(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】血液のニトロシル化のためのデバイス及び方法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20230919BHJP
【FI】
A61M1/16 103
(21)【出願番号】P 2019567597
(86)(22)【出願日】2018-06-07
(86)【国際出願番号】 US2018036413
(87)【国際公開番号】W WO2018226929
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-06-07
(32)【優先日】2017-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597138069
【氏名又は名称】ケース ウエスタン リザーブ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バスカラン,ハリハラ
(72)【発明者】
【氏名】スタムラー,ジョナサン,エス.
(72)【発明者】
【氏名】レイノルズ,ジェームズ,ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ベリラ,ジム,エー.
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-519143(JP,A)
【文献】特表2013-534461(JP,A)
【文献】特表2016-517395(JP,A)
【文献】特表2003-524630(JP,A)
【文献】国際公開第2016/081653(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0070878(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102397597(CN,A)
【文献】国際公開第2017/053805(WO,A1)
【文献】仏国特許出願公開第2431315(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロシル化剤と
血液との間の交換を
生体外で行うためのデバイスであって、
第1の入口及び第1の出口を有する第1のチャンバであり、前記第1のチャンバに
血液を流すように前記第1の入口と前記第1の出口との間に第1の流路が延びており、前記第1のチャンバが、前記第1のチャンバの内部に複数の流れ分布部材と、前記第1のチャンバの壁に
パターン化された
複数の輸送チャネルと、を備える、第1のチャンバと、
第2の入口及び第2の出口を有する第2のチャンバであり、前記第2のチャンバに
ニトロシル化剤を流すように前記第2の入口と前記第2の出口との間に第2の流路が延びており、前記第2のチャンバが、前記第1のチャンバ
の前記複数の流れ分布部材
の形状と同じ形状の複数の流れ分布部材と、前記第2のチャンバの壁に
、前記第1のチャンバ
の前記複数の輸送チャンネルの形状と同じ形状のパターン化された
複数の輸送チャネルと、を備える、第2のチャンバと、
前記第1および第2のチャンバの前記壁の部分によって形成され、前記第1の流路と前記第2の流路との間に配置された膜であり
、前記血液をニトロシル化するために、前記膜を介して
前記血液と
前記ニトロシル化剤の交換を可能にする膜と、を備え
、
前記第1のチャンバと前記第2のチャンバとは鏡像の関係にあり、
前記第1のチャンバおよび前記第2のチャンバのそれぞれの前記複数の輸送チャネルは、前記ニトロシル化剤と前記血液が、同じ流れ方向となるように並んで形成されており、
前記第1のチャンバおよび前記第2のチャンバのそれぞれの前記流れ分布部材は、前記流れ方向に沿って延びており、
前記第1のチャンバおよび前記第2のチャンバのそれぞれの前記流れ分布部材は、前記第1のチャンバを通る前記血液と前記第2のチャンバを通る前記ニトロシル化剤との均一な流れの分布を可能にするために、先細りしている、デバイス。
【請求項2】
前記第1のチャンバ及び前記第2のチャンバがそれぞれ、第1の通路及び第2の通路を備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記第1の通路及び前記第2の通路がそれぞれ、前記第1及び第2の通路内に形成された構造部材を備える、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記流れ分布部材が、前記第1のチャンバ及び前記第2のチャンバのそれぞれにおいて複数の輸送チャネルから上流に配置される、請求項1から3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
