(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】吊り下げ具及び吊り下げ具形成用シート
(51)【国際特許分類】
B65D 73/00 20060101AFI20230919BHJP
A47F 7/00 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
B65D73/00 Q
A47F7/00 F
(21)【出願番号】P 2021178063
(22)【出願日】2021-10-29
【審査請求日】2021-11-05
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷岡 俊司
(72)【発明者】
【氏名】米山 明人
(72)【発明者】
【氏名】有川 準二
【合議体】
【審判長】村上 聡
【審判官】柿崎 拓
【審判官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-34743(JP,A)
【文献】登録実用新案第3073034(JP,U)
【文献】特開2003-38315(JP,A)
【文献】実開昭58-88364(JP,U)
【文献】特開平10-175630(JP,A)
【文献】特開2015-217029(JP,A)
【文献】実開平2-74954(JP,U)
【文献】特開平11-70037(JP,A)
【文献】実公昭51-49250(JP,Y1)
【文献】特開平10-234536(JP,A)
【文献】実公昭38-5034(JP,Y1)
【文献】実開昭60-164921(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47F7/00
B65D73/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート材に形成された罫線を折り曲げて形成された本体部を有し、
その本体部が、シート材に形成された第一罫線及び第二罫線が折り曲げられて第一面部、上面部及び第二面部が連接された略コ字状であり、
第一罫線の離間した二点間を基端部として本体部の第一面部からスリットされている部位が切り起こされ、その切り起こされた部分を折り返すことなく形成される係止部とを有し、
この係止部が、前記基端部で倒伏されることによって切り起こし前の部位に格納可能とされ、
前記シート材が、坪量が300g/m
2以上1470g/m
2以下、密度が0.65~1.00g/cm
3、耐折強度が1.3以上、テーバー剛直度が5~60mN・mである、多層紙であり、前記係止部の長さが、第一罫線から第一面部の下端までの長さの60%以内、基端部の長さが、第一罫線の長さの15~60%であり、
切り起こした係止部を格納状態とした後、係止部の先端が10mm持ち上がるまでの復帰時間が1秒以上とされている、
ことを特徴とする吊り下げ具。
【請求項2】
第一罫線が、紙の縦方向に沿って配されている、請求項1に記載の吊り下げ具。
【請求項3】
シート材の一方縁から他方縁に至るように折り曲げ可能な第一罫線及び第二罫線が並行に配され、その第一罫線とシート材の一方端縁の間が第一面部とされ、第一罫線及び第二罫線との間が上面部とされ
、第二罫線とシート材の他方端縁との間が第二面部とされ、第一罫線及び第二罫線を折り曲げることによって略コ字状の本体部が形成可能であり、
本体部の第一面部に、第一罫線の離間した二点を基点とするスリットによって形成される係止部形成部を有し、この係止部形成部は、切り起こすだけで、切り起こされた部分を折り返すことなく係止部が形成可能であり、
かつ、係止部形成部は、切り起こして形成した係止部を基端部で倒伏させることで、再度係止部が切り起こし前の状態に格納可能に構成され、
前記シート材が、坪量が300g/m
2以上1470g/m
2以下、密度が0.65~1.00g/cm
3、耐折強度が1.3以上、テーバー剛直度が5~60mN・mである、多層紙であり、前記係止部の長さが、第一罫線から第一面部の下端までの長さの60%以内、基端部の長さが、第一罫線の長さの15~60%であり、
切り起こした係止部を格納状態とした後、係止部の先端が10mm持ち上がるまでの復帰時間が1秒以上とされている、
ことを特徴とする吊り下げ具形成用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り下げ具及び吊り下げ具形成用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
商品等を店頭に並べるにあたり、商品や包装用袋の上部に吊り下げ具を取り付け、陳列用バーとも称される吊り下げ棒に吊り下げるようにして陳列することがある。
【0003】
このような吊り下げ陳列のために用いられる吊り下げ具は、吊り下げ棒に吊り下げ可能な鎌形状の係止部や、吊り下げ棒が挿入可能な通孔を有する係止部を上部に有する。
【0004】
従来、この吊り下げ具においては、シート材を折り返し、その折り返し縁部に細長の接続孔が設けられている形状の口紙と、プラスチック製等のフック部材とが別体となっており、そのフック部材を接続孔に通した際に、フック部材上部のフック部分のみが接続孔から口紙の折り返し縁部の上側に突出するように接続されて係止部を構成するものが広く普及している(下記、特許文献1、特許文献2)。
【0005】
また、口紙とフック部材とを別体とせずに、1枚のシート材にフック形状の切込みを2箇所形成し、シート材を折り曲げることによって、フック形状の切込みが突出されるともに互いに重なりあって、一つの係止部が形成される吊り下げ具も知られている(下記、特許文献3、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-098068号公報(特許第5531534号)
