(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】眼科用レンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/06 20060101AFI20230919BHJP
G02B 13/00 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
G02C7/06
G02B13/00
(21)【出願番号】P 2019174954
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】松岡 祥平
(72)【発明者】
【氏名】井口 由紀
(72)【発明者】
【氏名】向山 浩行
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-99912(JP,A)
【文献】特表2001-509276(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0088793(US,A1)
【文献】国際公開第2018/152596(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0131567(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
度数の正負が異なる2つのレンズ要素1、2を備えた眼科用レンズであって、
度数の絶対値が小さい方のレンズ要素1のアッベ数(e線基準)をν
e1、もう一方のレンズ要素2のアッベ数(e線基準)をν
e2としたとき、以下の式1を満たし、
ν
e1<ν
e2 ・・・(式1)
度数の絶対値が小さい方のレンズ要素1におけるg線とF’線との間の部分分散比P
’
gF’1、もう一方のレンズ要素2におけるg線とF’線との間の部分分散比P
’
gF’2としたとき、以下の式2を満たし、
P
’
gF’1>P
’
gF’2 ・・・(式2)
レンズ要素1の度数の絶対値をD1、もう一方のレンズ要素2の度数の絶対値をD2としたとき、以下の式3および式4を満たす、眼科用レンズ。
(D1/ν
e1)<(D2/ν
e2) ・・・(式3)
{D1×(1+3×P
’
gF’1)/ν
e1}>{D2×(1+3×P
’
gF’2)/ν
e2} ・・・(式4)
【請求項2】
レンズ要素1の度数は正であり、レンズ要素2の度数は負である、請求項
1に記載の眼科用レンズ。
【請求項3】
レンズ要素1の度数は負であり、レンズ要素2の度数は正である、請求項
1に記載の眼科用レンズ。
【請求項4】
眼の屈折異常を矯正する処方に基づく第1の屈折力を有する第1の屈折領域と、
第1の屈折力とは異なる屈折力を有し、眼の屈折異常の進行を抑制するように眼の網膜以外の位置に焦点を結ばせる機能を有する複数の第2の屈折領域とを有し、
第2の屈折領域は、眼科用レンズの中心部の近傍にそれぞれ独立した領域として形成されたものであり、
第1の屈折領域は、第2の屈折領域が形成された領域以外に形成されたものである、請求項1~
3のいずれかに記載の眼科用レンズ。
【請求項5】
眼科用レンズは眼鏡レンズである、請求項1~
4のいずれかに記載の眼科用レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
近視人口増加にともない強度近視の人口も増えている。強度近視は失明につながる可能性もある事はよく知られている。そのため、強度近視の増加は、重大な社会問題であり、近視の進行を抑制する治療法が広く求められている。
【0003】
強度近視に至らしめる近視進行を抑制する方法がいくつか提案されている。光学的な近視進行抑制方法としては、眼鏡またはコンタクトレンズ(ソフトコンタクトレンズ、オルソケラトロジー)等の眼科用レンズを使用する方法がある。
【0004】
特許文献1には、後述する単色収差を付加して近視等の屈折異常の進行を抑制する効果(以降、近視進行抑制効果とも称する。)を発揮する眼鏡レンズが記載されている。この眼鏡レンズのことを近視進行抑制レンズとも称する。具体的には、眼鏡レンズの物体側の面である凸面に対し、例えば、直径1mm程度の球形状の微小凸部を形成している。
【0005】
特許文献1に記載の眼鏡レンズにおける微小凸部を光線が通過することにより、眼鏡レンズに入射し且つ瞳孔を通る光線の束である光束(以降、「光束」については同様の意味とする。)を、網膜上の所定の位置よりも光軸方向にてオーバーフォーカス側の複数の位置にて集光させる。これにより、近視の進行が抑制される。
【0006】
本明細書において、オーバーフォーカス側とは、網膜を基準として光軸方向において視認すべき物体に近づく方向のことを指し、アンダーフォーカス側とは、オーバーフォーカス側の逆方向であり、網膜を基準として光軸方向において視認すべき物体から遠ざかる方向のことを指す。光学度数が正に過剰な場合はオーバーフォーカス側に、不足な場合はアンダーフォーカス側に集光する。
