(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】セメント組成物、及びセメント質硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/00 20060101AFI20230919BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20230919BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20230919BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20230919BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20230919BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20230919BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
C04B7/00
C04B14/28
C04B24/26 E
C04B22/08 B
C04B22/14 B
C04B40/02
C04B28/02
(21)【出願番号】P 2020057404
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】森 寛晃
(72)【発明者】
【氏名】島影 亮司
(72)【発明者】
【氏名】黒野 承太郎
(72)【発明者】
【氏名】柴垣 昌範
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-104866(JP,A)
【文献】特開2018-87111(JP,A)
【文献】特開2002-265241(JP,A)
【文献】特開2008-201656(JP,A)
【文献】特開昭61-97154(JP,A)
【文献】特開2000-247695(JP,A)
【文献】特開平8-34645(JP,A)
【文献】特開2015-44717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C04B 40/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカ粉末と、ブレーン比表面積が7,000cm
2/g以上の石灰石粉末と、高性能減水剤及び高性能AE減水剤の少なくともいずれか一方を含むセメント組成物であって、
上記セメントクリンカ粉末と上記石灰石粉末の合計量中の上記石灰石粉末の割合が1~6質量%であり、
上記セメントクリンカ粉末と上記石灰石粉末の合計100質量部に対する上記高性能減水剤及び上記高性能AE減水剤の少なくともいずれか一方の量が、固形分換算値で0.1~1.5質量部であり、
上記セメント組成物中の硫黄化合物の割合がSO
3換算値で0.1~1.0質量%であることを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
上記セメント組成物に含まれるせっこうの量が上記セメントクリンカ粉末100質量部に対してSO
3換算値で0~0.5質量部であることを特徴とする請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
さらに、硬化促進剤を、上記セメントクリンカ粉末と上記石灰石粉末の合計100質量部に対して、固形分換算値で0.2~1.2質量部の量で含む請求項1又は2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント組成物と、水を含む混合物の硬化体であることを特徴とするセメント質硬化体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント組成物と水を混合して混合物を得る調製工程と、
上記混合物について、55℃以上の温度で1時間以上、蒸気養生を行ない、蒸気養生後の混合物を得る蒸気養生工程と、
上記蒸気養生後の混合物について、硬化させるための養生を行い、上記混合物を硬化してなるセメント質硬化体を得る硬化工程、
を含むことを特徴とするセメント質硬化体の製造方法。
【請求項6】
