(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】ヒトTGF-βのLAP断片に対する抗体及びその利用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/22 20060101AFI20230919BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230919BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20230919BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230919BHJP
【FI】
C07K16/22 ZNA
G01N33/53 P
C12P21/08
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2019133839
(22)【出願日】2019-07-19
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】501083643
【氏名又は名称】学校法人慈恵大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】井上 育代
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 聡一
(72)【発明者】
【氏名】白水 美香子
(72)【発明者】
【氏名】津曲 千恵美
(72)【発明者】
【氏名】松本 武久
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】竹森 利忠
(72)【発明者】
【氏名】松浦 知和
(72)【発明者】
【氏名】政木 隆博
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雅央
(72)【発明者】
【氏名】須藤 浩三
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-508483(JP,A)
【文献】国際公開第2005/023870(WO,A1)
【文献】特表2016-521283(JP,A)
【文献】SpringerPlus,2014年,Vol.3, No.221,pp.1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CAplus/REGISTRY(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトTGF-βのLAP断片のインテグリン結合部位を認識する、ヒトTGF-βのLAP断片に対する単離モノクローナル抗体
であって、配列番号12、13及び14で表されるアミノ酸配列からそれぞれなるCDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖と、配列番号15、16及び17で表されるアミノ酸配列からそれぞれなるCDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖とを有する、単離モノクローナル抗体。
【請求項2】
前記インテグリン結合部位が、RGD配列を含む請求項1に記載の単離モノクローナル抗体。
【請求項3】
配列番号2で表されるアミノ酸配列の215~217番目のアミノ酸残基を含む領域を認識する請求項1又は2に記載の単離モノクローナル抗体。
【請求項4】
前記LAP断片との結合について、配列番号4、5及び6で表されるアミノ酸配列からそれぞれなるCDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖と、配列番号7、8及び9からそれぞれなるCDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖とを有する参照抗体と競合する請求項1~3のいずれか1項に記載の単離モノクローナル抗体。
【請求項5】
前記参照抗体の存在により、前記LAP断片との結合について表面プラズモン共鳴分析装置により測定したRmax値が少なくとも70%低下する請求項4に記載の単離モノクローナル抗体。
【請求項6】
配列番号18で表されるアミノ酸配列からなる可変領域を含む軽鎖と、配列番号19で表されるアミノ酸配列からなる可変領域を含む重鎖とを有する請求項1~
5のいずれか1項に記載の単離モノクローナル抗体。
【請求項7】
配列番号20で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖と、配列番号21で表されるアミノ酸配列を含む重鎖とを有する請求項1~
6のいずれか1項に記載の単離モノクローナル抗体。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の単離モノクローナル抗体を含む、LAP断片検出用試薬。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の単離モノクローナル抗体を含む第1試薬と、
配列番号3で表されるアミノ酸配列のN末端のロイシン残基を含む領域を特異的に認識する抗体を含む第2試薬と
を備える、LAP断片検出用試薬キット。
【請求項10】
前記第2試薬に含まれる抗体が、配列番号22で表されるアミノ酸配列のN末端のロイシン残基を含む領域を特異的に認識する抗体である請求項
9に記載の試薬キット。
【請求項11】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の単離モノクローナル抗体を用いて、被検者から採取した生体試料におけるTGF-βのLAP断片を測定することを含む、ヒトTGF-βのLAP断片の測定方法。
【請求項12】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の単離モノクローナル抗体を用いて、被検者から採取した第1生体試料におけるTGF-βのLAP断片を測定する工程と、
前記単離モノクローナル抗体を用いて、前記被検者から採取した第2生体試料におけるTGF-βのLAP断片を測定する工程と
を含み、
前記第1生体試料が、第1の時点において前記被検者から採取された生体試料であり、前記第2生体試料が、前記第1の時点とは異なる第2の時点において前記被検者から採取された生体試料である、ヒトTGF-βのLAP断片の測定値をモニタリングする方法。
【請求項13】
配列番号3で表されるアミノ酸配列のN末端のロイシン残基を含む領域を特異的に認識する抗体をさらに用いて、ヒトTGF-βのLAP断片を測定する請求項
11又は
12に記載の方法。
【請求項14】
配列番号22で表されるアミノ酸配列のN末端のロイシン残基を含む領域を特異的に認識する抗体をさらに用いて、ヒトTGF-βのLAP断片を測定する請求項
13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトTransforming Growth Factor(TGF)-βのLAP断片のインテグリン結合部位を認識する単離モノクローナル抗体に関する。また、本発明は、当該抗体を含むLAP断片検出用試薬に関する。さらに、本発明は、当該抗体を用いる、生体試料中のLAP断片の測定方法及びLAP断片の測定値をモニタリングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TGF-βは、多彩な生物活性を示すサイトカインであり、肝線維化などの病態にも関連する。TGF-βは、Latency associate protein(LAP)と呼ばれるプレペプチド部分にトラップされた潜在型複合体として産生される。何らかの活性化反応により、この潜在型複合体から活性型TGF-βが放出される。例えば
図1に示されるように、セリンプロテアーゼである血漿カリクレイン(PLK)による活性化反応では、潜在型複合体中のLAPが、58番目のアルギニン残基と59番目のロイシン残基との間で切断されて、活性型TGF-βが放出される。また、この活性化反応の副産物としてLAP断片(LAP degradates:LAP-D)が生じる。特許文献1には、PLKによる切断面を特異的に認識する抗LAP-D抗体を作製し、当該抗体及び市販の抗LAP抗体を用いたサンドイッチELISA法によりヒトLAP-Dを測定したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2011/0071278号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、LAP-Dとして、PLKで処理した組換え型LAPβ1(ヒトTGF-β1のLAP)タンパク質を測定しているが、被検者から採取した血漿などの臨床検体中のLAP-Dの測定はしていない。LAP-Dは、生体内でさらに分解を受けている可能性があり、また、臨床検体中にLAP-Dが検出に十分な量で存在するとも限らない。実際、本発明者らは、特許文献1に記載の抗体及び市販の抗LAP抗体を用いて、C型肝炎ウイルス感染患者から得た血漿検体中のLAP-Dを測定したところ、測定不能な検体及び測定値が非常に低い検体があった。よって、本発明は、LAP-Dの検出能の向上した測定を可能にする抗LAP-D抗体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ヒトTGF-βのLAP断片のインテグリン結合部位を認識する、ヒトTGF-βのLAP断片に対する単離モノクローナル抗体及びその利用を提供する。また、本発明は、この単離モノクローナル抗体を含むLAP断片検出用試薬を提供する。さらに、本発明は、この単離モノクローナル抗体を含む第1試薬と、配列番号3で表されるアミノ酸配列のN末端のロイシン残基を含む領域を特異的に認識する抗体を含む第2試薬とを備えるLAP断片検出用試薬キットを提供する。
【0006】
本発明は、上記の単離モノクローナル抗体を用いて、被検者から採取した生体試料におけるTGF-βのLAP断片を測定することを含む、ヒトTGF-βのLAP断片の測定方法を提供する。
【0007】
