(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】ビスハロアルキルシロキサン化合物及びその製造方法、並びに、両末端官能性のシロキサン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/08 20060101AFI20230919BHJP
C08G 77/385 20060101ALI20230919BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230919BHJP
【FI】
C07F7/08 X
C07F7/08 Y CSP
C08G77/385
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019135388
(22)【出願日】2019-07-23
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515274413
【氏名又は名称】ケイ素材料開発株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598126427
【氏名又は名称】ナガセケムスペック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】白幡 明彦
(72)【発明者】
【氏名】内田 広之
(72)【発明者】
【氏名】藤野 善也
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-527286(JP,A)
【文献】特開2018-193492(JP,A)
【文献】特開2009-179596(JP,A)
【文献】特開平06-287305(JP,A)
【文献】国際公開第2012/010918(WO,A1)
【文献】特開2003-048985(JP,A)
【文献】特開平03-068589(JP,A)
【文献】米国特許第02770633(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0007172(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0004202(US,A1)
【文献】特開平05-117128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるビスハロアルキルシロキサン化合物のハロゲン原子を、官能基を含む置換基に置換する工程を含み、
【化1】
[式中、Xはハロゲン原子を示し、R
1は炭素数3~7のアルキレン基を示し、R
2は炭素数1~3のアルキル基、又はフェニル基を示し、同一分子中の複数のR
2は同一でも異なっていてもよく、nは0~200の整数を示す。]
前記官能基が、アセトキシ基、又は(メタ)アクリロイルオキシ基である、
両末端官能性のシロキサン化合物を製造する方法
であって、
下記式(2)で表されるハロオレフィン化合物と下記式(3)で表されるシロキサン化合物とのヒドロシリル化反応によって、前記ビスハロアルキルシロキサン化合物を生成させる工程を更に含む、方法。
【化2】
[式中、Xはハロゲン原子を示し、R
1
は炭素数3~7のアルキレン基を示し、R
2
は炭素数1~3のアルキル基、又はフェニル基を示し、同一分子中の複数のR
2
は同一でも異なっていてもよく、nは0~200の整数を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスハロアルキルシロキサン化合物及びその製造方法に関する。本発明はまた、ビスハロアルキルシロキサン化合物を用いて両末端官能性のシロキサン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ素原子に結合したハロアルキル基を有する有機ケイ素化合物は、有機反応によってハロゲノ基を各種の官能基を有する置換基で置換することにより、種々の官能性有機ケイ素化合物を得るための中間体として有用である。例えば、非特許文献1は、アリルクロリドとジメチル水素クロロシランとのヒドロシリル化反応により生成したクロロプロピルジメチルクロロシラン(ClMe2SiCH2CH2CH2Cl)を単離し、これを加水分解する方法により、クロロプロピル基を有するジシロキサン化合物を製造したことを報告している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】J.W.Ryan, G.K.Menzie, J.L.Speier, The Journal of American ChemicalSociety 82, 3601 (1960).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一側面は、両末端官能性のシロキサン化合物を合成するための中間体等として有用な、新規なビスアルキルシロキサン化合物、及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、下記式(1)で表される、ビスハロアルキルシロキサン化合物に関する。
