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  • 特許-セパレータロールおよびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】セパレータロールおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/40 20210101AFI20230919BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20230919BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20230919BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20230919BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20230919BHJP
   H01M 50/457 20210101ALI20230919BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20230919BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20230919BHJP
【FI】
H01M50/40
H01M50/417
H01M50/434
H01M50/443 E
H01M50/449
H01M50/457
H01M50/489
H01G11/52
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018087767
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2019192619
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-01-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519079636
【氏名又は名称】宇部マクセル京都株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】小森 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】工藤 圭晃
(72)【発明者】
【氏名】田中 憲司
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/190487(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/083988(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/006453(WO,A1)
【文献】特開2009-272153(JP,A)
【文献】特開2016-191045(JP,A)
【文献】特開2014-181095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/40
H01G11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯と、前記巻芯に巻回されたセパレータとを有し、
前記セパレータは、巻き取り長さが200m以上であり、ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に、無機粒子と有機粒子の一方または両方を含有する粒子含有層が設けられた積層体からなり、
前記セパレータの内周端から幅方向中心に沿って長手方向に30m移動した位置を中心として、長手方向の長さが200mmの試験片を採取し、温度25℃相対湿度55%の環境下に無張力状態で24時間放置したときの前記試験片の長手方向の収縮率が、0.3%以下であるセパレータロールの製造方法であって、
ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に、無機粒子と有機粒子の一方または両方を含有する粒子含有層が設けられた積層体からなるセパレータを、巻芯に巻回する工程を有し、
前記巻芯が、デュロメータ硬さ(タイプD)が75以上である芯材と、前記芯材の表面に一体化されたデュロメータ硬さ(タイプA)が70以下である表層材とを有することを特徴とするセパレータロールの製造方法。
【請求項2】
前記表層材がゴム材である請求項1に記載のセパレータロールの製造方法。
【請求項3】
前記芯材が、樹脂により構成された請求項1または請求項2に記載のセパレータロールの製造方法。
【請求項4】
前記芯材の厚みが、5mm以上である請求項のいずれかに記載のセパレータロールの製造方法。
【請求項5】
前記表層材の厚みが、0.1mm以上である請求項のいずれかに記載のセパレータロールの製造方法。
【請求項6】
前記表層材の厚みが、5mm以下である請求項のいずれかに記載のセパレータロールの製造方法。
【請求項7】
前記表層材の表面の算術平均粗さRaが、3μm以下である請求項のいずれかに記載のセパレータロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータロールおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン電池やポリマーリチウム電池、電気二重層キャパシタなどの電気化学素子がある。電気化学素子の正極と負極とを隔離するためのセパレータとしては、一般的に、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂多孔質膜が用いられている。特に、ポリオレフィンを主成分とする樹脂多孔質膜からなるセパレータは、リチウムイオン電池などの過酷な酸化還元雰囲気に対して安定であり、かつ構成樹脂の融点付近で空孔が閉塞し、いわゆるシャットダウン特性を確保できるため、広く用いられている。
【0003】
しかしながら、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂多孔質膜からなるセパレータは、熱可塑性樹脂の融点以上の温度では膜の形状を維持する能力が不足しているため、破膜が起こりやすい。電気化学素子内でセパレータの破膜が発生すると、正極と負極とが直接接触する短絡現象が生じる虞がある。
このため、セパレータとして、樹脂多孔質膜と、その表面に形成された無機粒子などの耐熱性の高い材料を含む耐熱層とを有する積層膜が用いられている。
【0004】
通常、セパレータとして用いられる樹脂多孔質膜は、延伸加工により製造され、巻芯に巻回されたセパレータロールとして保管されている。巻芯に巻回されたセパレータは、大きな応力を有した状態で保持されている。このことから、セパレータロールから巻き出したセパレータは、無張力状態で放置すると長手方向に収縮し、寸法が変化する。セパレータロールから巻き出したセパレータの寸法が変化すると、これを用いて電池を形成する場合に不都合が生じる恐れがある。
