(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】網膜疾患を処置するための組成物ならびにそれを作製および使用するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/30 20150101AFI20230919BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230919BHJP
C12N 5/079 20100101ALN20230919BHJP
【FI】
A61K35/30
A61P27/02
C12N5/079
(21)【出願番号】P 2019566810
(86)(22)【出願日】2018-06-05
(86)【国際出願番号】 US2018035981
(87)【国際公開番号】W WO2018226640
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-06-04
(32)【優先日】2017-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】クラッセン, ヘンリー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, ジン
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-515261(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0321593(US,A1)
【文献】特表2002-530067(JP,A)
【文献】特表2015-532596(JP,A)
【文献】特表2016-534736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不死ではないヒト胎児神経網膜細胞の不均一混合物を含む製剤を製造する方法であって、
(a)約12週~約28週の在胎齢のヒトから得られた網膜組織細胞の試料を機械的にかつ/または酵素的に解離させて、細胞および/または細胞塊の解離した懸濁物を作製する
工程であって、前記試料
がトリプシンまたは等価物を使用して酵素的に解離される、
前記懸濁物を作製する
工程;
(b)異種成分不含フィブロネクチン、オルニチン、ポリリジン、またはラミニンで被覆した培養フラスコまたはプレート中の無血清培地において
標準酸素レベルで約4~6継代の間、前記懸濁物を培養する
工程;および
(c)その後無血清培地において
、低酸素レベルでさらに約3~6継代の間、前記懸濁物
を培養する
工程であって、前記細胞
が、40%~90%コンフルエンスの間で継代
し、継代ごとに酵素で処理して前記細胞を解離させ、前記細胞培地
が約1~2日ごとに交換される、
前記懸濁物を培養する
工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記懸濁物の低酸素レベルでのその後の培養に続いて、
継代せずに、ある期間、標準酸素レベル
で前記細胞を成長させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が、異種成分不含フィブロネクチン、オルニチン、ポリリジン、またはラミニンで被覆した培養フラスコまたはプレート中の無血清培地において、継代せずに、標準酸素レベルで成長することが許容される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ある期間が1時間~5日間を含む、請求項2
または3に記載の方法。
【請求項5】
前記低酸素レベルが、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%、または10%酸素からなる群より選択される、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
1~2日ごとに交換される前記培養培地に、0.01mg/ml~0.5mg/mlのビタミンCが含まれる、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞および/または前記細胞塊が基本培養培地で培養される、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞および/または前記細胞塊が、細胞生存または成長を支援する補足物または添加物と一緒に培養され
、前記補足物または前記添加物が、L-グルタミン、ならびにEGFおよびbFGFからなるヒト組換え成長因子(Invitrogen)からなる群より選択される作用物質を含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記培地に、アルブミン、または組換えアルブミンが約1.0mg/mlの初期濃度を有する量で追加補充される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(a)細胞の前記試料が、病原体、細菌、エンドトキシン、真菌、マイコプラズマ、ウイルス、肝炎ウイルスまたはHIVウイルスの存在についてスクリーニングされる、
(b)細胞の前記試料が、正常核型の存在についてスクリーニングされる、
(c)細胞の前記試料が上昇したテロメラーゼ活性を示さない、
(d)細胞の前記試料が生存度についてスクリーニングされる、かつ/または
(e)細胞の前記試料が腫瘍原性についてスクリーニングされる、
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(a)細胞表面または遺伝子マーカーに基づいてヒト胎児神経網膜細胞を選択すること、または
(b)ヒト胎児神経網膜細胞トランスクリプトームプロファイル、プロテオームプロファイルまたはゲノムプロファイルに基づいてヒト胎児神経網膜細胞を選択すること
をさらに含む、
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
(i)ステップ(a)が、前記細胞を培養前に(事前に)または培養後にまたは培養前と培養後との両方において選択することをさらに含む;
(ii)前記細胞表面または遺伝子マーカーが、CD15/LeX/SSEA1もしくはGD2ガングリオシドを含む;あるいは
(iii)前記細胞表面または遺伝子マーカーが、CD9、CD81、CD133もしくはAQP4および/もしくはCXCR4を含む、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記不均一混合物中の前記細胞の90%超がネスチンを発現する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記不均一混合物中の前記細胞の80%超がSox2を発現する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記不均一混合物中の前記細胞の30%超がKi-67を発現する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は2017年6月5日に提出された米国特許仮出願第62/515,216号の優先権を主張し、その内容は参照によりあらゆる目的のために本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本明細書に記載される主題は一般に、幹細胞生物学および再生医療の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
網膜変性とは、網膜における光受容細胞の進行性のおよび不可逆的減退および死により引き起こされる悪化または変性をいう。光受容細胞の死は失明をもたらすことがある。
【0004】
したがって、損傷を受け失われた光受容細胞を修復し視覚機能を回復するための有効な処置の必要性が当技術分野には存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
網膜疾患または状態の処置に有用である、医薬として、被験体(例えば、ヒト)において使用するための製剤、製造品および/または組成物であって、製剤、製造品または組成物が、不死ではないヒト網膜前駆細胞を含有する細胞集団を含み、製剤、製造品または組成物が、約12週~約28週の在胎齢のヒトから得られたヒト網膜組織の試料を機械的にかつ/または酵素的に消化して、細胞および細胞塊の解離した懸濁物を作製すること;異種成分不含フィブロネクチン、オルニチン、ポリリジン、またはラミニンで被覆した培養フラスコまたはプレート中の無血清培地において懸濁物を標準酸素レベルで約4~6継代の間、培養すること;および続いて無血清培地において懸濁物を低酸素レベルでさらに約3~6継代の間、培養することであって、細胞は、40%~90%コンフルエンスの間で継代させ、継代ごとに酵素で処理して細胞を解離させ、新たな培養培地を添加し、それによって不死ではないヒト網膜前駆細胞を製造する、培養することによって製造され、不死ではないヒト網膜前駆細胞が、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、MHCクラスII、オステオポンチン(OPN)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、およびFas/CD95からなる群より選択される1つまたは複数のマーカーを発現し、ネスチンが、集団中の細胞の90%超によって発現され、Sox2が、集団中の細胞の80%超によって発現され、Ki-67が、集団中の細胞の30%超によって発現され、MHCクラスIが、集団中の細胞の70%超によって発現され、Fas/CD95が、集団中の細胞の30%超によって発現され、MHCクラスIIが、集団中の細胞の2%未満によって発現され、オステオポンチン(OPN)が、集団中の細胞により約20ng/106細胞/24時間よりも多い量で発現され、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)が、集団中の細胞により、細胞がベースラインでbFGFを含まなかった担体中に存在する場合、約50~約300pg/106細胞/時間の量で発現される、製剤、製造品および/または組成物が本明細書で提供される。集団中の細胞は、中脳星状細胞由来神経栄養因子(MANF)(例えば、約0.5~約2.5ng/106細胞/24時間の量で)、色素上皮由来成長因子(PEDF)(例えば、最大約30ng/106細胞/24時間の量で)、プレイオトロフィン(PTN)(例えば、約50~約600pg/106細胞/24時間の量で)、および/またはミッドカイン(MDK)(例えば、最大約12ng/106細胞/24時間の量で)をさらに発現してもよい。
【0006】
本明細書に開示される製剤、製造品または組成物のいずれにおいても、懸濁物を低酸素レベルで培養するその後の培養に続いて、細胞を標準酸素レベルである期間(例えば、約1時間~5日間)、成長させる。
【0007】
適切な低酸素レベルは、例えば、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%、または10%酸素を含んでいてもよい。
【0008】
一部の実施形態では、1~2日ごとに交換される培養培地に、0.01mg/ml~0.5mg/mlのビタミンCが含まれる。
【0009】
使用するためのこれらの製剤、製造品または組成物は、被験体の硝子体腔または網膜下腔中への注射用に製剤化することができる。
【0010】
網膜疾患または状態は、例えば、網膜色素変性(RP)、レーバー先天性黒内障(LCA)、シュタルガルト病、アッシャー症候群、コロイデレミア、杆体錐体または錐体杆体ジストロフィー、繊毛関連疾患(ciliopathy)、ミトコンドリア障害、進行性網膜萎縮、変性網膜疾患、加齢黄斑変性(AMD)、ウェット型AMD、ドライ型AMD、地図状萎縮、家族性または後天性黄斑症、網膜光受容体疾患、網膜色素上皮ベースの疾患、糖尿病性網膜症、類嚢胞黄斑浮腫、ぶどう膜炎、網膜剥離、外傷性網膜損傷、医原性網膜損傷、黄斑円孔、黄斑毛細血管拡張症、神経節細胞疾患、視神経細胞疾患、緑内障、視神経症、虚血性網膜疾患、未熟児網膜症、網膜血管閉塞、家族性細動脈瘤、網膜血管疾患、眼血管疾患、血管疾患、または虚血性視神経症でもよい。
【0011】
一部の実施形態では、製剤、製造品または組成物中の細胞は、ビメンチン、CD9、CD81、AQP4、CXCR4、CD15/LeX/SSEA1、GD2ガングリオシド、CD133、β3-チューブリン、MAP2、GFAP、OPN/SPP1、PTN、KDR、およびTEKからなる群より選択される1つまたは複数のマーカーをさらに発現する。
【0012】
(a)約12週~約28週の在胎齢のヒトから得られたヒト網膜組織細胞の試料を機械的にかつ/または酵素的に解離させて、細胞および/または細胞塊の解離した懸濁物を作製することであって、細胞および/または小さな細胞塊の収穫された試料は、トリプシンまたは等価物を使用して酵素的に解離される、作製すること;(b)異種成分不含フィブロネクチン、オルニチン、ポリリジン、またはラミニンで被覆した培養フラスコまたはプレート中の無血清培地において懸濁物を標準酸素レベルで約4~6継代の間、培養すること;および(c)続いて無血清培地において懸濁物を低酸素レベルでさらに約3~6継代の間、培養することであって、細胞は、40%~90%コンフルエンスの間で継代させ、継代ごとに酵素で処理して細胞を解離させ、細胞培地は、約1~2日ごとに交換される、培養することにより、不死ではないヒト胎児神経網膜細胞の不均一混合物を含有する製剤、製造品または組成物を製造する方法も提供される。
【0013】
一部の実施形態では、懸濁物を低酸素レベルで培養するその後の培養に続いて、細胞を標準酸素レベルで継代せずにある期間(例えば、1時間~5日間)、成長させる。
【0014】
適切な低酸素レベルは、例えば、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%、または10%酸素を含んでいてもよい。
【0015】
これらの方法のいずれにおいても、1~2日ごとに交換される培養培地に、0.01mg/ml~0.5mg/mlのビタミンCが含まれる。
【0016】
細胞および/または細胞塊は、必要に応じて細胞生存または成長を支援する補足物(supplement)または添加物と一緒に基本培養培地で培養される。非限定的例として、細胞生存または成長を支援する補足物または添加物は、L-グルタミン、EGFおよびbFGFからなるヒト組換え成長因子(Invitrogen)ならびに他の成長因子からなる群より選択される。一部の実施形態では、培地に、アルブミンまたは組換えアルブミンが約1.0mg/mlの初期濃度を有する量で追加補充される。
【0017】
細胞の試料は、病原体、細菌、エンドトキシン、真菌、マイコプラズマ、ウイルス、肝炎ウイルスもしくはHIVウイルスの存在について;正常核型の存在について;生存度について;および/または腫瘍原性についてスクリーニングされる。一部の実施形態では、それに加えてまたはその代わりに、細胞の試料は、上昇したテロメラーゼ活性を示さない。
【0018】
これらの方法は、(a)細胞表面または遺伝子マーカーに基づいてヒト胎児神経網膜細胞を選択するステップ、および/または(b)ヒト胎児神経網膜細胞トランスクリプトームプロファイル、プロテオームプロファイルまたはゲノムプロファイルに基づいてヒト胎児神経網膜細胞を選択するステップも含んでいてよい。例えば、ステップ(a)は、細胞を培養前に(事前に)または培養後にまたは培養前と培養後との両方において選択することをさらに含んでいてもよく;細胞表面または遺伝子マーカーは、CD15/LeX/SSEA1および/もしくはGD2ガングリオシドを含み;ならびに/または細胞表面または遺伝子マーカーは、CD9、CD81、CD133もしくはAQP4および/もしくはCXCR4を含む。
【0019】
さらに、不死ではないヒト網膜前駆細胞の集団を単離するための方法であって、網膜が形成された後であるが、光受容体外節が網膜全体で完全に形成される前であり、網膜血管新生が実質的に完了するまたは完了する前の段階に由来するヒト網膜組織の試料を機械的にかつ/または酵素的に解離して、細胞および細胞塊の解離した懸濁物を作製すること;異種成分不含フィブロネクチン、オルニチン、ポリリジン、またはラミニンで被覆した培養フラスコまたはプレート中の無血清培地において懸濁物を標準酸素レベルで約4~6継代の間、培養すること;および続いて無血清培地において懸濁物を低酸素レベルでさらに約3~6継代の間、培養することであって、細胞は、40%~90%コンフルエンスの間で継代させ、継代ごとに酵素で処理して細胞を解離させる、培養することを含み、ヒト網膜前駆細胞が、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、MHCクラスII、オステオポンチン(OPN)、およびFas/CD95からなる群より選択される1つまたは複数のマーカーを発現し、ネスチンが、集団中の細胞の90%超により発現され、Sox2が、集団中の細胞の80%超により発現され、Ki-67が、集団中の細胞の30%超により発現され、MHCクラスIが、集団中の細胞の70%超により発現され、Fas/CD95が、集団中の細胞の30%超により発現され、MHCクラスIIは集団中の細胞の2%未満により発現され、オステオポンチン(OPN)が、集団中の細胞により約20ng/106細胞/24時間よりも多い量で発現され、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)が、集団中の細胞により、細胞がベースラインでbFGFを含まなかった担体中に存在する場合、約50~約300pg/106細胞/時間の量で発現される、方法が提供される。集団中の細胞は、中脳星状細胞由来神経栄養因子(MANF)(例えば、約0.5~約2.5ng/106細胞/24時間の量で)、色素上皮由来成長因子(PEDF)(例えば、最大約30ng/106細胞/24時間の量で)、プレイオトロフィン(PTN)(例えば、約50~約600pg/106細胞/24時間の量で)、および/またはミッドカイン(MDK)(例えば、最大約12ng/106細胞/24時間の量で)をさらに発現してもよい。
【0020】
一部の実施形態では、懸濁物を低酸素レベルで培養するその後の培養に続いて、細胞を標準酸素レベルで継代せずにある期間(例えば、約1時間~5日間)、成長させる。
【0021】
適切な低酸素レベルは、例えば、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%、または10%酸素を含んでいてもよい。
【0022】
これらの方法のいずれにおいても、培養培地は1~2日ごとに交換される。
【0023】
これらの方法のいずれにおいても、1~2日ごとに交換される培養培地に、0.01mg/ml~0.5mg/mlのビタミンCが含まれる。
【0024】
ヒト網膜組織は、約12週~約28週の在胎齢のヒト胎児網膜から得ることできる。
【0025】
これらの方法の一部の実施形態では、細胞は無血清または低血清の細胞培養培地で培養される。この培地はアルブミンをさらに含有していてもよい。
【0026】
集団中の細胞は、ビメンチン、CD9、CD81、AQP4、CXCR4、CD15/LeX/SSEA1、GD2ガングリオシド、CD133、β3-チューブリン、MAP2、GFAP、OPN/SPP1、PTN、KDR、およびTEKからなる群より選択される1つまたは複数のマーカーをさらに発現する。
【0027】
使用するための有効量の製剤、製造品または組成物を投与することにより、患者(例えば、ヒト)において網膜疾患または状態を処置する、好転させる(ameliorate)、予防するまたはその進行を遅らせるための方法であって、製剤、製造品または組成物が、不死ではないヒト網膜前駆細胞を含有する細胞集団を含み、製剤、製造品または組成物が、約12週~約28週の在胎齢のヒトから得たヒト網膜組織の試料を機械的にかつ/または酵素的に消化して、細胞および細胞塊の解離した懸濁物を作製すること、異種成分不含フィブロネクチン、オルニチン、ポリリジン、またはラミニンで被覆した培養フラスコまたはプレート中の無血清培地において懸濁物を標準酸素レベルで約4~6継代の間、培養すること;および続いて無血清培地において懸濁物を低酸素レベルでさらに約3~6継代の間、培養することであって、細胞は、40%~90%コンフルエンスの間で継代させ、継代ごとに酵素で処理して細胞を解離させ、新たな培養培地を添加し、それによって不死ではないヒト網膜前駆細胞を作製する、培養することによって作製され、不死ではないヒト網膜前駆細胞が、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、MHCクラスII、オステオポンチン(OPN)、およびFas/CD95からなる群より選択される1つまたは複数のマーカーを発現し、ネスチンが、集団中の細胞の90%超により発現され、Sox2が、集団中の細胞の80%超により発現され、Ki-67は集団中の細胞の30%超により発現され、MHCクラスIが、集団中の細胞の70%超により発現され、Fas/CD95が、集団中の細胞の30%超により発現され、MHCクラスIIが、集団中の細胞の2%未満により発現され、オステオポンチン(OPN)が、集団中の細胞により約20ng/106細胞/24時間よりも多い量で発現され、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)が、集団中の細胞により、細胞がベースラインでbFGFを含まなかった担体中に存在する場合、約50~約300pg/106細胞/時間の量で発現される、方法も提供される。集団中の細胞は、中脳星状細胞由来神経栄養因子(MANF)(例えば、約0.5~約2.5ng/106細胞/24時間の量で)、色素上皮由来成長因子(PEDF)(例えば、最大約30ng/106細胞/24時間の量で)、プレイオトロフィン(PTN)(例えば、約50~約600pg/106細胞/24時間の量で)、および/またはミッドカイン(MDK)(例えば、最大約12ng/106細胞/24時間の量で)をさらに発現してもよい。
