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  • 特許-分析方法、および分析用キット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】分析方法、および分析用キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/40 20060101AFI20230919BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20230919BHJP
   G01N 1/44 20060101ALI20230919BHJP
   B01L 3/06 20060101ALI20230919BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
G01N1/40
H01L21/304 647Z
H01L21/304 648G
G01N1/44
B01L3/06
G01N1/00 101H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019207974
(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公開番号】P2021081271
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390000686
【氏名又は名称】株式会社住化分析センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 肇
(72)【発明者】
【氏名】塚越 愛樹彦
(72)【発明者】
【氏名】藤村 知也
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-109072(JP,A)
【文献】特開2001-305031(JP,A)
【文献】特開平09-015174(JP,A)
【文献】特開2000-321266(JP,A)
【文献】特表2001-513695(JP,A)
【文献】特開平10-253606(JP,A)
【文献】特開2001-242052(JP,A)
【文献】特開平10-253511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 - 1/44
25/00 -25/72
31/00 -33/46
B01L 1/00 -99/00
H01L21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液を収容する凹部を有し、シリコンのみからなる分析用容器であって、前記凹部の容積は、200mL~1000mLであり、前記凹部の開口部の最小開口幅は、前記凹部の内側における深さの3倍以上である容器に、薬液を収容する収容工程と、
前記収容工程で収容された前記薬液を加熱により蒸発させる蒸発工程と、
前記蒸発工程で蒸発後に前記容器に残留した不純物を回収する回収工程と、
前記回収工程で回収した前記不純物の量を測定する測定工程と、を含む、
薬液中の不純物の分析方法。
【請求項2】
前記薬液が、水、塩酸、硝酸、硫酸、過酸化水素水、アンモニア水、メタノール、エタノール、アセトン、およびこれらの混合物より選ばれる少なくとも1種の薬液である、請求項に記載の薬液中の不純物の分析方法。
【請求項3】
薬液を収容する凹部を有し、シリコンのみからなる分析用容器であって、前記凹部の容積は、200mL~1000mLであり、前記凹部の開口部の最小開口幅は、前記凹部の内側における深さの3倍以上である分析用容器を備える、
薬液中の不純物の分析用キットであって、
前記薬液中の不純物の分析は、請求項1または2に記載の薬液中の不純物の分析方法によって実施される、キット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液中の不純物の分析用容器、薬液中の不純物の分析方法、および、薬液中の不純物の分析用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
超純水、または、電子工業用途に用いられる電子工業薬品、例えば、塩酸、硝酸等には、極めて高い純度が望まれており、これらの薬液中に含まれる金属等の不純物の厳密な管理が要求されている。
【0003】
このような薬液中の不純物を分析する方法としては、合成石英製フラスコ中に薬液を収容し、濃縮操作を行った後で、フラスコ中に残留した不純物を回収し、これを分析する方法が一般的に用いられている。
【0004】
一方、特許文献1には、粒状シリコン中に存在する不純物の量を、シリコン製容器を用いて測定する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、減圧にした密閉容器中のシリコンウエハ上で、薬品を加熱蒸発させる工程を含む、薬品分析法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-107496号公報
