(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】ILDR2アンタゴニストおよびその組み合わせ
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20230919BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20230919BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20230919BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20230919BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230919BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230919BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230919BHJP
A61P 37/00 20060101ALI20230919BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230919BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230919BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230919BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230919BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230919BHJP
C12N 15/117 20100101ALI20230919BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230919BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K31/337
A61K31/711
A61K39/395 T
A61K45/06
A61K47/68
A61K48/00
A61P35/00
A61P37/00
C07K16/28
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/117 Z ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
(21)【出願番号】P 2020529368
(86)(22)【出願日】2018-11-28
(86)【国際出願番号】 EP2018082779
(87)【国際公開番号】W WO2019105972
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-11-25
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】313006625
【氏名又は名称】バイエル・アクチエンゲゼルシヤフト
(73)【特許権者】
【識別番号】300049958
【氏名又は名称】バイエル ファーマ アクチエンゲゼルシャフト
(73)【特許権者】
【識別番号】517290958
【氏名又は名称】コンピュジェン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】レーゼ,ラース
(72)【発明者】
【氏名】グリッツァン,ウーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】フッター,ユリア
(72)【発明者】
【氏名】リャング,スペンサー
(72)【発明者】
【氏名】ポウ,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ハンター,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】レヴィ,オファー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァクニン,イラン
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】Cancer Res, July 2018, Vol. 78 , Issue 13_Supplement, Abstract No. 2778
【文献】History of Changes for Study: NCT03666273[オンライン], 2018.09.10,[検索日:2022.11.28],インターネット<URL:https://clinicaltrials.gov/ct2/history/NCT03666273?V_1=View#StudyPageTop>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61K 31/337
A61K 31/711
A61K 45/06
A61K 47/68
A61K 48/00
A61P 35/00
A61P 37/00
C07K 16/28
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12N 15/117
C12N 15/13
C12N 15/63
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ILDR2抗体またはその全てがILDR2結合特性を有するその断片と場合により1つまたは複数の他の治療活性化合物を含む
医薬組成物またはキットオブパーツであって、前記抗体およびその断片が、少なくとも3つのCDR重鎖配列:
【表1】
および、少なくとも3つのCDR軽鎖配列:
【表2】
を含む、
前記医薬組成物またはキットオブパーツ。
【請求項2】
前記他の治療活性化合物が、
●PD-L1アンタゴニスト
●タキサンまたはタキサン誘導体
●ワクチン
●CpGオリゴデオキシヌクレオチド、および/または
●c4.4Aを標的とする化合物
からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の
医薬組成物またはキットオブパーツ。
【請求項3】
前記抗ILDR2抗体またはその断片と前記他の治療活性化合物が、
●同じ投与単位で提供される、または
●個別の投与単位で提供される、
請求項1または2に記載の
医薬組成物またはキットオブパーツ。
【請求項4】
前記抗ILDR2抗体またはその断片と前記他の治療活性化合物が、
●同時に投与される、または
●逐次的に、すなわち、次々に投与される、
請求項1または2に記載の
医薬組成物またはキットオブパーツ。
【請求項5】
抗ILDR2抗体、またはその断片であって、その全てがILDR2結合特性を有し、それらが少なくとも3つのCDR重鎖配列:
【表1】
および、少なくとも3つのCDR軽鎖配列:
【表2】
を含む、前記抗ILDR2抗体、またはその断片。
【請求項6】
以下からなる群:
【表3】
から選択される配列と95%同一、好ましくは96%または97%同一、より好ましくは98%または99%同一、最も好ましくは100%である少なくとも1つの重鎖または軽鎖可変領域配列を含む、請求項5に記載の抗ILDR2抗体またはその断片。
【請求項7】
以下からなる群:
【表4】
から選択される配列と95%同一、好ましくは96または97%同一、より好ましくは98%または99%同一、最も好ましくは100%である少なくとも1つの重鎖または軽鎖配列を含む、請求項5または6のいずれか一項に記載の抗ILDR2抗体またはその断片。
【請求項8】
抗ILDR2抗体が、59-08.B02またはその断片である、
請求項5から7のいずれか一項に記載の抗ILDR2抗体またはその断片。
【請求項9】
蛍光活性化細胞スキャン(FACS)によって決定される25nM(2,5×10
-8M)以下のK
dでヒトILDR2から解離する、
請求項5から8のいずれか一項に記載の抗ILDR2抗体または抗体またはその断片。
【請求項10】
請求項5から8のいずれか一項に記載の抗ILDR2抗体またはその断片を含む、抗体薬物複合体。
【請求項11】
請求項5から8のいずれか一項に記載の抗ILDR2抗体または
その断片をコードする、単離された核酸配列。
【請求項12】
請求項11に記載の少なくとも1つの核酸配列またはそのセットを含む、ベクター。
【請求項13】
請求項5から8のいずれか一項に記載の抗ILDR2抗体またはその断片を発現する、ならびに/あるいは請求項11に記載の核酸配列もしくはそのセット、または請求項12に記載のベクターを含む、単離された細胞。
【請求項14】
請求項5から8のいずれか一項に記載の抗ILDR2抗体またはその断片を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の
医薬組成物またはキットオブパーツ。
【請求項15】
医薬品として使用するための、
請求項1から9および14のいずれか一項に記載の抗ILDR2抗体
またははその断片、または抗ILDR2抗体
またははその断片を含む
医薬組成物またはキットオブパーツ。
【請求項16】
がんなどの新生物疾患、または免疫疾患もしくは障害
●を患っている、
●を発症するリスクがある、および/または
●について診断されている
患者の処置に使用するための、ここで、抗ILDR2抗体もしくはその断片、または抗ILDR2抗体もしくはその断片を含む組合せは1つまたは複数の治療上有効投与量で投与される、
請求項1から9、14および15のいずれか一項に記載の抗ILDR2抗体もしくはその断片、または抗ILDR2抗体もしくはその断片を含む
医薬組成物またはキットオブパーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ILDR2アンタゴニストと1つまたは複数の他の治療活性化合物を含む新規な医薬組み合わせ、ならびに新規な特異的ILDR2アンタゴニストに関する。
【背景技術】
【0002】
免疫調節リガンドのB7ファミリーは、免疫応答を調節するリンパ球上の受容体に結合する、構造的に関連する細胞表面タンパク質リガンドからなる。
【0003】
TおよびBリンパ球の活性化は、細胞表面の抗原特異的T細胞受容体またはB細胞受容体の結合によって開始されるが、B7リガンドによって同時に送達される追加のシグナルが最終的な免疫応答を決定する。これらの「共刺激」または「共抑制」シグナルは、リンパ球上の受容体のCD28ファミリーを通してB7リガンドによって送達される。
【0004】
B7タンパク質のファミリーには、B7.1(CD80)、B7.2(CD86)、誘導性共刺激因子リガンド(ICOS-L)、プログラム細胞死1リガンド(PD-L1、B7-1とも呼ばれる)、プログラム細胞死-2リガンド(PD-L2)、B7-H3およびB7-H4が含まれる。ファミリーのメンバーは主にヒトおよびマウスで特徴付けられているが、一部のメンバーは鳥にも見られる。これらは20~40%のアミノ酸同一性を共有し、構造的に関連しており、細胞外ドメインが可変および定常免疫グロブリンドメインに関連するタンデムドメインを含む。B7リガンドは、リンパ組織および非リンパ組織で発現される。免疫応答の調節におけるファミリーの重要性は、B7ファミリー遺伝子に突然変異を有するマウスにおける免疫不全および自己免疫疾患の発症によって示される。B7リガンドによって送達されるシグナルの操作は、自己免疫、炎症性疾患およびがんの処置における可能性を示している。
