(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】過酸化水素除染システム
(51)【国際特許分類】
A61L 2/20 20060101AFI20230919BHJP
【FI】
A61L2/20 106
(21)【出願番号】P 2023101602
(22)【出願日】2023-06-21
【審査請求日】2023-06-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599053643
【氏名又は名称】株式会社エアレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】川崎 康司
(72)【発明者】
【氏名】緒方 嘉貴
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/195971(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/090661(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L2/00
A61L9/00
C12M1/00
F24F7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業室の内部を除染する過酸化水素除染システムであって、
作業室と、空気循環手段と、過酸化水素水供給手段と、ミスト変換・供給手段と、ミスト拡散手段と、エアレーション手段とを備え、
前記作業室は、作業室内と外部環境との連通状態と密閉状態とを切り替える給気口と排気口とを具備すると共に、温度測定装置と湿度測定装置とを具備して作業室内の温度と湿度とを経時的に測定し、
前記空気循環手段は、空気循環ファンと高性能エアフィルタとを具備して、作業室内に清浄空気を循環し、
前記過酸化水素水供給手段は、貯留タンクと供給ポンプと供給配管と計量装置と濃度測定装置とを具備して、予め設定した量の過酸化水素水を前記ミスト変換・供給手段に供給し、
前記ミスト変換・供給手段は、前記過酸化水素水供給手段から供給された過酸化水素水を除染用ミストに変換して、当該除染用ミストを作業室内に供給し、
前記ミスト拡散手段は、作業室内に配置した震動盤を具備して、当該震動盤を超音波振動させて盤面から超音波による音響流を発生させ、作業室内に供給された前記除染用ミストを作業室内に拡散し、
前記エアレーション手段は、給排気ファンと高性能エアフィルタと過酸化水素分解装置とを具備して、前記作業室の外部環境から前記給気口を介して導入した空気を清浄空気に置換し、当該清浄空気を作業室内に導入して、除染後に作業室内に残留した過酸化水素と共に前記過酸化水素分解装置と前記排気口とを介して外部環境に放出する、
という構成を有し、
ステップ1において、前記空気循環手段を作動した状態で前記給気口と前記排気口とを閉鎖して作業室内を密閉状態とし、作業室内の温度と湿度が安定した状態で前記空気循環手段を停止し、
ステップ2において、前記過酸化水素水供給手段を作動して、供給ポンプと供給配管とを介して貯留タンクから過酸化水素水を前記ミスト変換・供給手段に供給しながら、計量装置と濃度測定装置とにより供給した過酸化水素水の量と濃度から、前記ミスト変換・供給手段に過酸化水素水として供給した過酸化水素水の重量及び濃度を経時的に算出すると共に、
前記ミスト変換・供給手段を作動して、前記過酸化水素水供給手段から供給される過酸化水素水の全量を除染用ミストに変換して前記作業室内に供給しながら、前記ミスト拡散手段を作動して前記除染用ミストを作業室内に拡散し、
ステップ3において、前記ミスト変換・供給手段による前記作業室内への除染用ミストの供給が完了した時点で、前記ミスト変換・供給手段を停止し、前記ミスト拡散手段を予め設定した除染時間において作動状態を維持し、
ステップ4において、前記ミスト拡散手段による予め設定した除染時間が完了した時点で、前記ミスト拡散手段を停止し、前記給気口と前記排気口とを開放すると共に、前記空気循環手段と前記エアレーション手段とを作動し、
ステップ5において、予め設定したエアレーション時間経過後に前記空気循環手段と前記エアレーション手段とを停止すると共に、前記給気口と前記排気口とを閉鎖して作業室内を密閉状態にする、
という各ステップからなり、
前記温度測定装置と湿度測定装置で経時的に測定した前記作業室内の温度と湿度、及び、前記計量装置と濃度測定装置で経時的に測定した前記作業室内に供給された過酸化水素水の重量及び濃度の各データから、
過酸化水素-水の気液平衡を用いて、前記作業室内の過酸化水素ガス濃度を連続的に算出することを特徴とする過酸化水除染システム。
【請求項2】
前記ステップ3において、前記作業室の内部の密閉状態が維持されると共に、外部環境から作業室内への物質及び/又は熱量の流入のない状態を維持して前記作業室内の除染が行われることを特徴とする
請求項1に記載の過酸化水素除染システム。
【請求項3】
前記ミスト拡散手段は、1又は2以上の震動盤を具備し、
前記震動盤は、基盤と複数の送波器とを具備して、前記基盤の平面上に前記複数の送波器の送波方向を統一して配置すると共にこれらの送波器を同位相で作動させることにより、
