方向(X方向)及び横方向(Y方向)に延びる略矩形状をなす板である。建築用板1は、表面に、隠蔽領域2と、暴露領域3と、を有する。
【0011】
隠蔽領域2は、縦方向一方側(X方向一方側)に位置して施工状態で隠蔽される。図3Aに示すように、隠蔽領域2は、他の建築用板1で隠蔽される領域である。隠蔽領域2は、導水形状4を有する。導水形状4は、水を縦方向に案内して暴露領域3に導く形状を有する(図2参照)。
【0012】
一方、暴露領域3は、隠蔽領域2の縦方向他方側(X方向他方側)に位置して施工状態で暴露される。図3Aに示すように、暴露領域3は、他の建築用板1で隠蔽されずに暴露される領域である。暴露領域3は、水分散形状5を有する。水分散形状5は、水を横方向に分散させる形状を有する(図2参照)。
【0013】
上記の建築用板1を複数用いて、図3Aに示すような建築用板1の施工構造100を形成することができる。本実施形態に係る建築用板1の施工構造100は、下地9と、複数の建築用板1と、を備える。複数の建築用板1は、下地9に縦方向及び横方向に配置されている。以下では、横方向に並ぶ複数の建築用板1を建築用板群10と称する場合がある。
【0014】
すなわち、建築用板1の施工構造100は、下地9と、複数の建築用板群10(10a~10c)と、を備える。上述のように、建築用板群10は、上記の建築用板1を横方向に複数並べた一群であり、複数の建築用板1は横方向に突き付けられている。複数の建築用板群10(10a~10c)は、下地9に縦方向に配置される。
【0015】
そして、縦方向一方側に位置する建築用板群10が、縦方向他方側に位置する建築用板群10の隠蔽領域2を隠蔽する。図3Aでは、建築用板群10aが、建築用板群10bの隠蔽領域2を隠蔽し、建築用板群10bが、建築用板群10cの隠蔽領域2を隠蔽している。
【0016】
また、縦方向一方側に位置する建築用板群10の突付け部分7と、縦方向他方側に位置する建築用板群10の突付け部分7と、が横方向においてずれている。図3Aでは、建築用板群10aの突付け部分7aと、建築用板群10bの突付け部分7bと、が左右方向においてずれており、建築用板群10bの突付け部分7bと、建築用板群10cの突付け部分7cと、が左右方向においてずれている。
【0017】
上記のようにして形成された建築用板1の施工構造100では、以下のようにして、防水性を向上させることができる。すなわち、降雨時において、横方向に並ぶ複数の建築用板1の突付け部分7(7a)から雨水が浸入し得るが、この雨水は、隠蔽領域2の導水形状4によって、一定の方向(図3AではX方向)に誘導され、その方向に流れやすくなる。これにより、雨水は、隠蔽領域2に滞留しにくくなるので、隠蔽領域2に固着孔6が存在しても、この固着孔6には到達しにくくなる。
【0018】
引き続き、雨水が暴露領域3に入った場合には、水分散形状5によって雨水は様々な方向に拡散して流れやすくなる。つまり、雨水は、建築用板1の傾斜方向(図3AではX方向)のみに流れるわけではない。これにより、縦方向一方側に位置する突付け部分7(7a)から出てきた雨水が、最短経路でそのまま縦方向他方側に位置する突付け部分7(7c)に浸入することが抑制される。
【0019】
以上のように、本実施形態に係る建築用板1を用いると、防水性を向上させた建築用板1の施工構造100を形成することができる。
【0020】
2.詳細
<建築用板>
まず本実施形態に係る建築用板1について説明する。図1に建築用板1を示す。建築用板1は、例えば、屋根材及び外壁材などに利用される。本実施形態では、建築用板1が屋根材である場合について説明するが、建築用板1は屋根材には限定されない。
【0021】