【0028】
一部の実施形態では、懸濁物を低酸素レベルで培養するその後の培養に続いて、細胞を標準酸素レベルで継代せずにある期間(例えば、約1時間~5日間)、成長させる。
【0029】
適切な低酸素レベルは、例えば、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%、または10%酸素を含んでもよい。
【0030】
これらの方法のいずれにおいても、1~2日ごとに交換される培養培地に0.01mg/ml~0.5mg/mlのビタミンCが含まれる。
【0031】
製剤、製造品または組成物は、患者の硝子体腔または網膜下腔中に注射される。一部の実施形態では、製剤、製造品または組成物は、硝子体腔の前部領域中におよび/または硝子体腔の後部領域中に注射される。
【0032】
網膜疾患または状態は、網膜色素変性(RP)、レーバー先天性黒内障(LCA)、シュタルガルト病、アッシャー症候群、コロイデレミア、杆体錐体または錐体杆体ジストロフィー、繊毛関連疾患、ミトコンドリア障害、進行性網膜萎縮、変性網膜疾患、加齢黄斑変性(AMD)、ウェット型AMD、ドライ型AMD、地図状萎縮、家族性または後天性黄斑症、網膜光受容体疾患、網膜色素上皮ベースの疾患、糖尿病性網膜症、類嚢胞黄斑浮腫、ぶどう膜炎、網膜剥離、外傷性網膜損傷、医原性網膜損傷、黄斑円孔、黄斑毛細血管拡張症、神経節細胞疾患、視神経細胞疾患、緑内障、視神経症、虚血性網膜疾患、未熟児網膜症、網膜血管閉塞、家族性細動脈瘤、網膜血管疾患、眼血管疾患、血管疾患、または虚血性視神経症を含んでいてもよい。
【0033】
非限定的例として、有効量は0.3~0.5×106細胞または0.5~3×106細胞である。
【0034】
これらの方法は、使用するための製剤、製造品または組成物の有効量の投与と併せた、外科的硝子体切除、中心部硝子体切除、硝子体溶解薬(vitreolytic agent)またはそれらの組み合わせの使用も含んでいてよい。
【0035】
これらの方法のいずれにおいても、患者に、使用するための製剤、製造品または組成物の少なくとも1回の後続用量を、患者の同じ眼または他眼中に施すことができる。
【0036】
本明細書に記載される方法のいずれによっても、使用するための製剤、製造品または組成物の投与に続いて、患者において明所(昼光)視、視力、黄斑機能、視野、暗所(夜)視、またはその任意の組み合わせが改善される。
【0037】
使用するための製剤、製造品または組成物の投与により、(i)ミューラー細胞の増強された活性化;(ii)グルタミン合成酵素の局所的発現の増加;(iii)血管透過性の低下;(iv)虚血の発生の低下;(v)網膜変性におけるマクロファージ動員の増強;(vi)網膜変性におけるbFGFの局所的発現の増加;および/または(vii)カスパーゼ3の発現の減少のうちの1つまたは複数がもたらされてもよい。
【0038】
本明細書に記載される態様および実施形態のいずれでも、本発明の概要において、図において、および/または本発明の下の特定の非限定的実施例/実施形態を含む、本発明を実施するための形態においてここに開示される他のいかなる態様または実施形態とも組み合わせることが可能である。
【0039】
別段定義されなければ、本明細書で使用されるすべての専門用語および科学用語は、本出願が属する分野の当業者が一般に理解しているのと同じ意味を有する。本明細書では、単数形は、文脈が他の方法で明確に指示していなければ、複数形も含む。
【0040】
本明細書に記載される方法および材料に類似するまたは等価である方法および材料を本出願の実行および試験において使用することは可能であるが、下には適切な方法および材料が記載されている。本明細書で言及されるすべての出版物、特許出願、特許および他の参考文献は、それによりあらゆる目的のために参照によってはっきりと組み込まれる。
【0041】
本明細書で引用される参考文献は、請求されている出願よりも先行する技術であるとは認められていない。矛盾する場合は、定義を含む本明細書が統制することになる。さらに、材料、方法、および実施例は説明に役立つのみであり、限定的であることを意図されていない。
【0042】
本明細書全体を通じて記載される特色、構造、または特徴は、1つまたは複数の実施形態においていかなる適切な様式でも組み合わせてよい。例えば、本明細書全体を通じて、語句「例示的実施形態」、「例の実施形態」、「一部の実施形態」または他の類似する言語の使用とは、実施形態に関連して記載される特定の特色、構造、または特徴が、本明細書に記載される少なくとも1つの実施形態に含まれてもよいという事実をいう。したがって、本明細書全体を通じて、語句「例示的実施形態」、「例の実施形態」、「一部の実施形態で」、「他の実施形態で」または他の類似する言語の出現は、必ずしもすべて同じグループの実施形態を指すわけではなく、記載された特色、構造、または特徴は、1つまたは複数の実施形態においていかなる適切な様式でも組み合わせることが可能である。
【0043】
出願の他の特色および利点は、実施例と併せて以下の詳細な記載から明らかになる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
詳細な説明
定義
本開示の理解を促進するため、いくつかの用語は以下に定義される。本明細書の用語を使用して、本明細書に記載される主題の特定の実施形態を説明するが、その使用は、特許請求の範囲において概要が述べられる以外、主題の範囲を定めるものではない。
【0045】
本開示では、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含有する(containing)」、「有する(having)」、等は、米国特許法においてそれらの用語にありとする意味を持つことが可能であり、「含む(includes)」、「含む(including)」、等を意味することが可能であり;用語「から本質的になる」または「本質的になる」は同様に、米国特許法においてそれらに帰させられる意味を持ち、これらの用語は開放形式であり、列挙されていることの基本的または新規の特徴が列挙されることよりも多いものの存在により変更されないが、先行技術実施形態を排除する限り、列挙されていることよりも多いものの存在を許す。
【0046】
具体的に述べられていなく、文脈から明らかでもなければ、本明細書で使用される場合、用語「1つ(a)」、「1つ(an)」、および「その(the)」は、単数または複数であると理解されている。
【0047】
具体的に述べられていなく、文脈から明らかでもなければ、本明細書で使用される場合、用語「または(or)」は包括的であると理解されている。
【0048】
本明細書において他の文脈で使用される場合、用語「約(about)」は、別段示されなければ、列挙された値、例えば、量、用量、温度、時間、パーセント、等、の+/-10%、+/-9%、+/-8%、+/-7%、+/-6%、+/-5%、+/-4%、+/-3%、+/-2%、または+/-1%をいう。
【0049】
代わりの実施形態では、本明細書で使用される場合、用語「患者」または「被験体」、等、は本明細書では互換的に使用され、ヒト、飼育および農場動物、ならびに動物園、スポーツ、およびペット動物(イヌ、ウマ、ネコなど)ならびに農業使用動物(ウシ、ヒツジ、ブタ、およびヤギを含む)を含む任意の哺乳動物をいう。1つの好ましい哺乳動物は、成人、小児、および高齢者を含むヒトである。被験体は、イヌ、ネコおよびウマを含むペット動物でもよい。好ましい農業用動物はウシおよびヤギだと考えられる。
【0050】
代わりの実施形態では、用語「処置する(treat)」、「処置する(treating)」、「処置(treatment)」、等は、本明細書で使用される場合、別段示されていなければ、そのような用語が当てはまる疾患、障害または状態、またはそのような疾患、障害または状態の1つもしくは複数の(すなわち、必ずしもすべてではない)症状を治癒する、逆転させる、減弱する、軽減する、最小限に抑える、その過程を阻害する、抑制する、停止するおよび/または予防することをいい、疾患、状態または障害の症状または合併症の発症を予防し、症状または合併症を軽減し、その進行を減弱し、および/または疾患、状態または障害を取り除くために、本明細書に記載される組成物、薬学的組成物、または剤形のいずれかの投与を含む。好ましくは、処置は治癒的または好転させるものである。
【0051】
代わりの実施形態では、本明細書で使用される場合、「予防する(preventing)」または「予防(prophylaxis)」は、予防すべき物または事象、例えば、疾患、障害または状態の生成または発生を全体的にもしくは部分的に予防する、または好転させるもしくは制御する、または低減するもしくは停止することを意味する。
【0052】
代わりの実施形態では、語句「治療有効量」および「有効量」、等は、本明細書で使用される場合、好転させるなどの治療効果または代わりに治癒効果を達成するために、患者に、または患者の細胞、組織、もしくは臓器に投与するのに必要な量を示す。有効量は、研究者、獣医、医師、または臨床医が探し求めている細胞、組織、系、動物、またはヒトの生物学的または医学的応答を誘発するのに十分である。適切な有効量または治療有効量の決定は当技術分野の慣用的なレベルの技術の範囲内である。
【0053】
代わりの実施形態では、用語「投与する(administering)」、「投与する(administer)」、「投与(administration)」、等は、本明細書で使用される場合、治療剤をそのような作用物質を用いた処置を必要とする被験体に移入させる、送達する、導入する、または輸送する任意の様式をいう。そのような様式は、眼内の、経口の、局所的な、静脈内の、動脈内の、腹腔内の、筋肉内の、皮内の、鼻腔内の、および皮下の投与を含むが、これらに限定されない。
【0054】
代わりの実施形態では、本明細書で使用される場合、「精製された」または「濃縮された」、または同様な物は、細胞または細胞集団がその通常の組織環境から取り除かれて、通常の組織環境と比べてより高い濃度で存在していることを示す。したがって、「精製された」または「濃縮された」細胞集団は、網膜前駆細胞に加えて細胞型をさらに含んでもよく、追加の組織成分を含んでいてもよく、用語「精製された」または「濃縮された」は、必ずしも前駆細胞のみの存在を示してはおらず他の細胞型の存在を排除してもいない。
【0055】
代わりの実施形態では、本明細書で開示される網膜前駆細胞集団は、少なくとも5%純粋、少なくとも10%純粋、少なくとも15%純粋、少なくとも20%純粋、少なくとも25%純粋、少なくとも30%純粋、少なくとも35%純粋、少なくとも40%純粋、少なくとも45%純粋、少なくとも50%純粋、少なくとも55%純粋、少なくとも60%純粋、少なくとも65%純粋、少なくとも70%純粋、少なくとも75%純粋、少なくとも80%純粋、少なくとも85%純粋、少なくとも90%純粋、少なくとも95%純粋、少なくとも96%純粋、少なくとも97%純粋、少なくとも98%純粋、少なくとも99%純粋または5%~99%純粋の中間の任意の増分(例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%)でもよい。
【0056】
代わりの実施形態では、「マーカー」とは、観察するまたは検出することが可能な任意の分子をいう。例えば、マーカーは、特定の遺伝子の転写物などの核酸、遺伝子のポリペプチド産物、非遺伝子産物ポリペプチド、糖タンパク質、炭水化物、糖脂質、脂質、リポタンパク質または小分子(例えば、10,000ダルトン未満の分子量を有する分子)を含むことが可能であるが、これらに限定されない。代わりの実施形態では、網膜前駆細胞は、細胞集団内の細胞表面に(「細胞表面マーカー」)、細胞集団内の細胞の内側に(すなわち、細胞の核または細胞質に)発現される、および/または「遺伝子」マーカーとしてRNAもしくはタンパク質レベルで発現されることが可能な1つまたは複数のマーカーの存在を特徴としてもよい。
【0057】
代わりの実施形態では、本明細書で使用される用語「発現する」および「発現」とは、宿主細胞内での核酸配列の転写および/または翻訳をいう。宿主細胞における目的の所望の産物/タンパク質の発現レベルは、細胞中に存在する対応するmRNAの量、または本例におけるように選択された配列によりコードされた目的の所望のポリペプチド/タンパク質の量に基づいて決定するまたは「スクリーニング」してもよい。例えば、選択された配列から転写されるmRNAは、ノーザンブロットハイブリダイゼーション、リボヌクレアーゼRNA保護、細胞RNAへのin situハイブリダイゼーション、マイクロアレイ分析により、または逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により定量化するまたは検出することが可能である。選択された配列によりコードされるタンパク質は、種々の抗体ベースの方法により、例えば、ELISAにより、ウェスタンブロッティングにより、ラジオイムノアッセイにより、免疫沈降により、タンパク質の生物活性についてのアッセイにより、タンパク質の免疫染色(例えば、免疫組織化学および免疫細胞化学を含む)により、フローサイトメトリーもしくは蛍光標識細胞分取(「FACS」)分析により、またはホモジニアス時間分解蛍光(HTRF)アッセイにより検出するまたは定量化することが可能である。
【0058】
網膜前駆体細胞(RPC)
代わりの実施形態では、哺乳動物網膜前駆細胞の単離、特徴付け、および使用は国際公開第2012/158910号に詳細に記載されている通りであり、その特許文献は参照によりその全体を本明細書に組み込まれる。
【0059】
脊椎動物胚発生では、網膜および視神経は、発生中の脳の伸長として始まるので、網膜は中枢神経系(CNS)の一部とみなされ、事実上脳組織である。網膜は、いくつかの層のニューロンがシナプスにより相互接続されている層構造である。硝子体から最も近いところから最も遠いところ、すなわち、頭部の正面外部に最も近いところから頭部の内部および後部に向かって、網膜層は、ミューラー細胞あぶみ骨底を含む内境界膜、ガングリオン細胞核の軸索を含有する神経線維層、その軸索が視神経線維になるガングリオン細胞の核を含有するガングリオン細胞層、双極細胞軸索とガングリオンおよびアマクリン細胞の樹状突起の間にシナプスを含有する内網状層、双極細胞の核および周囲細胞体(核周部)を含有する内顆粒層、それぞれ桿状体小球および錐体椎弓根(cone pedicle)に終わる桿体および錐体の突起を含有する外網状層、桿体および錐体の細胞体を含有する外顆粒層、光受容体の内節部分とその細胞核を分離する外境界膜、光受容体層、ならびに立方状細胞の単層である網膜色素上皮(RPE)を含む。光に直接的感受性があるニューロンは光受容細胞であり、主に2つのタイプ:桿体および錐体を含む。桿体は主に薄明りで機能し黒白の視覚を提供し、錐体は昼間視力および色に対する知覚を支援する。第3のタイプの光受容体は、光感受性ガングリオン細胞であり、明るい昼光に対する反射応答にとり重要である。
【0060】
ドナー胎児網膜細胞(例えば、本明細書に記載される網膜前駆細胞)は、宿主網膜、とりわけ、宿主錐体に栄養に関する影響を与えることがある。この栄養作用は、改善された視覚機能により決定される場合、神経保護的であるだけでなく、残りの宿主網膜細胞に急速な再生効果も及ぼす。ドナー細胞は、網膜に組み込むことができ、細胞分化を経て、光受容体に置き換わる(限られた数で可能である)。全体的効果は、そうでなければ完全に機能しなくなり、患者が全盲になってしまう運命にある網膜において臨床的に有意な程度の視覚機能を急速にも持続的にも修復し維持することである。したがって、本明細書に記載される組成物および方法のいずれかを使用すれば、哺乳動物、例えば、ヒトの網膜において臨床的に有意な程度の視覚機能を急速かつ持続的に修復し維持することが可能である。例えば、本明細書に記載される組成物および方法のいずれでも、罹患した網膜に臨床的に有意な栄養に関する影響を与える、または黄斑および/もしくは暗所視覚機能に再生に関する影響を与えることが可能である。
【0061】
本明細書に記載される組成物および集団中の細胞は、単離された単一細胞型ではなく、密接に関係する細胞の集団である。
【0062】
これらの細胞は幹細胞それ自体ではない(なぜならば、これらの細胞は真の幹細胞の定義を満たさないからである)が、未成熟および/または可塑性である。しかし、これらの細胞は(さらなる操作なしでは)胚葉を生じることはできないおよび/または(さらなる操作なしでは)3つすべての胚葉を生じることもできない。
【0063】
さらに、これらの細胞は、網膜組織または細胞を製造するように事前に指定されている。したがって、これらの細胞は、前駆体マーカーおよび網膜マーカーを発現してもよい。
【0064】
網膜前駆細胞は多能性ではなく、多分化能であるように見えることがある。しかし、この細胞は多能性状態で培養されたことはなかったので、したがって、より安全である。一部の実施形態では、哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は多能性細胞株から人工的に導き出すことが可能であるが、これらの細胞は、必要に応じて、残りの多能性細胞型の集団を含有しない。
【0065】
本明細書に記載される細胞は網膜前駆細胞(RPC)であり、これは神経前駆細胞および/または神経幹細胞(NSC)と区別することが可能である。具体的には、そのような哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は多分化能であるがNSCと等価ではない。例えば、哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は脳由来ではなく、網膜由来である。さらに、哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は光受容体を生じ、脳由来前駆体は光受容体を生じるのは不得意である。同様に、NSCと違って、哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は多分化能であるが、(さらなる操作なしでは)オリゴデンドロサイトを生じない。例えば、哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は、光受容体を含む網膜細胞を生じる(に分化する)が、オリゴデンドロサイトを生じない。
【0066】
哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は、毛様体縁、毛様体上皮、またはRPEからではなく、哺乳動物胎児神経網膜から得られる(または入手可能である)。さらに、哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は、分化したミューラー膠細胞の子孫ではなく、有糸分裂後前駆体それ自体ではなく、幹細胞それ自体ではなく、および/または単一の単離した細胞型それ自体でもない。
【0067】
哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は、初期胚(例えば、胚盤胞)では見出されない。さらに、哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は、正常な成熟哺乳動物(例えば、ヒト)においてはいかなる有用な存在量でも見出されない。
【0068】
さらに、網膜前駆体細胞は生物の寿命の間存続するわけではない。しかし、これらの哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は、発生中の(胎児)哺乳動物(例えば、ヒト)網膜にはその天然の存在量で見出される。
【0069】
哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は大部分が、増殖条件下で生育される場合、有糸分裂するが、有糸分裂後細胞の少数の混合物が本明細書に記載される組成物および集団のいずれかに含まれてもよい。