【0005】
B7ファミリーのメンバーとそれぞれの共刺激受容体(通常はCD28関連ファミリーのメンバー)との相互作用は免疫応答を増強するが、CTLA4などの共抑制受容体との相互作用は免疫応答を弱める。
【0006】
明らかに、各B7分子は免疫系で独自のニッチを発達させた。B7ファミリーメンバーの特定のニッチが分析され続けるにつれ、その診断および治療可能性がさらに明らかになる。B7スーパーファミリーメンバーの多くは、当初はT細胞共刺激分子として特徴付けられていた。しかしながら、より最近では、これらがT細胞応答を共抑制することもできることが明らかになった。したがって、B7ファミリーのメンバーは、免疫応答に対する反対の効果を有し得る。
【0007】
B7ファミリーのメンバーは、免疫チェックポイント阻害剤療法の標的になっている。
【0008】
PD-L1阻害剤アテゾリズマブ(MPDL3280)は、完全ヒト化、操作IgG1抗体であり、黒色腫、肺がん、膀胱がんおよび腎臓がんを含むいくつかの様々ながんの処置に有効性を有する。アベルマブ(MSB0010718C)は、完全ヒトIgG1抗体で、転移性または局所進行性固形腫瘍で有効性を有している。デュルバルマブは、抗PD-L1抗体であり、代替免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて、転移性尿路上皮性膀胱がんで有効性を示している。
【0009】
PD1阻害剤のニボルマブおよびペンブロリズマブはPD-L1受容体PD-1に結合し、PD-L1のPD-1への結合を阻害する。
【0010】
トレメリムマブ(旧称チシリムマブ、CP-675206)は、CTLA-4に対する完全ヒトモノクローナル抗体(IgG2)である。これは、抗原提示細胞リガンドB7.1およびB7.2のCTLA-4への結合を遮断し、T細胞活性化のB7-CTLA-4媒介下方制御を阻害する。イピリムマブは同様の作用様式を有する同様の抗体であるが、IgG1アイソタイプである。
【0011】
エノブリツズマブ(MGA271とも呼ばれる)は、腫瘍細胞およびがん幹様細胞、ならびに支持している腫瘍血管系およびその下の組織、または間質でも過剰発現されるB7-H3を標的とする抗体である。
【0012】
しかしながら、上で特定されるアプローチの大成功にもかかわらず、これらの一部は有効性が持続可能でない、すなわち、疾患の再発が起こる、および/または所与の疾患型に関して有効でないことが判明した。
【0013】
したがって、免疫チェックポイント阻害剤療法の分野では、新たな改善された療法を提供する、ならびに既存の療法を改善する大きな必要性がある。
【0014】
近年特定されたILDR2(免疫グロブリン様ドメイン含有受容体2)は、C1ORF32としても知られており、B7/CD28ファミリーの新規なメンバーである。ILDR2はIgVドメインを含む;これは、I型膜タンパク質であることに加えて、他の既知のB7メンバーと同様に、最終的にB7ファミリーへのアノテーションをもたらした。また、ILDR2の2つの選択的スプライシングバリアント(H19011-1-P8およびH19011-1-P9)は、野生型C1ORF32と最初の5つのエクソンのみを共有し、これらのエクソン内のIgVおよび膜貫通ドメインのエクソンのサイズおよび位置が既知のB7ファミリーメンバーと似ている。ILDR2の完全な特性評価については、国際公開第2009032845号を参照されたい、その内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
これまでのところ、この近年特定された受容体を標的とする療法は開発されていない。したがって、ILDR2を標的とする新たな改善された免疫チェックポイント阻害剤療法を提供することが、本発明の1つの目的である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、ILDR2アンタゴニストと1つまたは複数の他の治療活性化合物を含む新規な医薬組み合わせ、ならびに新規な特異的ILDR2アンタゴニストを提供する。本発明およびその特徴の一般的な利点については、以下で詳細に論じる。
【0018】
「mIgG」という用語は、マウス免疫グロブリンGを指す。「hIgG」という用語は、ヒト免疫グロブリンGを指す。
【0019】
「aPD-L1」、「aPDL1」、「aILDR2」および「BAY1905254」という用語は、本明細書の他で定義される。
【0020】
「アイソタイプ対照」という用語は、同じアイソタイプ、同じ種のものであるが無関係の抗原に対するモノクローナル抗体の使用を指す。アイソタイプ対照は、非特異的バックグラウンドとポジティブ蛍光染色との間の差別的レベルを設定するために広く使用される。
【0021】
「アイソタイプADC」という用語は、同じ毒素と同じアイソタイプ、同じ種のものであるが無関係の抗原に対するモノクローナル抗体とを含む抗体薬物複合体(ADC)の使用を指す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】二元配置ANOVA分析によって決定されるアイソタイプ対照と比較したBAY1905254処置の有意性を示す図である。B16F10腫瘍の成長は、アイソタイプ対照と比較して、BAY1905254による処置によって有意に遅延した。処置開始(d0)。実験条件を以下の表に示す:
【表1】
【
図2】E10抗体による処置は、B16F10腫瘍モデルの成長に影響を及ぼさなかったことを示す図である。処置開始(d0)。実験条件を以下の表に示す:
【表2】
【
図3】二元配置ANOVA分析によって決定される、アイソタイプ対照に対する単独療法および併用療法の有意性を示す図である。aPD-L1でもBAY1905254処置でも、アイソタイプ対照に対する単独療法の有効性は観察されなかった。aPD-L1とBAY1905254の組み合わせは、対照に対して腫瘍成長を相乗的に遅延させた。処置開始:q3d i.p.実験条件を以下の表に示す:
【表3】
【
図4】二元配置ANOVA分析によって決定されるアイソタイプ対照と比較したaPD-L1とBAY1905254の併用処置の有意性を示す図である。BAY1905254単独では、CT26腫瘍モデルで3mg/kgの用量で腫瘍成長の遅延は示さない。10mg/kgのaPD-L1は、10mg/kgのaPD-L1を3mg/kgのBAY1905254と組み合わせると相乗的に改善される、アイソタイプ対照に対する有効性を示す。処置開始(d7):q3d i.p.実験条件を以下の表に示す:
【表4】
【
図5】二元配置ANOVA分析によって決定される、アイソタイプ対照に対する単独療法および併用療法の有意性を示す図である。単独療法aPD-L1で3C9-D11-H11モデルを処置すると、BAY1905254の場合とは異なり、アイソタイプ対照と比較して腫瘍成長の有意な遅延が達成される。aPD-L1とBAY1905254の組み合わせは相乗効果を示し、腫瘍成長を妨げる。処置開始(d8):q3d i.p.実験条件を以下の表に示す:
【表5】
【
図6】二元配置ANOVA分析によって決定される、アイソタイプ対照に対する単独療法および併用療法の有意性を示す図である。単独療法BAY1905254でB16F10 OVAモデルを処置すると、腫瘍成長が中等度に遅延する。これは、BAY1905254をOVAおよびCPGと組み合わせると相乗的に改善される。処置開始(d9):q3d i.p.実験条件を以下の表に示す:
【表6】
【
図7】二元配置ANOVA分析によって決定される、アイソタイプ対照に対する単独療法および併用療法の有意性を示す図である。単独療法BAY1905254でB16F10 OVAモデルを処置すると、腫瘍成長が中等度に遅延する。これは、BAY1905254をドセタキセルと組み合わせると相乗的に改善される。処置開始(d8):q3d i.p.実験条件を以下の表に示す:
【表7】
【
図8】二元配置ANOVA分析によって決定される、アイソタイプ対照に対する単独療法および併用療法の有意性を示す図である。単独療法BAY1905254でB16F10 OVAモデルを処置しても、腫瘍成長の遅延にはつながらない。BAY1905254をC4.4a ADCと組み合わせると、相乗効果がまだ目に見える。処置開始(d6):q3d i.p.実験条件を以下の表に示す:
【表8】
【
図9A】B16F10同系マウスモデルにおける様々な抗体の腫瘍退縮活性を示す図である。腫瘍退縮活性は、アイソタイプ対照と比較した腫瘍体積の減少として測定される。
【
図9B】抗PD-L1抗体と比較した、IL2誘導アッセイにおける本発明による選択された抗ILDR2抗体の異常な挙動を示す図である。
【
図9C】CT26同系マウスモデルにおける本発明による選択された抗ILDR2抗体の腫瘍退縮活性を示す図である。腫瘍退縮活性は、アイソタイプ対照と比較した腫瘍体積の減少として測定される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。しかしながら、以下の参考文献は、本発明が関連する当業者に、本発明で使用される多くの用語の一般的な定義を提供することができ、このような定義が当分野で一般的に理解される意味と一致する限り参照および使用され得る。このような参考文献には、それだけに限らないが、Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(2nd ed.1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker ed.,1988);Hale&Marham,The Harper Collins Dictionary of Biology(1991);およびLackie et al.,The Dictionary of Cell&Molecular Biology(3d ed.1999);およびCellular and Molecular Immunology,Eds.Abbas,Lichtman and Pober,2nd Edition,W.B.Saunders Companyが含まれる。当技術分野において一般的に理解される意味を有する本明細書で使用される用語の定義を提供する、当業者に入手可能な任意の追加の技術的資源を調べることができる。本発明の目的のために、以下の用語をさらに定義する。さらなる用語は、明細書のどこかで定義される。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「a」および「the」は、文脈上別段の意味を有することが明らかな場合を除き、複数指示対象を含む。
【0024】
「アミノ酸」は、本明細書では、一般的に知られている3文字記号またはIUPAC-IUB生化学命名委員会によって推奨される1文字記号によって呼ばれ得る。同様に、ヌクレオチドは、一般に認められている一文字コードによって呼ばれ得る。
【0025】
本発明における「組み合わせ」という用語は、当業者に知られているように使用され、前記組み合わせが、固定された組み合わせ、固定されていない組み合わせ、またはキットオブパーツ(kit-of-parts)であることが可能である。
【0026】