【文献】特開2007-167138号公報(特許第4955994号)
【文献】特開2015-003761号公報(特許第6226416号)
【文献】特開2002-034743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの従来の吊り下げ具は、商品を吊り下げ陳列可能にするという点では、一定の効果を奏するものであるが、下記のような問題の改善が求められている。
【0008】
すなわち、特許文献1や特許文献2にみられる、口紙とフック部材とが別体となっているものでは、口紙とフック部材とを接続させる操作が必要となるため、製品形態とするのに手間がかかる。特許文献1及び特許文献2の吊り下げ具では、口紙と商品とを一体化した後にもフック部材を接続口から挿入可能にすることで、接続の手間を低減しているものの、接続の操作自体は必要であり、また、その接続方法においては、フック部材を接続口に通した後にフック部材を口紙に摺るように操作する必要があるため、接続時に接続口が変形したり損傷したりしやすいという別の問題がある。
【0009】
また、特許文献1や特許文献2にみられる、口紙の接続孔にフック部材を通すものでは、商品の購入を検討する者が、吊り下げ棒から商品を手に取ったり戻したりする操作によって、口紙に接続する側のフック部材の曲がりや口紙の接続口が裂けるおそれがあり、その裂けの進みによっては接続口からフック部材が抜け落ちるおそれもある。
【0010】
他方で、商品を販売する販売店においては、商品の陳列形態や配置を変更することが行われることがあり、例えば、ある商品を吊り下げ陳列から平置陳列に変更したり、平置陳列から吊り下げ陳列に変更したりすることが行われる。
【0011】
しかし、特許文献1や特許文献2、さらに特許文献3にみられる吊り下げ具では、フック形状の係止部が常に突出した形態であるため、平置陳列する際に係止部のためのスペースが必要となり、また、不要な係止部が突出した状態で平置されるため見栄えが悪い。一方、特許文献4にみられる吊り下げ具は、係止部がシート材を折り重ねるとともに先端部分を止め穴に挿入し嵌め込むことで形成されているため、平置陳列の際にはフック部を解体するのに煩雑な操作が必要となる。
【0012】
さらに、特に、特許文献1や特許文献2にみられる吊り下げ具では、口紙の接続口より下部側にフック部材の一部が残るため、口紙の接続孔より下部側においてフック部材が存在する部分のみ厚みが増加する。このため、より平置陳列とする際には、高さ方向に必要な空間が増すうえ、商品を安定して積み重ね難い。さらに、このようなフック部材の突出や部分的な厚みの増加は、商品陳列前における運搬時、輸送時において用いられる段ケースへの収納等においても望ましくなく、積載効率が悪い。
【0013】
このように従来の吊り下げ具は、口紙とフック部材とが別体であったり、係止部が突出した状態のままであったりすることによる問題があり、これらの問題を解決することが望まれている。
【0014】
そこで、本発明の主たる課題は、上記従来の吊り下げ具の問題を解決し、口紙とフック部との接続の手間がなく、輸送や平置陳列もしやすく、さらに吊り下げ陳列と平置陳列との切り替え等の陳列形態の変更の手間を低減できる吊り下げ具及び吊り下げ具形成用シートを提供することにある。さらなる課題は、脱プラスチックや減プラスチックに対応しやすい、吊り下げ具及び吊り下げ具形成用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決した第一の手段は、
シート材に形成された罫線を折り曲げて形成された本体部を有し、
その本体部が、シート材に形成された第一罫線及び第二罫線が折り曲げられて第一面部、上面部及び第二面部が連接された略コ字状であり、
第一罫線の離間した二点間を基端部として本体部の第一面部からスリットされている部位が切り起こされ、その切り起こされた部分を折り返すことなく形成される係止部とを有し、
この係止部が、前記基端部で倒伏されることによって切り起こし前の部位に格納可能とされている、
ことを特徴とする吊り下げ具である。
【0016】
第二の手段は、
本体部を構成するシート材は、坪量が300g/m2以上1470g/m2以下、密度が0.65~1.00g/cm3の多層紙であり、係止部の長さが、第一罫線から第一面部の下端までの長さの60%以内であり、基端部の長さが、第一罫線の長さの15~60%である、上記第一の手段に係る吊り下げ具である。
【0017】
第三の手段は、
第一罫線が、紙の縦方向に沿って配されている、上記第二の手段に係る吊り下げ具である。
【0018】
第四の手段は、
本体部を構成するシート材は、耐折強度が1.3以上であり、テーバー剛直度が5~60mN・mである、上記第一~第三の手段に係る吊り下げ具である。
【0019】
第五の手段は、
シート材の一方縁から他方縁に至るように折り曲げ可能な第一罫線及び第二罫線が並行に配され、その第一罫線とシート材の一方端縁の間が第一面部とされ、第一罫線及び第二罫線との間が上面部とされ、第一罫線とシート材の間が第一面部とされ、第二罫線とシート材の他方端縁との間が第二面部とされ、第一罫線及び第二罫線を折り曲げることによって略コ字状の本体部が形成可能であり、
本体部の第一面部に、第一罫線の離間した二点を基点とするスリットによって形成される係止部形成部を有し、この係止部形成部は、切り起こすだけで、切り起こされた部分を折り返すことなく係止部が形成可能であり、
かつ、係止部形成部は、切り起こして形成した係止部を基端部で倒伏させることで、再度係止部が切り起こし前の状態に格納可能に構成されている、
ことを特徴とする吊り下げ具形成用シートである。
第六の手段は、