【0070】
哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は、無関係な哺乳動物、例えば、ヒトにおいて眼の同種異系移植片として免疫学的に許容される。したがって、RPCは眼中に置かれると低い免疫原性を有する。非限定的例として、これらの哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は、哺乳動物、もしくはヒト、視覚または網膜疾患治療的および/もしくは予防的療法のために、硝子体腔にまたは網膜下腔に移植することが可能である。
【0071】
好ましくは、哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は、腫瘍形成も他の望ましくない細胞成長のいかなるリスクも伴わない(または実質的なリスクも伴わない)。
【0072】
代わりの実施形態では、哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は、球もしくは接着性単層として、または球および次に単層として、ならびに/または球と単層の組み合わせとして培養される。しかし、球は必要とされておらず、一部の実施形態では、細胞は、球としてでも、解離された細胞と球の両方の混合物としてもではなく、解離された細胞として移植される。哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は、硝子体で癒着する移植細胞を含有し、必要に応じて、球になることが可能である。
【0073】
代わりの実施形態では、網膜前駆細胞および網膜前駆細胞を含有する細胞集団は、不死ではなく、不死化されず、不死化するように強制されることもない。細胞は無期限に増殖しないが、本明細書に記載される例示的細胞培養法は増殖速度および持続期間を改善することが可能であり、ならびに/または所与の組織供与のためにドナー細胞収量を著しく改善することが可能である。
【0074】
RPCは、非遺伝子改変細胞であり得るか、または、当技術分野で公知の任意の方法(複数可)を使用して遺伝子改変され得る(例えば、安定的に、または一過性に、または誘導的に形質転換されている)。例えば、網膜前駆細胞は遺伝子改変して、目的の1つまたは複数の異種または外来性核酸配列を発現させることが可能である。核酸配列は「外来性」であることが可能であり、これはベクターが導入されている細胞にとって核酸配列が外来性であること、または配列が細胞中の配列に相同であるが、その配列が通常は見出されない宿主細胞核酸内の位置にあることを意味する。代わりの実施形態では、核酸配列は、プラスミド、アンプリコン、cDNA、mRNA、アンチセンスRNA、siRNAを含むが、これらの例に限定されない。用語「遺伝子」とは、機能的タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドコード核酸単位をいう。当業者により理解されているように、この機能的用語は、ゲノム配列、cDNA配列、ならびにタンパク質、ポリペプチド、ドメイン、ペプチド、融合タンパク質、および変異体を発現する、または発現するように適応させてもよいより小さな操作された遺伝子セグメントを含む。
【0075】
当技術分野で公知のいかなる方法論でも細胞を遺伝的に変更するために使用することが可能である。1つの例示的方法は、組換えウイルスベクターを用いて組織の細胞中に遺伝子を挿入することである。当技術分野で公知である、ウイルスベクター、プラスミドベクター、線形DNA、等、などのいくつかの異なるベクターのいずれか1つを使用すれば、治療剤をコードする外来性核酸断片を標的細胞および/または組織中に導入することが可能である。これらのベクターは、例えば、感染、形質導入、トランスフェクション、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、リポソーム媒介トランスフェクション、微粒子銃遺伝子送達、膜融合性およびアニオン性リポソーム(カチオン性リポソームの使用の代替物である)を使用するリポソーム遺伝子送達、直接注入、受容体媒介取込み、マグネットポレーション(magnetoporation)、超音波ならびに当技術分野で公知の他の方法のいずれかを使用して挿入することが可能である。
【0076】
代わりの実施形態では、本明細書で使用される場合、「ベクター」とは、核酸配列をそれを複製させることが可能である細胞中への導入のために挿入することが可能なキャリア核酸分子をいう。ベクターは、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルス、および植物ウイルス)、および人工染色体(例えば、YAC)を含む。当業者であれば、標準組換え技法を通じてベクターを構築する能力があると考えられ、この技法はSambrookら(1989年)Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、N.Y.; Ausubelら(1987年)Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publ. Assoc. & Wiley-Intersciencesに記載されている。改変されたポリペプチドをコードすることに加えて、ベクターは、タグ分子またはターゲティング分子などの非改変ポリペプチド配列をコードしていてもよい。そのような融合タンパク質をコードする有用なベクターは、後の精製および分離または切断のためのグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)可溶性融合タンパク質を産生するのに使用するための、pINベクター、ヒスチジンのストレッチをコードするベクター、およびpGEXベクターを含む。
【0077】
ベクターは、主に、「作動可能に連結されている」または1つもしくは複数の制御配列の制御下にある遺伝子などの異種核酸分子を細胞中に導入するように設計されてもよい。代わりの実施形態では、「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼIIおよび他の転写活性化因子タンパク質の開始部位周辺にクラスター形成されている1つまたは複数の転写制御モジュールをいう。目的の核酸分子の発現(すなわち、構成的、誘導的、抑制可能な、組織特異的)を駆動するために、任意のプロモーター/エンハンサー組み合わせ(真核生物プロモーターデータベースEPDBによる)も使用することができる。その上、ベクターは、in vitroまたはex vivoでのその操作を促進する選択可能マーカーを含有していてもよい。ベクターは、ポリアデニル化シグナルを含有していてもよく、このシグナルはヒト成長ホルモン(hGH)遺伝子、ウシ成長ホルモン(BGH)遺伝子、またはSV40から得てもよい。さらに、ベクターは、内部リボソーム結合部位(IRES)エレメントを含有していてもよく、このエレメントは多重遺伝子、または多シストロン性、メッセージを作るのに使用される。IRESエレメントは、5-メチル化キャップ依存性翻訳のリボソームスキャニングモデルを迂回して内部部位で翻訳を開始することができる(Pelletier, J.およびSonenberg, N.(1988年)Nature 334巻(6180号):320~325頁)。IRESエレメントは、異種オープンリーディングフレームに連結することが可能である。それぞれがIRESにより分離された複数のオープンリーディングフレームを一緒に転写して、多シストロン性メッセージを作ることが可能である。IRESエレメントのおかげで、それぞれのオープンリーディングフレームは、効率的な翻訳のために、リボソームにとってアクセス可能である。複数の遺伝子は、単一メッセージを転写する単一プロモーター/エンハンサーを使用して効率的に発現させることが可能である。
【0078】
一部の実施形態では、ベクターはウイルスベクターである。当技術分野で公知のウイルスベクターは、限定せずに、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ポリオーマウイルスベクター、アルファウイルスベクター、ラブドウイルスベクター、レンチウイルスベクター、エプスタインバーウイルスベクター、ピコルナウイルスベクター、またはヘルペスウイルスベクターを含む。
【0079】
他の実施形態では、核酸配列は、リポソームまたは脂質製剤中に捕捉されてもよい。リポソームは、リン脂質二重層膜および内部水性媒体を特徴とする小胞構造体である。多重層リポソームは水性媒体により分離された複数の脂質層を有する。多重層リポソームは、リン脂質が過剰な水性溶液中で懸濁していると自然に形成される。脂質成分は閉じた構造体の形成前に自己再編成を起こし、脂質二重層間に水と溶解した溶質を捕捉する(Ghosh, P. C.およびBachhawat, B. K.(1991年)Targeted Diagn. Ther. 4巻:87~103頁)。市販のリポソームまたは脂質製剤の一例は、Lipofectamine(Invitrogen)である。他はFuGENE(Promega)、PromoFectin(PromoKine)、Affectene(Qiagen)、Polyfect(Qiagen)、Superfect(Qiagen)、およびTransMessenger(Qiagen)を含む。
【0080】
RPCの単離および培養
胎児網膜細胞、例えば、ヒト網膜前駆細胞(hRPC)の解離した懸濁物を製造、単離、および/または使用するための方法も提供される。種々の実施形態では、胎児網膜細胞の懸濁物は組織もスキャフォールドも含まない。
【0081】
細胞集団は、健康な被験体から(すなわち、網膜疾患を有さない個体)、罹患した被験体から収穫してもよく、新鮮な網膜細胞集団だけではなく、凍結された網膜細胞集団も含んでいてよい。供給源は、限定せずに、胚性、胎児、小児または成人組織から得られる、全眼、もしくは網膜組織、または他の供給源を含む。本明細書に記載される方法は、他の網膜前駆細胞特異的マーカーの正の選択による細胞単離のためのさらなる濃縮または精製手順またはステップを含むことが可能である。網膜前駆細胞および細胞集団はいかなる哺乳動物種または被験体、例えば、ヒト、霊長類、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、フェレット、ウサギ、齧歯類、例えば、マウス、ラット、ハムスター、等から得るまたは収穫してもよい。
【0082】
一部の実施形態では、細胞は網膜が形成された後だが、光受容体外節が網膜全体で完全に形成される前および網膜血管新生が完了するまたは実質的に完了する前の段階で哺乳動物胎児網膜から収穫される。その段階は典型的には、ヒト胎児において、約12週間~約28週間の胎児在胎齢(例えば、約12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、または28週間)の間である。ネコまたはブタ網膜前駆細胞などの、より大型の哺乳動物由来の非ヒト細胞では、その段階は典型的には、約3週間~約11週間の胎児在胎齢(例えば、約3、4、5、6、7、8、9、10、または11週間)の間である。例えば、Anand-Apte, B.およびHollyfield, J. G.「Developmental Anatomy of the Retinal and Choroidal Vasculature」、The Retina and Its Disorders、Besharse, J.およびBok, D.、Academic Press、(2001年)を参照されたい。しかし、細胞は、出生後または新生児哺乳動物組織からも収穫することが可能である。
【0083】
網膜前駆細胞は、組織試料の処理の後またはと同時に他の組織成分から精製することが可能である。例えば、前駆細胞は、細胞成長に適した条件下で、細胞を培養皿に付着させるのに十分な時間組織試料を培養した後で、他の細胞および組織成分から精製することが可能である。ある特定の実施形態では、細胞の精製は、培養中に組織試料から移動し、培養培地に存在しているまたはフィブロネクチンもしくは他の基材、またはフィーダー細胞層に緩く付着している細胞を得ることを含む。これらの細胞は、培地を取り除いて遠心分離してその中の細胞をペレット化する、および培養皿に残っている細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)またはハンクス平衡塩類溶液などの溶液で洗浄して、接着細胞層として緩く付着している細胞を取り除く、などの慣用的な方法により得てもよい。次に、この洗浄溶液を遠心分離して細胞を得てもよい。網膜前駆細胞および細胞集団の精製は、細胞を、脂質などの残留組織材料を含む、ある特定の不溶性組織成分から分離することをさらに含んでいてもよい。細胞は、例えば、密度勾配の使用、遠心分離、フローサイトメトリーもしくは磁気細胞分離(MACS)によるソーティング、および濾過またはそれらの組み合わせを含む、当技術分野で公知であり入手可能である任意の手段により他の組織成分から分離してもよい。細胞を精製する特定の方法の例は当技術分野では公知であり、例えば、米国特許第6,777,231号に記載されている。ネガティブ分離法も1つまたは複数の特定の細胞型を取り除くのに用いることが可能である。
【0084】
組織を処理するまたは「解離」してもよい。解離は、物理的解離によりならびに/または他の組織成分からの細胞の放出を促進して細胞および/もしくは細胞塊の「解離された懸濁物」を作る酵素調製物への曝露により実行してもよい。そのような酵素の例は、マトリクスメタロプロテイナーゼ、クロストリパイン、パパイン、トリプシン、トリプシン様、ペプシン、ペプシン様、中性プロテアーゼタイプおよびコラゲナーゼを含むがこれらに限定されない。適切なタンパク質分解酵素は、米国特許第5,079,160号、米国特許第6,589,728号、米国特許第5,422,261号、米国特許第5,424,208号、および米国特許第5,322,790号に記載されている。例えば、酵素調製物は、トリプシンを単独でまたは1つもしくは複数の追加の酵素と組み合わせて含んでいてもよい。酵素的解離は、例えば、細かく刻むこと、ピペッティング(pipetting)、切り刻むこと、ホモジナイジング、粉砕、凍結解凍、浸透圧的ショックによる物理的解離と併せて実行して、望ましくない細胞もしくは結合組織を取り除き、最終的に単一細胞培養物を得てもよいし、または、サイズ、すなわち、「小」、「中」および「大」により規定することが可能な細胞塊を含んでいてもよい。細胞塊サイズは主観的であり、本明細書に開示される主題の実施においては変動してもよい。
【0085】
被験体または患者への投与のために、ドナー組織から収穫され、培養で生育され、製剤化されるような細胞を含有する哺乳動物網膜前駆細胞および組成物の単離および特徴付けのための方法も提供される。
【0086】
哺乳動物胎児網膜細胞もしくはRPC細胞は、例えば、本明細書に記載されるように、定量的に異なる遺伝子プロファイルを発現する、または哺乳動物胎児網膜細胞もしくはRPC細胞は、定量的に異なる可溶性因子プロファイルを発現する、または哺乳動物胎児網膜細胞もしくはRPC細胞は、定量的に異なる表面マーカープロファイルを発現する。さらに、哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は、固定されても、一定でも、不変でもない遺伝子プロファイルを有する。むしろ、哺乳動物胎児網膜細胞またはRPC細胞は、培養中定量的に時間と共に動的に変化する遺伝子プロファイルを有する。
【0087】
本明細書で開示される主題は、定義された細胞培養法に従って単離され、特徴的なマーカーを発現する哺乳動物網膜前駆細胞を含有する細胞集団に関する。細胞集団は、哺乳動物から単離されin vitroで成長させる細胞の培養物でもよい。例えば、培養物は、培養プレート、皿、フラスコ、またはバイオリアクターにおいて培養される細胞または付着細胞の懸濁物を含んでいてもよい。試料は均一でも不均一でもよく、それは本明細書で定義される1つまたは複数のマーカーの発現により決定してもよい。本明細書で開示される細胞集団は混合細胞集団であり、未分化および分化細胞の混合物を含有していてもよい。本明細書で定義される網膜前駆細胞に特徴的なマーカーの相対的発現レベルは、集団内の細胞間で変動してもよい。
【0088】
網膜前駆細胞は、細胞表面マーカーおよび非表面(「遺伝的」)マーカーを含む、分子マーカーの発現を特徴としてもよい。細胞を特定のマーカーについて「陽性」または「陰性」と呼ぶことは当技術分野では一般的であるが、実際の発現レベルは定量的に決められる。細胞表面上の(または他の所に位置する)分子の数は、いくらかの対数分だけ変動するが、それでもまだ「陽性」として特徴付けられることがある。染色について陰性である、すなわち、マーカー特異的試薬の結合のレベルが対照、例えば、アイソタイプ適合対照とは検出可能には異なってはいない細胞がわずかな量のマーカーを発現することがあることは当業者にも理解されている。標識(「染色」)レベルの特徴付けにより、細胞集団間のかすかな区別が可能になる。細胞の染色強度はフローサイトメトリーによりモニター可能であり、その場合レーザーが蛍光色素の定量レベル(特定の試薬、例えば、抗体が結合している細胞表面マーカーの量に比例する)を検出する。フローサイトメトリー、またはFACSを使用すれば、特定の試薬への結合強度、ならびに細胞サイズおよび光散乱などの他のパラメータに基づいて細胞集団を分離することも可能である。染色の絶対レベルは特定の蛍光色素および試薬調製物によって異なる場合があるが、データは対照に正規化することが可能である。
【0089】
分布を対照に正規化するため、それぞれの細胞は、特定の染色強度を有するデータポイントとして記録される。これらのデータポイントは、測定単位が任意の染色強度である対数目盛に従って表示してもよい。例として、試料中の最も明るい染色細胞は、強度が非染色細胞の4対数ほど高いこともあり得る。このようにして表示された場合、染色強度の最も高い対数に入る細胞は明るく、最も低い強度の細胞は陰性である。「低い」陽性染色細胞はアイソタイプ適合対照の明るさの上の染色レベルを有するが、集団中で通常見出される最も明るい染色細胞ほどの強度はない。低陽性細胞は、試料の陰性細胞および明るく染色された陽性細胞とは異なる独特の特性を有していてもよい。別の対照は、その表面に限定された密度のマーカーを有する基材、例えば、強度について陽性対照を提供する製造されたビーズまたは細胞株を利用してもよい。
【0090】
マーカーの発現は、網膜前駆細胞および細胞集団が由来する網膜組織の培養中に変化を受けてもよい。例えば、マーカー発現の違いは、酸素レベル(すなわち、大気酸素レベル、または「正常酸素圧」条件;または低酸素条件、「低酸素(hypoxic)」条件としても公知である)などの培養条件に影響を受けることがある。非限定的例として、低酸素条件は、0.5%~10%酸素(すなわち、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、または10%)を含んでもよい。当業者であれば、網膜前駆細胞および細胞集団のマーカー発現は静的ではなく、1つまたは複数の培養条件、すなわち、培養培地、酸素レベル、継代数、培養時間、等の関数として変化する場合があることを知っている。
【0091】
網膜前駆細胞および細胞集団は、本明細書で定義されるマーカーのうちの1つもしくは複数、2つもしくはそれよりも多く、3つもしくはそれよりも多く、4つもしくはそれよりも多く、5つもしくはそれよりも多く、6つもしくはそれよりも多く、7つもしくはそれよりも多く、8つもしくはそれよりも多く、9つもしくはそれよりも多く、10もしくはそれよりも多く、11もしくはそれよりも多く、12もしくはそれよりも多く、13もしくはそれよりも多く、15もしくはそれよりも多く、16もしくはそれよりも多く、17もしくはそれよりも多く、18もしくはそれよりも多く、19もしくはそれよりも多く、20もしくはそれよりも多く、25もしくはそれよりも多く、30もしくはそれよりも多くを、または50までの中間の任意の増分またはそれよりも多いマーカーを発現してもよい。
【0092】
