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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】ガス分離方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/22 20060101AFI20230919BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20230919BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20230919BHJP
   B01D 71/14 20060101ALI20230919BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20230919BHJP
   B01D 71/34 20060101ALI20230919BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20230919BHJP
   B01D 71/40 20060101ALI20230919BHJP
   B01D 71/42 20060101ALI20230919BHJP
   B01D 71/50 20060101ALI20230919BHJP
   B01D 71/52 20060101ALI20230919BHJP
   B01D 71/64 20060101ALI20230919BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D69/00 500
B01D69/02
B01D71/14
B01D71/26
B01D71/34
B01D71/36
B01D71/40
B01D71/42
B01D71/50
B01D71/52
B01D71/64
B01D71/68
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022534921
(86)(22)【出願日】2021-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2021017698
(87)【国際公開番号】W WO2022009514
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020116094
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305009898
【氏名又は名称】株式会社ルネッサンス・エナジー・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100114476
【弁理士】
【氏名又は名称】政木 良文
(72)【発明者】
【氏名】岡田 治
(72)【発明者】
【氏名】花井 伸彰
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-183379(JP,A)
【文献】国際公開第2012/086836(WO,A1)
【文献】特開2015-024372(JP,A)
【文献】国際公開第2019/130470(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/054619(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被分離ガスを選択的に透過する分離機能層を有する選択透過膜と、前記選択透過膜によって隔てられた第1処理室と第2処理室を備えて構成されるガス分離装置を使用し、
前記被分離ガスを含む混合ガスを前記第1処理室に供給、或いは、前記第1処理室内で生成し、前記被分離ガスを前記選択透過膜の前記第1処理室側から前記第2処理室側に透過させることにより、前記混合ガスから前記被分離ガスを分離するガス分離方法であって、
前記選択透過膜が、親水性多孔膜と、前記親水性多孔膜に支持された前記分離機能層と、前記分離機能層上に貼合された疎水性多孔膜の第1保護膜とを、順番に積層した積層構造を有し、
前記分離機能層が、水分を含む親水性ポリマーのゲル層を備えて構成され、
前記第1処理室が、前記選択透過膜の前記親水性多孔膜側に設けられ、前記第2処理室が、前記選択透過膜の前記第1保護膜側に設けられていることを特徴とするガス分離方法。
【請求項2】
前記親水性多孔膜の前記第1処理室側が、疎水性多孔膜からなる第2保護膜で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載のガス分離方法。
【請求項3】
前記疎水性多孔膜が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、及び、ポリフッ化ビニリデンの内の少なくとも何れか1つを含んで構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のガス分離方法。
【請求項4】
前記親水性多孔膜が、ポリカーボネート、ポリセルロースエステル、ポリエーテルエーテルケトン、及び、前記疎水性多孔膜の親水化処理膜の内の少なくとも何れか1つを含んで構成されていることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のガス分離方法。
【請求項5】
前記親水性ポリマーが、ポリアクリル酸を主成分として含むポリマーであることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のガス分離方法。
【請求項6】
前記被分離ガスが二酸化炭素であり、
前記分離機能層が、前記ゲル層中に前記混合ガス中の二酸化炭素と選択的に反応するCOキャリアを含むCO促進輸送膜であることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載のガス分離方法。
【請求項7】
前記第1処理室と前記第2処理室の間の圧力差を300kPa以上に調整することを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載のガス分離方法。
【請求項8】
被分離ガスを選択的に透過する分離機能層を有する選択透過膜と、前記選択透過膜によって隔てられた第1処理室と第2処理室を備えて構成され、
前記被分離ガスを含む混合ガスを前記第1処理室に供給、或いは、前記第1処理室内で生成し、前記被分離ガスを前記選択透過膜の前記第1処理室側から前記第2処理室側に透過させることにより、前記混合ガスから前記被分離ガスを分離するガス分離装置であって、
