(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】熱交換器
(51)【国際特許分類】
F28D 15/04 20060101AFI20230919BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
F28D15/04 B
F28D15/02 101H
(21)【出願番号】P 2019166496
(22)【出願日】2019-09-12
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】391039601
【氏名又は名称】ナカムラマジック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】高橋 敬一
(72)【発明者】
【氏名】草深 重門
【審査官】小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/060461(WO,A1)
【文献】特開2010-050326(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0247432(US,A1)
【文献】中国実用新案第206165061(CN,U)
【文献】特開2018-044747(JP,A)
【文献】特開2011-243933(JP,A)
【文献】特開2009-054731(JP,A)
【文献】特開2019-021888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/04
F28D 15/02
H05K 7/20
H01L 23/427
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒の気液相変化による潜熱を利用した熱交換器であって、
吸熱側に形成された裏面と放熱側に形成された内底部とを有し、前記吸熱側と
前記放熱側との間を画定するベース部と、
第1壁と第2壁とを有し、基端が前記ベース部
の前記内底部に接続されたうえで先端が前記放熱側に突出した突条をなし、
前記第1壁の全面及び前記第2壁の全面並びに前記内底部は、前記冷媒と接触して
前記吸熱側から吸収した熱により気泡が発生する伝熱面とされ、前記ベース部の前記吸熱側から吸収した熱を前記冷媒に放つ複数のフィンと、
を有する放熱器を備え、
前記複数のフィンは、該フィンの長手方向に沿って互いに平行になるようにして配列されており、
隣り合う前記フィン同士を該フィンの長手方向に沿って視たときに、隣り合う前記フィン同士の前記先端側における間隔が前記基端側における間隔よりも大きくなるように、前記複数のフィンが形成され
、
前記隣り合うフィン同士の間隔は、前記基端側から前記先端側に向かうにつれて単調増加しており、
隣り合う前記フィン同士の前記基端における間隔が、0.1mm~0.8mmの範囲内となるように構成され、
前記ベース部の前記内底部は、前記裏面に対して傾斜していることを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
請求項1に記載の熱交換器において、
前記フィンの
前記第1壁及び前記第2壁のうち、少なくとも一方の壁の前記先端側には、前記ベース部の主面と略平行な所定の基準面との間でなす角度が、当該壁の前記基端側と前記基準面との間でなす角度よりも小さくなっているテーパー部が設けられていることを特徴とする熱交換器。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の熱交換器において、
前記隣り合うフィン同士の前記先端における間隔をWtとし前記基端における間隔をWbとしたときに、Wt/Wbが1.5~5.0の範囲内となるように前記隣り合うフィン同士が構成されていることを特徴とする熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒の気液相変化による潜熱を利用した熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷媒の気液相変化による潜熱を利用した熱交換器が知られている(例えば特許文献1参照)。
図7は従来の熱交換器900を説明するために示す図である。
図7(a)は熱交換器900の全体斜視図である。
図7(b)は、
