(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】消臭剤
(51)【国際特許分類】
A61L 9/013 20060101AFI20230919BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
A61L9/013
B01J20/26 G
(21)【出願番号】P 2019179941
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2018223926
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】DM三井製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】藤井 沙代子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 傑
(72)【発明者】
【氏名】八田 知春
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-000428(JP,A)
【文献】特開2006-242835(JP,A)
【文献】特開2005-187430(JP,A)
【文献】特開2001-087365(JP,A)
【文献】特開平11-292776(JP,A)
【文献】古田到真 他,国内製糖工場廃棄物からの有価物製造におけるGHG削減技術実証,精糖技術研究会誌,2017年,Vol.63,pp.7-10
【文献】三菱ケミカル,合成吸着剤,[online],2017年04月04日,https://web.archive.org/web/201704072547/http://www.diaion.com/products/synthesis_0201.html#01
【文献】塩見和世 他,さとうきび抽出物の風味改善効果と退色抑制効果,ニューフードインダストリー,57(6),2015年,pp.1-6
【文献】編集部,ポリフェノール食品・素材の市場動向,食品と開発,43(6),2008年,pp.44-58
【文献】編集部,素材・機能研究の多様化進む ポリフェノール食品・素材の市場動向,食品と開発,44(6),牧野 順一 CMPジャパン株式会社,2009年,pp.49-59
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00-9/22
B01J 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バガスの分解抽出物を有効成分として含有
し、
前記バガスの分解抽出物は、アルカリ処理、水熱処理、酸処理及び亜臨界水処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理後の液分を、固定担体を充填したカラムに通液し、前記固定担体に吸着された成分を溶出することにより得られる、消臭剤。
【請求項2】
前記固定担体は、合成吸着剤又はイオン交換樹脂である、請求項
1に記載の消臭剤。
【請求項3】
前記固定担体が合成吸着剤であり、前記溶出は、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒による溶出である、請求項
1に記載の消臭剤。
【請求項4】
前記合成吸着剤は、芳香族系樹脂、アクリル酸系メタクリル樹脂、又はアクリロニトリル脂肪族系樹脂である、請求項
2又は
3に記載の消臭剤。
【請求項5】
前記バガスの分解抽出物は、前記溶出により得られる画分を膜分離した膜透過物である、請求項
1~
4のいずれか一項に記載の消臭剤。
【請求項6】
前記バガスの分解抽出物は、前記溶出により得られる画分を膜分離した膜濃縮物である、請求項
1~
4のいずれか一項に記載の消臭剤。
【請求項7】
バガスの分解抽出物を有効成分として含有し、
前記バガスの分解抽出物は、
アルカリ処理、水熱処理、酸処理及び亜臨界水処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理後の液分を、固定担体としての合成吸着剤を充填したカラムに通液し、該合成吸着剤に吸着された成分を、エタノール及び水の混合溶媒で溶出することにより得られ、
前記合成吸着剤は、無置換基型の芳香族系樹脂であり、
前記カラムの温度は20~60℃であり、
前記混合溶媒のエタノール及び水の体積比(エタノール/水)は50/50~60/40である
、消臭剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトをはじめとする動物などの生き物から発生する悪臭、室内、車内、冷蔵庫、トイレ、畜舎、魚水槽、工場などから発生する悪臭、家庭の廃棄物や産業廃棄物から発生する悪臭を、脱臭又は消臭するために使用する消臭剤が市販されている。一方、このような消臭剤においては、廃棄後の環境への配慮から、たとえ環境用途であっても天然物由来の消臭剤を用いることが望まれている。天然物由来の消臭剤として、特許文献1には、甘蔗由来の蒸留物を有効成分とする消臭剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、消臭効果に優れる新規な消臭剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一態様として、バガスの分解抽出物を有効成分として含有する消臭剤を提供する。
【0006】
バガスの分解抽出物は、好ましくは、アルカリ処理、水熱処理、酸処理及び亜臨界水処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理により得られる。
【0007】
バガスの分解抽出物は、分解処理後の液分を、固定担体を充填したカラムに通液し、固定担体に吸着された成分を溶出することにより得られてもよい。固定担体は、好ましくは、合成吸着剤又はイオン交換樹脂である。
【0008】
固定担体が合成吸着剤であり、上記の溶出は、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒による溶出であってもよい。
【0009】
合成吸着剤は、好ましくは、芳香族系樹脂、アクリル酸系メタクリル樹脂、又はアクリロニトリル脂肪族系樹脂である。
【0010】
バガスの分解抽出物は、上記の溶出により得られる画分を膜分離した膜透過物であってもよい。バガスの分解抽出物は、上記の溶出により得られる画分を膜分離した膜濃縮物であってもよい。
【0011】
