(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】ウイルスベクター効率を改善するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20230919BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230919BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230919BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20230919BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20230919BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230919BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230919BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20230919BHJP
C07K 14/16 20060101ALI20230919BHJP
C12N 15/49 20060101ALI20230919BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230919BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20230919BHJP
C12Q 1/70 20060101ALI20230919BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
C07K19/00
A61K47/42
A61K48/00
A61P7/00
A61P7/06
A61P37/04
A61P43/00 111
C07K14/00 ZNA
C07K14/16
C12N15/49
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12Q1/70
G01N33/569 G
(21)【出願番号】P 2018528340
(86)(22)【出願日】2016-11-30
(86)【国際出願番号】 EP2016079304
(87)【国際公開番号】W WO2017093330
(87)【国際公開日】2017-06-08
【審査請求日】2019-09-12
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-01
(32)【優先日】2015-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2016-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】マジュール,サリハ
(72)【発明者】
【氏名】フェナール,ダヴィド
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】福井 悟
【審判官】牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-527055(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0271584(US,A1)
【文献】PNAS,2011,Vol.108,No.41,p.16883-16888
【文献】Nature,2013年,Vol.494,p.201-209
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:
82及び配列番号:90~91のいずれか1つに示される配列を含むか、又はからなる、ペプチド。
【請求項2】
ウイルス又はウイルスベクターによる細胞のトランスダクションを促進するためのin vitro方法であって、該細胞と、該ウイルス又はウイルスベクター及び配列番号:74~83及び配列番号:91のいずれか1つに示される配列を含むペプチドとを接触させることを含む、in vitro方法。
【請求項3】
ペプチドが、
配列番号75: YGRKKRRQRRR GG TNVFNATFEIWHDGEFGT;
配列番号77: YGRKKRRQRRR GG TNVFNATFHIWHSGQFGT;
配列番号78: YGRKKRRQRRR GG YAQTQLDKLKKTNVFNATFEIWHDGEFGT;
配列番号79: YGRKKRRQRRR GG TNVFNATFEIWHDGEFGTINNFRLGRLPSV;
配列番号80: YGRKKRRQRRR GG TNVFNATFHIWHSGQFGTINNFRLGRLPSV;
配列番号81: YGRKKRRQRRR GG VENQMRYAQTQLDKLKKTNVFNATFEIWHDGEF;
配列番号82: YGRKKRRQRRR GG FEIWHDGEFGTINNFRLGRLPSVPV;
配列番号83: YGRKKRRQRRR GG FNATFEIWHDGEFGTINNFRLGRLPSVPV; 又は
配列番号91: YGRKKRRQRRR GG INCFTATFEIWVEGPLGV
に示される配列の一つからなる、請求項2記載のin vitro方法。
【請求項4】
細胞が、造血幹/前駆細胞、又はhCD34+細胞である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
別のウイルストランスダクションエンハンサー、ベクトフシン(vectofusin)、ヒトフィブロネクチンフラグメント、ウイルス感染の様々な精液由来エンハンサー又はHIV-1エンベロープ糖タンパク質由来のペプチドを接触させることをさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項6】
0.01~20μMに含まれる濃度で、ペプチドを使用する、請求項2記載の方法。
【請求項7】
ウイルス又はウイルスベクターが、レトロウイルス、レンチウイルス、シュードタイプウイルス、パルボウイルス、又はアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項2記載の方法。
【請求項8】
請求項1記載のペプチドを含む、医薬組成物。
【請求項9】
配列番号:74~83及び配列番号:91のいずれか1つに示される配列
からなるペプチドを含む、
ウイルス又はウイルスベクターによる細胞のトランスダクションを促進するための、組成物。
【請求項10】
ペプチドが、
配列番号75: YGRKKRRQRRR GG TNVFNATFEIWHDGEFGT;
配列番号77: YGRKKRRQRRR GG TNVFNATFHIWHSGQFGT;
配列番号78: YGRKKRRQRRR GG YAQTQLDKLKKTNVFNATFEIWHDGEFGT;
配列番号79: YGRKKRRQRRR GG TNVFNATFEIWHDGEFGTINNFRLGRLPSV;
配列番号80: YGRKKRRQRRR GG TNVFNATFHIWHSGQFGTINNFRLGRLPSV;
配列番号81: YGRKKRRQRRR GG VENQMRYAQTQLDKLKKTNVFNATFEIWHDGEF;
配列番号82: YGRKKRRQRRR GG FEIWHDGEFGTINNFRLGRLPSVPV;
配列番号83: YGRKKRRQRRR GG FNATFEIWHDGEFGTINNFRLGRLPSVPV; 又は
配列番号91: YGRKKRRQRRR GG INCFTATFEIWVEGPLGV
に示される配列の一つからなる、請求項9記載
の組成物。
【請求項11】
請求項1記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド含む、核酸構築物。
【請求項12】
サンプル中のウイルスの存在又は非存在を検出するための、細胞ベースのアッセイの感度を増加させるためのin vitro方法であって、サンプル又はサンプル由来抽出物と細胞及びペプチドとを接触させることを含み、該ペプチドは、配列番号:74~83及び配列番号:91のいずれか1つに示される配列を含む、in vitro方法。
【請求項13】
ペプチドが、
配列番号75: YGRKKRRQRRR GG TNVFNATFEIWHDGEFGT;
配列番号77: YGRKKRRQRRR GG TNVFNATFHIWHSGQFGT;
配列番号78: YGRKKRRQRRR GG YAQTQLDKLKKTNVFNATFEIWHDGEFGT;
配列番号79: YGRKKRRQRRR GG TNVFNATFEIWHDGEFGTINNFRLGRLPSV;
配列番号80: YGRKKRRQRRR GG TNVFNATFHIWHSGQFGTINNFRLGRLPSV;
配列番号81: YGRKKRRQRRR GG VENQMRYAQTQLDKLKKTNVFNATFEIWHDGEF;
配列番号82: YGRKKRRQRRR GG FEIWHDGEFGTINNFRLGRLPSVPV;
配列番号83: YGRKKRRQRRR GG FNATFEIWHDGEFGTINNFRLGRLPSVPV; 又は
配列番号91: YGRKKRRQRRR GG INCFTATFEIWVEGPLGV
に示される配列の一つからなる、請求項12記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ターゲット細胞へのウイルスのトランスダクション効率の改善において使用するためのペプチド及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
遺伝子治療アプローチは、多くの場合、リコンビナントウイルスベクターによるターゲット細胞の低いトランスダクション効率によって妨げられる。レトロウイルスベクター、特にヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1)ベースのレンチウイルスベクター(LV)は、遺伝子治療のための有望なビヒクルである(D'Costa et al., 2009)。これらベクターは、現在、様々な疾患、例えば免疫不全、神経変性性又は神経学的疾患、貧血症、HIV感染症を処置するための臨床用途において使用されている。レトロウイルスベクターの用途のいくつかは、ex vivoにおける特定のターゲット細胞、例えばCD34マーカーを発現する造血幹/前駆細胞のトランスダクションに依拠する。リコンビナントレンチウイルス粒子の使用に伴う制限要因は、リコンビナントレンチウイルスベクター粒子の生産中に高感染力価を得る能力である。この制限を回避する1つの方法は、精製工程中にウイルス上清を濃縮することである(Rodrigues et al., 2007)。しかしながら、GALVTR-LV(両種性マウス白血病ウイルス(MLV-A)エンベロープ糖タンパク質の細胞質尾部に融合されたテナガザル白血病ウイルスエンベロープ糖タンパク質でシュードタイピングされたLV(Sandrin et al., 2002))の場合のように、ウイルス粒子をシュードタイピングするために使用されるエンベロープ糖タンパク質に応じて、いくつかのLVについては、精製プロトコールは確立困難である。したがって、多くのレンチウイルスベクター調製物は低い力価を有し、トランスダクション効率は限られている。別の制限要因は、ターゲット細胞に感染するレンチウイルスベクターそれ自体の能力である。いくつかのエンベロープ糖タンパク質、例えばVSV-G、RD114TR、GALVTRは、レンチウイルスベクターをシュードタイピングするために使用され得、ターゲット細胞、例えばCD34+細胞に対する不定の感染性を有する(Sandrin et al., 2002)。これらの制限を回避する1つの戦略は、トランスダクションプロトコールを最適化する補因子、例えばカチオン性ポリマー(例えば、ポリブレン)又はフィブロネクチンフラグメント(例えば、レトロネクチン)を追加することである(Davis et al., 2004; Pollok et al., 1999)。米国特許第7,759,467号には、レトロウイルスによる造血細胞のトランスダクション効率を増加させるための方法であって、フィブロネクチン又はフィブロネクチンフラグメントの存在下における該細胞の感染を含む方法が記載されている。しかしながら、少なくとも2つの理由により、提案されている方法は全体的に満足なものではない。第1に、レトロウイルスの効率を改善するために使用されるフィブロネクチンフラグメントは、通常、約270個以上のアミノ酸を含むので、大きな経済的欠点を示す。さらに、フィブロネクチン又はフィブロネクチンフラグメントの使用は、培養プレートをコーティングし、ウイルス上清を固定化フィブロネクチンフラグメント上にプレロードすることを必要とする。これら2つの工程は標準化困難であり、使用されるフィブロネクチンフラグメント及びウイルス上清の濃度に応じて、ターゲット細胞のトランスダクションのある程度の飽和をもたらし得る(Novelli et al., 1999)。