上記蒸気養生工程における蒸気養生が、常圧蒸気養生である請求項5に記載のセメント質硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物、及びセメント質硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント水和物の一種であるエトリンガイトは、コンクリート等のセメント質硬化体中でその体積が膨張することで、セメント質硬化体にひび割れを生じさせる場合がある。この劣化現象は、DEF(Delayed Ettringite Formation:エトリンガイトの遅延生成)と呼ばれている。
DEFが発生する条件の例としては、(i)セメントに過剰の硫酸塩が含まれていること、(ii)高温養生(例えば、最高温度が70℃以上の常圧蒸気養生)を受けること、(iii)高湿度環境にさらされること等が挙げられる。これらの条件が複数重なることによってDEFの発生するリスクは高くなる。
DEFによりひび割れが発生したコンクリートの補修方法として、特許文献1には、下記(A)および(B)工程を含む、コンクリートの補修方法が記載されている。
(A)エトリンガイトの遅延生成により、ひび割れが発生したコンクリートを、70~150℃に加熱する工程
(B)前記加熱したコンクリート中に、撥水剤および/または含浸剤を塗布または浸透させる浸透工程
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、セメントには、凝結調整を目的として、せっこうが含まれている。せっこうを含まないセメント(すなわち、硫酸塩を含まないセメント)を用いれば、該セメントを含むセメント質硬化体にDEFが発生しにくくなる。しかし、せっこうを含まないセメントは、接水によって、セメントのアルミネート相の水和が急激に進行し、こわばり(偽凝結)が生じるため、打込みを完了するまでに、所望の流動性を維持することができないという問題がある。
本発明の目的は、せっこうを用いない、又は、せっこうの量が少ない(具体的には、セメントクリンカ粉末100質量部に対してSO3換算値で0~0.5質量部)にもかかわらず硬化前には、こわばりが生じにくく、良好な流動性を維持することができ、また、硬化後には、DEFが起こりにくいセメント組成物、及び、該セメント組成物を用いたセメント質硬化体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメントクリンカ粉末と、ブレーン比表面積が7,000cm2/g以上の石灰石粉末と、高性能減水剤及び高性能AE減水剤の少なくともいずれか一方を含み、セメントクリンカ粉末と石灰石粉末の合計量中の石灰石粉末の割合が1~6質量%であり、セメントクリンカ粉末と石灰石粉末の合計100質量部に対する高性能減水剤及び高性能AE減水剤の少なくともいずれか一方の量が、固形分換算値で0.1~1.5質量部であり、セメント組成物中の硫黄化合物の割合がSO3換算値で0.1~1.0質量%であるセメント組成物によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を提供するものである。
[1] セメントクリンカ粉末と、ブレーン比表面積が7,000cm2/g以上の石灰石粉末と、高性能減水剤及び高性能AE減水剤の少なくともいずれか一方を含むセメント組成物であって、上記セメントクリンカ粉末と上記石灰石粉末の合計量中の上記石灰石粉末の割合が1~6質量%であり、上記セメントクリンカ粉末と上記石灰石粉末の合計100質量部に対する上記高性能減水剤及び高性能AE減水剤の少なくともいずれか一方の量が、固形分換算値で0.1~1.5質量部であり、上記セメント組成物中の硫黄化合物の割合がSO3換算値で0.1~1.0質量%であることを特徴とするセメント組成物。
[2] 上記セメント組成物に含まれるせっこうの量が上記セメントクリンカ粉末100質量部に対してSO3換算値で0~0.5質量部であることを特徴とする前記[1]に記載のセメント組成物。
[3] さらに、硬化促進剤を、上記セメントクリンカ粉末と上記石灰石粉末の合計100質量部に対して、固形分換算値で0.2~1.2質量部の量で含む前記[1]又は[2]に記載のセメント組成物。
[4] 前記[1]~[3]のいずれかに記載のセメント組成物と、水を含む混合物の硬化体であることを特徴とするセメント質硬化体。