前記選択透過膜が、親水性多孔膜と、前記親水性多孔膜に支持された前記分離機能層と、前記分離機能層上に貼合された疎水性多孔膜の第1保護膜とを、順番に積層した積層構造を有し、
前記分離機能層が、水分を含む親水性ポリマーのゲル層を備えて構成され、
前記第1処理室が、前記選択透過膜の前記分離機能層より前記親水性多孔膜側にあり、
前記第2処理室が、前記選択透過膜の前記分離機能層より前記第1保護膜側にあることを特徴とするガス分離装置。
【請求項9】
前記親水性多孔膜の前記第1処理室側が、疎水性多孔膜からなる第2保護膜で被覆されていることを特徴とする請求項8に記載のガス分離装置。
【請求項10】
前記疎水性多孔膜が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、及び、ポリフッ化ビニリデンの内の少なくとも何れか1つを含んで構成されていることを特徴とする請求項8または9に記載のガス分離装置。
【請求項11】
前記親水性多孔膜が、ポリカーボネート、ポリセルロースエステル、ポリエーテルエーテルケトン、及び、前記疎水性多孔膜の親水化処理膜の内の少なくとも何れか1つを含んで構成されていることを特徴とする請求項8~10の何れか1項に記載のガス分離装置。
【請求項12】
前記親水性ポリマーが、ポリアクリル酸を主成分として含むポリマーであることを特徴とする請求項8~11の何れか1項に記載のガス分離装置。
【請求項13】
前記被分離ガスが二酸化炭素であり、
前記分離機能層が、前記ゲル層中に前記混合ガス中の二酸化炭素と選択的に反応するCOキャリアを含むCO促進輸送膜であることを特徴とする請求項8~12の何れか1項に記載のガス分離装置。
【請求項14】
前記第1処理室と前記第2処理室の間の圧力差を300kPa以上に調整する圧力調整装置を備えることを特徴とする請求項8~13の何れか1項に記載のガス分離装置。
【請求項15】
前記第1処理室と前記第2処理室を構成する筐体の外側に、前記第1処理室と前記第2処理室を前記外側から区別可能な識別表示が設けられていることを特徴とする請求項8~14の何れか1項に記載のガス分離装置。
【請求項16】
前記第1処理室内に、前記第1処理室に供給される原料ガスから前記被分離ガスを含む前記混合ガスを生成する反応を進行させる触媒が存在することを特徴とする請求項8~15の何れか1項に記載のガス分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被分離ガスを選択的に透過する分離機能層を備えた選択透過膜を用いて、被分離ガスを含む混合ガスから被分離ガスを分離するガス分離方法及び装置に関し、特に、選択透過膜が、親水性多孔膜と、親水性多孔膜上に形成された水分を含む親水性ポリマーのゲル層からなる分離機能層と、分離機能層上に貼合された疎水性多孔膜が順番に積層されてなる積層構造を有するガス分離方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
親水性ポリマーのゲル層からなる分離機能層を支持膜上に形成する場合、親水性ポリマーを含む水溶液からなるキャスト溶液を、支持膜上に塗工した後にゲル化する工程を伴う。ここで、支持膜として、疎水性多孔膜を使用する場合と親水性多孔膜を使用する場合の2通りの方法が存在する(例えば、下記の特許文献1及び2等参照)。尚、下記の特許文献1及び2に開示されている分離機能層は、何れも、水分を含む親水性ポリマーのゲル層内に、被分離ガスである二酸化炭素と選択的に反応する化合物であるCOキャリアを含むCO促進輸送膜である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/024523号
【文献】国際公開第2009/093666号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されているように支持膜として疎水性多孔膜を使用する場合、疎水性の支持膜の濡れ性が悪いため、キャスト溶液を支持膜上に均一に塗工することが困難となり、支持膜上にゲル層を均一に製膜できないという問題がある。
【0005】
一方、上記特許文献2に開示されているように支持膜として親水性多孔膜を使用する場合、キャスト溶液を支持膜上に均一に塗工することは可能であるが、支持膜の細孔内にもキャスト溶液が流れ込む。このキャスト溶液をゲル化すると、支持膜の表面のみならず細孔内にもゲル層が形成される。ガスを分離するためにゲル層にガスを供給して加圧すると、圧力により表面上に形成されたゲル層が更に細孔内に侵入していく。支持膜内の細孔部分の割合(多孔度)、及び、細孔が膜表面に垂直に真っ直ぐではなく曲がりくねっていること(屈曲率)を考慮すると、細孔内に侵入したゲル層はガス透過の大きな抵抗となる。従って、支持膜として親水性多孔膜を使用する場合、ゲル層全体での透過性は、支持膜の表面にのみゲル層が形成される場合と比較して低くなり、ガスパーミアンスは低下するという問題がある。
【0006】
以上より、分離機能層の支持膜として、製膜性を考慮すると親水性多孔膜が優れているが、ガス透過性能を考慮すると疎水性多孔膜が優れていると言える。
【0007】
本発明は、上述の問題点に鑑み、親水性多孔膜の有する優れた製膜性を維持しつつ、ガス透過性能の低下を抑制可能なガス分離方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係るガス分離方法は、
被分離ガスを選択的に透過する分離機能層を有する選択透過膜と、前記選択透過膜によって隔てられた第1処理室と第2処理室を備えて構成されるガス分離装置を使用し、
前記被分離ガスを含む混合ガスを前記第1処理室に供給、或いは、前記第1処理室内で生成し、前記被分離ガスを前記選択透過膜の前記第1処理室側から前記第2処理室側に透過させることにより、前記混合ガスから前記被分離ガスを分離するガス分離方法であって、
前記選択透過膜が、親水性多孔膜と、前記親水性多孔膜に支持された前記分離機能層と、前記分離機能層上に貼合された疎水性多孔膜の第1保護膜とを、順番に積層した積層構造を有し、
前記分離機能層が、水分を含む親水性ポリマーのゲル層を備えて構成され、
前記第1処理室が、前記選択透過膜の前記親水性多孔膜側に設けられ、前記第2処理室が、前記選択透過膜の前記第1保護膜側に設けられていることを特徴とする。
【0009】
更に、上記目的を達成するための本発明に係るガス分離装置は、
被分離ガスを選択的に透過する分離機能層を有する選択透過膜と、前記選択透過膜によって隔てられた第1処理室と第2処理室を備えて構成され、
前記被分離ガスを含む混合ガスを前記第1処理室に供給、或いは、前記第1処理室内で生成し、前記被分離ガスを前記選択透過膜の前記第1処理室側から前記第2処理室側に透過させることにより、前記混合ガスから前記被分離ガスを分離するガス分離装置であって、
