(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】ロボット装置
(51)【国際特許分類】
B25J 13/00 20060101AFI20230919BHJP
【FI】
B25J13/00 Z
(21)【出願番号】P 2022196569
(22)【出願日】2022-12-08
(62)【分割の表示】P 2019188065の分割
【原出願日】2019-10-11
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390020477
【氏名又は名称】トライエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003373
【氏名又は名称】弁理士法人石黒国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 丈晴
(72)【発明者】
【氏名】東 和也
【審査官】國武 史帆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-205815(JP,A)
【文献】特開2019-84596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1エンドエフェクタ(5)を有し、この第1エンドエフェクタが3次元的に移動するように動作を制御される第1ロボット(2)と、
前記第1エンドエフェクタとは別の第2エンドエフェクタ(6)を有し、前記第1ロボットに設置され、前記第1ロボットの動作に応じて3次元的に移動する第2ロボット(3)と、
前記第1ロボットの動作を制御することにより、前記第1エンドエフェクタおよび前記第2ロボットを移動させるとともに、前記第2ロボットの動作を制御することにより、前記第2エンドエフェクタを前記第1エンドエフェクタに対して相対的に移動させる制御部(4)とを備え、
前記第2ロボットは、
前記第1ロボットにおける設置面(9)に対して垂直となる第1軸(3a)を有し、前記第1軸の周囲に回転駆動され、
前記制御部は、
前記設置面が水平面に対して所定の傾斜角(θ)を形成している状態において、重力に抗して、前記第2ロボットを上側に回転駆動して持ち上げるときの前記第1軸の回転可能範囲(α)を、前記傾斜角に基づき設定する限界設定部と、
この限界設定部で設定された前記回転可能範囲を超えて前記第2ロボットを上側に回転駆動する必要がある場合に、前記第1ロボットを動作させて前記傾斜角を小さくする傾斜緩和指令部と、
この傾斜緩和指令部により前記傾斜角を小さくした状態で、前記第2ロボットを回転駆動して前記回転可能範囲を超える方位を指向させる回転指令部と、
この回転指令部により定まった前記第2ロボットの方位を保ちつつ、前記第1ロボットを動作させて前記傾斜角を復元する傾斜復元指令部とを有することを特徴とするロボット装置。
【請求項2】
第1エンドエフェクタを有し、この第1エンドエフェクタが3次元的に移動するように動作を制御される第1ロボットと、
前記第1エンドエフェクタとは別の第2エンドエフェクタを有し、前記第1ロボットに設置され、前記第1ロボットの動作に応じて3次元的に移動する第2ロボットと、
前記第1ロボットの動作を制御することにより、前記第1エンドエフェクタおよび前記第2ロボットを移動させるとともに、前記第2ロボットの動作を制御することにより、前記第2エンドエフェクタを前記第1エンドエフェクタに対して相対的に移動させる制御部とを備え、
前記制御部は、
前記第1エンドエフェクタの個体を識別する個体識別部と、
前記第1エンドエフェクタの個体ごとに、前記第2エンドエフェクタの前記第1エンドエフェクタに対する相対移動の制御モードを記憶するモード記憶部と、
前記第1エンドエフェクタの個体が交換されたときに、前記制御モードを交換前の個体に対応するものから交換後の個体に対応するものに切り替えるモード切替部とを有することを特徴とするロボット装置。
【請求項3】
請求項1に記載のロボット装置において、
前記制御部は、
前記第1エンドエフェクタの個体を識別する個体識別部と、
前記第1エンドエフェクタの個体ごとに、前記第2エンドエフェクタの前記第1エンドエフェクタに対する相対移動の制御モードを記憶するモード記憶部と、
