(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】カーボンナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/26 20060101AFI20230919BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230919BHJP
C01B 32/154 20170101ALI20230919BHJP
【FI】
C23C16/26
C23C14/06 F
C01B32/154
(21)【出願番号】P 2018158138
(22)【出願日】2018-08-27
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】517452084
【氏名又は名称】ケニックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古閑 一憲
(72)【発明者】
【氏名】白谷 正治
(72)【発明者】
【氏名】黄 成和
(72)【発明者】
【氏名】米澤 健
(72)【発明者】
【氏名】太田 裕己
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 希世美
(72)【発明者】
【氏名】中谷 達行
(72)【発明者】
【氏名】呉 準席
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌文
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-190082(JP,A)
【文献】特表2009-502702(JP,A)
【文献】特開平10-072288(JP,A)
【文献】特開2011-149035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/26
C23C 14/06
C01B 32/154
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内に、複数の貫通孔を有するマルチホロー放電電極を配置し、
前記マルチホロー放電電極は、2つの接地電極と、2つの前記接地電極の間に配置された放電電極とを
含む電極本体を有し、
前記貫通孔は、前記2つの接地電極及び前記放電電極を貫通し
て前記電極本体の一方の面から他方の面まで連続して延び、
炭素を含む原料ガスを前記貫通孔を通して前記チャンバ内に供給すると共に、前記マルチホロー放電電極に高周波電力を供給して、前記貫通孔を通過する前記原料ガスを前記貫通孔内においてプラズマ化して粒子を成長させる、カーボンナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
チャンバ内に、複数の貫通孔を有するマルチホロー放電電極及び炭素ターゲットを保持するスパッタ電極を配置し、
前記マルチホロー放電電極及び前記スパッタ電極と対向する位置に基材を配置し、
前記マルチホロー放電電極は、2つの接地電極と、2つの前記接地電極の間に配置された放電電極とを
含む電極本体を有し、
前記貫通孔は、前記2つの接地電極及び前記放電電極を貫通し
て前記電極本体の一方の面から他方の面まで連続して延び、
炭素を含む原料ガスを前記貫通孔を通して前記チャンバ内に供給すると共に、前記マルチホロー放電電極に高周波電力を供給して、前記貫通孔を通過する前記原料ガスを前記貫通孔内においてプラズマ化して粒子を成長させて前記基材にカーボンナノ粒子を堆積させ、
前記スパッタ電極に高周波電力を供給して、スパッタ粒子を発生させて前記基材に非ナノ粒子炭素質膜を堆積させる、ナノ粒子含有炭素質膜の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノ粒子の堆積と、前記非ナノ粒子炭素質膜の堆積とを交互に行う、請求項2に記載の炭素質膜の製造方法。
【請求項4】
前記カーボンナノ粒子の堆積と、前記非ナノ粒子炭素質膜の堆積とを同時に行う、請求項2に記載の炭素質膜の製造方法。
【請求項5】
チャンバと、
前記チャンバを減圧状態とする排気部と、
前記チャンバ内に配置された、複数の貫通孔を有するマルチホロー放電電極と、
前記マルチホロー放電電極に高周波電力を供給する高周波電源と、
前記貫通孔を通して炭素を含む原料ガスを供給する原料ガス供給部とを備え、
