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特許7350837反射防止機能及びエレクトロクロミック機能を有する眼用レンズ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】反射防止機能及びエレクトロクロミック機能を有する眼用レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/153 20060101AFI20230919BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20230919BHJP
   G02B 1/113 20150101ALI20230919BHJP
   G02B 1/116 20150101ALI20230919BHJP
   G02F 1/15 20190101ALI20230919BHJP
   G02B 1/14 20150101ALN20230919BHJP
【FI】
G02F1/153
G02C7/00
G02B1/113
G02B1/116
G02F1/15 503
G02B1/14
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021504334
(86)(22)【出願日】2019-07-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 EP2019070269
(87)【国際公開番号】W WO2020021107
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】18306022.7
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518007555
【氏名又は名称】エシロール・アンテルナシオナル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・トロティエ-ラポワント
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-114822(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0327950(US,A1)
【文献】特開2005-077825(JP,A)
【文献】特開2013-101309(JP,A)
【文献】特開2005-077605(JP,A)
【文献】特開2018-005210(JP,A)
【文献】特開昭60-045225(JP,A)
【文献】特開昭60-053939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/19
G02C 1/00-13/00
G02B 1/10-1/18
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前側主面と後側主面とを有する透明基材を含み、前記主面の少なくとも1つが、1.55以上の屈折率を有する少なくとも1つのHI層と1.55未満の屈折率を有する少なくとも1つのLI層とを含む多層干渉積層体(IF積層体)でコーティングされている眼用レンズであって、エレクトロクロミック積層体(EC積層体)が、
前記多層干渉積層体の一部であるか、又は
前記多層干渉積層体上に直接設けられる、
ことで多層干渉コーティング(IFコーティング)が形成されていることを特徴と
前記エレクトロクロミック積層体は互いに連続して配置された少なくとも5個のセラミック層を含み、基材からから出発して:
- 第1の透明導電性電極層(第1のTCO層)/1つのエレクトロクロミック層(EC層)/1つの誘電体スペーサー層(DS層)/1つのイオン貯留層(IR層)/第2の透明導電性電極層(第2のTCO層);又は
- 第1のTCO層/IR層/DS層/EC層/第2のTCO層;
の積層体を含む、眼用レンズ。
【請求項2】
前記第1及び前記第2の透明導電性電極層(TCO層)が、5~50nmの範囲の厚さを有する、請求項に記載の眼用レンズ。
【請求項3】
前記エレクトロクロミック積層体が、前記多層干渉積層体の前記少なくとも1つのHI層と前記少なくとも1つのLI層との間に配置される、請求項1または2に記載の眼用レンズ。
【請求項4】
少なくとも1つのHI層、及び少なくとも1つのLI層が、前記基材と前記エレクトロクロミック積層体との間に配置されており、前記HI層とLI層が交互である、請求項1~のいずれか1項に記載の眼用レンズ。
【請求項5】
前記エレクトロクロミック積層体が、前記基材と前記多層干渉積層体との間に配置される、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項6】
前記多層干渉コーティングが、
- 非活性化状態で2.5%以下の可視領域における平均光反射率R、及び
- 活性化状態で2.5%超の可視領域における平均光反射率R
を有し、前記平均光反射率が35°未満の入射角で測定される、請求項1~のいずれか1項に記載の眼用レンズ。
【請求項7】
前記多層干渉コーティングが、
- 前記非活性化状態で70%以上の可視領域における透過率T、及び
- 前記活性化状態で65%未満の可視領域における透過率T
を有する、請求項に記載の眼用レンズ。
【請求項8】
前記多層干渉コーティングが、
- 前記非活性化状態で12以下の彩度C*(反射)、及び/又は
- 前記活性化状態で15以上の彩度C*、
を有し、前記彩度C*が、国際表色法CIE L*a*b*に従って15°の入射角(θ)で測定される、
請求項又はに記載の眼用レンズ。
【請求項9】
前記多層干渉コーティングが、活性化状態と非活性化状態で2.5%超の可視領域における平均光反射率Rを有し、前記平均光反射率が35°未満の入射角で測定される、請求項1~のいずれか1項に記載の眼用レンズ。
【請求項10】
前記多層干渉コーティングが、活性化状態と非活性化状態で2.5%未満の可視領域における平均光反射率Rを有し、前記平均光反射率が35°未満の入射角で測定される、請求項1~のいずれか1項に記載の眼用レンズ。
【請求項11】
前記多層干渉コーティングが、
- 活性化状態で70%以下である420~450nmの範囲の平均透過率TmB1、及び/又は
- 活性化状態で10%超である465~495nmの範囲の平均透過率TmB2
を有する、請求項1~及び10のいずれか1項に記載の眼用レンズ。
【請求項12】
前記多層干渉コーティングが、35°未満の入射角で、活性化状態及び/又は非活性化状態で10%以上の、780~1400nmの波長範囲の近赤外線(NIR)領域における平均反射率(以降R NIRと呼ぶ)を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の眼用レンズ。
【請求項13】
前記多層干渉コーティングが、活性化状態で:
- 5.0%以上の、「前面反射」と呼ばれる、前記前側主面の可視領域における平均光反射率R、及び
- 2.5%未満の、「裏面反射」と呼ばれる、前記後側主面の可視領域における平均光反射率R
を有し、前記平均光反射率が35°未満の入射角で測定される、請求項1~のいずれか1項に記載の眼用レンズ。
【請求項14】
前記エレクトロクロミック積層体を含む前記干渉コーティングの総厚さが1μm以下である、請求項1~13のいずれか1項に記載の眼用レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学製品、特には多層透明干渉コーティングで、好ましくはエレクトロクロミック積層体(EC)を有する反射防止(AR)コーティングでコーティングされた透明基材を含む眼用レンズ、特に眼用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼用レンズ又はレンズブランクなどのレンズ基材の少なくとも1つの主面を、完成したレンズに追加の又は改善された光学的若しくは機械的特性を付与するための複数のコーティングでコーティングすることは当該技術分野における一般的な慣行である。これらのコーティングは、一般的に機能性コーティングと呼ばれている。
【0003】
例えば、典型的には有機ガラス材料製であるレンズ基材の少なくとも1つの主面を、レンズ基材の表面から出発して、耐衝撃性コーティング(耐衝撃性プライマー)、耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性コーティング(ハードコート)、反射防止コーティング又はミラーコーティング、並びに任意選択的に、防汚トップコートで逐次的にコーティングするのが通常の慣行である。