[5] 前記[1]~[3]のいずれかに記載のセメント組成物と水を混合して混合物を得る調製工程と、上記混合物について、55℃以上の温度で1時間以上、蒸気養生を行ない、蒸気養生後の混合物を得る蒸気養生工程と、上記蒸気養生後の混合物について、硬化させるための養生を行い、上記混合物を硬化してなるセメント質硬化体を得る硬化工程、を含むことを特徴とするセメント質硬化体の製造方法。
[6] 上記蒸気養生工程における蒸気養生が、常圧蒸気養生である前記[5]に記載のセメント質硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明のセメント組成物、及び、該セメント組成物を用いたセメント質硬化体の製造方法によれば、せっこうを用いない、又は、せっこうの量(具体的には、セメントクリンカ粉末100質量部に対してSO3換算値で0~0.5質量部)が少ないにもかかわらず、硬化前には、こわばりが生じにくく、良好な流動性を維持することができ、また、硬化後には、DEFが起こりにくいセメント質硬化体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のセメント組成物は、セメントクリンカ粉末と、ブレーン比表面積が7,000cm2/g以上の石灰石粉末と、高性能減水剤及び高性能AE減水剤の少なくともいずれか一方を含むセメント組成物であって、セメントクリンカ粉末と石灰石粉末の合計量中の石灰石粉末の割合が1~6質量%であり、セメントクリンカ粉末と石灰石粉末の合計100質量部に対する高性能減水剤及び高性能AE減水剤の少なくともいずれか一方の量が、固形分換算値で0.1~1.5質量部であり、セメント組成物中の硫黄化合物の割合がSO3換算値で0.1~1.0質量%であるものである。
【0008】
セメントクリンカの例としては、普通ポルトランドセメントクリンカ、早強ポルトランドセメントクリンカ、中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、低熱ポルトランドセメントクリンカ等の各種ポルトランドセメントクリンカ等が挙げられる。
セメントクリンカ粉末のブレーン比表面積は、好ましくは2,000~10,000cm2/g、より好ましくは2,500~8,000cm2/g、特に好ましくは3,000~6,000cm2/gである。上記ブレーン比表面積が2,000cm2/g以上であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。上記ブレーン比表面積が10,000cm2/g以下であれば、セメント組成物の流動性がより向上する。
【0009】
石灰石粉末のブレーン比表面積は、7,000cm2/g以上、好ましくは8,000~30,000cm2/g、より好ましくは9,000~26,000cm2/g、特に好ましくは10,000~24,000cm2/gである。上記ブレーン比表面積が7,000cm2/g未満であると、セメント組成物の強度発現性が低下する。上記ブレーン比表面積が30,000cm2/g以下であれば、石灰石を粉砕するのに要する労力を小さくすることができる。
セメントクリンカ粉末と石灰石粉末の合計量(100質量%)中の石灰石粉末の割合は、1~6質量%、好ましくは1.5~5質量%、特に好ましくは2~4.5質量%である。上記割合が1質量%未満であると、セメント組成物と水を混練した後、こわばりが生じ、作業性が低下する。上記割合が6質量%を超えるとセメント組成物の強度発現性が低下する。
【0010】
高性能減水剤、及び高性能AE減水剤としては、モルタルやコンクリート用混和剤として一般的に用いられているものであればよく、例えば、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系等の高性能減水剤又は高性能AE減水剤が挙げられる。中でも、セメント組成物の流動性をより向上させる観点から、ポリカルボン酸系の高性能減水剤又は高性能AE減水剤が好ましく、ポリカルボン酸エーテル系の高性能減水剤又は高性能AE減水剤がより好ましい。
上記セメントクリンカ粉末と上記石灰石粉末の合計100質量部に対する高性能減水剤及び上記高性能AE減水剤の少なくともいずれか一方の量(セメント組成物が高性能減水剤及び上記高性能AE減水剤の両方を含む場合はその合計量)は、固形分換算値で0.1~1.5質量部、好ましくは0.15~1.0質量部、より好ましくは0.2~0.8質量部、特に好ましくは0.2~0.6質量部であり、練り混ぜ水に置換して用いる。上記量が0.1質量部未満であると、セメント組成物の流動性が低下する。上記量が1.5質量部を超えると、コストが過大になる。