【0006】
【0007】
式(1)中、Xはハロゲン原子を示し、R1は炭素数3~7のアルキレン基を示し、R2は炭素数1~3のアルキル基、又はフェニル基を示し、同一分子中の複数のR2は同一でも異なっていてもよく、nは0~200の整数を示す。
【0008】
本発明の別の一側面は、上記ビスハロアルキルシロキサン化合物を製造する方法に関する。本発明の一側面に係る方法は、下記式(2)で表されるハロオレフィン化合物と下記式(3)で表されるシロキサン化合物とのヒドロシリル化反応によって、式(1)で表されるビスハロアルキルシロキサン化合物を生成させる工程を含む。
【0009】
【0010】
本発明の更に別の一側面は、上記ビスアルキルシロキサン化合物のハロゲン原子を、官能基を含む置換基に置換する工程を含む、両末端官能性のシロキサン化合物を製造する方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面に係るビスハロアルキルシロキサン化合物は、両末端官能性のシロキサン化合物を合成するための中間体等として有用である。本発明の一側面に係る製造方法によれば、ビスハロアルキルシロキサン化合物を、比較的温和な反応条件で、副生物が少なく高い収率で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例で合成した1,3-ビスクロロオクチル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンのFT-IRスペクトルである。
【
図2】1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンのFT-IRスペクトルである。
【
図3】1-クロロオクト-7-エンのFT-IRスペクトルである。
【
図4】1,3-ビスクロロオクチル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの
1H NMRスペクトルである。
【
図5】実施例で合成した両末端にクロロオクチル基を有するジメチルポリシロキサンのFT-IRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
ビスハロアルキルシロキサン化合物を製造する方法の一実施形態は、下記式(2)で表されるハロオレフィン化合物と下記式(3)で表されるシロキサン化合物とのヒドロシリル化反応によって、下記式(1)で表されるビスハロアルキルシロキサン化合物を生成させる工程を含む。
【0015】
【0016】
式(1)、(2)及び(3)中、Xはハロゲン原子を示し、R1は炭素数3~7のアルキレン基を示し、R2は炭素数1~3のアルキル基、又はフェニル基を示し、同一分子中の複数のR2は同一でも異なっていてもよい。nは0~200の整数を示す。
【0017】
式(2)で表されるハロオレフィン化合物を用いたヒドロシリル化反応により、ビスハロアルキルシロキサン化合物を、副生物が少なく高い収率で生成させることができる。非特許文献1が報告したような、アリルクロリドのヒドロシリル化反応の場合、β-付加によって生成した化合物からクロロシランが脱離する副反応が生じ易い。更に、クロロシランはクロロシロキサンを副生物として生成させる。したがって、目的とするクロロプロピルジメチルクロロシランの収率は極めて低く、この反応は実用に耐えるものではなかった。これに対して、式(2)のハロオレフィン化合物の場合、末端のビニル基とハロゲン原子が結合した炭素原子との間に、炭素数3以上のアルキレン基R1が存在するため、β-付加の生成物からクロロシランが脱離することがなく、このことが収率向上に寄与すると考えられる。また、式(2)のハロオレフィン化合物は比較的高い沸点を有するため、高圧条件を必要とすることなく、常圧でヒドロシリル化反応が進行する温度まで加熱することができる。加えて、加水分解の工程を経ることなく、ヒドロシリル化反応だけでビスハロアルキルシロキサン化合物が生成する点でも、本実施形態に係る方法は優れている。
【0018】
式(1)中のXは、塩素原子又は臭素原子であってもよく、特に塩素原子であってもよい。R1は直鎖状、分岐状、環状、又はこれらの組み合わせを含むアルキレン基であってもよく、直鎖アルキレン基であってもよい。R1が炭素数5の直鎖アルキレン基であってもよい。式(1)のハロオレフィン化合物の具体例としては、1-クロロオクト-7-エンが挙げられる。
【0019】
式(2)中のR2は、メチル基、エチル基、又はn-プロピル基であってもよく、メチル基であってもよい。nは0~200の整数であり、0~150又は0~100の整数であってもよい。
【0020】
ヒドロシリル化反応は、触媒の存在下で行ってもよい。触媒はヒドロシリル化反応の触媒として通常用いられるものから選択できる。触媒の例としては、塩化白金酸、及びジビニルテトラメチルジシロキサンの白金錯体のような白金触媒が挙げられる。白金触媒は、イソプロパノール等の溶媒を含む溶液の状態で、反応液に添加されてもよい。
