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特許7350428音響用の加振装置および前記加振装置を使用した車載音響装置
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  • 特許-音響用の加振装置および前記加振装置を使用した車載音響装置 図1
  • 特許-音響用の加振装置および前記加振装置を使用した車載音響装置 図2
  • 特許-音響用の加振装置および前記加振装置を使用した車載音響装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】音響用の加振装置および前記加振装置を使用した車載音響装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/00 20060101AFI20230919BHJP
   H04R 9/04 20060101ALI20230919BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
H04R1/00 310F
H04R9/04 103
H04R9/04 105B
B60R11/02 S
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019122648
(22)【出願日】2019-07-01
(65)【公開番号】P2021010095
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
【審査官】上田 雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-121082(JP,A)
【文献】特開2000-308849(JP,A)
【文献】特開平11-155195(JP,A)
【文献】特開2012-109669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00-31/00
B60R 9/00-11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後方に位置する質量部と、前記質量部に設けられた磁気回路部と、前方に位置する振動伝達部と、前記質量部と前記振動伝達部とを連結するダンパーと、前記振動伝達部から後方に延びるボビンと、前記ボビンに支持されて前記磁気回路部の磁気ギャップ内に位置するコイルと、を備えた音響用の加振装置において、
前記ダンパーは、前記コイルの巻き中心線と交差する方向に広がって、内周端が前記ボビンに固定され、外周端が前記質量部に固定されており、
前記振動伝達部には、前記コイルに導通する端子部が固定されて、前記端子部が、前記質量部と前後方向に重ならない位置に設けられ、
前記コイルの導線端末が、前記ボビンと前記ダンパーの内周端との間を通過して前記ボビンの表面および前記振動伝達部の後方に向く表面に沿って延び、前記端子部に接続されていることを特徴とする音響用の加振装置。
【請求項2】
前記導線端末は、その少なくとも一部が、前記ボビンの表面および前記振動伝達部の前記表面に接着されている請求項1記載の音響用の加振装置。
【請求項3】
前記端子部は前記巻き中心線を挟む両側に配置されている請求項1または2記載の音響用の加振装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の振動用の加振装置を備え、
前記振動伝達部が、車両の内装材に固定されていることを特徴とする車載音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気回路部とコイルとの電磁力で振動伝達部を振動させる音響用の加振装置、および前記加振装置によって車両の内装材が振動させられる車載音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載音響装置では、車両の内装材に振動を与えて発音するエキサイタと称される加振装置が使用される。特許文献1に内装材を駆動するスピーカに使用されるエキサイタに関する発明が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載されているエキサイタは、ヨークとマグネットとプレートとが重ねられ、ヨークとプレートとの間にギャップ部が形成された磁気回路が設けられている。車両の内装材に結合されるカプラーに、ボイスコイルを保持するボイスコイルボビンが支持されており、ボイスコイルが前記ギャップ部の内部に位置している。カプラーは板バネによって磁気回路に振動自在に支持されている。このエキサイタは、磁気回路とカプラーとの間に発生する振動が、カプラーから内装材に伝達され、内装材が音圧を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-130186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車載用の加振装置(エキサイタ)では、カプラー側に端子を設け、ボイスコイルの導線端末を端子に接続し、外部からの配線を端子部に接続することが必要である。しかし、ボイスコイルが磁気回路のギャップ部内で振動するため、導線端末が振動により損傷したりあるいは端子との接続部で断線するおそれがある。特許文献1の図2図4には、カプラー側に端子部が固定されている構造が記載されているが、この端子部の用途が不明となっており、また配線がどのようにして端子部に接続されているのか記載されてはいない。
