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特許7350817リチウムイオン電池用アノード材料並びにその製造方法及び使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用アノード材料並びにその製造方法及び使用方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20230919BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230919BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230919BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20230919BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20230919BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230919BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20230919BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/62 Z
H01M4/134
H01M4/1395
H01M10/052
H01M10/058
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021160379
(22)【出願日】2021-09-30
(62)【分割の表示】P 2018532778の分割
【原出願日】2016-12-15
(65)【公開番号】P2022008661
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】62/270,863
(32)【優先日】2015-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】523242756
【氏名又は名称】ゲリオン テクノロジーズ プロプライアタリー リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マ, シャオファ
(72)【発明者】
【氏名】オブロバク, マーク エヌ.
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-164960(JP,A)
【文献】特表2018-538674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/36
H01M 4/62
H01M 4/134
H01M 4/1395
H01M 10/052
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的に活性な材料であって、
シリコンを含む活性な相と、
5ナノメートルよりも大きいシェラーのグレイン径を有する少なくとも1つの不活性なケイ化物相と、を備え、
5ナノメートルよりも大きいシェラーのグレイン径を有する、材料の不活性な相はそれぞれ、5%よりも大きいLi15Siに対する格子不整合率を有し、
不活性なケイ化物相、及び5ナノメートル未満のシェラーのグレイン径を有する材料の任意の追加の不活性な相は、全体として、電気化学的に活性な材料の総体積に対して17.5体積%よりも大きい量で電気化学的に活性な材料中に存在する、
電気化学的に活性な材料。
【請求項2】
少なくとも1つの不活性な相は、TiSi、BSi、MgSi、VSi、β-FeSi、Mn11Si19から選択される不活性なケイ化物相を含み、不活性なケイ化物相のシェラーのグレイン径は5ナノメートルよりも大きい、請求項1に記載の電気化学的に活性な材料。
【請求項3】
活性な相は、電気化学的に活性な材料の総体積に対して35~55体積%の量で存在する、請求項1に記載の電気化学的に活性な材料。
【請求項4】
少なくとも1つの不活性な相はFeSi及びSiCを含む、請求項1に記載の電気化学的に活性な材料。
【請求項5】
活性な相は、電気化学的に活性な材料の総体積に対して35~55体積パーセントの量で存在し、FeSi相は、電気化学的に活性な材料の総体積に対して35~60体積パーセントの量で存在し、SiC相は、電気化学的に活性な材料の総体積に対して4~15体積パーセントの量で存在する、請求項4に記載の電気化学的に活性な材料。
【請求項6】
不活性な相は、活性な材料の総体積に対して30体積%~70体積%の量で活性な材料中に存在する、請求項3に記載の電気化学的に活性な材料。
【請求項7】
電気化学的に活性な材料の相は、電気化学的に活性な材料の全体に実質的に均質に分布されている、請求項1に記載の電気化学的に活性な材料。
【請求項8】
活性な材料の相それぞれのシェラーのグレイン径は、50ナノメートル以下である、請求項1に記載の電気化学的に活性な材料。
【請求項9】
請求項1に記載の電気化学的に活性な材料と、
バインダーと、
を含む、電極組成物。
【請求項10】
グラファイトを更に含む、請求項9に記載の電極組成物。
【請求項11】
請求項9に記載の電極組成物と、
集電体と、
を含む、負極。
【請求項12】
請求項11に記載の負極と、
リチウムを含む正極組成物を含む正極と、
リチウムを含む電解質と、
を備える、電気化学セル。
【請求項13】
請求項12に記載の電気化学セルを備える、電子デバイス。
【請求項14】
リチウムを含む正極組成物を含む正極を準備することと、
請求項11に記載の負極を準備することと、
リチウムを含む電解質を準備することと、
正極、負極、及び電解質を電気化学セルに組み込むことと、
を含む、電気化学セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本開示は、リチウムイオン電池用アノードにおいて有用な組成物、並びにその調製方法及び使用方法に関する。