前記第1エンドエフェクタの個体が交換されたときに、前記制御モードを交換前の個体に対応するものから交換後の個体に対応するものに切り替えるモード切替部とを有することを特徴とするロボット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロボット装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な工業分野では、例えば、ロボットアームの先端に各種のエンドエフェクタを取り付け、ロボットの動作を制御することでエンドエフェクタを3次元的に移動させるロボット装置が汎用されている。例えば、特許文献1、2では、それぞれ、切削ツール、研磨ツールがエンドエフェクタとして取り付けられ、これら切削ツールや研磨ツールにより、被加工物に対して切削または研磨が施される。
【0003】
ところで、エンドエフェクタにより被加工物に対して所定の加工を施す場合、通常、別の処理が付随する。例えば、切削の場合、切削により生じた切削粉をエアで飛ばして除去したり、吸引により集塵したりする必要がある。
しかし、ロボット装置を用いる分野では、作業効率の改善に対する要求が高まる一方である。このため、上記のようなエンドエフェクタによる加工に付随する処理に対しても、更なる作業効率の改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-118990号公報
【文献】特開2019-115959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、ロボット装置において、エンドエフェクタによる加工に付随する処理に関し、作業効率の改善を達成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のロボット装置は、次の第1、第2ロボットおよび制御部を備える。まず、第1ロボットは、第1エンドエフェクタを有し、第1エンドエフェクタが3次元的に移動するように動作を制御される。また、第2ロボットは、第1エンドエフェクタとは別の第2エンドエフェクタを有し、第1ロボットに設置され、第1ロボットの動作に応じて3次元的に移動する。
【0007】
さらに、制御部は、第1ロボットの動作を制御することにより、第1エンドエフェクタおよび第2ロボットを移動させるとともに、第2ロボットの動作を制御することにより、第2エンドエフェクタを第1エンドエフェクタに対して相対的に移動させる。
また、本開示の第1の態様のロボット装置によれば、第2ロボットは、第1ロボットにおける設置面に対して垂直となる第1軸を有し、第1軸の周囲に回転駆動される。また、制御部は、以下の限界設定部、傾斜緩和指令部、回転指令部、および、傾斜復元指令部を有する。まず、限界設定部は、設置面が水平面に対して所定の傾斜角を形成している状態において、重力に抗して、第2ロボットを上側に回転駆動して持ち上げるときの第1軸の回転可能範囲を、傾斜角に基づき設定する。また、傾斜緩和指令部は、限界設定部で設定された回転可能範囲を超えて第2ロボットを上側に回転駆動する必要がある場合に、第1ロボットを動作させて傾斜角を小さくする。また、回転指令部は、傾斜緩和指令部により傾斜角を小さくした状態で、第2ロボットを回転駆動して回転可能範囲を超える方位を指向させる。さらに、傾斜復元指令部は、回転指令部により定まった第2ロボットの方位を保ちつつ、第1ロボットを動作させて傾斜角を復元する。
さらに、本開示の第2の態様のロボット装置によれば、制御部は、以下の個体識別部、モード記憶部およびモード切替部とを有する。まず、個体識別部は、第1エンドエフェクタの個体を識別する。また、モード記憶部は、第1エンドエフェクタの個体ごとに、第2エンドエフェクタの第1エンドエフェクタに対する相対移動の制御モードを記憶する。さらに、モード切替部は、第1エンドエフェクタの個体が交換されたときに、制御モードを交換前の個体に対応するものから交換後の個体に対応するものに切り替える。
これにより、ロボット装置において、第1エンドエフェクタによる加工に付随する処理に関し、作業効率の改善を達成する、という課題を潜在的に解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ロボット装置の全体構成図である(実施例1)。
【
図2】第2ロボットの傾斜角が90°であるときの状態を示す説明図である(実施例1)。
