(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】修飾セルロースナノファイバーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 3/12 20060101AFI20230919BHJP
【FI】
C08B3/12
(21)【出願番号】P 2019156825
(22)【出願日】2019-08-29
【審査請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】林 蓮貞
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-190437(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073700(WO,A1)
【文献】特開2014-234457(JP,A)
【文献】国際公開第2013/133093(WO,A1)
【文献】特開昭60-137901(JP,A)
【文献】特表2005-526148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弱塩基性の金属化合物
からなる触媒と二塩基カルボン酸無水物とを含む反応性解繊液をセルロースに浸透させて、セルロースをエステル化して化学解繊し、二塩
基カルボン酸無水物で修飾され、かつ金属塩の形態を含むセルロースで形成された修飾セルロース微細繊維を得る修飾解繊工程と、得られた修飾セルロース微細繊維に分散媒を添加して攪拌し、修飾セルロースナノファイバーを得る攪拌工程とを含む、修飾セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
弱塩基性の金属化合物がアルカリ金属化合物である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
弱塩基性の金属化合物がアルカリ金属炭酸水素塩である請求項1
または2記載の製造方法。
【請求項4】
反応性解繊液が、さらにドナー数25以上の非プロトン性溶媒を含む請求項1~
3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
ドナー数25以上の非プロトン性溶媒が、アルキルスルホキシド類、アルキルアミド類およびピロリドン類からなる群より選択された少なくとも1種である請求項
4記載の製造方法。
【請求項6】
ドナー数25以上の非プロトン性溶媒が、ジC
1-2アルキルスルホキシドである請求項
4記載の製造方法。
【請求項7】
二塩基カルボン酸無水物が、脂肪族ジカルボン酸無水物、脂環族ジカルボン酸無水物および芳香族ジカルボン酸無水物からなる群より選択された少なくとも1種である請求項1~
6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
二塩基カルボン酸無水物が炭素数4~6の飽和脂肪族ジカルボン酸無水物である請求項1~
7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
触媒の割合が、二塩基カルボン酸無水物100質量部に対して100質量部以上である請求項1~
8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
二塩基カルボン酸無水物の割合が、セルロース100質量部に対して60質量部以上である請求項1~
9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
攪拌工程において、修飾セルロース微細繊維を液-液剪断する請求項1~
10のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維表面が二塩基カルボン酸無水物でエステル化された修飾セルロースナノファイバーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維(細胞壁単位)は、セルロース微細繊維(ミクロフィブリル)の集合体である。セルロース微細繊維は、鋼鉄に匹敵する機械特性を有し、直径約30nmのナノ構造を有するため、補強剤として社会的に熱く注目されている。しかし、セルロース微細繊維は、繊維間が水素結合により結束されており、その微細繊維を取り出すためには、水素結合を解いてミクロフィブリルを分離(解繊)する必要がある。そこで、このようなミクロフィブリルの分離は、解繊と称され、セルロース微細繊維(セルロースナノファイバー)の解繊法として、激しい物理力を加えた機械解繊法が開発された。
【0003】
機械解繊法は、水中でセルロース繊維を機械的に解繊する水中機械解繊法が汎用されており、水中機械解繊法では、セルロース繊維は、水により膨潤され、柔らかくなった状態で高圧ホモジナイザーなどの強力な機械剪断によりナノ化される。しかし、天然のセルロースミクロフィブリルは、結晶ゾーン(結晶域)と非晶ゾーン(非晶域)とから構成されるが、非晶ゾーンは、水などの膨潤性溶媒を吸収、膨潤した状態になると、強力な剪断により変形する。そのため、セルロース繊維は、剪断によりダメージを受け、絡み合いや引っ掛かりが生じ易い分岐形状となる。また、ボールミルなどの強力な機械粉砕法により、固体状態特有のメカノケミカル反応が起こり、この作用によりセルロースの結晶構造が破壊されたり、溶解されたりすることが避けられなくなる。その結果、収率は低くなり、結晶化度が低くなり易い。さらに、セルロース微細繊維は樹脂の強化材料として利用できるが、樹脂と複合化するためには、水中機械解繊法では、解繊の後、脱水して繊維表面を修飾して疎水化する必要があり、この脱水工程には高いエネルギーが必要となる。
【0004】
そこで、繊維表面をエステル化し、樹脂や有機溶媒などの有機媒体への分散性に優れたセルロース微細繊維の製造方法として、特開2010-104768号公報(特許文献1)には、塩化ブチルメチルイミダゾリウムなどのイオン液体と有機溶媒とを含有する混合溶媒を用いてセルロース系物質を膨潤および/または部分溶解させた後、エステル化する多糖類ナノファイバーの製造方法が開示されている。この文献の実施例では、エステル化剤として、無水酢酸、無水酪酸が使用されている。
【0005】
また、強力な解繊や粉砕を必要としない化学解繊法として、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシラジカル(TEMPO)を用いたTEMPO酸化法も注目されている。WO2010/116794号パンフレット(特許文献2)には、TEMPOなどのN-オキシル化合物と臭化物および/またはヨウ化物との存在下で酸化剤を用いセルロース系原料を酸化した後、湿式微粒化処理するセルロースナノファイバー分散液の製造方法が開示されている。
【0006】
さらに、簡便かつ効率良く均一なナノサイズのセルロース微細を製造できる方法として、特開2017-82188号公報(特許文献3)には、塩基触媒または酸触媒を含む触媒と二塩基カルボン酸無水物とを含む反応性解繊液をセルロースに浸透させて、セルロースをエステル化して化学解繊し、カルボキシル基含有セルロース微細繊維を得る修飾解繊工程を含む修飾セルロース微細繊維の製造方法が開示されている。また、特開2017-190437号公報(特許文献4)には、塩基または酸触媒を含む触媒と二塩基カルボン酸無水物とを含む反応性解繊液をセルロース(原料セルロース)に浸透させて、セルロースをエステル化して化学解繊し、カルボキシル基含有セルロース微細繊維を得る修飾解繊工程と、得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維と分散媒とを2000rpm以上の回転速度で攪拌し、カルボキシル基含有セルロース微細繊維を得る攪拌工程とを含む修飾セルロース微細繊維の製造方法が開示されている。特許文献2および3では、触媒としてピリジン類が好ましいと記載され、特許文献3の実施例ではピリジンまたはトルエンスルホン酸が使用され、特許文献4の実施例ではピリジンが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-104768号公報
