(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】遺伝子改変細胞をポジティブに選択して、排除するための短ヘアピンRNA(SHRNA734)およびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20230919BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230919BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230919BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20230919BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230919BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230919BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230919BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20230919BHJP
【FI】
A61K31/519 ZNA
A61K31/7088
A61P29/00
A61P31/18
A61P37/06
A61P43/00 105
C12N5/10
C12N15/113 130Z
(21)【出願番号】P 2021177252
(22)【出願日】2021-10-29
(62)【分割の表示】P 2018543719の分割
【原出願日】2017-02-17
【審査請求日】2021-11-25
(32)【優先日】2016-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】アン,ドン スン
(72)【発明者】
【氏名】シミズ,サキ
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-520757(JP,A)
【文献】国際公開第2005/056761(WO,A2)
【文献】Differential activation of the hprt gene on the inactive X chromosome in primary and transformed Chinese hamster cells.,Mol Cell Biol,1989年,9(4),pp.1635-1641,DOI: https://doi.org/10.1128/mcb.9.4.1635-1641.1989
【文献】HACKE, K., et al.,"Genetic modification of mouse bone marrow by lentiviral vector-mediated delivery of HPRT shRNA conf,Transplant Proc.,2013年,Vol.45, No.5,pp.2040-2044
【文献】NARUKAWA, M., et al.,"Efficient selection of genetically engineered HIV resistant cells by short hairpin RNA mediated HPR,Molecular Therapy,2013年05月,Vol.21, No.suppl.1,S204,[503]
【文献】NARUKAWA, M., et al.,"Efficient selection of genetically engineered HIV resistant cells by short hairpin RNA mediated HPR,International Journal of Antimicrobial Agents,2013年,Vol.42S2,p.S128,[P274]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
C12N 5/00- 5/28
C12N 15/00-15/90
A61P 29/00-29/02
A61P 31/00-31/22
A61P 37/00-37/08
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子改変細胞からの有害な副作用を治療するための医薬組成物であって、
前記医薬組成物は、メトトレキサートを含
み、前記遺伝子改変細胞は、HPRTを標的とする短ヘアピンリボ核酸(shRNA)をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドを含み、前記有害な副作用は、移植片対宿主反応またはサイトカインストーム症候群である、医薬組成物。
【請求項2】
前記shRNAは、短ヘアピンリボ核酸分子734(shRNA734)を含み、前記shRNA734核酸配列は、配列番号1を含む、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記メトトレキサートは、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を阻害することによって、前記遺伝子改変細胞において細胞死を誘導する、請求項
2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドは、発現制御配列をさらに含む、請求項
2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記発現制御配列は、前記shRNA734の上流の5’の長い末端反復(LTR)、および前記shRNAの下流の3’LTRを含む、請求項
4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ポリヌクレオチドは、5’LTRの下流かつ前記shRNA734の上流に配置された目的の遺伝子をさらに含む、請求項
5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記shRNA734は、ヒト7SK RNAプロモーターの制御下にある、請求項
2に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記7SK RNAプロモーターは、配列番号3、配列番号4、および配列番号5から選択される配列を含む、請求項
7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記遺伝子改変細胞は、腫瘍特異的T細胞受容体またはキメラ抗原受容体を有する遺伝子改変T細胞である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記遺伝子改変細胞は、造血幹細胞/前駆細胞である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記遺伝子改変細胞は、ex vivoでグアニン類似体代謝拮抗物質と接触させて未改変細胞から選択した、遺伝子改変細胞の精製された集団からの細胞である、請求項