【0003】
興味深いことに、最近、ヒト精液において、SEVIと称される天然カチオン性ペプチドがHIV-1感染性の強力なエンハンサーとして同定されている(Munch et al., 2007; Roan et al., 2009)。細胞のウイルス感染を促進するヒト前立腺酸性フォスファターゼのアミノ酸残基240~290のフラグメントが記載されている国際特許出願第PCT/EP2007/050727号においても、このファミリーのペプチドが開示されている。
【0004】
本出願人はまた、国際特許出願第PCT/EP2012/06264号において、ウイルス又はウイルスベクターによる真核細胞の感染を促進するためのLAH4ペプチド又はその機能的誘導体の使用を以前に提案し、特にLVベクターによるhCD34+細胞の感染に関して、非常に優れた結果を提供した。
【0005】
本発明者らの目的は、ターゲット細胞へのウイルス又はウイルスベクターのトランスダクション効率を増加させるための改善された手段を提供することである。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ターゲット細胞へのウイルストランスダクションを改善するための組成物及び方法を提供する。
【0007】
本発明者らは、細胞透過性ペプチド(CPP)部分及びBeclin由来ペプチド部分(両部分は以下で定義される)を含むペプチド、特にMAP-Beclin-1、Tat-Beclin-1又はTat-Beclin-2ペプチドが、真核細胞におけるウイルスのトランスダクション効率を促進する特性を有する。ことを見出した。Tat-Beclin1(TB1)ペプチドはオートファジー(ウイルス阻害に関与する細胞機構)を誘導すると以前に記載されているので(国際公開公報第2013/119377号;Shoji-Kawata et al., 2013)、この観察結果は非常に驚くべきものである。同様に、2013年に、He Cらは、Beclin2が、Beclin1のようにオートファジーに関与する哺乳動物特異的タンパク質であることを同定した(He C. et al, 2013)。しかしながら、Beclin1ではなくBeclin2は、さらなるリソソーム分解経路において機能する。しかし、本明細書では、CPP部分及びBeclin由来ペプチド部分を含むペプチド(Tat-Beclin2ペプチド、Tat-Beclin-1ペプチド及びMAP-Beclin-1ペプチド)は、異なる真核生物ターゲット細胞における多くの異なるウイルス型のトランスダクション効率を有意に改善することが開示される。
【0008】
したがって、一態様では、本発明は、ウイルスによる細胞の感染を促進するための方法であって、前記細胞と、前記ウイルスと、
(i)CPP部分;及び
(ii)Beclin由来ペプチド部分、特にBeclin-1-又はBeclin-2由来ペプチド部分
を含むペプチドとを接触させることを含む方法を提供する。
【0009】
特定の実施態様では、本発明の方法は、in vitro方法である。より具体的には、前記方法は、サンプル中のウイルスの存在又は非存在を検出するための細胞ベースのアッセイの感度を増加させるため実行される。実際、本発明において実行されるペプチドのトランスダクション増強特性により、感染性が改善されるので、サンプル中の少量のウイルスさえ検出され得る。
【0010】
加えて、本発明の方法はまた、被験体におけるウイルスによる感染を診断するために実行され得、細胞、並びにCPP部分及びBeclin由来ペプチド部分を含む本発明のペプチドと共に被験体のサンプルをインキュベーションして、前記サンプルに含まれる任意のウイルスの前記細胞への侵入を増大させ、続いて、前記細胞に侵入したウイルスを同定することを含む。
【0011】
より好ましくは、本発明は、治療遺伝子をコードするウイルスベクターと組み合わせた遺伝子治療法における、CPP部分及びBeclin由来ペプチド部分(例えば、Beclin-1-又はBeclin-2由来ペプチド部分)を含む上記で定義されるペプチドの使用に関する。
【0012】
特定の実施態様では、本発明のペプチドと共に使用されるウイルス又はウイルスベクターは、レトロウイルス、特にレンチウイルス、例えば偽型レンチウイルスである。別の実施態様では、ウイルス又はウイルスベクターは、パルボウイルス、特にアデノ随伴ウイルス(AAV)である。特定の実施態様では、本発明のペプチドは、ウイルスによる細胞の感染を促進し、細胞は、造血幹/前駆細胞、好ましくはhCD34+細胞である。本発明のペプチドはまた、別のウイルストランスダクションエンハンサー、例えばvectofusin、ヒトフィブロネクチンフラグメント、ウイルス感染の様々な精液由来エンハンサー又はHIV-1エンベロープ糖タンパク質由来のペプチドと共に使用され得る。
【0013】
さらに、本発明は、CPP部分及びBeclin由来ペプチド部分(例えば、Beclin-1-又はBeclin-2由来ペプチド部分)を含むペプチドに関する。特に、本発明は、MAP部分及びBeclin-1由来ペプチド部分を含むペプチドに関する。
【0014】
本発明の別の態様は、ウイルス又はウイルスベクターと、細胞透過性ペプチド(CPP)部分及びBeclin由来ペプチド部分を含むペプチドとの複合体に関する。別の態様では、本発明は、ウイルス又はウイルスベクターと、細胞透過性ペプチド(CPP)部分及びBeclin由来ペプチド部分を含むペプチドとの混合物に関する。特定の実施態様では、本発明の複合体又は混合物中のウイルス又はウイルスベクターは、レトロウイルス、特にレンチウイルスである。特定のレンチウイルスは、偽型レンチウイルスを含む。別の実施態様では、ウイルス又はウイルスベクターは、パルボウイルス、特にアデノ随伴ウイルス(AAV)である。さらなる実施態様では、ペプチドは、上記で、より具体的には特許請求の範囲で定義されるとおりであるか、又はペプチドは、配列番号:75、配列番号:77及び配列番号:98~101に示されている配列を含むか若しくはそれからなる、
【0015】
本発明はさらに、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸構築物に関する。
【0016】
本発明の別の態様は、本発明のペプチド及びウイルスベクターを含むキットに関する。
【0017】
他の態様及び実施態様は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】Tat-Beclin1は、様々なレンチウイルスベクターによる細胞株トランスダクションを促進する。A)示されている濃度のTat-Scrambled又はTat-Beclin1ペプチドの非存在下又は存在下、VSV-G-LV(2×10
5TU/ml)でHCT116細胞を6時間トランスダクションした。B)Tat-Scrambled又はTat-Beclin1ペプチド(5μM)の非存在下又は存在下、様々な力価のVSV-G-LVでHCT116細胞をトランスダクションした。C)Tat-Scrambled(5μM)、Tat-Beclin1(5μM)、Vectofusin-1(6μg/ml)、硫酸プロタミン(4μg/ml)又はポリブレン(3μg/ml)の非存在下又は存在下、GALVTR-LV又はRD114TR-LV(10
6TU/ml)でHCT116細胞をトランスダクションした。3つのパネルにおいて、3~4日後にGFP発現をモニタリングすることによって、トランスダクション効率を評価した。全てのデータは、2回反復で実施した3回の独立した実験の平均±平均値の標準誤差(SEM)として表されている。
【
図2】Tat-Beclin1は、明らかな細胞毒性を伴わずに、hCD34+HSPCのレンチウイルストランスダクションを増強する。A)レトロネクチン(7μg/cm
2)又は示されている濃度のTat-Scrambled若しくはTat-Beclin1ペプチドの非存在下(なし)又は存在下で、高精製VSV-G-LV(2×10
7ig/ml、MOI 240)をhCD34+細胞に感染させた。3~5日後、GFP発現をモニタリングすることによって、トランスダクション効率を評価した。データは、2回反復で実施した3回の独立した実験(3つのUCBドナー)の平均±SEMとして表されている。B)Tat-Beclin1(10μM)の非存在下又は存在下、VSV-G-LV(2×10
5TU/ml)でhCD34+細胞(6つのUCBドナー)を2回反復でトランスダクションした。データは、各UCBドナーの平均トランスダクションレベルとして表されている。バーは、分布の平均値を示す。マン・ホイットニー検定を使用して、P値を決定した(**P<0.01)。C)コロニー形成細胞(CFC)アッセイにおけるトランスダクションhCD34+細胞の分化。結果は、レトロネクチン(7μg/cm
2)、Tat-Scrambled(10μM)又はTat-Beclin1(10μM)ペプチドの非存在下(なし)又は存在下、VSV-G-LV(5×10
7ig/ml)によるトランスダクション後にプレーティングした細胞 1000個について得られた異なる種類のコロニーの平均数を表している。データは、2回反復で実施した3回の独立した実験(3つのUCBドナー)の平均±SEMである。
【
図3】Tat-Beclin1は、レンチウイルス粒子とターゲット細胞との接着及び融合を促進する。A)ウイルス融合アッセイ。10μMのTat-Scrambled又はTat-Beclin1の非存在下(なし)又は存在下で、細胞をVSV-G-BLAM-LVと共に37℃で2.5時間インキュベーションした。次に、フローサイトメトリーを使用して、ターゲット細胞における切断CCF2基質の割合をモニタリングすることによって、ウイルス融合効率を評価した。データは、2回反復で実施した3回の独立した実験(hCD34+細胞のための3つのUCBドナー)の平均±SEMとして表されている。B)接着アッセイ。Tat-Scrambled又はTat-Beclin1(5μM)の非存在下又は存在下で、HCT116細胞を37℃で30分間プレインキュベーションした。次に、Tat-Scrambled又はTat-Beclin1(5μM)の非存在下又は存在下で、細胞をVSV-G-LV(p24 75ng)と共に4℃で2.5時間インキュベーションした。ポジティブコントロールとして、1つの状態のHCT116細胞を、凝集ペプチドVectofusin-1(12μg/ml)と混合したVSV-G-LVの冷溶液と共にインキュベーションした。データは、2回反復で実施した3回の独立した実験の平均±SEMとして表されている。C)ウイルスプルダウンアッセイ。VSV-G-LV粒子をTat-Scrambled(10μM)、Tat-Beclin1(10μM)又はポジティブコントロールVectofusin-1(10μM)のいずれかと混合した。短い遠心分離(15,000g)後、HIV-1 p24 ELISAキットを使用して、ペレット化ウイルス粒子の割合を定量した。データは、p24インプットのレベルに対して正規化され、2回反復で実施した3回の独立した実験の平均±SEMとして表されている。