【0004】
反射防止コーティングは、通常は干渉薄層、一般的には高屈折率の誘電材料と低屈折率の誘電材料とに基づく交互の層を含む多層コーティングからなる。透明な基材上に設けられる場合、そのようなコーティングの機能は、その光の反射を低減し、結果としてその光の透過を増加させることである。そのため、そのようにコーティングされた基材は、その透過光/反射光比が増加し、それによりその後ろに配置されている物体の視認性を改善する。最大の反射防止効果を得ることが求められる場合、基材の両面(前面及び後面)にこのタイプのコーティングを設けることが好ましい。
【0005】
したがって、従来の反射防止コーティングは、典型的には380~780nmのスペクトル範囲内で、可視領域のレンズ表面での反射を低減するように設計及び最適化されている。これらは、特に眼用レンズの場合、着用者及びその対話相手への不快な反射の生成を防ぐようにも設計されている。反射コーティングは反対の効果、すなわち光線の反射の増加を実現する。そのようなタイプのコーティングは、例えば、ソーラーレンズのミラー効果を得るために使用される。
【0006】
一般的には、眼用レンズの前面及び/又は後面の可視領域における平均光反射率Rは2.5%以下である。
【0007】
従来の反射防止コーティングは、レンズの前面に配置された場合に紫外光帯域(280~380nm)で大きく反射するように設計できるが、レンズの裏面(後面)からのUV反射から保護するために、レンズの裏面に配置された場合にはこれらの波長で反射を防止するように設計することができる。
【0008】
近年、「健康」要件の高まりにより、特に眼用レンズの用途において、反射防止コーティングに近赤外線(NIR)(780~1400nm)及び/又は青色光(420~450nm)からの保護が追加で必要とされている。
【0009】
実際、多くの研究から、高エネルギーの青色光が目、特に網膜に光毒性の影響を及ぼすことが示唆されている。青色光、特に波長が450nm未満の光毒性を有する青色光に過度にさらされると、破壊される可能性がある。光毒性を有する青色光は、加齢性黄斑変性症(AMD)の重要な要因とみられている。光毒性を有する青色光に長時間さらされると、網膜が損傷を受ける可能性がある。眼精疲労、かすみ目、ドライアイ、及び頭痛を経験する主な理由の1つとして、青色発光デジタルデバイス(コンピューター、スマートフォン、タブレットなど)の長時間の使用(1日あたり3~4時間超)が報告されている。
【0010】
強いNIRも網膜に有害な可能性がある。加えて、NIRはドライアイや白内障の潜在的な原因の1つである可能性があることが報告されている。
【0011】
偏光コーティング、フォトクロミック、エレクトロクロミック、又は染色コーティングなどの他のコーティングをレンズ基材の片面又は両面に設けることもできる。
【0012】
特に、特定の波長の可視光又は紫外光の遮断を含む特定の利点を得るために、エレクトロクロミックコーティングを光学製品に使用することができる。
【0013】
そのような利点は、フォトクロミック材料を使用してある程度達成することができるものの、フォトクロミック材料は、エレクトロクロミック材料に対して一定の欠点を有している。例えば、エレクトロクロミック材料は必要に応じて活性化及び非活性化することができる一方で、フォトクロミック材料は周囲の照明の程度などの外部刺激に応答するのみである。
【0014】
これまで、エレクトロクロミック光学製品、特にエレクトロクロミック眼鏡レンズは一定の欠点を有していた。これらとしては、見た目に美しい方法で可視スペクトル全体の光を遮断できないこと、又は消費者が期待する範囲のコントラスト又は遮断を得られないことが挙げられる。
【0015】
加えて、エレクトロクロミック眼鏡は市場で未だ広く受け入れられていない。
【0016】
したがって、これらの問題のいくつかを少なくとも部分的に解決できる新規な光学製品、特に眼用レンズを提供することが求められている。
【0017】
また、エレクトロクロミック特性を維持し、且つ審美的効果(美的外観)を有しながらも、透過だけでなく反射も変えることができる新規な光学製品、特に眼用レンズを提供することも求められている。
【0018】
また、新規の光学製品、特に近赤外領域での反射及び/又は有害な青色光領域での反射を要求に応じて提供することができる眼用レンズを提供することも求められている。
【0019】
本明細書に記載の眼用レンズは、商業的に実行可能なエレクトロクロミック眼用レンズの開発が遅いことの原因となった上述した問題の1つ以上に対処するために提供される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、実際に、必要に応じて反射を変えることができる、すなわち多層干渉コーティングが非活性化状態から活性化状態に変化した際に、反射を反射防止状態からミラー状態に、又は第1のミラー状態から第2のミラー状態に変化させることができる、透明な光学製品、特に無機多層干渉コーティング、好ましくは反射防止コーティング(以降「ARコーティング」と呼ぶ)を有する有機又は無機ガラス基材を含む眼用レンズ、好ましくはレンズ、より好ましくは眼鏡用の眼用レンズを提供することである。
【0021】
「ミラー状態」とは、多層干渉コーティングが、2.5%より大きい、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上の平均光反射率「R」を有することを意味し、「反射防止状態」とは、多層反射防止コーティングが2.5%以下の平均光反射率を有することを意味する(17°以下の入射角、より好ましくは15°の入射角について)。
【0022】
本出願では、Rで表される「平均光反射率」は、ISO 13666:1998規格で定義されているようなものであり、ISO 8980-4規格に従って測定される(17°未満、典型的には15°の入射角について)。つまり、これは380~780nmの可視スペクトル全体にわたる重み付けされたスペクトル反射平均である。
【0023】
本発明の第2の目的は、近赤外(NIR)領域(780~1400nm)及び/又は有害な青色光領域(400~460nm、好ましくは415~455nm、より好ましくは420~450nm)での反射を変えることができるARコーティングを有する本発明による光学製品、特に眼用レンズを提供することである。
【0024】
本発明の別の目的は、着用者の目を保護するために前記眼用レンズの後面での反射(以降で「裏面反射」という)を低減することができる、ARコーティングなどの干渉コーティングを有する本発明による光学製品、特に眼用レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、これらの課題が、特にエレクトロクロミック(EC)積層体から形成された多層干渉コーティングを提供することによって解決できることを見出した。
【0026】
実際、多層干渉積層体の一部であるか、多層干渉コーティングを形成するように多層干渉積層体上に直接設けられたエレクトロクロミック積層体は、このように形成された多層干渉コーティングの干渉効果に寄与する。すなわちエレクトロクロミック効果と多層干渉コーティングの干渉効果の両方にエレクトロクロミック積層体の一部の層が寄与する。EC積層体が活性化状態になると、前記EC積層体のエレクトロクロミック層(WO層など)の屈折率と吸光係数「k」が変化し、これにより、多層干渉コーティングの干渉条件も変化し、結果としてその光学特性も変化する。
【0027】
したがって、本発明は、前側主面と後側主面とを有する透明基材を含み、前記主面の少なくとも1つが、1.55以上の屈折率を有する少なくとも1つのHI層と1.55未満の屈折率を有する少なくとも1つのLI層とを含む多層干渉積層体でコーティングされている光学製品、特には眼用レンズであって、エレクトロクロミック(EC)積層体が、
- 前記多層干渉積層体の一部であるか、又は
- 前記多層干渉積層体上に直接設けられる、
ことで多層干渉コーティングが形成されていることを特徴とし、
前記エレクトロクロミック積層体が、電位が印加されたときの活性化状態から、逆電位が印加されたときの非活性化状態に可逆的に切り替わることができる、光学製品、特には眼用レンズに関する。
【0028】
通常、多層干渉コーティングの総厚さは1μm以下である。
