(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】光ファイバおよび光ファイバグレーティング
(51)【国際特許分類】
G02B 6/036 20060101AFI20230919BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
G02B6/036
G02B6/02 376A
G02B6/02 416
(21)【出願番号】P 2020506655
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2019010628
(87)【国際公開番号】W WO2019177114
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2018049018
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000110309
【氏名又は名称】住友電工オプティフロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】長能 重博
(72)【発明者】
【氏名】茂原 政一
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 将潔
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-088349(JP,A)
【文献】特表2014-526066(JP,A)
【文献】特表2000-503414(JP,A)
【文献】米国特許第07526160(US,B1)
【文献】特開2003-322735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/036,6/02,6/028
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ系ガラスからなる光ファイバであって、
単峰型の傾斜屈折率プロファイルを有するコアと、
前記コアを取り囲むとともに前記コアの最大屈折率より低い屈折率を有する内クラッドと、
前記内クラッドを取り囲むとともに前記コアの最大屈折率より低い屈折率を有する外クラッドと、
を備え、
前記コアおよび前記内クラッドにより構成された感光性領域が感光性材料を含み、
前記
感光性領域が、波長1310nm帯におけるLP
01モードのモードフィールド径の1倍以上2倍以下の外径を有
し、
前記感光性領域が、前記感光性材料としてGeおよびBの双方を含み、
前記感光性領域における前記Bの最大濃度と最小濃度との差が、前記最大濃度のB添加に由来する相対屈折率の変化と前記最小濃度のB添加に由来する相対屈折率の変化との差に換算して0.3%以下であり、
前記感光性領域の最外殻領域における前記Geの濃度が、Ge添加に由来する相対屈折率の変化に換算して0.35%以上である、
光ファイバ。
【請求項2】
前記内クラッドの屈折率は、前記Ge添加に由来する屈折率増加量と前記B添加に由来する屈折率減少量とが相殺されることにより、純シリカガラスの屈折率に略等しい、
請求項
1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記内クラッドにおいて、前記Ge添加に由来する屈折率増加量が前記B添加に由来する屈折率減少量より大きく、
前記外クラッドが塩素を含み、
前記内クラッドの屈折率と前記外クラッドの屈折率とが互いに略等しい、
請求項
1に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記単峰型の傾斜屈折率プロファイルは、α乗分布であって、α値が、0.5より大きく、5.0より小さい、
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記コアと前記内クラッドとの間の比屈折率差が0.4%以上である、
請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項6】
請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の光ファイバを備え、
前記光ファイバにおける前記感光性領域は、前記光ファイバの長手方向に沿って屈折率が周期的に変動する屈折率変調領域を含む光ファイバグレーティング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバおよび光ファイバグレーティングに関するものである。
【0002】
本願は、2018年3月16日に出願された日本特許出願第2018-049018号による優先権を主張するものであり、その内容に依拠すると共に、その全体を参照して本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0003】
感光性材料が添加されたシリカ系ガラス(silica-based glass)に紫外光を照射すると照射部分の屈折率が上昇する。このことを利用して、光ファイバグレーティング(TFG: termination fiber grating)が作製される。具体的には、シリカ系ガラスからなる光ファイバに対してその長手方向に沿って屈折率が周期的に変動する屈折率変調領域が設けられる。光ファイバグレーティングは、例えばPON(passive optical network)監視用フィルタとして活用されている。
【0004】
PONシステムにおいて更なる大容量伝送を可能にするための一例として、PON監視用フィルタは、監視用の波長1650nm帯を中心とした±5nm程度の波長帯域の光を選択的に反射する。一方で、PON監視用フィルタは、この波長帯域とは異なる帯域(例えば、1530nm以上1565nm以下のCバンド)の信号光だけでなく、更に他の帯域(例えば、1565nm以上1625nm以下のLバンド)の信号光をも透過させることで、より広い波長帯域において大容量の伝送を可能にする。
【0005】
なお、光ファイバグレーティングの製造方法は、例えば、特許文献1~3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-004926号公報
【文献】特開平11-119041号公報
【文献】特開平11-326672号公報
【文献】特開2001-183535号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】D. L. Williams, et al., “ENHANCED UV PHOTOSENSITIVITY IN BORON CODOPED GERMANOSILICATE FIBERS”, ELECTRONICS LETTERS, 7th January, 1993, Vol.29, No.1, pp.45-47.
【文献】Junji Nishii, et al., “Ultraviolet-radiation-induced chemical reactions through one- and two-photon absorption process in GeO2-SiO2 glasses”, OPTICS LETTERS, Vol.20, No.10, May 15, 1995, pp.1184-1186.
【文献】「位相マスク法における回折光のグレーティング特性への影響」、2000年電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ大会、C-3-26、P151.
