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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】マスクブランク及び転写用マスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/32 20120101AFI20230919BHJP
   G03F 1/80 20120101ALI20230919BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
G03F1/32
G03F1/80
H01L21/302 105A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020050946
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021149032
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】522212882
【氏名又は名称】株式会社トッパンフォトマスク
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】前田 仁
(72)【発明者】
【氏名】谷口 和丈
(72)【発明者】
【氏名】松井 一晃
(72)【発明者】
【氏名】米丸 直人
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-212322(JP,A)
【文献】特開2016-188958(JP,A)
【文献】特開2019-179106(JP,A)
【文献】特開2017-223905(JP,A)
【文献】特開2020-020868(JP,A)
【文献】特開2017-058703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上に、パターン形成用の薄膜とハードマスク膜がこの順に積層した構造を備えるマスクブランクであって、
前記薄膜は、クロムを含有する材料で形成され、
前記ハードマスク膜は、下層と上層の積層構造を含み、
前記下層は、ケイ素と酸素を含有する材料で形成され、
前記上層は、タンタルと酸素を含有し、前記酸素の含有量が30原子%以上である材料で形成され、
前記ハードマスク膜の全体の厚さに対する前記上層の厚さの比率は、0.7以下である、ことを特徴とするマスクブランク。
【請求項2】
前記上層の厚さは、1nm以上であることを特徴とする請求項1記載のマスクブランク。
【請求項3】
前記ハードマスク膜の厚さは、4nm以上14nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランク。
【請求項4】
前記上層は、ホウ素を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項5】
前記下層は、ケイ素および酸素の合計含有量が96原子%以上である材料、またはケイ素、窒素および酸素の合計含有量が96原子%以上である材料で形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項6】
前記上層は、タンタルおよび酸素の合計含有量が90原子%以上である材料、またはタンタル、酸素およびホウ素の合計含有量が90原子%以上である材料で形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項7】
前記薄膜は、遮光膜であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項8】
前記透光性基板と、前記遮光膜の間にケイ素を含有する材料からなる位相シフト膜を備えることを特徴とする請求項7記載のマスクブランク。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載のマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法であって、
前記マスクブランクのハードマスク膜上にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクとして前記ハードマスク膜をフッ素系ガスでドライエッチングし、ハードマスクパターンを形成する工程と、
前記ハードマスクパターンをマスクとして前記パターン形成用の薄膜を塩素と酸素の混合ガスでドライエッチングし、薄膜パターンを形成する工程とを有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【請求項10】
請求項8記載のマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法であって、
前記マスクブランクのハードマスク膜上にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクとして前記ハードマスク膜をフッ素系ガスでドライエッチングし、ハードマスクパターンを形成する工程と、
前記ハードマスクパターンをマスクとして前記遮光膜を塩素と酸素の混合ガスでドライエッチングし、遮光膜パターンを形成する工程と、
前記遮光膜パターンをマスクとして前記位相シフト膜をフッ素系ガスでドライエッチングし、位相シフト膜パターンを形成しつつ、前記ハードマスクパターンを除去する工程と、を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランク、このマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハーフトーン型の位相シフトマスクのマスクブランクとして、透光性基板上に金属シリサイド系材料からなるハーフトーン位相シフト膜、クロム系材料からなる遮光膜、無機系材料からなるエッチングマスク膜(ハードマスク膜)が積層された構造を有するマスクブランクが以前より知られている。このマスクブランクを用いて位相シフトマスクを製造する場合、先ず、マスクブランクの表面に形成したレジストパターンをマスクとしてフッ素系ガスによるドライエッチングでエッチングマスク膜をパターニングし、次にエッチングマスク膜をマスクとして塩素と酸素の混合ガスによるドライエッチングで遮光膜をパターニングし、さらに遮光膜のパターンをマスクとしてフッ素系ガスによるドライエッチングで位相シフト膜をパターニングする。
【0003】
例えば、特許文献1には珪素を含有する無機膜をハードマスクとすることや、珪素を含む無機膜上にレジスト膜を塗布形成した場合に、レジストの密着性が悪く、レジストパターンを現像したときに剥離が発生する問題があることが記載されている。また、そのレジスト膜の密着性を向上させるために、珪素を含む無機膜の表面に対し、ヘキサメチルジシラザン等を用いたシリル化処理を行う必要があることが記載されている。