非限定的例として、網膜前駆細胞および網膜前駆細胞を含有する細胞集団は、例えば、ネスチン、ビメンチン、Sox2、Ki67、MHCクラスI、Fas/CD95、MAP2、CD9、CD81、AQP4、CXCR4、CD15/LeX/SSEA1、GD2ガングリオシド、CD133、β3-チューブリン、GFAP、OPN/SPP1、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、PTN、KDR、および/またはTEKなどの1つまたは複数のマーカーの発現により特徴付けられるまたはスクリーニングされる。ある特定の実施形態では、網膜前駆細胞および細胞集団は、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群より選択される1つまたは複数のマーカーを発現し、ネスチンは、集団中の細胞の90%よりも多く、または95~99%(すなわち、95、96、97、98、または99%)により発現され、Sox2は、集団中の細胞の80%よりも多く、または90~99%(すなわち、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%)により発現され、Ki-67は、集団中の細胞の30%よりも多く、または40~60%(すなわち、40、41、42、43、44、45、46、46、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、または60%)により発現され(すなわち、正常酸素圧/大気酸素条件下で生育された細胞の60~85%(すなわち、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、または85%)、低酸素条件下で生育された細胞の80~90%(すなわち、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、または90%))、MHCクラスIは、集団中の細胞の70%よりも多く、または90%により発現され、オステオポンチン(OPN)は、集団中の細胞により20ng/106細胞/24時間よりも多い量で発現され、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)は、細胞がベースラインでbFGFを含まなかった担体中に存在する場合には、集団中の細胞によりおおよそ50~300pg/106細胞/時間(すなわち、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255、260、265、270、275、280、285、290、295、または300pg/106細胞/時間)の量で発現され、および/またはFas/CD95は、集団中の細胞の30%よりも多く、または40~70%(すなわち、40、41、42、43、44、45、46、46、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、または70%)により発現される。集団中の細胞は、中脳星状細胞由来神経栄養因子(MANF)(例えば、約0.5~約2.5ng/106細胞/24時間(すなわち、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、または2.5ng/106細胞/24時間)の量で)、色素上皮由来成長因子(PEDF)(例えば、最大約30ng/106細胞/24時間(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30ng/106細胞/24時間)の量で)、プレイオトロフィン(PTN)(例えば、約50~約600pg/106細胞/24時間(例えば、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255、260、265、270、275、280、285、290、295、300、305、310、315、320、325、330、335、340、345、350、355、360、365、370、375、380、385、390、395、400、405、410、415、420、425、430、435、440、445、450、455、460、465、470、475、480、485、490、495、500、505、510、515、520、525、530、535、540、545、550、555、560、565、570、575、580、585、590、595、または600pg/106細胞/24時間)の量で)、および/またはミッドカイン(MDK)(例えば、最大約12ng/106細胞/24時間(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12ng/106細胞/24時間)の量で)をさらに発現してもよい。
【0093】
網膜前駆細胞および細胞集団は、ビメンチン、CD9、CD81、AQP4、CXCR4、CD15/LeXA/SSEA1、GD2ガングリオシド、CD133、β3-チューブリン、MAP2、GFAP、OPN/SPP1、PTN、KDR、および/またはTEKからなる群より選択される1つまたは複数のマーカーを追加で(または代わりに)さらに発現してもよい。GFAPは集団中の細胞の5~10%により発現されてもよい。一部の実施形態では、同種異系生成物の免疫寛容に関係しているMHCクラスIIは、集団中の細胞の1~3%(すなわち、1、2、または3%)によりまたは2%未満により発現されてもよい。CXCR4は、大気酸素条件下で生育された細胞の5~30%(すなわち、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30%)、しかし低酸素条件下で生育された細胞の90%により発現されてもよい。CD15は、集団中の細胞の4~35%(すなわち、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、または35%)、すなわち、大気酸素条件下で生育された細胞の4~8%(すなわち、4、5、6、7、または8%)、低酸素条件下で生育された細胞の15~35%(すなわち、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、または35%)により発現されてもよい。GD2は、集団中の細胞の2~15%(すなわち、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15%)、すなわち、大気酸素条件下で生育された細胞の2~4%(すなわち、2、3、または4%)、低酸素条件下で生育された細胞の15%により発現されてよい。
【0094】
オステオポンチン(OPN)は、本明細書に記載される細胞および細胞集団についての候補効力マーカーである。ELISA結果は、OPNが本明細書に記載される細胞および細胞集団により>20ng/106細胞/24時間の量で発現されることを実証している。
【0095】
別の実施形態では、網膜前駆細胞および細胞集団は、ABCA4、AIPL1、AKT3、APC2、BSN、CCNG2CDHR1、CRX、CD24、クローディン11、CNTF、CNTFR、DACH1、DAPL1、DCX、DLG2および4、DLL4、EPHA7、EYS、FLT1、FSTL5、FZD5、FGF9、10、および14、GADD45G、GRIA2、HES5および6、HEY2、HEYL、HGF、HIF3A、IMPG1および2、JAK2および3、KLF4、MAP6、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、MYCN、Nanog、NBL1、NEFL、NEFM、NEUROD1、NEUROD4、NEUROG1、NEUROG2、NOTCH1、2、および3、NRL、NRCAM、NRSN、NRXN1、2、および3、OCT4、OLIG2、OPN1MW1および2、OPN1SW、OTX2、PAR4、PAX6、PRPH2、RAX1および2、RBP3、RCVRN、RELN、RGR、ロドプシン、RICTOR、RP1、RRH、RXRG、SIX3および6、SOX8、SLC25A27、STAT1、STAT3、SYP、SYT4、WIF1、VSX2、ならびに/またはVSX1および2のうちの1つまたは複数の低い発現、微量発現、陰性発現または減少した発現について特徴付けられるまたはスクリーニングされる。これらのマーカーの発現パターンを使用して、網膜前駆細胞または細胞集団を、起源の組織、例えば、新鮮に単離された網膜組織と区別してもよい。
【0096】
起源の組織と比べてその発現が増加してもよい他のマーカーは、限定せずに、ADM、ANGPT1、ANGPTL2および4、ATP5D、BHLHE40、CCL2、CCNB1、CCND2、およびCCNDE1、CD44、CDKN2A、クローディン1、4、および6、CPA4、CTGF、CXCL12、DKK2、EMP1、FOXC2、FZD6、GADD45B、HES1、HIF1A、HOXB4、IGF1、IGFBP3、5、および7、IL1A、IL1R、IL1RAP、IL4R、IL7R、IL11、IL18、JAG1、LIF、LOX、BDNF、EGF、EGFR、FGF1、2、5、および9、KLF4、5および12、MITF、MMP1、MYC、NCAN、NEFH、NOG、NTF3、NTRK2、NRP1および2、OSMR(IL31RA)、OTX1、PAX8、PDGFA、B、およびC、PLAU、PRRX1、RPE65、SDF-1、SFRP1および4、SIX1および4、SLC25A1、19、および20、TEK/TIE1、THBS1および2、TLR4、VEGFA、VEGFC WNT5A、ならびに/またはWNT7Bを含む。
【0097】
網膜前駆細胞および細胞集団は、脳前駆細胞および神経幹細胞のような他の中枢神経系前駆細胞型、ならびに脳および脊髄などの胎児CNS組織に由来してもよい他の細胞と区別される。他のCNS前駆細胞に比べて増加してもよいマーカーは、限定せずに、ARR3(アレスチンC)、CDF10、CDKN2A、CTGF、CXCL12/SDF1、BHLHE41、BMP2、DKK1、EGFR、EPHB2、FN1、FOSL1および2、FOXD1、GABBR1、GAS1および6、GBX2、HHEX、HOXB2、IGFBPSおよび7、INHBA、JAG1、KDR、KLF10LHX9、LHX2、LIF、MET、NEUROD1、NTF3、NTRK2、OPTN(オプチニューリン)、RCVRN、SAG(S-アレスチン)、SERPINF1(PEDF)、SFRP1、SOX3、TBX3、TGFB、WIF、WNT5A、ならびに/またはWNT5Bを含む。他のCNS前駆細胞に比べて減少してもよいマーカーは、限定せずに、AQP4、ASLL1、CLDN11、CDKN1B、CCL2、CCNG2、CXCR4(SDF1受容体)、DCX、DLX2および5、EMX2、EPHA3、4、および7、FABP7、FOXG1、GRIA1、2、および3、HGF、IL2、KLF4、LIFR、MNX1、NGF、NKX2-2、NOTCH1、NPY、NPY2R、OLIG2、OMG、PBX1、PDGFRA、RTN1、SCGN、SOX11、TFAP2B、TNFRSF21、ならびに/またはWNT7Aを含む。
【0098】
ドナー細胞は、細胞を変更することを回避するために抗生物質なしで培養することが可能である。さらに、不顕性の微生物混入を排除することが可能なので、抗生物質なしで、継代数の非常に低い細胞の使用が可能である。好ましくは、継代数の低い細胞の使用は、形質転換および/または腫瘍形成のリスクが低い。さらに、継代数の低い細胞の使用は、発生中の網膜に存在する天然の細胞に非常に近い。
【0099】
RPCの生育および培養にはいかなる適切な基本培地でも使用可能である。細胞培養は、制御された条件下で、一般にはその天然の環境の外側で細胞が生育される過程を記載する。細胞集団は、当技術分野で公知のいかなる細胞培養培地においても生育するまたは培養することが可能である。代わりの実施形態では、用語「基本培地」とは、細胞成長を支援することが可能な任意の培地をいう。基本培地は、亜鉛、鉄、マグネシウム、カルシウム、およびカリウムなどの標準無機塩、ビタミン、グルコース、緩衝系、ならびに重要なアミノ酸を提供する。本発明において使用可能な基本培地は、培地199、CMRL 1415、CMRL 1969、CMRL 1066、NCTC 135、MB 75261、MAB 8713、DM 145、Williams’G、Neuman & Tytell、Higuchi、MCDB 301、MCDB 202、MCDB 501、MCDB 401、MCDB 411、MDBC 153、およびUltracultureを含む、数多くの他の培地の中でも、最小必須培地イーグル、ADC-1、LPM(ウシ血清アルブミン不含)、F10(Ham)、F12(Ham)、DCCM1、DCCM2、RPMI 1640、BGJ培地(Fitton-Jackson Modification有および無)、基本培地イーグル(BME-アール塩ベースの添加有)、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM-血清なし)、Yamane、IMEM-20、グラスゴー改変イーグル培地(GMEM)、ライボビッツL-15培地、McCoy’s 5A培地、培地M199(M199E-アール塩ベース含有)、培地M199(M199H-ハンクス塩ベース有)、最小必須培地イーグル(MEM-E-アール塩ベース含有)、最小必須培地イーグル(MEM-H-ハンクス塩ベース含有)および最小必須培地イーグル(MEM-NAA 非必須アミノ酸含有)を含むがこれらに限定されない。本明細書で開示される網膜前駆細胞を培養するのに使用するための好ましい培地は、Advanced DMEM/F12およびUltracultureである。これらの培地のいくつかは、Methods in Enzymology、LVIII巻、「Cell Culture」、62~72頁に要約されている。
【0100】
代わりの実施形態では、「条件培地」とは、基礎または基本培地と比べた場合、変更されている培地をいう。例えば、培地の条件付けは、栄養分および/または成長因子などの分子を、基本培地に見出される最初のレベルに加えるまたはそれから枯渇させてもよい。培地は、ある特定の条件下である特定の期間ある特定の型の細胞を培地で生育または維持させることにより条件付けることが可能である。例えば、培地は、規定組成の培地において規定温度で規定時間数の間、網膜前駆細胞を拡大増殖させる、分化させるまたは維持することにより条件付けることが可能である。当業者であれば認識するように、細胞、培地タイプ、持続期間および環境条件の数多くの組み合わせを使用すれば、ほぼ無限に多様な条件培地を作り出すことが可能である。
【0101】
細胞培養補足物または添加剤の例は、限定せずに、細胞生存または成長を支援する血清の役割に部分的にまたは全面的に取って代わる成分を含む。例えば、補足物は、インスリン、トランス金属タンパク質、微量元素、ビタミン、または他の因子を含んでいてもよい。これらの因子は、一般に、基本培地には含まれないが、一般に細胞を培養する際に使用される血清により提供される。補足物または添加剤は、細胞成長を支援する以下の成分:1つまたは複数のインスリンまたはその代替物、1つまたは複数のトランス金属タンパク質またはその代替物、1つまたは複数の微量元素(例えば、セレン、鉄、亜鉛、銅、コバルト、クロム、ヨウ素、フッ化物、マンガン、モリブデン、バナジウム、ニッケル、スズ)、1つまたは複数のビタミン(例えば、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンA、ビタミンB群)、1つまたは複数の塩(例えば、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、またはリン酸塩)、1つまたは複数の緩衝液(例えば、リン酸緩衝食塩水、HEPES緩衝液)、1つまたは複数のアミノ酸(例えば、L-グルタミン)、1つまたは複数のホルモン、ホルモン様化合物または成長因子(例えば、トランスフェリン、EGF、NGF、ECGF、PDGF、FGF、IGF、LIF、インターロイキン、インターフェロン、TGF、および/またはVEGF、グルカゴン、副腎皮質ステロイド、バソプレシン、プロスタグランジンなど)、血清アルブミンまたはその代替物、1つまたは複数の炭水化物(グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、リボース、解糖代謝物)、1つまたは複数の抗生物質および/または抗真菌剤(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、ファンギゾン)、ならびに1つまたは複数の脂質(例えば、遊離のおよびタンパク質結合脂肪酸、トリグリセリド、リン脂質、コレステロール、エタノールアミン)のうちの少なくとも1つまたは複数を含んでいてもよい。KnockOut血清代替物(KOSR)、N2、B27、StemPro(商標)、インスリン-トランスフェリン-セレン補足物(ITS)、およびG5などの多くの商品化された血清代替添加物が周知であり、当業者には容易に入手可能である。これらの添加剤は、十分に規定された成分を特徴とするので、その構成成分の濃度は培地中のその割合に基づいて決定することが可能である。
【0102】
非限定的例として、細胞および/または小さな細胞塊は、無血清培地または血清含有培地を含有し、ならびに抗生物質および抗真菌剤を含有するまたは抗生物質も抗真菌剤も含有しない無菌環境において、約1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10以下のまたはそれよりも多い継代にわたり培養される。細胞および/または小さな細胞塊は、基本培養培地(例えば、ダルベッコ変法イーグル培地:Nutrient Mixture F-12(商標)(DMEM/F12(商標))培地またはADVANCED DMEM/F12(商標)培地(Gibco-Invitrogen-Life Technologies、Carlsbad Calif.))またはULTRACULTURE(商標)培地(BioWhittaker-Lonza Walkersville,Inc.、Walkersville、Md.)において、必要に応じて、N2補足物(Invitrogen)またはB27もしくはB27異種成分不含(Invitrogen)、L-グルタミンもしくはGlutaMax(商標)(Invitrogen)、ならびに、例えば、EGFもしくはbFGF(Invitrogen)を含むヒト組換え成長因子、または他の成長因子と一緒に培養される。例えば、DMEM/F12(商標)培地はヒト細胞に使用され、ULTRACULTURE(商標)培地はネコまたはイヌ細胞に使用される。
【0103】
代わりの実施形態では、さらに(または、代わりに)ビタミンCを培養培地に含むことができる。例えば、約0.1mg/mlもしくは0.05mg/ml、または約0.01mg/ml~約0.5mg/ml(例えば、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.20、0.21、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29、0.30、0.31、0.32、0.33、0.34、0.35、0.36、0.37、0.38、0.39、0.40、0.41、0.42、0.43、0.44、0.45、0.46、0.47、0.48、0.49、または0.5mg/ml)を1または2日ごとに交換される培養培地に含むことができる。
【0104】
培養培地には、必要に応じて、アルブミン、またはヒトもしくはネコもしくはイヌアルブミン、または組換えアルブミン、またはアルブミンが追加補充されてもよい。非限定的例として、アルブミンは、約1.0mg/mlの初期濃度を有する量で添加することができる。
【0105】
哺乳動物網膜前駆細胞の培養物は、低減した血清を含有するまたは血清を含有しない培地で製造することができる。血清の例は、とりわけ、胎仔ウシ血清、子牛血清、ウシ新生仔血清、ヤギ血清、ウマ血清、ヒト血清、ウサギ血清、ラット血清、マウス血清を含む。ある特定の培養条件下では、血清濃度は、約0.05%v/v~約20%v/v(例えば、0.05、0.10、0.15、0.20、0.25、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50、0.55、0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、1、1.5、2、2.5、3、3.5、5、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、15、15.5、16、16.5、17、17.5、18、18.5、19、19.5、または20%)に及ぶことが可能である。例えば、一部の分化過程では、培地の血清濃度は、約0.05%(v/v)未満、約0.1%(v/v)未満、約0.2%(v/v)未満、約0.3%(v/v)未満、約0.4%(v/v)未満、約0.5%(v/v)未満、約0.6%(v/v)未満、約0.7%(v/v)未満、約0.8%(v/v)未満、約0.9%(v/v)未満、約1%(v/v)未満、約2%(v/v)未満、約3%(v/v)未満、約4%(v/v)未満、約5%(v/v)未満、約6%(v/v)未満、約7%(v/v)未満、約8%(v/v)未満、約9%(v/v)未満、約10%(v/v)未満、約15%(v/v)未満または約20%(v/v)未満が可能である。一部の実施形態では、網膜前駆細胞および網膜前駆細胞を含む細胞集団は血清なしで(「無血清」)、血清代替物なしでおよび/またはいかなる補足物もなしで生育される。
【0106】