前記マルチホロー放電電極は、2つの接地電極と、2つの前記接地電極の間に配置された放電電極とを
含む電極本体を有し、
前記貫通孔は、前記2つの接地電極及び前記放電電極を貫通し
て前記電極本体の一方の面から他方の面まで連続して延び、
前記貫通孔を通過する前記原料ガスを前記貫通孔内においてプラズマ化して粒子を成長させる、カーボンナノ粒子の製造装置。
【請求項6】
チャンバと、
前記チャンバを減圧状態とする排気部と、
前記チャンバ内に配置された、複数の貫通孔を有するマルチホロー放電電極及び炭素ターゲットを保持するスパッタ電極と、
前記マルチホロー放電電極及び前記スパッタ電極に高周波電力を供給する高周波電源と、
前記貫通孔を通して炭素を含む原料ガスを供給する原料ガス供給部と、
前記マルチホロー放電電極及び前記スパッタ電極と対向して配置され、基材を保持する基材保持部とを備え、
前記マルチホロー放電電極は、2つの接地電極と、2つの前記接地電極の間に配置された放電電極とを
含む電極本体を有し、
前記貫通孔は、前記2つの接地電極及び前記放電電極を貫通し
て前記電極本体の一方の面から他方の面まで連続して延び、
前記貫通孔を通過する前記原料ガスを前記貫通孔内においてプラズマ化して粒子を成長させる、ナノ粒子含有炭素質膜の製造装置。
【請求項7】
基材の表面に堆積されたカーボンナノ粒子からなるカーボンナノ粒子層と、前記カーボンナノ粒子層と接する非ナノ粒子炭素質膜層とを備え、
前記カーボンナノ粒子層の厚さは、前記カーボンナノ粒子層と前記非ナノ粒子炭素質膜層との合計の厚さの3%以上、20%以下である、ナノ粒子含有炭素質膜。
【請求項8】
前記カーボンナノ粒子層は、前記非ナノ粒子炭素質膜
層の間に設けられている、請求項7に記載の炭素質膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カーボンナノ粒子の製造方法、その製造装置並びに炭素質膜、その製造方法、その製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
100nm以下の粒子径を有するナノサイズの粒子であるナノ粒子が注目されている。ナノ粒子は、マイクロメータオーダーやミリメータオーダーの微粒子とは異なる特性を示すため、触媒用途、医薬用途、及び半導体用途等への応用が期待されている。金属及びシリコン等からなる種々のナノ粒子が検討されている。
【0003】
炭素を原料とするナノ粒子としては、カーボンブラック、フラーレン、及びカーボンナノチューブ等が知られており、種々の製造方法が検討されている(例えば、特許文献1及び2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-016711号公報
【文献】特開2015-137408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ナノ粒子をさらに容易に形成する方法が求められている。また、ナノ粒子を、触媒や半導体として用いる場合には、ナノ粒子を基材上に均一に堆積させることが求められる。さらに、DLC等とナノ粒子とを容易に混在させることができる手法が求められている。
【0006】
本開示の課題は、カーボンナノ粒子を容易に製造できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のカーボンナノ粒子の製造方法の一態様は、チャンバ内に、複数の貫通孔を有するマルチホロー放電電極を配置し、炭素を含む原料ガスを貫通孔を通してチャンバ内に供給すると共に、マルチホロー放電電極に高周波電力を供給して、貫通孔を通過する原料ガスをプラズマ化する。
【0008】
本開示のナノ粒子含有炭素質膜の製造方法の一態様は、チャンバ内に、複数の貫通孔を有するマルチホロー放電電極及び炭素ターゲットを保持するスパッタ電極を配置し、マルチホロー放電電極及びスパッタ電極と対向する位置に基材を配置し、炭素を含む原料ガスを貫通孔を通してチャンバ内に供給すると共に、マルチホロー放電電極に高周波電力を供給して、貫通孔を通過する原料ガスをプラズマ化して基材にカーボンナノ粒子を堆積させ、スパッタ電極に高周波電力を供給して、スパッタ粒子を発生させて基材に非ナノ粒子炭素質膜を堆積させる。
【0009】
ナノ粒子炭素質膜の製造方法の一態様において、カーボンナノ粒子の堆積と、非ナノ粒子炭素質膜の堆積とを交互に行うことも、カーボンナノ粒子の堆積と、非ナノ粒子炭素質膜の堆積とを同時に行うこともできる。
