(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】カポタスト
(51)【国際特許分類】
G10D 3/053 20200101AFI20230919BHJP
【FI】
G10D3/053
(21)【出願番号】P 2019094680
(22)【出願日】2019-05-20
【審査請求日】2022-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】592201092
【氏名又は名称】後藤ガット有限会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591032703
【氏名又は名称】群馬県
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【氏名又は名称】松村 潔
(72)【発明者】
【氏名】梶原 篤
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昌甲
(72)【発明者】
【氏名】新嶋 修
(72)【発明者】
【氏名】宮島 洋
【審査官】中村 天真
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-095688(JP,A)
【文献】特開平09-105404(JP,A)
【文献】特開昭62-054635(JP,A)
【文献】実開平01-106140(JP,U)
【文献】実開昭52-141183(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2010/0269666(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 5/00-5/16
F16B 2/18
G10D 1/00-3/22
G10G 5/00-7/02
G10H 3/00-3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弦楽器のネック上に固定するためのカポタストであって、
前記ネックを挟持可能な第1アーム部材及び第2アーム部材と、
前記第1アーム部材及び前記第2アーム部材の少なくとも一方に設けられた楽器受け部と、
前記第1アーム部材及び前記第2アーム部材により前記ネックを挟持された場合に、前記楽器受け部を前記ネック側に押圧するアクチュエータユニットと、
を備えるカポタスト。
【請求項2】
前記第1アーム部材に対して前記第2アーム部材が開く開方向
への前記第2アーム部材の移動を規制した状態と、前記
第2アーム部材の移動を許容した状態とを選択的に切り替える切替手段をさらに備える、請求項1記載のカポタスト。
【請求項3】
前記第2アーム部材は、前記第1アーム部材に対して回動可能に取り付けられており、
前記切替手段は、前記第1アーム部材に対して前記第2アーム部材が開く開方向
への前記第2アーム部材の回転を規制し、前記第1アーム部材に対して前記第2アーム部材が閉じる閉方向
への前記第2アーム部材の回転を許容するラチェット機構を含む、請求項2記載のカポタスト。
【請求項4】
前記アクチュエータユニットへの電力の供給のオンとオフとを切り替えるスイッチ
と、
前記第1アーム部材と前記第2アーム部材との間に前記ネックを挟み込んだ状態となった場合に前記スイッチをオンにする機構と、
をさらに備える、請求項1から3のいずれか1項記載のカポタスト。
【請求項5】
前記アクチュエータユニットは、モーターによる回転運動を直線運動に変換して、前記楽器受け部を前記ネックに押し付ける電動アクチュエータを含む、請求項1から4のいずれか1項記載のカポタスト。
【請求項6】
前記アクチュエータユニットは、流体の圧力による運動を直線運動に変換して、前記楽器受け部を前記ネックに押し付ける流体アクチュエータを含む、請求項1から4のいずれか1項記載のカポタスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギター等の弦楽器の演奏時に音程調整のために使われる用品であるカポタストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カポタストは、ギター等の弦楽器の全ての弦を所望の位置を全て押さえるために使用されるものである。弦楽器で歌の伴奏を行う場合、曲や歌手の音域に合わせてカポタストが押さえる位置を変更するが、ステージ上で曲の間等に音を立てずにすばやく操作する必要がある。
【0003】
従来のカポタストには、例えば、バネの力を利用して弦楽器のネックを挟んで全ての弦を押さえるタイプのものがある。また、他のタイプのものとして、握力でカポタストを締め込んで摩擦力で保持するもの(例えば、特許文献1参照)や、梃子を利用したもの(例えば、特許文献2、3参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2009/115461号
【文献】国際公開第98/49669号