さらに、本発明は、上記の単離モノクローナル抗体を用いて、被検者から採取した第1生体試料におけるTGF-βのLAP断片を測定する工程と、上記の単離モノクローナル抗体を用いて、被検者から採取した第2生体試料におけるTGF-βのLAP断片を測定する工程とを含み、第1生体試料が第1の時点において被検者から採取された生体試料であり、第2生体試料が第1の時点とは異なる第2の時点において被検者から採取された生体試料である、ヒトTGF-βのLAP断片の測定値をモニタリングする方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヒトTGF-βのLAP断片の検出能の向上した測定を可能にする、ヒトTGF-βのLAP断片に対する単離モノクローナル抗体及びその利用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】PLKによるTGF-βの潜在型複合体の活性化反応を示す模式図である。
【
図2】本実施形態の試薬の一例を示す概略図である。
【
図3】本実施形態の試薬キットの一例を示す概略図である。
【
図4A】本実施形態の単離モノクローナル抗体を検出抗体として用いてLAP-Dの希釈系列を測定して作成した検量線である。
【
図4B】市販の抗LAP抗体(141402、BioLegend社)を検出抗体として用いてLAP-Dの希釈系列を測定して作成した検量線である。
【
図4C】市販の抗LAP抗体(349702、BioLegend社)を検出抗体として用いてLAP-Dの希釈系列を測定して作成した検量線である。
【
図4D】市販の抗LAP抗体(MA5-17186、Thermo Fisher Scientific社)を検出抗体として用いてLAP-Dの希釈系列を測定して作成した検量線である。
【
図5A】本実施形態の単離モノクローナル抗体を検出抗体として用いてLAP-Dの希釈系列を測定して作成した検量線である。
【
図5B】市販の抗ヒトLAP TGF-β1抗体(BAM2462、R&D Systems社)を検出抗体として用いてLAP-Dの希釈系列を測定して作成した検量線である。
【
図6A】本実施形態の単離モノクローナル抗体及び抗ヒトLAP TGF-β1抗体(BAM2462、R&D Systems社)を検出抗体として用いた測定による血漿検体中のLAP-D濃度を示すグラフである。
【
図6B】本実施形態の単離モノクローナル抗体及び抗ヒトLAP TGF-β1抗体(BAM2462、R&D Systems社)を検出抗体として用いた測定による血漿検体中のLAP-D濃度を示すグラフである。
【
図7A】Biacore(登録商標)により測定した市販の抗ヒトLAP TGF-β1抗体(BAM2462、R&D Systems社)の反応性を示すセンサーグラムである。
【
図7B】Biacore(登録商標)により測定した本実施形態の単離モノクローナル抗体の反応性を示すセンサーグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1.ヒトTGF-βのLAP断片に対する単離モノクローナル抗体]
本実施形態のヒトTGF-βのLAP断片に対する単離モノクローナル抗体(以下、単に「抗体」ともいう)は、ヒトTGF-βのLAP断片のインテグリン結合部位を認識することにより、ヒトTGF-βのLAP断片と特異的に結合する。
【0011】
本明細書において「LAP」とは、ヒトTGF-βの潜在型複合体において、活性型TGF-βと疎水結合により会合している二量体のプレペプチド部分をいう。「ヒトTGF-βのLAP断片」とは、ヒトTGF-βの潜在型複合体中のLAPがプロテアーゼにより切断されることで生成される、LAPの分解物をいう。以下、ヒトTGF-βのLAP断片を「LAP-D」又は単に「LAP断片」ともいう。「単離モノクローナル抗体」とは、天然環境の成分から分離及び/又は回収されたモノクローナル抗体であって、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まないモノクローナル抗体をいう。
【0012】
ヒトTGF-βには、TGF-β1、TGF-β2及びTGF-β3の3つのアイソフォームが存在する。本実施形態の抗体は、ヒトTGF-βのいずれのアイソフォームのLAP-Dと結合してもよいが、ヒトTGF-β1のLAP-Dと結合することが好ましい。いずれのアイソフォームのTGF-βも最初は、活性型TGF-βになる部分と、プレペプチド部分であるLAPとを含む前駆体ポリペプチドとして合成される。ここで、ヒトTGF-β1の前駆体ポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号1として示す。ヒトTGF-β1の前駆体ポリペプチドは390アミノ酸残基からなる。配列番号1で表されるアミノ酸配列において、30番目のアミノ酸残基から278番目のアミノ酸残基までの部分が、ヒトTGF-β1のLAP(単量体)であり、279番目のアミノ酸残基から390番目のアミノ酸残基までの部分が、活性型TGF-β1になる部分(活性型TGF-β1の単量体)である。ヒトTGF-β1のLAP(単量体)のアミノ酸配列を配列番号2として示す。
【0013】
TGF-βの前駆体ポリペプチドは、ゴルジ体において切断されて、活性型TGF-βになる部分とLAPとに分離される。分離したLAPはジスルフィド結合を介して二量体を形成する。分離した活性型TGF-βになる部分も二量体を形成して、活性型TGF-βが生成される。しかし、活性型TGF-βは、二量体のLAPにトラップされて、
図1に示すような潜在型複合体として分泌される。そして、LAPがプロテアーゼにより切断されると、活性型TGF-βが放出され、LAP-Dが生成される。生成直後のLAP-Dは二量体で存在すると考えられるが、その後、生体内でLAP-Dは単量体となることもあり得る。本実施形態の抗体は、二量体のLAP-Dに結合してもよいし、単量体のLAP-Dに結合してもよい。
【0014】
本実施形態の抗体が結合するLAP-Dは、インテグリン結合部位を有する限り、いずれのプロテアーゼによりLAPから生成されてもよい。好ましくは、ヒトTGF-βのLAPを切断して活性化TGF-βを遊離できるプロテアーゼにより生成されたLAP-Dである。そのようなプロテアーゼとしては、例えば、血漿カリクレイン(PLK)、プラスミン、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)3、MMP9などが公知である。それらの中でもPLKが特に好ましい。PLKは、配列番号1で表されるアミノ酸配列の58番目のアルギニン残基と59番目のロイシン残基との間でLAPを切断することが知られている。ヒトTGF-β1のLAPがPLKにより切断された場合、単量体のLAP-Dのアミノ酸配列は、配列番号3で表される配列である。
【0015】
「インテグリン結合部位」とは、インテグリンが認識する部位を含む、ヒトTGF-βのLAP上の領域をいう。潜在型複合体中のLAPがインテグリンと結合すると、LAPの構造が変化して、活性型TGF-βが遊離することが知られている。TGF-βの活性化反応により生じたLAP-Dにおいても、インテグリン結合部位は存在する。本実施形態では、LAP-Dが、そのインテグリン結合部位を介してインテグリンと結合可能か否かは問わない。本実施形態では、LAP-Dのインテグリン結合部位は、RGD配列(アルギニン、グリシン及びアスパラギン酸からなる配列)を含むことが好ましい。特に、LAP-Dのインテグリン結合部位は、RGD配列を含む4~10アミノ酸残基からなるLAP-D中の領域、又はRGD配列からなる領域であることがより好ましい。
【0016】
本実施形態の抗体は、LAP-Dのインテグリン結合部位として、配列番号2で表されるアミノ酸配列の215~217番目のアミノ酸残基(RGD配列)を含む、ヒトTGF-β1のLAP-D中の領域を認識することが好ましい。特に、本実施形態の抗体は、配列番号2で表されるアミノ酸配列の215~217番目のアミノ酸残基(RGD配列)を含む4~10アミノ酸残基からなるヒトTGF-β1のLAP-D中の領域、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列の215~217番目のアミノ酸残基からなる領域を認識することが好ましい。
【0017】
本実施形態の抗体は、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ウマなどのいずれの哺乳動物に由来するモノクローナル抗体であってもよいが、好ましくはマウスに由来するモノクローナル抗体である。本実施形態の抗体のクラスは、IgG、IgA、IgM、IgD及びIgEのいずれであってもよいが、好ましくはIgGである。IgGのサブクラスは特に限定されず、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のいずれであってもよい。本実施形態の抗体は、免疫グロブリンの形態だけでなく、抗体フラグメントの形態にあってもよい。そのような抗体フラグメントとしては、例えばFab、F(ab’)2、Fab’、Fv、Fd、ドメイン抗体(dAb)、一本鎖抗体(scFv)、ダイアボディなどが挙げられる。それらの中でもFabが好ましい。
【0018】
本実施形態の抗体は、ヒトTGF-βのLAP-Dとの結合、好ましくはヒトTGF-β1のLAP-Dとの結合について、所定の参照抗体と競合することが好ましい。この参照抗体は、重鎖及び軽鎖の可変領域のそれぞれに、3つの相補性決定領域(CDR)を有する。3つのCDRは、抗体鎖のアミノ末端から数えてCDR1、CDR2及びCDR3と呼ばれる。本実施形態において、参照抗体は、下記のアミノ酸配列(配列番号4、5及び6)からそれぞれなるCDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖と、下記のアミノ酸配列(配列番号7、8及び9)からそれぞれなるCDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖を有する。これらのCDRのアミノ酸配列は、Kabat分類(Wu TT.及びKabat EA., 1970, J.Exp.Med. 132:211-250)に基づく配列である。この参照抗体は、ヒトTGF-β1のLAP-Dのインテグリン結合部位に結合する単離モノクローナル抗体であるが、本実施形態の抗体には含まれない。
【0019】
[参照抗体のCDRのアミノ酸配列]
・軽鎖CDR1:SASSSVSYMH (配列番号4)
・軽鎖CDR2:STSNLAS (配列番号5)
・軽鎖CDR3:QQRSSYPFT (配列番号6)
・重鎖CDR1:SYWMN (配列番号7)
・重鎖CDR2:MIDPSDSETHYNQMFKD (配列番号8)