建築用板1の材料としては、特に限定されないが、例えば、スレート及び金属板などが挙げられる。スレートは、セメント及び補強繊維などを主原料として成形した製品である。本実施形態では、建築用板1がスレート(平形スレート)である場合について説明するが、建築用板1はスレートには限定されない。
【0022】
図1に示すように、建築用板1は、縦方向(X方向)及び横方向(Y方向)に延びる略矩形状をなす板である。縦方向と横方向とは直交する。以下、縦方向は、軒棟方向、流れ方向、及び上下方向と同義である。横方向は、幅方向、及び左右方向と同義である。縦方向及び横方向に直交する方向は、厚さ方向(T方向)である。厚さ方向の一方側から他方側を見ることを平面視という。
【0023】
建築用板1は、平面視略矩形状をなす板であり、縦方向に略平行な左縁1L及び右縁1Rと、横方向に略平行な上縁1U及び下縁1Dと、を有する。上縁1Uの両端部は、左縁1L及び右縁1Rに向かって下り傾斜している。建築用板1は、縦方向よりも横方向が長い。建築用板1の縦方向の長さ(全長)は、例えば、350mm以上500mm以下の範囲内である。建築用板1の横方向の長さ(働き幅(全幅))は、例えば、600mm以上910mm以下の範囲内である。建築用板1の厚さは、例えば、5mm以上10mm以下の範囲内である。
【0024】
建築用板1は、表面に、隠蔽領域2と、暴露領域3と、を有する。図1では、建築用板1の片面が、隠蔽領域2及び暴露領域3の2つの領域に2分割されている。2つの領域の面積は略等しい。隠蔽領域2と暴露領域3とは、境界線Bで区切られている。境界線Bは、仮想線である。境界線Bは、直線状をなし、横方向に略平行である。
【0025】
隠蔽領域2は、他の建築用板1で隠蔽される領域である(図3A参照)。つまり、施工構造100を形成すると、隠蔽領域2は、外部から見えなくなる。隠蔽領域2は、縦方向一方側(X方向一方側)に位置して施工状態で隠蔽される。本実施形態では、建築用板1において、隠蔽領域2は、暴露領域3に対して上側に位置する。なお、施工状態とは、複数の建築用板1を用いて、図3Aに示すような建築用板1の施工構造100を施工した状態を意味する。
【0026】
隠蔽領域2は、導水形状4を有する。導水形状4は、雨水等の水を縦方向に案内して暴露領域3に導く形状を有する。このように、導水形状4は、縦方向の方向性を有する凹凸面である。
【0027】
図2に示すように、導水形状4は、複数の線状凹部41と、複数の線状凸部42と、を含む。
【0028】
線状凹部41は、縦方向に延びる凹部である。具体的には、線状凹部41は、縦方向に直線状に延びる縦溝である。本実施形態では、線状凹部41は、建築用板1の上縁1Uから縦方向中央部まで、縦方向に略平行に延びている。線状凹部41は、横断面が横方向に長い箱目地状をなしている。線状凹部41は、雨水の流路となり得る。すなわち、線状凹部41内の雨水は、縦方向の一方側(上側)から他方側(下側)に流れやすい。線状凹部41は、その深さが縦方向全体に亘って略一定である。線状凹部41の深さ(線状凸部42の高さ)は、例えば、0.3mm以上0.4mm以下の範囲内である。
【0029】
線状凸部42は、線状凹部41に隣接している。線状凸部42は、縦方向に延びる凸部である。具体的には、線状凸部42は、縦方向に直線状に延びる凸部である。本実施形態では、線状凸部42は、建築用板1の上縁1Uから縦方向中央部まで、縦方向に略平行に延びている。線状凸部42は、横断面が横方向に長い矩形状をなしている。線状凸部42は、施工状態において、他の建築用板1の裏面と接触しうる。線状凸部42は、雨水が横方向に広がるのを阻止し、雨水を縦方向に誘導する壁となり得る。線状凸部42は、その高さが縦方向全体に亘って略一定である。
【0030】
本実施形態では、横方向において、線状凹部41と線状凸部42とが交互に並んでいる。このように、導水形状4は、縦縞模様を構成している。
【0031】