【0002】
[背景技術]
リチウムイオン電池に使用するために、様々なアノード組成物が導入されている。かかる組成物は、例えば、米国特許第7,906,238号及び同第8,753,545号に記載されている。
【0003】
[発明の概要]
一部の実施形態では、電気化学的に活性な材料が提供される。電気化学的に活性な材料は、シリコンを含む活性な相、及び、5ナノメートルよりも大きいシェラーのグレイン径を有する少なくとも1つの不活性な相を含む。5ナノメートルよりも大きいシェラーのグレイン径を有する、材料の不活性な相はそれぞれ、5%よりも大きいLi15Siに対する格子不整合率を有する。
【0004】
一部の実施形態では、電極組成物が提供される。この電極組成物は、上記の電気化学的に活性な材料と、バインダーとを含む。
【0005】
一部の実施形態では、負極が提供される。この負極は、集電体と、上記の電極組成物とを含む。
【0006】
一部の実施形態では、電気化学セルが提供される。この電気化学セルは、上記の負極と、リチウムを含む正極組成物を含む正極と、リチウムを含む電解質とを含む。
【0007】
一部の実施形態では、電気化学セルの製造方法が提供される。本製造方法は、リチウムを含む正極組成物を含む正極を準備することと、上記の負極を準備することと、リチウムを含む電解質を準備することと、正極、負極、及び電解質を電気化学セルに組み込むこととを含む。
【0008】
上記の本開示の概要は、本開示の各実施形態を説明することを意図したものではない。本開示の1つ以上の実施形態の詳細は、以下の説明にも記載される。本開示の他の特徴、目的及び利点は、説明及び特許請求の範囲から明らかとなるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
以下の本開示の様々な実施形態の詳細な説明を添付図面と併せて考慮することで、本開示のより完全な理解が可能である。
図1】実施例1の試料のX線回折(XRD)パターンを示す。
図2】脱リチオ化中の実施例1の容量を電圧で除算したものの導関数(dQ/dV)を、電圧の関数として示す。
【0010】
[詳細な説明]
シリコン(Si)系合金は、少なくとも部分的にはそのより高いエネルギー密度に起因して、次世代の高エネルギー密度リチウムイオン電池用のアノード材料として、グラファイトの有望な代替物である。しかしながら、シリコン系合金を商品化するには、十分なサイクル寿命が依然として大きな課題として残っている。
【0011】
ここ数年にわたり、Liイオン電池用のSi系材料に関するいくつかの設計パラメータが登場してきた。ミクロンサイズのSiが完全にリチオ化されると、結晶性Li15Si相が形成されることが知られている。この結晶相の存在は不十分なサイクル寿命と相関することが示されており、その存在量は、半電池の電圧曲線のdQ/dV分析によって確定できる。活性/不活性合金は、Li15Siの形成を抑制するための確立された手法である。活性な相(例えば、Si)及び不活性な相(例えば金属シリサイド)の領域サイズが十分に小さい場合、Si領域はリチオ化及び脱リチオ化の全体を通して非晶質のままであり、Li15Siの形成は抑制される。Li15Siの形成の抑制は、歪み/電圧の結合によるものであり、この場合、不活性な相に起因する歪みによりリチオ化の可能性が低くなり、Li15Siの形成が回避されていることが、近年の発見によって示されている。[Duら、J.Electrochem.Soc.162(9),A1858-A1863(2015)]
【0012】
驚くべきことに、Si系の活性/不活性材料の設計に関する重要なパラメータの一つが、不活性な相とLi15Siとの間の格子不整合率であることが見出されている。不活性な相と結晶性Li15Siとの間の格子不整合率が大きくなるほど、Li15Siの形成の抑制も大きくなり、この結果サイクリングも改善される。一般に、本開示は、Li15Si相の抑制の向上及び結果的なサイクリングの改善をもたらす、不活性な相とLi15Siとの間の格子不整合率が大きい活性/不活性材料を対象とする。
【0013】
Si系材料のサイクル中、結晶性Li15Si相の形成は、サイクル数とともに増大し得る。dQ/dV分析によって決定されるLi15Si相の存在量がサイクル数とともに増大する材料は、不安定なマイクロ構造を有すると言われる。高い温度でのサイクリングにより、一般には、マイクロ構造の変化が促進される。したがって、Si系材料のマイクロ構造の安定性を定量化する効率的な方法は、材料を45℃でサイクルさせ、結晶性Li15Siの存在量をモニタするものである。本開示の一部の実施形態による材料は、45℃でサイクルさせたときでさえ、驚くほど安定したマイクロ構造を有することが分かっている。
【0014】
本明細書で使用する場合、
用語「リチオ化する」及び「リチオ化」は、電極材料又は電気化学的に活性な相にリチウムを添加するプロセスを指す。
用語「脱リチオ化する」及び「脱リチオ化」は、電極材料又は電気化学的に活性な相からリチウムを取り除くプロセスを指す。
用語「充電する」及び「充電」は、電気化学エネルギーをセルに与えるプロセスを指す。
用語「放電する」及び「放電」は、例えばセルを使用して所望の仕事を実行する場合に、セルから電気化学エネルギーを移動させるプロセスを指す。
語句「充電/放電サイクル」は、電気化学セルが完全に充電され、すなわちセルがその上限カットオフ電圧を得て、カソードが約100%の充電状態となり、その後放電して下限カットオフ電圧を得て、カソードが約100%の放電深度になるというサイクルを指す。
語句「正極」は、完全に充電されたセルにおける放電プロセス中に電気化学還元及びリチオ化が起こる電極(しばしば、カソードと呼ばれる)を指す。
語句「負極」は、完全に充電されたセルにおける放電プロセス中に電気化学酸化及び脱リチオ化が起こる電極(しばしば、アノードと呼ばれる)を指す。
用語「合金」は、金属、メタロイド、又は半金属のうちのいずれか又はすべてを含む物質を指す。