【
図3】
図2の状態における第2ロボットの回転可能範囲を示す説明図である(実施例1)。
【
図4】第2ロボットの傾斜角が90°未満であるときの状態を示す説明図である(実施例1)。
【
図5】
図4の状態における第2ロボットの回転可能範囲を示す説明図である(実施例1)。
【
図6】限界回避制御を示すフローチャートである(実施例1)。
【
図7】モード切替制御を示すフローチャートである(実施例1)。
【
図8】同時処理可能領域を示す説明図である(実施例1)。
【
図9】同時処理可能領域を示す説明図である(比較例1)。
【
図10】同時処理可能領域を示す説明図である(比較例2)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態のロボット装置を、以下の実施例に基づき説明する。
【実施例】
【0010】
〔実施例1の構成〕
実施例1のロボット装置1の構成を、
図1を用いて説明する。
ロボット装置1は、以下に説明する第1、第2ロボット2、3および制御部4を備え、第1、第2ロボット2、3は、それぞれ、第1、第2エンドエフェクタ5、6を有する。
【0011】
第1、第2ロボット2、3は、両方とも6つの関節を有する周知の多関節ロボットである。
まず、第1ロボット2は、例えば、水平面に対し第1軸2aが垂直となるように設置され、第1軸2aの周囲に回転駆動される。つまり、第1ロボット2の設置面は、水平面と平行であり、例えば、所定の作業スペースの床面に設定されている。また、第1ロボット2の先端には、所定の設置プレート8が取り付けられ、この設置プレート8に、第1エンドエフェクタ5および第2ロボット3が設置されている。
【0012】
次に、第2ロボット3は、設置プレート8に設けられた設置面9に対し第1軸3aが垂直となるように設置され、第1軸3aの周囲に回転駆動される。さらに、第2ロボット3の先端には、第2エンドエフェクタ6が設置されている。
なお、第2ロボット3、第1、第2エンドエフェクタ5、6および設置プレート8の質量の合計は、第1ロボット2の可搬重量を超えないように設定されている。
【0013】
制御部4は、各種信号の入力装置や出力装置、マイクロコンピュータ、および、記憶装置等を有する周知構造を具備し、入力された各種の信号に基づき、第1、第2ロボット2、3、および、第1、第2エンドエフェクタ5、6の動作を制御する。そして、制御部4は、第1ロボット2の動作を制御することにより、第1エンドエフェクタ5および第2ロボット3を移動させるとともに、第2ロボット3の動作を制御することにより、第2エンドエフェクタ6を第1エンドエフェクタ5に対して相対的に移動させる。
【0014】
また、制御部4は、第1エンドエフェクタ5の動作を制御することにより、被加工物に所定の加工を行う。さらに、制御部4は、第1エンドエフェクタ5による加工の直前、直後、または、第1エンドエフェクタ5による加工と同時進行で、第2エンドエフェクタ6により所定の処理を行う。
【0015】
ここで、実施例1のロボット装置1は、被加工物を切削加工する切削装置に適用される。すなわち、実施例1のロボット装置1によれば、第1エンドエフェクタ5は、被加工体を切削する切削ツール、および、切削ツールを回転駆動するアクチュエータ等であり、第2エンドエフェクタ6は、切削粉を吹き飛ばすためのエアの吹出しノズルである。
そして、制御部4は、第1、第2ロボット2、3、第1エンドエフェクタ5としての切削ツールおよびアクチュエータ、ならびに、第2エンドエフェクタ6としての吹出しノズルの動作を制御して被加工体に対する切削制御を行う。
【0016】
制御部4による切削制御は、例えば、次のとおりである。
まず、第1ロボット2の動作制御により切削ツールを被加工体に接触させるとともに、第2ロボット3の動作制御により、切削粉の吹き飛ばしに適した位置に吹出しノズルを移動させる。この状態で、吹出しノズルからエアを吹き出させるとともに、アクチュエータを動作させて切削を開始する。
【0017】
さらに、第1ロボット2の動作制御により、切削ツールおよび第2ロボット3を移動させていき、被加工体における被加工部位を連続的に切り換えていく。同時に、必要に応じて、第2ロボット3の動作制御により、吹出しノズルを切削ツールに対して相対的に移動させていく。