・重鎖CDR3:WPYALDY (配列番号9)
【0020】
好ましくは、参照抗体は、下記のアミノ酸配列(配列番号10)からなる可変領域を含む軽鎖と、下記のアミノ酸配列(配列番号11)からなる可変領域を含む重鎖を有する。これらの可変領域を有する参照抗体は、マウス由来のモノクローナル抗体である。
【0021】
[参照抗体の可変領域のアミノ酸配列]
・軽鎖の可変領域
QIVLTQSPAIMSASPGEKVTMTCSASSSVSYMHWFQQKPGTSPKLWIYSTSNLASGVPARFSGSGSGTSYSLTISRMEAEDAATYYCQQRSSYPFTFGSGTKLEIKRA (配列番号10)
・重鎖の可変領域
EVQLQQSGAELVRPGASVKLSCKASGYTFTSYWMNWVKQRPGQGLEWIGMIDPSDSETHYNQMFKDKATLTVDKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCVNWPYALDYWGQGTSVTVSS (配列番号11)
【0022】
本実施形態の抗体がLAP-Dとの結合について「参照抗体と競合する」とは、本実施形態の抗体が結合するLAP-D上の部位と、参照抗体が結合するLAP-D上の部位とが同一であること、又は、本実施形態の抗体が、参照抗体とLAP-Dとの結合の立体的障害となるLAP-D上の部位に結合することを意味する。すなわち、本実施形態の抗体は、上記の参照抗体のエピトープと完全に又は部分的に同じエピトープを認識する。
【0023】
LAP-Dとの結合について、本実施形態の抗体と参照抗体との競合は、表面プラズモン共鳴(SPR)分析により評価することができる。SPR分析は、例えばSPR分析装置を用いて行うことができる。そのような分析装置としては、例えばBiacore(登録商標)装置が挙げられる。この分析において、参照抗体は、Fabなどの抗体フラグメントの形態であってもよい。例えば、参照抗体の存在により、本実施形態の抗体とLAP-Dとの結合についてBiacore(登録商標)装置により測定した最大結合レスポンス値(以下、「Rmax値」ともいう)は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%低下する。換言すると、参照抗体の存在下での本実施形態の抗体とLAP-Dとの結合のRmax値は、参照抗体の非存在下での本実施形態の抗体とLAP-Dとの結合のRmax値に比べて少なくとも70%低下、好ましくは少なくとも75%低下する。ここで、Rmax値は、Biacore(登録商標)装置により測定されたレスポンスの最大値であり、センサーチップに固定した抗原(analyte)の分子量で調整していない値である。Biacore(登録商標)装置による測定条件は、実施例4に記載の試験条件である。なお、Biacore(登録商標)装置による測定では、レスポンスの値はRU(Resonance Unit)で表される。
【0024】
本実施形態の抗体は、重鎖及び軽鎖の可変領域のそれぞれに3つのCDRを有する。本実施形態の抗体は、下記のアミノ酸配列(配列番号12、13及び14)からそれぞれなるCDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖を有することが好ましい。また、本実施形態の抗体は、下記のアミノ酸配列(配列番号15、16及び17)からそれぞれなるCDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖を有することが好ましい。これらのCDRのアミノ酸配列は、Kabat分類に基づく配列である。これらのCDRを有する本実施形態の抗体は、ヒトTGF-β1のLAP-Dと特異的に結合する。
【0025】
[本実施形態の抗体のCDRのアミノ酸配列]
・軽鎖CDR1:RASHEISGYLG (配列番号12)
・軽鎖CDR2:AASTLDS (配列番号13)
・軽鎖CDR3:LQYASYPFT (配列番号14)
・重鎖CDR1:RFWMN (配列番号15)
・重鎖CDR2:MIHSSDSITRLNQKFKD (配列番号16)
・重鎖CDR3:GYDEYSAMDY (配列番号17)
【0026】
本実施形態の抗体がマウス由来のモノクローナル抗体である場合、該抗体は、下記のアミノ酸配列(配列番号18)からなる可変領域を含む軽鎖を有することが好ましい。また、該抗体は、下記のアミノ酸配列(配列番号19)からなる可変領域を含む重鎖を有することが好ましい。これらの可変領域を有する本実施形態の抗体は、ヒトTGF-β1のLAP-Dと特異的に結合する。
【0027】
[本実施形態の抗体の可変領域のアミノ酸配列]
・軽鎖の可変領域
DIQMTQSPSSLSASLGERVSLTCRASHEISGYLGWLQRQPDGTIKRLIYAASTLDSGVPKRFSGSRSGSDYSLTISSLESEDFADYYCLQYASYPFTFGSGTKLEVKRA (配列番号18)
・重鎖の可変領域
QVQLQQPGAELVRPGASVKLSCKTSGYSFTRFWMNWVRQRPGQGLEWIGMIHSSDSITRLNQKFKDKATLTLDYSSSTAYMQLSSPTSEDSAVYYCARGYDEYSAMDYWGQGTSVPVSS (配列番号19)
【0028】
本実施形態の抗体がマウス由来のモノクローナル抗体である場合、該抗体は、下記のアミノ酸配列(配列番号20)を含む軽鎖を有することが好ましい。また、該抗体は、下記のアミノ酸配列(配列番号21)を含む重鎖を有することが好ましい。これらの可変領域を有する本実施形態の抗体は、ヒトTGF-β1のLAP-Dと特異的に結合する。
【0029】
[本実施形態の抗体の軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列]
・軽鎖
MDMRVPAHVFGLLLLWFPGTRCDIQMTQSPSSLSASLGERVSLTCRASHEISGYLGWLQRQPDGTIKRLIYAASTLDSGVPKRFSGSRSGSDYSLTISSLESEDFADYYCLQYASYPFTFGSGTKLEVKRADAAPTVSIFPPSSEQLTSGGASVVCFLNNFYPKDINVKWKIDGSERQNGVLNSWTDQDSKDSTYSMSSTLTLTKDEYERHNSYTCEATHKTSTSPIVKSFNRNEC (配列番号20)
・重鎖
MGWSSIILFLVATATGVHSQVQLQQPGAELVRPGASVKLSCKTSGYSFTRFWMNWVRQRPGQGLEWIGMIHSSDSITRLNQKFKDKATLTLDYSSSTAYMQLSSPTSEDSAVYYCARGYDEYSAMDYWGQGTSVPVSSAKTTPPSVYPLAPGSAAQTNSMVTLGCLVKGYFPEPVTVTWNSGSLSSGVHTFPAVLQSDLYTLSSSVTVPSSTWPSETVTCNVAHPASSTKVDKKIVPRDCGCKPCICTVPEVSSVFIFPPKPKDVLTITLTPKVTCVVVDISKDDPEVQFSWFVDDVEVHTAQTQPREEQFNSTFRSVSELPIMHQDWLNGKEFKCRVNSAAFPAPIEKTISKTKGRPKAPQVYTIPPPKEQMAKDKVSLTCMITDFFPEDITVEWQWNGQPAENYKNTQPIMDTDGSYFVYSKLNVQKSNWEAGNTFTCSVLHEGLHNHHTEKSLSHSPGK (配列番号21)
【0030】
本実施形態の抗体は、配列番号18及び19のそれぞれで表される可変領域を有するキメラ抗体であってもよい。キメラ抗体とは、ある種(species)に由来する抗体の可変領域と、それとは異種に由来する抗体の定常領域とが連結した抗体である。また、本実施形態の抗体は、配列番号12、13及び14で表されるアミノ酸配列からそれぞれなる軽鎖のCDR1、CDR2及びCDR3と、配列番号15、16及び17で表されるアミノ酸配列からそれぞれなる重鎖のCDR1、CDR2及びCDR3とを有するヒト化抗体であってもよい。ヒト化抗体とは、非ヒト由来の抗体のCDRの遺伝子配列をヒト抗体遺伝子に移植(CDRグラフティング)して得られる抗体である。
【0031】
本実施形態の抗体には、ヒトTGF-β1のLAP-Dに結合する活性を減少させることなく、そのアミノ酸配列が改変された抗体も含まれる。そのようなアミノ酸配列の改変としては、アミノ酸残基の置換、欠失、付加及び/又は挿入が挙げられる。抗体のアミノ酸配列が改変される部位は、重鎖又は軽鎖の定常領域であってもよいし、可変領域であってもよい。可変領域を改変する場合は、フレームワーク領域(FR)を改変することが好ましい。FRとは、抗体の軽鎖及び重鎖のそれぞれの可変領域に存在する、CDR以外の領域である。FRは、3つのCDRを連結する足場の役割を果たし、CDRの構造安定性に寄与する。抗体のアミノ酸配列の改変は、DNA組み換え技術及びその他の分子生物学的技術などの公知の方法により、抗体遺伝子に変異を導入することにより行うことができる。
【0032】
改変されるアミノ酸残基の数は、通常10残基以下であり、好ましくは5残基以下、より好ましくは3残基以下である。抗体のアミノ酸配列の改変としては、保存的置換が好ましい。保存的置換とは、あるアミノ酸残基を、その残基の側鎖と化学的に同様の性質を有する側鎖を持つアミノ酸残基に置換することである。アミノ酸配列の保存的置換自体は、当該技術分野において公知である。あるいは、米国特許出願公開第2018/0179298号明細書に記載される、抗体のFR3のアミノ酸残基を改変することを含む抗体の抗原に対する親和性を制御する方法により、抗体のアミノ酸配列を改変してもよい。
【0033】
本実施形態の抗体は、当該技術分野において公知の標識物質で修飾されてもよい。そのような標識物質は、検出可能なシグナルが生じる限り、特に限定されない。例えば、それ自体がシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)であってもよいし、他の物質の反応を触媒してシグナルを発生させる物質であってもよい。シグナル発生物質としては、例えば、蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば、酵素が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、32Pなどが挙げられる。
【0034】