【0029】
特に、EC積層体はエレクトロクロミック層を含み、前記エレクトロクロミック層の屈折率は、活性化状態と非活性化状態で異なる。
【0030】
エレクトロクロミズムは周知の物理現象であり、これは電圧が印加されると可逆的に色が変化する特定の分類の化合物で観察される。エレクトロクロミック材料は、酸化と還元によって光学特性が可逆的に変化する。実際には、エレクトロクロミック材料の光学特性はその酸化状態と関連しており、そのため、電子数の減少又は増加による酸化還元プロセスによって操作することができる。一般的には、エレクトロクロミック材料は、電場が印加されていないときには無色であり、電場が印加されると着色される。エレクトロクロミックの色の変化に必要な電場は、通常非常に低い。電流の流れが停止された場合であっても色は残り(いわゆる「メモリー効果」)、逆の電位が印加されると色の変化は可逆的である。
【0031】
したがって、エレクトロクロミック積層体を含む本発明による多層干渉コーティング、好ましくは反射防止コーティングは、その特徴のため、その光学特性及び/又は反射色(審美的効果)が活性化状態と非活性化状態間で、並びに着用者の必要に応じて変化し得る眼用レンズを提供することができる。
【0032】
本発明の他の目的、特徴、及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、この詳細な説明から本発明の趣旨及び範囲内の様々な変更及び修正が当業者に明らかになるため、詳細な説明及び具体的な例は、本発明の特定の実施形態を示しているものの、例示としてのみ示されているに過ぎないことを理解すべきである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
1.定義
本明細書において、電位が印加されたときに光学特性の可逆的且つ持続的な変化を維持する能力を材料が有する場合、その材料は「エレクトロクロミック」である(Chatten and al.2005)。これは、電解質又はイオン伝導体と接触している材料へのイオン及び電子の挿入及び/又は抽出の組み合わせに依存する可逆的な色の変化も示す(Hjelm and al.1996)。
【0034】
用語「含む(comprise)」(並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などのその文法的変形形態)、「有する(have)」(並びに「有する(has)」及び「有する(having)」などのその文法的変形形態)、「含む(contain)」(並びに「含む(contains)」及び「含む(containing)」などのその文法的変形形態)、並びに「含む(include)」(並びに「含む(includes)」及び「含む(including)」などのその文法的変形形態)は、オープンエンドの連結動詞である。これらは、述べられる特徴、整数、工程、若しくは構成要素、又はこれらの群の存在を規定するために使用されるが、1つ以上のその他の特徴、整数、工程、若しくは構成要素、又はこれらの群の存在又は追加を排除するものではない。結果として、1つ以上の工程又は要素を「含む(comprises)」、「有する」、「含む(contains)」、又は「含む(includes)」方法又は方法内の工程は、それらの1つ以上の工程又は要素を有するが、それらの1つ以上の工程又は要素のみを有することに限定されない。
【0035】
別段の指示がない限り、本明細書で使用される成分の量や反応条件などを指す全ての数字又は表現は、全ての場合において用語「約」によって修飾されているものとして理解される。
【0036】
また、別段の指示がない限り、本発明による「X~Y」又は「XとYとの間」の値の間隔の表示は、X及びYの値を含むことを意味する。
【0037】
本出願において、光学製品又は眼用レンズがその表面上に1つ以上のコーティングを含む場合、「製品上に層又はコーティングを設ける」という表現は、層又はコーティングが、製品の外側コーティングの外部(露出)表面上に設けられること、すなわち基材から最も離れたコーティングを意味することが意図されている。
【0038】
基材「上にある」又は基材「の上方に設けられている」とされるコーティングは、(i)基材の上に配置されているコーティングとして、(ii)基材と必ずしも接触していない、すなわち基材と当該コーティングとの間に1つ以上の中間コーティングが配置されていてもよいコーティングとして、及び(iii)必ずしも基材を完全に覆っていないコーティングとして、定義される。
【0039】
好ましい実施形態では、基材上のコーティング又は基材の上方に設けられたコーティングは、この基材と直接接触している。
【0040】
「層2の下/下方の層1」とは、層2が層1よりも基材から離れていることであると理解される。
【0041】
「層2の上/上方にある層1」とは、層2が層1よりも基材に近いことであると理解される。
【0042】
多層干渉コーティングという用語は、以降で「IFコーティング」と呼ばれる。「IFコーティング」と「多層干渉積層体」(以降「IF積層体」)は同じ意味ではない。実際には、本明細書では、本発明によるIFコーティングは、エレクトロクロミック積層体(EC積層体)と、多層反射防止(AR)積層体(以降で「AR積層体」と呼ぶ)などのIF積層体とから形成される。
【0043】
多層反射防止コーティングという用語は、以降で「ARコーティング」と呼ばれ;「ARコーティング」と「AR積層体」は同じ意味ではない。
【0044】
IF又はARコーティングの最外層とは、基材から最も遠いIF又はARコーティングの層を意味する。
【0045】
IF又はARコーティングの最内層とは、基材に最も近いIF又はARコーティングの層を意味する。
【0046】
IF又はARコーティングの内層とは、前記ARコーティングの最外層を除いた反射防止コーティングの全ての層を意味する。
【0047】
別段の規定がない限り、本出願で言及される屈折率は、550nmの波長で25℃で表される。
【0048】
本発明による多層反射防止コーティングは、裸の基材、すなわちコーティングされていない基材の主面の少なくとも1つの上に形成されていてもよく、或いは耐摩耗性コーティングなどの1つ以上の機能性コーティングで既にコーティングされている基材の主面の少なくとも1つの上に形成されていてもよい。
【0049】
本明細書において、基材の後面(又は内側面又は凹面又はCC面)とは、製品を使用する際に着用者の目から最も近くなる面を意味することが意図されている。これは一般的には凹面である。逆に、基材の前面(又は凸面又はCX面)は、製品を使用する際に着用者の目から最も遠くなる面である。これは一般的に凸面である。
【0050】
また、本明細書において、「可視光範囲(380~780nm)で透明な基材」は、少なくとも1つの入射角において、最大0.2%の光吸収を有する基材を意味する。実際、0.2%を超えると基材は不透明であるとみなされる。
【0051】
一実施形態では、本発明による眼用レンズは、43%超、好ましくは80%超、より好ましくは90%以上、更には95%以上のT(以降で定義する)を有する。
【0052】
更に、本発明によれば、「入射角(記号θ)」は、眼用レンズ表面に入射する光線と、入射地点の表面に対する垂線とにより形成される角度である。光線は、例えば国際表色法CIE L*a*b*で定義されている標準光源D65などの照明光源である。一般に、入射角は0°(垂直入射)から90°(かすめ入射)まで変化する。入射角の通常の範囲は0°~75°である。
【0053】
国際表色系CIE L*a*b*(1976)における本発明の光学製品/眼用レンズの表色係数は、標準光源D65及び観察者を考慮して(角度10°)、380~780nmで計算される。観察者は、国際表色系CIE L*a*b*で定義される「標準観察者」である。色相角(「h°」)に関しては制限なく反射防止コーティングを作製することが可能である。
【0054】
系の「視感透過率」とも呼ばれるT係数は、規格ISO 13666:1998で定義されているようなものであり、各波長範囲における目の感度に応じて重み付けされた380~780nmの波長範囲の平均に関し、D65照明条件(昼光)で測定される。
【0055】
本明細書では、別段の規定がない限り、透過率(transmittance)/透過率(transmission)は、0°~15°の範囲の入射角、好ましくは0°の入射角で、0.7~2mmの範囲の厚さ、好ましくは0.8~1.5mmの範囲の厚さの光学製品/眼用レンズの中心で測定される。本明細書において、透過光とは、光学製品/眼用レンズの前側主面に到達してレンズを通過した光を指す。