バガスの分解抽出物は、分解処理液を、固定担体としての合成吸着剤を充填したカラムに通液し、該合成吸着剤に吸着された成分を、エタノール及び水の混合溶媒で溶出することにより得られてもよく、この場合、合成吸着剤は、無置換基型の芳香族系樹脂であり、カラムの温度は20~60℃であり、混合溶媒のエタノール及び水の体積比(エタノール/水)は50/50~60/40であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、消臭効果に優れる新規な消臭剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本明細書における「消臭剤」は、消臭効果を有する成分(有効成分)を含有するものである。消臭剤は、消臭対象物の臭いを消去又は抑制することにより、消臭効果を発揮するものであってもよく、消臭対象物の臭いをマスキングすることで、消臭効果を発揮するもの(マスキング剤)であってもよい。
【0015】
一実施形態に係る消臭剤は、バガスの分解抽出物を有効成分として含有する。バガスの分解抽出物には、p-クマル酸、フェルラ酸、カフェ酸及びバニリン等のフェニルプロパノイド、並びにリグニン及びその分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種が含まれていることが好ましい。
【0016】
「バガス」とは、典型的には原料糖製造工程における製糖過程で排出されるバガスをいう。原料糖工場における製糖過程で排出されるバガスには、最終圧搾機を出た最終バガスだけではなく、第1圧搾機を含む以降の圧搾機に食い込まれた細裂甘蔗をも含む。好適なバガスは、原料糖工場において圧搾工程により糖汁を圧搾した後に排出されるバガスである。当該バガスは、甘蔗の種類、収穫時期等により、その含まれる水分、糖分及びそれらの組成比が異なるが、本発明においては、これらのバガスを任意に用いることができる。さらに、本実施形態では、原料のバガスとして、原料糖工場と同様に、例えば黒糖製造工場において排出される甘蔗圧搾後に残るバガス、又は実験室レベルの小規模な実施により甘蔗から糖液を圧搾した後のバガスも用いることができる。
【0017】
バガスの分解抽出物は、一実施形態において、バガス(及び/又はその加工物)の分解処理液であってよい。分解処理液は、アルカリ処理、水熱処理、酸処理及び亜臨界水処理からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の分解処理により得られる。本明細書におけるバガスの分解処理は、リグニン、セルロース、及び/又はヘミセルロースの化学構造の一部又は全部が壊れることが必要である。分解処理は、バガスの分解抽出物を得やすい観点から、好ましくはアルカリ処理又は水熱処理である。
【0018】
アルカリ処理は、バガスにアルカリ性溶液を接触させる処理であってよい。アルカリ性溶液を接触させる方法としては、例えば、アルカリ性溶液をバガスに振りかける方法、バガスをアルカリ性溶液に浸漬させる方法等が挙げられる。バガスをアルカリ性溶液に浸漬させる方法においては、バガス及びアルカリ性溶液の混合物を撹拌しながら浸漬させてもよい。
【0019】
アルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液等が挙げられる。アルカリ性溶液は、これらの溶液を1種単独で又は2種以上を混合して用いられてよい。アルカリ性溶液は、安価であり、食品製造工程で容易に用いられる観点から、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液である。
【0020】
アルカリ性溶液の温度(液温)は、分解処理の処理時間を短縮する観点から、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは100℃以上であり、更に好ましくは130℃以上である。アルカリ性溶液の温度は、分解処理液に多糖類を残存させないようにする観点から、好ましくは250℃以下であり、より好ましくは200℃以下であり、更に好ましくは150℃以下である。
【0021】
アルカリ処理は、常圧下で行われてよく、加圧下において行われてもよい。加圧する場合、圧力は、0.1MPa以上、0.2MPa以上であってよく、4.0MPa以下、1.6MPa以下、又は0.5MPa以下であってよい。
【0022】
水熱処理は、バガスに高温の水又は水蒸気を高圧下で接触させる処理であってよい。水熱処理は、より具体的には、例えば、バガスの固形物濃度が0.1~50%となるように水を加え、高温・高圧条件下で分解処理を行う方法であってもよい。水又は水蒸気の温度は130~250℃であることが好ましく、加える圧力は、各温度の水の飽和水蒸気圧に、更に0.1~0.5MPa高い圧力であることが好ましい。
【0023】
酸処理は、バガスに酸性溶液を接触させる処理であってよい。酸性溶液としては、希硫酸等が挙げられる。バガスに酸性溶液を接触させる方法、酸処理における酸溶液の温度、酸処理における圧力条件は、上述したアルカリ処理における方法又は条件と同様であってよい。
【0024】
亜臨界水処理は、バガスに亜臨界水を接触させる処理であってよい。バガスに亜臨界水を接触させる方法は、上述したアルカリ処理における方法と同様であってよい。亜臨界水処理の条件は特に制限されないが、亜臨界水の温度を160~240℃とし、処理時間を1~90分間とすることが好ましい。
【0025】
分解処理液においては、上述した分解処理の後、固形分及び液分を分離する処理がなされてもよい。この場合、分離後に得られた液分を分解処理液とすることができる。固形分及び液分を分離する方法は、ストレーナー、ろ過、遠心分離、デカンテーション等による分離であってよい。
【0026】
分解処理液においては、膜分離により多糖類等の高分子成分が除去されてもよい。この場合、膜分離後の液分(膜透過液)を分解処理液とすることができる。分離膜は、特に限定されないが、好ましくは限外濾過膜(UF膜)である。限外濾過膜の分画分子量は、好ましくは2,500~50,000であり、より好ましくは2,500~5,000である。
【0027】
限外濾過膜の素材としては、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PS)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、再生セルロース、セルロース、セルロースエステル、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリ四フッ化エチレン等を使用することができる。
