(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータの流路構造
(51)【国際特許分類】
H01M 8/026 20160101AFI20230919BHJP
H01M 8/0263 20160101ALI20230919BHJP
H01M 8/0273 20160101ALI20230919BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230919BHJP
【FI】
H01M8/026
H01M8/0263
H01M8/0273
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2023053394
(22)【出願日】2023-03-29
【審査請求日】2023-05-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522195954
【氏名又は名称】株式会社水素パワー
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100117086
【氏名又は名称】山本 典弘
(74)【代理人】
【識別番号】100124383
【氏名又は名称】鈴木 一永
(74)【代理人】
【識別番号】100173392
【氏名又は名称】工藤 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100189290
【氏名又は名称】三井 直人
(72)【発明者】
【氏名】菅田 征二
(72)【発明者】
【氏名】竹中 寿夫
(72)【発明者】
【氏名】ファン・ヴァン・ヴ
(72)【発明者】
【氏名】平野 出穂
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-518239(JP,A)
【文献】特開2008-047293(JP,A)
【文献】特開2017-228482(JP,A)
【文献】特開2022-067981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜・電極構造体と、前記電解質膜・電極構造体を支持する枠体と、前記電解質膜・電極構造体の外側に配置される流動体流路を備えたカソード側セパレータとアノード側セパレータとからなる単位セルが、隣接する前記単位セルごとに前記カソード側セパレータの外側と、前記アノード側セパレータの外側とを接触させて複数個積層されてなる燃料電池スタックにおける、隣接する前記単位セルの前記カソード側セパレータと前記アノード側セパレータとによって形成される流路溝の構造であって、
前記流路溝を構成する前記カソード側セパレータは、前記カソード側セパレータを前記カソード側セパレータの平面と垂直な方向から見たときに波形に見えるカソード側セパレータ流路波形状を、
前記流路溝を構成する前記アノード側セパレータは、前記アノード側セパレータを前記アノード側セパレータの平面と垂直な方向から見たときに波形に見えるアノード側セパレータ流路波形状を、それぞれ、呈していて、
前記カソード側セパレータ流路波形状と、前記アノード側セパレータ流路波形状の波長と位相は同一であり、
(a)及び/又は(b)になっている燃料電池用セパレータの流路構造。
(a)積層されていて隣接する前記単位セルの前記カソード側セパレータと前記アノード側セパレータとの間で、前記カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさと、前記アノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとが異なっている。
(b)積層されていて隣接する前記単位セルの前記カソード側セパレータと前記アノード側セパレータとの間で、前記カソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさと、前記アノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさとが異なっている。
【請求項2】
前記(a)項において、前記カソード側セパレータ流路波形状の振幅が、前記アノード側セパレータ流路波形状の振幅よりも小さい請求項1記載の燃料電池用セパレータの流路構造。
【請求項3】
前記(b)項において、前記カソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅が、前記アノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅よりも広い請求項1又は2記載の燃料電池用セパレータの流路構造。
【請求項4】
前記カソード側セパレータ流路波形状、前記アノード側セパレータ流路波形状はいずれも円弧部と、直線部との組み合わせにより形成されている請求項1記載の燃料電池用セパレータの流路構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池用セパレータの流路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池では、
図1にその概要を示したように、枠体2によって支持された電解質膜・電極構造体1(電解質・電極構造体)(以下、明細書、図面において「MEA」と表すことがある。)を、セパレータ(カソード側セパレータ3、アノード側セパレータ4)によって挟持することで発電用の単位セル5が構成され、この単位セルの所定数を積層した燃料電池スタックが、例えば、車載用燃料電池スタックなどとして使用される。
【0003】
上述の燃料電池スタックは、例えば、電解質膜と、電解質膜を中心として電解質膜の両側にそれぞれ接合されている触媒層と、触媒層の外側にそれぞれ配置されるガス拡散層と、ガス拡散層の外側に配置される流動体流路を備えたカソード側セパレータとアノード側セパレータとからなる単位セルが、隣接する単位セルごとにカソード側セパレータの外側と、アノード側セパレータの外側とを接触させて複数個積層されることで形成される。