【文献】特開平9-15174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
分析用容器として合成石英製フラスコを用いる従来の分析方法には、以下のような問題がある。
【0008】
合成石英製フラスコは、その原材料となる合成石英自体に、アルミニウム、カルシウム等の金属不純物が含まれている。そのため、合成石英製フラスコ中に薬液を収容すると、該フラスコ中に含まれる合成石英由来の金属不純物が、薬液中に移行するという問題がある。
【0009】
また、合成石英製フラスコに含まれる金属不純物の量は、フラスコを製造するために使用する原材料の生産地等の違い、およびフラスコ製造過程で混入する不純物の量等により変動する。したがって、合成石英製フラスコはロットの違いによって、金属不純物の薬液中への移行量に変化が生じ、ひいては、金属不純物の含有量の分析結果に差が生じるという問題がある。
【0010】
合成石英製フラスコのロットの違いに起因する金属不純物の含有量の差は、100ppqレベルの感度よりも高感度が求められる電子工業薬品分野等において小さいことが求められている。容器からの金属不純物の溶出がより少なく、ロット差による不純物含有量の差が小さい分析用容器、および高い精度で不純物含有量を測定できる分析方法が求められている。
【0011】
また、分析に必要な量の薬液を、一度に短時間で濃縮し得る分析用容器として、従来の合成石英製フラスコに代わる分析用容器は、未だ開発されていない。
【0012】
例えば、特許文献1に開示される分析方法は、固体試料の分析方法であり、薬液の分析に適用することは困難である。また、特許文献2に開示される分析方法は、複雑な装置が必要であり、また、一度に十分な量の薬液を処理することができない。
【0013】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、精度の高い、薬液中の不純物の分析用容器、薬液中の不純物の分析方法、および、薬液中の不純物の分析用キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明は、以下の構成からなるものである。
〔1〕薬液を収容する凹部を有し、シリコンからなる、薬液中の不純物の分析用容器。
〔2〕薬液を収容する凹部を有し、シリコンからなる容器に、薬液を収容する収容工程と、前記収容工程で収容された前記薬液を蒸発させる蒸発工程と、前記蒸発工程で蒸発後に前記容器に残留した不純物を回収する回収工程と、前記回収工程で回収した前記不純物の量を測定する測定工程と、を含む、薬液中の不純物の分析方法。
〔3〕前記蒸発工程において、加熱により前記薬液を蒸発させる、〔2〕に記載の薬液中の不純物の分析方法。
〔4〕前記薬液が、水、塩酸、硝酸、硫酸、過酸化水素水、アンモニア水、メタノール、エタノール、アセトン、およびこれらの混合物より選ばれる少なくとも1種の薬液である、〔2〕または〔3〕に記載の薬液中の不純物の分析方法。
〔5〕薬液を収容する凹部を有し、シリコンからなる分析用容器を備える、薬液中の不純物の分析用キット。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、精度の高い、薬液中の不純物の分析用容器、薬液中の不純物の分析方法、および、薬液中の不純物の分析用キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一態様に係る分析用容器の一例を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)のA-A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0018】
〔1.分析用容器〕
(1-1)分析用容器の材質
本発明の一態様に係る分析用容器は、薬液中の不純物を分析するための容器であって、薬液を収容する凹部を有し、シリコンからなる。
【0019】
分析用容器の材料となるシリコンは、高純度化された結晶シリコンであり、単結晶シリコンであっても、多結晶シリコンであってもよいが、より不純物の含有量が少ないという観点から、単結晶シリコンであることが好ましい。シリコン中の金属不純物量は、シリコンウエハから半導体装置を製造する分野において許容されるレベルであることが好ましく、シリコンの金属不純物量は、表面酸化膜領域で各元素ともに0.02ng未満であることが好ましい。
【0020】
分析用容器はシリコンウエハ用のインゴットから成形されているため、従来の合成石英製の分析用容器に含まれる金属成分が、分析対象である薬品に混入することを首尾よく回避することができる。
【0021】