また、特許文献2には、クロム系遮光膜上に、エッチングマスク膜(ハードマスク膜)と導電性マスク膜がこの順に積層した構造を備えたマスクブランクが開示されている。エッチングマスク膜と導電性マスク膜との2つの膜が遮光膜に対してハードマスクとして機能している。エッチングマスク膜の材料としてSiONが例示されており、導電性マスク膜の材料としてTaNが例示されている。
また、特許文献3には、クロム系遮光膜上に、ハードマスク膜が積層した構造を備えたマスクブランクが開示されている。ハードマスク膜は、タンタルと酸素を含有する材料で形成され、その酸素含有量は50原子%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6234898号公報
【文献】特許第4989800号公報
【文献】特開2016-188958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体デバイスのさらなる微細化に伴い、転写用マスクのパターンのCD精度(CD:Critical Dimension)のさらなる向上が求められている。従来のSi系材料のハードマスク膜の表面をシリル化処理した後にレジスト膜を塗布形成したマスクブランクを用いて、そのレジスト膜に微細パターンを露光描画および現像処理を行った場合、出来上がったレジストパターンのパターンの解像性、CD面内均一性(CDU:CD Uniformity)、CDリニアリティ(CDL:CD Linearity)が不十分であるという問題があった。
【0006】
タンタル系材料のハードマスク膜を用いた場合、シリル化処理を行わなくともレジスト膜との密着性が十分に高いことが判明した。さらに、その塗布形成したレジスト膜に対し、微細パターンを露光描画および現像処理を行い、レジストパターンを形成した場合、そのレジストパターンの解像性、CD面内均一性、CDリニアリティが、Si系材料のハードマスク膜に比べて高くなることが判明した。
【0007】
タンタル系材料の薄膜は、酸化が進みやすいことが知られている。また、ハードマスク膜は、その機能を発揮するために、遮光膜に用いられる場合よりも膜厚が薄い。タンタル系材料でハードマスク膜を形成した場合、薄膜全体への酸化が進みやすい。薄膜の成膜後における組成の安定性を考慮すると、ハードマスク膜は、酸素を一定量以上(30原子%以上)で含有させることが望ましいといえる。
【0008】
一般に、ケイ素系材料の薄膜およびタンタル系材料の薄膜は、ともに、フッ素系ガスを用いたドライエッチングでパターニングされる。しかし、タンタル系材料の薄膜は、ケイ素系材料の薄膜に比べてエッチングレートが遅いという問題がある。ハードマスク膜を設ける目的はレジスト膜の膜厚を薄くすることにあるため、タンタル系材料でハードマスク膜を形成する場合にはエッチングレートの遅さが特に問題となる。すなわち、タンタル系材料でハードマスク膜を形成した場合、このハードマスク膜にドライエッチングでパターンをするには、ケイ素系材料でハードマスク膜を形成した場合に比べてレジスト膜を厚くする必要が生じるという問題があった。さらに、レジスト膜を厚くした場合、レジストパターンの解像性、CD面内均一性、CDリニアリティがいずれも低下するため、ケイ素系材料で形成されたハードマスク膜に対する優位性が失われるという問題があった。
【0009】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、パターン解像性、CD面内均一性、及びCDリニアリティを高くしつつ、ハードマスク膜全体でのエッチングレートの低下を抑制することのできる、マスクブランクを提供することである。また、本発明は、このマスクブランクを用いることにより、パターン形成用の薄膜に精度よく微細なパターンを形成することが可能な転写用マスクの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の課題を解決する手段として、以下の構成を有する。
【0011】
(構成1)
透光性基板上に、パターン形成用の薄膜とハードマスク膜がこの順に積層した構造を備えるマスクブランクであって、
前記薄膜は、クロムを含有する材料で形成され、
前記ハードマスク膜は、下層と上層の積層構造を含み、
前記下層は、ケイ素と酸素を含有する材料で形成され、
前記上層は、タンタルと酸素を含有し、前記酸素の含有量が30原子%以上である材料で形成され、
前記ハードマスク膜の全体の厚さに対する前記上層の厚さの比率は、0.7以下である、ことを特徴とするマスクブランク。
【0012】
(構成2)
前記上層の厚さは、1nm以上であることを特徴とする構成1記載のマスクブランク。
(構成3)
前記ハードマスク膜の厚さは、4nm以上14nm以下であることを特徴とする構成1または2記載のマスクブランク。
【0013】
(構成4)
前記上層は、ホウ素を含有することを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成5)
前記下層は、ケイ素および酸素の合計含有量が96原子%以上である材料、またはケイ素、窒素および酸素の合計含有量が96原子%以上である材料で形成されていることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
【0014】
(構成6)
前記上層は、タンタルおよび酸素の合計含有量が90原子%以上である材料、またはタンタル、酸素およびホウ素の合計含有量が90原子%以上である材料で形成されていることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成7)
前記薄膜は、遮光膜であることを特徴とする構成1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
【0015】
(構成8)
前記透光性基板と、前記遮光膜の間にケイ素を含有する材料からなる位相シフト膜を備えることを特徴とする構成1から7のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成9)
構成1から7のいずれかに記載のマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法であって、
前記マスクブランクのハードマスク膜上にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクとして前記ハードマスク膜をフッ素系ガスでドライエッチングし、ハードマスクパターンを形成する工程と、
前記ハードマスクパターンをマスクとして前記パターン形成用の薄膜を塩素と酸素の混合ガスでドライエッチングし、薄膜パターンを形成する工程とを有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【0016】
(構成10)
構成8記載のマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法であって、