【0004】
この種の燃料電池では、一方のセパレータ(例えば、アノード側セパレータ)の面内に、アノード側電極に対向してガスを流すためのガス流路が設けられ、他方のセパレータ(例えば、カソード側セパレータ)の面内に、カソード側電極に対向して他のガスを流すための他のガス流路が設けられている。また、互いに隣接するセパレータ間には、電極範囲内に冷却媒体を流すための冷却媒体用の流路が形成されているのが一般的である。
【0005】
特許文献1には、電解質の両側に一対の電極が設けられる電解質・電極構造体と金属セパレータとが積層されるとともに、互いに隣接する金属セパレータ間に、電極面方向に沿って冷却媒体を流通させる流路が形成されている燃料電池が紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
単位セルを複数個積層して燃料電池を構成する場合、隣接するセル同士の接触面積を確保し、接触抵抗を低く保つことが重要になる。
【0008】
図2は、上述した特許文献1において、燃料電池の一実施形態の要部分解斜視説明図として特許文献1に
図1で図示されているものである。
【0009】
特許文献1の
図1(本願の
図2)に用いられている符号を用いて説明すると、特許文献1の
図1(本願の
図2)に図示されている燃料電池10は、電解質膜・電極構造体12と、電解質膜・電極構造体12を挟持する第1金属セパレータ14及び第2金属セパレータ16とを備えていて、図面中の矢印A方向に複数積層されて燃料電池スタック11が構成されることになっている。
【0010】
本願の
図2(特許文献1の
図1)に図示されている燃料電池で、図面中の矢印A方向からセパレータBC平面を見たときに視認できるカソード側流路形状、アノード側流路形状に関しては、例えば、
図3(a)に概略図示した形状、構造になっているものがある。波形のカソード側流路形状と、波形のアノード側流路形状とが同一になっているものである。
【0011】
図3(a)は、本願の
図2(特許文献1の
図1)に図示されている燃料電池で、図面中の矢印A方向から図面中のセパレータBC平面を見たときに視認できるカソード側流路形状、アノード側流路形状が、同一である場合の一例を説明する概念図である。
【0012】
同一であるので、波形のアノード側流路形状の振幅の大きさha=波形のカソード側流路形状の振幅の大きさhc、波形のアノード側流路形状の流路溝幅の大きさwa=波形のカソード側流路形状の流路溝幅の大きさwcになっている(
図3(a))。
【0013】
このように、本願の
図2(特許文献1の
図1)に図示されている燃料電池で、図面中の矢印A方向から図面中のセパレータBC平面を見たときに視認できるカソード側流路形状、アノード側流路形状が同一である場合、単位セルを積層したときにズレが生じていないならば、
図3(b)図示のようになる。一方、積層したときに、例えば、
図3(c)に上下方向矢印で示す方向にわずかでもズレが生じていると、積層時のわずかなズレに対して接触面積が大幅に減少する。
【0014】
図3(d)は、カソード側流路形状、アノード側流路形状が、上述したように、同一であるときに、積層によって隣接している単位セルとの間のズレの量と、隣接している単位セル同士の間の接触面積の減少についてシミュレーションした結果を表す図である。わずかなズレに対して接触面積が大幅に減少することがわかる。
【0015】
このように波形のカソード側流路形状と、波形のアノード側流路形状とが同一になっている場合、上述したように、積層時のわずかなズレに対して接触面積が大幅に減少することから、セパレータ公差や製造ばらつきに対して、接触抵抗を安定して低く保つことは簡単ではなくなる。
【0016】
この発明は、単位セルを複数個積層して燃料電池を構成する場合に、隣接するセル同士の接触面積を確保し、これによって接触抵抗を低く保つことを可能にする燃料電池用セパレータの流路構造を提案することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明が提案する燃料電池用セパレータの流路構造は、電解質膜・電極構造体と、前記電解質膜・電極構造体を支持する枠体と、前記電解質膜・電極構造体の外側に配置される流動体流路を備えたカソード側セパレータとアノード側セパレータとからなる単位セルが、隣接する前記単位セルごとに前記カソード側セパレータの外側と、前記アノード側セパレータの外側とを接触させて複数個積層されてなる燃料電池スタックにおける、隣接する前記単位セルの前記カソード側セパレータと前記アノード側セパレータとによって形成される流路溝の構造に関するものである。
【0018】
本発明が提案する流路構造では、前記流路溝を構成する前記カソード側セパレータは、前記カソード側セパレータを前記カソード側セパレータの平面と垂直な方向から見たときに波形に見えるカソード側セパレータ流路波形状を呈している。
【0019】
また、前記流路溝を構成する前記アノード側セパレータも、前記アノード側セパレータを前記アノード側セパレータの平面と垂直な方向から見たときに波形に見えるアノード側セパレータ流路波形状を呈している。
【0020】
そして、本発明が提案する流路構造は、以下の(a)及び/又は(b)になっているものである。
【0021】
(a)積層されていて隣接する前記単位セルの前記カソード側セパレータと前記アノード側セパレータとの間で、前記カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさと、前記アノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとが異なっている。
【0022】
(b)積層されていて隣接する前記単位セルの前記カソード側セパレータと前記アノード側セパレータとの間で、前記カソード側セパレータの流路溝幅の大きさと、前記アノード側セパレータの流路溝幅の大きさとが異なっている。
【0023】