前記複数の送波器の正面方向の超音波を互いに強め合うと共に、当該複数の送波器の横方向の超音波を互いに打ち消し合うようにして、前記震動盤の盤面から垂直方向に指向性の強い超音波による音響流を発生させることを特徴とする
請求項1又は2に記載の過酸化水素除染システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンルームやアイソレーター装置などの内部を過酸化水素で除染する過酸化水素除染システムに関するものであり、特に過酸化水素の気液平衡を確認しながら行う過酸化水素除染システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品或いは食品などを製造する製造現場、或いは、手術室などの医療現場においては、室内の無菌状態を維持することが重要である。特に医薬品製造の作業室である無菌室の除染においては、GMP(Good Manufacturing Practice)に即した高度な除染バリデーションを完了させる必要がある。
【0003】
近年、無菌室などの作業室(以下、除染対象室という)の除染には、過酸化水素が広く採用されている。この過酸化水素は、強力な滅菌効果を有し、安価で入手しやすく、且つ、最終的には酸素と水に分解する環境に優しい除染ガスとして有効である。
【0004】
従来から、また現在においても主流は、除染対象室の内部で過酸化水素水を加熱蒸発させて過酸化水素ガスを発生する方法である。この方法は、「フラッシュ蒸発除染方式」と呼ばれる。この方法は、除染対象室の外部から内部に、例えば、30~35W/V%の過酸化水素水を供給し、除染対象室の内部に設けられた高温の蒸発装置で加熱し、過酸化水素ガスと水蒸気とを発生させる。そして、除染対象室の内部の空気を循環させて、過酸化水素ガスを室内に充満させる。このフラッシュ蒸発除染方式では、除染対象室内の過酸化水素ガス濃度を検知して、除染効果のパラメータとしている。
【0005】
一方、過酸化水素による除染効果は、除染対象部位(壁面や内部収納物)の表面に凝縮する過酸化水素水の凝縮膜によるものであることが下記特許文献1に記載されている。ところで、フラッシュ蒸発除染方式では、過酸化水素ガス濃度を除染効果のパラメータとするが、過酸化水素のガス濃度計の信頼性には限界があり、除染条件における過酸化水素ガス濃度は参考値としての取り扱いにとどまっている。また、除染に用いられている過酸化水素水には様々なグレード、規格値の物が供給されているが、濃度規格にはかなりの幅があり、さらにストックされている過酸化水素水の濃度は、徐々にではあっても経時的に常に変化するのが現状である。このように、除染対象室に除染操作のために供給されている過酸化水素水の正確な濃度管理が行われていないことが大きな課題であり、過酸化水素水の濃度が変化した場合に、除染対象室の内部の過酸化水素ガス濃度と室内に凝縮した凝縮膜中の過酸化水素濃度との関係が、十分に把握されないまま除染操作が行われているという問題があった。
【0006】
また、フラッシュ蒸発除染方式では、除染対象室の内部の空気を循環ファンにより循環させていることから、室内の部位により風量・風速の差が生じて室内全体に均一な凝縮膜を形成することができない。更に、高温の蒸発装置で過酸化水素水を蒸発させることから、室内の温度分布が変化して室内全体に均一な凝縮膜を形成することができない。そこで、フラッシュ蒸発除染方式による除染対象室の除染効果の不均一性を解決するために、投入する過酸化水素水の量を増やし、発生させる過酸化水素ガスの供給量を多くして過剰な凝縮膜を形成させる条件が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、除染対象室に過剰量の過酸化水素ガスを供給すると過度な凝縮が起こる部分が生じ、除染対象室の内部に設置されている各種製造設備や精密測定機器或いは除染対象室の壁面などが発生した高濃度の過酸化水素水の凝縮膜により腐食されるという不具合が生じる。また、過酸化水素による除染の後には、除染対象室の内部に残留した過酸化水素ガスや過酸化水素水の凝縮膜を清浄空気で除去するエアレーションを行う。しかし、過剰量の過酸化水素ガスを供給した場合には、除染対象室の壁面などに発生した高濃度の過酸化水素水の凝縮膜を除去するエアレーションに多くの時間を要するという問題があった。
【0009】
そのため、フラッシュ蒸発除染方式の課題である、過酸化水素水の使用量削減、除染サイクル時間の短縮、除染後の残留ガス濃度の低減に加え、過酸化水素水の凝縮膜に着目した除染方式が望まれる。これらの目的から、除染対象室の内部に過酸化水素ガスではなく過酸化水素水のミストを直接供給する方法が行われるようになった。
【0010】
この方法は、「ミスト投入除染方式」と呼ばれる。この方法は、常温の過酸化水素水と圧縮空気とを二流体ノズルなどで過酸化水素水ミストにして除染対象室の内部に供給する。しかし、この方法では圧縮空気の高速吐出でミストを拡散させるため、室内の部位により不均一な凝縮が発生し易く均一な除染を行うことが難しい。よって、この方法でも室内全体の除染効果を得るためには、どうしても過剰量の過酸化水素水ミストを供給しなければならない。
【0011】