【0010】
本開示のカーボンナノ粒子の製造装置の一態様は、チャンバと、チャンバを減圧状態とする排気部と、チャンバ内に配置された、複数の貫通孔を有するマルチホロー放電電極と、マルチホロー放電電極に高周波電力を供給する高周波電源と、貫通孔を通して炭素を含む原料ガスを供給する原料ガス供給部とを備えている。
【0011】
本開示のナノ粒子含有炭素質膜の製造装置の一態様は、チャンバと、チャンバを減圧状態とする排気部と、チャンバ内に配置された、複数の貫通孔を有するマルチホロー放電電極及び炭素ターゲットを保持するスパッタ電極と、放電電極及びスパッタ電極に高周波電力を供給する高周波電源と、貫通孔を通して炭素を含む原料ガスを供給する原料ガス供給部と、マルチホロー放電電極及びスパッタ電極と対向して配置され、基材を保持する基材保持部とを備えている。
【0012】
本開示のナノ粒子含有炭素質膜の第1の態様は、基材の表面に堆積されたカーボンナノ粒子からなるカーボンナノ粒子層を備えている。
【0013】
ナノ粒子含有炭素質膜の第1の態様は、カーボンナノ粒子層と接する、非ナノ粒子炭素質膜をさらに備えていてもよい。
【0014】
ナノ粒子含有炭素質膜の第1の態様において、カーボンナノ粒子層は、非ナノ粒子炭素質膜の間に設けられていてもよい。
【0015】
ナノ粒子含有炭素質膜の第2の態様は、基材の表面に堆積された非ナノ粒子炭素質膜と、非ナノ粒子炭素質膜中に分散しているカーボンナノ粒子とを備えている。
【発明の効果】
【0016】
本開示のカーボンナノ粒子の製造方法によれば、カーボンナノ粒子を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態に係る製造装置を示す模式図である。
【
図3】一実施形態における炭素質膜を示す断面図である。
【
図6】実施例1におけるカーボンナノ粒子の電子顕微鏡写真である。
【
図7】実施例1におけるカーボンナノ粒子のラマンスペクトルである。
【
図8】実施例4におけるカーボンナノ粒子の電子顕微鏡写真である。
【
図9】実施例5における炭素質膜の堆積時間と厚さ及び応力との関係を示すグラフである。
【
図10】実施例5における炭素質膜の表面及び断面を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1には、カーボンナノ粒子の製造方法に用いる製造装置の一例を示す。製造装置100はチャンバ105と、チャンバ105内に配置された、マルチホロー放電電極101及びスパッタ電極102と、マルチホロー放電電極101及びスパッタ電極102と対向して配置され、基材301を保持する基材ホルダ103とを備えている。放電電極101には、第1高周波電源106により高周波電力が供給され、スパッタ電極102には第2高周波電源107により高周波電力が供給される。導電性のチャンバ105は接地されており、アノード電極として機能する。チャンバ105には、チャンバ105内を減圧状態とする排気部108が接続されている。
【0019】
図2は、マルチホロー放電電極101の一例を示している。マルチホロー放電電極101は、複数の貫通孔111aを有する電極本体111と、貫通孔111aを通してチャンバ内に原料ガスを供給する原料ガス供給部113とを有している。電極本体111は、放電電極114と接地電極115とを含む。放電電極114と接地電極115とは電気的に絶縁されている。チャンバ内を減圧して、原料ガス供給部113から炭素を含む原料ガスを供給した状態で、放電電極114と接地電極115との間に高周波電力を供給すると、放電により、貫通孔111a内に原料ガスのプラズマが発生し、これによりカーボンナノ粒子が生成する。原料ガスは貫通孔111a内においてはプラズマ状態となり化学活性種を含む状態となるが、貫通孔111aを通過すると化学活性種は失活する。カーボンナノ粒子は、プラズマ内においては成長するが、プラズマ外では成長が止まる。原料ガスは狭小通路である貫通孔111aを数十msの間に通過するため、生成したカーボンナノ粒子は大きく成長せずに、基材ホルダ103に保持された基材301に到達し、基材301の表面に堆積する。このため、カーボンナノ粒子を効率良く製造することができる。なお、マルチホロー放電電極101と基板との間において、ナノ粒子同士の衝突による凝集成長が生じないようにする観点から、マルチホロー放電電極101と基板301との間隔Dは、ある程度小さくすることが好ましく、条件にもよるが好ましくは20cm以下、より好ましくは10cm以下である。