【文献】特開2010-145998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バネや摩擦で保持するタイプのカポタストは取り付けるときに強い握力が必要である。特に非力な奏者の場合、演奏の合間等にすばやく操作することは困難である。また、梃子を利用するタイプのものでは操作は軽いが、事前に弦楽器に合わせて調整が必要であり、複数の弦楽器に一度に対応するのは困難である。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、非力な奏者でも簡単かつ確実に操作できるようにしたカポタストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係るカポタストは、弦楽器のネック上に固定するためのカポタストであって、ネックを挟持可能な第1アーム部材及び第2アーム部材と、第1アーム部材及び第2アーム部材の少なくとも一方に設けられた楽器受け部と、第1アーム部材及び第2アーム部材によりネックを挟持された場合に、楽器受け部をネック側に押圧するアクチュエータユニットとを備える。
【0008】
本発明の第2の態様に係るカポタストは、第1の態様において、第1アーム部材に対して第2アーム部材が開く開方向の移動を規制した状態と、移動を許容した状態とを選択的に切り替える切替手段をさらに備える。
【0009】
本発明の第3の態様に係るカポタストは、第2の態様において、第2アーム部材は、第1アーム部材に対して回動可能に取り付けられており、切替手段は、第1アーム部材に対して第2アーム部材が開く開方向の回転を規制し、第1アーム部材に対して第2アーム部材が閉じる閉方向の回転を許容するラチェット機構を含む。
【0010】
本発明の第4の態様に係るカポタストは、第1から第3の態様のいずれかにおいて、アクチュエータユニットへの電力の供給のオンとオフとを切り替えるスイッチであって、第1アーム部材及び第2アーム部材によりネックを挟み込んだ状態で、第1アーム部材及び第2アーム部材がさらに閉じられた場合にオンになるスイッチをさらに備える。
【0011】
本発明の第5の態様に係るカポタストは、第1から第4の態様のいずれかにおいて、アクチュエータユニットは、モーターによる回転運動を直線運動に変換して、楽器受け部をアームに押し付ける電動アクチュエータを含む。
【0012】
本発明の第6の態様に係るカポタストは、第1から第4の態様のいずれかにおいて、アクチュエータユニットは、流体の圧力による運動を直線運動に変換して、楽器受け部をアームに押し付ける流体アクチュエータを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1アーム部材と第2アーム部材の相対位置を固定した後に、スライド機構を用いて、弦楽器のネックに楽器受け部を押し付けることができる。これにより、非力な奏者でも簡単かつ確実に、弦楽器のネックにカポタストを固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るカポタストを示す側面図である(開状態)。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態に係るカポタストを示す側面図である(閉状態)。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施形態に係るカポタストを示す側面図である(固定状態)。
【
図4】
図4は、アクチュエータユニットの第1の例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、アクチュエータユニットの第2の例を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、本発明の第2の実施形態に係るカポタストにおける楽器受け部のスライド機構を示す平面図である(閉状態)。
【
図7】
図7は、本発明の第2の実施形態に係るカポタストにおける楽器受け部のスライド機構を示す平面図である(固定状態)。
【
図8】
図8は、楽器受け部のスライド機構の第1の変形例を示す平面図である(閉状態)。
【
図9】
図9は、楽器受け部のスライド機構の第1の変形例を示す平面図である(固定状態)。
【
図10】
図10は、楽器受け部のスライド機構の第2の変形例を示す平面図である(閉状態)。
【
図11】
図11は、楽器受け部のスライド機構の第2の変形例を示す平面図である(固定状態)。
【
図12】
図12は、本発明の第3の実施形態に係るカポタストにおける楽器受け部のスライド機構を示す平面図(一部断面図)である(閉状態)。
【
図13】
図13は、本発明の第3の実施形態に係るカポタストにおける楽器受け部のスライド機構を示す平面図(一部断面図)である(固定状態)。
【
図14】
図14は、本発明の第4の実施形態に係るカポタストを示す側面図である(開状態)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に従って本発明に係るカポタストの実施の形態について説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