単一モジュールデバイスを構成する、請求項1から4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
複数の第1のチャンバ及び複数の第2のチャンバを備える複数モジュールデバイスを構成する、請求項1から4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記第1のチャンバの壁又は前記第2のチャンバの壁が、各モジュールに対する前記膜を形成する、請求項1から6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記第1のチャンバ及び前記第2のチャンバが、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記膜が、ニトロシル化剤に対して透過性を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記ニトロシル化剤が、亜硝酸エチルを含む、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
約10~1200μl/分の流量を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、全体として参照により本明細書に組み込まれている、2017年6月8日出願の米国特許出願第62/516,985号からの優先権を主張する。
【0002】
連邦政府の支援による研究又は開発
本発明は、米国国防高等研究計画局によって与えられた連邦政府承認番号N66001-13-C-4054、米国国立衛生研究所の国立先進トランスレーショナル科学センター(NCATS)によって与えられた承認番号4UL1TR000439、及び米国国立衛生研究所の国立心肺血液研究所(NHLBI)によって与えられた承認番号HL126900の下で政府の支援によってなされたものである。米国政府は、本発明に特定の権利を有する。
【0003】
本出願は、血液のニトロシル化に関し、詳細には輸血用血液のニトロシル化のためのデバイス及び方法に関する。
【背景技術】
【0004】
輸血前には、一酸化窒素(NO)活性を回復するために、血液をニトロシル化することが望ましい。従来、NO活性を回復する試みとして、小児人工肺を使用して亜硝酸エチル(ENO)ガスを送達してきた。しかし、ニトロシル化は、輸血中にSNOレベルがほぼゼロから生理学的範囲まで変動するのに合わせて時間に応じて変動することによって複雑になる。加えて、SNOレベルの変動は流量が制御されている間に発生し、流量は輸血中に劇的に変動することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
気体又は液体の形態のENOによって血液を生体外でニトロシル化するデバイス、及び気体又は液体の形態のENOによって血液を生体外でニトロシル化するデバイスを使用する方法が、本明細書に提供される。さらに、デバイスを製造する方法も提供される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の作用物質と第2の作用物質との間の交換のためのデバイス及び方法が、本明細書に提供される。
【0007】
一態様では、第1の作用物質と第2の作用物質との間の交換のためのデバイスが提供される。デバイスは、第1の入口及び第1の出口を有する第1のチャンバであり、第1のチャンバに第1の作用物質を流すように第1の入口と第1の出口との間に第1の流路が延びる第1のチャンバを含む。デバイスはまた、第2の入口及び第2の出口を有する第2のチャンバであり、第2のチャンバに第2の作用物質を流すように第2の入口と第2の出口との間に第2の流路が延びる第2のチャンバ及び、第1の流路と第2の流路との間に配置された膜であり、膜を介した第1の作用物質と第2の作用物質の交換を可能にする膜とを含む。
【0008】
一実施形態では、第1のチャンバ及び第2のチャンバはそれぞれ、複数の輸送チャネルを備える。
【0009】
一実施形態では、第1のチャンバ及び第2のチャンバはそれぞれ、第1の通路及び第2の通路を備える。
【0010】
一実施形態では、第1の通路及び第2の通路はそれぞれ、第1及び第2の通路内に形成された構造部材を備える。
【0011】
一実施形態では、第1のチャンバ及び第2のチャンバはそれぞれ、流れ分布部材を備える。
【0012】