シート材は、坪量が300g/m2以上1470g/m2以下、密度が0.65~1.00g/cm3の多層紙であり、係止部形成部の長さが、第一罫線から第一面部の下端までの長さの60%以内であり、基端部の長さが、第一罫線の長さの15~60%である、上記第五の手段に係る吊り下げ具形成用シートである。
【0020】
(作用効果)
本発明の吊り下げ具及び吊り下げ具形成用シートは、一枚のシート材で構成される本体部の第一面部から係止部が切り起こされて形成され、他の部分と一体的構造となっている。したがって、従来技術のように口紙とフック部材とを接続する煩雑な操作を必要とせず、口紙の接続孔より下方にフック部材の一部が残って厚みが増加するということもない。また、口紙に設けたフック部材の接続孔が意図せずに破損したり、フック部材が抜け落ちたりする等の問題もない。さらに、口紙に接続孔を設けるための接続孔形成個所を分離除去するなど製造上の煩雑な操作も要しない。
【0021】
他方で、本発明の吊り下げ具では、係止部を切り起こす前、又は、格納した状態では、係止部が突出しない形状となる。この突出部がない状態では、輸送時の積載効率に優れ、ケース梱包しやすく、さらに、係止部を使用しない平置陳列に適し、その見栄えや陳列数を増加させることができる。
【0022】
また、本発明の吊り下げ具では、一端切り起こした係止部が、基端部で倒伏されることによって切り起こし前の部位に格納可能となっているため、係止部の要、不要を事後的に選択することができ、係止部を必要とする吊り下げ陳列から係止部を必要としない平置陳列に変更するなど、係止部形成後に陳列形態や梱包形態の変更に対応することができる。
【0023】
さらに、本発明の吊り下げ具では、係止部が第一罫線を介してシート材で構成される本体部から切り起こされるものであるため、柔軟性を有するシート材とすることで、第一罫線をヒンジ軸として切り起こし方向に柔軟に動きやすくすることができ、また、係止部自体もシート形状由来の平たい形状で柔軟性による捻じれることができるため、様々な方向から力が加わっても、破れ難く、また、係止部も分離し難い。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、従来の吊り下げ具の問題を解決し、口紙とフック部との接続の手間がなく、輸送や平置陳列もしやすく、さらに吊り下げ陳列と平置陳列との切り替え等の陳列形態の変更の手間を低減できる吊り下げ具及び吊り下げ具形成用シートが提供される。さらに、脱プラスチックや減プラスチックに対応しやすい、吊り下げ具及び吊り下げ具形成用シートも提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る吊り下げ具を吊り下げ陳列で使用した形態を示す斜視図である。
【
図2】本発明に係る吊り下げ具形成用シートを示す平面図である。
【
図3】
図2におけるIII-III断面及びその一部拡大図である。
【
図4】本発明に係る吊り下げ具の第一の態様を示す斜視図である。
【
図5】本発明に係る吊り下げ具の係止部の動きを示す斜視図である。
【
図6】本発明に係る吊り下げ具の係止部を格納した形態を示す斜視図である。
【
図7】本発明に係る吊り下げ具を平置陳列に使用した例を説明するための斜視図である。
【
図8】本発明に係る吊り下げ具の係止部の好適な曲げ特性を説明するための模式図である。
【
図9】本発明に係るシート材の例を示す断面図である。
【
図10】本発明の参考形態の吊り下げ具形成用シートを示す平面図である。
【
図11】本発明の参考形態の吊り下げ具を示す斜視図である。
【
図12】本発明の実施形態に係る吊り下げ具形の係止部の他の形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次いで、本発明の実施形態を
図1~
図12を参照しながら以下に詳述する。但し、本発明は、これらの実施形態に限定されるわけではない。また、本発明では、吊り下げ対象となる物品については限定されない。
【0027】
この実施形態に係る吊り下げ具1は、靴下、タオル等の布製品等を一つ又は複数を束ねた物品3を、吊り下げ棒4に対して吊り下げ陳列可能にするためのものである。なお、この吊り下げ具1を形成するための吊り下げ具形成用シート1Aについても、対応する部位に同符号を付し吊り下げ具1の実施形態ともに説明する。
図2及び
図3、
図10が、吊り下げ具の前駆体である吊り下げ具形成用シート1Aを示している。
図1、
図4~9は、
図2及び
図3に示す吊り下げ具形成用シート1Aから形成された吊り下げ具1を示し、
図11は、
図10に示す吊り下げ具形成用シート1Aから形成された吊り下げ具1を示している。
図12は、
図1~
図11の形態と係止部の形状が異なる他の実施形態の吊り下げ具1を示すものである。
【0028】
図1~
図9に示す形態の吊り下げ具1は、一枚のシート材10Sの一方縁から他方縁に至るように折り曲げ可能に形成された並行な第一罫線11及び第二罫線12が折り曲げられて第一面部21、上面部23及び第二面部22が連接された、側面視において略コ字状となっている本体部20と、特に第一罫線11の離間した二点を基点P1,P2とする切り込みSによって形成される係止部形成部30Aを、それら基点P1,P2の間を基端部31として本体部20の第一面部21から切り起こすことで形成される係止部30を有している。吊り下げるべき物品3は、第一面部21及び第二面部22の間に嵌るように介在されるとともに接続され、係止部30を介して吊り下げ棒4等に吊り下げ可能とされる。なお、
図1においては、第二面部22を正面(前方)としているが、第一面部21と第二面部22のいずれが正面となるかは限定されない。
【0029】
図10~