【0007】
その一方、特許文献2には、赤色の波長の光が、青色および緑色の波長の光よりも後方で集光する縦色収差(longitudinal chromatic aberration)について記載されている(特許文献2の[0041])。そして、動物実験において、赤色の波長の光が、眼軸を長くし、近視の進行をもたらすことが記載されている(特許文献2の[0008][0049])。逆に、青色の波長の光は、近視の進行を抑制する効果をもたらすことが記載されている(特許文献2の[0054])。
【0008】
そして、特許文献2には、近視進行を抑制すべく、青色および緑色の波長の光を利用することが記載されている(特許文献2の[0035])。具体的には、眼鏡レンズに光学フィルターを設け、460~490nmの波長の範囲と約490~550nmの波長の範囲に光量のピークを形成し、且つ、約550~700nmの波長の範囲の光量を1%以下とすることが記載されている(特許文献2の[Claim1][Claim5][Claim6][0032])。
【0009】
特許文献3には、眼に負および/または反転させた縦色収差をもたらすよう縦色収差を制御する眼科用レンズシステムが開示されている(特許文献3の[0002])。この眼科用レンズシステムは、第1レンズと第2レンズとを備える(特許文献3の[0008])。
【0010】
特許文献3には、正またはゼロの度数の眼科レンズシステムを光が通過したとき、長波長側の光が眼科レンズシステムに近い位置で集光するような第1レンズと第2レンズとを選択することが記載されている(特許文献3の[0008])。
【0011】
特許文献3には、負の度数の眼科レンズシステムを光が通過したとき、眼がもたらす縦色収差よりも絶対値を大きくすることにより、短波長側の光が眼科レンズシステムに近い位置で集光するような第1レンズと第2レンズとを選択することが記載されている(特許文献3の[0008])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国出願公開第2017/0131567号
【文献】WO2012/044256号パンフレット
【文献】WO2018/152596号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献2に記載の手法は、波長のフィルタリングに関する。その一方、眼鏡レンズ自体がもたらす縦色収差についての検討はなされていない。縦色収差は処方度数に依存する。特許文献2に記載の手法だと、いくら波長のフィルタリングを行ったとしても、眼鏡レンズ自体の縦色収差が適切に生じなければ、近視進行抑制効果を発揮できないおそれがある。
【0014】
特許文献3に記載の手法は、眼科レンズシステムを構成する第1レンズと第2レンズとにより、各波長の光の集光位置を変化させる縦色収差を生じさせるという内容である。その一方、特許文献3に記載の手法だと、眼科レンズシステムを通過し且つ瞳孔を通る可視光の光線の束のうち短波長側の波長の光束の集光位置がオーバーフォーカス側に移動する。同時に、長波長側の波長の光束の集光位置がアンダーフォーカス側に移動する。
【0015】
つまり、特許文献3に記載の手法だと、近視進行抑制効果を増大させるのと同時に、近視進行抑制効果を阻害する要因も増大させ得る(例えば特許文献3のFIGURE63)。
【0016】
本発明の一実施例は、縦色収差により、近視または遠視(以下、本明細書ではまとめて屈折異常という)の進行の抑制効果を発揮させつつ、該抑制効果を阻害する要因は低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、特許文献3に記載のような複数のレンズにより構成される眼科用レンズについて着目した。そして、同じく複数のレンズにより構成される顕微鏡等にて活用されているアポクロマート(Apochromat)に着目した。
【0018】
アポクロマートの前身であるアクロマート(Achromat)は、赤色波長の光であるC’線(波長644nm)と青色波長の光であるF’線(波長480nm)について軸上色収差を補正し、黄色波長の光であるd線(波長588nm)で球面収差とコマ収差を最小にするC-d-F補正を指す。この補正は「色消し」とも呼ばれ、一次関数的な色収差補正である。
【0019】
アクロマートは2種の波長の光に対してのみ色収差補正を行っているため、全体的には色収差が残存する。この残存色収差のことを二次スペクトルと呼ぶ。
【0020】
アポクロマートは、赤色波長、青色波長に加え、もう一色の波長の光の色収差も補正することを指す。そして、アポクロマートは、上記二次スペクトルを低減させることを指す。この補正は「超色消し」とも呼ばれ、二次関数的な色収差補正である。
【0021】
通常、顕微鏡等では、アポクロマートは色収差を除去することを旨とする。その一方、本発明者らは、本発明の一態様に係る眼科用レンズに対し、色収差を除去するのではなく逆に増大させるようにアポクロマートの技術を応用することを知見した。具体的には、上記複数のレンズ間で、g線とF’線との間に従来のアポクロマートとは異なる部分分散比の関係を規定するという手法を想到した。