【発明の概要】
【0008】
本開示に係る光ファイバは、シリカ系ガラスからなる光ファイバであって、コアと、該コアを取り囲む内クラッドと、該内クラッドを取り囲む外クラッドと、を備える。コアは、単峰型の傾斜屈折率プロファイル(single-peaked and graded refractive index profile)を有する。内クラッドは、コアの最大屈折率より低い屈折率を有する。外クラッドは、コアの最大屈折率より低い屈折率を有する。特に、コアおよび内クラッドにより構成された感光性領域は、感光性材料を含む。また、内クラッドは、波長1310nm帯のLP01モードのモードフィールド径(以下、「MFD」と記す)の1倍以上2倍以下の外径を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、光ファイバグレーティングの透過損失の緩慢な増加の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、第1比較例に係る光ファイバの径方向に沿った、Ge添加に由来するGe濃度分布およびB添加に由来するB濃度分布を示す図である。
【
図3】
図3は、第1比較例に係る光ファイバの径方向に沿った屈折率プロファイルを示す図である。
【
図4】
図4は、第1比較例に係る光ファイバを用いて作製される光ファイバグレーティングの断面構造を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、
図4に示された光ファイバグレーティングにおいて透過損失の緩慢な増加が生じる理由について説明するための図である(その1)。
【
図5B】
図5Bは、
図4に示された光ファイバグレーティングにおいて透過損失の緩慢な増加が生じる理由について説明するための図である(その2)。
【
図6】
図6は、第2比較例に係る光ファイバを用いて作製される光ファイバグレーティングの屈折率分布を示す図である。
【
図7】
図7は、一実施形態に係る光ファイバを用いて作製される光ファイバグレーティングの断面構造を示す図である。
【
図8】
図8は、一実施形態に係る光ファイバを用いて作製される光ファイバグレーティングの屈折率分布を示す図である。
【
図9】
図9は、一実施形態に係る光ファイバの径方向に沿った、Ge添加に由来するGe濃度分布およびB添加に由来するB濃度分布を示す図である。
【
図10】
図10は、一実施形態に係る光ファイバの径方向に沿った屈折率プロファイルを示す図である。
【
図11A】
図11Aは、一実施形態に係る光ファイバの屈折率プロファイルの概略形状を示す図である。
【
図11B】
図11Bは、
図11Aの光ファイバにおいてGeおよびBが共添加された共添加領域(感光性領域)を説明するための図である(その1)。
【
図11C】
図11Cは、
図11Aの光ファイバにおいてGeおよびBが共添加された共添加領域(感光性領域)を説明するための図である(その2)。
【
図12A】
図12Aは、一実施形態に係る光ファイバを用いて製造される光ファイバグレーティングの透過特性の一例を示す図である。
【
図13A】
図13Aは、第1比較例に係る光ファイバ(
図3)に位相マスクを利用してグレーティングが形成された光ファイバグレーティングの透過特性として、Gap幅を振動させなかった場合の透過特性を示す図である。
【
図14A】
図14Aは、第1比較例に係る光ファイバ(
図3)に位相マスクを利用してグレーティングが形成された光ファイバグレーティングの透過特性として、Gap幅を振動させなかった場合の透過特性ととともにGap幅を振動させた場合の透過特性を示す図である。
【
図15A】
図15Aは、一実施形態に係る光ファイバに位相マスクを利用してグレーティングが形成された光ファイバグレーティングの透過特性として、Gap幅を振動させなかった場合の透過特性とともにGap幅を振動させた場合の透過特性を示す図である。
【
図16A】
図16Aは、第1比較例に係る光ファイバを用いた光ファイバグレーティングについて、Gap幅と透過損失との関係を示すグラフである。
【
図16B】
図16Bは、一実施形態に係る光ファイバを用いた光ファイバグレーティングについて、Gap幅と透過損失との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
特許文献1,2に記載された光ファイバグレーティングの製造方法では、コア及びクラッドの双方またはいずれか一方が感光性材料を含むシリカ系ガラスからなる光ファイバが用意される。この光ファイバに対して屈折率を上昇させ得る特定波長の紫外光(例えばアルゴンイオンレーザ光の2倍波(波長244nm)等)が照射される。これにより、感光性材料を含むシリカ系ガラスの屈折率の増加が可能になる。
【0011】
長手方向に沿って所定周期の屈折率変調領域を光ファイバ内に形成する方法には、チャープ型グレーティング位相マスクを用いた±1次回折光による露光、レーザ光直接露光、2光束干渉露光がある。その中でも、位相マスクを用いた方法の利点としては、同一特性を有する光ファイバグレーティングを再現性よく作製することができる点、および、他の手法に比べてアライメントが比較的容易である点が挙げられる。
