(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】貯蔵安定なガラスアイオノマー組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 6/889 20200101AFI20230919BHJP
A61K 6/831 20200101ALI20230919BHJP
A61K 6/882 20200101ALI20230919BHJP
A61K 6/849 20200101ALI20230919BHJP
A61K 6/878 20200101ALI20230919BHJP
A61K 6/15 20200101ALI20230919BHJP
A61K 6/17 20200101ALI20230919BHJP
【FI】
A61K6/889
A61K6/831
A61K6/882
A61K6/849
A61K6/878
A61K6/15
A61K6/17
(21)【出願番号】P 2020554159
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 IB2019052497
(87)【国際公開番号】W WO2019193459
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-03-25
(32)【優先日】2018-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ヤーンス,ミヒャエル
【審査官】鶴見 秀紀
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科で使用するためのガラスアイオノマー組成物を調製するためのパーツキットであって、前記キットがペーストAとペーストBとを含み、
ペーストAが、
水と、
酸反応性無機充填剤Aと、
非酸反応性充填剤B1と、
6つのヒドロキシル部分を有する糖アルコールと、を含み、
ペーストBが、
水と、
ポリ酸と、
非酸反応性充填剤B2と、を含み、
ペーストAにおける糖アルコールの水に対する比は重量部で1:10~1:3の範囲であり、
前記糖アルコールが2重量%以下の量で存在し、
前記水が15重量%以下の量で存在し、
重量%はペーストAとペーストBとを混合した際に得られる組成物全体に対するものである、パーツキット。
【請求項2】
ペーストAにおける糖アルコール重量部の酸反応性無機充填剤A重量部に対する比が、1:10~1:100である、請求項1に記載のパーツキット。
【請求項3】
以下:
ペーストAが、
5~20重量%の量の水と、
40~90重量%の量の酸反応性無機充填剤Aと、
1~20重量%の量の非酸反応性充填剤B1と、
0.5~2.0重量%の量の糖アルコールと、を含み、
重量%はペーストAの重量に対するものであり、
ペーストBが、
9~20重量%の量の水と、
10~70重量%の量のポリ酸と、
5~70重量%の量の非酸反応性充填剤B2と、を含み、
重量%はペーストBの重量に対するものであること、
で特徴づけられる、請求項1又は2に記載のパーツキット。
【請求項4】
前記非酸反応性充填剤B1が、粉末及び粉末分散体から選択され、その粒子が、10nm~500nmの範囲の平均粒径を有し、
前記非酸反応性充填剤B2が、粉末から選択され、その粒子が、1μm~10μmの範囲の平均粒径を有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のパーツキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合される2つのペーストを含有するパーツキットから得ることができるガラスアイオノマーセメントであって、1つのペーストが糖アルコールを含有する、ガラスアイオノマーセメントに関する。
【0002】
パーツキットにより、貯蔵安定性及び取り扱い特性が向上し、硬化後に得られるガラスアイオノマーセメントは良好な機械的特性を示す。
【背景技術】
【0003】
従来型ガラスアイオノマー組成物は、典型的には、粉末/液体系の形態で提供される。
【0004】
これらのガラスアイオノマー組成物は、必須成分として、ポリ酸、酸反応性ガラス及び水を含有する。
【0005】
しかしながら、多くの場合、アイオノマーガラス(粉末)とポリ酸溶液(液体)とを混合して、均質な材料を得るのは施術者には困難なことである。更に、製造方法によっては別の材料欠陥(例えば、粉末の凝集体又は空気の含有物)があり得る。したがって、ペースト/ペースト系の形態のガラスアイオノマー組成物が提案されてきた。
【0006】
ガラスアイオノマー組成物をペースト/ペースト系として提供することは、作業者にとって非常に快適である。
【0007】
しかしながら、ペースト/ペースト形態の従来型ガラスアイオノマー組成物は、唯一の溶媒として水を含有する。水が蒸発して製品の特性が急速に変化し得る、又は更にはペーストが使用できなくなる可能性があるため、これらのペーストを一旦空気に開放すると、このようなペーストの安定性を確保するのは非常に困難であることが証明されている。
【0008】
ペーストのうちの1つは、ガラスアイオノマー組成物の重要な成分としてポリ酸を含有する。ポリ酸は、水分を保持して蒸発を防止することができる。
【0009】
しかしながら、酸反応性ガラス(アイオノマーガラス)を含有するペーストは、通常、同様の機能を有する成分を含有していない。
【0010】
その目的のために物質を加えることは可能であるが、ガラスアイオノマー反応に関与しない物質は、硬化後の組成物における、強度のような機械的特性に悪影響を及ぼすことが多い。
【0011】
米国特許出願公開第2003/0136303(A1)号(Kobayashiら)には、α-β不飽和カルボン酸のポリマー及び水を含有する第1のペーストと、フルオロアルミノシリケートガラス粉末、水、及び少量の増粘剤を含有する第2のペーストとを含む、ペーストタイプの歯科用ガラスアイオノマーセメント組成物が記載されている。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース成分が提案されている。71~88MPaの範囲の圧縮強度値が報告されている。
【0012】
欧州特許第3 100 712(A1)号(GC)には、歯科用ガラスアイオノマーセメント用の充填剤が記載されている。加えて、水以外の更なる液体成分として、グリセリンを含有するペースト/ペーストガラスアイオノマー組成物が記載されている。
【0013】
欧州特許第2 163 233(A1)号(GC)には、リン酸及び/又はα-β不飽和カルボン酸のポリマーと、この酸と反応することができる酸化物粉末と、水と、酸化物粉末と反応することができない液体と、を含むペーストタイプの歯科用セメントが記載されている。可能な液体としては、多価アルコールが提案されている。このペーストタイプの歯科用セメントは、一時的なセメントとして使用するためのものであり、このセメントを用いると歯科補綴物を容易に除去することが可能となる。8~31MPaの範囲の圧縮強度値が報告されている。
【0014】
国際公開第2017/015193(A1)号(3M)は、ガラスアイオノマーセメントを製造するためのパーツキットに関する。このキットは、水と、酸反応性無機充填剤Cと、非酸反応性充填剤Aとを含むペーストA、及び水と、ポリ酸と、錯化剤と、非酸反応性充填剤Bとを含むペーストBを含み、非酸反応性充填剤Bの平均粒径は非酸反応性充填剤Aの平均粒径よりも大きい。
【0015】
英国特許第2 021 123(A)号(3M)には、a)ポリカルボン酸の濃縮された非ゲル化水溶液と、b)金属酸化物又は多価カチオン含有ガラス粉末の水性懸濁液と、を混合することで形成される、歯科において有用な手術用セメントが記載されている。貯蔵中のペーストの乾燥傾向を抑えるため、ソルビトール、グリセロール、又は他の保湿剤を加えることが提案されている。実施例では、水のソルビトールに対する比は約30:1である。
【発明の概要】
【0016】
十分な貯蔵安定性を有するペースト/ペースト系として提供することができる、歯科で使用するための水含有ガラスアイオノマー組成物が必要とされている。
【0017】
更に、2つのペーストを混合した後に得られる組成物は、硬化後に良好な機械的特性を有するはずである。
【0018】
貯蔵及び使用中に乾燥しにくい水含有ペースト/ペースト系が使用可能であることもまた望ましい。
【0019】
可能であれば、貯蔵及び使用中における、キット又はパーツ中の水含有ペーストの望ましくない水分喪失又は乾燥を防ぐ必要がある。
【0020】
一方、望ましくない水分喪失又は乾燥により、ペーストの混合がより困難になる場合がある。
【0021】
他方、望ましくない水分喪失又は乾燥の結果として混合比が不適切になる場合があり、これは硬化組成物の物理的特性及び性能に悪影響を及ぼし得る。
【0022】
上記の目的のうちの1つ以上は、本明細書及び特許請求の範囲に記載される本発明により対処される。
【0023】
一実施形態では、本発明は、本明細書及び特許請求の範囲に記載されているような歯科で使用するためのガラスアイオノマー組成物を調製するためのキット又はパーツであって、このキット又はパーツはペーストAとペーストBとを含み、
ペーストAが、
水と、