【0022】
本発明の第1の態様は、
度数の正負が異なる2つのレンズ要素1、2を備えた眼科用レンズであって、
度数の絶対値が小さい方のレンズ要素1のアッベ数(e線基準)をνe1、もう一方のレンズ要素2のアッベ数(e線基準)をνe2としたとき、以下の式1を満たし、
νe1<νe2 ・・・(式1)
度数の絶対値が小さい方のレンズ要素1におけるg線とF’線との間の部分分散比P’
gF’1、もう一方のレンズ要素2におけるg線とF’線との間の部分分散比P’
gF’2としたとき、以下の式2を満たす、眼科用レンズである。
P’
gF’1>P’
gF’2 ・・・(式2)
【0023】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
レンズ要素1の度数の絶対値をD1、もう一方のレンズ要素2の度数の絶対値をD2としたとき、以下の式3を満たす。
(D1/νe1)<(D2/νe2) ・・・(式3)
【0024】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の態様であって、
レンズ要素1の度数の絶対値をD1、もう一方のレンズ要素2の度数の絶対値をD2としたとき、以下の式4を満たす。
{D1×(1+3×PgF’1)/νe1}>{D2×(1+3×PgF’2)/νe2} ・・・(式4)
【0025】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれかの態様に記載の態様であって、
レンズ要素1の度数は正であり、レンズ要素2の度数は負である。
【0026】
本発明の第5の態様は、第1~第3のいずれかの態様に記載の態様であって、
レンズ要素1の度数は負であり、レンズ要素2の度数は正である。
【0027】
本発明の第6の態様は、第1~第5のいずれかの態様に記載の態様であって、
眼の屈折異常を矯正する処方に基づく第1の屈折力を有する第1の屈折領域と、
第1の屈折力とは異なる屈折力を有し、眼の屈折異常の進行を抑制するように眼の網膜以外の位置に焦点を結ばせる機能を有する複数の第2の屈折領域とを有し、
第2の屈折領域は、眼科用レンズの中心部の近傍にそれぞれ独立した領域として形成されたものであり、
第1の屈折領域は、第2の屈折領域が形成された領域以外に形成されたものである。
【0028】
本発明の第7の態様は、第1~第6のいずれかの態様に記載の態様であって、
眼科用レンズは眼鏡レンズである。
【0029】
本発明の他の一態様は、以下のとおりである。
レンズ要素1の度数は正であり、レンズ要素2の度数は負であり、眼科用レンズの処方度数は負であり、眼科用レンズはマイナスレンズである。
【0030】
本発明の他の一態様は、以下のとおりである。
レンズ要素1の度数は負であり、レンズ要素2の度数は正であり、眼科用レンズの処方度数は正であり、眼科用レンズはプラスレンズである。
【0031】
本発明の他の一態様は、以下のとおりである。
「度数の正負が異なる2つのレンズ要素を備えた眼科用レンズであって、
可視光中の長波長側の波長の光に対しては、縦色収差をゼロ近傍とし、
可視光中の短波長側の波長の光に対しては、(二次スペクトルにより)縦色収差が増大され、処方度数よりも度数を増加させた、眼科用レンズ。」
ゼロ近傍とは、波長域80nmあたり度数差の絶対値が0.01D以下の状況を指す。これは、e線基準のとき、g線からC’線の波長域における度数差の絶対値が0.02D以下の状況を局所化したものである。
【0032】
本発明の他の一態様は、以下のとおりである。
眼科用レンズは眼内レンズ(いわゆるIOL)を除く。眼科用レンズは、眼球の外側にて装用するレンズともいう。
【発明の効果】
【0033】
本発明の一実施例によれば、縦色収差により、屈折異常の進行の抑制効果を発揮させつつ、該抑制効果を阻害する要因は低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1(a)は、比較例1に係るマイナスレンズの概略側断面図である。
図1(b)は、実施例1、2に係る近視進行抑制用のマイナスレンズの概略側断面図である。
【
図2】
図2は、変形例に係る、特許文献1に記載の第1の屈折領域および第2の屈折領域を備える眼鏡レンズの概略側断面図であり、吹き出しの中は拡大図である。
【
図3】
図3は、変形例に係る遠視進行抑制用のプラスレンズの概略側断面図である。
【
図4】
図4は、横軸を波長[nm]、縦軸を度数[D]としたときの、比較例1および実施例1、2における、各波長光による眼鏡レンズの度数の変化を示すプロットである。なお、好適例の臨界意義を示すプロットも図内に示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の一態様について述べる。以下における説明は例示であって、本発明は例示された態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」は所定の数値以上且つ所定の数値以下を示す。