前記カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさと、前記アノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとが異なっている形態の一例としては、前記カソード側セパレータ流路波形状の振幅が、前記アノード側セパレータ流路波形状の振幅よりも小さくなっている構造にすることができる。
【0024】
前記カソード側セパレータの流路溝幅の大きさと、前記アノード側セパレータの流路溝幅の大きさとが異なっている形態の一例としては、前記カソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅が、前記アノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅よりも広くなっている構造にすることができる。
【0025】
前記カソード側セパレータ流路波形状、前記アノード側セパレータ流路波形状はいずれも円弧部と、直線部との組み合わせにより形成されている形態にすることができる。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、単位セルを複数個積層して燃料電池を構成する場合に、隣接するセル同士の接触面積を確保し、これによって接触抵抗を低く保つことを可能にする燃料電池用セパレータの流路構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係る燃料電池用セパレータの流路構造が採用される燃料電池スタックの構成概要を説明する図。
【
図2】従来公知の燃料電池の一実施形態の要部分解斜視説明図。
【
図3】(a)~(c)は、燃料電池用セパレータの流路構造を構成する波型のカソード側流路形状と、波型のアノード側流路形状とが同一形状である場合、積層されたときのズレの発生と、ズレ発生に伴う接触面積の減少について説明する図であって、(a)は両者が同一形状であることを説明する概念図、(b)は同一形状の両者を重ねてズレが生じていない場合を説明する概念図、(c)は同一形状の両者を重ねてズレが生じるときに接触面積が減少することを説明する概念図、(d)は両者が同一形状であるときに、積層によって隣接している単位セルとの間のズレの量と、隣接している単位セル同士の間の接触面積の減少についてシミュレーションした結果を表す図。
【
図4】本発明に係る燃料電池用セパレータの流路構造が採用される燃料電池スタックの単位セルの一例を説明する分解斜視図。
【
図5】
図4に図示されている構造におけるカソード側セパレータ、アノード側セパレータに採用されている本発明に係る燃料電池用セパレータの流路構造の一例を、それぞれ、一部を省略し、一部を拡大して表した概念図。
【
図6】カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとアノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとを異ならせ、また、カソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさとアノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさとを異ならせた、本発明に係る燃料電池用セパレータの流路構造の
図5図示の部分に対応する箇所の一例を表す、一部を省略し、一部を拡大した斜視図であって、(a)は積層されているカソード側セパレータとアノード側セパレータとの間でズレが生じていない場合、(b)は図中のY方向にズレが生じている場合を表す図。
【
図7】
図4に図示されている構造におけるカソード側セパレータ、アノード側セパレータに採用されている本実施形態に係る流路構造の一例を、それぞれ、一部を省略し、一部を拡大して表した図。
【
図8】燃料電池用セパレータの流路構造を構成する波形のカソード側流路形状と、波形のアノード側流路形状とがいずれも正弦波形状で同一である場合、積層したときに発生するズレに伴って発生する接触面積の減少について行ったシミュレーションを説明する図。
【
図9】燃料電池用セパレータの流路構造を構成する波形のカソード側流路形状と、波形のアノード側流路形状とがいずれも正弦波形状であって、カソード側セパレータとアノード側セパレータとの間で、カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとアノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとが同一で、カソード側セパレータの流路溝幅の大きさとアノード側セパレータの流路溝幅の大きさとが異なっている場合、積層したときに発生するズレに伴って発生する接触面積の減少について行ったシミュレーションを説明する図。
【
図10】燃料電池用セパレータの流路構造を構成する波形のカソード側流路形状と、波形のアノード側流路形状とがいずれも正弦波形状であって、カソード側セパレータとアノード側セパレータとの間で、カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとアノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとが異なっていて、カソード側セパレータの流路溝幅の大きさとアノード側セパレータの流路溝幅の大きさとが同一である場合、積層したときに発生するズレに伴って発生する接触面積の減少について行ったシミュレーションを説明する図。
【
図11】(a)~(d)は、本発明の一実施形態に係る流路構造の一例について、それぞれ、従来例を説明した
図3(a)~(d)に対応させて表した図。
【
図12】(a)~(d)は、本発明の一実施形態に係る流路構造の他の例について、それぞれ、従来例を説明した
図3(a)~(d)に対応させて表した図。
【
図13】a)~(d)は、本発明の一実施形態に係る流路構造の更に他の例について、それぞれ、従来例を説明した
