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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】プラスチック眼鏡レンズ及び眼鏡
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/02 20060101AFI20230919BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20230919BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20230919BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20230919BHJP
【FI】
G02C7/02
G02C7/10
G02B5/22
G02B1/115
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018182408
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020052275
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)集会名 第59回日本神経学会学術大会 (2)開催日 2018年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 栄二
【審査官】中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-502953(JP,A)
【文献】特表平04-505635(JP,A)
【文献】特開2015-117948(JP,A)
【文献】特開平07-092301(JP,A)
【文献】特開2012-219169(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158639(WO,A1)
【文献】特開2000-290256(JP,A)
【文献】特開2012-190018(JP,A)
【文献】特開2018-141847(JP,A)
【文献】特開2015-135495(JP,A)
【文献】特開2015-118122(JP,A)
【文献】国際公開第2009/145057(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/02
G02C 7/10
G02B 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック製の基材を有するプラスチック眼鏡レンズであって、
前記基材の厚みは4mm以下であり、
前記基材に、505nmの波長において吸収率分布の極大値が存在するモノアゾ系ニッケル錯体色素及びメロシアニン色素が、前記基材の重合性化合物の重量に対して、合わせて0.05wt%以上0.8wt%以下となる状態で添加されていると共に、吸収ピーク波長が380nm未満の紫外線吸収剤、並びに黄色を緩和するための青色色素及び紫色色素の少なくとも一方が添加されており、
前記基材の両面に、可視光の反射を防止するための光学多層膜が形成されており、
410nm以上430nm以下の波長域における透過率が70%以上である
ことを特徴とするプラスチック眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記基材は、チオウレタン樹脂を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のプラスチック眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記基材は、エピスルフィド樹脂を含む
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラスチック眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記基材は、熱可塑性樹脂を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のプラスチック眼鏡レンズ。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れかに記載のプラスチック眼鏡レンズが用いられている
ことを特徴とする眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック眼鏡レンズ(サングラスレンズを含む)、及び当該プラスチック眼鏡レンズを用いた眼鏡(サングラスを含む)に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第5807237号公報(下記特許文献1)に記載されるように、メラノプシンの吸光ピークである波長485nm(ナノメートル)の光を遮断することにより羞明を予防する遮光眼鏡が知られている。