【0036】
また、以下に述べるC’線、F’線等の波長はフラウンホーファー線波長であり、波長の値は小数点以下を四捨五入して記載しているが、正確な値を使用する場合はフラウンホーファー線波長を参照可能である。
【0037】
[本発明の一態様に係る眼科用レンズ]
本発明の一態様に係る眼科用レンズは屈折異常進行抑制レンズである。具体的な構成は以下の通りである。
「度数の正負が異なる2つのレンズ要素1、2を備えた眼科用レンズであって、
度数の絶対値が小さい方のレンズ要素1のアッベ数(e線基準)をνe1、もう一方のレンズ要素2のアッベ数(e線基準)をνe2としたとき、以下の式1を満たし、
νe1<νe2 ・・・(式1)
度数の絶対値が小さい方のレンズ要素1におけるg線とF’線との間の部分分散比P’
gF’1、もう一方のレンズ要素2におけるg線とF’線との間の部分分散比P’
gF’2としたとき、以下の式2を満たす、眼科用レンズ。
P’
gF’1>P’
gF’2 ・・・(式2)」
【0038】
「眼科用レンズ」としては、近視進行抑制レンズとしての機能を奏するものであれば態様に特に限定は無い。例えば、眼鏡レンズまたはコンタクトレンズ(すなわち眼球の外側にて装用するレンズ)が挙げられる。本明細書の眼科用レンズは眼内レンズ(いわゆるIOL)を含んでも構わない一方で、眼科用レンズから眼内レンズを除いても構わない。本発明の一態様においては、眼鏡レンズを例示する。
【0039】
眼鏡レンズは、物体側の面と眼球側の面とを有する。「物体側の面」は、眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に物体側に位置する表面であり、いわゆる外面である。「眼球側の面」は、その反対、すなわち眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に眼球側に位置する表面であり、いわゆる内面である。本発明の一態様において、物体側の面は凸面であり、眼球側の面は凹面である。つまり、本発明の一態様における眼鏡レンズは、メニスカスレンズである。
【0040】
「物体側の面の側」とは、例えば眼鏡レンズにおける物体側の面の最表面を含むし、眼鏡レンズの基となるレンズ基材における物体側の面も含むし、そのレンズ基材の上に設けられたハードコート層等における物体側の面も含む。「眼球側の面の側」についても同様である。
【0041】
レンズ要素1、2の「度数」とは、各レンズ要素を光が通過するときの屈折力を指す。レンズ要素1、2はあくまで眼鏡レンズの構成部分であることから、レンズ要素1、2の度数は、眼鏡レンズそのものの処方度数とは異なる。
【0042】
「可視光」とはその名の通り人間が視認可能な光であり、JIS Z 8120 光学用語に基づき、本明細書においては波長が360~830nmの範囲の光とする。
【0043】
「短波長側」とは、可視光の波長域のうち短波長側のことを指し、上記波長域の半値未満のことを指し、上記の波長域でいうと595nm未満である。短波長側のことを青色光側とも称する。
【0044】
「長波長側」とは、可視光の波長域のうち長波長側のことを指し、上記波長域の半値以上のことを指し、上記の波長域でいうと595nm以上である。長波長側のことを赤色光側とも称する。
【0045】
本発明の一態様に係る眼鏡レンズは、度数の正負が異なる2つのレンズ要素1、2を備える。また、レンズ要素1、2は、度数の絶対値が互いに異なる。特許文献3のFIGURE15や本発明の一実施例に係る本願
図1(b)に示すように、一方のレンズ要素の度数は正であり、もう一方のレンズ要素の度数は負である。そして、本発明の一態様に係る眼鏡レンズでは、レンズ要素1、2が接合して構成される。
【0046】
「レンズ要素」とは、その物体側の面と眼球側の面との組み合わせ、およびその屈折率により、正または負の度数を実現できるものであれば特に限定は無い。レンズ要素の材料についても特に限定は無く、レンズ基材として使用されている材料を使用しても構わない。また、上段落ではレンズ要素1、2が接合する例を挙げたが、本発明はそれに限定されない。例えば、中間膜を介してレンズ要素1、2が配置されても構わない。その際には、特開2013-160994号公報に記載の内容に従い、眼科用レンズを製造してもよい。
【0047】
なお、中間膜が極めて薄い場合、中間膜はレンズ要素1、2のほぼ界面形状となる。その場合、中間膜の物体側の面と眼球側の面とでほぼ同じとなり、正または負の度数は実現されない。数値で言うと、該中間膜がもたらす度数はゼロ度数、またはゼロ度数でないにしても度数の絶対値は最大でも0.12Dである。この場合、中間膜はレンズ要素には含まれない。
【0048】
本発明の一態様においてはレンズ要素1、2が接合された場合を例示するが、レンズ要素1、2の一方は層状であってもよい。例えばレンズ要素2がレンズ基材である場合、レンズ要素1はレンズ基材に対して積層された膜であってもよい。