図1から
図3は、本発明の第1の実施形態に係るカポタストを示す側面図である。以下の説明では、便宜上XYZ3次元直交座標系を用いる。なお、
図1を開状態、
図2を閉状態、
図3を固定状態とする。
【0017】
図1から
図3に示すように、本実施形態に係るカポタスト10は、弦楽器のネックGを挟持可能な一対のアーム部材として、第1アーム部材12及び第2アーム部材14を備えている。
【0018】
第1アーム部材12は、楽器受け部26を備えている。楽器受け部26は、第1アーム部材12に対して、図中左右方向(±Z方向)にスライド可能となっている。
【0019】
弦楽器のネックGを挟持するときには、楽器受け部26の受け面26Aは、ネックGの表面(弦が配置される側の面)G1に当接する。一方、第2アーム部材14の受け面14Aは、ネックGの裏面(弦が配置される側とは反対側の面)G2に当接する。受け面26A及び14Aは、例えば、金属製又は樹脂製等であり、それぞれネックGの表面G1及び裏面G2の形状に倣う形状(例えば、凹状)に形成されていてもよい。なお、受け面26A及び14Aは、例えば、挟持するネックG又は弦の種類又は材質もしくは経時劣化等に応じて交換可能となっていてもよい。
【0020】
第2アーム部材14は、軸16を介して第1アーム部材12に対して回動可能に取り付けられている。軸16には、ねじりコイルばね18が取り付けられている。第2アーム部材14は、ねじりコイルばね18によって第1アーム部材12に対して離れる方向(図中の時計回り方向)に付勢される。
【0021】
第2アーム部材14の軸16の周りの面は、軸16を中心とする略円柱面状に形成されている。第2アーム部材14の軸16の周りの面の一部領域には、複数の回転止め溝14Bが形成されている。
【0022】
第1アーム部材12には、解除レバー20が取り付けられている。解除レバー20は、第1アーム部材12に取り付けられた軸22の周りに回動可能となっている。軸22には、ねじりコイルばね24が取り付けられている。ねじりコイルばね24は、解除レバー20を図中の反時計回り方向に付勢する。
【0023】
解除レバー20の下端には、回転止め溝14Bと係合する突起部20Aが形成されている。突起部20Aと回転止め溝14Bとは、軸16を回転中心として、第1アーム部材12に対する第2アーム部材14の一方向への回転を許容し、逆方向への回転を不能にするラチェット機構を構成する。具体的には、突起部20Aと回転止め溝14Bとが係合している場合には、第1アーム部材12に対して第2アーム部材14が開く方向(図中の時計回り方向。以下、「開方向」という。)の第2アーム部材14の回転が規制され、かつ、第1アーム部材12に対して第2アーム部材14が閉じる方向(図中の反時計回り方向。以下、「閉方向」という。)の第2アーム部材14の回転が許容される。一方、解除レバー20が操作されて、突起部20Aと回転止め溝14Bとの係合が解除されると、第2アーム部材14は、第1アーム部材12に対して第2アーム部材14が開く方向の回転が可能になる。この場合、第1アーム部材12又は第2アーム部材14に対する操作をすることなく、ねじりコイルばね18による開方向への付勢力により、第1アーム部材12に対して第2アーム部材14が開く。
【0024】
したがって、ネックGにカポタスト10を取りつけるときには、奏者は、突起部20Aと回転止め溝14Bとが係合した状態のまま(解除レバー20を操作することなく)、第2アーム部材14を第1アーム部材12に閉じる方向(閉方向)に押さえる。すると、突起部20A及び回転止め溝14Bからなるラチェット機構により、第2アーム部材14が段階的に閉じていき、
図2の閉状態になる。この際、第1アーム部材12に対して第2アーム部材14が開く方向への回転は規制されているので、円滑に操作を行うことができる。これにより、第1アーム部材12と第2アーム部材14との間に弦楽器のネックGを挟み込むことができる。
【0025】
ネックGからカポタスト10を取り外すときには、奏者は、解除レバー20を指等により操作して(図中の時計回りに引っ張る)、突起部20Aと回転止め溝14Bとの係合を解除する。すると、ねじりコイルばね18による開方向への付勢力により、第1アーム部材12と第2アーム部材14とが開状態になる(
図1参照)。その後、奏者は、解除レバー20から指を離すと、突起部20Aと回転止め溝14Bとが係合し、第1アーム部材12及び第2アーム部材14の相対位置(角度)が開状態で維持される。
【0026】
バッテリー50は、アクチュエータユニット54の動力源(例えば、モーター又はポンプ等。
図4及び
図5参照)に駆動電力を供給する。バッテリー50は、一次電池又は二次電池を用いることができる。
【0027】
スイッチ52は、バッテリー50からアクチュエータユニット54の動力源への駆動電力の供給のオンとオフとを切り替える。スイッチ52は、押しボタン型のスイッチであり、そのボタン部分が、楽器受け部26の裏面に形成された突起部26Bに対向するように配置されている。