【
図4】Tat-Beclin1及び様々な誘導体のウイルストランスダクションエンハンサー活性。2.5μM(薄灰色のヒストグラム)又は5μM(黒色のヒストグラム)のいずれかの示されているペプチドの非存在下(なし)又は存在下で、
図1Aに記載されているように、HCT116細胞をトランスダクションした。データは、2回反復で実施した3回の独立した実験の平均±SEMとして表されている。
【
図5】Tat-Beclin1変異体のウイルストランスダクション効率。A)ヒトBeclin1タンパク質の残基246~322(homo sapiens、NP_003757)の一次配列。突然変異H275E、S279D及びQ281Eは、太字斜体で強調されている。二次構造要素は、配列の上に示されている(αヘリックス(α)、ループ(L)及びβシート(β))。構造要素の上にある暗色の線は、各Tat-Beclin1変異体のタンパク質配列の範囲を表す。B)2.5μM(薄灰色のヒストグラム)若しくは5μM(黒色のヒストグラム)のいずれかの示されているペプチドの非存在下(なし)若しくは存在下で、又はC)漸増濃度のTat-Bec(267-296)で、又はD)2.5μMの示されているペプチドで、
図1Aに記載されているように、HCT116細胞をトランスダクションした。全てのパネルについて、データは、2回反復で実施した3回の独立した実験の平均±SEMとして表されている。
【
図6】Tat-Beclin1は、リコンビナントアデノ随伴ウイルスによる細胞株トランスダクションを増強する。A)示されている濃度のTat-Scrambled又はTat-Beclin1ペプチドの非存在下又は存在下、GFP発現リコンビナントAAV8(MOI 1000)で293T細胞を6時間トランスダクションした。3~4日後、GFP発現をモニタリングすることによって、トランスダクション効率を評価した。データは、2回反復で実施した3回の独立した実験の平均±SEMとして表されており、線形回帰モデルを使用して分析されている。
【
図7】レンチウイルストランスダクションを促進する最適用量のTat-Beclin1は、オートファジーを誘導しない。Tat-Beclin1(5μM)の非存在下若しくは存在下で、又はアール平衡塩類溶液中で、mCherry-eGFP-LC3融合タンパク質を発現するHEK293T細胞を6時間インキュベーションした。次に、イメージングフローサイトメーターを使用して、細胞を分析した。明視野、mCherry蛍光及びSSCチャネルで、細胞の画像を取得した。データは、個々の各細胞において観察されたmCherryスポットの数として表されている。バーは、3回の独立した実験から得られた分布の平均値を示す。マン・ホイットニー検定を使用して、P値を決定した。n.s.非統計。
【
図8】Beclin2由来ペプチドは、非常に低用量で、VSV-G-LVによる細胞株トランスダクションを促進する。A)Tat-Beclin1、Tat-Beclin1野生型(Tat-BecWT)及びTat-Beclin2野生型(Tat-Bec2WT)ペプチドの一次配列。B)示されている濃度のTat-Scrambled(Tat-Scr)、Tat-Beclin1、Tat-Beclin1野生型(Tat-BecWT)、Tat-Scrambled2(Tat-Scr2WT)及びTat-Beclin2野生型(Tat-Bec2WT)ペプチドの非存在下又は存在下、VSV-G-LV(2×105TU/ml)でHCT116細胞を6時間トランスダクションした。全てのデータは、2回反復で実施した3回の独立した実験の平均±平均値の標準誤差(SEM)として表されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
本発明は、
(i)CPP部分;及び
(ii)Beclin由来ペプチド部分
を含むか又はそれらからなる天然に存在しない合成ペプチドに関する。
【0020】
両部分は、場合によりアミノ酸又は非アミノ酸リンカーを介して共有結合される。加えて、本発明によれば、ペプチドは、任意の方向で両部分を含み得る(例えば、N末端からC末端に:CPP部分-Beclin由来部分;又はBeclin由来部分-CPP部分)。
【0021】
細胞透過性ペプチド(CPP)部分
本発明との関連では、「細胞透過性ペプチド」又は「CPP」という用語は、限定されないが、ペプチドがその機能を実行する機構にかかわらず、カーゴが少なくとも1つの測定可能な生物学的応答又は機能に影響を及ぼし得る細胞にカーゴが運搬されるような、細胞膜を介した細胞外区画からのカーゴ(例えば、ペプチド、核酸、ウイルス又は他のカーゴ)の輸送を増強又は促進することが公知の又はそれが実証され得る可変長のペプチド鎖を指す。CPPは、典型的には、高相対存在量の正荷電アミノ酸、例えばリシン若しくはアルギニンを含有するアミノ酸組成を有し得るか、又は極性/荷電アミノ酸と非極性疎水性アミノ酸との交互パターンを含有する配列を有し得る。
【0022】
したがって、本発明の特定の実施態様では、CPP部分は、5~50個のアミノ酸残基、特に10~20個のアミノ酸残基を有するアミノ酸配列からなる。さらなる特定の実施態様では、CPP部分は、正荷電残基、例えばリシン残基及びアルギニン残基を含むアミノ酸配列を有する。別の実施態様では、CPP部分は、正荷電残基、例えばリシン又はアルギニン残基と、非極性疎水性残基、例えばアラニン及びロイシン残基とを交互に有するアミノ酸配列を有する。
【0023】
CPP部分は、細胞膜を介して移動することができる天然に存在するタンパク質、例えばDrosophilaホメオボックスタンパク質アンテナペディア(転写因子)、ウイルスタンパク質、例えばHIV-1転写因子TAT及びHIV-1由来カプシドタンパク質VP22に由来し得、並びに/又はそれらは、例えばキメラタンパク質から合成によって生成されるもの、若しくは合成ポリペプチド、例えばポリアルギニンであり得る。CPPの総説は、Milletti, 2012に見られ得る。
【0024】
特定の実施態様では、CPP部分は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)1型の転写トランス活性化因子(tat)ペプチド由来のペプチドである。本発明との関連では、tatペプチド由来のペプチドは、細胞透過特性を有するアミノ酸配列を含むtatフラグメントである。特に、tat由来ペプチドは、tatのアミノ酸47~57(配列番号:1)、48~60(配列番号:2)又は49~57(配列番号:3)を含むか又はそれからなるペプチドである。
【0025】
限定されないが、本発明の実施において使用され得る他のCPPとしては、MAP-又はアンテナペディア由来ペプチドが挙げられる。
【0026】
表1は、使用され得る様々な代表的なペプチドを掲載している。
【表1】
【0027】
特定の実施態様では、CPP部分は、配列番号:1~62のいずれかから選択されるペプチド配列、又は配列番号:1~62のいずれかと少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%配列同一性を有するその変異体であって、細胞へのカーゴ分子の送達を増強するその能力の少なくとも一部を保持するその変異体を含むか、又はそれからなる。
【0028】
特定の実施態様では、CPP部分は、配列番号:1~配列番号:4、特に配列番号:1及び配列番号:4からなる群より選択される。
【0029】
Beclinペプチド部分
本発明との関連では、Beclin由来ペプチド部分は、Beclinタンパク質由来のアミノ酸配列に対応する。
【0030】
本発明との関連では、Beclinペプチドの「機能的変異体」又は「誘導体」は、前記機能的変異体又は前記誘導体がCPP部分に融合された場合、ウイルスのトランスダクション効率を改善することができるペプチドである。特に、機能的変異体は、CPP部分に融合された場合、ウイルスのトランスダクション効率を少なくとも10%、少なくとも20%又は少なくとも30%又はそれ以上、好ましくは少なくとも30%改善することができる。より具体的には、機能的変異体は、CPP部分に融合された場合、水疱性口内炎ウイルス(VSV-G)由来のエンベロープ糖タンパク質(GP)でシュードタイピングされたHIV-1由来レンチウイルスベクター(LV)のトランスダクション効率を少なくとも10%、少なくとも20%又は少なくとも30%又はそれ以上、好ましくは少なくとも30%改善することができる。さらにより具体的には、機能的変異体は、CPP部分に融合された場合、水疱性口内炎ウイルス(VSV-G)由来のエンベロープ糖タンパク質(GP)でシュードタイピングされたHIV-1由来レンチウイルスベクター(LV)によるhCD34+細胞のトランスダクション効率を少なくとも10%、少なくとも20%又は少なくとも30%又はそれ以上改善することができる。さらなる特定の実施態様では、Beclinペプチドの機能的変異体は、親Beclinペプチドの(すなわち、それが由来するペプチド由来の)配列、例えば配列番号:65又は89に示されているBeclinペプチド由来の配列と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、最も具体的には少なくとも83%の配列同一性をさらに有する。特定の実施態様では、Beclin由来ペプチド部分の配列は、1~6個のアミノ酸残基の付加、欠失又は置換が親Beclinペプチド(例えば、配列番号:65又は89に示されている配列)に行われたアミノ酸配列を含む。特定の態様では、Beclin由来ペプチド部分は、配列番号:65又は89において1、2、3、4、5又は6個のアミノ酸置換、例えば4、5又は6個のアミノ酸置換を含むBeclin-1又はBeclin-2ペプチド部分である。
【0031】
特定の実施態様によれば、Beclin由来部分の長さは、14~22個のアミノ酸残基長、例えば16~20個のアミノ酸残基長に含まれ、特に16個、17個、18個、19個又は20個のアミノ酸残基長からなるペプチドである。特定の実施態様では、Beclin由来部分の長さは、18個のアミノ酸残基である。
【0032】
特定の態様では、Beclin由来ペプチド部分は、一般式(I):
N1N2N3N4N5N6T F N9I N11N12N13G N15N16N17N18(I)
(式中:
N1は極性アミノ酸であるか、又はI、特にT若しくはI、より具体的にはIであり;
N2は、極性アミノ酸、特にN、D又はS、より具体的にはNであり;
N3は、疎水性アミノ酸又はC、特にV、C又はI、より具体的にはCであり;
N4は、疎水性アミノ酸、特にF又はL、より具体的にはFであり;
N5は、極性アミノ酸、特にN、T、S、R又はQ、より具体的にはTであり;
N6は、疎水性アミノ酸、特にA又はV、より具体的にはAであり;
N9は、極性アミノ酸、特にH、E又はT、より具体的にはEであり;
N11は、W、S、G又はR、特にWであり;
N12は極性アミノ酸であるか、又はV、特にH、V、D、Q若しくはE、より具体的にはVであり;
N13は極性アミノ酸であるか、又はA、特にS、E、D、A、より具体的にはEであり;
N15は、Q、P、S又はE、特にPであり;
N16は、疎水性アミノ酸、特にF、L、V又はI、より具体的にはLであり;
N17は、疎水性アミノ酸、特にG、A又はP、より具体的にはGであり;
N18は、T、V又はI、特にVである)
の配列を含むか、又はそれからなる。
【0033】
別の特定の態様では、Beclin由来ペプチド部分は、一般式(II)
N1N2N3F N5N6T F N9I N11N12N13G N15N16N17N18(II)
(式中:
N1は、極性アミノ酸であるか、又はI、特にT若しくはI、より具体的にはIであり;
N2は、極性アミノ酸、特にN、D又はS、より具体的にはNであり;
N3は、疎水性アミノ酸、特にV、C又はI、より具体的にはCであり;
N5は、極性アミノ酸、特にN、T、S、R又はQ、より具体的にはTであり;
N6は、疎水性アミノ酸、特にA又はV、より具体的にはAであり;
N9は、極性アミノ酸、特にE又はT、より具体的にはEであり;
N11は、W、S、G又はR、特にWであり;
N12は、極性アミノ酸であるか、又はV、特にH、V、D、Q若しくはE、より具体的にはVであり;
N13は、極性アミノ酸であるか、又はA、特にS、E、D、A、より具体的にはEであり;
N15は、P又はS、特にPであり;
N16は、疎水性アミノ酸、好ましくはL、V又はI、より具体的にはLであり;
N17は、疎水性アミノ酸、好ましくはG、A又はP、より具体的にはGであり;
N18は、疎水性アミノ酸、特にV又はI、より具体的にはVである)
の配列を含むか、又はそれからなる。
【0034】
「極性アミノ酸」という用語は、水性(すなわち、水)環境に存在することを好む親水性側鎖を含むアミノ酸を指す。したがって、これらの側鎖は、水素結合相互作用に関与し得る。「極性アミノ酸」という用語は、D、E、K、R、Hなどの「極性荷電アミノ酸」並びにS、T、Y、C、N及びQ「極性非荷電アミノ酸」を含む。
【0035】
「疎水性アミノ酸」という用語は、生理学的pHで非荷電性の非極性側鎖を含むアミノ酸を指す。疎水性側鎖は化学的に非反応性であり、水性環境に露出するのではなく凝集する傾向がある。「疎水性アミノ酸」という用語は、G、A、L、I、V、P、F、W及びMを含む。
【0036】
本明細書で使用される「アミノ酸」は、標準的な1文字表記:アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、リシン(K)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)、プロリン(P)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、システイン(C)を使用して指定されることもある。合成の及び天然に存在しないアミノ酸類似体(及び/又はペプチド結合)が含まれる。
【0037】
特定の実施態様では、Beclin由来部分は、ヒトBeclinタンパク質、例えば配列番号:63に示されているヒトBeclin-1タンパク質又は配列番号:64に示されているヒトBeclin-2タンパク質に由来する:
【化1】
【化2】
【0038】
特定の実施態様では、Beclin-2由来ペプチド部分は、配列番号:64のアミノ酸249~266(下線配列:INCFTATFEIWVEGPLGVは配列番号:89と称される)を含む。特定の実施態様では、Beclin-2由来ペプチド部分は、配列番号:89に示されている配列を含むか若しくはそれからなり、又は上記で定義されるその機能的変異体に対応する配列を含むか若しくはそれからなる。特定の実施態様では、Beclin-2由来ペプチドの機能的変異体は、配列番号:64のアミノ酸252及び256に対応するその位置においてフェニルアラニン残基を有する。
【0039】
特定の実施態様では、Beclin-2由来ペプチド部分又はその機能的変異体は、限定されないが、ヒト、マウス、ウサギ、ブタ、ウマ、パンダ又はウシBeclin-2を含む任意の種のBeclin-2に由来する。以下の表2は、ヒトBeclin-2配列の249~266のアミノ酸と、マウス、ウサギ、ブタ、ウマ、パンダ及びウシにおける対応する配列とのアライメントに対応する。
【表2】
【0040】
特定の実施態様では、Beclin由来ペプチドは、表2の配列からなる群において選択されるBeclin-2ペプチドに由来する。
【0041】
特定の実施態様では、Beclin-1由来ペプチド部分は、Beclin-1のβ1シート又はBeclin-1のβ1シート(これは、配列番号:63のアミノ酸274~279に位置する)の機能的変異体を含む。さらなる特定の実施態様では、Beclin-1由来ペプチド部分は、Beclin-1のL1ループ及びβ1シートを含む。別の実施態様では、Beclin-1由来ペプチド部分は、(Beclin-1のα1ヘリックスに対応する)配列番号:63のアミノ酸250~262の少なくともC末端部又は全部、Beclin-1のL1ループ及びβ1シートを含む。配列番号:63における下線配列は、以下の説明では配列番号:65と称される(配列番号:65:TNVFNATFHIWHSGQFGT)。それは、Beclin-1の進化保存ドメイン(ECD267-284)のフラグメントに対応する。特定の実施態様では、Beclin-1由来ペプチド部分は、配列番号:65に示されている配列を含むか若しくはそれからなり、又は上記で定義されるその機能的変異体に対応する配列を含むか若しくはそれからなる。特定の実施態様では、Beclin-1由来ペプチドの機能的変異体は、配列番号:63のアミノ酸270及び274に対応するその位置においてフェニルアラニン残基を有する。
【0042】
配列番号:66に示されているBeclin-1由来ペプチド(これは、(配列番号:63の275位、279位及び281位に対応する)配列番号:65の9位、13位及び15位において置換を有し、配列番号:65の270位及び274位に対応するアミノ酸位置において維持されたフェニルアラニン残基を有する配列番号:65に対応する)は、本発明の例示的な機能的変異体である:
【化3】
【0043】
特定の態様では、Beclin-1由来ペプチド部分は、10~60個のアミノ酸、特に15~55個、特に18~50個、特に18~49個のアミノ酸(例えば、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個及び49個のアミノ酸)、特に18~35個のアミノ酸、より具体的には18~33個のアミノ酸(例えば、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個及び33個のアミノ酸)を含み得る。
【0044】
特定の実施態様では、Beclin-1由来ペプチド部分は、配列番号:63のアミノ酸270~282、特にアミノ酸267~284(すなわち、配列番号:65)又は上記その変異体を含み、いずれか又は両方の末端において、アミノ酸267~284に隣接するBeclin-1タンパク質の少なくとも1個以上のアミノ酸を含む。例えば、Beclin-1由来のペプチド部分は、特に、配列番号:65に示されている配列に加えて、配列番号:63のアミノ酸267~284に隣接する1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個又は17個のアミノ酸をさらに含み得る。例えば、Beclin-1由来部分は、アミノ酸250~266又は256~266をさらに含み得る。上記配列で言及されているアミノ酸に代えて又はそれに加えて、それはまた、配列番号:65の配列又はその機能的変異体、例えば配列番号:66に加えて、配列番号:63のアミノ酸285~296又は285~298を含み得る。さらに、本発明はまた、配列番号:65に示されている前記配列の一部を含む配列番号:65の機能的変異体、例えば配列番号:63のアミノ酸268~284、269~284、270~284、267~283又は267~282を含む機能的変異体を想定する。加えて、機能的変異体は、配列番号:66に示されている配列の変異体であって、それらのN末端又はC末端又は両方の末端から1個、2個又は3個のアミノ酸が欠失された変異体であり得る。
【0045】
本発明のBeclin-1ペプチドの例示的な機能的変異体としては、以下のものが挙げられる:
【化4】
【0046】
融合ペプチド
上記のように、本発明のペプチドは、互いに共有結合的に連結されたCPP部分及びBeclin由来部分を含むので、融合ペプチドである。
【0047】
ペプチドの2つの部分の連結は、共有結合によって直接的に、又はリンカー部分を介して行われ得る。
【0048】
配列番号:74のペプチドは、2つのペプチド部分の直接的な連結の例であり、CPP部分は配列番号:1に示されているTat配列であり、Beclin由来ペプチド部分は、配列番号:63のアミノ酸285~296に融合された配列番号:66に示されているアミノ酸配列からなる:
【化5】
【0049】
配列番号:90のペプチドは、2つのペプチド部分の直接的な連結の例であり、CPP部分は配列番号:1に示されているTat配列であり、Beclin由来ペプチド部分は、配列番号:89に示されているアミノ酸配列からなる:
【化6】
【0050】
特定の実施態様では、ペプチドは、リンカーを含む。リンカーは、1~25個のアミノ酸、特に1~5個のアミノ酸を含むペプチドであり得る。特定の実施態様では、リンカーは、単一中性(すなわち、生理学的pHで中性の)アミノ酸、例えばG、A、V、S、Y又はT、特にGである。あるいは、リンカーは、中性アミノ酸のジペプチド、例えばGG、AA、GA、AG、AS、AY、GS、GT、GV、AV、SV、TV、VG、VA及びVTから選択されるジペプチドであり得る。
【0051】
別の特定の実施態様では、リンカーは、非ペプチドリンカー、例えば-(CH2)n-リンカー(nは、1~6に含まれる整数である)である。
【0052】
N末端からC末端に、本発明のペプチドは、
-場合により上記リンカーを介して連結されたCPP部分及びBeclin由来部分;又は
-場合により上記リンカーを介して連結されたBeclin由来部分及びCPP部分
をこの順序で含み得る。
【0053】
特定の実施態様では、本発明のペプチドは、そのN末端からそのC末端に、場合により上記リンカーを介して連結されたCPP部分及びBeclin由来部分を含む。さらなる特定の実施態様では、本発明のペプチドは、CPP部分、リンカー(特に、ジペプチドリンカー、例えばGGジペプチド)及びBeclin由来部分をこの順序で含む。
【0054】
別の特定の実施態様では、本発明のペプチドは、そのN末端からそのC末端に、場合により上記リンカーを介して連結されたBeclin由来部分及びCPP部分を含む。さらなる特定の実施態様では、本発明のペプチドは、Beclin由来部分、リンカー(特に、ジペプチドリンカー、例えばGGジペプチド)及びCPP部分をこの順序で含む。
【0055】
特定の実施態様では、本発明のペプチドは、(i)Tat配列(例えば、配列番号:1、2及び3に示されている配列の1つ、特に配列番号:1に示されている配列)又はMAP配列(例えば、配列番号:4又は5)であるCPP部分、(ii)ジペプチドリンカー、例えばGGジペプチド、及び(iii)式(I)又は(II)のBeclin由来部分、例えばBeclin-1由来部分、例えば配列番号:65~73の1つ又はBeclin-2由来部分、例えば配列番号:89をこの順序で含む融合ペプチドである。特に、本発明において実行されるペプチドは、
【化7】
に示されているペプチドである。
【0056】
特定の実施態様によれば、本発明はまた、本明細書に開示されるトランスダクション促進特性を保持する上記で定義されるペプチドのレトロ、インベルソ又はレトロインベルソ誘導体を包含する。特定の実施態様では、本発明は、上記で定義されるペプチドのレトロインベルソ誘導体に関する。特に、本発明のペプチドのレトロインベルソ誘導体は、タンパク質分解に対してより耐性であるので、in vivo用途に適切である。ペプチドは、少なくとも1つのDアミノ酸並びにイミノアミノ酸及び希アミノ酸を含み得る。本発明はまた、本発明のペプチドのペプチド模倣体に関する。これらは、例えば、1つ以上のペプチド結合の改変、例えば逆ペプチド結合又はエステル結合を特徴とし得る。本発明はまた、α-アミノ酸とは異なるアミノ酸、例えばβ又はγ-アミノ酸を含む上記ペプチドの誘導体を含む。
【0057】
融合ペプチドの使用