この遮光眼鏡は、例えば光学多層膜の形成、体積位相型ホログラムの導入、あるいは金属微粒子の混入により、波長485nmあるいはこれを含む波長域の光の透過率を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5807237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近時、眼の網膜におけるメラノプシンを含有する内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)に関し、視覚障害の偏頭痛患者において光照射下で頭痛の悪化がみられることから、ipRGCが頭痛に関与する経路となることが報告された(Noseda R. et al., Nature Neurosci., 2010)。
更に、視覚障害のない正常視覚の偏頭痛患者における網膜電図と視覚誘発電位の測定結果との比較がなされ、光過敏を伴う頭痛に錐体及び杆体が関与していることが見出された(Noseda R. et al., Brain., 2015)。
又、DIN SPEC 5031-100 2015 August において、光が網膜のipRGCを介してヒト生体の生理学的・心理学的プロセスに及ぼす作用であるメラノピック作用が定められた。メラノピック作用の相対的な度合を示す作用関数が、図4に示される。この作用関数は、32歳の標準観測者によるものであり、波長485nmの光に対する作用強度がピーク(相対強度1)となっており、440nm程度及び540nm程度の光に対する作用強度がピークの半値(0.5)となっている。
かように、網膜のipRGCに対して485nmを中心とした波長域の光の刺激を受けた者(特に偏頭痛患者)は、頭痛あるいはその悪化を感じる可能性があるところ、その可能性の低減、即ち頭痛の予防及び軽減を図るための眼鏡は、提案されていない。
そこで、本発明の主な目的は、ipRGCに対する光の刺激を抑制可能であり、頭痛の予防及び軽減を図り得るプラスチック眼鏡レンズ,眼鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、プラスチック製の基材を有するプラスチック眼鏡レンズであって、前記基材の厚みは4mm以下であり、前記基材に、505nmの波長において吸収率分布の極大値が存在するモノアゾ系ニッケル錯体色素及びメロシアニン色素が、前記基材の重合性化合物の重量に対して、合わせて0.05wt%以上0.8wt%以下となる状態で添加されていると共に、吸収ピーク波長が380nm未満の紫外線吸収剤、並びに黄色を緩和するための青色色素及び紫色色素の少なくとも一方が添加されており、前記基材の両面に、可視光の反射を防止するための光学多層膜が形成されており、410nm以上430nm以下の波長域における透過率が70%以上であることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、上記発明にあって、前記基材は、チオウレタン樹脂を含むことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、上記発明にあって、前記基材は、エピスルフィド樹脂を含むことを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、上記発明にあって、前記基材は、熱可塑性樹脂を含むことを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、眼鏡であって、上記発明のプラスチック眼鏡レンズが用いられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の主な効果は、ipRGCに対する光の刺激を抑制可能であり、頭痛の予防及び軽減を図り得るプラスチック眼鏡レンズ,眼鏡が提供されることにある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】可視域における実施例1~3の分光透過率分布が示されるグラフである。
図2】本発明の実施例1の評価に係る(a)頭痛日数の平均,(b)服薬日数の平均が示されるグラフである。
図3】実施例1の評価に係る頭痛の程度が示されるグラフである。
図4】メラノピック作用スペクトルが示されるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る実施の形態の例が説明される。本発明は、以下の形態に限定されない。
【0009】
本発明に係るプラスチック眼鏡レンズは、少なくともプラスチック製の基材を含む。
基材の重合完了時(組成)における主な材料(重量比で過半数を超える材料)である、モノマー(重合性化合物)の重合により形成される樹脂として、好ましくは熱硬化性樹脂が用いられ、例えばポリウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、ウレタン-ウレア樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ4-メチルペンテン-1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂、あるいはこれらの組合せが用いられる。又、基材の主な材料として、熱可塑性樹脂が用いられても良い。