前記マスクブランクのハードマスク膜上にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクとして前記ハードマスク膜をフッ素系ガスでドライエッチングし、ハードマスクパターンを形成する工程と、
前記ハードマスクパターンをマスクとして前記遮光膜を塩素と酸素の混合ガスでドライエッチングし、遮光膜パターンを形成する工程と、
前記遮光膜パターンをマスクとして前記位相シフト膜をフッ素系ガスでドライエッチングし、位相シフト膜パターンを形成しつつ、前記ハードマスクパターンを除去する工程と
を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
以上の構成を有する本発明のマスクブランクによれば、ハードマスク膜の上層をタンタルと酸素を含有する材料で形成したことにより、ハードマスク膜の上にレジスト膜を塗布形成し、微細パターンの露光描画および現像処理を行ってレジストパターンを形成した時に、そのレジストパターンのパターンの解像性、CD面内均一性、及びCDリニアリティを高くすることができる。さらに、ハードマスク膜の全体の厚さに対する上層の厚さの比率を0.7以下としつつ、ハードマスク膜の下層をケイ素と酸素を含有する材料で形成したことにより、ハードマスク膜の全体でのフッ素系ガスに対するエッチングレートの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】マスクブランクの実施形態の断面概略図である。
図2】位相シフトマスクの製造工程を示す断面概略図である。
図3】ハードマスク膜全体の厚さに対する上層の厚さの比率と、SiON単層膜のエッチングレートに対するハードマスク膜全体のエッチングレートの比率との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の各実施の形態について、図面に基づいて、詳細な構成を説明する。なお、各図において同様の構成要素には同一の符号を付して説明を行う。
【0020】
〈マスクブランク〉
図1に、マスクブランクの実施形態の概略構成を示す。図1に示すマスクブランク100は、透光性基板1における一方の主表面上に、位相シフト膜2、遮光膜3、及び、ハードマスク膜4がこの順に積層された構成である。また、マスクブランク100は、ハードマスク膜4上に、必要に応じてレジスト膜を積層させた構成であってもよい。以下、マスクブランク100の主要構成部の詳細を説明する。
【0021】
[透光性基板]
透光性基板1は、リソグラフィーにおける露光工程で用いられる露光光に対して透過性が良好な材料からなる。このような材料としては、合成石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO-TiOガラス等)、その他各種のガラス基板を用いることができる。特に、合成石英ガラスを用いた基板は、ArFエキシマレーザー光(波長:約193nm)に対する透過性が高いので、マスクブランク100の透光性基板1として好適に用いることができる。
【0022】
尚、ここで言うリソグラフィーにおける露光工程とは、このマスクブランク100を用いて作製された位相シフトマスクを用いてのリソグラフィーにおける露光工程であり、以下において露光光とはこの露光工程で用いられる露光光であることとする。この露光光としては、ArFエキシマレーザー光(波長:193nm)、KrFエキシマレーザー光(波長:248nm)、i線光(波長:365nm)のいずれも適用可能であるが、露光工程における位相シフト膜パターンの微細化の観点からは、ArFエキシマレーザー光を露光光に適用することが望ましい。このため、以下においてはArFエキシマレーザー光を露光光に適用した場合についての実施形態を説明する。
【0023】
[位相シフト膜]
位相シフト膜2は、露光転写工程で用いられる露光光に対して所定の透過率を有し、かつ位相シフト膜2を透過した露光光と、位相シフト膜2の厚さと同じ距離だけ大気中を透過した露光光とが、所定の位相差となるような光学特性を有する。
【0024】
このような位相シフト膜2は、ケイ素(Si)を含有する材料で形成されていることが好ましい。また位相シフト膜2は、ケイ素の他に、窒素(N)を含有する材料で形成されていることがより好ましい。このような位相シフト膜2は、フッ素系ガスを用いたドライエッチングによってパターニングが可能であり、後述のクロムを含有する遮光膜3に対して、十分なエッチング選択性を有する材料を用いる。
【0025】
また位相シフト膜2は、フッ素系ガスを用いたドライエッチングによってパターニングが可能であれば、さらに、半金属元素、非金属元素、金属元素から選ばれる1以上の元素を含有していてもよい。
このうち、半金属元素は、ケイ素に加え、いずれの半金属元素であってもよい。非金属元素は、窒素に加え、いずれの非金属元素であってもよく、例えば酸素(O)、炭素(C)、フッ素(F)及び水素(H)から選ばれる一以上の元素を含有させると好ましい。金属元素は、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、スズ(Sn)、ホウ素(B)、ゲルマニウム(Ge)が例示される。
【0026】
このような位相シフト膜2は、例えばMoSiNで構成され、露光光(例えばArFエキシマレーザー光)に対する所定の位相差(例えば、150[deg]~210[deg])と所定の透過率(例えば、1%~30%)を満たすように、位相シフト膜2の屈折率n、消衰係数k及び膜厚がそれぞれ選定され、その屈折率n及び消衰係数kとなるように膜材料の組成や膜の成膜条件が調整されている。
【0027】
[遮光膜]
本実施の形態におけるマスクブランク100は、転写パターン形成用の薄膜として遮光膜3を備えている。遮光膜3は、このマスクブランク100に形成される遮光帯パターンを含む遮光膜パターンを構成する膜であり、リソグラフィーにおける露光工程で用いられる露光光に対して遮光性を有する膜である。遮光膜3は、位相シフト膜2との積層構造で、例えば波長193nmのArFエキシマレーザー光に対する光学濃度(OD)が2.0より大きいことが求められ、2.8以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましい。また、リソグラフィーにおける露光工程において、露光光の反射による露光転写の不具合を防止するため、両側主表面においての露光光の表面反射率が低く抑えられている。特に、露光装置の縮小光学系からの露光光の反射光が当たる、遮光膜3における表面側(透光性基板1から最も遠い側の表面)の反射率は、例えば40%以下(好ましくは、30%以下)であることが望まれる。これは、遮光膜3の表面と縮小光学系のレンズの間での多重反射で生じる迷光を抑制するためである。
【0028】