【0005】
セパレータロールから巻き出したセパレータの寸法変化を抑制する方法としては、巻芯に巻回されたセパレータを巻き出してアニール処理した後、再度巻き取る方法がある。
例えば、特許文献1には、多孔性ポリプロピレンフィルムロールから多孔性ポリプロピレンフィルムを巻出し、アニール処理を行った後、再度巻取を行う多孔性ポリプロピレンフィルムロールの製造方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、多孔質基材と、前記多孔質基材の片面又は両面に、樹脂及び無機粒子の少なくともいずれかを含有する塗工液を塗工して形成された塗工層が固化してなる多孔質層と、を備えた非水電解質電池用セパレータが、巻芯に巻かれたセパレータロールが記載されている。特許文献2には、非水電解質電池用セパレータの機械方向の収縮率が1.0%以下であるセパレータロールが記載されている。詳しくは、特許文献2には、非水電解質電池用セパレータの機械方向の収縮率を下記の方法で求めることが記載されている。セパレータロールの外端から非水電解質電池用セパレータを5周分取り除いた後、その端部から非水電解質電池用セパレータを機械方向に200mm切り取り、試料とする。該試料を25℃下に24時間、無張力状態で放置し、該放置前後の機械方向の長さを測定し、下記の式によって機械方向の収縮率を算出する。
機械方向の収縮率(%)=(放置前の機械方向の長さ-放置後の機械方向の長さ)÷放置前の機械方向の長さ×100
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-177524号公報
【文献】国際公開第2016/006453号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、セパレータロールから巻き出したセパレータの寸法変化を抑制するために、多孔性ポリプロピレンフィルムを巻出してアニール処理を行う必要があり、手間がかかる。
また、特許文献2に記載のセパレータロールでは、巻き出したセパレータの収縮をより一層低減させることが要求されていた。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、アニール処理を行うことなく製造でき、巻き出したセパレータの寸法変化が小さいセパレータロールおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、芯材に巻回されたセパレータの内周端からの長手方向の距離と、巻き出したセパレータの寸法変化との関係に着目し、鋭意検討した。その結果、セパレータの長手方向において、内周端からの距離が近い位置にあるものは、外周端から近い位置にあるものと比較して、巻き出したときの収縮が大きくなりやすいことが分かった。
【0011】
これは、内周端からの長手方向の距離が近い位置にあるものは、巻芯に巻回されたセパレータの有する応力が緩和されにくいためであると推定される。したがって、巻き出したセパレータの寸法変化を小さくするには、内周端からの長手方向の距離が近い(言い換えると「巻芯に近い」)セパレータの収縮を低減する必要がある。
【0012】
本発明らは、ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に、無機粒子と有機粒子の一方または両方を含有する粒子含有層が設けられた積層体からなるセパレータにおいて、内周端からの長手方向の距離が近い位置の収縮を低減すべく、検討を重ねた。その結果、巻芯として、デュロメータ硬さ(タイプD)が75以上である芯材と、芯材の表面に一体化されたデュロメータ硬さ(タイプA)が70以下である表層材とを有する複合材を用いればよいことを見出した。そして、このような巻芯に、ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に、無機粒子または有機粒子を含有する粒子含有層が設けられた積層体からなるセパレータを巻回することにより、長手方向の距離に起因する巻き出したセパレータの寸法変化の差が少なく、巻き出したセパレータの寸法変化が十分に小さいセパレータロールが得られることを確認し、本発明を完成した。
なお、本明細書におけるデュロメータ硬さ(タイプA)および(タイプD)の値は、JIS K6253に準じて測定された値である。
すなわち、本発明は以下の構成を採用する。
【0013】
(1)巻芯と、前記巻芯に巻回されたセパレータとを有し、
前記セパレータは、ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に、無機粒子と有機粒子の一方または両方を含有する粒子含有層が設けられた積層体からなり、
前記セパレータの内周端から幅方向中心に沿って長手方向に30m移動した位置を中心として、長手方向の長さが200mmの試験片を採取し、温度25℃相対湿度55%の環境下に無張力状態で24時間放置したときの前記試験片の長手方向の収縮率が、0.3%以下であることを特徴とするセパレータロール。
【0014】
(2)(1)に記載のセパレータロールの製造方法であって、
ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に、無機粒子と有機粒子の一方または両方を含有する粒子含有層が設けられた積層体からなるセパレータを、巻芯に巻回する工程を有し、
前記巻芯が、デュロメータ硬さ(タイプD)が75以上である芯材と、前記芯材の表面に一体化されたデュロメータ硬さ(タイプA)が70以下である表層材とを有することを特徴とするセパレータロールの製造方法。
【0015】
(3)前記表層材がゴム材である(2)に記載のセパレータロールの製造方法。
(4)前記芯材が、樹脂により構成された(2)または(3)に記載のセパレータロールの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のセパレータロールは、巻芯と、前記巻芯に巻回されたセパレータとを有し、セパレータは、ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に、無機粒子と有機粒子の一方または両方を含有する粒子含有層が設けられた積層体からなり、セパレータの内周端から幅方向中心に沿って長手方向に30m移動した位置を中心として、長手方向の長さが200mmの試験片を採取し、温度25℃相対湿度55%の環境下に無張力状態で24時間放置したときの前記試験片の長手方向の収縮率が、0.3%以下であり、巻き出したセパレータの寸法変化が小さい。
【0017】