図11に示す形態の吊り下げ具1は、本発明の参考形態であり、一枚のシート材10Sの一方縁から他方縁に至るように折り曲げ可能に形成された第一罫線11が折り曲げられて第一面部21及び第二面部22が連接された、側面視において略V字状となっている本体部20と、特に第一罫線11の離間した二点を基点P1,P2とする切り込みSによって形成される係止部形成部30Aを、それら基点P1,P2の間を基端部31として本体部20の第一面部21から切り起こすことで形成される係止部30を有している。つまり、
図10~
図11に示す本体部20では、上面部23を有さない形態である。吊り下げるべき物品3は、
図1~
図9に示す形態と同様に、第一面部21及び第二面部22の間に嵌るように介在されるとともに接続され、係止部30を介して吊り下げ棒4等に吊り下げ可能とされる。なお、第一面部21と第二面部22のいずれが正面となるかは限定されない。本発明の実施形態の本体部の具体的形状は、上記の略コ字状の形態であるが、略V字状の形態についても説明する。
【0030】
係止部形成部30Aを構成し、係止部30を形成するための切り込みSは、スリット、ミシン目、ハーフスリット等の当該部位を他の部分と分離可能できるものであればよい。好ましくは、シート材の表面から裏面までが切断されているスリットである。なお、切り込みSにより描かれる形状と係止部30の形状は必ずしも一致している必要はない。したがって、係止部30と係止部30を切り起こした後の残部の形状とが一致している必要もない。不要な切込み個所がなく強度を保持しやすい点からは一致しているのが望ましい。
【0031】
この吊り下げ具1は、従来技術に係る吊り下げ具のように口紙とフック部材とが別体となっていないため、口紙にフック部材との接続口が存在せず、口紙の接続口が意図せずに破損したり、フック部材が接続口から抜け落ちたりする等の従来の口紙とフック部材とが別体である吊り下げ具が有する問題が発生しない。
【0032】
また、この吊り下げ具1は、特徴的に係止部30が、基端部31を軸として単に切り起こすだけで吊り下げ棒4に対して吊り下げ陳列できる状態になるとともに、さらに、一端切り起こして形成した係止部30が、その基端部31を軸部として単に倒伏させるだけで、切り起こし前の部位に格納可能となっている。なお、係止部30の使用時の切り起こしの角度は、必ずしも限定されないが、少なくとも第一面部21に対して90度超あれば吊り下げ棒に掛けることができ、好ましく120度以上、特にこのましく175度以上に切り起こされるものであれば、吊り下げ棒4に掛けやすい吊り下げ具となる。また、係止部の格納状態は、切り起こし前の状態と完全一致に限定さるわけではなく、倒伏により切り起こし前の位置に戻ればよい。
【0033】
この吊り下げ具1では、上記のとおり係止部30が基端部31を軸部として屈伸可能となっており、起立状態と倒伏状態とが選択できるようになっている。そして、係止部30を格納した状態では、突出部分のない一枚のシート材10Sを折り曲げただけの略コ字状形状または略V字状とすることができる。よって、一端、係止部30を形成した後であっても
図7に示す平置陳列や運送時におけるスペース効率や見栄えに優れる形態に容易に変形させることができるようになっている。なお、
図7では、第一面部21が上面(正面)として陳列されているが、上記のとおり第一面部21と第二面部22とはいずれが正面であってもよく、平置陳列にあたって、第二面部22が上面となるように陳列してもよい。
【0034】
係止部30の形状は、必ずしも限定されないが、吊り下げ棒に対して係止可能な形状とされる。
図1~11に示す形態の係止部30は、一部が開いたフック形状となっており、
図12に示す形態1では、開いた部分を有さない吊り下げ棒4を通すための通孔32を形成した形状となっている。なお、
図12に示す形態は、係止部30の形状以外は、
図1~
図9に示す形態と同様である。
【0035】
なお、より好ましい係止部30の形状は、
図1~11に示されるような一部が開いたフック形状である。
図12に示される通孔32を有する形態では打ち抜き加工などで形成した場合に、円径の不要部が形成されるがフック形状ではこのような部分を形成せずに製造可能である。
【0036】
また、フック形状のように一部が開いた形状であると、その開いた部分から吊り下げ棒4に引っ掛ける操作で吊り下げ陳列することができるため陳列操作が容易となる。さらに、複数の物品が吊り下げ棒に吊り下げられている状態で、手前の物品より奥の方の物品を取り出したり、手前の物品より奥の方に新たな物品を吊り下げたりすることが可能である。なお、フック形状とする場合、開放位置が右側であるか左側であるか限定されない。
【0037】
他方で、この係止部30は、特に
図1~
図9に示す形態においては、第二罫線12の離間した二点間を基端部として第二面部22から切り起こされる他の部分とともに形成されるものではない。つまり、係止部30は、薄いシート材10Sの一部である第一面部21から切り起こされた部分のみで構成される。したがって、一つの係止部30を形成するために例えば、第一面部21と第二面部22から切り起こされる二つの部位から係止部を形成するものよりも迅速に形成することができる。但し、第一面部21から切り起こされる係止部30と協働しない全く関係のない他の係止部が、第二罫線12の離間した二点間を基端部として第二面部22から切り起こされるものは本発明では排除されない。この第一面部21と第二面部22の双方から各々別の係止部が形成可能なものでは、第一面部21と第二面部22とは同義である。
【0038】
この係止部30では、上面部23の一方縁である第一罫線11から突出する薄板型となるため、係止部30を介して吊り下げ棒4に吊り下げた場合、やや前後方向に傾斜した吊り下げ状態となる場合があるが、商品を販売する販売店等においては、