図3(a)~(d)に対応させて表した図。
【
図14】本発明の一実施形態に係る流路構造と、これに対応させた従来構造の流路構造について、それぞれ、ズレの発生に応じた接触面積の減少をシミュレーションした結果を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
この実施形態に係る燃料電池用セパレータの流路構造は、電解質膜・電極構造体と、前記電解質膜・電極構造体を支持する枠体と、前記電解質膜・電極構造体の外側に配置される流動体流路を備えたカソード側セパレータとアノード側セパレータとからなる単位セルが、隣接する前記単位セルごとに前記カソード側セパレータの外側と、前記アノード側セパレータの外側とを接触させて複数個積層されてなる燃料電池スタックにおける、隣接する前記単位セルの前記カソード側セパレータと前記アノード側セパレータとによって形成される流路溝の構造である。
【0029】
図4、
図5を用いて、本実施形態に係る流路構造における流路溝、カソード側セパレータ流路波形状、アノード側セパレータ流路波形状、カソード側セパレータ流路波形状の振幅、アノード側セパレータ流路波形状の振幅、カソード側セパレータの流路溝幅、アノード側セパレータの流路溝幅について説明する。
【0030】
図4は、本実施形態に係る燃料電池用セパレータの流路構造が採用される燃料電池スタックの単位セルの一例を説明する分解斜視図である。
図5は、
図4に図示されている構造におけるカソード側セパレータ、アノード側セパレータに採用されている本発明に係る燃料電池用セパレータの流路構造の一例について、それぞれ、
図4におけるX方向からセパレータYZ平面を見たときの一部を省略し、一部を拡大して表した概念図である。
【0031】
図5で上側に位置する単位セル(不図示)のセパレータ(例えば、アノードセパレータ)と、
図5で下側に位置する単位セル(不図示)のセパレータ(例えば、カソードセパレータ)との間に、
図5図示の例では、図面中において水素流路、空気流路、冷却水流路としている流路溝が形成される。
【0032】
本実施形態に係る流路構造では、前述の流路溝を構成するカソード側セパレータは、
図5に図示しているように、カソード側セパレータをカソード側セパレータの平面と垂直な方向から見たときに波形に見えるカソード側セパレータ流路波形状を呈している。
【0033】
また、前述の流路溝を構成するアノード側セパレータも、
図5に図示しているように、アノード側セパレータをアノード側セパレータの平面と垂直な方向から見たときに波形に見えるアノード側セパレータ流路波形状を呈している。
【0034】
前記において、カソード側セパレータ流路波形状、アノード側セパレータ流路波形状の波形とは、積層されていて隣接する単位セルのカソード側セパレータの外側表面と、アノード側セパレータの外側表面とに、
図5に図示しているように、それぞれ山部と谷部が周期的に形成されている形状をいう。
【0035】
平坦状部材の裏面(電解質膜が存在している中心側の面)から表面(積層されていて隣接する単位セルに対向している面)に向かって凸になっている領域を山部ということができ、この場合、平坦状部材の表面(積層されていて隣接する単位セルに対向している面)から裏面(電解質膜が存在している中心側の面)に向かって凹になっている領域が谷部と称されることになる。
【0036】
図5では、略矩形状の波形になっているが、波形は、特に限定されるものではなく、例えば、正弦波形状、三角波形状、台形波形状、矩形波形状などの波形がある。なお、正弦波形状とは、完全な正弦波だけでなく、歪んだ正弦波を含む形状をいい、三角波形状、台形波形状、矩形波形状においても同様である。
【0037】
カソード側セパレータ流路波形状、アノード側セパレータ流路波形状において、
図5でY方向にWで表す部分の大きさが、それぞれの流路溝幅の大きさになる。また、
図5でY方向になるそれぞれの波高さhが、カソード側セパレータ流路波形状、アノード側セパレータ流路波形状それぞれの振幅の大きさになる。
【0038】
図5は、本実施形態に係る流路構造における流路溝、カソード側セパレータ流路波形状、アノード側セパレータ流路波形状、カソード側セパレータ流路波形状の振幅、アノード側セパレータ流路波形状の振幅、カソード側セパレータの流路溝幅、アノード側セパレータの流路溝幅を説明するものであるので、カソード側セパレータとアノード側セパレータとの間で、カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとアノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとが同一で、カソード側セパレータの流路溝幅とアノード側セパレータの流路溝幅とが同一である状態で説明している。
【0039】
これに対して、
図6は、カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとアノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとを異ならせ、また、カソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさとアノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさとを異ならせた、本実施形態に係る燃料電池用セパレータの流路構造の
図5図示の部分に対応する箇所の一例を表す、一部を省略し、一部を拡大した斜視図である。
図6(a)では積層されているカソード側セパレータとアノード側セパレータとの間でズレは生じていない。
図6(b)では図中のY方向にズレが生じている実施形態である。
【0040】
図6に一例を示している、本発明の一実施形態に係る燃料電池用セパレータの流路構造は、上述したカソード側セパレータ流路波形状と、アノード側セパレータ流路波形状において、以下の(a)及び/又は(b)になっているものである。
【0041】