酸反応性無機充填剤Aと、
非酸反応性充填剤B1と、
6つのヒドロキシル部分を有する糖アルコールと、を含み、
ペーストBが、
水と、
ポリ酸と、
非酸反応性充填剤B2と、を含み、
ペーストAにおける糖アルコール重量部の水に対する比は好ましくは1:10~1:3の範囲であり、
糖アルコールは2重量%以下の量で存在し、
水は15重量%以下の量で存在し、
重量%はペーストAとペーストBとを混合した際に得られる組成物全体に対するものである、キット又はパーツを特徴とする。
【0024】
本発明はまた、本明細書及び特許請求の範囲に記載されているようなパーツキット中のそれぞれのペーストを混合することで歯科用組成物の製造方法に関する。
【0025】
更に、本発明は、歯科で使用するための硬化ガラスアイオノマー組成物に関し、この硬化組成物は、本明細書に記載のパーツキット中のペーストAとペーストBとを混合して、混合物を硬化させることで得ることができる。この硬化ガラスアイオノマー組成物は、以下のパラメータ:a)曲げ強度:20MPaを上回る、及び/又はb)圧縮強度:100MPaを上回る、のうち単独又は組み合わせにより特徴づけられる。
【0026】
別段の定義のない限り、本明細書では、以下の用語は、以下に記載の意味を有する。
【0027】
「歯科用組成物」又は「歯科で使用するための組成物」又は「歯科分野で使用されることになる組成物」は、歯科分野で使用され得る任意の組成物である。この点において、組成物は患者の健康にとって有害であるべきでなく、したがって、組成物から出て移行することが可能な有害及び有毒な成分を含まない。歯科用組成物は、典型的には硬化性組成物であり、これは、30分、又は20分、又は10分の時間範囲内で、15~50℃、又は20~40℃の温度範囲を含む周囲条件にて硬化し得る。これよりも高い温度は患者に痛みをもたらすことがあり、患者の健康に有害な場合があるため推奨されない。歯科用組成物は、典型的には、同程度の小容量、すなわち、0.1~100mL、又は0.5~50mL、又は1~30mLの範囲の容量で、施術者に提供される。したがって、有用なパッケージングデバイスの貯蔵容量は、これらの範囲内である。
【0028】
「重合性成分」は、例えば、重合若しくは化学的架橋を起こす加熱、又は例えば放射線誘導重合若しくは例えばレドックス開始剤の使用による架橋によって硬化され得る又は固化され得る、任意の成分である。重合性成分は、1つのみ、2つ、3つ、又はそれ以上の重合性基を含有することができる。重合性基の典型例としては、例えば、(メチル)アクリレート基中に存在するビニル基等の不飽和炭素基が挙げられる。
【0029】
本明細書に記載の歯科用組成物は、組成物全体に対して、0.5重量%を上回る、又は1重量%を上回る量の重合性成分を含有しない。本明細書に記載の歯科用組成物は、(メタ)アクリレート基を有する重合性成分又はモノマーを本質的に含まない。
【0030】
「モノマー」は、オリゴマー又はポリマーに重合させることでその分子量を増加させることができる、重合性基((メタ)アクリレート基を含む)を有する化学式により特徴づけることができる化学物質である。通常、モノマーの分子量は、与えられた化学式に基づいて単純に算出することができる。
【0031】
本明細書で使用する場合、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び/又は「メタクリル」を指す短縮語である。例えば、「(メタ)アクリルオキシ」基は、アクリルオキシ基(すなわち、CH2=CH-C(O)-O-)及び/又はメタクリルオキシ基(すなわち、CH2=C(CH3)-C(O)-O-)のいずれかを指す短縮語である。
【0032】
「開始剤」は、例えば、レドックス/自動硬化化学反応(redox/auto-cure chemical reaction)、又は放射線により誘導される反応により、又は熱により誘導される反応により、重合性成分又はモノマーの硬化プロセスを開始又は引き起こすことができる物質である。
【0033】
「粉末」は、振盪されるか、又は傾けられる際に流動性になる多数の微細な粒子からなる乾燥したバルク固体を意味する。
【0034】
「粒子」とは、幾何学的に測定できる形状を有する固体である物質を意味する。粒子は、典型的には、例えば粒径(grain size or diameter)に関して解析できる。
【0035】
粉末の平均粒径は、粒径分布の積算曲線から得られ、ある特定の粉末混合物の測定粒径の算術平均と定義される。それぞれの測定は、市販の粒度計(例えばCILAS Laser Diffraction Particle Size Analysis Instrument)を使用して実行できる。
【0036】
粒径測定に関する用語「d50/μm」は、解析される体積中、50%の粒子がxμmを下回る径を有することを意味する。例えば100μm(d50)を下回る粒径値は、解析される体積中、50%の粒子が100μmを下回る径を有することを意味する。
【0037】
「ペースト」は、液体中に分散した、軟らかく粘性の固体の塊を指す。
【0038】
「粘性の」は、(23℃において)50Pa*sを上回る粘度を意味する。
【0039】
「液体」は、周囲条件(例えば23℃)において成分を少なくとも部分的に分散又は溶解させることができる任意の溶媒又は液体を意味する。液体は、典型的には、10Pa*sを下回る、又は8Pa*sを下回る、又は6Pa*sを下回る粘度を有する。
【0040】
「ガラスアイオノマーセメント」又は「GIC」は、水の存在下、酸反応性ガラスとポリ酸との反応により硬化(curing or hardening)するセメントを意味する。
【0041】
「樹脂改質ガラスアイオノマーセメント」又は「RM-GIC」は、重合性成分、開始剤系、及び典型的には2-ヒドロキシル-エチル-メタクリレート(HEMA)を更に含有するGICを意味する。
【0042】
「酸反応性充填剤」は、(ポリ)酸の存在下で化学的に反応して硬化反応に至らせる充填剤を意味する。
【0043】
「非酸反応性充填剤」は、(ポリ)酸と周囲条件(例えば23℃)にて混合した場合に、約30分以内に化学硬化反応を示さない充填剤を意味する。
【0044】
酸反応性充填剤を非酸反応性充填剤と区別するために、次の試験が行われ得るか、又は行われることになる。A剤とB剤とを質量比3:1で混合して組成物を調製し、ここで、A剤では分析されることになる充填剤が100重量%を占め、B剤ではポリ(アクリル酸コマレイン酸)(Mw:約20,000±3,000)が43.6重量%、水が47.2重量%、酒石酸が9.1重量%、安息香酸が0.1重量%を占める。
【0045】
非酸反応性充填剤の例としては、石英ガラス及びクリストバライトが挙げられる。更なる例を、本明細書において以下に示す。
【0046】
「陽イオン低減アルミノシリケートガラス」は、ガラス粒子の表面領域中の陽イオンの含有量がガラス粒子の内側領域に比べて低いガラスを意味する。これらのガラスは、ポリアクリル酸水溶液との接触の際に、典型的な酸反応性充填剤と比べて、はるかにゆっくりと反応する。カチオン低減は、ガラス粒子の表面処理により達成できる。好適な表面処理としては、酸洗浄(例えばリン酸での処理)、ホスフェートでの処理、酒石酸等のキレート剤での処理、及びシラン又は酸性若しくは塩基性シラノール溶液での処理が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
「ポリ酸」又は「ポリアルケン酸」は、複数の(例えば10個を超える、又は20個を超える、又は50個を超える)酸性繰り返し単位を有するポリマーを意味する。つまり、酸性繰り返し単位は、ポリマー主鎖に結合しているか、又はぶら下がっている。
【0048】
「錯化剤又はキレート剤」は、部分を含み、カルシウム又はマグネシウムのような金属イオンとともに錯体を形成できる低分子の試剤、例えば酒石酸を意味する。
【0049】
「貯蔵安定な組成物」は、重大な性能上の問題(例えば曲げ強度若しくは圧縮強度の低下)を示さずに適切な期間(例えば周囲条件下で少なくとも約12ヶ月間)貯蔵できる、かつ/又は時間の経過とともに硬化しない、かつ/又は時間の経過とともに分離しない、組成物である。
【0050】
物質は、その物質が空気から湿気を吸収することができる場合、「吸湿性」として特徴づけられる。
【0051】
「硬化性(”hardenable”or “curable”)」は、例えば、化学架橋、放射線により誘導される重合又は架橋といった追加の硬化系の必要なしでガラスアイオノマーセメント反応を実施することにより、組成物を硬化又は固化できることを意味する。
【0052】
組成物が特定の成分を本質的な特徴として含有しない場合、この組成物は該成分を「本質的又は実質的に含まない」。したがって、この成分は、それだけで、又は他の成分若しくは他の成分の含有物質(ingredient)との組み合わせでのいずれによっても、組成物に意図的に添加されない。
【0053】
特定の成分を本質的に含まない組成物は、通常この成分を、組成物又は材料全体に対して、1重量%未満、又は0.5重量%未満、又は0.1重量%未満、又は0.01重量%未満の量で含有する。組成物は、この成分を一切含有しなくてもよい。しかしながら、時には、例えば用いられる原料中に含まれる不純物のために、少量のこの成分が存在するのを回避できないこともある。