図1にも示されるように、一般的には、吊り下げ棒4に対して複数の商品が隙間なく掛けられるため、やや傾斜した吊り下げ状態になっても見栄えにはほとんど影響がない。また、略V字状では上面部23を有さず、傾斜した吊下げ状態になりにくい。それよりも、係止部30が一枚のシート材10Sの一部が切り起こされた薄板型であることで、吊り下げ棒4に商品を係止させやすく商品の補充は早くできる等の効率的な機能が生じる。
【0039】
係止部30の第一罫線11から第一面部21の下端縁21Eまでの長さL5は、第一罫線11から第一面部の下端縁21Eまでの長さL6の60%以内、好ましくは50%以内とするのが望ましい。係止部30の強度と、第一面部21の強度を確保しやすい。
【0040】
第一罫線11の長さL1に対する基端部31の長さL2の割合は限定されないが、15~60%であるのが望ましい。この範囲であれば使用時の必要な強度を保持しやすい。また、基端部31の位置も限定されないが、この係止部30は、第一面部21から切り起こされるため、第一罫線11が延在する方向を左右方向としてその中央部に位置させて、吊り下げ字に左右方向に過度に傾かない位置とするのが望ましい。なお、本実施形態における係止部30では、その大きさや寸法が限定されるものではない。
【0041】
ここで、この係止部30は、第一面部21から切り起こし形成した後、格納することができるものであるため、特に、一端、切り起こした係止部30を、適度な荷重で再び格納状態とすることができる曲げ特性を有していることが望ましい。また、格納後に瞬時に係止部が突出状態に復帰しない曲げ特性であることが望ましい。この点から、係止部を格納状態にするための荷重として、好ましくは、0.3N以下であるのが望ましい。また、切り起こした係止部を格納状態とした後、係止部の先端が10mm持ち上がるまでの復帰時間が1秒以上であるのが望ましい。
【0042】
この格納状態とするための力の測定及び復帰時間の測定は、
図8に示す。格納状態とするための力の測定は、まず、
図8(A)に示すように、係止部30と第一面部21と略平面をなすように、係止部30を第一面部21に対して180度切り起した位置を基準位置とする。次に
図8(B)に示すように、この基準位置から係止部30を、先端側50%以内の範囲を支持して基端部31を軸部として折り曲げるようにして、切り起こし前の位置まで戻し、その際の荷重を測定する。なお、図示例では、略コ字状の本体部20を示しているが、略V字状の本体部20でも測定方法は同様である。下記の復帰時間についても、同様である。
【0043】
復帰時間は、係止部30を第一面部21に対して180度切り起した位置から切り起こし前の状態とした後、100gの下面平滑な錘Wを係止部30の先端から50%の範囲に載せ、10秒間静置する。その後、錘Wを取り除き、
図8(C)に示すように係止部30の先端30tが第一面部21から10mm(図中L7)浮き上がるまでの時間を測定する。なお、係止部30が2秒以上たっても10mm以上浮き上がらない場合は計測を終了する。
【0044】
このような曲げ特性の係止部30を有する吊り下げ具1では、容易に起立状態の係止部30を形成することができ、また、倒伏させて格納することができる。また、起立状態から格納状態とした際に、直ぐに係止部30が立ち上がらず平置陳列への変更等がしやすいものとなる。
【0045】
さらに、本実施形態の吊り下げ具1では、基端部31での耐折強度が1.3以上であるのが望ましい。この耐折強度であれば、一般的な使用態様において係止部30を起立させたり、倒伏させたりしても係止部が破断するおそれがない。この耐折強度は、JIS P 8115(2001)に準拠した値である。なお、折り曲げ角度は135°、クランプRは、0.38mmとする。
【0046】
また、係止部30を吊り下げ棒4に掛けた際における耐荷重は、吊り下げる物品によって適宜に設計することができるが、1.7N以下であるのが望ましい。1.7N以下であれば一般的な吊り下げ陳列形態において、係止部30が破断したり曲がりが大きくなって、落下しがたいものとなる。ここで、この耐荷重は、
図4に示すように、係止部30を形成した後に、第一面部21の下端部分と第二面部22の下端部分とを重ね合わせてクリップ等の治具により挟持するとともに、係止部30を吊り下げ棒4に掛け、さらに治具に対して錘を吊り下げる。この際に吊り下げ棒から落下したり、吊り下げ具の破損がみられた重量として測定される値である。
【0047】
他方で、第一罫線11は、吊り下げ具形成用シート1Aから吊り下げ具1の形状にシート材10Sを略コ字状又は略V字状に折るためのきっかけとなる線であり、第二罫線12は、第一罫線ととともに、吊り下げ具形成用シート1Aから吊り下げ具1の形状にシート材10Sを略コ字状に折るためのきっかけとなる線であり、これらは単なる印刷による線でもよいが、シート材10Sが第一罫線11、第二罫線12に沿って容易に折り曲げられるようになるミシン目、ハーフスリット線、押し筋加工、折り筋加工又はエンボス加工等と称されるシート材に圧縮線を形成する加工により形成された折り筋等であるのが好ましい。これらの線種は、シート材10Sの素材と必要な強度によって選択することができる。但し、ミシン目やハーフスリットよりも罫線部分の強度低下が少ないことから、特に好ましくは、折り筋である。なお、折り筋は、実線でも破線でもよい。
【0048】
図1~
図9に示す形態の吊り下げ具1及び吊り下げ具形成用シート1Aでは、特に好ましい形態として、第一罫線11及び第二罫線12ともに同じ面から押された直線及び実線の折り筋あり、この第一罫線11及び第二罫線12が平行に配されている形態である。この形態では、第一面部21と第二面部22とが平行に対面可能となるとともに、上面部23において第一罫線11と第二罫線12との間の距離が一定となるため、第一面部21と第二面部22との間に物品3を安定して介在させやすく、また、係止部30を介して吊り下げ棒4に吊り下げた際に傾かずバランスよく吊り下がるようにしやすい。