【文献】WO2010/116794号パンフレット
【文献】特開2017-82188号公報
【文献】特開2017-190437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の製造方法では、特殊なイオン液体を使用する必要があり、イオン液体を回収や再利用するための精製工程はセルロースナノファイバーの製造コストの上昇や製造工程の複雑化につながる。
【0009】
また、特許文献2のTEMPO法で得られたセルロースナノファイバーは高い親水性や水分散性を有するが、有機媒体への分散性が低い。さらに、高価なTEMPO触媒や大量のアルカリ物質を用いるため、経済性が低く、排水処理も困難であり、環境に対する負荷も大きい。
【0010】
さらに、特許文献3および4の製造方法では、特許文献1および2よりも簡便かつ効率良く均一なセルロースナノファイバーを製造できるものの、特許文献3および4の製造方法でも、均一なセルロースナノファイバーを十分に製造することはできなかった。さらに、特許文献4の製造方法では、特許文献3よりも均一なセルロースナノファイバーが得られるものの、解繊工程において、攪拌処理が必要であり、簡便な方法ではなかった。
【0011】
従って、本発明の目的は、簡便かつ効率良く生産できるとともに、均一なナノサイズで結晶化度が高く、繊維形状の損傷が少なくてアスペクト比が大きく、かつ吸水性の大きい修飾セルロースナノファイバーおよびその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、強力な機械的な剪断をすることなく、省エネルギーな方法で生産できる修飾セルロースナノファイバーおよびその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、透明性に優れた修飾セルロースナノファイバーの製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、チキソトロピー性、成膜性および有機溶媒への分散性に優れた高い修飾セルロースナノファイバーおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、金属化合物と二塩基カルボン酸無水物とを含む反応性解繊液をセルロースに浸透させて、セルロースをエステル化して化学解繊した後、得られた修飾セルロース微細繊維に分散媒を添加して攪拌することにより、特定の修飾セルロースナノファイバー、すなわち均一なナノサイズで、結晶化度が高く、繊維形状の損傷が少なくてアスペクト比が大きく、かつ吸水性の大きい修飾セルロースナノファイバーを、簡便かつ効率良く生産できることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明の修飾セルロースナノファイバーの製造方法は、金属化合物を含む触媒と二塩基カルボン酸無水物とを含む反応性解繊液をセルロースに浸透させて、セルロースをエステル化して化学解繊し、二塩基酸カルボン酸無水物で修飾され、かつ金属塩の形態を含むセルロースで形成された修飾セルロース微細繊維を得る修飾解繊工程と、得られた修飾セルロース微細繊維に分散媒を添加して攪拌し、修飾セルロースナノファイバーを得る攪拌工程とを含む。前記金属化合物は、例えば、アルカリ金属化合物(特に、アルカリ金属炭酸水素塩)であってもよい。前記金属化合物は、弱塩基性の金属化合物であってもよい。前記反応性解繊液は、さらにドナー数25以上の非プロトン性溶媒、例えば、アルキルスルホキシド類、アルキルアミド類およびピロリドン類からなる群より選択された少なくとも1種(特に、ジC1-2アルキルスルホキシド)を含んでいてもよい。前記二塩基カルボン酸無水物は、脂肪族ジカルボン酸無水物、脂環族ジカルボン酸無水物および芳香族ジカルボン酸無水物からなる群より選択された少なくとも1種(特に、炭素数4~6の飽和脂肪族ジカルボン酸無水物)であってもよい。前記触媒の割合は、二塩基カルボン酸無水物100質量部に対して100質量部以上であってもよい。前記二塩基カルボン酸無水物の割合は、セルロース100質量部に対して60質量部以上であってもよい。前記攪拌工程において、修飾セルロース微細繊維を液-液剪断してもよい。
【0017】
本発明には、二塩基カルボン酸無水物で修飾され、かつ金属塩の形態を含むセルロースで形成されているとともに、下記特性(1)~(4)を充足する修飾セルロースナノファイバーも含まれる。
(1)平均置換度が0.05~2である
(2)平均繊維径が150nm以下である
(3)繊維径300nm以上の繊維数が全繊維数に対して5%以下である
(4)平均繊維長が1μm以上である
【発明の効果】
【0018】
本発明では、金属化合物と二塩基カルボン酸無水物とを含む反応性解繊液をセルロースに浸透させて、セルロースをエステル化して化学解繊した後、得られた修飾セルロース微細繊維に分散媒を添加して攪拌するため、天然由来のセルロース結晶構造やミクロフィブリル構造を破壊することなく解繊できる。特に、本発明では、前記反応性解繊液の浸透に伴ってセルロースを膨潤させることができ、強力な機械的な剪断をすることなく、セルロースの解繊効率を向上できる。そのため、均一なナノサイズで結晶化度が高く、繊維形状の損傷が少なくてアスペクト比が大きく、かつ吸水性も大きい修飾セルロースナノファイバーを、省エネルギーな方法で簡便かつ効率良く生産できる。また、ナノサイズであり、かつ繊維径の均一性も高いため、透明性が高く、チキソトロピー性および成膜性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施例で使用した原料のセルロースパルプの走査型電子顕微鏡(SEM)写真(10000倍)である。
【
図2】
図2は、実施例1で得られた修飾セルロースナノファイバーのSEM写真(10000倍)である。
【
図3】
図3は、実施例2で得られた修飾セルロースナノファイバーのSEM写真(10000倍)である。
【
図4】
図4は、実施例3で得られた修飾セルロースナノファイバーのSEM写真(10000倍)である。
【
図5】
図5は、実施例4で得られた修飾セルロースナノファイバーのSEM写真(10000倍)である。
【
図6】
図6は、実施例5で得られた修飾セルロースナノファイバーのSEM写真(10000倍)である。
【
図7】
図7は、実施例6で得られた修飾セルロースナノファイバーのSEM写真(10000倍)である。
【
図8】
図8は、実施例7で得られた修飾セルロースナノファイバーのSEM写真(10000倍)である。
【
図9】
図9は、比較例1で得られた処理セルロースのSEM写真(1000倍)である。
【
図10】
図10は、比較例2で得られた処理セルロースのSEM写真(1000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[修飾解繊工程]