また、遮光膜3は、位相シフト膜2に転写パターン(位相シフト膜パターン)を形成するためのフッ素系ガスによるドライエッチングのときにエッチングマスクとして機能する必要がある。このため、遮光膜3は、フッ素系ガスによるドライエッチングにおいて、位相シフト膜2に対して十分なエッチング選択性を有する材料を適用する必要がある。遮光膜3には、位相シフト膜2に形成すべき微細パターンを精度よく形成できることが求められる。遮光膜3の膜厚は70nm以下であることが好ましく、65nm以下であるとより好ましく、60nm以下であると特に好ましい。遮光膜3の膜厚が厚すぎると、形成すべき微細パターンを高精度に形成することができない。他方、遮光膜3は、上記のとおり要求される光学濃度を満たすことが求められる。このため、遮光膜3の膜厚は15nmより大きいことが求められ、20nm以上であることが好ましく、25nm以上であるとより好ましい。
【0029】
遮光膜3は、クロムを含有する材料で形成される。クロムを含有する材料としては、クロム単体でもよく、クロムと添加元素とを含むものであってもよい。このような添加元素としては、酸素及び/又は窒素が、ドライエッチング速度を速くできる点で好ましい。なお、遮光膜3は、他に炭素、水素、ホウ素、インジウム、スズ、モリブデン等の元素を含んでもよい。
【0030】
遮光膜3は、クロムを含有するターゲットを用いた反応性スパッタリング法により、位相シフト膜2上に成膜することにより形成することができる。スパッタリング法としては、直流(DC)電源を用いたもの(DCスパッタリング)でも、高周波(RF)電源を用いたもの(RFスパッタリング)でもよい。またマグネトロンスパッタリング方式であっても、コンベンショナル方式であってもよい。DCスパッタリングの方が、機構が単純である点で好ましい。また、マグネトロンスパッタリング方式を用いた方が、成膜レートが速くなり、生産性が向上する点から好ましい。なお、成膜装置はインライン型でも枚葉型でも構わない。
【0031】
ターゲットの材料は、クロム単体だけでなくクロムが主成分であればよく、酸素、炭素のいずれかを含むクロム、又は酸素、炭素を組み合わせたものをクロムに添加したターゲットを用いてよい。
【0032】
[ハードマスク膜]
ハードマスク膜4は、遮光膜3上に設けられている。ハードマスク膜4は、遮光膜3をエッチングする際に用いられるエッチングガスに対してエッチング耐性を有する材料で形成された膜である。このハードマスク膜4は、遮光膜3にパターンを形成するためのドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能することができるだけの膜の厚さがあれば十分であり、基本的に光学特性の制限を受けない。このため、ハードマスク膜4の厚さは遮光膜3の厚さに比べて大幅に薄くすることができる。
【0033】
ハードマスク膜4の厚さは、14nm以下であると好ましく、10nm以下であるとより好ましい。ハードマスク膜4の厚さが厚すぎると、ハードマスク膜4に遮光膜パターンを形成するドライエッチングにおいてエッチングマスクとなるレジスト膜の厚さが必要になってしまうためである。ハードマスク膜4の厚さは、4nm以上であると好ましく、5nm以上であるとより好ましい。ハードマスク膜4の厚さが薄すぎると、酸素含有塩素系ガスによるドライエッチングの条件によっては、遮光膜3に遮光膜パターンを形成するドライエッチングが終わる前に、ハードマスク膜4のパターンが消失する恐れがあるためである。
【0034】
そして、このハードマスク膜4にパターンを形成するフッ素系ガスによるドライエッチングにおいてエッチングマスクとして用いる有機系材料のレジスト膜は、ハードマスク膜4のドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能するだけの膜の厚さがあれば十分である。このため、ハードマスク膜4を設けていない従来の構成よりも、ハードマスク膜4を設けたことによって大幅にレジスト膜の厚さを薄くすることができる。
【0035】
ハードマスク膜4は、下層41と上層42の積層構造を含む。
下層41は、ケイ素と酸素を含有する材料で形成されることが好ましい。ケイ素と酸素を含有する材料としては、SiO、SiONなどを適用することが好ましい。下層41は、ケイ素および酸素の合計含有量が96原子%以上である材料、またはケイ素、窒素および酸素の合計含有量が96原子%以上である材料で形成されていることが好ましい。これにより、他の元素の含有量を4原子%未満に抑えることができ、良好なエッチングレートを確保することができる。
【0036】
また、上層42は、タンタルと酸素を含有する材料で形成されることが好ましい。この場合におけるタンタルと酸素を含有する材料としては、タンタルと酸素のほか、窒素、ホウ素および炭素から選ばれる一以上の元素を含有させた材料などが挙げられる。たとえば、TaO、TaON、TaBO、TaBON、TaCO、TaCON、TaBOCNなどが挙げられる。また、上層42は、これらの材料のうち、ホウ素を含有するものであることが好ましい。また、上層42は、上層42を形成後に生じる酸化度の経時変化を抑制する観点などから、酸素の含有量が30原子%以上である材料であることが好ましく、40原子%以上であることがより好ましく、50原子%以上であるとさらに好ましい。一方、上層42は、酸素の含有量が71.4%以下であることが好ましい。上層42の酸素を化学量論的に安定なTaよりも多く含有させると、膜の表面粗さが粗くなる恐れがある。
【0037】
また、上層42は、タンタルおよび酸素の合計含有量が90原子%以上である材料、またはタンタル、酸素およびホウ素の合計含有量が90原子%以上である材料で形成されていることが好ましい。これにより、他の元素の含有量を10原子%未満に抑えることができ、レジスト膜との良好な密着性、良好なCD面内均一性、及びCDリニアリティを確保することができる。
【0038】
ハードマスク膜4の上層42の厚さは、上層42の厚さの面内分布の均一性を確保するために、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましい。そして、ハードマスク膜4全体の厚さ(Dt)に対する上層42の厚さ(Du)の比率(以下、これをDu/Dt比率という場合がある。)は、0.7以下であることが好ましく、0.5以下であるとより好ましく、0.3以下であることがさらに好ましい。このような構成のハードマスク膜4とすることで、ハードマスク膜4全体でのフッ素系ガスに対するエッチングレートの低下を抑制することができる。
なお、ハードマスク膜4は、上層42と下層41との間に、フッ素系ガスによるドライエッチングでパターニング可能な材料からなる中間層を備えていてもよい。また、ハードマスク膜4は、下層41と遮光膜3の間に、フッ素系ガスによるドライエッチングでパターニング可能な材料からなる最下層を備えていてもよい。さらに、上層42または下層41の少なくともいずれか一方が、厚さ方向で組成傾斜した構造を有していてもよい。
【0039】