(a)積層されていて隣接する単位セルのカソード側セパレータとアノード側セパレータとの間で、カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさと、アノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとが異なっている。
【0042】
(b)積層されていて隣接する単位セルのカソード側セパレータとアノード側セパレータとの間で、カソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさと、アノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさとが異なっている。
【0043】
上記における(a)及び/又は(b)の構成、構造には、カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさ>アノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさ、あるいは、カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさ<アノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさであって、カソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさと、アノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさとの間の関係に関して以下の3パターンの中のいずれかの場合が含まれる。
【0044】
カソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさ=アノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさ、
カソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさ>アノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさ、
カソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさ<アノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさ
また、上記における(a)及び/又は(b)の構成、構造には、カソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさ>アノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさ、あるいは、カソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさ<アノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさであって、カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさと、アノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとの間の関係に関して以下の3パターンの中のいずれかの場合が含まれる。
【0045】
カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさ=アノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさ、
カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさ>アノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさ、
カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさ<アノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさ
上述した(a)及び/又は(b)の構成、構造になっていることで、単位セルを複数個積層して燃料電池を構成する場合に、隣接するセル同士の間でズレが生じても隣接するセル同士の接触面積が急激に減少することを抑制できる。そこで、上述した本発明に特有の構成、構造を採用することで、隣接するセル同士の接触面積を確保することが可能になり、これによって接触抵抗を低く保つことを可能にする燃料電池用セパレータの流路構造を提供することができる。
【0046】
上述した本発明に特有の構成、構造を採用することで上述した機序が実現されることの一例を、以下、添付図面を用いて説明する。
【0047】
図7は、
図4に図示されている構造におけるカソード側セパレータ、アノード側セパレータに採用されている本実施形態に係る流路構造の一例を、それぞれ、一部を省略し、一部を拡大して表した図である。
【0048】
図7に符号aで示されているものがアノード側セパレータにおけるアノード側流路形状の流路溝幅を示し、
図7に符号bで示されているものがカソード側セパレータにおけるカソード側流路形状の流路溝幅を示している。
【0049】
また、
図7に符号cで示されているものがアノード側セパレータにおけるアノード側流路形状の振幅の大きさを示し、
図7に符号dで示されているものがカソード側セパレータにおけるカソード側流路形状の振幅の大きさを示している。
【0050】