本発明のペプチドは、細胞のウイルス感染を促進する。本明細書で使用される「ウイルス」は、天然に存在するウイルス及び人工ウイルスに関する。例えば、パラミクソウイルス(例えば、呼吸器合胞体ウイルス、麻疹ウイルス)、オルトミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、フラビウイルス(例えば、C型肝炎ウイルス)、ヘパドナウイルス(例えば、B型肝炎ウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病、VSV)、コロナウイルス(例えば、SARS)、トガウイルス(例えば、シンドビスウイルス、チクングニヤウイルス)、フィロウイルス(例えば、エボラウイルス)、アレナウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、ブンヤウイルス、ボルナウイルス、アルテリウイルス、バキュロウイルス、パルボウイルス、例えばアデノ随伴ウイルス。特定の実施態様によれば、ウイルスは、例えば、カーゴ、例えば治療、診断又は任意の他の目的に有用な(例えば、ターゲット細胞内において機能的研究を行うために有用な)カーゴを含み得る人工ウイルスである。例示的なカーゴとしては、核酸カーゴ、例えば産物、特に遺伝子治療産物(例えば、タンパク質又はRNA、例えばアンチセンスRNA又はshRNA)又は診断産物をコードするDNA又はRNA配列が挙げられる。さらに、本発明によれば、ウイルスは、カーゴ、例えばタンパク質カーゴ、核酸カーゴ(例えば、DNA又はRNAカーゴ)、診断カーゴ又は薬物カーゴをさらに含有し得るウイルス様粒子(又はVLP)であり得る。本発明との関連では、ウイルスは、エンベロープウイルス又は非エンベロープウイルスのいずれかである。アデノ随伴ウイルス(又はAAV)などのパルボウイルスは、例示的な非エンベロープウイルスである。好ましい実施態様では、ウイルスは、エンベロープウイルスである。好ましい実施態様では、ウイルスは、レトロウイルス、特にレンチウイルスである。本発明者らは、本発明のペプチドが、水疱性口内炎ウイルス(VSV-G)、改変ネコ内因性レトロウイルス(RD114TR)及び改変テナガザル白血病ウイルス(GALVTR)由来のエンベロープ糖タンパク質(GP)でシュードタイピングされたHIV-1由来レンチウイルスベクター(LV)による真核細胞の感染を促進し得ることを示した。本発明者らは、本発明のペプチドが、アデノ随伴ウイルスを含むパルボウイルスなどの他のウイルスの侵入を効率的に促進することをさらに示し、それにより、それらの広範な効率を実証した。本発明のペプチドを用いて得られたトランスダクションの効率と、開示されている実験において使用したウイルスベクター及びGPの多様性とを考慮すると、本ペプチドは、真核細胞におけるエンベロープウイルス及び非エンベロープウイルスのトランスダクション効率を増加させるための一般的手段として使用され得ることが明らかである。したがって、本発明のペプチドは、多くの他のウイルス若しくは他の偽型ウイルス、例えばウイルスエンベロープ糖タンパク質(Levy, 2015)、例えば両種性マウス白血病ウイルスGP(A-MLV)若しくは改変ヒヒ内因性ウイルスGP(BaEVTR)でシュードタイピングされたレンチウイルスによる、又は非エンベロープウイルス、例えばパルボウイルス、特にAAV、例えばリコンビナントAAVベクターによる真核細胞の感染を促進し得ることも予想される。
【0058】
ターゲット細胞は、任意の種類の真核細胞、例えば哺乳動物細胞、特にヒト細胞、マウス細胞、ラット細胞、サル細胞、イヌ細胞又はハムスター細胞であり得る。特定の実施態様では、ターゲット細胞は、CD34+細胞、特に、造血系の遺伝子治療を必要とする患者から採取されたCD34+細胞である。他の代表的な非限定的なターゲット組織/細胞は、皮膚、筋肉、肝臓、眼、ニューロン、リンパ球、線維芽細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、筋芽細胞、肝細胞、腫瘍細胞、より一般的には、ウイルスのターゲットとして公知の又はウイルスのターゲットとして同定されるであろう任意の真核細胞である。以下の実験パートでは、本発明者らは、本発明のペプチドによって多種多様な細胞のトランスダクションが得られることを示し、それにより、それらの広範な効率及び適用性を実証する。
【0059】
本明細書に開示される方法では、本発明のペプチドは、有効な量で使用される。ペプチドの「有効量」という用語は、本明細書では、ベクターのトランスダクション効率を有意に増加させるために必要な量を表す。この有効量は、一般に、試験される特定のペプチド、ターゲット細胞、及び実行されるウイルスベクターに依存するであろう。特に、有効量は、オートファジープロセスを誘導又は増加させずに、ウイルスベクターのトランスダクション効率の増加を誘導するペプチドの量である。この量は、当技術分野で周知の方法にしたがって、特にレポーターアッセイを実行する上記方法にしたがって決定され得、実施例で例証され得る。例えば、本発明者らは、驚くべきことに、以前に開示されているTat-Beclin1ペプチド(Shoji-Kawata et al., 2013)が、トランスダクションされる細胞型に応じて、低濃度で、典型的には1~20μM、例えば2.5~20μMに含まれる濃度で、VSV-G-LV又はGALVTR-LVによるHCT116細胞又はCD34+細胞のウイルストランスダクションを最適に促進することを示した。また、本発明者らは、Tat-Beclin-2ペプチドが、0.01μM~約10μM、特に0.1~5μMに含まれるさらに低用量で、レンチウイルストランスダクションの強力なエンハンサーであることを示した。本発明のペプチドを使用するための典型的な濃度範囲としては、0.01μM~20μM、例えば1~20μM、例えば2.5~20μM、特に3~15μM、より具体的には4~12μMの濃度、例えば4、5、6、7、8、9又は10μMの濃度が挙げられる。特定の実施態様では、本発明のペプチドは、約5μM又は約10μMの濃度で使用される。
【0060】
特定の実施態様では、本発明のペプチド、特にTat-Beclin-1ペプチドは、0.01μM~5μM、特に1μM~5μMに含まれる有効量で使用される。
【0061】
さらなる態様によれば、本発明は、本発明のペプチドとウイルス粒子、特に非エンベロープ(例えば、パルボウイルス、例えばAAVベクター)又はエンベロープウイルス粒子、より具体的には遺伝子治療のためのエンベロープウイルスベクターとの複合体に関する。また、本発明の別の態様は、このような複合体を調製するための方法であって、ペプチドとウイルス粒子とを混合することを含む方法に関する。
【0062】
別の態様によれば、本発明は、本発明のペプチドとウイルス粒子(特に、エンベロープウイルス粒子又は非エンベロープウイルス粒子、より具体的には遺伝子治療のためのエンベロープウイルスベクター)と細胞との混合物に関する。また、本発明の別の態様は、このような混合物を調製するための方法であって、ペプチドとウイルス粒子と細胞とを混合することを含む方法に関する。
【0063】
本発明のペプチドは、医薬組成物において使用され得る。したがって、本発明は、上記で定義されるペプチドと、適切な薬学的に許容し得るビヒクルとを含む組成物に関する。本発明の医薬組成物は、本発明のペプチド又は該ペプチドの生理学的に許容し得る塩の1つ以上を含有する。本発明の医薬組成物はまた、例えば該組成物の溶解性、安定性若しくは滅菌性に寄与するか、又は体内への取り込み効率を増加させる薬学的に有用な助剤を含有し得る。
【0064】
本発明の態様はまた、医薬として使用するための、上記で定義されるペプチドに関する。特定の態様では、医薬は、遺伝子治療ウイルスベクターの効率を増加させるために使用される(D'Costa et al., 2009)。
【0065】
ペプチドを含有する医薬組成物の形と含有量は、投与経路に依存する。好ましくは、ペプチドが非分解状態でターゲット部位に到達するガレヌス製剤及び適用形態が選択される。医薬は、注射、点滴、スプレー、錠剤、坐剤、クリーム、軟膏、ゲルなどとして局所投与され得る。一定期間にわたってボーラス投与又は反復投与を実施することが可能である。
【0066】
本発明のペプチド、複合体又は医薬組成物又は医薬は、局所経路又は全身経路を介して、例えば筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内又は頭蓋内経路を介してそれを注射することによってin vivo投与され得る。したがって、本発明はまた、遺伝子治療のための方法であって、上記ペプチド、複合体又は医薬組成物をそれを必要とする患者に投与することを含む方法に関する。前記方法はまた、本発明のペプチドの投与前、投与後、又は投与と一緒に、遺伝子治療のためのウイルスベクターを投与することを含む。当技術分野で十分に理解されているように、本発明の遺伝子治療において使用するためのウイルス又はウイルスベクターは、治療遺伝子を含む。
【0067】
一態様によれば、ペプチド、複合体又は医薬組成物又は医薬は、細胞治療のためのex vivo方法において使用される。この態様では、ペプチド、複合体、医薬組成物又は医薬は、患者から採取された細胞であって、遺伝子治療ウイルスベクターによって遺伝子改変されることを目的とする細胞への遺伝子治療ウイルスベクターの侵入を増強するために使用される。特定の実施態様では、細胞は、造血幹/前駆細胞、例えばhCD34+細胞である。細胞において検出された任意の欠陥を修正するために、前記細胞は、本発明のペプチド及び遺伝子治療ウイルスベクターと混合され得る。特に、このex vivo方法は、ペプチドと、疾患の処置に有用な産物(例えば、タンパク質又は治療用RNA)をコードする目的の遺伝子を発現するウイルスベクター、例えばHIV-1由来レンチウイルスベクターとの混合物によるトランスダクション後に、患者への遺伝子改変hCD34+細胞の静脈内注射に有用である。例えば、治療産物は、ウィスコット・アルドリッチ症候群を修正するためのウィスコット・アルドリッチ症候群タンパク質、重症複合免疫不全症1を修正するためのIL2受容体γ鎖、慢性肉芽腫性疾患を修正するためのgp91phoxタンパク質、アデノシンデアミナーゼ欠損症(又はADA-SCID)を修正するためのアデノシンデアミナーゼ(ADA)、サラセミアを修正するためのβ-グロビン、鎌状赤血球病を修正するためのβ-グロビン若しくはγ-グロビン、ファンコニ貧血を修正するためのファンコニ貧血タンパク質(例えば、FA-A)、小児大脳性副腎白質ジストロフィーを修正するためのATP結合カセットタンパク質、又は異染性白質ジストロフィーを修正するためのアリールスルファターゼAであり得る。本発明はまた、他のex vivo遺伝子治療、例えばキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞ベースの治療に使用され得る。特定の態様では、本発明はまた、培養培地中において上記ペプチドを含む組成物であって、ウイルス又はウイルスベクター、特に非エンベロープ又はエンベロープウイルス又はウイルスベクターによる細胞のトランスダクションを促進するための感染促進試薬としての使用を目的とする組成物に関する。したがって、本発明はまた、適切な培地、特に適切な培養培地において本発明のペプチドを含むウイルス感染促進試薬に関する。
【0068】
別の態様によれば、本発明はまた、本発明のペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドに関する。本発明のポリヌクレオチドは、異なるヌクレオチド化学物質、例えばDNA、RNA又は化学的に改変されたヌクレオチドを含み得る。
【0069】
