(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】磁気的に取り付け可能な止血クリップを使用する内視鏡的粘膜下層切除のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/122 20060101AFI20230919BHJP
A61B 17/04 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
A61B17/122
A61B17/04
(21)【出願番号】P 2020524736
(86)(22)【出願日】2018-11-08
(86)【国際出願番号】 US2018059867
(87)【国際公開番号】W WO2019094623
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-10-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-25
(32)【優先日】2017-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501083115
【氏名又は名称】メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【氏名又は名称】大塩 竹志
(72)【発明者】
【氏名】土橋 昭
(72)【発明者】
【氏名】ラジャン, エリザベス
【合議体】
【審判長】村上 聡
【審判官】佐々木 一浩
【審判官】安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-263160(JP,A)
【文献】特開2008-259835(JP,A)
【文献】特開2006-271832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/122
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁気牽引デバイス
のセットであって、
前記セットは、第1の磁気牽引デバイスと第2の磁気牽引デバイスとを備え、前記第1の磁気牽引デバイスおよび前記第2の磁気牽引デバイスの各々は、
一対のあごであって、前記一対のあごの間に組織を把持するように開いた構成と閉じた構成との間で移動するように構成された、一対のあごと、
半径方向中心を有する磁石であって、前記半径方向中心は、それを通るチャネルを画定
する、磁石と、
前記一対のあごおよび前記磁石を相互に結合するテザーであって、前記テザーは、前記磁石に結合された第1の部分と、前記一対のあごに結合された第2の部分とを備え、前記テザーの前記第1の部分は、単一の連続的なループを形成し、前記単一の連続的なループは、前記磁石の前記半径方向中心の前記チャネルを通って延在し、前記第2の部分に直接接続している、テザーと
を
備え、前記第1の磁気牽引デバイスの前記磁石は、患者の胃腸管内の前記第2の磁気牽引デバイスの前記磁石に接続するように構成されている、複数の磁気牽引デバイス
のセット。
【請求項2】
前記第1の磁気牽引デバイスの前記テザーは、
前記第1の磁気牽引デバイスの前記一対のあごのうちの第1のあごに取り付けられた第1の端部と、
前記第1の磁気牽引デバイスの前記磁石に取り付けられた第2の端部とを有
し、前記第2の磁気牽引デバイスの前記テザーは、前記第2の磁気牽引デバイスの前記一対のあごのうちの第1のあごに取り付けられた第1の端部と、前記第2の磁気牽引デバイスの前記磁石に取り付けられた第2の端部とを有する、請求項1に記載の
複数の磁気牽引デバイス
のセット。
【請求項3】
前記第1の磁気牽引デバイスおよび前記第2の磁気牽引デバイスの前記テザーは、縫合糸である、請求項1に記載の
複数の磁気牽引デバイス
のセット。
【請求項4】
前記第1の磁気牽引デバイスおよび前記第2の磁気牽引デバイスの前記磁石は、環状である、請求項1に記載の
複数の磁気牽引デバイス
のセット。
【請求項5】
前記第1の磁気牽引デバイスおよび前記第2の磁気牽引デバイスの前記磁石は、ネオジムから作られている、請求項1に記載の
複数の磁気牽引デバイス
のセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年11月8日に提出された米国仮特許出願第62/583,079号、および2018年2月8日に提出された米国仮特許出願第62/628,024号の利益と優先権を主張し、各々の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