本発明における「固定された組み合わせ」は、当業者に知られているように使用され、例えば、本発明のILDR2アンタゴニストなどの第1の有効成分とさらなる有効成分が合わせて1つの単位投与量または1つの単一実体で存在する組み合わせとして定義される。「固定された組み合わせ」の一例は、第1の有効成分とさらなる有効成分が、製剤などの同時投与用の混和物として存在する医薬組成物である。「固定された組み合わせ」の別の例は、第1の有効成分とさらなる有効成分が、混和されずに1つの単位に存在する医薬組み合わせである。
【0027】
本発明の固定されていない組み合わせまたは「キットオブパーツ」は、当業者に知られているように使用され、第1の有効成分とさらなる有効成分が2つ以上の単位に存在する組み合わせとして定義される。固定されていない組み合わせまたはキットオブパーツの一例は、第1の有効成分とさらなる有効成分が別々に存在する組み合わせである。固定されていない組み合わせまたはキットオブパーツの成分を、別々に、逐次的に、同時に、同時発生的に、または時間をずらして投与することが可能である。
【0028】
「抗体」は、同義的に「免疫グロブリン」(Ig)とも呼ばれ、一般に4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含むので、完全長機能的突然変異体、変異体またはこれらの誘導体(それだけに限らないが、Ig分子の必須エピトープ結合特徴を保持する(または必要に応じて、親和性成熟もしくは脱免疫化(deiimuization)を受ける)マウス、キメラ、ヒト化および完全ヒト抗体を含み、二重特異性(dual specific)、二重特異性(bispecific)、多重特異性および二重可変ドメイン免疫グロブリンを含む、多量体タンパク質、またはその同等のIgホモログ(例えば、重鎖のみを含むラクダナノボディ、重鎖または軽鎖に由来し得る単一ドメイン抗体(dAbs))である。免疫グロブリン分子は、任意のクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、またはサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)およびアロタイプであり得る。本発明の一実施形態では、抗ILDR2抗体が完全ヒトであり、IgG2サブクラスのものである。
【0029】
本明細書で使用される「抗体ベースの結合タンパク質」は、他の非免疫グロブリンまたは非抗体由来成分の文脈で少なくとも1つの抗体由来VH、VLまたはCH免疫グロブリンドメインを含む任意のタンパク質を表し得る。このような抗体ベースのタンパク質には、それだけに限らないが、(i)免疫グロブリンCHドメインの全部または一部を有する受容体または受容体成分を含む、結合タンパク質のFc融合タンパク質、(ii)VHおよびVLドメインが代替分子足場にカップリングしている、結合タンパク質、または(iii)免疫グロブリンVH、および/またはVL、および/またはCHドメインが、天然の抗体または抗体断片では通常見られない様式で結合しているおよび/または組み立てられている、分子が含まれる。
【0030】
本明細書で使用される「抗体誘導体または断片」は、完全長ではない抗体に由来する少なくとも1つのポリペプチド鎖を含む分子に関するものであり、それだけに限らないが、単独または任意の組み合わせの、(i)可変軽鎖(VL)、可変重鎖(VH)、定常軽鎖(CL)および定常重鎖1(CH1)ドメインからなる一価断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片である、F(ab’)2断片;(iii)VHおよびCH1ドメインからなる、Fab(Fd)断片の重鎖部分;(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなる、可変断片(Fv)断片、(v)単一可変ドメインを含む、ドメイン抗体(dAb)断片;(vi)単離された相補性決定領域(CDR);(vii)単鎖Fv断片(scFv);(viii)二価のダイアボディ、VHおよびVLドメインが単一ポリペプチド鎖上で発現されているが、同じ鎖上の2つのドメイン間でペアリングするには短すぎるリンカーを使用しているため、ドメインに別の鎖の相補性ドメインと対にならせて、2つの抗原結合部位を作成する二重特異性抗体;および(ix)相補性軽鎖ポリペプチドと共に、一対の抗原結合領域を形成する、一対のタンデムFvセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む、線状抗体;および(x)免疫グロブリン重鎖および/または軽鎖、あるいはその突然変異体、変異体、または誘導体の他の非完全長部分を含む。
【0031】
本明細書で使用される「改変された抗体フォーマット」という用語は、抗体薬物複合体、ポリアルキレンオキシド改変scFv、モノボディ、ダイアボディ、ラクダ抗体、ドメイン抗体、二重または三重特異性抗体、IgA、またはJ鎖によって結合された2つのIgG構造および分泌成分、サメ抗体、新世界霊長類フレームワーク+非新世界霊長類CDR、ヒンジ領域が削除されたIgG4抗体、CH3ドメインに設計された2つの追加の結合部位を有するIgG、Fcγ受容体に対する親和性を増強するよう改変されたFc領域を有する抗体、CH3+VL+VHを含む二量体化構築物などを包含する。
【0032】
本明細書で使用される「抗体模倣物」という用語は、免疫グロブリンファミリーに属さないタンパク質、さらにはアプタマーなどの非タンパク質、または合成ポリマーを指す。いくつかのタイプは、抗体様βシート構造を有する。抗体に対する「抗体模倣物」または「代替足場」の潜在的な利点は、溶解度が高く、組織浸透が高く、熱および酵素に対する安定性が高く、製造コストが比較的低いことである。
【0033】
いくつかの抗体模倣物は、考えられる全ての標的に対する特異的結合候補を提供する大きなライブラリーで提供され得る。抗体の場合と同様に、標的特異的抗体模倣物は、ハイスループットスクリーニング(HTS)技術、ならびに確立されたディスプレイ技術、例えばファージディスプレイ、細菌ディスプレイ、酵母または哺乳動物ディスプレイを使用して開発することができる。現在開発されている抗体模倣物には、例えば、アンキリンリピートタンパク質(DARPinsと呼ばれる)、C型レクチン、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のAドメインタンパク質、トランスフェリン、リポカリン、フィブロネクチンの10番目のIII型ドメイン、Kunitzドメインプロテアーゼ阻害剤、ユビキチン由来バインダー(アフィリンと呼ばれる)、ガンマクリスタリン由来バインダー、システインノットまたはノッチン、チオレドキシンA足場ベースバインダー、核酸アプタマー、ポリマーの分子インプリンティングによって生成される人工抗体、細菌ゲノムからのペプチドライブラリー、SH-3ドメイン、ストラドボディ(stradobody)、スルフィド結合およびCa2+で安定化された膜受容体の「Aドメイン」、CTLA4ベース化合物、Fyn SH3、およびアプタマー(特異的標的分子に結合するオリゴ核酸またはペプチド分子)が包含される。
【0034】
本明細書における「Fc領域」という用語は、定常領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語は、天然配列Fc領域および変異Fc領域を含む。本明細書において特に指定されない限り、Fc領域または定常領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載されているEUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムによる。
【0035】
本明細書で使用される場合、「ILDR2」は、C1ORF32としても知られている免疫グロブリン様ドメイン含有受容体2に関し、B7/CD28ファミリーの新規なメンバーである。ILDR2の完全な特性評価については、その内容が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2009032845号を参照されたい。
【0036】
「抗ILDR2抗体」および「ILDR2に結合する抗体」という用語は、抗体がILDR2を標的とする際の診断薬および/または治療薬として有用であるように十分な親和性でILDR2に結合することができる抗体を指す。一実施形態では、抗ILDR2抗体の非関連非ILDR2タンパク質への結合の程度は、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定される、抗体とILDR2の結合の約5%未満、好ましくは約2%未満である。一定の実施形態では、ILDR2に結合する抗体が、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nMまたは≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば、10-8M~10-13M、例えば10-9M~10-13M)の解離定数(KD)を有する。一定の実施形態では、抗ILDR2抗体が、様々な種のILDR2間で保存されているILDR2のエピトープに結合する。
【0037】
本明細書で使用される場合、「相補性決定領域」(CDR、例えばCDR1、CDR2およびCDR3)という用語は、その存在が抗原結合に必要な抗体可変ドメインのアミノ酸残基を指す。各可変ドメインは、典型的には、CDR1、CDR2およびCDR3として同定される3つのCDR領域を有する。各相補性決定領域は、Kabatによって定義される「相補性決定領域」(例えば、軽鎖可変ドメイン中の残基約24~34(L1)、50~56(L2)および89~97(L3)ならびに重鎖可変ドメイン中の31~35(H1)、50~65(H2)および95~102(H3))(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immulological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991))のアミノ酸残基および/または「超可変ループ」(例えば、軽鎖可変ドメイン中の残基約26~32(L1)、50~52(L2)および91~96(L3)ならびに重鎖可変ドメイン中の26~32(H1)、53~55(H2)および96~101(H3)(Chothia and Lesk;J Mol Biol 196:901-917(1987))の残基を含み得る。いくつかの例では、相補性決定領域が、Kabatによって定義されるCDR領域と超可変ループの両方のアミノ酸を含み得る。
【0038】
重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、完全抗体を異なる「クラス」に割り当てることができる。完全抗体の5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMが存在し、これらのいくつかを「サブクラス」(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2にさらに分けることができる。本発明に使用にするために好ましいクラスの免疫グロブリンはIgGである。
【0039】
種々のクラスの抗体に対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γおよびμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造および三次元立体配置は周知である。本明細書で使用される場合、抗体は、従来公知の抗体およびその機能的断片である。