また、この方法においても、除染効果のパラメータとして除染対象室内の過酸化水素ガス濃度を検知する方法がとられるが、除染対象室に供給する過酸化水素水の正確な濃度管理は行われておらず、投入する過酸化水素水の濃度が変化した場合に、除染対象室の内部の過酸化水素ガス濃度と室内に凝縮した凝縮膜中の過酸化水素濃度との関係を十分に把握できないまま除染操作が行われている。
【0012】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、除染対象室に供給する過酸化水素水の量と濃度とを正確に把握し、且つ、除染対象室内に均一な凝縮膜が形成される環境を整備して、室内の過酸化水素ガス濃度と凝縮膜中の過酸化水素濃度とを正確に管理することのできる過酸化水素除染システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、除染に使用する過酸化水素濃度を供給時に正確に確認すると共に、除染対象室の内部を無風状態とし、且つ、除染中の物質収支や熱収支のない除染環境を整えることで、過酸化水素水の気液平衡を確認することができるものと考え本発明の完成に至った。
【0014】
即ち、本発明に係る過酸化水素除染システムは、請求項1の記載によれば、
作業室の内部を除染する過酸化水素除染システムであって、
作業室と、空気循環手段と、過酸化水素水供給手段と、ミスト変換・供給手段と、ミスト拡散手段と、エアレーション手段とを備え、
前記作業室は、作業室内と外部環境との連通状態と密閉状態とを切り替える給気口と排気口とを具備すると共に、温度測定装置と湿度測定装置とを具備して作業室内の温度と湿度とを経時的に測定し、
前記空気循環手段は、空気循環ファンと高性能エアフィルタとを具備して、作業室内に清浄空気を循環し、
前記過酸化水素水供給手段は、貯留タンクと供給ポンプと供給配管と計量装置と濃度測定装置とを具備して、予め設定した量の過酸化水素水を前記ミスト変換・供給手段に供給し、
前記ミスト変換・供給手段は、前記過酸化水素水供給手段から供給された過酸化水素水を除染用ミストに変換して、当該除染用ミストを 作業室内に供給し、
前記ミスト拡散手段は、作業室内に配置した震動盤を具備して、当該震動盤を超音波振動させて盤面から超音波による音響流を発生させ、作業室内に供給された前記除染用ミストを作業室内に拡散し、
前記エアレーション手段は、給排気ファンと高性能エアフィルタと過酸化水素分解装置とを具備して、前記作業室の外部環境から前記給気口を介して導入した空気を清浄空気に置換し、当該清浄空気を作業室内に導入して、除染後に作業室内に残留した過酸化水素と共に前記過酸化水素分解装置と前記排気口とを介して外部環境に放出する、
という構成を有し、
ステップ1において、前記空気循環手段を作動した状態で前記給気口と前記排気口とを閉鎖して作業室内を密閉状態とし、作業室内の温度と湿度が安定した状態で前記空気循環手段を停止し、
ステップ2において、前記過酸化水素水供給手段を作動して、供給ポンプと供給配管とを介して貯留タンクから過酸化水素水を前記ミスト変換・供給手段に供給しながら、計量装置と濃度測定装置とにより供給した過酸化水素水の量と濃度から、前記ミスト変換・供給手段に過酸化水素水として供給した過酸化水素水の重量及び濃度を経時的に算出すると共に、
前記ミスト変換・供給手段を作動して、前記過酸化水素水供給手段から供給される過酸化水素水の全量を除染用ミストに変換して前記作業室内に供給しながら、前記ミスト拡散手段を作動して前記除染用ミストを作業室内に拡散し、
ステップ3において、前記ミスト変換・供給手段による前記作業室内への除染用ミストの供給が完了した時点で、前記ミスト変換・供給手段を停止し、前記ミスト拡散手段を予め設定した除染時間において作動状態を維持し、
ステップ4において、前記ミスト拡散手段による予め設定した除染時間が完了した時点で、前記ミスト拡散手段を停止し、前記給気口と前記排気口とを開放すると共に、前記空気循環手段と前記エアレーション手段とを作動し、
ステップ5において、予め設定したエアレーション時間経過後に前記空気循環手段と前記エアレーション手段とを停止すると共に、前記給気口と前記排気口とを閉鎖して作業室内を密閉状態にする、
という各ステップからなり、
前記温度測定装置と湿度測定装置で経時的に測定した前記作業室内の温度と湿度、及び、前記計量装置と濃度測定装置で経時的に測定した前記作業室内に供給された過酸化水素水の重量及び濃度の各データから、
過酸化水素-水の気液平衡を用いて、前記作業室内の過酸化水素ガス濃度を連続的に算出することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載の過酸化水素除染システムであって、
前記ステップ3において、前記作業室の内部の密閉状態が維持されると共に、外部環境から作業室内への物質及び/又は熱量の流入のない状態を維持して前記作業室内の除染が行われることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1又は2に記載の過酸化水素除染システムであって、
前記ミスト拡散手段は、1又は2以上の震動盤を具備し、
前記震動盤は、基盤と複数の送波器とを具備して、前記基盤の平面上に前記複数の送波器の送波方向を統一して配置すると共にこれらの送波器を同位相で作動させることにより、