内視鏡的切除は、侵襲性が低く、コストが低いため、早期胃腸管癌の治療の最初の選択肢としてすでに受け入れられている。内視鏡的粘膜下層切除(ESD)は、サイズ、粘膜下層での重度の線維症の存在、病変の場所に関係なく、一括切除と正確な組織病理学的診断を可能にする。ESDの利点の1つは、内視鏡的粘膜切除と比較して再発率が低いことである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
磁気アンカー誘導の内視鏡的粘膜下層切除(MAG-ESD)は、内視鏡の長手方向とは無関係に、適切な反対牽引を発揮し得る。オリジナルのMAG-ESDは、大型で扱いにくい体外電磁制御装置を使用している。MAG-ESDの制限は、外部磁石が胃の後ろではなく前に置くことができないため、腹壁が厚くなると吸引力が弱まり、かつ病変は、常に体の後ろ側から前に引き付けられることである。
【0004】
したがって、より安全でより迅速な内視鏡的粘膜下層切除(ESD)には、効果的な反対牽引が必要である。本開示は、ESDのための磁石付き止血クリップ(MAH)を提供する。
【0005】
本開示の一態様によれば、止血クリップと共に使用するための縫合糸が提供され、互いに結合された複数のループ状セグメント、磁石、およびストッパーを含む。ループ状セグメントの各々は、止血クリップに選択的に結合されるように構成される。磁石は、ループ状セグメントのうちの1つの端部に取り付けられ、ストッパーは、ループ状セグメントに対して摺動可能である。
【0006】
本開示の別の態様によれば、内視鏡的粘膜下切除を行う方法が提供され、病変に隣接する第1の磁石付き止血クリップを配備することと、胃壁に隣接する第2の磁石付き止血クリップを配備することと、第1および第2のクリップのそれぞれの磁石を接続することと、を含む。
例えば、本願は以下の項目を提供する。
(項目1)
止血クリップと共に使用するための縫合糸であって、
互いに結合された複数のループ状セグメントであって、各々が、止血クリップに選択的に結合されるように構成されている、複数のループ状セグメントと、
前記ループ状セグメントのうちの1つの端部に取り付けられた磁石と、
前記ループ状セグメントに対して摺動可能なストッパーと、を備える、縫合糸。
(項目2)
内視鏡的粘膜下層切除を実施するための方法であって、
第1の磁石付き止血クリップを病変に隣接して配備することと、
第2の磁石付き止血クリップを胃壁に隣接して配備することと、
前記第1および第2のクリップのそれぞれの磁石を接続することと、を含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成している添付の図面は、本開示の実施形態を示し、上記の開示の一般的な説明ならびに以下に示す実施形態または複数実施形態の詳細な説明と共に、本開示の原則を説明するために役立つ。
【0008】
【
図1】磁気牽引デバイスの長さ調節可能性のための例示的な多段縫合糸の側面斜視図である。
【
図2】1つ以上の止血クリップ(MAH)がそこに取り付けられている、
図1の縫合糸の側面斜視図である。
【
図3】磁気牽引デバイスの長さ調節機能のためのナイロンで製作された多段縫合糸の側面斜視図である。
【
図4】ジップタイ様構造による長さ調節機能を備えた例示的な磁気牽引デバイスを示す。
【
図5】磁石に取り付けられたTタグまたはクリップを備えた例示的な磁気閉鎖デバイスの側面斜視図である。
【
図7】3対の磁気閉鎖デバイスの例示的な配備を示す。
【
図8】磁気閉鎖デバイスの別の例示的な配備を示す。
【
図9A】磁気閉鎖デバイスの別の例示的な配備を示す。
【
図9B】磁気閉鎖デバイスの別の例示的な配備を示す。
【
図9C】磁気閉鎖デバイスの別の例示的な配備を示す。
【
図10】磁気閉鎖デバイスの別の例示的な配備を示す。
【
図11A】内視鏡から取り外された、磁石付き止血クリップの側面図である。
【
図11B】内視鏡に取り付けられた
図11Aの磁石付き止血クリップの側面図である。
【
図12B】胃後壁における完成した円周切開を示す。
【
図12C】胃後壁および胃壁の反対側(前)で配備されて病変に接続している2つのMAHを示す。
【
図12D】MAHの反対牽引による粘膜下切除中の明確な視覚化を示す。
【
図12E】筋肉の損傷なしに除去されている病変を示す。