本発明のセパレータロールの製造方法は、デュロメータ硬さ(タイプD)が75以上である芯材と、芯材の表面に一体化されたデュロメータ硬さ(タイプA)が70以下である表層材とを有する巻芯に、ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に、無機粒子と有機粒子の一方または両方を含有する粒子含有層が設けられた積層体からなるセパレータを巻回する工程を有するため、巻き出したセパレータの寸法変化が小さいセパレータロールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態のセパレータロールを示した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のセパレータロールおよびセパレータロールの製造方法を、例を挙げて詳細に説明する。
「セパレータロール」
図1は、本実施形態のセパレータロールを示した断面模式図である。
図1に示すセパレータロール10は、円筒形状の側面を有する巻芯(コア)1と、巻芯1に巻回されたセパレータ2とからなる。セパレータ2は、電気化学素子のセパレータとして用いられるものである。具体的には、セパレータロール10から巻き出されるセパレータ2は、リチウム二次電池のセパレータとして好適に用いることができる。
【0020】
(巻芯)
セパレータロール10を形成している巻芯1は、円筒形状の側面を有する。図1に示すように、巻芯1は、芯材1aと、芯材1aの表面に一体化された表層材1bとを有する。
本実施形態では、デュロメータ硬さ(タイプD)が75以上である芯材1aの表面に表層材1bが一体化されているので、表層材1bとしてデュロメータ硬さ(タイプA)が70以下のものを用いることができる。一方、デュロメータ硬さ(タイプA)が70以下の材料のみで巻芯が形成されている場合、変形しやすい巻芯となる。このため、セパレータを巻芯に巻き取る際に、十分な巻き取り精度が得られにくくなる。
【0021】
芯材1aは、デュロメータ硬さ(タイプD)が75以上のものであり、デュロメータ硬さが80以上であることが好ましく、より好ましくは85以上である。芯材1aのデュロメータ硬さが75以上であると、巻芯の変形を防止できるため、セパレータ2の巻回精度を高めることができる。
【0022】
芯材1aを構成する材料としては、樹脂が好ましく用いられ、具体的には、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)などの熱可塑性樹脂を用いることができる。
また、樹脂と共に、芯材1aとなるコアの剛性を向上させたり、帯電を防止するための他の材料(充填剤、帯電防止剤など)を含有させたりすることも好ましく、強度の点からはFWPコアなどが好ましく用いられる。
FWPコアは、FW(フィラメント・ワインディング)法による繊維強化プラスチック製のコアであり、表面精度、強度および軽量性に優れる。FWPコアを構成する強化繊維としては、カーボン繊維、ガラス繊維などが好ましく用いられる。FWPコアを構成するマトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0023】
芯材1aの厚みは、5mm以上であることが好ましい。芯材1aの厚みが5mm以上であると、巻芯1の変形が抑制されやすくなり、セパレータ2の巻き取り精度がより一層向上する。一方、芯材1aの厚みの上限値は特に制限はされないが、軽量化の観点から、芯材1aの厚みを15mm以下とすることが好ましい。
【0024】
表層材1bは、デュロメータ硬さ(タイプA)が70以下のものであり、65以下であることが好ましい。表層材1bのデュロメータ硬さ(タイプA)が70以下であるので、内周端から近い位置に巻回されたセパレータ2の応力が緩和される。その結果、セパレータロール10から巻き出したセパレータ2における長手方向の距離に起因する寸法変化の差が少なくなるとともに、巻き出したセパレータ2を無張力状態で放置した時の収縮が小さくなる。表層材1bのデュロメータ硬さ(タイプA)は、表層材1bが変形することにより、セパレータ2の巻き取り精度が低下しないように、30以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましい。
【0025】
表層材1bの材料としては、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素系ゴム(FKM)などのゴム材、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどのエラストマー材料、塩化ビニルなどの樹脂材料などを用いることができる。これらの中でも、表層材1bの材料としては、柔軟性と歪み回復性に優れることから、ゴム材を用いることが好ましく、特に、ウレタンゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴムが好ましく用いられる。
表層材1bは、発泡状のゴム材からなるものであってもよい。
【0026】
表層材1bの厚みは、0.1mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがより好ましい。表層材1bの厚みが0.1mm以上であると、表層材1bを有することによる巻回されたセパレータ2の応力を緩和する効果が得られやすく、好ましい。また、表層材1bの厚みは、5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましく、2mm以下であることが特に好ましい。表層材1bの厚みが5mm以下であると、表層材1bの変形を抑制しやすくなり、セパレータ2の巻き取り精度が低下することを防止できる。
【0027】
表層材1bの表面の算術平均粗さRaは、3μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましい。表層材1bの表面の算術平均粗さRaが3μm以下であると、セパレータ2の巻き取り精度をより一層高めることができる。
【0028】
巻芯1の外径(直径)は、100mm以上であることが好ましく、150mm以上であることがより好ましく、200mm以上であることが特に好ましい。巻芯1の外径を大きくすることにより、セパレータ2の長さが同じである場合に巻芯1上に巻き重ねられるセパレータ2の数を減らすことができる。その結果、巻回されたセパレータ2の応力が緩和されやすくなり、セパレータロール10から巻き出したセパレータ2を無張力状態で放置した時の収縮が小さくなる。
【0029】
一方、巻芯1の外径が大きすぎると、セパレータロール10からセパレータ2を巻き出す際の取り扱いがし難くなり、生産性を低下させる虞が生じる。このため、巻芯1の外径は、500mm以下であることが好ましく、450mm以下であることがより好ましく、400mm以下であることが特に好ましい。
【0030】
(セパレータ)
図1に示すセパレータ2は、ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に、無機粒子と有機粒子の一方または両方を含有する粒子含有層が設けられた積層体からなる。
粒子含有層の積層数は、特に限定されず、1層のみであってもよいし、複数層形成されていてもよい。
【0031】