実際に、ハードマスク膜4の下層41にSiON膜(Si:O:N=34原子%、60原子%、6原子%)を適用し、上層42にTaBO膜(Ta:B:O=36原子%、8原子%:56原子%)を適用した場合について、検討を行った。このSiON膜とTaBO膜のフッ素系ガスによるドライエッチングの各エッチングレートを測定した。その結果、上層42がTaBO膜のエッチングレートは、下層41がSiON膜のエッチングレートの2.48倍遅いことがわかった。図3は、このハードマスク膜4全体の厚さを所定の厚さに固定した場合において、ハードマスク膜4全体の厚さ(Dto)に対する上層42の厚さ(Dup)の比率(Dup/Dto比率)と、SiON膜の単層膜のエッチングレート(Esi)に対するハードマスク膜4全体のエッチングレート(Eto)の比率(以下、Eto/Esi比率という場合がある。)との関係を示したものである。この結果から、Dup/Dto比率を0.7以下とすることによって、Eto/Esi比率を0.5倍以上にすることができることがわかる。また、Dup/Dto比率を0.5以下とすることによって、Eto/Esi比率を0.57倍以上にすることができることがわかる。さらに、Dup/Dto比率を0.3以下とすることによって、Eto/Esi比率を0.7倍以上にすることができることがわかる。
【0040】
上記の傾向は、下層41に他のタンタルと酸素を含有する材料を適用し、上層42に他のケイ素と酸素を含有する材料を適用した場合でも、同様の傾向を有する。なお、ハードマスク膜4は、Eto/Esi比率をRe、Dup/Dto比率をRdとしたとき、0.07≦Rd≦0.92の範囲で、以下の式(1)の関係を満たすようにすることが好ましい。

式(1) Re≧0.4047×Rd-1.264×Rd+1.694×Rd
-1.431×Rd+0.9995
【0041】
[レジスト膜]
マスクブランク100において、ハードマスク膜4の表面に接して、有機系材料のレジスト膜が100nm以下の膜厚で形成されていることが好ましい。DRAM hp32nm世代に対応する微細パターンの場合、遮光膜3に形成すべき遮光膜パターンに、線幅が40nmのSRAF(Sub-Resolution Assist Feature)が設けられることがある。しかし、この場合でも上述のようにハードマスク膜4を設けたことによってレジスト膜の膜厚を抑えることができ、これによってこのレジスト膜で構成されたレジストパターンの断面アスペクト比を1:2.5と低くすることができる。したがって、レジスト膜の現像時、リンス時等にレジストパターンが倒壊や脱離することを抑制することができる。なお、レジスト膜は、膜厚が80nm以下であることがより好ましい。レジスト膜は、電子線描画露光用のレジストであると好ましく、さらにそのレジストが化学増幅型であるとより好ましい。
【0042】
[マスクブランクの製造手順]
以上の構成のマスクブランク100は、次のような手順で製造する。先ず、透光性基板1を用意する。この透光性基板1は、端面及び主表面が所定の表面粗さ(例えば、一辺が1μmの四角形の内側領域内において自乗平均平方根粗さRqが0.2nm以下)に研磨され、その後、所定の洗浄処理及び乾燥処理を施されたものである。
【0043】
次に、この透光性基板1上に、スパッタリング法によって位相シフト膜2を成膜する。位相シフト膜2を成膜した後には、所定の加熱温度でのアニール処理を行う。次に、位相シフト膜2上に、スパッタリング法によって上記の遮光膜3を成膜する。そして、遮光膜3上にスパッタリング法によって、上記の上層42と下層41を有するハードマスク膜4を成膜する。スパッタリング法による各層の成膜においては、各層を構成する材料を所定の組成比で含有するスパッタリングターゲット及びスパッタリングガスを用い、さらに必要に応じて上述の貴ガスと反応性ガスとの混合ガスをスパッタリングガスとして用いた成膜を行う。そして、ハードマスク膜4の表面上に、スピンコート法等の塗布法によってレジスト膜を形成し、マスクブランク100を完成させる。
【0044】
〈位相シフトマスクの製造方法〉
次に、本実施の形態における位相シフトマスクの製造方法を、図1に示す構成のマスクブランク100を用いた、ハーフトーン型位相シフトマスクの製造方法を例に説明する。
【0045】
先ず、マスクブランク100のハードマスク膜4上にレジスト膜をスピン塗布法によって形成する。次に、そのレジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき第1のパターン(位相シフト膜パターン)を電子線で露光描画する。その後、レジスト膜に対してPEB処理、現像処理、ポストベーク処理等の所定の処理を行い、マスクブランク100のハードマスク膜4上にレジストパターン5aを形成する(図2(a)参照)。
【0046】
次に、レジストパターン5aをマスクとして、ハードマスク膜4をフッ素系ガスでドライエッチングし、上層パターン42a及び下層パターン41aを含むハードマスクパターン4aを形成する(図2(b)参照)。この後、レジストパターン5aを除去する。なお、ここで、レジストパターン5aを除去せず残存させたまま、遮光膜3のドライエッチングを行ってもよい。この場合では、遮光膜3のドライエッチングの際にレジストパターン5aが消失する。
【0047】
次に、ハードマスクパターン4aをマスクとして、塩素と酸素の混合ガスでドライエッチングし、パターン形成用の薄膜である遮光膜3に、薄膜パターンである遮光膜パターン3aを形成する(図2(c)参照)。
続いて、遮光膜パターン3aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に位相シフト膜パターン2aを形成しつつ、ハードマスクパターン4aを除去する(図2(d)参照)。次に、遮光膜パターン3a上にレジスト膜をスピン塗布法によって形成する。そのレジスト膜に対して、遮光膜3に形成すべき遮光膜パターンを電子線で露光描画する。その後、現像処理等の所定の処理を行い、レジストパターン6bを有するレジスト膜を形成する(図2(e)参照)。
【0048】
次に、レジストパターン6bをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に遮光膜パターン3bを形成する(図2(f)参照)。さらに、レジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得る(図2(g)参照)。
【0049】
なお、上記の製造工程中のドライエッチングで使用される塩素系ガスとしては、Clが含まれていれば特に制限はない。たとえば、塩素系ガスとして、Cl、SiCl、CHCl、CHCl、CCl、BCl等があげられる。また、上記の製造工程中のドライエッチングで使用されるフッ素系ガスとしては、Fが含まれていれば特に制限はない。たとえば、フッ素系ガスとして、CHF、CF、C、C、SF等があげられる。特に、Cを含まないフッ素系ガスは、ガラス基板に対するエッチングレートが比較的低いため、ガラス基板へのダメージをより小さくすることができる。