前記複数の送波器の正面方向の超音波を互いに強め合うと共に、当該複数の送波器の横方向の超音波を互いに打ち消し合うようにして、前記震動盤の盤面から垂直方向に指向性の強い超音波による音響流を発生させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
上記構成によれば、本発明に係る過酸化水素除染システムは、作業室と、空気循環手段と、過酸化水素水供給手段と、ミスト変換・供給手段と、ミスト拡散手段と、エアレーション手段とを備えている。
【0019】
作業室は、作業室内と外部環境との連通状態と密閉状態とを切り替える給気口と排気口とを具備すると共に、温度測定装置と湿度測定装置とを具備して作業室内の温度と湿度とを経時的に測定する。空気循環手段は、空気循環ファンと高性能エアフィルタとを具備して、作業室内に清浄空気を循環する。過酸化水素水供給手段は、貯留タンクと供給ポンプと供給配管と計量装置と濃度測定装置とを具備して、予め設定した量の過酸化水素水をミスト変換・供給手段に供給する。
【0020】
ミスト変換・供給手段は、過酸化水素水供給手段から供給された過酸化水素水を除染用ミストに変換して、当該除染用ミストを作業室内に供給する。ミスト拡散手段は、作業室内に配置した震動盤を具備して、当該震動盤を超音波振動させて盤面から超音波による音響流を発生させ、作業室内に供給された除染用ミストを作業室内に拡散する。エアレーション手段は、給排気ファンと高性能エアフィルタと過酸化水素分解装置とを具備して、作業室の外部環境から給気口を介して導入した空気を清浄空気に置換し、当該清浄空気を作業室内に導入して、除染後に作業室内に残留した過酸化水素と共に過酸化水素分解装置と排気口とを介して外部環境に放出する。
【0021】
このような構成を有し、まず、ステップ1においては、空気循環手段を作動した状態で給気口と排気口とを閉鎖して作業室内を密閉状態とし、作業室内の温度と湿度が安定した状態で空気循環手段を停止する。
【0022】
次に、ステップ2においては、過酸化水素水供給手段を作動して、供給ポンプと供給配管とを介して貯留タンクから過酸化水素水をミスト変換・供給手段に供給しながら、計量装置と濃度測定装置とにより供給した過酸化水素水の量と濃度から、ミスト変換・供給手段に過酸化水素水として供給した過酸化水素水の重量及び濃度を経時的に算出する。更に、ミスト変換・供給手段を作動して、過酸化水素水供給手段から供給される過酸化水素水の全量を除染用ミストに変換して作業室内に供給しながら、ミスト拡散手段を作動して除染用ミストを作業室内に拡散する。
【0023】
次に、ステップ3においては、ミスト変換・供給手段による作業室内への除染用ミストの供給が完了した時点で、ミスト変換・供給手段を停止し、ミスト拡散手段を予め設定した除染時間において作動状態を維持する。次に、ステップ4においては、ミスト拡散手段による予め設定した除染時間が完了した時点で、ミスト拡散手段を停止し、給気口と排気口とを開放すると共に、空気循環手段とエアレーション手段とを作動する。
【0024】
最後に、ステップ5においては、予め設定したエアレーション時間経過後に空気循環手段とエアレーション手段とを停止すると共に、給気口と排気口とを閉鎖して作業室内を密閉状態にする。この状態で、過酸化水素除染システムが完了する。
また、上記構成によれば、温度測定装置と湿度測定装置で経時的に測定した前記作業室内の温度と湿度、及び、計量装置と濃度測定装置で経時的に測定した作業室内に供給された過酸化水素水の重量及び濃度の各データから、過酸化水素-水の気液平衡を用いて、前記作業室内の過酸化水素ガス濃度を連続的に算出することを特徴とする。
【0025】
このことにより、除染対象室に供給する過酸化水素水の量と濃度とを正確に把握し、且つ、除染対象室内に均一な凝縮膜が形成される環境を整備して、室内の過酸化水素ガス濃度と凝縮膜中の過酸化水素濃度とを正確に管理することのできる過酸化水素除染システムを提供することができる。
【0027】
また、上記構成によれば、ステップ3において、作業室の内部の密閉状態が維持されると共に、外部環境から作業室内への物質及び/又は熱量の流入のない状態を維持して作業室内の除染が行われる。
【0028】
また、上記構成によれば、ミスト拡散手段は、1又は2以上の震動盤を具備し、各震動盤は、基盤と複数の送波器とを具備して、基盤の平面上に前記複数の送波器の送波方向を統一して配置すると共にこれらの送波器を同位相で作動させることができる。このことにより、複数の送波器の正面方向の超音波を互いに強め合うと共に、当該複数の送波器の横方向の超音波を互いに打ち消し合うようにして、震動盤の盤面から垂直方向に指向性の強い超音波による音響流を発生させることができる。よって、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本実施形態に係る過酸化水素除染システムをアイソレーターで説明し、その内部を側面から見た概要断面図である。
【
図2】本実施形態に係るミスト変換・供給装置を示す(A)チャンバーの内部から見た正面図、(B)側面断面図である。
【
