(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20230919BHJP
【FI】
B41J2/01 307
(21)【出願番号】P 2019189449
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 高徳
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-067281(JP,A)
【文献】特開2011-136507(JP,A)
【文献】特開2014-223732(JP,A)
【文献】特開2015-174449(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0044296(US,A1)
【文献】特開2016-215421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射記録装置のキャリッジに取り付けられる液体噴射ヘッドであって、
液体の噴射孔を
複数有するノズル部と、
前記ノズル部を支持する
とともに、前記ノズル部の支持領域外に前記液体の噴射方向に貫通する貫通穴を有する支持部材と、
前記支持部材のうち、その平面方向の外縁よりも内側に設けられており、前記キャリッジに対する前記噴射孔の位置を調整する位置調整機構と
を備え、
前記位置調整機構は、
前記貫通穴を介して延在しており、前記キャリッジに対する位置が固定可能な基準部材と、
前記支持部材に連結され、前記基準部材を押圧し、前記基準部材に対する相対的な距離を変化させることで、前記支持部材を前記キャリッジ上で
、複数の前記噴射孔が並ぶ所定のノズル列方向に沿って移動可能に構成された位置調整部材と、
前記基準部材および前記位置調整部材の間に介在する仲介部材と
を備え、
前記基準部材および前記位置調整部材は、中心軸が互いに平行に配置されたピン部材であり、
前記仲介部材は、前記基準部
材に取り付けられて、前記支持部材の移動方向に向く
とともに前記基準部材の中心軸に対して平行な第1受圧面を形成し、
前記位置調整部材は、前記支持部材に対して回転可能に連結されるとともに、その中心軸に対して偏心させた外周面または前記中心軸周りの外周にカム面を有し、前記外周面または前記カム面が、前記第1受圧面に当接する
液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記仲介部材が、前記偏心させた外周面または前記カム面を有する前記位置調整部材の偏心部を、前記支持部材に対する遠位側から係止する係止部を有する
請求項
1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記位置調整部材は、その中心軸からカム面までの距離であるカムの高さが、当該位置調整部材の回転方向に単調的に増加または減少する
請求項
1または請求項
2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
液体噴射記録装置のキャリッジに取り付けられる液体噴射ヘッドであって、
液体の噴射孔を有するノズル部と、
前記ノズル部を支持する支持部材と、
前記キャリッジに対する前記噴射孔の位置を調整する位置調整機構と
を備え、
前記位置調整機構は、
前記キャリッジに対する位置が固定可能な基準部材と、
前記支持部材に連結され、前記基準部材を押圧し、前記基準部材に対する相対的な距離を変化させることで、前記支持部材を前記キャリッジ上で移動可能に構成された位置調整部材と、
前記基準部材および前記位置調整部材の間に介在する仲介部材と
を備え、
前記基準部材および前記位置調整部材は、中心軸が互いに平行に配置されたピン部材であり、
前記位置調整部材は、前記支持部材に対して回転可能に連結されるとともに、その中心軸に対して偏心させた外周面を有する偏心部を備え、
前記仲介部材は、前記位置調整部材に対して相対的に回転可能に前記偏心部に取り付けられて、前記支持部材の移動方向に向くとともに前記位置調整部材の中心軸に対して平行な第1受圧面を形成し、
前記基準部材は、その外周面が前記第1受圧面に当接する
液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記支持部材は、前記ノズル部の支持領域外に前記液体の噴射方向に貫通する貫通穴を有し、
前記位置調整機構は、前記支持部材のうち、その平面方向の外縁よりも内側に設けられ、
前記基準部材は、前記貫通穴を介して延在する
請求項
4に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記仲介部材は、前記支持部材に対する当該仲介部材の回転を規制する回転規制部を有する
請求項
4または請求項5に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記基準部材と前記支持部材との間に介在する付勢部材をさらに備え、
前記支持部材は、前記貫通
穴を形成する孔部を有するとともに、前記孔部を形成する内面に、前記支持部材の移動方向とは異なる方向に向く第2受圧面を有し、
前記付勢部材は、前記孔部に収められ、
前記基準部材が、前記キャリッジに回転可能に連結されるとともに、その回転の中心軸に対して偏心させた外周面または前記中心軸周りの外周にカム面を有する第2偏心部を備え、
前記第2偏心部の外周面またはカム面が、前記第2受圧面に当接し、
前記付勢部材が、前記支持部材を、前記第2偏心部が前記支持部材の第2受圧面から受ける反力の方向に付勢する
請求項1から請求項
3、請求項5のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記ノズル部が、所定のノズル列方向に並ぶ複数の前記噴射孔を有し、
前記第1受圧面が、前記支持部材の移動方向である前記ノズル列方向に向き、
前記第2受圧面が、前記ノズル列方向に対して垂直な方向に向く
請求項
7に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記支持部材の移動方向への前記支持部材の変位量を表示する表示部をさらに備える
請求項1から請求項
8のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
液体噴射記録装置のキャリッジに取り付けられる液体噴射ヘッドであって、
液体の噴射孔を有するノズル部と、
前記ノズル部を支持する支持部材と、
前記キャリッジに対する前記噴射孔の位置を調整する位置調整機構と
を備え、
前記位置調整機構は、
前記キャリッジに対する位置が固定可能な基準部材と、
前記支持部材に連結され、前記支持部材とともに移動して、前記キャリッジに対する相対的な位置を可変に構成された可動部材と、
前記基準部材および前記可動部材の間に介在する仲介部材と、
を備え、
前記基準部材および前記可動部材は、中心軸が互いに平行に配置されたピン部材であり、
前記可動部材は、前記支持部材に対して回転可能に連結されるとともに、その中心軸に対して偏心させた外周面を有する偏心部を備え、
前記仲介部材は、
前記可動部材に対して相対的に回転可能に前記偏心部に取り付けられて、前記支持部材の移動方向に向く
とともに前記可動部材の中心軸に対して平行な第1受圧面を形成し、
前記基準部材は、その外周面が前記第1受圧面に当接して、前記第1受圧面を前記移動方向に押圧可能であり、
前記可動部材は、当該可動部材が前記第1受圧面からの反力として受ける力または当該可動部材が前記第1受圧面を介して受ける力に基づき、前記支持部材を前記キャリッジ上で移動させる
液体噴射ヘッド。
【請求項11】
請求項1から請求項1
0のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドが取り付けられた前記キャリッジと、
前記キャリッジを印刷媒体に対して移動可能に構成された駆動機構と
を備える、液体噴射記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射記録装置として、記録紙等の被記録媒体にインクを噴き付けて画像または文字等の記録を行う、インクジェット方式の記録装置がある。この方式の液体噴射記録装置では、インクタンクから、インクジェットヘッドへインクを供給する。そして、インクジェットヘッドに形成された複数のノズル孔から、被記録媒体に向けてインクを噴射することで、画像または文字等の記録を行う。
【0003】
