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特許7350243非接触検査システム、非接触検査装置及び非接触検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】非接触検査システム、非接触検査装置及び非接触検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/036 20060101AFI20230919BHJP
   G01H 11/08 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
G01N29/036
G01H11/08 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020021473
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2021128016
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [公開の事実1] 刊行物: 信学技法(IEICE Technical Report)Vol.118,No.452,US2018-108 超音波(2019年2月22日) 第1頁-4頁 発行日: 平成31年 2月 15日 集会名: 電子情報通信学会技術報告(2019年2月22日,桐蔭横浜大学) [公開の事実2] 刊行物: 日本音響学会2019年春季研究発表会講演論文集 1-3-4 第705頁、706頁 発行日: 平成31年 2月 19日 集会名: 日本音響学会2019年春季研究発表会(2019年3月5日,電気通信大学) [公開の事実3] 刊行物: 日本包装学会誌 2019年 第28巻 第3号 第187頁-198頁 発行日: 令和元年 6月 1日 [公開の事実4] 刊行物: 川井重弥 博士論文 非接触音響探査法を用いた軟性容器内容物のための非破壊腐敗検査に関する研究 発行日: 令和元年 6月 29日 集会名: 桐蔭横浜大学 大学院 博士論文発表会(令和元年6月29日,桐蔭横浜大学) [公開の事実5] 刊行物: 日本包装学会第28回年次大会講演予稿集a-02 発行日: 令和元年 7月 11日 集会名: 日本包装学会第28回年次大会(令和元年7月12日,東京大学)
(73)【特許権者】
【識別番号】593232206
【氏名又は名称】学校法人桐蔭学園
(73)【特許権者】
【識別番号】517228490
【氏名又は名称】プロテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】杉本 恒美
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕
(72)【発明者】
【氏名】川井 重弥
(72)【発明者】
【氏名】嶋 隆志
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-7920(JP,A)
【文献】特開2007-256206(JP,A)
【文献】特開2015-112083(JP,A)
【文献】特開昭63-186141(JP,A)
【文献】特開昭63-172958(JP,A)
【文献】米国特許第05821424(US,A)
【文献】米国特許第5686661(US,A)
【文献】国際公開第2020/013868(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N29/00-G01N29/52
G01H 1/00-G01H17/00
G01M 5/00-G01M 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容物が充填された軟性容器に対して音波を照射する音響発信源と、
前記音波によって加振された前記軟性容器の表面の測定点に測定光を照射して、当該測定光の反射光により前記測定点の振動速度を計測する計測部と、
前記計測部によって計測された前記振動速度を解析して前記内容物の粘性を判定する解析装置と、を備え、
前記解析装置は、解析された前記振動速度のうち、前記軟性容器に前記音波が照射されている強制加振期間以降の自由振動期間における前記振動速度に基づいて、前記内容物の粘性を判定する、非接触検査システム。
【請求項2】
前記解析装置は、予め作成されている前記振動速度と前記内容物の粘性との関係を示す粘性判定データを、前記計測部によって計測された振動速度に基づく振動パラメータに対照して前記内容物の粘性を判定する、請求項1に記載の非接触検査システム。
【請求項3】