本発明の修飾セルロースナノファイバーの製造方法は、無機塩基触媒を含む触媒と二塩基カルボン酸無水物(アルカン二酸無水物)とを含む反応性解繊液(反応性解繊溶液または混合液)をセルロースに浸透させてセルロースをエステル化して化学解繊し、修飾セルロース微細繊維を得る修飾解繊工程を含む。本発明では、この工程によってセルロースが修飾されると同時に、解繊される理由は次のように推定できる。すなわち、前記触媒および二塩基カルボン酸無水物(特に、さらに非プロトン性溶媒)を含む反応性解繊液は、セルロースに対する溶解性の低い溶液であり、この溶液がセルロースのミクロフィブリル間に浸透してセルロースを膨潤させ、ミクロフィブリルの表面の水酸基を修飾する。さらに、この修飾によりミクロフィブリル間の水素結合が破壊され、ミクロフィブリル同士は容易に離れ、解繊される。また、前記溶液は、ミクロフィブリルの結晶ゾーン(ドメイン)に浸透しないため、得られた修飾セルロース微細繊維は、ダメージが少なく、天然のミクロフィブリルに近い構造を有している。同時に、この工程では、強力な剪断力の働きによる機械的解繊手段を用いることなく、セルロースを解繊できるため、物理的な作用によるダメージも少ない。特に、触媒が無機塩基触媒を含むため、無機塩基が修飾セルロース微細繊維のカルボキシル基と無機塩を形成する。本発明の方法では、この無機塩が繊維間で強い静電反発を生じるため、セルロースの繊維間に反応性解繊液が均一に浸透することなどにより、解繊が速やかに進行していると推定できる。そのため、得られた修飾セルロース微細繊維は、高い強度を保持していると推定できる。
【0021】
(セルロース)
原料となるセルロースは、セルロース単独の形態であってもよく、リグニンやヘミセルロースなどの非セルロース成分を含む混合形態であってもよい。
【0022】
単独形態のセルロース(または非セルロース成分の含有量が少ないセルロース)としては、例えば、パルプ(例えば、木材パルプ、竹パルプ、ワラパルプ、バガスパルプ、リンターパルプ、亜麻パルプ、麻パルプ、楮パルプ、三椏パルプなど)、ホヤセルロース、バクテリアセルロース、セルロースパウダー、結晶セルロースなどが挙げられる。
【0023】
混合形態のセルロース(セルロース組成物)としては、例えば、木材[例えば、針葉樹(マツ、モミ、トウヒ、ツガ、スギなど)、広葉樹(ブナ、カバ、ポプラ、カエデなど)など]、草本類[麻類(麻、亜麻、マニラ麻、ラミーなど)、ワラ、バガス、ミツマタなど]、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、竹、サトウキビ、紙などが挙げられる。
【0024】
これらのセルロースは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。混合形態のセルロースにおいて、非セルロース成分の割合は90質量%以下であってもよく、例えば1~90質量%、好ましくは3~80質量%、さらに好ましくは5~70質量%である。他の成分の割合が多すぎると、修飾セルロース微細繊維の製造が困難となる虞がある。
【0025】
セルロースは、結晶セルロース(特に、I型結晶セルロース)を含むのが好ましく、結晶セルロースと非晶セルロース(不定形セルロースなど)との組み合わせであってもよい。結晶セルロース(特に、I型結晶セルロース)の割合は、セルロース全体に対して10質量%以上であってもよく、例えば30~99質量%、好ましくは50~98.5質量%、さらに好ましくは60~98質量%である。結晶セルロースの割合が少なすぎると、修飾セルロース微細繊維の耐熱性や強度が低下する虞がある。
【0026】
これらのうち、植物由来の原料セルロースが汎用され、修飾および解繊し易い点から、木材パルプ(例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなど)、種子毛繊維のパルプ(例えば、コットンリンターパルプ)、セルロースパウダーなどが汎用される。なお、パルプは、パルプ材を機械的に処理した機械パルプであってもよいが、非セルロース成分の含有量が少ないことからパルプ材を化学的に処理した化学パルプが好ましい。
【0027】
セルロースの含水率(乾燥セルロースに対する水分の質量割合)は1質量%以上であってもよく、例えば1~100質量%、好ましくは2~80質量%、さらに好ましくは3~60質量%、最も好ましくは5~50質量%である。本発明では、解繊性度合や解繊効率の観点から、セルロースは、このような範囲で水分を含むのが好ましく、例えば、市販のセルロースパルプの場合、セルロースパルプを乾燥せずに、そのまま利用してもよい。含水率が小さすぎると、セルロースの解繊性が低下する虞がある。
【0028】
原料となるセルロースの平均繊維径は、通常1μm以上であり、例えば5~500μm、好ましくは10~300μm、さらに好ましくは20~100μm、最も好ましくは30~50μmである。なお、本明細書および特許請求の範囲では、原料セルロースの平均繊維径は、光学顕微鏡写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出してもよい。
【0029】
セルロースと反応性解繊液との質量割合は、前者/後者=1/99~30/70程度の範囲から選択でき、例えば1.2/98.8~25/75、好ましくは1.3/98.7~20/80、さらに好ましくは1.5/98.5~15/85、最も好ましくは2/98~10/90である。セルロースの割合が少なすぎると、修飾セルロース微細繊維の生産量が低くなり、多すぎると、反応時間が長くなるため、いずれにしても生産性が低下する虞がある。さらに、セルロースの割合が多すぎると得られた微細繊維のサイズと修飾率の均一性が低下する虞がある。
【0030】
反応性解繊液に対するセルロースの飽和吸収率は、例えば10倍以上(例えば10~200倍程度)、好ましくは20倍以上(例えば20~150倍程度)、さらに好ましくは30倍以上(例えば30~100倍程度)である。飽和吸収率が低すぎると、セルロースの解繊性及び得られた微細繊維の均一性が低下する虞がある。
【0031】
(二塩基カルボン酸無水物)
二塩基カルボン酸(ジカルボン酸)無水物(エステル化剤)には、脂肪族ジカルボン酸無水物、脂環族ジカルボン酸無水物、芳香族ジカルボン酸無水物が含まれる。
【0032】
脂肪族ジカルボン酸無水物としては、例えば、無水コハク酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸無水物;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物などが挙げられる。脂環族ジカルボン酸無水物としては、例えば、1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。芳香族ジカルボン酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、無水ナフタル酸などが挙げられる。これらの二塩基カルボン酸無水物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0033】
これらの二塩基カルボン酸無水物のうち、修飾性及び解繊性の点から、無水コハク酸や無水マレイン酸などの炭素数4~8の飽和または不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物が好ましく、炭素数4~6の飽和脂肪族ジカルボン酸無水物がさらに好ましく、炭素数4~5の飽和脂肪族ジカルボン酸無水物が最も好ましい。炭素数が大きすぎると、ミクロフィブリル間への浸透性とセルロース水酸基に対する反応性が低下する虞がある。
【0034】
反応性解繊液中の二塩基カルボン酸無水物の濃度(質量割合)は、ミクロフィブリル間への浸透性とセルロース水酸基に対する反応性のバランスに優れる点から、0.5~50質量%程度の範囲から選択でき、本発明の方法では反応性解繊液の浸透性に優れるため、二塩基カルボン酸無水物の濃度は低くてもよく、例えば1~30質量%、好ましくは1.5~10質量%、さらに好ましくは2~5質量%、最も好ましくは2.5~4質量%である。