図1に示すセパレータ2は、セパレータ2の内周端から幅方向中心に沿って長手方向に30m移動した位置を中心として、長手方向の長さが200mmの試験片を採取し、温度25℃相対湿度55%の環境下に無張力状態で24時間放置したときの試験片の長手方向の収縮率が、0.3%以下のものである。上記試験片の長手方向の収縮率が0.15%以下であると、巻き出したセパレータの寸法変化がより小さく、好ましい。
【0032】
収縮率の測定に用いる試験片の幅方向の長さは、特に限定はされず、セパレータ2の全幅のままでもよい。セパレータ2の全幅が試験片としては広すぎる場合(例えば、セパレータの全幅が300mm以上である場合)には、試験片の取り扱いが面倒になるため、セパレータの幅方向の中央部から適当な幅、例えば、150~300mm程度の幅を切り出したものを試験片として用いることが好ましい。
【0033】
従来、巻芯に巻回されたセパレータの収縮率は、内周端からの長手方向の距離が近い位置から採取した試験片ほど大きくなる傾向がある。本実施形態において収縮率を測定する試験片を採取する位置は、一般的な長さのセパレータでは、内周端からの長手方向の距離が近い位置であり、セパレータの収縮率が大きい部分である。
本実施形態のセパレータロール10は、巻芯1に巻回されたセパレータ2から採取する試験片の位置による収縮率の差は小さいし、内周端からの長手方向の距離が近い位置から採取した試験片であっても十分に収縮率が小さい。
【0034】
巻芯1に巻回されたセパレータ2の長さ(巻き取り長さ)は、200~20000mであることが好ましい。セパレータ2の巻き取り長さが長くなるほど、セパレータ2を電気化学素子のセパレータとして使用する場合に、1本のセパレータロール10を用いて生産できる電気化学素子の個数が増える。したがって、セパレータロール10の入れ替えの手間が省け、電気化学素子の生産性が向上する。このことから、セパレータ2の長さは、200m以上とすることが好ましく、1000m以上とすることがより好ましく、2000m以上とすることがさらに好ましく、5000m以上とすることが特に好ましい。
【0035】
また、セパレータ2の巻き取り長さが長いほど、内周端からの距離が近い位置にあるものと、外周端から近い位置にあるものとの、巻き出したときの収縮差が大きくなりやすい。本実施形態のセパレータ2は、巻芯1に巻回されたセパレータ2から採取する試験片の位置による収縮率の差が小さいため、セパレータ2の巻き取り長さを200m以上と長くできる。これに対し、従来のセパレータでは、巻き取り長さが200m以上であると、長手方向の距離に起因する巻き出したセパレータの寸法変化の差が顕著であった。
【0036】
しかし、セパレータ2の巻き取り長さが20000mを超えると、長手方向の距離に起因する巻き出したセパレータ2の寸法変化の差が大きくなりやすくなる。このことから、セパレータ2の長さは、20000m以下とすることが好ましく、15000m以下とすることがより好ましく、10000m以下とすることが特に好ましい。
【0037】
巻芯1に巻回されたセパレータ2の幅は、セパレータ2の用途などに応じて適宜決定することができ、例えば、300~5000mmとすることができる。
【0038】
セパレータ2の厚み(総厚み)は、セパレータ2として要求される機能(正極と負極とを隔離する機能)を確保するために、6μm以上であることが好ましい。また、セパレータ2の厚みは、セパレータ2を電気化学素子のセパレータとして使用した場合に、電気化学素子のエネルギー密度の低下を抑える観点から、50μm以下であることが好ましく、
30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが特に好ましい。
【0039】
セパレータ2を形成しているポリオレフィン微多孔フィルムの厚みをTa(μm)、粒子含有層の厚みをTb(μm)としたとき、TaとTbとの比率Ta/Tbは、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。また、上記の比率Ta/Tbは、1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。上記の比率Ta/Tbが1~5であると、セパレータ2全体の熱収縮が効果的に抑制される。したがって、上記の比率Ta/Tbが1~5であるセパレータ2を電気化学素子のセパレータとして使用した場合、セパレータ2の熱収縮による短絡の発生を高度に抑制できる。
なお、粒子含有層がポリオレフィン微多孔フィルムの両面に存在する場合など、セパレータ2に粒子含有層が複数層形成されている場合、厚みTbは粒子含有層の総厚み(合計の厚み)である。
【0040】
セパレータ2全体の空孔率は、セパレータ2を電気化学素子のセパレータとして使用した場合に、電解液の保液量を確保してイオン透過性を良好にする観点から、乾燥した状態で30%以上であることが好ましい。一方、セパレータ2の強度の確保とセパレータとして使用した場合の内部短絡防止の観点から、セパレータ2の空孔率は、乾燥した状態で70%以下であることが好ましい。
セパレータ2の空孔率を30~70%とするために、ポリオレフィン微多孔フィルムの空孔率は30~70%であることが好ましく、粒子含有層の空孔率は20~60%であることが好ましい。
【0041】
(ポリオレフィン微多孔フィルム)
ポリオレフィン微多孔フィルムは、セパレータ2の基材である。ポリオレフィン微多孔フィルムは、例えば、セパレータ2を電気化学素子のセパレータとして使用する際に、正極と負極とを隔離する役割を果たす。
セパレータ2を形成しているポリオレフィン微多孔フィルムとしては、電気化学素子のセパレータに適用される汎用のポリオレフィン微多孔フィルムなどを用いることができる。
【0042】
ポリオレフィン微多孔フィルムの厚みは、5~30μmであることが好ましい。ポリオレフィン微多孔フィルムが薄すぎると、セパレータ2を電気化学素子のセパレータとして使用した場合に、シャットダウン特性が弱くなる虞がある。ポリオレフィン微多孔フィルムが厚すぎると、セパレータ2を電気化学素子のセパレータとして使用した場合に、電気化学素子のエネルギー密度の低下を引き起こす虞がある。また、ポリオレフィン微多孔フィルムが厚すぎると、ポリオレフィン微多孔フィルムの熱収縮が大きくなり、粒子含有層によるセパレータ2全体の熱収縮を抑える効果が不足する虞がある。
【0043】
ポリオレフィン微多孔フィルムは、圧縮弾性率が95MPa以上150MPa以下であることが好ましく、100~140MPaであることがより好ましく、105~130MPaであることが特に好ましい。ポリオレフィン微多孔フィルムの圧縮弾性率が95MPa以上150MPa以下である場合、セパレータ2を巻芯1に巻き付けてセパレータロール10を形成し、その後にセパレータロール10から巻出しても、セパレータ2の形状が損なわれにくい。したがって、巻き出したセパレータ2の寸法変化が小さいセパレータロール10となる。
【0044】
ポリオレフィン微多孔フィルムは、ポリプロピレンとポリエチレンのうちの少なくとも一方を含むことが好ましい。