【0011】
セメント組成物に含まれるせっこうの量は、セメントクリンカ粉末100質量部に対してSO3換算値で、好ましくは0~0.5質量部、より好ましくは0~0.3質量部、さらに好ましくは0~0.2質量部、さらに好ましくは0~0.1質量部、特に好ましくは0質量部である。該量が0.5質量部を超えると、こわばり(偽凝結)が生じにくくなり、石灰石粉末を添加することなく、打込みを完了するまで所望の流動性を維持することができる。しかし、該量が0.5質量部を超えると、セメント組成物中の硫黄化合物は増えることになるので、セメント質硬化体に、エトリンガイトの遅延生成による、ひび割れの発生リスクが大きくなる。
【0012】
本発明のセメント組成物中の硫黄化合物の割合は、SO3換算値で、0.1~1.0質量%、好ましくは0.15~0.8質量%、より好ましくは0.2~0.6質量%、特に好ましくは0.25~0.5質量%である。上記割合が0.1質量%未満であるセメント組成物は製造が困難である。上記割合が1.0質量%を超えると、エトリンガイトの遅延生成による、ひび割れの発生リスクが大きくなる。
上記セメント組成物中の硫黄化合物の例としては、硫黄、三酸化硫黄等が挙げられる。なお、上記硫黄化合物の割合には、せっこう由来の硫黄化合物と、セメントクリンカ粉末由来の硫黄化合物の両方が含まれる。
【0013】
本発明のセメント組成物は、水和を促進して、養生時間を短くする観点から、さらに、 硬化促進剤を含んでいてもよい。
硬化促進剤としては、モルタルやコンクリート用混和剤として一般的に用いられているものであればよく、例えば、亜硝酸塩系、チオシアン酸塩系、硫酸塩系、チオ硫酸塩系、塩化物系、炭酸塩系、及びアルミナ系等の硬化促進剤が挙げられる。中でも、流動性を低下させることなく、凝結始発時間をより早くすることができる観点から、亜硝酸系の硬化促進剤が好ましく、亜硝酸カルシウム系の硬化促進剤がより好ましい。
セメントクリンカ粉末と石灰石粉末の合計100質量部に対する、硬化促進剤の量は、固形分換算値として、好ましくは0.2~1.2質量部、より好ましくは0.4~1.0質量部、特に好ましくは0.6~0.9質量部であり、練り混ぜ水に置換して用いる。上記量が0.2質量部以上であれば、セメント組成物の強度発現性が向上するため、1~4時間程度(一般的な前養生に要する時間)の前置き養生の時間で、所望の強度のセメント質硬化体を得ることができる。上記量が1.2質量部以下であれば、コストを低減することができる。
なお、本明細書中、セメント組成物とは、ペースト、モルタルまたはコンクリートを調製するための他の材料(細骨材、粗骨材、及び水等)は含まれないものとする。
【0014】
本発明のセメント質硬化体は、上述したセメント組成物、水、及び、必要に応じて配合される他の材料を含む混合物の硬化体(具体的には、ペースト、モルタル、又はコンクリート)である。上記セメント質硬化体は、上記セメント組成物と水等を混合することで得ることができる。
本発明のセメント組成物を用いた、セメント質硬化体の製造方法の一例としては、上述したセメント組成物と水を混合して混合物を得る調製工程と、得られた混合物について、55℃以上の温度で1時間以上、蒸気養生を行ない、蒸気養生後の混合物を得る蒸気養生工程と、蒸気養生後の混合物について、硬化させるための養生を行い、混合物を硬化してなるセメント質硬化体を得る硬化工程、を含むものが挙げられる。
以下、工程ごとに詳しく説明する。
【0015】
[調製工程]
本工程は、上述したセメント組成物、水、及び必要に応じて配合される他の材料を混合して混合物を得る工程である。
各材料の混合に用いるミキサとしては、特に限定されるものではなく、パン型ミキサ、二軸ミキサ等の慣用のミキサを用いることができる。
水の配合量は、特に限定されず、モルタルやコンクリート等における一般的な配合量であればよい。例えば、水の配合量は、水と、セメント組成物の質量比(水/セメント組成物)の値として、好ましくは0.2~0.6となる量である。
【0016】
必要に応じて配合される他の材料の例としては、骨材、セメント分散剤(ただし、高性能減水剤及び高性能AE減水剤を除く。)、膨張材、収縮低減剤、空気量調整剤等が挙げられる。
骨材としては、細骨材のみ、または、細骨材と粗骨材の組み合わせが挙げられる。