2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年2月19日出願の米国特許仮出願第62/297,432号の利益を請求し、その内容全体を参照により本出願に組み込む。
【0002】
連邦政府資金による研究開発の記載
本発明は、米国国立衛生研究所により授与されたAI028697、AI117941の下で政府の支援によりなされた。連邦政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
EFS-WEB経由で提出された配列表への参照
ファイルサイズ3kbの「UCLA239WOU1_SL」と命名された配列表のASCIIテキストファイルの内容は、2017年2月17日に作成され、本明細書とともにEFS-Web経由で電子提出された。配列表は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
発明の技術分野
本発明は、短ヘアピンリボ核酸分子(shRNA)と、同リボ核酸分子を含みおよび/またはコードするポリヌクレオチドとを含み、これを用いてヒポキサンチングアニンホスホリポシルトランスフェラーゼ(HPRT)をノックダウンする(例えば、その発現を停止させる)ことができる、核酸分子、ならびに同分子を用いる方法に関する。本方法は、例えば、細胞においてHPRTをノックダウンする方法、細胞においてグアニン類似体代謝拮抗物質への耐性を付与する方法、選択可能な遺伝子改変細胞を作製する方法、目的の遺伝子で遺伝子改変した細胞を複数の細胞から選択する方法、目的の遺伝子で遺伝子改変した細胞を複数の細胞から除去する方法、およびある疾患または状態を有する対象、例えば、HIVに感染した対象を治療する方法を包含する。
【背景技術】
【0005】
ヒト幹細胞を改変するための遺伝子治療戦略は、多くのヒト疾患を治療するために、かなり有望である。しかし、主に遺伝子改変幹細胞の低い生着に起因し、これまでの臨床試験は、限定的にしか成功しなかった。この課題を解決する一戦略は、HPRT発現をノックダウンし、それによって、グアニン類似体代謝拮抗物質に対する耐性を付与することで遺伝子改変細胞の選択を容易にする幹細胞エンジニアリングを含む。
【0006】
HPRTを破壊する努力がなされてきたが、HPRT遺伝子を直接標的とするより効果的な材料および方法の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、短ヘアピンリボ核酸分子734(shRNA734)を含むポリヌクレオチドと、それを用いる方法とを提供することによってこれらや他の必要性を満たす。本発明は、幹細胞に基づく遺伝子治療戦略のための遺伝子改変細胞の生着を改善するために用いることができる小RNAに基づく化学選択戦略を提供する。
【0008】
代表的な実施形態において、shRNA734核酸コード配列は、配列番号1である。一部の実施形態において、ポリヌクレオチドは発現制御配列をさらに含む。一部の実施形態において、発現制御配列は、shRNAの上流に5’末端反復配列(LTR)と、shRNA734の下流に3’LTRとを含む。
【0009】
一実施形態において、ポリヌクレオチドは、5’LTRの下流かつshRNA734の上流に配置された目的の遺伝子をさらに含む。一実施形態において、目的の遺伝子は、CCR5の阻害剤である。CCR5阻害剤の一例は、配列番号2(CCR5shRNA)である。一実施形態において、ポリヌクレオチドはウイルスベクターである。CCR5shRNAを有するポリヌクレオチドの代表的な実施形態は、
図1に示すベクターであり、図においてH1はヒトH1RNAプロモーターであり、UbCはヒトユビキチンプロモーターであり、7SKはヒト7SK RNAプロモーターであり、GFPは緑色蛍光タンパク質であり、C46はHIV融合阻害剤である。一部の実施形態において、GFPおよび/またはC46は、治療遺伝子などの目的の代替遺伝子と置き換えられる。上記のポリヌクレオチドを含む医薬組成物も提供される。
【0010】
本発明は、さらに、細胞においてヒポキサンチングアニンホスホリポシルトランスフェラーゼ(HPRT)をノックダウンする方法を提供する。一実施形態において、方法は、細胞において配列番号1の発現を可能にする条件下で、本明細書に記載のポリヌクレオチドと細胞を接触させることを含む。
【0011】
本発明は、さらに、細胞においてグアニン類似体代謝拮抗物質に対する耐性を付与する方法を提供する。一実施形態において、方法は、細胞において配列番号1の発現を可能にする条件下で、本発明のポリヌクレオチドと細胞を接触させることを含む。一実施形態において、グアニン類似体代謝拮抗物質は、6-チオグアニン(6TG)である。
【0012】
本発明が提供する別の方法は、選択可能な遺伝子改変細胞を作製する方法である。一実施形態において、方法は、目的の遺伝子および配列番号1の発現を可能にする条件下で、本発明のポリヌクレオチドと複数の細胞を接触させることを含む。一実施形態において、方法は複数の細胞から未改変細胞を除去することをさらに含む。除去することは、ポリヌクレオチドと接触させた複数の細胞をグアニン類似体代謝拮抗物質で処置することを含む。別の実施形態において、方法は複数の細胞から遺伝子改変細胞を除去することをさらに含む。除去することは、複数の細胞をメトトレキサート(MTX)で処置することを含む。
【0013】
本発明は、さらに、目的の遺伝子で遺伝子改変した細胞を複数の細胞から選択する方法を提供する。一実施形態において、方法は、遺伝子改変細胞を含む複数の細胞を接触させることを含み、該遺伝子改変細胞は、目的の遺伝子および配列番号1の発現を可能にする条件下で、本発明のポリヌクレオチドで改変されている。方法は、複数の細胞から未改変細胞を除去することをさらに含む。除去することは、ポリヌクレオチドと接触させた複数の細胞をグアニン類似体代謝拮抗物質で処置することを含む。
【0014】
目的の遺伝子で遺伝子改変した細胞を複数の細胞から除去する方法も提供される。一実施形態において、方法は、遺伝子改変細胞を含む複数の細胞を接触させることを含み、該遺伝子改変細胞は、目的の遺伝子および配列番号1の発現を可能にする条件下で、本発明のポリヌクレオチドで改変されている。方法は、遺伝子改変細胞を複数の細胞から除去することをさらに含む。除去することは、メトトレキサート(MTX)で複数の細胞を処置することを含む。
【0015】
本発明は、さらに、HIVに感染した対象を治療する方法を提供する。一実施形態において、方法は、目的の遺伝子および配列番号1の発現を可能にする条件下で、本発明のポリヌクレオチドで改変されている複数の造血幹細胞/前駆細胞(HSPC)を接触させることを含む。方法は、遺伝子改変細胞の精製された集団を形成するために、ポリヌクレオチドと接触させた複数の細胞をグアニン類似体代謝拮抗物質で処置すること、次いで遺伝子改変細胞の精製集団を対象に投与することをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】CCR5 shRNAおよびHPRT shRNAを含む代表的なレンチウイルスベクターの概略図を示す。