一実施形態では、流れ分布部材は、第1のチャンバ及び第2のチャンバのそれぞれにおいて複数の輸送チャネルから上流に配置される。
【0013】
一実施形態では、デバイスは、単一モジュールデバイスを構成する。
【0014】
一実施形態では、デバイスは、複数の第1のチャンバ及び複数の第2のチャンバを備える複数モジュールデバイスを構成する。
【0015】
一実施形態では、第1のチャンバの壁又は第2のチャンバの壁が、各モジュールに対する膜を形成する。
【0016】
一実施形態では、第1のチャンバ及び第2のチャンバは、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)を含む。
【0017】
一実施形態では、膜は、ニトロシル化剤に対して透過性を有する。
【0018】
一実施形態では、ニトロシル化剤は、亜硝酸エチルを含む。
【0019】
一実施形態では、デバイスは、約10~1,200μl/分の流量を含む。一実施形態では、デバイスは、約100~約1,100μl/分、約200~約1,000μl/分、約300~約900μl/分、約400~約800μl/分、又は約500~約700μl/分の流量を含む。一実施形態では、デバイスは、約1~約100μl/分、約100~約200μl/分、約200~約300μl/分、約300~約400μl/分、約400~約500μl/分、約500~約600μl/分、約600~約700μl/分、約700~約800μl/分、約800~約900μl/分、約900~約1,000μl/分、約1,000~約1,100μl/分、又は約1,100~約1,200μl/分の流量を含む。
【0020】
別の態様では、血液をニトロシル化する方法が提供される。この方法は、デバイスの第1のチャンバに血液を流すステップであって、デバイスの第1のチャンバが、膜によってデバイスの第2のチャンバから分離されるステップと、デバイスの第2のチャンバにニトロシル化剤を流すステップであって、膜を介した交換により、血液がニトロシル化剤によってニトロシル化されるステップとを含む。
【0021】
一実施形態では、ニトロシル化剤は、亜硝酸エチル、亜硝酸アミル、亜硝酸ブチル、亜硝酸イソブチル、及び亜硝酸tert-ブチルからなる群から選択される。一実施形態では、ニトロシル化剤は亜硝酸エチルである。一実施形態では、ニトロシル化剤は亜硝酸アミルである。一実施形態では、ニトロシル化剤は亜硝酸ブチルである。一実施形態では、ニトロシル化剤は亜硝酸イソブチルである。一実施形態では、ニトロシル化剤は亜硝酸tert-ブチルである。
【0022】
一実施形態では、ニトロシル化剤は、亜硝酸エチル(ENO)を含む。
【0023】
一実施形態では、この方法は、第2のチャンバに液体ENO又はENOガスを流すステップを含む。
【0024】
一実施形態では、この方法は、約10~1,200μl/分の流量でデバイスに血液を流すステップを含む。一実施形態では、デバイスは、約100~約1,100μl/分、約200~約1,000μl/分、約300~約900μl/分、約400~約800μl/分、又は約500~約700μl/分の流量を含む。一実施形態では、デバイスは、約1~約100μl/分、約100~約200μl/分、約200~約300μl/分、約300~約400μl/分、約400~約500μl/分、約500~約600μl/分、約600~約700μl/分、約700~約800μl/分、約800~約900μl/分、約900~約1,000μl/分、約1,000~約1,100μl/分、又は約1,100~約1,200μl/分の流量を含む。
【0025】
一実施形態では、この方法は、約1~100SNO/1000Hbレベルの最終範囲まで血液をニトロシル化するステップを含む。一実施形態では、この方法は、約10~約90SNO/1000Hbレベル、約20~約80SNO/1000Hbレベル、30~約70SNO/1000Hbレベル、約40~約60SNO/1000Hbレベル、又は約50SNO/1000Hbレベルの最終範囲まで血液をニトロシル化するステップを含む。一実施形態では、この方法は、約1~約90SNO/1000Hbレベル、約1~約80SNO/1000Hbレベル、約1~約70SNO/1000Hbレベル、約1~約60SNO/1000Hbレベル、約1~約50SNO/1000Hbレベル、約1~約40SNO/1000Hbレベル、約1~約30SNO/1000Hbレベル、約1~約20SNO/1000Hbレベル、約1~約10SNO/1000Hbレベルの最終範囲まで血液をニトロシル化するステップを含む。
【0026】