語句「電気化学的に活性な材料」は、リチウムイオン電池における充電及び放電中に遭遇する可能性がある条件(例えば、リチウム金属に対して0V~2Vの電圧)の下で、リチウムと電気化学的に反応又は合金を形成し得る、単一の相又は複数の相を含み得る材料を指す。
語句「電気化学的に不活性な材料」は、リチウムイオン電池における充電及び放電中に遭遇する可能性がある条件(例えば、リチウム金属に対して0V~2Vの電圧)の下で、リチウムと電気化学的に反応又は合金を形成しない、単一の相又は複数の相を含み得る材料を指す。
語句「電気化学的に活性な相」又は「活性な相」は、リチウムイオン電池における充電及び放電中に遭遇する可能性がある条件(例えば、リチウム金属に対して0V~2Vの電圧)の下で、リチウムと電気化学的に反応又は合金を形成し得る、電気化学的に活性な材料の相を指す。
語句「電気化学的に不活性な相」又は「不活性な相」は、リチウムイオン電池における充電及び放電中に遭遇する可能性がある条件(例えば、リチウム金属に対して0V~2Vの電圧)の下で、リチウムと電気化学的に反応又は合金を形成しない、電気化学的に活性な材料の相を指す。
語句「電気化学的に活性な化学元素」又は「活性な化学元素」は、リチウムイオン電池における充電及び放電中に遭遇する可能性がある条件(例えば、リチウム金属に対して0V~2Vの電圧)の下で、リチウムと電気化学的に反応又は合金を形成し得る、化学元素を指す。
語句「導電性相」は、実質的に高い導電率を有する相を指し、金属導体、半金属、及び半導体を含むが、実質的に電気化学的に活性ではない。
語句「絶縁相」は、電気を実質的に導通せず、実質的に電気化学的に活性ではない相を指すが、イオン伝導性であってもなくてもよい。
語句「実質的に均質」は、100ナノメートル以上の長さの尺度において、材料の一部分の構成が、材料の任意の他の部分の構成と実質的に同じであるように、材料の構成成分又は領域が互いと十分に混合されている材料を指す。
語句「Li15Siに対する格子不整合率」は、本出願の実施例の計算及び分析に従って決定された格子不整合率を指す。
【0015】
本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、その内容について特に明確な断りがない限り、複数の指示対象を包含するものとする。本明細書及び添付の実施形態において使用されるとき、用語「又は」は、その内容について特に明確な断りがない限り、一般的に「及び/又は」を包含する意味で用いられる。
【0016】
本明細書で使用する場合、端点による数値範囲の記載は、その範囲内に含まれるすべての数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.8、4及び5を含む)。
【0017】
特に指示がない限り、本明細書及び実施形態で使用する量又は成分、特性の測定値などを表すすべての数は、すべての場合、「約」という用語によって修飾されていると解するものとする。したがって、それとは反対の指示がない限り、前述の明細書及び添付の実施形態の列挙において示す数値パラメータは、本開示の教示を利用して当業者が得ようとする所望の特性に依存して変化し得る。最低でも、請求項記載の実施形態の範囲への等価論の適用を限定する試みとしてではなく、各数値パラメータは少なくとも、報告される有効桁の数に照らして、通常の四捨五入を適用することによって解釈されるべきである。
【0018】
一部の実施形態では、本開示は、電気化学セル(例えばリチウムイオン電池)において使用するための電気化学的に活性な材料に関する。例えば、電気化学的に活性な材料は、リチウムイオン電池用の負極に組み込むことができる。
【0019】
一部の実施形態では、電気化学的に活性な材料は、1つ以上の活性な相及び1つ以上の不活性な相を含み得る。活性な相は、活性な化学元素、活性合金、又はこれらの組み合わせの形態であり得るか、又はそれを含み得る。活性な相は、シリコン、及び1つ以上の追加の活性な化学元素、例えば、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、錫(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、又はこれらの組合せなどを含み得る。一部の実施形態では、活性な相はシリコンを含み得る。一部の実施形態では、活性な相はシリコン及びSnを含み得る。一部の実施形態では、活性な相は本質的にシリコンからなり得る。
【0020】
一部の実施形態では、活性な相は、活性な材料の総体積に対して、活性な材料の少なくとも30体積%若しくは少なくとも40体積%、又は、活性な材料の総体積に対して、30体積%~70体積%、35体積%~60体積%、35体積%~55体積%、35体積%~44体積%、若しくは40体積%~44体積%を占め得る。
【0021】
一部の実施形態では、電気化学的に活性な材料は、電気化学的に不活性な相を更に含み得る。電気化学的に活性な相及び電気化学的に不活性な相は、少なくとも1つの共通の相境界を共有し得る。様々な実施形態において、電気化学的に不活性な相は、遷移金属(例えば、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル)、アルカリ土類金属、希土類金属、又はこれらの組合せを含む、1つ以上の電気化学的に不活性な化学元素の形態であり得るか、又はそれを含み得る。様々な実施形態において、電気化学的に不活性な相は、合金の形態であり得る。様々な実施形態において、電気化学的に不活性な相は、遷移金属又は複数の遷移金属の組合せを含み得る。一部の実施形態では、電気化学的に不活性な相は、錫、炭素、ガリウム、インジウム、シリコン、ゲルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、又はこれらの組合せを含む、1つ以上の活性な化学元素を含み得る。一部の実施形態では、電気化学的に不活性な相は、ケイ化物、アルミニウム化物、ホウ化物、炭化物、窒化物、ホスフェート、又は錫化物などの化合物を含み得る。電気化学的に不活性な相は、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化シリコン、酸化アルミニウム、又は酸化アルミニウムナトリウムなどの酸化物を含み得る。一部の実施形態では、電気化学的に不活性な相は、TiSi、BSi、MgSi、VSi、β-FeSi、Mn11Si19、SiC、又はこれらの組合せを含み得る。