インクジェットヘッドには、所定の方向に並べて配置された複数のノズル孔からなるノズル列が設けられている。そして、液体噴射記録装置の内部において、キャリッジに対する所定の位置にノズル列が配置される。ノズル列を配置する際の位置合わせの技術として、偏心部の作用により、インクジェットヘッドにキャリッジに対する相対的な変位を生じさせ、ノズル孔またはノズル列の位置合わせを行うものが、既に存在する(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
日本国特許庁に対し、本願の出願人により既に提出済みの特願2019-107218号には、キャリッジに対する平面方向の位置が固定された部材を備える、液体噴射ヘッド(本質的には、ノズル孔)の位置調整機構が記載されている。ここで、このような部材によりキャリッジに対する不動点を形成し、液体噴射ヘッド側に別途設けられる調整部材によりこれを押すことで、上記機構とは異なる方向への位置合わせを実現することが可能である。しかし、両者の部材の位置関係によってはキャリッジ側の部材に対する調整部材の押圧点がずれる場合があり、この場合は、液体噴射ノズルに所望の方向以外の方向への変位が生じてしまうことで、ノズル孔の位置合わせを円滑に行うことができなくなることが懸念される。
【0006】
よって、このような問題を考慮した液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置が提供されることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態に係る第1の液体噴射ヘッドは、液体噴射記録装置のキャリッジに取り付けられる液体噴射ヘッドであって、液体の噴射孔を複数有するノズル部と、ノズル部を支持するとともに、ノズル部の支持領域外に液体の噴射方向に貫通する貫通穴を有する支持部材と、支持部材のうち、その平面方向の外縁よりも内側に設けられており、キャリッジに対する噴射孔の位置を調整する位置調整機構と、を備える。位置調整機構は、貫通穴を介して延在しており、キャリッジに対する位置が固定可能な基準部材と、支持部材に連結され、基準部材を押圧し、基準部材に対する相対的な距離を変化させることで、支持部材をキャリッジ上で、複数の噴射孔が並ぶ所定のノズル列方向に沿って移動可能に構成された位置調整部材と、基準部材および位置調整部材の間に介在する仲介部材と、を備える。基準部材および位置調整部材は、中心軸が互いに平行に配置されたピン部材である。仲介部材は、基準部材に取り付けられて、支持部材の移動方向に向くとともに基準部材の中心軸に対して平行な第1受圧面を形成し、位置調整部材は、支持部材に対して回転可能に連結されるとともに、その中心軸に対して偏心させた外周面または中心軸周りの外周にカム面を有し、外周面またはカム面が、第1受圧面に当接する。
本開示の一実施形態に係る第2の液体噴射ヘッドは、液体噴射記録装置のキャリッジに取り付けられる液体噴射ヘッドであって、液体の噴射孔を有するノズル部と、ノズル部を支持する支持部材と、キャリッジに対する噴射孔の位置を調整する位置調整機構と、を備える。位置調整機構は、キャリッジに対する位置が固定可能な基準部材と、支持部材に連結され、基準部材を押圧し、基準部材に対する相対的な距離を変化させることで、支持部材をキャリッジ上で移動可能に構成された位置調整部材と、基準部材および位置調整部材の間に介在する仲介部材と、を備える。基準部材および位置調整部材は、中心軸が互いに平行に配置されたピン部材であり、位置調整部材は、支持部材に対して回転可能に連結されるとともに、その中心軸に対して偏心させた外周面を有する偏心部を備える。仲介部材は、位置調整部材に対して相対的に回転可能に偏心部に取り付けられて、支持部材の移動方向に向くとともに位置調整部材の中心軸に対して平行な第1受圧面を形成し、基準部材は、その外周面が第1受圧面に当接する。
本開示の一実施形態に係る第3の液体噴射ヘッドは、液体噴射記録装置のキャリッジに取り付けられる液体噴射ヘッドであって、液体の噴射孔を有するノズル部と、ノズル部を支持する支持部材と、キャリッジに対する噴射孔の位置を調整する位置調整機構と、を備える。位置調整機構は、キャリッジに対する位置が固定可能な基準部材と、支持部材に連結され、支持部材とともに移動して、キャリッジに対する相対的な位置を可変に構成された可動部材と、基準部材および可動部材の間に介在する仲介部材と、を備える。基準部材および可動部材は、中心軸が互いに平行に配置されたピン部材であり、可動部材は、支持部材に対して回転可能に連結されるとともに、その中心軸に対して偏心させた外周面を有する偏心部を備える。仲介部材は、可動部材に対して相対的に回転可能に偏心部に取り付けられて、支持部材の移動方向に向くとともに可動部材の中心軸に対して平行な第1受圧面を形成し、基準部材は、その外周面が第1受圧面に当接して、第1受圧面を上記移動方向に押圧可能であり、可動部材は、当該可動部材が第1受圧面からの反力として受ける力または当該可動部材が第1受圧面を介して受ける力に基づき、支持部材をキャリッジ上で移動させる。
【0008】
本開示の一実施形態に係る液体噴射記録装置は、上記本開示の一実施形態に係る第1ないし第3の液体噴射ヘッドのうちのいずれかと、当該液体噴射ヘッドが取り付けられたキャリッジと、キャリッジを印刷媒体に対して移動可能に構成された駆動機構と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施形態に係る第1ないし第3の液体噴射ヘッドおよび本開示の一実施形態に係る液体噴射記録装置によれば、位置調整部材の基準部材に対する実質的な押圧点が、仲介部材の第1受圧面に形成されることで、両者の部材の位置関係によらず、キャリッジに対して支持部材を所望の方向(具体的には、第1受圧面が向く方向)に移動させることが可能となるので、ノズル孔の位置合わせを円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係るプリンタの内部構造を概略的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示したプリンタに備わるインクジェットヘッドおよびキャリッジの斜視図である。
【
図3】
図2に示したインクジェットヘッドおよびキャリッジの平面図である。
【
図4】
図3に示したインクジェットヘッドの平面図である。
【
図5】
図4に示したインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【
図6】
図4に示したインクジェットヘッドの内部構造を模式的に示す立面図である。
【
図7】
図4に示したインクジェットヘッドに備わる位置調整機構の構成を概略的に示す分解斜視図である。
【
図8】
図7に示した位置調整機構の組立後の外観を示す斜視図である。
【
図9】
図7に示した位置調整機構のθ調整部の拡大平面図である。
【
図10】
図9に示したθ調整部に備わる調整ピン(θ調整ピン)の斜視図である。
【
図12】
図9に示したθ調整部を収めるベースプレートの孔部の平面図である。
【
図13】
図7に示した位置調整機構のX調整部の破断斜視図である。
【
図14】
図13に示したX調整部に備わるスリーブの斜視図である。
【
図15】
図13に示したX調整部に備わる調整ピン(X調整ピン)の偏心面とスリーブの受圧面との関係を示す拡大平面図である。
【
図16】一実施形態の変形例に係る位置調整機構のX調整ピンのカム面とスリーブの受圧面との関係を示す拡大平面図である。
【
図17】
図2に示したインクジェットヘッドのキャリッジへの取付方法を示す斜視図である。
【
図18】
図9に示したθ調整部によるθ方向の調整方法を示す動作説明図である。
【
図19】
図13に示したX調整部によるX方向の調整方法を示す動作説明図である。
【
図20】
図15に示したX調整ピンの回転角とノズル列に与えるX方向の変位量との関係を示す説明図である。
【
図21】本開示の他の実施形態に係るプリンタに備わるインクジェットヘッドの平面図である。
【
図22】
図21に示したインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【
図23】
図21に示したインクジェットヘッドに備わる位置調整機構の構成を概略的に示す分解斜視図である。
【
図24】
図23に示した位置調整機構の組立後の外観を示す斜視図である。
【
図25】
図23に示した位置調整機構のX調整部の拡大部分断面図である。
【
図26】
図25に示したX調整部に備わるスリーブの(A)上方斜視図および(B)下方斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
<1.第1実施形態>