【0056】
本明細書において、Rと記される「視感反射率」は、ISO 13666:1998規格で定義されているようなものであり、ISO 8980-4に従って測定される。つまり、これは380~780nmの可視スペクトル全体にわたる重み付けされたスペクトル反射平均である。Rは、通常17°未満、典型的には15°の入射角で測定されるものの、任意の入射角について評価することができる。
【0057】
本出願では、別段の記載がない限り、R係数は15°の入射角で測定されたものである。
【0058】
本出願では、吸光係数「k」は、ランベルト・ベールの法則による吸光係数αと相関する。すなわち、α=4πk/λであり、λは光の波長である。
【0059】
本発明は、眼用の要素及びデバイス、ディスプレイ用の要素及びデバイス、窓、又は鏡などの、あらゆる種類の光学デバイス及び要素に使用することができる。眼用の要素の非限定的な例としては、セグメント化されていてもセグメント化されていなくてもよい単焦点又は多焦点のレンズなどの矯正及び非矯正レンズ、及び視力を矯正、保護、又は強化するために使用される他の要素、拡大鏡、並びに保護レンズ若しくはバイザー(眼鏡、双眼鏡、ゴーグル、及びヘルメットにおいてみられるようなもの)が挙げられる。ディスプレイ用の要素及びデバイスの非限定的な例としては、画面及びモニターが挙げられる。窓の非限定的な例としては、自動車及び航空機の透明シート、フィルター、シャッター、及び光スイッチが挙げられる。
【0060】
本明細書における光学製品は、レンズ又はレンズブランクなどの透明な光学製品であり、より好ましくは、眼用レンズ又はレンズブランクである。光学製品/眼用レンズは、本発明の方法を使用して、その凸状の主面(前面)、凹状の主面(裏面)、又は両面にコーティングすることができる。
【0061】
2.眼用レンズ
前述したように、本発明による光学製品、特に眼用レンズは、前側主面と後側主面とを有する上で定義したようなものなどの透明基材を含み、前記主面の少なくとも1つが、1.55以上の屈折率を有する少なくとも1つのHI層と1.55未満の屈折率を有する少なくとも1つのLI層とを含む多層干渉積層体(IF積層体)、好ましくは反射防止積層体(AR積層体)でコーティングされており、エレクトロクロミック積層体(EC積層体)が、
- 前記多層干渉積層体の一部であるか、又は
- 前記多層干渉積層体上に直接設けられる、
ことで多層干渉コーティング(IFコーティング)、好ましくは多層反射防止コーティング(ARコーティング)が形成されていることを特徴とし、
前記エレクトロクロミック積層体は、電位が印加されたときの活性化状態から、逆電位が印加されたときの非活性化状態に可逆的に切り替わることができる。
【0062】
通常、多層干渉コーティングの総厚さは1μm以下である。
【0063】
特に、EC積層体は、複数のエレクトロクロミック材料層を含み、その結果、本発明によるIFコーティング、好ましくはARコーティングは、EC積層体とAR積層体とから形成される。上述したように、EC積層体は、形成されたIFコーティングの干渉効果に寄与する。つまり、EC積層体の層の一部は、IF積層体の異なる層(すなわち少なくともHI層とLI層)と共に寄与して干渉効果を与える。
【0064】
本発明の第1の実施形態によれば、EC積層体は、IFコーティングを形成するためのIF積層体の一部である。したがって、この実施形態では、EC積層体の異なる層は、IF積層体の異なる層の中に含まれる。好ましくは、EC積層体の全ての異なる層は、IF積層体の2つの異なる層(HI層及びLI層など)の間に配置される。特に、この実施形態では、EC積層体の異なる層は、特に直接接触して上下に配置され、IF積層体の異なる層はEC積層体を取り囲む。
【0065】
本発明の第2の実施形態によれば、EC積層体は、IFコーティングを形成するために、IF積層体上に直接設けられる。したがって、この実施形態によれば、EC積層体はIF積層体に重ね合わされる。すなわち、EC積層体の異なる層が、IF積層体の異なる層に重ね合わされる。この実施形態によれば、EC積層体の異なる層も上下に、特には直接接触して配置され、IF積層体の異なる層も上下に、特には直接接触して配置される。
【0066】
通常、エレクトロクロミック積層体は、互いに連続して配置された5つのセラミック層である少なくとも5個のエレクトロクロミック材料層を含み、好ましくは少なくとも5個のセラミック層のそれぞれが酸化物である。
【0067】
特に、エレクトロクロミック積層体は、第1及び第2の透明導電性電極層(以降「TCO層」と呼ぶ)と、前記第1と第2の透明導電性電極層の間に配置される以下の層:1つのエレクトロクロミック層(以降「EC層」と呼ぶ)、1つのイオン貯留層(以降「IR層」と呼ぶ)、及び1つの誘電体スペーサー層(以降「DS層」と呼ぶ)とを含み、前記DS層は、EC層とIR層との間に配置される。
【0068】
通常、第1及び第2の透明導電性電極層(TCO層)は、5~50nmの範囲、好ましくは5~30nmの範囲、典型的には5~25nmの範囲の厚さを有する。
【0069】
本発明によれば、5~50nmの範囲の厚さには、以下の値及びそれらの間の任意の間隔が含まれる:5;6;7;8;9;10;11;12;13;14;15;16;17;18;19;20;21;22;23;24;25;26;27;28;29;30;31;32;33;34;35;36;37;38;39;40;41;42;43;44;45;46;47;48;49;50。
【0070】
通常、エレクトロクロミック積層体は以下の積層体を含む:
- 第1のTCO層/EC層/DS層/IR層/第2のTCO層;又は
- 第1のTCO層/IR層/DS層/EC層/第2のTCO層。
【0071】
例えば、第1のTCO層及び第2のTCO層は、In:Sn又はインジウムスズ酸化物(ITO)、SnO、Au、Ag、Cuなどの半導体酸化物から選択される1種以上の金属酸化物を含み、好ましくはこれはITO層である。
【0072】
通常、ITO(スズドープ酸化インジウム)層は、10%の酸化インジウムから構成される。
【0073】
EC層は、WO、TiO、Nb、MoO、Ta、V、TiOなどの1種以上のカソードEC材料を含んでいてもよく、好ましくはこれはWO層であり、或いはNiO、IrO、Cr、MnO、FeO、CoO、Vなどの1種以上のアノード材料を含んでいてもよく、好ましくはこれはNiO層である。通常、EC層は、WOなどのカソードEC材料を含んでいてもよい。
【0074】
通常、EC層は、10~200nmの範囲の厚さ、好ましくは20~190nmの範囲の厚さを有する。
【0075】
DS層は、Ta、SiO、Al、TiO、ZrO、Nb、Cr、Sb、LiNbO、LiBO、LiTaOから選択される1種以上の酸化物系材料を含んでいてもよく、これは好ましくはTa又はSiOである。
【0076】
通常、DS層は、10~200nmの範囲、好ましくは20~190nmの範囲の厚さを有する。
【0077】
本発明に従い適切であると考えられるIR層は、ZrO2、NiO、IrO、Cr、MnO、FeO、CoO、Vなどの1種以上のアノード材料を含み、好ましくはこれはNiO層である。
【0078】
通常、IR層は、10~200nmの範囲、好ましくは20~190nmの範囲の厚さを有する。
【0079】
本発明の第1の実施形態によれば、前記エレクトロクロミック積層体は、好ましくは、IF積層体、好ましくはAR積層体のHI層又はLI層と(別の)LI層との間に配置される。
【0080】
本発明のこの実施形態によれば、2つのHI層などの少なくとも1つのHI層、及び2つのLI層などの少なくとも1つのLI層が、前記基材と前記エレクトロクロミック積層体との間に配置され、HI層とLI層は好ましくは交互である。通常、少なくとも1つのHI層と1つのLI層は、前記基材と前記エレクトロクロミック積層体との間に配置される。特に、このように形成されたIFコーティングの最外層は、好ましくはエレクトロクロミック積層体上に配置されるLI層である。特に、AR積層体は、前記基材と前記エレクトロクロミック積層体との間に配置された1つのHI層及び1つのLI層と、EC積層体(最外層)の上に配置された別のLI層とを含む。
【0081】