図7図示の流路構造では、積層されていて隣接する単位セルのカソード側セパレータとアノード側セパレータとの間で、カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさdが、アノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさcより小さい値となっている。また、積層されていて隣接する単位セルのカソード側セパレータとアノード側セパレータとの間で、カソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅bは、アノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅aより大きな値となっている。
【0051】
上記のように設定されていることで、単位セルを複数個積層して燃料電池を構成する場合に、隣接するセル同士の間でズレが生じても隣接するセル同士の接触面積が急激に減少することを抑制できる。そこで、隣接するセル同士の接触面積を確保することが可能になり、これによって接触抵抗を低く保つことを可能にする燃料電池用セパレータの流路構造を提供することができる。
【0052】
また、カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさd<アノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさc、カソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅b>アノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅aとなっている
図7図示の構造では、カソード側の流路は蛇行振幅が小さく、かつ流路溝幅が大きなものとなる。そこで、生成水の排出をより容易に行い、圧力損失をより低減する効果が得られる。
【0053】
なお、図示していないが、上述したa、b、c、dの各サイズに関して、
カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさd<アノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさc、なおかつ、カソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅b=アノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅a、という関係になる構造や、
カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさd=アノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさc、なおかつ、カソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅b>アノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅a、という関係になる構造にすることもできる。
【0054】
一般的に固体高分子型燃料電池では、カソードに流す空気量の方がアノードに流す水素量より大幅に多く、またカソード側では水も生成されるためより多くの流体を流すカソード側の流路を大きめに、抵抗の少ないストレート形状にすることが多い。そこで、上述したa、b、c、dの大きさの関係が、図示していないが、上述の2パターンのいずれかである場合にも、上述したように、カソード側の流体(空気、水)を円滑に流す上で有利である。
【0055】
本発明の一実施形態においては、カソード側セパレータ流路波形状、アノード側セパレータ流路波形状は、いずれも円弧部と、直線部との組み合わせにより形成されているものにすることができる。直線と円弧の組み合わせとすることにより、例えば流路を正弦波等で構成した場合に比べ、製図や製造をより容易に行うことができる。
【0056】
図7には、カソード側セパレータ流路波形状、アノード側セパレータ流路波形状がいずれも円弧部と、直線部との組み合わせにより形成されている構造の一例が表されている。
図7図示の実施形態では、カソード側セパレータ流路波形状、アノード側セパレータ流路波形状は、いずれにおいても交互に直線部と円弧部になっている。なお、
図7では、アノード側セパレータ流路波形状(図面における上側)と、カソード側セパレータ流路波形状(図面における下側)でと直線区間、円弧区間が微妙に異なるように図示されているが、これは、アノード側セパレータ流路波形状と、カソード側セパレータ流路波形状とでは振幅と溝幅が異なり、それに合わせるように円弧半径と直線長さを変更しているためである。
【0057】
上述した本発明に特有の構造を採用することによる作用、効果を、従来の構造についてシミュレーションした
図8の結果と、上述した本発明に係る実施形態の構造についてシミュレーションした
図9、
図10の結果とを比較して説明すると次のようになる。
【0058】
図8は、燃料電池用セパレータの流路構造を構成する波形のカソード側流路形状と、波形のアノード側流路形状とがいずれも正弦波形状で同一である場合、積層したときに発生するズレに伴って発生する接触面積の減少について行ったシミュレーションを説明する図である。
【0059】
カソード側流路形状と、波形のアノード側流路形状とが同一である場合は、ズレの発生に伴って急激に接触面積が減少している。
【0060】
図9は、燃料電池用セパレータの流路構造を構成する波形のカソード側流路形状と、波形のアノード側流路形状とがいずれも正弦波形状であって、カソード側セパレータとアノード側セパレータとの間で、カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとアノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとが同一で、カソード側セパレータの流路溝幅の大きさとアノード側セパレータの流路溝幅の大きさとが異なっている場合、積層したときに発生するズレに伴って発生する接触面積の減少について行ったシミュレーションを説明する図である。
【0061】
上述したように、波形のカソード側流路形状と、波形のアノード側流路形状とが異なっていることで、