【0049】
本発明の一態様に係る眼鏡レンズは、度数の絶対値が小さい方のレンズ要素1のアッベ数(e線基準)をνe1、もう一方のレンズ要素2のアッベ数(e線基準)をνe2としたとき、以下の式1を満たす。e線は波長546nmとする。
νe1<νe2 ・・・(式1)
【0050】
そして、度数の絶対値が小さい方のレンズ要素1におけるg線とF’線との間の部分分散比P’
gF’1、もう一方のレンズ要素2におけるg線(波長436nm)とF’線(波長480nm)との間の部分分散比P’
gF’2としたとき、以下の式2を満たす。
P’
gF’1>P’
gF’2 ・・・(式2)
【0051】
部分分散比とは、部分分散を主分散で割った値であり、本明細書においては、主分散としてF’線(波長480nm)での屈折率nF’からC’線(波長644nm)での屈折率nC’を差し引いたものを使用する。ngをg線(波長436nm)での屈折率とし、nF’をF’線(波長480nm)での屈折率とするとき、P’
gF’は以下の式で表され
る。
P’
gF’=(ng-nF’)/(nF’-nC’) ・・・(式3)
つまり、P’
gF’1はレンズ要素1におけるg線とF’線との間の部分分散比を表し、P’
gF’2はレンズ要素2におけるg線とF’線との間の部分分散比を表す。
【0052】
上記レンズ要素1、2、式1および式2を組み合わせることにより、後掲の
図4の実施例1、2のプロットが示すように、眼鏡レンズを通過し且つ瞳孔を通る可視光の光線の束のうち短波長側の波長の光束の集光位置が、比較例1(クラウンガラスからなる単レンズ)に比べて大きくオーバーフォーカス側に移動する。その一方、長波長側の波長の光束の集光位置は、比較例1(クラウンガラスからなる単レンズ)に比べてあまり変化しない上、網膜に近づく。
【0053】
つまり、本発明の一態様に係る眼鏡レンズならば、縦色収差により屈折異常の進行の抑制効果を発揮させる際に、該抑制効果を阻害する要因は低減する。更に、縦色収差自体において該抑制効果を阻害する要因が低減していることから、特許文献2に記載のようなフィルタリング(いわゆる波長フィルター)を設ける必要がなくなる。その結果、短波長側の波長の光束を大幅に削減する必要もなくなり、解像感の低下を抑制できる。
【0054】
[本発明の一態様に係る眼鏡レンズの詳細]
以下、本発明の一態様の更なる具体例、好適例および変形例について説明する。
【0055】
本発明の一態様に係る眼鏡レンズの種類には特に限定は無いが、単焦点レンズが挙げられる。本発明の一態様に係る眼鏡レンズは中間距離(1m~40cm)ないし近方距離(40cm~10cm)の物体距離に対応する単焦点レンズである。もちろん無限遠に対応する単焦点レンズであっても本発明の技術的思想は適用可能であるが、本発明の一態様としては中近距離に対応する単焦点レンズを例示する。
【0056】
なお、本発明の一態様に係る眼鏡レンズが、二焦点であるバイフォーカルレンズ、三焦点であるトリフォーカルレンズであっても構わない。また、近方距離に対応する近用部と、近方距離よりも遠い距離に対応する遠用部と、近用部と遠用部とを繋ぐ累進作用を有する中間部とを備える累進屈折力レンズであっても構わない。
【0057】
レンズ要素1の度数の絶対値をD1、もう一方のレンズ要素2の度数の絶対値をD2としたとき、以下の式3を満たすのが好ましい。
(D1/νe1)<(D2/νe2) ・・・(式3)
【0058】
式3を満たすことにより、眼鏡レンズを通過し且つ瞳孔を通る可視光の光線の束のうち短波長側の波長“以外”の光束の、網膜上での色収差が、裸眼時よりも低減される。
【0059】
レンズ要素1の度数の絶対値をD1、もう一方のレンズ要素2の度数の絶対値をD2としたとき、以下の式4を満たすのが好ましい。
{D1×(1+3×P’
gF’1)/νe1}>{D2×(1+3×P’
gF’2)/ν
e2} ・・・(式4)
【0060】
式4を満たすことにより、波長453nmの青色光の色収差(e線すなわち波長546nmの光に対するデフォーカス)が裸眼よりも増大する。波長453nmは、S錐体細胞の感度が、他の錐体細胞や桿体細胞の感度を上回る波長であり、これより短波長側の光はS錐体細胞により青色光として強く感受されやすい。したがって、453nm以下の短波長で網膜より手前に集光させる作用を与えるのが好ましい。
【0061】
上記式4の導出過程について説明する。
まず、式4は、[課題を解決するための手段]にて挙げた二次スペクトルに関する。つまり、式4は、アポクロマートのような超色消しとは真逆すなわち縦色収差を増大させ、短波長側(g線からF’線)において網膜より手前に集光させるための一具体例である。
【0062】
二次スペクトルである色収差ΔDのプロットは、波長の逆数(Kと置く)に対する二次関数になる。二次関数を、ΔD=aK2+bK+cと設定する。そのうえで、以下の式設定を行う。
・青色光で正の色収差をもたらす条件(e線に対するデフォーカス)
{a(1/453)2+b(1/453)2+c}-{a(1/546)2+b(1/546)2+c}>0 ・・・(式5)