又、基材の材料として、チオウレタン樹脂及びエピスルフィド樹脂の少なくとも一方が用いられれば、基材の屈折率が比較的に高くなり、視力矯正時に薄型化が容易となる。
他方、基材の材料として、熱可塑性樹脂が用いられれば、丈夫な基材が簡単に形成可能である。
【0010】
基材には、モノアゾ系ニッケル錯体色素が、主な材料(重合性化合物の重量総和)に対して、重量比で0.05wt%以上0.6wt%以下となる状態で添加される。モノアゾ系ニッケル錯体色素は、黄色色素であるモノアゾ色素とニッケルイオンとの配位結合による配位化合物である。ここでは、モノアゾ系ニッケル錯体色素のうち、480nm以上520nm以下の波長域において吸収率分布の極大値が存在するものが用いられる。
あるいは、基材には、メロシアニン色素が、主な材料(重合性化合物の重量総和)に対して、重量比で0.05wt%以上0.8wt%以下となる状態で添加される。メロシアニン色素は、ポリメチンに属する合成染料であり、例えばメロシアニンI、メロシアニン540、あるいはこれらの混合物である。ここでは、メロシアニン色素のうち、480nm以上520nm以下の波長域において吸収率分布の極大値が存在するものが用いられる。
又は、基材には、モノアゾ系ニッケル錯体色素及びメロシアニン色素が、主な材料(重合性化合物の重量総和)の重量に対するこれらを合わせた重量の比が0.05wt%以上0.8wt%以下となる状態で、合わせて添加される。尚、好ましくは、モノアゾ系ニッケル錯体色素及びメロシアニン色素が、それぞれ上述の重量比範囲を逸脱しない。
かようなモノアゾ系ニッケル錯体色素及びメロシアニン色素の少なくとも一方の添加により、480nm以上520nm以下の波長域の光が吸収され、ipRGCに対する光の刺激をシンプルに抑制可能であり、頭痛の予防及び軽減を簡易に図り得ることとなる。
即ち、かような基材が含まれるプラスチック眼鏡レンズは、480nm以上520nm以下の波長域の光が遮光される遮光レンズとなる。遮光には、透過率を低減させるものが含まれる。
【0011】
上述の各重量比の下限を下回ると、480nm以上520nm以下の波長域の光の吸収が少なくなり、黄色みが抑えられて視認性及び美的外観の点では有利になるものの、480nm以上520nm以下の波長域の光の吸収によるipRGCに対する光の刺激の抑制が比較的に十分でなくなり、頭痛の予防及び軽減の効果が比較的に十分でなくなる。
上述の各重量比の上限を上回ると、480nm以上520nm以下の波長域の光の吸収によるipRGCに対する光の刺激の抑制は十分に行われ、頭痛の予防及び軽減の効果が十分発揮されるものの、黄色みが強くなり過ぎて視認性及び美的外観が比較的に悪くなる(黄色みの強い眼鏡を通して見た色合いの違和感が強く認識され、当該眼鏡の外観が敬遠される)。
【0012】
又、基材には、視認性を確保しながら眼を保護し更にレンズの劣化を防止する観点から、好ましくは紫外線吸収剤が添加され、より好ましくは吸収ピーク波長が380nm未満である紫外線吸収剤が添加される。かような紫外線吸収剤の添加量は、上述の観点から調整される。
基材の厚みは、特に限定されないが、厚みが増すほど、内部透過率が比例的に上昇し、又眼鏡レンズとしての見栄えや重量が比較的に悪化することから、好ましくは4mm(ミリメートル)以下とされる。
【0013】
プラスチック眼鏡レンズは、基材のみから構成されても良いが、基材の少なくとも片面に、ハードコート膜が形成されていても良い。
ハードコート膜は、好適には基材の表面にハードコート液を均一に施すことで形成される。
又、ハードコート膜として、好ましくは無機酸化物微粒子を含むオルガノシロキサン系樹脂を用いることができる。オルガノシロキサン系樹脂は、アルコキシシランを加水分解し縮合させることで得られるものが好ましい。又、オルガノシロキサン系樹脂の具体例として、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルシリケート、又はこれらの組合せが挙げられる。これらアルコキシシランの加水分解縮合物は、当該アルコキシシラン化合物あるいはそれらの組合せを、塩酸等の酸性水溶液で加水分解することにより製造される。