本発明の別実施形態は、本実施形態の抗体又はそのフラグメントをコードする単離且つ精製されたポリヌクレオチドを含む。本発明の別実施形態は、上記のポリヌクレオチドを含むベクターを含む。ベクターは、形質導入又はトランスフェクションのために設計されたポリヌクレオチド構築物である。ベクターの種類は特に限定されず、発現ベクター、クローニングベクター、ウィルスベクターなど、当該技術において公知のベクターから適宜選択できる。また、本発明の別実施形態は、該ベクターを含む宿主細胞を含む。宿主細胞の種類は特に限定されず、真核細胞、原核細胞、哺乳動物細胞などから適宜選択できる。
【0035】
本実施形態の抗体は、例えば、ハイブリドーマ法、ファージディスプレイ法などの公知のモノクローナル抗体の作製法により得ることができる。ハイブリドーマ法により本実施形態の抗体を産生するハイブリドーマを作製する場合、まず、免疫原として、TGF-β1-LAPのアミノ酸配列の一部又は全部を有するポリペプチドを用いることができる。該ポリペプチドは、LAP-Dのインテグリン結合部位を含むことが好ましい。具体的には、TGF-β1-LAP(アミノ酸残基30-390)が例示される。このポリペプチドは、プロテアーゼによる切断が生じないよう、活性化TGF-βのアミノ酸配列とLAPのアミノ酸配列との間に位置する切断サイトに変異を有し得る。例えば、278番目のアミノ酸残基アルギニンをアラニンなどのアルギニン以外のアミノ酸に置換することによりプロテアーゼにより認識されなくなり、切断が生じなくなる。ポリペプチドの合成法自体は公知であり、例えばFmoc固相合成法が挙げられる。合成したポリペプチドは免疫原性が低いので、キーホール・リンペット・ヘモシアニン(KLH)、アルブミンなどのキャリアータンパク質と結合させることが好ましい。架橋によりキャリアータンパク質と合成ペプチドとを結合する場合は、ポリペプチドを合成するときに、その配列のN末端又はC末端にシステイン残基を付加することが好ましい。あるいは、免疫原は、組換え型タンパク質として作製することもできる。組換え型TGF-βは、TGF-βのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを公知の発現ベクターに組み込み、このベクターで宿主細胞を形質転換して組換え型TGF-βを発現させた後、公知の方法で精製することにより得ることができる。精製した組換え型TGF-βは、免疫原として用いることができる。
【0036】
次に、作製したポリペプチドで適切な動物(例えばマウス、ラット、ハムスター、ウサギなど)を免疫し、免疫した動物から脾臓細胞などの抗体産生細胞を取得する。そして、Kohler及びMilstein, Nature, vol.256, p.495-497, 1975などに記載の公知のハイブリドーマの作製方法に従って、得られた抗体産生細胞と、適切なミエローマ細胞とを融合して、ハイブリドーマを得る。ハイブリドーマのスクリーニングには、免疫原に用いた合成ポリペプチドを用いることができる。本実施形態の抗体は、ハイブリドーマの培養上清、又は該ハイブリドーマを腹腔投与した哺乳動物の腹水から得ることができる。得られた抗体は、塩析、アフィニティクロマトグラフィ、ゲルろ過などの公知の方法により精製してもよい。
【0037】
ファージディスプレイ法では、例えば、本実施形態の抗体のFabフラグメントを作製できる。まず、上記の合成ポリペプチドでマウスなどの動物を免疫し、該動物の脾臓からmRNAを取得し、cDNAを合成する。得られたcDNAを、抗体遺伝子をクローニングするための公知のプライマーを用いて増幅し、Fabファージライブラリーを作製する。得られたライブラリーを用いて、公知のFabファージディスプレイ法及びバイオパニング(Philippa M. O'Brien及びRobert Aitken, Antibody Phage Display, (2002) Methods in Molecular Biology Volume No. 178参照)により、本実施形態の抗体のFabクローンを得ることができる。
【0038】
本実施形態の抗体のアミノ酸配列は、抗体を産生するハイブリドーマがある場合、後述の実施例3に記載のようにして解析できる。まず、該ハイブリドーマから抽出したRNAを用いて、逆転写反応及びRACE (Rapid Amplification of cDNA ends)法により、本実施形態の抗体をコードするポリヌクレオチドを合成する。そして、合成したポリヌクレオチドの塩基配列をシーケンシングにより解析し、その塩基配列に基づいて抗体のアミノ酸配列を決定する。
【0039】
後述の実施例に示されるように、本実施形態の抗体をサンドイッチELISA法に用いた場合、組換え型のLAP-Dに対してだけでなく、血漿などの被検者から採取した生体試料中のLAP-Dに対しても、検出能の高い測定が可能となる。よって、本実施形態の抗体は、生体試料中のLAP-Dの測定に有用である。また、近年、PLKにより誘導されるTGF-βの活性化及び放出は肝線維化を促すことが明らかとなった。PLKによるLAPの切断で生じたLAP-Dは、血中に放出されると考えられている。よって、本実施形態の抗体は、例えば、LAP-Dの血中濃度と肝線維化の進行との関連を明らかにする研究などに有用である。
【0040】
[2.LAP断片検出用試薬]
本実施形態のLAP断片検出用試薬(以下、単に「試薬」ともいう)は、上記の本実施形態のヒトTGF-βのLAP断片に対する単離モノクローナル抗体を含む試薬である。
【0041】
上述のように、本実施形態の抗体は、サンドイッチELISA法に用いたとき、LAP-Dに対して高い検出能を示すので、本実施形態の試薬は、サンドイッチELISA法に好適に用いることができる。本実施形態の試薬において、抗体は、当該技術分野において公知の標識物質で修飾されてもよい。そのような標識物質の詳細は、本実施形態の抗体について述べたことと同様である。
【0042】
本実施形態の試薬の形態は特に限定されず、固体(例えば粉末、結晶、凍結乾燥品など)であってもよいし、液体(例えば溶液、懸濁液、乳濁液など)であってもよい。試薬が液体である場合、溶媒は、本実施形態の抗体を溶解して保存できる限り、特に限定されない。溶媒としては、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝生理食塩水(TBS)、グッドの緩衝液などが挙げられる。グッドの緩衝液としては、例えば、MES、Bis-Tris、ADA、PIPES、Bis-Tris-Propane、ACES、MOPS、MOPSO、BES、TES、HEPES、HEPPS、Tricine、Tris、Bicine、TAPSなどが挙げられる。
【0043】
本実施形態の試薬は、公知の添加物を含んでいてもよい。添加物としては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)などタンパク質安定化剤、アジ化ナトリウムなどの防腐剤、塩化ナトリウムなどの無機塩類などが挙げられる。
【0044】
本実施形態では、試薬を収容した容器を箱に梱包して、ユーザに提供してもよい。箱には、添付文書を同梱してもよい。添付文書には、本実施形態の試薬の組成、使用方法、保存方法などについて記載されてもよい。本実施形態の試薬の一例を、
図2に示す。
図2において、11は、本実施形態の試薬を示し、12は、本実施形態の抗体を収容した第1容器を示し、13は、梱包箱を示し、14は、添付文書を示す。
【0045】
[3.LAP断片検出用試薬キット]
本実施形態のLAP断片検出用試薬キット(以下、単に「試薬キット」ともいう)は、上記の本実施形態のヒトTGF-βのLAP断片に対する単離モノクローナル抗体を含む第1試薬と、配列番号3で表されるアミノ酸配列のN末端のロイシン残基を含む領域を特異的に認識する抗体を含む第2試薬とを備える試薬キットである。
【0046】
配列番号3で表されるアミノ酸配列は、PLKによるヒトTGF-β1のLAPの切断により生じたLAP-Dのアミノ酸配列(配列番号1で表されるアミノ酸配列の59~278番目のアミノ酸残基からなる配列)である。このアミノ酸配列のN末端のロイシン残基は、PLKによるLAPの切断箇所である。すなわち、第2試薬に含まれる抗体は、PLKによるLAPの切断面を特異的に認識する抗体である。この抗体自体は公知であり、特許文献1に記載されている(特許文献1は、参照により本明細書に組み込まれる)。好ましい実施形態では、第2試薬に含まれる抗体は、配列番号22で表されるアミノ酸配列のN末端のロイシン残基を含む領域を特異的に認識する抗体である。配列番号22で表されるアミノ酸配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列の59~68番目のアミノ酸残基からなる配列である。
【0047】
本実施形態では、各試薬は、公知の添加物を含んでいてもよい。添加物の詳細は、本実施形態の試薬について述べたことと同様である。各試薬に含まれる抗体の形態は特に限定されず、固体(例えば粉末、結晶、凍結乾燥品など)であってもよいし、液体(例えば溶液、懸濁液、乳濁液など)であってもよい。
【0048】
本実施形態の試薬キットは、サンドイッチELISA法に好適に用いられる。本実施形態の試薬キットにおいて、第1試薬に含まれる本実施形態の抗体は、サンドイッチELISA法における検出抗体として用いることが好ましい。また、第2試薬に含まれる抗体は、サンドイッチELISA法における捕捉抗体として用いることが好ましい。ここで、「検出抗体」とは、被検物質と特異的に結合する抗体であって、標識物質と結合している場合、該標識物質を介して検出可能なシグナルを提供できる抗体をいう。検出抗体は、固相に固定されないことが好ましい。「捕捉抗体」とは、被検物質と特異的に結合し、且つ自身が固相に固定されることにより、該被検物質を固相上に捕捉するための抗体をいう。
【0049】
本実施形態の試薬キットは、捕捉抗体を固定化するための固相をさらに含んでもよい。固相は、捕捉抗体を固定可能な不溶性の担体であればよい。捕捉抗体の固相への固定の態様は、特に限定されない。例えば、捕捉抗体と固相とは、直接結合してもよいし、別の物質を介して間接的に結合してもよい。直接の結合としては、例えば、物理的吸着などが挙げられる。間接的な結合としては、例えば、ビオチン類(ビオチン、及びデスチオビオチンなどのビオチン類縁体を含む)とアビジン類(アビジン、及びストレプトアビジン、タマビジン(登録商標)などのアビジン類縁体を含む)との組み合わせを介した結合が挙げられる。この場合、捕捉抗体をあらかじめビオチン類で修飾し、固相にアビジン類をあらかじめ結合させておくことにより、ビオチン類とアビジン類との結合を介して、捕捉抗体と固相とが間接的に結合できる。