代わりの実施形態では、網膜前駆細胞または網膜前駆細胞を含む細胞集団は、「異種成分不含」条件下で培養される。「異種成分不含」または「異種不含(xenogen-free)」とは、ある特定種の細胞(例えば、ヒト細胞)が、ヒト産物または補足物(例えば、ヒト血清アルブミン、ヒト血清)の存在下でのみ生育されるまたは培養されるが、他の種由来の産物の存在下では生育も培養もされない条件をいう。これは、ヒト中への移植のために使用される細胞には特に重要である。種々の規定されていない動物由来産物に曝露された細胞は、移植片拒絶、免疫反応、およびウイルスまたは細菌感染、プリオン、ならびにまだ同定されていない人畜共通感染症というリスクの増加のせいで、臨床適用に望ましくなくなる。さらに、ヒト使用または非ヒト哺乳動物使用(例えば、獣医学的使用)を含むすべての哺乳動物使用では、細胞は、正常核型または例えば、マイコプラズマ、グラム陰性菌(例えば、エンドドキシンテスト)、真菌、等による感染もしくは汚染の存在についてスクリーニングされる。細胞は、テロメラーゼ活性アッセイ、hTERT遺伝子発現、および軟寒天中での成長またはヌードマウスにおける腫瘍形成により腫瘍原性またはがん性表現型への形質転換についてもスクリーニングしてもよい。そのようなアッセイは、当技術分野では公知であり、十分当業者の視野の範囲内にある。
【0107】
網膜前駆細胞または網膜前駆細胞を含む細胞集団は、フィーダー細胞層(例えば、胚性または成人線維芽細胞)上で、または、コラーゲン、エンタクチン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、フィブロネクチン、ラミニン、ゼラチン、もしくはマトリゲルなどの細胞外マトリクススキャフォールドもしくは基材の存在下で培養してもよい。例えば、PURECOL(登録商標)コラーゲンは、純度(>99.9%コラーゲン含有量)、機能性についてすべてのコラーゲンの標準、および入手可能な最も天然様のコラーゲンとして公知である。PURECOL(登録商標)コラーゲンは、おおよそ97%I型コラーゲンであり、残りはIII型コラーゲンで構成され、表面のコーティングに、細胞を培養するための薄層を調製するのに、または固体ゲルとしての使用に理想的である。当技術分野で公知のスキャフォールドまたは基材の別の例は、CELLstart(商標)(Invitrogen)である。
【0108】
一部の実施形態では、細胞培養条件は、37℃、5%CO2に設定されたインキュベーターにおける細胞の成長を含むことが可能である。網膜前駆細胞または網膜前駆細胞を含む細胞集団は、正常酸素圧または大気(20%)下で培養してもよく、妊娠期間の発生中の胎児網膜の酸素レベルに近似する条件、すなわち、「低」または「低酸素」条件、例えば、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%、または10%酸素、またはその中間の任意の増分下で生育することが可能である。
【0109】
代わりの実施形態では、プレーティング密度とは、培養培地の体積あたりの細胞の数または付着培養におけるcm2あたりの細胞の数をいう。この文脈での類似する用語は「コンフルエンス」であり、これは細胞培養皿またはフラスコでの細胞数の尺度として一般に使用され、細胞による皿またはフラスコの被覆度をいう。例えば、100パーセントコンフルエンシーは、皿が細胞で完全に覆われており、したがって、細胞が成長する余地がもう残されていないことを意味し、50パーセントコンフルエンシーは、皿のほぼ半分が覆われており細胞が成長する余地がまだあることを意味する。
【0110】
継代(継代培養または細胞を分割することとしても公知である)は、少数の細胞を新しい容器に移すことを含む。細胞は一定の間隔で分割されればより長い時間培養することが可能である。なぜならば、それによって長期の高細胞密度に関連する老化が回避されるからである。懸濁培養物は容易に継代され、少数の細胞を含有する少量の培養物が、より大きな体積の新鮮な培地に希釈される。付着培養では、細胞は先ず剥離される必要がある。これは一般に、トリプシン-EDTAなどの酵素の混合物またはCell Dissociation Bufferのような非酵素溶液で行われるが、種々の酵素または非酵素混合物もしくは調製物がこの目的に利用可能である。次に、少数の剥離された細胞を使用して新しい培養物を播種することが可能である。
【0111】
大半の初代細胞培養物は寿命が限られており、無期限には増殖しない。ある特定数の集団倍加(ヘイフリックの限界と呼ばれる)後、細胞は老化の過程を経て、一般に生存度を保持しつつ分裂を停止する。一部の実施形態では、網膜前駆細胞および細胞集団は、10継代以下にわたり培養され得、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10継代、継代される。一部の実施形態では、RPCは標準酸素条件下で約4~6(例えば、4、5、または6)回継代され、必要に応じて、引き続いて低酸素条件下で約1~10(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)継代にわたり培養される。
【0112】
代わりの実施形態では、細胞は、例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれよりも多い継代などの5回よりも多く、(標準酸素条件で、低酸素条件で、および/またはその任意の組み合わせで)継代することが可能である。ある特定の実施形態では、網膜前駆細胞および細胞集団は、約5~32(例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31または32)継代にわたり培養される。当業者であれば、当技術分野で公知の他の方法を使用して細胞を32継代よりも多く(例えば、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50またはそれよりも多い継代)にわたり培養してもよいことを認識する。
【0113】
種々の実施形態では、細胞の試料は、病原体、細菌、エンドトキシン、真菌、マイコプラズマ、ウイルス、肝炎ウイルスまたはHIVウイルスの存在についてスクリーニングされる。細胞の試料は、正常な核型、生存度、および/または腫瘍原性の存在についてもスクリーニングされ得る。必要に応じて、細胞の試料は上昇したテロメラーゼ活性を示さない。
【0114】
本明細書に提供されるこれらの方法のいずれにおいても、網膜細胞および/または網膜組織は、単離、選択、および/または培養前またはその後で凍結することが可能である。細胞凍結は、任意の冷凍保存剤および/または当技術分野で一般に使用される技法を使用して達成することが可能である。凍結細胞は、当技術分野で公知の任意のプロトコルを使用して、使用に先立って解凍することが可能である。
【0115】
細胞の生存度は、その使用に先立って本明細書に記載される方法のいずれかにおいて試験することが可能である。非限定的例として、冷凍保存に先立って、細胞の好ましくは少なくとも70%(すなわち、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%)は生存可能である。解凍に続いて、細胞の好ましくは少なくとも70%(すなわち、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%)は生存可能である。同様に、細胞培養物の回収の際に、細胞の好ましくは少なくとも70%(すなわち、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%)は生存可能である。任意の段階での生存可能細胞の数の決定は、当技術分野の慣用的なレベルの範囲内である。
【0116】
ある特定の実施形態では、最終産物製剤は、氷上に(すなわち、0~4℃で)保管された場合、4時間までまたはそれよりも長い時間(例えば、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、またはそれよりも長い)にわたり最適生存度(すなわち、少なくとも85%)を保持することが示されている。これが、今度は、細胞調製物の地域の臨床部位への局所的輸送を可能にする。
【0117】
低酸素条件下での細胞のさらなる拡大増殖を使用すれば、供与あたりの細胞収量を大いに増強することが可能である。例えば、一部の実施形態では、細胞は全部で5~12(すなわち、5、6、7、8、9、10、11または12)またはそれよりも多い回数継代してもよい。非限定的例として、一実施形態では、これは、標準酸素条件での4~6継代(すなわち、4、5、または6)後に行う3~6継代(すなわち、3、4、5、または6)の二次低酸素拡大増殖を含んでいてもよい。しかし、当業者であれば、全継代数は約1~32またはそれよりも多い継代(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32またはそれよりも多い)でもよいことは認識し、これは1~20またはそれよりも多い継代(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、もしくは20、またはそれよりも多い)の二次低酸素拡大増殖を含んでいてもよい。全継代の適切な数ならびに低酸素継代の数の決定は、当技術分野の慣用的なレベルの範囲内である。この二次低酸素培養継代の使用は、GMP hRPC(標準酸素条件下で培養することによって引き出されるものなど)の作業バンクからの収量を大いに拡大する。例えば、標準正常酸素バンク由来の細胞は、解凍して、低酸素条件下で追加の1~20(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20)継代にわたりさらに拡大増殖することが可能である。
【0118】
より少ない低酸素細胞継代の使用が可能であるが、得られる収量はおそらくより低くなると考えられる。さらに、より多くの低酸素細胞継代を使用することも可能であるが、これは、得られる産物が潜在的な表現型の変動のせいで欠点があり、有効性を失っておよび/または望ましくない遺伝子異常が蓄積するというリスクが潜在的に増加すると考えられる。
【0119】
二次低酸素培養継代に続いて、一部の実施形態では、網膜前駆細胞は、1時間~最大5日間(すなわち、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、36、48、60、72、84、96、108、または120時間)の短期間にわたり標準酸素条件下で成長させる「回復期」を経る。代わりの実施形態では、この回復期の間、細胞はいかなるさらなる継代も受けないで成長させる。
【0120】
したがって、一非限定的例では、本明細書に記載される組成物および方法のいずれかにおいて使用するための網膜前駆細胞は、(a)標準酸素条件下で数継代の間、培養すること、続いて(b)低酸素条件下で数継代の間、培養すること、必要に応じて続いて(c)標準酸素条件下で、さらに継代することなく設定期間の間、培養することを含む、「ハイブリッド」アプローチを使用して製造してもよい。標準酸素条件および/または低酸素条件下での適切な継代数ならびに回復期の適切な持続期間の決定は、当技術分野の慣用的なレベルの範囲内である。
【0121】
この新しい培養方法論を使用して製造され得られる細胞産物は、in vitroでおよび動物において試験され、二次低酸素培養を受けなかった細胞産物を用いた結果に類似する結果が観察された。
【0122】
当業者であれば、この二次低酸素成分を全過程に追加すれば、最初の解体およびプレーティングなどの複雑な手順は必要ではなくなり、行われる継代は強力に増殖している細胞を用いて全く標準化されるという点で自動製造法を導くことを認識する。
【0123】
RPCはさらに、既存のRPCの誘導多能性幹細胞(iPS)転換を通じて作製され、続いてより原始的で増殖性の状態で拡大増殖させることが可能である。次に、iPSは、当技術分野で公知の任意の方法(複数可)を使用して再分化させてRPCに戻すことが可能である。このシナリオでは、RPCとして与えられる以前の後成的インプリンティングは、細胞に再指示してその元の状態に戻し、それによってRPC収量を増やすおよび/または高収量同種異系生成物の安全性を促進する(すなわち、多能性細胞での汚染を回避することにより)一助となる。この拡大増殖方法論は、繰り返して胎児組織を調達する必要なしで、臨床的に証明されたRPC試料に由来する、RPCの非常に大きな潜在的に無限の(老化しない)供給源を提供することができると考えられる。
【0124】
RPCはさらに、上記のように、RPCに由来する1つのそのような株、またはそうではない、多能性細胞株から製造することが可能である。そのような誘導は、原始的な網膜構造体、すなわち、そこからRPCを収穫する、精製する、およびさらに拡大増殖することができる眼杯誘導体、を含有する「胚様体」への部分的分化を含むことができると考えられる。
【0125】
代わりに実施形態では、類似する方法は、iPSのためのドナー細胞が毛様体上皮からまたは虹彩から得られる自家細胞を使用して実施することが可能である。なぜならば、これらの組織は両方が外科医にとり到達可能であり、網膜と重複する(全く同じではないが)発生インプリンティングを有するからである。
【0126】
RPCの投与および処置方法
網膜疾患に罹った患者の処置のために、細胞懸濁物として調製され同種異系移植片として使用される培養された網膜前駆細胞の方法および使用も本明細書で提供される。例えば、未成熟哺乳動物由来の培養された不均一細胞集団、例えば、ヒト網膜の使用を含むまたはそれからなる細胞ベースの療法が本明細書で提供される。
【0127】
本明細書に記載される細胞集団および関連する組成物は、種々の異なる手段により被験体または患者に提供してもよい。非限定的例として、それらは、局所的に、例えば、実際のまたは潜在的な損傷または疾患の部位に提供することが可能である。一部の実施形態では、それらは、潜在的なまたは実際の損傷または疾患の部位に組成物を注射する注射器または針を使用して提供される。他の実施形態では、それらは、全身的に提供される、すなわち、血流の静脈内にまたは動脈内に投与される。特定の投与経路は、大部分、処置されているまたは予防されている疾患または損傷の位置および性質に依存することになる。したがって、代わりの実施形態では、本明細書に記載される方法は、眼内、経口、非経口、静脈内、動脈内、鼻腔内、および筋肉内投与を含むがこれらに限定されない任意の公知の利用可能な方法または経路を介して細胞集団または組成物を提供することを含む。
【0128】
適切な投与量および処置レジメンの決定は、概して当技術分野で公知の医師が入手する情報に基づいて容易に達成し得る。
【0129】
非限定的例として、代わりの実施形態では、細胞用量は、約30万~約50万細胞(例えば、30万、31万、32万、33万、34万、35万、36万、37万、38万、39万、40万、41万、42万、43万、44万、45万、46万、47万、48万、49万または50万細胞)または50万~300万細胞(例えば、50万、60万、70万、80万、90万、100万、110万、120万、130万、140万、150万、160万、170万、180万、190万、200万、210万、220万、230万、240万、250万、260万、270万、280万、290万、または300万細胞)でもよい。
【0130】
両方の用量範囲間で観察される有効性結果は大体類似している。しかし、患者の目が弱まった毛様小帯を有する場合、用量が多くなるにしたがって(例えば、200万~300万細胞)細胞が視線に存続し、水晶体後嚢に固着し、および/または前眼房(偽前房蓄膿)に入るリスクが増える可能性がある。さらに、当業者であれば、移植片生着の持続期間が用量、したがって、元の移植片サイズと比例する可能性があることは認識している。
【0131】
硝子体腔における同種異系hRPCの投薬頻度が重要になる。種々の実施形態では、その次の用量(すなわち、「再投薬(redose)」)は患者の同じ眼にまたは他眼に行うことが可能である。両方の動物モデルならびに何人かの患者で他眼に再投薬することがその後の免疫性後遺症なしで実施されており、それによって、再投薬が両側的に良好な耐容性を示すことを示唆している(および、動物において3回まで実施されたように、おそらく、同じ眼で)。
【0132】
移植片はRPに罹った患者において1年間またはそれよりも長く生存することが可能である。しかし、移植片はおおよそ1~1.5年後には硝子体から姿を消す傾向があるので、これにより、おおよそ1から2年の時間枠内での再投薬はそれほど攻撃的ではない可能性があり、実際、大多数の症例で将来の基準になりうることが示唆される。
【0133】
本明細書で開示される方法のいずれにおいても、処置は単一処置または複数(例えば、2、3、4、5、6、7、8、または9またはそれよりも多い)処置を含んでいてもよい。予防目的では、ある特定の実施形態で、精製された細胞集団が潜在的に網膜損傷を引き起こす可能性のあるストレスに続いて投与されることが想定されている。
【0134】
一実施形態では、細胞集団および組成物は、被験体の硝子体腔または網膜下腔への単回注射として局所的に投与されてもよい。
【0135】
本明細書に記載される組成物および方法はいかなる特定の作用機序によっても限定されないが、例示的な作用機序は拡散性および/または栄養性である。証拠は、瀕死の状態にある宿主錐体の栄養に関する再プログラミングが起こり、アポトーシス軌道から光処理能力の再生へ変換するという考え方と一致している。これは直接的でも間接的でも可能である。他の眼組織の関与も排除されない。この機序は、硝子体または網膜下腔での胎児神経網膜細胞の不均一混合物の移植片の設置を可能にする。
【0136】
代わりの実施形態では、硝子体設置は拡散ベースの処置効果を増強する。この機序は、胎児神経網膜細胞の不均一混合物の移植片が視線の外に置かれるが、それでも患者の黄斑を処置することを可能にすることができる。さらに、この例示的処置により世界中の困窮している患者にとって利用可能性が増え得るので、処置を大幅に単純化するために硝子体設置が使用される。さらに、硝子体設置は、脈管構造まで離れていることにより免疫寛容を助けてもよい。当業者であれば、硝子体設置は、網膜下手術の潜在的合併症を回避する、全身麻酔のリスクを回避する、網膜に穴(網膜切開)を開けること(これは網膜剥離、出血のリスクを高める)を必要としない、および/または患者の網膜が焦点性剥離を受けることを必要としない(焦点性剥離は光受容体損傷または喪失、網膜裂孔、出血、全体的網膜剥離をもたらすことがあり、ならびに、RPでは、薄い、萎縮性の、および粘着性の網膜の剥離は困難な/リスクのある手順である)ことを認識している。
【0137】
一部の実施形態では、細胞は適切な針サイズおよび長さを使用して硝子体腔に設置される。代わりの実施形態では、注射器は、送達効率を増強し注射器中での貯留に起因する産物の喪失を回避するために、最小(すなわち、1マイクロリットル)デッドスペースを有する。短い針(例えば、5/16インチ長を有する31G(ゲージ)または1/2インチ長を有する30G)を使用すれば、最大の利便性(すなわち、臨床または診察室状況における使用のための適合性)が可能になる。しかし、より長い針の長さ(例えば、5/8インチ長を有する27Gまたは25G)を使用すれば、黄斑により近い、硝子体のさらに後ろ(後側)での最適設置(手術鏡(operating scope)下で使用される)が可能になる。適切な針サイズおよび長さの決定は、当技術分野の慣用的なレベル内である。適切な針サイズおよび長さを選択する際には、細胞生存度が、細胞が針内を通過した後、依然として必須の閾値より上であることが重要である。
【0138】
代わりの実施形態では、細胞の設置は前部硝子体内であり、これは簡単で最大の安全性および利便性を可能にする。これとは対照的に、代わりの実施形態では、設置は後部硝子体(後極近く)においてであり、これは網膜の貫通性損傷を回避するために針先端の直接可視化が必要となる。しかし、これは全体的処置効果を増強することがあり、最適設置および有効性を表す場合がある。
【0139】
網膜細胞交換は可能であるが、臨床上の有効性のためには必要ではない。同様に、網膜中へのドナー細胞移動は可能であるが、臨床上の有効性には必要ではない;網膜回路網でのドナー細胞の組み込みは可能であるが、有効性には必要ではない;宿主網膜の外顆粒層/黄斑中へのドナー細胞の組み込みは可能であるが、有効性には必要ではない;および/または網膜中へのドナー細胞の組み込みは可能であるが、持続性の移植片生着には必要ではない。
【0140】
一部の実施形態では、RPC細胞は硝子体腔に注射することが可能であり、そこでは、必要に応じて、硝子体切除術も網膜下手術も必要ではない。しかし、一部の実施形態は、硝子体ゲルを取り除き注入された細胞の後部硝子体(例えば、眼の後極に近接している最適位置)への移動性および透過を最適化するために、硝子体切除術、中心部硝子体切除術、および/または硝子体溶解薬の1つまたは複数の必要に応じた使用を含んでいてもよい。一部の場合では、外科的硝子体切除の使用は眼において細胞の設置を増強しうる。
【0141】