以上により、実施例1のロボット装置1では、被加工部位を連続的に切り替えつつ、切削ツールによる切削を進めるとともに、切削により発生した切削粉を直ちに吹き飛ばして除去していく。
【0018】
このような切削制御の実行において、制御部4は、第2ロボット3の回転駆動に関して、必要に応じて、以下に説明する限界回避制御を行う。
限界回避制御とは、設置面9が水平面に対して傾斜している状態で(
図2および
図4参照。)、重力に抗して、第2ロボット3を上側に回転駆動して持ち上げる必要がある場合に、傾斜を緩やかにして第2ロボット3を回転駆動するものであり、第2ロボット3の第1軸3aの回転駆動の負担を軽減することを主目的としている。
【0019】
すなわち、設置プレート8における第2ロボット3の設置面9は、第1ロボット2の動作に応じて水平面に対する傾斜角θを変える。このため、重力に抗して、第2ロボット3を上側に回転駆動して持ち上げる必要が生じ、第1軸3aの回転可能範囲αには上限が生じる。ここで、回転可能範囲αは、傾斜角θが大きいほど狭くなり、傾斜角θが90°のときに(つまり、第2ロボット3が壁掛けの状態になるときに)、最も狭くなる(
図2および
図3参照。)。なお、傾斜角θが0°のときには、重力に抗して第2ロボット3を持ち上げる必要がないので、回転可能範囲αは、水平面に設置されたときと同様になり、最も広くなる。
【0020】
限界回避制御は、主に、次の限界設定部、傾斜緩和指令部、回転指令部および傾斜復元指令部を含んで構成されている。
まず、限界設定部は、設置面9が水平面に対して所定の傾斜角θを形成している状態において、重力に抗して、第2ロボット3を上側に回転駆動して持ち上げるときの第1軸3aの回転可能範囲αを、傾斜角θに基づき設定する。
【0021】
また、傾斜緩和指令部は、限界設定部で設定された回転可能範囲αを超えて第2ロボット3を上側に回転駆動する必要がある場合に、第1ロボット2を動作させて傾斜角θを小さくする。また、回転指令部は、傾斜緩和指令部により傾斜角θを小さくした状態で、第2ロボット3を回転駆動して回転可能範囲αを超える方位を指向させる。さらに、傾斜復元指令部は、回転指令部により定まった第2ロボット3の方位を保ちつつ、第1ロボット2を動作させて傾斜角θを復元する。
【0022】
さらに、切削制御の実行において、制御部4は、第1エンドエフェクタ5の個体の交換にあたり、必要に応じて、以下に説明するモード切替部として機能する(以下、制御部4がモード切替部として機能することにより実行される制御をモード切替制御と呼ぶ。)。
【0023】
モード切替部は、第1エンドエフェクタ5の個体が交換されたときに、第2エンドエフェクタ6の第1エンドエフェクタ5に対する相対移動の制御モードを交換前の個体に対応するものから交換後の個体に対応するものに切り替えるものである。言い換えると、モード切替制御は、切削ツールの個体が切り替わった場合に、相対移動の制御モードを、切替前の個体に対応するものから切替後の個体に対応するものに変更する。
【0024】
すなわち、モード切替制御は、切削制御の実行において、例えば、加工部位の切り替わりや被加工物の品種切り替わりに伴い、切削ツールの切替が必要になったときに、切替後の状況に応じて、第2エンドエフェクタ6としての吹出しノズルを、切削ツールに対して適切な位置に移動させることを主目的としている。
【0025】
ここで、ロボット装置1は、複数種類の切削ツールを収容する収容部11を備え(
図1参照。)、第1ロボット2は、収容部11において切削ツールを自在に着脱することができるように設けられている。そして、制御部4は、第1ロボット2の動作を制御することにより、不要となった切削ツールを離脱させて収容部11に収めさせ、新たに必要となる切削ツールを収容部11から取り出させて装着させる。
【0026】
また、収容部11において切削ツールの各個体の収容箇所には、収容されている個体を識別する信号を出力する識別信号出力部12が設けられており、制御部4は、識別信号出力部12から出力される信号に基づき、第1ロボット2に装着されている切削ツールの個体を識別する。つまり、制御部4は、第1エンドエフェクタ5の個体を識別する個体識別部としての機能を有する。
【0027】
また、制御部4は、次のモード記憶部を有する。すなわち、モード記憶部とは、 第1エンドエフェクタ5の個体ごとに、第2エンドエフェクタ6の第1エンドエフェクタ5に対する相対移動の制御モードを記憶するものである。つまり、制御部4は、切削ツールの個体ごとに、吹出しノズルの切削ツールに対する相対移動の制御モードを記憶している。