【0020】
本開示において、カーボンナノ粒子とは、平均1次粒子径が500nm以下、好ましくは300nm以下である、Sp2炭素-炭素結合及びSp3炭素-炭素結合を含むアモルファスカーボンの粒子である。Sp2炭素-水素結合及びSp3炭素-水素結合を有していてもよい。炭素及び水素以外の成分を含まない粒子とすることができるが、他の成分を含む粒子とすることもできる。なお、カーボンナノ粒子の粒子径は、実施例において示す方法により測定することができる。
【0021】
電極本体111に設ける貫通孔111aの長さL1は、得ようとするナノ粒子のサイズ、製造条件であるガス流速等に応じて決定すればよいが、原料ガスの通過時間の制御が容易となるように、0.5cm~10cmとすることが好ましい。貫通孔111aの直径φ1は、例えば、0.3cm~1cmとすることができる。貫通孔111aの密度は、例えば、直径40mmの領域に1個から10個の密度とすることができる。
【0022】
原料ガスは、炭素を含むガスであれば特に限定されず、メタン、エタン及びベンゼン等の炭化水素系のガスを、アルゴン及びヘリウム等の不活性ガスや水素ガスにより希釈した混合ガスとすることができる。中でも、メタンをアルゴンにより希釈した混合ガスがコスト及び取り扱いの観点から好ましい。なお、炭化水素系のガスは、常温で気体であるものに限らず、加熱して気体の状態としたものを用いることもできる。原料ガス中の炭素の濃度が高いほど、得られるカーボンナノ粒子の粒径が大きくなる。炭化水素系ガスと希釈ガスとの比率は、必要とするカーボンナノ粒子の特性及び製造装置の状態に応じて決めることができるが、例えば炭化水素系ガス1に対して、希釈ガスを好ましくは0以上、より好ましくは1以上、好ましくは500以下、より好ましくは10以下とすることができる。
【0023】
原料ガスの流量を高くすると、原料ガスがプラズマ中に滞在する時間が短くなるため、得られるカーボンナノ粒子の粒径が小さくなり、粒子個数が増大する。原料ガスの流量は、必要とするカーボンナノ粒子の特性及び製造装置の状態に応じて決めることができるが、例えば好ましくは1sccm(0℃、1atm)以上、より好ましくは30sccm、さらに好ましくは50sccm以上、好ましくは1000sccm以下、より好ましくは500sccm以下、さらに好ましくは120sccm以下とすることができる。
【0024】
カーボンナノ粒子を製造する際の貫通孔111a内の圧力は、原料濃度及び原料ガスがプラズマ中に滞在する時間に影響を与えるため、低い方がカーボンナノ粒子の粒径が小さくなり、粒子個数は減少する。製造時における貫通孔111a内の圧力は、必要とするカーボンナノ粒子の特性及び製造装置の状態に応じて決めることができるが、例えば好ましくは7Pa(0.05Torr)以上、より好ましくは67Pa(0.5Torr)以上、さらに好ましくは200Pa(1.5Torr)以上、好ましくは1333Pa(10Torr)以下、より好ましくは666Pa(5Torr)以下とすることができる。
【0025】
マルチホロー放電電極101への高周波電力の印加時間(ナノ粒子製造時間)は、粒径にはほとんど影響を与えず、長いほど粒子個数が増大する。ナノ粒子製造時間は必要とするカーボンナノ粒子の量及び製造装置の状態に応じて決めることができる。
【0026】
本実施形態の製造装置100は、マルチホロー放電電極101と対向する位置に、基材301を保持する、基材ホルダ103が設けられており、基材301の表面にカーボンナノ粒子を堆積させ、カーボンナノ粒子層を形成させることができる。基材301の表面に形成するカーボンナノ粒子層は、カーボンナノ粒子が実質的に1層だけ配置された状態とすることも、カーボンナノ粒子が立体的に積み重なった状態とすることもできる。
【0027】
基材ホルダ103に保持された基材301には、バイアス電源109が接続されておりバイアス電圧を印加することができる。バイアス電圧を変化させることにより、ナノ粒子の堆積状態を制御することができる。基材301に印加するバイアス電圧は、必要とするカーボンナノ粒子の特性及び製造装置の状態に応じて決めることができるが、例えば接地に対して+100V~-100Vとすることができる。
【0028】
なお、カーボンナノ粒子を基材301の表面に堆積させるのではなく、そのまま捕集することもできる。例えば、マルチホロー放電電極101により生成させたカーボンナノ粒子を、チャンバ105の排気口付近に金網等を設けて回収することができる。また、種々のナノ粒子サンプラ等を用いて回収する構成とすることもできる。