前記振動パラメータは、前記自由振動期間において計測された前記振動速度に基づく振動エネルギーである、請求項2に記載の非接触検査システム。
【請求項4】
前記振動パラメータは、前記自由振動期間において計測された前記振動速度に基づく変位量である、請求項2に記載の非接触検査システム。
【請求項5】
前記解析装置は、前記粘性判定データを作成する、請求項2から4のいずれか一項に記載の非接触検査システム。
【請求項6】
内容物が充填された軟性容器を音波で加振させ、振動を光学的に計測した場合の振動速度を入力する入力部と、
前記振動速度を解析して前記内容物の粘性を判定する解析部と、を備え、
前記解析部は、解析された前記振動速度のうち、前記軟性容器に前記音波が照射されている強制加振期間以降の自由振動期間における前記振動速度に基づいて、前記内容物の粘性を判定する、非接触検査装置。
【請求項7】
内容物が充填された軟性容器に対して音波を照射する音響発信工程と、
前記音波によって加振された前記軟性容器の表面の測定点に測定光を照射して、当該測定光の反射光により前記測定点の振動速度を計測する計測工程と、
前記計測工程において計測された前記振動速度を解析して前記内容物の粘性を判定する解析工程と、を含み、
前記解析工程においては、解析された前記振動速度のうち、前記軟性容器に前記音波が照射されている強制加振期間以降の自由振動期間における前記振動速度に基づいて、前記内容物の粘性を判定する、非接触検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触検査システム、非接触検査装置及び非接触検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品等の分野において、一定量の内容物を容器に封入して保存する、あるいは流通ルートに乗せることが行われている。食品等のメーカーは、食品の賞味期限や保管方法を決定するにあたり、内容物の品質と、保管期間や保管環境と、の関係を把握することが必要である。また、メーカーは、製品の出荷にあたり、内容量が封入された製品の品質検査をすることが好ましい。また、内容物に衝撃が加わることを防ぐ必要性が低い場合、容器には樹脂や金属箔により形成される軟性の容器が用いられることがある。軟性容器は、製品の体積を最小限にすることができるので、保存や販売時に占めるスペースを小さくすることに有利である。
内容物の品質検査を行うにあたり、容器を開けて内容物を取り出すとすると、検査にかかる時間や負荷が大きくなる。特に製品の出荷前の検査では、容器を開けることによって検査に使用された製品を出荷することができなくなるので検査対象の数が制限されていた。
【0003】
上記の点を解消するため、容器を開けずに行う非破壊検査が行われている。特許文献1には、包装体内容物の非破壊検査方法が記載されている。特許文献1に記載の非破壊検査方法は、流動性を有する正常内容物の包装体を振盪した後に超音波を照射し、内容物を透過または包装体の対面で反射した音波を単触針で測定するものである。このような方法は、内容物内部の気泡の上昇速度に異常が生じたときと正常なときとで相違することを利用している。すなわち、内容物が気泡を多く含む場合、照射された超音波が透過し難くなるために測定される音波は小さくなる。特許文献1に記載の非破壊検査方法は、この点を利用し、正常な状態の内容物と気泡の状態が異なる内容物とを判別することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-273182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、食品飲料物の分野において、内容物が腐敗することによってガスが発生する場合と、ガスが発生せずに内容物の粘度のみが変化する場合や離水が発生する場合とがある。ガスが発生せずに腐敗が起こる現象は、フラットサワーと呼ばれていて、腐敗が起こっても気泡の状態が変わらない。このため、気泡の状態の変化を使って非破壊検査を行う特許文献1の検査方法は、フラットサワー現象を検出することが困難である。