【0028】
〔実施例1の制御方法〕
実施例1の制御方法の内、限界回避制御を、
図6に示すフローチャートに基づき説明する。
まず、ステップS1にて、傾斜角θの現在値を算出し、算出した傾斜角θの現在値に応じて第2ロボット3の回転可能範囲αを設定する。ここで、傾斜角θの現在値の算出は、例えば、第1ロボット2の各関節を動作させるモータの回転角に基づき算出することができる。また、回転可能範囲αは、重力により第2ロボット3が最も下に位置する方位d*を含むように設定される(
図3および
図5参照)。このステップS1が、限界設定部に相当する。
【0029】
次に、ステップS2で、現時点において、上記の切削制御等の実行に基づき、ステップS1で設定された回転可能範囲αを超えて、第2ロボット3を第1軸3aの周囲で回転駆動して持ち上げる必要があるか否かを判断する。つまり、現時点の第2ロボット3の回転角の目標値が、傾斜角θの現在値に基づき設定された回転可能範囲αを超えているか否かを判断する。この結果、回転可能範囲αを超えて第2ロボット3を持ち上げる必要がある場合(YES)、ステップS3に進み、回転可能範囲αを超えて第2ロボット3を持ち上げる必要がない場合(NO)、今回のフローを終了する。
【0030】
ステップS3では、第1ロボット2を動作させて傾斜角θを小さくし、設置面9を水平面に近づける(例えば、設置面9を水平面と平行にしてもよい。)。このステップS2、S3が、傾斜緩和指令部に相当する。
次に、ステップS4では、傾斜角θを小さくした状態で、第2ロボット3を回転駆動して、ステップS1で設定した回転可能範囲αを超える方位を指向させる。つまり、傾斜角θを小さくした状態で、第2ロボット3の回転角を目標値に略一致させる。このステップS4が、回転指令部に相当する。
【0031】
そして、ステップS5では、ステップS4で定まった第2ロボット3の方位を保ちつつ、第1ロボット2を動作させて傾斜角θを復元する。つまり、回転指令部により定まった第2ロボット3の方位を保ちつつ、傾斜角θをステップS2実行以前の値に戻す。
【0032】
次に、実施例1の制御方法の内、モード切替制御を、
図7に示すフローチャートに基づき説明する。
まず、ステップS11にて、第1エンドエフェクタ5(切削ツール)の個体が交換されたか否かを判定する。この判定は、識別信号出力部12から出力される信号に基づき判定される。この結果、切削ツールの個体が交換されたと判定した場合、ステップS12に進み、交換されなかったと判定した場合、今回のフローを終了する。
【0033】
次に、ステップS12では、第2エンドエフェクタ6の第1エンドエフェクタ5に対する相対移動の制御モードを交換前の個体に対応するものから交換後の個体に対応するものに切り替えて第2ロボット3の動作制御を開始する。
【0034】
〔実施例1の効果〕
実施例1のロボット装置1によれば、第1、第2ロボット2、3は、それぞれ個別の第1、第2エンドエフェクタ5、6を有し、第1ロボット2は、第1エンドエフェクタ5が3次元的に移動するように動作を制御される。また、第2ロボット3は、第1ロボット2に設置され、第1ロボット2の動作に応じて3次元的に移動する。さらに、制御部4は、第1ロボット2の動作を制御することにより、第1エンドエフェクタ5および第2ロボット3を移動させるとともに、第2ロボット3の動作を制御することにより、第2エンドエフェクタ6を第1エンドエフェクタ5に対して相対的に移動させる。
【0035】
これにより、第1エンドエフェクタ5による加工の直前、直後または加工の進行と同時に第2エンドエフェクタ6による処理を行うことができる。このため、第1エンドエフェクタ5による加工に付随する処理を行うために、別の工程を追加したり、別の作業スペースを確保したりする必要がなくなる。この結果、第1エンドエフェクタ5による加工に付随する処理に関し、作業効率を改善することができる。
【0036】
また、第2ロボット3を第1ロボット2に搭載せずに、第1ロボット2と同様に、水平面と平行な床面に設置しても(
図9および
図10参照。)、第1エンドエフェクタ5による加工の直前、直後または加工の進行と同時に第2エンドエフェクタ6による処理を行うことができる(以下、
図9、