【0040】
本発明において企図される抗体または抗原結合抗体断片の変異体は、抗体または抗原結合抗体断片の結合活性が維持されている分子である。
【0041】
「ヒト」抗体またはその抗原結合断片は、これにより、キメラではなく(例えば、「ヒト化」されていない)、(全部または一部)ヒト以外の種からのものでないものとして定義される。ヒト抗体またはその抗原結合断片は、ヒト由来であり得る、または合成ヒト抗体であり得る。「合成ヒト抗体」は、公知のヒト抗体配列の分析に基づく合成配列から全体的にまたは部分的にインシリコで誘導された配列を有する抗体として本明細書で定義される。ヒト抗体配列またはその断片のインシリコ設計は、例えば、ヒト抗体または抗体断片配列のデータベースを分析し、そこから得られたデータを利用してポリペプチド配列を考案することによって達成することができる。ヒト抗体またはその抗原結合断片の別の例は、ヒト起源の抗体配列のライブラリーから単離された核酸によってコードされるものである(例えば、このようなライブラリーはヒト天然源から採取された抗体に基づく)。ヒト抗体の例としては、Soderlind et al.,Nature Biotech.2000,18:853-856に記載される抗体が挙げられる。
【0042】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に同種の抗体の集団(すなわち、集団を構成する個々の抗体が、可能な突然変異、例えば少量存在し得る天然に存在する突然変異を除いて同一である)から得られた抗体を指す。したがって、「モノクローナル」という用語は、抗体の特徴が個別の抗体の混合物ではないことを示す。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。その特異性に加えて、モノクローナル抗体調製物は、典型的には他の免疫グロブリンによって汚染されないという点で有利である。「モノクローナル」という用語は、任意の特定の方法による抗体の作成を必要とすると解釈されるべきではない。モノクローナル抗体という用語は、具体的には、キメラ抗体、ヒト化抗体およびヒト抗体を含む。
【0043】
「単離された」抗体は、同定され、それを発現した細胞の成分から分離されたものである。細胞の汚染成分は、抗体の診断または治療的使用を妨害する物質であり、これには酵素、ホルモンおよび他のタンパク質性または非タンパク質性溶質が含まれ得る。
【0044】
「単離された」核酸は、同定され、その自然環境の成分から分離されたものである。単離された核酸は、通常核酸分子を含む細胞に含まれる核酸分子を含むが、核酸分子は染色体外またはその天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。
【0045】
本明細書で使用される場合、抗体は、対象となる抗原、例えば腫瘍関連ポリペプチド抗原標的「に特異的に結合する」、「に特異的である」、または「を特異的に認識する」ものであり、抗体が抗原を発現している細胞または組織を標的とする際に治療薬として有用であり、他のタンパク質と有意には交差反応せず、上記抗原標的のオルソログおよび変異体(例えば、突然変異型、スプライス変異型もしくはタンパク質分解性切断型)と有意には交差反応しないように十分な親和性で抗原に結合するものである。本明細書で使用される特定のポリペプチドまたは特定のポリペプチド標的上のエピトープ「を特異的に認識する」または「に特異的に結合する」または「に特異的である」という用語は、例えば、抗体またはその抗原結合断片が約10-4M未満、あるいは約10-5M未満、あるいは約10-6M未満、あるいは約10-7M未満、あるいは約10-8M未満、あるいは約10-9M未満、あるいは約10-10M未満、あるいは約10-11M未満、あるいは約10-12M未満、またはそれ未満の抗原に対する一価KDを有することによって示され得る。このような抗体がこのような抗原と1つまたは複数の基準抗原を区別することができる場合、抗体は、抗原「に特異的に結合する」、「に特異的である」または「を特異的に認識する」。その最も一般的な形態では、「特異的結合」、「に特異的に結合する」、「に特異的である」または「を特異的に認識する」とは、例えば、以下の方法の1つにより決定される、抗体が対象となる抗原と関連しない抗原を区別する能力を指している。このような方法は、それだけに限らないが、表面プラズモン共鳴(SPR)、ウェスタンブロット、ELISA-、RIA-、ECL-、IRMA-試験およびペプチドスキャンを含む。例えば、標準的ELISAアッセイを行うことができる。点数化は、標準的な発色(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼによる二次抗体および過酸化水素によるテトラメチルベンジジン)によって行うことができる。あるウェルにおける反応は、例えば450nmでの光学濃度によって点数化する。典型的な背景(=陰性反応)は0.1ODであり得る;典型的な陽性反応は1ODであり得る;これは、陽性/陰性の差が5倍、10倍、50倍、好ましくは100倍超であることを意味する。典型的には、結合特異性の決定は、単一基準抗原ではなく、粉乳、BSA、トランスフェリンなどの約3~5個の関連しない抗原のセットを用いて行われる。
【0046】
「結合親和性」または「親和性」は、分子の単一の結合部位とその結合パートナーとの間の非共有結合相互作用の総和の強さを指す。特に指示されない限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。解離定数「KD」は、分子(抗体など)とその結合パートナー(抗原など)との間の親和性、すなわちリガンドが特定のタンパク質にどれくらい強く結合するかを記載するために一般的に使用される。リガンド-タンパク質親和性は、2つの分子間の非共有結合分子間相互作用によって影響される。親和性は、本明細書に記載されるものを含む当技術分野で公知の一般的な方法によって測定することができる。
【0047】
本明細書で使用される場合、「エピトープ」という用語は、免疫グロブリンまたはT細胞受容体に特異的に結合することができる任意のタンパク質決定基を含む。エピトープ決定基は通常、アミノ酸もしくは糖側鎖またはこれらの組み合わせなどの分子の化学的に活性な表面群からなり、通常、特異的な三次元構造特性ならびに特異的な電荷特性を有する。
【0048】
基準抗体と「同じエピトープに結合する抗体」または基準抗体と「結合について競合する抗体」は、50%またはそれ以上、競合アッセイで基準抗体とその抗原の結合を遮断する抗体を指し、逆に、基準抗体は50%またはそれ以上、競合アッセイで抗体とその抗原の結合を遮断する。代表的な競合アッセイを本明細書で提供する。
【0049】
「免疫複合体」(互換的に「抗体-薬物複合体」または「ADC」とも呼ばれる)という用語は、化学療法剤、薬物、成長阻害剤、毒素(例えば、タンパク質毒素、細菌、真菌、植物もしくは動物起源の酵素的に活性な毒素、またはこれらの断片)、または放射性同位体(すなわち、放射性複合体(radioconjugate))などの1種または複数の細胞傷害剤または細胞増殖抑制剤と結合した抗体を指す。免疫複合体は、細胞傷害剤、すなわち、がんの治療において、細胞を死滅させるまたはその成長もしくは増殖を阻害する薬物の局所送達に使用されてきた(例えば、Liu et al.,Proc Natl.Acad.Sci.(1996),93,8618-8623))。免疫複合体は、非複合体薬物の全身投与が正常細胞および/または組織に対して許容できないレベルの毒性をもたらし得る場合に、腫瘍への薬物部分の標的送達およびその中の細胞内蓄積を可能にする。抗体-毒素複合体に使用される毒素には、ジフテリア毒素などの細菌毒素、リシンなどの植物毒素、ゲルダナマイシンなどの小分子毒素が含まれる。毒素は、チューブリン結合、DNA結合またはトポイソメラーゼ阻害を含む機構によって細胞傷害性効果を発揮し得る。
【0050】
基準ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列それぞれに関する「配列同一性パーセント(%)」は、配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入して最大配列同一性%を達成した後の、基準ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列それぞれの中の核酸またはアミノ酸残基それぞれと同一である候補配列中の核酸またはアミノ酸残基それぞれの割合として定義される。保存的置換は配列同一性の一部とは見なされない。ギャップのないアラインメントが好ましい。アミノ酸配列同一性%を決定するためのアライメントは、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを用いて、当技術分野の技能の範囲内の種々の方法で達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列を整列させるための適当なパラメータを決定することができる。「配列相同性」は、同一であるまたは保存的アミノ酸置換を表すアミノ酸の割合を示す。
【0051】
「新生物疾患」とは、腫瘍成長を引き起こす状態であり、良性と悪性の両方がある。新生物は、腫瘍とも呼ばれる細胞の異常な成長である。
【0052】
本発明を詳細に記載する前に、本発明は、記載される装置および記載される方法は変化し得るため、このような装置の特定の構成部品にもこのような方法のプロセスステップにも限定されないことを理解すべきである。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図していないことも理解すべきである。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上別段の意味を有することが明らかな場合を除き、単数および/または複数指示対象を含むことに留意しなければならない。さらに、数値によって区切られるパラメータ範囲が与えられる場合、範囲がこれらの限界値を含むと見なされることを理解すべきである。
【0053】
さらに、本明細書に開示される実施形態は、互いに関連しない個別の実施形態として理解されることを意味しないことを理解すべきである。ある実施形態で論じられる特徴は、本明細書に示される他の実施形態に関連して開示されることも意図されている。ある場合において、特定の特徴がある実施形態では開示されず、別の実施形態で開示される場合、当業者であれば、前記特徴が前記他の実施形態で開示されることを意味しないことを必ずしも意味しないことを理解するだろう。当業者であれば、他の実施形態についても前記特徴を開示することが本出願の要旨であることを理解するだろうが、明確にする目的で、また明細書を扱いやすいボリュームに保つために、これを行わなかった。
【0054】
さらに、本明細書で参照される先行技術文献の内容は、参照により組み込まれる。これは、特に、標準的または日常的な方法を開示する先行技術文献について言及している。その場合、参照による組み込みは、十分可能にする開示を提供し、長い繰り返しを避ける目的を主に有する。
【0055】
本発明の一態様によると、ILDR2アンタゴニストと場合により1つまたは複数の他の治療活性化合物を含む医薬組み合わせが提供される。