細胞は網膜下腔中にも移植する(例えば、注射する)ことが可能である、または任意の標準眼内注射手順を使用して、例えば、皮下組織または角度付挿入経路を使用して眼中に移植する(例えば、注射する)ことが可能である。一部の実施形態では、網膜切開も眼内ガスもシリコンオイルも必要ではない。
【0142】
代わりに、前房穿刺術は、当業者によって決定される場合、状況により、必要に応じて実施することが可能である。一部の実施形態では、手順中および/またはその後、眼球の縫合は必要ではない。
【0143】
本明細書で開示される方法のいずれでも、被験体の全身免疫抑制を必要とせずに、表面麻酔下で直接硝子体腔に組成物を投与するステップを含んでいてもよい。さらに、移植片の組織適合試験および患者または被験体へのマッチングは必要ではないが、望むのであれば、例えば、当業者には公知である任意の組織適合試験およびマッチング技法を使用して実施してもよい。
【0144】
言及されるように、本明細書に記載される方法のいずれにおいても、代わりの実施形態では、表面麻酔のみが使用され、例えば、局所麻酔(local anesthesia)、局部麻酔(regional anesthesia)、全身麻酔は使用されない。しかし、一部の場合、局所麻酔、局部麻酔、または全身麻酔はさらにまたは代わりに投与中に使用してもよい。本明細書で開示される方法において使用するのに適した適切な局所麻酔の例は、限定せずに、メプリカイン(mepricaine)、プロパラカイン、プリロカイン、ロピバカイン、ベンゾカイン、ブピバカイン、ピクリン酸ブタンベン、クロルプロカイン、コカイン、ジブカイン、ジメチソキン、ジクロニン、エチドカイン、ヘキシルカイン、ケタミン、リドカイン、メピバカイン、プラモキシン、プロカイン、テトラカイン、サリチレートおよびその誘導体、エステル、塩ならびにその混合物を含む。
【0145】
ある特定の実施形態では、抗炎症および/または免疫抑制(すなわち、全身免疫抑制)は必要ではない。さらに、臨床経験によれば、一部の場合、移植片生着を何ヶ月にもわたって、例えば、1年を含むおよび超えて見ることが可能なので、何も必要ではないことが支持される。
【0146】
しかし、必要であれば、術後点滴薬としての抗炎症および/または免疫抑制療法を含むことが可能である。例えば、患者は、投与は1週間かけて徐々に減少しながら、または、代わりに、いつまでも続く処置後炎症の証拠が臨床的に示された場合には、最大2週間後に、局所ステロイド目薬を用いて注射後処置を受けてもよい。
【0147】
代わりの実施形態では、義務的床上安静、術後および/または「腹臥」位の必要性はない。これらの方法は、外来手順として実施することが可能であり、おそらく、いかなる一晩入院も必要ではない。
【0148】
一部の実施形態では、投与中、視覚のために網膜の最も重要な部分である、眼の後極に向かう、硝子体ゲル内での注入された細胞の沈降を最大限にするために、患者の頭部は、もたれ掛った座位からできる限り水平近くまで後ろに傾けられる。患者が我慢するおおよそ30分間またはそれよりも長くこの姿勢を患者は維持するべきである。さらに、投与に続いて、患者は家庭でも仰向けになって、上を見て時間を過ごすべきである。
【0149】
代わりの実施形態では、本明細書に記載され、胎児神経網膜細胞(例えば、胎児網膜前駆細胞)の不均一混合物を含むまたは使用する組成物および方法のいずれでも、網膜疾患または状態、例えば、アッシャー病、網膜色素変性(RP)、変性網膜疾患、加齢黄斑変性(AMD)、ウェット型AMDもしくはドライ型AMD、地図状萎縮、網膜光受容体疾患、糖尿病性網膜症、類嚢胞黄斑浮腫、ぶどう膜炎、網膜剥離、網膜損傷、黄斑円孔、黄斑毛細血管拡張症、外傷性もしくは医原性網膜損傷、神経節細胞もしくは視神経細胞疾患、緑内障もしくは視神経症、未熟児網膜症、網膜血管閉塞、もしくは虚血性視神経症などの虚血性網膜疾患の症状を処置する、好転させる、低減する、その進行を遅くする、もしくは予防する;または明所(昼光)視を改善する;または矯正視力を改善するために;または黄斑機能を改善する;または視野を改善する;または暗所(夜)視を改善するために使用される。
【0150】
同様に、代わりの実施形態では、本明細書に記載される組成物または方法のいずれかを使用すれば、迅速効果、最高矯正視力の増加、黄斑機能の改善、および/または中心固視を保存するまたは回復する可能性を提供することが可能である。
【0151】
代わりの実施形態では、本明細書で開示される組成物および方法のいずれかを使用するまたは実施すれば、種々の全身的な利益、例えば、おそらく、身体上の改善のおかげで処置を受けた個人の外見の変化が得られるが、こうした利益は、概日リズム、下垂体機能、ホルモンの放出、血管緊張、等に対する光の効果;視覚能力の改善された間隔;歩行の自立の改善;改善された幸福感;および/または日常生活活動の改善に関係し得る。
【0152】
好ましくは、本明細書で開示される組成物および方法のいずれかを使用するまたは実施しても、望ましくない細胞成長、例えば、腫瘍の発生;感染、例えば、いかなる眼内手順についてもあるリスクである眼内炎がない;疾患の伝染(しかし、プリオンまたは狂牛病は排除するのが困難な場合がある);ぶどう膜炎および/もしくは急性移植片拒絶反応;眼圧の上昇;隅角閉鎖;低眼圧;網膜剥離;ならびに/または血管新生は生じない。
【0153】
代わりの実施形態では、本明細書に記載される使用および方法は、明所(昼光)視の改善、最高矯正視力の増加、黄斑機能の改善、中心固視の保存または回復、視野の改善、暗所(夜)視の改善、音に対する感受性の増加または改善、および反対側の目の視力の改善を含むがこれらに限定されない哺乳動物(例えば、ヒト)被験体における網膜の臨床的に有意な程度の視覚機能を迅速で持続的に回復するおよび/または保存することが可能である。他の変化は、種々の全身的な利益、例えば、身体上の改善に起因する外見の変化を含んでもよく、こうした利益は、概日リズム、下垂体機能、ホルモンの放出、血管緊張に対する光の効果;視覚能力の改善された間隔;歩行の自立の改善;改善された幸福感;および/または日常生活活動の改善に関係しているはずである。視覚のそのような変化は当技術分野で公知の方法により測定可能である。
【0154】
視覚効果は急速でもよく、処置後1週間以内に生じてもよいが、より長い時期にわたってますます増加する効果として生じてもよい。網膜細胞交換および/または網膜、網膜回路、または外顆粒層もしくは黄斑中へのドナー細胞移動が生じてもよいが、臨床上の有効性に必要ではなく;網膜中へのドナー細胞移動は可能であるが、臨床上の有効性に必要ではない。
【0155】
本明細書に開示される網膜前駆細胞組成物を用いた処置から生じる視覚の改善を含む、視覚の変化を測定することは、眼底検査、最高矯正視力(BCVA)、IOP、細隙灯顕微鏡検査、蛍光眼底撮影(FA)、光干渉断層撮影(OCT)、立体眼底写真術(stereo-fundus photography)、網膜電図検査(ERG)、錐体フリッカー網膜電図検査、視野測定(視野)、マイクロペリメトリー(microperimetry)、暗順応、迷路通り抜けスキル(maze negotiating skill)、視動性/視運動反応、瞳孔反応、視覚誘発電位(VIP)、および補償光学適用走査型レーザー検眼鏡(adaptive optics scanning laser ophthalmoscopy)(AOSLO)を含むがこれらに限定されない標準眼科検査技法を使用して達成することが可能である。
【0156】
in vivo動物データにより、硝子体内RPCが、ミューラー細胞(網膜変性における増強された活性化および/またはグルタミン合成酵素(GS)の局所発現の増加);糖尿病性網膜症における血管区画(より少ない血管透過性(漏出)および/または減少した網膜内VEGFレベルに基づくより少ない虚血);網膜変性におけるマクロファージの動員の増強;網膜変性におけるbFGF(神経栄養因子)の局所的発現の増加;カスパーゼ3の発現の減少(より少ない網膜細胞死を示す)を含むがこれに限定されない、罹患した網膜における複数の細胞型に影響を及ぼす手段であることも示唆されてきた。したがって、RPCの投与はまた、一定範囲の他の網膜疾患、障害、および状態にも有用であり得る。
【0157】
さらに、注射していない他眼における有効性の徴候という点でクロスオーバー処置効果の予備的証拠が観察されてきた。具体的には、これはRCSラットにおいて(光受容体の組織学的救済ならびにERG記録)および患者の部分集合(視力検査)においても見られ、この予備的証拠は、注射された眼の境界を越えて広がることが可能である「体液性」処置効果の証拠であると思われる。この効果は、血液循環、免疫調節、またはその両方を通じたサイトカインおよび/またはエキソソームの拡散の結果である可能性がある。
【0158】
同様に、動物でのin vivoデータによれば、オステオポンチンタンパク質(OPN)単独の単回硝子体内注射は、hRPCにより提供される処置効果の一部を再現するが、しかし全てではないことが示唆される。しかし、プレイオトロフィン(PTN)および/またはミッドカインの単一用量の効果は、網膜細胞集団のタイミングおよび特定の応答の点でOPNで観察された効果とは異なっていた。
【0159】
動物でのin vivoデータによれば、RPC由来エキソソームの単回硝子体注射はhRPCにより提供される処置効果をある程度は再現することも示唆される。
【0160】
組成物および製剤
代わりの実施形態では、本明細書に記載される網膜前駆細胞および細胞集団は、経口的に、非経口的に、吸入スプレーにより、経鼻的に、局所的に、髄腔内に、髄腔内に、脳内に、硬膜外に、頭蓋内にまたは直腸に、を含む任意のまたは種々の手段による投与用の組成物として製剤化してもよい。本明細書に開示される組成物および製剤は、薬学的にまたは獣医的に許容される液体、担体、アジュバントおよびビヒクルを含有することが可能であり、液体、錠剤、カプセル、移植片、エアロゾル、ゲル、リポソーム、ナノ粒子、等の形態が可能である。
【0161】
網膜前駆細胞および細胞集団は、薬学的または獣医学的組成物の形態で被験体に投与してもよい。代わりの実施形態では、語句「薬学的に許容される」とは、動物またはヒトに投与された場合、有害な、アレルギー性の、または他の都合の悪い反応を生じない分子実体および組成物をいう。代わりの実施形態では、本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、等などの)、およびその適切な混合物、オリーブオイルなどの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルを含むありとあらゆる水性および非水性担体を含む。
【0162】
薬学的に許容される担体は、必要に応じて、アルブミン(例えば、ヒトアルブミン)を含んでいてもよく、これは調製物内での細胞生存を改善することができると考えられるタンパク質である。
【0163】
同様に、本明細書で開示される組成物または調製物のいずれでも、賦形剤HypoThermosol(登録商標)-FRS(HTS-FRS)(BioLife Solutions,Inc.)を含んでいてもよく、これは、長期にわたる低温(2℃~10℃)保存を受けている細胞中での貯蔵後壊死およびアポトーシスのレベルを媒介するように設計された市販の低温貯蔵溶液/製剤である。(例えば、米国特許第6,921,633号;米国特許第6,632,666号;および国際公開第2005/009766号参照)。
【0164】
代わりの実施形態では、アルブミンおよび/またはHTSの添加を使用して、本明細書に開示される調製物のいずれか内での網膜前駆細胞の生存可能時間を約24時間まで(すなわち、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、または24時間)延ばす。
【0165】
適切な流動性は、例えば、レシチンなどの被覆材料の使用により、分散物の場合には必要な粒子サイズの維持により、および界面活性剤の使用により維持することが可能である。これらの組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤などのアジュバントを含有してもよい。微生物の存在の予防は、滅菌手順によりと種々の抗菌および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、ソルビン酸、等を含むことによりの両方で確実にしてもよい。糖、塩化ナトリウム、等などの等張剤を組成物中に含むのも望ましい場合がある。さらに、注射可能な薬学的形態の長期の吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延する作用物質を含むことにより引き起こしてもよい。薬学的形態は、製造および貯蔵条件下で安定していなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保存しなければならない。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体および作用物質の使用は当技術分野では周知である。
【0166】
網膜前駆細胞または細胞集団の有効量を被験体に投与しなければならない。代わりの実施形態では、「有効量」または「治療有効量」とは、所望の効果を生み出す組成物の量をいう。有効量は、例えば、一部、送達される分子または作用物質(ここでは網膜前駆細胞または細胞集団)、治療剤が使用されている適応症、投与経路、ならびに被験体または患者の大きさ(体重、体表面または臓器サイズ)および状態(年齢および全般的な健康状態)に依存する。したがって、臨床医または医師は、投与量の力価を測定し、最適治療効果を得るように投与経路を修正してもよい。特定の目的のための特定の作用物質の有効量は、当業者に周知である方法を使用して決定することが可能である。本明細書で定義されるいかなる組成物でも、有効量は、細胞培養アッセイにおいてまたはマウス、ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、もしくはサルなどの動物モデルにおいて最初に推定することが可能である。動物モデルを使用して、適切な濃度範囲および投与経路を決定してもよい。次に、そのような情報を使用すれば、ヒトにおける有用な用量および投与経路を決定することが可能である。
【0167】
本明細書に記載される組成物の有効量の例は、細胞懸濁物を5μl、10μl、15μl、20μl、25μl、50μl、100μl、150μl、200μl、250μl、300μl、350μl、400μl、450μl、500μl、または5000μl(5ml)までの中間の任意の増分の体積で含む(例えば、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1250、1300、1350、1400、1450、1500、1550、1600、1650、1700、1750、1800、1850、1900、1950、2000、2050、2100、2150、2200、2250、2300、2350、2400、2450、2500、2550、2600、2650、2700、2750、2800、2850、2900、2950、3000、3050、3100、3150、3200、3250、3300、3350、3400、3450、3500、3550、3600、3650、3700、3750、3800、3850、3900、3950、4000、4050、4100、4150、4200、4250、4300、4350、4400、4450、4500、4550、4600、4650、4700、4750、4800、4850、4900、4950、または5000μl)。
【0168】
代わりの実施形態では、体積の下限および上限は、送達システムおよび/または方法により制限される。例えば、Kayikcuiglu, O. R.ら、(2006年)Retina 26巻(9号):1089~90頁を参照されたい。例えば、硝子体切除をせずに投与される場合の体積上限は、眼圧の増加のせいでおおよそ200μlである。硝子体切除を伴う硝子体腔中への投与の場合の体積上限は、硝子体腔の体積により制限され、5mlまでまたはそれよりも多く含有することが可能である。網膜下注射の上限は、網膜剥離のせいで200μlまででよい。代わりの実施形態では、これらの体積は、用量あたり1000~1000万細胞、または用量あたり1000~2000細胞、用量あたり2000~3000細胞、用量あたり3000~4000細胞、用量あたり400~5000細胞、用量あたり5000~6000細胞、用量あたり6000~7000細胞、用量あたり7000~8000細胞、用量あたり8000~9000細胞、用量あたり9000~10,000細胞、用量あたり10,000~15,000細胞、用量あたり15,000~20,000細胞、用量あたり20,000~25,000細胞、用量あたり25,000~30,000細胞、用量あたり30,000~35,000細胞、用量あたり35,000~40,000細胞、用量あたり40,000~45,000細胞、用量あたり45,000~50,000細胞、用量あたり50,000~55,000細胞、用量あたり55,000~60,000細胞、用量あたり60,000~65,000細胞、用量あたり65,000~70,000細胞、用量あたり70,000~75,000細胞、用量あたり75,000~80,000細胞、用量あたり80,000~85,000細胞、用量あたり85,000~90,000細胞、用量あたり90,000~95,000細胞、用量あたり95,000~100,000細胞、用量あたり100,000~125,000細胞、用量あたり125,000~150,000細胞、用量あたり150,000~200,000細胞、用量あたり200,000~250,000細胞、用量あたり250,000~300,000細胞、用量あたり300,000~350,000細胞、用量あたり350,000~400,000細胞、用量あたり400,000~450,000細胞、用量あたり450,000~500,000細胞、用量あたり500,000~550,000細胞、用量あたり550,000~600,000細胞、用量あたり600,000~650,000細胞、用量あたり650,000~700,000細胞、用量あたり700,000~750,000細胞、用量あたり750,000~800,000細胞、用量あたり800,000~850,000細胞、用量あたり850,000~900,000細胞、用量あたり900,000~950,000細胞、用量あたり950,000~1,000,000細胞の間のどこか、または用量あたり1000細胞~最大1000万細胞の中間の任意の増分を含む。投与量は、当然のことながら、投与の頻度および持続期間に従って変動してもよい。代わりの実施形態では、本明細書に記載される組成物中の細胞の投与量は、例えば、100μlあたり50万細胞などの小体積中多数の細胞を含有する。細胞数は、血球計算板、分光光度計、コールターカウンター、フローサイトメトリー、等によるなどの当技術分野で公知の任意の方法により計数してもよい。投薬は一度施してもよいし、いくつかの処置の経過にわたって施してもよい。
【0169】
組成物は、眼(特に、硝子体腔または網膜下腔中に)、硝子体腔または網膜下腔、網膜、脳、神経またはCNS中への、経強膜送達による、または、例えば、米国特許第7,585,517号に記載されている経強膜送達;米国特許第7,883,717号に記載されている患者眼の内部への送達のための徐放性送達デバイス;米国特許第5,378,475号もしくは米国特許第5,466,233号に記載されている眼の硝子体領域での挿入のためのデバイスを含む当技術分野では公知の任意の方法もしくはプロトコルによる;または、例えば、米国特許出願公開第20110112470号もしくは米国特許出願公開第20100256597号(患者の眼への標的化投与のためのマイクロニードルを記載している)に記載の皮下注射器もしくは角度付挿入経路の使用による;または、例えば、米国特許出願公開第20100209478号に記載の涙点を通過する寸法付きの親水性ポリマーハイドロゲル;もしくは、例えば、米国特許出願公開第20100191176号に記載のヒト眼において網膜下腔へのアクセスを提供するデバイスを介する非経口投与用に製剤化することもできる。前房穿刺術も当業者が決定した場合には、実施することが可能である。方法は、特に硝子体内設置のために、手順の間および/または後に眼球の縫合を必要としない。しかし、これは、例えば、網膜下腔に細胞を置く場合、硝子体切除手順を利用する方法には必要になる場合がある。
【0170】