【0050】
固相の素材は特に限定されず、例えば、有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子などから選択できる。有機高分子化合物としては、ラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。無機化合物としては、磁性体(酸化鉄、酸化クロム及びフェライトなど)、シリカ、アルミナ、ガラスなどが挙げられる。生体高分子としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロースなどが挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。固相の形状は特に限定されず、例えば、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管、粒子、膜などが挙げられる。それらの中でも、マイクロプレート及び粒子(特に磁性粒子)が好ましい。
【0051】
本実施形態において、各試薬に含まれる抗体は、当該技術分野において公知の標識物質で修飾されてもよい。特に、第1試薬に含まれる抗体が標識物質で修飾されることが好ましい。そのような標識物質の詳細は、本実施形態の抗体について述べたことと同様である。標識物質が酵素である場合、試薬キットは該酵素の基質を含んでもよい。基質は、酵素の種類に応じて適宜決定できる。
【0052】
本実施形態では、第1試薬及び第2試薬をそれぞれ収容した容器を箱に梱包して、ユーザに提供してもよい。箱には、添付文書を同梱してもよい。添付文書には、本実施形態の試薬キットの構成、使用方法、保存方法などについて記載されてもよい。本実施形態の試薬キットの一例を、
図3に示す。
図3において、21は、本実施形態の試薬キットを示し、22は、本実施形態の抗体を収容した第1容器を示し、23は、本実施形態の捕捉抗体を収容した第2容器を示し、24は、梱包箱を示し、25は、添付文書を示す。この例において、試薬キットは、捕捉抗体を固定化するための固相をさらに含んでもよい。
【0053】
本実施形態では、試薬キットは、LAP-Dのキャリブレータを含んでもよい。キャリブレータの一例としては、LAP-D定量用キャリブレータが挙げられる。このキャリブレータは、例えば、LAP-Dを含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、LAP-Dを既知濃度で含む緩衝液とを備えていてもよい。キャリブレータに含まれるLAP-Dとしては、組換え型のLAP-Dであってもよいし、LAP-Dのアミノ酸配列からなる合成ペプチドであってもよい。組換え型のLAP-Dは、組換え型ヒトTGF-βのLAPタンパク質をPLKなどのプロテアーゼで限定分解することにより得ることができる。
【0054】
[4.ヒトTGF-βのLAP断片の測定方法]
本実施形態のヒトTGF-βのLAP断片の測定方法(以下、「測定方法」ともいう)は、抗体を用いて、被検者から採取した生体試料におけるヒトTGF-βのLAP断片を測定することを含む。
【0055】
被検者は、特に限定されず、例えば、TGF-βの異常に関連する病態又は疾患を有する患者などが挙げられる。そのような病態としては、例えば肝臓、肺、腎臓などの線維化が挙げられる。また、疾患としては、ウイルス性肝炎(特にC型肝炎)、肝硬変、がんなどが挙げられる。生体試料としては、被検者から採取した臨床検体などが挙げられる。臨床検体としては、例えば血液(全血、血漿、血清)、組織液、脳脊髄液、腹水、尿などが挙げられる。
【0056】
生体試料に細胞などの不溶性の夾雑物が含まれる場合は、遠心分離、ろ過などの公知の手段により、生体試料から夾雑物を除去してもよい。また、生体試料は、必要に応じて適切な水性媒体で希釈してもよい。そのような水性媒体は、後述の測定を妨げない限り、特に限定されず、例えば、水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液は、中性付近のpH(例えば6以上8以下のpH)で緩衝作用を有する限り、特に限定されない。そのような緩衝液は、例えば、HEPES、MES、PIPESなどのグッド緩衝液、TBS、PBSなどが挙げられる。
【0057】
本明細書において「ヒトTGF-βのLAP断片を測定する」とは、ヒトTGF-βのLAP-Dの量又は濃度の値を決定すること、及び、ヒトTGF-βのLAP-Dの量又は濃度を反映する情報を取得することを含む。「ヒトTGF-βのLAP-Dの量又は濃度を反映する情報」とは、生体試料又は該生体試料から調製した測定試料におけるヒトTGF-βのLAP-Dの量又は濃度に応じて変化する指標を意味する。そのような指標は、視認可能又は機械的に測定可能な光学的変化の指標であることが好ましい。光学的変化の指標としては、例えば、発光強度、蛍光強度、吸光度、濁度、発色の濃さなどが挙げられる。
【0058】
上記の本実施形態の抗体を用いて、LAP-Dを測定する方法は特に限定されず、公知の免疫学的測定法から適宜選択できる。そのような測定法としては、例えばELISA法、ウェスタンブロット法などが挙げられる。あるいは、特開平1-254868号公報に記載の免疫複合体転移法を用いることもできる。それらの中でもELISA法が好ましい。ELISA法の種類は、サンドイッチ法、競合法、直接法、間接法などのいずれであってもよいが、サンドイッチ法が特に好ましい。一例として、サンドイッチELISA法により測定する場合について、以下に説明する。この例において、本実施形態の抗体は、検出抗体として用いられる。
【0059】
まず、LAP-Dと、LAP-Dに対する捕捉抗体と、本実施形態の抗体(検出抗体)とを含む複合体を固相上に形成させる。該複合体は、バイオマーカーを含み得る生体試料と、捕捉抗体と、検出抗体とを混合することにより形成できる。そして、複合体を含む溶液を、捕捉抗体を捕捉できる固相と接触させることにより、上記の複合体を固相上に形成させることができる。あるいは、捕捉抗体をあらかじめ固定させた固相を用いてもよい。すなわち、捕捉抗体を固定させた固相と、生体試料と、検出抗体とを接触することにより、上記の複合体を固相上に形成させることができる。
【0060】
捕捉抗体は、LAP-Dと特異的に結合できる抗体であれば、特に限定されない。捕捉抗体がモノクローナル抗体の場合は、捕捉抗体のエピトープは、インテグリン結合部位以外であることが好ましい。好ましい実施形態では、捕捉抗体は、配列番号3で表されるアミノ酸配列のN末端のロイシン残基を含む領域を特異的に認識する抗体である。より好ましくは、配列番号22で表されるアミノ酸配列のN末端のロイシン残基を含む領域を特異的に認識する抗体である。
【0061】
そして、固相上に形成された複合体を、当該技術において公知の方法で検出することにより、生体試料に含まれるバイオマーカーを測定できる。例えば、検出抗体として、標識物質で標識した本実施形態の抗体を用いた場合は、その標識物質により生じるシグナルを検出することにより、生体試料中のヒトTGF-β1のLAP-Dを測定できる。あるいは、検出抗体に対する標識二次抗体を用いた場合も、同様にして生体試料中のヒトTGF-β1のLAP-Dを測定できる。標識物質の詳細は、上記の本実施形態の抗体について述べたことと同様である。
【0062】
本実施形態においては、複合体の形成と複合体の検出との間に、複合体を形成していない未反応の遊離成分を除去するB/F(Bound/Free)分離を行ってもよい。未反応の遊離成分とは、複合体を構成しない成分をいう。例えば、ヒトTGF-β1のLAP-Dと結合しなかった捕捉抗体及び検出抗体などが挙げられる。B/F分離の手段は特に限定されないが、固相が粒子であれば、遠心分離により、複合体を捕捉した固相だけを回収することによりB/F分離ができる。固相がマイクロプレートやマイクロチューブなどの容器であれば、未反応の遊離成分を含む液を除去することによりB/F分離ができる。また、固相が磁性粒子の場合は、磁石で磁性粒子を磁気的に拘束した状態でノズルによって未反応の遊離成分を含む液を吸引除去することによりB/F分離ができ、自動化の観点で好ましい。未反応の遊離成分を除去した後、複合体を捕捉した固相をPBSなどの適切な水性媒体で洗浄してもよい。
【0063】
本明細書において「シグナルを検出する」とは、シグナルの有無を定性的に検出すること、シグナル強度を定量すること、及び、シグナルの強度を半定量的に検出することを含む。半定量的な検出とは、シグナルの強度を、「シグナル発生せず」、「弱」、「中」、「強」などのように段階的に示すことをいう。本実施形態では、シグナルの強度を定量的又は半定量的に検出することが好ましい。
【0064】
シグナルを検出する方法自体は、当該技術において公知である。本実施形態では、上記の標識物質に由来するシグナルの種類に応じた測定方法を適宜選択すればよい。例えば、標識物質が酵素である場合、該酵素に対する基質を反応させることによって発生する光、色などのシグナルを、分光光度計などの公知の装置を用いて測定することにより行うことができる。
【0065】
酵素の基質は、該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択できる。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質として、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2-(5'-クロロ)トリシクロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ-インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸などの発色基質が挙げられる。また、酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合、基質としては、ルミノール及びその誘導体などの化学発光基質、2, 2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)(ABTS)、1, 2-フェニレンジアミン(OPD)、3, 3',5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)などの発色基質が挙げられる。