図2に示すように、線状凹部41の一端411及び線状凸部42の一端421は、隠蔽領域2と暴露領域3との境界線B上に位置する。これにより、隠蔽領域2の線状凹部41内の雨水は、横方向への移動が阻止され、縦方向に誘導されるので、円滑かつ速やかに雨水は暴露領域3内に排出される。
【0032】
隠蔽領域2は、固着孔6を更に有する。固着孔6は、建築用板1を下地9に固着するために用いられる貫通孔である。図1に示すように、隠蔽領域2は、複数(本実施形態では4つ)の固着孔6を有する。複数の固着孔6は、境界線Bに沿って略等間隔に位置している。好ましくは、固着孔6は、線状凸部42に設けられている。線状凸部42に固着孔6が設けられていると、この固着孔6は雨水の流路となりにくいからである。固着孔6には、固着具(図示省略)が挿入される。固着孔6に挿入された固着具によって、建築用板1が下地9に固着される(図3A参照)。固着具としては、特に限定されないが、例えば、釘及びビスなどが挙げられる。固着孔6は、暴露領域3ではなく、隠蔽領域2に位置しているため、施工構造100を形成すると、固着孔6は外部から見えなくなり、美観の向上に資する。
【0033】
線状凸部42は、線状凹部41よりも横方向の幅が広いことが好ましい。すなわち、図2に示すように、線状凸部42の幅W2は、線状凹部41の幅W1よりも広いことが好ましい。つまり、W2>W1であることが好ましい。その理由は、以下のとおりである。施工構造100を形成する場合、軒側の建築用板1の隠蔽領域2に棟側の建築用板1を重ねた後、棟側の建築用板1の固着孔6に固着具を挿入し、この固着具で軒側の建築用板1も貫通させて下地9に固着する場合があり得る。この場合、棟側の建築用板1の固着孔6の下に、軒側の建築用板1の線状凹部41が位置すると、固着具は、線状凹部41に貫通孔を開けるおそれがある。線状凹部41は、雨水の流路となり得るので、貫通孔が開いていると防水性を低下させる原因となり得る。そのため、棟側の建築用板1の固着孔6の下には、軒側の建築用板1の線状凸部42が位置することが望ましい。この場合には、固着具は、線状凸部42に貫通孔を開けるが、この貫通孔は雨水の流路となりにくい。そこで、線状凸部42の幅W2を線状凹部41の幅W1よりも広くしておくと、棟側の建築用板1の固着孔6の下に、軒側の建築用板1の線状凸部42が位置する確率が高くなる。これが、W2>W1が好ましい理由の1つである。さらに別の理由として、線状凸部42の幅W2が線状凹部41の幅W1よりも広いと、線状凹部41内の雨水が、線状凸部42を超えて移動しにくくなることが挙げられる。
【0034】
線状凸部42の幅W2は、好ましくは線状凹部41の幅W1の1倍以上5倍以下、より好ましくは線状凹部41の幅W1の1倍超3倍以下の範囲内である。
【0035】
線状凸部42の幅W2は、好ましくは5mm以上15mm以下、より好ましくは5mm以上10mm以下の範囲内である。線状凹部41の幅W1は、好ましくは5mm以上15mm以下、より好ましくは5mm以上10mm以下の範囲内である。
【0036】
一方、暴露領域3は、他の建築用板1で隠蔽されずに暴露される領域である(図3A参照)。つまり、施工構造100を形成すると、暴露領域3は、外部から見える。暴露領域3は、隠蔽領域2の縦方向他方側(X方向他方側)に位置して施工状態で暴露される。本実施形態では、建築用板1において、暴露領域3は、隠蔽領域2に対して下側に位置し、境界線Bを介して隠蔽領域2に隣接している。
【0037】
暴露領域3は、水分散形状5を有する。水分散形状5は、雨水等の水を横方向に分散させる形状を有する。例えば、水分散形状5は、方向性を有しない凹凸面(無方向性の凹凸面)である。
【0038】
図2に示すように、水分散形状5は、不定形凹部51と、不定形凸部52と、を含む。このように、水分散形状5は、多数の島状の不定形凸部52を有する。
【0039】