[プリンタ1の全体構成]
図1は、本開示の一実施形態に係るプリンタ1の内部構造を、斜視図により概略的に示す。プリンタ1は、被記録媒体である記録紙Pに対し、インクにより画像または文字等の記録(印刷)を行うインクジェット方式のプリンタである。
【0013】
プリンタ1は、
図1に示したように、一対の搬送機構2a,2bと、インクタンク3と、インクジェットヘッド4と、供給チューブ5と、走査機構6と、を備える。これらの部品または部材は、
図1に点線によりその外形を模式的に示す筺体10に収容されている。ここで、以下に参照される各図では、部品または部材の大きさを図示の便宜上適宜変更しており、それらの部品等の相互またはプリンタ1全体に対する比率は、実際の縮尺を正確に示すものではない。
【0014】
プリンタ1は、本開示に係る「液体噴射記録装置」の一具体例であり、インクジェットヘッド4は、本開示に係る「液体噴射ヘッド」の一具体例である。
【0015】
(搬送機構2a,2b)
搬送機構2a,2bは、記録紙Pを所定の搬送方向d(
図1では、X方向)に沿って搬送する。搬送機構2a,2bはそれぞれ、グリッドローラ21およびピンチローラ22を備えるとともに、図示しない駆動機構を備える。グリッドローラ21およびピンチローラ22は、いずれもその回転軸がY方向(記録紙Pをその幅方向に横断する方向であり、記録紙Pの搬送方向dに対して垂直な方向)に沿うように配設されている。駆動機構は、グリッドローラ21を駆動し、これを軸周りに、つまり、Z-X面内で回転させる機構であり、動力源として、例えば、電気モータを備える。本実施形態では、電気モータとグリッドローラ21とが、適宜の動力伝達媒体を介して接続されている。
【0016】
(インクタンク3)
インクタンク3は、インクを色別に収容する。本実施形態では、インクタンク3として、複数の色、例えば、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)およびブラック(K)の4色のインクを個別に収容する、4種類のインクタンク3Y、3M、3C、3Kが設けられる。これらのインクタンク3Y,3M,3C,3Kは、筺体10の内部において、X方向に並べて配置される。インクタンク3Y,3M,3C,3Kは、いずれも収容するインクの色以外については同一の構成である。よって、以下の説明では、インクタンク3と総称する。
【0017】
(インクジェットヘッド4)
インクジェットヘッド4は、複数の噴射孔を有し、インクタンク3から供給チューブ5を介して受容したインクを、これら複数の噴射孔から、記録紙Pに向けて液滴として噴射し、画像または文字等の記録を行う。本実施形態では、複数の、例えば、12のインクジェットヘッド4が設けられており(
図2を参照)、各インクジェットヘッド4に対し、イエロー、マゼンダ、シアンおよびブラックのうち1色または2色のインクが供給される。プリンタ1に備わるインクジェットヘッド4の数は、12に限らず、これより多くても少なくてもよい。
【0018】
(走査機構6)
走査機構6は、インクジェットヘッド4を、記録紙Pの幅方向(つまり、Y方向)に走査させる。走査機構6は、Y方向に延設された一対のガイドレール31,32と、ガイドレール31,32上を移動可能に支持されたキャリッジ33と、キャリッジ33をY方向に移動させる駆動機構34と、を備える。駆動機構34は、動力源として電気モータ35を備えるとともに、図示しない一対のプーリに掛け渡された無端ベルト36と、を備える。キャリッジ33が無端ベルト36に取り付けられており、電気モータ35の動力が無端ベルト36を介してキャリッジ33に伝達されることで、キャリッジ33がガイドレール31,32上をY方向に移動する。
【0019】
本実施形態では、走査機構6と先に述べた搬送機構2a,2bとにより、インクジェットヘッド4と記録紙PとをX-Y面内で相対的に移動させる、本開示に係る「駆動機構」の一具体例が構成される。
【0020】
(キャリッジ33)
図2および
図3は、複数のインクジェットヘッド4が取り付けられたキャリッジ33を示し、
図2は、そのような状態のキャリッジ33を斜視図により、
図3は、平面図により、夫々示す。
【0021】
本実施形態では、キャリッジ33に対し、複数の、具体的には、12のインクジェットヘッド4が取り付けられる。インクジェットヘッド4は、全体として直方体をなし、X-Y面に対して垂直な平面視で、X方向にインクジェットヘッド4の長辺が、Y方向にインクジェットヘッド4の短辺が配置される。このような配置のもと、キャリッジ33のX方向に沿って3つのインクジェットヘッド4が設けられ、Y方向に4つのインクジェットヘッド4が設けられる。Y方向に並ぶ3つのインクジェットヘッド4は、Y方向の位置が揃うように配置され、X方向に並ぶ4つのインクジェットヘッド4は、互い違いに配置される。このように、キャリッジ33において、複数のインクジェットヘッド4は、Y方向に千鳥状に配置される。
【0022】
[インクジェットヘッド4の詳細構成]
図2および
図3に加え、
図4および
図5をさらに参照して、インクジェットヘッド4の構成の詳細について説明する。
図4、
図5は、インクジェットヘッド4の構成を、夫々平面図または分解斜視図により示す。
図5は、説明の便宜上、カバー42の図示を省略している。
【0023】
インクジェットヘッド4は、概して、複数の噴射孔40Hを有するヘッドモジュール40と、キャリッジ33およびヘッドモジュール40の間に介在し、ヘッドモジュール40を支持するベースプレート41と、キャリッジ33に対する噴射孔40Hの位置を調整する位置調整機構Mと、ヘッドモジュール40を覆うカバー42と、を備える。ヘッドモジュール40は、本開示に係る「ノズル部」の一具体例であり、ベースプレート41は、本開示に係る「支持部材」の一具体例である。
【0024】
(ヘッドモジュール40)
図6は、インクジェットヘッド4の内部構造を、X-Z面による断面立面図により概略的に示す。本実施形態において、インクジェットヘッド4は、ヘッドモジュール40に加え、電子制御盤43を備える。ヘッドモジュール40は、ヘッドチップ400を備えるとともに、導入ポート44および排出ポート45を備え、導入ポート44から排出ポート45へ向かうインクの流路が形成され、この流路から分岐して、噴射孔40Hが設けられる。
図6は、噴射孔40Hから吐出されるインクの液滴9を示す。
【0025】
ヘッドチップ400は、導入ポート44を介して受容したインクを、噴射孔40Hから記録紙Pに向けて噴射することにより、そのインク(液滴9)を記録紙に付着させる。ヘッドチップ400は、例えば、電子制御盤43よりも遠い側、つまり、図示しない記録紙Pに近い側から順に積層されたノズルプレート401、アクチュエータプレート402およびカバープレート403を備える。
【0026】
ノズルプレート401は、噴射孔40Hとなる複数の連通孔を有する。本実施形態において、これら複数の連通孔は、X方向に並んで配置される。これにより、ノズルプレート401は、X方向に延びるノズル列を有する(
図5)。ただし、
図6は、説明の便宜上、図示を簡略化し、1つの連通孔(つまり、噴射孔40H)のみを示す。ヘッドモジュール40がベースプレート41に取り付けられた状態で(
図4)、ヘッドモジュール40は、噴射孔40Hを有する面がベースプレート41の裏面S2側または下方に臨み、インクをZ方向に噴射する。
【0027】
アクチュエータプレート402は、噴射孔40Hに連通する複数の噴射チャネルを有し、記録紙Pへの記録(印刷)時において、インク9が導入された噴射チャネル内の圧力を電気的に変化させることにより、その噴射チャネル内のインクを噴射孔40Hに向けて押し出し、噴射孔40Hから外部に噴射させる。
【0028】
カバープレート403は、複数のスリットを有し、アクチュエータプレート402(具体的には、噴射チャネル)に対し、これら複数のスリットを介してインク9を導入させる。
【0029】
(ベースプレート41)
ベースプレート41は、キャリッジ33に固定され、ヘッドモジュール40を支持する。本実施形態において、ベースプレート41は、略矩形の板状部材により構成され、全体として平板状をなす。ペースプレート41は、さらに、長辺方向(
図5では、X方向)の両端部に、位置調整機構が組み付けられる位置決め領域41Rを有する。
【0030】
平板状のベースプレート41は、表面S1と、表面S1と反対を向く裏面S2と、を有し、表面S1にカバー42が取り付けられる。ベースプレート41の厚み方向(