【0012】
感光性材料としてはGeO2が代表的である。コアおよびクラッドの双方にGeO2が添加される一方、クラッドにFが添加されることで、コアとクラッドとの間に屈折率の差を形成することができる。しかしながら、感光性材料としてGeO2のみが利用された場合、紫外線照射で生じる屈折率変化量を大きくすることができない。このことは、所定の反射特性を得るために必要な光ファイバグレーティングの長尺化を招き、その結果、紫外光照射コストが高くなるという課題があった。
【0013】
この課題を解決する手法としては、感光性材料としてGeO2に加えてB2O3をも利用することが知られている(非特許文献1,2参照)。GeO2のみの添加に比べて、GeO2およびB2O3の共添加(co-doping)は、紫外線照射で生じる屈折率変化量を大きくすることができる。したがって、GeO2およびB2O3の共添加は、光ファイバグレーティングの短尺化を可能にし、紫外光照射コストの抑制を可能にする。よって、感光性材料としてGeO2およびB2O3の共添加が好適である。
【0014】
光ファイバグレーティングを製造する際に用いられる光ファイバの径方向の屈折率プロファイルは、代表的にはステップインデックス型である。コアのみに感光性材料が添加されると、ファイバ長手方向に沿って周期的に屈折率が変動する屈折率変調領域がコアのみに形成される。しかしながら、このファイバ構造を有する光ファイバグレーティングは、監視用の波長帯域において所定の反射を形成することができても、その透過損失帯域の短波長側に透過損失の緩慢な増加を有する(
図1Aおよび
図1B参照)。
【0015】
図1Aは、光ファイバグレーティングの透過損失の緩慢な増加の一例を示す図である。
図1Bは、
図1Aの一部の拡大図である。
図1Aには、Lバンドにおいて求められる透過損失下限値と光透過阻止帯域で求められる透過損失上限値とが点線で加えられている。
図1Bには、Lバンドにおいて求められる透過損失下限値が点線で加えられている。これら
図1Aおよび
図1Bに示された例では、光透過阻止帯域が1640nm以上1655nm以下であり、この光透過阻止帯域において要求される透過損失が-30.0dB以上である。なお、この例では、Lバンドの長波長端(1625nm)の付近において、光ファイバグレーティングの損失が無視できない程度の大きさとなっている。
【0016】
このような透過損失の緩慢な増加が生じる理由は、光ファイバの局所領域に紫外光照射による屈折率変調領域が形成されることによりLP01モード(基底モード:fundamental mode)と軸対称なLP0m(m=2,3,…)の高次モードとの間の直交性が崩れるからである(結果、LP01モードから高次モードへの結合損失が生じる)。
【0017】
LP01モードと高次モードとの間の直交性を維持するには、ファイバ断面において光が感じる領域の全体において屈折率変調領域が形成されることが必要である。GeO2およびB2O3の共添加による好適な感光性材料の組み合わせに対して、直交性を維持できる条件を満たす構造は、例えば、コアおよび光学クラッドの双方の全域に感光性材料のGeO2およびB2O3を共添加するとともに、光学クラッドにはFを添加することにより、コアと光学クラッドとの間に十分な屈折率の差を形成する方法が考えられる。しかしながら、B2O3とFとの化合物は難処理物質の一つであり、この方法は好ましくない。
【0018】
これに対し、上記特許文献3に開示された発明は、ステップインデックス型ではなくコアが単峰型の傾斜屈折率プロファイルを有する光ファイバを用いて光ファイバグレーティングを製造する。特許文献3の記載によれば、適用される光ファイバがこのような単峰型の傾斜屈折率プロファイルを有することにより、該光ファイバのコアとクラッドとの境界部における長手方向の比屈折率差の変化と伝搬モード変化を小さくすることができ、クラッドモード結合ロスを抑制することができる。また、特許文献3の記載によれば、光ファイバグレーティングによる光透過阻止波長帯が約1640nm以上約1660nm以下のとき、波長約1520nm帯に生じる光透過損失の抑制が可能になり、光ファイバグレーティングの使用波長帯(約1550nm帯)における光透過損失が小さくなり得る。
【0019】
[本開示が解決しようとする課題]
発明者らは、従来の光ファイバおよび光ファイバグレーティングについて検討した結果、以下のような課題を発見した。すなわち、上記特許文献3に開示された発明は、光ファイバグレーティングによる光透過阻止波長帯が約1640nm以上約1660nm以下のとき、波長約1520nm帯に生じる光透過損失の抑制が可能になるが、Lバンドの長波長端(1625nm)における透過損失が無視できない程度まで大きくなる(低く見積もっても5dB程度以上)。これは、LP01モードの光強度分布の広がりがグレーティング領域よりも大きいためと考えられる。すなわち、このような状況では、LP01モードと高次モード(LP0mモード)との間の直交性が低下し、その結果、LP01モードからLP0mモードへの結合が生じたためと考えられる。したがって、特許文献3に開示された発明による光ファイバグレーティングは、Lバンドの信号光を用いた広い波長帯域において大容量の伝送を可能にするPONシステムのPON監視用フィルタには適さない。