・F’線とC’線の色収差(一次の色収差)の関係式
{a(1/480)2+b(1/480)2+c}-{a(1/644)2+b(1/644)2+c}>{(D1/νe1)-(D2/νe2)} ・・・(式6)
・g線とF’線の色収差(二次スペクトル)の関係式
{a(1/453)2+b(1/453)2+c}-{a(1/480)2+b(1/480)2+c}>{(D1/νe1)×P’
gF’1-(D2/νe2)×P’
gF’2
} ・・・(式7)
【0063】
式5に式6と式7を代入すると、以下の式8が得られる。
{(D1/νe1)-(D2/νe2)}+3.01×{(D1/νe1)×P’
gF’1}-{(D2/νe2)×P’
gF’2}>0 ・・・(式8)
【0064】
式8に対して、小数を切り捨てて整理すると、上記式4が得られる。
{D1×(1+3×P’
gF’1)/νe1}>{D2×(1+3×P’
gF’2)/νe2} ・・・(式4)
【0065】
レンズ要素1の度数が正であり、レンズ要素2の度数が負である場合、近視進行抑制効果が得られる。この場合、好適には、眼科用レンズの処方度数は負であり、眼科用レンズはマイナスレンズである。近視進行抑制効果が必要な者は既に近視である場合が多く、マイナスレンズはこの近視を矯正可能だからである。
【0066】
ちなみに、装用者情報の処方データはレンズ袋(コンタクトレンズの場合は仕様書)に記載されている。つまり、レンズ袋があれば、装用者情報の処方データに基づいた眼科用レンズの物としての特定が可能である。そして、眼科用レンズはレンズ袋または仕様書とセットになっていることが通常である。そのため、レンズ袋または仕様書が付属した眼科用レンズも本発明の技術的思想が反映されているし、レンズ袋と眼科用レンズとのセットについても同様である。
【0067】
レンズ要素1の度数が負であり、レンズ要素2の度数が正である場合、遠視進行抑制効果が得られる。この場合、好適には、眼科用レンズの処方度数は正であり、眼科用レンズはプラスレンズである。遠視進行抑制効果が必要な者は既に遠視である場合が多く、プラスレンズはこの遠視を矯正可能だからである。遠視進行抑制効果については[変形例]にて述べる。
【0068】
以下、本発明の一態様における眼鏡レンズの更なる具体的構成について述べる。
【0069】
眼鏡レンズは、レンズ基材と、レンズ基材の凸面側に形成された波長フィルターと、レンズ基材の凸面側および凹面側のそれぞれに形成されたハードコート膜と、各ハードコート膜のそれぞれの表面に形成された反射防止膜(AR膜)と、を備えて構成されている。なお、眼鏡レンズは、ハードコート膜および反射防止膜に加えて、更に他の膜が形成されてもよい。
【0070】
(レンズ基材)
レンズ基材は、例えば、ポリカーボネート、CR-39、チオウレタン、アリル、アクリル、エピチオ等の熱硬化性樹脂材料によって形成されている。その中でもポリカーボネートが好ましい。なお、レンズ基材を構成する樹脂材料としては、所望の屈折度が得られる他の樹脂材料を選択してもよい。また、樹脂材料ではなく、無機ガラス製のレンズ基材としてもよい。本発明の一態様においては、レンズ基材の眼球側の面に鋸歯状の部分を設け、且つ、該鋸歯状の部分を、眼鏡レンズのレンズ中心(幾何中心または光学中心)を中心とした複数の同心円環状に配置する場合を主として例示する。
【0071】
(ハードコート膜)
ハードコート膜は、例えば、熱可塑性樹脂またはUV硬化性樹脂を用いて形成されている。ハードコート膜は、ハードコート液にレンズ基材を浸漬させる方法や、スピンコート等を使用することにより、形成することができる。このようなハードコート膜の被覆によって、眼鏡レンズの耐久性向上が図れる。
【0072】
(反射防止膜)
反射防止膜は、例えば、ZrO2、MgF2、Al2O3等の反射防止剤を真空蒸着により成膜することにより、形成されている。このような反射防止膜の被覆によって、眼鏡レンズを透した像の視認性向上が図れる。なお、反射防止膜の材料及びその膜厚を制御する事により、分光透過率をコントロールする事も可能であり、反射防止膜に波長フィルターの機能を持たせることも可能である。
【0073】
[変形例]
以上に本発明の一態様を説明したが、上記開示内容は、本発明の例示的な一態様を示すものである。すなわち、本発明の技術的範囲は、上述の例示的な一態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0074】
本発明の一態様がもたらす効果により、屈折異常進行抑制効果を阻害する要因は低減する。そのため、特許文献2に記載のようなフィルタリング(いわゆる波長フィルター)を設ける必要がなくなり、好ましい。その一方、本発明の技術的思想から波長フィルターを備えることを除外する理由は無い。
【0075】
発明の一態様に係る眼科用レンズは、レンズ要素1、2のみから構成されることに限定されない。本発明の一態様がもたらすべき効果を発揮可能ならば、それ以外の別のレンズ要素を組み合わせても構わない。