図5では、Z方向)は、噴射孔40Hからのインクの噴射方向に合致する。ベースプレート41は、表面S1および裏面S2の四辺を囲む長形状の外周縁41Eを有する。本実施形態では、ベースプレート41の外周縁41Eを構成する一対の短辺(Y方向に延在する辺)の一方に、周囲の外周縁41EよりもX方向に突出する第1突当部41Aが設けられる。他方で、ベースプレート41の外周縁41Eを構成する一対の長辺(X方向に延在する辺)の一方に、周囲の外周縁41EよりもY方向に突出する第2突当部41Bが設けられる。突当部41A,41Bは、インクジェットヘッド4をキャリッジ33に取り付ける際に、キャリッジ33に形成されるベースプレート挿入孔の内壁のうち、所定の箇所に突き当てられる。これにより、キャリッジ33に対するベースプレート41(つまり、噴射孔40H)の大よその位置が決定される。
【0031】
ベースプレート41の中央部には、ヘッドモジュール40が挿入される挿入孔410が設けられる。挿入孔410は、ベースプレート41を厚み方向に貫通し、ベースプレート41をヘッドモジュール40の挿入方向(
図5では、Z方向)に見た平面視で、ヘッドモジュール40の外形と合致する形状を有する。挿入孔410の長辺は、外周縁41Eの長辺と略平行に形成され、挿入孔410の短辺は、外周縁41Eの短辺と略平行に形成される。本実施形態では、2つの挿入孔410がY方向に並べて設けられており、これにより、ベースプレート41毎に2つのヘッドモジュール40を搭載することが可能である。
【0032】
ベースプレート41は、長辺方向(X方向)の両端部に、位置決め領域41Rを有する。位置決め領域41Rは、後に述べる位置調整機構Mを組み付ける領域であり、位置調整機構Mは、キャリッジ33に対するベースプレート41の相対的な位置を調整することにより、キャリッジ33に対する噴射孔40Hまたはノズル列の位置を間接的に調整する。本実施形態では、位置決め領域41Rは、
図4に示す平面視で、ヘッドモジュール40およびカバー42の外側、具体的には、長辺方向またはX方向の外側に設けられる。
【0033】
(電子制御盤43)
電子制御盤43は、インクジェットヘッド4全体の動作を制御する。本実施形態において、電子制御盤43は、回路基板431、駆動回路432およびフレキシブル基板433を備える。回路基板431は、ヘッドチップ400に立設され、駆動回路432は、集積回路(IC)等の電子部品を含み、回路基板431に設けられる。フレキシブル基板433は、ヘッドチップ400および駆動回路432に接続される。
【0034】
(カバー42)
カバー42は、電子制御盤43を包囲するように、ベースプレート41(具体的には、表面S1)上に設置され、電子制御盤43へのインク9の付着を防止する。本実施形態において、カバー42は、直方体の箱型をなし、ベースプレート41の長辺方向(X方向)に沿ってカバー42の長辺が配置される。
【0035】
[位置調整機構M1の詳細構成]
図7は、本実施形態に係る位置調整機構M1の構成を分解斜視図により概略的に示し、
図8は、位置調整機構M1の組立後の外観を斜視図により概略的に示す。本実施形態では、位置調整機構M1により、キャリッジ33に対する噴射孔40Hの位置を調整する。位置決めを行う方向として、回転方向(θ方向)と並進方向(X方向)とが定められ、各方向の位置決めを達成する手段として、θ方向の調整機構(以下「θ調整部」という)と、X方向の調整機構(以下「X調整部」という)と、が設けられる。ただし、θ調整部は、操作の方法次第では、Y方向の調整機構として動作させることも可能である。さらに、本実施形態では、両端に備わる位置調整機構M1、M2で構成が異なる。具体的には、
図4に示すように、一方の側(
図4中、右側)に備わる位置調整機構M1は、θ調整部およびX調整部の双方を備え、他方の側(同図中、左側)に備わる位置調整機構M2は、θ調整部およびX調整部のうち、θ調整部のみを備える。位置調整機構M1、M2のそれぞれに備わるX調整部は、同じ構成のものである。
【0036】
(θ調整部)
θ調整部は、概して、キャリッジピン411およびバネ412により構成される。キャリッジピン411は、本開示に係る「基準部材」の一具体例であり、本実施形態では、θ調整用の位置調整部材であるとともに、X調整用の基準部材を兼ねる。バネ412は、本開示に係る「付勢部材」の一具体例であり、本実施形態では、線バネにより構成される。位置決め領域41Rに、ベースプレート41を厚さ方向に貫通する孔部Hおよびネジ孔41SHが設けられ、キャリッジピン411およびバネ412は、孔部Hに収められる。
【0037】
図9は、θ調整部の拡大平面図であり、キャリッジピン411およびバネ412を、孔部Hに収められた状態で示す。
【0038】
孔部Hは、ベースプレート41の表面S1側に開口する有底穴Haと、ベースプレート41を厚み方向に貫通する貫通穴Hbと、を有する。ベースプレート41の表面S1と裏面S2との間、つまり、ベースプレート41の厚み方向の途中に、有底穴Haの着座面41Zが設けられる。着座面41Zには、表面S1側に突出した凸部Hpが設けられる。有底穴Haと貫通穴Hbとは、互いに連通し、表面S1側に開口する一体の空間を形成する。
【0039】
ネジ孔41SHは、ベースプレート41を厚み方向に貫通し、ネジ46(
図5)が挿通される。ネジ46は、ネジ孔41SHを介して、キャリッジ33に設けられたネジ孔に挿通され、後に述べるX調整部のスリーブ414を共締めする。つまり、ネジ46により、キャリッジ33に対してベースプレート41が固定されるとともに、スリーブ414が固定される。
【0040】
図10は、キャリッジピン411の斜視図である。キャリッジピン411は、先に述べたように、θ方向の位置調整を行うθ調整用の位置調整部材であるとともに、X調整用の位置調整部材を兼ねる。本実施形態では、キャリッジピン411が、バネ412とともに、ベースプレート41の外周縁41Eの内側、具体的には、孔部Hに収められる。
【0041】
本実施形態において、キャリッジピン411は、その中心軸に沿って、
図10における上方から下方に向けて、軸部4111、偏心部4112、中間部4113および軸部4114を、この順に有する。偏心部4112は、キャリッジピン411の中心軸に対して偏心した外周面またはカム面4112aを有する。偏心部4112および偏心部4112よりも小径の中間部4113が孔部Hに収まり、ベースプレート41の厚みの範囲内に収容される。キャリッジピン411は、キャリッジ33の裏面から貫通穴Hbを介してベースプレート41に取り付けることが可能である。キャリッジピン411が孔部Hに収められた状態で、軸部4111は、孔部Hから、表面S1側に、つまり、Z方向に突出する。後に述べるように、軸部4111は、X調整部の調整ピン(例えば、偏心ピン421)と協働して、噴射孔40HのX方向の位置調整に寄与する。
【0042】
他方で、軸部4114は、キャリッジ33の軸孔に挿入される。本実施形態において、軸部4114は、キャリッジ33の中心軸に対して垂直な断面が真円形であり、軸孔に挿入された状態で、キャリッジピン411の中心軸周りに回転可能である。つまり、キャリッジピン411は、キャリッジ33の軸孔により、回転可能に軸支される。これにより、キャリッジ33に対するキャリッジピン411のXおよびY方向、つまり、平面方向の位置が固定される。
【0043】
図11は、偏心部4112の、キャリッジピン411の中心軸Cに対して垂直な平面による断面図である。本実施形態において、偏心部4112は、外周面がカム面として形成され、この外周面に、回転の中心軸、つまり、キャリッジピン411の中心軸Cからの距離が不連続に変化する段差部4112sが設けられる。つまり、偏心部4112は、中心軸Cから外周までの距離r1が最も短い回転初期部4112aと、中心軸Cから外周までの距離r2が距離r1よりも長い回転終端部4112bと、を有し、回転初期部4112aから回転終端部4112bに向けて、中心軸Cからの距離が単調的に増加する。回転初期部4112aとこれに隣接する回転終端部4112bとの間に、半径を不連続に変化させる部分として、段差部4112sが形成される。
【0044】
バネ412は、孔部Hの有底穴Haに設けられる(
図9)。バネ412は、キャリッジピン411とベースプレート41との間に介在して、キャリッジピン411を介してベースプレート41をキャリッジ33に向けて付勢する。バネ412の付勢を受けることで、キャリッジ33に対するベースプレート41、つまり、噴射孔40Hのθ方向の大よその位置が決定される。さらに、θ調整のためにキャリッジピン411を回転させた場合に、ベースプレート41にがたつきが生じるのを抑制することが可能である。
【0045】