図3】ミスト拡散装置が具備する震動盤においてスピーカー基盤に複数の超音波スピーカーを配置した状態を示す概要斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明において「ミスト」とは、広義に解釈するものであって、微細化して空気中に浮遊する過酸化水素水の液滴の状態、過酸化水素ガスと過酸化水素水の液滴が混在した状態、過酸化水素水がガスと液滴との間で凝縮と蒸発との相変化を繰り返している状態などを含むものとする。よって、本発明に係るミストにおいては、場合によってミスト(10μm以下と定義される場合もある)或いはフォグ(5μm以下と定義される場合もある)と呼ばれるもの、及び、それ以上の粒径を有するものも含むものとする。
【0031】
なお、本発明においては、ミスト拡散手段の超音波振動の作用により、ミスト・フォグ・液滴などの3μm~10μm或いはそれ以上の液滴であっても、3μm以下の超微細粒子に均一化され、室内の過酸化水素ガスと凝縮膜とミストとの間で気液相変化を繰り返して高度な除染効果を発揮する。
【0032】
以下、本発明に係る過酸化水素除染システム100を実施形態により詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施形態にのみ限定されるものではない。なお、本実施形態においては、アイソレーターを例にして説明する。
図1は、本実施形態のアイソレーターの内部を側面から見た概要断面図である。
【0033】
図1において、アイソレーター装置Aは、床面上に載置される架台Bと、この架台Bの上に乗載されるアイソレーター本体Cとにより構成されている。架台Bは、周囲をステンレス製金属板からなる壁材で覆われ、その内部には、電装及び機械類(図示せず)が収納されている。アイソレーター本体Cは、上部給排気室C1と、その下部に空気循環駆動室C2と、その下部に作業室C3とに区分けされている。
【0034】
また、アイソレーター本体Cの各部位(C1,C2,C3)には、チャンバー10と、空気循環装置20と、過酸化水素水供給装置30と、ミスト変換・供給装置40と、ミスト拡散装置50と、エアレーション装置60との各構成要素が備えられている。
【0035】
作業室C3は、架台Bの上に設置され、4面の側壁部で囲まれると共に、その天井部に設けられた整流スクリーン12を介して空気循環駆動室C2と連接しており、一部の壁面には作業グローブ11が設けられている。この作業室C3は、アイソレーター装置Aの外部にある作業者が作業グローブ11を介して、その内部で無菌作業を行うチャンバー10を構成する。
【0036】
チャンバー10は、上部給排気室C1に空気循環駆動室C2を介して外部環境と連通する給気口13と給気弁13a及び排気口14と排気弁14aを備え、外部環境との連通状態と密閉状態とを切り替える。また、チャンバー10は、その内部の温度と湿度とを経時的に測定する温度測定装置15と湿度測定装置16とを具備している。なお、チャンバー10の内部には、過酸化水素ガス濃度計や圧力計などを設置するようにしてもよい。
【0037】
空気循環装置20は、空気循環駆動室C2に空気循環ファン21とHEPAフィルタ22と循環経路23とを具備して、チャンバー10の内部の清浄空気を空気循環駆動室C2との間で循環する。
【0038】
過酸化水素水供給装置30は、アイソレーター本体Cの外部に設置されている。この過酸化水素水供給装置30は、貯留タンク31と供給ポンプ32と供給配管33と計量装置34と濃度測定装置35とを具備している。供給配管33は、貯留タンク31とミスト変換・供給装置40とを連通し、その経路に供給ポンプ32と濃度測定装置35とが接続されている。供給ポンプ32の作動により、貯留タンク31からミスト変換・供給装置40に過酸化水素水を供給しながら、供給した過酸化水素水の量と濃度とが経時的に計測される。なお、本実施形態においては、供給配管33の経路に過酸化水素水を圧縮空気供給装置36でミスト化する二流体スプレーノズル37を設け、過酸化水素水ミスト(一次ミスト)としてミスト変換・供給装置40に供給する。
【0039】
ミスト変換・供給装置40は、チャンバー10の上壁面と側壁面との交差する領域に設置されている。なお、ミスト放出口のみをチャンバー10の内壁面に設けて、装置本体をチャンバー10の外壁面に設けるようにしてもよい。このミスト変換・供給装置40は、過酸化水素水供給装置30から送られてきた過酸化水素水(本実施形態においては一次ミスト)を微細な過酸化水素水ミスト(二次ミスト)に変換してチャンバー10の内部に供給する。
【0040】
図2は、本実施形態に係るミスト変換・供給装置を示す(A)チャンバーの内部から見た正面図、(B)側面断面図である。
図2において、ミスト変換・供給装置40は、ミスト受容器41と超音波霧化装置42とから構成されている。
【0041】
ミスト受容器41は、正面内部が半紡錘形の断面をした空間を構成し、半紡錘形の幅が集束する正面下端部に超音波霧化装置42が取り付けられている。この内部空間の下端部は、気液分離した少量の除染液の液溜り41aの機能を有するために幅が集束している。また、ミスト受容器41の背面下端部(超音波霧化装置42に対向する位置)には、供給配管33の末端がミスト受容器41の内部に向けて連通している。ミスト受容器41の背面内部の上端部には、空気抜き41bが開口している。ミスト受容器41の内部中央の供給配管33の末端と空気抜き41bとの間に邪魔板41cが設けられている。