さらに別の態様では、第1の作用物質と第2の作用物質との間の交換のためのデバイスを製造する方法が提供される。この方法は、テンプレートを提供するステップと、テンプレートの空洞をポリマーで充填するステップと、ポリマーを硬化させるステップとを含む。この方法はまた、硬化させたポリマーをテンプレートから分離して、デバイスの第1のチャンバを形成するステップと、第1のチャンバを第2のチャンバに連結するステップであって、膜が第1のチャンバを第2のチャンバから分離するステップとを含む。
【0027】
一実施形態では、ポリマーは、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)を含む。
【0028】
一実施形態では、この方法は、複数の構造部材、複数の流れ修正部材、及び複数の輸送チャンバを有するテンプレートを提供するステップを含む。
【0029】
一実施形態では、この方法は、第1のチャンバ及び第2のチャンバを組み立てて、単一モジュールデバイスを形成するステップを含む。
【0030】
一実施形態では、この方法は、第1のチャンバに血液を流すための管材を第1のチャンバの入口及び出口に連結するステップを含む。
【0031】
一実施形態では、この方法は、複数の第1のチャンバ及び第2のチャンバをともに組み立てるステップを含み、第1のチャンバ及び第2のチャンバはそれぞれ、第1のチャンバを第2のチャンバから分離する膜を有する。
【0032】
一実施形態では、この方法は、第1のチャンバ又は第2のチャンバの壁を設けて、第1のチャンバを第2のチャンバから分離する膜を形成するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1A】ニトロシル化のためのデバイスのモジュールの一実施形態を示す図である。
【
図2】
図1Aに示すデバイスを形成する二つの部分の一実施形態を示し、これらの部分に対する交互のパターンを示す図である。
【
図3】デバイスの部分を形成するテンプレートの一実施形態の部分図である。
【
図4】
図4(a)は、デバイスの一実施形態における均一の流れ分布を示すシミュレーションを示す図であり、
図4(b)は、デバイスの一実施形態の個々の輸送チャネルにおける均一の流れ分布を示すシミュレーションを示す図である。
【
図5A】複数のモジュールを有するデバイスの一実施形態の部分横断面図である。
【
図5B】枠を有するデバイスの一実施形態の上面図である。
【
図6】ともに組み立てられた50個のモジュールを含むことで作製することができるデバイスの一実施形態を示す図である。
【
図7】NO放出レベルと流量の関係を示す一例の図である。
【
図8A】異なる量のニトロシル化剤が血液と交換されているデバイスの実施形態を示す図である(
図8A:低)。
【
図8B】異なる量のニトロシル化剤が血液と交換されているデバイスの実施形態を示す図である(
図8B:高)。
【
図9】二つの出口サンプル及び一つの入口サンプルにおけるSNO/1000Hbレベルの一例を示す図である。
【
図10】テンプレートを形成するために使用することができるフォトリソグラフィプロセスの一例を示す図である。
【
図11】デバイスのチャンバを形成するためにテンプレートとともに使用することができるソフトリソグラフィプロセスの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に開示する実施形態は、網羅的であること又は本開示の範囲を以下の説明における厳密な形態に限定することを意図したものではない。逆に、これらの実施形態は、当業者であればその教示を利用することができるように、例として選択及び記載されている。
【0035】
本明細書では、「約」という用語は、近似的に、~の領域で、大まかに、又は~前後を意味する。「約」という用語は、数値範囲とともに使用されるとき、記載の数値の上下に境界を延ばすことによってその範囲を修正する。概して、本明細書では、「約」という用語は、記載の値の上下に10%の変化によって数値を修正するために使用される。
【0036】
本明細書では、「ポリマーを硬化させる(to cure the polymer)」、「ポリマーを硬化させる(curing the polymer)」、又は「硬化させたポリマー(cured polymer)」という語句は、たとえば電子ビーム、紫外放射、熱、又は化学添加物によって引き起こされるポリマー鎖の架橋によって、ポリマー材料を頑丈にすること又は堅くすることを指す。
【0037】
血液を生体外で修正するデバイス100が、
図1A及び
図2に示されている。デバイス100は、デバイス100に第1の作用物質108を流すように第1の流路107(