図10それぞれのロボット装置1A、1Bを比較例1、2とする。)。
【0037】
ここで、比較例1のロボット装置1Aは、第1エンドエフェクタ5の可動領域Aに、第2ロボット3の第1軸3aを含むものであり、比較例2のロボット装置1Bは、可動領域Aに、第2ロボット3の第1軸3aを含まないものである。
比較例1、2のロボット装置1A、1Bによれば、可動領域Aの内、第2エンドエフェクタ6が移動できる領域は、第2エンドエフェクタ6の可動領域Bが重なる領域のみである。このため、比較例1、2のロボット装置1A、1Bによれば、第1エンドエフェクタ5による加工と第2エンドエフェクタ6による処理とを時間的に接近させることができる領域(以下、同時処理可能領域Cと呼ぶことがある。)は狭い。
【0038】
これに対し、実施例1のロボット装置1によれば、第2ロボット3が第1ロボット2の動作に応じて自在に位置を変えることができるので、可動領域Bが、可動領域Aの外周側に大きく拡大し、可動領域Aの全領域が可動領域Bと重なる。これにより、可動領域Aの全領域が同時処理可能領域Cになるので、同時処理可能領域Cを比較例1、2のロボット装置1A、1Bよりも大幅に拡大することができる。
このように、実施例1のロボット装置1は、比較例1、2のロボット装置1A、1Bよりも同時処理可能領域Cを大幅に拡大することができるので、加工コストの低減に関しても、有利である。
【0039】
また、実施例1のロボット装置1によれば、制御部4は、第2ロボット3の回転駆動に関して、必要に応じて限界回避制御を行う。また、限界回避制御は、上記の限界設定部、傾斜緩和指令部、回転指令部および傾斜復元指令部を含んで構成されている。
これにより、第2ロボット3の持ち上げに対して第2ロボット3自体に係る負荷を低減することができる。このため、ロボット装置1の耐久性を高めることができる。
【0040】
さらに、実施例1のロボット装置1によれば、制御部4は、次の個体識別部、モード記憶部およびモード切替部を有する。まず、個体識別部は、第1エンドエフェクタ5の個体を識別し、モード記憶部は、第1エンドエフェクタ5の個体ごとに、第2エンドエフェクタ6の第1エンドエフェクタ5に対する相対移動の制御モードを記憶する。
【0041】
また、モード切替部は、第1エンドエフェクタ5の個体が交換されたときに、制御モードを交換前の個体に対応するものから交換後の個体に対応するものに切り替える。
これにより、第1エンドエフェクタ5の個体が切り替わるたびに、自動的に、第2エンドエフェクタ6を第1エンドエフェクタ5に対して最適な位置に配置することができる。このため、第1エンドエフェクタ5による加工に付随する処理に関し、更に、作業効率を改善することができる。
【0042】
〔実施例2〕
実施例2のロボット装置1は、実施例1と同様に切削装置に適用され、第1エンドエフェクタ5は、実施例1と同様の切削ツールである。一方、第2エンドエフェクタ6は、切削粉を吸い込むための吸い込みノズルである。
そして、制御部4は、実施例1と同様の切削制御を行い、切削制御を行う途中で、必要に応じて、実施例1と同様の限界回避制御およびモード切替制御を行う。
これにより、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0043】
〔実施例3〕
実施例3のロボット装置1は、実施例1と同様に切削装置に適用され、第1エンドエフェクタ5は、実施例1と同様の切削ツールである。一方、第2エンドエフェクタ6は、切削ツールを冷却および潤滑するための切削油の供給ノズルである。
そして、制御部4は、実施例1と同様の切削制御を行い、切削制御を行う途中で、必要に応じて、実施例1と同様の限界回避制御およびモード切替制御を行う。
これにより、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0044】
〔実施例4〕
実施例4のロボット装置1は、例えば、金属製の被加工物を熱間でヘミング加工する熱間ヘミング装置に適用される。すなわち、実施例4のロボット装置1によれば、第1エンドエフェクタ5は、被加工体に圧接しつつ転がるローラであり、第2エンドエフェクタ6は、被加工体を加熱するための熱風の吹出しノズルである。
【0045】