【0054】
「周囲条件」とは、本発明の溶液が、保管及び取り扱いの際に通常曝される条件を意味する。周囲条件は、例えば、圧力900~1100mbar、温度10~40℃及び相対湿度10~100%としてもよい。実験室においては、周囲条件は、20~25℃及び1000~1025mbarに調整される。
【0055】
本明細書で使用される「1つの(a)」、「1つの(an)」、「1つの(the)」、「少なくとも1つの(at least one)」、及び「1つ以上の(one or more)」は、互換的に使用される。「含む(comprise)」又は「含有する(contain)」という用語及びそれらの変形は、これらの用語が本明細書及び特許請求の範囲で記載される場合、限定的な意味を有さない。また、本明細書において、端点による数値範囲の記載は、その範囲内に包含される全ての数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。用語「含む(comprise)」はまた、用語「本質的に~からなる(consist essentially of)」及び「~からなる(consists of)」を含むものとする。
【0056】
用語に「(s)」を付加することは、その用語が単数形及び複数形を含むべきであることを意味する。例えば、「添加剤(additive(s))」という用語は、1種の添加剤及び複数種(例えば2種、3種、4種等)の添加剤を意味する。
【0057】
特に指示のない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用されている、例えば下に記載するもの等の含有物質の量、物性の測定値を表す全ての数は、全ての例で「約」という用語により修飾されていると理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
糖アルコールの使用は、使用又は貯蔵中における、ペースト/ペースト系の形態で提供されるガラスアイオノマー組成物の乾燥又は水分喪失の問題の軽減に役立つ。
【0059】
ペーストを含有する送達デバイスを長時間開けたままにする場合、又はペーストをすぐには使用しないが一定時間混合ブロック上に放置する場合には、貯蔵安定性の向上が望まれる。このようにすると、ペーストに含有される水の望ましくない蒸発を引き起こすことがある。
【0060】
更に、ペースト混合後に得られる組成物は、硬化後、十分な圧縮強度といった適切な物理的特性を示す。したがって、糖アルコールの使用が、硬化組成物の機械的特性に悪影響を及ぼすことはない。
【0061】
加えて、糖アルコールは十分に低分子量であるため、それぞれのペーストの粘度が悪影響を受けることはない。
【0062】
一方では糖アルコールは、水含有ペーストの乾燥を防ぐのに十分な水結合能を有し、他方では糖アルコールの使用は、特に添加剤を適切な量で使用する場合、硬化組成物の物理的特性に悪影響を及ぼすことはないということが特に見出された。本発明は、パーツキットに関する。本明細書に記載のパーツキットは、2つのペースト、ペーストA及びペーストBを含む。
【0063】
これらの2種のペーストの混合の際に、更なるペーストの形態にある組成物が得られる。その組成物は、いわゆるガラスアイオノマーセメント反応によって硬化する。
【0064】
ペーストAは、水、酸反応性充填剤A、非酸反応性充填剤B1、及び糖アルコールを含有する。
【0065】
ペーストBは、水、ポリ酸、非酸反応性充填剤B2を含有する。
【0066】
ペーストAは、典型的には、以下の特徴:
a)粘度:せん断速度20s-1で測定して、23℃で100~50,000Pa*s又は1,000~40,000Pa*s、
b)密度:1.5~3.0g/cm3、
c)例えば、脱イオン水10mL中に分散させて5分間撹拌した1gのペーストAを対象にpH指示薬で測定した場合のpH値:5~10、のうち単独又は組み合わせにより特徴づけることができる。
【0067】
特徴a)及びc)の組み合わせが好ましい場合がある。
【0068】
ペーストAは、6つのヒドロキシ部分を有する糖アルコール、好ましくは6つの炭素原子及び6つのヒドロキシ部分を有する糖アルコールを含有する。
【0069】
この糖アルコールは、上記の目的に対処するために十分に吸湿性であるということが見出された。
【0070】
更に、この糖アルコールの使用は、十分な圧縮強度のような物理的特性に、望ましくない程度にまで悪影響を及ぼすことはない。
【0071】
使用できる糖アルコールの例としては、マンニトール、ソルビトール、及びこれらの混合物が挙げられ、ソルビトールが好ましい。
【0072】
糖アルコールは、ペーストAとペーストBとを組み合わせた際に得られる組成物中に、2重量%以下又は1.5重量%以下の量で存在する。
【0073】
ペーストAにおける糖アルコール重量部の酸反応性無機充填剤A重量部に対する比は、1:10~1:100の範囲である場合が好ましいことがある。
【0074】
あるいは、又は加えて、ペーストAにおける糖アルコール重量部の水に対する比が、1:10~1:3の範囲である場合が好ましいことがある。
【0075】
ペーストAは、充填剤Aとして明示される酸反応性無機充填剤を含有する。
【0076】
酸反応性充填剤Aの性質及び構造は、所望の結果を達成することができない場合を除いて、特に限定されない。酸反応性充填剤Aは、ガラスアイオノマーセメント反応を経ることができなければならない。
【0077】
一実施形態によれば、酸反応性充填剤Aは、以下の特徴:
a)平均粒径:1~25μm、
b)(d10/μm):0.5μm~3μm、(d50/μm):2μm~7μm、(d90/μm):6μm~30μm、
c)脱イオン水(pHは約5)10mL中で5分間撹拌した充填剤1gの分散体のpH値:5~8、のうち単独又は組み合わせにより特徴づけることができる。
【0078】
特徴a)及びb)、又はb)及びc)の組み合わせが好ましい場合がある。
【0079】
酸反応性充填剤Aの平均粒径が上に概説した範囲を上回る場合、本明細書に記載のパーツキットの各部分に含有された組成物を混合した際に得られる組成物の粘稠性が適切にはならないことがあり、所望の機械的特性が悪影響を受ける場合がある。
【0080】
酸反応性充填剤Aの平均粒径が上に概説した範囲を下回る場合、凝結時間が速すぎることになり得る。
【0081】
好適な酸反応性充填剤Aとしては、金属酸化物、金属水酸化物、ヒドロキシアパタイト、アルミノシリケートガラス及びフルオロアルミノシリケートガラスを含む酸反応性ガラスが挙げられる。
【0082】
典型的な金属酸化物としては、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛が挙げられる。
【0083】
典型的な金属水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0084】
典型的な酸反応性ガラスとしては、アルミノシリケートガラス、特にフルオロ-アルミナ-シリケート(fluoro -alumina-silicate、「FAS」)ガラスが挙げられる。
【0085】
FASガラスが特に好ましい。FASガラスは、典型的には、ガラスを硬化性組成物の他成分と混合した際に硬化した歯科用組成物を得ることができるよう、十分な量の溶出性カチオンを含有する。
【0086】
FASガラスはまた、典型的には、硬化組成物が抗う触原性を有するのに十分な量の溶出性フルオライドイオンを含有する。
【0087】
ガラスは、フルオライド、シリカ、アルミナ、及び他のガラス形成要素を含有する融解物から、FASガラス製造技術における当業者によく知られている技術を用いて作ることができる。FASガラスは、典型的には、十分に微細化された粒子の形態であるので、他のセメント成分とうまい具合に混合することができ、得られた混合物が口腔内に使用される場合に、良好に機能する。
【0088】
好適なFASガラスは当業者によく知られており、かつ多種多様な民間の供給元から入手可能であり、多くは、商品名Ketac(商標)-Molar、又はKetac(商標)-Fil Plus(3M Oral Care)、及びFUJI(商標)IX(GC)にて市販されているものなどの現在入手可能なガラスアイオノマーセメント中に見出される。
【0089】
フルオロアルミノシリケートガラスは、シリカ、アルミナ、氷晶石及び蛍石の混合物を溶融することにより調製することができる。
【0090】
有用な酸反応性ガラスはまた、Si/Al比によっても特徴づけることができる。1.5又は1.4又は1.3未満のSi/Al比(重量%による)を有する充填剤が有用であることが見出された。
【0091】
好適な酸反応性充填剤はまた、例えばSchott AG(Germany)、又はSpeciality Glass(US)から市販されている。
【0092】
所望であれば、酸反応性無機充填剤Aの混合物を使用することができる。
【0093】
酸反応性充填剤Aは、典型的には、以下の量:
少なくとも45、又は少なくとも50、又は少なくとも55重量%、
最大95、又は最大90、又は最大85重量%、
範囲:45~95、又は50~90、又は55~85重量%、
(重量%はペーストAの重量に対するものである)で存在する。
【0094】