したがって、本発明の一態様に係る分析用容器は、分析対象の薬液外からの不純物の混入が少なく、且つ、ロット差が小さい。そのため、本発明の一態様に係る分析用容器を用いることにより、従来の合成石英製の分析用容器を用いる場合に比して、より高い精度の分析を行うことができる。
【0022】
一例として、分析用容器は、シリコンウエハの材料となるインゴットを、適度な厚さにスライスし、これにより得られる円盤形状のプレートを削り出して凹部を成形することによって製造ができる。インゴットのスライス及び削り出しは、シリコンウエハの製造に用いられる公知のグラインダ等の成形加工装置を用いて行うとよく、削り出した後、公知の方法によって表面を研磨し、仕上げるとよい。
【0023】
シリコンに凹部を成形した後、分析用容器は少なくとも当該凹部の内側を含め、分析用容器を洗浄するとよい。
【0024】
分析用容器の洗浄には、例えば、酸、有機溶剤および水を用いることができ、当該酸としては、フッ化水素酸、硝酸、およびこれらの混酸等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
(1-2)分析容器の形状
図1は、本発明の一態様に係る分析用容器の一例を示す模式図である。図1(a)は、分析用容器10の平面図であり、図1(b)は(a)のA-A矢視線からの断面図である。
【0026】
分析用容器10は、シリコン製プレートの上面に凹部1が設けられている。分析用容器10は、底部2、側壁部3および開口部4を有する。
【0027】
分析用容器10は、その開口部4の開口面積が大きいほど、薬液を速やかに濃縮できるため好ましく、その開口部の面積が小さく、かつ深さが浅い程、濃縮した薬液の回収が容易になるため好ましい。より具体的には、開口部4の開口面積は、133~615cmの範囲内であることが好ましい。
【0028】
開口部4の最小開口幅Rは、例えば、6.5~14cmであることが好ましい。ここで、最小開口幅は、開口部4の内側に内接する円の直径のことを意味する。また、凹部1の深さDは、例えば、1~10cmであり得る。
【0029】
分析用容器10における最小開口幅Rは、凹部1の内側における深さDよりも大きいことが好ましく、深さDの3倍以上であることがより好ましい。このように、分析用容器10における最小開口幅Rと深さDとの比を決定することで、上述のように薬液を速やかに濃縮でき、濃縮した薬液の回収が容易にできるように凹部1の内部の容積を求めることができる。
【0030】
分析用容器10における凹部1の内側が占める容積は、200~1000mLの薬液を収容し得る容積であることが好ましい。一態様に係る分析用容器は、凹部の内側が占める容積が、200mL以上であることで、不純物の濃度を精度よく検出するために必要な薬液の量を収容することができる。また、凹部1の内側が占める容積が、200mL以下であれば速やかに、凹部1の内側に収容した薬液を濃縮することができる。
【0031】
また、底部2および側壁部3の厚さは、特に限定されないが、例えば1~5cmであることが好ましい。
【0032】
分析用容器10の外周径は、特に限定されないが、シリコンウエハを削り出すことで成形される凹部に収容する薬液の量と、加工のし易さとの兼ね合いから、例えば、15~30cmである。
【0033】
凹部1の内側における底面は、限定されるものではないが、分析用容器10の最底面と平行な一平面として成形されていればよい。または、凹部1の内側における底面は、分析のために濃縮した薬液の回収を容易にするために、中央部に窪みがある傾斜面または曲面であってもよい。
【0034】
凹部1の内側における底面の外周を囲む側壁面は、限定されるものではないが、当該底面に対し垂直であってよい。
【0035】
なお、一態様に係る分析用容器は、図1に示す分析用容器10に限定されず、例えば、分析用容器における上面視からの外周の形状は、矩形状などの多角形状であってもよく、楕円形状であってもよく限定されない。同様に凹部における開口部の形状も、矩形状などの多角形状であってもよく、楕円形状であってもよい。
【0036】
〔2.分析方法〕
本発明の一態様に係る薬液中の不純物の分析方法は、薬液を収容する凹部を有し、シリコンからなる容器(分析用容器)に、薬液を収容する収容工程と、前記収容工程で収容された前記薬液を蒸発させる蒸発工程と、前記蒸発工程で蒸発後に前記容器に残留した不純物を回収する回収工程と、前記回収工程で回収した前記不純物の量を測定する測定工程と、を含む。
【0037】
一態様に係る薬液中の不純物の分析方法では、収容工程の前に容器の凹部を洗浄する洗浄工程をさらに含むことが好ましい。
【0038】
以下に、本発明の一態様に係る薬液中の不純物の分析方法の各工程について、詳細に説明する。
【0039】
(2-1)洗浄工程
分析用容器の洗浄には、例えば、酸を用いることができ、当該酸としては、フッ化水素酸、硝酸、およびこれらの混酸等が挙げられる。
【0040】