図7(a)の破線Aで囲まれた領域についてフィン910の長手方向に垂直な面で切断して矢印Pの方向から見たときの要部拡大断面図である。
図7(c)は、従来の熱交換器900の気泡BB,BDについて説明するための要部拡大断面図である。
【0003】
図7(a)及び
図7(b)に示すように、従来の熱交換器900は、吸熱側(下側)と放熱側(上側)との間を画定するベース部907と、基端913がベース部907に接続されたうえで先端914が放熱側に突出した突条をなし、冷媒CLと接触してベース部907の吸熱側から吸収した熱を冷媒CLに放つ複数のフィン910と、を有する放熱器905を備えている。複数のフィン910は、該フィン910の長手方向(y軸と平行な方向)に沿って互いに平行になるようにして配列されている。隣り合うフィン同士の間隔(フィン間隔)は、隣り合うフィン同士を該フィンの長手方向に沿って視たときに、基端913側から先端914側に掛けて一定となっている《
図7(b)参照》。
ベース部907の吸熱側には、ベース部907の裏面907aに接触するようにして発熱体Hが配置されている。放熱器905は、ケース6によって液密にケーシングされている。放熱器905のベース部907及びケース6によって構成された空間には冷却液等の冷媒CLが満たされている。
【0004】
ベース部907が発熱体Hから熱を吸収して温度上昇し高温になると、これに伴いフィン910も高温になる。フィン910の表面温度が冷媒CLの沸点を超えると、フィン910の表面に接触している冷媒CLの一部は液体から気体に気相変化(気化/蒸発)を起こす。このとき、フィン910から冷媒CLへ熱(潜熱)が移行する。当該気体はフィン910の表面において表面張力により「気泡」となる。
気相変化が促進され気泡が成長する(体積が増える)と気泡の浮力が高まる。浮力が気泡上昇に足る十分な大きさを超えると、気泡はフィン910の表面から離れて液相の冷媒CL中を上昇し、ケース6の上内壁に当たる。気泡がケース6の上内壁に当たると、気泡が有している熱はケース6に降ろされる。気泡が運搬した熱は、ケース上面6aを介して回収され《
図7(a)太線の矢印参照》、この熱は、図示しないラジエター等により主として空気に転嫁される。熱を降ろして温度が下がった気泡は気体から液体に液相変化(凝縮)を起こし、再び液相の冷媒CLに戻る。
このようにして、従来の熱交換器900は、冷媒の気液相変化による潜熱を利用して熱交換を行うことができる。これを用いれば半導体等の発熱体Hを冷却することができる。
【0005】
一般に、伝熱性能は伝熱面の表面積に比例して向上する。従来の熱交換器900によれば、複数のフィン910がフィンの長手方向に沿って互いに平行になるようにして配列されているため(いわゆるリブ状フィンが配列されているため)、限られたスペースで伝熱面の表面積を拡大することができ、フィン910及び冷媒CLの接触面積をより広く確保することができる。このため、より多くの熱を交換する機会を与えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の熱交換器900は、伝熱面の表面積をより稼ごうとリブ状のフィン910を更に狭ピッチで配列すると、
図7(c)に示すように隣り合うフィン同士の間に気泡が溜まり易くなる。
【0008】
ここで、フィン間隔が、液相の冷媒CL中で上昇可能な気泡の直径(上昇を始められる大きさの球形気泡の直径)よりも小さく設定されている場合を想定する。気泡が徐々に成長していく過程で、一方のフィンの第1壁911及び他方のフィンの第2壁912(以下単に「フィンの壁」,「フィン表面」ということがある)の間に挟まれ気泡の成長が規制されると、上昇可能な体積まで更に成長するためには、気泡は上下方向に膨張するしかない。
仮に上昇可能な体積以上に気泡が成長したとしても、気泡の大部分は液相の冷媒CL(液体)に接していないため、液体からの押上圧力を享受することができない。それどころか、気泡はフィンの壁(911,912)に挟まれるように密接しているため、本体気泡BBとフィンの壁(911,912)との間の抵抗力により、本体気泡BBがフィンの壁から剥離しづらくなっており、本体気泡BBの全体が上昇することはままならない。やがて、フィン910の基端913側から先端914側まで気体で満たされる状態となるまで本体気泡BBが成長し、伝熱面たるフィンの壁(911,912)を本体気泡BBが殆ど覆う状態にまで至ってしまう《
図7(c)参照》。
【0009】