【0035】
セルロースと二塩基カルボン酸無水物との割合は、ミクロフィブリル間への浸透性とセルロース水酸基に対する反応性のバランスに優れる点から、セルロースの無水グルカンユニット(無水グルコース単位)換算のモル比で、前者/後者=10/1~1/10程度の範囲から選択でき、例えば1/1~1/8、好ましくは1/2~1/6、さらに好ましくは1/3~1/5程度である。両者の質量割合は、例えば、セルロース/二塩基カルボン酸無水物=70/30~5/95、好ましくは65/35~10/90、さらに好ましくは60/40~20/80、より好ましくは55/45~30/70、最も好ましくは50/50~40/60である。
【0036】
(触媒)
本発明では、セルロースのエステル化を促進するために、二塩基カルボン酸無水物に加えて、金属化合物を含む触媒を用いる。本発明では、触媒として、金属化合物を含む触媒を用いることにより、セルロース微細繊維に導入されたカルボキシル基が金属塩を形成し、解繊効率を向上できる。
【0037】
金属化合物としては、例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物などが挙げられる。これらの金属化合物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0038】
アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩;水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属水素化物;酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、酪酸ナトリウムなどのカルボン酸アルカリ金属塩;メタホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)などのホウ酸アルカリ金属塩;リン酸三ナトリウムなどのリン酸アルカリ金属塩;リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウムなどのアルカリ金属リン酸水素塩;ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシドなどのアルカリ金属C1-4アルコキシドなどが挙げられる。
【0039】
アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;炭酸マグネシウムなどの炭酸アルカリ土類金属塩;炭酸水素マグネシウムなどの炭酸水素アルカリ土類金属塩;酢酸カルシウムなどのカルボン酸アルカリ土類金属塩;カルシウムジt-ブトキシドなどのアルカリ土類金属C1-4アルコキシドなどが挙げられる。
【0040】
これらの金属化合物のうち、エステル化反応における触媒作用だけでなく、二塩基カルボン酸無水物のミクロフィブリル間への浸透性も促進できる点から、弱塩基性の塩基触媒(特に、弱塩基性の塩)が特に好ましい。金属化合物が塩基触媒であっても、強塩基性であると、エステル化剤のミクロフィブリル間への浸透の前にセルロースの表面での反応が進行し、解繊性が低下する虞がある。弱塩基性の金属化合物は、1モル/リットルの水溶液におけるpHが7~11、好ましくは7.5~10、さらに好ましくは7.8~9(特に8~8.5)程度であってもよい。
【0041】
このような弱塩基性の金属化合物としては、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩;酢酸リチウム、酢酸ナトリウムなどのカルボン酸アルカリ金属塩;四ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)などのアルカリ金属ホウ酸塩;リン酸三ナトリウムなどのアルカリ金属リン酸塩;リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウムなどのアルカリ金属リン酸水素塩;炭酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素マグネシウムなどのアルカリ土類金属炭酸水素塩;酢酸カルシウムなどのアルカリ土類金属カルボン酸塩などが挙げられる。これらの金属化合物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩、酢酸リチウムなどのアルカリ金属C1-4アルカン-モノカルボン酸塩が好ましく、均一なナノサイズのセルロースナノファイバーを製造できる点から、アルカリ金属炭酸水素塩が特に好ましい。
【0042】
金属化合物(特に、アルカリ金属化合物)は、触媒中50質量%以上であってもよく、例えば80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%(金属化合物単独)である。金属化合物の割合が少なすぎると、解繊効率が低下する虞がある。
【0043】
触媒は、前記金属化合物に加えて、他の触媒(金属を含まない触媒)をさらに含んでいてもよい。他の触媒には、塩基触媒、酸触媒(プロトン酸、ルイス酸など)が含まれる。
【0044】
塩基触媒としては、例えば、アンモニア、第三級アミン類(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのトリC1-4アルキルアミンなど)、複素環式アミン類(4-ジメチルアミノピリジン、モルホリン、ピペリジンなど)、第4級アンモニウム塩(例えば、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウムなどのテトラC1-4アルキルアンモニウムハライド;塩化ベンジルトリメチルアンモニウムなどのベンジルトリC1-4アルキルアンモニウムハライドなど)などが挙げられる。
【0045】
酸触媒としては、例えば、無機酸[例えば、硫酸、塩化水素(または塩酸)、硝酸、リン酸など]、有機酸[例えば、スルホン酸(メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などのアレーンスルホン酸)など]が挙げられる。
【0046】
他の触媒の割合は、前記金属化合物100質量部に対して50質量部以下(例えば0.1~50質量部)であってもよく、好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。他の触媒の割合が多すぎると、解繊効率や透明性が低下する虞がある。
【0047】
触媒(特に、金属化合物)の割合は、原料となるセルロース100質量部に対して反応性解繊液全体に対して10~1000質量部であればよく、例えば30~500質量部、好ましくは50~400質量部、さらに好ましくは80~300質量部、より好ましくは100~250質量部、最も好ましくは150~200質量部である。触媒(特に、金属化合物)の割合は、反応性解繊液全体に対して0.5~50質量%であればよく、例えば1~30質量%、好ましくは2~20質量%、さらに好ましくは2.5~15質量%、より好ましくは3~10質量%、最も好ましくは5~8質量%である。触媒の割合が少なすぎると、セルロースの修飾率が低下し、セルロースを解繊する作用も低下する虞がある。一方、触媒の割合が多すぎると、修飾率が高すぎるためセルロースが分解する虞がある上に、セルロースへの反応性解繊液の浸透性が低下し、セルロースを解繊する作用も低下する虞がある。
【0048】