図2に示すように、弦楽器のネックGが楽器受け部26の受け面26Aに当接し、楽器受け部26が図中右側(-Z方向)に押し込まれてスイッチ52のボタンが押されると、スイッチ52がオンになる。これにより、バッテリー50からアクチュエータユニット54の動力源への駆動電力の供給が開始され、アクチュエータユニット54からシャフト56が図中下方(-Y方向)に繰り出される。
【0028】
なお、本実施形態では、スイッチ52は、押しボタン型のスイッチであるが、本発明はこれに限定されない。例えば、スライドスイッチ等であってもよい。
【0029】
シャフト56の下端部には、ラック部58が取り付けられている。ラック部58は、板状又は棒状(例えば、角柱状等)の部材であり、その表面58Aには歯切りが施されている。ラック部58は、例えば、金属製又は樹脂製等である。
【0030】
回転接片(カム)60は、第1アーム部材12に取り付けられた軸62の周りに回動可能に取り付けられている。回転接片60は、例えば、金属製又は樹脂製等である。
【0031】
回転接片60は、軸62を中心とする略円柱面状の領域(ピニオン部)60Aと、凸部60Bを含んでおり、全体として略オーバル形状(例えば、長円、楕円、卵形等)に形成されている。
【0032】
ピニオン部60Aには歯切りが施されており、略円形の歯車となっている。回転接片60のピニオン部60Aに形成された歯は、ラック部58の表面58Aに形成された歯と噛合する。
【0033】
凸部60Bは、ピニオン部60Aよりも軸62から離れた曲面を有する。回転接片60は、
図1に示す初期位置において、凸部60Bが図中下方(-Y方向)に向くように取り付けられる。楽器受け部26の裏面側には、固定接片26Cが+X方向に突出している。回転接片60及び固定接片26Cは、そのX方向の位置が略同じになるように配置されており、回転接片60が回転したときにその凸部60Bが固定接片26Cに当接するように配置されている。
【0034】
スイッチ52がオンになり、ラック部58が図中下方(-Y方向)に移動すると、回転接片60が図中の時計回り方向に回転する。回転接片60の回転に伴い、凸部60Bが固定接片26Cに当接し、楽器受け部26が図中左側(+Z方向)に押し出される。これにより、
図3に示すように、弦楽器のネックGが楽器受け部26の受け面26Aと第2アーム部材14の受け面14Aとの間に挟持されて固定される。
【0035】
ここで、アクチュエータユニット54がラック部58を所定量移動させた後に、スイッチ52が自動的にオフになるようにしてもよい。また、解除レバー20の操作に連動してスイッチ52が自動的にオフになるようにしてもよい。ラック部58の移動量は、例えば、回転接片60の回転角度、又は楽器受け部26が弦楽器のネックGを押し付ける力によって決定される。楽器受け部26が弦楽器のネックGを押し付ける力は、例えば、アクチュエータユニット54等を介してアクチュエータユニット54の動力源にかかる負荷に基づいて求めることが可能である。
【0036】
なお、凸部60Bは、図中上向きに取り付けられていてもよい。この場合、弦楽器のネックGを固定するときには、ラック部58を+Y方向に移動すればよい。
【0037】
また、
図1から
図3に示す例では、回転接片60及び固定接片26Cは、スイッチ52よりも+X側に配置されているが、本発明はこれに限定されない。回転接片60及び固定接片26Cは、スイッチ52よりも-X側に配置されていてもよいし、複数組(例えば、スイッチ52の±X側に一対)配置されていてもよい。回転接片60及び固定接片26Cを複数組設ける場合には、ラック部58のX方向の幅を拡大することにより、1つのアクチュエータユニット54で複数の回転接片60を同時に回転させることが可能になる。
【0038】
(アクチュエータユニットの第1の例)
次に、アクチュエータユニットの第1の例について、
図4を参照して説明する。
図4は、アクチュエータユニットの第1の例を示すブロック図である。
【0039】
図4に示すように、アクチュエータユニット54は、動力源としてのモーター64と、電動アクチュエータ66とを含んでいる。
【0040】
モーター64は、例えば、電動モーターであり、バッテリー50から供給される電力により動作する。なお、モーター64は、一方向のみに回転可能であってもよいし、双方向に回転可能であってもよい。
【0041】
電動アクチュエータ66は、モーター64による回転運動を(往復)直線運動に変換して、シャフト56を図中上下方向(±Y方向)に移動させる。電動アクチュエータ66は、例えば、シリンダーと、シリンダー内に摺動可能に配置されたピストンを備え、モーター64による回転運動を、ピストンに取り付けられたコネクティングロッドを介して、(往復)直線運動に変換する。
【0042】
第1の例では、モーター64の回転駆動力を利用してシャフト56を