このとき、本体気泡BBの浮力が上記した抵抗力を大きく上回るか、振動・撹拌等外部からの影響を受けるかなどの起因があれば、一部の気泡が本体気泡BBの上側から分裂するようにして小さい気泡(分裂気泡BD)が徐々に抜けていくようになる。しかし、分裂気泡BDが抜けたとしても、程なく残余の冷媒CLが気相変化することにより新たな気体が発生し、本体気泡BBは再び膨張する。
このように、従来の熱交換器900によれば、隣り合うフィン同士の間に気泡が慢性的に溜まり易いため、実際に稼働してみるとフィン表面が気泡に接している時間が長くなってしまう。
【0010】
フィン表面が気泡(気体)と接している間は、若干の「顕熱」がフィン表面から気体に移行することとなるが、これはフィン表面から液体への「潜熱」の移行に比べて、さほど大きな熱の移行を実現できない。つまり、気泡と接している間はフィン表面から熱が奪われづらい。このため、最終的には、フィン表面の温度は、気泡(気体)の温度とほぼ同等となり、沸点又は過熱による温度を大きく上回る温度(例えば冷媒CLが水の場合120℃など)となる。これらのことを裏返して言うと、冷却効率を高めるためには、フィン表面は液相の冷媒CLとできるだけ長い時間接しているいる方が望ましいとも言える。
以上より、従来の熱交換器900によると、気泡が溜まり易くフィン表面が気泡に接している時間が長くなり、フィン910及びベース部907ひいては発熱体Hを効率的に冷却することができない。
【0011】
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、従来よりも冷却効率の高い熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]本発明の熱交換器は、冷媒の気液相変化による潜熱を利用した熱交換器であって、吸熱側と放熱側との間を画定するベース部と、基端が前記ベース部に接続されたうえで先端が前記放熱側に突出した突条をなし、前記冷媒と接触して前記ベース部の前記吸熱側から吸収した熱を前記冷媒に放つ複数のフィンと、を有する放熱器を備え、前記複数のフィンは、該フィンの長手方向に沿って互いに平行になるようにして配列されており、隣り合う前記フィン同士を該フィンの長手方向に沿って視たときに、隣り合う前記フィン同士の前記先端側における間隔が前記基端側における間隔よりも大きくなるように、前記複数のフィンが形成されていることを特徴とする。
【0013】
[2]本発明の熱交換器において、前記隣り合うフィン同士の間隔は、前記基端側から前記先端側に向かうにつれて段階的に大きくなっていることが好ましい。
【0014】
[3]本発明の熱交換器において、前記隣り合うフィン同士の間隔は、前記基端側から前記先端側に向かうにつれて単調増加していることが好ましい。
【0015】
[4]本発明の熱交換器において、前記フィンの少なくとも一方の壁の前記先端側には、前記ベース部の主面と略平行な所定の基準面との間でなす角度が、当該壁の前記基端側と前記基準面との間でなす角度よりも小さくなっているテーパー部が設けられていることが好ましい。
【0016】
[5]本発明の熱交換器において、前記隣り合うフィン同士の前記先端における間隔をWtとし前記基端における間隔をWbとしたときに、Wt/Wbが1.5~5.0の範囲内となるように前記隣り合うフィン同士が構成されていることが好ましい。
【0017】
[6]本発明の熱交換器において、隣り合う前記フィン同士の前記基端における間隔が、0.1mm~0.8mmの範囲内となるように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱交換器によれば、従来よりも冷却効率の高い熱交換器となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態1に係る熱交換器1を説明するために示す図である。
【
図2】実施形態1に係る熱交換器1の作用を説明するために示す図である。
【
図3】実施形態1に係る熱交換器1の作用を説明するために示す図である。
【
図4】実施形態1に係る熱交換器1の評価結果を説明するために示す図である。
【
図5】実施形態2の放熱器5bを説明するために示す要部拡大断面図である。
【
図6】変形例の放熱器5c,5d,5eを説明するために示す要部拡大断面図である。
【