【0028】
限外濾過膜の濾過方式は、デッドエンド濾過、クロスフロー濾過であってよいが、膜ファウリング抑制の観点から、クロスフロー濾過であることが好ましい。
【0029】
限外濾過膜の膜形態としては、平膜型、スパイラル型、チューブラー型、中空糸型等、適宜の形態のものが使用できる。より具体的には、SUEZ社のGEシリーズ、GHシリーズ、GKシリーズ、DESAL社のG-5タイプ、G-10タイプ、G-20タイプ、G-50タイプ、PWタイプ、HWSUFタイプ、KOCH社のHFM-180、HFM-183、HFM-251、HFM-300、HFK-131、HFK-328、MPT-U20、MPS-U20P、MPS-U20S、Synder社のSPE1、SPE3、SPE5、SPE10、SPE30、SPV5、SPV50、SOW30、旭化成株式会社製のマイクローザ(登録商標)UFシリーズの分画分子量3,000から10,000に相当するもの、日東電工株式会社製のNTR7410、NTR7450等が挙げられる。
【0030】
バガスの分解抽出物は、他の一実施形態において、上述した分解処理後の液分を、固定担体を充填したカラムに通液し、固定担体に吸着された成分を溶出することにより得られる画分であってもよい。分解処理液をカラムに通液することにより、分解処理液中の消臭作用を有する成分(有効成分)が固定担体に吸着され、糖類及び無機塩類の大部分がそのまま流出する。
【0031】
この場合、上述した分解処理液を、直接又は水で任意の濃度に調整してカラムに通液することができる。分解処理液においては、カラムの通液前にpHを調整してもよい。吸着率を向上させる観点から、分解処理液は、pH6以下に調整されていることが好ましい。分解処理液のpHは、4.5を超え6以下であってもよい。
【0032】
固定担体は、好ましくは、合成吸着剤又はイオン交換樹脂のいずれかである。
【0033】
合成吸着剤は、好ましくは合成多孔質吸着剤である。合成吸着剤(合成多孔質吸着剤)としては、好ましくは有機系樹脂が用いられる。有機系樹脂は、好ましくは、芳香族系樹脂、アクリル酸系メタクリル樹脂、又はアクリロニトリル脂肪族系樹脂である。
【0034】
芳香族系樹脂としては、例えば、スチレン-ジビニルベンゼン系樹脂が挙げられる。芳香族系樹脂としては、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、無置換基型の芳香族系樹脂、無置換基型に特殊処理をした芳香族系樹脂等の多孔質性樹脂も挙げられ、このうち、無置換基型の芳香族系樹脂又は無置換基型に特殊処理をした芳香族系樹脂が好ましい。
【0035】
合成吸着剤で市販のものとしては、ダイヤイオン(商標)HP-10、HP-20、HP-21、HP-30、HP-40、HP-50(以上、無置換基型の芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);SP-825、SP-800、SP-850、SP-875、SP-70、SP-700(以上、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);SP-900(芳香族系樹脂、商品名、三菱ケミカル株式会社製);アンバーライト(商標)XAD-2、XAD-4、XAD-16、XAD-2000(以上、芳香族系樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイヤイオン(商標)SP-205、SP-206、SP-207(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);HP-2MG、EX-0021(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);アンバーライト(商標)XAD-7、XAD-8(以上、アクリル酸エステル樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイヤイオン(商標)HP1MG、HP2MG(以上、アクリル酸メタクリル樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);セファデックス(商標)LH20、LH60(以上、架橋デキストランの誘導体、いずれも商品名、ファルマシア バイオテク株式会社製)等が挙げられる。中でも、無置換基型の芳香族系樹脂(例えば、HP-20)又は無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂(例えば、SP-850)が好ましい。
【0036】
カラムに充填する合成吸着剤の量は、カラムの大きさ、合成吸着剤の種類等によって適宜決定することができる。
【0037】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、分解処理液を通液するときの通液速度は、カラムの大きさ、溶出溶媒の種類、合成吸着剤の種類等によって適宜変更が可能であるが、好ましくは、SV=1~30時間-1である。なお、SV(Space Velocity、空間速度)は、1時間当たり樹脂容量の何倍量の液体を通液するかという単位である。
【0038】
合成吸着剤に吸着された吸着成分(有効成分)は、溶媒(溶出溶媒)により溶出することができる。この場合、溶出した成分をバガスの分解抽出物とすることができる。吸着成分をより効率よく回収する観点から、吸着成分を溶出する前に、カラムに残留する糖類及び無機塩類を水洗により洗い流すことが好ましい。
【0039】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、溶出溶媒は、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。すなわち、固定担体に吸着された成分の溶出は、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒による溶出であってよい。溶出溶媒は、アルコール及び水の混合溶媒が好ましく、エタノール及び水の混合溶媒がより好ましく、吸着成分が室温においてより効率よく溶出可能となる観点から、体積比が50/50~60/40(エタノール/水)であるエタノール及び水の混合溶媒が更に好ましい。