【0066】
標識物質が放射性同位体である場合は、シグナルとしての放射線を、シンチレーションカウンターなどの公知の装置を用いて測定できる。また、標識物質が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダーなどの公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0067】
シグナルの検出結果は、ヒトTGF-β1のLAP-Dの測定結果として用いることができる。例えば、シグナルの強度を定量する場合は、シグナル強度の測定値自体又は該測定値から取得される値を、ヒトTGF-β1のLAP-Dの測定結果として用いることができる。シグナル強度の測定値から取得される値としては、例えば、該測定値から陰性対照試料の測定値又はバックグラウンドの値を差し引いた値などが挙げられる。また、シグナル強度の測定値を検量線に当てはめて、ヒトTGF-β1のLAP-Dの量又は濃度の値を決定してもよい。陰性対照試料は、適宜選択できるが、例えば、健常人から得た生体試料などが挙げられる。
【0068】
本実施形態では、磁性粒子に固定された捕捉抗体と、標識物質で標識された本実施形態の抗体(検出抗体)とを用いるサンドイッチELISA法により、生体試料中のヒトTGF-β1のLAP-Dを測定してもよい。この場合、測定は、HISCLシリーズ(シスメックス株式会社製)などの市販の全自動免疫測定装置を用いて行ってもよい。
【0069】
[5.ヒトTGF-βのLAP断片の測定値をモニタリングする方法]
本実施形態のヒトTGF-βのLAP断片の測定値をモニタリングする方法(以下、「モニタリング法」ともいう)では、上記の本実施形態の抗体を用いて、被検者から採取した第1生体試料におけるTGF-βのLAP-Dを測定する工程と、該被検者から採取した第2生体試料におけるTGF-βのLAP-Dを測定する工程とを含む。第1生体試料は、第1の時点において被検者から採取された生体試料である。第2生体試料は、第1の時点とは異なる第2の時点において、同じ被検者から採取された生体試料である。本実施形態のモニタリング法では、第1及び第2生体試料中のTGF-βのLAP断片の測定値を比較することで、被検者におけるLAP断片の測定値の変化をモニタリングすることができる。
【0070】
第1及び第2生体試料としては、被検者から採取した臨床検体などが挙げられる。臨床検体の詳細は、本実施形態の測定方法について述べたことと同様である。第1生体試料と第2生体試料とは、同じ種類の試料であることが好ましい。被検者は、特に限定されず、例えば、TGF-βの異常に関連する病態又は疾患を有する患者などが挙げられる。そのような病態及び疾患の詳細は、本実施形態の測定方法について述べたことと同様である。あるいは、被検者は、TGF-βの異常に関連する病態又は疾患に対する治療を受けているか、又は該治療を受ける予定のある患者であってもよい。
【0071】
第1の時点は、特に限定されず、任意の時点である。第2の時点は、第1の時点とは異なる限り、特に限定されない。第2の時点は、第1の時点から、1日~6ヶ月の範囲から選択される期間が経過した時点であってもよい。具体的には、第1の時点から第2の時点の間は、3ヶ月程度であり得る。例えば、約3ヶ月ごとに被検者から生体試料を採取し、測定を行うことができる。被検者が、TGF-βの異常に関連する病態又は疾患に対する治療を受けている場合、治療を受けた時点を第1の時点とし、次回の治療を受けた時点を第2の時点としてもよい。被検者が、TGF-βの異常に関連する病態又は疾患に対する治療を受ける予定のある患者の場合、治療の開始前の時点又は治療開始の時点を第1の時点とし、治療開始から所定の期間の経過後の時点を第2の時点としてもよい。TGF-βの異常に関連する病態又は疾患と、TGF-βのLAP断片の測定値とが密接に関連する場合、第1及び第2生体試料中のTGF-βのLAP断片の測定値を比較することで、治療の効果をモニタリングすることができる。
【0072】
第1及び第2生体試料中のTGF-βのLAP-Dの測定については、本実施形態の測定方法について述べたことと同様である。第1及び第2生体試料の測定は、実質的に同時に行ってもよいし、逐次行ってもよい。第1及び第2生体試料の測定を実質的に同時に行う場合は、測定までの間、第1生体試料を適切に保存することが好ましい。必要であれば、第2生体試料も測定までの間、適切に保存してもよい。
【0073】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0074】
[製造例] ヒトTGF-βのLAP断片のインテグリン結合部位を認識するモノクローナル抗体の作製
(1) 抗原の作製
TGF-β1-LAP(アミノ酸残基30-390)にR278Aの変異を挿入したポリペプチドを作製した。このポリペプチドをコードする遺伝子配列にHisタグ配列を付加した配列を有するポリヌクレオチドを、Igkシグナルの下流につなぎ、pOripベクターを用いてHEK293F細胞において発現させた。HisTrap(GE healthcare社)をメーカーの使用説明書に従って用いて、可溶性画分からTGF-β1-LAPを精製した。HisタグをTEVプロテアーゼで切断し、得られたTGF-β1-LAPをもう一度HisTrapカラムへローディングし、素通り画分を回収した。これをゲル濾過カラム(Superdex 200 Increase 10/300 GL、GE Healthcare社)にて公知の方法により精製し、低分子画分を回収した。回収した低分子画分を抗原として用いた。
【0075】
(2) ハイブリドーマの作製及びスクリーニング
作製した抗原をメスのBalb/cマウスに免疫し、Kohler及びMilstein, Nature, vol.256, p.495-497, 1975に記載される方法により、ヒトTGF-βのLAP断片に対する抗体を産生するハイブリドーマを作製した。得られたバイブリドーマについて、抗原に反応性を示す抗体を産生する株をELISA法により選択した。選択したハイブリドーマを限界希釈法によりクローニングし、ヒトTGF-βのLAP断片に対する抗体を安定に産生する株をさらに選択した。
【0076】
(3) モノクローナル抗体の精製
ハイブリドーマの培養上清(10O mL)を0.22μmフィルタ一でろ過して不溶物を除去した。ろ過した培養上清を、1mLのProtein G-sepharose 4B(GE Healthcare社)を充填したカラムに通し、抗体をカラムに吸着させた。カラムから非特異吸着分を除去した後、カラムを酸性条件におくことでモノクローナル抗体を遊離させた。回収したモノクローナル抗体を、100倍量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で透析して、精製されたモノクローナル抗体を得た。得られたモノクローナル抗体を以下「抗LAP-D抗体(A10)」とも呼び、以降の実施例に用いた。
【0077】
[実施例1] 抗LAP-D抗体(A10)と市販の抗LAP抗体との比較
抗LAP-D抗体(A10)を検出抗体として用いたサンドイッチELISA法の感度を評価するため、3種類の市販の抗LAP抗体との比較試験を行った。
【0078】
(1) 試験条件
(1.1) 検出抗体の調製
Biotin Labeling Kit-NH2(Cat#LK03、同仁化学研究所)を用いて、抗LAP-D抗体(A10)、抗LAP抗体(141402、BioLegend社)、抗LAP抗体(349702、BioLegend社)及び抗LAP抗体(MA5-17186、Thermo Fisher Scientific社)のそれぞれをビオチン標識して、検出抗体を得た。各検出抗体を抗体希釈用溶液(10μg/mLマウスIgG含有HEPES)で希釈して、各検出抗体の溶液(いずれも5μg/mL)を得た。
【0079】
(1.2) 検量線用標準物質(LAP-D)の調製
7.0μLのヒト組換えLAP(20μg/mL、R&D社)、9.4μLのPLK(59.3μg/mL、Sigma-Aldrich社)及び83.6μLのPBSを混合し、得られた混合液を37℃で1時間インキュベートして、LAP-D溶液を得た。LAPの分子量を27 kDaとした場合、得られたLAP-D溶液の濃度は52 nMとなった。LAP-D溶液を1%BSA/TBSで800倍に希釈し、検量線の上限を65 pMとした。LAP-Dの希釈溶液をさらに希釈して、希釈系列(32.5 pM、16.3 pM、8.1 pM、4.1 pM、2.0 pM、1.0 pM及び0pM)を調製した。
【0080】
(1.3) 捕捉抗体の調製
捕捉抗体として、特許文献1に記載のLAP-Dに対する抗体(以下、「抗L59 LAP-D抗体」とも呼ぶ)を用いた。この抗体は、PLKにより切断されたLAPの切断面、すなわち配列番号3で表されるアミノ酸配列のN末端のロイシン残基を含む領域を特異的に認識する。抗L59 LAP-D抗体をTBSで希釈して、捕捉抗体溶液(20μg/mL)を得た。
【0081】
(2) 試験方法
6本のNNモジュールF8マキシソープ(NUNC社)を1フレームにセットしたプレートに捕捉抗体溶液を1ウェルあたり50μLで分注し、プレートを4℃で一晩インキュベートした。プレートを、1ウェル当たり200μLの洗浄液(0.05%Tween20含有TBS)で3回洗浄した。ブロッキング溶液(1%BSA含有TBS)を1ウェルあたり350μLで分注し、プレートを4℃で一晩インキュベートした。ブロッキング溶液を除去し、8段階に希釈した検量線用標準物質を1ウェルあたり50μL(n=3)で分注し、プレートを4℃で一晩インキュベートした。プレートを上記のように洗浄液で3回洗浄した後、各検出抗体の溶液を1ウェルあたり50μLで分注し、プレートを4℃で3時間インキュベートした。プレートを上記のように洗浄液で3回洗浄した後、アルカリホスファターゼ・ストレプトアビジン溶液(0.05μg/mL)を1ウェルあたり50μLで分注し、プレートを室温で3時間インキュベートした。プレートを上記のように洗浄液で3回洗浄した後、発色基質溶液(4-ニトロフェニルリン酸)を1ウェルあたり100μLで分注し、プレートを4℃で一晩インキュベートした。プレートを室温に戻した後、405 nmの吸光度を測定した。検量線用標準物質のLAP-D濃度に対する吸光度の測定値をプロットして、検量線を作成した。
【0082】
(3) 結果
各検出抗体についての検量線を