本発明のこの第1の実施形態によれば、EC積層体の層は、好ましくは干渉コーティングのHI層及びLI層であり、これらは干渉コーティングの光学特性に寄与する干渉層である。これらの厚さ及び材料は、EC積層体のEC特性を維持しながらも、干渉積層体の他の層と組み合わせて干渉コーティングの望ましい光学特性が得られるように選択される。
【0082】
本発明の第2の実施形態によれば、エレクトロクロミック積層体は、前記基材と前記IF積層体との間に配置され、好ましくは、前記EC積層体は、片面が基材上に配置され、他方の面がIF積層体と直接接触することで、EC積層体+IF積層体の重ね合わせが形成される。本発明の特徴によれば、前記EC積層体は基材と直接接触することができ、本発明の別の特徴によれば、EC積層体は以下で説明するような1つ以上の機能性コーティングでコーティングされ得ることから、EC積層体は基材と直接接触しない。
【0083】
本発明のこの実施形態によれば、2つのHI層などの少なくとも1つのHI層、及び2つのLI層などの少なくとも1つのLI層が、前記エレクトロクロミック積層体の上に配置され、HI層とLI層は好ましくは交互である。通常、少なくとも1つのHI層及び2つのLI層が、好ましくは交互に、前記エレクトロクロミック積層体の上に配置され、典型的には、前記2つのLI層のうちの1つが最外層である。
【0084】
通常、これらの2つの実施形態では、前記IFコーティングの外層、好ましくは基材から最も遠いARコーティングは、LI層である。
【0085】
特に、IF積層体のLI層、好ましくは基材から最も遠いAR積層体は、55~140nm、好ましくは60~110nmの範囲の物理的厚さを有する。
【0086】
したがって、通常、本発明のIF積層体、好ましくはAR積層体は、高屈折率(HI)の少なくとも1つの層と、低屈折率(LI)の少なくとも1つの層、好ましくは2つのLI層とを含む。より好ましくは、反射防止コーティングの層の合計数が2以上、好ましくは3以上、好ましくは7以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは5以下、最も好ましくは3層であるため、ここでは単純な積層体が含まれる。
【0087】
本明細書において、IFコーティング、好ましくはARコーティングの層は、1nm以上の厚さを有するものとして定義される。したがって、干渉コーティングの層の数を数える際には、1nm未満の厚さを有する層は考慮されない。反射防止コーティングの層の数を数える際には、副層も考慮されない。
【0088】
別段の規定がない限り、本出願で開示される全ての厚さは、物理的な厚さに関する。
【0089】
したがって、通常、本発明によるIFコーティング、好ましくはARコーティング(IF積層体(好ましくはAR積層体)とEC積層体の両方を含む)は、6以上、好ましくは7以上、好ましくは8以上の層の合計数を含む。本発明によるIFコーティング、好ましくはARコーティングは、15以下、好ましくは13以下、好ましくは12以下、更に好ましくは11以下、最も好ましくは10の層の合計数を含み得る。
【0090】
特に、干渉コーティングのHI層及びLI層は、本発明の一実施形態によれば、可能ではあるものの、積層体内で互いに交互である必要はない。したがって、2つのHI層(又はそれ以上)は互いの上に設けられてもよく、並びに2つのLI層(又はそれ以上)が互いの上に設けられてもよい。
【0091】
通常、干渉コーティング、好ましくはARコーティング中の全てのHI層の物理的厚さの合計は、15nm~260nmの範囲であり、好ましくは20nm~240nmの範囲である。
【0092】
本出願において、干渉コーティング、好ましくは反射防止コーティングの層は、その屈折率が1.55以上、好ましくは1.6以上、更に好ましくは1.95などの1.90以上、更に好ましくは2.14などの2.00以上である場合に、高屈折率(HI)の層であるとされる。
【0093】
干渉コーティング、好ましくは反射防止コーティングの層は、その屈折率が1.55未満、好ましくは1.50以下、より好ましくは1.48以下である場合に、低屈折率層(LI)であるとされる。前記LI層は、好ましくは、1.36より大きい屈折率を有する。
【0094】
別段の規定がない限り、本出願で言及される屈折率は、550nmの波長で25℃で表される。
【0095】
HI層は、当該技術分野で周知の従来の高屈折率層である。これは、通常、限定するものではないが、ジルコニア(ZrO)、アルミナ(Al)、五酸化タンタル(Ta)、酸化プラセオジム(Pr)、チタン酸プラセオジム(PrTiO)、酸化ランタン(La)、酸化イットリウム(Y)、酸化ニオブ(Nb)、二酸化チタン(TiO)、及びこれらの混合物などの1種以上の金属酸化物を含む。好ましい材料としては、ジルコニア(ZrO)、五酸化タンタル(Ta)が挙げられる。任意選択的には、HI層は、上に示されるように、1.6以上の屈折率を有するという条件で、低屈折率のシリカ又は他の材料を更に含んでいてもよい。本発明の特徴によれば、HI層は二酸化チタン(TiO)を含まない。
【0096】
LI層も周知であり、限定するものではないが、MgF、SiO、シリカとアルミナの混合物、特にアルミナでドープされたシリカ(アルミナは反射防止コーティングの耐熱性の増加に寄与する)、又はこれらの混合物が含まれ得る。LI層は、好ましくは、層の総重量に対して、少なくとも80重量%のシリカ、より好ましくは少なくとも90重量%のシリカを含む層であり、更に好ましくは、シリカ層(SiO)からなる。任意選択的には、得られる層の屈折率が1.6未満であるという条件で、LI層は、高屈折率又は非常に高い屈折率を有する材料を更に含んでいてもよい。
【0097】
SiOとAlとの混合物を含むLI層が使用される場合、これは好ましくはそのような層の中のSiO+Alの合計重量に対して1~10重量%、より好ましくは1~8重量%、更に好ましくは1~5重量%のAlを含む。
【0098】
例えば、4重量%以下のAlでドープされたSiO、又は8%のAlでドープされたSiOを使用することができる。Umicore Materials AG社が販売しているLIMA(登録商標)(550nmで屈折率n=1.48~1.50)又はMerck KGaA社が販売しているL5(登録商標)(500nmで屈折率n=1.48)などの、市販のSiO/Al混合物を使用することができる。
【0099】
IFコーティングの総厚さは、1000nm以下、好ましくは800nm以下、より好ましくは600nm以下であり、典型的には550nm以下、更に好ましくは535nm以下である。IFコーティングの総厚さは、通常100nm以上、好ましくは150nm以上である。
【0100】
本発明によれば、1000nm以下の総厚さは、以下の値及びそれらの間の任意の間隔を含む:1000;950;900;850;800;750;700;650;600;550;500;540;530;など。
【0101】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ARコーティングなどのIFコーティングは、基材から離れる方向に、互いに直接接触している以下の層を含んでいてもよい:
(1)IF積層体のHI層;
(2)IF積層体のLI層;
(3)上で定義されたEC積層体(すなわち第1のTCO層/EC層/DS層/IR層/第2のTCO層からなる;又は第1のTCO層/IR層/DS層/EC層/第2のTCO層からなる);
(4)IF積層体のLI層。
【0102】
特に、この実施形態によれば、IFコーティングは、基材から離れる方向に:
(1)15~200nmの範囲の物理的厚さを有するHI層;
(2)8~200nmの範囲の物理的厚さを有するLI層;
(3)上で定義されたEC積層体;
(4)60~140nmの範囲の物理的厚さを有するLI層;
を含んでいてもよい。
【0103】
本発明の別の実施形態によれば、IFコーティングは、基材から離れる方向に、互いに直接接触している以下の層を含んでいてもよい:
(1)上で定義されたEC積層体;
(2)IF積層体のLI層;
(3)IF積層体のHI層及び;
(4)IF積層体のLI層。
【0104】
例えば、この実施形態によれば、IFコーティングは、基材から離れる方向に:
(1)上で定義されたEC積層体;
(2)8~200nmの範囲の物理的厚さを有するLI層;
(3)15~200nmの範囲の物理的厚さを有するHI層;
(4)60~140nmの範囲の物理的厚さを有するLI層;
を含んでいてもよい。
【0105】