【0040】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、溶出する際のカラムの温度(カラム温度)は室温であってよく、室温より高い温度であってもよい。室温よりもカラム温度を高温にすることにより、エタノール及び水の混合溶媒においてエタノールの混合割合を減らすことができ、吸着成分をより効率的に溶出することができる。カラム温度は、好ましくは20~60℃であり、より好ましくは40~60℃である。カラム内の圧力は常圧条件下であっても、加圧条件下であってもよい。
【0041】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、溶出速度は、カラムの大きさ、溶出溶媒の種類、合成吸着剤の種類等によって適宜設定することが可能であるが、好ましくは、SV=0.1~10時間-1である。
【0042】
イオン交換樹脂は、樹脂の形態に基づいて、ゲル型樹脂と、ポーラス型、マイクロポーラス型又はハイポーラス型等の多孔性樹脂とに分類されるが、特に制限はない。イオン交換樹脂は、好ましくは陰イオン交換樹脂である。陰イオン交換樹脂としては、強塩基性陰イオン交換樹脂又は弱塩基性陰イオン交換樹脂が用いられてよい。アルカリ処理液を原料として使用する場合、好ましくは、強塩基性陰イオン交換樹脂が用いられるが、その他の処理による分解処理液を原料とする場合は特に制限はない。
【0043】
市販の強塩基性陰イオン交換樹脂としては、ダイヤイオン(商標)PA306、PA308、PA312、PA316、PA318L、HPA25、SA10A、SA12A、SA11A、SA20A、UBA120(以上、三菱ケミカル株式会社製)、アンバーライト(商標)IRA400J、IRA402Bl、IRA404J、IRA900J、IRA904、IRA458RF、IRA958、IRA410J、IRA411、IRA910CT(以上、オルガノ株式会社製)、ダウエックス(商標)マラソンA、マラソンMSA、MONOSPHERE550A、マラソンA2(以上、ダウケミカル日本株式会社製)等が挙げられる。
【0044】
市販の弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、ダイヤイオン(商標)WA10、WA20、WA21J、WA30(以上、三菱ケミカル株式会社製)、アンバーライト(商標)IRA478RF、IRA67、IRA96SB、IRA98、XE583(以上、オルガノ株式会社製)、ダウエックス(商標)マラソンWBA、66、MONOSPHERE66、MONOSPHERE77(以上、ダウケミカル日本株式会社製)等が挙げられる。
【0045】
カラムに充填するイオン交換樹脂の量は、カラムの大きさ、イオン交換樹脂の種類などによって適宜決定できるが、分解処理液の固形分に対して2~10,000倍湿潤体積量が好ましく、5~500倍湿潤体積量がより好ましい。
【0046】
通液条件は、前処理液の種類、イオン交換樹脂の種類等により適宜設定することが可能である。好ましくは、流速はSV=0.3~30時間-1であり、通液する液量はイオン交換樹脂の100~300%であり、カラム温度は40~90℃である。カラム内は常圧又は加圧された状態であってよい。
【0047】
固定担体としてイオン交換樹脂を用いる場合、バガスの分解抽出物は、イオン交換樹脂を充填したカラムに通液し、塩や酸、アルコール又はこれらの混合水溶液等の溶離液で溶出することにより得られてもよい。溶離液は脱気処理されていてもよい。
【0048】
バガスの分解抽出物は、他の一実施形態において、分解処理後の液分(上述した分解処理液)を、固定担体を充填したカラムに通液し、固定担体に吸着された成分を溶出した後、溶出により得られる画分を膜分離した膜透過物であってもよい。膜透過物とは、膜分離処理において分離膜を透過した成分である。膜透過物は固体状でも液体状であってもよい。膜透過物は、膜分離を行う前の画分から着色成分が除去されている。すなわち、膜透過物は脱色されたバガスの分解抽出物ということができる。膜透過物を消臭剤に用いることにより、着色の少ない消臭剤を得ることができるため、消臭剤の使用態様によっては、外観に優れたものとなる。
【0049】
分離膜は、例えば、限外濾過膜(UF膜)又はナノ濾過膜(NF膜)であってよい。これらの分離膜は、親水性材料を含む膜であってよく、すなわち、分離膜は、親水性材料で形成されている親水性の膜であってもよい。本明細書における親水性材料とは、親水性の置換基及び/又は化学種を有することにより、水を保持する能力の高い性質を示す材料である。分離膜は、上述した、分解処理の後固定担体への吸着前に行われ得る膜分離に使用され得る分離膜と同種の膜であってよく、異種の膜であってもよい。
【0050】
分離膜に含まれ得る親水性材料としては、例えば、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、及びポリエーテルサルフォン(PES)が挙げられる。親水性材料は、これらを1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。すなわち、分離膜は、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、及びPESからなる群より選ばれる少なくとも一種で形成されてよい。分離膜は、好ましくは、ポリアミド及びPESからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。分離膜は、ポリアミド又はPESのいずれかを含む膜であってもよい。
【0051】
ポリアミドとしては、例えば、テレフタル酸、m-アミノベンズアミド、m-フェニレンジアミド等の芳香族ポリアミド、イソフタル酸、m-アミノベンゾヒドラジド等のポリアミドヒドラジド、フマル酸、ジメチルピペラジン等のポリピペラジンアミド、m-フェニレンイソフタルアミド-テレフタルアミド共重合体などが挙げられる。
【0052】
分離膜の分画分子量は、4000以下、3500以下、3000以下、又は2500以下であってよく、膜分離に要する時間(処理時間)を短縮する観点から、好ましくは300以上、より好ましくは1000以上である。分離膜の分画分子量は、分子量が規定されたポリエチレングリコールの透過の有無を評価することにより測定することができる。
【0053】
分離膜の膜形態としては、平膜型、スパイラル型、チューブラー型、中空糸型等、適宜の形態のものが使用できる。分離膜の濾過方式は、デッドエンド濾過、クロスフロー濾過のいずれであってもよい。
【0054】