図7】従来の熱交換器900を説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る熱交換器の実施形態について図面を参照して説明する。各図面は一例を示した模式図であり、必ずしも実際の寸法、比率等を厳密に反映したものではない。なお、本明細書において、熱交換器を正置したときに重力加速度が働く方向(鉛直線)と概ね平行な方向と(-z方向)を「下」といい、「下」と反対の方向(+z方向)を「上」というものとする。
【0021】
[実施形態1]
1.実施形態1に係る熱交換器1の構成
図1は、実施形態1に係る熱交換器1を説明するために示す図である。
図1(a)は熱交換器1の全体斜視図である。
図1(b)は、
図1(a)の破線Dで囲まれた領域についてフィン10の長手方向に垂直な面で切断して矢印Qの方向から見たときの要部拡大断面図である。なお、後述する
図2、
図3、
図5及び
図6は、この
図1(b)の要部拡大断面図と同様に対応する図面である。
【0022】
(1)熱交換器1の概要
実施形態1に係る熱交換器1は、冷媒の気液相変化による潜熱を利用した、いわゆる冷媒を沸騰させるタイプの熱交換器である。
図1(a)に示すように、熱交換器1は、ベース部7と複数のフィン10とを有する放熱器5aを備える。この放熱器5aはケース6によって液密にケーシングされている。放熱器5aのベース部7及びケース6によって構成された空間に冷却液等の冷媒CLが満たされる。ベース部7の吸熱側(本図では下側)には、ベース部7の裏面7aに接触するようにして発熱体Hが配置される。
発熱体Hは、冷却を所望するものであれば如何なるものであってもよく、例えば半導体等の電子デバイスであってもよい。
冷媒CLは、常温で液体を保っている一般に冷却液と呼ばれるものを用いることができる。例えば、80℃以下の沸点を有するアルコール系の溶剤を冷媒CLとして用いてもよい。電子デバイスの動作保証温度は数十℃以下に設定されていることが多いため、上記した冷媒CLを用いれば、数十℃以下を冷却目標温度として冷却を企図することができる。また、冷媒CLは例えば水よりも粘度が低いものであってもよい。気泡が比較的小さい(小径)段階で上昇可能な浮力を得ることができ、気泡が発生次第、順次円滑に当該気泡をフィンの壁(後述)から剥離させることが期待できるからである。
【0023】
(2)熱交換器1の詳しい構成
(2-1)ベース部7
図1(b)に示すように、ベース部7は吸熱側と放熱側との間を画定する。ベース部7は金属の板材からなる。
「吸熱側」は発熱体Hが配置される下側(ベース部の裏面7aの側)であり、「放熱側」は冷媒CLが満たされる上側(ベース部の内底部7b及び後述するフィン10が配置された側)である。「画定する」とは、境界となる又はインターフェースするとも言うこともできる。
【0024】
(2-2)フィン10
フィン10は、冷媒CLと接触してベース部7の吸熱側から吸収した熱を冷媒CLに放つ。フィン10は、冷媒CLに放熱することができれば如何なるもので構成してもよいが、実施形態1においてフィン10は、アルミ、アルミ合金、銅、銅合金、ステンレス等の金属でなる。
フィン10は、基端13がベース部7に接続されたうえで、先端14が放熱側に突出した突条をなしている。ここで、「接続された」とは、少なくとも熱回路的に接続されていれば足りる。実施形態1においては、フィン10及び板材のベース部7が同一材料で一体的に形成されることにより物理的にも熱回路的にも「接続」されている。「突条」とは、z軸に沿って上方からフィン10を視たときに細長く平面方向に延びた様子をいうものとする。
フィン10は、一方の側(-x方向の側)に基端13から先端14にかけて第1壁11を有しており、他方の側(+x方向の側)に基端13から先端14にかけて第2壁12を有している。以下において、これら第1壁11及び第2壁12を併せて「フィンの壁」ということがある。この「フィンの壁11,12」及びベース部7の内底部7b(後述)は、冷媒CLに対して熱を伝える「伝熱面」として位置づけられる。以下において、これら「フィンの壁11,12」及びベース部の内底部7bを併せて「フィン表面」ともいうことがある。
【0025】
(2-3)隣り合うフィン同士の関係
複数のフィン10は、該フィン10の長手方向(ここではy軸に沿った方向)に沿って互いに平行になるようにして配列されている。
それぞれのフィン10の第1壁11及び第2壁12はベース部7の表面の側にある内底部7bより立ち上がっている。隣り合うフィン同士の一方のフィン10の第1壁11及び他方のフィン10の第2壁12、並びに、ベース部7の内底部7bによって「スロットSL1」を構成している《