【0056】
好ましくは、本発明のILDR2アンタゴニストが抗ILDR2抗体である。より好ましくは、抗ILDR2抗体が、本明細書で以下にさらに記載される抗体である。
【0057】
本発明の一実施形態によると、他の治療活性化合物が、
●PD-L1アンタゴニスト
●タキサンまたはタキサン誘導体
●ワクチン
●CpGオリゴデオキシヌクレオチド、および/または
●c4.4Aを標的とする化合物
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0058】
好ましくは、PD-L1アンタゴニストが抗PD-L1抗体である。より好ましくは、抗PD-L1抗体が、アテゾリズマブの可変ドメインを含む。さらにより好ましくは、抗PD-L1抗体がアテゾリズマブである。
【0059】
本明細書で使用される「タキサン誘導体」という用語は、タキサジエンコアを含む細胞傷害性または細胞増殖抑制性化合物に関する。より好ましくは、タキサン誘導体が、パクリタキセル、ドセタキセルまたはカバジタキセルである。
【0060】
「CpGオリゴデオキシヌクレオチド」という用語は、シトシン三リン酸デオキシヌクレオチド(「C」)に続いてグアニン三リン酸デオキシヌクレオチド(「G」)を含む一本鎖合成DNA分子を指す。「p」は、連続ヌクレオチド間のホスホジエステル結合を指すが、一部のODNは代わりに改変されたホスホロチオエート(PS)骨格を有する。CpGモチーフがメチル化されていない場合、これらは免疫刺激剤として作用する。一実施形態では、CpGオリゴデオキシヌクレオチドが、例えば、配列番号17のヌクレオチド配列(tccatgacgttcctgacgtt)を有する、Invivogenによって配給されるODN1826である。
【0061】
C4.4A(LYPD3、UniProtKB-O95274(LYPD3_HUMAN))は、がんおよび転移関連表面マーカーとして特定されている内在化細胞表面タンパク質である。したがって、C4.4A(LYPD3)は、抗がん剤を腫瘍に標的化するためのマーカーとして使用することができる。当業者であれば、日常的な方法により、例えば、ファージディスプレイもしくは免疫化によって、または適切なスクリーニング方法を用いたライブラリースクリーニングによって、C4.4Aを標的とする化合物を生成することができる。したがって、C4.4Aを標的とするこのような化合物は、標的結合能力を保持する抗体、抗体断片もしくは誘導体、または抗体模倣物であり得る。さらに、c4.4Aを標的とするこのような化合物は、小分子であり得る。
【0062】
一実施形態では、C4.4Aを標的とする化合物が、細胞傷害剤または細胞増殖抑制剤に結合した、C4.4Aを標的とする抗体、またはその断片もしくは誘導体、または抗体模倣物を含む抗体薬物複合体である。好ましくは、C4.4Aを標的とする化合物が、オーリスタチンに結合した抗C4.4A(LYPD3)抗体からなるBAY1129980である。
【0063】
本発明はまた、化学療法剤または薬物、増殖抑制剤、毒素(例えば、タンパク質毒素、細菌、真菌、植物、ヒトもしくは動物起源の酵素的に活性な毒素、またはこれらの断片)、または放射活性同位体などの1つまたは複数の細胞傷害剤に結合した抗ILDR2抗体を含む抗体-薬物複合体(ADC、免疫複合体)を提供する。好ましくは、抗ILDR2抗体が本明細書で以下に記載されるものであり、最も好ましくは、抗ILDR2抗体がBAY1905254である。
【0064】
一実施形態では、免疫複合体が、抗体が、それだけに限らないが、マイタンシノイド(米国特許第5208020号明細書、第5416064号明細書および欧州特許第0425235号明細書参照);オーリスタチン、例えばモノメチルオーリスタン薬物部分DEおよびDF(MMAEおよびMMAF)(米国特許第5635483号明細書および第5780588号明細書および第7498298号明細書参照);ドラスタチン;カリケアマイシンまたはその誘導体;アントラサイクリン、例えばダウノマイシンまたはドキソルビシン;メトトレキサート;ビンデシン;タキサン、例えばドセタキセル、パクリタキセル、ラロタキセル、テセタキセルおよびオルタタキセル;トリコテセン;ならびにCC1065を含む1種または複数の薬物と結合している抗体-薬物複合体(ADC)である。
【0065】
別の実施形態では、免疫複合体が、それだけに限らないが、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、外毒素A鎖(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファサルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチンタンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPIIおよびPAP-S)、ニガウリ(momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、サポンソウ(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシンおよびトリコテセンを含む酵素的に活性な毒素またはその断片に結合した本明細書に記載される抗体を含む。
【0066】
別の実施形態では、免疫複合体が、放射性複合体を形成する放射性原子に結合した本明細書に記載される抗体を含む。放射性複合体の製造には、種々の放射性同位体が利用可能である。例としては、227Th、225Ac、211At、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、212Bi、32P、212PbおよびLuの放射性同位体が挙げられる。放射性複合体を検出に使用する場合、放射性複合体はシンチグラフィー研究のための放射性原子、例えばTc99m、または核磁気共鳴(NMR)イメージング用のスピン標識、例えば再びヨウ素-123、ヨウ素-131、インジウム-111、フッ素-19、炭素-13、窒素-15、酸素-17、ガドリニウム、マンガンまたは鉄を含むことができる。
【0067】
抗体および細胞傷害剤の複合体は、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(アジプイミド酸ジメチルHClなど)、活性エステル(スベリン酸ジスクシンイミジルなど)、アルデヒド(グルタルアルデヒドなど)、ビスアジド化合物(ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビス-ジアゾニウム誘導体(ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミンなど)、ジイソシアネート(トルエン2,6-ジイソシアネートなど)およびビス活性フッ素化合物(1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼンなど)を用いて作成することができる。
【0068】
リンカーは、細胞傷害性薬物の細胞中への放出を促進する「切断可能なリンカー」であってもよい。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光解離性リンカー、ジメチルリンカーまたはジスルフィド含有リンカーがある(Chari et al.,Cancer Res.52:12 7-131(1992))。
【0069】
本明細書の免疫複合体またはADCは明確に、それだけに限らないが、BMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC-SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホEMCS、スルホGMBS、スルホKMUS、スルホMBS、スルホSIAB、スルホSMCCおよびスルホSMPB、および(例えば、Pierce Biotechnology,Inc.、Rockford、IL.、米国から)商業的に入手可能なSVSB(スクシンイミジル-(4-ビニルスルホン)ベンゾエート)を含む架橋リンカー試薬を用いて調製されたこのような複合体を企図する。
【0070】
本発明の一実施形態によると、ILDR2アンタゴニストと他の治療活性化合物が:
●同じ投与単位で提供される、または
●個別の投与単位で提供される。
【0071】
本発明の他の一実施形態によると、ILDR2アンタゴニストと他の治療活性化合物が:
●同時に投与される、または
●逐次的に、すなわち、次々に投与される。
【0072】
本発明の一実施形態によると、ILDR2アンタゴニストが、その全てがILDR2結合特性を有する、抗体、その断片もしくは誘導体、改変された抗体フォーマット、または抗体模倣物である。
【0073】
本発明のさらなる一態様によると、少なくとも3つのCDR重鎖配列を含む、その全てがILDR2結合特性を有する、抗ILDR2抗体、またはその断片もしくは誘導体、または改変された抗体フォーマットが提供される:
【表9】
【0074】
本発明のさらなる一態様によると、少なくとも3つのCDR軽鎖配列を含む、その全てがILDR2結合特性を有する、抗ILDR2抗体、またはその断片もしくは誘導体、または改変された抗体フォーマットが提供される:
【表10】
【0075】
ここでは、「HC」は重鎖を表し、「LC」は軽鎖を表す。上記の配列は、BAY1905254(本明細書では59-08.B02とも呼ばれる)のCDRである。
【0076】
一実施形態によると、抗ILDR2抗体、断片もしくは誘導体または改変された抗体フォーマットが、以下からなる群から選択される配列と95%同一、好ましくは96または97%同一、より好ましくは98%または99%同一、最も好ましくは100%である少なくとも1つの重鎖または軽鎖可変領域配列を含む:
【表11】
【0077】
ここでは、「VD」は可変ドメインを表す。上記の配列は、BAY1905254(本明細書では同義的に59-08.B02またはB02と呼ばれる)の可変ドメインである。
【0078】
さらなる実施形態によると、抗ILDR2抗体、断片もしくは誘導体または改変された抗体フォーマットが、以下からなる群から選択される配列と95%同一、好ましくは96%または97%同一、より好ましくは98%または99%同一、最も好ましくは100%である少なくとも1つの重鎖または軽鎖配列を含む:
【表12】
【0079】
ここでは、「HC」は重鎖を表し、「LC」は軽鎖を表す。上記の配列は、BAY1905254(本明細書では59-08.B02とも呼ばれる)の重鎖および軽鎖配列である。
【0080】
本発明のさらなる一態様によると、以下からなる群から選択される、3つのCDR重鎖配列の少なくとも1つの組み合わせを含む、その全てがILDR2結合特性を有する、抗ILDR2抗体、またはその断片もしくは誘導体、または改変された抗体フォーマットが提供される:
【表13】
【0081】
本発明のさらなる一態様によると、以下からなる群から選択される、3つのCDR軽鎖配列の少なくとも1つの組み合わせを含む、その全てがILDR2結合特性を有する、抗ILDR2抗体、またはその断片もしくは誘導体、または改変された抗体フォーマットが提供される:
【表14】
【0082】
上記の配列は、抗体61-02.C05、56-02.E08、74.15.G09および56.02.E10のCDRである。
【0083】