細骨材としては、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、硅砂、スラグ細骨材、及び軽量細骨材等から選ばれる1種以上が挙げられる。また、細骨材は天然骨材のほか、再生骨材を用いることができる。
粗骨材としては、砂利、砕石、スラグ粗骨材、及び軽量粗骨材等から選ばれる1種以上が挙げられる。また、粗骨材は、前記細骨材と同様に、天然骨材のほか再生骨材を用いることができる。
骨材の配合量(細骨材と粗骨材を併用する場合はその合計量)は特に限定されず、モルタルやコンクリート等における一般的な配合量であればよい。例えば、骨材の配合量は、骨材とセメント組成物の質量比(骨材/セメント組成物)が、好ましくは1~7、より好ましくは2~5となる量である。
【0017】
混合方法は、特に限定されるものではなく、全ての材料を一括してミキサに投入して混合してもよく、セメントクリンカ粉末、石灰石粉末、及び、必要に応じて配合される骨材をミキサに投入して空練りを行った後に、水、高性能減水剤、及び、必要に応じて配合される他の材料等を投入して混合してもよい。
混合工程後、得られた混合物は、通常、型枠内に打込まれた(打設された)後、前養生工程(後述)、蒸気養生工程が行われる。
【0018】
[前養生工程]
本工程は、混合工程と蒸気養生工程の間に任意で設けられる工程であり、混合工程で得られた混合物について、1時間以上(好ましくは1.5~6時間、より好ましくは2~5時間)気中養生する工程である。気中養生を行う際の温度は、通常、常温(例えば、5℃以上、40℃未満、好ましくは10~30℃)である。気中養生の時間が1時間以上であると、セメント質硬化体の強度がより向上する。
【0019】
[蒸気養生工程]
本工程は、前工程(混合工程または前養生工程)で得られた混合物について、55℃以上の温度で1時間以上、蒸気養生を行ない、蒸気養生後の混合物を得る工程である。
蒸気養生は、大気圧下で行われる常圧蒸気養生でも、オートクレーブを用いて、常圧よりも高い圧力下で行われる高温高圧蒸気養生であってもよい。中でも製造の容易性等の観点から、常圧蒸気養生が好適である。
蒸気養生は、1時間以上(好ましくは2~5時間、より好ましくは2~4時間)かけて、所望の最高温度となるまで昇温が行われる。所望の最高温度となるまでの昇温速度(単位時間当たりの温度の上昇の幅)は、好ましくは10~30℃/時間である。
55℃以上(好ましくは60~80℃)の雰囲気下において蒸気養生する時間は、セメント質硬化体の強度を大きくする観点から、2時間以上、好ましくは2時間15分間以上、より好ましくは2時間30分間以上である。また、上記時間は、セメント質硬化体の製造に要する時間を短くする観点から、好ましくは5時間以下、より好ましくは4時間30分間以下である。
蒸気養生における最高温度は、セメント質硬化体の強度をより大きくすることができ、蒸気養生に要する時間をより短くすることができる観点から、55℃以上、好ましくは60~80℃である。
【0020】
次いで、2~10時間(好ましくは3~9時間)かけて常温(20℃程度)まで降温が行われる。
常温(20℃程度)となるまでの降温速度(単位時間当たりの温度の降下の幅)は、好ましくは3~40℃/時間、より好ましくは5~20℃/時間、特に好ましくは6~10℃/時間である。
蒸気養生工程に要する時間(昇温の開始から降温の終了までの時間)は、製品の製造にかかる時間を短くする観点から、好ましくは16時間以下、より好ましくは15時間以下である。
【0021】
[硬化工程]
本工程は、蒸気養生後の混合物について、硬化させるための養生を行い、混合物を硬化してなるセメント質硬化体を得る工程である。上記養生は、通常、常温で静置することで行われる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)セメントクリンカ粉末(表1中、「クリンカ」と示す。);普通ポルトランドセメントクリンカ粉末、ブレーン比表面積:3,190cm2/g、密度:3.15g/cm3
(2)半水せっこう;焼せっこう(試薬)
(3)二水せっこう;硫酸カルシウム二水和物(試薬)
(4)石灰石粉末A;ブレーン比表面積:4,000cm2/g、密度:2.72g/cm3、備北粉化工業社製、商品名「BF200」
(5)石灰石粉末B;ブレーン比表面積:12,000cm2/g、密度:2.72g/cm3、備北粉化工業社製、商品名「ソフトン1200」