【0042】
超音波霧化装置42は、気液分離した過酸化水素水を霧化する複数の微細孔(図示せず)が表裏を貫通して設けられた略円板状の多孔振動板42aと、この多孔振動板42aを膜震動させる略円環板状に形成された圧電振動子42bと、この圧電振動子42bの振動を制御する制御装置(図示せず)とから構成されている。多孔振動板42aは、圧電振動子42bの内孔部を覆うように圧電振動子42bに貼り合わされている。
【0043】
また、多孔振動板42aは、その表面をチャンバー10の内部に向け、裏面をミスト受容器41の内部に向けて取り付けられており、多孔振動板42aの複数の微細孔が除染対象室の内部とミスト受容器41の内部とを貫通している。なお、
図2においては、多孔振動板42aの表面から水平方向に向けて過酸化水素ミストを放出するように配設されているが、これに限るものではなく、下方に向けて或いは配設位置によっては上方に向けて放出するようにしてもよい。
【0044】
ミスト拡散装置50は、チャンバー10の側壁面上部(
図1では正面から見て奥壁面上部)に配置した震動盤51を具備している。このミスト拡散装置50は、震動盤51を超音波振動させて盤面から超音波による音響流を発生させ、チャンバー10の内部に供給された過酸化水素水ミストをチャンバー10の内部に拡散させる。なお、本実施形態においては、震動盤51は1台であるが、複数台を使用してもよい。
図2は、ミスト拡散装置が具備する震動盤においてスピーカー基盤に複数の超音波スピーカーを配置した状態を示す概要斜視図である。
【0045】
図2において、震動盤51は、基盤と複数の送波器とを具備している。本実施形態においては、基盤としてスピーカー基盤52を使用し、送波器として超音波スピーカー53を使用した。本実施形態においては、スピーカー基盤52の平面52a上に40個の超音波スピーカー53をそれらの震動面53aの送波方向(図示正面左方向)を統一して配置されている。なお、超音波スピーカーの個数は、特に限定するものではない。
【0046】
本実施形態においては、超音波スピーカー53として超指向性の超音波スピーカーを使用した。具体的には、周波数40KHz付近の超音波を送波する周波数変調方式の超音波スピーカー(DC12V、50mA)を使用した。なお、超音波スピーカーの種類、大きさと構造、出力等に関しては、特に限定するものではない。また、本発明においては、ミスト拡散装置50が具備する震動盤に関しては超音波スピーカーに限るものではなく、超音波の発生機構、周波数域及び出力等について特に限定するものではない。
【0047】
本実施形態において、複数(40個)の超音波スピーカー53の震動面53aの送波方向を統一すると共にこれらの送波器を同位相で作動させることにより、各超音波スピーカー53の正面方向の超音波が互いに強め合うと共に、各超音波スピーカー53の横方向の超音波が互いに打ち消し合うようになる。その結果、スピーカー基盤52に配置された超音波スピーカー53が超音波振動すると、各震動面53aから垂直方向に空気中を進行する指向性の強い音響流が発生する。なお、制御装置(図示せず)により超音波スピーカー53の周波数と出力を制御することにより、効率的な除染操作が可能となる。
【0048】
エアレーション装置60は、上部給排気室C1に給気装置61と排気装置62と過酸化水素分解装置63とを備え、空気循環駆動室C2を介してチャンバー10の内部と連通している。給気装置61は、給気ファン61aとHEPAフィルタ61bとを具備し、排気装置62は、排気ファン62aとHEPAフィルタ62bとを具備し、過酸化水素分解装置63は、過酸化水素分解ファン63aと過酸化水素分解フィルタ63bとを具備している。
【0049】
給気ファン61aは、外部環境から給気口12を介して導入した空気をHEPAフィルタ61bで清浄空気に置換し、空気循環駆動室C2の空気循環ファン21とHEPAフィルタ22とを介してチャンバー10の内部に導入する。チャンバー10の内部に導入された空気は、チャンバー10の内部に残留した過酸化水素と共に循環経路23と空気循環駆動室C2とを介して過酸化水素分解装置63に導入されて過酸化水素分解フィルタ63bで過酸化水素が分解される。排気ファン62aは、過酸化水素が分解された空気をHEPAフィルタ62bと排気口13とを介して外部環境に放出する。
【0050】
次に、上記構成を備えたアイソレーター装置Aにより、本発明に係る過酸化水素除染システム100を各操作ステップにより説明する。本実施形態においては、過酸化水素除染システム100は、ステップ1~ステップ5の5段階の操作で説明できる。なお、除染条件は、除染対象室の容積や内容物を考慮した予備実験及び検討において、除染液の供給量と供給時間(単位時間当たりの供給量)、除染時間及びエアレーション時間などを予め設定しておく。
【0051】
≪ステップ1≫