【
図2】HPRT発現およびノックダウンに関与する代謝経路の概略図を示す。
【
図3】6TGによってポジティブに選択されたHPRT欠損細胞の概略図を示す。
【
図4】HPRT shRNAのレンチウイルスベクター送達によって、6TGによるHPRTノックダウンの効率的な選択がもたらされることを示すグラフである。HPRTノックダウンMolt4-CCR5、PBMCおよびCD34+細胞の6TGによる選択。shRNAベクター形質導入細胞および対照ベクター形質導入細胞を6TGとともに、または6TGを含まずに培養した。
【
図5】Molt4CCR5細胞におけるCCR5の下方制御を示すグラフである。
【
図6】ベクター形質導入細胞におけるHPRTノックダウンの解析結果を示す。示された時点での形質導入の後、全細胞溶解液をウエスタンブロットによって解析した。
【
図7】安全性のためにMTXによるHPRTノックダウン遺伝子改変細胞の除去の概略図を示す。
【
図8】HPRTノックダウン細胞におけるジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)誘発性細胞死のMTX媒介性阻害を示す折れ線グラフである。
【
図9】BLTヒト化マウスモデルを用いた、HPRT/CCR5 shRNAベクター形質導入CD34+造血幹細胞/前駆細胞の生着の改善を示す概略図である。ヒト胎児肝臓由来CD34+細胞に二重shRNAベクター(HPRT shRNAとCCR5 shRNA)または対照ベクターのいずれかを別々に形質導入する。二重shRNA形質導入細胞および対照ベクター形質導入細胞を1:1の割合で混合し、ヒト胸腺を有するNSGマウスに腎臓被膜内および静脈内に移植した。
【
図10】タイムラインに示すように、処置群には、手術後1週間から6TGを注射した。グラフは、マウスPBMCにおいて、手術から0週目(左のグラフ)および8週目にFACSで測定したヒトCD45+細胞中のマーカー(EGFPまたはmCherry)のパーセンテージを示す。
【
図11】BLTマウスからのベクター改変脾細胞のex vivo選択を示すグラフである。
【
図12】変異型7SKプロモーターを有する化学選択可能な抗HIV遺伝子レンチウイルスベクターの模式図を示す。HPRT sh734発現を減少させるために、7SK RNAポリメラーゼIIIプロモーターの遠位配列エレメント(DSE)に変異を導入した。ベクターも、抗CCR5 shRNA sh1005およびEGFPを発現する。模式図に示すように、変異型プロモーターは野生型7SKプロモーターの活性の17%を示す。
【
図13】ヒト化BLTマウスにおいて7SK変異型1を有する新たに開発されたベクターによる、ベクター改変ヒト造血細胞のin vivoでのポジティブ選択の改善を示すグラフである。BLTマウスは、7SKプロモーター内に変異型1を有するベクターを有するCD34+HSPCで再構成された。マウスは、一週間に1回、合計8回、6TGで処置した、または処置を施さなかった。末梢血由来のヒトCD45+、CD3+、CD4およびCD8+リンパ球を、9週間後の時点でEGFP発現について解析した。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書に記載のヒトヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)に指向する新規で強力な短ヘアピンRNA(shRNA734)は、遺伝子改変幹細胞の効率的なポジティブ選択のために、臨床的に利用可能なグアニン類似体代謝拮抗物質(6TG)への耐性を付与するように、コンディショニングおよびin vivo選択戦略によって遺伝子改変幹細胞生着の速度を改善する。6TGはHPRTによって代謝され、および活性な毒性代謝物質はDNAおよびNAに取り込まれて、細胞毒性を生じる。shRNA734媒介HPRTノックダウンより、活性な毒性代謝物質の形成を阻止することができ、shRNA734遺伝子改変HPRTノックダウン幹細胞の選択が可能になる。
【0018】
例えば、抗HIV遺伝子とshRNA734のレンチウイルスベクター媒介共送達は、ヒト幹細胞において安定したHPRTのノックダウンをもたらすことができ、6TGプレコンディショニングおよび化学選択によって移植されたこれらの遺伝子改変幹細胞は、HIV感染の安定した制御を達成するために、HIV保護幹細胞の生着を改善することができる。遺伝子改変細胞は、HIV-1のR5とX4の両指向性を阻止することができた。さらに、ポジティブ選択に加えて、shRNA734媒介HPRTノックダウン戦略の新規の特徴は、プリンデノボ合成経路においてジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)阻止するために、メトトキサート(MXT)を用いることによってHPRT欠損細胞を除去することができる。したがって、予想外の有害反応が観察される場合、遺伝子改変HSPCを除去するための安全手順としてこれを開発することができる。
【0019】
強力で非毒性のHPRT shRNAは、in viroでレンチウイルスベクター形質導入ヒトT細胞株、CD34+細胞および初代末梢血単核球(PBMC)の6TG媒介ポジティブ選択を可能にする。sh734を送達し、ヒトT細胞株、初代末梢血単核球細胞およびCD34+造血幹細胞/前駆細胞においてHPRTを安定してノックダウンするために、レンチウイルスベクターを利用した。6TGに対する耐性をもたらす効率的なHPRTノックダウンが存在した。ベクター形質導入細胞は、6TGの存在下でポジティブに選択された。
【0020】
抗HIV-1幹細胞に基づく遺伝子治療へのshRNA734の適用を試験するために、レンチウイルスベクターからのsh734およびsh1005(CCR5 HIV共受容体に指向するshRNA)の同時発現により、CCR5およびHPRT発現が下方制御された。二重sh1005/HPRT shRNAベクター改変ヒトHSPCの最初のin vivoでの生着実験は、CCR5が下方制御されたヒト化BLTマウスにおいてヒトT細胞の再構成を示す。BLTマウスからex vivo単離された脾細胞は、6TGによってポジティブに選択された。
【0021】
さらに、本発明は、HIV融合阻害剤C46を発現する組み合わせ抗HIVレンチウイルスベクター、およびCCR5とHPRTのためのshRNAを提供する。ベクター形質導入ヒト細胞株(K562、CCR5MT-4)はin vitroでポジティブに選択された。さらに重要なことには、初代PBMCおよび胎児肝細胞由来CD34+細胞も6TGによってポジティブに選択されることができる。加えて、ウエスタンブロットで測定すると、HPRT発現は6TG選択細胞において効率的にノックダウンされた。メトトレキサート(MTX)を用いて、形質導入細胞をネガティブに選択した。最終的に、6TGが選択した抗HIV(CCR5 shRNAとC46)ベクター形質導入CCR5 MT-4細胞は、in vitroでHIVに対して耐性であることを示した。