前記選択透過膜が、親水性多孔膜と、前記親水性多孔膜に支持された前記分離機能層と、前記分離機能層上に貼合された疎水性多孔膜の第1保護膜とを、順番に積層した積層構造を有し、
前記分離機能層が、水分を含む親水性ポリマーのゲル層を備えて構成され、
前記第1処理室が、前記選択透過膜の前記分離機能層より前記親水性多孔膜側にあり、前記第2処理室が、前記選択透過膜の前記分離機能層より前記第1保護膜側にあることを特徴とする。
【0010】
分離ガスが分離機能層を第1処理室側から第2処理室側へ透過する推進力となる被分離ガスの分圧差を得るために第1処理室側の圧力は第2処理室側より高圧となるが、上記特徴のガス分離方法及び装置によれば、親水性多孔膜が分離機能層より第1処理室側に配置されているため、上述の第1及び第2処理室間の圧力差では、親水性多孔膜の表面上に形成されたゲル層が、親水性多孔膜の細孔内に侵入することはない。つまり、ゲル層が親水性多孔膜の細孔内に侵入することによるガスの透過性の低下を防止できる。更に、第1保護膜が疎水性多孔膜で構成され、ゲル層内に水分が含まれているため、上記圧力差によって、親水性多孔膜の表面上に形成されたゲル層が、第1保護膜の細孔内に侵入することも抑制される。これにより、親水性多孔膜の有する優れた製膜性を維持しつつ、ガス透過性能の低下を抑制することができ、支持膜として親水性多孔膜を使用する場合の問題と疎水性多孔膜を使用する場合の問題が同時に解決できる。
【0011】
尚、上記特徴のガス分離方法及び装置における「水分を含む親水性ポリマーのゲル層」とは、ガス分離装置がガス分離に使用されている使用状態と、ガス分離に使用されてない非使用状態(例えば、保管状態)の何れであっても、分離機能層のゲル層内に、各状態における温度及び湿度に応じた量の水分が含まれていることを意味する。
【0012】
更に、上記特徴のガス分離方法及び装置において、前記親水性多孔膜の前記第1処理室側が、疎水性多孔膜からなる第2保護膜で被覆されていることが好ましい。これにより、親水性多孔膜を通して水滴がゲル層に付着して、膜性能が低下することを防止できる。
【0013】
更に、上記特徴のガス分離方法及び装置において、前記疎水性多孔膜が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、及び、ポリフッ化ビニリデンの内の少なくとも何れか1つを含んで構成されていることが好ましい。
【0014】
更に、上記特徴のガス分離方法及び装置において、前記親水性多孔膜が、ポリカーボネート、ポリセルロースエステル、ポリエーテルエーテルケトン、及び、前記疎水性多孔膜の親水化処理膜の内の少なくとも何れか1つを含んで構成されていることが好ましい。
【0015】
更に、上記特徴のガス分離方法及び装置において、前記親水性ポリマーが、ポリアクリル酸を主成分として含むポリマーであることが好ましい。
【0016】
更に、上記特徴のガス分離方法及び装置において、前記被分離ガスが二酸化炭素であり、前記分離機能層が、前記ゲル層中に前記混合ガス中の二酸化炭素と選択的に反応するCOキャリアを含むCO促進輸送膜であることが好ましい。
【0017】
更に、上記特徴のガス分離方法及び装置において、前記第1処理室と前記第2処理室の間の圧力差を300kPa以上に調整することが好ましい。ガス分離装置においては、当該圧力差を300kPa以上に調整する圧力調整装置を設けることが好ましい。ここで、当該圧力差の調整は、前記第1処理室内と前記第2処理室内の少なくとも一方の圧力を調整して行う。
【0018】
更に、上記特徴のガス分離装置において、前記第1処理室と前記第2処理室を構成する筐体の外側に、前記第1処理室と前記第2処理室を前記外側から区別可能な識別表示が設けられていることが好ましい。
【0019】
更に、上記特徴のガス分離装置において、前記第1処理室内に、前記第1処理室に供給される原料ガスから前記被分離ガスを含む前記混合ガスを生成する反応を進行させる触媒が存在することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
上記特徴のガス分離方法及び装置によれば、親水性多孔膜の有する優れた製膜性を維持しつつ、ガス透過性能の低下を抑制することができ、支持膜として親水性多孔膜を使用する場合の問題と疎水性多孔膜を使用する場合の問題が同時に解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係るガス分離装置の一実施形態における構造を模式的に示す断面図
図2】実施例のサンプルS1と比較例1のサンプルC1のCOパーミアンスの評価結果を示す図
図3】実施例のサンプルS1と比較例1のサンプルC1のNパーミアンスの評価結果を示す図
図4】実施例のサンプルS1と比較例1のサンプルC1のCO/N選択性の評価結果を示す図
図5】実施例のサンプルSと比較例2のサンプルC2のCOパーミアンスの評価結果を示す図
図6】本発明に係るガス分離装置の別実施形態における構造を模式的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るガス分離装置及びガス分離方法(以下、適宜「本分離装置」及び「本分離方法」という。)の一実施形態につき、図面に基づいて説明する。
【0023】
[本分離装置の構成]
図1に、本分離装置1の基本的な構成を、要部を強調して模式的に示す。従って、図1に示す各構成要素の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致するものではない。
【0024】
図1に示すように、本分離装置1は、平膜の選択透過膜10が筐体20内に収容され、筐体20の内壁と選択透過膜10の供給側面に囲まれた空間によって、第1処理室21が形成され、筐体20の内壁と選択透過膜10の透過側面に囲まれた空間によって、第2処理室22が形成されている。つまり、第1処理室21と第2処理室22が選択透過膜10によって隔てられている。よって、筐体20は、第1処理室21と第2処理室22を構成する筐体である。
【0025】
筐体20は、例えば、ステンレス製であり、図示していないが、選択透過膜10の外周端部と筐体20の内壁との間に、一例として、フッ素ゴム製ガスケットをシール材として介装して、選択透過膜10を筐体20内に固定している。尚、選択透過膜10の固定方法及びシール方法は、上記方法に限定されるものではない。また、選択透過膜10を筐体20内に固定するための具体的な構造は、選択透過膜10の形状及び筐体20内への収容形態によって異なるため、また、本発明の本旨ではないので、詳細な説明を省略する。
【0026】