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、振動伝達部に設けられた端子部を質量部と当たらないように配置して、薄型化を可能とし、さらにコイルの導線端末を空間に浮かせることなく端子部に接続できるようにして、配線部の損傷や断線を防止できる音響用の加振装置および前記加振装置を使用した車載音響装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、後方に位置する質量部と、前記質量部に設けられた磁気回路部と、前方に位置する振動伝達部と、前記質量部と前記振動伝達部とを連結するダンパーと、前記振動伝達部から後方に延びるボビンと、前記ボビンに支持されて前記磁気回路部の磁気ギャップ内に位置するコイルと、を備えた音響用の加振装置において、
前記ダンパーは、前記コイルの巻き中心線と交差する方向に広がって、内周端が前記ボビンに固定され、外周端が前記質量部に固定されており、
前記振動伝達部には、前記コイルに導通する端子部が固定されて、前記端子部が、前記質量部と前後方向に重ならない位置に設けられ、
前記コイルの導線端末が、前記ボビンと前記ダンパーの内周端との間を通過して前記ボビンの表面および前記振動伝達部の後方に向く表面に沿って延び、前記端子部に接続されていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の音響用の加振装置では、前記導線端末は、その少なくとも一部が、前記ボビンの表面および前記振動伝達部の前記表面に接着されていることが好ましい。
【0010】
本発明の音響用の加振装置は、前記端子部が、前記巻き中心線を挟む両側に配置されていることが好ましい。
【0011】
次に本発明の車載音響装置は、前記いずれかの振動用の加振装置を備え、
前記振動伝達部が、車両の内装材に固定されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、振動伝達部に設けられた端子部が質量部と前後方向で重ならない位置に設けられているため、質量部と振動伝達部とが相対的に振動するときに、端子部が質量部と当たることがない。そのため、質量部と振動伝達部とをできるだけ接近させることができ、装置全体の薄型を実現できる。
【0013】
また、磁気ギャップ内に位置するコイルから延びる導線端末が、ボビンの表面および振動伝達部の後方に向く表面に沿って配線されているため、導線端末が空間で浮くことが少なくなり、また振動の影響も受けにくくなって、配線部の損傷や断線が生じにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の音響用の加振装置が車両の内装材に固定された車載音響装置を示す斜視図、
図2図1に示す加振装置の分解斜視図、
図3図1に示す車載音響装置の縦断面図、
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1図3に示すように、本発明の実施形態の車載音響装置(車載スピーカ)1は、音響用の加振装置2と、この加振装置2が取り付けられる車両の内装材3、とを有している。内装材3は、例えばルーフ内装材である。ルーフ内装材は軟質なシートであり、発泡ウレタン樹脂などの発泡樹脂シートで形成されている。なお、内装材3は、ルーフ内装材以外の例えば自動車のドアの内装材やその他の内装材であってもよい。
【0016】
音響用の加振装置2および車載音響装置1は、図示下方向(Y1方向)が前方であり、図示上方向(Y2方向)が後方である。内装材3よりも前方(Y1方向)は車室内である。車載音響装置1は、車両の内装材3が主振動体として機能し、内装材3が振動することで音圧が発生し、車室内に向けて発音される。
【0017】
図1図3に示されるように、加振装置2は質量部10と振動伝達部20とを有している。図3に示されるように、質量部10は、磁気回路部11と、この磁気回路部11を保持する保持部材15とを有している。磁気回路部11は、円盤形状の磁石12と、磁石12の後方(Y2方向)に向く表面が固定される第1ヨーク13と、磁石12の前方(Y1方向)に向く表面が固定される円盤形状の第2ヨーク14とを有している。第1ヨーク13と第2ヨーク14は、フェライト系や鉄系の磁性材料で形成されている。第1ヨーク13の外周部には、前方(Y1方向)に向けて曲げられた部分円筒形状の側壁部13aが形成されており、第2ヨーク14の外周の外面と側壁部13aの内面との間に磁気ギャップGが形成されている。
【0018】
保持部材15は円筒形状であり、その内周面に第1ヨーク13の側壁部13aの外周面が保持されて固定されている。保持部材15は、合成樹脂材料や非磁性合金などの非磁性材料で形成されていることが好ましいが、磁性材料で形成されていてもよい。
【0019】
振動伝達部20は、伝達支持体22と、前端部分が伝達支持体22に固定されたボビン21と、ボビン21の後方端部に巻かれたコイル(ボイスコイル)23とを有している。伝達支持体22は、内装材3に固定するカプラーとして機能する。図3に示されるように、コイル23は磁気回路部11の磁気ギャップG内に位置している。伝達支持体22は、合成樹脂材料などの非磁性材料で非導電性の材料で形成されている。
【0020】
図1図2および図3に、加振装置2の前後方向(Y1-Y2方向)に延びる中心線Oが示されている。中心線Oは、ボビン21の中心でコイル23の巻き中心を通っており、さらに質量部10の重心を通過している。
【0021】
振動伝達部20を構成するボビン21と、質量部10を構成する保持部材15との間にダンパー(サスペンション)31が設けられている。ダンパー31は、化学繊維の織布または不織布とフェノール樹脂との複合体などで形成されている。ダンパー31は、全体がリング形状であり、さらにリング状の複数の突部とリング状の複数の凹部が半径方向に向けて同心円で配置されたコルゲート形状である。ダンパー31は、中心線Oと直交する平面に沿って広がるように配置されており、ダンパー31の内周端31aがボビン21の外周面に接着されて固定され、ダンパー31の外周端31bが保持部材15の下面に接着されて固定されている。
【0022】