【0050】
以上の工程により製造された位相シフトマスク200は、透光性基板1上に、透光性基板1側から順に位相シフト膜パターン2a、及び遮光膜パターン3bが積層された構成を有する。
【0051】
以上、説明した位相シフトマスクの製造方法では、図1を用いて説明したマスクブランク100を用いて位相シフトマスク200を製造している。このような位相シフトマスクの製造において使用されるマスクブランク100において、ハードマスク膜4は、下層41と上層42の積層構造を含み、下層41は、ケイ素と酸素を含有する材料で形成され、上層42は、タンタルと酸素を含有し、酸素の含有量が30原子%以上である材料で形成され、ハードマスク膜4全体の厚さに対する上層42の厚さの比率は、0.7以下であるという特徴的な構成を有している。これにより、パターン解像性、CD面内均一性、及びCDリニアリティを高くしつつ、ハードマスク膜4全体でのエッチングレートの低下を抑制して、位相シフトマスク200を製造することができる。以上の作用により、パターン精度が良好な位相シフトマスク200を作製することができる。
なお、本実施形態においては、転写用マスクとして位相シフトマスク200を作製するためのマスクブランクについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、バイナリマスクや掘り込みレベンソン型の位相シフトマスクを作製するためのマスクブランクにも適用することができる。
【実施例
【0052】
以下、実施例により、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
【0053】
〈実施例1〉
[マスクブランクの製造]
図1を参照し、主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.35mmの合成石英ガラスからなる透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面及び主表面が所定の表面粗さ(Rqで0.2nm以下)に研磨され、その後、所定の洗浄処理及び乾燥処理が施されている。
【0054】
次に、透光性基板1上に、位相シフト膜2の高透過層(Si:N=44原子%:56原子%)を8.0nmの厚さで形成した。具体的には、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)、ヘリウム(He)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとした反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、高透過層を形成した。なお、高透過層の組成は、X線光電子分光法(XPS)による測定によって得られた結果である。以下、他の膜に関しても同様である。
【0055】
次に、高透過層の上に、位相シフト膜2の低透過層(Si:N=62原子%:38原子%)を3.5nmの厚さで形成した。具体的には、枚葉式RFスパッタ装置内に、高透過層が積層された透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)、ヘリウム(He)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとした反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、低透過層を形成した。
【0056】
次に、高透過層と低透過層がこの順に積層した1組の積層構造が形成された透光性基板1の低透過層21の表面に接して、同様の手順で高透過層と低透過層の積層構造をさらに4組形成した。さらに、高透過層を形成するときと同じ成膜条件で、透光性基板1側から最も遠い低透過層の表面に接して最上層を8.0nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1上に、高透過層と低透過層の積層構造を5組有し、その上に最上層を有する、合計11層構造の位相シフト膜2を合計膜厚65.5nmで形成した。
【0057】
次に、この位相シフト膜2が形成された透光性基板1に対して、位相シフト膜2の膜応力を低減するため、及び表層に酸化層を形成するための加熱処理を行った。具体的には、加熱炉(電気炉)を用いて、大気中で加熱温度を500℃、加熱時間を1時間として、加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、加熱処理後の位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が5.9%、位相差が175.9度(deg)であった。
【0058】
次に、枚葉式DCスパッタリング装置内に位相シフト膜2が形成された透光性基板1を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用いて、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)及びヘリウム(He)の混合ガス雰囲気での反応性スパッタリング(DCスパッタリング)を行った。これにより、位相シフト膜2に接して、クロム、酸素及び炭素からなる遮光膜(CrOC膜 Cr:O:C=55原子%:30原子%:15原子%)3を43nmの膜厚で形成した。
【0059】
次に、上記遮光膜(CrOC膜)3が形成された透光性基板1に対して、加熱処理を施した。具体的には、ホットプレートを用いて、大気中で加熱温度を280℃、加熱時間を5分として、加熱処理を行った。加熱処理後、位相シフト膜2及び遮光膜3が積層された透光性基板1に対し、分光光度計(アジレントテクノロジー社製 Cary4000)を用い、位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造のArFエキシマレーザーの光の波長(約193nm)における光学濃度を測定したところ、3.0以上であることが確認できた。
【0060】
次に、遮光膜3の上にハードマスク膜4の下層(SiON膜 Si:O:N=34原子%、60原子%、6原子%)41を5.5nmの厚さで形成した。具体的には、枚葉式DCスパッタリング装置内に、位相シフト膜2及び遮光膜3が積層された透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガス、酸素(O)ガス、及び窒素(N)ガスをスパッタリングガスとし、DCスパッタリングにより下層41を形成した。
【0061】
次に、下層41の上に、上層(TaBO膜 Ta:B:O=36原子%、8原子%:56原子%)42を、2nmの厚さで形成した。具体的には、枚葉式DCスパッタリング装置内に、位相シフト膜2、遮光膜3および下層41が積層された透光性基板1を設置し、タンタル(Ta)およびホウ素(B)の混合ターゲット(Ta:B=4:1 原子比)を用い、アルゴン(Ar)ガス、および酸素(O)ガスをスパッタリングガスとし、DCスパッタリングにより上層42を形成した。ハードマスク膜4全体の厚さに対する上層42の厚さの比率は0.27であり、0.7以下の条件を満たしている。さらに所定の洗浄処理を施し、実施例1のマスクブランク100を製造した。