【0022】
一部の実施形態では、不活性な相は、活性な材料の総体積に対して、活性な材料の30体積%~70体積%、40体積%~60体積%、又は40体積%~55体積%を占め得る。
【0023】
一部の実施形態では、電気化学的に活性な材料は、下式(I)で表され得る:
Si (I)
上式において、x、y、及びzは原子百分率であり、x+y+z=100、xは70~76、72~76、又は73~75であり、MはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg、B、及びCから選択される1つ以上の遷移金属元素であり、yは15~25、15~19、又は16~18であり、zは2~15、5~12、又は6~8である。
【0024】
一部の実施形態では、Mは鉄であるか又は鉄を含み、電気化学的に活性な材料は、シリコン、二ケイ化鉄(FeSi)の不活性な相、及び炭化シリコン(SiC)の不活性な相を含む、活性な相を少なくとも含む。かかる実施形態では、シリコン相は、活性な材料の総体積に対して、25~65体積%又は35~55体積%の量で活性な材料中に存在してもよく、FeSi相は35~60体積%又は43~47体積%の量で活性な材料中に存在してもよく、SiC相は4~15体積%又は8~13体積%の量で活性な材料中に存在してもよい。
【0025】
一部の実施形態では、電気化学的に活性な材料の相のそれぞれ(すなわち、活性な相、不活性な相、又は活性な材料の任意の他の相)は、1つ以上のグレインを含み得るか、又はその形態であり得る。一部の実施形態では、活性な材料の相のそれぞれのシェラーのグレイン径は、50ナノメートル以下、20ナノメートル以下、15ナノメートル以下、10ナノメートル以下、又は5ナノメートル以下である。本明細書で使用する場合、活性な材料の相のシェラーのグレイン径は、当業者には容易に理解されるように、X線回折及びシェラーの式によって決定される。
【0026】
上で検討したように、結晶性Li15Siに対する格子不整合率は、サイクリング性能と関連していることが発見されている。この点に関して、一部の実施形態では、電気化学的に活性な材料は、5ナノメートルよりも大きい、8ナノメートルよりも大きい、又は15ナノメートルよりも大きいシェラーのグレイン径を有する、1つ以上の不活性な相を含み得る。更に、一部の実施形態では、5、8、又は15ナノメートルよりも大きいシェラーのグレイン径を有する電気化学的に活性な材料の、それぞれの不活性な相は、5%よりも大きい、10%よりも大きい、若しくは20%よりも大きい、又は5~50%、5~30%、若しくは5~15%の、結晶性Li15Siに対する格子不整合率を有し得る。
【0027】
ケイ化物は、シリコン系合金における最も一般的な不活性な相である。下の表1には、Li15Siに対する、いくつかの一般的なケイ化物の格子不整合率が列挙されている。これらの中で、TiSi、BSi、MgSi、VSi、β-FeSiは、非常に大きいLi15Siとの格子不整合率を有し、Mn11Si19もまた大きな不整合率を示す。相の不整合は、かかる不整合な相が、非晶質又はほぼ非晶質(例えば、シェラーのグレイン径が5ナノメートル未満)であるのではなく、ナノ結晶の形態(例えば、シェラーのグレイン径が5~15ナノメートル、又は8~15ナノメートル)であるときに、Li15Siの結晶化を阻止するのに有益であることが発見されている。例えば、メカニカルミリングによって調製されたSi-Fe-C材料では、炭化シリコン(SiC)の不活性な相は、シェラーのグレイン径が5ナノメートル未満の実質的に非晶質のものであってよく、一方、二ケイ化鉄(FeSi)の不活性な相は、シェラーのグレイン径が8~15ナノメートルの範囲にある、ナノ結晶性のものであってよい。SiCとLi15Siとの間の格子不整合率は5%よりも小さいが、SiCが実質的に非晶質なので、これによりLi15Siの結晶化が促進されることはない。しかしながら、ナノ結晶性の不活性な相FeSiに関しては、格子不整合率が重要であることが発見されている。α-FeSiが存在する場合、その隣接するLi15Siは、結晶化する傾向を有する。このように、Si領域のほとんどにα-FeSiではなくβ-FeSi及びSiCが隣接するには、β-FeSi及びSiCは十分に大きい総体積であるべきことが発見されている。
【0028】
一部の実施形態では、5、8、又は15ナノメートルよりも大きいシェラーのグレイン径を有する1つ以上の不活性な相は、1種以上のケイ化物を含む。例えば、かかる不活性な相は、TiSi、BSi、MgSi、VSi、β-FeSi、Mn11Si19、又はこれらの組合せを含み得る。1つの実施形態では、5、8、又は15ナノメートルよりも大きいシェラーのグレイン径を有する1つ以上の不活性な相は、β-FeSiを含むか、又はβ-FeSiから本質的になる。
【0029】
電気化学的に活性な材料が5、8、又は15ナノメートルよりも大きいシェラーのグレイン径を有する1つ以上の不活性なケイ化物相を含む実施形態では、不活性なケイ化物相、及び5、8、又は15ナノメートル未満のシェラーのグレイン径を有する材料の任意の追加の不活性な相は、全体として、電気化学的に活性な材料の総体積に対して17.5体積%、22体積%、若しくは25体積%よりも大きい、又は、電気化学的に活性な材料の総体積に対して17~60体積%、22~50体積%、若しくは25~50体積%の量で、電気化学的に活性な材料中に存在し得る。
【0030】
一部の実施形態では、相は、材料の表面及びバルクを含め、活性な材料の全体に実質的に均質に分布し得る。
【0031】