酸反応性充填剤の量が多すぎる場合、本明細書に記載のパーツキット中のペーストを混合することがより難しくなり得る。更に、同様に、もたらされる組成物の、適切な粘稠性及び許容される機械的特性を得ることが難しくなり得る。
【0095】
酸反応性充填剤の量が低すぎる場合、好適なペーストを配合することはより難しくなり得る。更に、機械的特性が劣るものとなり得る。
【0096】
ペーストAは、充填剤B1として明示される非酸反応性充填剤を含有する。
【0097】
非酸反応性充填剤は、水の存在下でポリ酸と組み合わされた場合、ガラスアイオノマーセメント反応において全く硬化しない充填剤であるか、又は遅れた硬化反応を示すだけの充填剤であるか、のいずれかである。
【0098】
非酸反応性充填剤の、より正確な定義は、上に付与されている。
【0099】
非酸反応性充填剤B1の性質及び構造もまた、所望の結果を達成できない場合を除いて、特に限定されない。
【0100】
非酸反応性充填剤B1は、好ましくは無機充填剤である。
【0101】
非酸反応性充填剤B1は、非毒性、かつヒトの口腔内での使用に好適であるべきである。
【0102】
非酸反応性充填剤B1は、放射線不透過性又は放射線透過性であり得る。
【0103】
一実施形態によれば、非酸反応性充填剤B1は、以下の特徴:
a)平均粒径:10nm~500nm、又は10nm~200nm、
b)2μmより大きい粒子を含有しない、
c)脱イオン水10mL中で5分間撹拌した充填剤1gの分散体のpH値:7~11、のうち単独又は組み合わせにより特徴づけることができる。
【0104】
特徴a)及びb)、又はb)及びc)の組み合わせが好ましい場合がある。
【0105】
非酸反応性充填剤B1の平均粒径が上に概説した範囲を上回る場合、得られたペーストの粘稠性が適切ではない場合があり、加えて、所望の機械的特性を得るのが難しくなる場合がある。
【0106】
非酸反応性充填剤B1の平均粒径が上に概説した範囲を下回る場合、得られたペーストの所望の粘稠性が適切ではない場合がある。
【0107】
好適な非酸反応性充填剤B1の例は、天然に存在する又は合成の材料であり、以下が挙げられるが、これらに限定されない:カオリン;シリカ粒子(例えば、Evonic製の「OX 50」、「130」、「150」及び「200」シリカを始めとする商品名「AEROSIL(商標)」で入手可能なもの、並びにWacker製の「H15」、「H20」、「H2000」を始めとするHDK(商標)、並びにCabot Corp.製のCAB-O-SIL M5シリカ、などのサブミクロンの焼成シリカ)、アルミナ、チタニア並びにジルコニアの各粒子。
【0108】
これらの非酸反応性充填剤B1の混合物もまた、想定される。
【0109】
非酸反応性充填剤B1は、液体(例えば水)中の粒子の分散体又はゾルとして提供される場合もある。
【0110】
充填剤が水性分散体又はゾルとして提供される場合、水性分散体又はゾル中の水の量は、組成物中の水及び充填剤の量が算出される又は測定されるときに、考慮されなければならない。
【0111】
好適な非酸反応性充填剤B1はまた、例えばObermeier,Bad Berleburg,Germanyから、タイプ「50/50%」(%値は重量%での充填剤含有率を示す)を始めとする商品名Levasil(商標)にて、水性分散体としても市販されている。
【0112】
所望の場合、非酸反応性充填剤B1の粒子表面を表面処理することができる。好適な表面処理剤としては、シラン、例えば粒子の化学的特性を改変するための有機官能基を有するトリメトキシシランが挙げられる。好適なシランは、たとえば、酸性特性を改変するシラン(アミノ基を有するか又はカルボン酸基を有する)、又は疎水性/親水性を改変するシラン(アルカン鎖を有するか又はポリエチレングリコール鎖を有する)である。
【0113】
一実施形態によれば、非酸反応性充填剤B1は、シリカ、(アルミノ)シリケート、アルミナ、及びこれらの混合物から選択される。
【0114】
非酸反応性充填剤B1は、典型的には、以下の量:
少なくとも1、又は少なくとも3、又は少なくとも5重量%、
最大50、又は最大40、又は最大30重量%、
範囲:1~50、又は3~40、又は5~30重量%、
(重量%はペーストAの重量に対するものである)で存在する。
【0115】
ペーストAは、水もまた含有する。
【0116】
水は、蒸留水、脱イオン水、又はただの(plain)水道水であってよい。典型的には、脱イオン水が使用される。
【0117】
水の量は、適切な取り扱い特性及び混合特性を提供するのに、並びに特にセメント反応において、イオン輸送を許容するのに、十分であるべきである。
【0118】
水は、典型的には、以下の量:
少なくとも5、又は少なくとも6、又は少なくとも7重量%、
最大45、又は最大30、又は最大20重量%、
範囲:5~45、又は6~30、又は7~20重量%、
(重量%はペーストAの重量に対するものである)で存在する。
【0119】
水の量が少なすぎると、得られるペーストの粘稠性を作業可能なものとすることが難しくなり得る。
【0120】
水の量が多すぎると、同様に、得られるペーストの作業可能な粘稠性を得ることが難しくなり得る。更に、所望の機械的特性を実現するのが難しくなり、ペーストが貯蔵中に分離し得る。
【0121】
ペーストBは、典型的には、以下の特徴:
a)粘度:せん断速度20s-1で測定して、23℃で100~50,000Pa*s又は1,000~40,000Pa*s、
b)密度:1.5~3.0g/cm3、
c)例えば、脱イオン水10mL中に分散させて5分間撹拌した1gのペーストAを対象にpH指示薬で測定した場合のpH値:1~4、のうち単独又は組み合わせにより特徴づけることができる。
【0122】
以下の特徴の組み合わせ:a)及びb)、又はa)及びc)、が好ましい場合がある。
【0123】
ペーストBもまた、水を含有する。ペーストB中に含有される水は、ペーストAについて説明したとおりである。
【0124】
水は、典型的には、以下の量:
少なくとも5、又は少なくとも7、又は少なくとも9重量%、
最大60、又は最大55、又は最大50重量%、
範囲:5~60、又は7~55、又は9~50重量%、
(重量%はペーストBの重量に対するものである)で存在する。
【0125】
ペーストBは、ポリ酸を含有する。
【0126】
ポリ酸の性質及び構造もまた、所望の結果を達成することができない場合を除いて、特に限定されない。
【0127】
しかしながら、ポリ酸は、ガラスアイオノマー材料中で、良好な貯蔵性、取り扱い特性及び混合特性を付与するのに十分な、並びに良好な材料特性をもたらすのに十分な分子量を有するべきである。
【0128】
一実施形態によれば、ポリ酸は、以下の特徴:
固体である(23℃において)、
分子量(Mw):2,000~250,000、又は4,000~100,000g/mol(ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、ポリアクリル酸ナトリウム塩標準に対して評価する)、のうち単独又は組み合わせにより特徴づけることができる。
【0129】
ポリ酸の分子量が大きすぎる場合、本明細書に記載のパーツキット中に含有される組成物を混合した際に得られるペーストの粘稠性を作業可能なものとすることが難しくなり得る。更に、組成物の調製も、難しくなり得る。加えて、得られた混合物又は組成物の粘着性が高くなりすぎる(すなわち、適用のために使用される歯科用機器に接着する)ことがある。
【0130】
ポリ酸の分子量が低すぎる場合、得られたペーストの粘度は低すぎるものになり得、機械的特性は劣ったものになり得る。
【0131】
典型的には、ポリ酸は、複数の酸性繰り返し単位を有するポリマーである。
【0132】
本明細書に記載のセメント組成物のために使用されるポリ酸は、重合性基を実質的に含まない。
【0133】
ポリ酸は完全に水溶性である必要はないが、他の水性成分と組み合わせた際に実質的に沈降することのないよう、典型的には、少なくとも十分に水混和性である。
【0134】
ポリ酸は、例えば酸反応性充填剤及び水の存在下で、硬化性であるが、エチレン性不飽和基は含有しない。
【0135】
すなわち、ポリ酸は、不飽和酸を重合することにより得られたポリマーである。しかしながら、本製造方法により、ポリ酸は、回避できない微量の(例えば使用されるモノマーの量に対して、最大1、又は0.5、又は0.3重量%)遊離モノマーを依然として含有し得る。
【0136】
典型的には、不飽和酸は、炭素、硫黄、リン、又はホウ素のオキシ酸(すなわち酸素含有酸)である。より典型的には、それは、炭素のオキシ酸である。
【0137】
好適なポリ酸としては、例えばポリアルケン酸、例えば不飽和モノ-、ジー、又はトリカルボン酸のホモポリマー及びコポリマーが挙げられる。
【0138】
ポリアルケン酸は、不飽和脂肪族カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、グルタコン酸、アコニット酸、シトラコン酸、メサコン酸、フマル酸、及びチグリン酸の単独重合及び共重合により調製できる。
【0139】
好適なポリ酸としては、マレイン酸とエチレンとの交互コポリマー(例えばモル比1:1のもの)もまた挙げられる。
【0140】