図8の場合に比較して、接触面積の減少が遅くなることを確認できた。
【0062】
図10は、燃料電池用セパレータの流路構造を構成する波形のカソード側流路形状と、波形のアノード側流路形状とがいずれも正弦波形状であって、カソード側セパレータとアノード側セパレータとの間で、カソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとアノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとが異なっていて、カソード側セパレータの流路溝幅の大きさとアノード側セパレータの流路溝幅の大きさとが同一である場合、積層したときに発生するズレに伴って発生する接触面積の減少について行ったシミュレーションを説明する図である。
【0063】
上述したように、波形のカソード側流路形状と、波形のアノード側流路形状とが異なっていることで、
図8の場合に比較して、接触面積の変化率を低減する効果が発揮されることを確認できた。
【0064】
上述のシミュレーションに引き続いて、本実施形態に特有の上述した構成にすることで、単位セルを複数個積層して燃料電池を構成する場合に、隣接するセル同士の接触面積を確保することが可能になることを種々の場合でシミュレーションした結果は
図11~
図13の通りであった。
【0065】
図11~
図13では、カソード側流路形状、アノード側流路形状が、同一である従来の構造での一例を説明した
図3(a)~(d)に対比して説明している。
【0066】
図11は、波形のアノード側流路形状の振幅の大きさha>波形のカソード側流路形状の振幅の大きさhc、波形のアノード側流路形状の流路溝幅の大きさwa<波形のカソード側流路形状の流路溝幅の大きさwcという構造での場合を説明するものである。
【0067】
図11(c)図示のように積層して両方向矢印で示す方向にズレが生じても、ズレの大きさに応じて発生する接触面積の減少が始まるのが遅くなることを確認できた(
図11(d))。
【0068】
図12は、波形のアノード側流路形状の振幅の大きさha=波形のカソード側流路形状の振幅の大きさhc、波形のアノード側流路形状の流路溝幅の大きさwa<波形のカソード側流路形状の流路溝幅の大きさwcという構造での場合を説明するものである。
【0069】
図12(c)図示のように積層して両方向矢印で示す方向にズレが生じても、隣接している単位セル同士の間の接触面積の変化率が低減されることを確認できた(
図12(d))。
【0070】
図13は、波形のアノード側流路形状の振幅の大きさha>波形のカソード側流路形状の振幅の大きさhc、波形のアノード側流路形状の流路溝幅の大きさwa<波形のカソード側流路形状の流路溝幅の大きさwcという構造での場合を説明するものである。
【0071】
図13(c)図示のように積層して両方向矢印で示す方向にズレが生じても、隣接している単位セル同士の間の接触面積の減少量が抑制されることを確認できた(
図13(d))。
【0072】
図7図示の実施形態では、積層した際に対応する位置関係になるカソード側セパレータにおけるカソード側流路形状の流路溝幅b=アノード側セパレータにおけるアノード側流路形状の流路溝幅a×1.1となっている。
【0073】
また、積層した際に対応する位置関係になるカソード側セパレータにおけるカソード側流路形状の振幅の大きさd=アノード側セパレータにおけるアノード側流路形状の振幅の大きさc×0.9となっている。
【0074】
このような大きさの関係にあるカソード側セパレータとアノード側セパレータとが積層されて流路溝が形成される場合で、
図7にX方向、Y方向にズレが生じた場合に発生する接触面積の減少と、カソード側流路形状とアノード側流路形状とが同一である従来の構造(先行技術)のものをこれに対比させて、同様に、
図7にX方向、Y方向にズレが生じた場合に発生する接触面積の減少とをシミュレーションした結果は
図14図示の通りであった。
【0075】
図14において「本願」としているものが
図7図示の本実施形態に係る構造でのシミュレーション結果であり、「先行技術」としているものが従来の構造でのシミュレーション結果である。
【0076】
Y方向にズレが生じる場合でも、X方向にズレが生じる場合でも、
図7図示の本実施形態に係る構造の方が、接触面積の減少が抑制されることを確認できた。
【0077】
このように、上述した本実施形態特有の構造を採用することで、単位セルを複数個積層して燃料電池を構成する場合に、隣接するセル同士の間でズレが生じても隣接するセル同士の接触面積が急激に減少することを抑制できる。そこで、上述した本実施形態特有の構造を採用することで、隣接するセル同士の接触面積を確保することが可能になり、これによって接触抵抗を低く保つことを可能にする燃料電池用セパレータの流路構造を提供することができる。
【0078】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態に限られず、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々に変更可能である。
【要約】
【課題】単位セルを複数個積層して燃料電池を構成する場合に、隣接するセル同士の接触面積を確保し、これによって接触抵抗を低く保つことを可能にする燃料電池用セパレータの流路構造を提供する。
【解決手段】(a)積層されていて隣接する単位セルのカソード側セパレータとアノード側セパレータとの間で、波形のカソード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさと、波形のアノード側セパレータ流路波形状の振幅の大きさとが異なっている及び/又は(b)積層されていて隣接する単位セルのカソード側セパレータとアノード側セパレータとの間で、波形のカソード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさと、波形のアノード側セパレータ流路波形状の流路溝幅の大きさとが異なっている。
【選択図】
図13