本発明によれば、「8~200nmの範囲」の物理的厚さには、以下の値及びそれらの間の任意の間隔が含まれる:8;9;10;11;12;;13;14;15;16;17;18;19;20;25;30;35;40;45;50;55;60;65;70;75;80;85;90;95;100;105;110;120;130;140;150;160;170;180;190;200。同様に本発明によれば、「5~200nmの範囲」の物理的厚さには、以下の値及びそれらの間の任意の間隔が含まれる:15;16;17;18;19;20;25;30;35;40;45;50;55;60;65;70;75;80;85;90;95;100;105;110;120;130;140;150;160;170;180;190;200。また、「60~140nmの範囲」の物理的厚さには、以下の値及びそれらの間の任意の間隔が含まれる:60;65;70;75;80;85;90;95;100;105;110;120;130;140。
【0106】
前述したように、本発明によるEC積層体はエレクトロクロミック特性を示す。これは、電位を印加すると可逆的に色を変化させるか、又は印加される電位の大きさを変化させると可逆的に色を変化させることを意味する。
【0107】
通常、印加電位は|0(0を含まず)~2V|の範囲である。例えば、2Vの電位により、EC積層体を概して透明な非活性化状態(初期)から着色した活性化状態に完全に切り替えることができる。
【0108】
いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック積層体は、例えば電位の半分を印加することによって、少なくとも部分的に活性化することができる。
【0109】
通常、本発明のARコーティングなどのIFコーティングの様々な層に適した材料及び厚さを選択することによって(すなわちEC積層体及びIF積層体から形成)、R、R、R NIR、R などの望まれる様々な光学パラメータを得ることが可能である。
【0110】
本発明のいくつかの実施形態では、ARコーティングなどのIFコーティングは、電位が印加されていないときは透明(脱色)であり、電位が印加されているときは着色(鏡面反射)される。
【0111】
したがって、本発明のこの実施形態によれば、IFコーティングは:
- 非活性化状態で2.5%以下の可視領域における平均光反射率R、及び
- 活性化状態で2.5%超、好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上、特には14%以上の可視領域における平均光反射率R
を有し、平均光反射率は17°未満の入射角で測定される。
【0112】
本発明のこの実施形態によれば、IFコーティングは:
- 非活性化状態で90%以上、より好ましくは95%以上の可視範囲における透過率T、及び
- 活性化状態で65%未満、より好ましくは55%以下の可視範囲における透過率T
を有することができる。
【0113】
好ましくは、本発明による眼用レンズの透過率も、上の範囲内のTを有する。
【0114】
例えば、IFコーティングは、
- 非活性化状態で12以下、好ましくは10以下の彩度C*(反射)、及び/又は
- 活性化状態で15以上、好ましくは20以上の彩度C*、
を有することができ、
彩度C*は、国際表色法CIE L*a*b*に従って、15°の入射角(θ)で測定される。
【0115】
反対に、本発明の他のいくつかの実施形態では、IFコーティングは電位が印加されていないときに着色され(鏡面反射)、電位が印加されているときにも着色される(鏡面反射)。
【0116】
したがって、本発明のこの実施形態によれば、IFコーティングは、活性化状態及び非活性化状態において、2.5%超、好ましくは10%以上、特には14%以上の可視領域における平均光反射率Rを有し、平均光反射率は、35°未満、好ましくは17°以下の入射角で測定される。
【0117】
本発明の他の実施形態によれば、IFコーティングは、活性化状態及び非活性化状態の両方で着色されない。
【0118】
別の実施形態では、IFコーティングは、活性化状態及び非活性化状態で2.5%未満の可視領域における平均光反射率Rを有することができ、平均光反射率は35°未満の入射角で測定される。
【0119】
別の実施形態では、潜在的に有害な青色光(420~450nm)への曝露を制限することが好ましいであろう。
【0120】
その目的のために、IFコーティングは、活性化状態で、70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下、典型的には40%以下である420~450nmの範囲内の平均透過率(以降TmB1と呼ぶ)を有することができる。
【0121】
本明細書において、TmB1は、青色光(420~450nm)(よくない青色光)の平均透過率によって定義される
【数1】

(式中、T(λ)は波長λにおける平均反射率を表す)。
【0122】
ただし、およそ465nm~495nmの範囲の波長の一部の青色光は、「概日周期」と呼ばれるバイオリズムを調節する機構に関係しているため、健康を促進する。
【0123】
したがって、いくつかの実施形態では、この「健康な」青色光(465~495nm)(よい青色光)への曝露を制限しないことが好ましいであろう。
【0124】
したがって、多層IFコーティングは、活性化状態で10%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、典型的には30%などの25%以上の465~495nmの範囲内の平均透過率(以降TmB2と呼ぶ)を有することができる。
【0125】
本明細書において、TmB2は、青色光(465~495nm)の平均透過率により定義される。波長が465~495nmの範囲であることを除いては、TmB1と同じ定義である。
【0126】
本発明の他のいくつかの実施形態では、NIR領域(780~1400nm)で高い反射を有するARフィルムを提供することが好ましいであろう。
【0127】
したがって、多層IFコーティングは、35°未満の入射角で、活性化状態で10%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、典型的には28%などの25%以上の、780~1400nmの波長範囲の近赤外(NIR)領域における平均反射率(以降R(NIR)と呼ぶ)を有し得る。
【0128】
本明細書において、近赤外(NIR)領域における特徴的な平均反射率R NIR(780~1400nm)は、以下の式によって定義される:
【数2】

(式中、R(λ)は波長λにおける反射率を表す)。R NIRは、同じ入射角で測定されたR(λ)に基づいて、任意の入射角θで測定することができる。
【0129】
したがって、本発明による眼用レンズは、眼用レンズの着用者によって行われる電位の印加により、及び結果として着用者の必要に応じて、NIR領域及び/又は有害な青色光領域において高い反射を有するARフィルムを含んでいてもよい。
【0130】
本発明の他のいくつかの実施形態では、着用者の目を、着用者の目に向けられた反射から保護することが好ましい。
【0131】
この目的のために、多層IFコーティングは、活性化状態で:
- 5.0%以上の、前側主面の可視領域における平均光反射率R(「前面反射」と呼ばれる)、及び
- 2.5%未満、好ましくは1.0%以下、特には0.5%以下の、後側主面の可視領域における平均光反射率R(「裏面反射」と呼ばれる)、
を有することができ、平均光反射率は35°未満の入射角で測定される。
【0132】
通常、反射防止コーティングは、副層上に設けられてもよい。そのような副層は反射防止コーティングに属さないことに留意する必要がある。
【0133】
本明細書において、副層又は接着層は、前記コーティングの耐摩耗性及び/若しくは耐擦り傷性などの機械的特性を改善するために、並びに/又は基材若しくは下にあるコーティングへの接着を強化するために使用される、比較的厚いコーティングを意味することが意図されている。
【0134】
その比較的大きい厚さのため、特に、下にある基材(通常は耐摩耗性及び耐擦り傷性のコーティング又は裸の基材)の屈折率に近い屈折率を有する場合には、副層は通常反射防止光学活性に関与しない。
【0135】
副層は、反射防止コーティングの耐摩耗性を促進するのに十分であるが、好ましくは光吸収(これは副層の性質に応じて相対透過率Tを有意に減少させるであろう)が生じない程度の厚さを有する必要がある。その厚さは、通常300nm未満、より好ましくは200nm未満であり、通常90nm超、より好ましくは100nm超である。
【0136】