【0076】
特許文献1に記載されたように微小凸部を複数形成している眼鏡レンズ更には眼科用レンズに対しても本発明の技術的思想を適用可能である。具体的には、本発明の一態様に係る眼科用レンズは、以下の構成を更に備える。
【0077】
「眼の屈折異常を矯正する処方に基づく第1の屈折力を有する第1の屈折領域と、
第1の屈折力とは異なる屈折力を有し、眼の屈折異常の進行を抑制するように眼の網膜以外の位置に焦点を結ばせる機能を有する複数の第2の屈折領域とを有し、
第2の屈折領域は、眼科用レンズの中心部の近傍にそれぞれ独立した領域として形成されたものであり、
第1の屈折領域は、第2の屈折領域が形成された領域以外に形成されたものである。」
【0078】
図2は、変形例に係る、特許文献1に記載の第1の屈折領域および第2の屈折領域を備える眼鏡レンズの概略側断面図であり、吹き出しの中は拡大図である。
【0079】
図2(a)は、レンズ基材であり且つ度数が正であるレンズ要素2の物体側の面に対し、特許文献1に記載の微小凸部(第2の屈折領域)が形成された膜を積層した様子を示す。眼鏡レンズ全体としてはプラスレンズであるが、微小凸部によるデフォーカスパワーが発揮されるため、近視進行抑制効果を備える。
【0080】
図2(b)は、レンズ基材であり且つ度数が負であるレンズ要素2の物体側の面に対し、微小凸部が形成された様子を示す。そしてその物体側の面に対し、微小凸部の影響が眼鏡レンズの最表面に表れないよう、微小凸部を埋め込むように膜を積層した様子を示す。
【0081】
この状態では、眼鏡レンズの最表面は平滑である。最表面が平滑であっても、眼鏡レンズの内部の界面部分の凸部または凹部という形状と、該界面部分を挟み込む2種の面基材の屈折率の差とを適切に設定すれば、近視進行抑制効果が得られる。
【0082】
なお、
図2(b)内の拡大図が示すように、該膜において微小凸部(第2の屈折領域)に対応する部分は負の度数をもたらす形状および厚さを有している。つまり、本明細書におけるレンズ要素は少なくともその一部において度数が正または負であればよい。
【0083】
図2(c)は、レンズ基材であり且つ度数が負であるレンズ要素2の物体側の面に対し、微小凸部が形成された様子を示す。そしてその物体側の面に対し、微小凸部の影響が眼鏡レンズの最表面に表れるように膜(レンズ要素1)を積層した様子を示す。なお、
図2(c)内の拡大図が示すように、該膜において微小凸部(第2の屈折領域)に対応する部分は負の度数をもたらす形状および厚さを有している。
【0084】
微小凸部である凸状領域は、レンズ基材の凸状領域に倣ったものなので、当該凸状領域と同様に、レンズ中心の周囲に周方向および軸方向に等間隔で、すなわちレンズ中心の近傍に規則的に配列された状態で、島状に配置される。
【0085】
各々の凸状領域は、例えば、以下のように構成される。凸状領域の直径は、0.8~2.0mm程度が好適である。凸状領域の突出高さ(突出量)は、0.1~10μm程度、好ましくは0.7~0.9μm程度が好適である。凸状領域の曲率半径は、50~250mmR、好ましくは86mmR程度の球面状が好適である。このような構成により、凸状領域の屈折力は、凸状領域が形成されていない領域の屈折力よりも、2.00~5.00ディオプター程度大きくなるように設定されるのが好適である。
【0086】
特許文献1に記載の第1の屈折領域および第2の屈折領域に係るその他の内容は、特許文献1に記載された内容を全て援用するため、ここでは記載を省略する。
【0087】
図3は、変形例に係る遠視進行抑制用のプラスレンズの概略側断面図である。
【0088】
本発明の一態様の眼鏡レンズの技術的思想は、遠視進行抑制機能を奏する眼鏡レンズにも適用可能である。具体的に言うと、光の進行方向において網膜上の位置Aよりも物体側から離れた(すなわち位置Aよりも奥側であるアンダーフォーカス側の)位置B´に光束を収束させる作用を持つように縦色収差を備えさせる。つまり、上記本発明の一態様とは逆に、眼鏡レンズを通過し且つ瞳孔を通る可視光の光線の束のうち長波長側の波長の光束の集光位置は、二次スペクトルにより、アンダーフォーカス側に移動させる。これは、レンズ要素1の度数が負であり、レンズ要素2の度数が正である場合に実現できる。好適には、眼科用レンズの処方度数は正である。また、特許文献1の内容を適用した場合において遠視進行抑制機能を持たせる場合は、「凸」を「凹」に読み替えればよい。
【0089】
本発明の一態様を以下のようにまとめることも可能である。
「度数の正負が異なる2つのレンズ要素を備えた眼科用レンズであって、
可視光中の長波長側の波長の光に対しては、縦色収差をゼロ近傍とし、
可視光中の短波長側の波長の光に対しては、(二次スペクトルにより)縦色収差が増大され、処方度数よりも度数を増加させた、眼科用レンズ。」
ゼロ近傍とは、波長域80nmあたり度数差の絶対値が0.01D以下の状況を指す。これは、e線基準のとき、g線からC’線の波長域における度数差の絶対値が0.02D以下の状況を局所化したものである。