第1処理室21には、被分離ガスG0を含む混合ガスFGを外部から第1処理室21内に送入する第1送入口21aと、被分離ガスG0が分離された後の混合ガスである処理後ガスEGを第1処理室21から外部へ排出する第1排出口21bが設けられている。更に、図示しないが、第1送入口21aには、混合ガスFGを第1処理室21内に供給するための配管が接続され、第1排出口21bには、処理後ガスEGを第1処理室21から排出するための配管が接続される。尚、図1に示す第1送入口21aと第1排出口21bの開口位置は、例示であり、第1処理室21の形状に応じて適宜変更可能である。
【0027】
第2処理室22には、スイープガスSGを外部から第2処理室22内に送入する第2送入口22aと、選択透過膜10を透過した被分離ガスG0を含む透過ガスPGとスイープガスSGの混合された排出ガスMGを第2処理室22から外部へ排出する第2排出口22bが設けられている。更に、図示しないが、第2送入口22aには、スイープガスSGを第2処理室22内に供給するための配管が接続され、第2排出口22bには、排出ガスMGを第2処理室22から排出するための配管が接続される。尚、図1に示す第2送入口22aと第2排出口22bの開口位置は、例示であり、第処理室2の形状に応じて適宜変更可能である。
【0028】
上記各配管には、ガス管の他、複数のガス種を混合するため装置、ガス流量を調整または計測するための装置、ガスの供給圧を調整するための装置、ガスの背圧を調整するための装置、ガス中に水蒸気を添加するための装置、ガス中の水分を除去するための装置等が、必要に応じて、設けられる。
【0029】
スイープガスSGは、選択透過膜10を透過した被分離ガスG0を含む透過ガスPGの分圧を低くして、選択透過膜10の透過推進力を維持し、透過ガスPGを外部に排出するために使用される。但し、被分離ガスG0の分圧が十分に高い場合には、スイープガスSGを流さなくとも透過推進力となる分圧差が得られるため、スイープガスSGを流す必要はない。従って、本分離装置1において、スイープガスSGは必要に応じて使用すればよく、スイープガスSGを使用しない場合は、第2処理室22に第2送入口22aを必ずしも設ける必要はない。図1に例示する構成では、スイープガスSGの使用を想定している。また、第2送入口22aを設ける位置に、第2排出口22bの位置を移動しても良い。更に、スイープガスSGを使用する場合であっても、第2送入口22aの位置と第2排出口22bの位置を入れ替えても構わない。この場合、第1処理室21内での混合ガスFGの流れる方向と、第2処理室22内での透過ガスPGまたは排出ガスMGの流れる方向が逆方向となる。また、スイープガスSGに用いるガス種として、後述する選択透過膜10の膜性能の評価実験と同様に、HO(スチーム)を使用することもでき、更には、Ar等の不活性ガス、或いは、スチームと不活性ガスの混合ガス等も使用することができ、スイープガスSGは特定のガス種に限定されるものではない。
【0030】
選択透過膜10は、図1に示すように、親水性多孔膜11と分離機能層12と第1保護膜13を順番に積層した積層構造を有する。分離機能層12は、被分離ガスG0を選択的に透過させるための層であり、本実施形態では、一例として、水分を含む親水性ポリマーのゲル層中に、被分離ガスG0と選択的に反応する化合物(ガスキャリア)を含み、促進輸送膜として機能する。
【0031】
親水性多孔膜11は、分離機能層12のゲル層を形成する工程において、親水性ポリマーを含む水溶液からなるキャスト溶液を塗工する下地材であり、キャスト溶液中の親水性ポリマーをゲル化して得られるゲル層を支持する支持膜として機能する。
【0032】
第1保護膜13は、分離機能層12の露出面を保護する保護膜であり、本実施形態では、分離機能層12の露出面に疎水性多孔膜を貼合して構成される。
【0033】
分離機能層12を構成する親水性ポリマーとして、ポリビニルアルコール-ポリアクリル酸(PVA/PAA)塩共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、キトサン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、または、ポリビニルピロリドン等の使用が想定され、特に、ポリアクリル酸を主成分として含む親水性ポリマーが好適に使用される。更に、親水性ポリマーのゲル層がハイドロゲルであっても良い。ハイドロゲルは、親水性ポリマーが架橋することで形成された三次元網目構造物であり、水を吸収することで膨潤する性質を有する場合が多い。親水性ポリマーがPVA/PAA塩共重合体またはポリビニルアルコールの場合のハイドロゲルの架橋度は、グルタルアルデヒド等のジアルデヒド化合物、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド化合物、等の架橋剤の添加量により調節することができる。尚、当業者において、PVA/PAA塩共重合体は、PVA/PAA共重合体と呼ばれることもある。
【0034】
被分離ガスG0が二酸化炭素の場合、分離機能層12に含まれるガスキャリア(COキャリア)として、炭酸セシウム(CsCO)、炭酸ルビジウム(RbCO)等のアルカリ金属の炭酸塩、重炭酸塩、または、水酸化物、或いは、グリシン、2,3‐ジアミノプロピオン酸塩(DAPA)、アラニン、アルギニン、アスパラギン、セリン、オルニチン、クレアチン、トレオニン、サルコシン、及び、2‐アミノ酪酸等のアミノ酸が、好適に使用される。
【0035】
促進輸送機構によるCOとCOキャリアの反応は、総括反応式としては、下記の(化1)のように示される。但し、(化1)ではCOキャリアが炭酸塩である場合を想定している。反応式中の記号「⇔」は、可逆反応であることを示している。
【0036】
(化1)
CO + HO + CO 2- ⇔ 2HCO
【0037】
ここで、COキャリアがアルカリ金属の炭酸塩の場合には、上記(化1)に示す反応が生じるが、COキャリアがアルカリ金属の水酸化物の場合は、下記の(化2)に示すような反応が生じる。尚、(化2)では、一例としてアルカリ金属がセシウムの場合を示す。
【0038】
(化2)
CO+ CsOH → CsHCO
CsHCO+ CsOH → CsCO+ H
【0039】
尚、上記(化2)を纏めると、下記(化3)のように表すことができる。即ち、これにより、添加された水酸化セシウムが炭酸セシウムに転化することが示される。更に、上記(化2)より、COキャリアとして、アルカリ金属の炭酸塩の代わりに重炭酸塩を添加した場合においても同様の効果を得ることができることが分かる。
【0040】
(化3)
CO+ 2CsOH → CsCO+ H
【0041】
グリシンやDAPA等のアミノ酸をCOキャリアとして利用する場合、二酸化炭素はNH と反応せず、フリーのNHと反応することが知られている。このため、COキャリアとしてグリシンやDAPA等のアミノ酸を用いる場合、アミノ酸に対して当量以上のアルカリを添加して、後述のキャスト溶液中に溶解したNH を脱プロトン化してNHに変換する必要がある。当該アルカリとしては、プロトン化したNH からプロトンを奪い、NHに変換できるだけの強塩基性を有するものであれば良く、アルカリ金属元素の水酸化物または炭酸塩を好適に利用できる。