ステップ1においては、まず、上部給排気室C1の給気口13の給気弁13aと排気口14の排気弁14aとを閉鎖して、チャンバー10の内部を密閉状態とする。次に、空気循環装置20の空気循環ファン21を作動して、空気循環駆動室C2とチャンバー10と循環経路23との空気を循環させる。このとき、チャンバー10は、その内部に温度測定装置15と湿度測定装置16とを具備して、チャンバー10の内部の温度と湿度とを経時的に計測する。
【0052】
なお、本実施形態においては、記録制御装置(図示せず)を備えて、常に温度と湿度を監視・記録するように設定した。なお、チャンバー10の内部に温度測定装置15と湿度測定装置16とは別に温度制御装置と湿度制御装置とを備えて、予め設定した温度と湿度とに調整するようにしてもよい。次に、チャンバー10の内部の温度と湿度とが安定した状態で、空気循環装置20の空気循環ファン21を停止する。ここでは、チャンバー10の内部は閉鎖系であり、且つ、外部環境から物質の流入及び熱量の流入のない状態となる。
【0053】
本実施形態においては、除染を開始する温度と湿度とを特に定めることを要しない。本発明に係る過酸化水素除染システムにおいては、チャンバー10の内部は閉鎖系を維持しており、且つ、系内に持ち込まれる物質は、常温の過酸化水素水でありこれを加熱する熱源もない。よって、除染操作の前後で温度変化は原理的に非常に小さい。
【0054】
≪ステップ2≫
ステップ2は、除染操作においてチャンバー10の内部への過酸化水素の投入を行う段階である。このステップ2においては、チャンバー10の内部の密閉状態が維持され、空気循環装置20の空気循環ファン21が停止した状態で、過酸化水素水供給装置30の供給ポンプ32と圧縮空気供給装置36とを作動する。また、これと同時にミスト変換・供給装置40を作動すると共に、ミスト拡散装置50を作動する。ここでは、チャンバー10の内部は閉鎖系であるが、外部環境から物質(過酸化水素水)が流入する状態となる。しかし、本実施形態においては、過酸化水素水を加熱気化することがないので、熱量の流入のない状態である。
【0055】
過酸化水素水供給装置30の供給ポンプ32と圧縮空気供給装置36とを作動することで、過酸化水素水(一次ミスト)が作動するミスト変換・供給装置40に供給される。これにより、微細化された過酸化水素水ミスト(二次ミスト)がチャンバー10の内部に放出され、過酸化水素水ミスト(二次ミスト)が作動するミスト拡散装置50により更に微細化されながらチャンバー10の内部に拡散する。
【0056】
ここでは、空気循環装置20が作動しておらず、チャンバー10の内部に空気の流れがない状態となっている。このことにより、室内の部位により風量・風速の差が生じることがないので、室内全体に均一な凝縮膜を形成することができる。更に、ミスト拡散装置50の超音波振動の作用により、チャンバー10の内部に放出された過酸化水素水ミスト(二次ミスト)は、3μm以下の超微細粒子に均一化されると共に、チャンバー10の内部の過酸化水素ガスと凝縮膜との間で気液相変化を繰り返しながら拡散する。
【0057】
このステップ2においては、過酸化水素水供給装置30による供給作動と同時に、計量装置34によりミスト変換・供給装置40に供給された過酸化水素水の重量が、経時的に正確に計測され記録制御装置に記録される。また、これと同時に、供給配管33の経路に設けられた濃度測定装置35によりミスト変換・供給装置40に供給された過酸化水素水の濃度が、経時的に正確に計測され記録制御装置に記録される。
【0058】
これは、保管中に変化しやすい過酸化水素水の濃度を正確に算出するためである。過酸化水素水は、貯留タンク31に貯留されている間に徐々に分解している。この濃度の変化を無視した場合、チャンバー10の内部に供給された過酸化水素の量と水の量とのバランスが不正確となり使用量を抑えながら均一な除染を目的とする除染システムを構築することができない。
【0059】
そこで、本発明においては、チャンバー10の内部に供給された過酸化水素水の重量と濃度とが、その変化をも含めて供給時間単位で積算される。よって、ミスト変換・供給装置40に供給された過酸化水素水の正確な量、すなわち供給された過酸化水素(純過酸化水素)の量と、過酸化水素水の供給に伴って供給された水(純水)の量とが供給時間軸と共に正確に計算・記録できる。
【0060】
なお、ミスト変換・供給装置40に供給された過酸化水素水(一次ミスト)は、逐次、過酸化水素水ミスト(二次ミスト)に変換されながらチャンバー10の内部に供給される。また、チャンバー10の内部に供給された過酸化水素水ミストは、ミスト拡散装置50の作用で3μm以下の超微細粒子に均一化され、凝縮と蒸発との相変化を繰り返しながらチャンバー10の内部に拡散すると共に、チャンバー10の内部に均一な凝縮膜を形成する。
【0061】
≪ステップ3≫
ステップ3は、除染操作において外部環境から物質の流入及び熱量の流入のない状態を維持して、除染操作を完了させる段階である。このステップ3においては、過酸化水素水供給装置30による所定量の過酸化水素水の供給が完了し、且つ、供給された過酸化水素水がミスト変換・供給装置40により過酸化水素水ミスト(二次ミスト)に変換されてチャンバー10の内部への供給が完了した時点で、ミスト変換・供給手段40を停止する。このとき、ミスト拡散装置50の作動は、予め設定した除染時間において継続する。
【0062】