【
図12F】それぞれの磁石を介して取り付けられた2つのMAHを有する切除された病変を示す。
【
図13A】磁石付きサーモクリップの分解図である。
【
図16】それぞれの磁石によって互いに固定された一対のMAHを示す。
【
図17】内視鏡ツールと病変との間に結合された一対のMAHの上面図である。
【
図18】内視鏡的粘膜下層切除を実施する際に利用される一対のMAHを示す胃の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1および2は、磁気牽引デバイス(「MTD」)の長さ調節機能のための多段縫合糸10の例示的な実施形態を示す。縫合糸10は、互いに取り付けられた複数のループ状セグメント12、14、16を有する。ループ状セグメント12、14、16は各々、それらを通る孔18、20、22を画定する。磁石24は、縫合糸10の端部10aに取り付けられ、ストッパー26は、縫合糸10の反対側の端部10bに配置される。ストッパー26は、縫合糸10上に摺動可能に配置され得、その結果、ストッパー26は、使用中に縫合糸10上のその軸方向位置を調整し得る。止血クリップ30は、縫合糸10の様々な場所のいずれかに、例えばループ状セグメント12、14、16のうちの1つに選択的に固定されてもよい。いくつかの態様では、各止血クリップ30のあごは、ループ状セグメント12、14、16のそれぞれの孔18、20、22に受け入れられてもよく、それによってループ状セグメント12、14、16は、止血クリップ30を縫合糸10に固定するためにあごの周りに固定されてもよい。止血クリップ30は、磁気牽引デバイスに対して好ましい縫合糸の長さを達成するためにストッパー26によって固定されてもよい。縫合糸10の孔18、20、または22に止血クリップ30の1つ以上のあごを受け入れると、ストッパー26は止血クリップ30を適所に固定する。
【0010】
態様では、
図3を参照して、MTDのための多段縫合糸は、ナイロンまたは任意の他の好適な材料から製作され得る。
図4は、ジップタイのような構造による長さ調整機能を備えたMTDの例を示している。
図5は、磁石閉鎖デバイス(MCD)の例を示す。この実施形態では(示されるように)、Tタグが磁石に取り付けられる。代替的に、クリップを、磁石に取り付けることができる(
図5には示されていない)。
図6Aおよび6Bは、全層様式で配備されたMCDの例を示す。T-タグは、胃壁を突き刺すことにより配備され、その後、再び挿入され、固定のために胃壁内に埋め込まれた。磁石は、粘膜側に保持され、縫合糸は、漿膜側から見ることができる。
図7Aおよび7Bは、胃の前面および後面に配備された3対のMCDの例を示し、前面に配備されたMCDと胃の後面のMCDとの間の引力は、肥満を治療するために胃の容積を減らす。
図8は、胃の前面と後面に直線的に配備されたMCDの例を示している。
図9A~9Cは、前面、後面、および胃のより大きな大湾および/または胃のより小さな大湾で配備された3対のMCDの例を示す。MCD間の引力は、胃の容積を減らす。
図10Aおよび10Bは、胃食道逆流症(GERO)の循環パターンで噴門に配備されたMCDの例を示す。
【0011】
図11A~18を参照すると、2つ以上の磁石付き止血クリップ(「MAH」)100、200を利用することを含む、粘膜下層切除を実施する方法が提供されている。
図11Aおよび11Bを参照すると、内視鏡32は、そこから延びる格納式シャフト34を有し、MAH100または200との取り外し可能な係合のために構成された遠位先端36を有する。MAH100は、開いた構成と閉じた構成との間で移動するように構成された一対のあご102と、あご102の一方に固定された第1の端部104aと、縫合糸104の第2の端部104bに取り付けられた磁石106と、を有する。MAH100、200の各々は、同じであるかまたは実質的に同じ特徴を有する。したがって、MAH200の詳細についてはこれ以上説明しない。
【0012】
操作中、周囲の粘膜切開110(
図12B)は、マーキング112(
図12A)に沿ったニードルナイフによって完成され、これは、30mmの紙の丸いテンプレートで作られてもよい。磁石106、206が胃内で互いに接続した後、第1のMAH100は、病変114の縁に配備され、第2のMAH200は、胃壁の反対側に配備される。粘膜下層切除は、ニードルナイフを使用して実施することができる。病変114の除去後、MAH 100、200および標的病変114は、スネアによって回収される。