【0042】
親水性ポリマーのゲル層中には、COキャリア及び上記脱プロトン化剤としてのアルカリ以外に、CO水和反応触媒を添加しても良い。この場合、CO水和反応触媒として、オキソ酸化合物を好適に使用する。CO水和反応触媒は、より具体的には、6族元素、14族元素、15族元素、及び、16族元素の中から選択される少なくとも1つの元素のオキソ酸化合物を使用し、特に好ましくは、亜テルル酸化合物、亜セレン酸化合物、亜ヒ酸化合物、オルトケイ酸化合物、或いは、モリブデン酸化合物を使用する。
【0043】
第1保護膜13を構成する疎水性多孔膜は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、等が好適に使用される。更に、疎水性多孔膜の多孔度(空隙率)は55%以上であるのが好ましく、疎水性多孔膜の細孔径は、0.1~1μmの範囲にあるのが好ましく、0.1~0.5μmの範囲にあるのがより好ましい。
【0044】
尚、「疎水性」とは25℃における水との接触角が90°以上であることを意味する。本実施形態においては、疎水性多孔膜の上記接触角は、95°以上が好ましく、100°以上がより好ましく、105°以上が更に好ましい。
【0045】
親水性多孔膜11は、ポリカーボネート(PC)、ポリセルロースエステル、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、及び、上記疎水性多孔膜を親水化処理した膜、等が好適に使用される。更に、親水性多孔膜11の多孔度(空隙率)は55%以上であるのが好ましく、親水性多孔膜11の細孔径は、0.1~1μmの範囲にあるのが好ましく、0.1~0.5μmの範囲にあるのがより好ましい。
【0046】
尚、「親水性」とは25℃における水との接触角が90°未満であることを意味する。本実施形態においては、親水性多孔膜11の上記接触角は、45°以下が好ましい。
【0047】
本分離装置1の重要な特徴として、選択透過膜10が、分離機能層12を基準として、親水性多孔膜11が第1処理室21側に面し、疎水性多孔膜の第1保護膜13が、第2処理室22側に面するように、筐体20内に固定されている。これにより、第1処理室21内に供給された混合ガスFGに含まれる被分離ガスG0が選択透過膜10を透過する際に、親水性多孔膜11、分離機能層12、及び、疎水性多孔膜の第1保護膜13の順に透過する。上述したように、被分離ガスG0が分離機能層12を第1処理室21側から第2処理室22側へ透過する推進力を得るために、第1処理室21側の圧力は第2処理室22側より高圧に設定されているが、上記特徴によって、親水性多孔膜11が分離機能層12より第1処理室21側に配置されているため、第1及び第2処理室間の圧力差では、親水性多孔膜の表面上に形成されたゲル層が、親水性多孔膜の細孔内に侵入することはない。この結果、被分離ガスG0が選択透過膜10を透過する際に親水性多孔膜の細孔内に侵入するゲル層に起因するガスパーミアンスの低下が抑制される。
【0048】
本分離方法の特徴は、本分離装置1を使用して、被分離ガスG0を含む混合ガスFGを第1処理室21に供給し、被分離ガスG0を選択透過膜10の第1処理室21側から第2処理室22側に透過させることにより、混合ガスFGから被分離ガスG0を分離する点にある。本分離装置1を使用することで、上述した本分離装置1の特徴による顕著な効果を奏することができる。
【0049】
[本分離装置の製造方法]
次に、本分離装置の製造方法の一実施形態について説明する。本分離装置の製造方法は、選択透過膜10を製造する工程と、製造された選択透過膜10を筐体20内に固定する工程に大別される。先ず、選択透過膜10の製造工程の一例を説明する。
【0050】
以下の説明では、分離機能層12の親水性ポリマーのゲル層中に、COキャリア及びCO水和反応触媒が添加される場合を想定し、分離機能層12はCO促進輸送膜として機能する。また、親水性ポリマーとして架橋ポリアクリル酸(住友精化社製アクペックHV-501を使用し、COキャリアとして水酸化セシウムを使用し、CO水和反応触媒として、亜テルル酸カリウムを使用する。更に、親水性多孔膜11として、親水性PTFE多孔膜(住友電工ファインポリマー製、WPW-020-80、膜厚80μm、細孔径0.2μm)を使用し、疎水性多孔膜(第1保護膜13)として、疎水性PTFE多孔膜(住友電工ファインポリマー製、HP-010-50、膜厚50μm、細孔径0.1μm)を使用する。
【0051】
先ず、親水性ポリマーとCOキャリアとCO水和反応触媒を含むキャスト溶液を作製する(工程1)。より詳細には、一例として、架橋ポリアクリル酸を2.2g、水酸化セシウム1水和物を15.2g、及び、亜テルル酸カリウム0.8gを、純水87.3gに添加し、溶解するまで攪拌してキャスト溶液を得る。
【0052】
次に、工程1で得たキャスト溶液を、親水性PTFE多孔膜の面上に、アプリケータでキャストする(工程2)。尚、後述する実施例及び比較例のサンプルでのキャスト厚は500μmである。
【0053】
次に、キャスト後の親水性PTFE多孔膜を室温で自然乾燥させた後、キャスト溶液をゲル化させ、分離機能層12を生成する(工程3)。ここで、ゲル化とは、ポリマーの分散液であるキャスト溶液を乾燥させて固体状にすること意味し、ゲル層とは、当該ゲル化により生成された固体状の層で、液膜とは明確に区別される。尚、後述する実施例及び比較例1のサンプルでは、工程2と工程3を繰り返している。
【0054】
上記製造工程では、工程2において、キャスト溶液を親水性PTFE多孔膜に塗工するため、工程3において、ゲル層は、親水性PTFE多孔膜の表面(キャスト面)に形成されるのみならず細孔内にも充填して形成されるので、欠陥(ピンホール等の微小欠陥)が生じ難くなり、ゲル層の製膜成功率が高くなる。尚、図1では、分離機能層12のゲル層が親水性多孔膜11の親水性PTFE多孔膜の細孔内に充填している様子の図示は省略している。
【0055】
尚、上記製造工程では、親水性ポリマーとして架橋ポリアクリル酸を使用する一例を示したが、工程1において、未架橋の親水性ポリマーとしてPVA/PAA塩共重合体またはポリビニルアルコールを使用する場合、工程3において、自然乾燥させた親水性PTFE多孔膜を、更に、120℃程度の温度で、2時間程度熱架橋しても良い。尚、親水性ポリマーをハイドロゲル化する場合の架橋度を、ジアルデヒド化合物或いはアルデヒド化合物等の架橋剤の添加により調節する場合は、当該架橋剤を上記工程1においてキャスト溶液に添加する。
【0056】
次に、工程3で生成された分離機能層12上に、疎水性PTFE多孔膜(第1保護膜13)を貼合し(工程4)、選択透過膜10の製造工程が完了する。