図4A~Dに示す。これらの図から分かるように、検出抗体として抗LAP-D抗体(A10)を用いた場合のみ、定量性を有する検量線を作成することができた。抗LAP-D抗体(A10)は、PLKにより得られたLAP-Dに対する感度が高く、LAP-Dを検出するためのELISA法の検出抗体として有用であることが示された。
【0083】
[実施例2] 抗LAP-D抗体(A10)の有用性の評価
抗LAP-D抗体(A10)の有用性を評価するため、ヒト血漿検体中のLAP-DをELISA法で測定した。比較のため、市販のLAP-D検出用ELISAキットに含まれる抗LAP-D抗体による測定を同じ条件下で行った。
【0084】
(1) 試験条件
(1.1) 生体試料
直接作用型抗ウイルス剤(DAA)投与中のC型肝炎ウイルス感染患者6名から、所定の間隔をあけて血液を複数回採取し、血漿検体(48検体)を得た。各血漿検体は、ブロッキング溶液(1%BSA含有TBS)で20倍に希釈して測定に用いた。これらの血漿検体について、あらかじめ市販のLAP-D検出用ELISAキット(R&D Systems社)を用いてLAP-Dを測定し、測定不能の検体及び測定値が非常に低かった検体を選択した。測定は、キットに添付のマニュアルに従って行った。実施例2では、選択された検体を用いた。
【0085】
(1.2) 検出抗体、捕捉抗体及び検量線用標準物質
検出抗体として、実施例1と同様にして調製したビオチン標識抗LAP-D抗体(A10)を用いた。また、比較のための検出抗体として、上記のLAP-D検出用ELISAキットに含まれるビオチン化抗ヒトLAP TGF-β1抗体(BAM2462、R&D Systems社)(以下、「BAM2462抗体」ともいう)を用いた。各検出抗体を抗体希釈用溶液(10μg/mLマウスIgG含有HEPES)で希釈して、各検出抗体の溶液(いずれも2.5μg/mL)を得た。検量線用標準物質及び捕捉抗体は、実施例1と同様にして調製した。
【0086】
(2) 試験方法
8本のNNモジュールF8マキシソープ(NUNC社)を4フレーム(プレート2枚×抗体2種類分)にセットしたプレートに、捕捉抗体溶液を1ウェルあたり50μLで分注し、プレートを4℃で一晩インキュベートした。実施例1と同様に、プレートを洗浄してブロッキングした。ブロッキング溶液を除去し、8段階に希釈した検量線用標準物質及び20倍希釈した血漿検体を1ウェルあたり50μL(n=3)で分注し、プレートを4℃で一晩インキュベートした。実施例1と同様に、プレートを洗浄し、各検出抗体の溶液を各ウェルに分注してプレートを4℃で3時間インキュベートした。実施例1と同様に、プレートを洗浄し、発色基質溶液を各ウェルに分注してインキュベートし、405 nmの吸光度を測定した。
【0087】
(3) データ処理
プレートごとに検量線を作成した。各検出抗体についての検量線の一例を
図5A及びBに示す。検量線から、20倍希釈した各血漿検体についてLAP-Dの値を得た。得られたLAP-Dの値を20倍した値を、各血漿検体中のLAP-D濃度値とした。検量線から得られた値がマイナスである場合は「0 pM」とみなした。5名の患者の各血漿検体中のLAP-D濃度値のグラフを
図6A及びBに示す。
【0088】
(4) 結果
図5A及びBに示されるように、検量線の傾きは、抗LAP-D抗体(A10)を用いた測定の方が大きかった。また、抗LAP-D抗体(A10)を用いた測定によるLAP-Dの定量性は、BAM2462抗体を用いた測定と同等かそれ以上であった。
図6A及びBから分かるように、検出抗体として抗LAP-D抗体(A10)を用いた場合のみ、LAP-Dを検出できた検体が多数認められた。よって、血漿検体などの生体試料中のLAP-Dを測定する場合、抗LAP-D抗体(A10)を用いるELISA法が有用であることが示された。
【0089】
[実施例3] 抗LAP-D抗体(A10)のアミノ酸配列の解析
(1) RACE-Ready cDNAライブラリーの調製
抗LAP-D抗体(A10)産生ハイブリドーマの凍結ストック(1x107 cells/vial、1本)を解凍し、500 gで5分間遠心分離して上清を除去した。得られた細胞から、GenElute Direct mRNA Miniprep Kit(Sigma-Aldrich社)を用いてmRNAを調製した。得られたmRNAを核酸定量装置Nano Drop 2000(Thermo Fisher Scientific社)で測定して濃度を定量した。100μgのmRNAから、SMARTer RACE5'/3'Kit (Clontech社)を用いてRACE-Ready cDNAを調製した。プライマーは該キットに添付の5'-CDRプライマーを用いた。
【0090】
(2) 抗体遺伝子の増幅
200 ngのRACE-Ready cDNAを鋳型とし、DNAポリメラーゼKOD Plus neo(TOYOBO)を用いて50μLスケールで抗体遺伝子(重鎖及び軽鎖)を増幅した。フォワードプライマーには、SMARTer RACE5'/3'Kitに添付のUniversal Primier Mixを1/10量用いた。リバースプライマーには、軽鎖用プライマー3種及び重鎖用プライマー3種をそれぞれ用いた。反応液の組成は、キットに添付のマニュアルに従った。反応条件は、94℃で2分の変性後、96℃で10秒及び68℃で80秒の2ステップを35サイクルであった。
【0091】
(3) 抗体遺伝子の配列解析
PCRの増幅産物を2%アガロースゲル(1/20000 GelGreen Nucleic Acid Gel Stain(Biotium社)含有)中に100 Vで30分間電気泳動した。泳動後、緑色LED照射下で、各リバースプライマーに対応する増幅産物のバンドをゲルから切り出した。切り出したバンドを含むゲルから、Wizard SV Gel and Clean-Up System(Promega社)を用いてDNAを抽出した。得られたDNAの核酸配列解析をユーロフィンジェノミクス株式会社に委託した。軽鎖の3種の配列情報及び重鎖の3種の配列情報を解析ソフトウェアGenetyx Ver.14.1(ゲネティックス社)で解析して、軽鎖及び重鎖のそれぞれの配列情報を自動統合した。
【0092】
(4) 結果
抗LAP-D抗体(A10)の軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列は、以下のとおりであった。
・軽鎖
MDMRVPAHVFGLLLLWFPGTRCDIQMTQSPSSLSASLGERVSLTCRASHEISGYLGWLQRQPDGTIKRLIYAASTLDSGVPKRFSGSRSGSDYSLTISSLESEDFADYYCLQYASYPFTFGSGTKLEVKRADAAPTVSIFPPSSEQLTSGGASVVCFLNNFYPKDINVKWKIDGSERQNGVLNSWTDQDSKDSTYSMSSTLTLTKDEYERHNSYTCEATHKTSTSPIVKSFNRNEC (配列番号20)
・重鎖
MGWSSIILFLVATATGVHSQVQLQQPGAELVRPGASVKLSCKTSGYSFTRFWMNWVRQRPGQGLEWIGMIHSSDSITRLNQKFKDKATLTLDYSSSTAYMQLSSPTSEDSAVYYCARGYDEYSAMDYWGQGTSVPVSSAKTTPPSVYPLAPGSAAQTNSMVTLGCLVKGYFPEPVTVTWNSGSLSSGVHTFPAVLQSDLYTLSSSVTVPSSTWPSETVTCNVAHPASSTKVDKKIVPRDCGCKPCICTVPEVSSVFIFPPKPKDVLTITLTPKVTCVVVDISKDDPEVQFSWFVDDVEVHTAQTQPREEQFNSTFRSVSELPIMHQDWLNGKEFKCRVNSAAFPAPIEKTISKTKGRPKAPQVYTIPPPKEQMAKDKVSLTCMITDFFPEDITVEWQWNGQPAENYKNTQPIMDTDGSYFVYSKLNVQKSNWEAGNTFTCSVLHEGLHNHHTEKSLSHSPGK (配列番号21)
【0093】
抗LAP-D抗体(A10)の軽鎖及び重鎖の可変領域のアミノ酸配列は、以下のとおりであった。
・軽鎖可変領域
DIQMTQSPSSLSASLGERVSLTCRASHEISGYLGWLQRQPDGTIKRLIYAASTLDSGVPKRFSGSRSGSDYSLTISSLESEDFADYYCLQYASYPFTFGSGTKLEVKRA (配列番号18)
・重鎖可変領域
QVQLQQPGAELVRPGASVKLSCKTSGYSFTRFWMNWVRQRPGQGLEWIGMIHSSDSITRLNQKFKDKATLTLDYSSSTAYMQLSSPTSEDSAVYYCARGYDEYSAMDYWGQGTSVPVSS (配列番号19)
【0094】
抗LAP-D抗体(A10)の軽鎖及び重鎖のCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列は、以下のとおりであった。なお、これらのCDRのアミノ酸配列は、Kabat分類に基づく配列である。
・軽鎖CDR1:RASHEISGYLG (配列番号12)
・軽鎖CDR2:AASTLDS (配列番号13)
・軽鎖CDR3:LQYASYPFT (配列番号14)
・重鎖CDR1:RFWMN (配列番号15)
・重鎖CDR2:MIHSSDSITRLNQKFKD (配列番号16)
・重鎖CDR3:GYDEYSAMDY (配列番号17)
【0095】
[実施例4] 抗LAP-D抗体(A10)の反応性の評価
本発明者らはこれまでに、抗LAP-D抗体(A10)とは別の抗LAP-Dモノクローナル抗体(以下、「A2D109抗体」と呼ぶ)を作製し、このA2D109抗体がLAP-Dのインテグリン結合部位に結合することをX線結晶構造解析により明らかにしている(後述の参考例を参照)。ここで、A2D109抗体は、配列番号4~6で表されるアミノ酸配列からそれぞれなる軽鎖CDR1~3と、配列番号7~9で表されるアミノ酸配列からそれぞれなる重鎖CDR1~3とを有する。また、A2D109抗体は、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなる可変領域を含む軽鎖と、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなる可変領域を含む重鎖とを有する。抗LAP-D抗体(A10)のの反応性の評価するため、LAP-Dとの結合について、抗LAP-D抗体(A10)がA2D109と競合するか否かを、Biacore(登録商標)装置を用いるSPR分析により検討した。比較のため、BAM2462抗体も用いて同様の分析を行った。