本明細書で開示される組成物はまた、注射経路によるが種々の注入技法も含む、例えば、米国特許出願公開第200500480021号に記載される、髄腔内、脳内硬膜外、皮下、静脈内、筋肉内および/または動脈内投与用に製剤化してもよい。投与は、カテーテルまたはポンプ、例えば、髄腔内ポンプ、または植込み型医用デバイスの使用を通じて実行してもよい。代わりの実施形態では、方法は、米国特許第7,388,042号、米国特許第7,381,418号、米国特許第7,379,765号、米国特許第7,361,332号、米国特許第7,351,423号、米国特許第6,886,568号、米国特許第5,270,192号、および米国特許出願公開第20040127987号、米国特許出願公開第20080119909号、米国特許出願公開第20080118549号、米国特許出願公開第20080020015号、米国特許出願公開第20070254005号、米国特許出願公開第20070059335号、米国特許出願公開第20060128015号に記載されているものなどの、本明細書で開示される網膜前駆細胞、細胞集団、または組成物を含有する移植片および人工臓器、バイオリアクター系、細胞培養系、プレート、皿、チューブ、ビン、およびフラスコ、等の投与または移植を含んでもよい。
【0171】
代わりの実施形態では、網膜前駆細胞または細胞集団を含有する組成物は、必要に応じて、1つまたは複数の薬物と同時投与される。薬物の非限定的例は、アンジオスタチン、酢酸アネコルタブ、トロンボスポンジン、VEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤ならびにラニビズマブおよびベバシズマブ、ペガプタニブ、スニチニブおよびソラフェニブなどの抗血管内皮成長因子(抗VEGF)薬ならびに抗血管新生効果を有する種々の既知の小分子および転写阻害剤のいずれかなどの抗血管新生剤;例えば、アセブトロール(acetbutolol)、アテノロール、ビソプロロール、カルベジロール、エスモロール(asmolol)、ラベタロール、ナドロール、ペンブトロール、ピンドロール、プロプラノロール、メチプラノロール、ベタキソロール、カルテオロール、レボベタキソロール、レボブノロールおよびチモロールなどのベータ遮断剤を含む、アドレナリンアンタゴニストなどの緑内障薬を含む既知の眼科薬のクラス;エピネフリン、ジピベフリン、クロニジン、アプラクロニジン(aparclonidine)、およびブリモニジンなどのアドレナリンアゴニストまたは交感神経刺激薬;ピロカルピン、カルバコール、ホスホリンヨード、およびフィゾスチグミン、サリチレート、塩化アセチルコリン、エゼリン、ジイソプロピルフルオロホスフェート、臭化デメカリウムなどの副交感神経刺激剤またはコリン作用性(cholingeric)アゴニスト;ムスカリン作用薬;局所的および/または全身性薬剤、例えば、アセタゾラミド(acetozolamide)、ブリンゾラミド、ドルゾラミドおよびメタゾラミド、エトキシゾラミド、ダイアモックス、ならびにジクロフェナミドを含む、炭酸脱水酵素阻害剤;アトロピン、シクロペントレート、サクシニルコリン、ホマトロピン、フェニレフリン、スコポラミンおよびトロピカミドなどの散瞳性調節麻痺剤;プロスタグランジンF2アルファなどのプロスタグランジン、抗プロスタグランジン、プロスタグランジン前駆体、またはビマトプロスト、ラタノプロスト、トラボプロストおよび/もしくはウノプロストンなどのプロスタグランジン類似体薬を含んでいてもよい。
【0172】
薬物の他の例は、例えば、ベタメタゾン、コルチゾン、デキサメタゾン、デキサメタゾン21ホスフェート、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン21ホスフェート、酢酸プレドニゾロン、プレドニゾロン、フルオロメトロン(fluroometholone)、ロテプレドノール、メドリゾン、フルオシノロンアセトニド、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、ベクロメタゾン、ブデソニド、フルニソリド、フルオロメトロン、フルチカゾン、フルドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、ロテプレドノール、リメキソロンなどのグルココルチコイドおよび副腎皮質ステロイドを含む抗炎症薬ならびに、例えば、アスピリン、ジクロフェナク、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ブロムフェナク、ネパフェナク、およびケトロラク、サリチレート、インドメタシン、ナキソプレン(naxopren)、ピロキシカムおよびナブメトンジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、メクロフェナメート、メフェナム酸、メロキシカム、ナブメトン、オキサプロジン、ピロキシカム、サルサレート、スリンダクおよびトルメチンを含む非ステロイド性抗炎症薬;セレコキシブ、ロフェコキシブおよびバルデコキシブのようなCOX-2阻害剤;例えば、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、バシトラシン、ネオマイシン、ポリミキシン、グラミシジン、セファレキシン、オキシテトラサイクリン、クロラムフェニコール、リファンピシン、シプロフロキサシン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、エリスロマイシン、ペニシリン、スルホンアミド、スルファジアジン、スルファセタミド、スルファメチゾール、スルフイソキサゾール、ニトロフラゾン、プロピオン酸ナトリウム、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシンおよびストレプトマイシンなどのアミノグリコシドを含む抗生物質などの抗感染または抗菌薬;シプロフロキサシン、ガチフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシンなどのフルオロキノロン類;バシトラシン、エリスロマイシン、フシジン酸、ネオマイシン、ポリミキシンB、グラミシジン、トリメトプリムおよびスルファセタミド;アンホテリシンB、カスポファンギン、クロトリマゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ボリコナゾール、テルビナフィン、ニスタチンおよびミコナゾールなどの抗真菌薬;クロロキン、アトバコン、メフロキン、プリマキン、キニジンおよびキニーネなどの抗マラリア薬;エタンブトール、イソニアジド、ピラジナミド、リファンピンおよびリファブチンなどの抗マイコバクテリウム薬;ならびに/またはアルベンダゾール、メベンダゾール、チアベンダゾール(thiobendazole)、メトロニダゾール、ピランテル、アトバコン、ヨードキノール(iodoquinaol)、イベルメクチン、パロマイシン、プラジカンテル、およびトリメトレキサート(trimatrexate)などの抗寄生生物薬を含んでもよいがこれらに限定されない。
【0173】
薬物の他の例は、イドクスウリジン、トリフルオロチミジン、アシクロビル、シドホビル、ファムシクロビル、ガンシクロビル、バラシクロビル、バルガンシクロビル、ビダラビン、トリフルリジンおよびホスカルネットなどの抗ウイルス薬;リトナビル、サキナビル、ロピナビル、インジナビル、アタザナビル、アンプレナビルおよびネルフィナビルなどのプロテアーゼ阻害剤;アバカビル、ddl、3TC、d4T、ddC、テノホビルおよびエムトリシタビン、デラビルジン、エファビレンツおよびネビラピンなどのヌクレオチド/ヌクレオシド/非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤;インターフェロン、リバビリンおよびトリフルリジン(trifluridiene)などの他の抗ウイルス薬;エルタペネム、イミペネムおよびメロペネムのようなカルバペネム系(cabapenems)を含む抗菌薬;セファドロキシル、セファゾリン、セフジニル、セフジトレン、セファレキシン、セファクロル、セフェピム、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフォテタン、セフォキシチン、セフポドキシム、セフプロジル、セフタジジム(ceftaxidime)、セフチブテン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフロキシムおよびロラカルベフなどのセファロスポリン系;アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシンおよびテリスロマイシンなどの他のマクロライドおよびケトライド;アモキシシリン、アンピシリン、ピバンピシリン、ジクロキサシリン、ナフシリン、オキサシリン、ピペラシリン、およびチカルシリンを含むペニシリン系(クラブラネートを含むおよび含まない);ドキシサイクリン、ミノサイクリンおよびテトラサイクリンなどのテトラサイクリン系;ならびに/またはアズトレオナム、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、リネゾリド、ニトロフラントインおよびバンコマイシンなどの他の抗菌薬を含んでもよいがこれらに限定されない。
【0174】
薬物の他の例は、例えば、クロモグリク酸ナトリウム、アンタゾリン、メタピリレン(methapyriline)、クロルフェニラミン、セチリジン(cetrizine)、ピリラミン、プロフェンピリダミンを含む抗アレルギー剤などの免疫調節剤;アルデスロイキン、アダリムマブ、アザチオプリン、バシリキシマブ、ダクリズマブ、エタネルセプト、ヒドロキシクロロキン、インフリキシマブ、レフルノミド、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、およびスルファサラジン;アゼラスチン、エメダスチン、ロラタジン、デスロラタジン、セチリジン、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、デクスクロルフェニラミン、クレマスチン、シプロヘプタジン、フェキソフェナジン、ヒドロキシジン、プロメタジンおよびレボカバスチンなどの抗ヒスタミン剤;免疫学的薬物(ワクチンおよび免疫刺激剤などの);クロモリンナトリウム、ケトチフェン、ロドキサミド、ネドクロミル(nedocrimil)、オロパタジンなどのMAST細胞安定化剤ならびにゲンタマイシン(gentimicin)およびシドホビルなどのペミロラスト毛様体切除剤;ならびにベルテポルフィン、プロパラカイン、テトラカイン、シクロスポリンおよびピロカルピンなどの他の眼科薬;細胞表面糖タンパク質受容体の阻害剤;フェニレフリン、ナファゾリン、テトラヒドロゾリン(tetrahydrazoline)などのうっ血除去薬;脂質または降圧性脂質;キンピロール、フェノルドパム、およびイボパミンなどのドーパミンアゴニストおよび/またはアンタゴニスト;血管痙攣阻害剤;血管拡張薬;降圧薬;アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤;オルメサルタンなどのアンジオテンシン1受容体アンタゴニスト;微小管阻害剤;分子モーター(ダイニンおよび/またはキネシン)阻害剤;サイトカラシン(cyctchalasin)、ラトランクリン、スウィンホリドA、エタクリン酸、H-7、およびRhoキナーゼ(ROCK)阻害剤などのアクチン細胞骨格調節剤;リモデリング阻害剤;tert-ブチルヒドロキノロンおよびAL-3037Aなどの細胞外マトリクスのモジュレーター;N-6-シクロヘキシルアデノシン(cylclophexyladenosine)および(R)-フェニルイソプロピルアデノシンなどのアデノシン受容体アゴニストおよび/またはアンタゴニスト;セロトニンアゴニスト;エストロゲン、エストラジオール、プロゲステロンホルモン、プロゲステロン、インスリン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン、ペプチドおよびバソプレシン視床下部放出因子などのホルモン剤;例えば、上皮成長因子、線維芽細胞成長因子、血小板由来成長因子、トランスフォーミング成長因子ベータ、ソマトトロピン(somatotrapin)、フィブロネクチン、結合組織成長因子、骨形成タンパク質(BMP)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、インスリン様成長因子(IGF)、および神経成長因子(NGF)を含む成長因子アンタゴニストまたは成長因子;ならびに/またはインターロイキン、CD44、コクリン(cochlin)、オステオポンチン、プレオトロフィン(pleotrophin)、ミッドカイン、血管内皮成長因子(VEGF)などのサイトカイン、および血清アミロイドAなどの血清アミロイドを含んでもよいがこれらに限定されない。
【0175】
他の治療薬は、ルベゾール、ニモジピンおよび関連化合物などの、ならびに血流増強剤、ナトリウムチャネル遮断薬、グルタメート阻害剤、例えば、メマンチン、神経栄養因子、一酸化窒素合成酵素阻害剤を含む、神経保護薬;フリーラジカルスカベンジャーまたは抗酸化剤;キレート化合物;アポトーシス関連プロテアーゼ阻害剤;新たなタンパク質合成を低減する化合物;放射性治療薬;光線力学治療薬;遺伝子治療薬;遺伝子モジュレーター;ならびにシクロスポリンA、粘滑剤(delmulcent)およびヒアルロン酸ナトリウムなどのドライアイ薬物;ドキサゾシン、プラゾシンおよびテラゾシンなどのアルファ遮断薬;アムロジピン、ベプリジル、ジルチアゼム、フェロジピン、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニソルジピンおよびベラパミルなどのカルシウムチャネル遮断薬;クロニジン、ジアゾキシド、フェノルドパム(fenoldopan)、ヒドララジン、ミノキシジル、ニトロプルシド、フェノキシベンザミン、エポプロステノール、トラゾリン、トレプロスチニルおよび硝酸塩ベース薬剤などの他の抗高血圧薬;ヘパリン、ダルテパリン、エノキサパリン、チンザパリンおよびフォンダパリヌクスなどのヘパリン類およびへパリノイド類を含む抗凝固薬;ヒルジン、アプロチニン、アルガトロバン、ビバリルジン、デシルジン、レピルジン、ワルファリンおよびキシメラガトランなどの他の抗凝固薬;ならびに/またはアブシキシマブ、クロピドグレル、ジピリダモール、エプチフィバチド(optifibatide)、チクロピジンおよびチロフィバンなどの抗血小板薬を含んでもよいがこれらに限定されない。
【0176】
他の治療薬は、プロスタグランジンPDE-5阻害剤ならびにアルプロスタジル、カルボプロスト、シルデナフィル、タダラフィルおよびバルデナフィルなどの他のプロスタグランジン薬;トロンビン阻害剤;抗血栓薬(antithrombogenic agent);抗血小板凝集剤;アルテプラーゼ、アニストレプラーゼ、レテプラーゼ、ストレプトキナーゼ、テネクテプラーゼおよびウロキナーゼなどの血栓溶解薬および/または線維素溶解薬;シロリムス、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、パクリタキセルおよびミコフェノール酸などの抗増殖薬;レボチロキシン、フルオキシメステロン(fluoxymestrone)、メチルテストステロン、ナンドロロン、オキサンドロロン、テストステロン、エストラジオール、エストロン、エストロピペート、クロミフェン、ゴナドトロピン、ヒドロキシプロゲステロン、レボノルゲストレル、メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、ミフェプリストン、ノルエチンドロン、オキシトシン、プロゲステロン、ラロキシフェンおよびタモキシフェンを含むホルモン関連薬;カルムスチン、ロムスチン、メルファラン、シスプラチン、フルオロウラシル3などのアルキル化剤、ならびにブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、マイトマイシンおよびプリカマイシンなどのプロカルバジン抗生物質様薬を含む抗新生物薬;抗増殖薬(1,3-シスレチノイン酸、5-フルオロウラシル、タキソール、ラパマイシン、マイトマイシンCおよびシスプラチンなどの);シタラビン、フルダラビン、ヒドロキシウレア、メルカプトプリンおよび5-フルオロウラシル(flurouracil)(5-FU)などの抗代謝薬;アルデスロイキン、イマチニブ、リツキシマブおよびトシツモマブなどの免疫調節薬;有糸分裂阻害剤ドセタキセル、エトポシド、ビンブラスチンおよびビンクリスチン;ストロンチウム89などの放射性作用物質:ならびに/またはイリノテカン、トポテカンおよびミトタンなどの他の抗新生物薬を含んでもよいがこれらに限定されない。
【0177】
キットおよび指示
本明細書で開示される方法(例えば、網膜疾患もしくは状態を処置する、または胎児神経網膜細胞の不均一混合物を作成するもしくは単離する)のいずれかにおける使用に適した本明細書に記載される組成物(例えば、胎児神経網膜細胞の不均一混合物)のいずれかを含有し、その使用のための指示を含む、キットも提供される。細胞の組成物、製造品、または混合物もしくは培養物(例えば、胎児神経網膜細胞の不均一混合物)を含有するキットも提供され、必要に応じて、キットは本明細書に記載される方法のいずれかを実施するための指示をさらに含む。
【0178】
キットは、培養されている細胞として提供されるのであれ、新鮮な細胞もしくは凍結細胞として提供されるのであれ、または被験体への投与用の組成物として製剤化された細胞として提供されるのであれ、本明細書に記載される哺乳動物網膜前駆細胞を含有する細胞集団も含んでいてよい。同様に、キットは、本明細書に記載される方法のいずれかを実施するための指示をさらに含んでいてもよい。一部の実施形態では、そのようなキットは、本明細書に記載される網膜前駆細胞の1つもしくは複数のマーカーに結合する作用物質(例えば、抗体またはオリゴヌクレオチドプライマー)および/または基本もしくは条件培地をさらに含有していてもよい。代わりの実施形態では、適切なキットは、1つまたは複数のマーカーに特異的な抗体を含有する第1の容器であって、前記抗体が、例えば、蛍光マーカーまたは磁気ビーズにコンジュゲートされることにより、単離または検出に適応している、第1の容器、および基本または条件培地を含有している第2の容器を含んでいてもよい。キットは、細胞培養培地、細胞外マトリクス被覆細胞培養皿、および/または組織処理に適した酵素などの、本発明の細胞集団の調製に有用である1つまたは複数の追加の試薬をさらに含んでいてもよい。キットは、組織試料から得られる網膜前駆細胞または細胞集団を単離する、精製する、および/または拡大増殖するためのその使用に関する指示も含んでいてよい。同様に、キットは、患者もしくはドナーから組織試料を入手するための手段、および/または入手した組織試料を保持しておく容器をさらに含有していてもよい。
【0179】
獣医学的適用
本明細書に記載される組成物および方法のいずれでも獣医学的適用のために使用することも可能である。例えば、ネコRPCの成長、ならびにジストロフィーのネコおよび他の動物、例えば、任意の哺乳動物ペット、一般的な飼い慣らされたおよび希少野生哺乳動物種、動物園の動物、農場動物、スポーツ(例えば、レース用イヌまたはウマ)動物、等の網膜への治療適用。
【0180】
広範囲な同系交配の結果として失明を引き起こす遺伝子を有する飼い慣らされた動物が数多く存在する。これらの動物は、ネコ、イヌ、およびウマならびにおそらく他の種を含む。
【0181】
同様に、野生および飼育動物で発生する網膜疾患および損傷であって、本明細書に記載される組成物および方法を使用する処置から恩恵を受ける網膜疾患および損傷が存在する。
【0182】
製造品、移植片および人工臓器
胎児神経網膜細胞の不均一混合物を含有する本明細書に記載される組成物の1つまたは複数を含む移植片および人工臓器、バイオリアクター系、細胞培養系、プレート、皿、チューブ、ビンならびにフラスコ、等も提供される。
【0183】
代わりの実施形態では、非限定的例として、胎児神経網膜細胞の不均一混合物を含有するバイオリアクター、移植片、ステント、人工臓器または類似のデバイス、例えば、米国特許第7,388,042号、米国特許第7,381,418号、米国特許第7,379,765号、米国特許第7,361,332号、米国特許第7,351,423号、米国特許第6,886,568号、米国特許第5,270,192号、および米国特許出願公開第20040127987号、米国特許出願公開第20080119909号(耳介移植片を記載している)、米国特許出願公開第20080118549号(眼移植片を記載している)、米国特許出願公開第20080020015号(生理活性創傷包帯剤を記載している)、米国特許出願公開第20070254005号(心臓弁バイオ人工器官、血管移植片、半月板移植片を記載している)、米国特許出願公開第20070059335号、米国特許出願公開第20060128015号(肝臓移植片を記載している)に類似しているまたは記載される移植片が本明細書でさらに提供される。
【0184】
均等物
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細は、上の添付の記載に明らかにされている。本明細書に記載される方法および材料に類似するまたは均等であるいかなる方法および材料も本発明の実施または試験において使用することが可能であるが、好ましい方法および材料が現在記載されている。