一方、無機酸化物微粒子の材質の具体例として、酸化亜鉛、二酸化ケイ素(シリカ微粒子)、酸化アルミニウム、酸化チタン(チタニア微粒子)、酸化ジルコニウム(ジルコニア微粒子)、酸化スズ、酸化ベリリウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化セリウムの各ゾルを単独であるいは何れか2種以上を混晶化したものが挙げられる。無機酸化物微粒子の直径は、ハードコート膜の透明性確保の観点から、1nm以上100nm以下であることが好ましく、1nm以上50nm以下であるとより好ましい。又、無機酸化物微粒子の配合量(濃度)は、ハードコート膜における硬度や強靱性の適切な度合での確保という観点から、ハードコート膜の全成分中の40重量%(重量パーセント)以上60重量%以下を占めることが好ましい。加えて、ハードコート液には、硬化触媒としてアセチルアセトン金属塩、及びエチレンジアミン四酢酸金属塩の少なくとも一方等を付加することができ、更に基材に対する密着性確保や形成の容易化、所望の(半)透明色の付与等の必要に応じて界面活性剤、着色剤、溶媒等を添加することができる。
無機酸化物微粒子における無機酸化物(金属酸化物)は、可視域でなるべく吸収を行わないものを選択して、可視域全域に亘る高い透過率を確保し、裸眼時視認色に対するレンズ装用時視認色の差の極めて少ない状態を確保する観点から、Ti,Ceを除く1種以上の金属の酸化物であることが好ましい。Ti(チタン)の酸化物やCe(セリウム)の酸化物は、可視域(特に短波長側)で吸収を行うことから、これらは好ましい金属酸化物から除外される。かような好ましい金属酸化物の例として、Sb(アンチモン),Zr(亜鉛),Sn(スズ),Si(ケイ素),Al(アルミニウム),Ta(タンタル),La(ランタン),Fe(鉄),Zn(亜鉛),W(タングステン),Zr(ジルコニウム),In(インジウム)の酸化物のうちの何れか、あるいはこれらの組合せが挙げられる。
ハードコート膜の物理膜厚は、0.5μm(マイクロメートル)以上4.0μm以下とすると好ましい。この膜厚範囲の下限については、これより薄いと充分な硬度を得難いことから定まる。一方、上限については、これより厚くするとクラックや脆さの発生等、物性に関する問題の生ずる可能性が飛躍的に高まり、又無機酸化物微粒子による可視域への吸収(透過率減少)の影響が高まることから定まる。
更に、ハードコート膜と基材表面の間に、ハードコート膜の密着性を向上する観点からプライマー膜を付加しても良い。プライマー膜の材質として、例えばポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル樹脂、有機ケイ素系樹脂、又はこれらの組合せが挙げられる。プライマー膜は、好適には基材の表面にプライマー液を均一に施すことで形成される。プライマー液は、水又はアルコール系の溶媒に上記の樹脂材料と無機酸化物微粒子を混合させた液である。
【0014】
プラスチック眼鏡レンズには、光学多層膜が付加されていても良い。光学多層膜は、基材に対して形成されても良いが、好ましくはハードコート膜の上に形成される。光学多層膜は、基材の少なくとも片面に対して形成され、両面に形成される場合、好ましくは何れの膜も同一の積層構造となるようにする。
光学多層膜は、反射防止機能を確保する観点から(反射防止膜)、好ましくは可視域全域に亘り平坦で高い透過率分布を有するように形成される。
光学多層膜は、反射防止機能を確保する観点から、好ましくは、低屈折率層と高屈折率層を交互に積層して形成され、又好ましくは全体として奇数層(全5層,全7層等)を有する構造である。更に好ましくは、最も基材側の層(基材に最も近い層)を1層目とすると、奇数層目が低屈折率層であり、偶数層目が高屈折率層である。
低屈折率層や高屈折率層は、真空蒸着法やイオンアシスト蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法等により形成される。
【0015】
本発明のプラスチック眼鏡レンズにおいて、光学多層膜と基材の間及び光学多層膜の表面の少なくとも一方に、ハードコート膜以外の中間膜や、防汚膜(撥水膜・撥油膜)等の別種の膜を付加しても良く、光学多層膜を両面に形成する場合には、付加する別種の膜の種類を互いに変えたり、膜の有無を互いに変えたりして良い。
【0016】
又、プラスチック眼鏡レンズには、主にモノアゾ系ニッケル錯体色素及びメロシアニン色素の少なくとも一方の添加による黄色を緩和しあるいは打ち消すため、青色の色素及び紫色の色素のうちの少なくとも一方が添加されても良い。
【0017】
更に、上記のプラスチック眼鏡レンズを用いて、ipRGCに対する光の刺激をシンプルに抑制可能であり、頭痛の予防及び軽減を簡易に図り得る眼鏡が作製される。
この眼鏡は、遮光レンズが用いられた遮光眼鏡となる。
【実施例
【0018】
次いで、本発明の実施例1~3が、適宜図面を用いて説明される。尚、本発明は、以下の実施例に限定されない。又、本発明の捉え方により、実施例が本発明に属さない比較例となることがある。
【0019】
実施例1~3は、何れもプラスチック眼鏡レンズであり、それらの基材は、何れも眼鏡用の熱硬化性樹脂製であって、プラスチック眼鏡レンズとして標準的な大きさの円形である。
実施例1~3において、互いに異なる基材(第1~第3の基材)が形成された。
【0020】
第1の基材は、次のように形成された。