【0013】
合計で、10回のESDがそれぞれMAHあり(ESD-MAH)とMAHなし(従来のESD)で実施された。一括切除は、すべての症例において穿孔なしで首尾よく完了した。ESD-MAHの粘膜下切除時間は、従来のESDのそれよりも有意に短かった(中央値:385秒[四分位範囲:273-254]対865秒[四分位範囲:709-1080]、p<0.05)。ESD-MAHの解剖中の粘膜下層の可視化スコアは、従来のESD(中央値:5[四分位範囲:4-5]対3[四分位範囲:2-4]、p<0.05)のそれよりも有意に高く、筋損傷の数は、ESD-MAHの方が従来のESDのそれよりも有意に少なかった(中央値:0[四分位範囲:0-0]対1[四分位範囲:0-2]、p<0.05)。
【0014】
MAHは優れた反対牽引を提供し、より安全でより速い胃ESDを可能にする。
【実施例】
【0015】
以下の実施例は、本発明の理解を助けるために示されているが、決してその範囲を限定することを意図しておらず、かつそのように解釈されるべきではない。
【0016】
材料および方法
胃の準備
同様のサイズ(50~60kg)のブタからの食道を有する5つの全豚胃を使用した。以前に報告されたように、上半身の大きな大湾で胃を切開部から反転させ、先述のように5つの異なる領域に30mmの紙の円形テンプレートに沿ってアルゴンプラズマ凝固(Genii、St Paul、MN)によって焼灼のマーキングを行った:下部胃体の前壁と後壁、中央胃体の大湾、上部胃体の前壁と後壁。胃を裏返し、続いて縫合により切開部を閉じた後、それらを市販のex vivoトレーナー(Endo-X-Trainer、Medical Innovations、Rochester,MN)のゴムバンドで固定した。オーバーチューブ(00711147、US endoscopy、Mentor、OH)が食道を通して挿入された。
【0017】
磁石付き止血クリップ(MAH)
ネオジムリング磁石(R212:1/8インチ外径×1/16インチ内径×1/8インチ厚さ、N42、0.53lbまたはR311:3/16インチ外径×1/16インチ内径×1/16インチ厚さ、N42、0.7lb)を2-0シルク縫合糸で止血クリップに取り付けた。止血クリップと磁石の間の縫合の長さは、2cmであった。止血クリップアプリケータデバイスから分離可能な止血クリップを使用する場合、磁石を予め止血クリップに取り付け(
図11A)、MAHは、止血クリップアプリケータデバイスの内視鏡ワーキングチャネルを通過した後に取り付けた。いくつかの態様では、クリップが内視鏡作業チャネルを通過した後、ESD処置中に磁石を止血クリップに結び付けることができる(
図11B)。
【0018】
MAHを使用したESD処置
透明なフード付きの標準的な胃内視鏡が使用され、すべての処置は、400の症例を超えるESDの専門家である内視鏡医(A.D.)によって実施された。最初に、インディゴカルミン色素を含む生理食塩水を粘膜下層に注入した後、マーキングに沿ってニードルナイフで周囲の粘膜切開(40Wパルス凝固;Genii)を完了した。次に、内視鏡を引き出し、MAHで再度挿入した。第1のMAHは病変の端に配備され、第2のMAHは、それぞれの磁石が胃で互いに接続された後、胃壁の反対側に配備された。電気外科用ナイフを使用して粘膜下解剖を実施し、病変を完全に除去した。切除後、2つのMAHと病変が三日月形スネアによって一緒に回収された。
【0019】
結果測定
主要な結果の指標は、従来の内視鏡的粘膜下層切除(「C-ESD」)とMAH(ESD-MAHs)を有するESDとの間の粘膜下切除時間の比較であった。二次的結果の指標には、一括切除率、MAH配備の時間、粘膜下層への注入量、MAHの配備を含む総処置時間、標本サイズ、解剖時の粘膜下層の視覚化、筋損傷の数およびMAHの使いやすさを含んでいた。視覚化と使いやすさは、1(不良)~5(優れている)までの範囲のビジュアルアナログスケールを使用して評価された。
【0020】
統計的分析
結果は、C-ESDとESD-MAHの比較に基づいて統計的に分析された。Studentのt検定またはMann-Whitney U検定を使用して定量的パラメータを比較し、Pearsonのχ2検定を使用して定性的パラメータを比較した。P<0.05は、統計的に有意であると見なされる。Stata12.0ソフトウェア(Stata Corp、College Station、TX、USA)を使用して統計分析を実施した。
【0021】