【0185】
前述の記載は説明目的のためだけに提示されており、本発明を開示されているまさにその形態に限定することを意図されていないが、ここに添付されている特許請求の範囲によって限定することを意図している。
【0186】
本発明の実施形態のいくつかが説明されている。にもかかわらず、本発明の精神および範囲から逸脱することなく種々の改変を加えてもよいことは理解することが可能である。したがって、他の実施形態は以下の特許請求の範囲内である。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
網膜疾患または状態の処置に有用である、医薬として、被験体において使用するための製剤、製造品または組成物であって、
前記製剤、前記製造品または前記組成物が、不死ではないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団を含み、
前記製剤、前記製造品または前記組成物が、
約12週~約28週の在胎齢のヒトから得られたヒト網膜組織の試料を機械的にかつ/または酵素的に消化して、細胞および細胞塊の解離した懸濁物を作製すること、
異種成分不含フィブロネクチン、オルニチン、ポリリジン、またはラミニンで被覆した培養フラスコまたはプレート中の無血清培地において前記懸濁物を標準酸素レベルで約4~6継代の間、培養すること、および
その後無血清培地において前記懸濁物を低酸素レベルでさらに約3~6継代の間、培養することであって、
前記細胞は、40%~90%コンフルエンスの間で継代させ、継代ごとに酵素で処理して前記細胞を解離させ、新たな培養培地を添加し、
それによって不死ではないヒト網膜前駆細胞を作製する、培養すること
によって作製され、
前記不死ではないヒト網膜前駆細胞が、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、MHCクラスII、オステオポンチン(OPN)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、およびFas/CD95からなる群より選択される1つまたは複数のマーカーを発現し、
ネスチンが、前記集団中の前記細胞の90%超によって発現され、
Sox2が、前記集団中の前記細胞の80%超によって発現され、
Ki-67が、前記集団中の前記細胞の30%超によって発現され、
MHCクラスIが、前記集団中の前記細胞の70%超によって発現され、
Fas/CD95が、前記集団中の前記細胞の30%超によって発現され、
MHCクラスIIが、前記集団中の前記細胞の2%未満によって発現され、
オステオポンチン(OPN)が、前記集団中の前記細胞により20ng/10
6
細胞/24時間よりも多い量で発現され、
塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)が、前記細胞がベースラインでbFGFを含まなかった担体中に存在する場合、前記集団中の前記細胞により、50~300pg/10
6
細胞/時間の量で発現される、
製剤、製造品または組成物。
(項目2)
前記集団中の前記細胞が、
中脳星状細胞由来神経栄養因子(MANF)を0.5~2.5ng/10
6
細胞/24時間の量で、
色素上皮由来成長因子(PEDF)を最大30ng/10
6
細胞/24時間の量で、
プレイオトロフィン(PTN)を50~600pg/10
6
細胞/24時間の量で、および/または
ミッドカイン(MDK)を最大12ng/10
6
細胞/24時間の量で
発現する、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記懸濁物を低酸素レベルで培養するその後の培養に続いて、前記細胞を標準酸素レベルで継代せずにある期間、成長させる、項目1に記載の製剤、製造品または組成物。
(項目4)
前記ある期間が1時間~5日間を含む、項目3に記載の製剤、製造品または組成物。
(項目5)
前記低酸素レベルが、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%、または10%酸素からなる群より選択される、項目1~3のいずれか一項に記載の使用のための製剤、製造品または組成物。
(項目6)
1~2日ごとに交換される前記培養培地に、0.01mg/ml~0.5mg/mlのビタミンCが含まれる、項目1~5のいずれか一項に記載の使用のための製剤、製造品または組成物。
(項目7)
前記被験体がヒトである、項目1~6のいずれか一項に記載の使用のための製剤、製造品または組成物。
(項目8)
前記製剤、前記製造品または前記組成物が、前記被験体の硝子体腔または網膜下腔中への注射用に製剤化されている、項目1~7のいずれか一項に記載の使用のための製剤、製造品または組成物。
(項目9)
前記網膜疾患または状態が、網膜色素変性(RP)、レーバー先天性黒内障(LCA)、シュタルガルト病、アッシャー症候群、コロイデレミア、杆体錐体または錐体杆体ジストロフィー、繊毛関連疾患、ミトコンドリア障害、進行性網膜萎縮、変性網膜疾患、加齢黄斑変性(AMD)、ウェット型AMD、ドライ型AMD、地図状萎縮、家族性または後天性黄斑症、網膜光受容体疾患、網膜色素上皮ベースの疾患、糖尿病性網膜症、類嚢胞黄斑浮腫、ぶどう膜炎、網膜剥離、外傷性網膜損傷、医原性網膜損傷、黄斑円孔、黄斑毛細血管拡張症、神経節細胞疾患、視神経細胞疾患、緑内障、視神経症、虚血性網膜疾患、未熟児網膜症、網膜血管閉塞、家族性細動脈瘤、網膜血管疾患、眼血管疾患、血管疾患、または虚血性視神経症を含む、項目1~8のいずれか一項に記載の使用のための製剤、製造品または組成物。
(項目10)
前記製剤、前記製造品または前記組成物中の前記細胞が、ビメンチン、CD9、CD81、AQP4、CXCR4、CD15/LeX/SSEA1、GD2ガングリオシド、CD133、β3-チューブリン、MAP2、GFAP、OPN/SPP1、PTN、KDR、およびTEKからなる群より選択される1つまたは複数のマーカーをさらに発現する、項目1~9のいずれか一項に記載の使用のための製剤、製造品または組成物。
(項目11)
不死ではないヒト胎児神経網膜細胞の不均一混合物を含む製剤、製造品または組成物を製造する方法であって、
(a)約12週~約28週の在胎齢のヒトから得られたヒト網膜組織細胞の試料を機械的にかつ/または酵素的に解離させて、細胞および/または細胞塊の解離した懸濁物を作製することであって、
細胞および/または小さな細胞塊の収穫された試料は、トリプシンまたは等価物を使用して酵素的に解離される、作製すること;
(b)異種成分不含フィブロネクチン、オルニチン、ポリリジン、またはラミニンで被覆した培養フラスコまたはプレート中の無血清培地において前記懸濁物を標準酸素レベルで約4~6継代の間、培養すること;および
(c)その後無血清培地において前記懸濁物を低酸素レベルでさらに約3~6継代の間、培養することであって、
前記細胞は、40%~90%コンフルエンスの間で継代させ、継代ごとに酵素で処理して前記細胞を解離させ、前記細胞培地は、約1~2日ごとに交換される、培養すること
を含む、方法。
(項目12)
前記懸濁物を低酸素レベルで培養するその後の培養に続いて、前記細胞を標準酸素レベルで継代せずにある期間、成長させる、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記ある期間が1時間~5日間を含む、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記低酸素レベルが、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%、または10%酸素からなる群より選択される、項目11または12に記載の方法。
(項目15)
1~2日ごとに交換される前記培養培地に、0.01mg/ml~0.5mg/mlのビタミンCが含まれる、項目10~13のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記細胞および/または前記細胞塊が基本培養培地で培養される、項目11~15のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
前記細胞および/または前記細胞塊が、細胞生存または成長を支援する補足物または添加物と一緒に培養される、項目16に記載の方法。
(項目18)
細胞生存または成長を支援する前記補足物または前記添加物が、L-グルタミン、EGFおよびbFGFからなるヒト組換え成長因子(Invitrogen)ならびに他の成長因子からなる群より選択される、項目17に記載の方法。
(項目19)
前記培地に、アルブミン、または組換えアルブミンが約1.0mg/mlの初期濃度を有する量で追加補充される、項目11~18のいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
細胞の前記試料が、病原体、細菌、エンドトキシン、真菌、マイコプラズマ、ウイルス、肝炎ウイルスまたはHIVウイルスの存在についてスクリーニングされる、項目11~19のいずれか一項に記載の方法。
(項目21)
細胞の前記試料が、正常核型の存在についてスクリーニングされる、項目11~20のいずれか一項に記載の方法。
(項目22)
細胞の前記試料が上昇したテロメラーゼ活性を示さない、項目11~21のいずれか一項に記載の方法。
(項目23)
細胞の前記試料が生存度についてスクリーニングされる、項目11~22のいずれか一項に記載の方法。
(項目24)
細胞の前記試料が腫瘍原性についてスクリーニングされる、項目11~23のいずれか一項に記載の方法。
(項目25)
不死ではないヒト胎児神経網膜細胞の前記不均一混合物を製造するための前記方法が、
(a)細胞表面または遺伝子マーカーに基づいてヒト胎児神経網膜細胞を選択すること、または
(b)ヒト胎児神経網膜細胞トランスクリプトームプロファイル、プロテオームプロファイルまたはゲノムプロファイルに基づいてヒト胎児神経網膜細胞を選択すること
をさらに含む、項目11~24のいずれか一項に記載の方法。
(項目26)
(i)ステップ(a)が、前記細胞を培養前に(事前に)または培養後にまたは培養前と培養後との両方において選択することをさらに含み;
(ii)前記細胞表面または遺伝子マーカーが、CD15/LeX/SSEA1および/もしくはGD2ガングリオシドを含み;または
(iii)前記細胞表面または遺伝子マーカーが、CD9、CD81、CD133もしくはAQP4および/もしくはCXCR4を含む、項目25に記載の方法。
(項目27)
不死ではないヒト網膜前駆細胞の集団を単離するための方法であって、
網膜が形成された後であるが、光受容体外節が網膜全体で完全に形成される前であり、網膜血管新生が実質的に完了するまたは完了する前の段階に由来するヒト網膜組織の試料を機械的にかつ/または酵素的に解離して、細胞および細胞塊の解離した懸濁物を作製すること;
異種成分不含フィブロネクチン、オルニチン、ポリリジン、またはラミニンで被覆した培養フラスコまたはプレート中の無血清培地において前記懸濁物を標準酸素レベルで約4~6継代の間、培養すること;
その後無血清培地において前記懸濁物を低酸素レベルでさらに約3~6継代の間、培養することであって、
前記細胞は、40%~90%コンフルエンスの間で継代させ、継代ごとに酵素で処理して前記細胞を解離させる、培養することを含み、
前記ヒト網膜前駆細胞が、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、MHCクラスII、オステオポンチン(OPN)、およびFas/CD95からなる群より選択される1つまたは複数のマーカーを発現し、ネスチンが、前記集団中の前記細胞の90%超により発現され、Sox2が、前記集団中の前記細胞の80%超により発現され、Ki-67が、前記集団中の前記細胞の30%超により発現され、MHCクラスIが、前記集団中の前記細胞の70%超により発現され、Fas/CD95が、前記集団中の前記細胞の30%超により発現され、MHCクラスIIが、前記集団中の前記細胞の2%未満により発現され、オステオポンチン(OPN)が、前記集団中の細胞により20ng/10
6
細胞/24時間よりも多い量で発現され、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)が、前記細胞がベースラインでbFGFを含まなかった担体中に存在する場合、前記集団中の細胞により、50~300pg/10
6
細胞/時間の量で発現される、方法。
(項目28)
前記集団中の前記細胞が、中脳星状細胞由来神経栄養因子(MANF)を0.5~2.5ng/10
6
細胞/24時間の量で、色素上皮由来成長因子(PEDF)を最大約30ng/10
6
細胞/24時間の量で、プレイオトロフィン(PTN)を50~600pg/10
6
細胞/24時間の量で、および/またはミッドカイン(MDK)を最大12ng/10
6
細胞/24時間の量で発現する、項目27に記載の方法。
(項目29)
前記懸濁物を低酸素レベルで培養するその後の培養に続いて、前記細胞を標準酸素レベルで継代せずにある期間、成長させる、項目27に記載の方法。
(項目30)
前記ある期間が1時間~5日間を含む、項目29に記載の方法。
(項目31)
前記低酸素レベルが、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%、または10%酸素からなる群より選択される、項目27または28に記載の方法。
(項目32)
前記培養培地が1~2日ごとに交換される、項目27~31のいずれか一項に記載の方法。
(項目33)
1~2日ごとに交換される前記培養培地に、0.01mg/ml~0.5mg/mlのビタミンCが含まれる、項目27~32のいずれか一項に記載の方法。
(項目34)
前記ヒト網膜組織が、約12週~約28週の在胎齢のヒト胎児網膜から得られる、項目27~33のいずれか一項に記載の方法。
(項目35)
前記細胞が、無血清または低血清の細胞培養培地で培養される、項目27~33のいずれか一項に記載の方法。
(項目36)
前記培地がアルブミンをさらに含む、項目27~35のいずれか一項に記載の方法。
(項目37)
前記集団中の前記細胞が、ビメンチン、CD9、CD81、AQP4、CXCR4、CD15/LeX/SSEA1、GD2ガングリオシド、CD133、β3-チューブリン、MAP2、GFAP、OPN/SPP1、PTN、KDR、およびTEKからなる群より選択される1つまたは複数のマーカーをさらに発現する、項目27~36のいずれか一項に記載の方法。
(項目38)
使用するための有効量の製剤、製造品または組成物を投与することを含む、患者において網膜疾患または状態を処置する、好転させる、予防するまたはその進行を遅らせるための方法であって、
前記製剤、前記製造品または前記組成物が、不死ではないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団を含み、
前記製剤、前記製造品または前記組成物が、以下:
約12週~約28週の在胎齢のヒトから得られたヒト網膜組織の試料を機械的にかつ/または酵素的に消化して、細胞および細胞塊の解離した懸濁物を作製すること;
異種成分不含フィブロネクチン、オルニチン、ポリリジン、またはラミニンで被覆した培養フラスコまたはプレート中の無血清培地において前記懸濁物を標準酸素レベルで約4~6継代の間、培養すること;および
その後無血清培地において前記懸濁物を低酸素レベルでさらに約3~6継代の間、培養することであって、
前記細胞は、40%~90%コンフルエンスの間で継代させ、継代ごとに酵素で処理して前記細胞を解離させ、新たな培養培地を添加し、
それによって不死ではないヒト網膜前駆細胞を作製する、培養すること
によって作製され、
前記不死ではないヒト網膜前駆細胞が、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、MHCクラスII、オステオポンチン(OPN)、およびFas/CD95からなる群より選択される1つまたは複数のマーカーを発現し、
ネスチンが、前記集団中の前記細胞の90%超により発現され、
Sox2が、前記集団中の前記細胞の80%超により発現され、
Ki-67が、前記集団中の前記細胞の30%超により発現され、
MHCクラスIが、前記集団中の前記細胞の70%超により発現され、
Fas/CD95が、前記集団中の前記細胞の30%超により発現され、
MHCクラスIIが、前記集団中の前記細胞の2%未満により発現され、
オステオポンチン(OPN)が、前記集団中の細胞により20ng/10
6
細胞/24時間よりも多い量で発現され、
塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)が、前記細胞がベースラインでbFGFを含まなかった担体中に存在する場合、前記集団中の細胞により、50~300ng/10
6
細胞/時間の量で発現される、方法。
(項目39)
前記集団中の前記細胞が、
中脳星状細胞由来神経栄養因子(MANF)を0.5~2.5ng/10
6
細胞/24時間の量で、
色素上皮由来成長因子(PEDF)を最大約30ng/10
6
細胞/24時間の量で、プレイオトロフィン(PTN)を50~600pg/10
6
細胞/24時間の量で、および/または
ミッドカイン(MDK)を最大約12ng/10
6
細胞/24時間の量で
発現する、項目38に記載の方法。
(項目40)
前記懸濁物を低酸素レベルで培養するその後の培養に続いて、前記細胞を標準酸素レベルで継代せずにある期間、成長させる、項目38に記載の方法。
(項目41)
前記ある期間が1時間~5日間を含む、項目40に記載の方法。
(項目42)
前記低酸素レベルが、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%、または10%酸素からなる群より選択される、項目38~40のいずれか一項に記載の方法。
(項目43)
1~2日ごとに交換される前記培養培地に、0.01mg/ml~0.5mg/mlのビタミンCが含まれる、項目38~42のいずれか一項に記載の方法。
(項目44)
前記患者がヒトである、項目38~43のいずれか一項に記載の方法。
(項目45)
前記製剤、前記製造品または前記組成物が、前記患者の硝子体腔または網膜下腔中に注射される、項目38~44のいずれか一項に記載の方法。
(項目46)
前記製剤、前記製造品または前記組成物が、前記硝子体腔の前部領域中に注射される、項目45に記載の方法。
(項目47)
前記製剤、前記製造品または前記組成物が、前記硝子体腔の後部領域中に注射される、項目41に記載の方法。
(項目48)
網膜疾患または状態が、網膜色素変性(RP)、レーバー先天性黒内障(LCA)、シュタルガルト病、アッシャー症候群、コロイデレミア、杆体錐体または錐体杆体ジストロフィー、繊毛関連疾患、ミトコンドリア障害、進行性網膜萎縮、変性網膜疾患、加齢黄斑変性(AMD)、ウェット型AMD、ドライ型AMD、地図状萎縮、家族性または後天性黄斑症、網膜光受容体疾患、網膜色素上皮ベースの疾患、糖尿病性網膜症、類嚢胞黄斑浮腫、ぶどう膜炎、網膜剥離、外傷性網膜損傷、医原性網膜損傷、黄斑円孔、黄斑毛細血管拡張症、神経節細胞疾患、視神経細胞疾患、緑内障、視神経症、虚血性網膜疾患、未熟児網膜症、網膜血管閉塞、家族性細動脈瘤、網膜血管疾患、眼血管疾患、血管疾患、または虚血性視神経症を含む、項目38~47のいずれか一項に記載の方法。
(項目49)
前記有効量が0.3~0.5×10
6
細胞である、項目38~48のいずれか一項に記載の方法。
(項目50)
前記有効量が0.5~3×10
6
細胞である、項目38~48のいずれか一項に記載の方法。
(項目51)
使用のための有効量の前記製剤、前記製造品または前記組成物の投与と併せた、外科的硝子体切除、中心部硝子体切除、硝子体溶解薬、またはそれらの組み合わせの使用をさらに含む、項目38~50のいずれか一項に記載の方法。
(項目52)
前記患者に、使用するための前記製剤、前記製造品または前記組成物の少なくとも1回の後続用量を施す、項目38~51のいずれか一項に記載の方法。
(項目53)
前記後続用量が前記患者の同じ眼に投与される、項目52に記載の方法。
(項目54)
前記後続用量が前記患者の他眼に投与される、項目52に記載の方法。
(項目55)
使用するための前記製剤、前記製造品または前記組成物の投与に続いて、前記患者において明所(昼光)視、視力、黄斑機能、視野、暗所(夜)視、またはその任意の組み合わせが改善される、項目38~54のいずれか一項に記載の方法。
(項目56)
使用するための前記製剤、前記製造品または前記組成物の投与により、以下:
(i)ミューラー細胞の増強された活性化;
(ii)グルタミン合成酵素の局所的発現の増加;
(iii)血管透過性の低下;
(iv)虚血の発生の低下;
(v)網膜変性におけるマクロファージ動員の増強;
(vi)網膜変性におけるbFGFの局所的発現の増加;または
(vii)カスパーゼ3の発現の減少
のうちの1つまたは複数がもたらされる、項目38~54のいずれか一項に記載の方法。