図2中下方(-Y方向)に押し下げる。すると、シャフト56によりラック部58が押し下げられて回転接片60が回転する。これにより、弦楽器のネックGをカポタスト10に確実に固定することが可能になる。
【0043】
図4に示す例では、モーター64は、(A)回転接片60を所定角度回転させるために必要なだけシャフト56を繰り出した段階で停止するようにしてもよい。ここで、シャフト56の繰り出し量は、モーター64の回転角又は回転数から求めることができる。なお、所定角度とは、例えば、凸部60Bの先端部(回転接片60の外周部の軸62から最も遠い点)が固定接片26Cに接触するとき、すなわち、回転接片60が最も+Z側になるときの角度である。
図1から
図3に示す例では、所定角度は約90°である。
【0044】
また、モーター64は、(B)アクチュエータユニット54を介してモーター64にかかる負荷が閾値以上になった場合、すなわち、楽器受け部26の受け面26Aが弦楽器のネックGを第2アーム部材14の受け面14Aに押し付ける力が閾値以上になった場合に停止するようにしてもよい。
【0045】
また、モーター64としてブレーキ付きモーターを用いて、上記の(A)又は(B)の条件を満たした場合に、ブレーキにより停止するようにしてもよい。
【0046】
なお、本実施形態では、ラックアンドピニオン機構を用いて回転接片60を回転させるようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、ウォームギアを用いて、回転接片60を回転させるようにしてもよい。この場合、回転接片60に歯車(ウォーム)を形成し、シャフト56の表面に斜歯歯車(ウォームホイール)を形成して相互に噛合させる。そして、モーター64により、シャフト56を回転可能とする。この場合、モーターを回転(正転又は反転)させることにより、回転接片60を軸62の周りに回転させて、
図1の開状態と
図3の固定状態とを切り替えることが可能になる。
【0047】
なお、ウォームとウォームホイールからなるウォームギアは、セルフロック機構(自動締まり)を備えているため、モーター64としてブレーキを有しないものを用いることができる。
【0048】
なお、弦楽器のネックGからカポタスト10を取り外す場合、又は別の弦楽器にカポタスト10を取り付ける場合には、回転接片60を初期位置に戻すことになる。この場合、シャフト56を図中上方(+Y方向)に移動させるために、モーター64をさらに回転させるか、又はネックGを固定したときとは逆方向に回転させればよい。
【0049】
図4に示す例によれば、アクチュエータユニット54を介して回転接片60を回転させることにより、動力源であるモーター64と、駆動力が作用する作用点である回転接片60とを離して配置することができるので、カポタスト10内におけるモーター64等の配置の自由度を高めることができる。なお、アクチュエータユニット54を設けずに、回転接片60をモーター64により直接回転させることも可能である。
【0050】
(アクチュエータユニットの第2の例)
次に、アクチュエータユニットの第2の例について、
図5を参照して説明する。
図5は、アクチュエータユニットの第2の例を示すブロック図である。
【0051】
図5に示すように、アクチュエータユニット54は、動力源としてのポンプ80と、流体アクチュエータ82とを含んでいる。
【0052】
ポンプ80は、流体アクチュエータ82に流体(例えば、気体(空気等)、液体等)を供給する。流体アクチュエータ82は、例えば、シリンダー等を含んでおり、シリンダー内に流体が供給されることにより発生する圧力による運動を(往復)直線運動に変換する。
【0053】
第2の例では、ポンプ80から供給される流体の圧力によりシャフト56を
図2中下方(-Y方向)に押し下げる。すると、シャフト56によりラック部58が押し下げられて回転接片60が回転する。これにより、弦楽器のネックGをカポタスト10に確実に固定することが可能になる。
【0054】
なお、回転接片60を初期位置に戻す場合、シリンダーの外部に流体を排出して、シャフト56を図中上方(+Y方向)に移動させればよい。
【0055】
図5に示す例によれば、アクチュエータユニット54を介して回転接片60を回転させることにより、動力源であるポンプ80と、駆動力が作用する作用点である回転接片60とを離して配置することができるので、カポタスト10内におけるポンプ80等の配置の自由度を高めることができる。
【0056】
(弦楽器のネックをカポタストに固定する手順)
次に、弦楽器のネックGをカポタスト10に挟持する手順について説明する。
【0057】
奏者が解除レバー20を指等により図中の時計回りに引っ張ると、突起部20Aが回転止め溝14Bから離れて、第2アーム部材14の回動の規制が解除される。これにより、ねじりコイルばね18の付勢力により、第2アーム部材14が第1アーム部材12から離れる方向に開いて、
図1の開状態になる。奏者が解除レバー20から指等を離すと、解除レバー20がねじりコイルばね24の付勢力により元の位置に戻り、突起部20Aが回転止め溝14Bと再び係合する。これにより、第1アーム部材12及び第2アーム部材14の相対位置(角度)が開状態で維持される。