さらに、特許文献1に記載の非破壊検査方法は、物品に照射した超音波の透過若しくは容器対面で反射した超音波を、容器に接触させた探触面で捕えている。このため、この非破壊検査方法は、容器に探蝕面を接触させることによって容器表面に傷をつける可能性がある。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであって、粘性が変化して、かつ気泡の状態が変化し難い腐敗の現象を非接触で検出できる非接触検査システム、非接触検査装置及び非接触検査方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の非接触検査システムは、内容物が充填された軟性容器に対して音波を照射する音響発信源と、前記音波によって加振された前記軟性容器の表面の測定点に測定光を照射して、当該測定光の反射光により前記測定点の振動速度を計測する計測部と、前記計測部によって計測された前記振動速度を解析して前記内容物の粘性を判定する解析装置と、を備え、前記解析装置は、解析された前記振動速度のうち、前記軟性容器に前記音波が照射されている強制加振期間以降の自由振動期間における前記振動速度に基づいて、前記内容物の粘性を判定する。
【0007】
本発明の非接触検査装置は、内容物が充填された軟性容器を音波で加振させ、振動を光学的に計測した場合の振動速度を入力する入力部と、前記振動速度を解析して前記内容物の粘性を判定する解析部と、を備え、前記解析部は、解析された前記振動速度のうち、前記軟性容器に前記音波が照射されている強制加振期間以降の自由振動期間における前記振動速度に基づいて、前記内容物の粘性を判定する。
【0008】
本発明の非接触検査方法は、内容物が充填された軟性容器に対して音波を照射する音響発信工程と、前記音波によって加振された前記軟性容器の表面の測定点に測定光を照射して、当該測定光の反射光により前記測定点の振動速度を計測する計測工程と、前記計測工程において計測された前記振動速度を解析して前記内容物の粘性を判定する解析工程と、を含み、前記解析工程においては、解析された前記振動速度のうち、前記軟性容器に前記音波が照射されている強制加振期間以降の自由振動期間における前記振動速度に基づいて、前記内容物の粘性を判定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、粘性が変化して、かつ気泡の状態が変化し難い腐敗の現象を非接触で検出できる非接触検査システム、非接触検査装置及び非接触検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態の非接触検査システムを説明するための図である。
図2図1に示す軟性容器の正面図である。
図3図1に示すスピーカーによって照射される音波を説明するための図である。
図4】(a)は高粘性サンプルで得られた振動速度を示す図、(b)は低粘性サンプルで得られた振動速度を示す図、(c)は高粘性サンプルで得られた振動速度と低粘性サンプルで得られた振動速度とを重ねて示した図である。
図5】(a)は振動エネルギーの総和量と内容物の粘性との関係を示す図、(b)は変位の総和量DC_resと内容物の粘性との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
軟性容器に充填される内容物は、軟性容器と共に音によって振動し得るものであって、多くは液体や流動体を含んでいる。また、内容物は、ゼリーや豆腐等のゲル状のものであってもよいし、本実施形態で検査対象とする内容物は、例えば、食品や飲料、調味料、薬品、塗装剤、化粧剤等であってもよい。
【0012】
また、本実施形態は、内容物が充填された軟性容器に対して音波を照射し、音波によって加振された軟性容器の表面の測定点に測定光を照射する。そして、本実施形態は、この測定光の反射光により測定点の振動速度を計測することによって内容物の粘性を検査している。このような本実施形態は、例えば、ガスが発生せずに軟性容器の外観が変化しない場合にも内容物の変化、あるいは異常を判定することができる。
また、本発明は、内容物の混濁により異常を検出する方法が透明の軟性容器でなければ行えないことに比べ、光を通さない軟性容器に対して実施することができる。
【0013】
また、アルミ箔を中間層に備えた飲料等の容器では、電磁インパルスによりアルミ箔を加振し、軟性容器内の内圧の変化による共振周波数及び振動音の変化を検出することが行われていた。しかし、この方法は、軟性容器が密閉されていて内圧の変化が得られない場合に測定が困難になる。本発明は、軟性容器内の内圧によらず粘性の変化を検出することができるので、密閉された軟性容器に対しても粘性の変化を検出することができる。
【0014】
さらに、電磁インパルスによる加振が行えない場合、軟性容器に接触振動を与えて液面の波動の変化を静電容量により測定する方法がある。このような測定では、軟性容器と振動を加える部材との距離を一定に保たなければならないために測定が煩雑であり、また、軟性容器の表面に接触の影響が出ることが懸念される。
非接触で測定対象物に振動を加える本実施形態は、上記の方法よりも検査が簡易に行えて、しかも軟性容器表面に影響を与えることがない。このような本実施形態は、例えば、果物等の表面が損傷を受け易いものを対象にして粘度を測定することにも好適である。