即ち、まず、予め次のA液が調製された。即ち、A液として、モノアゾ系ニッケル錯体を99%以上含有する色素(山田化学工業株式会社製YAZ-28)0.05g(グラム)が、2,5ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタン及び2,6ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタンの混合物50gに常温で溶解されたものが調製された。モノアゾ系ニッケル錯体含有色素は、波長505nmにおいて吸収率分布の極大値が存在する。
又、黄色を緩和するためのB液が、A液と同様に調製された。即ち、B液として、青色系色素(山田化学工業株式会社製TAP-18)0.05g(グラム)が、2,5ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタン及び2,6ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタンの混合物50gに常温で溶解されたものが調製された。
次に、A液2.0g、B液0.2g、ステファン製ゼレックUN0.1g、及びジブチル錫ジクロリド0.04gが、2,5ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタン及び2,6ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタンの混合物50.8gと共に容器に入れられ、25℃で1時間撹拌されて完全に溶解された。
続いて、この混合液に、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)22.4g、及び1,2-ビス[(2-メルカプトエチル)チオ]-3-メルカプトプロパン26.8gが添加され、25℃で30分撹拌することで調合した。
この調合液が、0.3mmHg以下で1時間脱泡され、5μm(マイクロメートル)PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルタにより濾過されて、モールド型に注入された。モールド型は、内部空間の中心厚が2.0mm、直径が80mmである平板用ガラス型と、テープとを有している。
調合液が注入されたモールド型は、25℃から130℃まで徐々に昇温され、130℃で2時間保温された後、室温まで冷却された。モールド型の昇温開始から冷却完了までの時間は、18時間であった。かようなモールド型の加熱及び冷却により、型内でモノマーが重合し、プラスチック製の眼鏡レンズとなる成形体が成形された。重合終了後、成形体が離型され、130℃の環境に2時間置かれてアニールされた。
第1の基材(実施例1)におけるモノアゾ系ニッケル錯体を99%以上含有する色素は、基材の重合性化合物の重量総和(基材原料)に対して0.18wt%を占める。
【0021】
更に、第1の基材の両面に、互いに同じ構成であり一般的な構成である反射を防止するための光学多層膜(反射防止膜)が、真空蒸着により形成され、実施例1とされた。ここでは、反射防止膜は、基材に最も近い層を第1層として、奇数層に低屈折層(SiO)、偶数層に高屈折率層(ZrO)が配置された全5層構造とされた。
尚、青色系色素の添加、及び反射防止膜の付与の少なくとも一方は、省略されても良い。又、反射防止膜は、上述の全5層構造以外の構成とされても良いし、表面と裏面とで構成が異なるようにされても良いし、表面及び裏面の何れか一方が省略されても良い。更に、反射防止膜と基材との間に中間膜が配置されても良いし、反射防止膜の表面に防汚膜等が付与されても良いし、反射防止膜に代えて他の膜が付与されても良い。
【0022】
一方、第2の基材は、次のように形成された。
即ち、まず、予め次のC液が調製された。即ち、C液として、メロシアニンを99%以上含有するメロシアニン色素(山田化学工業株式会社製DAA-95)0.05g(グラム)が、2,5ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタン及び2,6ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタンの混合物50gに常温で溶解されたものが調製された。メロシアニン色素は、波長505nmにおいて吸収率分布の極大値が存在する。
次いで、C液4.0g、紫外線吸収剤(大和化成株式会社製T-53)2.0g、ステファン製ゼレックUN0.1g、及びジブチル錫ジクロリド0.04gが、2,5ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタン及び2,6ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタンの混合物50.8gと共に容器に入れられ、25℃で1時間撹拌されて完全に溶解された。
そして、この混合液が、第1の基材と同様に、調合され、更に注型され、加熱されて冷却され、アニールされて、第2の基材が成形された。第2の基材には反射防止膜等は付与されず、第2の基材がそのまま実施例2とされた。