【0022】
これらの結果は、この新たに特定されたHPRT shRNAが効率的なポジティブ選択のためのレンチウイルスベクターにおいてshRNA(sh1005)とC46に指向するCCR5と組み合わせ可能なことを示している。
【0023】
ポジティブ選択戦略に加えて、MTXを用いて、in vitroでshRNA734を発現するヒトT細胞株およびCD34+細胞をネガティブに選択した。
【0024】
利点
このRNAに基づく技術には、既存のin vivo選択戦略に勝る利点がある。種々の薬剤耐性遺伝子を使用する以前のin vivo選択戦略を試験したが、許容できない毒性または不十分な選択効率を伴った。注目すべきことに、これらの手法は、大体において、外因性薬剤耐性遺伝子を過剰発現しているHSPCを、骨髄破壊的な放射線照射でプレコンディショニングされたレシピエントに移植することに依存してきた。
【0025】
現在までこの手法の成功した一例では、ヒトO6-メチルグアニン-DNAメチルトランスフェラーゼのP140K変異型(MGMT P140K)を使用し、O6-ベンジルグアニン(O6BG)および1,3-ビス(2-クロロエチル)-1-ニトロソウレア(BCNU)などのDNA傷害剤に対する耐性を付与する。レトロ/レンチウイルスベクターから発現されるMGMT P140Kは、マウス、非ヒト霊長類において形質導入HSPCの選択を可能にし、神経膠芽腫患者において骨髄保護のための臨床試験で検証されている。しかし、高レベルのMGMT P140K発現は、それ自体で細胞毒性を引き起こすことが報告されており、より一般的に、外因性薬剤耐性導入遺伝子タンパク質産物の潜在的免疫原性が懸念される。
【0026】
近年では、in vivoでのMGMT選択は、ブタオザルでのC46モノ抗HIV発現ベクター改変HSPC移植研究に適用された。しかし、比較的大きいMGMT P140Kを含むことによって、さらなる抗HIV遺伝子の利用できるベクターパッケージング能力を低下させ、複合ベクターゲノムを作製し、ベクター力価を低下させ得る。選択も、強力なアルキル化剤(BCNU)を必要とする。
【0027】
対照的に、本明細書に記載の戦略の場合、化学療法抵抗性は、内因性遺伝子の発現をノックダウンする、小さくて非免疫原性のshRNAによって付与される。HIV疾患のための遺伝子治療は複数の治療遺伝子の組み合わせを必要とするので、スモールRNAを用いたベクターのサイズを減少させることは大きなタンパク質分子よりも有利である。さらに、それはベクター設計および製造を容易にする。化学選択はプリン類似体代謝拮抗物質を用いる処置を必要とし、アルキル化剤よりも患者の不妊の問題が少ないことが知られている。
【0028】
定義
本出願において使用するすべての科学的および技術的用語は、特に定めない限り、当技術分野において通常使用される意味を有する。本出願で用いる場合、以下の語または句は明記する意味を有する。
【0029】
「核酸」または「ポリヌクレオチド」または「オリゴヌクレオチド」という用語は、一本鎖もしくは二本鎖のいずれの形態での一連のヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを指し、別段の限定がない限り、天然起源のヌクレオチドに似た様式で核酸にハイブリダイズする天然のヌクレオチドの知られている類似体を包含する。
【0030】
本明細書で用いる場合、「活性フラグメント」という用語は、標的ポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズする同じ機能を実行することができるオリゴヌクレオチドのかなりの部分を指す。
【0031】
本明細書で用いる場合、「ノックアウト」または「ノックダウンする」という用語は、遺伝子の発現を妨害するおよび/または不活性化することによって標的遺伝子が無効にされる遺伝学的技術指す。
【0032】
本明細書で用いる場合、「ハイブリダイズする」、「ハイブリダイズすること」および「ハイブリダイゼーション」とは、オリゴヌクレオチドが標準条件下で標的DNA分子との非共有結合相互作用を形成することを意味する。標準ハイブリダイズ条件は、オリゴヌクレオチドプローブまたはプライマーが標的DNA分子にハイブリダイズすることを可能にする条件である。そのような条件は、当業者に周知の技術を用いて、オリゴヌクレオチドプローブまたはプライマーと標的DNA分子について容易に判定される。標的ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、一般にオリゴヌクレオチドプライマーまたはプローブと相補的な配列である。ハイブリダイズするオリゴヌクレオチドは、非共有結合相互作用を形成することに干渉しない非ハイブリダイズするヌクレオチドを含み得る。オリゴヌクレオチドプライマーまたはプローブのヌクレオチドを非ハイブリダイズするヌクレオチドが、ハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの末端、またはハイブリダイズするオリゴヌクレオチド内に位置していてもよい。したがって、オリゴヌクレオチドプローブまたはプライマーは、標準ハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイゼーションが存在する限り、標的配列のすべてのヌクレオチドと相補的である必要はない。
【0033】
本明細書で用いる場合「相補体」および「相補的」という用語は、2つのDNA分子が互いに塩基対を形成する能力を指すが、1つのDNA分子上のアデニンは第2のDNA分子上のチミンと塩基対を形成し、1つのDNA分子上のシトシンは第2のDNA分子上のグアニンと塩基対を形成する。1つのDNA分子中のヌクレオチド配列が第2のDNA分子中のヌクレオチド配列と塩基対を形成することができるとき、2つのDNA分子は互いに相補的である。例えば、2つのDNA分子5’-ATGCと5’-TACGは相補的であり、DNA分子5’-ATGCの相補体は5’-TACGである。相補体および相補的という用語も、1つのDNA分子が第2のDNA分子上に存在する少なくとも1つのヌクレオチドと塩基対を形成しない少なくとも1つのヌクレオチドを含む2つのDNA分子を包含する。例えば、2つのDNA分子5’-ATTGCと5’-TATCGの各々の第3のヌクレオチドは、塩基対を形成しないが、これらの2つのDNA分子は、本明細書で定義するように、相補的である。一般的に、上述の標準条件下でハイブリダイズする場合、2つのDNA分子は相補的である。一般的に、2つのDNA分子が、少なくとも約80%の配列相同性、好ましくは少なくとも約90%の配列相同性を有する。
【0034】