好適なポリ酸はまた、以下の文献、米国特許第4,209,434号(Wilsonら)、米国特許第4,360,605号(Schmittら)に記載されている。これらの文献のポリ酸の説明に関する内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0141】
好適なポリ酸はまた、例えば3M Oral Care製(例えばKetac(商標)Fil Plus Handmix)、又はGC製(例えばFuji(商標)IX GP Handmix)の市販製品の液体成分中の水溶液として含まれる。
【0142】
ポリ酸の量は、酸反応性充填剤と反応し、所望の硬化特性を有するアイオノマー組成物を与えるのに十分であるべきである。
【0143】
ポリ酸は、典型的には、以下の量:
少なくとも3、又は少なくとも5、又は少なくとも10重量%、
最大80、又は最大75、又は最大70重量%、
範囲:3~80、又は5~75、又は10~70重量%、
(重量%はペーストBの重量に対するものである)で存在する。
【0144】
ポリ酸の量が多すぎる場合、本明細書に記載のパーツキット中に含有される組成物を混合した際に得られるペーストの粘稠性を作業可能なものとすることが難しくなり得る。更に、組成物の調製が難しくなり得る。加えて、得られた混合物又は組成物は、粘着性が高くなりすぎることがある(すなわち適用のために使用される歯科用器具に接着してしまう)。
【0145】
ポリ酸の量が少なすぎる場合もまた、本明細書に記載のパーツキット中に含有される組成物を混合した際に得られるペーストの粘稠性を作業可能なものとすることが難しくなり得る。更に、所望の機械的特性を達成するのが難しくなり得る。
【0146】
ペーストBは、非酸反応性充填剤B2を含有する。
【0147】
ペーストBに含有される非酸反応性充填剤B2は、ペーストAについて記載された非酸反応性充填剤B1と同じ、又は異なる材料であり得る。
【0148】
しかしながら、ペーストBに含有される非酸反応性充填剤B2の平均粒径は、典型的には、ペーストAに含有される非酸反応性充填剤B1の平均粒径よりも大きい。
【0149】
一実施形態によれば、非酸反応性充填剤B2は、以下のパラメータ:
a)平均粒径:1~10μm、
b)(d10/μm):0.2μm~2μm、(d50/μm):0.5μm~5μm、(d90/μm):1μm~15μm、
c)脱イオン水10mL中で5分間撹拌した充填剤1gの分散体のpH値:4~7又は4~6、のうちの少なくとも1つ以上又は全てにより特徴づけることができる。
【0150】
特徴a)及びc)、又はb)及びc)の組み合わせが好ましい場合がある。
【0151】
好適な非酸反応性充填剤Bの例は、天然に存在する又は合成の材料であり、以下が挙げられるが、これらに限定されない:石英、クリストバライト;窒化物(例えば窒化ケイ素);例えばZr、Sr、Ce、Sb、Sn、Ba、Zn及びAl由来のガラス;ホウケイ酸ガラス;カオリン;シリカ粒子(例えば粒径が好適な石英ガラス又は焼成シリカ)、アルミナ、チタニア並びにジルコニアの各粒子。
【0152】
一実施形態によれば、非酸反応性充填剤Bは、石英、酸化チタン、シリカ、アルミナ、アルミノシリケート、及びこれらの混合物から選択される。
【0153】
所望の場合、酸反応性充填剤B2の粒子表面を表面処理することができる。好適な表面処理剤としては、シラン、例えば粒子の化学的特性を改変するための有機官能基を有するトリメトキシシランが挙げられる。好適なシランは、たとえば、酸性特性を改変するシラン(アミノ基を有するか又はカルボン酸基を有する)、又は疎水性/親水性を改変するシラン(アルカン鎖を有するか又はポリエチレングリコール鎖を有する)である。
【0154】
好適な非酸反応性充填剤B2の例は、天然に存在する又は合成の材料であり、以下が挙げられるが、これらに限定されない:シリカ(例えば、Evonic製の「OX 50」、「130」、「150」及び「200」シリカを始めとする商品名「AEROSIL(商標)」で入手可能なもの、並びにWacker製の「H15」、「H20」、「H2000」を始めとするHDK(商標)、並びにCabot Corp.製のCAB-O-SIL(商標)M5シリカ、などのサブミクロンの焼成シリカ)、石英、クリストバライト(例えば、Sikron(商標)SF6000)、ホウケイ酸ガラス、アルミナ、チタニア並びにジルコニアの各粒子、並びにこれらの混合物。
【0155】
非酸反応性充填剤B2は、典型的には、以下の量:
少なくとも2、又は少なくとも5、又は少なくとも7重量%、
最大90、又は最大80、又は最大75重量%、
範囲:2~90、又は5~80、又は7~75重量%、
(重量%はペーストBの重量に対するものである)で存在する。
【0156】
ペーストBは、錯化剤又はキレート剤を含有し得る。用語「錯化剤又はキレート剤」は、互換的に用いられる。
【0157】
錯化剤又はキレート剤の性質及び構造もまた、所望の結果を達成することができない場合を除いて、特に限定されない。
【0158】
錯化剤は、典型的には硬化性組成物の硬化特性を調整するため、特に作業時間を調整するために使用される。
【0159】
錯化剤は、以下の特徴:
溶解性:水に可溶である(23℃において少なくとも50g/水1L)、
分子量:50~500g/mol、又は75~300g/mol、のうち単独又は組み合わせにより特徴づけることができる。
【0160】
錯化剤の具体例としては、酒石酸、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、サリチル酸、メリト酸、ジヒドロキシ酒石酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、2,4及び2,6ジヒドロキシ安息香酸、ホスホノカルボン酸、ホスホノコハク酸、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0161】
更なる例は、例えば米国特許第4,569,954号(Wilsonら)に見出すことができる。この文献の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0162】
錯化剤は、典型的には、ポリ酸のみを含有するペースト、すなわちペーストBに加えられる。
【0163】
錯化剤が存在する場合、錯化剤は、典型的には以下の量:
少なくとも0.1、又は少なくとも1.0、又は少なくとも1.5重量%、
最大15、又は最大12、又は最大10重量%、
範囲:0.1~15、又は1.0~12、又は1.5~10重量%、
(重量%はペーストBの重量に対するものである)で存在する。
【0164】
ペーストA又はペーストBのいずれかはまた、溶媒を含有し得る。
【0165】
溶媒又は共溶媒の添加は、組成物の粘度及び粘稠性を調整するのに役立ち得る。
【0166】
使用され得る溶媒の例としては、アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール)、ポリアルコール/ポリオール(例えばポリエチレングリコール、エチレングリコール、グリセロール)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0167】
ペーストA若しくはペーストBのいずれか、又はペーストA及びペーストBはまた、添加剤を含有することができる。
【0168】
存在し得る添加剤としては、指示薬、染料、顔料、界面活性剤、緩衝剤、安定剤、保存剤(例えば安息香酸)が挙げられる。
【0169】
上記の添加剤のうちの任意のもの組み合わせもまた、利用され得る。当業者は、所望の結果を達成するために、過度の実験をすることなく、このような添加剤のうちの任意の1種の選択及び量を選択することができる。
【0170】
これらの成分が存在する必要性はないが、存在する場合、個々の成分は、典型的には、ペーストそれぞれ(A又はB)の重量に対して、5重量%未満、又は3重量%未満、又は1重量%未満の量で存在する。
【0171】
これらの成分の有用な範囲としては、0.01~5重量%、又は0.05~3重量%、又は0.05~1重量%が挙げられ、重量%は、ペーストA又はペーストBそれぞれの重量に対するものである。
【0172】
本明細書に記載のパーツキット中の2つのペーストを混合することで得られる又は得ることができるセメント組成物は、硬化の前に又はその最中に、以下のパラメータ:
凝結時間:10分、又は8分、又は6分以内、
作業時間:7分、又は5分、又は3分以内、のうちの少なくとも1つ又は両方を満たす。
【0173】
所望であれば、硬化の挙動は、以下の実施例のセクションでより詳しく記載されるように測定することができる。
【0174】
本明細書に記載のセメント組成物は、典型的には、施術者が、組成物を適切に混合するだけでなく、組成物をクラウン、ブリッジ、根管又は義歯の表面に適用するのが可能となるのに十分な作業時間を有する。
【0175】
更に、本明細書に記載のセメント組成物は、施術者にとって時間の節約になり、患者にとって好都合な、適切な凝結時間を有する。
【0176】
本明細書に記載のパーツキット中のペーストAとペーストBとを混合した際に得られるガラスアイオノマー組成物は、以下:
20~60重量%の量の酸反応性無機充填剤A、
1~20重量%の量の非酸反応性充填剤B1、
1~40重量%の量の非酸反応性充填剤B2、
1~45重量%の量のポリ酸、
5~15重量%の量の水、