別の態様では、本発明は、発現宿主におけるペプチドの産生を指令する少なくとも1つのコントロール配列に作動可能に連結されたポリヌクレオチドを含む核酸構築物に関する。「作動可能に連結された」という用語は、本明細書では、コントロール配列が本発明のペプチドのコード配列の発現を指令するように、ポリヌクレオチド配列のコード配列に対してコントロール配列が適切な位置に配置された構成を表す。本発明との関連における核酸構築物は、一本鎖又は二本鎖のいずれかの核酸分子であり、天然に存在する遺伝子から単離されたものであるか、又は他の方法では天然に存在しないであろう様式で核酸のセグメントを含有するように改変されたものであるか、又は合成のものである。核酸構築物が、本発明のペプチドコード配列の発現に必要なコントロール配列を含有する場合、核酸構築物という用語は、「発現カセット」という用語と同義である。本発明によれば、コントロール配列は、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現に必要な全ての成分を含む。各コントロール配列は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列にとってネイティブ若しくは外来性のものであり得るか、又は互いにとってネイティブ若しくは外来性のものであり得る。このようなコントロール配列としては、限定されないが、リーダー、ポリアデニル化配列、プロペプチド配列、プロモーター、シグナルペプチド配列及び転写ターミネーターが挙げられる。最低でも、コントロール配列は、プロモーター並びに転写及び翻訳停止シグナルを含む。コントロール配列と、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列のコード領域とのライゲーションを容易にする特異的制限部位を導入する目的のために、コントロール配列は、リンカーと共に提供され得る。
【0070】
さらに別の態様では、本発明は、核酸構築物を含むリコンビナント発現ベクターに関する。例示的なリコンビナント発現ベクターとしては、例えば、プラスミド、コスミド及びウイルスベクターが挙げられる。
【0071】
別の態様では、本発明は、核酸又はリコンビナント発現ベクターを含むリコンビナント宿主細胞に関する。宿主細胞は、原核細胞(例えば、Escherichia Coli細胞)又は真核細胞であり得る。
【0072】
別の態様では、本発明は、本発明のペプチドを生産するための方法であって、(i)ペプチドの生産を行うための条件下で、本発明の核酸構築物を含む宿主細胞を培養する工程;及び(ii)該ペプチドを回収する工程を含む方法に関する。あるいは、本発明のペプチドは、当技術分野で公知の従来の方法を使用して、in vitro合成によって生産され得る。例えば、Applied Biosystems Inc., Beckmanによる自動合成機などの様々な市販の合成装置が利用可能である。例示的なin vitro合成は、以下の実験パートに示されており、ペプチドは、標準的なフルオレニルメチルオキシ-カルボニルクロリド固相ペプチド合成によって生産され、分取逆相HPLCによって精製され、HPLC及び質量分析によって分析される。合成機を使用することによって、天然に存在するアミノ酸は、非天然アミノ酸、特にD-異性体(又はD型)、例えばD-アラニン及びD-イソロイシン、ジアステレオ異性体、異なる長さ又は官能性を有する側鎖などで置換され得る。特定の配列及び調製様式は、利便性、経済性、必要な純度などによって決定される。
【0073】
本明細書に記載されるペプチドは、広範囲の用途、例えば治療用途及び診断用途に使用され、細胞へのウイルスの侵入の性能及び研究のための有益な実験室ツールである。
【0074】
したがって、一態様では、本発明は、ウイルス又はウイルスベクターによる細胞のトランスダクションを促進するための方法(特に、in vitro方法)であって、該細胞と、該ウイルスと、
-細胞透過性ペプチド(CPP)部分;及び
-Beclin由来ペプチド部分
を含む上記で定義されるペプチドとを接触させることを含む方法に関する。
【0075】
特定の実施態様では、ペプチドは、配列番号:75及び配列番号:77に示されているペプチドではない。
【0076】
この態様の特定の実施態様では、前記方法は、ウイルスによる細胞の有効なトランスダクション又はトランスダクションのレベルを検証することをさらに含む。さらに、この態様によれば、本明細書に開示されるペプチドは、多くの下記用途を有する目的のウイルス又はウイルスベクターの感染又はトランスダクションを改善するために使用される。
【0077】
本発明の好ましい実施態様は、ウイルスベクター系ベースのルーチンな実験室又は遺伝子治療アプローチのための、ウイルス感染又はトランスダクション効率の一般的なエンハンサーとしての本発明のペプチドの使用である。ペプチドは、ex vivo、in vitro又はin vivoで細胞へのベクター(例えば、遺伝子治療、診断又は任意の他の目的のために設計されたもの(例えば、機能研究に使用されるベクター)の侵入を増強する。ペプチドは、ウイルスベクター、例えば遺伝子治療又は診断のためのベクターと組み合わせて投与され得、ターゲット細胞へのウイルスベクターの侵入を媒介し得る。ペプチドはまた、細胞へのウイルスの取り込みを促進するので、in vitroで有用である。したがって、それらは、ウイルス及びそれらの作用機構を研究するためのツールとして有用である。本発明の別の実施態様は、診断アプローチのための本発明のペプチド(特に、HIV-1及び他のエンベロープウイルスのようなウイルスのもの)の使用である。したがって、本発明はまた、サンプル中のウイルスの存在又は非存在を検出するための細胞ベースのアッセイの感度を増加させるためのin vitro方法であって、該サンプル又は該サンプル由来抽出物と、細胞と、上記で定義されるペプチドとを接触させることを含み、前記ペプチドが、
-細胞透過性ペプチド(CPP)部分;及び
-Beclin由来ペプチド部分
を含むin vitro方法に関する。
【0078】
この接触工程の後、適切な培養条件で、細胞を培養する。次いで、当技術分野で公知の任意の方法によって、例えば、細胞及び/又は細胞培養培地におけるウイルスのレベルを決定することによって、ウイルスの存在又は非存在の検出を行い得る。
【0079】
本発明のペプチドは、ウイルス粒子の感染力価を増強するので、それらの細胞取り込みを増強し、残存ウイルス混入物質の検出を可能にする。したがって、それは、被験体、特にウイルス(より具体的には、エンベロープウイルス)に感染していると疑われるヒト被験体由来の血清、血液、血漿、精子又は組織のようなサンプルからウイルス粒子を単離するために使用され得る。本発明のペプチドはまた、水、食物(鳥インフルエンザ、SARS)、又はバイオテロにおいて使用される任意の(エンベロープ又は非エンベロープ)ウイルス由来のウイルス粒子を研究するために使用され得る。ウイルス単離の成功は、ルーチンな診断方法と比較して数倍有利であり得る。安全な溶液を得るために、好ましい方法は、ウイルスを含むと疑われるか又はウイルスを含むことが公知の溶液から定量的にウイルスを除去する結合親和性アッセイ及び方法である。このような方法では、本発明のペプチドは、好ましくは、支持体又はカラムに共有結合される。
【0080】
本発明のペプチドは、一般に、ターゲット細胞へのウイルス粒子の侵入を増強するために使用され得る。ペプチドはまた、ウイルス粒子、例えば非エンベロープウイルス粒子、例えばパルボウイルス、例えばAAVベクター又はウイルスエンベロープウイルス粒子、例えば外来エンベロープ糖タンパク質を運搬する粒子(擬似粒子)、例えばVSV-G、GALVTR、RD114TRなどの感染/トランスダクション率の一般的なエンハンサーとして使用され得る。本発明の上記ペプチドは、全ての分析したエンベロープウイルス粒子の感染率を促進する。これは、以前は実現不可能であった特に一次細胞における感染実験を実施することを可能にする。したがって、本発明のペプチドは、in vitroにおける実験ツールとして有用である。
【0081】
本発明のペプチドはまた、ベクター系ベースの、特に非エンベロープ又はエンベロープベクター系ベースのex vivo又はin vivo遺伝子治療アプローチにおける遺伝子送達率を増強するために使用され得る。したがって、本発明はまた、それを必要とする被験体におけるウイルス又はウイルスベクターによる真核細胞の感染を促進するための遺伝子治療において使用するための上記ペプチドに関する。本発明のペプチドは、遺伝子治療においてウイルス又はウイルスベクターと組み合わせて使用され得る。特に、本発明は、遺伝子治療によって疾患を処置するための方法において使用するための本発明のペプチドであって、前記疾患の処置のための適切な治療導入遺伝子をそのゲノムに含むウイルス又はウイルスベクターと組み合わせて使用される本発明のペプチドに関する。特定の実施態様では、処置は、上記に列挙されている対応する疾患の処置において使用するための上記導入遺伝子の1つを含むウイルス又はウイルスベクターを投与することによって行われる。ペプチドは、遺伝子治療ベクターと同時投与、別個投与又は逐次投与するためのものであり得る。遺伝子治療のための、特に幹細胞のex vivo遺伝子治療のための高感染性ウイルスベクターの作製は、困難な手順である。特に、幹細胞のためのウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)のトランスダクション効率は低い。しかしながら、本発明のペプチドの存在下では、幹細胞及び細胞株は、ウイルスベクターで効率的にトランスダクションされ、ペプチドを含有しないサンプルと比較して、ターゲット細胞への高い遺伝子送達効率が得られ得る。本発明のペプチドの別の利点は、低い(又は最適未満の)感染力価を有するウイルスバッチの使用を可能にすること、又は本発明のペプチドが実行されない場合よりも少ないウイルスベクターの使用を可能にすることである。
【0082】
本発明のin vitro及びex vivo方法では、ペプチドは、固体支持体への前固定化にかかわらず使用され得る。有利なことに、増加したトランスダクション効率を得るために、固定化は不要である。
【0083】
本発明のin vitro方法の特定の実施態様では、別のトランスダクション改善手段が、本発明のペプチドと一緒に使用される。例えば、特定の実施態様では、トランスダクション効率は、本発明のペプチドと、別のウイルストランスダクションエンハンサー、例えばVectofusin-1(KKALLHAALAHLLALAHHLLALLKKA-NH2:配列番号:84)、ヒトフィブロネクチンフラグメント(例えば、Clontechなどから市販されているレトロネクチン)、ウイルス感染の様々な精液由来エンハンサー(例えば、SEVI(GIHKQKEKSRLQGGVLVNEILNHMKRATQIPSYKKLIMY;配列番号:85)、セメノゲリン1ペプチドSEM1(86-107)(DLNALHKTTKSQRHLGGSQQLL;配列番号:86))又はHIV-1エンベロープ糖タンパク質由来ペプチド(例えば、EF-Cペプチド(QCKIKQIINMWQ;配列番号:87)、P16ペプチド(Ac-NWFDITNWLWYIKKKK-NH2;配列番号:88))のような以前に記載されているウイルストランスダクションエンハンサーとの両方を用いて増加される。
【0084】
別の実施態様では、本発明は、上記で定義されるペプチドを含むキットを提供する。キットは、ウイルス又はウイルスベクターをさらに含み得る。
【0085】
以下の実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0086】
材料及び方法
ペプチド及び試薬
標準的なフルオレニルメチルオキシ-カルボニルクロリド固相ペプチド合成によって、Vectofusin-1、Tat-Scrambled、Tat-Beclin1及びその誘導体を生産し、分取逆相HPLCによって精製し、HPLC及び質量分析法によって分析した(Genecust, Dudelange, Luxembourg)。7-アミノ-アクチノマイシンD(7-AAD)、ポリブレン、硫酸プロタミン及びTritonX-100は、Sigma-Aldrich (St-Quentin-Fallavier, France)から入手した。