図1(b)参照》。
【0026】
実施形態1に係る熱交換器において、隣り合うフィン同士を該フィンの長手方向に沿って視たときに、隣り合うフィン10同士の先端14側における間隔Wtが基端13側における間隔Wbよりも大きくなるように、複数のフィン10が形成されている。つまり、隣り合うフィン同士の間隔(フィン間隔)が、基端13側が狭く先端14側が広くなるように形成されている。スロットSL1の視点で換言すると、スロットSL1は内底部7b側が狭くフィン10の先端14側である開放側が広くなっている《
図1(b)参照》。
【0027】
また、実施形態1において、隣り合うフィン同士の間隔(フィン間隔)は、基端13側から先端14側に向かうにつれて段階的に大きくなっている《
図1(b)参照》。
「段階的に大きくなっている」とは、フィン間隔が中途で局所的に広くなっていることもないし、中途で局所的に狭くなっていることもない状態をいう。なお、上記において部分的に同一間隔が続く部分がある場合もここでの「段階的に大きくなっている」に含まれる。また、単純増加することや線形的に大きくなることも、微視的には段階的に大きくなっていると言えるため、ここでの「段階的に大きくなっている」に含まれる。
図1(b)をみると、基端13におけるフィン間隔をWb、先端14におけるフィン間隔をWt、基端13及び先端14の中間位置におけるフィン間隔をWmとすると、Wb≦Wm≦Wtの関係となっており、基端13側から先端14側に向かうにつれて段階的に大きくなっている。
【0028】
また、実施形態1において、隣り合うフィン同士の間隔は、基端13側から先端14側に向かうにつれて単調増加している《
図1(b)参照》。
「単調増加している」とは、隣り合うフィン同士の間隔を基端13から先端14にかけて走査しながらみたときに、同一のフィン間隔が続く部分がない(直線的に平行となっている部分、曲線であっても同一間隔を保って続いている部分がない)ということもできる。
【0029】
また、実施形態1においては、隣り合うフィン同士の先端14における間隔をWtとし基端13における間隔をWbとしたとき、Wt/Wbの値が1.5~30.0の範囲内の値となるように隣り合うフィン同士が構成されている。このとき、Wt/Wbの値が1.5~5.0の範囲内の値となるように隣り合うフィン同士が構成されていることが好ましい。Wt/Wbの値が1.5~3.0の範囲内の値となるように隣り合うフィン同士が構成されていることが一層好ましい。
【0030】
さらに、実施形態1においては、隣り合うフィン同士の基端13における間隔Wbが、0.1mm~0.8mmの範囲内となるように構成されていることが好ましい。さらに、Wbが0.2mm~0.4mmの範囲内となるように構成されていることが一層好ましい。
【0031】
2.実施形態1に係る熱交換器1の作用・効果
図2は、実施形態1に係る熱交換器1の作用を説明するために示す図である。
図2(a)~
図2(e)は、上昇可能な気泡の直径(上昇を始められる大きさの球形気泡の直径)が冷媒CLの物性との関係で比較的大きい場合を想定したときに、ベース部の内底部7b付近から気泡Bが発生し、気泡Bが成長し、気泡Bがフィン表面から剥離していく様子を順次模式的に描いたものである。
図3は、実施形態1に係る熱交換器1の作用を説明するために示す図である。上昇可能な気泡の直径が冷媒CLの物性との関係で中程度の場合を想定したときに、気泡が発生・剥離する様子を各々の気泡B1,B2,B3,B4,B5について模式的に描いたものである。
【0032】
(1)実施形態1に係る熱交換器1においては、隣り合うフィン同士の先端14における間隔Wtが基端13における間隔Wbよりも大きくなるように複数のフィン10が形成されている。つまり、フィンの壁に発生した気泡からみると上方向(+z方向)、及び、上方向よりもフィンの壁に若干寄った方向(比較的浅い角度の領域)にはフィンの壁が無い。
このため、気泡Bは、成長の過程でベース部の内底部7bだけでなくフィンの壁11,12からも次々と気体の追加供給を受けながら、従来のように横方向(x軸と平行な方向)のフィンの壁に阻まれることなく、斜め上方にも膨張することができ実質的な径を拡大させることができる。
また、気泡Bが成長する際、気泡Bの気体の内圧により、全体として傾斜しているフィンの壁11,12や内底部7bを押すことにもなり、このような力は、気泡B自身がフィンの壁11,12及び内底部7bから剥離するための力としても作用する。