本明細書で用いる場合、「発現制御配列」とは、核酸の転写を指示する核酸配列を意味する。発現制御配列は、プロモーター、例えば構成的プロモーターまたは誘導性プロモーター、またはエンハンサーであり得る。発現制御配列は、転写される核酸配列に作用可能に結合される。
【0035】
本明細書で用いる場合、「ベクター」とは、宿主細胞内の目的の1または複数の遺伝子または配列を送達することができる、好ましくは発現することができる構築物を意味する。
【0036】
本明細書で用い場合、「a」または「an」は別段に明記しない限り、少なくとも1つということを意味する。
【0037】
本明細書で用いる場合、状態または疾患を「予防する」または「保護する」とは、状態または疾患の発症または進行を妨げる、軽減する、または遅らせることを意味する。
【0038】
本明細書で用いる場合、「単離した」という用語は、天然起源DNAフラグメント、DNA分子、コード配列またはオリゴヌクレオチドがその自然環境から取り出されている、または合成分子もしくはクローン化生成物である。好ましくは、DNAフラグメント、DNA分子、コード配列またはオリゴヌクレオチドは精製される、すなわち、他のいかなるDNAフラグメント、DNA分子、コード配列またはオリゴヌクレオチドおよび関連する細胞生成物または他の不純物を本質的に含まない。
【0039】
ポリヌクレオチドおよびそれを使用する方法
本発明は、短ヘアピンリボ核酸分子(shRNA)と、同リボ核酸分子を含むポリヌクレオチドとを提供し、これを用いてヒポキサンチングアニンホスホリポシルトランスフェラーゼ(HPRT)をノックダウンする(例えば、その発現を停止させる)ことができる。一実施形態において、本発明は、shRNA734をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドを提供し、ここでshRNA734核酸配列は配列番号1である。
【0040】
【0041】
一実施形態において、ポリヌクレオチドは発現制御配列をさらに含む。一実施形態において、ポリヌクレオチドは、例えばウイルスベクターなどのベクターである。一実施形態において、発現制御配列は、shRNAの上流に5’末端反復配列(LTR)と、shRNA734の下流に3’LTRとを含む。一実施形態において、ポリヌクレオチドは、5’LTRの下流かつshRNA734の上流に配置された目的の遺伝子をさらに含む。一実施形態において、目的の遺伝子は、CCR5の阻害剤である。CCR5の阻害剤の一例は、配列番号2(CCR5shRNA)である。
【0042】
【0043】
一実施形態において、ベクターは、
図1に示す概略図において示される要素を含み、
式中、
H1は、ヒトH1 RNAプロモーター(NCBI GenBank|S68670| H1 RNA遺伝子{プロモーター}ヒト、Genomic、497nt)であり、
UbCは、目的の遺伝子の発現を引き起こすために用いることができるヒトユビキチンプロモーター(ポリユビキチンのためのヒトUbC遺伝子、エクソン1~2、部分的コード領域、受入番号D63791)であり、
7SKは、ヒト7SK RNAプロモーター(ヒト細胞株HEK-293 7SK RNAプロモーター領域、完全配列、受入番号AY578685、配列番号3、あるいは配列番号4または5の新規変異型7SK RNAプロモーター)であり、
GFPは、緑色蛍光タンパク質(NCBI GenBank|L29345|オワンクラゲ(Aequorea victoria)緑色蛍光タンパク質(GFP)メッセンジャーmRNA、完全コード領域)であり、および
C46は、HIV融合阻害剤(Egelhofer M, Brandenburg G, Martinius H,ら,Inhibition of human immunodeficiency virus type 1 entry in cells expressing gp41-derived peptides.J Virol 2004;78(2):568-575.)である。
【0044】
CCR5およびC46を発現するベクターは2つの抗HIV遺伝子を備え、HPRTノックダウンと6TG媒介選択とを組み合わせて提供され得る。当業者は、目的の代替遺伝子、例えば治療遺伝子がベクター中でGFPおよび/またはC46と置換され得ることを理解する。一実施形態において、目的の遺伝子(複数可)は、長さが最高12kbである。別の実施形態において、目的の遺伝子(複数可)は、3また4までの遺伝子を直列に含む。一般的な実施形態において、切断ペプチドは、目的の遺伝子間に配列される。
【0045】
治療遺伝子(複数可)は、HIVまたは別の疾患または状態を対象とすることができる。例えば、治療遺伝子は、遺伝性遺伝子欠損を修正し、細胞傷害性薬剤に対する正常骨髄の薬物感受性を変化させ、リンパ造血細胞に影響を及ぼす感染性微生物に対する耐性を付与し、内因性免疫系を置き換える、もしくはリセットする、または内因性骨髄の置換を介しておよび移植片対白血病効果/リンパ腫効果の誘導を介して、リンパ造血悪性腫瘍と戦うために、設計することができる。
【0046】
より具体的には、遺伝性遺伝子欠損としては、鎌状赤血球貧血、サラセミア、遺伝性球状赤血球症、G6PD欠損などのヘモグロビン異常症を含む造血障害、重症複合型免疫不全(SCID)、慢性肉芽腫性疾患(CGD)などの免疫学的もしくは抗菌機能の障害、ウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)などの凝固障害につながる血小板の障害、ならびに例えば表皮水疱症(EB)の種々の形態とムコ多糖体沈着症などの組織損傷の部位に進む造血細胞の遺伝子操作によって寛解することができる他の遺伝構造または代謝異常を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0047】
化学毒性薬物に対する骨髄の薬物感受性の改変が有利である疾患には、最大耐量が骨髄毒性によって制限される化学療法剤によって治療される悪性疾患が含まれるが、これに限定されるものではない。これらには、肺癌、結腸直腸癌、乳癌、前立腺癌、膵癌、胃癌、肝癌、頭頸部癌、腎細胞癌、膀胱癌、子宮頸癌、卵巣癌、皮膚癌、肉腫および神経膠腫が挙げられる。
【0048】
骨髄移植または造血幹細胞移植を用いて、内因性免疫系を置換またはリセットする疾患には、炎症性腸疾患、強皮症、およびエリテマトーデスが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
感染性微生物に対する耐性を付与する疾患には、HIV感染症とAIDS、HTLV感染症およびパルボウイルスB19感染症が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
骨髄移植または造血幹細胞移植によって治療されるリンパ球造血の悪性疾患または前悪性疾患には、急性骨髄性白血病、急性リンパ球性白血病、リンパ腫および骨髄異形成症候群が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
この技術の治療適用の別の例は、放射線傷害および化学毒素によって引き起こされる内因性リンパ球造血への後天性損傷後の骨髄移植または造血幹細胞移植の結果を改善することであろう。