【0087】
細胞株培養
10%熱不活性化ウシ胎児血清(FCS)(Life Technologies, St-Aubin, France)を補充したダルベッコ改変イーグル培地中で、ヒト結腸直腸ガン由来HCT116細胞(CCL-247; ATCC, Manassas, VA)及びヒト胚腎臓HEK293T細胞(Merten, 2011)を37℃、5%CO2で培養した。
【0088】
ウイルスベクターの生産及びベクターの力価測定
以前に記載されているように(Fenard, 2013)、LVを作製した。簡潔に言えば、4つのプラスミド:gagpol(pKLgagpol)及びrev(pKrev)発現プラスミド、トランスファープラスミド(pCCLsin.cPPT.hPGK.eGFP.WPRE)並びにVSV-G(pMDG)エンベロープ糖タンパク質(GP)、GALVTR GP(pBA.GALV/Ampho-Kana)又はRD114TR GP(pHCMV-RD114TR)のいずれかをコードするプラスミド.によるリン酸カルシウムトランスフェクションを使用して、HEK293T細胞を一過性トランスフェクションする。24時間の産生後、生ウイルス上清を採取し、ろ過し(0.45μm)、-80℃で凍結した。いくつかの膜ベースの工程及びクロマトグラフィー工程によるGFP発現VSV-G-LVの精製が以前に記載されている(Merten, 2011)。市販のELISAキット(Perkin Elmer, Courtaboeuf, France)を使用してHIV-1 p24カプシド含有量を測定することによって、物理的粒子力価を決定した。フローサイトメトリー(FACSCalibur, BD Biosciences, Le Pont de Claix, France)によるGFPの検出(力価は、1ミリリットル当たりのトランスダクション単位(TU/ml)として表される)を使用して、又はQ-PCR(力価は、1ミリリットル当たりの感染ゲノム(ig/ml)として表される)を使用して、HCT116細胞において、感染力価を決定した(Merten, 2011)。
【0089】
細胞株のトランスダクション
レンチウイルストランスダクションでは、48プレート中、培養添加物の非存在下又は存在下、所望の量のレンチウイルスベクター上清でHCT116細胞を6時間トランスダクションした。次に、新鮮培地中で細胞をインキュベーションし、さらに3~4日間培養した。
【0090】
リコンビナントアデノ随伴ウイルス血清型8(AAV8-GFP)を用いて実施したトランスダクション実験では、12ウェルプレート中、培養添加物の非存在下又は存在下、感染多重度(MOI)1000で293T細胞をトランスダクションした。16時間後、細胞を洗浄し、新鮮培地中でさらに24時間培養した。これらの実験では、フローサイトメトリー(FACSCalibur, BD Biosciences)を使用してGFP発現を追跡することによって、トランスダクション効率を評価した。
【0091】
ヒトCD34+細胞の培養及びトランスダクション
French Ministry of Research and Higher Studiesへの申告N° DC-201-1655の下、国際倫理原則及びフランスの国内法(生命倫理法n°2011-814)にしたがって、Centre Hospitalier Sud Francilien, Evry, Franceにおいて、合併症を伴わない出産後にインフォームドコンセントを得て、臍帯血(UCB)サンプルを収集した。免疫磁気選択(Miltenyi Biotec, Paris, France)によって、ヒトCD34+細胞を単離した。以前に記載されているように(Ingrao et al., 2014)、hCD34+細胞の予備活性化を一晩実施した。予備活性化細胞を96ウェルプレートにプレーティングし、目的のペプチドと混合した又は混合していない所望の量のLV粒子を追加することによって、トランスダクションを開始した。トランスダクションの6時間後、分化培地を各ウェルに追加することによって、反応物を希釈した。4~6日後、7-AAD標識及びGFP発現の測定によって、細胞死亡率及びトランスダクション効率をそれぞれ評価した。
【0092】
ウイルスプルダウンアッセイ
以前に記載されているプロトコール(Yolamanova, 2013)から、培養添加物の存在下におけるLV粒子のプルダウンを適合させた。簡潔に言えば、室温で平衡化したX-Vivo20培地で、VSV-G-LV上清を100ng/ml p24に希釈した。次に、10μMの示されている培養添加物の非存在下又は存在下で、LV懸濁液 500μlを1.5mlチューブにロードした。ホモジナイズした後、サンプルを低速(15,000g)、室温で5分間遠心分離した。次いで、上清を廃棄し、ペレットを新鮮培地 100μlに懸濁し、-20℃で凍結した。各条件について、上記のように市販のHIV-1 p24 ELISAキットを使用して、ペレット化p24の量を評価した。
【0093】
接着及びBLAM-LV融合アッセイ
以前の研究(Fenard, 2013)から、ターゲット細胞に対するLV接着のプロトコールを適合させた。簡潔に言えば、Tat-Scrambled又はTat-Beclin1(5μM)の非存在下又は存在下で、HCT116細胞を37℃で30分間プレインキュベーションした。次いで、培養添加物の非存在下又は存在下で、細胞をウイルス上清と共に4℃でさらに2.5時間インキュベーションした。次に、冷PBS1×で細胞を3回洗浄し、1%TritonX-100及びプロテアーゼカクテル阻害剤Complete (Roche diagnostics, Meylan, France)を含有するPBS1×で溶解した。市販のHIV-1 p24 ELISAキットを使用して溶解物中のp24含有量を評価し、DCタンパク質アッセイ(Biorad, Ivry-sur-Seine, France)を使用して全タンパク質含有量に対してデータを正規化した。ウイルス融合アッセイ(BLAM-LV)アッセイについて、プロトコールは以前に詳細に記載されていた(Ingrao et al., 2014)。
【0094】
CFCアッセイ
製造業者の説明書にしたがって、Methocult (H4434, Stemcell Technologies)1ミリリットル当たりトランスダクション細胞又は非トランスダクション細胞 500個をプレーティングすることによって、CFCアッセイを2回反復で実施した。2週間の培養後、標準的な視覚的基準を用いて倒立顕微鏡を使用して、赤芽球バースト形成単位(BFU-E);顆粒球-単球コロニー形成単位(CFU-GM)及び顆粒球-赤血球-マクロファージ-巨核球コロニー形成単位(CFU-GEMM)をカウントした。
【0095】
イメージングフローサイトメトリーベースのオートファジーアッセイ(ImageStream)
一過性リン酸カルシウムトランスフェクション法を使用して、pBABE-puro-mCherry-eGFP-LC3発現プラスミドでHEK293T細胞をトランスフェクションした。Tat-Beclin1(5μM)の非存在下若しくは存在下で、又はアール平衡塩類溶液(EBSS)中で、細胞(細胞 5×10E5個/ウェル)を37℃、5%CO2で6時間インキュベーションした。次に、PBS1×で細胞をで洗浄し、固定し(1.2%PFA)、ImageStream (Amnis corporation, Seattle, WA, USA)を使用して分析した。感度を最適化するために40倍対物レンズ及び最低流速を使用して、明視野チャネル、mCherry蛍光チャネル及び最後にSSCチャネル(742nm)で、細胞の画像を取得した。取得したら、Ideas(登録商標)ソフトウェアを用いて、画像を処理した。ヒストグラムで焦点画像をゲートし、40~90の明視野チャンネルでGradient_RMS特徴値を示した。次いで、(明視野チャンネルの)面積対アスペクト比の散布図を使用して、単一細胞をゲートし、細胞のダブレットを除去した。単一細胞をゲートしたら、Ideas(登録商標)ソフトウェアに含まれる自動スポットカウントウィザードを使用して、各細胞上のスポットの数をmCherryチャネルでカウントした。テキストファイルとしてデータをエクスポートし、GraphPad Prismを用いて処理した。
【0096】
結果及び考察
低用量のTat-Beclin1は、様々な偽型による細胞株のレンチウイルストランスダクションを強く改善した。
レンチウイルストランスダクションに対するTB1(配列番号:75)ペプチドの効果を評価するために、低用量又は高用量のTB1又はコントロールペプチドTat-Scrambled(TS)存在下、広く使用されているVSV-G糖タンパク質エンベロープ(VSV-G-LV)でシュードタイピングしたレンチウイルスベクター(LV)でHCT116細胞をトランスダクションした(
図1A)。興味深いことに、低用量のTB1の使用は、レンチウイルストランスダクションを強く改善した(10倍)。さらに、1対数濃度のVSV-G-LV、10E5~10E6 TU/ml(MOI 0.5~5に相当)では、TB1効果は飽和せず、最大84%のトランスダクション効率に達した(
図1B)。
【0097】
LVを遺伝子移入に使用することの大きな利点は、特異的細胞ターゲティングのための多数の異種エンベロープ糖タンパク質によるシュードタイピングを支援するそれらの能力である(Levy, 2015)。したがって、様々なLV偽型(すなわち、改変テナガザル白血病ウイルス糖タンパク質でシュードタイピングしたLV(GALVTR-LV)及び改変RD114ネコ内因性レトロウイルス糖タンパク質でシュードタイピングしたLV(RD114TR-LV))において、TB1の効果を評価した。非常に重要なことに、これらの造血指向性偽型は、効率的なトランスダクションを促進するための培養添加物の要件が周知である。接着細胞株では、LVを促進するために使用される古典的な可溶性添加剤は、ポリブレン、硫酸プロタミン又は最近特定されたVectofusin-1(Fenard, 2013)である。
図1Cに示されているように、TB1は、他の培養添加物と同程度に、GALVTR及びRD114TR-LVトランスダクションを促進している。したがって、TB1は、細胞株及びレンチウイルス偽型の他の大きな一団効率的なレンチウイルストランスダクションエンハンサーである。
【0098】
Tat-Beclin1は、造血幹/前駆細胞の安全なレンチウイルストランスダクションを促進する。
基礎研究のために細胞株のレンチウイルストランスダクションを促進することは興味深いが、別の関心対象は、ex vivo遺伝子治療アプローチのために、造血幹/前駆細胞(HSPC)をターゲティングするレンチウイルストランスダクションの現在の臨床プロトコールを最適化することである。
図2Aに示されているように、高精製VSV-G-LV粒子を使用して、ヒトCD34+HSPCをトランスダクションした。TB1の存在下では、レンチウイルストランスダクションの2倍の増加が観察された。HSPCのレンチウイルストランスダクションを促進するためのTB1の最適用量は、約10μMと定義された(
図2A~B)。
【0099】
TB1ペプチドは、オートシス(autosis)と称される特異的細胞死をトリガーすることが以前に示されているので(Liu, 2013)、HSPCにおいて安全性研究を実施した。そのために、レンチウイルストランスダクション中に最適濃度のレトロネクチン、TS又はTB1ペプチドに曝露したヒトCD34+細胞から、コロニー形成細胞(CFC)アッセイを実行した。これらの実験では、本発明者らは、高精製VSV-G-LVを使用してCD34+細胞をトランスダクションしたが、これは、これらのベクターが、このアッセイにおいて測定可能な造血毒性を示さないためである(Merten, 2011)。