本発明のさらなる一態様によると、以下からなる群から選択される配列と95%同一、好ましくは96または97%同一、より好ましくは98%または99%同一、最も好ましくは100%である少なくとも1つの重鎖または軽鎖可変領域配列を含む、その全てがILDR2結合特性を有する、抗ILDR2抗体、またはその断片もしくは誘導体、または改変された抗体フォーマットが提供される:
【表15】
【0084】
上記の配列は、61-02.C05、56-02.E08、74.15.G09および56.02.E10の可変ドメインである。
【0085】
本発明のさらなる実施形態によると、以下からなる群から選択される配列と95%同一、好ましくは96または97%同一、より好ましくは98%または99%同一、最も好ましくは100%である少なくとも1つの重鎖または軽鎖配列を含む、その全てがILDR2結合特性を有する、抗ILDR2抗体、またはその断片もしくは誘導体、または改変された抗体フォーマットが提供される:
【表16】
【0086】
以下の表は、これらの配列、およびこれらが属する抗体の概要を示している。
【表17】
【0087】
本発明の一実施形態によると、ILDR2抗体または断片もしくは誘導体または改変された抗体フォーマットが、61-02.C05、56-02.E08、74-15.G09および59-08.B02からなる群から選択される。
【0088】
本発明の一実施形態によると、ILDR2アンタゴニストまたは抗体、または断片もしくは誘導体または改変された抗体フォーマットが、蛍光活性化細胞スキャン(FACS)によって決定される25nM(2,5×10-8M)以下のKdでヒトILDR2から解離する。
【0089】
好ましくは、前記Kdが15nM以下である。より好ましくは、前記Kdが13nM以下である。より好ましくは、前記Kdが11nM以下である。より好ましくは、前記Kdが8nM以下である。より好ましくは、前記Kdが5nM以下である。より好ましくは、前記Kdが3nM以下である。最も好ましくは、前記Kdが2nM以下である。
【0090】
本発明の1つのさらなる態様によると、ILDR2への結合について上記明細書によるILDR2抗体と競合する、ILDR2アンタゴニストまたは抗体、または断片もしくは誘導体または改変された抗体フォーマットが提供される。
【0091】
本発明の他の1つの態様によると、上記明細書によるILDR2抗体、または断片もしくは誘導体または改変された抗体フォーマットをコードする単離された核酸配列またはそのセットが提供される。
【0092】
本発明の他の1つの態様によると、上記明細書による少なくとも1つの核酸配列を含むベクターが提供される。
【0093】
本発明の他の一態様によると、上記明細書によるILDR2抗体、または断片もしくは誘導体または改変された抗体フォーマットを発現する、ならびに/あるいは上記明細書による核酸配列もしくはそのセット、または上記明細書によるベクターを含む、単離された細胞が提供される。
【0094】
本発明の一実施形態によると、医薬組み合わせが、上記明細書によるILDR2アンタゴニストまたは抗体、または断片もしくは誘導体または改変された抗体フォーマットを含む。
【0095】
治療的方法
治療的方法は、治療上有効量の本発明によって企図される抗体、またはその抗原結合断片、またはその変異体を、治療を必要とする対象に投与するステップを含む。これにより、「治療上有効」量は、有害状態の緩和につながるが、毒物学的に許容される、単回用量として、または複数回用量レジメンにより、単独で、または他の薬剤と組み合わせて、十分な量である抗体または抗原結合断片の量として定義される。対象は、ヒトまたはヒト以外の動物(例えば、ウサギ、ラット、マウス、イヌ、サルまたは他の下等霊長類)であり得る。
【0096】
本発明の他の一態様によると、上記明細書によるILDR2アンタゴニストまたは抗体、または断片もしくは誘導体または改変された抗体フォーマット、またはILDR2アンタゴニストを含む組み合わせが、医薬品として使用するために提供される。
【0097】
がんを治療するための医薬品としての使用するための抗体またはその抗原結合断片を提供することが本発明の実施形態である。
【0098】
一実施形態によると、ILDR2アンタゴニストまたは抗体、または断片もしくは誘導体または改変された抗体フォーマット、またはILDR2アンタゴニストを含む組み合わせが、
がんなどの新生物疾患、または免疫疾患もしくは障害
●を患っている、
●を発症するリスクがある、および/または
●について診断されている
患者の処置に使用するためのものであり、ILDR2アンタゴニストが1つまたは複数の治療上有効投与量で投与される。
【0099】
他の一実施形態によると、
がんなどの新生物疾患、または免疫疾患もしくは障害
●を患っている、
●を発症するリスクがある、および/または
●について診断されている
患者を処置する方法であって、1つまたは複数の治療上有効投与量で上記明細書によるILDR2アンタゴニストまたは抗体、または断片もしくは誘導体または改変された抗体フォーマット、またはILDR2アンタゴニストを含む組み合わせを前記患者に投与するステップを含む方法が提供される。
【0100】
がんを処置するための医薬品の製造において抗体またはその抗原結合断片を使用することが本発明のさらなる実施形態である。
【0101】
本発明の抗体またはその抗原結合断片を、異常なILDR2シグナル伝達を有する種々の状況、例えばがんなどの細胞増殖性障害において、治療ツールまたは診断ツールとして使用することができる。本発明の抗体による処置に適している障害および状態は、それだけに限らないが、例えば乳房、気道、脳、生殖器官、消化管、尿路、眼、肝臓、皮膚、頭頸部、甲状腺、副甲状腺のがんおよびそれらの遠隔転移などの固形腫瘍であり得る。これらの障害には、リンパ腫、肉腫および白血病も含まれる。
【0102】
消化管の腫瘍には、それだけに限らないが、肛門、結腸、結腸直腸、食道、胆嚢、胃、膵臓、直腸、小腸および唾液腺のがんが含まれる。
【0103】
食道がんの例としては、それだけに限らないが、食道細胞癌および腺癌、ならびに扁平上皮細胞癌、平滑筋肉腫、悪性黒色腫、横紋筋肉腫およびリンパ腫が挙げられる。
【0104】
胃がんの例としては、それだけに限らないが、腸型および散在型胃腺癌が挙げられる。
【0105】
膵臓がんの例としては、それだけに限らないが、腺管癌、腺扁平上皮癌および膵臓内分泌腫瘍が挙げられる。
【0106】
乳がんの例としては、それだけに限らないが、トリプルネガティブ乳がん、浸潤性乳管癌、浸潤性小葉癌、腺管上皮内癌および非浸潤性小葉癌が挙げられる。
【0107】
気道のがんの例としては、それだけに限らないが、小細胞および非小細胞肺癌ならびに気管支腺腫および胸膜肺芽腫が挙げられる。
【0108】
脳がんの例としては、それだけに限らないが、脳幹および視床下部膠腫、小脳および大脳星状細胞腫、神経膠芽腫、髄芽腫、上衣腫ならびに神経外胚葉および松果体腫瘍が挙げられる。
【0109】
男性生殖器の腫瘍には、それだけに限らないが、前立腺がんおよび精巣がんが含まれる。女性生殖器の腫瘍には、それだけに限らないが、子宮内膜がん、子宮頸がん、卵巣がん、膣がんおよび外陰がんならびに子宮肉腫が含まれる。
【0110】
卵巣がんの例としては、それだけに限らないが、漿液性腫瘍、子宮内膜腫瘍、粘液性嚢胞腺癌、顆粒膜細胞腫瘍、セルトリ・ライディッヒ細胞腫および男化腫瘍が挙げられる。
【0111】
子宮頸がんの例としては、それだけに限らないが、扁平上皮癌、腺癌、腺扁平上皮癌、小細胞癌、神経内分泌腫瘍、ガラス状細胞癌および絨毛腺腺癌が挙げられる。
【0112】
尿路の腫瘍には、それだけに限らないが、膀胱、陰茎、腎臓、腎盂、尿管、尿道、ならびに遺伝性および散発性の乳頭状腎がんが含まれる。
【0113】
腎臓がんの例としては、それだけに限らないが、腎細胞癌、尿路上皮細胞癌、傍糸球体細胞腫瘍(腎腫)、血管膠腫、腎膨大細胞腫、ベリーニ管癌、腎臓の明細胞肉腫、中胚葉腎腫およびウィルムス腫瘍が挙げられる。
【0114】
膀胱がんの例としては、それだけに限らないが、移行上皮癌、扁平上皮癌、腺癌、肉腫および小細胞癌が挙げられる。
【0115】
眼のがんには、それだけに限らないが、眼内黒色腫および網膜芽腫が含まれる。
【0116】
肝臓がんの例としては、それだけに限らないが、肝細胞癌(線維層状型変異体を伴うまたは伴わない肝細胞癌腫)、胆管細胞癌(肝内胆管癌)および混合型肝細胞胆管細胞癌が挙げられる。
【0117】
皮膚がんには、それだけに限らないが、扁平上皮細胞癌、カポジ肉腫、悪性黒色腫、メルケル細胞皮膚がんおよび非黒色腫皮膚がんが含まれる。
【0118】
頭頸部がんには、それだけに限らないが、頭頸部の扁平上皮癌、喉頭癌、下咽頭がん、鼻咽頭がん、口腔咽頭がん、唾液腺がん、口唇および口腔がん、ならびに扁平上皮癌が含まれる。
【0119】
リンパ腫には、それだけに限らないが、AIDS関連リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、ホジキン病および中枢神経系のリンパ腫が含まれる。
【0120】
肉腫には、それだけに限らないが、軟部組織の肉腫、骨肉腫、悪性線維性組織球腫、リンパ肉腫および横紋筋肉腫が含まれる。
【0121】
白血病には、それだけに限らないが、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病およびヘアリーセル白血病が含まれる。
【0122】
さらに、本発明の抗体またはその抗原結合断片はまた、ILDR2が関与する種々の他の障害における治療ツールまたは診断ツールとして使用することもできる。
【0123】
[実施例]
本発明を、図面および前記説明において詳細に例示および説明してきたが、このような例証および説明は、例示的または代表的であり、制限的ではないと見なされるべきである;本発明は、開示される実施形態に限定されない。開示される実施形態に対する他の変形が、図面、開示、および添付の特許請求の範囲の研究から、請求される発明を実施する際に当業者によって理解および達成され得る。請求項において、「含む(comprising)」という語は他の要素もステップも除外せず、不定冠詞「a」または「an」は複数を除外しない。一定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせを有利に使用できないことを示すものではない。請求項の参照符号は、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0124】
本明細書に開示される全てのアミノ酸配列は、N末端からC末端に示されている;本明細書に開示される全ての核酸配列は、5’→3’で示されている。
【0125】
1.腫瘍マウスモデル
以下の同系腫瘍モデルを、インビボ実験で皮下的に使用した。B16-F10細胞は、C57BL/6Jマウスの皮膚に由来するマウス黒色腫細胞株を表す。CT26は、N-ニトロソ-N-メチルウレタン-(NNMU)によって誘発される、未分化結腸癌細胞株である。これは線維芽細胞型で、BALB/cマウスに由来する。3C9-D11-H11細胞は、脾臓細胞とSp2/0-Ag14骨髄腫細胞の融合によって作製されたハイブリドーマBリンパ球である。脾臓細胞は、精製ブタパルボウイルス(PPV)で免疫されたBALB/cマウスに由来する。
【0126】
2.抗体作製