【0052】
この技術の治療的ではないが商業的に有用な適用は、その内因性リンパ球造血がほぼ完全にヒトドナー由来の細胞によって置換されているヒト化動物モデルを作製するためのその使用であろう。生成されたならば、そのような動物は、例えば、ヒト疾患への適用のために考慮される新薬の骨髄毒性を試験するために使用され得る。種々の薬物への造血の感受性が動物の種によって異なり得るので、これは有利であり、したがってヒト化動物モデルでそのような薬物を試験することが最も望ましい。
【0053】
一実施形態において、7SKは配列番号3である(ヒト細胞株HEK-293 7SK RNAプロモーター領域、完全配列。受入番号AY578685)。
【化3】
【0054】
別の実施形態において、7SKは、ヒト化BLTマウスにおいてベクター改変細胞をin vivoで発現するGFPの生着を改善する配列番号3の変異型体である(配列番号4)。
【化4】
【0055】
別の実施形態において、7SKは、ヒト化BLTマウスにおいて配列番号4に示す変異の一部またはすべてを用いることによって、ベクター改変細胞をin vivoで発現するGFPの生着を改善する配列番号3の変異型体であり、配列番号5を提供する。
【化5】
【0056】
本明細書に記載のように、本発明はポリヌクレオチドまたはその活性フラグメントを含む医薬組成物をさらに提供する。一部の実施形態において、ポリヌクレオチドまたはその活性フラグメントは、異種配列に結合される。異種配列は、例えば、検出を容易にするためにタグを加える、または送達もしくは溶解度を促進するパートナーを加えることによってポリヌクレオチドの使用を容易にするように選択することができる。組成物は、ポリヌクレオチドの生物活性の保持を容易にし、免疫系と反応しない1または複数の追加の成分を任意選択で含む。そのような薬学的に許容される担体は、当技術分野で周知である。
【0057】
方法
本発明は、細胞においてヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)をノックダウンする方法をさらに提供し、該方法は細胞において配列番号1の発現を可能にする条件下で本発明のポリヌクレオチドと細胞を接触させることを含む。細胞においてグアニン類似体代謝拮抗物質に対する耐性を付与する方法も提供し、該方法は細胞において配列番号1の発現を可能にする条件下で本発明によるポリヌクレオチドと細胞を接触させることを含む。一実施形態において、グアニン類似体代謝物質は、6-チオグアニン(6TG)、6-メルカプトプリン(6-MP)またはアザチオプリン(AZA)である。細胞代表的な例としては、造血幹細胞、T細胞、末梢血単核球(PBMC)およびCD34+細胞が挙げられるが、これに限定されるものではない。本明細書に記載の方法での使用に適した他の細胞を当業者なら理解するであろう。
【0058】
本発明は、選択可能な遺伝子改変細胞を作製する方法も提供し、該細胞は目的の遺伝子を発現するように改変されている。方法は、目的の遺伝子および配列番号1の発現を可能にする条件下で、本発明のポリヌクレオチドと複数の細胞を接触させることを含む。一実施形態において、方法は複数の細胞から未改変細胞を除去することをさらに含む。除去することは、ポリヌクレオチドと接触させた複数の細胞をグアニン類似体代謝拮抗物質で処置することを含む。別の実施形態において、方法は複数の細胞から遺伝子改変細胞を除去することをさらに含む。この実施形態において、除去することは、複数の細胞をメトトレキサート(MTX)で処置することを含む。
【0059】
さらに、本発明は遺伝子改変された細胞を目的の遺伝子で選択する方法を提供する。方法は、(a)遺伝子改変細胞を含む複数の細胞を接触させることであって、目的の遺伝子および配列番号1の発現を可能にする条件下で、遺伝子改変細胞が本発明のポリヌクレオチドで改変されている、接触させること、ならびに(b)複数の細胞から未改変細胞を除去することを含む。除去することは、ポリヌクレオチドで接触させた複数の細胞をグアニン類似体抗代謝物で処置することを含む。
【0060】
さらに、目的の遺伝子で遺伝子改変した細胞を複数の細胞から除去する方法を提供する。方法は、(a)遺伝子改変細胞を含む複数の細胞を接触させることであって、目的の遺伝子および配列番号1の発現を可能にする条件下で、遺伝子改変細胞が本発明のポリヌクレオチドで改変されている、接触させること、ならびに(b)複数の細胞から遺伝子改変細胞を除去することを含む。除去することは、複数の細胞をメトトレキサート(MTX)で処置することを含む。MTX媒介除去戦略は、望ましくない副作用または他の有害事象の場合、遺伝子改変細胞を除去するための安全手順を提供する。MTX媒介性排除戦略はまた、腫瘍特異的T細胞受容体またはキメラ抗原受容体(CAR)を有する遺伝子改変T細胞が、細胞を注入された患者において望ましくない副作用、例えばサイトカインストーム症候群、または移植片対宿主反応などを引き起こす場合、癌免疫遺伝子治療の副作用を緩和するためにも使用され得る。MTX処置は、患者内の遺伝改変細胞を排除し得る。
【0061】
さらなる実施形態において、本発明はHIVに感染している対象を治療する方法を提供する。一実施形態において、方法は、(a)目的の遺伝子および配列番号1の発現を可能にする条件下で、本発明のポリヌクレオチドで改変されている複数の造血幹細胞/前駆細胞(HSPC)を接触させること、(b)遺伝子改変細胞の精製集団を形成するために、ポリヌクレオチドで接触させた複数の細胞をグアニン類似体代謝拮抗物質で処置すること、ならびに(c)遺伝子改変細胞の精製集団を対象に投与することを含む。プリン類似体による選択は、所望のレベルの造血毒性まで滴定されることができる。必要に応じて、対象は再投与されることができる。
【0062】
一般的に、対象は哺乳動物である。哺乳動物対象は、マウス、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、霊長類またはヒトであり得る。一実施形態において、対象はヒトである。
【0063】
投与および投与量
組成物は、薬学的に許容された担体とともに、任意の適した様式で投与されることが多い。本発明と関連して処置を対象に施す適切な方法が利用可能であり、および特定の組成物を投与するために複数の経路を使用することができるが、特定の経路は別の経路よりも速効性で効果的な反応をもたらし得ることが多い。
【0064】
本発明と関連して患者に投与される用量は、患者において有益な治療反応を経時的にもたらす、または疾患の進行を阻害するのに十分であるべきである。したがって、組成物は、効果的な反応を誘発する、および/または疾患からの症状および/または合併症を緩和、軽減、治癒または少なくとも部分的に停止させるのに十分な量で対象に投与される。これを達成するのに十分な量は、「治療有効用量」と定義される。
【0065】