【0057】
次に、上記工程1から工程4を経て作製された選択透過膜10を、一例として、フッ素ゴム製ガスケットをシール材として介装して、親水性多孔膜11が第1処理室21側に面し、疎水性多孔膜の第1保護膜13が、第2処理室22側に面するように、筐体20内に固定し(工程5)、本分離装置1が作製される。尚、工程5に使用する筐体20には、第1処理室21に、第1送入口21aと第1排出口21bを予め設けておき、第2処理室22に、第2送入口22aと第2排出口22bを予め設けておく。尚、第2送入口22aは、スイープガスSGを使用する場合にのみ、第2処理室22に設けるようにしても良い。
【0058】
ところで、本分離方法では、被分離ガスG0を含む混合ガスFGを第1処理室21に供給するために、工程5を経て作製された本分離装置1において、第1処理室21と第2処理室22を、筐体20の外側から区別可能に、何らかの識別表示(文字やマークによる表示、第1処理室21と第2処理室22の形状や大きさの違い、第1送入口21aと第2送入口22a、或いは、第1排出口21bと第2排出口22bの形状や大きさの違い、等)を筐体20の外側(外壁等)に設けておくのが好ましい。当該識別表示が設けてあれば、混合ガスFGを第2処理室2に供給する間違いを防止できる。尚、第2処理室22に第2送入口22aが設けられていない場合は、当該識別表示が無くても、第1処理室21と第2処理室22は、筐体20の外側から区別可能である。
【0059】
[本分離装置の性能評価(1)]
次に、本分離装置1の実施例のサンプルS1、本分離装置1の比較例1のサンプルC1に対して、選択透過膜10の膜性能の評価を行った結果を説明する。
【0060】
サンプルS1とサンプルC1で使用される選択透過膜10は、何れも分離機能層12がCO促進輸送膜であり、上記本分離装置の製造方法の工程1から工程4を経て同様に作製されている。サンプルS1とサンプルC1の相違点は、作製された選択透過膜10の筐体20内への固定方法である。尚、以下の実験では、筐体20として、ステンレス製の流通式ガス透過セルを使用した。
【0061】
サンプルS1では、上記製造方法の工程5に従って、親水性多孔膜11が第1処理室21側に面し、疎水性多孔膜の第1保護膜13が、第2処理室22側に面するように、選択透過膜10は流通式ガス透過セルに固定されている。一方、サンプルC1では、フッ素ゴム製ガスケットをシール材として介装して、親水性多孔膜11が第2処理室22側に面し、疎水性多孔膜の第1保護膜13が、第1処理室21側に面するように、流通式ガス透過セルに固定されている。つまり、実施例のサンプルS1では、選択透過膜10を透過する被分離ガスG0は、親水性多孔膜11、分離機能層12、第1保護膜13の順に通過するが、比較例1のサンプルC1では、被分離ガスG0は、サンプルS1とは逆向きに、第1保護膜13、分離機能層12、親水性多孔膜11の順に通過する。
【0062】
次に、実施例及び比較例1の各サンプルS1及びC1の選択透過膜10の膜性能を評価するための実験方法について説明する。
【0063】
評価条件は、各サンプルに対して共通であり、流通式ガス透過セルは恒温槽内に設置され、当該セル内の温度は110℃に固定され、セル内の相対湿度は70%である。第1処理室21に供給される混合ガスFGは、CO、N、HO(スチーム)からなる混合ガスであり、被分離ガスG0は、COである。本評価実験では、第2処理室22に、スイープガスSGとして、HO(スチーム)を流している。
【0064】
上記温度及び相対湿度以外に、混合ガスFGの全圧(絶対圧)、混合ガスFG中のCO、N、スチームの各供給流量、CO分圧、スイープガスSGのスチーム流量に対して、下記の表1に示す4条件を設定した。当該4条件は、ガス透過速度の全圧依存性を評価するための条件であり、全圧とNの供給流量を変えることによって、温度、CO分圧、相対湿度を一定にしている。
【0065】
【表1】
【0066】
第2処理室22側の圧力は大気圧である。第1及び第2処理室21,22側の各圧力は、第1及び第2処理室21,22からそれぞれ排出される処理後ガスEG及び排出ガスMGの排出路の途中の冷却トラップの下流側に背圧調整器を設けて調整される。
【0067】
各サンプルS1及びC1の選択透過膜10を透過したガスは、第2処理室21側から冷却トラップを通過した後容器内に回収され、ガスクロマトグラフで定量する。尚、各サンプルS1及びC1の選択透過膜10を透過したガスが少量であり、そのCO濃度をガスクロマトグラフの測定範囲内に整合させるために、当該容器内に所定の流量で希釈用ガスとしてArを供給する。ガスクロマトグラフで定量した結果とArの流量よりCO及びNのパーミアンス[mol/(m・s・kPa)]を計算し、その比より、CO/N選択性を算出する。
【0068】
図2図4に、条件1~4の各条件において上記要領で測定された3種類の膜性能(COパーミアンス、Nパーミアンス、CO/N選択性)を各別に示す。各図の横軸に全圧を示すが、4通りの全圧が、左から順番に条件1~4に対応する。図2図4において、黒丸(●)が実施例のサンプルS1の各膜性能を示し、黒三角(▲)が、比較例1のサンプルC1の各膜性能を示している。
【0069】
図2に示すCOパーミアンスの測定結果より、比較例1のサンプルC1では、全圧の増加とともに、COパーミアンスが低下している。これより、被分離ガスG0が第1保護膜13、分離機能層12、親水性多孔膜11の順に通過するサンプルC1では、全圧の増加とともに、分離機能層12のゲル層が、支持の親水性多孔膜11の細孔内に侵入していくことで、ガス透過の抵抗が大きくなっていく現象が確認できる。これに対して、被分離ガスG0が親水性多孔膜11、分離機能層12、第1保護膜13の順に通過する実施例のサンプルS1では、COパーミアンスの全圧依存性が小さいことが確認できる。
【0070】
一方、図3に示す溶解・拡散機構で透過するNパーミアンスの測定結果では、実施例のサンプルS1及び比較例1のサンプルC1の何れにおいても、全圧の増加とともに、Nパーミアンスが低下しており、サンプルS1の方がサンプルC1より僅かに高い値を示しているが、実施例と比較例1の間で大差がない。
【0071】
図2及び図3に示すCOパーミアンス及びNパーミアンスの測定結果より、図4に示すように、CO/N選択性は、全圧が増加することにより、実施例のサンプルS1の方が比較例1のサンプルC1より高くなっている。
【0072】
以上より、実施例のサンプルS1では、分離機能層12のゲル層が親水性多孔膜11の細孔内に侵入していくことに起因するガス透過性能の低下が、効果的に抑制されていることが分かる。
【0073】