一部の実施形態では、電気化学的に活性な材料は、粒子の形態をとり得る。これらの粒子は、60μm以下、40μm以下、20μm以下、10μm以下、7μm以下、又は更に小さい寸法;少なくとも0.5μm、少なくとも1μm、少なくとも2μm、少なくとも5μm、若しくは少なくとも10μm、又は更に大きい寸法;あるいは、0.5~10μm、1~10μm、2~10μm、40~60μm、1~40μm、2~40μm、10~40μm、5~20μm、10~20μm、1~30μm、1~20μm、1~10μm、0.5~30μm、0.5~20μm、又は0.5~10μmである直径(又は最長寸法の長さ)を有し得る。
【0032】
一部の実施形態では、電気化学的に活性な材料は、低表面積を有する粒子の形態をとり得る。これらの粒子は、20m/g未満、12m/g未満、10m/g未満、5m/g未満、4m/g未満、又は更には2m/g未満である表面積を有し得る。
【0033】
一部の実施形態では、活性な材料(例えば、粒子形態の)は、その外面上に、活性な材料を少なくとも部分的に包囲するコーティングを有してもよい。「少なくとも部分的に包囲する」とは、コーティングと活性な材料の外側との間に共通の境界線が存在することを意味する。コーティングは化学的保護層として機能することができ、活性な材料の構成成分を物理的及び/又は化学的に安定化することができる。コーティングにとって有用な例示的材料としては、非晶質炭素、グラファイト状炭素、LiPONガラス、リン酸リチウム(LiPO)、メタリン酸リチウム(LiPO)などのリン酸塩、ジチオン酸リチウム(LiS)、フッ化リチウム(LiF)、メタケイ酸リチウム(LiSiO)、及びオルトケイ酸リチウム(LiSiO)が挙げられる。コーティングは、ミリングプロセス、溶液の堆積プロセス、蒸気相プロセス、又は当業者に公知の他のプロセスによって適用することができる。
【0034】
一部の実施形態では、本開示は更に、リチウムイオン電池において使用するための負極組成物を対象とする。負極組成物は、上記の電気化学的に活性な材料を含み得る。電気化学的に活性な材料は、負極組成物中に、電極組成物の総重量に対して、5重量%~70重量%、10重量%~60重量%、10重量%~50重量%、15重量%~40重量%、又は15重量%~30重量%の量で存在し得る。加えて、負極組成物は、バインダー、導電性希釈剤、充填剤、接着促進剤、コーティング粘度の改質用の増粘剤などの1つ以上の添加剤、例えばカルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、フッ化ポリビニリデン、ポリアクリル酸リチウム、カーボンブラック、又は当業者に公知の他の添加剤などを含んでもよい。
【0035】
例示的な実施形態において、負極組成物は、この組成物から集電体への電子の移動を促進するために、導電性希釈剤を含み得る。導電性希釈剤としては、例えば、炭素、粉末金属、金属窒化物、金属炭化物、金属ケイ化物、及び金属ホウ化物、又はこれらの組合せが挙げられる。代表的な導電性炭素希釈剤としては、Super P及びSuper Sカーボンブラック(いずれもTimcal、スイスより)などのカーボンブラック、Shawinigan Black(Chevron Chemical Co.、Houston、Tex.)、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、グラファイト、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、及びこれらの組合せが挙げられる。一部の実施形態では、電極組成物中の導電性希釈剤の量は、電極コーティングの総重量に対して、少なくとも2重量%、少なくとも6重量%、若しくは少なくとも8重量%、若しくは少なくとも20重量%、電極組成物の総重量に対して、5重量%未満、2重量%未満、若しくは1重量%未満、又は、電極組成物の総重量に対して、0.2重量%~80重量%、0.5重量%~50重量%、0.5重量%~20重量%、若しくは1重量%~10重量%であり得る。
【0036】
一部の実施形態では、負極組成物は、Christensenらによる米国特許出願公開第2008/0206641号に記載されているように、特に圧着被膜(calendered coatings)中に、密度及びサイクリング性能を改善するためにグラファイトを含み得る。
この特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。グラファイトは、負極組成物中に、負極組成物の総重量に対して、10重量%よりも大きい、20重量%よりも大きい、50重量%よりも大きい、70重量%よりも大きい、若しくは更に大きい量、又は、この電極組成物の総重量に対して、20重量%~90重量%、30重量%~80重量%、40重量%~60重量%、45重量%~55重量%、80重量%~90重量%、若しくは85重量%~90重量%の量で、存在し得る。
【0037】
一部の実施形態では、負極組成物はまた、バインダーを含んでもよい。好適なバインダーとしては、オキソ酸及びそれらの塩、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸メチル/アクリル酸コポリマー、リチウムメチルアクリレート/アクリレートコポリマー、及び他に任意選択でリチウム又はナトリウム中和されたポリアクリル酸コポリマーなどが挙げられる。他の好適なバインダーとしては、エチレン、プロピレン、若しくはブチレンモノマーから調製したものなどのポリオレフィン;フッ化ビニリデンモノマーから調製したものなどのフッ素化ポリオレフィン;ヘキサフルオロプロピレンモノマーから調製したものなどの全フッ素化(perfluorinated)ポリオレフィン;全フッ素化ポリ(アルキルビニルエーテル);全フッ素化ポリ(アルコキシビニルエーテル);又はこれらの組合せが挙げられる。他の好適なバインダーとしては、芳香族、脂肪族、又は脂環式ポリイミドなどのポリイミド、及びポリアクリレートが挙げられる。バインダーは架橋されてもよい。一部の実施形態では、電極組成物中のバインダーの量は、電極コーティングの総重量に対して、少なくとも3重量%、少なくとも5重量%、少なくとも10重量%、若しくは少なくとも20重量%、電極組成物の総重量に対して、30重量%未満、20重量%未満、若しくは10重量%未満、又は、電極組成物の総重量に対して、3重量%~30重量%、3重量%~20重量%、若しくは3重量%~10重量%であり得る。