図2に示す)を有する第1のチャンバ106に連結された第1の入口102及び第1の出口104を含む。第1の流路107は、デバイス100を通って第1の入口102から第1の出口104へ延びることができる。いくつかの実施形態では、第1の作用物質108は、血液とすることができる。デバイス100はまた、デバイス100内の第2の作用物質111のための第2の流路109を有する第2のチャンバ112に連結された第2の入口105及び第2の出口110を含むことができる。第2の流路109は、デバイス100を通って第2の入口105から第2の出口110へ延びることができる。第2の作用物質111は、気体又は液体の形態とすることができる。いくつかの実施形態では、第2の作用物質は、ニトロシル化剤とすることができる。非限定的な例として、ニトロシル化剤は、亜硝酸エチル、亜硝酸アミル、亜硝酸ブチル、亜硝酸イソブチル、亜硝酸tert-ブチル、及びこれらの組合せとすることができる。一実施形態では、ニトロシル化剤は亜硝酸エチルである。一実施形態では、ニトロシル化剤は亜硝酸アミルである。一実施形態では、ニトロシル化剤は亜硝酸ブチルである。一実施形態では、ニトロシル化剤は亜硝酸イソブチルである。一実施形態では、ニトロシル化剤は亜硝酸tert-ブチルである。一実施形態では、ニトロシル化剤は、亜硝酸エチル(ENO)を含む。いくつかの実施形態では、第2の作用物質111は、酸素又は第1の作用物質108へ浸出することが望ましい任意の他の作用物質111とすることができる。
図1Aのデバイス100は、ともに組み立てられた第1のチャンバ106及び第2のチャンバ112を示す。第1のチャンバ106及び第2のチャンバ112は、互いに鏡像対称であり、デバイス100の一つのモジュール116を形成する。一つの単一モジュール116が使用されるとき、
図1Bに示すように、第1のチャンバ106と第2のチャンバ112との間に膜120を配置することができる。膜120は、第1の作用物質108と第2の作用物質111との間の交換を可能にするように透過性を有する。たとえば、膜120は、第1のチャンバ106に血液が流され且つニトロシル化剤111が第2のチャンバ112内にあるとき、血液のニトロシル化を可能にする。膜120は、疎水性の多孔質又は非多孔質のポリマー材料とすることができる。複数のモジュール116がともに使用されるとき、一つのモジュール116の第1のチャンバ106の壁122又は第2のチャンバ112の壁122が、隣接するモジュール116の膜120を形成することができ、以下により詳細に説明するように、隣接するモジュール116の膜120は類似の透過率を有する。
【0038】
図2は、
図1Aに示すモジュール116を形成するようにともに嵌合されたデバイス100の二つの部分を示す。二つの交互のパターンを使用して、第1の作用物質108及び第2の作用物質111のためのチャンバ106、112を形成するように接する鏡像を形成することができる。交互の入口102及び出口104は、複数のモジュール116がともに積み重ねられているときでも、単一の入口102及び単一の出口104を可能にする。いくつかの実施形態では、複数の入口102及び出口104を使用することができる。同様に、複数のモジュール116がともに組み立てられているとき、第2のチャンバ112に対して単一の第2の入口105及び単一の第2の出口110又は複数の入口105及び出口110を使用することができる。モジュール116の内外へ物質を流すための管材を入口及び出口に連結することができる。本明細書では、チャンバ106、112についてチャンバ106を参照して説明する。チャンバ112は、チャンバ106の鏡像であり、本明細書に記載するチャンバ106と同じ特徴を含む。
図1A及び
図2に示すように、チャンバ106は、入口102に連結された第1の通路124を含む。第1の通路124は中心部分126に連結され、中心部分126は第2の通路128に連結され、第2の通路128は出口104に連結される。
【0039】
図3は、
図1Aに示すデバイス100のチャンバ106、112を形成する壁122にパターン132を形成するために使用することができるテンプレート130の一部分の一例を示す。
図3は、
図1Aのボックスに示すパターン132に対応する。テンプレート130を使用してポリマーから壁122を作製し、デバイス100の壁122にパターン132を成形して、チャンバ106、112を得ることができる。
図3に示すように、テンプレート130は、チャンバ106、112を通る第1の作用物質108及び/又は第2の作用物質111の支持及び流れ制御のためのいくつかの特徴を含む。テンプレート130は、複数の支持構造140(*でも示す)を形成するために使用される。