触媒の割合は、二塩基カルボン酸無水物100質量部に対して30質量部以上であればよく、例えば50~1000質量部程度の範囲から選択でき、例えば50~500質量部、好ましくは80~400質量部、さらに好ましくは100~300質量部、最も好ましくは150~200質量部である。触媒の割合が少なすぎると、セルロースの修飾率が低下し、セルロースを解繊する作用も低下する虞がある。
【0049】
(溶媒)
溶媒としては、二塩基カルボン酸無水物の反応性およびセルロースの解繊を損なわない溶媒であれば特に限定されないが、二塩基カルボン酸無水物のミクロフィブリル間への浸透性を促進でき、かつセルロースの水酸基に対する反応性を適度に調整できるため、ドナー数25以上の非プロトン性溶媒を含む溶媒が好ましい。このような非プロトン性溶媒のドナー数は、例えば25~35、好ましくは26~33、さらに好ましくは28~33、最も好ましくは29~31である。ドナー数が低すぎると、カルボン酸無水物のミクロフィブリル間への浸透性を向上させる効果が発現しない虞がある。なお、ドナー数については、文献「Netsu Sokutei 28(3)135-143」を参照できる。
【0050】
前記非プロトン性溶媒としては、例えば、アルキルスルホキシド類、アルキルアミド類、ピロリドン類などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0051】
アルキルスルホキシド類としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのジC1-4アルキルスルホキシドなどが挙げられる。
【0052】
アルキルアミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミドなどのN,N-ジC1-4アルキルホルムアミド;N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミドなどのN,N-ジC1-4アルキルアセトアミドなどが挙げられる。
【0053】
ピロリドン類としては、例えば、2-ピロリドン、3-ピロリドンなどのピロリドン;N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのN-C1-4アルキル-ピロリドンなどが挙げられる。
【0054】
これらの非プロトン性溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの非プロトン性溶媒(括弧内の数字はドナー数)のうち、DMSO(29.8)、DMF(26.6)、DMAc(27.8)、NMP(27.3)などが汎用される。
【0055】
これらのうち、非プロトン性溶媒のうち、二塩基カルボン酸無水物のミクロフィブリル間への浸透性を高度に促進できる点から、アルキルスルホキシド類および/またはアルキルアセトアミド類(特に、DMSOなどのジC1-2アルキルスルホキシド)が好ましく、セルロースの解繊効果を向上できる点から、DMSOが特に好ましく、変色を抑制できる点からDMAcが特に好ましい。特に、化学解繊性に優れる点から、アルキルスルホキシド類が好ましく、DMSOなどのジC1-2アルキルスルホキシドが特に好ましい。
【0056】
溶媒は、他の溶媒として、ドナー数25未満の慣用の溶媒、例えば、メタノール、アセトニトリル、ジオキサン、アセトン、ジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどを含んでいてもよいが、ドナー数25以上の非プロトン性溶媒を主溶媒として含むのが好ましい。ドナー数25以上の非プロトン性溶媒の割合は、溶媒全体に対して50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%(ドナー数25以上の非プロトン性溶媒単独)であってもよい。ドナー数25未満の溶媒が多すぎると、セルロースミクロフィブリル間への反応性解繊液の浸透性が低下するため、セルロースの解繊率が低下する虞がある。
【0057】
溶媒の割合は、セルロース1質量部に対して1質量部以上であってもよく、例えば1~1000質量部、好ましくは5~500質量部、さらに好ましくは10~100質量部、最も好ましくは20~50質量部である。触媒(特に、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩)と、溶媒(特に、アルキルスルホキシド類および/またはアルキルアミド類などの非プロトン性溶媒)との質量比は、触媒/溶媒=100/0~0.1/99.9程度の範囲から選択でき、修飾反応速度およびミクロフィブリル間への反応性解繊液の浸透速度を向上できる点から、例えば50/50~0.5/99.5、好ましくは20/80~2/98、さらに好ましくは15/85~2.5/97.5、より好ましくは10/90~3/97、最も好ましくは8/90~4/96である。溶媒の割合が多すぎると、セルロースの修飾率が低下し、セルロースを解繊する作用も低下する虞がある。
【0058】
(他のエステル化剤)
修飾解繊工程では、本発明の効果を損なわない範囲で、二塩基カルボン酸無水物に加えて、他のエステル化剤を用いてもよい。他のエステル化剤としては、二塩基カルボン酸(例えば、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、イタコン酸などの脂肪族ジカルボン酸;1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸などの脂環族ジカルボン酸;フタル酸、ナフタル酸などの芳香族ジカルボン酸など)、一塩基カルボン酸またはその無水物[例えば、(無水)酢酸、(無水)プロピオン酸、(無水)酪酸、(無水)イソ酪酸、(無水)吉草酸、エタン酸プロピオン酸無水物、(無水)(メタ)アクリル酸、(無水)クロトン酸、(無水)オレイン酸などの(無水)脂肪族モノカルボン酸;(無水)シクロヘキサンカルボン酸、(無水)テトラヒドロ安息香酸などの(無水)脂環族カルボン酸;(無水)安息香酸、(無水)4-メチル安息香酸などの(無水)芳香族モノカルボン酸など]、多塩基カルボン酸類[例えば、トリメリット酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの(無水)ポリカルボン酸など]などが挙げられる。これらのエステル化剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0059】
他のエステル化剤の割合は、二塩基カルボン酸無水物100質量部に対して50質量部以下であり、例えば0~30質量部、好ましくは0.01~10質量部、さらに好ましくは0.1~5質量部である。他のエステル化剤の割合が多すぎると、二塩基カルボン酸無水物による修飾率が低下したり、解繊性が低下する虞がある。
【0060】
(反応条件)
修飾解繊工程では、金属化合物を含む触媒と二塩基カルボン酸無水物とを含む反応性解繊液をセルロースに浸透させて、セルロースをエステル化反応させて、セルロースのミクロフィブリルの表面にある水酸基をエステル化して修飾し、かつセルロースに導入されたカルボキシル基が金属化合物の金属イオンで金属塩を形成するとともに、セルロースを解繊できればよく、このような化学解繊方法は特に限定されないが、通常、触媒および二塩基カルボン酸無水物(および必要に応じて溶媒)を含む反応性解繊液を調製し、調製した反応性解繊液にセルロースを添加して混合する方法を利用できる。
【0061】
反応性解繊液の調製方法は、予め前記触媒と二塩基カルボン酸無水物と(必要に応じて溶媒と)を攪拌などによって混合し、二塩基カルボン酸無水物を前記触媒(および溶媒)中に均一に溶解させてもよい。
【0062】