【0020】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、透過損失の緩慢な増加が低減された光ファイバグレーティング、および、このような光ファイバグレーティングを製造するのに好適な光ファイバを提供することを目的としている。
【0021】
[本開示の効果]
本開示によれば、透過損失の緩慢な増加が低減された光ファイバグレーティング、および、このような光ファイバグレーティングを製造するのに好適な光ファイバを提供することができる。
【0022】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0023】
(1)本開示の光ファイバは、シリカ系ガラスならなる光ファイバであって、その一態様として、コアと、該コアを取り囲む内クラッドと、該内クラッドを取り囲む外クラッドと、を備える。コアは、単峰型の傾斜屈折率プロファイルを有する。内クラッドは、コアの最大屈折率より低い屈折率を有する。外クラッドは、コアの最大屈折率より低い屈折率を有する。特に、コアおよび内クラッドにより構成された感光性領域は、感光性材料を含む。また、内クラッドは、波長1310nm帯のLP01モードのMFDの1倍以上2倍以下の外径を有する。
【0024】
なお、本明細書において、「シリカ系ガラス」とは、SiO2を50% by mass以上含むガラスである。また、純シリカガラス(屈折率nsilica)に対する屈折率niを有する各領域の相対屈折率nriは、以下の式:
nri=ni/nsilica
で規定され、屈折率n1を有する領域と屈折率n2を有する領域との間の比屈折率差Δは、以下の式:
Δ=|nr1-nr2|
で規定される。
【0025】
また、屈折率プロファイルにおける意図しない、または小さな変動の影響を避けるため、屈折率n(r)の測定値そのものにおいてではなく、屈折率n(r)の間隔5μm毎の平均値による移動平均における屈折率のピークが一つのみであれば、「単峰型」であると判断する。
【0026】
(2)本開示の一態様として、感光性領域は、感光性材料としてGeおよびBの双方を含むのが好ましい。
【0027】
(3)本開示の一態様として、感光性領域におけるBの最大濃度と最小濃度との差は、B添加に由来する相対屈折率の変化に換算して0.3%以下であるのが好ましく、この場合、感光性領域の最外殻領域(内クラッドの最外殻領域)におけるGeの濃度は、Ge添加に由来する相対屈折率の変化に換算して0.35%以上であるのが好ましい。
【0028】
(4)本開示の一態様として、内クラッドの屈折率は、Ge添加に由来する屈折率増加量とB添加に由来する屈折率減少量とが相殺されることにより、純シリカガラスの屈折率に略等しいのが好ましい。なお、本明細書において「略等しい」とは、比較すべき2つの領域間の比屈折率が0.02%以下の状態を意味する。
【0029】
(5)本開示の一態様として、内クラッドにおいて、Ge添加に由来する屈折率増加量は、B添加に由来する屈折率減少量より大きく、また、外クラッドは塩素を含むのが好ましい。なお、この構成においても、内クラッドの屈折率と外クラッドの屈折率とは、互いに略等しいのが好ましい。
【0030】
(6)本開示の一態様として、単峰型の傾斜屈折率プロファイルは、α乗分布であって、α値は、0.5より大きく、5.0より小さいのが好ましい。また、本開示の一態様として、コアと内クラッドとの間の比屈折率差は、0.4%以上1.0%以下であるのが好ましい。α乗分布において、コアの最大屈折率をn1、コアの最小屈折率をn2、コアの半径をaとするとき、コア中心から半径方向に沿って距離r(<a)の位置における屈折率n(r)は、以下の式:
n(r)=n1[1-2Δ(r/a)α]1/2
で規定される。上記式中のα値を調節することにより、屈折率プロファイルの形状が任意に設定可能になる。
【0031】
その他、上述のような構造を備えた、本開示の光ファイバにおいて、適切なカットオフ波長の範囲は、0.9μm以上1.3μm以下である。また、直径30mmのマンドレルに10回巻いた状態での波長1.55μm帯における曲げ損失は、5dB以下であるのが好ましい。
【0032】
(7)本開示の光ファイバグレーティングは、その一態様として、上述のような構造を備えた光ファイバを備え、該光ファイバの長手方向に沿って設けられた屈折率変調領域を含む。屈折率変調領域は、当該光ファイバの長手方向に沿って屈折率が周期的に変動する領域であって、感光性領域内に設けられる。ただし、屈折率の変動周期は長手方向に沿って連続的に変化していてもよい。
【0033】