【0096】
(1) 試験条件
(1.1) 抗原(Analyte)の調製
・ヒトTGF-β1のLAP-Dの調製
TGF-β1-LAP(アミノ酸残基30-390)をコードする遺伝子配列にTEVプロテアーゼ切断可能なリンカー配列及びHisタグ配列を付加した配列を有するポリヌクレオチドを、Igkシグナルの下流につなぎ、pOripベクターを用いてHEK293F細胞において発現させた。HisTrap(GE healthcare社)をメーカーの使用説明書に従って用いて、可溶性画分からTGF-β1-LAPを精製した。HisタグをTEVプロテアーゼで切断し、得られたTGF-β1-LAPをもう一度HisTrapカラムへローディングし、素通り画分を回収した。これをカチオン交換カラム(HiTrap SP HP、GE Healthcare社)にて従来の方法により精製し、ヒトTGF-β1のLAP-Dを調製した。ヒトTGF-β1のLAP-Dの分子量は41653 Daであった。
【0097】
・ヒトTGF-β1のLAP-DとA2D109抗体のFab断片との複合体の調製
Pierce(商標) Mouse IgG1 Fab and F(ab')2 Preparationキット(Thermo Fisher社)を用いて、A2D109抗体をFab断片(A2D109 Fab)にした。具体的な操作は、該キットに添付のマニュアルに従って行った。得られた反応液を、Superdex 200 Increase 10/300 GL(GEヘルスケア社)を用いて、ゲルろ過精製した。50 kDa溶出フラクションを回収し、得られたフラクションをA2D109 Fabとして用いた。精製した組み換えTGF-β1-LAPと精製したA2D109 Fabとを1:1のモル比で混合した。複合体を、20 mM Tris-HCl(pH 8.0)、150 mM NaCl及び10%グリセロールからなるバッファーで平衡化したカラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィー(HiLoad 16/600 Superdex 200 pg、GE Healthcare社)により精製した。得られた複合体の分子量は89514 Daであった。
【0098】
(1.2) Biacore(登録商標)による測定
Biacore(登録商標)用センサーチップSeries S Sensor Chip CM5(GEヘルスケア社)に抗LAP-D抗体(A10)及びBAM2462抗体をそれぞれ固定化した。固定化量はそれぞれ2027RU及び310RUであった。ヒトTGF-β1LAP、及びヒトTGF-β1LAPとA2D109 Fabとの複合体溶液を、10 mM HEPES-NaOH(pH 7.5)、150 mM NaCl、3 mM EDTA及び0.005 % Surfactant P-20からなるバッファーで希釈して、種々の濃度の溶液を調製した。これらの溶液をBiacore(登録商標)T200(GEヘルスケア社)に送液した。各溶液におけるアナライト濃度及び測定条件は、下記のとおりである。測定データをBiacore(登録商標) Evaluationソフトウェアを用いて解析し、各抗体の親和性に関するデータを取得した。センサーグラムを
図7A及びBに示す。また、各パラメータを表1に示す。
【0099】
[アナライト濃度]
1.56 nM、3.13 nM、6.25 nM、12.5 nM及び25 nM
[測定条件]
Association:30μL/min, 60 sec
Dissociation:30μL/min, 60 sec
Regeneration:Gly-HCl (pH 1.5) / 60μL/min, 60 sec
【0100】
【0101】
各抗原(analyte)に抗LAP-D抗体(A10)及びBAM2462抗体のそれぞれが結合したときのRmax値から、下記の式によりRmax残存率(%)を算出した。また、抗原及び抗体の分子量比を考慮した場合のRmax残存率(%)も算出した。結果を表2に示す。
【0102】
(Rmax残存率) = [(抗体がLAP-DとA2D109 Fabとの複合体と結合したときのRmax値) / (抗体がLAP-Dと結合したときのRmax値)] x 100
【0103】
(分子量比を考慮したRmax残存率) = [[(抗体がLAP-DとA2D109 Fabとの複合体と結合したときのRmax値) / (LAP-DとA2D109 Fabとの複合体の分子量)] / [(抗体がLAP-Dと結合したときのRmax値) / (LAP-Dの分子量)]] x 100
【0104】
【0105】
表2に示すとおり、BAM2462抗体の反応性は、参照抗体であるA2D109抗体の存在下では、参照抗体の非存在下に対して86.4%残存したが、抗LAP-D抗体(A10)の反応性は、A2D109抗体の存在により反応性は24.4%まで低下した。すなわち、参照抗体の存在下での抗LAP-D抗体(A10)とLAP-Dとの結合のRmax値は、参照抗体の非存在下での抗LAP-D抗体(A10)とLAP-Dとの結合のRmax値に比べて75.6%低下した。また、
図7Aに示されるように、BAM2462抗体とLAP-Dとの結合のセンサーグラムでは、A2D109抗体の存在下でも、非存在下と同様にレスポンスが増加した。これに対して、
図7Bに示されるように、抗LAP-D抗体(A10)とLAP-Dとの結合のセンサーグラムは、A2D109抗体の存在により、レスポンスがあまり増加しなかった。以上のことから、抗LAP-D抗体(A10)のエピトープは、A2D109抗体のエピトープと同一であるか又はその近傍であることが示唆された。
【0106】
[参考例] A2D109抗体のFv断片とTGF-β1-LAP(C33S/N176Q)との複合体のX線結晶構造解析
(1) 試験条件
(1.1) TGF-β1-LAP(C33S/N176Q)の発現及び精製
TEVプロテアーゼ切断可能なリンカーを介してHisタグに融合させた、2箇所(C33S/N176Q)に変異が入ったTGF-β1-LAP(アミノ酸残基30-390)を、Igkシグナルの下流につなぎ、pOripベクターを用いてHEK293F細胞において発現させた。HisTrap(GE healthcare社)をメーカーの使用説明書に従って用いて、可溶性画分からTGF-β1-LAPを精製した。ヒスタグをTEVプロテアーゼで切断し、得られたTGF-β1-LAPをもう一度HisTrapカラムへローディングし、素通り画分を回収しカチオン交換カラム(HiTrap SP HP、GE Healthcare社)で、従来の方法により調製した。
【0107】
(1.2) A2D109抗体のFv断片(A2D109 Fv)の発現及び精製
TEVプロテアーゼ切断可能なリンカーを介してヒスタグに融合させたA2D109 Fv(重鎖及び軽鎖)をpCR.2.1ベクターを用いて大腸菌無細胞系において発現させた。可溶性画分をHisTrapカラム(GE healthcare社)を用いてA2D109 Fvを精製した。ヒスタグをTEVプロテアーゼで切断し、得られたA2D109 Fvをもう一度HisTrapカラムへローディングし、素通り画分を回収し、アニオン交換カラム(HiTrap Q HP、GE Healthcare社)でさらに精製した。Fvを含む画分をプールして、-80℃で保存した。
【0108】
(1.3) A2D109 FvとTGF-β1-LAP(C33S/N176Q)との複合体の調製
精製した組み換えTGF-β1-LAPと精製したFvとを1:1.2のモル比で混合した。複合体を、20 mM Tris-HCl(pH 8.0)、150 mM NaCl及び10%グリセロールからなるバッファーで平衡化したカラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィー(HiLoad 16/600 Superdex 200 pg、GE Healthcare社)により精製した。
【0109】
(1.4) 結晶化
精製した複合体を約6 mg/mLに濃縮し、シーディング法と組み合わせたシッティングドロップ蒸気拡散法により25℃で結晶化を行った。リザーバー溶液は、25%w/vポリエチレングリコール3350及び0.1M HEPES(pH 7.5)からなるものであった。これにより、1週間程度で板状結晶を得ることに成功した。この結晶を、25%w/vポリエチレングリコール3350、0.1M HEPES(pH 7.5)及び5%グリセロールからなる溶液中に浸漬した。
【0110】
(1.5) データ収集及び構造決定
X線回折データを、SPring-8のBL32XUで測定した。測定中、結晶を常に-178℃の窒素流下に置いて凍結状態を維持し、ビームラインに接続されたPAD(EIGER-9M)検出器を用いて、結晶を1回に0.1°回転させながら、合計1800のX線回折像を収集した。セルパラメータの決定、回折スポットのインデックス付け、及び回折像から得られた回折データの処理を、XDSパッケージ(Acta.Cryst. D66:125-132 (2010))を用いて行い、最終的に分解能2.93Åまでの回折強度データを取得した。結晶学的データ統計値が表3に示される。
【0111】
構造を、プログラムPhaser (J. Appl. Cryst. 40:658-674 (2007))を用いて分子置換により決定した。TGF-β1のサーチモデルは、公開されたpro-TGF-β1結晶構造(PDBコード: 3RJR)に由来し、Fvのサーチモデルは、公開されたノロウイルス結晶構造(PDBコード: 4NCC)のFv領域に由来するものであった。モデルをCootプログラム(Acta Cryst. D66:486-501 (2010))で構築して、プログラムPhenix (Acta Cryst. D66:213-221 (2010))で精密化した。46.71-2.93Åからの回折強度データの結晶学的信頼度因子(R)は22.14%であり、Free R値は29.76%であった。構造精密化統計値は、表3に示される。
【0112】
【0113】
(2) 結果
上記の構造決定の結果、A2D109抗体の結合部位は、ヒトTGF-β1のLAP-Dのインテグリン結合であるRGD配列であることが分かった。
【符号の説明】
【0114】
11: 試薬
12、22: 第1容器
13、24: 梱包箱
14、25: 添付文書
21: 試薬キット
23: 第2容器
【配列表】