バネ412は、凸部Hpと有底穴Haの内壁との間に挟持され、凸部Hpにより、有底穴Haでの位置が固定される。バネ412は、屈曲部を有し、屈曲部から先の部分が孔部Hの内方に突出して、キャリッジピン411の偏心部4112(具体的には、外周面)に当接する。偏心部4112は、回転初期部4112aが、孔部Hの内壁の一部として形成されるベースプレート41の第2受圧面Sp2に当接し、バネ412により、第2受圧面Sp2に押し付けられた状態にある。この反力がバネ412を介してベースプレート41に及び、ベースプレート41を付勢する。
【0046】
図12は、ベースプレート41の孔部Hの平面図である。先に述べたように、孔部Hは、有底穴Haと貫通穴Hbとを有し、有底穴Haは、例えば、四角形の平面形状を有し、貫通穴Hbは、大径部Hb1と小径部Hb2とからなる鍵穴状の平面形状を有する。小径部Hb2の寸法は、キャリッジピン411の中間部4113の外径に合致する。
図12に示すZ方向の平面視で、有底穴Haの方が貫通穴Hbよりも大きく、有底穴Haの外周縁の内側に貫通穴Hbの外周縁が存在する状態にある。さらに、有底穴Haの外周縁を形成する内壁の一部に、キャリッジピン411の偏心部4112が当接する第2受圧面Sp2が設けられる。
【0047】
本実施形態において、第2受圧面Sp2は、キャリッジピン411の中心軸Cの位置から距離d1の位置にある。距離d1は、偏心部4112の回転初期部4112aの、中心軸Cからの距離r1と同じである。よって、キャリッジピン411を設置し、回転初期部4112aを第2受圧面Sp2に当接させた状態から(
図9に示す時計回りに)回転させていくことにより、中心軸Cから第2受圧面Sp2までの距離が拡大する。これにより、キャリッジ33に対するベースプレートのY方向の変位が得られる。
【0048】
(X調整部)
図13は、X調整部の破断斜視図である。同図を参照して、本実施形態に係る位置調整機構M1のX調整部について、詳細に説明する。
【0049】
X調整部は、キャリッジピン411と、偏心ピン421と、スリーブ(本実施形態では、ピンに被せられまたは嵌め込まれる部材であることから、「ソケット」とも呼び得る)425と、を備える。キャリッジピン411は、先に述べたように、本開示に係る「基準部材」の一具体例であり、本実施形態では、下方の軸部4114がキャリッジ33の軸孔に挿入される。キャリッジピン411は、軸部4114がキャリッジ33の軸孔に挿入された状態で、キャリッジ33に対してキャリッジピン411の中心軸C周りに回転可能であるとともに、キャリッジ33に対するX-Y方向の位置、つまり、平面方向の位置が固定される。偏心ピン421は、本開示に係る「位置調整部材」の一具体例であり、ベースプレート41に対し、回転可能に連結される。スリーブ425は、本開示に係る「仲介部材」の一具体例であり、キャリッジピン411と偏心ピン421との間に介装される。本実施形態では、偏心ピン421に、その回転の中心軸に対して偏心させた外周面を有する偏心部4212を形成し、偏心部4212の外周面が及ぼす偏心の作用を、スリーブ425を介してキャリッジピン411(具体的には、その上方の軸部4111)に伝達させ、その反力により、ベースプレート41をキャリッジ33上で移動させる。
【0050】
(偏心ピン421)
図13に示すように、偏心ピン421は、上下夫々の側に軸部4211、4213を有するとともに、これらの軸部4211、4213の間に偏心部4212を有する。軸部4211、4213は、互いに同軸に形成され、偏心部4212は、軸部4211、4213の中心軸に対して偏心させた外周面を有する。軸部4211、4213の中心軸は、偏心ピン421全体の中心軸となり、本実施形態では、キャリッジピン411の中心軸に対して平行である。本実施形態では、さらに、下方の軸部4213が、上方の軸部4211よりも小径であり、ベースプレート41の軸孔に挿入される。偏心部4212は、上方の軸部4211よりも大径である。軸部4213がベースプレート41の軸孔に挿入された状態で、偏心ピン421は、少なくとも軸部4213(好ましくは、偏心部4212を含む偏心ピン421全体)がベースプレート41の外縁部41Eよりも内側にあり、ベースプレート41に対して中心軸周りで回転可能である。
【0051】
(スリーブ425)
図14は、スリーブ425の斜視図であり、スリーブ425全体の外観を示す。本実施形態において、スリーブ425は、キャリッジピン411に取り付けられる。具体的には、スリーブ425は、大まかには、本体部4251と、本体部4251の両側に張り出す張出部4252と、からなる。スリーブ425は、本体部4251を上下に貫通する貫通孔h1が設けられ、キャリッジピン411の上方の軸部4111がこの貫通h1に挿入されることにより、スリーブ425がキャリッジ411に取り付けられる。挿入孔h1の断面形状は、挿入孔h1が受ける軸部4111の断面形状に合致し、挿入孔h1と軸部4111とは、がたつきなく密に嵌合する。両側の張出部4252を挿入孔h1と同じ方向に貫通するのは、スリーブ425をベースプレート41とともにキャリッジ33に共締めするネジを挿通させるためのネジ孔h2である。
【0052】
本実施形態では、スリーブ425の本体部4251の側面に、挿入孔h1の中心軸、つまり、キャリッジピン411の中心軸に対して平行に配置される第1受圧面Sp1が形成される。第1受圧面Sp1は、スリーブ425がキャリッジピン411に取り付けられた状態で、X調整によるベースプレート41および噴射孔40Hの移動方向に向き、換言すれば、第1受圧面Sp1の法線が、ベースプレート41の移動方向に対して平行である。
図13に示すように、第1受圧面Sp1に対して偏心ピン421の偏心部4212(具体的には、その外周面)が突き当てられる。この状態で、偏心ピン421をその中心軸周りに回転させることにより、偏心部4212の作用をスリーブ425に及ぼし、スリーブ425を介してキャリッジピン411に伝達させることが可能である。本実施形態では、第1受圧面Sp1と先に述べた第2受圧面Sp2とは、互いに垂直な方向に向けられる。具体的には、第1受圧面Sp1の向きは、ベースプレート41の移動方向であるノズル列方向に対して平行であり、第2受圧面Sp2の向きは、ノズル列方向に対して垂直である。
【0053】
さらに、本実施形態では、スリーブ425の本体部4251に、偏心ピン421の偏心部4212を、ベースプレート41に対する遠位側から係止する係止部4253を有する。これにより、偏心部4212は、係止部4253とベースプレート41の表面S1とで上下から挟み込まれた状態となる。換言すれば、スリーブ425は、本体部4251の側面に、偏心部4212の一部が挿入される陥凹部Rを有し、偏心部4212の外周面が向き合う陥凹部Rの底面に、第1受圧面Sp1が形成される。
【0054】
図15は、偏心ピン421の偏心部4212(4212a)とスリーブ425の第1受圧面Sp1との関係を、拡大断面図により示す。スリーブ425本体の陥凹部Rに偏心部4212aの外周縁に近い一部が挿入され、偏心部4212aの外周面が、陥凹部Rの底面、つまり、スリーブ425の第1受圧面Sp1に当接する。ここで、偏心部4212aの回転角と偏心の作用によるベースプレート41の移動量との間には、偏心ピン421の中心軸に対する偏心部4212aの偏心量に応じた関係がある。
図20は、そのような関係の一例を示す。例えば、偏心部4212aの回転角を表示する表示部を設けることにより、ベースプレート41の移動方向(本実施形態では、X方向)へのベースプレート41およびノズル列の実際の移動量を把握することが可能である。そのような表示部として、
図15は、ダイヤル状の表示部I1を例示する。
【0055】
X方向の位置調整は、偏心の作用によるばかりでなく(例えば、偏心ピン421(421a)による)、カムの作用によっても実現可能である。
図16は、本実施形態の変形例に係る位置調整機構M1として、X調整部に
図13および15に示す例とは異なる構成を採用したものを示す。変形例では、X方向の調整ピンとして、偏心ピンに代えてカムピン421bを採用し、偏心部に代えてこのカムピン421bに形成されたカム部4212bを採用する。
図16は、変形例に係るカム部4212bの外周面(カム面)とスリーブ425の第1受圧面Sp1との関係を、
図15と同様の拡大断面図により示す。カム部4212bによる場合は、カムピン421bの回転の中心軸からカム面までの距離であるカムの高さを、回転方向の略一回りに亘って単調的に増加させまたは減少させることが可能である。よって、偏心の作用による先の例と比較して、所定の移動量を達成するのに必要な、単位回転角当たりの移動量を小さく抑え、より精密な位置決めの実現に資することが可能である。