図1A及び
図2に示すように、支持構造140は、第1の通路124及び第2の通路128内に形成することができる。いくつかの実施形態では、支持構造140は、チャンバ106、112の中心部分126内へ延びることができる。いくつかの実施形態では、支持構造140は、円筒形とすることができるが、他の形状を使用することもできる。非限定的な例として、支持構造は、円筒形、楕円形、三角形、多角形などとすることができる。円筒形の構造140は、たとえば第1の作用物質108を第2の作用物質111から分離する厚さ50μmの膜120とともに使用する場合、約500μmとすることができる。いくつかの実施形態では、円筒形の構造のサイズ範囲は、約100~1000μmとすることができる。
【0040】
テンプレート130はまた、チャンバ106、112の中心部分126内に配置することができる流れ分布部材144を形成するために使用することができる。
図3に示すように、流れ分布部材144は、異なるサイズ及び形状とすることができる。流れ分布部材144は、チャンバ106、112内の個々の輸送チャネル148で均一の流れ分布を可能にする。いくつかの実施形態では、流れ分布部材144は、チャンバ106、112を通る平滑な流れを容易にするために、内方及び/又は外方へ先細りすることができる。流れ分布部材144は、個々の輸送チャネル148の上流及び/又は下流側に配置することができる。いくつかの実施形態では、個々の輸送チャネル148は、約100μm(幅)×100μm(深さ)×10mm(長さ)とすることができる。他の実施形態では、輸送チャネル148は、50μm(幅)×50μm(深さ)とすることができ、10μmまで変動させることができる。いくつかの実施形態では、個々の輸送チャネルの長さは、約10mm~100mmとすることができる。各チャンバ106、112は、2
n個のチャネル148を含むことができ、ここでnは6~10の範囲とすることができる。いくつかの実施形態では、デバイス100は、32又は64個の輸送チャネル148を含むことができる。支持構造140、流れ分布部材144、及び個々の輸送チャネル148のサイズ及び数は、流量、体積、及び作用物質に依存する。64個の個々の輸送チャネルを有し、寸法が100μm(幅)×100μm(深さ)×10mm(長さ)の単一のモジュール116では、第1の作用物質と第2の作用物質との間の境界面に対する面積は、約4.25cm
2である。
【0041】
図4(a)は、デバイス100内の均一の流れ分布を示すシミュレーションを示し、
図4(b)は、個々の輸送チャネル148内の均一の流れ分布を示すシミュレーションを示す。チャンバ106、112及び個々の輸送チャネル148の設計は、
図1に示すデバイス100の第1のチャンバ106内の作用物質108と第2のチャンバ112内の第2の作用物質111との間の均等な流れ及び交換を可能にする。
【0042】
図5A、
図5B、及び
図6は、ともに組み立てられた複数のモジュール116を有するデバイス100を示す。
図5Aは、輸送チャネル148内の交互の第1の作用物質108及び第2の作用物質111を示すデバイス100の個々の輸送チャネル148の横断面であり、壁122が第1の作用物質108と第2の作用物質111との間に膜120を形成し、複数のモジュール116がともに積み重ねられている。壁122は、複数のモジュール116がともに積み重ねられて壁122が膜120を形成しているとき、第1のチャンバ106及び/又は第2のチャンバ112の一部とすることができる。壁122は、第1の作用物質108と第2の作用物質111との間の交換のために十分に薄くなるように形成することができる。
図5Aは、四つのモジュール116を表す、輸送チャネル148の七つの交互の層を示す。
図6は、50個のモジュール116をともに組み立ててデバイス100を形成することができることを示す一例を示す。他の数のモジュール116をともに組み立ててデバイス100を形成することもできる。ともに組み立てられるモジュール116の数は、任意の数とすることができ、必要とされる流量、作用物質、及び体積に応じて変動させることができる。いくつかの実施形態では、ともに組み立てられた複数のモジュール116を有するデバイス100は、
図5Bに示すように、追加の支持のための外枠160を含むことができる。いくつかの実施形態では、支持枠160は、ステンレス鋼を含む鋼などの金属から作製することができる。
【0043】