0.1~2重量%の量の糖アルコール、
0~5重量%の量の添加剤、
(重量%は、組成物全体の量に対するものである)を含む。
【0177】
ペーストAとペーストBとを混合した際に得られる組成物中に含有された充填剤(充填剤A、B1及びB2)の量は、典型的には、50重量%を上回る、又は55重量%を上回る、又は60重量%を上回る。
【0178】
充填剤含有率を高くして含水率を低くすることは、硬化組成物の、圧縮強度のような機械的特性を向上させるのに役立ち得る。
【0179】
ペーストAとペーストBとを混合した際に得られる組成物の含水率は、典型的には、15重量%以下、又は12重量%以下、又は10重量%以下である。
【0180】
典型的には、含水率が低いと、圧縮強度のような物理的特性の向上にもまた役立ち得る。
【0181】
本明細書に記載のパーツキット中のペーストは、それぞれのペーストの個々の成分を単に混合することにより製造することができる。
【0182】
必要であれば、充填剤粒子を、当業者に既知の設備、例えばボールミルを使用して、所望の粒径にミリングできる。
【0183】
混合は、手によるか、又は混合機若しくは混錬機のような機械デバイスにより、達成することができる。混合の期間は、組成物及び混合デバイスに応じて様々であってよく、均質なペーストを得るのに十分長い期間であるべきである。
【0184】
本明細書に記載のペーストは、貯蔵中、典型的には好適なパッケージングデバイスにパッケージ化される。
【0185】
ペーストは、別々の封着可能な容器(例えばプラスチック、ガラス又は金属で作製されたもの)中に収容され得る。
【0186】
使用のために、施術者は、適切な分量のペースト状の成分を容器から取り、その分量を混合パッド上、手で混合してもよい。
【0187】
代替的実施形態では、ペーストは、貯蔵デバイスの別々のコンパートメント中に収容される。
【0188】
貯蔵デバイスは、典型的には、それぞれのペーストを貯蔵するための2つのコンパートメントを備え、各コンパートメントには、それぞれのペーストを送達するためのノズルが備えられている。一旦、適切な分量が送達されたら、次いで、ペーストは、混合パッド上、手で混合され得る。
【0189】
別の好ましい実施形態によれば、貯蔵デバイスは、静的混合チップを受容するためのインターフェースを有する。混合チップは、それぞれのペーストを混合するために使用される。静的混合チップは、例えばSulzerMixpac companyから市販されている。
【0190】
好適な貯蔵デバイスは、カートリッジ、注射器及びチューブを含む。
【0191】
貯蔵デバイスは、典型的には2つのハウジング又はコンパートメントを備え、これは、ノズルを有する前端、及び後端、並びに少なくとも1つの、ハウジング又はコンパートメント中で移動可能なピストンを有する。
【0192】
使用可能なカートリッジは、例えば米国特許出願公開第2007/0090079号(Keller)、又は米国特許第5,918,772号(Kellerら)に記載され、その開示は、参照により組み込まれる。使用可能なカートリッジの一部は、例えば、SulzerMixpac AG(Switzerland)から市販されている。使用可能な静的混合チップは、例えば米国特許出願公開第2006/0187752号(Keller)、又は米国特許第5,944,419号(Streiff)に記載され、その開示は、参照により組み込まれる。使用され得る混合チップは、同様に、SulzerMixpac AG(Switzerland)から市販されている。
【0193】
他の好適な貯蔵デバイスは、例えば、国際公開第2010/123800号(Boehmら)、同第2005/016783号(Reidtら)、同第2007/104037号(Broylesら)、同第2009/061884号(Boehmら)、特に
図14に示すデバイスに記載されている。これらの参考文献の内容も、同様に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0194】
あるいは、本明細書に記載のペースト/ペースト組成物は、2つの個々の注射器中で提供することができ、その個々のペーストは、手で混合されてから使用することができる。
【0195】
したがって、本発明はまた、2つのコンパートメント、すなわちコンパートメントAとコンパートメントBとを備え、コンパートメントAは、ペーストAを収容し、コンパートメントBは、ペーストBを収容し、ペーストAとペーストBとは本明細書に記載されたものであり、コンパートメントAとコンパートメントBとの双方は、ノズル、又は静的混合チップのエントランスオリフィスを受容するためのインターフェースを備える、本明細書に記載のパーツキットを貯蔵するためのデバイスを対象とする。
【0196】
ペーストAとペーストBとの混合比は、典型的には、体積で2:1~1:2の範囲であり、好ましくは1:1である。
【0197】
あるいは、ペーストAとペーストBとの混合比は、典型的には、重量に関して3:1~1:1、好ましくは2:1~1:1の範囲である。
【0198】
本発明はまた、本明細書に記載のパーツキット中のペーストAとペーストBとを混合することで得ることができる又は得られる硬化組成物に関する。
【0199】
本明細書に記載のパーツキット中の2つのペーストを混合することで得られる又は得ることができるガラスアイオノマー組成物は、硬化後に、以下の特徴:
曲げ強度:組成物を被覆するためにホイルの代わりにガラススラブを使用するという条件で、EN-ISO 9917-2:2010に従って決定して、20MPaを上回る、又は25MPaを上回る、又は20~50MPaの範囲内である、又は25~50MPaの範囲内である;
圧縮強度:組成物を被覆するためにホイルの代わりにガラススラブを使用するという条件で、EN-ISO 9917-1:2007に従って決定して、100MPaを上回る、又は120MPaを上回る、又は150MPaを上回る、又は160MPaを上回る、又は100~250MPaの範囲内である、又は150~250MPaの範囲内である、を単独で又は組み合わせて満たす。
【0200】
所望であれば、これらのパラメータは、以下の実施例のセクションで記載されるように測定することができる。
【0201】
市販されている最新技術のガラスアイオノマーセメントと比べ、本明細書に記載のセメント組成物は、容易に混合することができ、かつ凝結時間のような他の重要なパラメータに影響を及ぼすことなく、適切な、圧縮強度のような機械的特性を有する。
【0202】
本明細書に記載のそれぞれのペーストを混合した際に得られる又は得ることができる組成物は、歯科用セメント、歯科用充填材料、歯科用コアビルドアップ材料、若しくは歯科用根管充填材料として、又はそれらを製造するために、特に有用である。
【0203】
典型的な適用は、
a)ペーストAとペーストBとを混合して硬化性組成物を得る工程、
b)硬化性組成物を、歯の硬組織表面に適用する工程、
c)硬化対象の組成物を硬化させる工程、を含む。
【0204】
パーツキットはまた、混合パッド及び/又は混合スパチュラを備えた混合装置を追加で含有してもよい。
【0205】
本明細書に記載のパーツキットには、典型的には、使用説明書もまた含まれる。
【0206】
使用説明書には、典型的には、パーツキットの貯蔵方法、パーツキット中のペーストの混合方法、及び/又はペーストを混合することで得られた組成物の歯の硬組織表面への適用方法の、助言が含まれる。
【0207】
更なる好ましい実施形態を以下に記載する。
【0208】
実施形態1
ペーストA及びペーストBを含むパーツキットは、以下のとおりに特徴づけられる:
ペーストAが、
5~20重量%の量の水と、
酸反応性無機充填剤Aであって、量は40~90重量%であり、
金属酸化物、金属水酸化物、ヒドロキシアパタイト、フルオロアルミノシリケートガラス、及びこれらの混合物から選択される、酸反応性無機充填剤Aと、
非酸反応性充填剤B1であって、量は5~20重量%であり、
シリカ粒子から選択される、非酸反応性充填剤B1と、
0.5~2.0重量%の量の糖アルコールと、を含み、
重量%はペーストAの重量に対するものであり、
ペーストBが、
9~20重量%の量の水と、
10~70重量%の量のポリ酸と、
0.1~12重量%の量のキレート剤と、
非酸反応性充填剤B2であって、量は5~70重量%であり、
石英、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、及びこれらの混合物から選択される、非酸反応性充填剤B2と、を含み、
重量%はペーストBの重量に対するものである。
【0209】
実施形態2
ペーストA及びペーストBを含むパーツキットは、以下のとおりに特徴づけられる:
ペーストAが、
7~15重量%の量の水と、
酸反応性無機充填剤Aであって、量は60~90重量%であり、
酸反応性無機充填剤Aが1~15μmの範囲の平均粒径を有し、
金属酸化物、金属水酸化物、ヒドロキシアパタイト、フルオロアルミノシリケートガラス、及びこれらの混合物から選択される、酸反応性無機充填剤Aと、
非酸反応性充填剤B1であって、量は5~20重量%であり、
10~500nmの範囲の平均粒径を有するシリカ粒子から選択される、非酸反応性充填剤B1と、
糖アルコールであって、量は0.5~1.5重量%であり、