【0056】
[インクジェットヘッド4の取付方法]
図17は、本実施形態に係るインクジェットヘッドのキャリッジへの取付方法を、位置決め領域41Rの斜視図により示す。
図17は、説明の便宜上、スリーブ425の図示を省略している。既に述べたように、スリーブ425は、キャリッジピン411に対して上方から被せられ、ネジ46により、キャリッジ33に対してベースプレート41とともに共締めされる。
【0057】
初めに、ベースプレート41の孔部Hに、キャリッジピン411およびバネ412をこの順に収容する。キャリッジピン411は、軸部4111および偏心部4112を貫通穴Hbの大径貫通穴部分Hb1に対して下方から挿入した後、中間部4113を貫通穴Hbの小径貫通穴部分Hb2に嵌めるように、貫通穴Hb内を移動させる(
図12)。バネ412は、有底穴Haの着座面に載せ、
図9に示すように、凸部Hpと有底穴Haの内壁との間に嵌め込む。
【0058】
次いで、ベースプレート41の裏面S2から突出したキャリッジピン411の軸部4114をキャリッジ33の軸孔33Hに挿入する。これにより、キャリッジピン411がキャリッジ33の軸孔33Hに軸支される。
【0059】
さらに、ベースプレート41をキャリッジ33に載置すると、キャリッジピン411(具体的には、偏心部4112)に当接するバネ412が、キャリッジ33の軸孔33Hに軸支されたキャリッジピン411を付勢する。この反力によりベースプレート41が付勢され、ベースプレート41の突当部41A,41Bが、キャリッジ33の所定の部位に突き当てられ、キャリッジ33に対するベースプレート41、つまり、噴射孔40HのX-Y面内での大よその位置が定められる。ここで、有底穴Haの内壁に設けられた第2受圧面Sp2上に、キャリッジピン411の偏心部4112のうち、回転初期部4112aが配置される。
【0060】
続いて、
図18に示すように、キャリッジピン411を回転させることにより、噴射孔40HのX-Y面内での回転方向(つまり、θ方向)の位置を調整する。キャリッジピン411を回転させる方向と、キャリッジピン411の回転により生じる噴射孔40Hの変位方向と、の関係は、偏心面またはカム面の設計による。キャリッジピン41の回転により、第2受圧面Sp2を押圧する偏心面の、キャリッジピン411の中心軸Cからの距離が長くなるほど、中心軸Cと第2受圧面Sp2との距離が延長され、ベースプレート41が移動する。本実施形態では、
図9の紙面上で時計回りの回転が許容される一方、これとは反対の反時計回りの回転は、キャリッジピン411の段差部4112sが孔部H内壁の係合部Eに突き当たることにより規制される。これにより、使用者による誤った方向への回転が防止される。ここで、位置決め領域41Rの一方のキャリッジピン411を回転させると、ベースプレート41に、他方の位置決め領域41Rのキャリッジピン41を支点とする回転が生じる。このように、各側の位置決め領域41Rに設けられたキャリッジピン411を適宜に回転させることで、ベースプレート41および噴射孔40Hの回転方向の位置を調整することができる。
【0061】
回転方向の位置調整(θ調整)の後またはこれと並行して、並進方向(本実施形態では、X方向)の位置調整を行う。
【0062】
図19に示すように、偏心ピン421を回転させることにより、噴射孔40HのX方向の位置を調整する。θ調整の場合と同様に、偏心ピン421を回転させる方向と、偏心ピン421の回転により生じるベースプレート41の変位方向と、の関係は、偏心面またはカム面の設計による。偏心ピン41の回転により、第1受圧面Sp1を押圧する偏心面の、偏心ピン421の中心軸からの距離が長くなるほど、中心軸と第1受圧面Sp2との距離が延長され、ベースプレート41が移動、つまり、後退する。
【0063】
噴射孔40Hを位置調整の完了後、
図17に示したように、ネジ孔41SHにネジ46を挿入し、インクジェットヘッド4をキャリッジ33に固定する。キャリッジ33に、複数のインクジェットヘッド4を取り付けるときは、以上の位置調整を各インクジェットヘッド4について繰り返し、その後、ネジ止めにより固定する。このようなインクジェットヘッド4の取り付けは、例えば、プリンタ1の製造時およびインクジェットヘッド4の交換時等に実施される。
【0064】
[動作および作用・効果]
(A.プリンタ1の基本動作)
本実施形態では、プリンタ1により、記録紙Pに対する画像および文字等の印刷を行う。初期状態として、
図1に示した4種類のインクタンク3には、対応する色(4色)のインクが充分に封入されているものとする。さらに、インクジェットヘッド4には、対応する色のインクが既に充填された状態にあるものとする。
【0065】
初期状態において、プリンタ1を作動させると、搬送機構2a,2bのグリッドローラ21が回転し、記録紙Pがグリッドローラ21とピンチローラ22と間に挟持され、搬送方向d(X方向)に搬送される。このような搬送動作と同時に、駆動機構34の電気モータ38が駆動し、プーリ35,36を回転させることにより、無端ベルト37を介してキャリッジ33を移動させる。キャリッジ33は、ガイドレール31,32により案内されて、記録紙Pの幅方向(Y方向)に往復移動する。このように、記録紙Pとキャリッジ33との相対的な位置関係が変化するなかで、インクジェットヘッド4から記録紙Pにインクを適宜吐出させることで、記録紙Pに対する画像および文字等の印刷が達成される。
【0066】
(B.ヘッドモジュール40における動作)
ヘッドモジュール40において、導入ポート44から排出ポート45に向かうインク9の流路が形成され、その流路から分岐して、複数の噴射孔40Hにインクが供給される。ここで、導入ポート44を介してこの流路に導入されたインク9のうち、一部は、排出ポート45に向けて流路を流れ、他の一部は、記録時に噴射孔40Hに導入され、記録紙Pに向けて噴射される。
【0067】
(C.作用・効果)
本実施形態に係る液体噴射ヘッド(インクジェットヘッド4)は、以上の構成を有し、以下に、本実施形態により得られる効果について説明する。
【0068】
第1に、スリーブ425を設け、スリーブ425に、ベースプレート41の移動方向に向く第1受圧面Sp1を形成し、さらに、スリーブ425をキャリッジピン411に取り付けるとともに、偏心ピン421を、スリーブ425の第1受圧面Sp1に当接させた。これにより、位置決めのための偏心ピン421の回転に伴い、偏心ピン421のキャリッジピン411に対する位置にずれが生じたとしても、例えば、ベースプレート41の移動方向以外の方向(具体的には、移動方向に対して垂直な方向)にずれが生じたとしても、偏心ピン421により第1受圧面Sp1を垂直に押圧することが可能となる。よって、位置関係のずれによらず、インクジェットヘッド4、つまり、噴射孔40Hを、キャリッジ33に対し、所望の方向(ベースプレート41の移動方向であり、本実施形態では、複数の噴射孔40Hが並ぶノズル列方向)に移動させることができる。
【0069】
第2に、位置調整機構M1およびM2を、ベースプレート41のうち、その平面方向、例えば、X-Y面の平面方向の外縁41Eよりも内側に設けた。これにより、インクジェットヘッド4の占有が及ぶ空間の縮小を図ることが可能となるので、インクジェットヘッド4を、空間効率的に配置することができる。
【0070】
ただし、位置調整機構M1およびM2が設けられる位置は、ベースプレート41の外縁41Eの内側に限定されるものではなく、外縁41E上または外縁41Eよりも外側に設けることも可能である。例えば、位置調整機構M1のうち、θ調整部を外縁41Eの内側に設ける一方、X調整部または偏心ピン421を外縁41Eの外側に設けることができる。
【0071】
第3に、スリーブ425をキャリッジピン411に取り付け、偏心ピン421の偏心させた外周面(偏心部4212)を、スリーブ425の第1受圧面Sp1に当接させた。これにより、キャリッジピン411の回転に基づく偏心の作用を、キャリッジピン411に対してより直接的に伝達させることが可能となるので、噴射孔40Hのより細かな位置決めが可能となる。
【0072】
さらに、偏心ピン421aに代えてカムピン421bを採用し、カムピン421bの外周に設けたカム面を第1受圧面Sp1に当接させたことで、カムの特性により、カムピン421bの回転に要する力の増大を抑えながら、キャリッジ33に対するベースプレート41および噴射孔40Hの移動量の拡大を図ることができる。そして、カムの作用による場合は、噴射孔40Hの所定の移動量を達成するのに必要な、カムピン421bの単位回転角当たりの噴射孔40Hの移動量を小さく抑え、より精密な位置決めの実現に資することが可能である。