【0058】
次に、
図1に示すように、奏者が、開状態のカポタスト10の第1アーム部材12をネックGの表面G1にあてがって、第2アーム部材14を閉じる。このとき、突起部20A及び回転止め溝14Bからなるラチェット機構により開方向への回転が規制されつつ、閉方向の回転は許容されているので、第2アーム部材14を段階的に閉じることができる。これにより、
図2の閉状態になる。
【0059】
図2の閉状態になることにより、ネックGの表面G1が楽器受け部26の受け面26Aに当接し、楽器受け部26が図中右側(-Z方向)に移動すると、楽器受け部26の裏面の突起部26Bによりスイッチ52が押される。これにより、バッテリー50からアクチュエータユニット54の動力源への給電が開始され、アクチュエータユニット54のシャフト56に取り付けられたラック部58が図中下方(-Y方向)に移動する。そして、
図3に示すように、ラック部58の移動に伴って回転接片60が図中の時計回りに回転し、その凸部60Bが楽器受け部26の固定接片26Cに接触して、楽器受け部26が図中左側(+Z方向)に押し出される。これにより、弦楽器のネックGが楽器受け部26の受け面26Aと第2アーム部材14の受け面14Aとの間に挟持されて固定される。
【0060】
本実施形態によれば、第1アーム部材12と第2アーム部材14の相対位置を固定した後に、回転接片60を用いて、弦楽器のネックGに楽器受け部26を押し付けて挟持することができる。これにより、非力な奏者でも簡単かつ確実に、第1アーム部材12及び第2アーム部材14により弦楽器のネックGを締め付けて固定することができる。
【0061】
本実施形態では、第1アーム部材12と第2アーム部材14の相対位置を手動で固定した後に、弦を締め込むときにのみモーター64等の動力を使用するようにしたので、カポタスト10の動作時間を短縮することが可能になる。
【0062】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。以下の説明では、第1の実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0063】
本実施形態では、楽器受け部26を図中左右方向(±Z方向)にスライドさせるスライド機構が第1の実施形態と異なる。
図6及び
図7は、本発明の第2の実施形態に係るカポタストにおける楽器受け部のスライド機構を示す平面図である。なお、
図6及び
図7は、それぞれ閉状態及び固定状態に対応している。
【0064】
本実施形態に係るスライド機構100は、リンク部材102、104、固定部106、スライダ108、アーム110Aから110D及びガイドレール112を含んでいる。
【0065】
アーム110Aから110Dは、略同じ長さの棒状部材であり、スライド機構100は、略菱形である。
【0066】
固定部106は、シャフト56の下端部に固定されている。固定部106には、アーム110B及び110Dが回動可能に取り付けられている。
【0067】
スライダ108には、シャフト56が貫通しており、スライダ108は、シャフト56に対してスライド可能となっている。スライダ108には、アーム110A及び110Cが回動可能に取り付けられている。
【0068】
リンク部材102には、アーム110A及び110Bが回動可能に取り付けられており、リンク部材104には、アーム110C及び110Dが回動可能に取り付けられている。リンク部材102及び104は、図中左右方向(±Z方向)にスライドしたときに、リンク部材102が楽器受け部26の固定接片26Cと接触するように、XY方向の位置が調整されている。
【0069】
ガイドレール112は、例えば、断面C字状のレール部材である。ガイドレール112は、図中上下方向(±Y方向)の位置が固定されており、図中左右方向(±Z方向)にスライド可能に保持されている。ガイドレール112の先端は、リンク部材102に固定されている。ガイドレール112は、リンク部材104に形成された凸部114に摺動可能に係合している。ガイドレール112によりリンク部材102及び104のY方向の位置が規制される。
【0070】
図6に示すように、スライド機構100では、突起部26Bによりスイッチ52がオンになると、アクチュエータユニット54によりシャフト56が図中上方(+Y方向)に引き戻される。すると、
図7に示すように、リンク部材102が図中左側(+Z方向)に移動して楽器受け部26の固定接片26Cが押し出される。これにより、弦楽器のネックGが楽器受け部26の受け面26Aと第2アーム部材14の受け面14Aとの間に挟持されて固定される。
【0071】
本実施形態に係るスライド機構100を用いる場合にも、弦楽器のネックGに楽器受け部26を押し付けることができる。これにより、非力な奏者でも簡単かつ確実に、弦楽器のネックGにカポタスト10を固定することができる。
【0072】
(第1の変形例)
図8及び
図9は、楽器受け部のスライド機構の第1の変形例を示す平面図である。なお、