いくつかの実施形態では、各モジュール116の全体的な厚さは、約200μmとすることができる。厚さ1mmのデバイス100は、約五個のモジュール116を含み、厚さ1cmのデバイスは、約50個のモジュール116を含む。50μm(幅)×50μm(深さ)のチャネル148を有する50個のモジュールデバイスでは、膜120を通る第1の作用物質108及び第2の作用物質111に対する接触面積は、約103~104cm2/cm3である。非限定的な例として、第1の作用物質が血液であり且つ第2の作用物質がニトロシル化剤であるとき、デバイス内の全体的なニトロシル化輸送面積は、約1000cm2/cm3である。チャンバ106及び112の体積はほぼ同じであり、いくつかの実施形態では、体積を約1.2cm3とすることができる。いくつかの実施形態では、デバイス100の血液中ニトロシル化能力は、計算の基準として1ml/分の血流を使用して、約0.37SNO/1000Hb/10cm2/50ppmのeNO駆動力/125μmのポリマーである。いくつかの実施形態では、各モジュール116を通る流れは、約10~1,200μl/分の範囲とすることができ、デバイス100からの作用物質の漏れがないままとすることができる。一実施形態では、デバイスは、約100~約1,100μl/分、約200~約1,000μl/分、約300~約900μl/分、約400~約800μl/分、又は約500~約700μl/分の流量を含む。一実施形態では、デバイスは、約1~約100μl/分、約100~約200μl/分、約200~約300μl/分、約300~約400μl/分、約400~約500μl/分、約500~約600μl/分、約600~約700μl/分、約700~約800μl/分、約800~約900μl/分、約900~約1,000μl/分、約1,000~約1,100μl/分、又は約1,100~約1,200μl/分の流量を含む。
【0044】
デバイス100は、1~5SNO/1000Hbレベルの安定した生理学的範囲、最高で1~100SNO/1000Hbレベルの範囲まで、血液をニトロシル化することができる。一実施形態では、この方法は、約10~約90SNO/1000Hbレベル、約20~約80SNO/1000Hbレベル、30~約70SNO/1000Hbレベル、約40~約60SNO/1000Hbレベル、又は約50SNO/1000Hbレベルの最終範囲まで血液をニトロシル化することを含む。一実施形態では、この方法は、約1~約90SNO/1000Hbレベル、約1~約80SNO/1000Hbレベル、約1~約70SNO/1000Hbレベル、約1~約60SNO/1000Hbレベル、約1~約50SNO/1000Hbレベル、約1~約40SNO/1000Hbレベル、約1~約30SNO/1000Hbレベル、約1~約20SNO/1000Hbレベル、約1~約10SNO/1000Hbレベルの最終範囲まで血液をニトロシル化することを含む。
【0045】
デバイス100は、標準(2~4時間ごとに1単位の血液)、急速(1時間ごとに1単位の血液)、外傷(10~15分ごとに1単位の血液)、又は重度外傷(1分ごとに1単位の血液)を含む複数の輸血条件で使用するために拡縮することができる。いくつかの実施形態では、流量を約500ml/分とすることができる。
【0046】
図7は、上述したモジュール116を使用する血液のニトロシル化の制御を示すグラフを示す。デバイス100から出る血液中のNOの量は、デバイス100を通る流量を変化させることによって修正することができる。
【0047】
図8A及び
図8Bは、第2のチャンバ112内にてデバイス100へ供給されたニトロシル化剤の量と、第1のチャンバ106内の血液と交換されたニトロシル化剤の量との差を示す。
図8Aは、デバイス100を流れる血液と交換されているニトロシル化剤の量が
図8Bより少ないことを示す。
図8Bは、血液の酸化を示す(より明るい色の血液がチャネルを通ってデバイスの外へ流れることによって実証される)。非限定的な例として、第1の作用物質108と第2の作用物質111との間に厚さ約50μmの膜120を有するデバイス100が、ポリ(ジメチルシロキサン)から作製された膜120においてニトロシル化剤に対して約8×10
-5cm
2/分の特有の透過率値を有する。血液のニトロシル化は、膜の厚さ、血液の全体的な流量、及びニトロシル化剤レベルを含むデバイス100の三つの設計パラメータを使用して制御することができる。デバイス100はまた、酸素輸送にも適合している。
【0048】
図9は、単一モジュールデバイス100内の第2のチャンバ112で第2の作用物質111として50ppmのENOを使用して、第1のチャンバ106内の1ml/分の血液の流量及びデバイス100の単一の通過によって、7日経過した血液サンプルを再ニトロシル化する一例を示す。
【0049】