【0015】
[非接触検査システム]
図1は、本実施形態の非接触検査システムを説明するための図である。図2は、図1に示す軟性容器10の正面図、図3は、図1に示すスピーカー20によって照射される音波を説明するための図である。
図1に示すように、本実施形態の非接触検査システム1は、内容物5(図2)が充填された軟性容器10に対して音波S1を照射する音響発信源であるスピーカー20と、音波S1によって加振された軟性容器10の表面の測定点Pm(図2)に測定光P1を照射して、この測定光P1の反射光P2により測定点Pmの振動速度を計測する計測部30と、計測部30によって計測された振動速度を解析して内容物の粘性を判定する非接触検査装置である解析装置40と、を備えている。
また、解析装置40は、解析された振動速度のうち、軟性容器10に音波が照射されている強制加振期間以降の自由振動期間における振動速度に基づいて、内容物の粘性を判定する。なお、強制加振期間、自由振動期間については後に詳述する。
【0016】
また、本実施形態では、スピーカー20と軟性容器10の距離L1を473mm、軟性容器10と計測部30との距離L2を900mmとしている。スピーカー20は、軟性容器10に対し、軟性容器10の音波の照射面と直交する中心線Lcを基準にした角度θ1をなす位置に設定されている。また、計測部30は、測定光P1、反射光P2が中心線Lcと角度θ2をなす位置に設定されている。
【0017】
軟性容器10は、図2に示すように、開口部12c、四つの側面12a、開口部12cより面先が小さい底面12dを有し、開口部12cが蓋部11によって封止される密閉容器である。内容物5は、軟性容器10の半分以上の高さまで充填されている。図2中に示す軟性容器10の正面の側面12aには計測部30が振動を測定する測定点Pmが設定されている。
【0018】
側面12a、開口部12c、底面12d及び蓋部11は、樹脂を材料として一体成型されている。側面12a、開口部12c、底面12d及び蓋部11の厚さは220μmから280μmであり、その平均値は凡そ250μmである。本実施形態では、軟性容器10の材料をポリスチレンとしている。図1に示す軟性容器10では、上辺Buが一片100mmの正方形であり、下辺Blが一片90mmの正方形になっている。軟性容器10の高さhは60mmである。
【0019】
本実施形態では、非接触検査システム1を内容物の腐敗の粘度変化の検査に使用することに先立って、非接触検査システム1が内容物5の粘性を検査可能であることを確認した。このため、内容物5としてそれぞれ粘性の異なる水を充填した軟性容器10を複数用意している。内容物5はいずれも蒸留水であり、粘性の低い内容物5(以下、「低粘性内容物」と記す)は蒸留水を回転速度500rpmで3分間プロペラを使って攪拌した脱気蒸留水である。粘性の高い内容物5(以下、「高粘性内容物」と記す)は、先の脱気蒸留水に糊(カルボキシメチルセルロースナトリウム)を混ぜて攪拌して作成される。カルボキシメチルセルロースナトリウムは比重が蒸留水と略同等である。粘度の異なる内容物5は、いずれも内容量が400±0.02g、温度が24.5℃±0.1℃の同条件になっている。
【0020】
上記構成のうち、スピーカー20は、加振用の音源であり、平面波となる音波を発生する。図1中で音波S1と交わる破線は、平面波の一周期を示している。スピーカー20が軟性容器10に音波S1を照射する照射角度は、音波S1が定在波によって影響をうけることを避ける角度に設定される。
音波S1は、図3に示すように、振動の群Sb1、Sb2・・・が離散的に発生するバースト波である。図3の横軸は時間(msec)、縦軸は振動強度を表している。各群Sb1、Sb2のパルス幅(一つの群の振動時間)Pwは20msec、群間のインターバル時間Tiは200msecである。
【0021】
複数の群において、各群の振動の周波数は25Hzずつ相違していて、各振動の群の周波数は、直前に生じた群の周波数よりも25Hz大きくなっている。図3においては、群Sb1の振動の周波数が325Hz、群Sb2の振動の周波数が350Hzである。
【0022】
計測部30は、測定点Pmに向けて測定光P1を照射し、反射光P2を受光する。また、受光された反射光P2の振動速度を計測する。このような計測部30には、レーザードップラー流速計(Laser Doppler vibrometer:LDV)を用いている。レーザードップラー振動計は、レーザーのドップラー効果を利用して対象の表面の振動を非接触で測定する装置である。レーザードップラー振動計によれば、測定された振動を光学的に検出し、電気信号として取り出すことができる。