(6)石灰石粉末C;ブレーン比表面積:22,000cm2/g、密度:2.72g/cm3、備北粉化工業社製、商品名「ソフトン2200」
(7)細骨材;山砂、表乾密度2.57g/cm3
(8)高性能減水剤;ポリカルボン酸エーテル系高性能減水剤、BASFジャパン社製、商品名「マスターグレニウム8000S、タイプM」、固形分30質量%
(9)空気量調整剤;ポリアルキレングリコール誘導体、BASFジャパン社製、商品名「マスターエア404」
(10)硬化促進剤;亜硝酸カルシウム系硬化促進剤、マノール社製、商品名「マノール防凍剤」、固形分20質量%
【0023】
[実施例1~2]
5リットルのホバート社製のミキサに、セメントクリンカ粉末と表1に示す種類の石灰石粉末と骨材を投入して、15秒間空練りを行った。ついで、高性能減水剤と空気量調整剤と水を予め混合してなる液状物をミキサに投入して、低速で60秒間混練し、ミキサの内壁に付着した材料を掻き落とした後、高速で60秒間混練して、1回目の混練を終了した。次いで、混練物をミキサ内で180秒間静置した後、さらに低速で60秒間混練して、2回目の混練を行い、モルタルを調製した。
各材料の配合量は、表1に示す。また、高性能減水剤と空気量調整材の量は、モルタルフロー値が180±20mmであり、モルタルの空気量が4.5±1.5%となる様に調整した。
なお、1回目の混練の終了後に、混練物をミキサ内で180秒間静置したのは、意図的にこわばりを生じさせた後、再度混練することによって、混練後のモルタルの状態変化を小さくするためである。
得られたモルタルのフロー値及び温度の測定、並びに、作業性及びこわばりの評価を以下の(1)~(2)に従って行った。結果を表2に示す。
【0024】
(1) モルタルのフロー値、及び、温度の測定
1回目の混練終了の直後(表2~3中、「1回目」と示す。)、2回目の混練終了の直後(表2~3中、「2回目」と示す。)、ミキサ内に水を投入した時から20分間経過後(表2~3中、「20分後」と示す。)、及び、ミキサ内に水を投入した時から30分間経過後(表2~3中、「30分後」と示す。)のモルタルのフロー値を、「JIA R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に準拠して、15回の落下運動を行って測定した。
また、1回目の混練終了の直後、及び、2回目の混練終了の直後のモルタルの温度を測定した。
なお、モルタルフロー値が155~165mm程度であれば、作業性は良好であると判断することができる。
(2) モルタルの作業性、及び、こわばりの評価
また、1回目の混練終了の直後、2回目の混練終了の直後、及び、ミキサ内に水を投入した時から30分間経過後のモルタルの作業性を3段階で評価した。具体的には、モルタルが柔らかく、打込みが容易であり、作業性が良好であるものを「〇」、モルタルがやや荒々しく、振動を与えれば流動するものの、打込み作業に時間を要するものを「△」、モルタルが荒々しく、振動を与えても容易に流動せず、打込み作業ができないものを「×」と評価した。
また、モルタルのこわばりを3段階で評価した。具体的には、こわばりの影響が小さく、注水後30分間の可使時間を確保できるものを「〇」、こわばりの影響があり、注水後30分間の可使時間を確保できないものを「△」、こわばりの影響が大きく、締まりの状態(振動を与えても変形し難い状態)に早くなるものを「×」と評価した。
【0025】
さらに、注水後30分間経過したモルタルを、φ5×10cmのスチール製の型枠に打込んだ後、20℃の温度下で3時間前養生を行なった。前養生後、2時間15分間かけて65℃まで昇温(昇温速度:20℃/時間)し、65℃(最高温度)を3時間保持し、次いで、4時間かけて20℃まで降温(降温速度:7.5℃/時間)する温度履歴で蒸気養生を行なった。蒸気養生後、20℃の環境下の封緘状態で14日間静置した後、脱型を行い、セメント質硬化体を得た。得られたセメント質硬化体のモルタルの圧縮強さを、以下の(3)の方法に従って測定した。
(3) モルタルの圧縮強さの測定
モルタルの材齢14日における圧縮強さを、「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定した。
モルタルは、硬化促進剤を含むものと含まないものを作成し、各々のモルタルの圧縮強さを測定した。
硬化促進剤の量は、セメントクリンカ粉末と石灰石粉末の合計100質量部に対して、固形分換算値で、0.8質量部となる量とした。また、硬化促進剤は、モルタルを調製する際に、高性能減水剤と一緒に水と混合して使用した。