更に、第2処理室22側の圧力が大気圧であるので、図2に示すCOパーミアンスの測定結果より、実施例のサンプルS1と比較例1のサンプルC1との間のCOパーミアンスの差は、第1処理室21と第2処理室22の間の圧力差が300kPa以上において顕著に表れ、500kPa以上で更に増大している。これより、第1処理室21と第2処理室22の間の圧力差は、300kPa以上、好ましくは、500kPa以上に調整することで、被分離ガスG0が選択透過膜10を透過する際に親水性多孔膜の細孔内に侵入するゲル層に起因するガスパーミアンスの低下を抑制するという、本分離装置1及び本分離装置1を用いた本分離方法に特有の効果が、顕著に発揮され得る。
【0074】
[本分離装置の性能評価(2)]
次に、本分離装置1の実施例のサンプルS2、本分離装置1の比較例2のサンプルC2に対して、選択透過膜10の膜性能の評価を行った結果を説明する。
【0075】
実施例のサンプルS2は、上記の性能評価(1)のサンプルS1と同様に、上記本分離装置の製造方法の工程1から工程5を経て作製されている。従って、サンプルS2とサンプルS1は同じであるので、サンプルS1と重複する説明は割愛する。
【0076】
比較例2のサンプルC2で使用される選択透過膜は、分離機能層がCO促進輸送膜であり、第1保護膜が疎水性多孔膜である点で、サンプルS2で使用される選択透過膜10と共通しているが、分離機能層のゲル層を支持する支持膜が疎水性多孔膜である点で、当該支持膜が親水性多孔膜11であるサンプルS2で使用される選択透過膜10と相違している。
【0077】
サンプルC2の選択透過膜の製造工程は、上記本分離装置の製造方法の工程1で使用するキャスト溶液に、界面活性剤(AGCセイミケミカル社製のサーフロンS-242)0.05gを添加している点で、サンプルS2の工程1と異なり(工程1’)、上記サンプルC2用の工程1’で得たキャスト液を、アプリケータでキャストする親水性PTFE多孔膜ではなく、疎水性PTFE多孔膜の面上に、キャストする点で、サンプルS2の工程1と異なる(工程2’)。工程1’において、キャスト溶液に界面活性剤を添加するのは、疎水性PTFE多孔膜に対する分離機能層の製膜性を向上させるためである。界面活性剤を添加しない場合、キャスト溶液が疎水性PTFE多孔膜の表面で弾かれ、支持膜上に均一なゲル層を形成することができないことは確認済みである。サンプルC2用の工程3及び4は、サンプルS2の工程3及び4と同じである。
【0078】
引き続き、サンプルC2では、工程1’、工程2’、工程3、及び工程4を経て作製された選択透過膜を、疎水性多孔膜の支持膜が第2処理室22側に面し、疎水性多孔膜の第1保護膜が、第1処理室21側に面するように、流通式ガス透過セルに固定されている(工程5’)。つまり、比較例2のサンプルC2では、被分離ガスG0は、第1保護膜(疎水性多孔膜)、分離機能層、支持膜(疎水性多孔膜)の順に通過する。従って、サンプルC2における、分離機能層のゲル層が、支持の疎水性多孔膜の細孔内に侵入していく程度は、実施例のサンプルS2における、分離機能層12のゲル層が、第1保護膜の疎水性多孔膜の細孔内に侵入していく程度と同じである。
【0079】
次に、実施例及び比較例2の各サンプルS2及びC2の選択透過膜の膜性能を評価するための実験方法について説明する。
【0080】
評価条件は、各サンプルに対して共通であり、流通式ガス透過セルは恒温槽内に設置され、当該セル内の温度は110℃に固定され、セル内の相対湿度は80%である。第1処理室21に供給される混合ガスFGは、CO、N、HO(スチーム)からなる混合ガスであり、その配分比(モル%)は、CO:N:HO=34:53:13である。被分離ガスG0は、COである。混合ガスFGの供給流量は、7.2×10-2mol/minであり、混合ガスFGの全圧(絶対圧)は、900kPaである。
【0081】
一方、第2処理室22側の圧力は大気圧である。本評価実験では、第2処理室22に流すスイープガスSGとして、HO(スチーム)とArの混合ガスを使用した。その流量は、2.4×10-2mol/minであり、配分比(モル%)は、HO:Ar=29:71である。第1及び第2処理室21,22側の各圧力は、第1及び第2処理室21,22からそれぞれ排出される処理後ガスEG及び排出ガスMGの排出路の途中の冷却トラップの下流側に背圧調整器を設けて調整される。
【0082】
各サンプルS2及びC2の選択透過膜を透過したガスとスイープガスSGの混合ガスである排出ガスMGは、第2処理室21側から冷却トラップを通過した後容器内に回収され、ガスクロマトグラフで定量する。ガスクロマトグラフで定量した結果と排出ガスMG中のArの流量よりCOのパーミアンス[mol/(m・s・kPa)]を計算する。
【0083】
図5に、上記評価条件において上記要領で、実験開始からの複数の経過時間において測定されたCOパーミアンスの測定結果を示す。図5の横軸は、実験開始からの経過時間を示している。黒丸(●)が実施例のサンプルS2のCOパーミアンスを示し、黒三角(▲)が、比較例2のサンプルC2のCOパーミアンスを示している。
【0084】
図5より、約20時間から約40時間の経過時間を通して、サンプルS2のCOパーミアンスは、サンプルC2のCOパーミアンスより高くなっており、平均すると約16%高くなっている。これは、比較例2のサンプルC2においては、分離機能層12に界面活性剤が含まれいるため、分離機能層と接する疎水性PTFE多孔膜の表面が親水化され、細孔内に分離機能層が侵入することに起因していると考えられる。
【0085】
[別実施形態]
以下に、別実施形態について説明する。
【0086】
〈1〉 上記実施形態では、選択透過膜10が、図1に示すように、親水性多孔膜11と分離機能層12と疎水性多孔膜の第1保護膜13を順番に積層した3層の積層構造を有する場合について説明したが、図6に示すように、選択透過膜10を、疎水性多孔膜の第2保護膜14と親水性多孔膜11と分離機能層12と疎水性多孔膜の第1保護膜13を順番に積層した4層の積層構造としても良い。
【0087】
当該4層構造の選択透過膜10は、上述の本分離装置の製造方法の工程4において、工程3で生成された分離機能層12上に、疎水性PTFE多孔膜(第1保護膜13)を貼合するとともに、親水性多孔膜11である親水性PTFE多孔膜のキャスト面と反対側の露出面上に、疎水性PTFE多孔膜(第2保護膜14)を貼合して得られる。第2保護膜14の疎水性多孔膜は、第1保護膜13と同じ疎水性多孔膜が好適に使用できるが、異なる疎水性多孔膜であっても良い。そして、工程5において、当該工程4で作製された4層構造の選択透過膜10を、3層構造の選択透過膜10と同じ要領で、筐体20内に固定して本分離装置1が作製される。
【0088】