結果
合計で、10の症例がそれぞれC-ESDとESD-MAHで実施された。表1は、各々の処置の結果を示す。C-ESDとESD-MAHの両方のすべての病変(20/20、100%)は、穿孔なしで一括切除で完了した。ESD-MAHの最初の2つの症例では、より小さな磁石(R212)が使用された。下部胃体の後壁での第2の症例では、MAHが、互いに切断され、磁気吸引よりも反対牽引の張力が強かったため、適切な反対牽引を取得できなかった。したがって、胃壁の反対側に取り付けられたMAHのみがスネアによって回収され、より大きく強力な磁石(R311)を備えたMAHが再配備された。結局のところ、磁石は、手順全体を通して適切な反対牽引により接続を維持した。第2の症例後、残りのすべての症例でより大きな磁石(R311)が使用された。すべてのMAHが配備され、内視鏡的に回収された。
【表1】
【0022】
MAH配備の中央時間は205秒であった(四分位範囲[IQR]:163-211)。ESD-MAHの粘膜下切除時間は、C-ESDのそれよりも有意に短かった(中央値:385秒[IQR:273-254]対865秒[IQR:709-1080]、p<0.05)。粘膜下層切除用のMAG-ESDの粘膜下層への注入量は、C-ESDのそれよりも有意に小さかった(中央値:4ml[IQR:3-5]対12ml[IQR:6-13]、p<0.05)。ESD-MAHでのMAHの配備を含む総処置時間に差はなかった(中央値:1261秒[IQR:1211-1391]対1451秒[IQR:1044-1932]、p=0.2889)。標本サイズに差はなかった。ESD-MAHの切除中の粘膜下層の可視化スコアは、C-ESD(中央値:5[IQR:4-5]対3[IQR:2-4]、p<0.05)のそれよりも有意に高く、筋損傷の数は、ESD-MAHの方がC-ESDのそれよりも有意に少なかった(中央値:0[IQR:0-0]対1[IQR:0-2]、p<0.05)。MAHのユーザビリティスコアは、優れていた(中央値:5[IQR:5-5])。
【0023】
表2は、病変の位置(前壁対後壁および大きな大湾)に基づくサブグループ分析の結果を示している。C-ESDの粘膜下層の可視化スコアは、胃部壁の病変では有意に低かった(中央値:2[IQR:1-2]対5[IQR:4-5]、p<0.05)。ESD-MAHとC-ESDとの間に、総処置時間、粘膜下層切除時間、胃後壁および大湾の病変の筋肉損傷の数において有意差があった。一方、胃前壁の病変については、これらのパラメータに差はなかった。
【表2】
【0024】
考察
これは、デュアルMAHを使用したMAG-ESDの第1の報告である。このex vivo試験では、胃ESDに対するMAHの有効性を調査した。一括切除は、正常に完了し、MAHは、病変の完了直後にすべての症例で回収された。結果は、ESD-MAHが、粘膜下層の優れた視覚化、粘膜下層切除の時間の短縮、および筋肉層の損傷の減少を可能にすることを示した。MAHによる適切な反対牽引は、より速く、より安全なESD手順を提供することができた。
【0025】
MAG-ESDは、外部の磁石として使用された体外電磁制御装置で最初に報告された。MAG-ESDに関する他の報告でも、外部磁石と内部磁石の両方が使用された。外部磁石を使用することの欠点は、非常に強力な外部磁石が必要であり、胃の内部の内部磁石と体の外部の外部磁石の間の距離が遠くなるため、厚い腹壁によって磁気引力が減少し、反対牽引の方向が、3次元の半球内に制限される(つまり、外部磁石は体の前にのみ置くことができる)ことであると考えられている。これらの困難を克服するために、内部磁石としてデュアルMAHを使用した。
【0026】
ESDをより安全かつ迅速に行うには、解剖面を明確に視覚化する必要があるが、管腔内視鏡自体では適切な反対牽引をすることができない。これは、内視鏡の治療用チャネルが電気メスで占められ、いわゆる「片手手術法」でESDが行われるためである。障害を克服するために、ライン付きクリップ法、経皮的牽引法、シンカー補助法、外部鉗子法、内部牽引法(クリップバンド法、医療用リング法、S-Oクリップ法)、ダブルチャネル法、ロボット支援法など、粘膜下切除中に適切な牽引力を提供するいくつかの方法が報告されている。ただし、内部牽引方法を除くほとんどの牽引は、胃食道の接合部(つまり、内視鏡検査と平行な方向)を介して胃腸管の遠位側から近位側に行われ、牽引が効果的に提供されない場合がある。
【0027】