洗浄工程においては、まず、分析用容器を有機溶剤により洗浄し、その後、酸による洗浄を行うとよい。
【0041】
(2-2)収容工程
収容工程は、上記〔1.分析用容器〕で説明した構成を有する分析用容器の凹部に、薬液を収容する工程である。
【0042】
薬液の収容は、不純物の混入を防ぎ得る任意の注入手段を用いて、凹部の開口部から、薬液を投入することにより実施することができる。
【0043】
凹部に投入する薬液の量は、薬液の純度および凹部の容積に応じて適宜に設定することができるが、例えば、200~1000mLである。
【0044】
(薬液)
本発明の一態様において、分析対象となる薬液の具体例としては、電子工業製品の洗浄に用いられる薬液が挙げられる。電子工業製品の製造分野においては、洗浄に用いられる薬液に含まれる微量の不純物でさえも、コンタミネーションの原因となり得る。
【0045】
薬液には、例えば、水、塩酸、硝酸、硫酸、過酸化水素水、アンモニア水、メタノール、エタノール、アセトン、およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0046】
(2-2)蒸発工程
蒸発工程は、収容工程で収容された薬液を蒸発させて、濃縮する工程である。
【0047】
薬液を蒸発させる方法としては、特に限定されないが、分析用容器をヒーター等の加熱手段で加熱することが好ましい。
【0048】
分析用容器の加熱温度は、薬液を濃縮できる温度であればよく、当該薬液の沸点や蒸発速度に依存し得る。
【0049】
分析用容器の加熱時間は、薬液の種類および量に応じて適宜設定することができる。
【0050】
蒸発工程は、大気圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよいが、蒸発工程は大気圧下で行うことが好ましい。
【0051】
本発明の一態様に係る分析用容器は、シリコンからなるため、熱伝導性に優れる。そのため、慣用の加熱手段で加熱することにより、短時間で効率よく薬液を蒸発させて、濃縮することができる。
【0052】
本発明の一態様に係る分析方法によれば、濃縮操作にかかる時間を短くできることにより、薬液が外部環境に暴露される時間を短くすることができ、このため長時間の曝露に起因して不純物が外部から混入することを防ぐことができる。また、効率よく蒸発処理を行うことができるため、一度に処理し得る薬液の量を増やすことができ、高感度の分析が可能になる。
【0053】
より具体的には、本発明の一態様に係る分析方法によれば、不純物濃度がppqオーダーの薬液中の不純物を分析することができる。
【0054】
(2-3)回収工程
回収工程は、蒸発工程で蒸発後に容器に残留した不純物を、分析試料として回収する工程である。
【0055】
不純物の回収は、従来公知の回収液を用いて行うことができる。このような回収液としては、例えば、予め不純物の含有量が特定された硝酸、塩酸、フッ化水素酸、硫酸、リン酸、過酸化水素水、および、過塩素酸からなる群より選択される少なくとも1つの酸を含む酸溶液を用いることができる。
【0056】
回収工程においては、例えば、分析用容器の凹部内に、回収液を滴下し、凹部の内壁に付着した不純物を溶解させる。このとき、回収液を滴下した分析用容器をさらに加熱することによって、不純物を回収してもよい。
【0057】
このような回収操作により、薬液中に含まれる金属不純物、たとえば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタノイド、アクチノイド、遷移金属、ほう素族、炭素族、ニクトゲン、または、カルコゲンに属する少なくとも1つの元素を金属不純物として回収することができる。特に、回収工程においては、Na、K、Zn、Cu、Ag、Cd、Sn、Sb、およびPb等の元素を金属不純物として好適に回収することができる。
【0058】
回収工程において回収可能なアルカリ金属として、Li、Na、K、Cs、Rbが挙げられる。また、回収工程において回収可能なアルカリ土類金属として、Be、Mg、Ca、Sr、Baが挙げられる。さらに、回収工程において回収可能なランタノイドとして、La、Ce、Lu、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、および、Ybが挙げられる。また、回収工程において回収可能なアクチノイドとして、ThおよびUが挙げられる。さらに、回収工程において回収可能な遷移金属として、Fe、Co、Ni、Ti、Sc、V、Cr、Mn、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、PtおよびAuが挙げられる。また、回収工程において回収可能な亜鉛族として、例えば、ZnおよびCdが挙げられる。