【実施例】
【0090】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。もちろん本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0091】
<比較例1>
図1(a)は、比較例1に係るマイナスレンズの概略側断面図である。
【0092】
処方度数すなわち球面度数Sが-4.0D、乱視度数がゼロの眼鏡レンズを設計した。つまり、この眼鏡レンズは単焦点マイナスレンズである。また、この眼鏡レンズはレンズ基材そのものであり、ハードコート層等の被膜は形成していない。レンズ基材はクラウンガラスであり、その屈折率(e線基準)は1.525である。また、アッベ数(e線基準)は58.62、g線とF’線との間の部分分散比は0.541とした。
【0093】
図4は、横軸を波長[nm]、縦軸を度数[D]としたときの、比較例1および実施例1、2における、各波長光による眼鏡レンズの度数の変化を示すプロットである。なお、好適例の臨界意義を示すプロットも図内に示す。
【0094】
なお、比較例1および後掲の実施例1、2(更には好適例の臨界意義のプロット)においては、e線(波長546nm)が通過した時の眼鏡レンズの度数が-4.0Dとなるようにプロットを設定した。このことをe線基準という。
【0095】
<実施例1>
図1(b)は、実施例1、2に係る近視進行抑制用のマイナスレンズの概略側断面図である。
【0096】
実施例1、2は、近視進行抑制用の眼鏡レンズである。実施例1に係るレンズ要素1、2を以下のように設定した。ne1はレンズ要素1におけるe線基準の屈折率であり、ne2はレンズ要素2におけるe線基準の屈折率である。
レンズ要素1:度数が正
ne1:2.00009
νe1:16.72
P’
gF’1:0.588
D1:4.1[D]
レンズ要素2:度数が負
ne2:1.86560
νe2:30.23
P’
gF’2:0.529
D2:-8.1[D]
【0097】
<実施例2>
実施例2に係るレンズ要素1、2を以下のように設定した。なお、実施例2は、上記式4を満たす好適例である。
レンズ要素1:度数が正
ne1:2.00009
νe1:16.72
P’
gF’1:0.588
D1:4.8[D]
レンズ要素2:度数が負
ne2:1.86560
νe2:30.23
P’
gF’2:0.529
D2:-8.8[D]
【0098】
<好適例の臨界意義>
上記式3を満たす好適例の臨界意義に係るレンズ要素1、2を以下のように設定した。
レンズ要素1:度数が正
ne1:2.00009
νe1:16.72
P’
gF’1:0.588
D1:5.8[D]
レンズ要素2:度数が負
ne2:1.86560
νe2:30.23
P’
gF’2:0.529
D2:-9.8[D]
【0099】
<検討>
図4に示すように、実施例1、2だと、比較例1に比べ、短波長側の光線(波長が546nmより小さい光線)は、度数がプラスの方向にシフトした。これは、眼鏡レンズを通過し且つ瞳孔を通る短波長側の光束の集光位置がオーバーフォーカス側に移動することを表す。
【0100】
逆に、長波長側の光(すなわち赤色光側の光、波長が546nmより大きい光線)は、度数がマイナスの方向にシフトした。これは、縦色収差により、屈折異常の進行の抑制効果を発揮させる際に、該抑制効果を阻害する要因は低減したことを表す。
【0101】
実施例2だと、実施例1よりも、短波長側の光束の集光位置を網膜のより手前に移動させる効果が大きい。同時に、実施例2だと、実施例1よりも、長波長側の光束の集光位置を網膜に近づけられる。長波長側の光束の集光位置はアンダーフォーカス側だと近視進行抑制効果を阻害する。その一方、長波長側の光束の集光位置を網膜に近づけるということは、この阻害要因を減少させることを意味する。
【0102】
好適例の臨界意義のプロットについてであるが、該プロットだと、眼鏡レンズを通過し且つ瞳孔を通る長波長側の光束の集光位置がアンダーフォーカス側に移動する。このプロットは、上記式3を等式にした場合のプロットである。結局、該プロットと比較例1のプロットの間にプロットが配置されるようなレンズ要素1、2の組み合わせを採用するのが好ましい。すなわち、上記式3を満たすのが好ましい。
【0103】
[総括]
以下、本開示の「眼科用レンズ」について総括する。
本開示の一実施例は以下の通りである。
「度数の正負が異なる2つのレンズ要素1、2を備えた眼科用レンズであって、
度数の絶対値が小さい方のレンズ要素1のアッベ数(e線基準)をνe1、もう一方のレンズ要素2のアッベ数(e線基準)をνe2としたとき、以下の式1を満たし、
νe1<νe2 ・・・(式1)
度数の絶対値が小さい方のレンズ要素1におけるg線とF’線との間の部分分散比P’
gF’1、もう一方のレンズ要素2におけるg線とF’線との間の部分分散比P’
gF’2としたとき、以下の式2を満たす、眼科用レンズ。
P’
gF’1>P’
gF’2 ・・・(式2)。」