分離膜は、市販品を用いることができる。例えば、UF膜として、SUEZ社のGEシリーズ、GHシリーズ、GKシリーズ、Synder社のSPE1、SPE3、SPE5、SPV5、Alfa Laval社のGR95PP、旭化成株式会社製のマイクローザ(登録商標)UFシリーズの分画分子量3000から4000、且つ材質がポリアクリロニトリルに相当するもの等が挙げられる。例えば、NF膜として、SUEZ社のHLシリーズ、DKシリーズ、DLシリーズ、KOCH社のSR3D、SR-400、DOW DUPONT社のNF90、NF200、NF270、NF245、Synder社のNFS、NFX、NFW、NFG、NDX、日東電工株式会社製のNANO-BW、NANO-SW、ESNA、HYDRACoRe等が挙げられる。
【0055】
膜分離を行う際には、上述した溶出により得られた画分を、水等の溶媒に溶解させてから、膜分離を行ってもよい。膜分離を行う際の画分(又は画分を含む溶液)の温度は、20℃以上、25℃以上、又は30℃以上であってよく、70℃以下、60℃以下、又は50℃以下であってよい。
【0056】
膜分離は加圧条件下で行われてもよい。その場合の圧力は、0.1MPa以上、0.3MPa以上、又は0.5MPa以上であってよく、1MPa以下、0.8MPa以下、又は0.6MPa以下であってよい。膜分離の回数は1回であってよく、2回以上であってもよい。
【0057】
バガスの分解抽出物は、他の一実施形態において、分解処理後の液分(上述した分解処理液)を、固定担体を充填したカラムに通液し、固定担体に吸着された成分を溶出した後、溶出により得られる画分を膜分離した膜濃縮物であってもよい。膜濃縮物とは、膜分離処理において分離膜を透過しなかった残渣である。
【0058】
膜濃縮物は、上述した膜透過物を得るための膜分離と同様の方法の方法において、膜分離後の残渣を回収することにより得ることができる。膜濃縮物を得るための分離膜は、上述した膜透過物を得るための分離膜と同様のものを用いることができる。
【0059】
バガスの分解抽出物には、上述した実施形態に係る方法により得られるバガスの分解抽出物の濃縮物が含まれる。濃縮方法は公知の方法であってよく、例えば、減圧下での溶媒留去、凍結乾燥等の方法であってよい。濃縮を行う場合、分解処理液、画分、膜透過物又は膜濃縮物を15~30倍に濃縮して、濃縮後の成分をバガスの分解抽出物とすることができる。
【0060】
バガスの分解抽出物は、例えば、次のようにして得ることができる。バガスに、固形物濃度が0.1~50%となるように1質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して100℃で煮沸を行い、分解処理液(アルカリ処理液)を得る。分解処理液を分画分子量2500~5000のUF膜にて限外濾過を行い、得られた濾過液を酸性に調整してから、無置換基型の芳香族系樹脂を充填したカラムに、カラム温度20~60℃にて通液する。その後、カラムに吸着された成分を、カラム温度20~60℃にて、体積比が50/50~60/40(エタノール/水)のエタノール及び水の混合溶媒(溶出溶媒)で溶出させ、エタノール及び水の混合溶媒での溶出開始時点から集めた溶出液の量が該芳香族系樹脂の45倍湿潤体積量以内に溶出する画分を回収する。回収された画分(肥満を抑制する作用を有する成分を含む画分)を集め、慣用の手段(減圧下での溶媒留去、凍結乾燥等)により濃縮して、バガスの分解抽出物を得ることができる。このようにして得られたバガスの分解抽出物は、固形分が30質量%以上になるように濃縮した液状又は粉末状の抽出物として保存することができる。抽出物の保存は、当該抽出物が液状の場合、冷蔵で行うことが好ましい。
【0061】
バガスの分解抽出物は、他の例として、例えば、次のようにして得ることもできる。すなわち、バガスに固形物濃度が0.1~50%となるように加水して130~250℃の水により、0.2~4.0Mpaの圧力下で水熱処理を行い、濾過による固液分離で分解処理液(水熱処理液)を得る。得られた水熱処理液について、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂を充填したカラムに、温度20~60℃にて通液した後、カラムに吸着された成分を、カラム温度20~60℃にて、体積比が50/50~60/40(エタノール/水)のエタノール及び水の混合溶媒(溶出溶媒)で溶出させ、エタノール及び水の混合溶媒での溶出開始時点から集めた溶出液の量が該芳香族系樹脂の5倍湿潤体積量以内に溶出する画分を回収する。回収された画分(肥満を抑制する作用を有する成分を含む画分)を集め、慣用の手段(減圧下での溶媒留去、凍結乾燥等)により濃縮して、バガスの分解抽出物を得ることができる。このようにして得られたバガスの分解抽出物は、固形分が30質量%以上になるように濃縮した液状又は粉末状の抽出物として保存することができる。抽出物の保存は、当該抽出物が液状の場合、冷蔵で行うことが好ましい。
【0062】
上述した各実施形態におけるバガスの分解抽出物は、液状又は粉末状であってよい。粉末状のバガスの分解抽出物は、例えば、液状のバガス分解抽出物を用いて、スプレードライ法、凍結乾燥法、流動層造粒法、又は賦形剤を用いた粉末化法等により製造することができる。
【0063】
本実施形態の消臭剤は、本発明による効果を損なわない範囲において、その他の成分を更に含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、他の消臭剤、香料、アルコール、界面活性剤、抗菌剤、安定化剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、着色剤等が挙げられる。
【0064】
本実施形態の消臭剤は、食品(食品用消臭剤)、エチケット消臭剤、ペット用消臭剤、環境消臭剤、洗剤、柔軟剤、ヘアカラー剤、パーマ剤又は化粧品の素材として使用することができる。すなわち、この消臭剤は、肉類、魚介類、ニラ、ニンニク等の野菜類などの食品素材から生ずる不快臭;口臭、脇の下、足臭、頭髪の臭い等のヒトから生ずる臭い(体臭);頭髪又は体に付着した臭い(焼肉の臭い、タバコ臭等);動物の口臭、体臭、排泄物の臭い等の動物から生ずる臭い;家庭用ゴミ又は産業廃棄物、家庭用ゴミ収集所又は産業廃棄物収集所、家庭用ゴミ集積場又は産業廃棄物集積場、廃品回収所等で発生する家庭用ゴミ又は産業廃棄物が発生源の悪臭;室内における建材、壁紙、カーテン、下駄箱、エアコン等から生じる臭い(例えばホルマリン等の加工に使用した処理剤の悪臭等);塗装による悪臭;家具からの悪臭(塗料、加工等の処理剤の悪臭、押入等のカビ臭);自動車、トラック、電車航空機内の不快臭;下水処理場、し尿処理場、火葬場、と畜場、へい獣処理場、病院・診療所・検査センター、トイレ、浴室、台所等の水回り、工場、飲食店、写真屋・現像所、ガソリンスタンド、プロパンガス詰め替え所、クリーニング店・洗濯工場、旅館・ホテル、美容院・理髪店、自動車修理工場、家畜用畜舎、建設作業現場等の施設における不快臭などの消臭に用いられてよい。