ソルビトールである、糖アルコールと、を含み、
重量%はペーストAの重量に対するものであり、
ペーストBが、
10~20重量%の量の水と、
10~70重量%の量のポリ酸と、
0.1~10重量%の量のキレート剤と、
非酸反応性充填剤B2であって、量は5~70重量%であり、
石英、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、及びこれらの混合物から選択される、非酸反応性充填剤B2と、を含み、
重量%はペーストBの重量に対するものである。
【0210】
実施形態3
ペーストA及びペーストBを含むパーツキットは、以下のとおりに特徴づけられる:
ペーストAが、
6~15重量%の量の水と、
酸反応性無機充填剤Aであって、量は40~90重量%であり、
酸反応性無機充填剤Aが1~15μmの範囲の平均粒径を有し、
金属酸化物、金属水酸化物、ヒドロキシアパタイト、フルオロアルミノシリケートガラス、及びこれらの混合物から選択される、酸反応性無機充填剤Aと、
非酸反応性充填剤B1であって、量は5~15重量%であり、
10~500nmの範囲の平均粒径を有するシリカ粒子から選択される、非酸反応性充填剤B1と、
糖アルコールであって、量は0.5~2.0重量%であり、
ソルビトールである、糖アルコールと、を含み、
重量%はペーストAの重量に対するものであり、
ペーストBが、
10~20重量%の量の水と、
10~70重量%の量のポリ酸と、
0.1~10重量%の量のキレート剤と、
非酸反応性充填剤B2であって、量は5~70重量%であり、
石英、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、及びこれらの混合物から選択される、非酸反応性充填剤B2と、を含み、
重量%はペーストBの重量に対するものであり、
ペーストA及びペーストBのいずれも、ペーストAとペーストBとを混合した際に得られる組成物の重量に対して、1重量%を上回る量の重合性成分を含まない。
【0211】
ペーストA及びペーストBは、体積で2:1~1:2の比で提供される。
【0212】
実施形態に記載されたそれぞれの成分は、本明細書にて上述した成分に対応する。
【0213】
実施形態に記載されたそれぞれの成分は、本明細書にて上述した成分に対応する。
【0214】
典型的には、本明細書に記載のパーツキットの、ペーストAとペーストBのいずれも、又はペーストA及びペーストBも、ペーストA又はペーストBの重量に対する重量%として、以下の成分:
a)1重量%を上回る、又は0.5重量%を上回る量のヒドロキシルエチルメタクリレート(HEMA)、
b)1重量%を上回る、又は0.5重量%を上回る量の重合性成分、
c)1重量%を上回る、又は0.5重量%を上回る量の、重合性成分又はモノマーを硬化するのに好適な開始剤成分、
d)1重量%を上回る、又は0.5重量%を上回る量の、メトキシフェノール又は3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルオールのような阻害剤、
e)1重量%を上回る、又は0.5重量%を上回る量の、ゼオライトのような乾燥剤、
のうちのいずれをも、単独でも組み合わせでも含有しない。
【0215】
したがって、本明細書に記載のパーツキットの粉末部分と液体部分とを混合したときに得られる組成物は、いわゆる樹脂改質ガラスアイオノマーセメント(RM-GIC)ではなく、したがって、重合に基づく硬化系を含有しない。
【0216】
具体的には、本明細書に記載のセメント組成物は、レドックス開始剤系、又は熱的誘導開始剤系、又は放射線誘導開始系を含有しない。
【0217】
特に、本明細書に記載のセメント組成物は、各成分に関して、組成物全体の重量に対して1重量%を上回る、又は0.5重量%を上回る、又は0.1重量%を上回る量の、以下の成分:
― (a)及び(b)
― (b)及び(c)
― (a)、(b)及び(c)
― (b)、(c)及び(d)、又は
― (a)、(b)、(c)及び(d)
を含有しない。
【0218】
すなわち、本明細書に記載のセメント組成物は、典型的には、これらの成分のいずれをも、単独でも組み合わせでも本質的に含まない。
【0219】
本発明の歯科用組成物中で使用される全ての成分は、十分に生体適合性とされ、すなわち、この組成物は、生体組織内で、有毒反応、有害反応又は免疫反応を引き起こさない。
【0220】
本明細書に引用した特許、特許文献、及び刊行物の全開示は、それぞれが個別に組み込まれたかのごとく、それらの全体が参照により組み込まれる。本発明に対する様々な改変及び変更が、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、当業者には明らかとなるであろう。上述の明細書、実施例及びデータは、本発明に関する組成物の製造及び使用並びに方法の説明を提供するものである。本発明は、本明細書に開示された実施形態には限定されない。当業者であれば、本発明の多くの代替的実施形態が、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく実施できることを理解するであろう。
【0221】
以下の実施例は本発明の範囲を例示するために示すものであり、本発明の範囲を限定するものではない。特に指示がない限り、全ての部及び百分率は重量による。
【実施例】
【0222】
特に指示がない限り、全ての部及び百分率は重量基準であり、全ての水は脱イオン水であり、全ての分子量は重量平均分子量である。更に、特に指示がない限り、全ての実験は周囲条件(23℃、1013mbar)で実施した。
【0223】
方法
粒径(マイクロサイズ粒子に好適)
平均粒径を含む粒径分布を、Cilas 1064(FA.Quantacrome)粒径検出デバイスを用いて求めた。測定中に超音波を使用して、試料を正確に分散させた。
【0224】
粒径(ナノサイズ粒子に好適)
633nmの光波長を有する赤色レーザーを備えた光散乱型粒径測定器(Malvern Instruments Inc.,Westborough,MA製の、商品名「ZETA SIZER-Nano Series、Model ZEN3600」で得られるもの)を用いて粒径測定を行った。それぞれの試料を、1cm平方のポリスチレン試料キュベット内で分析した。試料を1:100で希釈し、例えば試料1gを脱イオン水100gに付与して混合した。試料キュベットを、希釈した試料約1グラムで充填した。次いで試料キュベットを器具内に置き、25℃において平衡化させた。器具のパラメータは次のように設定した:分散剤の屈折率1.330、分散剤の粘度0.8872mPa*s、材料の屈折率1.43、及び材料の吸着値0.00ユニット。その後、自動粒径測定操作を実行した。粒径の最良の測定値を得るために、器具は、自動的にレーザー光の位置及び減衰器の設定を調整した。
【0225】
光散乱型粒径測定装置は、レーザーで試料を照射し、粒子から散乱された光の強度変動を173度の角度で解析した。粒径を算出するため、器具により光子相関分光法(Photon Correlation Spectroscopy、PCS)の方法を用いた。PCSは、液体中の粒子のブラウン運動を測定するために、変動する光の強度を用いる。次に、粒径は、測定された速度で移動する球体の直径になるよう計算される。
【0226】
粒子によって散乱される光の強度は、粒子直径の6乗に比例する。Z平均粒径又はキュムラント平均は、強度分布から計算される平均であり、計算は、粒子が単峰性、単分散性、及び球状であるという仮定に基づく。変動する光の強度から計算される関連する関数は、強度分布及びその平均である。強度分布の平均は、粒子が球状であるという仮定に基づき計算される。Z平均粒径及び強度分布平均の双方とも、より小さい粒子に対するよりも、より大きな粒子に対して、感度が高い。
【0227】
体積分布は、所与の寸法範囲内の粒子に相当する粒子の総体積の百分率をもたらす。体積平均粒径は、体積分布の平均に相当する粒径である。粒子の体積は直径の3乗に比例するため、この分布は、より大きな粒子に対しては、Z平均粒径よりも感度が低い。したがって、体積平均は、典型的には、Z平均粒径よりも小さい値である。
【0228】
この文献の範囲では、Z平均サイズは、「平均粒径」と称される。
【0229】
分子量
所望であれば、分子量(Mw)を、ゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography、GPC)により、ポリアクリル酸ナトリウム塩標準に対して測定することができる。特に、以下の装置が有用であることを見出した。2*PSS Suprema3000A、8*300mm、10μmのカラムを備えたPSS SECurity GPC System;溶出剤:84mMのNa2HPO4+200ppmのNaN3;流速:1mL/分。
【0230】
混合したペーストの粘度
所望であれば、混合したペーストの粘度を、プレート/プレートジオメトリ(PP15)を有するPhysica MCR301レオメータ(Anton Paar,Graz,Austria)を用いて、28℃にて回転させながら一定のせん断速度1s-1で測定することができる。
【0231】