ポリオレフィン微多孔フィルムは、セパレータ2を電気化学素子のセパレータとして使用した場合に、電気化学素子にシャットダウン特性を付与する点から、少なくともポリエチレンを含むことが好ましい。
ポリオレフィン微多孔フィルムがポリエチレンを含む場合には、その融点(およそ135℃)付近で溶融することにより、およそ140℃以下の温度において、空孔を塞いで電池の反応を停止させるシャットダウン効果を生じさせることが可能となる。
ポリオレフィン微多孔フィルムがポリエチレンを含む場合、重量平均分子量が35万以上のポリエチレンを含むことが好ましい。この場合、巻き出したセパレータ2の寸法変化が小さいセパレータロール10が得られやすく、好ましい。
【0045】
一方、ポリオレフィン微多孔フィルムがポリプロピレンを含む場合には、その融点(およそ170℃)が、電池の通常使用温度範囲(およそ120℃以下)よりも充分に高いことから、前記温度範囲における熱収縮の小さい微多孔フィルムを構成しやすくなる。
ポリオレフィン微多孔フィルムがポリプロピレンを含む場合、重量平均分子量が50万以上のポリプロピレンを含むことが好ましい。この場合、巻き出したセパレータ2の寸法変化が小さいセパレータロール10が得られやすく、好ましい。
【0046】
ポリオレフィン微多孔フィルムは、単層のポリエチレン微多孔フィルムであってもよいし、単層のポリプロピレン微多孔フィルムであってもよいし、ポリプロピレン層とポリエチレン層とを含む多層構造であってもよい。
多層構造のポリオレフィン微多孔フィルムは、ポリエチレン層を中間層とし、ポリプロピレン層を外層とした三層構造であることが好ましい。このような三層構造の積層微多孔フィルムは、耐熱性および機械的強度に優れる。さらに、このような三層構造の積層微多孔フィルムは、シャットダウン温度における熱収縮が比較的小さいので、セパレータ2を電気化学素子のセパレータとして使用した場合に、安全性および信頼性のより高い電気化学素子が得られる。
【0047】
(粒子含有層)
粒子含有層は、無機粒子と有機粒子の一方または両方を含有する。
粒子含有層の厚み(セパレータ2に粒子含有層が複数積層されている場合には、複数の粒子含有層の合計厚み)は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、4μm以上であることが特に好ましい。粒子含有層の厚みが薄すぎると、セパレータ2全体の熱収縮を抑制する効果が十分に得られず、セパレータ2の耐熱性が不足する虞がある。
また、上記の粒子含有層の厚みは、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることが特に好ましい。粒子含有層の厚みが厚すぎると、セパレータ2全体の厚みの増大を引き起こしてしまう。
【0048】
粒子含有層は、電気絶縁性を有する無機粒子を含むことが好ましい。
粒子含有層に含まれる無機粒子としては、例えば、酸化鉄、シリカ、アルミナ、TiO、BaTiO、MgOなどの酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物粒子;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結合性粒子;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性粒子;モンモリロナイトなどの粘土粒子;などが挙げられる。また、無機粒子は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカなどの鉱物資源由来物質またはこれらの人造物であってもよい。無機粒子は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。粒子含有層に含まれる無機粒子としては、上記の中でも特に、アルミナ、シリカ、ベーマイトから選ばれるいずれか1種または2種以上であることが好ましい。
【0049】
粒子含有層に含まれる有機粒子の材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリスルホンなどが挙げられる。
【0050】
粒子含有層は、バインダを含有していてもよい。粒子含有層中のバインダは、粒子含有層に含まれる無機粒子および/または有機粒子同士の接着、粒子含有層とポリオレフィン微多孔フィルムとの接着に寄与する。
粒子含有層に含まれるバインダとしては、従来公知のものを用いることができ、電気化学素子の内部での電気化学的な安定性が良好で、電気化学素子の電解液に対する安定性が良好なものを用いることが好ましい。
【0051】
粒子含有層に含まれるバインダとしては、具体的には、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20~35モル%のもの)、エチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン-アクリル酸共重合体、フッ素樹脂[ポリフッ化ビニリデン(PVDF)など]、フッ素系ゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリN-ビニルアセトアミド、アクリル樹脂、ポリウレタン、ナイロン、ポリエステル、ポリビニルアセタール、エポキシ樹脂などの有機バインダが好ましく用いられる。バインダは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用しても構わない。
【0052】
バインダとしては、150℃以上の耐熱温度を有する耐熱樹脂を用いてもよい。150℃以上の耐熱温度を有する耐熱樹脂としては、エチレン-アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、SBRなどの柔軟性の高い樹脂を用いることが好ましい。150℃以上の耐熱温度を有する耐熱樹脂の具体例としては、三井デュポンポリケミカル社製のEVA「エバフレックスシリーズ(商品名)」、日本ユニカー社製のEVA、三井デュポンポリケミカル社製のエチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)「エバフレックス-EEAシリーズ(商品名)」、日本ユニカー社製のEEA、ダイキン工業社製のフッ素ゴム「ダイエルラテックスシリーズ(商品名)」、JSR社製のSBR「TRD-2001(商品名)」、日本ゼオン社製のSBR「BM-400B(商品名)」などが挙げられる。
【0053】
粒子含有層中のバインダの含有量は、バインダの使用による作用をより有効に発揮させる観点から、無機粒子と有機粒子の合計100重量部に対し、0.5重量部以上であることが好ましく、1重量部以上であることがより好ましく、2重量部以上であることが特に好ましい。また、粒子含有層中のバインダの含有量が多すぎると、粒子含有層の空孔がバインダによって埋められてイオンの透過性が低下し、電気化学素子の特性に悪影響が出る虞がある。このことから、粒子含有層中のバインダの含有量は、無機粒子と有機粒子の合計100重量部に対し、10重量部以下であることが好ましく、7重量部以下であることがより好ましく、5重量部以下であることが特に好ましい。