4層構造の選択透過膜10であっても、上述した本分離装置1の重要な特徴、つまり、選択透過膜10が、分離機能層12を基準として、親水性多孔膜11が第1処理室21側に面し、疎水性多孔膜の第1保護膜13が、第2処理室22側に面するように、筐体20内に固定されている点は、そのまま維持されているため、3層構造の選択透過膜10と同様の効果を奏する。更に、4層構造の選択透過膜10では、親水性多孔膜11の第1処理室21側が、疎水性多孔膜の第2保護膜14によって被覆されているため、水滴が水性多孔膜を通してゲル層に付着して、膜性能が低下することを防止できる。
【0089】
〈2〉 上記実施形態では、選択透過膜10の形状として、図1及び図6に示すように、平膜状の選択透過膜10をそのままの形状で使用する平板型を例示したが、選択透過膜10を円筒状の3層または4層構造とする円筒型、3層または4層構造の平膜状の1または複数枚の選択透過膜10をスパイラル状に複数回巻いた形状とするスパイラル型、或いは、3層または4層構造の平膜状の1または複数枚の選択透過膜10を蛇腹状に折り畳んだ形状とするプリーツ型、等の平板型以外の形状であっても良い。
【0090】
〈3〉 上記実施形態では、本分離装置の性能評価の説明において、被分離ガスG0としてCOを、第1処理室21に供給する混合ガスFGとして、CO、N、HO(スチーム)からなる混合ガスを想定したが、被分離ガスG0は、COに限定されるものではない。例えば、分離機能層12が促進輸送膜である場合、被分離ガスG0として、HS、SO、NO等の酸性ガスが想定される。更に、被分離ガスG0を含む混合ガスFGを構成するガス種も上述の組み合わせのガス種に限定されるものではない。分離機能層12が促進輸送膜である場合、被分離ガスG0及びHO(スチーム)以外のガス種としては、N以外に、溶解・拡散機構でのみ透過するH、CH、O、CO等が想定される。また、水分を含む親水性ポリマーのゲル層を備えて構成される分離機能層12としては、主として、促進輸送膜が想定されるが、水分を含む親水性ポリマーのゲル層を備えて構成される分離機能層であれば、必ずしも促進輸送膜に限定されるものではない。
【0091】
〈4〉 上記実施形態では、分離機能層12がCO促進輸送膜である選択透過膜10の製造工程の一例として、親水性ポリマーとCOキャリアとCO水和反応触媒を含むキャスト溶液を作製し(工程1)、工程1で得たキャスト溶液を、親水性PTFE多孔膜の面上にキャストし(工程2)、キャスト後の親水性PTFE多孔膜を室温で自然乾燥させた後、キャスト溶液をゲル化させた(工程3)が、工程1において、COキャリアとCO水和反応触媒の何れか一方または両方を含まないキャスト溶液を作製し、工程3で得られたゲル層に対して、COキャリアとCO水和反応触媒の何れか一方または両方を含水溶液を含浸させて、分離機能層12を形成するようにしても良い。また、上記選択透過膜10の製造工程の一例では、親水性ポリマーのゲル層内にCO水和反応触媒が添加されるが、CO水和反応触媒は必要に応じて添加すれば良い。
【0092】
〈5〉 上記実施形態では、被分離ガスG0を含む混合ガスFGが外部から第1送入口21aを介して第1処理室21内に供給される場合を説明したが、混合ガスFGを外部から供給せずに、外部から第1処理室21内に供給された原料ガス(被分離ガスG0以外のガスを含む混合ガス)の反応によって混合ガスFGを第1処理室21内で生成するようにしても良い。混合ガスFGが第1処理室21内で生成される場合であっても、上述した本分離装置1の重要な特徴、つまり、選択透過膜10が、分離機能層12を基準として、親水性多孔膜11が第1処理室21側に面し、疎水性多孔膜の第1保護膜13が、第2処理室22側に面するように、筐体20内に固定されている点は、そのまま維持されているため、混合ガスFGが外部から第1処理室21内に供給される場合と同様の効果を奏する。
【0093】
次に、混合ガスFGが第1処理室21内で生成される実施態様の一例として、第1処理室21内にCO変成器を設けたCO透過型メンブレンリアクターについて簡単に説明する。この場合、被分離ガスG0はCOであり、分離機能層12は上述したCO促進輸送膜である。
【0094】
例えば、図1に示す本分離装置1を用いて、CO透過型メンブレンリアクターを構成する場合、第1処理室21内にCO変成触媒を充填し、第1処理室21をCO変成器として構成する。
【0095】
CO透過型メンブレンリアクターは、例えば、水蒸気改質器で生成されたHを主成分とする原料ガスをCO変成触媒の充填された第1処理室21内に供給し、原料ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)を、下記(化4)に示すCO変成反応によって除去する装置である。当該CO変成反応により、第1処理室21内に供給された原料ガス(COとHとHOの混合ガス)から、COとHとHOの混合ガスFGが、第1処理室21内で生成される。そして、生成された混合ガスFG中の被分離ガスG0であるCOを、本分離装置1の第1処理室21から第2処理室22側に選択的に透過させて除去することで、CO変成反応の化学平衡を水素生成側にシフトさせることができ、同一反応温度において高い転化率で、CO及びCOを平衡の制約による限界を超えて除去することが可能となる。そして、CO及びCOを除去後のHを主成分とする処理後ガスEGが第1処理室21から取り出される。
【0096】
(化4)
CO + HO ⇔ CO + H
【0097】
第1処理室21内に充填するCO変成触媒は、特定の触媒に限定されるものではなく、種々の触媒が利用可能である。また、第2処理室22に供給するスイープガスSGは、必要に応じて使用すれば良く、スイープガスSGに使用するガス種も、上述したように、HO(スチーム)や不活性ガス等が好適に使用できる。
【0098】
〈6〉 上記実施形態において例示した、選択透過膜10の分離機能層12の組成における各成分の混合比率、親水性多孔膜11及び第1保護膜13の細孔径、多孔度、膜厚等は、本発明の理解の容易のための例示であり、例示した数値の選択透過膜10に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係るガス分離装置及びガス分離方法は、被分離ガスを選択的に透過する分離機能層を備えた選択透過膜を用いて、被分離ガスを含む混合ガスから被分離ガスを選択的に分離するのに利用可能である。
【符号の説明】
【0100】
1: ガス分離装置
10: 選択透過膜
11: 親水性多孔膜
12: 分離機能層
13: 第1保護膜(疎水性多孔膜)
14: 第2保護膜(疎水性多孔膜)
20: 筐体
21: 第1処理室
21a: 第1送入口
21b: 第1排出口
22: 第2処理室
22a: 第2送入口
22b: 第2排出口
FG: 混合ガス
EG: 処理後ガス
MG: 排出ガス
PG: 透過ガス
SG: スイープガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6