【0021】
ヒドロシリル化反応は、無溶媒の反応液、又は溶媒を含む反応液中で行うことができる。反応温度(反応液の温度)及び反応時間は、ヒドロシリル化反応が充分に進行するように、調整される。例えば、反応温度は50℃~180℃、又は80℃~130℃であってもよい。反応時間は1~3時間であってもよい。
【0022】
ヒドロシリル化反応によって得られた式(1)のビスハロアルキルシロキサン化合物を、環状シロキサンオリゴマー(例えばオクタメチルシクロテトラシロキサン)と反応させることより、更に長いポリシロキサン鎖を有するビスハロアルキルシロキサン化合物を得ることもできる。
【0023】
式(1)のビスハロアルキルシロキサン化合物を、両末端官能性の各種シロキサン化合物を製造するために用いてもよい。例えば、ビスアルキルシロキサン化合物のハロゲン原子を、官能基を含む置換基に置換する工程を含む方法により、両末端官能性のシロキサン化合物を製造することができる。
【0024】
導入される官能基の例としては、アミノ基、アセトキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基が挙げられる。
【0025】
導入される官能基自体がハロアルキル基と反応する場合、導入される官能基を有する化合物と式(2)のビスハロアルキルシロキサン化合物との反応によって、両末端官能性のシロキサン化合物を得ることができる。例えば、有機アミン化合物を用いることにより、アミノ基を導入することができる。あるいは、酢酸又は(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩を用いることにより、アセトキシ基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を導入してもよい。導入される官能基とハロアルキル基と反応する反応基とを有する化合物を、式(2)のビスハロアルキルシロキサン化合物と反応させてもよい。反応条件は、当業者に理解されるように、通常の置換反応の範囲で、適宜調整される。
【0026】
合成される両末端官能性のシロキサン化合物は、例えば下記式(5)で表される化合物であることができる。
【化5】
式(5)中のZは、官能基を含む置換基である。Zは、例えば、アルキルアミノ基、アセトキシ基、又は(メタ)アクリロイルオキシ基であることができる。R
1、R
2及びnは式(1)~(3)中のR
1、R
2及びnと同義である。
【0027】
両末端官能性のシロキサン化合物は、例えば、UVコーティング剤等の塗料の成分として適用可能である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
1,3-ビスクロロオクチル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(式(1)において、Xが塩素原子、R
1が炭素数5のアルキレン基、R
2がメチル基、nが0である化合物)の合成
還流管、滴下ロート、温度計を備えた500ミリリットルの三口丸底フラスコに、1-クロロオクト-7-エンを235g、ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体のジビニルテトラメチルジシロキサン溶液(白金含有量:2%)を60mg入れた。フラスコ内の反応液を磁気攪拌子で撹拌しながら110℃まで加熱した。加熱を止め、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン67.2gを、110℃から120℃を維持しながら反応液にゆっくりと滴下した。滴下終了後、反応液の温度を120℃で1時間維持した。未反応の1-クロロオクト-7-エンを減圧下で留去し、次いで1,3-ビスクロロオクチル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを減圧蒸留で単離した。単離した生成物の沸点は0.07kPaの圧力下で178℃~179℃であった。収量は197gで、収率は滴下した1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンに対して92%であった。生成物のガスクロマトグラフィーによる純度は99%であった。
図1は、単離された生成物のFT-IRスペクトルである。
図2及び
図3は、それぞれ、原料として用いられた1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン及び1-クロロオクト-7-エンのFT-IRスペクトルである。1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンで観測された2100cm
-1付近のSi-Hの吸収、及び1-クロロオクト-7-エンで観測された1640cm