【0062】
別の複数の透光性基板1上に実施例1と同じ成膜条件で下層41及び上層42を含むハードマスク膜4をそれぞれ成膜し、複数のハードマスク膜付基板を製造した。そして、各ハードマスク膜付基板のハードマスク膜4上にレジスト膜を80nmの厚さで形成した。次に、3枚のハードマスク膜付基板上のレジスト膜に、描画密度を変えてテストパターン(設計線幅200nm)を露光描画した。描画密度は、10%、50%、90%とした。3枚のハードマスク膜付基板上のレジスト膜に対して現像処理を行い、ハードマスク膜4上にレジストパターンを形成した。各ハードマスク膜付基板上のレジストパターンに対し、CD-SEM(Critical Dimension-Scanning Electron Microscope)を用いて全てのテストパターンのCD値を測定した。測定したCD値を基に、各ハードマスク膜付基板上のレジストパターンのCD面内均一性を3σ(標準偏差σの3倍値)で算出した。さらに、3枚の透光性基板1上のレジストパターンの各3σの平均値を算出した。そのCD面内均一性の3σの平均値は、1.42nmであり、良好な値であった。
【0063】
一方、残りのハードマスク膜付基板上のレジスト膜に対し、異なる設計線幅のテストパターンを露光描画した。その後、レジスト膜に対して現像処理を行い、ハードマスク膜4上にレジストパターンを形成した。そのハードマスク膜付基板上に形成されたレジストパターンに対し、CD-SEMを用いて全てのテストパターンのCD値を測定した。測定したCD値を基に、設計線幅とCD値との相関であるCDリニアリティの傾向を調べたところ、設計線幅の減少にともなって変化するCD値の増加幅が小さく、良好な傾向となっていることが分かった。また、微小な線幅(線幅40nm)のテストパターンが高精度に解像できることも分かった。これらの結果から、この実施例1のハードマスク膜4の構成を適用することによって、その上にレジストパターンを形成したときのパターン解像性、CD面内均一性およびCDリニアリティがともに良好な特性が得られることが分かった。
【0064】
[位相シフトマスクの製造]
次に、上記の実施例1のマスクブランク100を用い、以下の手順で実施例1のハーフトーン型の位相シフトマスク200を製造した。最初に、スピン塗布法によって、ハードマスク膜4の表面に接して、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚80nmで形成した。次に、このレジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき位相シフト膜パターンである第1のパターンを電子線描画し、所定の現像処理及び洗浄処理を行い、第1のパターンを有するレジストパターン5aを形成した(図2(a)参照)。この第1のパターンは、線幅200nmのライン・アンド・スペースパターンと微小サイズ(線幅30nm)のパターンを含むものとした。
【0065】
次に、レジストパターン5aをマスクとし、CFガスを用いたドライエッチングを行い、上層42及び下層41を含むハードマスク膜4に上層パターン42a及び下層パターン41aを含むハードマスクパターン4aを形成した(図2(b)参照)。ハードマスクパターン4aを形成した後のレジストパターン5aは、十分な膜厚で残存していた。ハードマスクパターン4aに対してCD-SEMを用いてCD面内均一性とCDリニアリティを調べたところ、良好であることが確認できた。また、レジストパターン5aが有していた上記微小サイズのパターンを含むすべてのパターンが、ハードマスク膜4に高精度に形成されていることを確認できた。なお、このときのハードマスク膜4全体のエッチングレート(Eto)は、同じ厚さの単層構造のSiON膜のエッチングレート(Esi)に比べて0.76倍の低下に抑制されていた。
【0066】
次に、レジストパターン5aを除去した。続いて、ハードマスクパターン4aをマスクとし、塩素ガス(Cl)と酸素ガス(O)の混合ガス(ガス流量比 Cl:O=13:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に遮光膜パターン3aを形成した(図2(c)参照)。
【0067】
次に、遮光膜パターン3aをマスクとし、フッ素系ガス(SF+He)を用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターンである位相シフト膜パターン2aを形成し、かつ同時にハードマスクパターン4aを除去した(図2(d)参照)。
【0068】
次に、遮光膜パターン3a上に、スピン塗布法によって、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚150nmで形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜に形成すべきパターン(遮光帯パターンを含むパターン)である第2のパターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光膜パターンを有するレジストパターン6bを形成した(図2(e)参照)。続いて、レジストパターン6bをマスクとして、塩素ガス(Cl)と酸素ガス(O)の混合ガス(ガス流量比 Cl:O=4:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に遮光膜パターン3bを形成した(図2(f)参照)。さらに、レジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図2(g)参照)。
【0069】
以上の手順を得て作製された実施例1の位相シフトマスク200の位相シフト膜パターン2aに対し、CD-SEMを用いてCD面内均一性とCDリニアリティを調べたところ、良好であることが確認できた。また、レジストパターン5aが有していた上記微小サイズのパターンを含むすべてのパターンが、位相シフト膜2に高精度に形成されていることを確認できた。さらに、実施例1の位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションの露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。
【0070】
〈比較例1〉
[マスクブランクの製造]