【0029】
カーボンナノ粒子を堆積させる基材301は、特に限定されずガラス、石英、シリコン、サファイア、セラミクス、化合物、金属及び樹脂等とすることができる。また、形状も特に限定されず、平板だけでなく立体的な形状とすることもできる。
【0030】
基材ホルダの位置は、生成したカーボンナノ粒子が効率良く基材301の表面に到達するように、設計すればよい。製造装置の状態等にもよるが、例えば、マルチホロー放電電極101と基材301の表面との距離は、好ましくは1.0cm以上、より好ましくは4.0cm以上、好ましくは20.0cm以下、より好ましくは10.0cm以下である。
【0031】
本実施形態の製造装置により、カーボンナノ粒子を製造する際に、炭素及び水素以外の元素を含まない炭化水素系のガスを不活性ガス又は水素ガスにより希釈した原料ガスを用いれば、高純度のカーボンナノ粒子を製造することができる。但し、原料ガスにシリコン、フッ素、及び窒素等を添加することにより、これらの元素を含むカーボンナノ粒子を製造することもできる。
【0032】
本実施形態の製造装置100は、スパッタ電極102を有している。スパッタ電極102は、スパッタ用の電極であり、第2高周波電源107から放電用の高周波電力を供給して、スパッタガスのプラズマを生成させる。これにより炭素ターゲットからスパッタ粒子を放出させて、基材301に非ナノ粒子炭素質膜である炭素スパッタ膜を堆積させることができる。カーボンナノ粒子を製造するためのマルチホロー放電電極101に加えて炭素スパッタ膜を製造するためのスパッタ電極102を備えているため、基材301上にカーボンナノ粒子と炭素スパッタ膜とを交互に堆積させて、
図3に示すような炭素スパッタ膜311とカーボンナノ粒子層312とが交互に積層された炭素質膜302を形成したり、カーボンナノ粒子と炭素スパッタ膜とを同時に堆積させて、
図4に示すようなカーボンナノ粒子314が炭素スパッタ膜313中に分散した炭素質膜303を形成したりすることが容易にできる。なお、本開示において非ナノ粒子炭質膜とは、複数のナノ粒子の集合体ではない炭素質膜であり、例えばスパッタ法等により形成された炭素質膜である。炭素質膜はダイヤモンド様炭素(DLC)膜に代表される、Sp
2炭素-炭素結合及びSp
3炭素-炭素結合を有する炭素の同素体の膜であり、Sp
2炭素-水素結合及びSp
3炭素-水素結合を有していてもよい。また、炭素及び水素以外の成分を含んでいてもよい。
【0033】
基材の表面に厚い炭素スパッタ膜を形成すると、大きな応力が発生し炭素スパッタ膜にクラックが生じやすい。炭素スパッタ膜にシリコン等を添加することにより応力を緩和することが試みられているが、この場合は炭素及び水素以外の成分を含む膜となってしまう。一方、
図3に示すような炭素スパッタ膜311とカーボンナノ粒子からなるカーボンナノ粒子層312とを交互に積層した炭素質膜302とすることにより、カーボンナノ粒子層312が応力を緩和するため、全体としての膜厚を厚くすることができる。また、炭素及び水素以外の成分を含まない膜とすることも容易にできる。但し、炭素質膜302が炭素及び水素以外の成分を含んでいてもよい。
【0034】
本実施形態において、スパッタ電極102は、
図5に示すように、ターゲット122を保持するバッキングプレート121と、カバー123とを有している。バッキングプレート121は、放電電極として機能すると共に、ターゲット122を冷却する冷却板としても機能する。バッキングプレート121とカバー123との間に、第2高周波電源107から高周波電力を供給することにより、バッキングプレートをカソード電極、カバー123をアノード電極として放電させることができる。これにより、ターゲット122の上方にプラズマを発生させて、ターゲット122から原子をたたき出させることにより、基板301の表面にスパッタ膜を堆積させることができる。但し、スパッタ電極102は、基材301の表面にDLCを堆積できれば、どのような構成としてもよい。例えば、バッキングプレートの裏面側に磁石が配置されたマグネトロンスパッタ用の電極とすることもできる。
【0035】