本明細書に開示される治療用組成物の投与経路および投与頻度、ならびに投与量は、個体によっておよび選択される薬物によって異なり、標準的な技術を用いて容易に達成することができる。一般に、医薬組成物は、注射(例えば、皮内、腫瘍内、筋肉内、静脈内または皮下)によって、(例えば、吸引によって)鼻腔内に、または経口で投与することができる。代替プロトコルは、個々の患者にとって適当であり得る。
【0066】
当業者には理解されるように、用量はmg/kg体重からmg/体表面積に変換することができ、後者はヒトを含むより大きな哺乳動物対象での使用に適している。相対的成長率のための計算機は、当技術分野で周知であり、容易にオンラインで入手される。一般に、相対的成長率は、0.75~0.80の指数を使用する。さらなる情報は、West & Brown,J Exp Bio 208,1575-1592,2005を参照されたい。加えて、米国食品医薬品局は、「Guidance for Industry: Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers」を公表しており、以下から入手可能である:Office of Training and Communications Division of Drug Information, HFD-240 Center for Drug Evaluation and Research Food and Drug Administration 5600 Fishers Lane Rockville,MD 20857。
【0067】
例えば、5mg/kgの6TGは、20gのマウスに対して15.08mg/m2の投与量に相当する。これは、65kgのヒトの場合、0.4mg/kgに等しい。経口での6TG投与後の吸収率は30%と推定され、したがって、マウスにおけるこの腹腔内投与量はヒトにおいて約1.3mg/kgの経口投与後の吸収用量に相当する。小児患者および成人において、従来の単剤化学療法の6TG経口用量は、2mg/体重kg/日であり、4週間後、処置反応が認められない場合、投与量を3mg/kgまで増量することができる。
【0068】
実施例
以下の実施例は、本発明を例示し、当業者がそれを作製し、使用するのを支援するために提示する。これらの実施例は、本発明の範囲を多少なりとも限定することを意図しない。
【0069】
実施例1:遺伝子改変HIV保護造血幹細胞/前駆細胞のためのin vivo選択戦略
HSPCに基づく抗HIV遺伝子治療により、HIV治癒への期待が大きくなっているが、これまでの臨床試験は、主に抗HIV遺伝子改変HSPCによる造血再構成の効率の低さにより、限定的にしか成功しなかった。この実施例では、この限定を克服するための新規の化学選択手法を述べる。
【0070】
抗HIV遺伝子改変HSPCの生着を改善するために、遺伝子操作された抗HIVHSPCを下方制御したヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェファーゼ(HPRT)のプレコンディショニングおよび化学選択の両方のために6-チオグアニン(6TG)をもっぱら利用する、すなわち遺伝子操作抗HIV改変HSPCおよび前駆体の生着および長期再構成を充実させることができる、in vivo選択戦略を検討した。遺伝子改変細胞に6TG耐性を付与するために、本発明者らは、レンチウイルスベクター形質導入HPRTノックダウンヒトT細胞株、CD34+細胞および初代末梢血単核球(PBMC)の6TG媒介ポジティブ選択を可能にするHPRT短ヘアピンRNA(shRNA)をin vitroで特定した。CCR5 shRNAおよびHPRT shRNAの同時発現ベクター改変ヒトHSPCのin vivo生着実験では、ヒト化BLTマウスにおいてCCR5が下方制御されたヒトT細胞の再構成を示す。BLTマウス由来のex vivo単離されたベクター改変脾細胞は、6TGによってポジティブに選択された。これらの結果は、本発明者らが新たに開発したHPRT shRNAが我々のポジティブ選択のためのベクター中のCCR5指向shRNAと組み合わせることができることを示している。
【0071】
ポジティブ選択に加えて、本HPRTノックダウン戦略の新規の特徴は、プリンデノボ合成経路においてジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を阻害することによって臨床的に利用可能なメトトキセート(MTX)によるHPRTノックダウン遺伝子改変細胞を除去するためのネガティブ選択として使用できることである。MTXは、in vitroでHPRT shRNAを発現するヒトT細胞株およびCD34+細胞に対してネガティブに選択された。したがって、予想外の副作用が観察された場合、遺伝子改変HSPCを排除する安全手順として開発することができる。
【0072】
本明細書に記載の新規in vivo化学選択戦略は、抗HIV遺伝子改変細胞の生着の効率を改善し、HIVに対する治療を提供する。6-チオグアニン(6TG)のケモトキシン耐性は、6TGなどのプリン類似体がその細胞毒性効果を発揮するために必要とする酵素であるヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェファーゼ(HPRT)を標的とする短ヘアピンRNA(shRNA)のレンチウイルスベクター媒介送達によって達成される。shRNAは小さく(20~22nt)、ベクター力価に大きく影響を及ぼすことなく、レンチウイルスベクターから同時発現させることができる。したがって、多方面の抗HIVベクターを開発するために他の抗HIV遺伝子との組み合わせは実現可能である。
【0073】
6TGによるHPRTノックダウン細胞のポジティブ選択は、
図4~6に例示されており、HPRT shRNAのレンチウイルスベクター送達が6GTによるHPRTノックダウンの効率的な選択肢をもたらすことを示している。6TGによるHPRTノックダウンMolt4-CCR5、PBMCおよびCD34+細胞の選択を
図4に示す。shRNAベクターおよび対照ベクターを形質導入した細胞は、6TGとともに、または6TGを含まずに培養した。
図5は、CCR5がMolt4CCR5細胞で下方制御されていることを示す。全細胞溶解液は、示された時点での形質導入の後、ウエスタンブロットによって解析した。ベクター形質導入細胞におけるHPRTノックダウンを
図6に示す。
【0074】
MTXによるHPRTノックダウン細胞のネガティブ選択を