以上、この[本開示の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0034】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の光ファイバおよび光ファイバグレーティングの具体的な構造を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0035】
以下では、光透過阻止波長帯が約1640nm以上約1660nm以下であってLバンドの長波長端の1625nmで低損失である光ファイバグレーティングを作製するのに好適な光ファイバの構造について説明する。大きな屈折率変化を高速に形成するために感光性材料としてGeO2およびB2O3が共添加される場合について説明する。また、以下では、先ず比較例について説明し、その後に実施形態について説明する。
【0036】
図2は、第1比較例に係る光ファイバの径方向に沿った、Ge添加に由来する濃度分布およびB添加に由来する濃度分布を示す図である。
図3は、第1比較例に係る光ファイバの径方向の屈折率プロファイルを示す図である。第1比較例に係る光ファイバは、ステップインデックス型の屈折率プロファイルを有し、コアおよびクラッドのうちコアのみに感光性材料が添加されている。
図2に示された例では、中央領域を除くコアの周辺領域に略一様に感光性材料が添加されており、コアにおけるGe添加量は、Ge添加に由来する相対屈折率の変化に換算して1.1%である。また、コアにおけるB添加量は、B添加に由来する相対屈折率の変化に換算して-0.4%である。なお、
図2および
図3の縦軸に示された相対屈折率nrが正の領域は、純シリカガラスの屈折率(基準)よりも高い屈折率の範囲を示し、負の領域は、純シリカガラスの屈折率(基準)よりも低い屈折率の範囲を示している。
【0037】
図4は、第1比較例に係る光ファイバを用いて作製される光ファイバグレーティング100の断面構造を示す図である。なお、
図4には、後述する第2比較例に係る光ファイバの構造も示されている。
図5Aおよび
図5Bは、
図4に示された光ファイバグレーティング100において透過損失の緩慢な増加が生じる理由について説明するための図である。第1比較例に係る光ファイバは、コア110と、クラッド120を備え、当該光ファイバの長手方向に沿って周期的に屈折率が変動するグレーティング領域(屈折率変調領域)がコア110内に形成されている。監視光のLP
01モードが軸対称の高次モードであるLP
0mモードに結合することにより透過損失の緩慢な増加が発生する。紫外光照射前の光ファイバのコア110とクラッド120との間の比屈折率差をΔn
Cとする。紫外光照射によってコア110において相対屈折率がnr
UV変化した場合のコア110とクラッド120との間の比屈折率差をΔn
C-UVとする。
【0038】
図5Bに示されたように、コア110のみに長手方向に沿って相対屈折率の変化分nr
UVの周期的な変動がある場合、光伝搬方向に対して、Δn
C-UV(=nr
UV+Δn
C)とΔn
Cとの間で周期的に変化する比屈折率差が現れる。LP
01モードのMFDは、その周期的に変動する比屈折率差に依存して変化する。すなわち、比屈折率差Δn
Cの場合(図中のβ面)の光強度分布はP
1、比屈折率差Δn
C-UVの場合(図中のα面)の光強度分布はP
2となり、その関係はP
1≠P
2となる。その結果、光伝搬方向に沿った光強度分布の変動により散乱が生じ、その散乱が高次モードと結合して、
図1Aおよび
図1Bに示されたような透過損失の緩慢な増加が生じると考えられる。なお、β面では、
図5Aに示されたような周期的な屈折率の変動が発生しない領域Aの光強度分布と同じになる。
【0039】
次に、第2比較例に係る光ファイバの構造について説明する。第2比較例に係る光ファイバは、シリカ系ガラスからなるステップインデックス型の屈折率プロファイルを有する光ファイバであって、
図4に示されたように、コア110と、コア110を取り囲み該コア110の屈折率より低い屈折率を有する内クラッドおよび外クラッドと、を備える。なお、
図4には、クラッド120の一部(コア110と破線で挟まれた領域)として、内クラッド(光学クラッド)121が示されている。したがって、この第2比較例に係る光ファイバにおいて、外クラッドは、
図4に示されたクラッド120のうち内クラッド121の外側に設けられた領域に相当する。内クラッド121は、コア110に隣接してコア110を取り囲む。外クラッドは、内クラッド121に隣接して該内クラッド121を取り囲む。第2比較例に係る光ファイバでは、コア110および内クラッド121により構成される感光性領域が感光性材料を含む。具体的に、感光性領域は、感光性材料としてGeおよびBの双方を含む。
【0040】