炭素スパッタ膜を形成する際にチャンバ内に供給するスパッタガスは、メタン、エタン及びベンゼン等の低沸点の炭化水素系のガスを、アルゴン及びヘリウム等の不活性ガスにより希釈した混合ガスとすることができる。中でもメタンをアルゴンにより希釈した混合ガスがコスト及び取り扱いの観点から好ましい。スパッタガスは、カーボンナノ粒子を形成する際の原料ガスと同じにして、操作を簡略化することができる。また、スパッタガスを原料ガスとは異なる組成として、成膜条件を最適化することもできる。
【0036】
炭素スパッタ膜を形成する際は、チャンバ内の圧力は通常のスパッタ法の場合と同様に設定すればよい。例えば、0.1Pa~10Pa程度とすることができる。また、スパッタガスの供給量も通常のスパッタ法の場合と同様に設定すればよい。例えば、1sccm~1000sccmとすることができる。
【0037】
本実施形態の製造装置100は、マルチホロー放電電極101に高周波電力を供給する第1高周波電源106とスパッタ電極102に高周波電力を供給する第2高周波電源107とを有している。このため、カーボンナノ粒子を形成する際の放電と、炭素スパッタ膜を形成する際の放電とを容易に最適化することができる。但し、マルチホロー放電電極101に高周波電力を供給する電源と、スパッタ電極102に高周波電力を供給する電源とを共通にすることもできる。
【0038】
なお、炭素スパッタ膜を堆積させる必要がない場合には、スパッタ電極102等は設けなくてもよい。
【0039】
2層の炭素スパッタ膜311の間に、カーボンナノ粒子からなるカーボンナノ粒子層312が挟まれた構成の炭素質膜302は、基材301との界面に炭素スパッタ膜311が存在するため、基材301に対して優れた密着性を示し、表面にも炭素スパッタ膜311が存在するため、炭素スパッタ膜としての耐摩耗性、耐薬品性及び潤滑性等の特性を発揮する。また、プラズマエッチングに対する耐久性を向上させることもできる。一方、中間にカーボンナノ粒子層312が存在することにより、膜内部の残留応力が緩和され、全体としての膜厚を厚くすることが容易にできる。
【0040】
炭素スパッタ膜311とカーボンナノ粒子層312とが交互に積層された積層体である炭素質膜302は、本実施形態の製造装置100において、スパッタ電極102によるDLCの形成と、マルチホロー放電電極101によるカーボンナノ粒子の形成とを交互に行うことにより容易に形成できる。
【0041】
なお、炭素スパッタ膜311が表面に露出するように炭素スパッタ膜311とカーボンナノ粒子層312とが交互に積層されていれば、3層の積層体に限らず、5層以上の積層体とすることができる。また、基材301との界面を炭素スパッタ膜311とした例を示したが、カーボンナノ粒子層312とすることもできる。さらに、カーボンナノ粒子によるバンドギャップのシフト機能を用いるために、カーボンナノ粒子層312が表面に露出した積層体とすることもできる。
【0042】
カーボンナノ粒子層312は、用途に応じて構成するカーボンナノ粒子の粒径及び層の厚さ等を決定することができる。例えば、炭素質膜302の全体の厚さに占めるカーボンナノ粒子層312の厚さの合計は、応力の緩和の観点では、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上である。また、炭素スパッタ膜の有する硬度等の特性を発揮させる観点では好ましくは50%以下、より好ましくは20%以下である。炭素スパッタ膜311は、特に限定されないが、DLC膜が好ましい。
【0043】
なお、カーボンナノ粒子層312は、カーボンナノ粒子の集合体である炭素質膜であり、カーボンナノ粒子が表面を埋め尽くし、さらに厚さ方向に重なり合って堆積している状態のものだけでなく、カーボンナノ粒子が表面埋め尽くすように1層だけ堆積されている状態のものや、カーボンナノ粒子が表面を埋め尽くしておらず、1層に満たない状態のものを含む。
【0044】
また、本実施形態の製造装置100によれば、
図5に示すような、非ナノ粒子炭素質膜である炭素スパッタ膜313中にカーボンナノ粒子314が分散した炭素質膜303を容易に形成することができる。例えば、放電電極マルチホロー101によるカーボンナノ粒子の形成と、スパッタ電極102による炭素スパッタ膜の形成とを実質的に同時に行うことにより、カーボンナノ粒子を含有する炭素質膜303を形成することができる。ここで、実質的に同時とは、マルチホロー放電電極101への高周波電力の印加と、スパッタ電極102への高周波電力の印加とを短時間の間に交互に切り替えながら成膜を行うことを意味する。
【0045】