【0065】
本実施形態の消臭剤は、イソ吉草酸、酢酸、メチルメルカプタン、トリメチルアミン、ジアセチル、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、硫化水素、アンモニア、ノネナール、チオグリコール酸、チオグリコール酸塩(チオグリコール酸アンモニウム、チオグリコール酸モノエタノールアミン、チオグリコール酸ナトリウム等)、システイン又はその誘導体、チオグリセリン、サルファイト、ラクトンチオール、システアミンなどを主成分とする臭い、並びにタバコ臭の消臭に対してより好適に使用することができる。イソ吉草酸、酢酸、メチルメルカプタン、トリメチルアミン、ジアセチル、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、硫化水素、アンモニア及びノネナールから選択される成分を主成分とする臭いとしては、例えば、汗、足、口臭、屁等の体臭(加齢による体臭を含む)、動物の糞尿の臭い、食品の酸敗又は腐敗による臭い、建物の建材、壁紙、家具などに使用される化学物質から放出される臭いなどを挙げることができる。チオグリコール酸、チオグリコール酸塩、システイン又はその誘導体、チオグリセリン、サルファイト、ラクトンチオール、及びシステアミンから選択される成分を主成分とする臭いとしては、例えば、還元剤を含むパーマ剤の臭い等を挙げることができる。本実施形態の消臭剤は、イソ吉草酸、酢酸、メチルメルカプタン、トリメチルアミン、ジアセチル、ノネナール、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリコール酸モノエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1種の成分を主成分とする臭い、並びにタバコ臭の消臭に対して更に好適に使用することができる。
【0066】
本実施形態の消臭剤の使用形態は特に限定されない。例えば、本実施形態の消臭剤は、噴霧又は塗布して用いることができる。噴霧して用いられる消臭剤としては、エアゾールスプレータイプ消臭剤、ミストスプレータイプ消臭剤、スプリンクラー用液体品等が挙げられる。ミストスプレータイプ消臭剤は、例えば、家庭内のペット臭、トイレ、台所の生ゴミ、調理器具等に対して用いられる。本実施形態の消臭剤を水に添加し、必要に応じ、界面活性剤、エタノール、抗菌剤等を添加し、ミストスプレーボトルに充填して得られる。エアゾールタイプ消臭剤は、例えば、家庭内の強い悪臭である生ゴミ及びトイレの悪臭に対して用いられる。エアゾールタイプ消臭剤は、例えば、本実施形態の消臭剤を水又はエタノール水溶液で希釈し、例えばLPG及び二酸化炭素などの噴射剤(噴射ガス)と共にエアゾール容器に充填して得られる。噴霧して用いられる消臭剤は、細かい霧状にして室内に飛散させることにより、主に室内の消臭を行うことができる。また、酪農畜舎、魚市場といった悪臭の発生しやすい場所に断続的又は連続的に散布することにより、これらの場所で発生する悪臭を消臭することもできる。
【0067】
塗布して用いられる消臭剤としては、液状、ゲル状、ペースト状消臭剤等が挙げられる。液状、ゲル状、ペースト状消臭剤は、クリーム状、乳液状といったエマルジョンの形態であってもよい。塗布して用いられる消臭剤は、例えばヒトの体に塗布することにより、体臭を消臭するために用いることができる。
【0068】
本実施形態の消臭剤は、布・紙・不織布にしみ込ませたシート状の消臭剤、粉末・顆粒に吸収させた消臭剤、粒状・ペレット状・ブロック状・タブレット状ゲルへ練り込んだ、若しくは、吸着させた消臭剤(例えば、後述する空間用消臭剤)、セラミック・活性炭・ベントナイト等の多孔質担体へ吸着させた消臭剤、液状の消臭剤を容器に入れ、スポンジ・布・セラミックス等の液体を浸透させるものを容器中の消臭剤に一部接触させ、浸透した消臭剤が気化することにより消臭効果を持つ消臭剤、セラミックス等の多孔質性の容器に消臭剤を入れ、容器外部まで浸透した消臭剤が気化することにより消臭効果を持つ消臭剤、液状でそのまま悪臭源に添加する消臭剤、フイルム・フィルターにしみ込ませた消臭剤、又は、消臭剤を表面若しくは内部に含む、壁紙、建材、おむつ、生理用品、靴の中敷き、消臭繊維(布)、若しくは消臭皮革等として使用することができる。
【0069】
本実施形態の消臭剤は、空間用消臭剤として用いてもよい。空間用消臭剤は、消臭効果を有する成分(有効成分)が徐々に揮発(揮散)するため、消臭効果が長時間持続する。空間用消臭剤は、例えば、本実施形態の消臭剤をゲル又は適当な担体に吸着させる、又は練り込むことにより、得られるものである。より具体的には、空間用消臭剤は、本実施形態の消臭剤をゲル化剤(例えば、カラギーナン、寒天、ローカストビーンガム、ポリビニルアルコール、アラビアガム、ジェランガム、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、キチン・キトサン、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリルアミド)の1種又は2種以上の組み合わせに、添加し、固形化することにより得ることができる。
【0070】
また、本実施形態の消臭剤を用いて、消臭効果の高いペット排泄物処理剤を製造することができる。ペット用排泄物処理剤は、ベントナイト、ゼオライト、木粉、紙粉などを主材料とし、これに必要に応じてポリアクリル酸ナトリウム、他のナトリウム化合物、マグネシウム化合物等を加え、これに本実施形態の消臭剤を添加し、適当量の水を加え、混合・成形・乾燥することにより製造できる。これをネコなどのペット用トイレに入れ、ネコがその処理剤の上に排泄することにより、消臭効果に優れた処理剤を得ることができる。
【0071】
上述した使用形態において、本実施形態に係る消臭剤の使用量は特に限定されない。ミストスプレータイプ消臭剤の場合、本実施形態の消臭剤の含有量は、例えば、ミストスプレータイプ消臭剤の全量基準で0.01~50%(体積/体積)であってよい。エアゾールタイプ消臭剤の場合、本実施形態の消臭剤の含有量は、エアゾールタイプの消臭剤全量基準で0.2~70%(体積/体積)であってよい。空間用消臭剤の場合、本実施形態の消臭剤の含有量は、例えば、空間用消臭剤の全量基準で0.5~20%(体積/体積)であってよい。