第2比較例に係る光ファイバでは、LP01モードと高次モードのLP0mモードとの間の直交性の低下を抑制するため、紫外光照射により周期的に相対屈折率の変化分nrUVが生じても、長手方向に沿ったLP01モードの光強度分布の変化量が抑制されている。すなわち、内クラッド121は、波長1310nmのLP01モードのMFDと同等またはそれ以上の外径を有する。具体的な内クラッド121の外径は、8μm以上14μm以下が好ましく、9μm以上13μm以下がより好ましい。また、第2比較例に係る光ファイバでは、好適には、感光性領域(コア110および内クラッド121)において、感光性材料の添加量が略均一であることが望ましい。MFDは7.5μm以上9.0μm以下であるのが好適である。コア110は、内クラッド121の相対屈折率の平均値より+0.01%以上高い相対屈折率である領域である。
【0041】
図6は、第2比較例に係る光ファイバを用いて作製される光ファイバグレーティングの屈折率分布を示す図である。第2比較例に係る光ファイバを用いて作製される光ファイバグレーティングでは、長手方向に沿って周期的に変動する相対屈折率の変化分nr
UV(=Δn
C-UV’-Δn
C)は、コア110に形成されるだけでなく、内クラッド121にも形成される。その場合の理想の構造としては、コア110と内クラッド121との間の比屈折率差Δn
C-UV’をΔn
Cと同等とすることができ、LP
01モードの光伝搬方向に対する揺らぎを抑制することができる。すなわち、光伝搬領域の全体で、長手方向に沿って周期的に相対屈折率の変化分nr
UVが形成され、かつ、LP
01モードと高次モードとの間の直交性が維持される構造を有する。この構造を実現するため、GeおよびBが共添加された内クラッド121のみにFが添加されることで内クラッドの屈折率を下げる手法が考えられる。しかしながら、この手法では、BとFとの化合物は難処理物質であり、製造上、得策ではない。
【0042】
次に、本開示の一実施形態に係る光ファイバの構造について説明する。なお、
図7は、一実施形態に係る光ファイバを用いて作製される光ファイバグレーティング200の断面構造を示す図である。一実施形態に係る光ファイバは、コア210と、コア210を取り囲み該コア210の屈折率より低い屈折率を有する内クラッド(光学クラッド)220と、内クラッド220を取り囲む外クラッド230と、を備える。また、コア210および内クラッド220により構成される感光性領域300は感光性材料としてGeおよびBの双方を含む。
図7の例では、一実施形態に係る光ファイバと所定距離(Gap幅)だけ離間した状態で配置された位相マスク400を介してレーザ光が照射されることにより、感光性領域300内にグレーティング領域が形成される。
【0043】
前述の第2比較例に係る光ファイバがステップインデックス型の屈折率プロファイルを有するのに対して、一実施形態に係る光ファイバのコア210は、単峰型の傾斜屈折率プロファイルを有する。内クラッド220は、波長1310nm帯におけるLP01モードのMFDの1倍以上2倍以下の外径を有する。
【0044】
図8は、本開示の一実施形態に係る光ファイバを用いて作製される光ファイバグレーティング200の屈折率プロファイルを示す図である。
図9は、本開示の一実施形態に係る光ファイバの径方向のGe濃度分布(Ge添加に由来する濃度分布)およびB濃度分布(B添加に由来する濃度分布)を示す図である。
図10は、本開示の一実施形態に係る光ファイバの径方向に沿った屈折率プロファイルを示す図である。製造プロセス上の理由によりコア210の中央領域には添加量が低いディップが生じるが、光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する際に添加物が拡散する。そのため、
図10に示されたような単峰型の傾斜屈折率プロファイルを有する光ファイバが得られる。
【0045】
まず、
図9に示されたように、感光性領域300(コア210および内クラッド220により構成される共添加領域)において、中央領域(ディップ)を除く領域に略一様にBが添加されている。B添加量は、B添加に由来する相対屈折率の変化に換算した値が-0.1%から-0.6%の範囲であるのが好適である。ファイバ断面内での屈折率の不均一性を小さくするため、中央のディップを除く領域において、B添加量(B濃度)の最大値と最小値との差は、B添加に由来する相対屈折率の変化に換算した値で0.3%以下であるのが好適である。
【0046】
Geは、Bと同じくコア210および内クラッド220に添加される。内クラッド220の最外殻領域のGe添加量(Ge濃度)は、Ge添加に由来する相対屈折率の変化に換算した値で0.35%以上であるのが好適である。Ge濃度がGe添加に由来する相対屈折率の変化に換算した値で0.35%未満である場合は、相対屈折率の変化分nrUVが極端に小さくなり、有効でない。他方、B濃度分布をα乗分布形状にするよりも、Ge濃度がGe添加に由来する相対屈折率の変化に換算した値で0.35%以上となる範囲をα乗分布に調整した方が、紫外線による相対屈折率の変化分nrUVをファイバ断面内でより均一にできる。このことから、α乗分布を形成する上で、B濃度をコントロールするよりもGe濃度をコントロールする方が有効である。コア210と内クラッド220との間の比屈折率差は0.4%以上が好適である。