【0038】
一部の実施形態では、本開示は更に、リチウムイオン電気化学セルにおいて使用するための負極を対象とする。この負極は、上記の負極組成物がその上に配置された集電体を含み得る。集電体は、金属(例えば、銅、アルミニウム、ニッケル)又は炭素複合体などの導電性材料で形成され得る。
【0039】
一部の実施形態では、本開示は更に、リチウムイオン電気化学セルに関する。上記の負極に加えて、電気化学セルは、正極、電解質、及びセパレータを含み得る。セル内では、電解質は正極及び負極の両方と接触していてもよく、正極及び負極は互いと物理的に接触しておらず、典型的には、これらは、電極の間に挟持されるポリマーセパレータフィルムによって分離されている。
【0040】
一部の実施形態では、正極は、正極組成物がその上に配置された集電体を含み得、この正極組成物としては、リチウム遷移金属酸化物インターカレーション化合物、例えばLiCoO、LiCO0.2Ni0.8、LiMn、LiFePO、LiNiO、又は任意割合のマンガン、ニッケル、及びコバルトのリチウム混合金属酸化物が挙げられる。これらの材料のブレンドも、正極組成物において使用することができる。他の例示的カソード材料は、米国特許第6,680,145号(Obrovacら)において開示されており、リチウム含有グレインとともに遷移金属グレインを含む。好適な遷移金属グレインとしては、例えば、鉄、コバルト、クロム、ニッケル、バナジウム、マンガン、銅、亜鉛、ジルコニウム、モリブデン、ニオブ、又はこれらの組合せが挙げられ、約50ナノメートル以下のグレイン径を有する。
【0041】
様々な実施形態において、有用な電解質組成物は、液体、固体、又はゲルの形態であり得る。電解質組成物は、塩及び溶剤(又は電荷輸送媒体)を含み得る。固体電解質溶剤の例としては、ポリエチレンオキシド、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素含有コポリマー、及びこれらの組合せなどのポリマーが挙げられる。液体電解質溶剤の例としては、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(EMC)、炭酸プロピレン、炭酸フルオロエチレン(FEC)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、及びこれらの組合せが挙げられる。一部の実施形態では、電解質溶剤は、モノグライム、ジグライム、及びより高次のグライム、例えばテトラグライムを含む、グライムを含み得る。好適なリチウム電解質塩の例としては、LiPF、LiBF、LiClO、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiAsF、LiC(CFSO、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0042】
一部の実施形態では、リチウムイオン電気化学セルは更に、Celgard LLC、Charlotte、N.C.より入手可能なミクロ多孔質材料などの、ミクロ多孔質セパレータを含み得る。セパレータは、負極が正極と直接接触するのを防ぐために、セルに組み込まれ、使用され得る。
【0043】
開示されるリチウムイオン電気化学セルは、携帯型コンピュータ、タブレットディスプレイ、携帯情報端末、携帯電話、電動デバイス(例えば、個人用機器又は家庭用機器、及び車両)、計器、照明装置(例えば、フラッシュライト)、並びに暖房装置を非限定的に含む、様々な装置において使用することができる。本開示のリチウムイオン電気化学セルを1つ以上組み合わせて、電池パックを提供することができる。
【0044】
本開示は更に、上記の電気化学的に活性な材料の製造方法に関する。一部の実施形態では、本材料は、冷間圧延、アーク融解、抵抗加熱、ボールミリング、スパッタリング、化学蒸着、加熱蒸散、アトマイゼーション、誘導加熱、又は溶融紡糸を含む、金属又は合金のフィルム、リボン、又は粒子を製造するための公知の方法で作製することができる。上記の活性な材料はまた、金属酸化物又は金属硫化物の還元によって作製されてもよい。一部の実施形態では、本開示の電気化学的に活性な材料は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第8,257,864号で検討されている方法に従って作成され得る。
【0045】
本開示は更に、上記の負極組成物を含む負極の製造方法に関する。一部の実施形態では、本製造方法は、上記の電気化学的に活性な材料を、バインダー、導電性希釈剤、充填剤、接着促進剤、コーティング粘度の改質用の増粘剤、及び当業者に公知の他の添加剤などの任意の添加剤とともに、水又はN-メチルピロリジノンなどの好適なコーティング溶剤中で混合して、コーティング分散体又はコーティング混合物を形成することを含み得る。この分散体は、十分に混合した後、ナイフコーティング、切欠棒コーティング、浸漬コーティング、スプレーコーティング、エレクトロスプレーコーティング、又はグラビアコーティングなどの任意の適切なコーティング技法によって箔集電体に適用され得る。集電体は、例えば銅、アルミニウム、ステンレス鋼、又はニッケル箔などの、導電性金属の薄い箔であり得る。このスラリーは、集電体箔上にコーティングされ、その後空気中又は真空中において、かつ任意選択で典型的には約80°~約300℃の加熱されたオーブン内で約1時間乾燥させて溶剤を除去してもよい。
【0046】
本開示は更に、リチウムイオン電気化学セルの製造方法に関する。様々な実施形態において、本製造方法は、上記のような負極を準備することと、リチウムを含む正極を準備することと、負極及び正極を、リチウム含有電解質を含む電気化学セルに組み込むことと、を含み得る。
【0047】
本開示の組成物及び方法によれば、サイクル性能が改善された電気化学的に活性な材料を得ることができる。一部の実施形態では、本開示の負極を組み込んだリチウムイオン電気化学セルにより、45℃以上などの高い温度における5mV vs.Li/Liまでのリチオ化中のLi15Siの形成が著しく阻止され得、この結果、容量維持率を、5%、10%、若しくは20%、又はそれ以上改善し得る。