-1付近のオレフィンの吸収が、生成物のFT-IRスペクトルにおいて消失しており、このことから目的とする1,3-ビスクロロオクチル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンが生成していることが確認された。生成物の構造は、
図4の
1H NMRスペクトル(CDCl
3,内部標準物質:テトラメチルシラン)、及び以下の元素分析の結果からも確認された。
元素分析値:C 56.2%(理論値:56.17%);H 10.4%(理論値:10.37%)
【0030】
(実施例2)
両末端にクロロオクチル基を有するジメチルポリシロキサン(式(1)において、Xが塩素原子、R
1が炭素数5のアルキレン基、R
2がメチル基、nが平均で15である化合物)の合成
還流管、滴下ロート、撹拌棒、温度計を備えた2リットルの四口丸底フラスコに、両末端にジメチルヒドロシリル基を有するポリジメチルシロキサン(平均組成式:HMe
2SiO(Me
2SiO)
15SiMe
2H)を1370g、ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体のジビニルテトラメチルジシロキサン溶液(白金含有量:2%)を100mg入れた。フラスコ内の反応液を磁気攪拌子で攪拌しながら110℃まで加熱した。続いて反応液に対して1-クロロオクト-7-エン440gをゆっくりと滴下した。滴下終了後、110℃~125℃の温度を維持しながら、反応液を1時間撹拌した。0.2kPaの減圧下、フラスコ内の温度145℃の条件で未反応の1-クロロオクト-7-エン、及び並行反応によって生成した環状ポリジメチルシロキサンを留去した。残渣のろ過により、1110gの生成物を得た。
図5は、単離された生成物のFT-IRスペクトルである。1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンで観測された2100cm
-1付近のSi-Hの吸収、及び1-クロロオクト-7-エンで観測された1640cm
-1付近のオレフィンの吸収が、生成物のFT-IRスペクトルにおいて消失しており、このことから目的物である両末端にクロロオクチル基を有するジメチルポリシロキサンが得られたことを確認した。
【0031】
(実施例3)
両末端にクロロオクチル基を有するジメチルポリシロキサン(式(1)において、Xが塩素原子、R1が炭素数5のアルキレン基、R2がメチル基、nが平均で65である化合物)の合成
還流管、滴下ロート、撹拌棒、温度計を備えた500ミリリットルの四口丸底フラスコに、両末端にジメチルヒドロシリル基を有するポリジメチルシロキサン(平均組成式:HMe2SiO(Me2SiO)65SiMe2H)を300g、ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体のジビニルテトラメチルジシロキサン溶液(白金含有量:2%)を1-クロロオクト-7-エンに対して10ppmに相当する量を入れた。フラスコ内の反応液を磁気攪拌子で攪拌しながら110℃まで加熱した。続いて反応液に対して1-クロロオクト-7-エン33.3gをゆっくりと滴下した。滴下終了後、110℃~125℃の温度を維持しながら、反応液を1時間撹拌した。0.2kPaの減圧下、フラスコ内の温度145℃の条件で未反応の1-クロロオクト-7-エン、及び並行反応によって生成した環状ポリジメチルシロキサンを留去した。残渣のろ過により、290.3gの生成物を得た。生成物のFT-IRによる実施例1、2と同様の分析から、目的物である両末端にクロロオクチル基を有するジメチルポリシロキサンが得られたことを確認した。
【0032】
(実施例4)
両末端にクロロオクチル基を有するジメチルポリシロキサン(式(1)において、Xが塩素原子、R1が炭素数5のアルキレン基、R2がメチル基、nが平均で100である化合物)の合成
還流管、滴下ロート、撹拌棒、温度計を備えた500ミリリットルの四口丸底フラスコに、両末端にジメチルヒドロシリル基を有するポリジメチルシロキサン(平均組成式:HMe2SiO(Me2SiO)100SiMe2H)を300g、ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体のジビニルテトラメチルジシロキサン溶液(白金含有量:2%)を1-クロロオクト-7-エンに対して10ppmに相当する量を入れた。フラスコ内の反応液を磁気攪拌子で攪拌しながら110℃まで加熱した。続いて反応液に対して1-クロロオクト-7-エン21.9gをゆっくりと滴下した。滴下終了後、110℃~125℃の温度を維持しながら、反応液を1時間撹拌した。1mmHgの減圧下、フラスコ内の温度150℃の条件で未反応の1-クロロオクト-7-エン、及び並行反応によって生成した環状ポリジメチルシロキサンを留去した。残渣のろ過により、266.3gの生成物を得た。生成物のFT-IRによる実施例1、2と同様の分析から、目的物である両末端にクロロオクチル基を有するジメチルポリシロキサンが得られたことを確認した。