【0023】
解析装置40の解析は、上記したように、計測部30によって計測された振動速度を解析して内容物5の粘性を判定する。ここで、解析は、振動速度や振動速度の変化を得る、得た値と時間との関係から変化の状態を求める、このような振動速度やそれに基づく情報を使って演算を行い、粘性に係るパラメータを求める処理をいう。
【0024】
解析装置40は、予め作成されている振動速度と内容物の粘性との関係を示す粘性判定データを、計測部によって計測された振動速度に基づく振動パラメータに対照して内容物の粘性を判定する。
すなわち、解析装置40は、予め振動速度の値を測定し、測定された振動速度や変化の状態、さらには振動速度に基づく情報を取得したデータを保存する機能を有している。また、非接触検査の対象となる内容物5について測定された振動速度を取得し、この振動速度に基づく振動パラメータを作成する。そして、作成された振動パラメータを保存されている粘性判定データと比較する。
検査の対象となる内容物5の振動速度は、計測部30からリアルタイムで取得されるものであってもよいし、計測部30の測定完了まで保存し、完了後に取得するものであってもよい。
【0025】
粘性判定データは、解析装置40で行うものであってもよい。また、粘性判定データは、他の機器で作成したものを解析装置40の入力部41で読み込むものであってもよい。解析装置40において作成される粘性判定データと振動パラメータは、同様の処理によって作成された同様の物理量であってもよい。また、振動パラメータは、解析装置40において処理されて粘性判定データと比較されるものであってもよい。
【0026】
解析装置40は、内容物5が充填された軟性容器10を音波で加振させ、振動を光学的に計測した場合の振動速度を入力する入力部41と、振動速度を解析して内容物の粘性を判定する解析部42と、を備えている。解析部42は、上記のように、解析された振動速度のうち、軟性容器に音波が照射されている強制加振期間以降の自由振動期間における振動速度に基づいて、内容物の粘性を判定する。
このような解析装置40は、専用の測定装置としても構成することができる。また、解析装置40は、汎用のパーソナルコンピュータ(Personal Computer:PC)を用いて構成することができる。
【0027】
解析装置40をPCにより構成する場合、入力部41は、計測部30が計測した振動速度を入力する入力ポートであってもよいし、計測された振動速度を保存する記録媒体を接続するものであってもよい。さらに、無線で振動速度を受信する通信部であってもよい。解析部42は、PCの公知のハードウェアと、ハードウェア上で動作して解析を行うプログラムが協同して実現される。ハードウェアとしては、PCの演算装置(Central Processing Unit:CPU)や演算に使用されるデータを保存するメモリ、あるいは演算処理に使用されるワークメモリがある。
【0028】
図4(a)、図4(b)、図4(c)は、軟性容器10に低粘性内容物を充填した低粘性サンプルで計測された振動速度と、軟性容器10に高粘性内容物を充填した高粘性サンプルで計測された振動速度とを比較した結果を示す図である。図4(a)から図4(c)は、いずれも横軸が時間(msec)を示し、縦軸が振動速度を示している。図4(a)は高粘性サンプルで得られた振動速度を示し、図4(b)は低粘性サンプルで得られた振動速度を示し、図4(c)は高粘性サンプルで得られた振動速度と、低粘性サンプルで得られた振動速度とを重ねて示した図である。
【0029】
図4(c)中に示すt0は、内容物10の加振の開始のタイミングを示している。t1は、加振の終了タイミングであり、t2は、振動していた軟性容器10が静止した後に充分な時間が経過したと判断されるタイミングを示している。なお、計測部30は、少なくともt0からt2を含む期間において反射波の計測を行っている。t0からt1は、内容物5が充填された10(サンプル)に音波が照射されて、軟性容器10が音波によって強制的に加振されている期間である強制加振領域Rv1である。また、t1からt2は、音波による加振が停止された後にサンプルの振動が停止するまでの期間を含む自由加振領域Rv2である。図4(c)においては、t1は25msec、t2は150msecである。
【0030】
図4(a)に示すように、高粘性サンプルで得られた反射波においては、強制加振領域Rv1と自由加振領域Rv2との境界を中心にして反射波群waが生じ、続いて反射波群wbが発生している。また、図4(b)に示すように、低粘性サンプルにおいては、強制加振領域Rv1と自由加振領域Rv2との境界を中心にして反射波群wcが生じ、続いて反射波群wdが発生している。さらに、低粘性サンプルにおいては、反射波群wdの後に反射波群weが発生している。