【0049】
但し、この形態例では、第一罫線11と第二罫線12とは完全に平行である必要はなく、物品3が介在される空間が形成されるように、シート材10Sを略コ字状に折り曲げ可能な程度に、第一罫線11と第二罫線12の各端が離間していればよい。また、第一罫線11と第二罫線12とが同種の線である必要はなく、例えば、第一罫線11はミシン目、第二罫線12が折り筋のように異なる線種とすることができる。
【0050】
第一面部21及び第二面部22は、吊り下げ具1とした際に対面又は略対面するように位置し、これら第一面部21及び第二面部22の間に吊り下げられるべき物品3が介在される。第一面部21及び第二面部22の面積は同一である必要はなく、適宜の面積とすることができる。図示の形態の第一面部21と第二面部22とでは、物品3と吊り下げ具1とを連結しやすくするため十字に連結スリット41が設けられている。タオルや靴下等の布製品を第一面部21及び第二面部22との間に介在させた状態で連結スリット41に糸等の留め具を通すなどして、物品3と吊り下げ具1とを連結することが可能となっている。この時、
図1~
図9に示す形態では、例えば、連結スリット41の位置において上面部23の幅L3よりも第一面部21と第二面部22との離間距離L4が短くなるように物品と連結すると、第一面部21と第二面部22によって物品3が挟持されるようにすることができる。但し、この連結スリット41は、必ずしも形成する必要はない。また、その形状も十字に限定されない。さらに、物品3に対して胴巻き保持など糸等の留め具に限定されない。
【0051】
また、図示の形態の吊り下げ具1では、第一面部21及び第二面部22が、略長方形に形成されているがこの形状に限定されない。例えば、人型、魚型、動物形状、幾何学形状など適宜の形状とすることで意匠性を高めてもよい。また、第一面部21と第二面部22との形状が同一である必要もない。但し、略長方形又は略正方形では、大判のシート材から打ち抜いて製造する際の歩留に優れ、余尺分の発生を少なくでき、資源の有効活用が可能という利点がある。
【0052】
さらに、本実施形態の吊り下げ具1では、吊り下げ棒4に吊り下げた際又は平置陳列した際に、第一面部21又は第二面部22が正面となるように陳列される。したがって、第一面部21及び第二面部22の内外表面に適宜の情報、例えば、商品の特性や商品の宣伝広告情報を印刷、エンボス、箔押し等してもよい。
【0053】
他方で、特に
図1~
図9に示す形態の略コ字状の本体部20の場合に形成される上面部23は、第一罫線11と第二罫線12との間に位置されるため、この幅によって第一面部21と第二面部22との間の離間距離L4が概ね定まる。したがって、第一面部21及び第二面部22の間に介在させる物品3の厚み等によって、上面部23の幅L3、つまり第一罫線11と第二罫線12との間の距離を設計すればよい。この設計にあたっては、例えば、胴巻き保持や糸等の留め具による保持などの物品の保持態様を考慮することができる。なお、この吊り下げ具1では、上面部23にフック部材の接続孔は必要ないため、第一面部21及び第二面部22と同様に上面部23にも印刷、エンボス、箔押しなどによって適宜の情報を付与すしやすい利点がある。
【0054】
他方で、吊り下げ具1では、第一面部21、第二面部22及び上面部23は平面とすることができるため、第一面部21、第二面部22及び上面部23の何れか又は複数面に跨って、吊り下げる物品3の在庫管理等のために、バーコードやRFID等を印刷、貼り付け又は埋め込むようにしてもよい。また、公知の印刷、エンボス、箔押し方式を用いて、絵柄や情報を印字、刻印、貼り付けしてもよい。
【0055】
本発明に係る吊り下げ具1及び吊り下げ具形成用シート1Aでは、そのシート材10Sの素材は、必ずしも限定されない。生分解性プラスチック、プラスチック、紙、パルプモールド、バルガナイズドファイバーなどが挙げられる。脱プラスチックや減プラスチックの点からは、プラスチック素材を使用しない紙であるのが望ましい。
【0056】
また、シート材10Sは、単層構造でも多層構造でもよい。フィルムのような単層樹脂製シートのみで構成されていてもよいし、紙や不織布のような繊維性素材からなるシートであってもよい。紙や不織布等の繊維性素材と樹脂製フィルムをラミネート等によって積層一体化したものでもよい。アルミ等の金属を蒸着させたものであってもよいし、金属箔を積層一体化したものでもよい。シート材10Sの厚さ、坪量、目付量は、必ずしも限定されない。なお、シート材10Sとして紙等の繊維素材の層を含むものとする場合は、上記の第一罫線11や第二罫線12は、圧縮により形成する折り筋とするのが特に好ましい。罫線部分の繊維が密となり、折り曲げやすく破断し難くなる。
【0057】
シート材10Sは、素材が紙であるかに関わらずJIS P 8125(2000)に準拠して測定されたテーバー剛直度が5~60mN・mであり、JIS P 8115(2001)に準拠して測定された耐折度が1.3以上であるのが望ましい。テーバー剛直度が5~60mN・m、耐折度が1.3以上であれば第一面部21及び第二面部22、さらに上面部23の強度が十分となり、例えば、使用時に意図せず第一面部21及び第二面部22の端縁から折れ難くなる。また、第一罫線11及び第二罫線12において、容易に略コ字状に形成することができる。さらに、シート材10Sに形成された第一罫線において、容易に略V字状に形成することができる。さらに、係止部形成部30Aから係止部30を容易に切り起こすことができ、また係止部30を切り起こし前の状態に容易に格納することができる。そして、格納した係止部30が瞬時に戻ることがなく、十分な格納状態が維持されやすいものとなる。
【0058】