ILDR2に対する抗体を、ファージディスプレイによって作製した。手短に言えば、ビオチン化抗原を捕捉するためにストレプトアビジンコーティング磁気ビーズを使用して、溶液中でパニング反応を行った。磁気ラック(Promega)を使用してビーズを回収した。全てのファージパニング実験で、5%脱脂乳でブロッキングしたXOMA031ヒトfab抗体ファージディスプレイライブラリー(XOMA Corporation、Berkeley、CA)を使用した。
【0127】
ファージディスプレイに必要なタンパク質は、Sulfo-NHS-LC-Biotinキット(Pierce)を使用してビオチン化した。適切な緩衝液に対する透析により、遊離ビオチンを反応物から除去した。ビオチン標識タンパク質は、ILDR2-HMおよび同じマウスIgG
2a配列に融合した対照抗原のECDを含んでいた。対照抗原を、パニング実験の枯渇ステップに使用した。パニングプロセス中に、ストレプトアビジンビーズおよびマウスIgG
2a Fcドメインへの不要なバインダーを除去することが必要であった。これを達成するために、ストレプトアビジンビーズを対照抗原と組み合わせた。次いで、ファージのアリコートをこれらの「枯渇」ビーズと混合し、室温(RT)で30分間インキュベートした。次いで、枯渇ビーズを廃棄した。ILDR2-HMへの特異的バインダーを選択するために、ブロッキングおよび枯渇したファージライブラリーをビオチン化ILDR2-HMに結合した磁気ビーズと混合した。反応物をRTで1~2時間インキュベートし、非特異的ファージをPBS-TおよびPBSで洗浄して除去した。洗浄後、結合したファージを100mMトリエチルアミン(EMD)とのインキュベーションによって溶出し、溶出液をトリス-HCl pH8.0(Teknova)を添加して中和した。得られた大腸菌(E.coli)菌叢をかき取り、液体増殖培地に再懸濁した。再懸濁した細胞の少アリコートを100mL培養物(2YTとアンピシリン)に接種し、600nMのODが0.5に達するまで37℃で増殖させた。この培養物をM13K07ヘルパーファージ(New England Biolabs)で感染させ、カナマイシン(M13K07の選択抗生物質)を添加した。次いで、培養物を25℃で維持して、ファージをパッケージングさせた。培養物上清のアリコートを、パニングの後のラウンドまたはfab結合スクリーニングのいずれかに持ち越した。ファージライブラリーの代わりに前のラウンドから救済されたファージ上清を使用したことを除いて、2回目以降のラウンドを同様に行った。ファージ溶出液をTG1大腸菌(E.coli)に感染させ、XOMA031ファージミドで細胞を形質転換した。次いで、形質転換細胞を選択寒天プレート(アンピシリン)に広げ、37°Cで一晩インキュベートした。XOMA031ライブラリーは、IPTG誘導可能なfab発現ベクターとしても機能するファージミド構築物に基づく。パニングラウンド3から溶出したファージプールを希釈し、TG1大腸菌(E.coli)細胞(Lucigen)に感染させ、寒天プレート上に広げたときに単一のコロニーが生成されるようにした。個々のクローンを1mLの培養物(2YTとグルコースおよびアンピシリン)で増殖させ、IPTG(Teknova)を添加してタンパク質発現を誘導した。発現培養物を25℃で一晩インキュベートした。次いで、大腸菌(E.coli)ペリプラズムに分泌されたFabタンパク質を分析のために抽出した。試料の各プレートはまた、陰性対照として役立つ「ブランクPPE」ウェルを重複して含んでいた。これらは、fab PPEと同様に処理された非接種培養物から作製した。FACS分析を使用して、ILDR2に対する親和性を有するfabを特定した。個々のfab PPEを、ヒトILDR2を過剰発現しているHEK-293T細胞(293T-huILDR2細胞)への結合について試験した。全ての分析が、「空のベクター」対照プラスミド(293T-EV細胞)でトランスフェクトされた陰性対照HEK-293Tモック細胞を含んでいた。試薬調製および洗浄ステップは、FACS緩衝液(1%BSAを含むPBS)で行った。FabおよびブランクPPEを細胞のアリコートと混合し、4℃で1時間インキュベートし、次いで、FACS緩衝液で洗浄した。次いで、細胞を抗C-myc一次抗体(Roche)と混合した。同じインキュベーションおよび洗浄ステップの後、細胞を抗マウスIgG Fc AlexaFlour-647抗体(Jackson Immunoresearch)で染色した。最終的なインキュベーションおよび洗浄の後、細胞をFACS緩衝液中に構成された4%パラホルムアルデヒドで固定した。試料を、HTFCスクリーニングシステム(Intellicyt)で読み取った。FCS Express(De Novo Software、CA、米国)またはFloJo(De Novo Software、CA、米国)を使用してデータを分析した。これらの結果に基づいて、5つのバインダーをさらに分析するために選択し、完全長IgGに再フォーマットした。
【表18】
【0128】
比較として、抗PD-L1抗体をいくつかの実験に使用した。抗PD-L1抗体(本明細書ではaPDL1とも呼ばれる)は、アテゾリズマブの可変ドメインとヒトIgG2ドメインのキメラである。
【0129】
3.抗体産生
これらのIgGを、標準的手順を使用して発現および精製した。手短に言えば、IgGを、一過的トランスフェクトしたHEK293-6E細胞を使用した哺乳動物細胞培養によって産生させた。重鎖および軽鎖をpTT5デュアルベクターシステムにクローニングした。細胞培養スケールは、F17培地(Life Technologies;0.1%pluronic F68(Life Technologies)および4 mM Glutamax(Life Technologies)を補充)を利用して、振盪フラスコで4×1.5lとした。トランスフェクションの24時間後、1%FCS「超低」IgG(Life Technologies)および0.5mMバルプロ酸(Sigma Aldrich)を添加した。6.0lの細胞上清を濾過滅菌し、精製前に4℃で保存した。IgGを、標準的精製プロトコルを使用して精製した。捕捉ステップは、MabSelect SuReでのアフィニティクロマトグラフィー、引き続いてSuperdex 200での分取SECとする。AEKTA Explorer 100 System(GE-Healthcare)を使用して、HEK-293細胞からの濾過(0.2μm)上清をMabSelect SuReカラム(200ml)に直接ロードした。第1のカラムからの溶出後、ピーク画分をプールし、3.0MトリスpH9を使用して中和した。滅菌濾過後、濾液をSECまで4℃で保存した。同じクロマトグラフィーシステムを使用して、Superdex 200分取グレードXK 50/100(カラム体積約1.8L)で1回の注入を実施した。
【0130】
ピークをプールした。最終的なIgG含有画分を、Amicon ultra-15濃縮装置(Millipore、30 kDa MWCO)を使用して約10mg/mlまで濃縮した。タンパク質の量および濃度を、Nanodrop UV分光光度計によって決定した;試料を滅菌濾過し、アリコートし、液体窒素で凍結し、-80℃で保存した。
【0131】
4.選択した抗体の抗原結合の特性評価
ヒトILDR2で安定的にトランスフェクトされたHEK細胞への結合のフローサイトメトリー定量および結合曲線に基づいて親和性を外挿するように設計されたアルゴリズムの使用によって、K
D値を決定した。手短に言えば、hIgG1を、96ウェルプレートの16ウェルにわたる一定数の細胞(100000個細胞/ウェル)に、3pM~209nMの結合部位濃度範囲で添加した。1つのウェルは、ブランクウェルとして役立つようIgGが添加されていない細胞を含んでいた。細胞を4℃で4時間平衡化した。細胞をFACS緩衝液で1回洗浄した後、90nMの過剰のCy5標識ヤギ抗ヒトポリクローナル抗体(Jackson ImmunoResearch 109-606-097)を各ウェルに添加した。標識pAbとの30分間のインキュベーション(4℃)後、細胞を2回洗浄し、次いで、Intellicyteフローサイトメーターを使用して平均蛍光強度(MFI)をおよそ10000「イベント」にわたって記録した。ILDR2を発現するHEK 293細胞に結合するIgGのK
Dを、DrakeおよびKlakamp(2007)に詳述される1:1平衡モデルを使用してMFI対IgG結合部位濃度曲線を当てはめることによって推定した。マウスILDR2を発現するHEK細胞を用いて行った実験は、匹敵する結合をもたらした。非トランスフェクト細胞を使用した対照実験は、結合が厳密にILDR2依存性であることを実証した。結果を以下の表2に示す。
【表19】
【0132】
5.同系インビボマウスモデルにおける選択されたバインダーの例えば、退縮活性などの抗腫瘍有効性
例えば、それぞれのバインダーの腫瘍退縮効果などの抗腫瘍有効性を決定するために、2つの同系マウスモデル(B16F10、CT26)を上に論じられるように使用した。アイソタイプ対照に対して測定した場合、抗ILDR2抗体E10は腫瘍退縮をまったく示さないが、抗PD-L1抗体および抗ILDR2抗体B02は示すことが判明した(
図9A参照)。
【0133】
6.MLRにおける選択されたバインダーによるILDR2活性の調節
ILDR2機能に対するこれらの抗体の効果を決定するために、免疫調節アッセイ、すなわち混合リンパ球反応アッセイを行った。混合リンパ球反応(MLR)は、リンパ球の集団を混合し、得られた反応物を測定する試験である。技術的には、これは、2つの同種リンパ球集団間で行われるエキソビボ細胞性免疫アッセイである。一方向MLRでは、1つのリンパ球集団のみ応答または増殖することができる。二方向MLRでは、両集団が増殖することができる。T細胞が外部刺激、例えば抗PD-1抗体(Wang et al 2014)および抗PD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害剤への曝露にどのように反応するかを評価するためにMLRを実施する。本文脈では、抗体誘起IL-2分泌を、このアッセイで測定した。
【0134】
この場合、あるドナーのCD4 T細胞を、種々のILDR2抗体、機能遮断PD-L1抗体、またはアイソタイプ対照の存在下で、別のドナーのM-CSF成熟単球と5日間共培養した。上清を採取し、古典的なT細胞活性化マーカーであるILDR2の濃度をElisaによって決定した。予想通り、抗PD-L1抗体は、アイソタイプ対照よりもIL-2分泌の有意な増加を誘導した。ILDR2抗体の1つであるE10は、同等の効果を有していた。結果を
図9Bおよび以下の表3に示す。
【表20】
【0135】
これにより、本発明者らは、さらなるインビボモデルにおいて、B02と同様に、MLRにおけるIL-2誘導を媒介しないさらなる抗ILDR2抗体を試験するよう促された。CT26モデルでは、抗体G09、E08、B02およびC05が、アイソタイプ対照に対して測定した場合、同様の抗腫瘍有効性を示すことが分かった(
図9C参照)。したがって、非常に驚くべきことに、抗ILDR2抗体G09、E08、B02およびC05は、免疫調節アッセイで抗PD-L1抗体よりも低いサイトカイン誘導活性を有するが、インビボ腫瘍モデルでは抗PD-L1抗体と同等の抗腫瘍活性を示す。
【0136】