【0054】
「セパレータロールの製造方法」
次に、セパレータロールの製造方法の一例として、図1に示すセパレータロール10の製造方法を例に挙げて説明する。
(巻芯の製造)
セパレータロール10を製造するには、まず、デュロメータ硬さ(タイプD)が75以上である芯材1aと、芯材1aの表面に一体化されたデュロメータ硬さ(タイプA)が70以下である表層材1bとを有する巻芯1を用意する。
巻芯1を製造する方法としては、例えば、芯材1aが収容された金型を用いて、トランスファー成形法、注型成形法などにより、芯材1aの表面に表層材1bを形成する方法が挙げられる。
【0055】
より詳細には、例えば、金型の内部に収容された芯材1aと金型との間に、表層材1bとなる原料成分を含む原料組成物を注入し、加熱などの方法により重合あるいは架橋させて目的とする材質の表層材1bを形成する。このことにより、芯材1aの表面に表層材1bが一体化された巻芯1が得られる。
この場合、金型の内面の平滑性が、形成される表層材1bの表面に転写される。したがって、金型の内面を平滑な面とすることにより、形成される表層材1bの表面の算術平均粗さRaを、例えば、3μm以下、好ましくは1.5μm以下とすることができる。表層材1bの表面の算術平均粗さRaが3μm以下であると、セパレータ2の巻き取り精度をより高めることができる。
【0056】
上記の方法において使用される原料組成物は、表層材1bとなる原料成分(表層材がゴム材である場合は、ゴム原料、架橋剤、添加剤など)を含むものであり、必要に応じて熱発泡性粒子を含有していてもよい。例えば、ゴム原料を含む原料組成物に熱発泡性粒子を含有させることで、発泡状のゴム材からなる表層材1bを形成できる。
表層材1bは、表層材1bとなる原料成分を含む原料組成物を、スプレー、ディッピング、スクリーン印刷等の方法で芯材1aの表面に塗布し、必要に応じて重合させたり架橋させたりする方法により、形成することもできる。
【0057】
(セパレータの製造)
また、ポリオレフィン微多孔フィルムの巻き付けられた微多孔フィルムロールを用意する。そして、微多孔フィルムロールから、ポリオレフィン微多孔フィルムを巻き出し、ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に、無機粒子と有機粒子の一方または両方を含有する粒子含有層が設けられた積層体からなるセパレータ2を形成する。
【0058】
ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に粒子含有層を設ける方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えば、ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に、無機粒子と有機粒子の一方または両方を含有する塗液を塗布し、乾燥させる方法を用いることができる。
【0059】
ポリオレフィン微多孔フィルム上に塗布する塗液としては、例えば、無機粒子および/または有機粒子を、水系あるいは有機溶媒系の媒体(分散媒)に分散または溶解させたものを用いることができる。
塗液は、上記のバインダ、増粘剤、分散剤、界面活性剤などを、必要に応じて含有していてもよい。
【0060】
粒子含有層を形成する際に用いる無機粒子および/または有機粒子を含有する塗液は、公知の方法を用いて、無機粒子および/または有機粒子と、必要に応じて含有されるバインダ、増粘剤、分散剤、界面活性剤などとを、分散媒に分散または溶解させることにより得られる。
【0061】
(分散媒)
分散媒としては、水、有機溶媒(トルエンなどの芳香族炭化水素;テトラヒドロフランなどのフラン類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;など)、水と有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。分散媒は、水を70質量%以上含有していることが好ましく、90質量%以上含有していることがより好ましく、実質的に水のみであることが特に好ましい。
【0062】
(増粘剤)
増粘剤としては、塗液に使用する媒体(分散媒)に対して良好に溶解または分散し得るものが好ましく用いられる。また、増粘剤としては、少量の含有量で高い増粘作用を有するものを用いることが好ましい。
【0063】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体;キサンタンガム、ウェランガム、ジェランガム、グアーガム、カラギーナンなどの天然多糖類;デキストリン、アルファー化でんぷんなどのでんぷん類;ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリN-ビニルアセトアミド、ビニルメチルエーテル-無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。これらの増粘剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
上記の増粘剤の中でも、特に、セルロース誘導体、天然多糖類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびポリN-ビニルアセトアミドから選ばれる1種または2種以上が好ましく用いられる。これらの増粘剤は、水に対する溶解性が高く、少量で高い増粘効果が得られるため、好ましい。
上記の増粘剤のうち、バインダとしての機能も有する化合物については、増粘剤を兼ねるバインダとして用いることができる。
【0065】
塗液中の増粘剤の含有量は、使用する塗液の粘度に応じて決定する。例えば、増粘剤の含有量は、無機粒子と有機粒子の合計100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが特に好ましい。また、塗液中に増粘剤を含有させることにより、充分な増粘効果を発揮させるためには、増粘剤の含有量は、0.1質量部以上とすることが好ましい。
【0066】
(分散剤)
分散剤は、無機粒子および/または有機粒子を分散媒中に分散させるために用いられる。分散剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の各種界面活性剤;ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩などの高分子系分散剤;などを用いることができる。分散剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