S-Oクリップが開発され、すでに結腸と胃の反対牽引デバイスとして臨床的に使用されている。SーOクリップは、止血クリップ、スプリング、および別の止血クリップ用リングで構成されている。S-Oクリップは、内部牽引法に分類され、基本的な機能は、MAH法とほとんど同じである。内部牽引法は、牽引の方向を好ましいものとして決定することができ、これは、ESDに非常によく機能する。しかしながら、S-Oクリップには、別の止血クリップでS-Oクリップを把持することが時々長びき、場合によっては、配備に5分超かかるなど、いくつかの制限がある。また、S-Oクリップのバネは8cm超伸びると破損する場合がある。MAHの利点の1つは、2つのMAHを胃内の磁力と簡単に接続できることである。別の利点は、広範囲の張力が病変の損傷を引き起こすのではなく、MAHの切断を引き起こすため、MAHが広範囲の牽引を防止できると考えられている。言い換えれば、磁石は、安全装置として機能することができる。胃壁側のMAHは、スネアによって迅速に回収でき、この研究ではESD-MAHの2番目の症例など、別のMAHを追加できるため、MAHシステムは、MAHの配備後に簡単に反対牽引の方向を変更することもできる。
【0028】
胃前壁に位置するほとんどの病変は、重力による反対牽引のため、MAHなしで粘膜下層の良好な視覚化を得ることができた(表2)。しかしながら、胃後壁の病変は、MAHなしでは適切な反対牽引を得ることができず、解剖中に粘膜下層を認識することは非常に困難であった。その結果、筋肉層は、ニードルナイフによって損傷し、そのような病変には、より長い処置時間が必要であった。MAHの配備には数分必要であり、実際には、C-ESDとESD-MAHの間に総処置時間と筋損傷に差がなかったため、すべての病変がMAHの良い候補とはなり得ない。粘膜下層の良好な可視化が得られない病変にMAHを使用すると、MAHを最も効果的に使用することができる。
【0029】
結論として、デュアルMAHを備えたMAG-ESDを開発した。MAHは、優れた反対牽引を提供した。粘膜下層の視覚化の改善により、この研究ではより安全でより速い胃ESDが可能になった。粘膜下層の可視化が不十分な場合にMAHを使用すると、MAHはより効果的な反対牽引のデバイスとなる。
【0030】
ESD、内視鏡的粘膜下層剥離術、MAH、磁石付き止血クリップ、*、Mann-Whitney U検定、**、スケールは、視覚的なアナログスケールに基づいて評価された(0=不良、5=優れている)、***、磁石クリップの配備を含む。
【0031】
この明細書には多くの具体的な実装の詳細が含有されているが、これらはいかなる発明または特許請求の範囲の範囲を制限するものではなく、特定の発明の特定の実施形態に固有であり得る機能の説明として解釈されるべきである。別個の実施形態の文脈で本明細書に記載されている特定の特徴は、単一の実施形態で組み合わせて実装することもできる。逆に、単一の実施形態の文脈で説明されている様々な特徴は、複数の実施形態で別々に、または任意の好適な副組み合わせで実装することもできる。さらに、機能はここでは特定の組み合わせで動作するものとして説明され、最初はそのように特許請求されていても、特許請求された組み合わせからの1つ以上の機能は、場合によっては組み合わせから削除され得、特許請求された組み合わせは、副組み合わせまたは副組み合わせの変化に向けられる。
【0032】
同様に、操作は図面に特定の順序で示されているが、望ましい結果を達成するために、そのような操作を特定の順序で、または順次に実行すること、またはすべての例示の操作を実施することを要求するものとして理解されるべきではない。特定の状況では、マルチタスクと並列処理が有利な場合がある。さらに、本明細書に記載の実施形態における様々なシステムモジュールおよび構成要素の分離は、すべての実施形態においてそのような分離を必要とすると理解されるべきではなく、説明されたプログラム構成要素およびシステムは、一般に単一の製品に統合されるか、複数の製品にパッケージ化され得ることが理解されるべきである。
【0033】
本主題の特定の実施形態が説明されてきた。他の実施形態は、以下の特許請求の範囲の範囲内にある。例えば、特許請求の範囲に記載されたアクションは、異なる順序で実施され得、かつなお望ましい結果を達成することができる。一例として、添付の図に示されたプロセスは、望ましい結果を達成するために、必ずしも示された特定の順序、または連続した順序を必要としない。特定の実装では、マルチタスクと並列処理が有利な場合がある。