【0072】
本実施形態の消臭剤を用いて、他の材料と混合し、成形・乾燥する方法により、消臭効果を有する物品を得ることができる。また、2種以上の本実施形態の消臭剤以外の材料を先に混合し、成形・乾燥し、得られた成形品に本実施形態の消臭剤を吸収させることによっても、消臭効果を有する物品を得ることができる。
【0073】
本発明は、一態様において、消臭剤の製造方法と捉えることができる。つまり、消臭剤の製造方法は、バガスの分解抽出物を得る工程を備える。バガスの分解抽出物を得る工程は、一実施形態において、アルカリ処理、水熱処理、酸処理及び亜臨界水処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理工程を備えていてよい。バガスの分解抽出物を得る工程は、分解処理後の液分を、固定担体を充填したカラムに通液し、固定担体に吸着された成分を溶出する工程を備えてもよい。バガスの分解抽出物は、前記溶出により得られる画分を膜分離して、膜透過物又は膜濃縮物を得る工程を備えてもよい。分解処理工程、固定担体への吸着及び溶出する工程、膜分離の工程の詳細な条件は上述したとおりである。
【実施例】
【0074】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0075】
バガスの分解抽出物は、以下、単に「抽出物」と表現することがある。
【0076】
<バガスの分解抽出物の製造>
[製造例1]
サトウキビの搾りかすであるバガス15kg(含水率50質量%)及び0.5%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液100Lを混合し、150℃の条件でアルカリ処理を行った。アルカリ処理後の混合液を固形分と液分に分離して、液分を約100L得た。分画分子量2500のUF膜(SUEZ社、GH8040F30)を用いて限外濾過を行い、濾過液80Lを得た。合成吸着剤(三菱ケミカル株式会社製、HP-20)1Lを樹脂塔(内径80mm、高さ400mm)に充填し、これに上記の濾過液を、pHを6に調整してから流速10L/時間(SV=10.0(時間-1))で通液した。
【0077】
続いて、5Lの精製水を、流速10L/時間(SV=10.0(時間-1))で樹脂塔に通液して洗浄した。次に、溶出溶媒として60%エタノール水溶液(エタノール/水=60/40(体積/体積))2Lを、流速2L/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液した。続けて、2Lの精製水を流速2L/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液し、合成吸着剤に吸着した成分を溶出させた。樹脂塔から溶出した画分を、ロータリーエバポレーターにて約10倍の濃度に減圧濃縮したのち、一晩凍結乾燥して、バガスの分解抽出物として、茶褐色の粉末20gを得た。得られた粉末は20%エタノールで固形分量30%になるように調製し、これを抽出物Aとした。
【0078】
[製造例2]
製造例1と同様の方法により、茶褐色の粉末を得た。この粉末を水に溶解して、固形分が5質量%である水溶液を調製した。撹拌型ウルトラホルダー(UHP-76K、アドバンテック東洋株式会社製)に、分離膜としてポリアミド系UF膜(GE Sepa CF TF UF GH membrane(flat sheet membrane)、分画分子量2500、SUEZ社)を取付けた。上記の水溶液200mL(40℃)を、撹拌型ウルトラホルダーに供し、撹拌子を一定の速度で撹拌しながら、窒素により約0.55MPaの圧力をかけて膜分離を行い、膜透過物及び膜濃縮物を得た。膜分離時には撹拌型ウルトラホルダーを40℃の水に浸漬し、分離時の液温を40℃に保った。得られた膜透過物を凍結乾燥したものを抽出物B、膜濃縮物を凍結乾燥したものを抽出物Cとした。
【0079】
<試験例1:イソ吉草酸に対する消臭効果>
抽出物A0.17gを20%エタノール1mLに溶解させてから、1mLの水を加え更に溶解させた。溶解後の溶液1mLに水9mLを加え、抽出物Aを含む溶解液を調製した(溶解液(A1))。
15mL容の遠沈管に、1ppm(w/v)のイソ吉草酸の水溶液10mLと、溶解液(A1)0.2mLとを入れ、サンプル液(1)を調製した(抽出物Aの終濃度0.017%(w/v)。
対照として、1ppm(w/v)のイソ吉草酸の水溶液10mLと、水0.2mLとの混合液を用意した(対照(1))。
サンプル液(1)及び対照(1)のそれぞれについて、下記の評価基準に基づき、10名のパネルにより臭いの程度を評価した。
0:臭いはしない
1:やっとわかる程度
2:はっきりわかる程度
3:やや強い臭い
4:強い臭い
【0080】
評価点の平均値を算出した結果、対照(1)では2.8であり、サンプル液(1)では1.2であった。Bonferroni法の多重比較検定を行ったところ、これらの評価点の差に有意差が認められた。
【0081】
<試験例2:酢酸に対する消臭効果>
15mL容の遠沈管に、0.1%酢酸10mLと、上述の溶解液(A1)0.2mLとを入れ、サンプル液(2)を調製した(抽出物Aの終濃度0.017%(w/v))。
対照として、0.1%酢酸10mLと、水0.2mLとの混合液を用意した(対照(2))。
サンプル液(2)及び対照(2)のそれぞれについて、試験例1と同様の評価基準に基づき、9名のパネルにより臭いの程度を評価した。
【0082】
評価点の平均値を算出したところ、対照(2)では平均値2.78であり、サンプル液(2)では1.8であった。Bonferroni法の多重比較検定を行ったところ、これらの評価点の差に有意差が認められた。
【0083】
<試験例3:メチルメルカプタンに対する消臭効果>
15mL容の遠沈管に、0.1ppmのメチルメルカプタンの水溶液10mLと、上述の溶解液(A1)0.2mLとを入れ、サンプル液(3)を調製した(抽出物Aの終濃度0.017%(w/v))。
対照として、0.1ppm(w/v)のメチルメルカプタン10mLと、水0.2mLとの混合液を用意した(対照(3))。
サンプル液(3)及び対照(3)のそれぞれについて、試験例1と同様の評価基準に基づき、9名のパネルにより臭いの程度を評価した。
【0084】
評価点の平均値を算出したところ、対照(3)では平均値3.11であり、サンプル液(2)では2.41であった。Bonferroni法の多重比較検定を行ったところ、これらの評価点の差に有意差が認められた。