副層は、好ましくは、SiOに基づく層を含み、この層は、層の総重量に対して好ましくは少なくとも80重量%のシリカ、より好ましくは少なくとも90重量%のシリカを含み、更に好ましくはシリカ層からなる。そのようなシリカに基づく層の厚さは、通常300nm未満、より好ましくは200nm未満であり、通常90nm超、より好ましくは100nm超である。
【0137】
一実施形態によれば、反射防止コーティングは、上述したような副層上に設けられない。
【0138】
IFコーティングの様々な層及び任意選択的な副層は、好ましくは、以下の方法のいずれかに従って、真空下で蒸着により堆積される:i)任意選択的にはイオンビーム支援されてもよい蒸着;ii)イオンビームスパッタリング;iii)カソードスパッタリング;iv)プラズマ支援化学蒸着。これらの様々な方法は、参考文献「Thin Film Processes」及び「Thin Film Processes II」、Vossen & Kern編、Academic Press、1978年及び1991年にそれぞれ記載されている。特に推奨される方法は、真空下での蒸着である。
【0139】
好ましくは、IFコーティングの各層及び任意選択的な副層の堆積は、真空下での蒸発又はスパッタリングによって行われる。
【0140】
一般的には、本発明による眼用レンズのIFコーティングは、任意の基材上に、好ましくは有機レンズ基材上に、例えば熱可塑性又は熱硬化性のプラスチック材料上に設けられてもよい。
【0141】
熱可塑性プラスチックは、例えば:ポリアミド;ポリイミド;ポリスルホン;ポリカーボネート及びそのコポリマー;ポリ(エチレンテレフタレート)及びポリメチルメタクリレート(PMMA)から選択することができる。
【0142】
熱硬化性材料は、例えば:エチレン/ノルボルネン又はエチレン/シクロペンタジエンコポリマーなどのシクロオレフィンコポリマー;ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)(CR 39(登録商標))のホモポリマーなどの直鎖又は分岐の脂肪族又は芳香族のポリオールのアリルカーボネートのホモポリマー及びコポリマー;ビスフェノールAから誘導することができる(メタ)アクリル酸及びそのエステルのホモポリマー及びコポリマー;チオ(メタ)アクリル酸及びそのエステルのポリマー及びコポリマー、ビスフェノールA又はフタル酸とスチレンなどのアリル芳香族とから誘導することができるアリルエステルのポリマー及びコポリマー、ウレタン及びチオウレタンのポリマー及びコポリマー、エポキシのポリマー及びコポリマー、並びにスルフィド、ジスルフィド、及びエピスルフィドのポリマー及びコポリマー、並びにこれらの組み合わせから選択することができる。
【0143】
本明細書において、(コ)ポリマーは、コポリマー又はポリマーを意味することが意図されている。本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを意味することが意図されている。本明細書において、ポリカーボネート(PC)は、ホモポリカーボネート又はコポリカーボネート及びブロックコポリカーボネートのいずれかを意味することが意図されている。
【0144】
ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)のホモポリマー(CR 39(登録商標))、1.54~1.58の屈折率を有するアリル及び(メタ)アクリルコポリマー、チオウレタンのポリマー及びコポリマー、ポリカーボネートが好ましい。
【0145】
以降で説明するように、本発明のIFコーティングが設けられる前に、基材が1つ以上の機能性コーティングでコーティングされてもよい。光学において従来使用されているこれらの機能性コーティングとしては、限定するものではないが、耐衝撃性プライマー層、耐摩耗性コーティング及び/又は耐擦り傷性コーティング、偏光コーティング、フォトクロミックコーティング、又は着色コーティングであってもよい。以降において、基材とは、裸の基材又はそのようなコーティングされた基材のいずれかを意味する。
【0146】
IFコーティング、好ましくはARコーティングが設けられる前に、IFコーティングの接着性を強化するために、前記基材の表面に対して通常物理的又は化学的な表面活性化処理が行われる。そのような前処理は、通常真空下で行われる。これは、例えばイオンビーム(「イオン前洗浄」又は「IPC」)又は電子ビームを用いたエネルギー種及び/又は反応性種による衝撃、コロナ放電処理、イオン剥離処理、紫外線処理、又は通常酸素若しくはアルゴンプラズマを使用する真空下でのプラズマ媒介処理であってもよい。また、これは酸若しくは塩基による処理及び/又は溶媒ベースの処理(水、過酸化水素、又は任意の有機溶媒)であってもよい。
【0147】
特に、IFコーティングは、眼用レンズの前側主面又は眼用レンズの後側主面、好ましくは前側主面に配置される。
【0148】
本発明の一実施形態では、本発明の眼用レンズの前面及び後面は、上述したIFコーティングでコーティングされている。
【0149】
通常、IFコーティングが設けられる基材の前側及び/又は後側主面は、耐衝撃性プライマー層、耐摩耗性及び/若しくは耐擦り傷性コーティング、又は摩耗性及び/若しくは耐擦り傷性コーティングでコーティングされた耐衝撃性プライマー層、でコーティングされている。
【0150】
本発明のIFコーティングは、好ましくは、耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性コーティングの上に設けられる。耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性コーティングは、眼用レンズの分野で耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性コーティングとして従来使用されている任意の層であってもよい。
【0151】
耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性コーティングは、好ましくは、ポリ(メタ)アクリレート又はシランに基づくハードコーティングであり、通常、硬化後のコーティングの硬度及び/又は屈折率を高めることを目的とした1種以上の無機フィラーを含む。
【0152】
耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性のハードコーティングは、好ましくは、例えば塩酸溶液並びに任意選択的な縮合及び/又は硬化触媒を用いた加水分解によって得られる少なくとも1種のアルコキシシラン及び/又はその加水分解物を含有する組成物から作製される。
【0153】
本発明のために推奨される適切なコーティングとしては、仏国特許第2702486号明細書(欧州特許第0614957号明細書)、米国特許第4211823号明細書、及び米国特許第5015523号明細書に記載されているものなどのエポキシシラン加水分解物に基づくコーティングが挙げられる。
【0154】
耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性コーティング組成物は、ディップコーティング又はスピンコーティングによって基材の主面に堆積されてもよい。これは、その後適切な方法により(好ましくは熱又は紫外線を使用して)硬化される。
【0155】
耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性コーティングの厚さは、通常2~10μm、好ましくは3~5μmで様々である。
【0156】
耐摩耗性コーティング及び/又は耐擦り傷性コーティングを設ける前に、最終製品における後続の層の耐衝撃性及び/又は接着性を改善するために、基材上にプライマーコーティングを塗布することもできる。このコーティングは、眼用レンズなどの透明なポリマー系材料の製品で従来使用されている任意の耐衝撃性プライマー層であってもよい。
【0157】
好ましいプライマー組成物は、ポリウレタンに基づく組成物及びラテックスに基づく組成物であり、特には、任意選択的にポリエステル単位を含んでいてもよいポリウレタンタイプのラテックスである。
【0158】
そのようなプライマー組成物は、ディップコーティング又はスピンコーティングによって製品の面に堆積することができ、その後、少なくとも70℃且つ最大100℃、好ましくは約90℃の温度で、2分~2時間の範囲の時間、通常は約15分間乾燥されることで、硬化後に0.2~2.5μm、好ましくは0.5~1.5μmの厚さを有するプライマー層を形成する。