炭素スパッタ膜313中にカーボンナノ粒子314が分散した炭素質膜303は、応力を低減して膜厚を厚くすることができる。一方、シリコンや金属等を添加した場合と異なり、実質的に炭素と水素のみからなる膜であるため、膜特性の制御が容易であり、不純物を低減する観点からも有用である。但し、炭素質膜303に炭素及び水素以外の元素が含まれていてもよい。
【0046】
なお、カーボンナノ粒子と交互に又は同時に堆積する非ナノ粒子炭素質膜は、高周波マグネトロンスパッタ法により形成した炭素スパッタ膜に限らず、直流マグネトロンスパッタ法、容量性結合放電によるプラズマCVD法、プラズマイオン注入法、重畳型RFプラズマイオン注入法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法又はレーザーアブレーション法等の公知の方法により、形成した炭素質膜とすることができる。
【0047】
本実施形態の、カーボンナノ粒子は、触媒、光電材料、及び医薬品等の分野において利用可能である。また、積層炭素質膜及びナノ粒子含有炭素質膜は、従来のDLC膜等と同様の分野において利用可能であり、特に膜厚を厚くすることができるので有用である。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を用いて本開示の発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例は例示であり、本開示の発明を限定する意図を有するものではない。
【0049】
<粒子物性の測定>
透過型電子顕微鏡用のカーボンメッシュ(応研商事、HRC-C10)を基材としてカーボンナノ粒子の堆積を行った。カーボンナノ粒子を堆積させたメッシュを透過型電子顕微鏡(JEOL JEM-2010)により観察し、メッシュ表面に堆積した粒子のサイズを画像解析して平均1次粒子径を算出した。また、画像解析して1μm角の範囲内の粒子個数を算出した。また、同時にシリコン基板の表面にも堆積を行わせ、走査型電子顕微鏡(JEOL JIB4600F又は日立ハイテクノロジー SUB8000)により断面の観察を行うことにより膜厚を測定した。
【0050】
<組成の確認>
得られたカーボンナノ粒子をラマン分光分析装置(JASCO NRS-3000)により分析し、Gバンドピーク及びDバンドピークの存在を確認した。
【0051】
<残留応力の測定>
シリコン基板の表面に炭素スパッタ膜及びカーボンナノ粒子を堆積させ、触診段差計(Vecco社、Dektak6M)により、膜厚及び応力を測定した。なお、応力は成膜前後の基板の湾曲度をフィッティングして算出した。
【0052】
(実施例1)
メタンとアルゴンとの比率が1:6とした原料ガスを、100sccmの流量で供給し、90分間カーボンナノ粒子の製造を行った。マルチホロー放電電極には、40Wの高周波電力を印加した。周波数は60MHzとした。基板にバイアスは印加しなかった。チャンバ内の圧力を0.5Torr、1Torr、1.5Torr、2Torr、3Torr、及び5Torrとしてそれぞれカーボンナノ粒子の製造を行った。
図6に示すように、2Torr、3Torr及び5Torrの場合には、メッシュ上に粒子の堆積が確認できた。平均1次粒子径は、2Torrの場合37.7nm、3Torrの場合43.9nm、5Torrの場合48.3nmであった。また、
図7に示すように、ラマン分光分析においても、2Torr、3Torr及び5Torrの場合にはGバンド及びDバンドのピークの存在が認められた。
【0053】
(実施例2)
原料ガスの流量を、10sccm、20sccm、50sccm、100sccm、120sccm、125sccm、150sccm及び200sccmとし、チャンバ内の圧力を2Torrとしてカーボンナノ粒子の製造を行った。他の条件は実施例1と同様にした。
【0054】
流量が10sccm、20sccm、50sccm、100sccm、及び120sccmの場合には、メッシュ上に粒子の堆積が確認できた。平均1次粒子径は、10sccm、20sccm、50sccm、100sccm、及び120sccmの場合、それぞれ252nm、153nm、51.6nm、37.7nm、31.6nmであった。また、ラマン分光分析においても、10sccm、20sccm、50sccm、100sccm、及び120sccmの場合にはGバンド及びDバンドのピークの存在が認められた。
【0055】
(実施例3)