【0048】
実施形態の一覧
1. 電気化学的に活性な材料であって、
シリコンを含む活性な相と、
5ナノメートルよりも大きいシェラーのグレイン径を有する少なくとも1つの不活性な相と、を備え、
5ナノメートルよりも大きいシェラーのグレイン径を有する、材料の不活性な相はそれぞれ、5%よりも大きいLi15Siに対する格子不整合率を有する、電気化学的に活性な材料。
【0049】
2. 少なくとも1つの不活性な相は、TiSi、BSi、MgSi、VSi、β-FeSi、Mn11Si19から選択される不活性なケイ化物相を含み、不活性なケイ化物相のシェラーのグレイン径は5ナノメートルよりも大きい、実施形態1に記載の電気化学的に活性な材料。
【0050】
3. (i)不活性なケイ化物相、及び(ii)5ナノメートル未満のシェラーのグレイン径を有する材料の任意の不活性な相は、併せて、材料の総体積に対して17.5体積%よりも大きい量で電気化学的に活性な材料中に存在する、実施形態2に記載の電気化学的に活性な材料。
【0051】
4. 活性な相は、電気化学的に活性な材料の総体積に対して35~55体積%の量で存在する、実施形態1~3のいずれか1つに記載の電気化学的に活性な材料。
【0052】
5. 少なくとも1つの不活性な相はFeSi及びSiCを含む、実施形態1~4のいずれか1つに記載の電気化学的に活性な材料。
【0053】
6. 活性な相は、電気化学的に活性な材料の総体積に対して35~55体積パーセントの量で存在し、FeSi相は、電気化学的に活性な材料の総体積に対して35~60体積パーセントの量で存在し、SiC相は、電気化学的に活性な材料の総体積に対して4~15体積パーセントの量で存在する、実施形態5に記載の電気化学的に活性な材料。
【0054】
7. 活性な相は、活性な材料の総体積に対して30体積%~70体積%の量で活性な材料中に存在する、実施形態1~6のいずれか1つに記載の電気化学的に活性な材料。
【0055】
8. 不活性な相は、活性な材料の総体積に対して30体積%~70体積%の量で活性な材料中に存在する、実施形態1~7のいずれか1つに記載の電気化学的に活性な材料。
【0056】
9. 電気化学的に活性な材料の相は、電気化学的に活性な材料の全体に実質的に均質に分布されている、実施形態1~8のいずれか1つに記載の電気化学的に活性な材料。
【0057】
10. 活性な材料の相のそれぞれのシェラーのグレイン径は、50ナノメートル以下である、実施形態1~9のいずれか1つに記載の電気化学的に活性な材料。
【0058】
11.
実施形態1~10のいずれか1つに記載の電気化学的に活性な材料と、
バインダーと、
を含む、電極組成物。
【0059】
12. グラファイトを更に含む、実施形態11に記載の電極組成物。
【0060】
13.
実施形態11又は12に記載の電極組成物と、
集電体と、
を含む、負極。
【0061】
14.
実施形態13に記載の負極と、
リチウムを含む正極組成物を含む正極と、
リチウムを含む電解質と、
を備える、電気化学セル。
【0062】
15. 実施形態14に記載の電気化学セルを備える、電子デバイス。
【0063】
16.
リチウムを含む正極組成物を含む正極を準備することと、
実施形態13に記載の負極を準備することと、
リチウムを含む電解質を準備することと、
正極、負極、及び電解質を電気化学セルに組み込むことと、
を含む、電気化学セルの製造方法。
【0064】
本開示の動作を、以下の詳細な実施例に関して更に説明する。これらの実施例は、様々な特定の実施形態及び技術を更に示すために提供される。しかしながら、本開示の範囲内に留まりつつ多くの変形及び変更を加えることができるということは理解されるであろう。
【実施例
【0065】
本開示の理解を助けるために、以下の実施例を提供するが、これは、本発明の範囲を限定するものと解釈するべきではない。特に指示がない限り、すべての部及び百分率は重量による。
【0066】
試験方法及び調製手順
以下のような試験方法及びプロトコルが、後述する例示的な実施例の評価で使用された。
【0067】
格子不整合率の計算
Li15Siとその隣接する不活性な相との間の格子不整合率を、以下のように計算した。Li15Siの格子は立方晶であり、対象とするすべての不活性な相は、立方晶、正方晶、六方晶、又は斜方晶の格子のいずれかである。最小の格子不整合率は通常、低いミラー指数を有する格子平面同士の間で見られるので、立方晶のLi15Siの(100)及び(110)平面のみを考慮した。立方晶の、正方晶の、又は斜方晶の不活性な相に関して、格子不整合率を計算するために、(100)、(010)、(001)、(110)、(101)、及び(011)平面を使用した。六方晶又は斜方晶の不活性な相に関して、格子不整合率の計算において(100)、(010)、(001)、(1-10)、(101)、(011)、及び(1-11)平面を考慮した。考慮されるすべての格子平面は、正方形又は長方形であった。したがって、2つの格子平面間の格子不整合率は、
によって計算することができ、上式において、a はLi15Siの格子定数であり、a は不活性な相の格子定数である。単位セルの整数倍を使用して格子不整合率を計算し、最小のe=√(e*e+e*e)を、Pythonスクリプトを使用して見出した。例えば、NiSiの(100)平面は格子定数a =a =5.406 Åを有する正方格子であり、一方、Li15Siの(100)に関しては、a =a =10.632 Åである。a 及びa のすべての整数倍を使用して、格子不整合率を計算した。NiSiの(100)平面とLi15Siの(100)平面との間の最小の格子不整合率は、下式のときe=2.4%であることが見出された:
Li15Siの(100)又は(110)平面に対するそれぞれの不活性な相の平面の格子不整合率を、上記のように計算した。これらすべての組合せのうちで最小の不整合率が、表1に列挙するように、不活性な相とLi15Siとの間の格子不整合率として規定されている。
【0068】