【0047】
図8に示されたように、感光性領域300の中心における相対屈折率の変化分nr
UV1と感光性領域300の裾における相対屈折率の変化分nr
UV2とは、添加されたGeの濃度が異なることから厳密には異なる。ただし、実質的に、nr
UV1≒nr
UV2と見做すことができる。その結果、比屈折率差Δn
U-UV’は、Δn
U-UV'≒Δn
Uが成り立ち、波長1310nmのLP
01モードの伝搬方向に対して、光強度分布P3の変動量は無視できるほど小さくなる。なお、比屈折率差Δn
U-UV’は、非紫外線照射領域(グレーティング領域外)の外クラッド230と感光性領域300の中心との比屈折率差Δn
Uに感光性領域300の中心における相対屈折率の変化分nr
UV1を加えた値と、外クラッド230の比屈折率差に感光性領域300の裾における相対屈折率の変化分nr
UV2を加えた値との差である。P3の変動量を抑制するための屈折率プロファイルの指数αは、0.5<α<5が好適である。
【0048】
図11Aは、本開示の一実施形態に係る光ファイバの屈折率プロファイルを示し、
図11Bおよび
図11Cは、光ファイバにおいてGeおよびBが共添加される共添加領域(感光性領域300に相当)を説明するための図である。共添加領域は、コア210と同一の領域(
図11C)、または、コア210を含みコア210より広い領域(
図11B)とすることが考えられる。重要な点は、共添加領域の径は、波長1310nmのLP
01モードのMFDに対して1倍以上であることである。共添加領域の径は該MFDの2倍以上であってもよいが、共添加領域が大きすぎると、グレーティングを書き込むための紫外光の吸収が大きくなり、ファイバ断面内における相対屈折率の変化分nr
UVの変動が増大するので、有効ではない。よって、共添加領域の径は、波長1310nmのLP
01モードのMFDに対して1倍以上2倍以下であるのが好適である。
【0049】
なお、感光性材料としてGeのみが添加される場合と比較して、GeおよびBが共添加される場合には、相対屈折率の変化分nrUVが大きくなるので、光ファイバグレーティング200の短尺化が可能になる。具体的には、光ファイバグレーティング200は、長さ10mm以下に小型化され得る。
【0050】
図12Aは、本開示の一実施形態に係る光ファイバを用いて製造される光ファイバグレーティング200の透過特性の一例を示す図である。
図12Bは、
図12Aの一部の拡大図である。
図1Aおよび
図1Bの例と対比すると、
図12Aおよび
図12Bに示された透過特性では、1610nm乃至1625nmにおける透過損失の緩慢な増加が低減されて、1625nmの透過損失が-0.8dB程度まで抑制されている。
【0051】
本開示の一実施形態に係る光ファイバグレーティング200は、光透過阻止帯域の透過損失については-30dBを満足し、Lバンドの大容量伝送を可能とする1625nm帯までの使用を可能にする。
【0052】
また、本開示の一実施形態において、内クラッド220は、Ge添加に由来する屈折率増加量とB添加に由来する屈折率減少量とが相殺されることにより、純シリカガラスの屈折率に略等しい屈折率を有してもよい。また、内クラッド220は、外クラッド230の屈折率とが互いに略等しくなる構成であってもよい。例えば、内クラッド220においてGe添加に由来する屈折率増加量がB添加に由来する屈折率減少量により調整される一方、外クラッド230が塩素(Cl)を含む構成において、内クラッド220の屈折率と外クラッド230の屈折率とが互いに略等しくなる構成であってもよい。
【0053】
以上の説明では、本開示のα乗分布(
図10)が
図3に示された従来の屈折率プロファイルに対して、1625nmの透過損失を抑制できる点で優位である点が指摘されたが、その他の優位な点について以下説明する。
【0054】
図7に示されたような位相マスク400を介したグレーティング書込みでは、±1次の回折光の干渉縞が利用される。ただし、この場合、異なる高次回折光との干渉縞も同時に書き込まれるため、例えば、
図13Aおよび
図13Bに示されたように、1539nm近傍で不要な透過損失が発生する。なお、
図13Aは、第1比較例に係る光ファイバ(
図3のステップインデックス型の屈折率プロファイル)に位相マスクを介してグレーティングが形成された光ファイバグレーティング100の透過特性として、Gap幅(位相マスクと光ファイバとの距離)を振動させなかった場合の透過特性を示す図である。
図13Bは、
図13Aの一部の拡大図である。この対策方法として、Gap幅(位相マスクとファイバの距離)を変動させながらグレーティング書込みを行う製法が提案されている(上記特許文献4および上記非特許文献3参照)。
【0055】
Gap幅を変動させながらグレーティング書込みが行われる場合のスペクトルが
図14A~
図15Bに示されている。なお、
図14Aは、第1比較例に係る光ファイバ(