また、回収工程において回収可能なほう素族として、例えば、Ga、In、Tl、B、および、Alが挙げられる。さらに、回収工程において回収可能な炭素族として、例えば、Si、Ge、Sn、および、Pbが挙げられる。また、回収工程において回収可能なニクトゲンとして、P、As、Sb、および、Biが挙げられる。さらに、回収工程において回収可能なカルコゲンとして、S、Se、および、Teが挙げられる。
【0059】
(2-4)測定工程
測定工程は、回収工程で回収した不純物の量を測定する工程である。
【0060】
不純物の量を測定する方法としては、従来公知の測定方法を用いて行うことができる。このような測定方法としては、例えば、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)、原子吸光分析法(AAS)等が挙げられる。
【0061】
このように、本発明の一態様に係る分析方法によれば、薬液を収容する凹部を有し、シリコンからなる分析用容器を用いることにより、薬液中に含まれる超高感度微量金属不純物についても、精確に分析することができる。
【0062】
〔3.分析用キット〕
本発明の一態様に係る分析用キットは、上記〔1.分析用容器〕で説明した構成を有する分析用容器を備える、薬液中の不純物の分析用キットである。
【0063】
本発明の一態様に係る分析用キットは、他の器具を含んでもよい。例えば、回収工程において不純物を回収するための回収液を含んでもよい。また、本発明の一態様に係る分析用キットには、分析用容器を用いて薬液を分析するための手順等を記載した指示書を含んでもよい。紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能なディスクまたはCD-ROM等のような電子媒体に付されてもよい。
【0064】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0065】
〔実施例1~5〕
シリコンウエハの材料となる単結晶シリコンのインゴットをスライスして得られる円盤形状のプレート(直径15cm、厚さ3cm)を5枚用意した。続いて、得られたプレートの一方の面上に、削り出し加工によって円筒形状の凹部を形成し、これにより5つの分析用容器を得た。
【0066】
各分析用容器について、凹部の寸法は、開口部の直径に相当する最小開口幅Rは6.5cm、深さDは2cmであった。
【0067】
〔超純水中の不純物の分析〕
実施例1~5の分析用容器を用いて、以下の方法により、超純水中の不純物を分析した。
【0068】
クリーンルーム内にて、実施例1~5の分析用容器の凹部に超純水200mLを収容し、大気圧下で、100℃で60分間加熱することにより、超純水を蒸発させた。
【0069】
次いで、回収液(分析する金属不純物濃度として検出下限に調製した希酸)で共洗いしたピペットにて当該回収液数mLを凹部に滴下し、凹部の内壁に付着した不純物を回収した。なお、実施例1~5及び後述する比較例1~5を通して、同じロットの回収液を使用した。
【0070】
得られた回収液中の不純物について、ICP-MS法を用いて、金属不純物(Na、Mg、Al、K、Ca、Fe)の量を測定した。結果を、表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
〔比較例1~5〕
実施例1~5の分析用容器の代わりに、5つの合成石英製フラスコ(比較例1~5)を用いた以外は上記と同様にして、超純水中の金属不純物の量を測定した。なお、合成石英製フラスコにおける合成石英の純度は、含有する金属不純物としてppbレベルである。
【0073】
ただし、超純水の蒸発にかかった時間は、4~5時間であった。
【0074】
【表2】
【0075】
〔検出下限値の測定〕
超純水、硝酸および塩酸の検出下限値は、試料を用いずに同様の処理を行った空試験について測定した標準偏差の3倍とした。
【0076】
結果を、表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
〔評価結果〕
実施例1~5の分析用容器を用いて、超純水中の金属不純物の量を測定したところ、実施例1~5でほぼ一致した測定結果が得られた。また、実施例1~5の分析用容器を用いることにより、超純水、硝酸、および塩酸について、ppqオーダーの超高感度金属不純物を検出することができた。
【0079】
また、実施例1の分析用容器の検出下限値は、操作ブランク値の標準偏差の約3倍であった。
【0080】
これに対し、比較例1~5の合成石英製フラスコを用いた従来の分析方法では、ロット間で、分析結果のばらつきが大きい結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、種々の分野に用いられる薬液中の金属不純物の分析に利用することができる。特に、電子工業薬品分野に用いられる薬液中の金属不純物の分析に、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 凹部
2 底部
3 側壁部
4 開口部
10 分析用容器
図1