【0085】
<試験例4:トリメチルアミンに対する消臭効果>
15mL容の遠沈管に、1ppm(w/v)のトリメチルアミンの水溶液10mLと、上述の溶解液(A1)0.2mLとを入れ、サンプル液(4)を調製した(抽出物Aの終濃度0.017%(w/v))。
対照として、1ppm(w/v)のトリメチルアミンの水溶液10mLと、水0.2mLとの混合液を用意した(対照(4))。
サンプル液(4)及び対照(4)のそれぞれについて、試験例1と同様の評価基準に基づき、10名のパネルにより臭いの程度を評価した。
【0086】
評価点の平均値を算出したところ、対照(4)では平均値2.25であり、サンプル液(4)では1.28であった。Bonferroni法の多重比較検定を行ったところ、これらの評価点の差に有意差が認められた。
【0087】
<試験例5:ジアセチルに対する消臭効果>
15mL容の遠沈管に、2ppm(w/v)のジアセチルの水溶液10mLと、上述の溶解液(A1)0.2mLとを入れ、サンプル液(5)を調製した(抽出物Aの終濃度0.017%(w/v))。
対照として、2ppm(w/v)のジアセチルの水溶液10mLと、水0.2mLとの混合液を用意した(対照(5))。
サンプル液(5)及び対照(5)のそれぞれについて、試験例1と同様の評価基準に基づき、9名のパネルにより臭いの程度を評価した。
【0088】
評価点の平均値を算出したところ、対照(5)では平均値2.78であり、サンプル液(5)では1.67であった。Bonferroni法の多重比較検定を行ったところ、これらの評価点の差に有意差が認められた。
【0089】
<試験例6:ノネナールに対する消臭効果>
15mL容の遠沈管に、0.01ppm(w/v)のノネナールの水溶液10mLと、上述の溶解液(A1)0.4mLとを入れ、サンプル液(6)を調製した(抽出物Aの終濃度0.034%(w/v))。
対照として、0.01ppm(w/v)のノネナールの水溶液10mLと、水0.4mLとの混合液を用意した(対照(6))。
サンプル液(6)及び対照(6)のそれぞれについて、試験例1と同様の評価基準に基づき、11名のパネルにより臭いの程度を評価した。
【0090】
評価点の平均値を算出したところ、対照(6)では平均値2.42であり、サンプル液(6)では1.45であった。Bonferroni法の多重比較検定を行ったところ、これらの評価点の差に有意差が認められた。
【0091】
<試験例7:チオグリコール酸アンモニウムに対する消臭効果>
15mL容の遠沈管に、0.85%(w/v)のチオグリコール酸アンモニウムの水溶液10mLと、上述の溶解液(A1)0.4mLとを入れ、サンプル液(7)を調製した(抽出物Aの終濃度0.034%(w/v))。
対照として、0.85%(w/v)のチオグリコール酸アンモニウムの水溶液10mLと、水0.4mLとの混合液を用意した(対照(7))。
サンプル液(7)及び対照(7)のそれぞれについて、試験例1と同様の評価基準に基づき、10名のパネルにより臭いの程度を評価した。
【0092】
評価点の平均値を算出したところ、対照(7)では平均値3.08であり、サンプル液(7)では1.83であった。Bonferroni法の多重比較検定を行ったところ、これらの評価点の差に有意差が認められた。
【0093】
<試験例8:チオグリコール酸モノエタノールアミンに対する消臭効果>
15mL容の遠沈管に、0.085%(w/v)のチオグリコール酸モノエタノールアミンの水溶液10mLと、上述の溶解液(A1)0.4mLとを入れ、サンプル液(8)を調製した(抽出物Aの終濃度0.034%(w/v))。
対照として、0.085%(w/v)のチオグリコール酸モノエタノールアミンの水溶液10mLと、水0.4mLとの混合液を用意した(対照(8))。
サンプル液(8)及び対照(8)のそれぞれについて、試験例1と同様の評価基準に基づき、10名のパネルにより臭いの程度を評価した。
【0094】
評価点の平均値を算出したところ、対照(8)では平均値3.3であり、サンプル液(8)では2.38であった。Bonferroni法の多重比較検定を行ったところ、これらの評価点の差に有意差が認められた。
【0095】
<試験例9:タバコ臭に対する消臭効果(1)>
抽出物A0.17gを20%エタノール1mLに溶解させてから、1mLの水を加え更に溶解させた。溶解後の溶液0.3mLに水30mLを加え、抽出物Aを含む溶解液を調製した(溶解液(A2))。
5L容三角フラスコを逆さにし、火のついたタバコを三角フラスコの口の中に約5cm入れ、タバコの煙を約30~40秒間捕集した。10cm×10cmの布地(綿タオル)3枚を煙を捕集した三角フラスコに入れて素早く密栓し、フラスコを振盪しながら布地に煙を吸わせた。5分後、タオルを取り出し、試験用布地とした。
試験用布地にスプレーで溶解液(A2)を5回スプレー(0.15ml×5回=約0.75ml)した後、よく揉み、均一にしたものを、サンプル(9)とした。
対照として、試験用布地に水を5回スプレー(約0.75ml)したものを用意した(対照(9))。
サンプル(9)及び対照(9)のそれぞれについて、試験例1と同様の評価基準に基づき、9名のパネルにより臭いの程度を評価した。
【0096】
評価点の平均値を算出したところ、対照(9)では平均値1.89であり、サンプル(9)では0.61であった。Bonferroni法の多重比較検定を行ったところ、これらの評価点の差に有意差が認められた。
【0097】
<試験例10:タバコ臭に対する消臭効果(2)>
抽出物B及び抽出物Cを精製水に溶解させることにより、濃度が250質量ppmの溶解液を調製した(溶解液(B)及び溶解液(C))。
試験例9と同様の方法により試験用布地を用意し、スプレーで溶解液(B)又は溶解液(C)を5回スプレー(0.15ml×5回=約0.75ml)した後、よく揉み、均一にしたものを、それぞれサンプル(10-1)及びサンプル(10-2)とした。
対照として、試験用布地に水を5回スプレー(約0.75ml)したものを用意した(対照(10))。
サンプル(10-1)~(10-2)及び対照(10)のそれぞれについて、試験例1と同様の評価基準に基づき、13名のパネルにより臭いの程度を評価した。
【0098】
評価点の平均値を算出したところ、対照(10)では平均値2.57であり、サンプル(10-1)では1.11、サンプル(10-2)では1.30であった。Bonferroni法の多重比較検定を行ったところ、サンプル(10-1)及び対照(10)の評価点の差、並びにサンプル(10-2)及び対照(10)の評価点の差に有意差が認められた。