図2Cに示されているように、アッセイにおいて使用したいかなる培養添加物からも毒性の証拠はなかった。TB1へのCD34+細胞の曝露は、CFCとしてのそれらのその後の成長及び骨髄赤血球分化に影響を与えなかった。
【0100】
Tat-Beclin1は、LVとターゲット細胞膜との接着及び融合段階に作用している。
ターゲット細胞へのLVの侵入は律速段階である。したがって、本発明者らは、低用量のTB1が、LVとターゲット細胞膜との接着及び融合を増強することができるかを試験することを決定した。そのために、BLAM-LVアッセイを使用した(Ingrao, 2014)。
図3Aに示されているように、細胞株(HCT116)又はhCD34+HSPCのような関連一次細胞のいずれかを用いた場合、TB1は、ウイルス融合段階を強く増加させた。次に、4℃でターゲット細胞と相互作用するウイルス粒子の数を定量することによって、本発明者らは、TB1の存在下では、ウイルス接着のレベルが、Vectofusin-1を使用したコントロール条件と同程度のレベルまで強く増加することを示した(
図3B)。しかしながら、ウイルスプルダウンアッセイを使用して、本発明者らは、ウイルス接着のこの増加が、Vectofusin-1(ナノフィブリルペプチド)の場合のようにウイルス粒子のTB1誘導性凝集の結果ではないことを示した(
図3C)。したがって、TB1ペプチドは、ウイルス粒子の凝集を伴わない分子機構を介して、ウイルス接着及び融合段階を増加させることができる。
【0101】
多数のTat-Beclin1変異体の設計及びレンチウイルストランスダクションに対するその評価。
レンチウイルストランスダクションに対するTB1の作用の特異性を評価するために、Tatトランスダクションドメイン(Tat)及び267-284改変beclin1ドメイン(Bec)を合成し、VSV-G-LVによるHCT116細胞のトランスダクション中に試験した。
図4に示されているように、Tat及びBecペプチドはいずれも、レンチウイルストランスダクションを促進することができない。したがって、レンチウイルストランスダクションに対するTB1のポジティブな効果は、Tatの細胞透過性ペプチド(CPP)活性によるものではない。また、Beclin1ドメインは、トランスダクションドメインに連結されてその効果を発揮するが、これは、Shoji-Kawataの研究に記載されるGAPR-1タンパク質との特異的相互作用を確かに介して、又はまだ同定されていない別の細胞パートナーとの相互作用を介して、それが細胞内で作用していることを示唆している。
【0102】
そのペプチド溶解性を増加させるために、Shoji-Kawataらは、TB1の267-284Beclin1ドメインにおいて3つの突然変異(すなわち、H275E、S279D及びQ281E)を組み込んだ(国際公開公報第2013/119377号、Shoji-Kawata et al. 2013)。ウイルストランスダクションエンハンサー活性に対するこれらの突然変異の影響を評価するために、ヒトBeclin1タンパク質の野生型267-284ドメインをTatに融合した(Tat-BecWT)。
図4に示されているように、Tat-BecWTは、2.5μMの濃度で、TB1と同じくらい効率的にレンチウイルストランスダクションを促進することができる。しかしながら、このペプチドは、5μMの濃度では、TB1と比較してもはや活性ではない。これら3つの突然変異が、GAPR-1タンパク質又は別の重要なパートナーとの相互作用を改善して、より優れたウイルストランスダクションエンハンサー活性をもたらし得ることは除外されない。実際、これらの突然変異は、このBeclin1ドメインとウイルス因子(HIV-1 Nefタンパク質)との相互作用を25~30%増加させる(Shoji-Kawata et al. 2013の補足
図1dを参照のこと)。
【0103】
ウイルストランスダクションに対するTB1の作用機構をさらに理解するために、TB1ペプチドにおける2つのフェニルアラニン残基の役割が評価されている。以前、Shoji-Kawataらは、Tat-Bec(F270S)及びTat-Bec(F274S)ペプチドが、オートファジー経路をもはや誘導することができないことを示した(Shoji-Kawata et al. 2013)。本発明者らのウイルストランスダクション実験においても、これらのペプチドはレンチウイルストランスダクションを促進することができず(
図4)、これは、フェニルアラニン残基がこれらの機能のいずれかに重要であることを示唆している。
【0104】
過去数年間に、多数の細胞透過性ペプチド(CPP)が発見されている(Milletti et al. 2012)。したがって、広く使用されているTatペプチドとは異なるCPPを試験することが興味深いものであり得る。1つの興味深い候補は、MAP(モデル両親媒性ペプチド)である。本発明者らは、MAP-Scrambledネガティブコントロール及びMAP-Beclin1ペプチドを設計した(MAP部分は、配列番号:4に示されている配列を有する)。
図4に示されているように、MAP-Beclin1(配列番号:76)は、レンチウイルストランスダクションの促進に関してTB1と同じくらい効率的であるが、これは、様々なCPPを使用して、ターゲット細胞の細胞質への改変Beclin1ドメインの侵入を可能にし得ることを示唆している。
【0105】
TB1ペプチドの改変Beclin1ドメインは、ヒトBeclin1タンパク質(homo sapiens、NP_003757)のアミノ酸残基267~284に対応する。このドメインは、ヒトGAPR-1及びHIV-1 Nefタンパク質結合ドメインを有すると記載されている。しかしながら、高効率でレンチウイルストランスダクションを促進することができる最適なBeclin1ペプチド配列は評価されていない。そのために、多数のペプチドを設計した(
図5A)。これらのペプチドは、Beclin1タンパク質をより広くカバーすることを可能にする。例えば、Tat-Bec(250-282)(配列番号:81)は、α1ヘリックス、L1ループ及びβ1シートを完全にカバーする(結晶構造に基づく、Huang et al. 2012)。一方、Tat-Bec(274-298)(配列番号:82)は、β1及びβ2シート並びにL2ループを完全にカバーする(
図5A)。レンチウイルストランスダクションアッセイにおいて、これらのTB1誘導体全てを試験した。
図5Bに示されているように、前記ペプチドは全て、レンチウイルストランスダクションを促進することができるが、その程度は異なる。2.5μMでは、Tat-Bec(274-298)を除いて、誘導体のほとんどがTB1よりもかなり効率的である。しかしながら、5μMでは、ペプチド配列がタンパク質のC末端側にシフトするほど、レンチウイルストランスダクションに対する有効性が低いように見える。Tat-Bec(267-296)(配列番号:83)を使用した用量反応実験は、非常に低用量(1μMまで)のこのペプチドが最適なレンチウイルストランスダクションを促進することができることを示している(
図5C)。興味深いことに、267-296Beclin1フラグメントの野生型配列を含有するペプチド(Tat-Bec(267-296)WT)(配列番号:80)は、レンチウイルストランスダクションを促進しているが、3つの改変H275E、S279D及びQ281Eを含有するTat-Bec(267-296)ペプチドよりも非効率的である(
図5D)。この結果は、Tat-BecWT(配列番号:77)を用いて得られたものを思い起こさせる(
図4)。最後に、Tat-Bec(267-296)dGG(配列番号:74)(GGリンカーを削除したTat-Bec(267-296)のペプチド変異体)は、ウイルストランスダクションのレベルを約5倍増加させているが、これは、レンチウイルストランスダクションに対するペプチドのポジティブな効果の観察に関して、このリンカーが全く無関係であることを示唆している。要するに、これらのbeclin1ドメイン変異体は、レンチウイルストランスダクションの促進に関して、ヒトBeclin1配列におけるアミノ酸残基270~282をカバーする領域の非常に重要な役割を強調している。低用量(2.5μM)で最も高性能のペプチドはTat-Bec(250-282)であるが、これは、α1ヘリックス、L1ループ及びβ1シートドメインの重要な役割を示唆している。
【0106】
アデノ随伴ウイルスベクターに対するTB1作用の評価
アデノ関連ベクター(AAV)は、遺伝子治療アプローチのための最も頻繁に使用されるウイルスベクターである。異なる血清型の中でも、AAV-8は臨床使用が成功しており、肝臓特異的遺伝子治療にかなり有望である(Nathwani et al, 2014)。したがって、AAV8トランスダクション効率に対するTB1の効果をin vitroで評価した。
図6に示されているように、TB1は、リコンビナントAAV8の感染性を用量依存的に増強することができるが、Tat-Scrambledコントロールペプチドは効果を有しない。この結果は、TB1の作用が広範囲であり、エンベロープウイルスベクター及び非エンベロープウイルスベクターの両方に作用することを強調している。
【0107】
オートファジープロセスに対するTB1最適用量の評価
TB1の作用機構をより良く理解するために、本発明者らは、レンチウイルストランスダクションの増加がオートファジープロセスの活性化の結果であるかを調査しようとした。単一細胞レベルでオートファジーをモニタリングするために、mCherry-eGFP-LC3融合タンパク質を発現するプラスミドでHEK293T細胞をトランスフェクションした。次に、細胞をTB1(5μM)又はEBSS飢餓溶液と共にインキュベーションし、イメージングフローサイトメーターを用いて分析した。予想通り、EBSSは、1細胞当たりのオートファゴリソソーム(mCherryスポット)の数を増加させている(
図7)。反対に、TB1処置HEK293T細胞におけるオートファゴリソソームの数は、ペプチドの非存在下(なし)におけるコントロール条件と同程度である。これらのデータは、TB1の存在下で観察されるレンチウイルストランスダクションの改善が確かに、オートファジーフラックスの誘導の結果ではないことを示唆している。
【0108】
Tat-Beclin2の設計及びレンチウイルストランスダクションに対するその評価
ヒトBeclin1及びBeclin2タンパク質の配列アラインメントは、ECDドメインにおける相同性を示している。したがって、本発明者らは、Tat-Bec2WTペプチド(Tat(47-57)トランスダクションペプチドとヒトBeclin2 ECD
249-266ドメインとの融合物)を設計することを決定した(
図8A)。TB1は3つの突然変異(H275E、S279D及びQ281E)を含有するので、Tat(47-57)ペプチドと野生型ヒトBeclin1 ECD
267-284ドメインとの融合物に相当するTat-BecWTペプチドも設計し、配列アラインメントに示されている(
図8A)。広範囲の濃度にわたって、レンチウイルス産生を促進する能力について、これら3つのペプチドを試験した。
図8Bに示されているように、前記ペプチドは全て、レンチウイルストランスダクションを効率的に促進することができるが、それらの最適用量(TB1の場合には3μM、Tat-BecWTの場合には1μM及びTat-Bec2WTの場合には500nM)にはかなりの変動がある。100nMのTat-Bec2WTのみがレンチウイルストランスダクションを3倍(10から30%に)増加させることができ(8B)、この濃度では、TB1及びTat-BecWTは効果を有しない。Tat-Scr2WT(Tat-Bec2WTのスクランブルバージョン)は、レンチウイルストランスダクションを促進しているが、Tat-Bec2WTに対する効果の程度の減少に相当する用量では、確かにTat依存的活性である。結論として、Tat-Bec2WTは、非常に低用量で、レンチウイルストランスダクションの強力なエンハンサーである。
【0109】
【配列表】