図1図3に示されるように、振動伝達部20の伝達支持体22は、円盤形状のフランジ部22aを有し、その中心部に開口部22bが形成されている。開口部22bの周囲に後方(Y2方向)に向けて立ち上がる隆起部22dが形成されており、前記ボビン21の前方(Y1方向)に向く端部が、隆起部22dの外周部に嵌着されて接着固定されて、ボビン21が、伝達支持体22から後方(Y2方向)に向けて立ち上がっている。伝達支持体22のフランジ部22aは、質量部10の直径よりも大きな直径寸法を有している。伝達支持体22の外周部は、質量部10よりも外周側に延びる張出し部となっており、この張出し部に一対の端子部25が固定されている。端子部25は導電性の金属板で形成された接続端子であり、前方(Y1方向)に向く基端部が、伝達支持体22のフランジ部22aに埋設されて固定されている。
【0023】
一対の端子部25は、中心線Oを挟む両側で、中心線Oを中心とするほぼ180度の角度で配置されている。それぞれの端子部25は、振動伝達部20の伝達支持体22に形成されたフランジ部22aの後方に向く表面22cから後方に向けて立ち上がっている。一対の端子部25は質量部10よりも外周側に位置しており、一対の端子部25と質量部10は前後方向(Y1-Y2方向)に重なっておらず、前後方向に対向していない。
【0024】
図2に示されるように、コイル23から一対の導線端末23a,23bが延び出ている。導線端末23a,23bはコイル23を巻き形成している被覆導線の両端部であり、導線端末23a,23bの一方がコイル23の巻き始端であり、他方がコイル23の巻き終端である。導線端末23a,23bは、コイル23から前方(Y1方向)に向けて中心線Oと平行に延び出て、ボビン21の表面(外周面)21aに沿って延びている。さらに、振動伝達部20の後方(Y2方向)に向く表面である伝達支持体22のフランジ部22aの表面22cに沿って、中心線Oに対して半径方向に向けて直線方向に延びている。導線端末23a,23bのそれぞれの先端部は、被覆層が除去されて、端子部25に巻き付けられるなどして、導線端末23a,23bのそれぞれと一対の端子部25,25のそれぞれとが半田付けされている。
【0025】
導線端末23a,23bの少なくとも一部は、ボビン21の表面21aに接着されており、またフランジ部22aの表面22cに接着されている。好ましくは、導線端末23a,23bが、全長で。あるいはほぼ全長で、ボビン21の表面21aとフランジ部22aの表面22cに接着されて固定されている。図3に示すように、ダンパー31の内周端31aがボビン21の表面21aに接着されて固定されているので、ボビン21の表面21aに沿って前方に向けて延びる導線端末23a,23bは、ダンパー31の内周端31aとボビン21の表面21aとの間の接合部を通過して、フランジ部22aに向けて延びている。
【0026】
次に、本発明の実施形態の加振装置2を使用した車載音響装置(スピーカ)1の発音動作を説明する。
【0027】
コイル23にボイス電流が与えられると、磁気回路部11の磁気ギャップG内のコイル23に作用する磁界と、ボイス電流とで励起される電磁力によって、質量部10と振動伝達部20とが、前後方向(Y1-Y2方向)において互いに反発する方向へ振動しようとする。このときの質量部10の振動の反力によるエネルギーが、振動伝達部20の伝達支持体22から車両の内装材3に与えられ、内装材3が加振されて音圧が発生し、内装材3の前方の車室内に音が与えられる。
【0028】
振動しているコイル23からは導線端末23a,23bが延び出ているが、この導線端末23a,23bは、ダンパー31の内周端31aとボビン21の表面21aとの接合部を通過して、ボビン21の表面21aに沿って少なくとも一部が表面21aに接着されている。また、導線端末23a,23bは、振動伝達部20の後方(Y2方向)に向く表面すなわち伝達支持体22のフランジ部22aの表面22cに沿って半径方向に延び、導線端末23a,23bは少なくとも一部がフランジ部22aの表面22cに接着されて、端子部25に接続されている。
【0029】
コイル23から端子部25にかけて、導線端末23a,23bが空中に浮くことがなく、ボビン21とダンパー31との接合部も通過して延びているため、コイル23が振動するときに、導線端末23a,23bが単独で動くことなく固定された状態を維持する。そのため、振動により導線端末23a,23bが損傷することがなく、導線端末23a,23bと端子部25との接続部に大きな力が作用することがなく、断線が生じる可能性がほとんどなくなる。
【0030】
図3に示すように、内装材3に固定されている伝達支持体22のフランジ部22aは、質量部10から側方に張り出す張出し部を有し、端子部25,25はこの張出し部に固定されている。フランジ部22aから後方(Y2方向)に向けて突出する端子部25,25が、質量部10と前後方向(Y1-Y2方向)に重なっておらず、前後方向に対向していないため、質量部10と振動伝達部20とが前後方向に相対的に振動する際に、質量部10と端子部25とが当たることがない。そのため、質量部10と振動伝達部20とを前後方向に接近させて配置することができ、加振装置2を薄型化できる。
【0031】
振動伝達部20では、一対の端子部25が、中心線Oを挟む両側に配置されているため、コイル23から延び出る一対の導線端末23a,23bを互いに独立した箇所に配線することができ、導線端末23a,23bどうしの絡みなども生じない。また振動伝達部20において金属製の端子部25が、中心線Oの両側に配置されているため、振動伝達部20の質量の偏りも防止でき、振動伝達部20の振動特性を良好にできる。
【符号の説明】
【0032】
1 車載音響装置
2 加振装置
3 内装材
10 質量部
11 磁気回路部
12 磁石
15 保持部材
20 振動伝達部
21 ボビン
21a 表面
22 伝達支持体
22a フランジ部
22c 表面
23 コイル
23a,23b 導線端末
31 ダンパー
31a 内端部
31b 外端部
図1
図2
図3