結果を表3に示す。
【0026】
[比較例1]
石灰石粉末を用いず、硬化促進剤を含むモルタルを調製しない以外は実施例1と同様にして、モルタルを調製し、セメント質硬化体を得た。
実施例1と同様にして、得られたモルタルのフロー値、温度、圧縮強さの測定、作業性及びこわばりの評価を行った。
[比較例2]
実施例1と同様にして、モルタルを調製し、セメント質硬化体を得た。
実施例1と同様にして、得られたモルタルのフロー値、温度、圧縮強さの測定、作業性及びこわばりの評価を行った。
【0027】
[実施例3]
石灰石粉末Cの代わりに石灰石粉末Bを用いる以外は実施例1と同様にして、モルタルを調製し、セメント質硬化体を得た。
実施例1と同様にして、得られたモルタルのフロー値、温度、圧縮強さの測定、作業性及びこわばりの評価を行った。
[比較例3]
石灰石粉末Cの代わりに石灰石粉末Aを用い、硬化促進剤を含むモルタルを調製しない以外は実施例1と同様にして、モルタルを調製し、セメント質硬化体を得た。
実施例1と同様にして、得られたモルタルのフロー値、温度、圧縮強さの測定、作業性及びこわばりの評価を行った。
【0028】
[参考例1]
石灰石粉末の代わりに、半水せっこう及び二水せっこうを表1に示す配合量で用い、硬化促進剤を含むモルタルを調製しない以外は実施例1と同様にして、モルタルを調製し、セメント質硬化体を得た。
実施例1と同様にして、得られたモルタルのフロー値、温度、圧縮強さの測定、作業性及びこわばりの評価を行った。
[参考例2]
セメントクリンカ粉末及び石灰石粉末の代わりに、普通ポルトランドセメントを用い、硬化促進剤を含むモルタルを調製しない以外は実施例1と同様にして、モルタルを調製し、セメント質硬化体を得た。
実施例1と同様にして、得られたモルタルのフロー値、温度、圧縮強さの測定、作業性及びこわばりの評価を行った。
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
表2~3から、実施例1~3と比較例1(石灰石粉末を使用せず、かつ、せっこうを含まないもの)を比較すると、実施例1~3のモルタルフロー値(1回目の混練終了の直後:179~182mm、2回目の混練終了の直後:160~162mm、ミキサ内に水を投入した時から20分間経過後:156~159mm、ミキサ内に水を投入した時から30分間経過後:154~166mm)は、比較例1のモルタルフロー値(1回目の混練終了の直後:137mm、2回目の混練終了の直後:151mm、ミキサ内に水を投入した時から20分間経過後:148mm、ミキサ内に水を投入した時から30分間経過後:145mm)よりも大きいことがわかる。また、実施例1~3の作業性評価及びこわばり評価は、いずれも「〇」であるのに対して、比較例1の作業性評価は、「×」又は「△」であることがわかる。
また、比較例2(セメントクリンカ粉末と石灰石粉末の合計量中の石灰石粉末の割合が8質量%であるもの)の、モルタルフロー値、作業性評価、及びこわばり評価は、実施例1~3と同等であるが、比較例2のモルタルの圧縮強さ(CNあり:50.4N/mm2、CNなし:29.8N/mm2)は、実施例1~3のモルタルの圧縮強さ(CNあり:56.1~61.1N/mm2、CNなし:33.2~37.5N/mm2)よりも小さいことがわかる。
【0033】
比較例3(ブレーン比表面積が4,000cm2/gである石灰石粉末を使用する以外は実施例2と同様のもの)の2回目の混練終了時の作業性評価は「△」であり、ミキサ内に水を投入した時から30分間経過後の作業性評価は「×」であり、こわばり評価が「×」であることがわかる。また、比較例3のモルタルフロー値(1回目の混練終了直後:178mm、2回目の混練終了の直後:148mm、ミキサ内に水を投入した時から20分間経過後:139mm、及びミキサ内に水を投入した時から30分間経過後のモルタルフロー値:141mm)は、実施例1~3のモルタルフロー値よりも小さいことがわかる。
また、比較例3のモルタルの圧縮強さ(CNなし:27.9N/mm2)は、実施例1~3のモルタルの圧縮強さよりも小さいことがわかる。
なお、参考例1~2は、モルタルフロー値、作業性評価、こわばり評価、圧縮強さに優れているが、せっこうを含んでいることから、DEF(エトリンガイトの遅延生成)による、ひび割れの発生リスクは他よりも高いと考えられる。