図8及び
図9は、それぞれ閉状態及び固定状態に対応している。
【0073】
第1の変形例に係るスライド機構100Aは、スライド機構100から、リンク部材104、アーム110C及び110Dを省略したものである。
【0074】
図8に示すように、第1の変形例に係るスライド機構100Aでは、突起部26Bによりスイッチ52がオンになると、アクチュエータユニット54によりシャフト56が図中上方(+Y方向)に引き戻される。すると、
図9に示すように、リンク部材102が図中左側(+Z方向)に移動して楽器受け部26の固定接片26Cが押し出される。これにより、弦楽器のネックGが楽器受け部26の受け面26Aと第2アーム部材14の受け面14Aとの間に挟持されて固定される。
【0075】
(第2の変形例)
図10及び
図11は、楽器受け部のスライド機構の第2の変形例を示す平面図である。なお、
図10及び
図11は、それぞれ閉状態及び固定状態に対応している。
【0076】
第2の変形例に係るスライド機構100Bは、スライド機構100から、リンク部材104、アーム110B、110C及び110Dを省略し、スライダ108に代えてリンク部材116を設けたものである。
【0077】
リンク部材116は、アクチュエータユニット54のシャフト56の下端部に固定されており、アーム110Aが回動可能に取り付けられている。
【0078】
図10に示すように、第2の変形例に係るスライド機構100Bでは、突起部26Bによりスイッチ52がオンになると、アクチュエータユニット54によりシャフト56が図中下方(-Y方向)に繰り出される。すると、
図11に示すように、アーム110Aによりリンク部材102が図中左側(+Z方向)に移動して楽器受け部26の固定接片26Cが押し出される。これにより、弦楽器のネックGが楽器受け部26の受け面26Aと第2アーム部材14の受け面14Aとの間に挟持されて固定される。
【0079】
なお、スライド機構100、100A及び100Bでは、リンク部材102は、スイッチ52の+X側に配置されているが、本発明はこれに限定されない。リンク部材102は、スイッチ52よりも-X側に配置されていてもよいし、複数(例えば、スイッチ52の±X側に一対)配置されていてもよい。
【0080】
また、アクチュエータユニット54のシャフト56の往復直線運動を、楽器受け部26のスライド方向の運動に変換するためのリンク機構は、スライド機構100、100A及び100Bに限定されるものではない。
【0081】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。以下の説明では、第1の実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0082】
本実施形態では、楽器受け部26を図中左右方向(±Z方向)にスライドさせるスライド機構が第1及び第2の実施形態と異なる。
【0083】
図12及び
図13は、本発明の第3の実施形態に係るカポタストにおける楽器受け部のスライド機構を示す平面図(一部断面図)である。なお、
図12及び
図13は、それぞれ閉状態及び固定状態に対応している。
【0084】
本実施形態に係るスライド機構100Cは、押出部材150を含んでいる。押出部材150は、アクチュエータユニット54のシャフト56の下端部に固定されている。
【0085】
押出部材150は、X方向に延びる略角柱状の部材であり、+Z側の面(以下、スロープ150Aという。)は、YZ平面において傾きが正になるように形成されている。スロープ150Aには、-Z側から順に、第1係合穴152及び第2係合穴154が形成されている。第1係合穴152及び第2係合穴154は、押出部材150の移動に伴って、楽器受け部26の裏面側に突出する係合部26Dと係合可能となっている。
【0086】
図12に示すように、初期状態では、楽器受け部26の係合部26Dは、第1係合穴152と係合している。
図12に示すように、突起部26Bによりスイッチ52がオンになると、アクチュエータユニット54によりシャフト56が図中下方(-Y方向)に繰り出される。すると、
図13に示すように、押出部材150が図中下方(-Y方向)に移動し、係合部26Dが第2係合穴154と係合することにより、楽器受け部26が図中左側(+Z方向)に押し出される。これにより、弦楽器のネックGが楽器受け部26の受け面26Aと第2アーム部材14の受け面14Aとの間に挟持されて固定される。
【0087】
なお、本実施形態では、押出部材150に2つの係合穴(第1係合穴152及び第2係合穴154)を設けたが、係合穴の個数は3つ以上であってもよい。また、係合穴を設けないことも可能である。
【0088】
また、本実施形態では、シャフト56の表面に雄ネジを、押出部材150に雌ネジを形成し、アクチュエータユニット54に代えて、シャフト56を回転させるためのモーターを設けてもよい。この場合、モーターによりシャフト56を回転(正転又は反転)させることにより、押出部材150を±Y方向に沿って往復直線運動させることが可能になる。