不定形凹部51は、形の一定しない凹部である。不定形凹部51は、雨水の流路となり得る。不定形凹部51の深さは、導水形状4の線状凹部41の深さと略同一であることが好ましい。
【0040】
不定形凸部52は、形の一定しない凸部である。不定形凸部52は、不定形凹部51に隣接する。
【0041】
本実施形態では、多数の不定形凸部52が点在し、これらの不定形凸部52の間に不定形凹部51が存在している。このように、点在する多数の島状の不定形凸部52の間を縫って、雨水は、不定形凹部51を流れやすくなる。
【0042】
平面視において、不定形凹部51及び不定形凸部52の合計面積に対して、不定形凹部51の面積は、好ましくは50%以上80%以下、より好ましくは60%以上75%以下の範囲である。
【0043】
水分散形状5の具体例としては、特に限定されないが、例えば、梨地及びシボなどが挙げられる。梨地は、梨地仕上げにより形成可能である。梨地仕上げとは、表面に機械的又は化学的処理によって微細な凹凸を均一に形成させた、無方向性のつや消し仕上げをいう。建築用板1がスレートである場合には、未硬化セメント成形品の表面(暴露領域3になり得る箇所)にプレス成形することにより、梨地を形成可能である。シボは、シボ加工により形成可能である。シボ加工は、表面処理の1種であり、物理的にシワ模様をつけることである。
【0044】
図2において点線矢印で示すように、不定形凹部51は、溝510を含む。溝510は、雨水の流路となり得る。溝510は、隠蔽領域2から縦方向他方側に至る。具体的には、溝510の起点は、線状凹部41の一端411である。溝510の終点は、建築用板1の下縁1Dである。溝510は、起点から終点まで蛇行している。溝510の長さは、暴露領域3の縦方向の長さ(葺き足、働き長さ)よりも長い。雨水が溝510を流れることで、雨水が横方向に拡散しやすくなる。
【0045】
暴露領域3は、縦方向他方側において横方向に延びる直線状の下縁1Dを有する。つまり、建築用板1が、横方向に延びる直線状の下縁1Dを有する。これにより、図3Aに示すように、建築用板1の施工構造100において、建築用板群10を構成する場合、複数の建築用板1の下縁1Dを同一直線上に揃えることができ、美観を向上させることができる。
【0046】
<建築用板の施工構造>
次に本実施形態に係る建築用板1の施工構造100について説明する。図3Aに建築用板1の施工構造100を示す。図3B及び図3Cは、防水性の比較のための建築用板1の施工構造100を示す。
【0047】
本実施形態に係る建築用板1の施工構造100は、下地9と、複数の建築用板1と、を備える。複数の建築用板1は、下地9に縦方向(X方向)及び横方向(Y方向)に配置されている。横方向に並ぶ複数の建築用板1が、建築用板群10を構成している。
【0048】
すなわち、建築用板1の施工構造100は、下地9と、複数の建築用板群10と、を備える。
【0049】
下地9は、例えば、野地板上にルーフィングを張って形成されている。下地9は、縦方向(X方向)に傾斜している。縦方向一方側が棟側であり、縦方向他方側が軒側である。
【0050】
建築用板群10は、複数の建築用板1を横方向に複数並べて突き付けた一群である。突付け部分7は、左側の建築用板1の右縁1Rと、右側の建築用板1の左縁1Lとを突き付けた部分である。
【0051】
複数の建築用板群10は、下地9に縦方向に配置されている。図3Aでは、3つの建築用板群10(上段の建築用板群10a、中段の建築用板群10b、及び下段の建築用板群10c)を下地9に縦方向に配置しているが、建築用板群10の数は限定されない。
【0052】