さらに、このシート材10Sは、素材が紙であるかに関わらずJAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.18-1:2000に準拠して測定されるZ軸強度が400kN/m2以上であるのが望ましい。この吊り下げ具1では、係止部30が切り起こし可能な形状であり、トムソン加工等の打ち抜き、カッティングプロッター等のカッティングによって形成可能な形状となっている。上記のZ軸強度であれば、このような打ち抜きやカッティングが容易に行えるため製造しやすい。
【0059】
ここで、シート材10Sを紙とする場合、その坪量は、好ましくは250g/m2以上、より好ましくは300g/m2以上、特に好ましくは350g/m2以上である。十分な剛度を得られやすい。また、強度の点からは上限は限定されないが、過度に坪量が高いと、十分な剛度は得やすくなるが、厚みが増して抄造時にカレンダーロール等で折れジワが発生しやすくなるおそれがあり、この点からは上限値については、1470g/m2が好ましく、1240g/m2がより好ましい。さらに、係止部の切り起こし及び格納等の使用感がより良好となることから、さらに上限値は、1000g/m2であるのが望ましく、より望ましくは450g/m2である。紙厚は、250μm以上2,000μm以下が好ましい。なお、坪量は、JIS P 8124(2011)に記載の「紙及び板紙-坪量測定方法」に準拠して測定した値であり、紙厚は、JIS P 8118(2014)に記載の「紙及び板紙-厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した値である。
【0060】
シート材10Sを紙とする場合、構成繊維は、パルプ繊維、合成繊維とすることができる。脱プラスチックや減プラスチックの点からは、プラスチックを使用しない紙であるのが望ましく、合成繊維を含まない天然素材由来の繊維のみから構成される紙であるのが望ましい。好適には、パルプ繊維のみからなる紙が望ましい。
【0061】
シート材10Sを紙とする場合の好ましい構成パルプ繊維は、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等の針葉樹クラフトパルプ及び、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)等広葉樹クラフトパルプである。加工後の製品の外観及び強度を両立しやすいことから、特に、針葉樹晒クラフトパルプ及び広葉樹晒クラフトパルプを用いることが特に好ましい。その他のパルプとして、古紙パルプ、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ、あるいは、ケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的にまたは機械的に製造されたパルプ等の公知の種々のパルプを適宜組合せて使用されていれもよい。
【0062】
特にシート材10Sの素材として、脱プラスチックや減プラスチックの点で望ましい紙とする場合には、必ずしも限定されないが、第一罫線11が紙の縦方向(MD方向)に沿って配されているのが望ましい。このようにすると係止部30の屈伸方向が紙の縦方向に対して垂直になる。紙の縦方向は繊維が沿う方向であるため、裂けやすい性質がある。この吊り下げ具1においては、係止部30を介して吊り下げ棒4に吊り下げた際には、係止部30の基端部31では第一罫線11と直交する方向に引っ張られることになるが、上記のように第一罫線11が紙の縦方向に沿っている場合、係止部30が先端方向に引っ張られても、裂けが生じ難く、伸びやすく、可動域が広がりやすくなる。また、この場合、特に係止部30を形成するための切込みが、第一罫線11の切込み開始位置である基点P1,P2から紙製の横方向(CD方向)に向かうようにするのが望ましい。特に第一罫線11から垂直な部分を設けるのが望ましい。このようにするとより、係止部30の基端部31の近傍の強度をより確保しやすい。但し、本発明は、この形態に限定されない。例えば、加工時の面付効率の点から第一罫線11及び第二罫線12が紙の横方向(CD方向)に沿って配されている形態も含む。
【0063】
シート材10Sの素材をパルプ繊維で構成される紙とする場合、そのJIS P 8113(2006)に準拠して測定された縦方向の引張強度は、40kN/m以上かつ横方向の引張強度が10kN/m以上であるのが望ましい。この引張強度を有していれば、吊り下げ具として荷重が長時間掛かっても、破断や伸びが生じ難い。
【0064】
また、シート材10Sの素材を紙とする場合、製紙用添加剤としてサイズ剤及び紙力増強剤の少なくとも一方を添加するのが望ましい。所望の強度に調整しやすい。
【0065】
サイズ剤としては、スチレン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水琥珀酸(ASA)、中性ロジンサイズ剤、ロジンサイズ剤、変性ロジンエマルジョンサイズ剤などが挙げられる。これらの中でもロジンサイズ剤及び変性ロジンエマルジョンサイズ剤が好ましい。ロジンサイズ剤は、特に限定されない。ロジン系の物質は、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン類をフマル酸、マレイン酸、アクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸あるいはその無水物で変性した強化ロジンや、ロジン類をグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の多価アルコールを反応させて得られるロジンエステルを挙げることができる。また、ロジンサイズ剤には、これらの単独またはその混合物をエマルジョン化したもの、単独でエマルジョン化した後に混合したものも含まれる。さらに、エマルジョン化したものに、サイズ発現性をより向上させるために各種ポリマーを添加したものも含まれる。