このように、実施形態1に係る熱交換器1によれば、気泡Bの発生次第、順次円滑に当該気泡Bをフィン表面から剥離させることができる。
【0033】
また、実施形態1に係る熱交換器1においては、気泡の上方向及び上方向よりもフィンの壁に若干寄った方向にはフィンの壁が無いことから、気泡が上昇する際に抵抗となるようなものが極力排除された環境となっている。
このため、例えば
図3に示すように、気泡が一定程度成長して気泡が上昇するに足る浮力を一旦得ると、当該気泡(B1,B3,B4など)は順次円滑に上昇することができる。
なお、下方の気泡(例えばB4)が上方の気泡(例えばB2)よりも先に成長してフィン表面(内底部7b及びフィンの壁11,12)から剥離していく場合も考えられる。この場合においては、下方の気泡(例えばB4)が上方の気泡(例えばB2)と合体して体積を増やすため、更に浮力を増すこととなり、従前上方にあった気泡(例えばB2)もフィン表面からの剥離が加速されることとなる。
【0034】
以上のように、実施形態1に係る熱交換器1によれば、フィン表面が気泡と接している時間を短縮し、フィン表面が液相の冷媒CLに接している時間を従来よりも長くすることができる。
したがって、本発明の熱交換器は、フィン表面において液相冷媒(液体)を気泡(気体)に相変化する機会を増やすことができるため、より多くの潜熱をフィン表面から奪うことができ、従来よりも冷却効率の高いものとなる。
【0035】
(2)フィン間隔が中途で局所的に狭くなっていると、気泡Bが上昇する際のボトルネックとなる可能性がある。逆にフィン間隔が中途で局所的に広くなっていると、上昇中の気泡B同士が合体する等により期せずして気泡が増大化すると、その上方の局所的にフィン間隔が狭くなっている箇所で閊えてしまう可能性がある。つまり、フィン間隔が中途で局所的に広くなっていると増大化した気泡を滞留させる温床となる可能性もある。
【0036】
一方、実施形態1に係る熱交換器1は、隣り合うフィン同士の間隔が、基端部から先端部に向かうにつれて段階的に大きくなっている。このため、上記したような不具合が生じることがなく、より円滑に気泡を上昇させることができる。
【0037】
(3)熱交換器1において、隣り合うフィン同士の間隔(フィン間隔)は、基端13側から先端14側に向かうにつれて単調増加している。
熱交換器1はこのように構成され同一のフィン間隔が続く部分が無いため、より円滑にフィン表面(内底部7b及びフィンの壁11,12)から気泡Bを剥離させることができる。
【0038】
(4)隣り合うフィン同士の先端14における間隔をWtとし基端13における間隔をWbとしたときに、Wt/Wbを1.5よりも小さく設定すると、フィンの壁11,12が、気泡Bが上昇する際の抵抗が増し、かえって冷却効率を高めることができない。また、Wt/Wbを30.0よりも大きく設定すると、フィン10を配置するための幅を比較的大きく確保しなければならず、フィン10の配置ピッチが広がってしまい、多くの条数のフィン10を配列するためには大きなスペースが必要となる。
以上のことを鑑みると、Wt/Wbの値は、実現する熱交換器1の仕様・性能に応じて適宜のバランスを取って設定することが望ましい。実施形態1に係る熱交換器1では、Wt/Wbが1.5~30.0の範囲内となるように隣り合うフィン同士が構成されている。また好ましくは、Wt/Wbが1.5~5.0の範囲内の値となっている。さらに好ましくは、Wt/Wbが1.5~3.0の範囲内の値となっている。
実施形態1に係る熱交換器1においては、上記のようにWt/Wbの値を設定することにより、冷却効率と省スペースを両立することができる。
【0039】
(5)本発明の発明者は、隣り合うフィン同士の基端13における間隔Wbと、必要とされるスペックに対する伝熱面の表面積の妥当性、及び、気泡Bの剥離容易性との関係を検証し評価した。
図4は、実施形態1に係る熱交換器1の評価結果を説明するために示す図である。
図4の表中において、二重丸は極めて良好、丸は良好、△は可であるがやや難があるとの評価を示している。
図4に示すように、隣り合うフィン同士の基端13における間隔Wbが0.1mm~0.8mmの範囲内では、両評価項目とも良好であることを確認した。また、同Wbが0.2mm~0.4mmの範囲内では、両評価項目がバランスよく良好であることを確認した。
【0040】