さらに本明細書では、デバイス100を作製する方法が記載される。デバイスのモジュール116は、デバイス100の各チャンバ106、112に対してパターン132を形成するためにテンプレート130とともに使用することができる異なるポリマー材料から作製することができる。いくつかの実施形態では、チャンバ又は膜を形成する異なる分子量のポリマーを使用して、ニトロシル化速度を制御することができる。いくつかの実施形態では、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)を使用して、モジュール116を形成することができる。使用することができる他のポリマーには、UV硬化性ビニルエーテルポリマー、ポリ(メチルメタクリレート)が含まれるが、これらのポリマーに限定されるものではない。
【0050】
いくつかの実施形態では、上述したモジュールを構築するためのキャリア枠を設けることができる。この枠は、光化学ミリングを使用して製作されるステンレス鋼から作製することができる。各枠は、複数のモジュール116を保持することができる。いくつかの実施形態では、数百又は数千のモジュールを保持するように、枠をミリングすることができる。枠は、これらのモジュールを作製するために、複数のチャンバを形成する複数のテンプレートを保持するようなサイズ及び形状とすることができる。テンプレートは、ガイドピンを使用して枠内に位置合わせすることができる。いくつかの実施形態では、フォトリソグラフィを使用してこれらのテンプレートを製造し、一つ以上のシリコンウェーハテンプレートを作り出すことができる。次いでソフトリソグラフィを使用して、このテンプレートからデバイスの各層/チャンバを作り出すことができる。
【0051】
図10は、テンプレートを形成するために使用することができるフォトリソグラフィプロセスの一例を示す。当業者には知られている他のプロセスを使用してテンプレートを形成することもできる。
図10に示すように、テンプレートは、スピンコーティングによってシリコンウェーハ(たとえば、ユニバーシティウェーハ(University Wafer)、マサチューセッツ州ボストン)をフォトレジスト(たとえば、Su-850フォトレジスト、マイクロケム(Microchem)、マサチューセッツ州ニュートン)で覆うことによって製造することができる。次いで、フォトレジストで被覆されたウェーハはソフトベークされる。フォトレジストで被覆されたシリコンウェーハの上にマスク層が形成され、フォトレジスト及びマスクはUV光に露光される。UV露光後の焼成が実行され、テンプレートがデバイスのチャンバを形成するために使用することができるフォトレジスト特徴によってウェーハが現像される(Su-8現像剤、マイクロケム(Microchem)、ピラニア溶液(3:1のH2SO4:H202(30%))。
【0052】
図11は、テンプレートを使用してデバイスの層/チャンバを形成するソフトリソグラフィプロセスの一例を示す。当業者には知られている他のプロセスを使用してチャンバを形成することもできる。各空洞は、PDMS(たとえば、シルガード(Sylgard)184ベース及び硬化剤、ダウコーニング(Dow Corning)、ミシガン州)などの硬化されていないポリマーで充填される。テンプレート/ポリマーアセンブリを加熱して、ポリマーを硬化させる。硬化させたポリマー及びテンプレートは分離され(たとえば、シラン化剤、トリデカフルオロ-1、1、2、2-テトラヒドロオクチルトリクロロシラン、ユナイテッドケム(United Chem)、ペンシルベニア州ホーシャム)、硬化させたポリマーが、デバイスの層/チャンバを形成する。いくつかの実施形態では、硬化させたポリマーを枠内に残したまま、テンプレートを枠から除去することができる。いくつかの実施形態では、硬化させたポリマーを枠から除去することができる。単一のモジュールでは、層/チャンバ間に膜を追加し、酸素プラズマ接合を使用して連結することができる。入口及び出口に孔を開け、入口及び出口に管材を連結することができる。複数モジュールデバイスでは、交互のパターンを互いに層状に積み重ねて、ともに組み立てられた複数のモジュールを形成することができ、各モジュールは、第1及び第2のチャンバ又は層を有する。これらの層は、酸素プラズマ接合を使用して位置合わせ及び連結することができる。入口及び出口に孔を開け、入口及び出口に管材を連結することができる。
【0053】
したがって、上記の詳細な説明は限定ではなく例示であると見なされること、並びに以下の特許請求の範囲があらゆる均等物を含めて本発明の精神及び範囲を定義することを意図したものであると理解されることが意図される。