そして、縦方向一方側に位置する建築用板群10が、縦方向他方側に位置する建築用板群10の隠蔽領域2を隠蔽する。換言すれば、棟側に位置する建築用板群10が、軒側に位置する建築用板群10の隠蔽領域2を隠蔽する。図3Aでは、建築用板群10aが、建築用板群10bの隠蔽領域2を隠蔽し、建築用板群10bが、建築用板群10cの隠蔽領域2を隠蔽している。つまり、建築用板群10a~10cの各々について、棟側の領域は隠蔽領域2となり、軒側の領域は暴露領域3となる。なお、図3Aでは、軒側の建築用板1の境界線Bに、棟側の建築用板1の下縁1Dを一致させている。
【0053】
また、縦方向一方側に位置する建築用板群10の突付け部分7と、縦方向他方側に位置する建築用板群10の突付け部分7と、が横方向においてずれている。換言すれば、棟側に位置する建築用板群10の突付け部分7と、軒側に位置する建築用板群10の突付け部分7と、が左右方向においてずれている。図3Aでは、建築用板群10aの突付け部分7aと、建築用板群10bの突付け部分7bと、が左右方向においてずれており、建築用板群10bの突付け部分7bと、建築用板群10cの突付け部分7cと、が左右方向においてずれている。つまり、図3Aに示す建築用板1の施工構造100では、複数の建築用板1が千鳥配置されている。
【0054】
図3Aに示す建築用板1の施工構造100では、以下のようにして、防水性を向上させることができる。すなわち、降雨時において、上段の建築用板群10aの突付け部分7aから雨水が浸入し得るが、この雨水は、中段の建築用板群10bの隠蔽領域2の導水形状4によって、下方に誘導され、その方向に流れやすくなる。換言すれば、導水形状4が雨水の左右方向への広がりを抑制している。これにより、雨水は、中段の建築用板群10bの隠蔽領域2に滞留しにくくなるので、中段の建築用板群10bの隠蔽領域2に存在する固着孔6に雨水が到達しにくくなる。
【0055】
引き続き、雨水が中段の建築用板群10bの暴露領域3に入った場合には、この雨水は、水分散形状5によって様々な方向に拡散して流れやすくなる。つまり、雨水は、下方にそのまま流れるわけではない。これにより、上段の建築用板群10aの突付け部分7aから出てきた雨水が、最短経路でそのまま下段の建築用板群10cの突付け部分7cに浸入することが抑制される。
【0056】
これに対して、図3B及び図3Cに示す建築用板1の施工構造100では、上述の本実施形態に係る建築用板1の施工構造100ほど防水性を向上させることは難しい。
【0057】
図3Bは、建築用板1の全面が導水形状4である以外は、図3Aに示す施工構造100と同様である。この場合、降雨時において、上段の建築用板群10aの突付け部分7aから雨水が浸入し得るが、この雨水は、中段の建築用板群10bの導水形状4によって、そのまま下方に流れる。これにより、上段の建築用板群10aの突付け部分7aから出てきた雨水は、最短経路でそのまま下段の建築用板群10cの突付け部分7cに浸入してしまう。このようにして、図3Bに示す施工構造100では、防水性が低下するおそれがある。
【0058】
図3Cは、建築用板1の全面が平坦面である以外は、図3Aに示す施工構造100と同様である。この場合、降雨時において、上段の建築用板群10aの突付け部分7aから雨水が浸入し得るが、この雨水は、棟側から軒側へ流下するにつれて、毛細管現象などにより、末広がり状に拡散しやすい。その結果、雨水は、固着孔6にまで到達し、そのまま固着孔6を通って下地9に至るおそれがある。このようにして、図3Cに示す施工構造100では、防水性が低下するおそれがある。
【0059】
3.変形例
上記実施形態では、建築用板1は屋根材であるが、建築用板1は外壁材でもよい。建築用板1が外壁材である場合には、例えば、鎧張りにより施工構造100を形成可能である。
【0060】
上記実施形態では、建築用板1はスレートであるが、建築用板1は金属板でもよい。
【0061】
上記実施形態では、境界線Bは直線状であるが、境界線Bは波線状でもよい。
【0062】