図7に示す。図ではHPRTノックダウン細胞におけるジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)誘導性細胞死のMTX媒介性阻害の模式図を示す。代謝スキームは、酵素5’-ホスホリボシル-1-ピロホスファート(PRPP)アミドトランスフェラーゼにより媒介されるデノボプリン合成の第1の律速段階、およびヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)とアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APRT)により媒介されるサルベージ経路を示す。デノボ合成は多段階過程によって生じ、イノシン一リン酸(IMP)分子を合成するには、4つのアミノ酸、1つのPRPP、2つの葉酸塩および3つのATPの寄与を必要とする。HPRTは、補助基質としてPRPPを使用し、プリン塩基ヒポキサンチンとグアニンからそれぞれイノシン一リン酸(IMP)とグアノシン一リン酸(GMP)のサルベージ合成を触媒する。HPRT欠損はその基質であるヒポキサンチンとグアニンの蓄積をもたらし、これらの基質はキサンチンオキシダーゼによって尿酸に変わる。APRT活性の上昇も、プリン過剰生産の一因となり得る。
【0075】
HPRT/CCR5ノックダウン遺伝子改変細胞のMTX媒介によるネガティブ選択の結果を
図8に示す。Molt4CCR5(A)、PBMC(B)およびCD34+(C)細胞は、二重shRNAベクターで形質導入した。形質導入細胞は、10μMのMTXとともに、またはMTXを含まずに培養した。細胞は、%EGFPをモニターし、MTXを含有する新鮮な培養液を3日ごとに与えた。
【0076】
HPRTノックダウンCD34+造血幹細胞/前駆細胞のin vivo選択は
図9および10に示す。
図9は、BLT huマウスモデルにおいて、HPRT/CCR5 shRNAベクター形質導入CD34+造血幹細胞/前駆細胞の生着を示す。ヒト胎児肝臓由来のCD34+細胞を二重shRNAベクター(HPRT shRNAとCCR5 shRNA)または対照ベクターのいずれかに別々に形質導入する。二重shRNA形質導入細胞および対照ベクター形質導入細胞を1:1の割合で混合し、これを、ヒト胸腺を有するNSGマウスの腎臓被膜内および静脈内に移植する。
【0077】
図10に示すように、処置群に手術から1週間後に、タイムラインごとに6TGを注射した。グラフは、手術後0週目(左グラフ)および8週目(右グラフ)にFACSで測定したマウスPBMCにおけるヒトCD45+細胞内のマーカー(EGFPまたはmCherry)のパーセンテージを示す。
【0078】
レンチウイルスベクターのHPRT shRNAとCCR5 shRNAの送達により、効率的なHPRTとCCR5共ノックダウンがもたらされ、6TGによるEGFP+ベクター形質導入細胞をポジティブに選択する能力が付与された。ベクター形質導入HPRTノックダウン細胞はMTXによってネガティブに選択される。HPRT/CCR5 shRNAベクター形質導入ヒト胎児肝臓CD34+ HSPCの生着は、ヒト化BLTマウスにおいてin vivo未処置群よりも6TG処置群において5倍増加した。
【0079】
BLTマウスからのベクター改変脾細胞のex vivo選択を
図11に示す。CD34+の形質導入効率は、15.6%であった。単離されたマウス脾細胞は、0.3μMの6TGとともに、および6TGを含まずに培養した。
【0080】
実施例2:HPRT shRNAとともに使用するためのプロモーターの改善
この実施例は、ヒト化BLTマウスにおいてGFP発現ベクター改変細胞のin vivoでの安定性を改善する変異型7SK RNAプロモーターを記述する。新規プロモーターは、配列番号4に示す配列を有する。
【0081】
ヒト化BLTマウスにおいてベクター形質導入CD34+ HSPCの移植から8~14週間後の末梢血中の6TGで選択されたベクターを有するin vivoのEGFP+ヒトCD45+リンパ球系細胞にわずかな低下が観察されたため、本発明者らはより安定した6TG選択可能抗HIV-1レンチウイルスベクターを開発した。本発明者らは、ヒト化BLTマウスにおいて、2つの短ヘアピンRNA(CCR5sh1005とHPRTsh734)の同時発現が移植したベクター形質導入CD34+HSPCおよび前駆体細胞の細胞増殖に悪影響を及ぼし得るとの仮説を設けた。この仮説は、U6などの強力なRNAポリメラーゼプロモーターIIIからのshRNAの過剰発現がヒトTリンパ球において細胞毒性を引き起こすことができ、弱いプロモーター(H1)を用いてshRNA発現を低下させることで細胞毒性効果を最小限に抑えることができるというこれまでの経験に基づいている(An.DS.,ら,Molecular Therapy 2006)。効率的なHPRT下方制御それ自体が細胞増殖に悪影響を及ぼし得る他の可能性が有り得る。
【0082】
ベクター改変細胞の安定性を改善するために、本発明者らは、HPRT shRNA発現のレベルを低下させることでこれらの悪影響を軽減し得るとの仮説を設けた。この仮説を検証するために、本発明者らは、遠位配列エレメント(DSE)内に変異を有する減弱7SKプロモーターからHPRT shRNA734を発現する3つのレンチウイルスベクターを開発した(変異型1.変異型2および変異型3)(
図12)。これまでの研究に基づいて、変異型1、変異型2および変異型3はHeLa細胞に遺伝子導入されると、HPRTsh734発現をそれぞれ17%、49%および67%低下させると予想される(Boyd DC,ら,J Mol Biol.1995 Nov 10;253(5):677-90)。HPRT shRNA734のレベルは、現在、siRNA PCR定量アッセイで測定されている。我々の結果および文献(Boyd DC,ら)に基づいて、変異型1を有するベクターは最低レベルでHPRTshRNA 734を発現すると予想される。変異型1がヒトHSPCおよびTリンパ球においてsh734発現を減少し得るかどうかは、不明であった。したがって、本発明者らは、さらに、in vitroでのベクターおよび6TG媒介選択の試験を行った。ベクター形質導入ヒトCCRT MT4細胞株は、in vitroで6TGによって効率的に選択された。
【0083】
ヒト化BLTマウスにおいて、7SK変異型1を有する新たに開発したベクターによるベクター改変ヒト造血細胞のin vivoポジティブ選択の改善が観察された。BLTマウスは、7SKプロモーター内に変異型1を有するベクターを有するCD34+HSPCによって再構成された。マウスは、一週間に1回、合計8回、6TGで処置した、または処置を施さなかった。末梢血由来のヒトCD45+、CD3+、CD4およびCD8+リンパ球を、9週間後の時点でEGFP発現について解析した。
【0084】
この実験からの結果は、以前のベクターよりも新たに開発したベクターを有する、末梢血中のベクター標識EGFP+ヒトCD45+、CD3+およびCD4+リンパ球が有意に高い(p値<0.05)ことを示す(
図13)。
【0085】
本出願全体を通して、種々の刊行物を参照している。本発明が関連する最先端技術をより完全に記載するために、これらの刊行物の開示は、その全体を参照によって本出願に組み込まれている。
【0086】
当業者は、前述の記載に開示された概念および特定の実施形態が、本発明の同じ目的を実行するための他の実施形態を修正または設計するための基礎として容易に利用できることを理解することになる。当業者は、そのような同等の実施形態が添付の特許請求の範囲に記載の本発明の趣旨および範囲から逸脱しないことも理解する。
【配列表】