反射波群weは、高粘性サンプルの振動速度の測定で観測できなかった反射波である。このことから、反射波群weは、内容物の粘性の判定において有用な因子であると考えられる。
【0031】
反射波群wb、weの発生後、微小な震動が観測されるが、このような振動は加振に起因するものでなく、振動速度の測定においてはノイズとして観測される。
本実施形態では、振動の開始から終了までの後も充分な時間t2をおいて振動速度を計測し、測定された振動速度に含まれるノイズについても考慮することが可能になる。
【0032】
図4(a)、図4(b)に示すように、強制加振領域Rv1においては、高粘性サンプルと低粘性サンプルとの振動速度の変化の状態は概ね同様であるが、振動速度のピークは低粘性サンプルの方が高粘性サンプルよりわずかに大きくなっている。このような現象は、音波の照射中は振動が連続的に加わるために内容物の粘性による相違が振動に現れ難いために生じるものと考えられる。
また、強制加振領域Rv1が終了した後、低粘性サンプルは、高粘性サンプルよりも高速度で振動することが分かる。なお、振動停止のタイミングは、低粘性サンプル、高粘性サンプルのいずれにあっても凡そ同時である。
【0033】
上記のことから、本実施形態では、強制加振領域Rv1以降の自由加振領域Rv2の振動速度に基づいて内容物の粘性を判定する。また、振動速度の測定は、測定値の大きい自由加振領域Rv2開始時から、低粘性サンプルに表れる反射波群weの発生後まで行うことが好ましい。また、強制加振領域Rv1から自由加振領域Rv2まで振動速度を測定し、強制加振領域Rv1の振動速度を後の演算等の処理から除くようにしてもよい。このようにすれば、自由加振領域Rv2の開始直後の振動速度を確実に観測することができる。さらに、本実施形態は、反射波群wb、wdが発生するタイミングから反射波群weの発生後のタイミングまでに測定された振動速度を観測するようにしてもよい。
なお、強制加振領域Rv1、自由加振領域Rv2の合計時間は、図3に示すインターバル時間Tiよりも充分短く設定されていて、連続して発生する群が測定に影響を与えることを回避している。
【0034】
図4(a)から図4(c)に示す結果は、スピーカー20が低粘性サンプルと高粘性サンプルとを同一のエネルギーで同様に加振しているにも関わらず、サンプルの粘性によって振動のエネルギーが異なっていることを示している。このような結果は、粘弾性モデルである粘弾性モデル(Voigt model)の静的粘弾性式と比較してみると、静的自由振動領域での歪γ変位量が粘度ηの大きさに反比例した指数関数的な減衰特性を示すことから測定結果の傾向と整合する。
【0035】
解析部42は、図4(a)、図4(b)に示す振動速度のそれぞれに基づいて、振動パラメータを作成する。本実施形態の振動パラメータは、例えば、自由振動期間である自由加振領域Rv2において計測された振動速度に基づく振動エネルギーとすることができる。本実施形態では、振動パラメータを、自由加振領域Rv2における振動エネルギーの総和量FE_resとした。振動エネルギーの総和量FE_resは、以下の式(1)によって算出される。
また、振動パラメータは、自由振動期間において計測された振動速度に基づく変位量であってもよい。振動パラメータを変位量とする場合、本実施形態は、振動パラメータを、自由加振領域Rv2における変位の総和量DC_resとした。変位の総和量DC_resは、以下の式(2)によって算出される。
【0036】
【数1】
【0037】
ただし、本実施形態は、振動エネルギーの総和量FE_res、変位の総和量DC_resを振動パラメータにするものに限定されるものではない。振動パラメータは、図4(a)、図4(b)に示す振動速度の相違を表すものであればどのようなものであってもよい。振動速度の相違を示す他の例としては、例えば、図4(a)に示す振動速度と図4(b)に示す振動速度との差分を自由加振領域Rv2において積分するものであってもよい。
【0038】
また、解析装置40は、入力部41から取得した、または図示しないメモリに保存されている自由加振領域Rv2における粘性データを振動パラメータと比較する。本実施形態の粘性データは、振動パラメータと、振動パラメータが測定されたサンプルの粘性とを対応付けたものであってもよい。解析部42は、例えば、振動パラメータを複数の粘性データと比較し、粘性データのうちから振動パラメータの値が最も大きいものに対応する粘性を選択する。選択された粘性は、解析装置40の図示しない表示部に表示される、あるいは図示しないプリンターに出力される。
【0039】