上記実施形態では、下地9は、野地板上にルーフィングを張って形成されているが、建築用板1が外壁材の場合には、下地9は、軸組に透湿防水シートを張り、さらに縦胴縁を取り付けて形成されていてもよい。
【0063】
上記実施形態では、建築用板1の施工構造100を形成する際に、軒側の建築用板1の境界線Bに、棟側の建築用板1の下縁1Dを一致させているが、軒側の建築用板1の隠蔽領域2が棟側の建築用板1で隠蔽されていれば、軒側の建築用板1の境界線Bと棟側の建築用板1の下縁1Dとは必ずしも一致していなくてもよい。すなわち、軒側の建築用板1の境界線Bよりも、棟側の建築用板1の下縁1Dが軒側に位置していてもよい。
【0064】
上記実施形態では、線状凹部41は、その深さが縦方向全体に亘って略一定であるが、その深さが縦方向中央部に向かって徐々に深くなってもよい。これにより、雨水が暴露領域3に一層流れやすくなる。
【0065】
上記実施形態では、全ての線状凹部41が縦方向に平行に延びているが、これには限定されない。例えば、横方向において中央を除く左右両側の線状凹部41が建築用板1の上縁1Uから縦方向中央部に向かって左右方向外側に傾斜していてもよい。これにより、複数の建築用板1を千鳥状に葺いて施工した状態で、下側の建築用板1同士の突付け部分7に雨水が集中しにくくなる。
【0066】
4.態様
上記実施形態及び変形例から明らかなように、本発明は、下記の態様を含む。
【0067】
第1の態様は、縦方向及び横方向に延びる建築用板1である。建築用板1は、表面に、縦方向一方側に位置して施工状態で隠蔽される隠蔽領域2と、隠蔽領域2の縦方向他方側に位置して施工状態で暴露される暴露領域3と、を有する。隠蔽領域2は、水を縦方向に案内して暴露領域3に導く導水形状4を有する。暴露領域3は、水を横方向に分散させる水分散形状5を有する。
【0068】
この態様によれば、防水性を向上させることができる。
【0069】
第2の態様は、第1の態様に基づく建築用板1である。第2の態様では、導水形状4は、線状凹部41と、線状凹部41に隣接する線状凸部42と、を含む。
【0070】
この態様によれば、線状凹部41内の雨水は、縦方向の一方側から他方側に流れやすくなる。線状凸部42は、雨水が横方向に広がるのを阻止し、雨水を縦方向に誘導する壁となり得る。
【0071】
第3の態様は、第2の態様に基づく建築用板1である。第3の態様では、線状凸部42は、線状凹部41よりも横方向の幅が広い。
【0072】
この態様によれば、縦方向一方側の建築用板1の固着孔6の下に、縦方向他方側の建築用板1の線状凸部42が位置する確率が高くなる。さらに、線状凹部41内の雨水が、線状凸部42を超えて移動しにくくなる。
【0073】
第4の態様は、第1~3のいずれかの態様に基づく建築用板1である。第4の態様では、水分散形状5は、多数の島状の不定形凸部52を有する。
【0074】
この態様によれば、不定形凸部52の間を縫って雨水を流すことができる。
【0075】
第5の態様は、下地9と、下地9に縦方向及び横方向に複数配置された建築用板1と、を備えた建築用板1の施工構造100である。縦方向一方側に位置して横方向に並ぶ複数の建築用板1が、縦方向他方側に位置して横方向に並ぶ複数の建築用板1の隠蔽領域2を隠蔽するとともに、該縦方向他方側に位置する建築用板1の暴露領域3が暴露される。縦方向一方側に位置する建築用板1の突付け部分7と、縦方向他方側に位置する建築用板1の突付け部分7と、が横方向においてずれている。
【0076】
この態様によれば、防水性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0077】
1 建築用板
2 隠蔽領域
3 暴露領域
4 導水形状
41 線状凹部
42 線状凸部
5 水分散形状
52 不定形凸部
7 突付け部分
9 下地
100 建築用板の施工構造
図1
図2
図3