プレートの直径は10mmであり、プレート間の間隙を2.0mmに設定する。両ペーストを重量比1:1で20秒間手で混合した後、混合物(約160mg)をプレート上に置く。手での混合開始から1分後に粘度測定を開始する。1秒あたり1データポイントを記録する。測定時間は60秒であり、30秒間測定後に5データポイントを平均することにより、粘度を求める。
【0232】
ペーストA及びBの個々の粘度
所望であれば、ペーストA及びペーストBの粘度を、プレート/プレートジオメトリ(PP15)を有するPhysica MCR 301レオメータ(Anton Paar,Graz,Austria)を用いて、28℃にて回転させながら一定のせん断速度1s-1で測定することができる。
【0233】
プレートの直径は10mmであり、プレート間の間隙を2.0mmに設定する。ペーストA又はペーストB(約160mg)をプレート上に置く。1秒あたり1データポイントを記録する。測定時間は60秒であり、30秒間測定後に5データポイントを平均することにより、粘度を求める。
【0234】
圧縮強度(Compressive Strength、CS)
所望であれば、組成物を被覆するためにホイルの代わりにガラススラブを使用するという条件で、EN-ISO 9917-1:2007に従って圧縮強度を測定した。
【0235】
直径4mm、高さ6mmの円筒形標本を使用する。材料の標本は、割型を用いて、室温で相対湿度50%にて調製する。型を顕微鏡スライド上に置き、気泡の混入を回避するため、混合した材料を十分に充填する。充填した型を別のガラススラブを用いて直ちに被覆し、微小圧力でねじクランプに固定し、過剰な材料を押し出す。アセンブリ全体を36℃の水中に保存する。混合開始から1時間後に型から標本を取り出し、直ちに36℃の水中に入れる。各材料につき6つの標本を調製する。混合開始から24時間後に材料を測定する。測定前に、各標本の正確な直径を測定する。クロスヘッド速度1mm/分で作動するZwick万能試験機(Zwick GmbH & Co.KG,Ulm,Germany)を使用して、圧縮負荷をかけて標本強度を測定する。
【0236】
圧縮強度の減少量(Compressive Strength Decrease、CS-D)
試料の圧縮強度の減少量は、試料のCS値を比較試料のCS値で割ることにより求めることができる。100%を乗ずると、CS-D値がパーセントで得られる。
【0237】
曲げ強度(Flexural Strength、FS)
所望であれば、組成物を被覆するためにホイルの代わりにガラススラブを使用するという条件で、EN ISO 9917-2:2010に基づき曲げ強度を測定することができる。
【0238】
25mm×2mm×2mm寸法の矩形の割型を使用して試料を調製することを除き、圧縮強度試験について上述したように標本を調製する。20mm離した支持体上にて、1mm/分のクロスヘッド速度で標本の3点曲げを行った。
【0239】
乾燥時間(Dry out Time、DOT)
分析対象の組成物150mgを混合ブロックに入れ、液滴のような形状に成形する。
【0240】
プローブを用いて組成物を毎分少しずつ変形させ、ペーストの粘稠性を確認した。
【0241】
変形の最中にペースト液滴にひびが入った際に「乾燥した」と定義し、その時間を「乾燥時間」として採用した。
【0242】
乾燥時間の増加量(Dry out Time Increase、DOT-I)
試料の乾燥時間の増加量は、試料のDOT値を比較試料のDOT値で割り、1を引くことにより求めることができる。100%を乗ずると、DOT-I値がパーセントで得られる。
【0243】
貯蔵安定性
所望であれば、貯蔵安定性を以下の方法に従って測定することができる:ペーストを、23℃で相対湿度約50%という条件下で所与の期間にわたり貯蔵する。貯蔵後、ペーストを混合した際に得られる組成物を、機械的性能に関して解析する。機械的特性(例えば曲げ強度、圧縮強度)の偏差が+/-20%を超えない場合、組成物は、貯蔵安定であると考えられる。
【0244】
作業時間
所望であれば、作業時間を、プレート/プレートジオメトリ(PP08)を有するPhysica MCR 301レオメータ(Anton Paar,Graz,Austria)を用いて、28℃にて振動させながら一定のせん断速度で測定することができる。
【0245】
プレートの直径は8mmであり、プレート間の間隙を0.75mmに設定する。ペーストを重量比1:1にて手で混合する。次いで、約200mgの混合物を円筒形プラットフォーム上に置く。振動測定(周波数1.25Hz、変形1.75%)における時間に依存してtanδを測定する。その後、カスタマイズされたアルゴリズムを用いて、作業時間を算出する。
【0246】
密度
所望であれば、ペーストの密度は、規定の容積の容器中にペーストを充填することによって、並びにペーストを含む場合、及び含まない場合の、容器を秤量することによって測定することができる。規定の容積で割った重量の差により、ペーストの密度を得る。
【表1】
【0247】
以下の組成物を調製した。
ポリ酸ペースト組成物(ペーストB)
脱イオン水2.16gと、
酒石酸0.68gと、
ポリ酸4.36gと、
非晶質シリカ粉末12.78gと、
安息香酸0.02gと、
を含有するポリ酸ペースト組成物(Polyacid Paste Composition、PAC)を調製した。
【0248】
各成分を混練機で6時間混合することで、均質な混合物を得た。
【0249】
アイオノマーガラスペースト組成物(ペーストA)
表面処理したシリカ分散体(グリモシランを加えたLevasil(商標)50/50)1.44gと、
酸反応性充填剤A(FASガラス)0.85gと、
酸反応性充填剤A(Ketac(商標)Fil Plus)7.60gと、
安息香酸0.01gと、
を含有するアイオノマーガラス組成物(Ionomer Glass Composition、IGC)を調製した。
【0250】
このアイオノマーガラスペースト組成物に、以下の成分を加えた:
IGC-RE1:ヒュームドシリカ(Aerosil(商標)OX50)0.10g
IGC-CE1:グリセロール0.10g
IGC-CE2:グリセロール0.20g
IGC-CE3:塩化リチウム0.10g
IGC-CE4:塩化リチウム0.20g
IGC-CE5:塩化カルシウム0.10g
IGC-CE6:塩化カルシウム0.20g
IGC-CE7:ソルビトール0.023g
IGC-IE1 ソルビトール0.10g
IGC-IE2:ソルビトール0.20g
【0251】
スピードミキサーで3xにて10秒間混合し、少なくとも24時間待機し、再度1xにて10秒間混合することで、均質な混合物を得た。
【0252】
それぞれのアイオノマーガラスペースト組成物を、「乾燥時間」に関して試験した。結果を表2(続き)に示す。
【0253】
更に、ペーストB(PAC)とそれぞれのペーストA(アイオノマーガラスペースト組成物、IGC)とをスパチュラを用いて重量比1:1.43で混合することで、ガラスアイオノマーセメント組成物を調製した。
参考例1(RE1):IGC-RE1と混合したPAC
比較例1(CE1):IGC-CE1と混合したPAC
比較例2(CE2):IGC-CE2と混合したPAC
比較例3(CE3):IGC-CE3と混合したPAC
比較例4(CE4):IGC-CE4と混合したPAC
比較例5(CE5):IGC-CE5と混合したPAC
比較例6(CE6):IGC-CE6と混合したPAC
比較例7(CE7):IGC-CE7と混合したPAC
本発明の実施例1(IE1):IGC-IE1と混合したPAC
本発明の実施例2(IE2):IGC-IE2と混合したPAC
【0254】
それぞれの混合物を型に充填し、24時間硬化させた。圧縮強度を測定した。結果を表2(続き)に示す。
【0255】
表2では、ガラスアイオノマーセメント組成物はまた、それぞれの成分の含有率に関して重量%で記載される。
【表2】
【表3】
【0256】
観測結果
RE1:中性添加剤としての無機の水不溶性固体であるヒュームドシリカには、著しい水結合能はないが、対応する参考例の圧縮強度は高い。
【0257】
CE1、CE2:グリセロールは有機液体であり、GIペーストの添加剤として使用されることがある。グリセロールは優れた水結合能を有するが、その使用により圧縮強度が低下する。
【0258】
CE3、CE4:塩化リチウムは、優れた水結合能を有する吸湿性の無機塩である。しかしながら、塩化リチウムを加えると圧縮強度に悪影響が及ぼされる。
【0259】
CE5、CE6:塩化カルシウムは吸湿性の無機塩であるが、塩化リチウムと比較して水結合能はほとんどない。しかしながら、塩化カルシウムを使用すると、LiClのように圧縮強度が低下した。
【0260】
CE7:ソルビトールを使用しているが、本発明の実施例と比較して少量である。使用量は、英国特許第2 021 123(A)号に提案された範囲内である。水結合能は、小さすぎて測定できない。
【0261】
IE1、IE2:ソルビトールは有機固体である。ソルビトールの水結合能はグリセロールと同様であるが、圧縮強度の低下量は少ない。
【0262】
DOT-IとCS-Dとの商を計算すると、一方では乾燥(DOT-I)を防ぎ、他方では圧縮強度(CS-D)に悪影響を及ぼさない、使用した糖アルコールの高い効率が明らかとなる。高い値は乾燥時間の増加と圧縮強度低下量の少なさを示すものであるため、値が高いことが好ましい。