このようなことから、隣り合うフィン同士の基端13における間隔が0.1mm~0.8mmの範囲内となるように熱交換器1を構成することにより、気泡Bの剥離のし易さの確保とフィン10及び冷媒CLの接触面積を確保することとを両立させることができる。
【0041】
[実施形態2]
次に、実施形態2に係る熱交換器2について説明する。
図5は、実施形態2の放熱器5bを説明するために示す要部拡大断面図である。実施形態2において、基本的な構成及び特徴が実施形態1と同じ構成要素については、実施形態1と同じ符号を使用し、説明を省略する。
【0042】
実施形態2に係る熱交換器2(符号2による図示は省略)は、基本的には実施形態1に係る熱交換器1と同様の構成を有するが、放熱器の構造において実施形態1に係る熱交換器1とは異なる。
【0043】
すなわち、
図5に示すように、実施形態2の放熱器5bにはテーパー部25が設けられている。具体的にいうと、実施形態2の放熱器5bには、フィン20が有する壁(第1壁21及び第2壁22)のうち、フィン20の少なくとも一方の壁(ここでは第1壁21)の先端24側には、ベース部7の主面と略平行な所定の基準面との間でなす角度が、当該壁(ここでは第1壁21)の基端23側と基準面との間でなす角度よりも小さくなっているテーパー部25が設けられている。
「ベース部7の主面」は一般的にはベース部7の裏面(
図5においては図示を省略)であるため、「ベース部7の主面と略平行な所定の基準面」とは、ここでは便宜上、複数のフィン20の先端を含む仮想的な面とする。
なお、
図5に示すように、フィン20の基端23側から先端24側に向かうにつれてフィン20の厚みが徐々に減少しているが、
図5に示す例では、かかるテーパー形状の部分をテーパー部25と呼ぶこともできる。
またなお、フィン20が有する壁のうち、他方の壁(ここでは第2壁22)は、テーパー形状を有せずフラットに構成することもできる(
図5参照)。もっとも、他方の壁(ここでは第2壁22)にもテーパー部25を設けることを妨げるものではない。
【0044】
実施形態2に係る熱交換器2は、気泡Bが上昇する際、複数のフィン20からの出口(スロットSL2からの出口)ともいえるフィン20の先端24側にテーパー部25が設けられているため、気泡Bはフィン20から一層離脱しやすいものとなる。
【0045】
なお、実施形態2に係る熱交換器2は、放熱器の構造以外の構成においては、実施形態1に係る熱交換器1と基本的に同様の構成を有する。そのため、実施形態1に係る熱交換器1が有する効果のうち該当する効果を同様に奏する。
【0046】
[変形例]
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0047】
(1)上記実施形態において記載した構成要素の数、材質、形状、位置、大きさ等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0048】
(2)放熱器の構造は本発明の効果を損なわない範囲において種々の態様を採ることができる。実施形態1の放熱器5a及び実施形態2の放熱器5bは、直線をベースとした形状として例示した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、
図6(a)に示すように、第1壁31及び第2壁32を曲線の形状として放熱器5cを構成してもよい(変形例1)。またこれに加えて、
図6(b)に示すように、ベース部7の傾斜させた内底部7cを有する放熱器5dを構成してもよい(変形例2)。また上記変形例1及び変形例2とは異なり、
図6(c)に示すように、ベース部7の内底部の幅を実質的に0(ゼロ)とし(すなわち基端53におけるフィン間隔を実質的に0とし)、第1壁51及び第2壁52のみで「伝熱面」を構成してもよい(変形例3)。
なお、
図6は変形例の放熱器5c,5d,5eを説明するために示す要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1,2,900…熱交換器、5a,5b,5c,5d,5e,905…放熱器、6…ケース、6a…ケース上面、7,907…ベース部、7a,907a…(ベース部の)裏面、7b,7c…(ベース部の)内底部、10,20,30,40,50,910…フィン、11,21,31,41,51,911…第1壁、12,22,32,42,52,912…第2壁、13,23,33,43,53,913…(フィンの)基端、14,24,34,44,54,914…(フィンの)先端、25…テーパー部