比較例1のマスクブランクは、ハードマスク膜4以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この比較例1のハードマスク膜4は、ケイ素及び酸素からなる単層構造であり、その厚さは15nmである。具体的には、枚葉式DCスパッタリング装置内に位相シフト膜2及び遮光膜3が形成された透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガス、酸素(O)ガス、及び窒素(N)ガスをスパッタリングガスとし、DCスパッタリングにより遮光膜3の上に、単層構造のハードマスク膜4(SiON膜 Si:O:N=34原子%:60原子%:6原子%)を形成した。
【0071】
別の複数の透光性基板1上に、比較例1と同じ成膜条件で単層のハードマスク膜をそれぞれ成膜し、複数のハードマスク膜付基板を製造した。そして、実施例1と同様の手順で、3枚のハードマスク膜付基板上のレジストパターンの各3σの平均値を算出した。そのCD面内均一性の3σの平均値は、1.78nmであり、比較的大きな値であった(すなわち、CDの面内でのばらつきが比較的大きい。)。また、実施例1と同様の手順で、ハードマスク膜付基板上に形成されたレジストパターンの設計線幅とCD値との相関であるCDリニアリティの傾向を調べたところ、設計線幅の減少にともなって変化するCD値の増加幅が比較的大きい傾向となっていることが分かった。さらに、上記の微小な線幅のテストパターンの解像性が低いことが分かった。これらの結果から、この比較例1のハードマスク膜4の構成を適用すると、その上にレジストパターンを形成したときのパターン解像性、CD面内均一性、CDリニアリティともに低くなることが分かった。
【0072】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この比較例1のマスクブランクを用い、ハードマスク膜4の表面に対してヘキサメチルジシラザンによるシリル化処理を行った後にレジスト膜を塗布形成したこと以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1の位相シフトマスクを製造した。ハードマスクパターン4aを形成した後のレジストパターン5aは、十分な膜厚で残存していた。一方、ハードマスクパターン4aに対してCD-SEMを用いてCD面内均一性とCDリニアリティを調べたところ、実施例1の場合に比べてともに低いことが分かった。特に、上記の微小サイズのパターンは、ハードマスクパターン4a内に形成することができていなかった。
【0073】
作製された比較例1の位相シフトマスク200の位相シフト膜パターン2aに対し、CD-SEM(Critical Dimension-Scanning Electron Microscope)を用いてCD面内均一性とCDリニアリティを調べたところ、いずれも実施例1の場合に比べて低いことが分かった。また、上記の微小サイズのパターンは、位相シフト膜パターン2a内に形成することができていなかった。さらに、この比較例1の位相シフトマスクに対し、実施例1と同様にAIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションの露光転写像を検証したところ、転写不良が確認された。これは、位相シフト膜パターンのCDリニアリティ及びCD均一性が低いことと、上記の微小サイズのパターンが形成できていなかったことが、転写不良の発生要因と推察される。
【0074】
〈比較例2〉
[マスクブランクの製造]
比較例2のマスクブランクは、ハードマスク膜4以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この比較例1のハードマスク膜4は、タンタル、ホウ素及び酸素からなる単層構造であり、9.5nmの厚さで形成した。具体的には、枚葉式DCスパッタリング装置内に位相シフト膜2及び遮光膜3が形成された透光性基板1を設置し、タンタル(Ta)およびホウ素(B)の混合ターゲット(Ta:B=4:1 原子比)を用い、アルゴン(Ar)ガス、および酸素(O)ガスをスパッタリングガスとし、DCスパッタリングによりハードマスク膜4を形成した。
【0075】
別の複数の透光性基板1上に、比較例2と同じ成膜条件で単層のハードマスク膜をそれぞれ成膜し、複数のハードマスク膜付基板を製造した。そして、実施例1と同様の手順で、3枚のハードマスク膜付基板上のレジストパターンの各3σの平均値を算出した。そのCD面内均一性の3σの平均値は、1.43nmであり、良好な値であった。また、実施例1と同様の手順で、ハードマスク膜付基板上に形成されたレジストパターンの設計線幅とCD値との相関であるCDリニアリティの傾向を調べたところ、設計線幅の減少にともなって変化するCD値の増加幅が小さく、良好な傾向となっていることが分かった。また、上記の微小な線幅のテストパターンが高精度に解像できることも分かった。これらの結果から、この比較例2のハードマスク膜4の構成を適用することによって、その上にレジストパターンを形成したときのパターン解像性、CD面内均一性およびCDリニアリティがともに良好な特性が得られることが分かった。
【0076】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この比較例2のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、比較例2の位相シフトマスクを製造した。ハードマスクパターン4aを形成した後のレジストパターン5aは、一部の領域(上記の微小サイズのパターンを含む。)で消失していることが確認された。また、ハードマスクパターン4aに対してCD-SEMを用いてCD面内均一性とCDリニアリティを調べたところ、実施例1の場合に比べてともに低いことが分かった。なお、このときのハードマスク膜4全体のエッチングレート(Eto)は、同じ厚さの単層構造のSiON膜のエッチングレート(Esi)に比べて2.48倍であり、大幅に低かった。
【0077】
[パターン転写性能の評価]
作製された比較例2の位相シフトマスク200の位相シフト膜パターン2aに対し、CD-SEM(Critical Dimension-Scanning Electron Microscope)を用いてCD面内均一性とCDリニアリティを調べたところ、実施例1の場合に比べてともに低いことが分かった。さらに、この比較例2の位相シフトマスクに対し、実施例1と同様にAIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションの露光転写像を検証したところ、転写不良が確認された。これは、位相シフト膜パターン2aのCD面内均一性やCDリニアリティの低下と、上記の微小サイズのパターンが形成できていなかったことが、転写不良の発生要因と推察される。
【符号の説明】
【0078】
1 透光性基板
2 位相シフト膜
2a 位相シフト膜パターン
3 遮光膜
3a,3b 遮光膜パターン
4 ハードマスク膜
41 下層
42 上層
4a ハードマスクパターン
41a 下層パターン
42a 上層パターン
5a レジストパターン
6b レジストパターン
100 マスクブランク
200 位相シフトマスク
図1
図2
図3