第2の基材(実施例2)におけるメロシアニン色素は、基材の重合性化合物の重量総和(基材原料)に対して0.45wt%を占める。
尚、実施例2において、紫外線吸収剤の添加が省略されても良いし、実施例1において、紫外線吸収剤の添加がなされても良い。又、実施例2において、反射防止膜等の他の膜の付与がなされても良い。
【0023】
一方、第3の基材は、次のように形成された。
即ち、A液2.0g、C液2.0g、紫外線吸収剤(大和化成株式会社製T-53)2.0g、ステファン製ゼレックUN0.1g、及びジブチル錫ジクロリド0.04gが、2,5ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタン及び2,6ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタンの混合物50.8gと共に容器に入れられ、25℃で1時間撹拌されて完全に溶解された。
そして、この混合液が、第1の基材と同様に、調合され、更に注型され、加熱されて冷却され、アニールされて、第3の基材が成形された。第3の基材には反射防止膜等は付与されず、第3の基材がそのまま実施例3とされた。
尚、実施例3においても、第1形態及び第2形態と同様の変更例が存在する。
【0024】
図1に、可視域(波長380nm以上780nm以下)における実施例1~3の分光透過率分布が示される。尚、可視域は、下限が400nmとされたり、上限が750nmとされたりする等、様々に設定されても良い。
実施例1~3では、何れも480nm以上520nm以下の波長域内である、波長505nmにおいて、透過率分布の極小値、即ち吸収率分布の極大値が存在する。透過率分布の極小値は、実施例1で38%程度であり、実施例2で25%程度であり、実施例3で17%程度である。尚、吸収率(%)=100-透過率(%)-反射率(%)であるが、可視域の反射率は、多くても3%であり、又実施例1では反射防止がなされていることから1%以内であって、無視しても良い程度であり、即ち吸収率(%)≒100-透過率(%)である。
又、実施例1~3では、何れも410nm以上430nm以下の短波長域で70%以上の透過率が確保され、510nm以上780nm以下の長波長域で90%程度の透過率が確保されて、480nm以上520nm以下の波長域における透過光のカット(抑制)を実現しながら視認性が確保されている。
実施例1,2,3の短波長側における極大値と極小値(505nm)との間の半値の属する波長は、順に462,471,460nm程度であり、実施例1,2,3の長波長側における当該極小値とこれに隣接する極大値との間の半値の属する波長は、順に518,521,521nm程度である。
【0025】
このような実施例1~3の透過率分布によれば、図4のメラノピック作用スペクトルにおける作用強度相対値の大きさに対応するように透過率を抑制することができる。
よって、実施例1~3の眼鏡レンズを用いた眼鏡が装用されれば、装用者はipRGCに対する光の刺激から保護され、頭痛の予防及び軽減が簡易に図られることとなる。
【0026】
図2及び図3に、実施例1の眼鏡レンズを用いた眼鏡についての評価の結果が示される。
当該評価は、偏頭痛患者10名を対象として、夜間における自動車の運転時に実施例1に係る眼鏡を4週間にわたり装着してもらい、頭痛を感じる日数である頭痛日数の平均(図2(a)「装着中」)及び頭痛を緩和する薬を飲んだ日数である服薬日数の平均(図2(b)「装着中」)と、頭痛の程度(図3「装着中」3種)とを調査することにより行われた。頭痛の程度は、頭痛発生毎に、対象者に対し、重度・中等度・軽度の三段階のうち何れの程度であるかを聞き取り、重度であった場合に3ポイント、中等度であった場合に2ポイント、軽度であった場合に1ポイントを加算することで評価された。
又、同じ偏頭痛患者10名を対象として、実施例1に係る眼鏡を装着しない状態で4週間にわたり同様な調査が行われた(図2図3の「装着前」)。図3において、頭痛の程度は、それぞれの10名の1/3日における合計ポイントを平均したものが示される。
夜間運転時間の平均は、装着前で38分間、装着後で34分間であった。
【0027】
図2(a)に示されるように、頭痛日数は、実施例1に係る眼鏡の装着前の8.7日から、装着中に7.0日に有意に減少した(p値<0.05)。
又、図2(a)に示されるように、服薬日数は、実施例1に係る眼鏡の装着前の5.4日から、装着中に4.5日に減少した。
更に、図3に示されるように、頭痛の程度は、午前中で装着前の4.3から装着中では4.1へ装着前の95.3%に低下し、午後で装着前の4.9から装着中では4.3へ装着前の87.8%に低下し、夜には装着前の5.3から装着中では3.2へ装着前の60.4%に大幅に軽減した。
かような評価によれば、実施例1により、頭痛の抑制が図れているといえる。
又、実施例1と同様の透過率分布であり、実施例1より透過率が可視域全体で若干小さい実施例2,3では、装着時の視認性が実施例1に比べて若干劣るものの、実施例1と同等以上の頭痛抑制効果が十分に発揮される。
図1
図2
図3
図4