ここでは、チャンバー10の内部は閉鎖系を維持しており、且つ、過酸化水素水供給装置30とミスト変換・供給装置40とが停止して、ミスト拡散装置50のみが作動した状態にある。この状態においては、チャンバー10の内部に空気の流れがなく、超音波振動による音響流のみが拡散・反射している状態である。この状態においては、室内の部位により風量・風速の差が生じることがないので、室内全体に均一な凝縮膜を形成することができる。よって、外部環境から物質の流入及び熱量の流入のない状態で、安定した除染が完了するまで気液平衡を確認しながら除染が進行する。
【0063】
ここで、ステップ3における気液平衡の確認について説明する。ステップ1が完了した時点で、チャンバー10の内部が閉鎖系となり、存在する水の量をその時点の温度と湿度及びチャンバー10の容積とから算出することができる。また、ステップ2が完了した時点で、チャンバー10の内部に供給された過酸化水素水の正確な量(過酸化水素の量とその溶媒である水の量)が計算・記録から算出することができる。
【0064】
そこで、チャンバー10の内部の過酸化水素-水の気液平衡の状態を経時的に算出・確認することができる。ここでは、チャンバー10の内部の過酸化水素の量、水の量、温度、湿度、圧力の条件から、過酸化水素及び水の気液平衡状態曲線に準ずる計算を行うことにより系内の過酸化水素ガス濃度を算出することができる。このことにより、従来の過酸化水素ガス濃度計での不十分な管理に対して、系内の過酸化水素ガスの濃度を正確に把握することができるので、より適切な除染効果の状況を確認することができる。
【0065】
≪ステップ4≫
ステップ4は、除染操作が完了し、エアレーション操作を開始する段階である。このステップ4においては、上記ステップ3の予め設定した除染時間が完了した時点で、ミスト拡散装置50の作動を停止する。次に、上部給排気室C1の給気口13の給気弁13aと排気口14の排気弁14aとを開放して、空気循環装置20の空気循環ファン21を作動すると共に、エアレーション装置60を作動する。このエアレーション装置60の作動時間は、予め設定しておいた条件にて行う。
【0066】
≪ステップ5≫
ステップ5は、エアレーション操作が完了し、チャンバー10の内部で無菌作業を開始できるようにする段階である。このステップ5においては、上記ステップ4の予め設定したエアレーション時間が完了した時点で、空気循環装置20の空気循環ファン21とエアレーション装置60とを停止する。次に、上部給排気室C1の給気口13の給気弁13aと排気口14の排気弁14aとを閉鎖して、チャンバー10の内部を密閉状態とする。
【0067】
このようにして、アイソレーター装置Aの過酸化水素除染システム100が完了する。よって、本実施形態によれば、除染対象室に供給する過酸化水素水の量と濃度とを正確に把握し、且つ、除染対象室内に均一な凝縮膜が形成される環境を整備して、室内の過酸化水素ガス濃度と凝縮膜中の過酸化水素濃度とを正確に管理することのできる過酸化水素除染システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0068】
10…チャンバー、11…作業グローブ、13…給気口、13a…給気弁、
12…整流スクリーン、14…排気口、14a…排気弁、
15…温度測定装置、16…湿度測定装置、
20…空気循環装置、21…空気循環ファン、
22…HEPAフィルタ、23…循環経路、
30…過酸化水素水供給装置、31…貯留タンク、32…供給ポンプ、
33…供給配管、34…計量装置、35…濃度測定装置、
36…圧縮空気供給装置、37…二流体スプレーノズル、
40…ミスト変換・供給装置、41…ミスト受容器、41a…液溜り、41b…空気抜き、41c…邪魔板、42…超音波霧化装置、42a…多孔振動板、42b…圧電振動子、
50…ミスト拡散装置、51…震動盤、52…スピーカー基盤、52a…基盤平面、
53…超音波スピーカー、53a…震動面、
60…エアレーション装置、61…給気装置、61a…給気ファン、
61b…HEPAフィルタ、62…排気装置、62a…排気ファン、
62b…HEPAフィルタ、63…過酸化水素分解装置、
63a…過酸化水素分解ファン、63b…過酸化水素分解フィルタ、
100…過酸化水素除染システム、
A…アイソレーター、B…架台、C…アイソレーター本体、C1…上部給排気室、
C2…空気循環駆動室、C3…作業室。
【要約】
【課題】除染対象室に供給する過酸化水素水の量と濃度とを正確に把握し、且つ、除染対象室内に均一な凝縮膜が形成される環境を整備して、室内の過酸化水素ガス濃度と凝縮膜中の過酸化水素濃度とを正確に管理することのできる過酸化水素除染システムを提供する。
【解決手段】ステップ1で作業室内の温度と湿度が安定した状態で空気循環手段を停止する。ステップ2で貯留タンクから過酸化水素水をミスト変換・供給手段に供給しながら、供給した過酸化水素水の重量及び濃度を経時的に算出する。更に、ミスト変換・供給手段を作動して過酸化水素水を除染用ミストに変換して、ミスト拡散手段を作動して除染用ミストを作業室内に拡散する。ステップ3でミスト拡散手段を予め設定した除染時間において作動状態を維持する。ステップ4で除染時間が完了した時点でエアレーション手段を作動する。
【選択図】
図1