【0089】
また、スライド機構100Cでは、係合部26D、第1係合穴152及び第2係合穴154は、スイッチ52の+X側に配置されているが、本発明はこれに限定されない。係合部26D、第1係合穴152及び第2係合穴154は、スイッチ52よりも-X側に配置されていてもよいし、複数(例えば、スイッチ52の±X側に一対)配置されていてもよい。
【0090】
また、押出部材150のスロープ150Aは、YZ平面において傾きが負になるように形成されていてもよい。この場合、突起部26Bによりスイッチ52がオンになったときに、アクチュエータユニット54によりシャフト56が図中上方(+Y方向)に引き戻されるようにすればよい。
【0091】
また、第2及び第3の実施形態では、楽器受け部26のスライド方向は、アクチュエータユニット54のシャフト56の往復直線運動の方向と略直交するようにしたが、本発明はこれに限定されない。楽器受け部26のスライド方向と、アクチュエータユニット54のシャフト56の往復直線運動の方向とは平行であってもよい。
【0092】
また、アクチュエータユニット54は、上記の各実施形態のシャフト56を往復直線運動させる機構に限定されない。例えば、圧電素子等を用いて楽器受け部26をスライドさせるようにしてもよいし、回転接片60を回転させるようにしてもよい。
【0093】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。以下の説明では、第1から第3の実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0094】
本実施形態では、楽器受け部26を図中左右方向(±Z方向)にスライドさせるスライド機構が第1から第3の実施形態と異なる。
【0095】
図14は、本発明の第4の実施形態に係るカポタストを示す側面図である(開状態)。
図14に示すように、本実施形態に係るスライド機構は、アクチュエータユニット54に代えて、ポンプ90及び袋体92を含んでいる。
【0096】
ポンプ90は、スイッチ52がオンになると、袋体92の内部に流体(例えば、気体(空気等)、液体等)を供給する。
【0097】
袋体92は、例えば、可撓性を有する袋状の部材であり、第1アーム部材12の内部に取り付けられている。袋体92は、内部に流体が供給されると図中左側(+Z方向)に拡張する。これにより、楽器受け部26が図中左側(+Z方向)に押し出され、弦楽器のネックGが固定される。
【0098】
なお、袋体92は、Z方向に拡縮し、かつ、XY方向に拡縮しないように蛇腹形状に形成されていてもよい。この場合、袋体92は、可撓性を有しないものであってもよい。また、袋体92は、楽器受け部26の裏面に沿う形状(例えば、スイッチ52を包囲するO字状)に形成されていてもよいし、複数の袋体92に分割されていてもよい。
【0099】
袋体92には、内部の流体を外部に排出するためのバルブ(不図示)が設けられている。解除レバー20が操作された場合、袋体92のバルブが開放され、内部の流体が外部に排出される。これにより、カポタスト10をネックGから容易に取り外すことが可能になる。
【0100】
なお、上記の各実施形態では、第1アーム部材12に対して第2アーム部材14を回動可能に取り付けた例について説明したが、本発明はこれに限定されない。上記の各実施形態に係る楽器受け部26を備える締付機構は、例えば、第1アーム部材と第2アーム部材とをリードスクリュー(送りねじ)により接続し、モーター等の電動駆動機構を用いてリードスクリューを駆動することにより、相互に平行移動させてネックを挟持するカポタストにも適用可能である。この場合、リードスクリューが、第1アーム部材に対して第2アーム部材が開く開方向の移動を規制した状態と、移動を許容した状態とを選択的に切り替える切替手段として機能する。
【0101】
また、上記の各実施形態では、スイッチ52を第1アーム部材12に設けたが、第2アーム部材14に設けてもよい。また、上記の各実施形態では、楽器受け部26を第1アーム部材12に設けたが、第2アーム部材14に設けてもよいし、第1アーム部材12及び第2アーム部材14の両方に設けてもよい。
【符号の説明】
【0102】
10…カポタスト、12…第1アーム部材、14…第2アーム部材、14A…受け面、14B…回転止め溝、16…軸、18…ねじりコイルばね、20…解除レバー、20A…突起部、22…軸、24…ねじりコイルばね、26…楽器受け部、26A…受け面、26B…突起部、26C…固定接片、26D…係合部、50…バッテリー、52…スイッチ、54、54A…アクチュエータユニット、56…シャフト、58…ラック部、60…回転接片、62…軸、64…モーター、66…電動アクチュエータ、80…ポンプ、82…流体アクチュエータ、90…ポンプ、92…袋体、100、100A、100B…スライド機構、102、104…リンク部材、106…固定部、108…スライダ、110A~110D…アーム、112…ガイドレール、114…凸部、116…リンク部材、150…押出部材