以上説明した本実施形態の非接触検査システム1は、内容物5が充填された軟性容器10に対して音波を照射する音響発信工程と、音波によって加振された軟性容器10の表面の測定点Pmに測定光P1を照射して、この測定光P1の反射光P2により測定点Pmの振動速度を計測する計測工程と、計測工程において計測された振動速度を解析して内容物5の粘性を判定する解析工程と、を含んでいる。解析工程においては、解析された振動速度のうち、軟性容器10に音波が照射されている強制加振領域Rv1以降の自由加振領域Rv2における振動速度に基づいて、内容物の粘性を判定する非接触検査方法を実行する。
【0040】
図5(a)、図5(b)は、非接触検査システム1で得られた振動パラメータと内容物5の粘性との関係を示す図である。図5(a)は、振動パラメータを振動エネルギーの総和量FE_resとし、図5(b)は、振動パラメータを変位の総和量DC_resとしている。図5(a)、図5(b)のいずれにあっても、横軸は振動パラメータ、縦軸は粘性を示している。図5(a)、図5(b)のいずれにあっても、振動パラメータは、粘性と高い相関を有していることが分かる。
以上のことから、本実施形態の非接触検査システム1は、内容物5の気泡の状態によらず粘性の変化を非接触で検出することができるが分かる。このような本実施形態は、食品飲料が充填された軟性容器に適用することによって内容物腐敗による粘度変化を軟性容器の表面振動特性から検出することできる。
【0041】
さらに、本実施形態は、図1に示す軟性容器10、スピーカー20及び計測部30の配置の自由度が大きいため、測定条件に適した非接触検査システム1を構築することができる。さらに、本実施形態の非接触検査システム1は、振動速度の計測から振動パラメータの及び粘性データの作成、さらには粘性の判定までの処理を行うことができる。このため、非接触検査システム1は、粘性判定の高速化も期待できて、検査ラインへ導入した場合により多くのサンプルを検査することができる。
【0042】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)内容物が充填された軟性容器に対して音波を照射する音響発信源と、前記音波によって加振された前記軟性容器の表面の測定点に測定光を照射して、当該測定光の反射光により前記測定点の振動速度を計測する計測部と、前記計測部によって計測された前記振動速度を解析して前記内容物の粘性を判定する解析装置と、を備え、前記解析装置は、解析された前記振動速度のうち、前記軟性容器に前記音波が照射されている強制加振期間以降の自由振動期間における前記振動速度に基づいて、前記内容物の粘性を判定する、非接触検査システム。
(2)前記解析装置は、予め作成されている前記振動速度と前記内容物の粘性との関係を示す粘性判定データを、前記計測部によって計測された振動速度に基づく振動パラメータに対照して前記内容物の粘性を判定する、(1)の非接触検査システム。
(3)前記振動パラメータは、前記自由振動期間において計測された前記振動速度に基づく振動エネルギーである、(2)の非接触検査システム。
(4)前記振動パラメータは、前記自由振動期間において計測された前記振動速度に基づく変位量である、(2)の非接触検査システム。
(5)前記解析装置は、前記粘性判定データを作成する、(2)から(4)のいずれか一つの非接触検査システム。
(6)内容物が充填された軟性容器を音波で加振させ、振動を光学的に計測した場合の振動速度を入力する入力部と、前記振動速度を解析して前記内容物の粘性を判定する解析部と、を備え、前記解析部は、解析された前記振動速度のうち、前記軟性容器に前記音波が照射されている強制加振期間以降の自由振動期間における前記振動速度に基づいて、前記内容物の粘性を判定する、非接触検査装置。
(7)内容物が充填された軟性容器に対して音波を照射する音響発信工程と、前記音波によって加振された前記軟性容器の表面の測定点に測定光を照射して、当該測定光の反射光により前記測定点の振動速度を計測する計測工程と、前記計測工程において計測された前記振動速度を解析して前記内容物の粘性を判定する解析工程と、を含み、前記解析工程においては、解析された前記振動速度のうち、前記軟性容器に前記音波が照射されている強制加振期間以降の自由振動期間における前記振動速度に基づいて、前記内容物の粘性を判定する、非接触検査方法。
【符号の説明】
【0043】
1・・・非接触検査システム
5・・・内容物
10・・・軟性容器
11・・・蓋部
12a・・・側面
12c・・・開口部
12d・・・底面
20・・・スピーカー
30・・・計測部
40・・・解析装置
41・・・入力部
42・・・解析部
図1
図2
図3
図4
図5