得られた反応性解繊液は、セルロースに対する高い浸透性を有している。そのため、セルロースを反応性解繊液に添加して混合することにより、二塩基カルボン酸無水物および触媒は、ミクロフィブリル間に浸入して、ミクロフィブリルの表面に存在する水酸基を修飾することにより、セルロースの修飾と解繊とを同時に行うことができる。
【0063】
詳しくは、化学解繊方法は、反応性解繊液にセルロースを混合して2時間以上放置してエステル化する方法であってもよく、混合後、さらに溶液中でセルロースが均一な状態を維持できる程度の攪拌や混練(物理的にセルロースを解繊または破砕しない程度の攪拌や混練)を行ってもよい。すなわち、本発明の方法では、セルロースを修飾したカルボキシル基が金属塩を形成することにより、反応性解繊液の浸透性が劇的に改善されているため、反応は、反応性解繊液にセルロースを混合して放置するだけでも進行するが、浸透または均一性を促進するために、セルロースを粉砕または解繊させることなく攪拌可能な攪拌手段(低濃度の反応性解繊液における手段)や混練手段(高濃度の反応性解繊液における手段)を用いて攪拌や混練を行ってもよい。
【0064】
前記攪拌手段は、物理的にセルロースを粉砕または解繊させる強力な攪拌ではなく、通常、化学反応で汎用されているマグネティックスターラまたは攪拌翼(例えば10~2000rpm、好ましくは50~1500rpm、さらに好ましくは50~1000rpm、特に50~500rpmの回転速度による攪拌)による攪拌であればよい。また、攪拌は、連続的に攪拌してもよく、断続的に攪拌してもよい。
【0065】
一方、前記混練手段も、物理的にセルロースを粉砕または解繊させる強力な混練ではなく、慣用の混練手段(通常、常温での混練手段)により、例えば10~2000rpm、好ましくは20~1500rpm、さらに好ましくは30~1000rpm、特に50~500rpm程度の回転速度で混練してもよい。慣用の混練方法としては、例えば、ミキシングローラ、ニーダ、バンバリーミキサー、押出機(一軸または二軸押出機など)などを用いた方法などが挙げられる。混練手段を利用すると、セルロースの化学解繊とその後の浸透または均一性の促進工程とを工業的に連続に行える点で有利である。
【0066】
本発明では、化学解繊における反応温度は、加熱する必要はなく、室温で反応させればよいが、室温が溶媒の融点未満である場合は溶媒の融点以上に加熱するのが好ましい。このような反応温度で、2時間以上反応させることにより、剪断力の働きによる機械的解繊手段を用いることなく、セルロースを化学的に解繊できる。そのため、本発明では、余分なエネルギーを使用することなくセルロースを解繊できる。なお、反応を促進するために、加熱してもよく、加熱温度は、例えば90℃以下(例えば40~90℃程度)、好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下程度である。
【0067】
反応時間は、二塩基カルボン酸無水物および触媒の種類や、前記溶媒のドナー数によって選択でき、例えば3~72時間、好ましくは5~48時間、さらに好ましくは10~36時間(特に18~30時間)程度である。反応時間が短すぎると、反応性解繊液がミクロフィブリル間まで浸透するのが不十分となり、反応が不十分となり、解繊度合いも低下する虞がある。一方、反応時間は長すぎると修飾セルロース微細繊維の収率が低下する虞がある。
【0068】
反応は、不活性ガス(窒素、アルゴンなどの希ガスなど)雰囲気下または減圧下で行ってもよいが、通常、密閉反応容器内で行う場合が多い。このような反応条件であれば、空気中の水分が系内に吸入されないため、好ましい。
【0069】
化学解繊して得られた修飾セルロース微細繊維は、反応終了後、水などの失活剤を添加して、二塩基カルボン酸無水物(エステル化剤)を失活させた後、慣用の方法(例えば、遠心分離、濾過、濃縮、抽出など)により分離精製してもよい。例えば、失活させたエステル化剤、触媒および溶媒を溶解可能な洗浄溶媒を反応混合物に添加し、前記遠心分離、濾過、抽出などの分離法(慣用の方法)で分離精製(洗浄)してもよい。なお、分離操作は複数回(例えば、2~5回程度)行うことができる。前記洗浄溶媒としては、例えば、水、アセトンなどのケトン類、エタノール、イソプロパノールなどのC1-4アルカノールなどが挙げられる。
【0070】
[攪拌工程]
得られた修飾セルロース微細繊維は、化学解繊によりナノサイズにまで解繊されているが、一部に繊維同士が緩く凝集したミクロンサイズの繊維が残存している。そのため、攪拌工程で分散媒と攪拌することにより、より均一な繊維径を有するナノファイバーを調製できる。
【0071】
攪拌方法としては、攪拌できれば特に限定されず、慣用の攪拌方法を利用でき、例えば、攪拌翼を有する攪拌機(例えば、ミキサー、乳化装置など)、摩砕機(例えば、マスコロイダーなど)、高圧分散装置(例えば、スターバーストなど)を用いた方法などを利用できる。
【0072】
なかでも、攪拌方法としては、均一なナノサイズで、繊維形状の損傷が少なくてアスペクト比が大きい修飾セルロースナノファイバーが得られる点から、修飾セルロース微細繊維を液-液剪断する攪拌方法が好ましい。液-液剪断とは、流体と接触壁面との外部剪断力による剪断とは異なり、乱流域を発生させ、速度の不規則な変動のために生じるレイノルズ応力と称される内部剪断力(流体自身の分子間引力)を利用した剪断である。本発明では、このような液-液剪断する攪拌機として、スクリーン(スリット状の複数の孔部を有する円錐体)とローター(スクリーン内部に収容された攪拌翼)とを組み合わせた乳化装置を利用できる。この乳化装置では、ロータによって攪拌された修飾セルロース微細繊維および分散媒がスクリーンを通過することにより、修飾セルロース微細繊維に対してレイノルズ応力を付与できる。このような乳化装置としては、市販の乳化装置(例えば、エム・テクニック(株)製「クレアミックス」)を利用できる。
【0073】
攪拌の回転速度は、2000rpm以上であればよく、例えば2000~100000rpm、好ましくは3000~50000rpm、さらに好ましくは5000~30000rpm、最も好ましくは10000~25000rpmである。回転速度が小さすぎると、繊維径の均一性が低下する虞がある。
【0074】
攪拌時間は、回転速度に応じて適宜選択でき、例えば30秒以上であってもよく、例えば30秒~1時間、好ましくは1~30分、さらに好ましくは2~10分である。
【0075】
本発明では、メディアミル、コロイドミル、ロールミル、回転式、高圧式ホモジナイザーなどの外部剪断力を利用することなく、均一なナノファイバーが得られる。そのため、外部剪断力を利用しない攪拌方法が好ましい。
【0076】
分散媒は、水であってもよく、有機溶媒であってもよい。有機溶媒としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのC1-4アルカノールなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、ケトン類(アセトンなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのC2-4アルカンジオール)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ)、カルビトール類(エチルカルビトールなど)、カーボネート類(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネートなど)などが挙げられる。これらの分散媒は、単独でまたは二種以上組み合わせてもよい。なお、分散媒は、攪拌工程で新たに添加してもよく、修飾解繊工程の洗浄などで利用した溶媒を利用してもよい。