そして、制御部4は、第1、第2ロボット2、3等に対する動作制御により、吹出しノズルをローラに対して適切な位置に配置させ、さらに、ローラを移動させつつ被加工体を熱間でヘミング加工する。また、制御部4は、ヘミング加工する途中で、必要に応じて、実施例1と同様の限界回避制御およびモード切替制御を行う。
これにより、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0046】
〔実施例5〕
実施例5のロボット装置1は、例えば、複数の金属製の被加工物を摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置に適用される。すなわち、実施例5のロボット装置1によれば、第1エンドエフェクタ5は、被加工体に圧接しつつ回転する接合ツール、接合ツールを被加工物に対して離接させる第1アクチュエータ、および、接合ツールを回転駆動する第2アクチュエータ等である。また、第2エンドエフェクタ6は、接合ツールを冷却するための冷風の吹出しノズルである。
【0047】
そして、制御部4は、第1、第2ロボット2、3および第1エンドエフェクタ5等に対する動作制御より、吹出しノズルを接合ツールに対して適切な位置に配置させ、さらに、接合ツールを移動させつつ被加工体を摩擦攪拌接合する。また、制御部4は、摩擦攪拌接合する途中で、必要に応じて、実施例1と同様の限界回避制御およびモード切替制御を行う。
これにより、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0048】
〔実施例6〕
実施例6のロボット装置1は、例えば、金属製の被加工物を、スラリ状の研磨剤を用いて研磨する研磨装置に適用される。すなわち、実施例6のロボット装置1によれば、第1エンドエフェクタ5は、被加工体を研磨する研磨ツール、および、研磨ツールを回転駆動するアクチュエータ等であり、第2エンドエフェクタ6は、研磨剤の吐出ノズルである。
【0049】
そして、制御部4は、第1、第2ロボット2、3等に対する動作制御より、吐出ノズルを接合ツールに対して適切な位置に配置させ、さらに、研磨ツールを移動させつつ被加工体を研磨する。また、制御部4は、研磨する途中で、必要に応じて、実施例1と同様の限界回避制御およびモード切替制御を行う。
これにより、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0050】
さらに、実施例6のロボット装置1によれば、必要箇所に付着させた研磨剤が流下して移動する前に、研磨することができる。このため、研磨剤の流動性や、研磨剤を付着する箇所の傾斜等に対する自由度が高くなるので、作業効率を高めることができる。
【0051】
〔実施例7〕
実施例7のロボット装置1は、例えば、金属製の被加工物の表面を、プラズマ処理した上で塗装する塗装装置に適用される。すなわち、実施例7のロボット装置1によれば、第1エンドエフェクタ5は、塗料の吐出ノズルであり、第2エンドエフェクタ6は、プラズマ電極である。
【0052】
そして、制御部4は、第1、第2ロボット2、3、第2エンドエフェクタ6等に対する動作制御より、プラズマ電極を吐出ノズルに対して適切な位置に配置させ、さらに、吐出ノズルを移動させつつ被加工体の表面を塗装する。また、制御部4は、塗装する途中で、必要に応じて、実施例1と同様の限界回避制御およびモード切替制御を行う。
これにより、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0053】
さらに、実施例7のロボット装置1によれば、プラズマ電極は、第2エンドエフェクタ6として、3次元的に自在に移動することができるので、被加工物の表面をプラズマ処理するためのスペースが不要になる。
【0054】
〔変形例〕
実施例は具体的な一例を開示するものであり、本発明は、実施例に限定されない。
例えば、実施例のロボット装置1によれば、モード切替制御に必要な個体識別信号を、収容部11に設けた識別信号出力部12から出力していたが、個体自身に識別信号出力部12を設け、第1ロボット2に装着された個体から制御部4に個体識別信号を出力するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 ロボット装置 2 第1ロボット 3 第2ロボット 3a 第1軸 4 制御部 5 第1エンドエフェクタ 6 第2エンドエフェクタ 9 設置面 θ 傾斜角 α 回転可能範囲