【0066】
紙力増強剤としては、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミン系樹脂、アクリル樹脂系、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂など公知の種々のものを使用できる。これらの中でも、両性紙力増強剤を使用することが好ましい。両性ポリアクリルアミドとしては、アクリルアミドとアニオン性モノマー及びカチオン性モノマーの共重合物、アクリルアミドとアニオン性モノマーとの共重合物のマンニッヒ変性物、ホフマン分解物等が挙げられる。特に両性ポリアクリルアミドは、自己定着機能を有しているため、紙間強度を向上させるべく増添したとしても、カチオン過多になることがなく、変性ロジンエマルジョンサイズ剤とともに含むことでこれを安定的に定着させることができる。
【0067】
サイズ剤の添加量としては、固形分で0.5kg/t以上5.0kg/t以下が好ましい。紙力増強剤の添加量としては、固形分で12kg/t以上30kg/t以下が好ましい。なお、「kg/t」はパルプ1tあたりの質量(kg)を示す。サイズ剤の添加量をこの範囲とすることで、耐水性を向上できる。
【0068】
なお、シート材10Sは、本発明の目的とする効果を損ねない範囲でその他の各種添加剤を含有させることができる。
【0069】
ここで、シート材10Sを紙とする場合、特に、
図9に断面の模式図を示すように、表層51,51及び中層60を有する多層紙とするのが望ましい。単層の紙素材は、プラスチック素材と比較すると強度を高め難いが多層紙は、十分な強度としやすい。また、多層紙は、各層の特性を変えることができ、高密度ながら弾性を確保しやすい。そして、例えば、硬いが折れ易い傾向の一対の表層51に柔軟な中層60を組み合わせることで、強靭性や耐久性に優れるようになり、係止部30を切り起こしやすく、また、可倒式にしやすくなる。なお、多層紙は、多層抄きによって製造することができる。
【0070】
シート材10Sを多層紙とする場合、層の数は、限定されないが、五~九層とし、中層60の層数を三層以上、特に五層となるものが好ましい。
図9に示す形態では、三層の中層60を有するものとなっている。中層60の総数が三層以上であることで、多層紙の強靭性や耐久性をより向上できる。中層60の総数の上限としては、層間強度を維持する観点から、七層以下であることが好ましい。また、三層~七層は、円網多筒式抄き合わせ抄紙機を使用する場合における層間強度を維持しながら操業を行いやすい。
【0071】
多層紙とする場合も坪量は、シート全体として300g/m2以上1470g/m2以下とするのが好ましい。表層51及び中層60の坪量は、特に限定されないが、表層51の坪量としては、1層あたり50.0g/m2以上260.0g/m2以下が好ましい。また、中層全体の坪量としては、200g/m2以上950g/m2以下が好ましい。さらに、多層紙全体の坪量に対する一対の表層51,51の合計の坪量の割合としては、20.0%以上35.0%以下であることが好ましい。一対の表層の剛直性が高く、中層の柔軟性が優れるようになる。また、多層紙において、一対の表層の合計の坪量の割合を上記の範囲とすることで、折れ曲がり難い特性を付与することができる。多層紙とする場合の紙厚も、250μm以上2,000μm以下とするのが好ましい。紙厚がこの範囲であることで、紙層の剥がれが抑制できる。密度は、0.65~1.00g/cm3、特に0.73~0.85g/cm3が好ましい。多層紙の密度がこの範囲であることで、高坪量で剛性が優れつつ、折れ難いものとなる。
【0072】
また、シート材10Sを多層紙とする場合においては、表層51,51及び中層の各層に製紙用添加剤として上記のサイズ剤及び紙力増強剤の少なくとも一方を添加することが好ましい。この場合、表層のサイズ剤の添加量としては、固形分で0.5kg/t以上5.0kg/t以下が好ましい。また、中層のサイズ剤の添加量としては、固形分で2.0kg/t以上5.0kg/t以下が好ましい。また、各層の紙力増強剤の添加量としては、固形分で12kg/t以上30kg/t以下が好ましい。この範囲とすることで、多層紙の層間強度などの各種紙力を付与しやすい。
【0073】
また、各層を構成するパルプ繊維は、表層51及び中層60のパルプが、針葉樹クラフトパルプ及び広葉樹クラフトパルプを混合して配合することが望ましい。紙厚が厚くなり、十分な強度を確保できる。また、表層における前記針葉樹クラフトパルプと前記広葉樹クラフトパルプの質量比(%)を5/95以上40/60以下にすることで、剛直で高密度化しやすい広葉樹クラフトパルプが多く含有され、表層が高密度で剛直な特性となり、強度に優れるものとなりやすい。係る表層ととともに、中層については、針葉樹クラフトパルプと前記広葉樹クラフトパルプの質量比(%)を20/80以上40/60以下にするのが望ましい。柔軟性に富む針葉樹クラフトパルプを多く含有することになり、良好な柔軟性を備えるようになる。
【符号の説明】
【0074】
1…吊り下げ具、3…物品、4…吊り下げ棒、1A…吊り下げ具形成用シート、10S…シート材、11…第一罫線、12…第二罫線、20…本体部、21…第一面部、21E…第一面部の下端、22…第二面部、23…上面部、30…係止部、30t…係止部先端
31…基端部、32…通孔、30A…係止部形成部、41…連結スリット、51…表層
60…中層、S…切り込み、W…錘、P1,P2…基点、L1…第一罫線の長さ、L2…基端部の長さ、L3…上面部の幅、L4…第一面部と第二面部との間の距離、L5…係止部の長さ、L6…第一面部の長さ、L7…係止部先端と第一面部との距離。