【0073】
第4に、スリーブ425に係止部4253を設け、偏心ピン411の偏心部4112を、係止部4253により、ベースプレート41に対する遠位側から、つまり、偏心部4112に対してオーバーハングした状態で係止させた。これにより、偏心ピン411のベースプレート41からの脱落をより確実に回避することが可能となるので、噴射孔40Hの位置決めを円滑に行うことができる。
【0074】
第5に、カムピン421bに設けるカムの高さを、カムピン421bの回転方向に単調的に変化させたことで、カムピン421bの回転角とカム面によるベースプレート41の移動量とが対応することになるので、カムピン421bの回転角から、噴射孔40Hの移動量を把握することが可能となる。
【0075】
第6に、ベースプレート41の孔部Hの内面に、ベースプレート41の移動方向、本実施形態では、ノズル列方向とは異なる方向に向く第2受圧面Sp2を形成し、キャリッジピン411の偏心部4112を、第2受圧面Sp2に当接させた。これにより、偏心ピン421による位置調整の方向とは異なる方向への噴射孔40Hの位置決めが可能となり、キャリッジ33に対し、噴射孔40Hをより高い精度で配置することができる。
【0076】
ここで、第2受圧面Sp2の向きを、第1受圧面Sp1が向く方向、つまり、ノズル列方向に対して垂直な方向に設定したことで、噴射孔40Hのノズル列方向の位置調整に加え、これに垂直な方向、例えば、回転方向の位置調整が可能となる。
【0077】
第7に、ベースプレート41の移動方向へのベースプレート41の変位量を表示する表示部I1、I2を設けたことで、ノズル列方向への噴射孔40Hの変位量を確認しながら、位置調整を行うことが可能となるので、噴射孔40Hのより正確な位置決めが可能となる。
【0078】
<2.第2実施形態>
先の実施形態では、「仲介部材」の一具体例であるスリーブ425を、キャリッジ33側の部材(キャリッジピン411)およびベースプレート41側の部材(偏心ピン421)のうち、キャリッジ33側の部材に取り付けた。しかし、仲介部材の配置は、これに限定されるものではなく、他の具体例として、ベースプレート41側の部材に取り付けることも可能である。
【0079】
本実施形態では、そのような形態の一例として、「仲介部材」の他の具体例であるスリーブ431を、ベースプレート41側の部材、例えば、偏心ピン421に取り付ける。
【0080】
ベースプレート41の両端の位置決め領域41Rに、位置調整機構M1、M2が設けられ、両者の位置調整機構M1、M2で構成が異なることは、先の実施形態と同様である。つまり、θ調整部は、双方の位置決め領域41Rに設けられ、X調整部は、一方の位置決め領域41Rにのみ、設けられる。以下に、位置調整機構M1により代表して、説明を行う。
【0081】
図21および
図22は、本実施形態に係るプリンタ1に備わるインクジェットヘッド4の構成を示す。
図21は、インクジェットヘッド4の構成を、平面図により示し、
図22は、分解斜視図により示す。
図23から
図26は、位置調整機構M1の構成を示し、
図23は、分解斜視図により、
図24は、組立後の状態の斜視図により、
図25は、偏心ピン422の中心軸に対して平行な平面による断面図により、夫々示す。
図26は、スリーブ431の構成を、上方斜視図および下方斜視図により示す。
【0082】
本実施形態において、位置調整機構M1のX調整部は、大まかには、「基準部材」の一具体例であるキャリッジピン411と、「位置調整部材」の一具体例である偏心ピン422と、「仲介部材」の一具体例であるスリーブ431と、を備える。これらの要素411、422、431のうち、キャリッジピン411の構成は、基本的には、先の実施形態のものと同様である。
【0083】
(偏心ピン431)
本実施形態では、キャリッジピン411の軸部に取り付けたスリーブ425に代え、偏心ピン422(具体的には、その偏心部4221)に取り付けられるスリーブ431を採用する。
図23および
図25に示すように、偏心ピン422は、偏心部4221と、その下方に伸びる軸部4222と、を備え、軸部4222が、ベースプレート41に設けられた軸孔に挿入される。軸部4222が外径は、偏心部4221の外径よりも小さい。先の実施形態と同様に、偏心ピン422は、軸部4222が軸孔に挿入された状態で、ベースプレート41に対して回転可能である。軸部4222は、軸孔に挿入されて、偏心ピン422の回転の中心軸を形成する。
【0084】
(スリーブ431)
図26(A)に示すように、スリーブ431は、全体として概略円筒状をなす。スリーブ431は、中心軸に沿った一端に、内周から径方向内側へ延びる環状延出部4311を有する。環状延出部4311は、偏心ピン422の偏心部4221の着座面を形成し、スリーブ431が偏心部4221に取り付けられた状態で、偏心部4221とベースプレート41の表面S1との間に挟持される。これにより、スリーブ431を、ベースプレート41に対し、中心軸の方向に固定することが可能である。スリーブ431の周壁4312に、一対の切り欠きNにより残部から隔てられた鉤状起立部4313が設けられ、鉤状起立部4313の先端は、偏心部4221の収容空間を形成する内面よりもスリーブ431の径方向内側に僅かに延びる。この内方突出部4313aが偏心部4221を係止することで、スリーブ431と偏心ピン422とがX調整部による位置調整中に分離するのを抑制することが可能である。さらに、
図26(B)に示すように、スリーブ431の底面に、スリーブ431の中心軸に対して平行に遠位側に延びる舌状突出部4314が形成される。舌状突出部4314は、本開示に係る「回転規制部」の一具体例を構成し、スリーブ431が偏心部4221に取り付けられた状態で、ベースプレート41の一部と係合し、スリーブ431のベースプレート41に対する回転を規制する。本実施形態では、舌状突出部4314は、スリーブの外縁部41Eに係合する。
【0085】
スリーブ431は、偏心ピン422に対し、偏心ピン422の回転の中心軸(軸部4222の中心軸)周りで回転可能に、偏心部4221に取り付けられる。換言すれば、
図25に示すように、スリーブ431は、取り付けられた状態で、その周壁により偏心部4221を包囲する。スリーブ431は、外周の一部が平坦に形成されており、この平坦面により、スリーブ431の中心軸に対して平行な第1受圧面Sp1を形成する。第1受圧面Sp1に対し、スリーブ431が偏心部4221に取り付けられた状態で、キャリッジピン411の軸部4111が当接する。
【0086】
先の実施形態と同様に、θ調整部による回転方向の位置調整を完了した後、X調整部により並進方向、つまり、ノズル列方向またはX方向の位置調整を行う。偏心ピン422を回転させることで、偏心部4221がスリーブ431に対して相対的に回転する。偏心部4221による偏心の作用が、スリーブ431の第1受圧面Sp1を介してキャリッジピン411に及び、その反力により、ベースプレート41および噴射孔40Hが移動する。
【0087】
このように、本実施形態によれば、スリーブ431を偏心部4221に取り付けるとともに、キャリッジピン411の外周面をスリーブ431の第1受圧面Sp1に当接させたことで、キャリッジピン411と偏心ピン422との位置関係のずれによらず、噴射孔40Hを、キャリッジ33に対し、所望の方向(本実施形態では、ノズル列方向)に移動させることが可能となる。
【0088】
そして、「基準部材」の一具体例を具現するための要素(キャリッジピン411)が既に備わる既存のキャリッジ33に対して本実施形態を適用することが可能となるので、本実施形態に係るインクジェットヘッド4およびプリンタ1を、費用効果的に実施することができる。
【0089】
さらに、本実施形態によれば、舌状突出部4314により、ベースプレート41に対するスリーブ431の回転を規制することで、スリーブ431の第1受圧面Sp1を一定の向きに維持することが可能となるので、キャリッジ33に対する噴射孔40Hの移動方向を、より確実に所望の方向に向けることができる。
【0090】
以上の全ての実施形態において、スリーブ425、431を、第1受圧面Sp1に当接する他方の部材(スリーブ425に対する偏心ピン421、スリーブ431に対するキャリッジピン411)とは異なる材料から作成することが可能である。例えば、スリーブ425、431を、他方の部材よりも軟質な材料から作成することで、他方の部材に生じる摩耗を抑制することができる。
【0091】