上記の分散剤の中でも、無機粒子および/または有機粒子を分散媒中に分散させる作用が強いことから、イオン解離性の酸基(カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ酸基、マレイン酸基など)またはイオン解離性の酸塩基(カルボン酸塩基、スルホン酸塩基、マレイン酸塩基など)を複数含有するものが好ましく、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩がより好ましい。また、前記の高分子系分散剤が塩の場合(酸塩基を有する場合)、アンモニウム塩であることが好ましい。
【0068】
塗液中の分散剤の含有量は、分散剤の作用を有効に発揮させる観点から、無機粒子と有機粒子の合計100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.3質量部以上であることが特に好ましい。塗液が無機粒子と有機粒子の合計100質量部に対して、0.05質量部以上の分散剤を含む場合、塗液中で個々の無機粒子および/または有機粒子が充分に分離して分散された状態になるとともに、無機粒子および/または有機粒子の良好な分散状態が長時間維持される。このため、ポリオレフィン微多孔フィルム上に、無機粒子および/または有機粒子を含有する塗液を塗布する工程中に、塗液の状態が変化することがなく、より均質で平坦性の良好な粒子含有層が得られる。
【0069】
一方、塗液中の分散剤の含有量が多すぎると、その効果が飽和するのみならず、塗液を塗布して形成した粒子含有層中に残存し、粒子含有層中で水分を吸着する。粒子含有層中の水分は、セパレータ2を電気化学素子のセパレータとして使用することにより電池内に持ち込まれ、電池特性を低下させる要因となる。このため、分散剤の含有量は、無機粒子と有機粒子の合計100質量部に対して、2質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、0.8質量部以下であることが特に好ましい。
【0070】
(界面活性剤)
界面活性剤は、塗液の表面張力を調整するために用いられる。界面活性剤としては、炭化水素系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0071】
炭化水素系界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、コール酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤;テトラアルキルアンモニウム塩などのカチオン性界面活性剤;分子内にアニオン性部位とカチオン性部位の両者を有する両性界面活性剤;アルキルグルコシドなどのノニオン性界面活性剤;などが挙げられる。
【0072】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、疎水基に直鎖アルキル基、パーフルオロアルケニル基などを配したもの(パーフルオロオクタンスルフォン酸、パーフルオロカルボン酸など)などが挙げられる。
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリメチルアルキルシロキサンなどが挙げられる。
【0073】
塗液中の界面活性剤の含有量は、塗液の表面張力がポリオレフィン微多孔フィルムの表面張力(濡れ指数)と同程度か、それよりも小さくなる含有量であることが好ましい。具体的には、界面活性剤の含有量は、媒体100質量部に対して、0.05質量部以上とすることが好ましく、0.07質量部以上とすることがより好ましく、0.1質量部以上とすることが特に好ましい。
【0074】
塗液中の界面活性剤の含有量が多すぎると、セパレータ2におけるポリオレフィン微多孔フィルムと粒子含有層との密着性が低下して、例えば、180°での剥離強度が好適値になりにくくなる。ポリオレフィン微多孔フィルムと粒子含有層との密着性が低下すると、粒子含有層によるセパレータ2の熱収縮を抑制する作用が不十分となる虞がある。また、塗液中の界面活性剤の含有量が多すぎると、塗液および/または媒体がポリオレフィン微多孔フィルムの空孔を通って粒子含有層を形成する側と反対側の面に抜ける裏抜けが起こりやすくなる。裏抜けが生じると、塗液および/または分散媒が、塗液を塗布する装置のバックアップロールなどを濡らして、ポリオレフィン微多孔フィルムのハンドリングが低下し、塗液が均一に塗布されにくくなる。よって、塗液中の界面活性剤の含有量は、媒体100質量部に対して、1.5質量部以下とすることが好ましく、1質量部以下とすることがより好ましく、0.5質量部以下とすることが更に好ましい。
【0075】
ポリオレフィン微多孔フィルム上に塗液を塗布する方法としては、例えば、グラビアコーター、ナイフコーター、リバースロールコーター、ダイコーターなどの塗工装置を用いる方法が挙げられる。
【0076】
塗布した塗液を乾燥させる乾燥条件は、ポリオレフィン微多孔フィルムの樹脂を形成しているポリオレフィンの融点よりも低い温度であればよい。例えば、乾燥温度は、乾燥時のポリオレフィン微多孔フィルムの収縮を防ぐために、150℃以下とすることが好ましく、145℃以下とすることがより好ましい。一方、乾燥温度は、乾燥効率を高め、乾燥時間を短くするために、60℃以上とすることが好ましく、80℃以上とすることがより好ましい。
【0077】
その後、得られたセパレータ2を巻芯1に巻回する。
セパレータ2を巻芯1に巻き付ける方法は、特に限定されず、巻き取り速度、張力などの巻き取り条件を適宜制御して、従来公知の方法により巻き取ることができる。巻き取り張力は、例えば、10~80N/mとすることができる。
以上の工程により、本実施形態のセパレータロール10が得られる。
【0078】
本実施形態のセパレータロール10から巻き出したセパレータ2は、例えば、電気化学素子のセパレータとして用いることができる。セパレータ2を適用可能な電気化学素子としては、特に制限はない。例えば、セパレータ2を適用可能な電気化学素子として、非水電解液を有する各種電気化学素子が挙げられる。具体的には、リチウムイオン電池(一次電池および二次電池)、ポリマーリチウム電池、電気二重層キャパシタなどが挙げられる。これらの中でも、特に、セパレータ2は、高温での安全性が要求される用途に適用される電気化学素子のセパレータとして好適である。
【0079】
本実施形態のセパレータロール10は、巻芯1と、巻芯1に巻回されたセパレータ2とを有し、セパレータ2の内周端から幅方向中心に沿って長手方向に30m移動した位置を中心として、長手方向の長さが200mmの試験片を採取し、温度25℃相対湿度55%の環境下に無張力状態で24時間放置したときの前記試験片の長手方向の収縮率が、0.3%以下であり、巻き出したセパレータの寸法変化が小さい。
【0080】
本実施形態のセパレータロール10の製造方法は、デュロメータ硬さ(タイプD)が75以上である芯材1aと、芯材1aの表面に一体化されたデュロメータ硬さ(タイプA)が70以下である表層材1bとを有する巻芯1に、ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に、無機粒子と有機粒子の一方または両方を含有する粒子含有層が設けられた積層体からなるセパレータ2を巻回する工程を有するため、巻き出したセパレータ2の寸法変化が小さいセパレータロール10が得られる。