X線回折(XRD)
銅ターゲットX線管及び回折ビームモノクロメータを装着したSiemens D500回折計を使用して、X線管回折(XRD)測定をした。利用した放射X線は、CuKα1(λ=1.54051Å)及びCuKα2(λ=1.54433Å)であった。使用した発散スリット及び散乱線除去スリットはともに1oに設定し、一方、受光スリットは0.15°に設定した。X線管の出力は、45kV、40mAとした。スキャンの範囲は0.02°の段階で10°~60°である。段階ごとの滞留時間は12秒であった。X線回折パターンを、FullProf Rietveld改良プログラム(Laboratoire Leon Brillouin、仏国、が開発したフリーソフトウェア)によって定量的に分析した。
【0069】
複合体の調製
本発明のSi合金複合体粒子をメカニカルミリングによって調製した。表2に見られるそれぞれの前駆体の重量を使用して、シリコン粉末(Elkem Silicon Materials、ノルウェー、から入手可能)、鉄粉末(North American Hoganas Inc.、Hollsopple、PA、から入手可能)、及びグラファイト粉末(Asbury Graphite Mills Inc.、NJ、から入手可能)を、直径8フィートのペブルミル内で、16536kg、15/32インチの鋼媒体とともに、アルゴン雰囲気下で一緒にミリングした。5℃の冷却水を毎分24~29ガロンの流量にして、ミルを冷却した。56時間ミリングした後で粉末を放出し、ふるいにかけて更に特徴付けた。
【0070】
電気化学セルの調製
バインダー溶液を以下の通り調製した:ポリアクリル酸(PAA)(250K MW、Sigma Aldrichから入手可能)の35重量%水溶液、脱イオン水、及び水酸化リチウム一水和物(Sigma Aldrichから入手可能)を、1.00:2.48:0.20の重量比で混合して、振盪装置内に5時間置いた。得られた溶液は、10重量%のポリアクリル酸リチウム(LiPAA)水性バインダー溶液である。
【0071】
Si合金複合粒子及びポリアクリル酸リチウム(LiPAA)を91/9の重量比で含む電極を、実施例1~10をそれぞれ1.82g、上で調製した10%LiPAA水溶液1.80gを、4つの炭化タングステン球(直径12.75mm)を備える45ミリリットルの炭化タングステン容器内に置き、遊星マイクロミル(Fritsch GmbH、Idon-Oberstein、独国、から入手可能な、PULVERISETTE 7)内で、速度設定2で1時間混合することによって作製した。得られたスラリーを、次いで0.003インチの間隙を有するコーティングバーを使用して銅箔上にコーティングし、真空下で120℃で2時間乾燥させた。次いでコインセル電極をこの箔から打ち抜いた。
【0072】
2325電気化学コインセルを、複合粒子の電極をリチウム箔の対向/基準電極に対置させて作製した。電解質は、10重量%のFEC、及び90重量%のSelectilyte LP 57(BASF、Independence、OH、から入手可能な、1M LiPF6 in EC:EMC 30:70 w/w溶液(重量比30:70のEC:EMC中、1モルのLiPF6の溶液))を含有している。2つのCelgard 2320ミクロ多孔膜(Celgard LLC、Charlotte、N.C.から入手可能)をセパレータとして使用した。セルをクリンプして閉じた後で、これらを更に、45℃での漏出を防止するために、Torr Seal(Varian、Inc.、Palo Alto、CA)を用いて縁部の周囲で封止した。
【0073】
電気化学セルの試験
次いでコインセルを、Maccor 4000 Series充電器(Maccor Inc、Tulsa、OK、から入手可能)を用いて、45℃でサイクルさせた。1回目のサイクルは、5mVにおけるC/40トリクルを伴うC/10、及び最大1.5Vの脱リチオ化で行い、後続のサイクルは、5mVにおけるC/20トリクルを伴うC/4、及び最大0.9Vの脱リチオ化で行った。
【0074】
結果
X線回折
X線回折を使用して、合成した複合体中のα-FeSi相、β-FeSi相、並びにSi及びSiCを識別した。図1は、実施例1の回折パターンを示す。17.03°周辺でのα-FeSi(001)の回折ピーク、及び28.93°周辺でのβ-FeSi(220)の回折ピークをフィッティングして、α-FeSiに対するβ-FeSiの体積比を計算した。結果を表3に列挙する。
【0075】
サイクリング中のdQ/dVの安定性
サイクリング中の電圧プロファイルを使用して、合金複合体の安定性の特徴を評価した。電圧に対する、脱リチオ化中の実施例1の電圧(dQ/dV)による容量の導関数を、図2に示す。図2には、2つのピークが、0.005~0.4V(P1)及び0.4~0.9V(P2)の範囲にそれぞれ示されている。P2の強度がサイクリングにわたって大きく変化していないとき、電圧曲線は安定していると見なされる。これにより、サイクル2におけるP2強度に対する、サイクル30におけるP2強度の比、すなわち、P2(30th)/P2(2nd)を使用して、電圧の安定性を測定した。
【0076】
表4には、β-FeSi+SiCの体積含有率、P2(30th)対P2(2nd)の比、及び各複合体の1回目のリチオ化容量が列挙されている。表4の結果は、β-FeSi+SiCの含有率が体積で17.5%を超えるとき、P2(30th)/P2(2nd)が1に近くなることを示しており、このことは電圧曲線が安定していることを示す。他方で、1回目のリチオ化容量と電圧の安定性との間に相関は見出されない。これらの結果から、β-FeSi+SiCの体積をより大きくすれば、Si合金の電圧曲線を安定させることができる、との結論が導かれる。
【0077】
一部の実施形態の説明のために、本明細書では、特定の実施形態を例示し、説明したが、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、広く多様な代替的かつ/又は同等な実装により、示されかつ説明された特定の実施形態を置き換え得ることを理解するであろう。
図1
図2