さらに、スリーブ425、431を、より摺動性のよい材料から作成することが可能となるので、X方向の位置調整をより円滑に、高い精度で行うことができる。スリーブ425、431に適用可能な材料として、ポチコン(登録商標)を例示することが可能である。ポチコンの適用により、スリーブ425、431の摺動性を高めるとともに、耐摩耗性を改善することができる。
【0092】
以上の説明では、ノズル列方向、つまり、X方向の位置調整に関し、ベースプレート41側の部材に偏心面またはカム面を形成し、その偏心またはカムの作用を、スリーブの第1受圧面を介してキャリッジ33側の部材に伝達させることとした。このような構成に限定されず、偏心面等をキャリッジ33側の部材に形成し、その偏心の作用等をもってベースプレート41側の部材を移動させ、噴射孔40Hの位置調整を行うようにすることも可能である。例えば、環状のスリーブをベースプレート41側のピン部材に取り付け、キャリッジピン411に設けられた偏心面またはカム面をスリーブの第1受圧面に当接させるのである。
【0093】
以上の説明では、ベースプレート41の長辺方向の両端部に位置決め領域41Rを設けたが、位置決め領域41Rは、ベースプレート41の長辺方向の一方の端部にのみ、設けるようにしてもよい。さらに、位置決め領域41Rは、長辺方向に端部に限らず、短辺方向の端部に設けることも可能である。
【0094】
さらに、以上の説明では、本開示に係る「液体噴射記録装置」の一具体例として、プリンタ1(インクジェットプリンタ)を挙げたが、これに限定されるものではなく、インクジェット方式以外の方式のプリンタまたはプリンタ以外の装置に、本開示を適用することも可能である。換言すれば、本開示に係る「液体噴射ヘッド」(その一具体例であるインクジェットヘッド4)は、インクジェットプリンタ以外の装置に適用してもよい。本開示に係る「液体噴射ヘッド」が適用可能な例として、ファクシミリまたはオンデマンド印刷機等の装置を挙げることが可能である。
【0095】
以上の記載から導出可能な概念の幾つかを、以下に列挙する。
(1)液体噴射記録装置のキャリッジに取り付けられる液体噴射ヘッドであって、
液体の噴射孔を有するノズル部と、
前記ノズル部を支持する支持部材と、
前記キャリッジに対する前記噴射孔の位置を調整する位置調整機構と
を備え、
前記位置調整機構は、
前記キャリッジに対する位置が固定可能な基準部材と、
前記支持部材に連結され、前記基準部材を押圧し、前記基準部材に対する相対的な距離を変化させることで、前記支持部材を前記キャリッジ上で移動可能に構成された位置調整部材と、
前記基準部材および前記位置調整部材の間に介在する仲介部材と
を備え、
前記仲介部材は、前記基準部材および前記位置調整部材のいずれか一方に取り付けられて、前記支持部材の移動方向に向く第1受圧面を形成し、
前記基準部材および前記位置調整部材のうち、前記一方の部材とは異なる他方が、前記第1受圧面に当接する
液体噴射ヘッド。
(2)前記支持部材は、前記ノズル部の支持領域外に前記液体の噴射方向に貫通する貫通穴を有し、
前記位置調整機構は、前記支持部材のうち、その平面方向の外縁よりも内側に設けられ、
前記基準部材は、前記貫通穴を介して延在する
上記(1)に記載の液体噴射ヘッド。
(3)前記基準部材および前記位置調整部材は、中心軸が互いに平行に配置されたピン部材であり、
前記仲介部材は、前記基準部材に取り付けられて、当該基準部材の中心軸に対して平行な前記第1受圧面を形成し、
前記位置調整部材は、前記支持部材に対して回転可能に連結されるとともに、その中心軸に対して偏心させた外周面または前記中心軸周りの外周にカム面を有し、前記外周面または前記カム面が前記第1受圧面に当接する
上記(1)または(2)に記載の液体噴射ヘッド。
(4)前記仲介部材が、前記偏心させた外周面または前記カム面を有する前記位置調整部材の偏心部を、前記支持部材に対する遠位側から係止する係止部を有する
上記(3)に記載の液体噴射ヘッド。
(5)前記位置調整部材は、その中心軸からカム面までの距離であるカムの高さが、当該位置調整部材の回転方向に単調的に増加または減少する
上記(3)または(4)に記載の液体噴射ヘッド。
(6)前記基準部材および前記位置調整部材は、中心軸が互いに平行に配置されたピン部材であり、
前記位置調整部材は、前記支持部材に対して回転可能に連結されるとともに、その中心軸に対して偏心させた外周面を有する偏心部を備え、
前記仲介部材は、前記位置調整部材に対して相対的に回転可能に前記偏心部に取り付けられて、当該位置調整部材の中心軸に対して平行な前記第1受圧面を形成し、
前記基準部材は、その外周面が前記第1受圧面に当接する
上記(1)または(2)に記載の液体噴射ヘッド。
(7)前記仲介部材は、前記支持部材に対する当該仲介部材の回転を規制する回転規制部を有する
上記(6)に記載の液体噴射ヘッド。
(8)前記基準部材および前記位置調整部材のうち、前記他方の部材が、前記仲介部材とは異なる材料からなる
上記(1)から(7)のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
(9)前記基準部材と前記支持部材との間に介在する付勢部材をさらに備え、
前記支持部材は、前記貫通孔を形成する孔部を有するとともに、前記孔部を形成する内面に、前記支持部材の移動方向とは異なる方向に向く第2受圧面を有し、
前記付勢部材は、前記孔部に収められ、
前記基準部材が、前記キャリッジに回転可能に連結されるとともに、その回転の中心軸に対して偏心させた外周面または前記中心軸周りの外周にカム面を有する第2偏心部を備え、
前記第2偏心部の外周面またはカム面が、前記第2受圧面に当接し、
前記付勢部材が、前記支持部材を、前記第2偏心部が前記支持部材の第2受圧面から受ける反力の方向に付勢する
上記(1)から(8)のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
(10)前記ノズル部が、所定のノズル列方向に並ぶ複数の前記噴射孔を有し、
前記第1受圧面が、前記支持部材の移動方向である前記ノズル列方向に向き、
前記第2受圧面が、前記ノズル列方向に対して垂直な方向に向く
上記(9)に記載の液体噴射ヘッド。
(11)前記支持部材の移動方向への前記支持部材の変位量を表示する表示部をさらに備える
上記(1)から(10)のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
(12)上記(1)から(11)のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドが取り付けられた前記キャリッジと、
前記キャリッジを印刷媒体に対して移動可能に構成された駆動機構と
を備える、液体噴射記録装置。
(13)液体噴射記録装置のキャリッジに取り付けられる液体噴射ヘッドであって、
液体の噴射孔を有するノズル部と、
前記ノズル部を支持する支持部材と、
前記キャリッジに対する前記噴射孔の位置を調整する位置調整機構と
を備え、
前記位置調整機構は、
前記キャリッジに対する位置が固定可能な基準部材と、
前記支持部材に連結され、前記支持部材とともに移動して、前記キャリッジに対する相対的な位置を可変に構成された可動部材と、
前記基準部材および前記可動部材の間に介在する仲介部材と、
を備え、
前記仲介部材は、前記基準部材および前記可動部材のいずれか一方に取り付けられて、前記支持部材の移動方向に向く第1受圧面を形成し、
前記基準部材および前記可動部材のうち、前記一方の部材とは異なる他方が、前記第1受圧面に当接して、前記第1受圧面を前記移動方向に押圧可能であり、
前記可動部材は、当該可動部材が前記第1受圧面からの反力として受ける力または当該可動部材が前記第1受圧面を介して受ける力に基づき、前記支持部材を前記キャリッジ上で移動させる
液体噴射ヘッド。
【符号の説明】
【0096】
1…プリンタ、10…筺体、2a,2b…搬送機構、21…グリッドローラ、22…ピンチローラ、3…インクタンク、33…キャリッジ、4…インクジェットヘッド、40…ヘッドモジュール、400…ヘッドチップ、401…ノズルプレート、40H…ノズル孔、402…アクチュエータプレート、403…カバープレート、41…ベースプレート、41E…外周縁、41R…位置決め領域、41A,41B…突当部、411…キャリッジピン、4111,4114…軸部、4112…偏心部、4113…中間部、412…バネ、421…偏心ピン、4211,4213…軸部、4212…偏心部、425,431…スリーブ、42…カバー、43…電子制御盤、44…導入ポート、45…排出ポート、46…ネジ、S1…表面、S2…裏面、P…記録紙、d…搬送方向。