【0081】
本実施形態のセパレータロール10に巻き付けられたセパレータ2は、ポリオレフィン微多孔フィルムの片面または両面に、無機粒子と有機粒子の一方または両方を含有する粒子含有層が設けられた積層体からなる。このため、セパレータ2の耐熱性が良好であり、電気化学素子のセパレータとして好適である。具体的には、電気化学素子の内部が、ポリオレフィン微多孔フィルムを形成しているポリオレフィン樹脂の融点以上の温度となった場合、粒子含有層によって、セパレータ2の熱収縮が抑制されるとともに、正極と負極とが直接接触することによる短絡が防止される。よって、本実施形態のセパレータロール10から巻き出したセパレータ2を用いた電気化学素子は、高温下における安全性が優れたものとなる。
【実施例
【0082】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0083】
(実施例1)
以下に示すセパレータと、円筒形状の巻芯とをそれぞれ作成し、以下に示す方法によりセパレータを巻芯に巻回し、セパレータロールを得た。
【0084】
円筒形状のコアに、以下に示す三層構造のポリオレフィン微多孔フィルムが巻き付けられた微多孔フィルムロールを用意した。そして、微多孔フィルムロールから三層構造のポリオレフィン微多孔フィルムを巻き出し、ポリオレフィン微多孔フィルムの片面に、下記の無機粒子を含有する塗液を塗布し、130℃で乾燥させて、厚み5μmの粒子含有層を形成し、厚みが30μmの積層膜からなるセパレータを得た。
【0085】
「三層構造のポリオレフィン微多孔フィルム」
重量平均分子量が約39万で厚みが7.0μmのポリエチレンよりなる中間層と、中間層の両側に積層された、重量平均分子量が約65万(分子量分布:11)で厚みが5.5μmのポリプロピレンよりなる外層とからなる。
(総厚み18.0μm、圧縮弾性率:122.4MPa)
【0086】
以下に示す割合で、以下に示す無機粒子とバインダと増粘剤と界面活性剤を、以下に示す分散媒に分散または溶解させることにより、無機粒子を含有する塗液を得た。
「無機粒子」ベーマイト粉末(板状、平均粒径1μm、アスペクト比10)、100質量部
「バインダ」アクリル酸ブチル-アクリル酸共重合体(Tg:-30℃)、無機粒子100重量部に対して3質量部
「増粘剤」カルボキシメチルセルロース、無機粒子100重量部に対して1質量部
「界面活性剤」パーフルオロオクタンスルフォン酸、水100質量部に対して0.1質量部
「分散媒」水
【0087】
強化繊維としてガラス繊維を用い、マトリクス樹脂としてエポキシ樹脂を用いたFWPコア〔厚み:7.2mm、デュロメータ硬さ(タイプD):85、外径:167mm〕からなる芯材と、芯材の表面に一体化されたウレタンゴムからなる表層材〔厚み:1mm、デュロメータ硬さ(タイプA):50〕とからなる巻芯を用意した。
芯材および表層材のデュロメータ硬さの値は、JIS K 6253-3に準じて測定した値である。
【0088】
上記の巻芯に、上記のセパレータを巻回し、幅1,000mmの実施例1のセパレータロールを得た。セパレータロールにおけるセパレータの巻き取り長さは、2,000mとした。
実施例1のセパレータロールについて、巻芯に巻回されたセパレータの収縮率を、以下に示す方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0089】
「収縮率の測定」
セパレータから以下に示す採取位置を中心とする長手方向の長さが200mmである幅方向の長さが200mmの試験片をそれぞれ採取した。試験片を平面上に静置し、温度25℃相対湿度55%の環境下に無張力状態で24時間放置した。このときの試験片の長手方向の収縮率を、以下に示す式により算出した。
試験片の長さは、ペンを用いて試験片の長手方向に直線を描き、24時間放置する前と後の直線の長さを、レーザー幅測定器により測定して求めた。
収縮率(%)={(放置前の試験片の長手方向の長さ-放置後の試験片の長手方向の長さ)/放置前の試験片の長手方向の長さ}×100
【0090】
「試験片の採取位置」
A:セパレータの内周端から幅方向中心に沿って長手方向に30m移動した位置を中心とする。
B:セパレータの内周端から幅方向中心に沿って長手方向にセパレータ全長の1/4の距離(500m)分外周側に移動した位置を中心とする。
C:セパレータの内周端から幅方向中心に沿って長手方向にセパレータ全長の1/2の距離(1000m)分外周側に移動した位置を中心とする。
D:セパレータの内周端から幅方向中心に沿って長手方向にセパレータ全長の3/4の距離(1500m)分外周側に移動した位置を中心とする。
【0091】
【表1】
【0092】
(比較例1)
ポリエチレン(PE)樹脂のコア〔厚み:7mm、デュロメータ硬さ(タイプD):50、外径:167mm〕からなる芯材と、芯材の表面に一体化されたウレタンゴムからなる実施例1と同じ表層材とからなる巻芯を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例1のセパレータロールを得た。
比較例1のセパレータロールについて、巻芯に巻回されたセパレータを巻き出したところ、セパレータに皺が入っているのが確認された。これは芯材のデュロメータ硬さ(タイプD)が低く、セパレータの巻き取り精度が低下したためと考えられる。
【0093】
(比較例2)
巻芯として、実施例1の芯材をそのまま用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例2のセパレータロールを得た。
比較例2のセパレータロールについて、巻芯に巻回されたセパレータの収縮率を、実施例1と同様にして測定した。その結果を表1に示す。
【0094】
表1に示すように、実施例1のセパレータロールでは、試験片の採取位置に関わらず全ての試験片の収縮率が0.05%以下であり、巻き出したセパレータの寸法変化が小さかった。
これに対し、比較例1のセパレータロールでは、セパレータの巻き取り精度が低いためセパレータに皺が入った。また、比較例2のセパレータロールでは、セパレータの内周端に近い位置(A)での試験片の収縮率が0.3%を超えた。
【0095】
表1に示すように、1つのセパレータロールから採取した試験片であっても、試験片の採取位置によって収縮率は異なっている。より詳細には、比較例2のように芯材をそのまま巻芯として用いた場合には、試験片の採取位置がAである場合の収縮率がB~Dである場合よりも大きくなっている。これに対し、表層材を有する巻芯を用いた実施例1では、試験片の採取位置がAである場合の収縮率がB~Dと同等(収縮率の差が0.05%以下)になることが確認できた。
【符号の説明】
【0096】
1・・・巻芯、1a・・・芯材、1b・・・表層材、2・・・セパレータ、10・・・セパレータロール。
図1