【0077】
分散媒の溶解度パラメーター(SP値)は高い方が好ましく、具体的な溶解度パラメーターは10以上であってもよく、例えば10~30、好ましくは12~28、さらに好ましくは15~26、最も好ましくは20~25である。溶解度パラメーターが低すぎると、繊維径の均一性が低下する虞がある。なお、本明細書および特許請求の範囲におけるSP値は、HildebrandのSP値である。
【0078】
これらの分散媒のうち、繊維径の均一性を向上できる点から、水、溶解度パラメーター10以上の有機溶媒(特にC1-4アルカノール)が好ましい。さらに、分散媒は、水を含むのが特に好ましく、水単独、水とC1-4アルカノール(エタノールなど)との混合溶媒であってもよい。
【0079】
分散媒の割合は、修飾セルロース微細繊維1質量部に対して、例えば10~1000質量部、好ましくは20~500質量部、さらに好ましくは30~300質量部、最も好ましくは50~200質量部である。分散媒の割合が少なすぎると、高速で攪拌するのが困難となる上に、繊維に対するダメージが大きくなり、繊維径の均一性が低下する虞がある。一方、分散媒の割合が多すぎると、効率が低下し、修飾セルロースナノファイバーの回収が難しくなる虞がある。
【0080】
[修飾セルロースナノファイバー]
本発明の修飾セルロースナノファイバーは、前記攪拌工程を経て得られ、二塩基カルボン酸無水物で修飾され、かつ金属塩の形態を含むとともに、極細のナノサイズであり、かつ均一な繊維径に解繊されている。修飾セルロースナノファイバーの平均繊維径は200nm以下(好ましくは150nm以下、さらに好ましくは120nm以下、最も好ましくは100nm以下)であってもよく、例えば1~200nm、好ましくは10~150nm、さらに好ましくは30~120nm、最も好ましくは50~100nmである。繊維径が大きすぎると、膜や溶液の状態における透明性、チキソトロピー性、成膜性などが低下したり、補強材としての効果が低下する虞がある。一方、繊維径が小さすぎると、微細繊維の取り扱い性や耐熱性も低下する虞がある。
【0081】
本発明の修飾セルロースナノファイバーは、二塩基カルボン酸無水物で修飾されたカルボキシル基を有しているが、このカルボキシル基の少なくとも一部は金属塩の形態である。カルボキシル基全体に対して、金属塩の形態であるカルボキシル基の割合は、全カルボキシル基中50モル%以上であってもよく、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上であり、最も好ましくは100モル%である。金属塩の割合が少なすぎると、解繊効率が低下し、均一なナノファイバーを製造するのが困難となる虞がある。
【0082】
本発明の修飾セルロースナノファイバーは、均一な繊維径を有しており、繊維径300nm以上の繊維数が全繊維数に対して10%以下(特に5%以下)であってもよく、300nm以上の繊維を実質的に含んでいない(0%である)のが好ましい。そのため、本発明の修飾セルロースナノファイバーの最大繊維径は500nm以下(特に300nm以下)であってもよく、好ましくは200nm以下、さらに好ましくは100nm以下であってもよい。繊維径の均一性が低すぎると、透明性、チキソトロピー性、成膜性などが低下したり、緻密または均一な膜を形成できない虞がある。
【0083】
本発明の修飾セルロースナノファイバーは、化学解繊されてナノサイズに解繊された後、強力な外部外部剪断力を付与することなく攪拌されているため、従来の強力な機械解繊法で得られたナノファイバーよりも長い繊維長を有しており、平均繊維長は1μm以上であってもよく、例えば1~1000μm程度の範囲から選択でき、例えば1~1000μm、好ましくは3~500μm、さらに好ましくは5~200μmである。繊維長が短すぎると、繊維長が短すぎると、補強効果や成膜機能が低下する虞がある。また、長すぎると、繊維が絡み易くなるため、溶媒や樹脂への分散性が低下する虞がある。
【0084】
修飾セルロースナノファイバーの平均繊維径に対する平均繊維長の割合(アスペクト比)は用途に応じて対応でき、例えば10以上であってもよく、例えば30~10000、好ましくは50~8000、さらに好ましくは100~5000である。
【0085】
なお、本明細書および特許請求の範囲では、修飾セルロースナノファイバーの平均繊維径は、SEM写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出し、平均繊維長は、走査型電子顕微鏡写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出し、アスペクト比は、それらの結果から算出してもよい。
【0086】
また、修飾セルロースナノファイバーは各繊維または全ての繊維がむら無くエステル化修飾されているため、有機溶媒や樹脂などの有機媒体によく分散できる。修飾セルロースナノファイバーの特性(例えば、低線膨張特性、強度、耐熱性など)を樹脂に有効に発現させるためには、結晶性の高い修飾セルロースナノファイバーが好ましい。本発明の修飾セルロース微細繊維は、化学解繊され、原料セルロースの結晶性を維持できるため、高い結晶化度を有している。修飾セルロースナノファイバーの結晶化度は50%以上(特に65%以上)であってもよく、例えば50~98%、好ましくは65~95%、さらに好ましくは70~92%、最も好ましくは75~90%である。結晶化度が小さすぎると、線膨張特性や強度などの特性を低下させる虞がある。
【0087】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、結晶化度は、参考文献:Textile Res. J. 29:786-794(1959)に基づき、XRD分析法(Segal法)により測定し、下記式により算出した。
【0088】
結晶化度(%)=[(I200-IAM)/I200]×100%
[式中、I200はX線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、IAMはアモルファス部(002面と110面間の最低部、回折角2θ=18.5°)の回折強度である]。
【0089】
修飾セルロースナノファイバーの平均置換度は、ナノファイバーの直径とエステル化剤の種類によるが、2.0以下(例えば0.05~2.0)であり、例えば0.1~1.5、好ましくは0.15~1.0、さらに好ましくは0.2~0.7、最も好ましくは0.3~0.5である。平均置換度が大きすぎると、修飾セルロースナノファイバーの結晶化度または収率が低下する虞がある。平均置換度(DS:degree of substitution)は、セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数であり、Biomacromolecules 2007, 8, 1973-1978やWO2012/124652A1又はWO2014/142166A1などを参照できる。なお、本明細書および特許請求の範囲において、平均置換度は、後述の実施例に記載の方法で測定でき、滴定法で測定するのが好ましい。
【実施例】
【0090】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、用いた原料の詳細は以下の通りであり、得られた修飾セルロースナノファイバーの特性および評価は以下のようにして測定した。
【0091】
(セルロースパルプ)
原料となるセルロースパルプとしては、ユーカリ由来のパルプ(L-BKP)をサンプル瓶に入れるサイズまで切断したパルプを用いた。また、このパルプのSEM写真を
図1に示す。パルプの平均繊維径は約10μmであった。