原料ガスのメタンとアルゴンとの比率を、それぞれ1:1、1:3、1:6、1:7及び1:9としてカーボンナノ粒子の製造を行った。流量は100sccmとし、チャンバ内の圧力は2Torrとした。他の条件は実施例1と同様にした。
【0056】
メタンとアルゴンとの比率が1:6、1:7及び1:9の場合には、メッシュ上に粒子の堆積が確認できた。平均1次粒子径は、1:6、1:7及び1:9の場合、それぞれ37.7nm、36.7nm、27.6nmであった。また、ラマン分光分析においても、1:6、1:7及び1:9の場合にはGバンド及びDバンドのピークの存在が認められた。
【0057】
(実施例4)
それぞれ30分、45分、60分、75分及び90分間カーボンナノ粒子の製造を行った。メタンとアルゴンとの比率は1:6とし、流量は120sccmとし、チャンバ内の圧力は2Torrとした。他の条件は実施例1と同様にした。
【0058】
図8に示すように、30分~90分のいずれにおいても、メッシュ上に粒子の堆積が確認できた。平均1次粒子径は、30分、45分、60分、75分及び90分の場合、全ての条件で31nmであった。膜厚は、30分、45分、60分、75分及び90分の場合、それぞれ、38nm、64nm、94nm及び147nmであった。
【0059】
(実施例5)
1.6mm×2mmの厚さが280μmのシリコン基板の表面に非ナノ粒子炭素質膜として炭素スパッタ膜を100分間堆積させた後、所定の時間カーボンナノ粒子を堆積させ、再び100分間炭素スパッタ膜を堆積させ、3層構造のナノ粒子含有炭素質膜を形成した。炭素スパッタ膜の堆積において、スパッタガスを10sccmの流量で供給してチャンバ内の圧力を1Paとした。スパッタガスは、メタンとアルゴンとが1:6の混合ガスとした。スパッタ電極に13.56MHz、40Wの高周波電力を供給し、基板には1.5Wのバイアス電力を供給した。カーボンナノ粒子の堆積において、原料ガスを120sccmの流量で供給してチャンバ内の圧力を266Paとした。原料ガスは、メタンとアルゴンとが1:6の混合ガスとした。マルチホロー放電電極に60MHz、40Wの高周波電力を供給し、基板にバイアスは印加しなかった。
【0060】
カーボンナノ粒子の堆積時間を0分とした場合には、堆積した積層膜の厚さは622nmであり、圧縮応力は226MPaであった。
【0061】
カーボンナノ粒子の堆積時間を15分とした場合には、堆積した積層膜の厚さは635nmであり、圧縮応力は238MPaであった。このときのナノ粒子は、1層に満たず堆積しており面密度は1.18×1014個/m2であった。
【0062】
カーボンナノ粒子の堆積時間を30分とした場合には、堆積した積層膜の厚さは665nmであり、圧縮応力は119MPaであった。このときのナノ粒子は、1層に満たず堆積しており面密度は2.36×1014個/m2であった。
【0063】
カーボンナノ粒子の堆積時間を60分とした場合には、堆積した積層膜の厚さは702nmであり、圧縮応力は111MPaであった。このときのナノ粒子層の厚みは、64nmであった(面密度は7.89×1014m2程度であった。)。
【0064】
カーボンナノ粒子の堆積時間を90分とした場合には、堆積した積層膜の厚さは720nmであり、圧縮応力は81.9MPaであった。このときのナノ粒子層の厚みは、147nmであった(面密度は7.89×1014m2程度であった。)。
【0065】
図9に、カーボンナノ粒子の堆積時間と、膜厚及び応力との関係を示す。また、
図10には、各堆積時間における炭素質膜の表面及び断面の状態を示す。表面については倍率2千倍及び5万倍において観察を行い、断面については倍率1万5千倍において観察を行った。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本開示のカーボンナノ粒子の製造方法は、容易にカーボンナノ粒子を製造でき、カーボンナノ粒子を含む炭素質膜等を製造することができる。
【符号の説明】
【0067】
100 製造装置
101 マルチホロー放電電極
102 スパッタ電極
103 基材ホルダ
105 チャンバ
106 第1高周波電源
107 第2高周波電源
108 排気部
109 バイアス電源
111 電極本体
111a 貫通孔
113 原料ガス供給部
114 放電電極
115 接地電極
121 バッキングプレート
122 ターゲット
123 カバー
201 プラズマ
301 基材
302 炭素質膜
303 炭素質膜
311 炭素スパッタ膜
312 カーボンナノ粒子層
313 炭素スパッタ膜
314 カーボンナノ粒子