IL-2分泌アッセイでは、ただ1つの抗ILDR2抗体、すなわちE10が、比較の抗PD-L1抗体と同様の挙動を示したが、インビボアッセイでは不活性であった。試験した残りの抗ILDR2抗体はIL-2分泌を誘発しなかったが、それにもかかわらず、インビボアッセイで活性を示した。したがって、本発明者らは、IL-2分泌アッセイは抗ILDR2抗体のインビボ活性を予測できないと結論付けている。むしろ、インビボ活性を有することが実証された抗ILDR2抗体によって描写されたエピトープ空間は、インビボ抗腫瘍活性を有する、したがって治療可能性を有するILDR2抗体の作製に適したエピトープ空間を描写するように思われる。
【0137】
サイトカイン誘導活性を、アイソタイプ対照と比較して、IL-2、TNFα、IL-6および/またはIFNγの分泌として測定するアッセイでは、
●好ましいILDR2アンタゴニストのIL-2誘導が、抗PD-L1抗体と比較して40%以下である、
●好ましいILDR2アンタゴニストのTNFα誘導は、抗PD-L1抗体と比較して28%以下である、
●好ましいILDR2アンタゴニストのIL-6誘導は、抗PD-L1抗体と比較して50%以下である、
●好ましいILDR2アンタゴニストのIFNγ誘導は、抗PD-L1抗体と比較して68%以下である。
【0138】
7.B02(BAY1905254)を用いたインビボ実験
抗PD-L1(本明細書ではaPDL1とも呼ばれる)抗体は、アテゾリズマブの可変ドメインとヒトIgG2ドメインのキメラである。BAY1905254(本明細書ではaILDR2とも呼ばれる)は、ILDR2の細胞外ドメインに結合する可変ドメインおよび定常ドメインフレームワークからなる。aPD-L1とaILDR2の両方が、ヒトIgG2アイソタイプ対照によってインビボ実験で制御される。E10は、ILDR2の細胞外ドメインに結合する可変ドメインおよび定常ドメインフレームワークからなり、マウスIgG1アイソタイプ対照によってインビボ実験で制御される。
【0139】
全ての動物実験はドイツの動物福祉法に基づいて実施し、地元当局によって承認された。
【0140】
7.1.B16-F10予防的処置
Charles River Deutschland、Sulzfeld製の8週齢の雌C57Bl/6N Crl BRマウス(体重18~20g)をB16F10腫瘍モデルに使用した。8日間の順応期間後に実験を開始した。動物を12時間の明/暗サイクルで飼育した。飼料および水は自由に入手可能とした。収容温度を21℃で維持した。マウス(1群当たりn=12)に、1×104個のB16-F10腫瘍細胞を左側腹部に皮下接種し、実験群に割り当てた。処置開始時に、動物に印を付け、各ケージにケージ番号、試験番号および1ケージ当たりの動物の数を表示した。
【0141】
5ml/kgの施用体積でのインビボ投与の調整を、Ca2+、Mg2+、pH7.4(Biochrom)を含まないDPBSにストック溶液を希釈することによって達成した。そして、腫瘍接種による処置を開始して、10mg/kg q3d×6で薬剤を腹腔内投与した。結果を
図1および
図2ならびに表3~6に示す。
【表21】
【表22】
【表23】
【表24】
【0142】
7.2.B16-F10治療的処置、aPD-L1との組み合わせでの相乗的有効性
Charles River Deutschland、Sulzfeld製の8週齢の雌C57Bl/6N Crl BRマウス(体重18~20g)をB16-F10腫瘍モデルに使用した。5日間の順応期間後に実験を開始した。動物を12時間の明/暗サイクルで飼育した。飼料および水は自由に入手可能とした。収容温度を21℃で維持した。マウス(1群当たりn=11)に、1×104個のB16F10腫瘍細胞を左側腹部に皮下接種し、腫瘍接種後3日目に層別無作為化(腫瘍サイズが同じ分布の群にマウスを分割する方法)によって実験群に割り当てた。処置開始時に、動物に印を付け、各ケージにケージ番号、試験番号および1ケージ当たりの動物の数を表示した。
【0143】
5ml/kgの施用体積でのインビボ投与の調整を、Ca2+、Mg2+、pH7.4(Biochrom)を含まないDPBSにストック溶液を希釈することによって達成し、薬剤をd3で開始する10mg/kg q3d×5で腹腔内投与した。結果を
図3および表7~8に示す。
【表25】
【表26】
【0144】
7.3.aPD-L1によるCT26治療的、相乗的有効性
Charles River Deutschland、Sulzfeld製の8週齢の雌Balb/cAnNマウス(体重18~20g)をCT26腫瘍モデルに使用した。6日間の順応期間後に実験を開始した。動物を12時間の明/暗サイクルで飼育した。飼料および水は自由に入手可能とした。収容温度を21℃で維持した。マウス(1群当たりn=12)に、5×105個のCT26腫瘍細胞を左側腹部に皮下接種し、腫瘍接種後7日目に層別無作為化(腫瘍サイズが同じ分布の群にマウスを分割する方法)によって実験群に割り当てた。処置開始時に、動物に印を付け、各ケージにケージ番号、試験番号および1ケージ当たりの動物の数を表示した。
【0145】
5ml/kgの施用体積でのインビボ投与の調整を、Ca2+、Mg2+、pH7.4(Biochrom)を含まないDPBSにストック溶液を希釈することによって達成した。aPD-L1を10mg/kg q3d×3で腹腔内投与し、BAY1905254を3mg/kg q3d×3で腹腔内投与し、全ての処置をd7に開始した。結果を
図4および表9~10に示す。
【表27】
【表28】
【0146】
7.4.aPD-L1による3C9-D11-H11治療的、相乗的有効性
Charles River Deutschland、Sulzfeld製の8週齢の雌Balb/cAnNマウス(体重18~20g)を3C9-D11-H11腫瘍モデルに使用した。
【0147】
12日間の順応期間後に実験を開始した。動物を12時間の明/暗サイクルで飼育した。飼料および水は自由に入手可能とした。収容温度を21℃で維持した。
【0148】
マウス(1群当たりn=12)に、1×104個の3C9-D11-H11腫瘍細胞を左側腹部に皮下接種し、腫瘍接種後8日目に層別無作為化(腫瘍サイズが同じ分布の群にマウスを分割する方法)によって実験群に割り当てた。処置開始時に、動物に印を付け、各ケージにケージ番号、試験番号および1ケージ当たりの動物の数を表示した。
【0149】
5ml/kgの施用体積でのインビボ投与の調整を、Ca2+、Mg2+、pH7.4(Biochrom)を含まないDPBSにストック溶液を希釈することによって達成した。そして、d8で開始して、10mg/kg q3d×5で薬剤を腹腔内投与した。結果を
図5および表11~12に示す。
【表29】
【表30】
【0150】
8.追加の組み合わせ
8.1免疫刺激性CpGオリゴ(OVAワクチン)との組み合わせ
Charles River Deutschland、Sulzfeld製の9週齢の雌C57Bl/6N Crl BRマウス(体重18~20g)をB16F10 OVA腫瘍モデルに使用した。このモデルは、抗原特異的T細胞によって認識することができるニワトリ同種抗原オボアルブミンを発現するB16-F10細胞株の派生物である。
【0151】
13日間の順応期間後に実験を開始した。動物を12時間の明/暗サイクルで飼育した。飼料および水は自由に入手可能とした。収容温度を21℃で維持した。マウス(1群当たりn=12)に、1×104個のB16-F10 OVA腫瘍細胞を左側腹部に皮下接種し、実験群に割り当てた。処置開始時に、動物に印を付け、各ケージにケージ番号、試験番号および1ケージ当たりの動物の数を表示した。
【0152】
5ml/kgの施用体積でのアイソタイプ対照およびBAY1905254のインビボ投与の調整を、Ca2+、Mg2+、pH7.4(Biochrom)を含まないDPBSにストック溶液を希釈することによって達成した。8日目で開始して、10mg/kg q3d×3で薬剤を腹腔内投与した。9日目に、50μg OVA(50μl)+10μg CPG(10μl)+140μl PBS=200μl/マウスを、腫瘍に隣接する左側腹部に皮下施用した。CpGオリゴヌクレオチドは、マウスTLR9に特異的なODN 1826(5’-tccatgacgttcctgacgtt-3’;塩基はホスホロチオエート/ヌクレアーゼ耐性)であった、使用した(Invivogen番号tlrl-1826-5)。結果を
図6および表13~14に示す。
【表31】
【表32】
【0153】
8.2.ドセタキセルとの組み合わせ
Charles River Deutschland、Sulzfeld製の8週齢の雌C57Bl/6N Crl BRマウス(体重18~20g)をB16-F10 OVA腫瘍モデルに使用した。このモデルは、抗原特異的T細胞によって認識することができる同種抗原オボアルブミンを発現するB16F10細胞株の派生物である。5日間の順応期間後に実験を開始した。動物を12時間の明/暗サイクルで飼育した。飼料および水は自由に入手可能とした。収容温度を21℃で維持した。マウス(1群当たりn=12)に、1×104個のB16F10 OVA腫瘍細胞を左側腹部に皮下接種し、実験群に割り当てた。処置開始時に、動物に印を付け、各ケージにケージ番号、試験番号および1ケージ当たりの動物の数を表示した。
【0154】
5ml/kgの施用体積でのアイソタイプ対照およびBAY1905254のインビボ投与の調整を、Ca2+、Mg2+、pH7.4(Biochrom)を含まないDPBSにストック溶液を希釈することによって達成した。8日目で開始して、10mg/kg q3d×3で薬剤を腹腔内投与した。ドセタキセルを、80mg/4mlのストック溶液を注入目的で0.9%NaClで希釈して、8日目に、20mg/kgで1回静脈内投与した。結果を
図7および表15~16に示す。
【表33】
【表34】
【0155】
8.3.C4.4A ADCとの組み合わせ
Charles River Deutschland、Sulzfeld製の9週齢の雌Balb/cAnNマウス(体重18~20g)をCT26 C4.4a腫瘍モデルに使用した。このモデルは、腫瘍細胞の表面でマウスC4.4aを発現する親CT26モデルの派生物である。
【0156】
15日間の順応期間後に実験を開始した。動物を12時間の明/暗サイクルで飼育した。飼料および水は自由に入手可能とした。収容温度を21℃で維持した。
【0157】
マウス(1群当たりn=12)に、1×105個のCT26腫瘍細胞を左側腹部に皮下接種し、腫瘍接種後6日目に層別無作為化(腫瘍サイズが同じ分布の群にマウスを分割する方法)によって実験群に割り当てた。
【0158】
処置開始時に、動物に印を付け、各ケージにケージ番号、試験番号および1ケージ当たりの動物の数を表示した。10ml/kgの施用体積でのインビボ投与の調整を、Ca2+、Mg2+、pH7.4(Biochrom)を含まないDPBSにストック溶液を希釈することによって調製した。6日目で開始して、10mg/kg q3d×5で薬剤(対照+BAY 1905254)を腹腔内投与した。
【0159】
ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体(uPAR)の構造的ホモログに対する抗体および腫瘍関連抗原であるC4.4aで構成され、細胞傷害剤と結合されたC4.4A ADC(抗体薬物複合体BAY1129980)を、6日目で開始して10mg/kg q4dx3で静脈内投与した。結果を
図8および表17~18に示す。
【表35】
【表36】
【0160】
配列
以下の表に示される配列は、本明細書で参照される。この表と、本明細書およびその開示の一部を形成するWIPO標準配列表との間にあいまいさが存在する場合、この表の配列および修飾子を正しいものと見なすものとする。
【表37】
【配列表】