【0092】
(他の原料、触媒および溶媒)
他の原料、触媒および溶媒としては、ナカライテスク(株)製の試薬を用いた。
【0093】
(修飾セルロースナノファイバーの形状観察)
修飾セルロースナノファイバーの形状は、走査型電子顕微鏡SEM(日本電子(株)製「JSM-6510」、測定条件:20mA、60秒)を用いて観察した。なお、平均繊維径および平均繊維長は、SEM写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出した。
【0094】
(修飾セルロースナノファイバーの平均置換度)
修飾セルロースナノファイバーの修飾率は平均置換度で示し、以下に示す滴定法(電気伝導度滴定法)によって測定した。なお、平均置換度とは、セルロースの繰り返し単位1個当たりの修飾された水酸基の数(置換基の数)の平均値である。
【0095】
修飾セルロースナノファイバー0.5質量%スラリーを60ml調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定した。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム水溶液量(a)から、化学修飾により導入された置換基のモル数Qは、下記式で求められる。
【0096】
Q(mol)=a[ml]×0.05/1000
【0097】
この置換基のモル数Qと、平均置換度Dとの関係は、以下の式で算出される[セルロース=(グルコースC6O5H10)n=(162.14)n,繰り返し単位1個当たりの水酸基数=3,OHの分子量=17]。
【0098】
D=162.14×Q/[サンプル量-(T-17)×Q]
(式中、Tはエステル化置換基の前駆体である二塩基カルボン酸無水物の分子量である)。
【0099】
さらに一部のサンプルをフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)で分析したところ、何れのサンプルも1730cm-1でのエステル結合の吸収バンドが検出された。なお、測定は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「Nicolet iS5」を用い、ATR法(全反射法)で分析した。
【0100】
実施例1
ジメチルスルホキシド90gを仕込んだビーカーに無水コハク酸3.3gおよび炭酸水素ナトリウム5.6gを加えて撹拌溶解させた。次いで、セルロースパルプ3.0gを添加した後、24時間23℃に調整された室温でスターラー攪拌(回転数400rpm)することにより、コハク酸で修飾されたセルロース微細繊維を含む分散液を得た。この分散液を遠心分離で30分処理し、上澄みの溶液部分を除去したのち、蒸留水400mLを加えて遠心分離法で3回洗浄することにより、残留しているジメチルスルホキシド、コハク酸、炭酸水素ナトリウムを除去した。洗浄後の解繊液に蒸留水を加えて全量700mLになるように調整したのち、乳化装置(エム・テクニック(株)製「クレアミックス CLM-0.8S」)で15000rpm、3分間の条件で解繊処理を行った。得られた分散液の外観は透明であった。SEM画像を
図2に示す。
図2から明らかなように、得られた修飾セルロースナノファイバーにおいて、300nmを超える太い繊維はほとんど観察されず、良好に解繊されていた。得られた修飾セルロースナノファイバーの平均置換度は0.39であり、平均繊維径は80nm、平均繊維長は5μm以上であった。
【0101】
実施例2
炭酸水素ナトリウムの使用量を2.8gにした以外は実施例1と同様の方法で解繊操作を実施した。得られた分散液の外観は透明であった。SEM画像を
図3に示す。得られた修飾セルロースナノファイバーの平均置換度は0.47であり、SEM画像から得られた平均繊維径100nm、平均繊維長5μm以上であった。実施例1と同様の理由で実際の平均繊維径はSEM画像より得られる平均繊維径よりも細いものと考えられる。
【0102】
実施例3
無水コハク酸の使用量を2.8gにした以外は実施例1と同様の方法で解繊操作を実施した。得られた分散液の外観は透明であった。SEM画像を
図4に示す。得られた修飾セルロースナノファイバーの平均置換度は0.29であり、SEM画像から得られた平均繊維径90nm、平均繊維長5μm以上であった。実施例1と同様の理由で実際の平均繊維径はSEM画像より得られる平均繊維径よりも細いものと考えられる。
【0103】
実施例4
無水コハク酸を無水マレイン酸3.3gにした以外は実施例1と同様の方法で解繊操作を実施した。得られた分散液の外観はほぼ透明であった。無水コハク酸と比較するとやや太い繊維も残存していたが、多くは繊維径100nm以下に良好に解繊されていた。SEM画像を
図5に示す。得られた修飾セルロースナノファイバーの平均置換度は0.18であり、SEM画像から得られた平均繊維径90nm、平均繊維長5μm以上であった。実施例1と同様の理由で実際の平均繊維径はSEM画像より得られる平均繊維径よりも細いものと考えられる。
【0104】
実施例5
炭酸水素ナトリウムを炭酸カリウム5.6gにした以外は実施例1と同様の方法で解繊操作を実施した。得られた分散液の外観はほぼ透明であった。炭酸水素ナトリウムと比較するとやや太い繊維も残存していたが、多くは繊維径100nm以下に良好に解繊されていた。SEM画像を
図6に示す。得られた修飾セルロースナノファイバーの平均置換度は0.25であり、SEM画像から得られた平均繊維径80nm、平均繊維長5μm以上であった。実施例1と同様の理由で実際の平均繊維径はSEM画像より得られる平均繊維径よりも細いものと考えられる。
【0105】
実施例6
炭酸水素ナトリウムを酢酸リチウム5.6gにした以外は実施例1と同様の方法で解繊操作を実施した。得られた分散液の外観はほぼ透明であった。炭酸水素ナトリウムと比較するとやや太い繊維も残存していたが、多くは繊維径100nm以下に良好に解繊されていた。SEM画像を
図7に示す。得られた修飾セルロースナノファイバーの平均置換度は0.41であり、SEM画像から得られた平均繊維径90nm、平均繊維長5μm以上であった。実施例1と同様の理由で実際の平均繊維径はSEM画像より得られる平均繊維径よりも細いものと考えられる。
【0106】
実施例7
ジメチルスルホキシドをジメチルホルムアミド90gにした以外は実施例1と同様の方法で解繊操作を実施した。得られた分散液の外観はほぼ透明であった。ジメチルスルホキシドと比較するとやや太い繊維も残存していたが、多くは繊維径100nm以下に良好に解繊されていた。SEM画像を
図8に示す。得られた修飾セルロースナノファイバーの平均置換度は0.20であり、SEM画像から得られた平均繊維径70nm、平均繊維長5μm以上であった。実施例1と同様の理由で実際の平均繊維径はSEM画像より得られる平均繊維径よりも細いものと考えられる。
【0107】
比較例1
無水コハク酸を加えなかったこと以外は実施例1と同様の方法で解繊操作を実施した。得られた液は一部繊維表面がナノファイバー化している箇所も見られたが、ほぼ数μmを超える原料セルロースのままであった。SEM画像を
図9に示す。
【0108】
比較例2
炭酸水素ナトリウムを加えなかったこと以外は実施例1と同様の方法で解繊操作を実施した。得られた液は一部繊維表面がナノファイバー化している箇所も見られたが、ほぼ数μmを超える原料セルロースのままであった。SEM画像を
図10に示す。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の修飾セルロースナノファイバーは、各種複合材料、コーティング剤に利用でき、シートやフィルムに成形して利用することもできる。