【0159】
本発明による眼用レンズは、IFコーティング上に形成され、疎水性及び/又は疎油性コーティング(防汚トップコート)などのその表面特性を変更することができるコーティングも含んでいてもよい。これらのコーティングは、好ましくは、本発明のIFコーティングの外層上に設けられる。原則として、それらの厚さは10nm以下であり、好ましくは1~10nm、より好ましくは1~5nmの範囲である。
【0160】
疎水性コーティングの代わりに、防曇特性を付与する親水性コーティング、又は界面活性剤と併用された場合に防曇特性を付与する防曇前駆体コーティングが使用されてもよい。そのような防曇前駆体コーティングの例は、国際公開第2011/080472号パンフレットに記載されている。
【0161】
典型的には、本発明による眼用レンズは、耐衝撃性プライマー層、耐摩耗性及び耐擦り傷性層、本発明によるIFコーティング、並びに疎水性及び/若しくは疎油性コーティング又は防曇特性を付与する親水性コーティング、又は防曇前駆体コーティングでその後面が逐次的にコーティングされた基材を含む。
【0162】
本発明による眼用レンズは、好ましくは、眼鏡用の眼用レンズ(眼鏡レンズ)、又は眼用レンズのブランクである。
【0163】
特に、眼用レンズは、電池などの電位を供給する手段を含み、この手段は、消費者が活性化/非活性化(ボタンのオンオフ)することができる。
【0164】
本発明を以下に記載する実施例により詳しく説明する。これらの実施例は本発明を例示することを意図しており、本発明の範囲を限定するものとして解釈すべきではない。
【実施例
【0165】
1.基本手順
実施例で使用される眼用レンズは、1.5(欧州特許第0614957号明細書に記載されているものなど)又は1.6の屈折率のハードコート層でコーティングされた、65mmの直径、1.5の屈折率又は1.56若しくは1.6の屈折率の基材、及び-2,00ジオプトリの度数を有するレンズ基材Orma(登録商標)を含む。
【0166】
ITO(スズドープ酸化インジウム)層は、10%の酸化インジウムからなる。
【0167】
反射防止コーティングの層は、真空下での蒸着(蒸着源:電子銃)により基材を加熱することなく前記基材の前側主面に堆積した。
【0168】
DaikinのOptool DSXの疎水性且つ疎油性のコーティング層を、反射防止コーティング上に真空蒸着によって堆積した。得られた疎水性且つ疎油性のコーティングの厚さは2~5nmの範囲であった。
【0169】
蒸着フレームは、酸化物を蒸発させるための電子銃(ESV14(8kV))が取り付けられており、且つアルゴンイオン(IPC)を使用して基材の表面を準備するための予備段階用のイオン銃(Commonwealth Mark II)を備えているLeybold 1104装置である。
【0170】
層の厚さは、水晶振動子マイクロバランスによって制御した。スペクトル測定は、URAアクセサリ(Universal Reflectance Accessory)を備えた可変入射分光光度計Perkin-Elmer Lambda 850で行った。
【0171】
2.試験手順
眼用レンズの製造方法は、基材を導入する工程と、アルゴンイオンビーム(アノード電流:1A、アノード電圧:100V、中和電流:130mA)によって基材の表面を活性化し、イオン照射を停止し、蒸着によって基材上にワニス(vernis)と副層を形成し、その後逐次的な蒸着と最後の換気工程によって反射防止コーティングの様々な層を形成する工程とを含む。
【0172】
様々な層の堆積条件は以下の通りである(表1)。
【0173】
【表1】
【0174】
3.結果
反射平均係数の値は、別段の指示がない限り前面の値である。R、R、及びRuvなどの光学パラメータの係数は、15°の入射角θに対して与えられ、国際表色系CIE L*a*b*(1976)おける本発明の眼用レンズの表色係数は、様々な入射角θでの標準光源D 65及び観察者を考慮して(10°の角度)、380~780nmで計算する(全ての実施例について)。C*及びh*を含む表色係数は反射測定についてのものである。
【0175】
3.1 本発明によるARコーティングによる眼用レンズの実施例
【0176】
【表2】
【0177】
構成1ではエレクトロクロミック積層体の異なる層はIFコーティングの一部である一方で、構成2ではエレクトロクロミック積層体は基材とARコーティングなどのIFコーティングとの間に配置され、特に直接接触している。
【0178】
これらの2つの構成では、EC積層体のEC層の屈折率の変更がエレクトロクロミック積層体の層を変更して本発明のIFコーティングの光学特性を変化させることを意味することから、エレクトロクロミック積層体の非活性化状態と活性化状態との間の反射を変えることが可能である。
【0179】
3.2 上述した構成1(すなわち基材から最も近いIFコーティングの層がZrOである)を含み、非活性化状態でR≦2.5%であり、活性化状態でR≧10%である本発明による眼用レンズの実施例。
下の表3は、1.5の屈折率を有する上述したような基材及びコーティングに対して行った本発明による様々な実施例を示している。厚さが0の実施例は、層が堆積されていない、及び/又は不要であることを意味する。
【0180】
【表3】
【0181】
3.3 上述した構成1(すなわち基材から最も近いIFコーティングの層がZrOである)を含み、非活性化状態でR≧2.5%、活性化状態でR≧10%である本発明による眼用レンズの実施例。
以下の表4及び5の実施例も、1.5の屈折率を有する基材/コーティングで行った。
【0182】
【表4】
【0183】
【表5】
【0184】
3.4 よくない青色光透過(TmB1)に対する保護を有する本発明による眼用レンズの実施例。
以下の表6及び7の実施例も、1.5の屈折率を有する基材/コーティングで行った。
【0185】
【表6】
【0186】
【表7】
【0187】
3.5 本発明による眼用レンズの実施例:よい青色、TmB2。
以下の表8及び9の実施例も、1.5の屈折率を有する基材/コーティングで行った。
【0188】
【表8】
【0189】
【表9】
【0190】
3.6 NIRに対する保護を有する本発明による眼用レンズの実施例
以下の表10及び11の実施例も、1.5の屈折率を有する基材/コーティングで行った。
【0191】
【表10】
【0192】
【表11】
【0193】
3.7 ECが非活性化状態/中間状態、その後活性化状態になるレンズの実施例
本発明の一実施形態によれば、中間状態を有することが可能である。実際、レンズは、非活性化状態で第1の鏡面反射を示し、その後中間状態で第2の鏡面反射を示し、最後に活性化状態で第3のミラー反射を示すことができる。そのために、EC積層体は、電位の最初の半分(1V)を印加し、次いで電位の全体(2V)を印加することにより、50%及びその後に100%で活性化される。
【0194】
【表12】
【0195】
【表13】
【0196】
3.8 レンズの前側主面と後側主面との間に非対称反射を有するレンズの実施例。
以下のレンズの実施形態は、レンズの前側主面と後側主面との間で非対称反射を得ることができる。特に、これらの実施形態は、美的機能を提供することができる。つまり、これはレンズの後面(裏)に鏡面反射を有さずに(すなわち着用者の目に向けずに)レンズの前面で鏡面反射を有する。
【0197】
実施例46~46-3
関連する材料の特徴。
【0198】
【表14】
【0199】
実施例46
【0200】
【表15】
【0201】
性能:
前面:Rv=1.2% 前面(活性化);Rv=10.3%
裏面:Rv=0.7% 裏面(活性化):0.5%
【0202】
実施例46-1
【0203】
【表16】
【0204】
性能:
前面:Rv=1.6% 前面(活性化);Rv=8.3%
裏面:Rv=1% 裏面(活性化):1%
【0205】
実施例46-2
【0206】
【表17】
【0207】
性能:
前面:Rv=1.7% 前面(活性化);Rv=8.3%
裏面:Rv=1.4% 裏面(活性化):0.9%
【0208】
実施例46-3
【0209】
【表18】
【0210】
性能:
前面:Rv=2.3% 前面(活性化);Rv=7.4%
裏面:Rv=2.5% 裏面(活性化):0.7%
【0211】
【表19】
【0212】
【表20】
【0213】
以下の表15及び16の実施例も、1.6の屈折率を有する基材/コーティングで行った。
【0214】
【表21】
【0215】
【表22】