図3のステップインデックス型屈折率プロファイル)に位相マスクを利用してグレーティングが形成された光ファイバグレーティング100の透過特性を示す。
図14Bは、
図14Aの一部の拡大図である。
図14Aおよび
図14Bにおいて、グラフG141は、Gap幅を振動させなかった場合の透過特性を示し、グラフG142は、Gap幅を振動させた場合の透過特性を示す。また、
図15Aは、本開示の一実施形態に係る光ファイバ(
図10のα乗分布)に、
図7に示されたように、位相マスク400を利用してグレーティングが形成された光ファイバグレーティング200の透過特性を示す。
図15Bは、
図15Aの一部の拡大図である。
図15Aおよび
図15Bにおいて、グラフG151は、Gap幅を振動させなかった場合の透過特性を示し、グラフG152は、Gap幅を振動させた場合の透過特性を示す。
【0056】
上記波長1539nm近傍における不要な透過損失の形成要因は、+1次と+3次の回折光との干渉であることが計算より確認された。Gap幅の変動がある場合の波長1539nmにおける透過損失は、ステップインデックス型の屈折率プロファイルを有するサンプルのみならずα乗分布を有するサンプルにおいても、Gap幅の変動がない場合と比べ抑制されていることが判明した。なお、今回のGapの変動幅は、何れも1μmであった。
【0057】
この透過損失の抑制には、Gap幅の変動の他に、位相マスクの性能を向上させる方法(位相マスク設計や製造方法で向上可能)もある。なお、位相マスクの性能に関して「性能がよい」とは、±3次の回折光の発生効率が±1次の発生効率に比べて十分に小さいことを意味する。しかしながら、ここで強調したいのは、性能のよい位相マスクを用意して、高次の回折光効率は抑制できたとしても零にすることはできず、±1次の回折光と±3次の回折光との干渉により、所定Bragg波長とは異なるBragg波長が形成される。すなわち、Cバンド帯域に不要な透過損失が生じる。本実施形態において使用された位相マスクでは、1539nmを含む波長帯での透過損失が、グレーティング書込み時のGap幅に変動を加えることにより、-0.55dBから-0.35dBにまで抑制された。ただし、性能のよい位相マスクを用意すれば、更なる抑制が期待できるが、位相マスクのみの改善では限界がある。
【0058】
上述の
図14A~
図15BのGapの変動幅は、1μm程度で一定であったが、ファイバ長手方向の構造バラツキに依存した適切なGap変動幅が存在することが推測される。この場合、1μmのGap幅は、適切な範囲では無い可能性も考えられる。そこで、Gap幅をパラメータとして、α乗分布とステップインデックス型それぞれの屈折率プロファイルを有する光ファイバに対してグレーティング書込み特性を調査した(
図16Aおよび
図16B)。なお、
図16Aは、第1比較例に係る光ファイバを用いた光ファイバグレーティング100について、Gap幅と透過損失との関係を示すグラフである。
図16Bは、本開示の一実施形態に係る光ファイバを用いた光ファイバグレーティング200について、Gap幅と透過損失との関係を示すグラフである。
図16Aおよび
図16Bのいずれにおいても、横軸は波長λ(nm)であり、縦軸は、Cバンド帯域を含む1500nm以上1580nm以下の波長帯域における最大透過損失である。なお、測定サンプルの光ファイバグレーティングの作製では、
図14A~
図15Bの透過特性を示す光ファイバグレーティングの作製で使用された位相マスクが使用された。その際のUV照射条件は、1650nm波長帯において、同程度の透過損失となる条件とした。
【0059】
ステップインデックス型の屈折率プロファイルの場合(
図16A)、Gap幅の変動を導入することで、透過損失の最大抑制幅は、0.3dBであることが分かる。Gap幅の変動により透過損失が抑制され、その透過損失がある値で収束しているGap幅1μm以上の透過損失の最大値と最小値の差異を調査したところ、Δ0.15dBであった。他方、α乗分布の場合(
図16B)、透過損失の最大抑制幅は0.4dBであり、Gap幅1μm以上の透過損失の最大値と最小値の差異はΔ0.05dBであった。
【0060】
α乗分布を有する光ファイバグレーティング200の透過損失の抑制幅は、ステップインデックス型の屈折率プロファイルを有する光ファイバグレーティング100に比べ0.1dB改善されていることが判明し、優位であることが示された。特筆すべきは、α乗分布の場合における透過損失のGap幅依存性は、ステップインデックス型の屈折率プロファイルの場合に比べ小さいことである。すなわち、ファイバ長手方向の構造のバラツキ、アライメントのバラツキ等に起因した予期せぬGap幅変動量(設定Gap幅とのズレ量)が大きくても、α乗分布の場合は、ステップインデックス型の屈折率プロファイルの場合に比べ製造トレランスが大きく、その結果、製造上有効であることが判明した。
【符号の説明】
【0061】
200…光ファイバグレーティング、210…コア、220…内クラッド、230…外クラッド、300…感光性領域、400…位相マスク。